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Ⅱ.カザフスタンにおける農業情勢
Ⅱ.カザフスタンにおける農業情勢 第1章 カザフスタンにおける農業生産、輸出、消費動向 1.マクロ経済における農業の位置づけ (1)産業構造 2008 年のカザフスタンの産業構造をみると、鉱業が 18.7%を占めている。カザフスタン 経済は、石油・天然ガス生産に大きく依存しており、これが鉱業比率の高さにも表れてい る。 一方、2008 年の全産業に占める農林水産業の割合は、5.3%まで低下した。旧ソ連崩壊後 の移行期に大きく比率を下げた後、2000 年代に入っても、農林水産業の割合は逓減が続い ている。 図表1 産業部門別 GDP 構成比 (%) 2002 年 2003 年 2004 年 2005 年 2006 年 2007 年 2008 年 8.0 7.9 7.1 6.4 5.5 5.7 5.3 鉱工業 29.5 29.1 29.3 29.8 29.6 28.3 32.2 鉱業 12.1 12.1 13.6 15.8 16.1 15.1 18.7 製造業 14.5 14.2 13.3 12.0 11.6 11.5 11.8 2.9 2.8 2.4 2.0 1.8 1.7 1.7 6.3 6.0 6.1 7.8 9.8 9.4 8.1 12.2 11.6 12.5 11.8 11.4 12.4 12.2 0.7 0.8 0.9 0.9 0.8 0.9 0.8 11.6 12.4 11.8 11.8 11.5 11.5 11.0 金融 3.5 3.2 2.9 3.2 4.7 5.9 5.3 合計 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 農林水産業 電力・ガス・水道 建設 卸・小売 ホテル・レストラン 運輸・通信 (資料)国家統計局 (2)産業別就業人口 カザフスタンの産業別就業人口についてみると、農林水産業の全産業に占める構成比は、 2008 年には 29.5%となった。2003 年からの変化では、農林水産業の割合は、わずか 5 年 間の間に 5.8 ポイント低下している。 今後も、一層の市場経済化が進展し、産業構造の転換や経済のソフト化が進むにつれて、 サービス業への就業人口が増加していくものとみられる。また、工業化も進み、第 2 次産 47 業への就業者数も増えることが見込まれる。一方、農業への就業人口は、今後さらに減少 していくことが見込まれる。 一方、農村の居住者についてみると、農業省の発表によれば、全人口の 42.6%が農村に 住んでいるとしている。 図表2 産業部門別就業人口構成比 (%) 2002 年 2003 年 2004 年 2005 年 2006 年 2007 年 2008 年 農林水産業 35.5 35.3 33.5 32.4 31.5 31.2 29.5 鉱工業 12.3 12.2 12.1 12.3 12.2 12.1 12.0 鉱業 2.5 2.6 2.6 2.5 2.5 2.5 2.5 製造業 7.5 7.2 7.2 7.4 7.5 7.5 7.3 電力・ガス・水道 2.3 2.4 2.3 2.3 2.2 2.1 2.2 4.0 4.7 5.3 5.7 6.2 6.8 6.9 15.0 14.5 14.7 14.3 14.4 14.0 14.8 ホテル・レストラン 0.8 1.0 1.1 1.2 1.2 1.3 1.3 運輸・通信 7.5 7.2 7.2 7.3 7.3 7.2 7.5 金融 0.7 0.8 0.8 0.9 1.0 1.1 1.3 合計 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 建設 卸・小売 (資料)国家統計局 (3)財政支出 カザフスタンの財政支出に占める農林水産業関連の支出についてみると、農林水産業、 環境支出は、2008 年で 1,700 億テンゲ(約 1,030 億円)となっている。農林水産業、環境 支出が総歳出額に占める割合は、5.0%であった。 図表3 財政支出に占める農林水産業関連支出の推移 (10 億テンゲ) 総歳出額 農林水産業、環境 同 前年比伸び率 同 構成比 2002 年 2003 年 2004 年 2005 年 2006 年 2007 年 2008 年 801 1,022 1,288 1,946 2,151 2,678 3,394 29 45 72 65 77 101 170 - 55.2 60.0 -9.7 18.5 31.2 68.3 3.6 4.4 5.6 3.3 3.6 3.8 5.0 (資料)国家統計局 (注)1 カザフスタンテンゲ=0.606 円(2010 年 2 月末時点) 48 2008 年の農林水産業、環境支出の前年比伸び率は、68.3%の大幅増となっている。