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研究・教育活動 - 東北大学 21世紀COE プログラム

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研究・教育活動 - 東北大学 21世紀COE プログラム
研究・教育活動
Ⅰ. 教育プログラムと教育支援活動
【教育活動実績】
若手研究者の育成は本拠における最重要課題の一つである。そのため、本拠点の
運営組織として拠点に関係するすべての専攻の教務担当教員と若手教員からなる教
育運営委員会を設け、以下のような様々な大学院生、PDへの教育支援プログラムを
実施した。
先端地球惑星科学拠点大学院コース
地学・地球物理学の融合と理学・工学連携の目的を実現するカリキュラムの構築をめ
ざし、地学・地球物理学専攻の大学院博士課程(前期・後期)コースを併せた「先端地
球惑星科学拠点大学院コース」を設置した。地学・地球物理学・環境科学の3専攻の
専門科目をそれぞれの学生便覧に関連科目として記載することで、相互の単位取得
を容易にした。また、国内外の研究機関・大学ならびにフィールドワークを奨励するた
め,授業科目としてインターンシップ研修を導入した(平成16年度院学生便覧を改訂)。
環境科学研究科の講義も関連科目指定制度を用いて履修可能である。こうした講義
に関しての専攻間の乗り入れや理工連携のシステムは東北大学においても本COE
に特有のものである。
博士課程後期3年の大学院生の指導に当たっては、各大学院生に対して(原則として
分野横断型の)複数の構成メンバーからなるアドバイザリーボードを設置することとし
た(平成15年度から実施)。
国際化を目指した先端理学国際コースの始動
理学研究科に外国人留学生の積極的な受け入れを目指した先端理学国際コース
(IGPAS)が2004年10月に設置され、本拠点の地学・地物2専攻は平成16年度秋学期
より入学者の受け入れを開始した。これは理学研究科関係のCOEが主体になり外国
人学生を受け入れ、講義、研究指導をすべて英語で行うものである。これにより理学
研究科の国際化を計ると同時に、本COEの国際交流、日本人学生の国際化にも寄
与している。先端理学国際コースには文部科学省が滞在費を保証する国費留学生制
度と、理学研究科が奨学金を授与する2つのサポート体制が整っている。本COE関係
では、国費留学が1名、理学部奨学生として3名採用された。これに関連し、
(A) Origin of the Earth and Life 1(2単位)
(B) Origin of the Earth and Life 2(2単位)
(C) Mineral and Rock Science 1(2単位)
(D) Frontier of Science(2単位)
(E) Seminar(2単位)
の英語授業が開講された。講義は日本人教員と外国人招聘研究者によって行われ
た。先端地球惑星科学拠点大学院コースの一環としても講義を開講し、日本人受講
者にも単位を出した。その他にも短期招聘外国人研究者による英語によるセミナー
(先端地球惑星科学セミナー、延べ71回)と長期招聘外国人教員(4名)による英語講
義、招聘研究者によるショートコース(10名の外国人教員によって3日間開催、延べ86
人の大学院生が受講)を実施した。
若手による国際会議企画プログラム
2004年3月、2004年11月開催の2回の国際シンポジウム「Water Dynamics」、2004年
11月開催のショートコース(地球と生命の起源、環境変動:秋の学校)を若手が中心
になって企画した。2005年度に開催予定の「固体地球における時空間的ゆらぎ−地
球の未来像創出を目指して」についても、招聘研究者の決定と来日依頼の折衝など
を若手の実行委員会のもとに実施している。
博士課程後期学生支援プログラム
博士課程後期3年の課程の院生をRAとして雇用し(5万円/月)、研究の実践をサポー
トするとともに教育実践の経験を充分に踏める様、配慮した(2003年度58名、2004年
度69名)。その中から、特に卓越した院生(スーパードクター(SDC)2003年度6名、
2004年度9名)を選抜し,通常の2倍額のRA雇用(10万円/月)を行い,若手研究者の
研究の進展を、重点的に支援することとした(平成15年度より実施)。SDCの選定には
英文論文(査読付き)の質と数、国際会議での講演実績、COE研究への貢献度、将
来研究リーダーとして活躍できるかを選考基準とした。
若手研究者海外派遣プログラム
9名のPD及び若手教員を海外の研究拠点(ESRF、 APS、パリ大学、カリフォルニア工
科大学)に派遣し、共同研究を推進している。また、博士課程後期大学院生、COE研
究員(PD)に対して、国外の学会出席旅費の補助を行っている。PD全員に外国出張
旅費の支給、博士課程後期学生には2003年度9名、2004年度25名に対して、旅費の
補助を行った。
若手による研究者招聘プログラム
このCOE拠点の運営組織である教育運営委員会と研究運営委員会の委員に若手を
協力教員として、積極的に登用し招聘研究者の決定に参加させている。それによって、
若手研究者の研究方向に沿った海外の研究者を招聘することを可能にしており、国
際共同研究を推進している(コペンハーゲン大学、ノボシビルスク大学等)。
若手教官連携・交流プログラム
PDやSDCを中心に企画する分野横断ミニシンポジウム(PDセミナー)、専攻横断のミ
ニシンポジウムを定例化し、異分野の研究交流に努力している。
COE研究員(PD)、若手研究者への連携・融合研究支援プログラム
若手の助手やCOE研究員(PD)への研究費の補助(研究費50万円/年,国際会議出
席旅費25万円/年を支給)。公募による若手研究者への連携融合研究費の支援を行
っている(2003年度300万円×11件)
上記プログラムにより、以下のように若手教員と大学院生の研究のポテンシャルが
向上している。
その他
学術振興会特別研究員採用者の増加(2003年度14名、2004年度18名)、SDCとPD
から助手、海外の拠点研究機関に博士研究員としての転出など若手研究者の流動
性が増している。奨励賞(高圧学会、井上財団、農業気象学会)、国際会議でのポス
ター賞(AGU他)等を得るなどの実績も出はじめている。上記に関する各種資料が本
報告書に掲載されている。
【教育支援活動】
平成 16 年度 特待大学院生
平成 16 年度の特待大学院生(SDC)を以下の通り決定しました.
選考過程と結果
本COE拠点を構成する部局に所属する,大学院博士課程後期の大学院生を対象として公
募しました.58名の応募者のなかから
(1)研究の意義と重要性,
(2)英文論文の発表実績,
(3)国際学会における発表の実績,
(4)研究の目的が本COEの方向性と合致するか,
(5)将来的に研究リーダーとして活躍が期待できるか,
の5つの基準に則り厳正に審査した結果,以下の9名の方々を特待大学院生(SDC)として
選考するに至り,7月1日付で発令しました.(順不同,敬称略.カッコ内は,専攻・学年,所
属研究グループ,受入教員名)
佐野 亜沙美 (地学専攻 博士後期1年,固体地球/核マントル,大谷 栄治)
下宿 彰 (地学専攻 博士後期1年,固体地球/核マントル,大谷 栄治)
小松 一生 (地学専攻 博士後期2年,固体地球/核マントル,工藤 康弘)
川田 祐介 (地学専攻 博士後期1年,固体地球/地震火山,長濱 裕幸)
横尾 亮彦 (地学専攻 博士後期3年,固体地球/地震火山,谷口 宏充)
渡邉 則昭 (環境科学専攻 博士後期1年,固体地球/地震火山,土屋 範芳)
堀井 孝憲 (地球物理学専攻 博士後期2年,流体地球・惑星圏/気候変動,花輪 公雄)
足立 透 (地球物理学専攻 博士後期1年,流体地球・惑星圏/太陽地球系,福西 浩)
中川 広務 (地球物理学専攻 博士後期1年,流体地球・惑星圏/太陽地球系,福西 浩)
平成 16 年度 リサーチアシスタント
平成 16 年度のリサーチアシスタント(RA)を以下の通り決定しました.
選考過程と結果
本COE拠点を構成する部局に所属する,大学院博士課程後期の大学院生を対象として公募し
ました.選考の結果,本COEのプロジェクトメンバーの研究を支援していただくリサーチアシスタ
ント(RA)として,今年度は次の方々(順不同,学年・敬称略)の採用を決定し、7 月 1 日付けで発
令しました.その後,8 月 1 日付及び 11 月 1 日付けで、発令の追加を行いました。
<地学専攻>
浅海竜司(∼H16.9), 熱田真一, Ali Hussain, 石川仁子, 岩下智洋, A. B. M.
Kamal Pasha, 遠藤尚, 大内智博, 大賀博道, 大金薫, 大原祥平, 鹿納晴尚,
神谷敏詩, 川添貴章, 酒井孝幸, 境毅, 菅原大助, 鈴木由香, 蘇徳斯琴,
高橋信人, 武田浩太郎, 千代延俊, 津野究成, Dilov Tzvetan Ivanov, 長嶋剣,
中村亮, 畠田健太朗, 古田智弘, 前野深, 水本匡起, 宮城康夫, 目崎拓真,
山田亮一, 山本和幸, 吉田明弘, 佐々木一弘, Khobaer T. M.(H16.11∼)
<地球物理学専攻>
稲津大祐, 鍵谷将人, 齊藤寛子, 佐藤佳奈子(∼H16.9), 沢田雅洋, 高橋努,
高村近子, 張霞, 中岡慎一郎, 平木康隆, 八代尚, 矢吹崇, 山脇輝夫, 吉田
純, 吉田幸生, 若林誠,Kombiyil Raj Mohan (H16.11∼),覃慧玲(H16.11∼)
<環境科学専攻>
小田隆史, 川内義一郎, 趙成珍, 浜崎考, 山本信, 横澤和憲, 吉田敬
大学院生 国際学会参加旅費支援プログラム
大学院博士後期課程の学生を対象として、海外で開催される国際学会への参加を
促進する旅費支援プログラムを実施しました。 (支援一覧は次ページ)
大学院生 海外長期滞在旅費支援プログラム
博士課程後期の大学院生が海外で長期にわたり研究を行うことを奨励するため、旅費支
援プログラムを実施しました。 (支援一覧は次ページ)
平成16年度 大学院生国際学会参加旅費支援一覧
#
氏名
1
川田 祐介
専攻 指導教員
地学
学会名
旅行日程・開催地
長濱裕幸
4th Intl Conf on 2004/05/16-6/6
Fractals and
Seeon
Dynamic Systems
in Geoscience
佐藤春夫
Summer School,
Mathematical
Geophysics &
Uncertainty in Earth
Models
Yusuke KAWADA
(Germany)
2
高橋 努
地物
Tsutomu TAKAHASHI
3
齊藤 寛子
地物
花輪公雄
1st Intl CLIVAR
Science Conf
Hiroko SAITO
若林 誠
地物
小野高幸
Makoto WAKABAYASHI
2004/7/18-7/23
Paris
(France)
5
武田 浩太郎
地学
海保邦夫
Kotaro TAKEDA
32nd IGC
2004/8/23-8/30
(国際地質学会)
Florence
8th IGAC
2004/9/3-9/10
Conference
Christchurch
(国際大気化学会)
(New Zealand)
INA 2004
Conference
2004/8/28-9/4
(Italy)
6
八代 尚
地物
中澤高清
Hisashi YASHIRO
7
千代延 俊
地学
尾田太良
Shun CHIYONOBU
Lisbon
(Portugal)
8
前野 深
地学
谷口宏充
Fukashi MAENO
9
横尾 亮彦
地学
谷口宏充
Akihiko YOKOO
10
川内 義一郎
環境科学
井奥洪二
IAVCEI
2004/11/13-11/25
General Assembly
Pucon
2004
(Chile)
IAVCEI
2004/11/13-11/22
General Assembly
Pucon
2004
(Chile)
ISIEM 2004
2004/10/16-10/25
Giichiro KAWACHI
"Variation of Envelope Broadening in N.E. Japan " というタイトルでのポスター発表
(U.S.A.)
2004/6/16-6/27
(U.S.A.)
4
The mechanical phase transition for the viscoelastic relaxation behavior of rocks:
Introducing the free-space volume for solids
「岩石の粘弾性緩和挙動における力学的相転移: 固体に対する自由体積 の導入」
2004/6/13-6/27
Colorado School of Mines
Baltimore
35th COSPAR
Scientific
Assembly
発 表 演 題
Eindhoven
Subsurface pycnostads in the subtropical-subarctic transition region in the North Pacific
and its effect to the decadal variation of seasurface temperature.
「北太平洋亜熱帯・亜寒帯移行領域亜表層における
等密度層とその海面水温十年振動に対する影響」
Multi layer structure of the mid-latitude sporadic-E observed
during the SEEK-2 campaign
「観測キャンペーンSEEK-2において観測された中緯度域スポラディックE層の多層構造」
High-resolution analyses of benthic foraminifera across the Paleocene-Eocene boundary
at Sites 1209-1212, Shatsky Rise, Pacific Ocean, Ocean Drilling Program (ODP) Leg 198.
「ODP第198次航海,太平洋シャツキー・ライズ( Site 1209-1212)の
暁新世−始新世境界における底生有孔虫化石群集の高分解能解析」
Temporal and Spatial Variations of Atmospheric Carbon Monoxide
in the western Pacific Ocean
「西太平洋における大気中一酸化炭素の時間空間的変動に関する研究」
Latest Quaternary paleoceanography of the eastern Pacific Ocean
on the analysis of calcareous nannofossil
「石灰質ナンノ化石群集解析による東太平洋地域の第四紀後期古海洋変動」
Hydrovolcanic processes during 6.5 ka caldera-forming eruption,
Kikai caldera, Kyusyu, Japan
6.5ka鬼界カルデラ噴火時のマグマ-水相互作用とそれに伴う周辺域での諸過程」
Analyses of the eruption movie: Continuous Flashings on Aso 1989 eruption
「火山噴火の映像解析:阿蘇1989年噴火における連続光環現象」
Hydroxyapatite Sheet Prepared by Hydrothermal process
「水熱プロセスによるハイドロキシアパタイトシートの作製」
(The Netherlands)
11
佐野 亜沙美
地学
大谷栄治
Asami SANO
AGU 2004
2004/12/12-12/18
Falll Meeting
San Francisco
AGU 2004
2004/12/12-12/18
Falll Meeting
San Francisco
Effect of water on garnet-perovskite phase transformation in MORB system
「海洋玄武岩中におけるガーネット-ペロブスカイト転移へ与える水の影響」
(USA)
12
下宿 彰
地学
大谷栄治
Akira SHIMOJUKU
(USA)
13
川添 貴章
地学
大谷栄治
Takaaki KAWAZOE
AGU 2004
2004/12/12-12/18
Falll Meeting
San Francisco
AGU 2004
2004/12/12-12/16
Falll Meeting
San Francisco
(USA)
14
山脇 輝夫
地物 五十嵐丈二
Teruo YAMAWAKI
Silicon diffusion in wadsleyite at high pressure and implications for rheology
of the mantle transition zone : 「高圧力下におけるウォズレアイト中の
シリコンの拡散とマントル遷移層のレオロジーへの応用」
Reaction Between Liquid Iron and Mg-perovskite and Solubility of Silicon
and Oxygen in Liquid Iron
「熔融金属鉄とMg-ペロブスカイトの反応と熔融金属鉄中の珪素と酸素の溶解度」
Temporal Changes of Seismic Structure Around Iwate Volcano as Inferred From Waveform
Correlation Analysis of Multiplet Earthquakes
「相似地震の波形の相関解析によって推定された岩手山周辺の地震学的構造の時間変化」
(USA)
15
足立 透
地物
福西 浩
Toru ADACHI
AGU 2004
2004/12/12-12/20
Falll Meeting
San Francisco
(USA)
16
中川 広務
Hiromu NAKAGAWA
地物
福西 浩
AGU 2004
2004/12/12-12/20
Falll Meeting
San Francisco
(USA)
Spatial and Temporal Structures of Sprites Observed with the Array Photometer on board
the ROCSAT-2 Satellite
「ROCSAT-2衛星搭載アレイフォトメータで観測したスプライトの時空間構造」
Latitudinal dependence of solar proton flux derived from interplanetary Lyman alpha
emission:「星間水素散乱光分布から求めた太陽風プロトンフラックス緯度依存性」
平成16年度 大学院生国際学会参加旅費支援一覧
#
氏名
17
古田 智弘
専攻 指導教員
地学
今泉俊文
Tomohiro FURUTA
学会名
旅行日程・開催地
JGU
2004/12/18-12/27
2004年秋季大会
Hat Yai
(Thailand)
18
平木 康隆
地物
福西 浩
Yasutaka HIRAKI
AGU 2004
2004/12/12-12/20
Falll Meeting
San Francisco
発 表 演 題
The Infiltration-Runoff Processes in Sloping Soil Layers
−Application of Tank-Model to a Small Catchment−
「層状に堆積した土層における浸透-流出過程−タンクモデルの小流域への適用−」
Numerical Study on Branching Properties of Sprite Streamers
「スプライトストリーマのブランチ特性に関する研究」
(USA)
19
山本 信
環境科学
土屋範芳
Makoto YAMAMOTO
The 26th NZ
Geothermal
Workshop
2004/11/25-12/12
Taupo
Application of the thermoluminescence technique for evaluation of geothermal activity
「地熱活動評価手法としての熱発光法」
(New Zealand)
20
渡邉 則昭
環境科学
土屋範芳
Noriaki WATANABE
The 26th NZ
Geothermal
Workshop
2004/12/4-12/23
Taupo
(New Zealand)
21
吉田 明弘
地学
今泉俊文
Akihiro YOSHIDA
JGU
2004/12/18-12/27
2004年秋季大会
Hat Yai
JGU
2004/12/18-12/28
2004年秋季大会
Hat Yai
(Thailand)
22
水本 匡起
地学
平野信一
Tadaki MIZUMOTO
Permeability Measurement for Large Rock Fracture
Using Rubber-Confining Pressure Vessel
「ゴム弾性封圧装置を用いた大面積岩石き裂の透水性評価」
Vegetation changes and moisture balance since Latest Pleistocene
in Tashiro Mire, Aomori Prefecture, Northeast Japan
「青森県八甲田山田代湿原における後期更新世末期以降の植生変遷と水分状態の復元」
Surface Ruptures Associated with Holocene Faulting based on the Amount of Displacement on Young
Terrace Surfaces, along the Ou Backbone Range, Northeast Japan : 「奥羽脊梁山脈地域における新期
地形面の変位量に基づく完新世の断層活動と地表変位」
(Thailand)
23
エー・ビー・エム・カマル・パシャ 地学
松本秀明
A.B.M.Kamal Pasha
JGU
2004/12/18-12/28
2004年秋季大会
Hat Yai
(Thailand)
24
鈴木 由香
地学
井龍康文
Yuka SUZUKI
ESF Exploratory
2005/2/21-2/28
Workshop
Potsdam
(Germany)
Geomorphic Development of the Alluvial Lowlands related to the Evolution
of the Coastal Barrier (Sandbar) during the Late Holocene
「サンドバーの形成に伴う完新世後期の海岸平野の地形発達史」
Geochemistry and crystal chemistry of dolomites on Kita-daito-jima,
northern Philippine Sea
「沖縄県北大東島に分布するドロマイトの地球化学的・結晶化学的研究」
平成16年度 大学院生海外長期滞在旅費支援一覧
#
氏名
1
Kazunori TAKAHASHI
高橋 一徳
専攻 指導教員
環境科学
佐藤源之
滞在先機関
滞在日程
チューリッヒ工科大学
04/12/1-05/1/31
地球物理学研究所
滞在目的
インターフェロメトリックボアホールレーダによる地中探査法の開発
平成 16 年度 若手研究者活動支援
若手研究者の短期海外派遣を経済支援しました。
−成果報告−
【派遣者氏名】中原 恒(地球物理学専攻・固体地球物理学講座・助手)
【派遣先機関 Institute for Crustal Studies, University of California at Santa Barbara
【受入研究者】Prof. Ralph J. Archuleta
【派遣時期と期間】平成 16 年 9 月 15 日から 10 月 3 日(19 日間)
【派遣先における研究活動】
中原(派遣者)は,再来が危惧されている宮城県沖地震に対してアレイ解析に基づき震源
断層面上の波動輻射点の直接推定を行うことを目的として,現在,宮城県牡鹿郡牡鹿町内に
おいて口径約 500 メートルの稠密強震計アレイ観測を継続しています(図 1 参照).断層面上
の波動輻射点の推定精度は,アレイの形状,地下の地震波速度構造の精度に加えて,デー
タのアレイ解析によりどれだけ波動の到来方向を絞られるかに依存します.
