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研究室紹介 Laboratory
研究室紹介 Laboratory 宮崎大学テニュアトラック推進機構 奥山研究室 Introduction of Prof. Okuyama Laboratory at University of Miyazaki 鷲見 裕史 * Hirofumi Sumi* (国研)産業技術総合研究所 * *National Institute of Advanced Industrial Science and Technology(AIST) Abstract: Associate Prof. Okuyama Laboratory at University of Miyazaki is performing fundamental researches of proton conductive oxide materials, and development of applications such as hydrogen sensors and fuel cells. The charge carrier is changed to proton, oxygen vacancy and hole by hydrogen and oxygen partial pressures, and temperatures for defective structure-type perovskite oxides. A hydrogen sensor is developed for industrial process and an advanced fuel cell is improved using proton conductive oxide electrolytes. Key Words : Proton conductive oxide, Hydrogen sensor, Fuel cell 1.はじめに ・独立した研究スペース 宮崎大学テニュアトラック推進機構の奥山研究室を訪問 ・コーディネーターおよびトロイカサポーター(学内協 ・スタートアップ経費・研究費 し、プロトン伝導性酸化物の基礎研究からセンサー、燃料 電池などの応用研究へ至る最新動向について取材するとと 員2名、学外研究者1名)による支援・助言 ・女性研究者(清花アテナ男女共同参画推進室)、外国 籍研究者(国際連携センター)支援 もに、研究施設を見学した。 ・実験サポート(フロンティア科学実験総合センター、 2.宮崎大学テニュアトラック推進 機構の概要 宮崎大学は 2009 年度に文部科学省科学技術振興調整費 の「若手研究者の自立的研究環境整備促進事業」に採択さ 産学・地域連携センター) ・育児休業等ライフイベントへの支援、等 3.奥山研究室の概要 れ、 「宮崎大学型若手研究リーダー育成モデル」事業の中 奥山研究室は、宮崎大学木花キャンパス正門から正面に で IR 推進機構(Interdisciplinary Research Organization) 位置する工学部A棟にある。PI(Principal Investigator) を設置した。これを更に発展させる形として、2011 年度 である奥山勇治テニュアトラック准教授は名古屋工業大学 に採択された文部科学省科学技術人材育成費補助事業の 「テニュアトラック普及・定着事業」の中で、各学部の基 盤的教育研究分野における教育研究リーダー育成のため、 学長を機構長とする「テニュアトラック推進機構」が発足 した。2015 年 11 月現在、工学系、医学系、看護学系、農 学系、産業動物防疫学系、人文社会科学系、教育学系とバ ラエティに富んだ分野で総勢 11 名のテニュアトラック教 員が本機構に所属している。 5年のテニュアトラック(任期)期間に研究教育能力、 外部資金獲得能力、リーダーシップ、国際性などを向上さ せて将来を担う若手研究リーダーを育成するため、以下の ような支援体制が整備されている。 図1 奥山 勇治准教授と研究室風景 Fig.1 Associate Prof. Yuji Okuyama at his laboratory. 燃料電池 Vol.15 No.4 2016 85 研究室紹介 Laboratory 大学院工学研究科物質工学専攻の武津典彦教授の元で「2 荷担体となる材料に着目して研究を行っている。プロトン 価イオンをドープしたα-Al2O3のプロトン伝導特性とそ 伝導性酸化物1) は 1980 年に岩原らによって発見された。 の工学的応用」の研究で博士(工学)を取得され、九州大 しかし、図2の電荷担体マップ2)に示すように水素・酸素・ 学稲盛フロンティア研究センター特任助教を経て、2014 水蒸気分圧や温度によっては電荷担体がプロトン(Hi・)だ 年に宮崎大学テニュアトラック推進機構に着任された。大 けでなく酸化物イオン空孔(VO・・)、正孔(h・)になるため、 学からのスタートアップ資金と科研費等の外部からの資金 各電極でガス雰囲気が異なるセンサーや燃料電池、水蒸気 を活用して、雰囲気制御高温電気炉、X線回折装置、熱重 電解セル等では作動環境によって正孔伝導等に伴う機能性 量分析装置、電気伝導度測定装置、起電力・燃料電池評価 の低下が起こり得ることに注意が必要であることを提言し 装置、ガスクロマトグラフィー、電量滴定型水素分析装置 ている。奥山研究室ではプロトン伝導体の電荷担体マップ 等を導入し、イオン伝導性酸化物の合成・物性評価からセ を作成したり、合成法や添加元素等の影響を調べたりする ンサー・燃料電池等の特性評価まで一通り行えるように ことで、さらなる高プロトン伝導性を示す酸化物材料の開 なっている(図1) 。 