農林 水産業、環境支出は、2005 年には前年比マイナス、2006 年が 18.5%増であったが、2007 年は 31.2%増、2008 年は 68.3%増となり、大幅な増加傾向にある。 農林水産業、環境支出は、一時減少した時期もあるが、概ね総歳出の 3~5%程度を占め、 安定しているといえる。 (4)農地 カザフスタン農業省の資料によれば、カザフスタンの総国土面積は 2,700 平方キロメー トルで、世界第 9 位の広大な国土を有する。 国土のうち農地は、2 億 2,200 万ヘクタールで、82.2%を占めている。しかし、農地のう ち耕地は 2,400 万ヘクタールで、10.4%を占めるに過ぎない。農地の約 85%に当たる 1 億 8,900 万ヘクタールは牧草地である。 一方で、国土の約 6 割は砂漠・準砂漠となっており、10%が森林およびステップ、5%が 高地となっている。 49 2.旧ソ連時代のカザフスタン農業の概要 今日のカザフスタンの農業動向を理解するためには、これまでのカザフスタンにおける 農業の発展経緯について理解する必要がある。 まず、旧ソ連時代のカザフスタンの農業の概要は以下のとおりである。 (1)1991 年の独立までの経緯 カザフスタンをはじめとする中央アジア地域は、1860 年代に帝政ロシアの支配下に入っ た。そして、1917 年のロシア革命の後、カザフスタンは、1920 年にロシア共和国の一部と してキルギス自治共和国を形成した。1925 年には、カザフ自治共和国と改称され、さらに、 1929 年にカザフ・ソビエト社会主義共和国が創設され、旧ソ連の構成共和国となった。以 来、1991 年 12 月 16 日にカザフスタン共和国として旧ソ連から独立するまで、社会主義国 としての長い道のりがあった。 この間、農業を含む産業の発展は、旧ソ連全体の発展計画のなかで、事実上強制的に決 定され、執行されることとなった。 (2)旧ソ連時代の経済・農業構造と旧ソ連圏内での位置づけ 旧ソ連時代のカザフスタンの経済構造は、自律的に発展したものではなく、かなり恣意 的に形成されたものである。旧ソ連圏内での各共和国の役割分担が明確化されるなか、カ ザフスタン共和国の位置づけは、他の共和国に原材料や中間財を輸出し、加工品を輸入す るというものであった。産業構造も、鉱工業を中心にこのような位置づけに従って形作ら れた。 農業の位置づけについてみると、旧ソ連圏において、カザフスタンはロシア、ウクライ ナなどとともに、有力な農業生産国としての地位を占めてきた。なかでも、穀物について は、大穀倉地帯を有する一大供給基地として発展し、中央アジアにおける食料供給基地と して、ウズベキスタン、キルギス、タジキスタン、トゥルクメニスタン向け穀物の生産・ 供給を担う役割を義務付けられた。一方で、カザフスタン産小麦は蛋白含有量の多い良質 の食用小麦であり、これをロシアにも供給していた。 旧ソ連時代におけるカザフスタンの最大の産業は農林水産業であった。農業は、旧ソ連 崩壊直前の 1990 年において、NMP (Net Material Product:物的純生産、名目ベースの 国民所得に相当)の 34.0%を占めていた。また、農業部門以外では、鉱工業部門のウエー トが高く、20.5%を占めた。また、農村居住人口は、同時期に 5 割程度を占めていたと推 定される。 50 図表4 旧ソ連時代のカザフスタンの産業部門別 NMP 構成比(主要 5 業種) (%) 1990 年 1991 年 農林水産業 34.0 29.5 鉱工業 20.5 27.2 建設業 12.0 9.2 商業 8.2 8.1 運輸・通信業 9.4 7.4 (資料)国家統計局 その後、旧ソ連崩壊の混乱のなか、農林水産業は最も大きな被害を受け、1991 年の構成 比は 29.5%へと大きく低下した。 カザフスタンの農業は、最盛期には最大で 2,600~2,800 万トン以上の穀物を生産してい た。旧ソ連崩壊直前の 1990 年の穀物生産は、2,848.8 万トンであった。このうち、小麦 1,619.7 万トン、大麦 850 万トン、米 57.9 万トン、トウモロコシ 44.2 万トンなどとなっていた。 (3)旧ソ連時代の農業生産システム・農地構造の概要 旧ソ連時代の農業経営形態は、コルホーズ(協同組合農場)、ソフホーズ(国営農場)が 中心で、農業生産の大部分がこれら集団農場でまかなわれていた。後述するように、ソフ ホーズは北部に多く、コルホーズは南部に多かった。 ソフホーズの場合、生産された農産物が 100%国家調達ルートで流通されたのに対し、 コルホーズの場合には、その 80~90%が国家に売却された。国家の農産物の購入価格は、 生産コストに基づいて算定された公定価格であった。 集団体制下では、農業労働者の賃金や年金が基本的に保障され、労働意欲の停滞を招い た。 旧ソ連崩壊直前の 1990 年の全作物合計の作付面積は 3,518.2 万ヘクタールであった。こ のうち、穀物が 2,335.6 万ヘクタール(総作付面積の 66.3%)、飼料穀物が 1,106.6 万ヘク タール(同 31.5%)を占めた。穀物のなかでは、小麦が全農作物の中で最大の 1,407.0 万 ヘクタール(同 40.0%)、大麦が 666.0 万ヘクタール(同 18.9%)を占めた。 (4)旧ソ連時代における農業改革の概要 旧ソ連では、農業の低生産性を改善するため、1980 年代以降抜本的な農業改革が進めら れた。 旧ソ連時代の農業改革に関する法令・制度改革としては、1982 年 5 月に導入された「集 団請負制度」や、1988 年 7 月に導入された「賃貸請負制度」、1990 年 2 月に制定された「土 51 地基本法」などが挙げられる。しかし、請負制度については、旧来の集団制が温存された ままで個々の農家や従業員の裁量の余地が無く、賃金もほぼ固定化されたままであったこ とから、中国でみられたような、請負制の導入が農業生産の拡大に直接的に結びつくこと はなかった。このような状況はカザフスタンにおいても同様であった。 3.農業生産 (1)農業生産量 1)体制移行直後の農業生産の変化の概要 旧ソ連の崩壊とともに、カザフスタンの農業は深刻な危機に直面し、農業生産は 1990 年 代の 10 年間で大きく減少した。 以下は、体制移行直前の 1990 年とその後、1995 年、2000 年、2001 年の主要農畜産物 の生産量の変化についてみたものである。 図表5 主要農畜産物の生産量の推移 (1000 トン) 1990 年 穀物 1995 年 2000 年 2001 年 28,488 9,506 11,565 15,897 小麦 16,197 6,490 9,074 12,707 大麦 8,500 2,208 1,664 2,244 トウモロコシ 442 136 249 320 コメ 579 184 214 199 n.a. 111 140 187 ジャガイモ 2,324 1,720 1,693 2,185 肉 1,560 985 623 655 牛乳 5,642 4,619 3,730 3,923 油糧種子 (資料)国家統計局 (注 1)穀物は乾燥調整後重量、肉はと体重量。 (注 2)図表5と図表7は、連続する統計を2分し、記載項目を変えたもの。 1990 年から 1995 年までの 5 年間で、穀物生産は 66.6%減少し、およそ 3 分の 1 となっ た。主要穀物では、小麦が同時期で 59.9%減、大麦が 74.0%減となった。また、落ち込み は相対的には小さかったものの、肉も同時期で 36.9%減少した。また、牛乳は同 18.1%減、 ジャガイモは 26.0%減と落ち込みは比較的小さかったものの、やはり減少した。 一方、1995 年から 2000 年・2001 年にかけては、品目により生産動向に違いがみられる。 まず、穀物全体では、1995 年に 950.6 万トンまで減少した後、2000 年は 1,156.5 万トン、 2001 年 1,589.7 万トンと増加した。品目により、また年によって変動があるものの、小麦、 52 大麦、トウモロコシ、コメともにほぼ同様の傾向がみて取れる。また、大豆を含む油糧種 子についても、1990 年の生産水準が不明であるものの、1995 年以降は似たような傾向にあ るとみられる。このように、生産量でみると、1991 年の旧ソ連の崩壊以降、1990 年代を通 じて生産量が大きく下落したものの、2000 年代に入ると生産の落ち込みが底入れし、再び 増加に転じつつあるといえる。 危機的状況から脱するための変化が起き始めたのは、1990 年代末になってからである。 農業を取り巻くマクロ経済環境の全般的な改善がみられるようになり、穀物など輸出分野 を中心とした農業生産や農産物加工部門への民間投資も増加した。