中原は,カリフォルニア大学サンタバーバラ校地殻研究所に滞在中,そのアレイ観測のデ
ータ解析にふさわしい手法を選択するため,(1)Beam-forming 法,(2)Capon 法,(3)MUSIC
(MUltiple SIgnal Classification)法の3つのアレイ解析手法の計算コードを作成し,模擬データ
や実際の観測データを用いて,それぞれの手法の性能を調査しました.その結果,我々のア
レイは観測点数が 7 点と限られているため,よく用いられる(1)の beam-forming 法では,入射
波動の到来方向の分解能は限られてしまうことが分かりました.そこで,適応フィルタの考え
方を用いた(2)Capon 法と(3)MUSIC 法を調べました.(2)の手法は,(1)よりも高い分解能で入射
波の到来方向を推定できますが,複数の波動が同時に入射した場合には,それぞれの波動
を適切に分解できない場合があることが分かりました.一方,(3)の手法は,(2)よりもさらに高
分解能で波動の到来方向を推定でき,しかも複数の波動の入射に対してもかなり有効である
ことを確認できました.その 1 例を図 2,3 に示します.そのため,牡鹿町でのアレイ観測データ
の解析には,(3)が最も有効で,(2)もそれなりに有効であるとの結論に達しました.
滞在期間中,受入研究者の Archuleta 教授との議論を通じて,強震計によるアレイ解析の
重要性を再認識しました.特に地震発生の物理あるいは地震工学的な観点からの重要性を
理解できた点が非常に有意義でした.
図 1 牡鹿アレイ観測点の位置(▲印)と宮城県沖地震の想定震源域(地震調査委員会によ
る震源域 A1,A2,B):アレイ観測点は想定震源域に極めて近いため,大きな見込み角で想定
震源域をカバーできます.挿入図は 7 観測点からなるアレイの配置を示します.★印は図 2,3
に記録を示す地震の震央です.
図 2 2004 年 7 月 22 日 17 時 23 分福島県境沖の地震(M4.5)の観測記録(上下動加速度記
録,1-2.5Hz の周波数帯):下線部 2.56 秒間の直達 P 波部分の記録を用いて波動の到来方向
を推定した結果を図 3 に示します.
図 3 図 2 の記録の直達 P 波部分を用いて推定した波動の到来方向を,横軸は東西方向,
縦軸は南北方向のスローネス平面上に示します.左から(1)Beamforming 法,(2)Capon 法,
(3)MUSIC 法で推定した結果です:図中の赤線はアレイから震源に向かう方向です.コンター
は-1, -3, -5, -10(dB)を示し,-3(dB)がピークの半値幅を表します.ピークが赤線の方向と一
致しているため,直達 P 波は震源の方向からアレイに到達したことが分かります.また,ピー
クの幅は左から右に向かうに従って小さくなっており,右の手法ほど高い分解能で入射波の
到来方向を推定できていることも分かります.
Ⅱ. 研究活動成果
【平成16年度の研究活動概要】
研究活動の新たな学術的知見
(1)深部マントルへの水輸送様式と遷移層と下部マントルにおける水の貯蔵容量と存在
量を解明した(国際誌 Elements 創刊号の1巻1号(2005)に招待執筆)。
(2)核の圧力条件を実現し、鉄―軽元素系(FeH,FeSi,FeO, FeO-MgO など)の相転移と鉄・
下部マントル物質の反応様式を解明した。
(3)プレート境界地震についてアスペリティモデルが成り立つことを検証した。プレー
ト間の非地震性すべりの推定手法を開発し、アスペリティの周囲でのすべりの加速を
検出した。さらに、地球潮汐による地震トリガーの現象を発見しそのメカニズムを解明
した(Science 誌(2004,305 巻 5688 号)の SCIENCE GALLERY 欄で紹介、絶賛され
る。)
(4)スラブの沈み込みに伴うマントルウェッジ内の 2 次対流の上昇流部分を、地震波
トモグラフィにより 3 次元的に描き出し、東北日本弧におけるマグマ生成・上昇モデル
を提案。
(5)気候の数十年変動のメカニズムを同定する上で極めて重要な、モード水の形成
と「再出現過程」の関係を解明した。サンゴ化石の詳細分析により、過去 200 年にわ
たるエルーニョ発生の実態を精密に復元した。
(6)衝撃波実験装置を用いて初期地球環境を再現し、衝撃波条件でアミノ酸生成に
世界で初めて成功した(特許申請中 2004-061719)。また、熱水系において生命起源
研究に重要な初期生命体に近似した微生物を発見し、さらにペルム紀末小天体衝突
による生物大量死の地理的範囲を特定した。
その他、本報告書の最後に業績リストを掲載した。
有機的連携
2 回の Water Dynamics 国際シンポジウムを本拠点内の複数専攻の共同作業として
(地球進化、環境、材料科学の融合を目指す試み)実施し、流体科学研究所や環境
科学研究科で行われている材料科学分野とも連携が芽生えている。フィールド地質
学研究と地震観測網を連携させた地学専攻・地球物理学専攻の共同研究として島
弧の地震・火山研究が進展している。また、地学専攻と流体科学研究所との連携に
よって衝撃波実験にもとづく小天体衝突のシミュレーション、核・マントルに関する極
限超高圧研究など、この拠点独自の有機的連携による研究を実施している。
その他、複数の部局にまたがる連携研究が始動した。以下に例を挙げる。
1. 衝撃波実験によるマントル・核構成物質の状態方程式の研究(地学専攻、流体
科学研究所)
2. 核マントル境界の不均質構造とその起源の解明(地学専攻、地球物理学専攻、
地震・噴火予知研究観測センター)
3. 地震発生と水および災害(地球物理学専攻、地震・噴火予知研究観測センター、
地学専攻、環境科学研究科、東北アジア研究センター)
4. 東北日本弧の上部マントル構造と火山の活動の起源(地球物理学専攻、地震・
噴火予知研究観測センター、地学専攻)
5. エルニーニョの長期変動研究(地学専攻、地球物理学専攻)
6. 小天体衝突の影響評価(地学専攻、流体研、災害制御研究センター)
7. 地震波による地殻の不均質構造の解明(地球物理学専攻、地震・噴火予知研究
観測センター、東北アジア研究センター、地学専攻、産総研)
8. 火山爆発メカニズムの解明(東北アジア研究センター、地球物理学専攻、地震・
噴火予知研究観測センター、地学専攻)
9. 地震にともなう地殻の水とガスの挙動の研究(地学専攻、地球物理学専攻、地
震・噴火予知研究観測センター、)
その他、各種研究が行われている。「水」をテーマにした特定領域研究の申請も環
境科学研究科、地球物理学専攻、地学専攻を主体にし行われている。
国際競争力
事業推進担当者及び協力者が、国際的評価の高い論文誌に発表(2 年間で事業推
進担当者 24 名−300 編以上)すること、国際的に評価の高い国際学会でコンビーナ
や司会者として企画に積極的に参画することを奨励している。5 名の国内・外の先端
的な研究教育機関の研究者(海外 3 名、国内 2 名)からなる外部評価委員会による国
際的水準の研究教育評価を実施し、その提言を拠点の運営に活かしている。本拠点
で活動した日本人及び外国人の若手研究者が世界の先端的研究機関でポストが得
られるように努力している。ロシア科学アカデミー・シベリア支部、コペンハーゲン大学、
COMPRES 等と研究交流協定(合計 16 件)を結び共同研究を推進し、大学院学生、
教員の交流を推進した。
情報発信
2 年間に 300 編を超える論文を国際誌に発表した。1st and 2nd Water Dynamics
Symposium、Workshop on Probing Earth Media Having Small Scale Heterogeneity など
5 回に及ぶ国際シンポジウムを開催した。海外の著名研究者による地球内部・地球
進化・生命の起源に関する特別授業(ショートコース)を開催した。著名研究者の招聘
(21 名)と若手研究者の海外研究機関への派遣(9 件)を行った。拠点パンフレット、年
次報告書、外部評価書を作成し、関係機関に配布した。外部評価委員会を設置し、
海外を含む著名研究者による研究教育外部評価を受けた。国際会議でのコンビーナ
(IMA、IGC、AGU など)、国際会議タスクグループ(IASPEI など)のホームページ運営な
ど、各分野の研究推進に国際的イニシアチブを発揮した。本拠点のホームページ(邦
文、英文)のコンテンツを充実し、国外海外に向けて情報発信を行った。また研究成
果の一部は新聞などのメディアにも紹介されている。
研究における分野横断/理工連携の始動
全体
環境科学研究科
研究集会/シンポジウム開催
地球物理学専攻
流体研
地学専攻
Water Dynamics II
東北アジア
Probing the Earth
個々の研究(例)
地学専攻
衝撃波実験による
マントル物質状態方程式決定
流体研
地球物理学専攻
環境科学研究科
地学専攻
流体研
地学専攻
東北アジア
災害制御研究セ
地震発生と水および災害
小天体衝突の影響評価
固体地球研究グループの研究成果概要
【事業推進担当者】
大谷 栄治
長谷川 昭
近藤 忠
佐藤 春夫
藤本 博己
長濱 裕幸
土屋 範芳
吉田 武義
西村 太志
谷口 宏充
山崎 仲道
理学研究科 地学専攻・教授
理学研究科 附属地震・噴火予知研究観測センター・教授
理学研究科 地学専攻・助教授
理学研究科 地球物理学専攻・教授
理学研究科 附属地震・噴火予知研究観測センター・教授
理学研究科 地学専攻・助教授
環境科学研究科 環境科学専攻・教授
理学研究科 地学専攻・教授
理学研究科 地球物理学専攻・助教授
東北アジア研究センター地域環境研究部門・教授
環境科学研究科 環境科学専攻・教授
【研究・教育活動】
固体地球研究グループは地球内部の大規模な物質とエネルギーの移動とその主要な表
れである地震及び火山現象の理解を深めることを目的として、広範な研究と教育を行ってき
た。今年は、研究・教育の両面において以下のような様々な取り組みを行った。
人材育成・教育面での取り組み:3回の国際会議(環境科学研究科土屋教授の企画により、
分野横断的な 2 回に及ぶ Water dynamics symposium; 佐藤春夫教授の企画による
Probing of small scale heterogeneity symposium を開催し、第二回 Water dynamics
symposium では、同時に大学院生のためのショートコースを企画し、大学院生への教育、国
際交流と国際協力に努めた。特に2回に及び開催された Water dynamics symposium にお
いては、海外から Geophysical laboratory から R. Hemly 博士、フロリダ国際大学から
Saxena 教授をはじめとする著名な研究者を招聘し、学生のための英語による国際授業とし
てのショートコースを2日間にわたって開催した。また、招聘する外国研究者も10人を越え、
長期に滞在の米国USGSの Kirby 博士には大学院生の研究指導を行っていただいた。そし
て、グループの外部評価を元カーネギー地球物理学研究所所長C Prewit 教授、USGSの
Kirby 博士にお願いし、高い評価と建設的な提言をいただいた。
【研究成果概要】
多方面にわたるが、以下のように要約することができる。固体地球研究グループは,大規
模な地球内部の物質とエネルギーの移動と,その主要な表れである地震および火山現象の
理解を深めることを目的として研究を進めている.
大谷等は、核・マントルダイナミクス研究の一環として、地球内部への揮発性物質特に水
の移動と循環の過程を解明することを目的として、本年度は沈み込むスラブによる水の移動
と深部マントルにおける水の存在様式と存在度を解明した。無水および含水の玄武岩組成の
ガーネット・ポストガーネット転移の境界、スピネル・ポストスピネル境界を決定し、含水の低
温のスラブでは、海洋地殻が常に橄欖岩のスラブより重く、スラブの海洋地殻成分が下部マ
ントルに沈み込むことを示した。また、マントル遷移層物質中の水素の拡散速度を決定し、遷
移層中の水素の不均質性と移動様式を明らかにした。
近藤等は,ペロブスカイト-マグネシオウスタイト間の鉄分配に関して、マントル中の役
1500kmと2300kmに相当する条件で分配係数が大きく変わること、溶融鉄と珪酸塩の反応
に関してSi,Oが溶融鉄中に溶出する可能性があること、鉄ニッケル合金中にも相当量の水
素が安定に入って鉄水素系と同様の結晶構造を持つことなどを実験的に解明し、マントル最
下部から核の構造に関して新しい知見を提案した.
地球内部における大規模な物質循環
長谷川等は,太平洋下のプレート境界地震について,アスペリティモデルが成り立つことを
検証するとともに,非地震性すべりの推定手法を開発しアスペリティの周囲でのすべりの加
速を検出した.また,内陸地震についても,その発生モデルを構築した.さらに,スラブの沈み
込みに伴うマントルウェッジ内の2次対流の上昇流部分に対応する地震波低速度域を,地震
波トモグラフィにより3次元的に描き出し,それに基づき東北日本弧におけるマグマ生成・上
昇モデルを提案した.
島弧におけるマグマの上昇モデル
藤本等は,宮城県沖地震の発生が予測されている海域において、海底地震観測を開始し、
プレート境界の固着との関係を示唆する浅発地震の活動域を確認した。海底の水平地殻変
動観測も開始し、計測誤差3−4cmという暫定的な結果を得た。青森県沖では、これまでの海
底地震観測データを解析し、詳細な地震波速度構造と精密な震源分布を求めた。プレート境
界のすべり現象の空間変動が地震波速度構造と対応していることを明らかにした。
地震波は微小地震の震源からの輻射時にはパルス的な形状をもつが,その形は伝播距
離の増大に伴って崩れていく.そのエンベロープ形状は,地球の不均質構造を強く反映する
と考えられる.佐藤等は,ランダム媒質における直達波の振幅減衰と時間幅拡大およびコー
ダ波の励起を統一的に説明する数理的モデルを,波動論と輻射伝達理論の融合の上に構築
した.これは,微小地震を用いた島弧・ 火山の微細不均質構造解明ならびに高周波数域で
の強震動の定量的予測のための基礎をなす.さらに,佐藤等は,地球潮汐による地震トリガ
ーの現象を発見しそのメカニズムを解明した.
長濱等は,活断層・余震の空間分布や地殻構成岩の粘弾性遷移挙動に関するフラクタル
特性を明らかにした.またIR法やCL法により断層岩石英中のhydrogen分布を解析し,
hydrogenの地殻強度軟化への影響を解明した.さらに岩石圧縮試験機・ Pin-on-disk法・
TL法により岩石摩擦すべりに伴うマイクロプラズマ・誘起電流・接触電位・電子放出を計測し,
断層岩の誘電率を考慮した地震電磁気現象について言及した.
土屋等は,岩石き裂内の流体流動を100MPaの封圧下で計測できる装置を開発し,地殻
流体のチャネリングフローを実験的に再現し,試験片内のアスペリティ分布を明らかにした.
さらに,超臨界状態での薄膜水と岩石との相互作用について検討し,鉱物表面で構造化され
た水の顕微赤外吸収と顕微ラマン散乱の測定に世界で初めて成功した.これにより300∼
500℃,数10MPaの環境で発生する熱水誘起破壊のメカニズム解明が期待できる.
吉田等は、横浜国大との共同研究により,東北本州弧の下部地殻がSiO2に乏しい角閃石
含有苦鉄質岩から構成されることを示すと共に、長谷川・中島等と地殻内部構造を詳細に検
討し,火山フロント域の岩石学的地殻構造モデルを提示した。さらに、東大地震研との共同研
究で,東北本州弧での火山活動の時空変遷をマントルウェッジ内での小規模対流モデルで
三次元的に再現することを試みた。
谷口等は爆発的な噴火現象を火口近傍において調査観測するため,火山探査移動観測
ステーションMOVEの開発を進めてきた.本年は一応の完成をみたMOVEを用いて,阿蘇
火山の第一火口周辺において走行試験を行ない,500m離れた地点からの無線操縦に成功
した.同時に,走行試験で明らかになった無線関係や操作関係の不具合などについて検討を
行ない,改善を施した.更に,MOVEに搭載する衝撃波や火砕サージなどの観測システムの
製作を行なった.
西村等は,周辺岩体に囲まれたマグマ内の気泡成長モデルを構築した.差分法による数
値計算を行い,減圧をきっかけに膨張を始める気泡は,周辺岩体の弾性のために発泡が抑
制されること,気泡が小さく周辺岩体の有効弾性率が大きい場合には,マグマの圧力が回復
するばかりでなく与えた減圧量よりも増圧することを明らかにした.また,この気泡成長がマ
グマ貫入や火山爆発及び火山性地震のトリガー機構となりうることを示した.