発を行っている。 研究室メンバーは修士1名と学部4年生が4名で構成さ れており、学生たちが楽しそうに研究に取り組んでいる活 気に満ちあふれた研究室という印象を受けた。 4.2 プロトン伝導体を用いた水素センサー の開発 プロトン伝導体を電解質としたガルバニ電池は水素濃度 4.主な研究内容と成果 差により電位(起電力)が生じる。電解質のプロトン輸率 (プ 4.1 欠陥構造型プロトン伝導体の材料設計 の式に従った起電力が生ずる。この起電力から作用極の水 酸化物中のカチオンの一部をカチオンより低い価数のイ 素濃度を求めることができるが3)、奥山研究室では参照極 オンで置換した際に酸化物イオン空孔が形成する。この酸 ガスに水素ではなく空気を用いるタイプの水素センサーの 化物イオン空孔が外部の水蒸気を取り込む際に O-O 間に 開発を行っている。図3は、㈱ TYK と宮崎大学が産業プ 侵入型欠陥として導入されたプロトン(H+ イオン)が電 ロセス用に共同開発したプロトン伝導性酸化物を電解質に ロトン伝導度 / 全電気伝導度)が1となる際にネルンスト 用いた水素センサーであり、実証試験が進められている。 図3 産業プロセス用水素センサー Fig.3 Hydrogen sensor for industrial process. 4.3 プロトン伝導体を用いた次世代燃料電 池の開発 プロトン伝導体は 600 ℃付近の中温度で高プロトン伝導 率を示すことから、燃料電池の電解質材料として有望で 図2 イオン伝導性酸化物の電荷担体マップ Fig.2 Charge carrier map for ionic conductive oxide. 86 ある。奥山研究室では厚さ 0 . 5 mm の BaCe0.8-xZrxY0.2O3-α を電解質として Pt 電極を用いた水素-酸素燃料電池にお 燃料電池 Vol.15 No.4 2016 解析6) など固体イオニクスを基軸に特色ある研究が行わ れている。 5.おわりに 奥山研究室は 2014 年4月に発足したばかりであるが、 既に水素センサーや燃料電池の開発等において多くの成果 を上げている印象を受けた。2014 年に策定された水素・ 燃料電池戦略ロードマップでは、現在フェーズ1の「水素 利用の飛躍的拡大」に位置付けられているが、2020 年代 後半のフェーズ2「水素発電の本格普及/大規模な水素供 給システムの確立」や 2040 年代のフェーズ3「トータル 図4 BaCe0.8-xZrxY0.2O3-α 電解質を用いた水素-酸素燃料電池の 発電特性 Fig.4 Performance of an H2-O2 fuel cell with a BaCe0.8-xZrxY0.2O3-α electrolyte. での CO 2 フリー水素供給システムの確立」に向けて、プ ロトン伝導性酸化物の更なる用途拡大が期待される。 なお、本取材では奥山勇治准教授から親切丁寧なご説明 をいただき、研究施設見学までご対応いただいた。この場 4) いて、図4に示すような出力を得た 。BaCe0.8Y0.2O3-α(x をお借りして感謝いたします。 2 =0)を電解質としたセルでは 150 mW/cm の出力が得ら れており、セルの出力が電解質組成に大きく依存している 参考文献 ことがわかる。更に、BaCe0.6Zr0.2Y0.2O3-αを厚さ 50 µm の 1)T. Takahashi, H. Iwahara : Revue de Chimie 薄膜に加工し、電解質として用いることにより、水素-酸 2 素燃料電池において、800℃で約 300 mW/cm の出力密度 を得ることに成功した5)。更なる低温作動化、高性能化の ためには正極(空気極)の過電圧を低下させる必要があり、 Minerale, 17, 243-253(1980) 2)Y. Okuyama, N. Fukatsu, N. Kurita : Journal of MMIJ, 125, 389-394(2009) 3)Y. Okuyama, N. Kurita, A. Yamada, H. Takami, T. 高性能電極材料の探索および電極反応機構の解明を進めて Oshima, K. Katahira and N. Fukatsu : Electrochimica いる。また、ここでは CO2耐性を有したプロトン伝導性酸 Acta, 55, 470-474(2009) 化物として LaYbO3 に着目し、これを電解質に用いた燃料 4)蛯原 紀明、学士論文(宮崎大学)、 (2014) 電池の研究開発も行っている。BaCe0.6Zr0.2Y0.2O3-αに比べプロ 5)Y. Okuyama, N. Ebihara, K. Okuyama, Y. Mizutani : トン伝導率は劣るが、厚さ 0 . 5 mm の La0.9Sr0.1Yb0.8In0.2O3-δ 2 ECS Transactions, 68(1) , 2545-2553(2015) を電解質としたセルにおいて、800℃で約 20 mW/cm の 6)Y. Okuyama, K. Okuyama, Y. Mizutani, T. Sakai, Y. 出力密度を得た。更に、性能劣化原因の解明やプロトン伝 Lee, H. Matsumoto : International Journal of Hy- 導体を用いた燃料電池作動時の内部水素ポテンシャル分布 drogen Energy, 39, 20829-20836(2014) 燃料電池 Vol.15 No.4 2016 87