さらに、石油産業をテ コとした経済発展が実現し、国庫への歳入額が増加するに伴い、農業部門への財政支出が 再び増え始めた。こうしたことが追い風となり、2000~2005 年に農業生産は 30%以上拡 大した。 2)主要農産物の生産動向 1990 年以降の穀物の生産量の推移は、以下のとおりである。 図表6 穀物の生産量の推移 (1000 トン) 年 生産量 年 生産量 1990 28,487.7 2000 11,565.0 1991 11,991.9 2001 15,896.9 1992 29,771.7 2002 15,959.9 1993 21,631.0 2003 14,777.4 1994 16,454.1 2004 12,374.2 1995 9,505.5 2005 13,781.4 1996 11,237.3 2006 16,511.5 1997 12,378.0 2007 20,137.8 1998 6,395.5 2008 15,578.2 1999 14,264.3 (資料)国家統計局 (注)乾燥調整後重量。 穀物生産の推移についてみると、1991 年に 1,199 万トンと、前年の半分以下の水準まで 急速に落ち込んだものの、1992 年には、2,977 万トンと、1990 年を上回った。しかし、1993 年からは生産量が減り始め、1995 年には、1,000 万トンを下回る 951 万トンの生産量とな った。さらに、1998 年には 640 万トンと 2 番底の落ち込みを記録した。 しかし、1999 年以降、穀物の生産は概ね安定的に推移し始めた。とくに 2001 年以降は、 53 年により変動はあるものの、生産量が 1,500 万トン前後で推移してきている。もっとも、 穀物の場合は、年ごとの変動幅はかなり大きい。 以下は、2002 年以降の品目別穀物及び油糧種子の生産量の推移である。 図表7 主要穀物及び油糧種子の品目別生産量の推移 (1000 トン) 2002 年 2003 年 2004 年 2005 年 2006 年 2007 年 2008 年 15,960 14,777 12,374 13,781 16,512 20,138 15,578 小麦 12,700 11,537 9,936 11,198 13,461 16,467 12,538 大麦 2,209 2,154 1,387 1,527 1,952 2,441 2,059 トウモロコシ 435 438 457 432 413 421 420 コメ 199 273 276 285 289 294 255 257 436 396 440 459 459 414 穀物 油糧種子 (資料)国家統計局 (注)穀物は乾燥調整後重量。図表5と図表7は、連続する統計を2分し、記載項目を変えたもの。 カザフスタンの農産物のなかでは、穀物の生産量が多い。また、穀物のなかでは小麦の ウエートが著しく高くなっている。2008 年についてみると、総穀物生産量に占める小麦の 割合は 80.5%に達している。以下、大麦 13.2%、トウモロコシ 2.7%、コメ 1.6%となって おり、小麦の比率が極めて高い。 一方、大豆を含む油糧種子の生産は、増えてきているとはいえ、量は少ない。2008 年の 生産量は、油糧種子全体で 41.4 万トンに過ぎない。 次に、地域別の小麦生産量をみると、以下のとおりである。 図表8 地域別小麦生産量の推移 (1000 トン) 2003 年 2004 年 2005 年 2006 年 2007 年 2008 年 コスタナイ州 3,026 2,218 3,257 4,320 5,443 4,416 北カザフスタン州 2,377 2,429 3,013 3,944 4,260 3,722 アクモラ州 2,680 2,215 2,622 3,060 3,942 2,620 西カザフスタン州 450 277 107 165 261 437 アクトベ州 405 307 179 108 365 420 カラガンダ州 527 511 244 350 474 310 パブロダール州 213 255 211 255 354 144 アルマトイ州 507 432 447 408 408 143 東カザフスタン州 439 489 398 343 461 132 54 南カザフスタン州 369 368 288 259 260 125 ジャンブール州 527 422 416 233 227 63 クズロルダ州 17 15 17 15 11 6 アティラウ州 0 0 0 0 - - 11,537 9,937 11,198 13,461 16,467 12,538 合 計 (資料)国家統計局 小麦の生産が多いのは、コスタナイ州、北カザフスタン州、アクモラ州の北部 3 州で、 小麦の総生産量に占める各州の生産量の割合は、それぞれ、35.2%、29.7%、20.9%となっ ており、3 州の合計では 85.8%となっている。