低速度域のS波速度分布と地形
火山探査ロボット
ムーブ
大谷 栄治
部局:理学研究科 地学専攻・教授
専門分野:鉱物物理学・高圧地球科学
主な研究課題:核・マントルダイナミクスの研究,地球内部の物質科学、
地球惑星の形成進化、地球内部構造の研究
連絡先:E-mail:[email protected]
[研究報告]
1) 研究タイトル:地球内部における揮発性物質の大規模移動の研究
2) 研究目的と成果概要:
本研究は、核・マントルダイナミクス研究の一環として、地球内部への揮発性物質特に水の移動
と循環の過程を解明することを目的としている。本年度は沈み込むスラブによる水の移動と深部マ
ントルにおける水の存在様式と存在度を解明することを目指した。本年度の成果は以下のようにま
とめられる。
1. 様々な含水量の橄欖岩・水系の相関系と溶融関係を25GPa程度の圧力条件で明らかにした。
その結果含水量が2wt%の場合と同様0.5%の場合でも水の存在下において、上部マントルか
らマントル遷移層にかけて、不連続にソリダス温度が上昇することを明らかにした。現実的な水
の存在量においても、上部マントル最下部において上昇するプルームが脱水溶融をする可能性
があることが明らかになった(Litasov and Ohtani, 2003)。
2. 含水(2wt%)および無水の玄武岩組成の相関係と溶融関係を25GPaまでの圧力にわたって明
らかにした。そして、無水および含水の玄武岩組成のガーネット・ポストガーネット転移の境界を
試料急冷法およびX線その場観察法で決定した。この境界は大きな勾配を持ち、低温のスラブ
では、リングウダイトの分解圧力よりも低圧でこの転移が生じることが明らかになった。含水系に
おいては、無水系にくらべて0.5~1GPa程度低圧で相転移が起こる。この関係はスラブの地殻成
分の沈み込みに大きな影響をあたえるものである。
3. 橄欖岩組成と玄武岩組成に出現する高圧相Mg-ペロブスカイト、Ca-ペロブスカイト、NAL相な
どの無水鉱物に含まれる水の量を顕微FTIRを用いて測定した。その結果にもとづいて、下部マ
ントルの貯水能力を推定した(Litasov et al., 2003)。
4. 上記の実験結果を総合して、沈み込むスラブによる水の移動過程を明らかにし、水がマントル遷
移層と下部マントルに運ばれることを明らかにした(Ohtani et al., 2004)。
[参考文献]
Litasov, K. and Ohtani, E. (2003): Hydrous solidus of CMAS-pyrolite and melting of mantle
plumes at the bottom of the upper mantle. Geophys. Res. Lett., 30, No.22, 2143,
10.1029/2003GL018318.
Litasov, K., Ohtani, E., Langenhorst, F., Yurimoto H., Kubo, T., Kondo T. (2003): Water
solubility in Mg-perovskite and and water storage capacity in the lower mantle, Earth
Planet. Sci. Lett., 211, 189-203
Ohtani, E., Litasov, K., Hosoya, T., Kubo,T., and Kondo, T.(2004), Water Transport into the
Deep Mantle and Formation of a Hydrous Transition Zone, Phys. Earth Planet. Inter.,
143-44, 255-269, 2004.
長谷川 昭
部局:理学研究科 付属地震・噴火予知研究観測センター・教授
専門分野:地震学
主な研究課題:1)地殻・マントル構造,2)沈み込み帯の地震テクトニクス,
3)地震発生予測
連絡先:E-mail:[email protected]
[研究報告]
1) 研究タイトル:沈み込み帯における地殻・上部マントル構造と地震発生機構の研究
2) 研究目的と成果概要:
地震発生や火山噴火の予測精度を向上させるためには,地震発生・マグマ生成の場である地
殻・上部マントル構造,その中で起きる地震の発生機構と火山の噴火機構を理解する必要がある.
本研究の目的は(1)プレート沈み込み帯の地殻・上部マントル構造,(2)その中で発生する地震で
あるプレート境界地震,内陸地殻内地震,スラブ内地震それぞれについて,その発生機構,すなわ
ち地震発生に至る応力集中機構の理解を深めることである.
地殻・上部マントル構造の研究では,サイスミックトモグラフィにより,スラブの沈み込みに伴う2
次対流の上昇流部分に対応する傾斜したシート状の低速度域を東北日本下マントルウェッジ内に
明瞭にイメージングするとともに,この低速度域内の速度低下の度合が島弧走向方向に変化し,
約 80km間隔で現れる速度低下の大きい領域の直上に背弧側の第四紀火山や地形の高まりが分
布することを見出した.これらの観測事実に基いて東北日本弧下のマグマ生成・上昇モデルを提案
した.
プレート境界地震については,その発生に至る応力集中機構を理解する見通しが得られた.す
なわち,GPS 観測により過去の大地震の震源域が現在固着していることを明らかにし,またプレー
ト境界において,まったく同じ場所で規則的に小さな地震が繰り返し発生している事例(相似地震)
を多数発見した.これらの研究成果は,古記録の解析を行った東大地震研の成果ともあわせ,「ア
スペリティ(普段は固着していて地震時に大きくすべる領域)の位置は不変」であるとするアスペリ
ティ・モデルが成り立つことを示す明確な証拠となった.
内陸地殻内地震についても,その発生に至る応力集中機構を理解する上で,重要な成果を得た.
すなわち,「マントルウェッジ内の上昇流が脊梁山地下のモホ面直下に達して,地殻下部の温度を
上昇させ,またメルトの固結に伴って水が放出される.この高温と水の存在が地震発生層下部を
軟化させ,これによりその浅部に応力集中が生じ大地震発生に至る」とする内陸地震発生のモデ
ルを提案した.
[参考文献]
Hasegawa, A. (2004): Introduction to EPS special section for the M7.1 and M6.4 earthquakes in
northeastern Japan, Earth Planets Space, 56,ⅰ-ⅳ.
Nakajima, J. and Hasegawa, A. (2004): Shear-wave polarization anisotropy and
subduction-induced flow in the mantle wedge of northeastern Japan, Earth Planet. Sci.
Lett., 225, 365-377.
Hasegawa, A. and Nakajima, J. (in press): Geophysical constraints on slab subduction and arc
magmatism, AGU Geophys. Monograph.
近藤 忠
部局:理学研究科 地学専攻・助教授
専門分野:核マントル・地球内部物理学・超高圧物理化学
主な研究課題:核マントル境界における安定相と化学反応、
超高圧下の溶融実験、地球核の構造
連絡先:E-mail:[email protected]
[研究報告]
1) 研究タイトル: 核-マントル境界における安定相と反応関係及び核の性質
2) 研究目的と成果概要:
地球の核̶マントル境界は 140GPa-3000Kの高温高圧条件で岩石と金属が接する地球内部最
大の境界である。近年の地震学的観測から報告されている地球内部の描象は、単に層構造の存
在だけではなく、さまざまな不均質が存在することを示唆している。本研究ではこれらのに観測事
実に対する物質科学的な解明のアプローチとして、現在、静的に唯一地球の核条件を実験室に再
現できるレーザー加熱ダイヤモンドアンビルセルを用いた実験を行っている。本年度は COE 核マ
ントル分野の研究の一環としてレーザー加熱ダイヤモンドアンビルを用いた高温高圧実験に放射
光を用いたその場観察実験、回収試料の組織観察・各種分光分析・組成分析を組み合わせること
により、以下の成果が得られている。
(1)鉄中に水素が軽元素として入った場合に、下部マントル条件下で磁気的相転移を起こしている
可能性が有る事を約 80GPa までの放射光を用いたX線その場観察実験で示した。(2)鉄ーニッケ
ル合金と水が反応した場合にも、純鉄の場合と同様に鉄水素化物と酸化物が生成されることを放
射光を用いたX線その場観察実験で示した。(3)鉄ー珪素合金の 200GPa までの放射光を用いた
X線その場観察実験を行い、珪素が入ると鉄の体積弾性率が有意に上昇することを示すとともに、
核中の軽元素の候補とその量に関して新たな知見を得た。(4)珪酸塩と溶融鉄の反応に関して、
核ーマントル境界の直接条件に相当する 140GPa-3000K の高温高圧発生技術を確立し、回収試
料の透過型分析電子顕微鏡分析から珪酸塩の一部が核中に軽元素成分を供給している実験的
証拠を得た。(5)マントル中に沈み込む玄武岩の核-マントル境界での安定相に関して、低圧低温
でしか生成が確認されていない CMA 相と呼ばれる相が核̶マントル境界の条件でも安定化する
可能性がある事を放射光を用いたその場観察実験を用いて示した。(6)下部マントルの代表的鉱
物でペロブスカイトとペリクレース間の鉄分配に関して、放射光を用いたX線その場観察実験と透
過型分析電子顕微鏡を用いた手法により調べ、60GPa、及び 100GPa 付近の条件でペリクレース
中の鉄のスピン転移及びペロブスカイト相のポストペロブスカイト相転移に起因すると考えられる
分配係数の大きな変化が見られ、核-マントル境界付近ではペロブスカイト相に殆ど鉄が入らない
事を実験的に示した。(7)レーザー加熱ダイヤモンドアンビルを用いた鉄軽合金の融点に関する実
験的決定法に関して、精度の高い融点決定法を開発し、鉄ー硫黄系の融点に関して約 110GPa ま
での融点曲線を決定すると共に、約 40GPa より高圧側ではサブソリダス相が Fe3S+Fe から
Fe2S+Fe と変化する事を示した。
佐藤 春夫
部局:理学研究科 地球物理学専攻・教授
専門分野:固体地球物理学・地震学
主な研究課題:固体地球の不均質構造の解明
連絡先:E-mail:[email protected]
[研究報告]
1) 研究タイトル:固体地球の不均質構造の解明
2) 研究目的:
固体地球のリソスフェアは,特に島弧・沈み込み帯では,その構造が成層的というよりも 3 次元
的に複雑でランダムな短波長成分に富むことがわかってきた.震源ではパルス的な地震波も,伝
播距離の増加とともに不均質構造による散乱の効果によって大きく崩れ,主要動の継続時間が大
きくなる.高周波数地震波動の特徴を構造の不均質性によって定量的に理解することが可能にな
れば,その逆問題を解くことは構造解析の有効な手段となりうる.本研究では,ランダム不均質構
造におけるパルス波の伝播の数理的モデルを構築するとともに,島弧・火山における高周波数地
震波のエンベロープ形状から不均質構造を推定し,強振動の定量的予測の基礎を確立することを
目的とする.
成果概要:
地震波は震源からの輻射時にはパルス的であるが,その形は伝播距離の増大に伴って崩れて
いく.特にそのエンベロープ形状は,地球の不均質構造を強く反映していると考えられる.今年度
は,ランダム媒質における直達波の振幅減衰と時間幅拡大およびコーダ波の励起を統一的に説明
する数理的モデルを,波動論と輻射伝達理論の融合の上に提起した.新しく提唱した理論は,ラン
ダム媒質の統計情報のみを基にして直接エンベロープを導出することを可能にする.図1は,この
理論が数値計算による波動場のエンベロープ形状を定量的に説明できることを示したものである.
このエンベロープ形成モデルはスカラー波に対するものであるが,今後はベクトル波動への拡張を
行うことを計画している.この他の成果として,レシーバ関数を用いて四国・中国地方ならびに本州
中央部の地殻構造の詳細図を作成するとともに,東北地方太平洋岸の地震の解析から見かけ応
力が震源規模に依存することを示し,地球潮汐による応力が地震の滑りを加速するような場合に
は地震発生の要因となりやすいことを明らかにした.
0.6
50km
図1.2 次元ランダム媒質におけるパ
ルス波のエンベロープの伝播距離依
存性.理論エンベロープ(実線)は差
分法によって計算した波形エンベロー
プ(灰色)を定量的に説明する.
Gray: FD Envelope (RMS +-1SD)
Black: Hybrid Synthesis
RMS Amplitude
0.5
0.4
100km
0.3
150km
200km
0.2
0.1
0
10
20
30
40
Lapse Time
50
60 [s]
国際交流:
・弾性波動を用いた地球の不均質構造の解明を目的とする国際ワークショップ "Probing
Earth Media Having Small-Scale Heterogeneities"を,11 月 22 日に東北大学・青葉会館
で開催した.佐藤春夫,西澤修,浅沼宏が開催責任者となり,本 COE が主催し,日本地震学
会と物理探査学会の後援を受けた.散乱波から伝達関数を推定する新しい分野の研究発表を
中心として,固体地球物理学・地震学・物理探査・地学分野から 53 名(国外から 12名)の参加
者があり,33 件の口頭発表とポスター発表がなされた.ワークショップの詳細ならびにプロシー
ディングスを,http://www.scat.geophys.tohoku.ac.jp/2004_sendai_workshop.html に掲
載.
・学振・外国人特別研究員として Won Sang Lee 博士(韓国・ソウル大学)を 2004 年 10 月より
受け入れる.2 年間の予定で,固体地球内部の不均質構造の研究に従事.
・ IASPEI の Task group on scattering and heterogeneity の ホ ー ム ペ ー ジ を 運 営
(http://www.scat.geophys.tohoku.ac.jp/index.html).
[参考文献]
Sato, H., M. Fehler and T. Saito, Hybrid Synthesis of Scalar Wave Envelopes in 2-D Random
Media Having Rich Short Wavelength Spectra, J. Geophys. Res. Solid Earth, 109, B06303,
doi:10.1029/2003JB002673, 2004.
Tanaka, S., M. Ohtake, and H. Sato, Tidal triggering of earthquakes in Japan related to the
regional tectonic stress, Earth Planetes and Space, 56, 511-515, 2004.
Shiomi, K., H. Sato, K. Obara, and M. Ohtake, Configuration of subducting Philippine Sea
plate beneath southwest Japan revealed from receiver function analysis based on the
multivariate autoregressive model, J. Geophys. Res., 109, B04308,
doi:10.1029/2003JB002774, 2004.
Saito, T., H. Sato, M. Ohtake, and K. Obara,Unified Explanation of Envelope Broadening and
Maximum-Amplitude Decay of High-Frequency Seismograms based on the Envelope
Simulation using the Markov Approximation: Forearc Side of the Volcanic Front in
Northeastern Honshu, Japan, J. Geophys. Res.,(印刷中), 2005.
Yoshimoto, K., H. Fujisawa, T. Okada, N. Umino, A. Hasegawa, K. Obara, K. Shiomi, H.
Tsukahara, S. Okamoto, T. Kawanaka, H. Sato, T. Nishimura, H. Sato, and M. Ohtake,
Moho and Philippine Sea plate structure beneath central Honshu Island, Japan, from
teleseismic receiver functions, Earth Plantes Space, (印刷中), 2005.
Takahashi, T., H. Sato, M. Ohtake and K. Obara, Scale-dependence of apparent stress for
earthquakes along the subducting Pacific Plate in Northeastern Honshu, Japan (投稿中),
2005.
藤本 博己
部局:理学研究科 付属地震・噴火予知研究観測センター・教授
専門分野:海底物理学
主な研究課題:海底における地震および地殻変動観測による
プレート沈み込み運動の研究
連絡先:E-mail:[email protected]
[研究報告]
1) 研究タイトル:海底における地震および地殻変動観測による東北沖の沈み込み運動の研究
2) 研究目的:
陸上に限定されている地震および地殻変動観測を海域に延長し、海底で大地震を引き起こすプ
レート沈み込み運動の実態を明らかにする
成果概要:
1. 宮城県沖海底地震観測
宮城県沖地震の発生が予測されている海域において、文部科学省の研究計画の下に、東京大
学地震研究所および気象庁地震火山部と共同で、長期および繰り返しの海底地震観測を開始した。
2003 年度までの観測で取得されたデータを陸上観測点のデータと併合して3次元地震波トモグラ
フィ解析を行い,次のような成果を得た:
・ 宮城県沖地震震源域の地震波速度構造を,東西 250km,南北 150km,深さ 40km 程度の範
囲まで解明した.従来人工地震探査によって 20km 程度の深さまでしかわからなかった。
・ この領域の高精度な震源分布を求めることにより,海陸プレート境界面の形状を明らかにすると
ともに、現在固着していると考えられる領域の周辺において,上盤(陸側)および下盤(海側)の
それぞれでプレート内地震の活動域を見いだした.
2. 青森県沖海底地震観測
日本海溝北部の三陸沖地域において過去約 10年間にわたって行ってきた海底地震観測のデ
ータのコンパイル・再解析を行い,1994 年三陸はるか沖地震の震源域周辺の詳細な地震波速度
構造を明らかにし、震源の再決定を進めることにより,次のような成果を得た:
・ 前駆的すべり現象,本震の破壊の開始点,地震時すべりの大きな領域(アスペリティ),余効す
べり領域という,三陸はるか沖地震の際に見いだされた様々なすべり現象の空間分布は,海陸
プレート境界の近傍に存在している地震波速度構造の不均質に対応している.
3. 宮城県沖海底地殻変動観測
海上のGPS測位と海中の精密音響測距を結合して海底の精密測位を行い、その繰り返し観測
により、海底の水平変動を検出する観測システムを構築し、日本海溝の陸側3点および海側 1 点
の観測点を設けた。音響測距装置は米国カリフォルニア大学のスクリップス海洋研究所との共同
研究により水深 9000m対応の超深海用装置を開発するとともに、独自に 3000m海域用の装置を
開発した。宮城県沖において後者の装置を用いた測位観測を行い、2-3cm で海底の水平変動が
測れそうであるという暫定的な結果を得た。
長濱 裕幸
部局:理学研究科 地学専攻・助教授
専門分野:岩石破壊力学・地球連続体力学
主な研究課題:活断層系の不均質構造と余震分布の解明,地殻の粘弾性遷
移挙動の解明,断層岩石英中の hydrogen 分布と地殻強度
軟化に関する研究,地殻岩石の流動・破壊・摩擦すべりに伴
う電磁気現象に関する研究
連絡先:E-mail:[email protected]
[研究報告]
1) 研究タイトル:地殻岩石の流動・破壊に伴う電磁気現象とそのスケール不変性に関する研究
2) 研究目的と成果概要:
本研究は、地震火山ダイナミクス研究の一環として、地殻岩石の流動・破壊に伴う電磁気現象と
そのスケール不変性の解明を目的としている。本年度は活断層系や余震分布に関するフラクタル
特性や地殻粘弾性遷移挙動の時間スケーリング則を明らかにした。また IR スペクトルマッピング
により断層岩石英中の hydrogen がどのように地殻強度軟化を引き起こすかを調べた。さらに地殻
岩石の流動・破壊・摩擦すべりに伴う各種電磁気現象の発生メカニズムを明らかにした。これらの
研究成果を本 COE 拠点特待大学院生や日本学術振興会特別研究員(DC・PD)と共に以下の論
文で報告した。
[参考文献]
Nanjo, K. and Nagahama, H. (2004), Fractal properties of spatial distributions of aftershocks
and active faults. Chaos, Solitons and Fractals, 19, 387-397.
Kawada, K. and Nagahama, H. (2004), Viscoelastic behaviour and temporal fractal properties
for lherzolite and marble: possible extrapolation from experimental results to the
geological time-scale. Terra Nova, 16, 128-132.
Muto, J. and Nagahama, H. (2004), Dielectric anisotropy and deformation of crustal rocks:
physical interaction theory and dielectric mylonites. Physics of the Earth and Planetary
Interiors. 141, 27-35.
Muto, J., Nagahama, H. and Hashimoto, T. (2004), Microinfrared reflection spectroscopic
mapping: application to the detection of hydrogen-related species of natural quartz.
Journal of Microscopy, 216, 222-228.
Takeuchi, A. and Nagahama, H. (2004), Scaling laws between seismo-electric/magnetic fields
and earthquake magnitude. Terra Nova, 16, 152-156.
Takeuchi, A., Nagahama, H. and Hashimoto, T. (2004), Surface electrification of rocks and
charge trapping center. Physics and Chemistry of the Earth, Parts A, 29, 359-366.
Koizumi, Y., Otsuki, K. Takeuchi, A. and Nagahama, H. (2004), Frictional melting can
terminate seismic slips: Experimental results of stick-slips. Geophysical Research Letter,
31, No.21, L21605, doi:10.1029/2004GL020642.
土屋 範芳
部局:環境科学研究科 環境科学専攻・教授
専門分野:地震火山、地殻内流体
主な研究課題:岩石−水相互作用,及び地震発生における水の役割
連絡先:E-mail:[email protected]
[研究報告]
1) 研究タイトル: 地震発生と水の役割
2) 研究目的と成果概要:
地殻内に存在する流体は岩石マトリクスや岩石内部のき裂間隙に貯留し,粒界およびき裂内部
を移動する.地震発生の一因としてき裂面のすべり現象を考える場合,き裂内部における流体が
き裂の滑り現象に対して重要な役割を担っていると考えられる.このことから、地震の発生に関与
するき裂内部流体の流動特性を把握する必要がある。
本年度は,室内実験において、深度 15km 程度の地殻応力(150-180MPa)下での流体流動特
性試験を実施し,基本的な流動特性試験及びその結果に基づくき裂間隙構造を推定した。
150∼180 MPa の封圧を実現するために、50t プレス装置の設計を行い、既存の実験システム
に導入した。装置の導入にともない、封圧の発生に使用するゴム材を、高封圧を実現するために
新たに選定した。
以上の導入した装置の性能確認のために、花崗岩き裂の透水率測定実験の予備実験を行った。
予備実験の結果、流体入口と出口との差圧測定から透水係数の測定が可能であること、流体流動
が基本的にダルシー則に従うことを確認し、新規に導入した装置による実験も、以前の装置で得ら
れた結果と比較可能であることがわかった。図に本研究の結果得られた岩石き裂内の流体流動特
性シミュレーション結果を示す。これらの研究成果は,地震発生帯での アスペリティ の物質科学
的なイメージを描くことに展開できる。
このほか,高温高圧環境下(400℃,50MPa)で
の水の拡散反射法による顕微赤外吸収スペクトル
の測定に初めて成功し,薄膜水の構造変化,岩石と
の相互作用により薄膜水の構造も変化することを明
らかにしている.さらに薄膜水と接する固体表面の
顕微ラマン散乱計測から,薄膜水との化学的作用
による固体表面状態の変化を追跡している.
Fig.1 岩石き裂の間隙構造とき裂内チャ
ネリングフロー
吉田 武義
部局:理学研究科 地学専攻・教授
専門分野:岩石学および火山学
主な研究課題:島弧マグマ成因論
東北本州弧における火成活動史と地殻・マントル構造
連絡先:E-mail:[email protected]
[研究報告]
1) 研究タイトル:島弧地殻∼マントルの3D構造とその発展
2) 研究目的と成果概要:
本研究の目的は、東北本州弧の地殻∼マントル構造を地質学的、岩石学的に検討すると共に、
それらを地球物理学的観測データと統合し、地殻∼マントルの3D構造を構築することである。更に
東北本州弧の火成活動史をより正確に組み立て、現在観測される3D構造の時間発展を明らかに
し、それを適切なモデルの下で計算機シミュレーションによって再現し、島弧の未来像を描くことを
目指している。
マントル内部の温度圧力条件で系統的に変化するマグマ組成の時空変遷から判断して、東北
本州弧下の上部マントルでは、時代と共にマグマ分離深度が大きく変化している。マグマ分離深度
はマントル内での低速度体分布や温度構造と密接に関連している。一方、地震波トモグラフィー、
重力異常、キュリー点深度分布等の地球物理学的に観測される構造の多くが、伏在するマグマ溜
り∼深成岩体の空間分布と密接に関係することが明らかとなってきた。これらの情報をもとに、現
在、より精細な3D構造の構築を進めている。
[参考文献]
佐藤比呂志,吉田武義,岩崎貴哉,佐藤時幸,池田安隆,海野徳仁(2004)後期新生代における東北日
本中部背弧域の地殻構造発達−最近の地殻構造探査を中心として−.石油技術協会誌,69/2,
145-154.
長橋良隆・高橋友啓・柳沢幸夫・黒川勝己・吉田武義(2004)福島県太平洋岸の鮮新統大年寺層に挟在
する広域テフラ層.地球科学,58,337-344.
Yamada, R. and Yoshida, T. (2004) Detailed developing processes of the northeast Honshu
magmatic
arc
associated
with
Kuroko
formation.
Proceeding
of
the
Oceans-TecnooOcean2004, Kobe.
Yamada, R. and Yoshida, T. (2004) Volcanic sequence related to Kuroko mineralization in the
Hokuroku district, Northeast Japan. Res. Geol., 54, 399-412.
Honda, S. and Yoshida, T. (2005) Application of the model of small-scale convection under the
island arc to the NE Honshu subduction zone. Geochem. Geophys. Geosyst., 6, Q01002,
doi:10.1029/2004GC000785.
Nishimoto, S., Ishikawa, M., Arima, M. and Yoshida, T. (2005) Laboratory measurement of
P-wave velocity in crustal and upper mantle xenolith from Ichino-megata, NE Japan:
Ultrabasic hydrous lower crust beneath the NE Honshu arc. Tectonophysics (in press).
西村 太志
部局:理学研究科 地球物理学専攻・助教授
専門分野:火山物理学
主な研究課題:火山噴火のダイナミクスの研究
連絡先:E-mail:[email protected]
[研究報告]
1) 研究タイトル:弾性体に囲まれたマグマ溜まり内での発泡過程に関する研究
2) 研究目的と成果概要:
火山爆発やマグマの上昇には,水などの揮発性成分の発泡過程が主要な役割を果たしている.
これまでの理論的・実験的研究は,この発泡過程を周辺圧力一定という条件のもとで調べている
が,実際のマグマは周辺岩体に囲まれている.そこで,今回,周辺岩体の弾性を取り入れたモデ
ルを構築し,その効果について調べた.
弾性体に囲まれたマグマが圧縮性をもつメルトと無数の気泡からなると考える.マグマ内に含ま
れる揮発性成分の質量保存式,気泡とメルト間の圧力平衡,メルトと周辺弾性体の力学的釣り合
いをもとに,モデルを構築した.このマグマが急減圧を受け,その後,最終平衡状態に到達した時
点での,マグマの圧力と泡の半径の変化量を調べた.計算の結果,気泡が小さく,周辺岩体の有
効剛性率が大きいとき,マグマの圧力が回復するばかりでなく,受けた減圧量以上に増圧すること
があることがわかった.このような増圧は,マグマ上昇に欠かせないクラックの伸展の駆動源にな
りうると考えられる.また,この結果は,火口浅部においてマグマの噴出が起こるとその下にあるマ
グマは急減圧を受けるが,その際にマグマは周辺岩体に力を及ぼすことから,この圧力変化は火
山性爆発地震として検知できることを示唆している.さらに,周辺岩体中をマグマが地下深部から
地表近くまで上昇した際には,発泡が抑制されるためマグマ破砕が起きにくくなる可能性がある.
このような増圧を伴う発泡過程は,周辺岩体を加味してこなかった従来のモデルでは説明できず,
本研究によりはじめて明らかとなった.また,マグマ中の気泡成長は,主に噴出物の観察に基づく
物質科学的なアプローチにより調べられてきたが,本研究の結果は,地殻変動観測や地震観測な
ど地球物理学的観測によってマグマの圧力変化として泡の成長過程を議論できることを示唆して
いる.
谷口 宏充
部局:東北アジア研究センター 地域環境研究部門・教授
専門分野:火山科学
主な研究課題:爆発的噴火のダイナミックス
連絡先:E-mail:[email protected]
[研究報告]
1) 研究タイトル:火山探査移動観測ステーション MOVE の開発
2) 研究目的と成果概要:
爆発的な噴火など,危険の襲来のため人が立ち入ることのできない地域に,無線操作によって2
km 離れた遠隔地より到達し,観測データを取得し,基地局に帰還する能力を有する無人観測機
MOVE を開発している.今年度は本体-基地局を完成させ,同時に,内部に搭載する観測システム
の製作を行なった.本体-基地局のシステムは本年7月に阿蘇火口周辺で試験走行を行ない,
500m 間の無線操縦に成功した.しかし,実用化という点で言うと,数多くの問題点も明らかになり,
秋以降,それらの改善を行なった.
無線操縦によって阿蘇火山の火口縁にまで到達した火山探査移動観測ステーション MOVE
(2004 年 7 月)
山崎 仲道
部局:環境科学研究科 環境科学専攻・教授
専門分野:水熱化学
主な研究課題:地球を循環する水を中心に、
1. 堆積岩生成過程の実験室的再現と応用、
2. プレート沈み込み帯を模擬した酸化・還元反応(CO2 の還元、
ダイヤモンドの合成)
3. 高圧高温乾燥蒸気相を利用した物質移動とその応用、
連絡先:E-mail:[email protected]
[研究報告]
Nakamichi Yamasaki, I.R.Korablova, S.F.Korablov, Hydrothermal deposition of nickel on
Teflon substrate , Mat. Sci. Lett., 58(2004),768-771
要約:350℃、乾燥蒸気を利用して花崗岩から SUS 表面に酸化物皮膜の合成法を提案
N.Yamasaki, I.R.Korablova, S.F.Korablov, Protective Mineral layers formed from granite-dry
steam interaction , Applied Geochemistry 19(2004)1529-1535
要約:鉱床の成因の一つに物質輸送は熱水ばかりでなく乾燥蒸気もありうることを確認
池田博史・浦上昌也・笹辺慶・山崎仲道 アルカリメタノールによる絶縁油中の脱塩素化処理 化学工
学論文集、30(2), 211-216(2004)
要約:油層媒体中の PCB やダイオキシンを流通系での処理プロセスを完成
山崎仲道 水熱ダイナミクスと廃棄物処理 −地球原理に基づいた無機系廃棄物のリサイクルと資源回
収 廃棄物学会誌、15(4), 182-188(2004)
要約:地球内部の水循環を想定し、その化学作用と物質輸送現象を廃棄物処理に展開
池田博史・浦上昌也・笹辺 慶・宮本佳紀・山崎仲道、 ソルボサーマル法によるトリクロロエチレンの脱塩
素化分解、 廃棄物学会誌、15(5),363-371(2004)
Sergiy Korablov, Kazunori Yokozawa, Kazuyuki Tohji, Nakamichi Yamasaki., Decomposition
of chlorinated organic compounds to diamond structured carbon at moderated
hydrothermal conditions , Mat. Res. Soc, Jpn 29(5) 2371-2374(2004)
要約:ダイヤモンドの天然生成を模擬することによって1GPa 以下でダイヤの合成に成功
Recycling Waste Glass Powder by
L.Liu, A.Shirakawa, T.Hashida, N.Yamasaki,
Hydrothermal Hot Pressing(HHP) Technique, 14th ICPWS in Kyoto,67(2004)
要約:堆積岩生成過程を模擬し、水熱下で圧搾することにより廃ガラス固化に成功
Y. Jin, Inna R.Korablova, H.Kato, N.Yamasaki, Studies on mass-transformation in water
vapor near critical point , 14th ICPWS in Kyoto,74(2004)
要約:臨界点以下の乾燥ガスによる、金属、セラミックス輸送現象を確認
K.Yokozawa, Sergiy Korablov, K.Tohji, N.Yamasaki, High Pressure Hydrothermal Synthesis
of Diamond , 14th ICPWS in Kyoto,80(2004)
要約:水素化ダイヤモンドを基盤材とし、有機塩素化合物からダイヤモンドの生成を確認
H.Takahashi, L.Liu, Y.Yashiro, T.Kori, K.Ioku, Greg Bignal, N.Yamasaki, “Synthesis of
Organic Compounds by Hydrothermal Reduction of CO2”, 14th ICPWS in Kyoto,82(2004)
要約:二酸化炭素を水熱条件下で還元することによってアルカン類の合成を確認
Z.Li, H.Lin, L.Liu, N.Yamasaki, “ Fundamental Research on Dry Steam Extractives from
Japanese Cedar”, 14th ICPWS in Kyoto,87(2004)
要約:有機天然物中を高圧乾燥蒸気を通過させ、条件を変え有価物質選択抽出法を開発
Z.Jing, N.Matsuoka, F.Jin , T.Hashida, N.Yamasaki,
Hydrothermal Solidification of
Municipal Incineration Ash , 14th ICPWS in Kyoto,88(2004)
要約:堆積岩生成プロセスを参考に有害焼却灰の安定固化・岩石化に成功
L.Honfei, K.Tohji, N.Tsuchiya, N.Yamasaki, “The Sulfur Redox Reaction with Water in
Hydrothermal Conditions”, 14th ICPWS in Kyoto,95(2004)
要約:硫化水素水を原料とする太陽光による水素製造システムの中核となるイオウサイクルを廃熱程度
で完成させた。
T.Sasaki, K.Yokozawa, K.Tohji, N.Yamasaki, “Diamond sintering by Hydrothermal
Hot-pressing”, 14th ICPWS in Kyoto,96(2004)
要約:堆積岩生成プロセス条件下(300℃、数十 MPa)でダイヤモンドを合成した。
H.Kato, Y.Jin, L.Liu, K.Ioku, A.Minagawa, G.Bignall, N.Tsuchiya, N.Yamasaki, “Film
Synthesis by Granite-Dry Steam Interaction”, 14th ICPWS in Kyoto,97(2004)
要約:蒸気輸送による花崗岩から SUS 表面でのアルミナ、シリカ皮膜合成に金属銅の共存が不可欠であ
ることを確認。
流体地球・惑星圏研究グループの研究成果概要
【事業推進担当者】
花輪
中澤
川村
岡本
井龍
福西
小野
中村
公雄
高清
宏
創
康文
浩
高幸
教博
理学研究科
理学研究科
理学研究科
理学研究科
理学研究科
理学研究科
理学研究科
理学研究科
地球物理学専攻・教授
地球物理学専攻・教授
地球物理学専攻・教授
地球物理学専攻・助教授
地学専攻・助教授
地球物理学専攻・教授
地球物理学専攻・教授
地学専攻(総合学術博物館)・助手
その他,理学研究科地球物理学専攻,地学専攻,環境科学研究科環境科学専攻に所属
する教員が協力教員として教育と研究に従事している.
【研究・教育活動】
(1) COE フェロー・特待大学院生>
2004 年 3 月現在,本グループには,4 名の COE フェローと 1 名の日本学術振興会 COE
特別研究員が所属し,研究に従事している.また,特待大学院生(SDC)は 3 名が採用された.
また,大学院生国際学会参加支援プログラムにより,本グループから 5 名の院生が海外で開
催された学会・シンポジウム等に参加し,論文発表を行った.
(2) 外国からの招聘研究者>
2004 年度,本グループは外国から短期招聘研究者として 6 名を迎え,本グループとの共同
研究を進めるとともに,多くのセミナーを開催した.
(3) シンポジウム等
気候変動ダイナミクスグループは地球進化史グループと共同で,2004 年 10 月 14 日に,シ
ンポジウムを開催した.シンポジウムには外部評価委員 2 名や,外部機関からも含め,50 名
以上の参加者があった.2004 年 7 月 26 日から 28 日にかけて,「古海洋を志す学生のための
微化石サマースクール」が本学で他機関とも共同で開催された.院生・学生と講師合わせて
51 名もの参加者があった.
(4) COE セミナー等
2004 年度,本グループは,外部からの研究者を迎えた COE セミナーを 24 回開催した.各セ
ミナーには,研究科,専攻の枠を超えた参加者があり,院生に対し大きな刺激を与えた.
(5) 外部評価
太陽地球系ダイナミクスグループは,2004 年 7 月 16 日,アラスカ大学フェアバンクス校内に
ある国際北極圏研究センター(IARC)の赤祖父俊一センター長を評価委員とする外部評価を
実施した.気候変動グループは,地球進化史グループと共同で,2004 年 10 月 14 日,琉球大
学平啓介監事を評価委員とする外部評価を実施した.
(6)
特記事項
気候変動ダイナミクスグループ井龍康文助教授が,2005 年に行われる International
Ocean Drilling Project (統合国際深海掘削計画) Expedition 307 South Pacific Sea Level
(Tahiti)の共同主席研究者を務めることになった.この Expedition は深海掘削計画史上初の
サンゴ礁掘削であり,炭酸塩堆積学・地球化学の分野では歴史に残るイベントになると期待
されている(2004 年 11 月).
太陽地球系ダイナミクスグループの福西浩教授が,第 17 回日本気象学会堀内賞を受賞
(2004 年 10 月).
気候変動ダイナミクスグループの花輪公雄教授が,IPCC(気候変動に関する政府間パネ
ル)第 4 次報告書(2007 年刊行予定)WG-1(第一作業部会:物理科学的根拠)の Lead
Author に選ばれた(2004 年 5 月).
2004 年度特待大学院生の堀井孝憲さんが,CLIVAR(気候変動特性・予測可能性研究計
画)Science Conference において,Good Student Poster Award を受賞(2004 年 6 月).
【研究成果概要】
「流体地球・惑星圏研究グループ」の目的は,地球の表層から超高層,太陽・惑星圏を対
象として様々な視点から研究を行うことで,気候形成の理解,気候変動の理解,地球温暖化
の理解を深め,地球気候の未来像の構築することである.本グループは,「気候変動ダイナミ
クス」領域,および「太陽地球系ダイナミクス」領域の 2 つのサブグループからなる.
「気候変動ダイナミクス」領域は,地球の気候形成の仕組みを理解し,過去から現代に至る
様々時間スケールでの変動を復元・解明し,さらに数値シミュレーションにより,未来の気候
像を提出することを目的とし,「太陽地球系ダイナミクス」領域は太陽活動変動にともなう,地
球周辺の電磁環境変動(宇宙天気)や地球の気候変動の解明を目指し,また他の惑星にお
ける環境変動とを比較研究することで,広い意味での地球気候システムを理解することを目
的としている.本流体地球・惑星圏研究グループの 2004 年度の主な研究成果は以下のよう
にまとめられる.