このように、カザフスタンの小麦の生産は この 3 州に集中している。 図表9 小麦の生産が多い北部 3 州の位置 北カザフスタン州 アクモラ州 コスタナイ州 (資料)日本総合研究所作成 (2)作付面積 1)体制移行直後の作付面積の変化の概要 主要農産物の体制移行直前の 1990 年とその後、1995 年、1999 年、2000 年、2001 年の 作付面積の推移をみると、以下のようになっている。 体制移行後の変化について、作付面積の場合、生産量の変化とは異なった動きを示して いる。 55 図表10 主要農産物の作付面積の推移 (1000 ヘクタール) 1990 年 1995 年 1999 年 2000 年 2001 年 全農産物 35,182 28,680 15,265 16,195 16,726 穀物 23,356 18,878 11,387 12,439 13,179 小麦 14,070 12,552 8,411 10,113 10,827 大麦 6,660 4,826 1,792 1,711 1,745 コメ 125 95 72 78 71 11,066 8,789 3,051 2,824 2,702 44 41 19 23 20 n.a. n.a. 384 448 350 206 204 156 160 165 71 70 96 103 107 飼料穀物 ビート 油糧種子 ジャガイモ 野菜 (資料)国家統計局 1990 年から 1995 年までの 5 年間で、全農産物の作付面積は 3,518.2 万ヘクタールから 2,868 万ヘクタールへと、18.5%の減少にとどまった。また、穀物の作付面積も同時期に 19.2%の減少にとどまった。同じ時期に穀物の生産が 66.6%の減少となったのとは対照的 である。 しかし、一方で、作付面積はその後も減少を続け、1999 年には全農産物の作付面積が 1,526.5 万ヘクタールと、1990 年対比で 56.6%減の水準まで減少した。また、穀物の場合 も同様に、1999 年には 1990 年比で 51.2%減まで落ち込んだ。 しかし、全農産物および穀物の作付面積は、上記の 1999 年を底に再び増加に転じている。 2)主要農産物の作付面積 1990 年以降の、全農産物および穀物の作付面積の推移は、以下のとおりである。 2009 年の総作付面積は 2,141 万ヘクタール、このうち穀物の作付面積は 1,720 万ヘクタ ールであった。穀物の作付面積の全農産物の作付面積に占める割合は、2009 年には 80.4% となった。同割合は、1990 年には 66.4%と、およそ 3 分の 1 を占めていたが、1990 年代 の後半から上昇傾向にあり、2007 年には 81.4%とピークに達した。その後、2008 年、2009 年はやや低下したものの、依然 80%以上の高い水準にある。一方、大豆を含む油糧種子の 作付面積は、2008 年で 4.5%にとどまる。 56 図表11 穀物の作付面積と全農産物に占める割合の推移 (1000 ヘクタール、%) 穀物の 年 全農産物 穀物 1990 35,182.1 23,355.9 1991 34,935.5 1992 穀物の 年 全農産物 穀物 66.4 2000 16,195.3 12,438.2 76.8 22,752.5 65.1 2001 16,785.2 13,208.7 78.7 34,839.9 22,595.8 64.9 2002 17,756.3 14,022.7 79.0 1993 34,060.4 22,250.4 65.3 2003 17,454.2 13,872.6 79.5 1994 31,662.4 20,710.3 65.4 2004 18,036.4 14,278.0 79.2 1995 28,679.6 18,877.7 65.8 2005 18,445.2 14,841.9 80.5 1996 25,644.1 17,187.6 67.0 2006 18,369.1 14,839.8 80.8 1997 21,843.7 15,651.4 71.7 2007 18,954.5 15,427.9 81.4 1998 18,610.4 13,526.7 72.7 2008 20,119.2 16,190.1 80.5 1999 15,285.3 11,392.5 74.5 2009 21,411.4 17,208.8 80.4 割合 割合 (資料)国家統計局 次に、2003 年以降のデータしかないものの、小麦の作付面積と全農作物、穀物に占める 割合は以下のようになっている。 