「気候変動ダイナミクス領域」では,大規模大気海洋
相互作用,サンゴ骨格の解析や氷床コア分析による古
気候の復元,衛星データ高度利用技術の開発に大きな
研究の進展があった.エルニーニョはその開始時期に
より,春型と夏秋型に分類され,発達の規模や終息時
期などにそれぞれの型で際だった特徴を有することが
見出された.この観点でのさらなる研究は,エルニーニ
ョ予報精度の精密化に導くものと期待される.世界の海
洋を対象として冬季海面水温偏差の再出現域が同定
され,いずれもモード水という特徴的な水塊が形成され
る海域に対応することが示された.これは,大気海洋系
の数十年変動における海洋の重要な役割を指摘したも
のである.また,サンゴ骨格の同位体比の精密解析が
行われ,過去 230 年間のエルニーニョやラニーニャの
グアム島近海におけるサンゴコア掘削
発生時期が同定された.この再現された記録には,数
風景.このサンゴコアサンプルから過去
十年変動のほか,長期傾向(トレンド)も存在していた.
300 年の水温,塩分などの情報が抽出
より詳細な解析により,メカニズム解明に迫ることが期
された.
待される.また,グリーンランドの深層氷床コアの分析
により,過去 13 万年にわたる二酸化炭素,メタン,一酸化二窒素などの微量気体濃度の変遷
が復元され,温室効果気体濃度と,気候変動の関係解明に大きな足がかりを得た.衛星デー
タの解析技術分野では,新世代海面水温データの構築,赤潮観測技術の創出がなされた.
また,船舶搭載レーダおよびライダを用いた中緯度と熱帯の雲とエアロゾルの特性を抽出す
る技術も開発された.
CO2 Concentration (ppmv)
300
700
600
250
500
200
400
-52
-54
-56
CH4 Concentration (ppbv) δ18O (‰)
800
-58
0
50
100
150
200
250
300
-60
350
Age (kyr BP )
ドームふじ氷床コア分析による二酸化炭素,メタン,酸素同位体比の過去約 30 万年間の時系列.
「太陽地球系ダイナミクス」では,太陽活動と気候変動を結ぶ機構の一つである雷活動の
役割の解明や,太陽活動と磁気圏擾乱関係解明,さらに月惑星遠隔探査技術開発に大きな
進展があった.とりわけ,人工衛星データ,地上観測ネットワークデータを総合化し,全球雷
発生率が太陽自転周期である 27 日周期で変動し,さらに,全球雲量と逆相関の関係にある
ことを明らかにした.すなわち,太陽活動が地球の惑星アルベード変動をもたらしている可能
性が明らかとなった.また,隕石孔付近の岩石の解析から,18 億 5 千万年前の地球磁場の
強度が,現在の強度の半分程度あることを解明した.これは,地球ダイナモ運動が原生中期
に弱まっていたことを示唆している.
【今後の展望】
様々な時間スケールをもつ地球の気候変動に対し,地球物理学的手法と地質学的手法と
を駆使してのアプローチが活発になされている.さらにこれを効果的に推進するため,様々な
レベルで両手法を持ったグループの共同研究が構想中である.実際,一部は研究資金獲得
に向けた動きがなされている.これらの動きを COE は全面的に支援し,研究の加速を行うこ
ととしている.また,2006 年秋には,気候変動に関する国際シンポジウムを開催することとし,
2005 年度は若手教員,COE フェローを中心として,企画を立案することとしている.
花輪 公雄
部局:理学研究科 地球物理学専攻・教授
専門分野:海洋物理学
主な研究課題:大規模大気海洋相互作用,数十年スケール変動
連絡先:E-mail:[email protected]
[研究報告]
1) 研究タイトル:大規模大気海洋相互作用による気候変動のダイナミクス
2) 研究目的と成果概要:
気候システムの主要構成要素である大気と海洋とが相互に作用して起こる季節から数十年スケ
ールの気候変動のメカニズムを,既存資料の解析と海洋監視手法を通して解明することを目的とし
ている.2004 年に得られた主な研究成果は以下のようにまとめられる.
1. エルニーニョは,発生時期が年の前半の春型と,後半の夏秋型の二つのタイプに分けられること
がわかった.前者は発達し大きなエルニーニョとなり,翌年の春ごろに終息する.後者は小さな
エルニーニョであり,翌年の春ごろに終息するものと,さらに 1 年持続するものとがある.これら
の発達の違いは,大気と海洋の結合が大きい夏季を,その発達の途中に経験するかどうかに因
っていることが推察された.(Horii and Hanawa, 2004)
2. 冬季海面水温場において,翌年の冬季に前年と同じ偏差を再び出現させることがある(再出現
機構).本研究では,全球を対象として再出現海域の同定を行った.その結果,全球で 7 つの海
域が発見された.これらの海域はいずれも「モード水」形成海域であり,再出現には冬季発達し
た深い混合層の形成が必要条件であることがわかった.これらの中で,北太平洋亜熱帯モード
水や北大西洋亜熱帯モード水が存在する大陸西岸沖の海域では,1 年後ではなく,秋季に再出
現し,冬季には前年の偏差が破壊されることがわかった.これは,海洋の過剰な熱フラックス放
出によるものと推察される.(Hanawa and Sugimoto, 2004)
3. 熱帯太平洋域では,混合層(密度一様層)と等水温層がしばしば一致しないことが起こり,大気海
洋相互作用に大きな影響を与えている.この混合層と等温層の間の層をバリアレイヤーと呼ぶ.
本研究では,気候値データと Argo フロートデータを併用し,亜熱帯循環系南縁にもバリアレイヤ
ーが形成されることを見出した.形成には,北太平洋回帰泉水のサブダクションに伴う渦活動が
深く関与している.(Sato, Suga and Hanawa, 2004)
[参考文献]
Horii, T., and K. Hanawa, 2004: A Relationship between Timing of El Niño Onset and Subsequent
Evolution. Geophys. Res. Lett., 31, L06304, doi:10.1029/2003GL019239.
Hanawa, K., and S. Sugimoto, 2004: ‘Reemergence’ areas of winter sea surface temperature
anomalies in the world’s oceans. Geophys. Res. Lett., 31, L10303, doi:10.1029/2004GL
019904.
Sato, K., T. Suga, and K. Hanawa, 2004: Barrier layer in the North Pacific subtropical gyre.
Geophys. Res. Lett., 31, L05301, doi:10.1029/2003GL018590.
中澤 高清
部局:理学研究科 付属大気海洋変動観測研究センター・教授
専門分野:大気物理学・気象学
主な研究課題:大気組成の変動と気候影響
連絡先:E-mail:[email protected]
[研究報告]
1) 研究タイトル:温室効果気体の変動と循環
2) 研究目的と成果概要:
人間活動に伴う温室効果気体の増加による気候変動が大きな関心事となっているが、この問題
に対処するためには、原因となっている気体の変動と循環を定量的に理解する必要がある。我々
はこの課題について広範多岐にわたる研究を展開しており、2004 年度の研究とその成果の概要
は以下の通りである。
大気中における温室効果気体の動態を地球規模で把握するために、南極昭和基地、北極ニー
オルスン基地、中国の 7 地点での地上観測に加え、日本およびシベリア上空での航空機観測、太
平洋上および日本近海での船舶観測を実施し、濃度のみならず同位体比のデータを蓄積するとと
もに、データベースを作成した。特に温室効果気体の変動の実態がほとんど理解されていない中
国については、取得された濃度と同位体比のデータの予備解析を行い、人為起源気体の放出が
著しいことを示唆する結果を得た。また、炭素循環の解明にとって重要な情報をもたらすと期待さ
れている大気中酸素濃度の高精度観測も仙台、日本上空、昭和基地、ニーオルスン基地で実施し、
データの予備解析を行い、海洋および陸上生物圏による近年の二酸化炭素吸収を分離して評価し
た。
現在の大気に加え、グリーンランドのノースグリップ基地で掘削された深層氷床コアを分析する
ことによって、北極域における二酸化炭素、メタン、一酸化二窒素、窒素と酸素の同位体比、空気
含有量の変動を過去 13 万年にわたって復元し、南極ドームふじ深層氷床コアの分析結果と比較
することにより、南北両極域における変動の類似性と相違性を明らかにした。また、南北両極域に
おけるメタンの時間変動をボックスモデルを用いて解析し、氷期̶間氷期サイクルにおけるメタン放
出の時間・空間変動を推定した。
大気中の二酸化炭素とメタンの変動を解釈し、地球表層におけるそれらの循環を定量的に理解
するために、全球三次元大気輸送モデルを用いた数値解析研究を実施した。二酸化炭素について
は、経年増加に重畳する年々変動は大気輸送と陸上生物圏活動によって主に生じていることを明
らかにしたこと、収支の時間・空間変動を推定するための逆解析法を高解像度化したこと、メタンに
ついては、濃度のみならず同位体比の変動も再現できるようになったこと、などが特筆すべき成果
である。
川村 宏
部局:理学研究科 付属大気海洋変動観測研究センター・教授
専門分野:海洋物理学
主な研究課題:気候変動、衛星海洋
連絡先:E-mail:[email protected]
[研究報告]
1) 研究タイトル:衛星地球観測技術による地球の未来像創出
2) 研究目的:
衛星地球観測技術がもたらす、高解像度広域海洋情報を活用することにより、海洋環境の実態
を明らかにし、その未来像を創出する。
成果概要:
1. 衛星地球観測技術による新世代海面水温の創出:
現在、世界中で開発が進む新しい高解像度海面水温開発は、本研究者らが中心となった日本
の成果が世界をリードする。複数の赤外衛星観測にマイクロ波センサーによる海面水温を融合す
ることにより、新世代海面水温が実現できることを実証し、さらにその技術を用いて毎日の高解像
度海面水温ディジタル情報をリアルタイムで作成し、一般に公開した。衛星地球観測技術を活用し、
新しい情報創出に関する科学研究と技術開発を完成させ、大学による毎日の情報発信を実現し、
海面水温観測に関する新しい未来像を創出した。
2. 衛星地球観測技術による新しい赤潮観測技法創出:
赤潮現象は、世界中で顕在化する海洋環境悪化の指標である。本研究者のグループでは、複
数の衛星観測を合わせて用いることで、赤潮現象の検出、メカニズム解明ができることを示し、そ
の学際的な研究に道を開いた。そのうちの1論文は、AGU ハイライトに選出され、多くのマスコミ報
道に供され、国内外に大きなインパクトを与えた。衛星海色観測を用いて、大阪湾・播磨灘で開発
された赤潮検出技法は 90%を超える高い検出能を有し、さらに広域アジア沿岸域の赤潮検出にお
いても有効であることが示された。
3. 衛星超高解像度観測による沿岸海洋域ヒューマン・ディメンジョン現象の科学創出:
沿岸域で複雑に変動する海上風と波浪場は、その複雑さゆえいまだ観測が難しく、未知の学問
領域として残されている。合成開口レーダーを本格的に活用し、他の衛星搭載マイクロ波センサー
を有効に組み合わせることで、高解像度海上風・波浪場の実態が的確に把握できることを示し、新
しい学問領域創出の切っ掛けをつかんだ。さらに数値海洋モデルを組み合わせることでヒューマ
ン・ディメンジョン現象のメカニズム解明が可能であることを示し、新しい科学分野の創出に貢献。
[参考文献]
1)衛星地球観測技術による新世代海面水温の創出:
Guan, L. and H. Kawamura (2004): Mering satellite infrared and microwave SSTs Methodology and evaluation of the new SST, J. Oceanogr., 60, 905-912.
Hosoda, K. and H. Kawamura (2004): Time-dependent spatial decorrelation scales of sea
surface temperature field derived from the merged sea surface temperature, J.
Oceanogr. (in press).
Hosoda, K. and H. Kawamura (2004): Seasonal variation of space/time statistics of
short-term sea surface temperature variability in the Kuroshio region, J. Oceanogr.,
(in press)
Hinata, H., T. Yanagi, T. Takao and H. Kawamura (2005): Wind induced Kuroshio warm
intrusion in to Sagami bay, Submitted to J. Geophys. Res., (in press)
Hosoda, K. and H. Kawamura (2004): Global space-time statistics of sea surface
temperature estimated from AMSR-E data, Geophys. Res. Letter., (in press).
Kawai, Y. and H. Kawamura(2004): Validation and improvement of satellite-derived
surface solar radiation over the northwestern Pacific Ocean, J. Oceanogr., (in press)
Hosoda, K. and H. Kawamura (2004): Seasonal variation of space/time statistics of
short-term sea surface temperature variability in the Kuroshio region, J. Oceanogr.,
(in press)
Hinata, H., T. Yanagi, T. Takao and H. Kawamura (2005): Wind induced Kuroshio warm
intrusion in to Sagami bay, Submitted to J. Geophys. Res., (in press)
2)衛星地球観測技術による新しい赤潮観測技法創出:
Tang D., H Kawamura, L Guan.(2004): Long-term observation of annual variation of
Taiwan Strait upwelling in summer season, Advances in Space Research, 33, 307-312.
Luis, A. J. and H. Kawamura (2004): Air-sea interaction, coastal circulation and primary
production in the eastern Arabian Sea: A review, J. Oceanogr., 60, 205-218.
Hu, J., H. Kawamura and D. Tang (2003): Tidal front around the Hainan Island, northwest
of the South China Sea, J. Geophys. Res., 108(C11), 3342, doi: 10.1029/2003JC001883.
Tang, D., H. Kawamura, Hai Doan-Nhu, and W. Takahashi (2004): Remote sensing
oceanography of a harmful algal bloom (HAB) off the coast of southeastern Vietnam, J.
Geophys. Res., 109, C03014, doi:10.1029/2003JC002045, 2004. (AGU Journal
Highlights, 9 April, 2004http://www.agu.org/sci_soc/media.html)
Tang, D., H Kawamura, T.V. Dien and M.A. Lee (2004): Offshore phytoplankton biomass
increase and its oceanographic causes in the South China Sea. Marine Ecology
Progress Series, 268: 31-41. (SCI, Impact factor: 2.038).
.3)衛星超高解像度観測による沿岸海洋域ヒューマン・ディメンジョン現象の科学創出:
Shimada, T., H.Kawamura, M.Shimada, I.Watabe and S. Iwasaki (2004): Evaluation of
JERS-1 SAR Images from Coastal Wind Retrieval Point of View, IEEE Trans. Remote
Sens. Geosciences, 42, 491- 500.
Shimada, T. and H. Kawamura (2004): Wind jets and wind waves off the Pacific coast of
northern Japan under winter monsoon captured by combined use of scatterometer,
SAR and altimeter, J. Geophys. Res., (in press).
Shimada, T. and H. Kawamura (2005): Statistical compartmentalization of surface wind
field over coastal seas using high-resolution SAR-derived winds, Geophys. Res. Letter.
(in press)
Yamaguchi, S. and H. Kawamura (2004): Influence of orographically steered winds on
Mutsu Bay surface currents, J. Geophys. Res. (in press).
Shimada, T. and H. Kawamura (2005): Statistical compartmentalization of surface wind
field over coastal seas using high-resolution SAR-derived winds, Geophys. Res. Letter.
(in press)
Yamaguchi, S. and H. Kawamura (2004): Influence of orographically steered winds on
Mutsu Bay surface currents, J. Geophys. Res. (in press).
岡本 創
部局:理学研究科 付属大気海洋変動観測研究センター・助教授
専門分野:気候変動、大気物理
主な研究課題:アクティブセンサーを用いた雲・エアロゾルの研究
連絡先:E-mail:[email protected]
[研究報告]
1) 研究タイトル:観測船「みらい」搭載雲レーダとライダを用いた中緯度と熱帯の雲とエアロゾルの
特性に関する研究
2) 研究目的と成果概要:
海洋研究開発機構の観測船「みらい」に、95GHz 帯(波長 3.2mm)を用いる雲レーダと可視と赤
外波長を用いるライダという2つのアクティブセンサーを搭載し、海上での同時観測を実施する。こ
れら観測による雲とエアロゾルの物理特性を複数のアルゴリズムの適用により抽出する。観測デ
ータと気候モデルとの比較を通して、気候変動の最大の不確定性要素の一つである雲のパラメタ
リゼーションと、エアロゾルと雲との相互作用に関する知見を獲得することを目的としている。特に
留意している点としては、観測とモデルの双方を密接に関係づけることである。
現在までの成果としては、観測データベースをすでに構築し、関連する各研究機関に配付を開
始した。レーダとライダの同時観測データから、雲レーダ、ライダのそれぞれの統計解析から、それ
ぞれの測器の観測適用範囲を確立した。これらと、気候モデルとの比較を進め、中緯度では、高度
3km 以下では、気候モデルが、雲の出現頻度を過小評価すること、高度3−8kmの中層の雲は比
較的良く再現されていること、高度8km以上ではモデルが過大評価していること、等がわかった。
熱帯でも同様の比較を実施し、中緯度で見られたモデルの過大評価の傾向がさらに強調されるこ
とが判明した。これらは、雲の落下速度のパラメタリゼーションに過小評価という問題があるため、
雲の寿命が大きくなり、それが雲の出現頻度の過大評価に現れているのではないかと推測してい
る。また、レーダとライダの同時観測データから、微物理特性解析アルゴリズムを完成させ、実際
の観測データの解析から、雲の有効半径と氷水量、雲水量を抽出することに成功した。雲の下層
になるほど有効半径が大きいこと、落下速度も有効半径と線形な関係があることなどが観測データ
から導けた。
この他、レーダとライダの同時観測可能な領域は少ないことから、レーダ単独の氷粒子微物理
抽 出 ア ル ゴ リ ズ ム の 必 要 性 が あ り 、 こ れ に 着 手 し 、 落 下 速 度 と 偏 光 解 消 度 (Linear
Depolarization Ratio LDR)の組み合わせが有効であること等を示した。
エアロゾルに関しては、ライダの 2 波長と可視波長の偏光解消度を組み合わせたエアロゾルの
微物理量抽出アルゴリズムを作成した。これによりエアロゾルのタイプと雲底下でのエアロゾルの
抽出が可能になった。これらの中緯度のデータへ用いた解析も終了しており、雲底下と晴天でのエ
アロゾルを比較すると、雲底下でより大きな消散係数を持つこと等が示され、これは雲との相互作
用を示唆していると考えられる。またエアロゾル輸送モデルとの比較結果から、ダストの輸送に関
しては、モデルでうまく再現されていること、中緯度で観測されたダスト粒子の起源はゴビ砂漠であ
ったこと、モデルで輸送量は過大評価であったこと等が判明している。
[参考文献]
Okamoto, H., T. Nishizawa, T. Takemura, H. Kumagai, H. Kuroiwa, N. Sugimoto, I. Matusi, A.
Simizu, A. Kamei, S. Emori, and T. Nakajima (2005) Vertical cloud structure observed
from shipborne radar and lidar, Part (I): mid-latitude case study during the MR01/K02
cruise of the R/V Mirai (to be submitted to J. Geophys. Res.)
Okamoto, H., T. Nishizawa, H. Kumagai, N. Sugimoto, T. Takemura, and T. Nakajima (2005)
Study of cloud microphysical structure with cloud profiling radar and lidar: Mirai cruise
(to be submitted to Proc. IRS)
Nishizawa, T., H. Okamoto, T. Takemura, N. Sugimoto, I. Matsui and A. Shimizu (2005) ,
Development of an algorithm to retrieve aerosol properties from dual-wavelength
polarization lidar measurements (to be submitted to J. Geophys. Res.)
Nishizawa, T., H. Okamoto, T. Takemura, N. Sugimoto, I. Matusi, and A. Shomizu, (2005)
Retrieval of aerosol optical properties from dual-wavelength polarization lidar
measurements, (to be submitted to Proc. IRS)
Sato, K., and H. Okamoto (2005), THE EFFECTS OF NONSPHERICITY AND VARIATION IN
ICE CRYSTAL BULK DENSITY ON 95 GHZ CLOUD RADAR SIGNALS, (to be
submitted to Proc. IRS)
Iwasaki, S., R. Shirooka, Y. Tsushima, I. Matsui, A. Shimizu,N. Sugimoto,A. Kamei, H.
Kumagai, H. Kuroiwa, M. Katsumata, K. Yoneyama, H. Okamoto (2004), Subvisual
cirrus clouds observation with the 1064-nm lidar, the 95-GHz cloud radar, and
radiosondes on the warm pool, Geophys. Res. Lett., 31, L09103, doi:
10.1029/2003GL019377
Sugimoto, N., A. Shimizu, H. Okamoto, T. Nishizawa, A. Kamei, H. Kuroiwa, H. Kumagaii,
(2004), Lidar Observations of Aerosols and Clouds Using the Research Vessel Mirai in the
MR01-K02 Cruise,19, 2, 97-102, エアロゾル研究,
Okamoto, H., S. Iwasaki, M. Yasui, H. Horie, H. Kuroiwa and H. Kumagai, (2003), An
algorithm for retrieval of cloud microphysics using 95-GHz cloud radar and lidar, J.
Geophys. Res., 108(D7, 4226), doi:10.1029/2001JD0001225
井龍 康文
部局:理学研究科 地学専攻・助教授
専門分野:炭酸塩堆積学・地球化学,古生物学
主な研究課題:炭酸塩堆積物および炭酸塩生物殻を用いた古環境復元
連絡先:E-mail:[email protected]
[研究報告]
1) 研究タイトル:
1. グアム島の現生造礁サンゴ骨格に記録された過去 200 年間の海洋環境変動
2. 第四紀の琉球列島におけるサンゴ礁の形成発達史
3. 礁の誕生,発達,崩壊のダイナミクス ̶北大東島試錐試料を例にして̶
2) 研究目的と成果概要:
1. グアム島の現生造礁サンゴ骨格に記録された過去 200 年間の海洋環境変動
グアム島で採取した造礁サンゴ骨格のコア試料(1787 年から 2000 年まで成長)の炭素・酸素同
位体比を月分解能で測定し,西太平洋域の海洋環境変動を復元に取り組んだ.その結果,骨格の
酸素同位体比から過去 213 年間の水温および塩分の両変化を示す時系列データを抽出すること
に成功した.このデータについて統計解析・スペクトル解析を行った結果, ENSO(エルニーニョ・
南方振動)に相当する 3∼7 年周期の変動が見出された.また,1787 年以降,エルニーニョは 46
回,ラニーニャは 53 回発生したことが明らかとなった.さらに,このサンゴ骨格には,PDO(Pacific
Decadal Oscillation)やレジームシフトに呼応した十数年∼数十年周期変動(グアム周辺の海洋
環境が 15∼45 年の周期で温暖な時期と寒冷な時期を繰り返す)や,長期温暖化傾向を反映した
変動も記録されていることを示すことができた.
2. 第四紀の琉球列島におけるサンゴ礁の形成発達史
現在の琉球列島の周囲にはサンゴ礁が発達するが,同列島におけるサンゴ礁の成立と発達の
過程は未だに完全に理解されていない.そこで,沖縄本島本部半島および同半島沖に位置する伊
江島の第四紀サンゴ礁性堆積物を検討した結果,両地域においてサンゴ礁の形成時期は,従来
の見解よりはるかに古く,第四紀初期(1.45∼1.65 Ma)にまで遡ることを明らかにした.また,両地
域では 0.8∼0.9 Ma にサンゴ礁の形成が活発化したことを明確にし,これは琉球列島全域におい
て共通する現象であることを示した.
3. 礁の誕生,発達,崩壊のダイナミクス ̶北大東島試錐試料を例にして̶
我々の研究グループでは,炭酸塩岩の堆積過程およびドロマイト化を含めた続成過程を知るた
めに,北大東島試錐試料および同島の地表に分布する炭酸塩岩の堆積学的・同位体地質学的研
究を行ってきた.本年は,地球化学および結晶化学的手法に基づく,北大東島の地表から地下
100m の範囲に分布するドロマイトの起源と成因の解明に取り組んだ.北大東島の試錐試料のド
ロマイトは,3 つの異なった時期に形成され,各時期に形成されたドロマイトには少なくとも 3∼4 回
の phase が認められることが判明した.また,同位体組成・微量元素濃度から,3 つの時期に形成
されたドロマイトはいずれも海水から晶出したものの,各 phase の母液の化学組成や同位体比組
成は大きく異なっており,それはドロマイト形成時の海水準変動に起因することを明らかにした.
[参考文献]
Takeuchi, Y., Iryu, Y., Sato, T., Chiyonobu, S., Yamada, S., Odawara, K. and Abe, E. (in press)
Pleistocene reef development on Ie-jima, the Ryukyu Islands, southwestern Japan.
Proceedings of the 10th International Coral Reef Symposium.
Suzuki, Y., Iryu, Y., Nambu, A., Inagaki, S. and Ozawa, S., (2004, in press) Plio-Peistocene reef
evolution of Kita-daito-jima, Japan. Schriftenreihe der Erdwissenschaftlichen
Kommissionen.
Asami, R., Yamada, T., Iryu, Y., Meyer, C. P., Quinn, T. M. and Paulay, G., (2004) A Guam coral
as a potential recorder of ENSO events. Palaeogeogr., Palaeoclimatol., Palaeoecol., vol.
212, p. 1-22.
福西 浩
部局:理学研究科 地球物理学専攻・教授
専門分野:超高層物理学
主な研究課題:雷放電発光現象の研究、磁気圏・電離圏結合とオーロラ現象の
研究、惑星大気ダイナミクスの研究
連絡先:E-mail:[email protected]
[研究報告]
1) 研究タイトル:太陽活動と気候変動のミッシングリンクにおける雷活動の役割の研究
2) 研究目的と成果概要:
謎として残されている「太陽活動と気候変動のミッシングリンク」の解明のために、雷雲・電離圏
間の放電発光現象(スプライト、エルブス、ブルージェット、巨大ジェット等)を地上ネットワークおよ
び衛星によって観測し、「太陽活動―雷活動―気候変動」のリンクの存在の証拠を見つけることを
目的とする。そのために、地上ネットワーク観測では、ELF 帯(1∼100 Hz)の磁場波形(南北と東
西の 2 成分)を連続モニターするサーチコイル磁力計をグローバルに配置された 3 ヶ所(南極昭和
基地、スウェーデン・キルナ市、宮城県女川町)に設置し、地球全域の雷活動をリアルタイムでとら
えるシステムを完成させた。ここで、昭和基地のデータはインテルサット衛星回線で、キルナのデー
タはインターネットで入手される。これらのデータを統計的に解析することによって、全球雷発生率
が太陽自転周期(27 日)で変動し、さらに、全球雲量と逆相関の関係にあることが明らとなった。こ
れらの関係から、太陽活動変動が雷変動を介して地球のアルベード変動を引き起こしている可能
性が出てきた(この成果は Nature に投稿中)。
衛星観測に関しては、東北大学がカリフォルニア大学宇宙科学研究所、台湾国立成功大学、台
湾国家宇宙計画室(NSPO)と共同で開発したスプライトイメージャー(略称 ISUAL)を搭載した台
湾の人工衛星 ROCSAT-2 が 2004 年 5 月 20 日に米国バンデンバーグより打ち上げられ、雷雲・
電離圏間の雷放電発光現象の宇宙からのグローバル観測が世界で初めて実現した。東北大学は、
ISUAL を構成する3つの観測器の1つ、アレイフォトメーターを開発したことから、このデータ解析
を中心に研究を進めており、これまでに得られた約半年分のデータから、スプライト・エルブスのグ
ローバル分布、発光のスペクトル、発光に関与する電子のエネルギー、放電開始に必要な大気絶
縁破壊電場強度の高度分布が明らかになりつつある。これらの先進的な ISUAL の研究成果は国
際的に高い評価を受けており、2004 年 12 月にサンフランシスコで開催されたアメリカ地球物理学
連合(AGU)の秋季大会では、招待講演を行った。さらに日本気象学会からは、新しい気象学分野
を開拓した功績が認められ、2004 年度堀内賞を 10 月に受賞した。
小野 高幸
部局:理学研究科 地球物理学専攻・教授
専門分野:太陽地球系、地球電磁気
主な研究課題:太陽地球系ダイナミクス研究に関わる
1. 磁気嵐に伴う内部磁気圏プラズマ擾乱の研究
2. 太陽活動変動に伴う惑星電波放射変動の研究
3. 電磁波を用いた月惑星表層の遠隔観測研究
連絡先:E-mail:[email protected]
[研究報告]
1) 研究タイトル:
1. 磁気嵐に伴う内部磁気圏プラズマ擾乱の研究
2. 太陽活動変動に伴う惑星電波放射変動の研究
3. 電磁波を用いた月惑星表層の遠隔観測研究
2) 研究目的と成果概要:
1. 磁気嵐に伴う内部磁気圏プラズマ擾乱の研究
磁気嵐は太陽地球系相互作用の結果、地球周辺の電磁圏環境に最も強いインパクトを与える
現象である。この解明に向け、あけぼの衛星データを用いた、電磁プラズマ現象の解析研究が進
められている。
2004 年度は、磁気嵐急始(SSC)並びに主相の発達に伴い磁気圏内に強い電場が発生し、プラ
ズマ圏プラズマ分布に強い影響を与えて行く様相を明らかにした。また放射線帯粒子のピッチ角分
布の磁気嵐に伴う変動に着目し、放射線帯の形成メカニズムとして提唱されている諸プロセスの役
割について定量的に評価する方法論の検討を開始した。更に内部磁気圏衛星観測計画を国内16
研究機関、48名の研究者による提案書の代表者としてまとめた。
電離圏のダイナミクスはプラズマ、電磁場だけでなく中性大気風の影響を強く受ける。中緯度電
離圏について SEEK2 ロケット観測や赤道域電離圏についておおぞら衛星・ISIS衛星トップサイド
サウンダー観測の結果を用いた解析研究が進められた。また 2004 年 12 月に実施されたデルタロ
ケット計画実施においてはプラズマ密度計測を担当して観測を成功に導いた。更に赤道域電離圏
研究を目的として、国内8研究機関、国外2研究機関、13名の研究者によるロケット観測計画を研
究代表者として提案書をまとめた。
2. 太陽活動変動に伴う惑星電波放射変動の研究
比較惑星科学の視点から、木星電波放射の発生メカニズムについて、観測データベースを用い
た解析研究や、新たな観測装置を導入しての観測研究が進められた。特に惑星電波放射の本質
に関わる問題として、イオ以外のガリレオ衛星群の軌道運動が木星電波放射へ影響する事実を発
見したほか、惑星電波放射の素過程として惑星電離圏から放射される電子ビームが瞬発性の電
磁波バースト現象を生み出す様がとらえられた。
3. 電磁波を用いた月惑星表層の遠隔観測研究
月惑星の形成と進化の解明に向けて、大気や地殻変動による風化の無い月面表層の物性と構
造を遠隔観測する方法論の確立とその応用の研究を行っている。
太陽電波の反射を用いた月面の誘電率計測観測を提案し、2004 年 9 月アイスランドに新たに
太陽電波観測装置を設置して東北大学における観測との同時観測を開始した。また飯舘の惑星
圏観測所の電波望遠鏡(IPRT)を用いた月面温度の観測を始めた。
SELENE 衛星計画における月地下探査レーダ観測を行う、月レーダサウンダー(LRS)の観測
責任者として、衛星機器開発並びに機器試験を実施している。2004 年度はその性能や信頼性を
確立する事を目的として、機器性能試験、レーダのシステム試験、EMC 試験などを実施した。
中村 教博
部局:理学研究科 地学専攻(総合学術博物館)・助手
専門分野:固体地球磁気学
主な研究課題:隕石や地球物質を用いた古磁場環境推定
連絡先:E-mail:[email protected]
[研究報告]
1) 研究タイトル:隕石やシュードタキライトを用いた古磁場環境の研究
2) 研究目的と成果概要:
本研究は地震火山ダイナミクス研究と太陽地球系ダイナミクス研究の一環として、初期地球や
原始太陽系の磁場環境を、隕石やシュードタキライトといった岩石から復元することを目的としてい
る。本年度はカナダ・サドバリー隕石孔周辺に分布するシュードタキライト(隕石衝突時の大規模断
層運動で形成した摩擦熔融岩石)の野外調査と古地球磁場強度推定実験をおこない、原生代の地
球磁場強度変遷を解明する事を目指した。また、隕石の持つ残留磁化から原始太陽系磁場を見
積もる際、重要な隕石磁化の信頼性を評価するためのコンドリュール隕石の再現実験もおこなった。
本年度の成果は以下のとおりである。
1. サドバリ隕石孔周辺から採集したシュードタキライト試料に対して、古地球磁場強度推定実験を
施し、18億5千万年前の隕石衝突時の地球磁場強度が現在の地球磁場強度の半分程度であ
る事を解明した。この結果は地球ダイナモ運動が原生代中期に弱まっていたを示唆している
(Nakamura and Iyeda, in press)。
2. 橄欖岩の磁場中瞬間加熱実験をおこない、始原的コンドライト隕石に15%程度含まれる ダス
ティーオリビン コンドリュールを還元的雰囲気下で再現し、このコンドリュールが強い保持力と熱
安定性を持つ事を明らかにした。始原的隕石中の同様なコンドリュールから還元状態の原始太
陽系磁場を推定できる可能性を示した(Uehara and Nakamura, 2004)。
3. 花崗岩などの地殻岩石の帯磁率異方性・非履歴性残留磁化異方性を調べることで深成岩の併
入 様 式 や 地 殻 内 磁 気 異 方 性 の 原 因 を 解 明 す る 研 究 を お こ な っ た (Usui et al., 2004;
Nakamura and Borradaile, 2004)。
[参考文献]
Nakamura, N. and Iyeda, Y. (in press), Magnetic properties and paleointensity of
pseudotachylytes from the Sudbury structure, Canada: Petrologic control,
Tectonophysics.
Uehara, M. and Nakamura, N. (2004), Experimental reproduction of relict "dusty" olivine and
its implication for paleomagnetic study of chondrules, Proceedings of Workshop on
Chondrites and Protoplanetary Disk, 9042.pdf.
Usui, Y.,Nakamura, N. and Yoshida, T. (2004), Domain-structure related remanence
anisotropies and their petrographic observations: a comprehensive study of AMS, partial
AARM, and SEM in plutonic complex, NE Japan, Geophysical Research Abstract, v.6,
p.07547.
Nakamura, N. and Borradaile, G.J. (2004), Metamorphic control of magnetic susceptibility and
magnetic fabrics: a 3-D projection, Journal of Geological Society of London, v.238, p.61-68.