図表12 小麦の作付面積と全農産物・穀物に占める割合の推移 (1000 ヘクタール、%) 年 全農産物 穀物 小麦 全農作物に占め 穀物に占める る小麦の割合 小麦の割合 2003 17,454 13,873 11,362 65.1 81.9 2004 18,036 14,278 11,957 66.3 83.7 2005 18,445 14,842 12,648 68.6 85.2 2006 18,369 14,840 12,426 67.6 83.7 2007 18,955 15,428 12,892 68.0 83.6 2008 20,119 16,190 13,476 67.0 83.2 2009 21,411 17,209 14,754 68.9 85.7 (資料)国家統計局 2009 年の小麦の作付面積は、1,475 万ヘクタールであった。小麦の作付面積の総作付面 積に占める割合は 68.9%であった。また、穀物の作付面積に占める小麦の作付面積の割合 57 は 85.7%であった。穀物に占める小麦の割合も、近年上昇傾向にある。 一方、トウモロコシの作付面積は、2008 年で全農産物の 0.5%に過ぎない。 次に、地域別の小麦の作付面積をみると、生産と同様に、小麦の作付面積が多いのは、 アクモラ州、コスタナイ州、北カザフスタン州、の北部 3 州となっている。小麦の総作付 面積に占める各州の作付面積の割合は、それぞれ、23.4%、23.3%、20.7%となっている。 北部 3 州合計での総作付面積に占める割合は、67.4%となっている。作付面積においても これら北部 3 州への集中度は高くなっているが、生産量の場合(85.8%が 3 州に集中)ほ どには集中していない。 図表13 地域別小麦の作付面積の推移 (1000 ヘクタール) 2003 年 2004 年 2005 年 2006 年 2007 年 2008 年 2009 年 アクモラ州 3,844 4,032 4,004 4,080 4,233 4,501 5,001 コスタナイ州 3,447 3,616 3,832 4,071 4,475 4,731 4,989 北カザフスタン州 3,440 3,394 3,546 3,627 3,747 4,146 4,426 東カザフスタン州 1,011 1,051 1,019 1,013 979 1,066 1,132 919 962 985 896 940 1,044 1,086 1,085 1,112 1,108 903 968 974 1,001 アクトベ州 726 815 823 841 750 801 889 アルマトイ州 851 862 885 886 891 898 867 西カザフスタン州 706 743 775 660 621 661 747 南カザフスタン州 740 763 758 718 672 649 637 ジャンブール州 521 533 552 513 513 493 471 クズロルダ州 153 146 149 152 154 146 156 アティラウ州 5 5 5 6 7 6 6 11,362 11,957 12,648 12,426 12,892 13,476 14,754 パブロダール州 カラガンダ州 合 計 (資料)国家統計局 (3)農業生産システム 既に述べたように、カザフスタンの農業生産システムは、旧ソ連時代には他の連邦内の 共和国と同様、コルホーズ、ソフホーズによる集団農業制度が採られていた。このような 集団農業制度の問題点は、既に旧ソ連時代から顕著となっており、制度改革のための様々 な動きが旧ソ連時代から始まっていた。 カザフスタンにおいても、このような流れを受けて、農地制度の改革が進められた。カ ザフスタンの農地改革において特筆すべき点は、近隣の他の旧ソ連構成共和国(ウズベキ 58 スタン、キルギス、タジキスタン、トルクメニスタン)においては、旧ソ連の崩壊後も、 農地を国有のまま管理し、個人や法人の所有権が認められなかったのに対し、これを初期 の段階で認めたことである。すなわち、カザフスタンでは、農地の利用権を、相続、売買、 賃貸借の対象として認め、その取引を自由にしたことである。