地球進化史研究グループの研究成果概要
【事業推進担当者】
掛川
箕浦
海保
佐藤
孫
武
幸治
邦夫
源之
明宇
理学研究科 地学専攻・助教授
理学研究科 地学専攻・教授
理学研究科 地学専攻・教授
東北アジア研究センター 地域環境研究部門・教授
流体科学研究所 流体融合研究センター・助教授
【研究成果概要】
(1)
概要
地球進化史研究グループは、初期地球システムの構築(生命の起源含む)、大規模氷河̶
温暖化と生物進化、小天体衝突と大量絶滅を重点課題とし研究教育を行ってきている。特に
2004年度は初期生命体に近い生態系を発見したり、理工連携のもと衝撃波実験、理論的
アプローチを進行させたり、大陸掘削をベースに気候変動と生物進化の関連の研究を格段に
進めた。2004年度の目標は、おおむね達成してきている。理工連携も東北大学大学院理学
研究科̶流体科学研究所̶物質材料機構̶環境科学研究科の間で進行している。科研費も
基盤研究 S, 基盤研究 A,B、科学技術振興調整費など潤沢である。教育においても先端理学
国際コースと連携し Origin of the Earth and Life など新設英語授業を開講し、研究内容
を教育に還元してきている。
(2)
大学院学生の活動
博士学生(指導教員:佐藤)をチューリッヒ工科大学地球物理学研究所(スイス)に長期派
遣した。RA 雇用していた博士学生(指導教員:掛川)が日本学術振興会特別研究員に選出さ
れた。
(3)
ポストドクトラル・フェローの活動
日本人2名(新妻・石田)を COE 経費で雇用しており。外国における大陸掘削や国際学会
に参加したり、CalTech で共同研究を推進するなど国際的な活動を押し進めた。研究業績の
一つには地下生物圏に対する業績があり、Science 誌に Article として掲載された。その他、
日本学術振興会特別研究員を複数名(うちオーストラリア人1名)受け入れ研究体制を整えて
いる。
(4)
シンポジウムと国際共同研究
2004年11月に開催された Water Dynamics II では地球進化史研究グループが主導に
なりシンポジウムを行った。4 名の外国人(Rosing, Kirschvink, Becker, Pierrazzo)を招聘
した。それをベースにした共同研究が展開されている。その他2名の外国人を招聘し講義セミ
ナーなどを行った。
グリーンランドに置ける
世界最古の地層調査
世界最古の生命の痕跡を巡る論争
初期地球の情報を残す
大陸の直接掘削
国際的に著名な科学者
による講義風景
掛川 武
部局:理学研究科 地学専攻・助教授
専門分野:地球進化
主な研究課題:初期地球環境の復元、生命起源に関する化学進化
連絡先:E-mail:[email protected].jp
[研究報告]
1) 研究タイトル:
1. 初期地球海洋化学の規定(基盤研究 B)
2. アミノ酸脱水重合と核酸塩基形成」(基盤研究 A)
3. 海底熱水環境における微生物・地質相互作用(科学技術振興調整費)
4. Archean Biosphere Drilling Project (基盤研究 A:研究分担者)
5. ODP-IODP 試料を用いた地下生物圏の研究
2) 研究目的と成果概要:
1. 初期地球海洋化学の規定(基盤研究 B)
グリーンランドイスア地域に見られる地球で最も古い岩石を用いて、初期地球の海洋環境やそこ
での生物活動を示す物質を発見してきている。38 億年前の生物の痕跡を示す新しい地層の発見
や、海洋から直接沈殿した鉱物の特定などに成功した。コペンハーゲン大学との共同研究という形
で研究は進められた。
2. アミノ酸脱水重合と核酸塩基形成」(基盤研究 A)
アミノ酸単分子を粘土鉱物の触媒作用を用いてペプチド化を目指し生命起源に関する新しい化
学進化説を提唱する事を目的にしている。様々な条件でアミノ酸脱水重合実験を行い、重合が進
行する様子を確認できた。ここでの成果は第一回日本ドイツ先端科学シンポジウムで招待講演とし
て発表された。http://www.jsps.go.jp/j-bilat/fos_jg/index.html。
3. 海底熱水環境における微生物・地質相互作用(科学技術振興調整費)
南部マリアナおよび水曜海山の海底熱水環境での地質学的研究および始源的微生物が起こす
化学変化、鉱物形成を研究した。初期地球環境における微生物活動を考える上でのデータが得ら
れ、微生物研究者との論文が発表された。
4. Archean Biosphere Drilling Project (基盤研究 A:研究分担者)
オーストラリア、ピルバラ地域で 35∼27 億年前の地層を掘削し初期地球表層に生息していた微
生物活動の痕跡を見出す研究を行った。PD である新妻によって生物起源硫化鉱物の発見などに
つながった。
5. ODP-IODP 試料を用いた地下生物圏の研究
ODP と IODP により数百メートルの深さにおよぶ地下生物圏の実体が明らかになりつつあり、
生命初期進化に対する理解に役立った。その成果は PD の新妻らによって Science 誌に報告され
た(article, vol.306,2216-2221)。
箕浦 幸治
部局:理学研究科 地学専攻・教授
専門分野:堆積学
主な研究課題:バイカル湖掘削コアによる大陸古気候・古環境変動の解明
連絡先:E-mail:[email protected]
[研究報告]
1) 研 究 タ イ ト ル : Late Neogene Asian climate fluctuation and the process of crustal
weathering deduced from the BDP cores
2) 研究目的と成果概要:Sedimentary cores BDP 96 and 98 and VER 96-2 St. 3 from
Academician Ridge in Lake Baikal were investigated to make clear the effect of
climatic fluctuations on rock weathering and clay formation in the Baikal drainage
basin. Illite, smectite, vermiculite, and kaolinite were identified as the major clay
minerals in the sediments by X-ray diffraction analysis. Biotite in gravels in alluvial
soils of the Baikal drainage area weathers through illite to vermiculite, smectite, and
finally to kaolinite. To investigate the relationship between weathering and climate,
we measured the clay content and the concentration of biogenic silica in the sediments.
High surface productivity (increased biogenic silica) and high chemical weathering
(decreased clay content) occurred simultaneously, showing that crustal weathering
and soil formation were enhanced under warm climatic conditions. Clay formation was
enhanced in the watershed from the Late Miocene to the Middle Pliocene, and
mechanical weathering of rocks increased during glacial intervals after the climate
began to cool in Late Pliocene time. This change in the weathering mode in the
watershed reduced the nutrient flux and aquatic productivity of Lake Baikal.
海保 邦夫
部局:理学研究科 地学専攻・教授
専門分野:微古生物学
主な研究課題:大量絶滅の原因とプロセスの解明
連絡先:E-mail:[email protected]
[研究報告]
1) 研究タイトル:大量絶滅の原因とプロセスの解明
2) 研究目的:
数値計算・実験と堆積物分析の結果から、小天体衝突により形成される成層圏エアロゾルが、
生物と地球環境に及ぼした影響を明らかにする。堆積物分析の結果からは、大量絶滅の原因と環
境激変の実態を明らかにする。
成果概要:
1. 衝撃波生物実験により、白亜紀/第三紀境界の小惑星衝突による海中衝撃波が、メキシコ湾と
カリブ海に生息する海洋動物のほとんどを死滅させたことを明かにした。浮き袋を持つ魚類は、
大西洋の広い範囲で海中衝撃波により死滅した。
2. 2D モデリングによる衝突シミュレーションを行ない、直径 21km の小惑星衝突により成層圏に上
がる海水、地殻、マントルの量を求めた。
3. 成層圏硫酸エアロゾルの量と粒子サイズによる太陽光反射率を求めた。
4. 中国のライビンのペルム紀中期/後期境界に相当するグアダルピアン期/ロピンジアン期境界
(2 億 6000 万年前)に、ニッケルとクロームの濃集とストロンチウム同位体比の減少が大量絶滅
と同時に起きたことを発見した。小天体の海洋衝突かマントル深部からの火山噴火などの急激
な事件が起きた可能性がある。
5. スペインのカラバカのコア中に暁新世/始新世境界(5500 万年前)の極端温暖化の始まりに伴
う、イリジウム (2 ppb) とコロネンの濃集を発見した。このデータは、暁新世/始新世境界に、
地球に小天体が衝突して、極端温暖化を導いたことを示している。また、同時期に中央太平洋に
高塩分・温暖・低酸素水塊が水深 1700m 付近に出現し,約 3 万年かかって広がるのに伴い,深
海底生有孔虫種の約 1/3 が絶滅し,多様度の低い異常な底生有孔虫群が約 8 万年間出現,そ
の後高塩分・温暖・低酸素水塊の縮小・消滅に伴い底生有孔虫の多様性が回復したことを、初
めて明かにした.
佐藤 源之
部局:東北アジア研究センター 地域環境研究部門・教授
専門分野:電波応用計測、地中レーダ
主な研究課題:地中レーダ、合成開口レーダ
連絡先:E-mail:[email protected]
[研究報告]
1) 研究タイトル:
1. ボアホールレーダによる地下環境計測
2. 地中レーダによる地下水計測
3. 地中レーダによる地雷検知・除去
2) 研究目的と成果概要:
1. ボアホールレーダによる地下環境計測
地下10m以上の深度では精密な地下計測を地表から行うことは難しい。ボアホールを利用した
地中レーダ計測であるボアホールレーダの利用により、詳細な地下き裂分布と水みち推定が可能
となる。我々が開発している光電界センサを利用した新しいレーダシステムの評価実験を岩手県釜
石鉱山内東北大学実験フィールドにおいて実施した。また地下き裂の状態が良く知られているフィ
ールドにおいてレーダ実験を行うことで、計測手法の妥当性を確認することができる。検証実験は
ポラリメトリックボアホールレーダの検証実験を韓国において、共同研究を行っている韓国鉱山資
源研究所(KIGAM)と共同の実験である。花崗岩中のき裂を開発したインターフェロメトリックレー
ダで捉えることに成功した。これらのフィールドで取得したデータについて指向性インターフェロメト
リック信号処理を行い、既知の地下き裂情報との照合を行うことで計測手法の妥当性確認を行って
いる。
2. 地中レーダによる地下水計測
急速な都市化が進むモンゴルの首都ウランバートル市では水道水を地下水に頼っている。水道
に供給する地下水はウランバートル市内を流れるトール川に沿って設けられた広大な保護地域に
多数のポンプを設置して汲み上げられる。幾つかの井戸に生産量の減少が見られる一方、都市域
では地下水面の上昇により地下室が水没するなどさまざまな地下水の異常が見られるようになっ
ている。我々は地中環境を可視化できる地中レーダを利用し、ウランバートル市周辺の地下水計
測を行い地下水理研究に利用している。ポンプを調整し地下水の生産量を変化させたとき生じる
地下水面変動をレーダで計測し、地下水理パラメータの定量推定に成功した。
3. 地中レーダによる地雷検知・除去
世界の紛争地に残る対人地雷の除去を支援するため開発した新型探知機 ALIS を使い、アフガ
ニスタンで実証試験を行った。紛争地には地雷のほか、爆弾片やくぎなど無数の金属が埋まって
いる。新型地雷検知器 ALIS は作業効率を上げるため、従来の金属探知機に地中レーダを搭載し
ている。金属を感知すると、電波によって地雷かどうかを確認するとともに、地中の情報を作業者
が目に着けたモニターに、映し出すことで作業性の向上を図っている。
我々は 2004 年 12 月 8 日から 15 日まで、アフガニスタンの首都カブールに滞在し地雷除去に
取り組む現地の非政府組織(NGO)や国連地雷除去組織(UNMACA)の協力を得て、実証試験に
取り組んだ。雷管を除いた模擬地雷などを平地や斜面、地雷埋設地など約 50 カ所に埋め、金属片
と地雷の識別ができることを確認した。国連スタッフからは実際に使えるレベルに達しているので
雨や高温の条件下でも機能するかどうか、3カ月程度の評価実験を行ってはどうかとアドバイスを
受けた。実用化に向けては、現地スタッフの訓練が必要なため、今年中に再び現地を訪れる計画
を立てている。地雷埋設地の周辺には住宅が多く、除去作業中に子どもが現場に入ってくる場面も
あり、探知機の実用化を急ぐ必要がある。
孫 明宇
部局:流体科学研究所 流体融合研究センター・助教授
専門分野:学際衝撃波
主な研究課題:衝撃波を含む高速衝突に関する数値的ならびに実験的研究
連絡先:E-mail:[email protected]
[研究報告]
1) 研究タイトル:極低温環境下における高速衝突現象に関する実験的研究
2) 研究目的と成果概要:
小天体衝突による惑星表層環境激変過程の数値模擬アプローチによる研究は,生命起源と初
期進化様式,その後の生物絶滅の解明に不可欠の手段になっている。過去の数値模擬の検証は
主に常温環境下で行われていた。しかし、実際の惑星は日照面では極端な高温となり、また日陰面
では極低温環境下に曝される。これらの極限環境下では、 材料物性値は常温のそれとは異なる
ため、衝突による破壊挙動も異なることが予想される。そのため、より精確な数値模擬のために、こ
のような環境下における衝突実験は緊急にデータベース化されることが要請される。しかし、これら
の検証を試みた研究は、現在限られた数しか存在しない。 本研究では、極低温環境下における高
速衝突現象を解明するため、液体窒素回流型クライオスタットを用いてアルミニウム板を冷却し、二
段式軽ガス銃を用いて高速衝突実験を行い、デブリクラウドの形成過程の可視化を行った。常温環
境下でも同様の実験を行い、結果を比較した。以下に得られた知見を示す。
1. 常温環境下と低温環境下では、デブリクラウドの形成の様子、飛散範囲及び破片分布が異なって
いた。
2. 常温環境下と低温環境下における与圧壁の損傷の程度は異なり、低温環境下では常温環境下
に比べて貫通孔付近に損傷が集中した。
Ⅲ. COE研究員
― COE研究員一覧 ―
固体地球研究グループ
鈴木 由希,博士(理学)
(地震火山ダイナミクス, 受入: 吉田武義)
内田 直希,博士(理学)
(地震火山ダイナミクス, 受入: 長谷川昭)
根本 克己,博士(学術)
(地震火山ダイナミクス, 受入: 土屋範芳)
平尾 直久,博士(理学)
(核マントルダイナミクス, 受入: 大谷栄治)
2004 年 10 月 1 日から
Konstantin Litasov, Ph. D (核マントルダイナミクス, 受入: 大谷栄治)
流体地球・惑星研究グループ
上原 裕樹,博士(理学)
山崎 誠,
(気候変動ダイナミクス, 受入: 花輪公雄)
博士(学術) (気候変動ダイナミクス, 受入: 尾田太良)
2004 年 6 月 30 日まで
石戸谷 重之,博士(理学)(気候変動ダイナミクス, 受入: 中澤高清)
浅海 竜司,博士(理学)
山
敦,
(気候変動ダイナミクス, 受入: 井龍康文)
博士(理学) (太陽地球系ダイナミクス,受入: 岡野章一)
地球進化史研究グループ
石田 春磨,博士(理学)
(受入: 浅野正二)
新妻 祥子,博士(理学)
(受入: 掛川武)
日本学術振興会 COE 枠 博士研究員
宮崎 和幸
(気候変動ダイナミクス, 受入: 岩崎俊樹)
2004 年 10 月 1 日から
2004 年 7 月 1 日から
∼ 東北大学 21 世紀 COE「先端地球科学技術による地球の未来像創出」研究員紹介 ∼
― COE研究員 新規任用者の紹介 ―
山
敦(やまざき あつし)
所属:流体地球・惑星圏研究グループ
(太陽地球系ダイナミクス)
学位:博士(理学)
東京大学大学院理学系研究科
【主な研究課題】
宇宙プラズマと惑星プラズマ・大気の可視化
・惑星間空間に分布する中性ヘリウムの粒子・光学観測データ解析
・極域電離圏から散逸する酸素イオン共鳴散乱光撮像器の開発・観測・解析
・酸素イオン共鳴散乱光撮像器の金星電離圏撮像への応用
【研究の紹介】
地球電離圏・プラズマ圏を撮像するための観測技術開発および飛翔体搭載用観測機器開
発・製作を行ってきました。観測対象は、極端紫外光領域に存在するヘリウム原子およびイ
オンと酸素イオンの共鳴散乱光です。
まず、火星探査機「のぞみ」衛星に搭載された極端紫外光スキャナの製作・較正実験を行
いました。「のぞみ」衛星が地球離脱後火星周回軌道投入までの遷移軌道上で観測した中性
ヘリウム共鳴散乱光の二次元分布(図1)から星間ヘリウムの温度・密度、星間風の速度・方
向および惑星間空間内での中性ヘリウムのイオン化率を同定し、太陽活動との因果関係を
調査しました。これまでは黄道面内の観測を解析しましたが、高緯度の太陽放射束を考慮し
た三次元的な解析に着手する予定です。
次に、地球磁気圏撮像や地球極域電離圏から散逸する酸素イオン撮像、太陽風との直接
相互作用により時々刻々と変化する惑星電離圏の全体像の観測を目指した酸素イオン共鳴
散乱光観測器の開発を行いました。過去の人工衛星によるプラズマ直接観測の結果を用い
地球極域電離圏から散逸する酸素イオンの共鳴散乱光量とその分布を計算し、観測ロケット
搭載用酸素イオン共鳴散乱光観測器の設計・開発・較正実験・データ解析を行いました。この
観測器は北極圏から打ち上げられた SS-520-2 号機観測ロケットに搭載され、電離圏高度より
高い場所に酸素イオンが多量に存在することを示し(図2)、極域の電離圏から散逸する酸素
イオン撮像の実現可能性を実証に成功しました [Yamazaki et al., 2002]。この搭載器を基に、
∼ 東北大学 21 世紀 COE「先端地球科学技術による地球の未来像創出」研究員紹介 ∼
現在進行中のミッションである月周回衛星のプラズマイメージャ用として酸素イオン共鳴散乱
光による磁気圏撮像器を設計・提案し [Yamazaki et al., 2002; Yamazaki et al., 2003]、世界初
となる電離圏起源の酸素イオンの散乱光画像を目指しています。観測に成功すれば、酸素イ
オン流出量の磁気活動度依存性、リングカレント発達時の酸素イオン供給メカニズム、電離
圏へ戻る荷電粒子流入経路・過程が明らかになると予想されます。この技術は金星電離圏
撮像においても有効で、主成分である酸素イオンのリモートセンシング観測は、太陽風と電離
層間の運動量・物質輸送や大気散逸の解明、さらに電離圏界面に発達すると考えられている
K-H 不安定の時間発展を観測できると考えられます [Yamazaki et al., 2004]。特に K-H 不安
定に関する観測は、惑星電離圏の範疇にとどまらず理論プラズマ物理学に観測事実をもたら
す画期的な研究となると期待されています。
しかしながら、希薄な酸素イオンの撮像には克服すべき困難な課題が残っています。酸素
イオン共鳴散乱光に隣接する波長域に存在し、非常に強度の強い水素のライマンα、β線と
いうノイズ源を如何に除去するかという課題です。ノイズ成分を除去する光学系の設計・試作
に取り掛かり性能評価を行う、基礎からの技術開発に着手する計画です。
図 1. 惑星間空間中性ヘリウムの光学観測結果。色が光の強さを
表し、左下の赤い部分がヘリウム密度の高い部分を反映していま
す。
∼ 東北大学 21 世紀 COE「先端地球科学技術による地球の未来像創出」研究員紹介 ∼
図 2.SS-520-2 ロケットから観測した酸素イオン共鳴散乱光強度の
高度分布(黒点)と電離圏モデルから計算した発光量(青実線)。高
度 750km 以上でモデル計算より発光量が多いことがわかります。
【主要な業績】
Yamazaki, A., S. Tashiro, Y. Nakasaka, I. Yoshikawa, W. Miyake, and M. Nakamura,
Sounding-rocket observation of O II 83.4-nm emission over the polar ionosphere, Geopys. Res.
Lett., 29, 21, 2002.
Yamazaki, A., W. Miyake, I. Yoshikawa, M. Nakamura, and Y. Takizawa, Development of
Instrument for Imaging of the Resonance Scattering Emission from Oxygen Ions (O II:83.4nm)
- Toward the Imagery of Magnetosphere -, Journal of the Communications Research Laboratory,
Vol.49, No.4, 107, 2002.
Yamazaki, A., I. Yoshikawa, Y. Takizawa, W. Miyake, and M. Nakamura, Feasibility study of
the O II 83.4-nm imaging of ionosphere and magnetosphere, Ad. Space Res., 32 (3),
doi:10.1016/S0273-1177(03)90285 -7, 2003.
Yamazaki, A., I. Yoshikawa, N. Terada, and M. Nakamura, EUV Imaging of near-Venus Space,
Ad. Space Res., 33 (11), doi:10.1016/j.asr.2003.05.040, 2004.