この結果、農地の流動性が 高まり、農地の所有者に大きな変化が生じる結果となった。この結果、カザフスタンの農 業構造は急速に変容した。 旧ソ連崩壊後の農業生産システムの変化をみると、処女地開拓時代以来、ソフホーズな どの大規模な社会主義集団農業企業が農業資源を独占してきた北部においては、体制転換 後の私有化や土地改革などによって、その保有構造が大きく変化した。当初、他の移行経 済国で一般的にみられたように、カザフスタンでも、旧ソ連時代の集団農業企業をそのま ま継承した各種の農業企業が支配的になるとみられた。 しかし、一時的には旧ソ連時代の規模をそのまま継承した農業企業が林立したものの、 それが、大きく 2 つの方向に収斂する方向へと向かった。1990 年代の半ばになると、農業 企業の資産が、経営指導者や幹部などを中心とする少数の農村エリートに集約されるとと もに、支部レベルの農場単位ごとに、地域的に分割・細分化されていった。この結果、規 模のうえでは小さくなったものの、地域単位の集約化が進み、また、経営者が事実上のオ ーナーとなって企業管理を行う有限会社型の農場が増加した。一方、このような分割・細 分化プロセスの中で、個人単位で土地や資産の配分を受けるケースも増え、農民経営と呼 ばれる家族単位の小規模の経営体も増加した。 このように、急激な構造変化に伴う経営体の再編と細分化が進む一方で、旧ソ連崩壊後 の経済状況の悪化は、多くの新生の農業経営体の経営を難しくした。正確なデータはない ものの、旧ソ連の崩壊以降、1990 年代を通じて、カザフスタンでは非常に多くの農業経営 体が赤字を記録し、そのうちの多くの経営体が巨額の債務を抱えて破産した。とくに、1990 年代後半になると、農業経営体の経営状態が急速に悪化し、多くが破産状態となって売却・ 譲渡の対象となった。破産した企業の資産は、他の農業経営体に売却・処分され、再編が 一段と進むことになった。 さらに、このような再編のなかで、一部の農業経営体は、外部の投資家による買収や資 本参加が認められることになった。数的には多くないものの、海外の穀物商社などが買収 や経営参加に加わり、垂直統合を進める例も見られた。このような動きが顕著となったの は、比較的大規模な農業経営体が多く、良質の小麦を生産する北部穀倉地帯においてであ った。また、南部の大規模稲作地帯でも、件数は少ないものの同様の動きがみられた。 カザフスタンにおける農業経営体を分類すると、ロシアと同様に、「農業企業」、 「農民経 営」、「住民の個人副業経営」と呼ばれる三つの経営システムに分類されている。 農業企業とは、かつてのソフホーズ、コルホーズを継承したうえで再組織した、有限会 社、生産協同組合などの集団作業に基づく大規模農場の総称である。当初、ソフホーズ、 59 コルホーズ時代の資産と労働力を引き継いだが、その後再編成された。また、一部では、 外資が経営に参画して垂直インテグレーションを進めているところもある。2009 年の時点 では、5,443 経営体がある。 農民経営とは、農業企業での集団経営方式、集団作業を嫌った者が組織した家族経営体 である。旧ソ連時代には存在せず、体制移行後に出現した経営体である。フェルメルや独 立自営農民と呼ばれることもある。多くの場合、世帯主が経営者となり、その家族員の労 働力を利用した家族単位の経営となっている。北部の穀物地帯では機械化が進み、平均数 百ヘクタールの農地規模となっている。しかし、南部では、数ヘクタールから数十ヘクタ ール単位の小規模~中規模の農地面積による経営となっている。2009 年の時点では、 170,193 経営体がある。 最後に、住民の個人副業経営とは、旧ソ連時代から続く、農村住民(農業企業の従業員 を含む)が自宅付近の区画で営む小規模自給的な経営と、都市住民が週末ないしは長期休 暇中に自宅と離れた農園と菜園で営む自給的な経営の総称である。農村住民の場合、野菜 などの労働集約的部門や酪農などの畜産部門で大きなシェアを占めている。また、農業の 経営主体別の内訳で、住民の個人副業経営が多いのは、多くの世帯が所有している別荘(ダ ーチャ)の自家菜園で、こちらは畜産には殆ど関わらず、自家消費用や副業として野菜や ジャガイモ、果実などを生産している。 カザフスタンでは、旧ソ連時代には、ロシアに比べると住民の個人副業経営の農地面積 は狭く、平均で 0.3 ヘクタールほどの規模しかなかった。しかし、旧ソ連崩壊後の構造改革 に伴う追加的な土地の分与の結果、農地面積が 2~4 倍に拡大した。 