∼ 東北大学 21 世紀 COE「先端地球科学技術による地球の未来像創出」研究員紹介 ∼
― COE研究員 新規任用者の紹介 ―
根本 克己(ねもと かつみ)
所属:固体地球研究グループ
(地震火山ダイナミクス)
学位:博士(学術)
【研究履歴】
石油、ガス、地熱等の地下貯留層の生産性を改
善する目的で、水圧破砕と呼ばれる、地下岩体へ
の流体の圧入が行われます。このとき、流体圧入
にともなって微小地震が発生します。これまで私
は、この水圧破砕にともなって発生する微小地震
の発生メカニズムと圧入された流体の流動との相
互関係を明らかにするために、室内模擬実験によ
って、水圧破砕にともなう微小地震の原因と考え
られる、流体の圧入にともなう既存き裂のせん断
すべり現象(誘発すべり)を実験室において再現
Fig 1.
The idea of hydraulic fracturing of reservoirs
し、すべりにともなう現象との対応を検討してきま
した。
本研究では、地下貯留層内の圧縮応力状態下
にある既存き裂に流体を圧入することが可能な誘
発すべり模擬実験装置を開発し、水圧破砕にとも
なう微小地震の発生を模擬することが可能な装置
を開発しました。本装置では、圧入により既存き
裂において引き起こされるせん断すべり量、すべ
りにともなうき裂間隙の流動、ならびに間隙流体
圧を測定することが可能です。
本装置を使用して系統的な模擬実験を行った
結果、既存き裂への流体圧入にともなうせん断す
べりの特徴として、すべり量が断続的に増加する
間欠的すべりを示すことが明らかとなりました。ま
た、間欠的すべりにともなって間隙流動の変化が
Fig 2.
Concept of hydraulically induce slip experiment
∼ 東北大学 21 世紀 COE「先端地球科学技術による地球の未来像創出」研究員紹介 ∼
生じることもわかりました。これらの結果は、圧入
流体が誘発すべり挙動に影響を及ぼし、かつす
べり挙動によって流体流動が変化し、相互に影響
を及ぼしあう密接な関係を有することを意味して
います。
これまで私が注目してきた、流体圧入にともなう
地下既存き裂のせん断すべりは、間隙流体が強
く影響を及ぼしたことによって発生する既存き裂
の応答と考えることができます。これは、貯留層
Fig 3.
Experimental apparatus to simulate
hydraulically induced slip
内既存き裂で生じる微小地震についてのみの現
象ではなく、活断層や沈み込み帯に至るまで幅広
いスケールにおける地震発生過程においても共
通の現象であると考えることができます。したがっ
て、これまでおこなってきた研究をより発展させ、
結果をより詳細に検討することによって、流体現
象を地震発生過程における流体の役割とすべり
挙動との相互関係を明らかにできると考えていま
す。
【主要論文】
Fig 4. Experimental results of hydraulically
induced slip
Nemoto, K., H. Moriya, and H. Niitsuma (2004), Hydraulically induced slip due to fluid injection
and pore fluid flow associated with the slip, Geothermal Resources Council Trans., Vol. 28
Nemoto, K., H. Moriya, and H. Niitsuma (2004), Effects of rate of increase in pore fluid pressure on
hydraulically induced slip and implication for aseismic slip during hydraulic stimulation, Geothermal
Resources Council Trans., Vol. 28
【COE研究員としての抱負】
地球物理に関する様々な研究分野の研究者が集合した本COEプログラムに参加して、研究を
遂行できることは、自分にとっても大変意義深いものであると考えます。私は、地震の発生メカニ
ズムにおける、化学的作用も考慮した水−岩石相互作用を明らかにすることで、クーロンの法則
でよく知られている力学的作用も含めた、包括的な地震の素過程を明らかにしたいと考えていま
す。本研究において、地震研究の進展に寄与する結果を得ることができるよう努力していきたいと
考えています。ご意見等ございましたら、メール等でお気軽にご連絡下さい。どうぞよろしくお願い
致します。
∼ 東北大学 21 世紀 COE「先端地球科学技術による地球の未来像創出」研究員紹介 ∼
― COE研究員 新規任用者の紹介 ―
浅海 竜司(あさみ りゅうじ)
所属:流体地球・惑星圏研究グループ
(気候変動ダイナミクス)
学位:理学博士
【研究内容】
●現生サンゴ骨格記録に基づいた長期海洋環境変動復元
近年,炭酸塩生物殻を用いて,海洋環境を高分解能で復元する研究が
注目されています.特に,熱帯∼亜熱帯の浅海域に生息する造礁サンゴ
は,木の年輪に類似した成長輪を形成しながら付加成長し,成育時の海
洋環境を連続的に記録しています.したがって,巨大なサンゴ群体を用い
れば,測器観測以前に遡る長期の海洋環境変動を高分解能で連続的に
復元することが可能となります.
私は,グアム島で採取した造礁サンゴ骨格のコア試料(1787年から成
長)の炭素・酸素同位体比を月分解能で測定し,西太平洋域の海洋環境
変動を復元する研究に取り組んできました.その結果,骨格の酸素同位
体比から過去213年間の水温および塩分の
両変化を示す時系列データを抽出すること
に成功しました.このデータについて統計解
析・スペクトル解析を行った結果,このサン
ゴ骨格には,ENSO(エルニーニョ・南方振
動),十数年∼数十年周期変動,長期温暖
化傾向を反映した海洋環境変動が1790年
から現在に至るまで記録されていることを示
しました.
∼ 東北大学 21 世紀 COE「先端地球科学技術による地球の未来像創出」研究員紹介 ∼
従来,過去数百年間の数年∼数十年スケールの気候変動を復元したサンゴ骨格の研究例
は,その現象が顕著な東∼中央太平洋域や南西太平洋域に限られています.過去の環境デ
ータの空白域である北西太平洋低緯度域における本研究の成果は,古環境学や気候学など
の様々な分野において貴重なデータとなりうると期待されます.今後は,同試料の金属元素濃
度分析を行い,海水温と塩分を独立した時系列データとして見積もり,より定量的な古海洋環
境情報を抽出したいと考えています.また,サイパンおよびパラオから採取した長尺サンゴコ
ア試料についても分析を行い,過去週百年間の西太平洋域の海洋環境変動を空間的に復元
したいと考えています.
●化石サンゴ骨格記録に基づいた古水温推定
現生サンゴ骨格で用いた研究手法を鹿児島県喜界島産ならびにニウエ島産の化石サンゴ試
料に応用し,骨格の生物学的記録(骨格伸長量および密度)や化学的記録(酸素同位体比お
よび金属元素濃度)を抽出し,第四紀(更新世∼完新世)の古水温を推定する研究も行ってい
ます.
∼ 東北大学 21 世紀 COE「先端地球科学技術による地球の未来像創出」研究員紹介 ∼
【論文リスト】
R. Asami, T. Yamada, Y. Iryu, T. M. Quinn, C. P. Meyer and G. Paulay, in review. Interannual and
decadal variability of the western Pacific sea surface condition for the year 1787-2000:
Reconstruction based on stable isotope record from a Guam coral, J. Geophys. Res.
R. Asami, T. Yamada, Y. Iryu, C. P. Meyer, T. M. Quinn and G. Paulay, 2004. Carbon and oxygen
isotopic composition of a Guam coral and their relationships to environmental variables in the
western Pacific, Palaeogeogr. Palaeoclimatol. Palaeoecol., 212, 1-22.
浅海竜司・山田 努・井龍康文, 2004. サンゴ骨格のMg/Ca比,Sr/Ca比を用いた古水温復元
法の現状と問題点,第四紀研究,43(3),231-245.
H. Machiyama, T. Yamada, N. Kaneko, Y. Iryu, K. Odawara, R. Asami, H. Matsuda, S. F.
Mawatari, Y. Bone and N. P. James, 2002. Carbon and oxygen isotopes of cool-water bryozoans
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University, Texas, 1-29
[Online]. http://www-odp.tamu.edu/publications/182_SR/VOLUME/CHAPTERS/007.PDF>
町山栄章・山田 努・兼子尚知・井龍康文・小田原 啓・浅海竜司・松田博貴・馬渡駿輔・Y.
Bone・N. P. James, 2001. コケムシ骨格の同位体比は環境指標として使えるか?−ODP
Leg182:グレートオーストラリア湾の測定結果予報−,堆積学研究,53号,117−120.
−COE 研究員 出張報告−
【氏
名】平尾 直久
【研究グループ名】固体地球研究グループ(核マントルダイナミクス)
【出張期間】平成 16 年 7 月 10 日∼8 月 4 日
【実験参加報告】
(1)参加実験:Inelastic X-ray Scattering: IXS
実験施設:European Synchrotron Radiation Facility (ESRF) フランス
(2)参加実験:Nuclear Resonance Inelastic X-ray Scattering: NRIXS
実験施設:Advanced Photon Source (APS) アメリカ
地球や惑星内部には高温高圧の世界が広がっています。高圧下での物質の振る舞いを知ることは、そ
れらの内部構造や熱・物質の移動といったダイナミクスを理解する上で不可欠です。近年強力な X 線光源
である放射光を利用した高圧その場観察が数多く行われ、高圧下での物質の物理的化学的情報を我々
に与えてくれています。特に X 線の弾性散乱(回折)は、静的な構造や物性を調べるためによく利用され
ています。一方、X 線を用いた非弾性散乱測定は、物質の動的な振る舞い、たとえば格子振動など物質
に関する新しい知見を我々にもたらし、基礎物理や材料科学だけでなく、地球科学や惑星科学の分野に
も非常に有効な手法です。それは物質の弾性定数や音速、比熱やデバイ温度をはじめとする熱力学的パ
ラメーターなど、地球や惑星内部を理解する上で非常に重要なパラメーターが得られるからです。非弾性
散乱実験では非常に高いエネルギー分解能が必要なため、これまで実際の測定が困難であると言われ
てきました。しかしながら、より高輝度の放射光源を持つ第三世代の放射光施設が建設され、またモノク
ロメーターやアナライザーといった装置が改良されたことにより、非弾性 X 線散乱実験が可能になり、ここ
数年の間に高圧下での測定もできるようになってきました。
そこで、筆者は 2004 年 7 月 11 日から 8 月 4 日まで、21 世紀 COE フェローの研究支援を受け、フラン
ス に あ る 第 三 世 代 の 放 射 光 施 設 European
Synchrotron Radiation Facility (ESRF)およびアメリカ
の同施設 Advanced Photon Source (APS)を訪れまし
た。ESRF はスイスに近いグルノーブルにあり、パリ
からは 450 km 離れています。また APS はイリノイ州
シカゴの郊外にあり、世界一忙しいと言われるオヘア
空港から車で 45 分ほどのところにあります。ESRF を
訪れた理由は、地球の下部マントルの主要構成鉱物
の一つであるペロブスカイト相に関する非弾性 X 線
散乱実験(Inelastic X-ray Scattering: IXS)に参加す
るためです。ペロブスカイト相の研究は、現在筆者の
フランス,グルノーブルにある ESRF.中央にみえる
所属する大谷研究室と共同研究を行っているイリノイ
白いリングが放射光施設.
大学の Jay Bass 教授のグループにより進められています。また、APS を訪れた理由は、米国カーネギー地
球物理学研究所の Ho-kwang Mao 博士とシカゴ大学の Wendy Mao さんらが進めている鉄水素化物の高
圧下における核磁気共鳴非弾性 X 線散乱実験(Nuclear Resonance Inelastic X-ray Scattering: NRIXS)へ
の参加のためです。鉄水素化物は地球中心核に存在している可能性があり、重要な鉱物の一つです。
今回初めて非弾性散乱実験を経験したのですが、これは非常に気の長い測定です。一パターンのスペ
クトルを取得するのに、1∼2 時間かかります。さらにデータの質を良くするために、同じ条件で何回か測定
するので、一つのデータを得るのに半日近くかかります。実験の内容ですが、ESRF では常温常圧下でア
ルミニウムを含むマグネシウムペロブスカイト相およびそれに鉄を含むペロブスカイト相の IXS 実験が実
施され、これらの鉱物に関するフォノンの分散関係が得られました。物質の音速および弾性定数はフォノ
ン分散関係から得られます。測定は単結晶、多結晶の両方で行われました。一方 APS では、高温高圧下
における鉄水素化物の NRIXS 測定が行われました。高圧発生装置ダイヤモンドアンビルセルを用いて 18
万気圧まで加圧し、レーザー加熱法により高温を発生させました。この測定は核磁気共鳴を利用するため、
試料には 57Fe 同位体が使用されています。この NRIXS 実験では、鉄水素化物のフォノンの状態密度が測
定されました。先に出てきた熱力学的パラメーターやデバイ音速は、この状態密度のデータから計算でき
ます。これらの実験結果に関して、現在それぞれのグループで解析中なので示すことができませんが、価
値あるデータが取得できたことは間違いありません。
筆者は、X 線を用いた非弾性散乱実験に非常に興味があっただけに、高圧下での非弾性 X 線散乱実
験で最先端を行く ESRF と APS の両放射光施設を訪れ、実際に実験に参加したことは大変勉強になりまし
た。今回実験を行った IXS や NRIXS 測定だけでなく、X 線ラマン散乱(X-ray Raman Scattering)、共鳴非
弾性散乱(Resonant Inelastic Scattering)、X 線エミッション(X-ray Emission)など非弾性散乱を利用した研
究は、非常に高いポテンシャルを持っており、今後発展していくのは確実です。
−COE 研究員 成果報告−
やまさき
まこと
【氏
名】山
誠
【所
属】流体地球・惑星圏研究グループ(気候変動ダイナミクス)
【在任期間】2004 年 4 月 1 日∼2004 年 6 月 30 日
【研究内容】 海洋底堆積物の解析は,過去の海洋でおこった現象を解読するのに有効な手
段の一つである.石灰質の殻を持つ海洋プランクトンの一種(浮遊性有孔虫)は化石として堆
積物に保存されることから,過去の海洋環境を解明するために用いられている.現在の海洋
における浮遊性有孔虫の生態と海洋環境との関連を明確にできれば,より精度の高い古環
境解析が可能となる.2004 年度 COE フェローでは,特にエルニーニョ南方振動に対する生体
浮遊性有孔虫の応答を検討するために,1999 年 1 月(ラニーニャ期)に西赤道太平洋で採集
した深度別のプランクトンネット試料について検討を進めた.その結果,浮遊性有孔虫種は西
赤道太平洋域において西側の西太平洋暖水塊域(WPWP)と東側の湧昇域とで棲み分けを
おこなっていた.さらに,従来栄養の枯渇した海域での多産が知られていた種群が,当該海
域においては WPWP のみならず,ラニーニャ期特有の現象である湧昇域の西方への広がり
の影響を受けた富栄養な海域(赤道湧昇の前線域)にまで分布を広げていることが明らかに
なった.このことは,西赤道太平洋域における浮遊性有孔虫種の生態を明らかにしたと同時
に,この種がラニーニャ期の赤道湧昇前線域の良い指標となる事を示唆している.現在その
成果について国際学術誌に投稿しており,査読者からの指摘に対して検討を進めている段
階である.また,熱帯域の礁湖における有孔虫の分布解明研究に共同研究者として参加し,
その成果の一部を国際学術誌に投稿している(共著).
【研究業績】
1.Yamasaki, M., Tazoe, R., and Oda, M.
Western Pacific Warm Pool as an important role for living planktic foraminiferal distribution
during La Nina condition.
Submitting to Deep-Sea Research I.
2. Kawagata, S., Yamasaki, M., Genka, R., and Jordan, R.W. (in press)
Shallow-water benthic foraminifers from Mecherchar Jellyfish Lake (Ongerul Tketau Uet),
Palau. Micronesica, Guam University.
3. Kawagata, S., Yamasaki, M., and Jordan, R.W.
Acarotrochus lobulatus, a new genus and species of shallow-water benthic foraminifer from
Palau, northwestern equatorial Pacific Ocean.
Submitting to Journal of Foraminiferal Research.
Ⅳ. ウェブサイト運営報告
本COEで開設した以下の公式ウェブサイトの運営状況について,報告する.
URL:
http://www.geophys.tohoku.ac.jp/21coe/
(平成 16 年 12 月まで)
http://www.21coe.geophys.tohoku.ac.jp/
(平成 17 年 1 月から)
【運営方法】
本COE発足時(昨年度),地球物理学専攻のウェブサーバに間借りする形でウェブサイト
(上記上段)をスタートした.その後,今年度後半に準備を進め,平成17年1月から独立のサ
ーバ上で公式サイトを立ち上げて(上記下段),より自由度の高いサイト運営を可能とした.
サイトの管理と記事更新作業は,広報室の教員1名とCOE事務室職員1名の合計2名が
分担して行った.本COE関係者から随時提供される記事を必要に応じて編集・整形し,概ね
数日以内に掲載して,関係者間の情報交換や外部への情報発信に供した.平成16年4月か
ら平成17年2月までの11ヶ月間に合計214件(一ヶ月平均約20件)の新規記事を掲載し
た.
今年度新たに掲載した項目としては,セミナーや研究集会の事前案内やその実施報告,
研究者招聘の予定掲示,招聘研究者のプロフィール紹介およびその活動報告,COE研究員
の研究紹介,リサーチアシスタント(RA)や大学院特待生(SDC)を対象とする海外渡航援助
プログラムの受給者による出張報告,COE関係者の受賞等のニュース,若手教員の海外派
遣プログラムの成果報告,研究員ほかの公募記事などが含まれる.また,昨年度発足時に
整備してあったCOEの運営組織やメンバー表,関係機関へのリンクなども必要に応じて随時
更新し,情報の鮮度を保った.
【アクセス状況】
サーバの記録を専用のフリーウェアで解析し,本ウェブサイトに対する大まかなアクセス動
向を調査した(平成17年3月).技術面ほかの理由により,アクセス元を厳密に特定すること
は出来ないので,以下の数字はいくらか誤差を含むものであるが,大まかな傾向は捉えられ
ていると考えている.
平成16年4月から平成17年2月までの間に,合計約11万余件(一ヶ月平均約1万件)の
アクセスがあった.月によってやや(±10%程度)バラツキはあるものの,期間を通してほぼ
一定していた.時間別では,平日の日中にアクセスが多い傾向が顕著に認められた.夕方か
ら夜半にかけてのアクセスもそれに継いで多かった. 全体の7割強が日本国内,2割が分
類不能(技術的な理由による),残りの数%が海外からのアクセスであった.また,全体の約
4割が学内機関サーバからのアクセスで,あとの6割が学外からのアクセスであった.海外で
は,最も多い米国で全体の約2%を占め,以下,ドイツ,オランダ,オーストラリアなどが続き,
それぞれの数こそ少ないものの,全部で60カ国を数えた.なお,以上の統計においては,一
般的に知られている検索ロボットからの機械的なアクセスや,管理更新作業者の所属研究室
からのアクセスは可能な限り除いてある.
以上のことから,本ウェブサイトの設立目的であった本COE関係者間の情報交換や,外部
へ向けての情報交換の目的は,十分に果たせていると判断する.
本COE広報室室長 木津昭一(理学研究科 地球物理学専攻)
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