統計のとれる 2003 年以降の経営システム別の数の推移は、以下のとおりとなっている。 図表14 年度 2003 年 2004 年 経営システムの数の推移 2005 年 2006 年 2007 年 2008 年 2009 年 農業企業 4,490 4,516 4,984 5,289 5,282 5,170 5,443 農民経営 121,722 148,011 156,978 167,843 169,326 169,481 170,193 2,135,218 2,133,579 2,132,861 2,194,378 2,206,870 2,231,588 2,247,786 住民の個人副業経営 (資料)国家統計局 大きな数の変動があったのは、この統計以前の 1990 年代の後半である。2003 年以降に ついては、大きな傾向としては、年ごとの変動はみられるものの、各種類ごとの経営シス テムの数は、近年、概ね固まりつつあるとみることが出来る。 次に、主要な農畜産物について、旧ソ連時代最末期の 1990 年と体制崩壊後の 1995 年、 2000 年、2001 年につき、経営システム別のシェアをみると、以下のとおりとなっている。 60 なお、旧ソ連時代の 1990 年においては、家族経営による農民経営は認められていなかった ため、シェアはゼロとなっている。 図表15 主要農畜産物生産の経営システム別のシェアの推移 (%) 1990 年 1995 年 2000 年 2001 年 2007 年 2008 年 穀物 農業企業 99.9 95.7 61.8 58.3 63.1 67.2 農民経営 0.0 4.2 37.0 40.4 36.5 32.5 住民の個人副業経営 0.1 0.1 1.1 1.3 0.3 0.2 農業企業 46.4 14.3 4.2 4.0 3.4 4.0 農民経営 0.0 1.3 11.3 12.2 19.7 21.3 53.6 84.5 84.5 83.8 76.9 74.7 農業企業 65.6 29.9 6.0 6.4 4.9 5.1 農民経営 0.0 5.7 22.3 26.2 36.1 40.8 34.4 64.3 71.8 67.4 59.0 54.1 農業企業 66.0 35.2 6.5 6.2 9.0 9.0 農民経営 0.0 2.1 6.3 5.0 8.5 9.1 33.3 62.7 87.2 88.8 82.5 81.9 農業企業 54.3 28.9 5.0 4.6 3.7 3.4 農民経営 0.0 1.4 4.2 3.9 6.0 6.5 45.7 69.7 90.9 91.5 90.3 90.1 じゃがいも 住民の個人副業経営 野菜 住民の個人副業経営 食肉 住民の個人副業経営 牛乳 住民の個人副業経営 (資料)国家統計局 まず、1990 年においては、各品目とも農業企業の生産シェアが高く、とくに穀物ではほ ぼ 100%生産を行っていた。しかし、1995 年になると、住民の副業経営の割合が増え、つ いで 2000 年代になると、農民経営の増加に伴い、農民経営による生産の割合も上昇した。 穀物については、旧ソ連時代はコルホーズ、ソフホーズなどの集団農業によって作られ ており、例えば、1990 年のシェアは 99.9%とほとんど独占していた。しかし、家族単位の 農民経営が集団農業経営体から独立し、数が増えてくるなかで、農民経営による生産の割 合が増加し、農業企業の割合は 2000 年代初めにはいったん大きく低下した。しかし、近年 では再度その割合は上昇してきており、2008 年は 67.2%となった。 61 一方、肉と牛乳については、旧ソ連時代には農業企業による生産が多かったが、2000 年 代に入ると住民の副業経営による生産が 9 割前後を占めるようになる一方で、農業企業に よる生産は大きくシェアを落とし、1 桁のシェアまで落ち込んできている。食肉については、 2000 年代初頭に比べると、農業企業の比率は多少上昇したものの依然低く、2008 年で 9.0% となっている。一方で、農民経営の割合は、徐々に上昇し、2008 年は 9.1%となった。 また、野菜とジャガイモについては、農業企業のシェアが落ち込み、住民の副業経営の シェアが大きく伸びていることには変わりがないが、農民経営のシェアも伸びてきている。 このように、カザフスタンにおける農業は、農業企業によって大規模集約的に生産され る範囲が大きく縮小してきており、穀物、そのなかでも小麦に特化しつつある。トウモロ コシをはじめ、穀物のなかでも小麦以外のものは、より小規模な農民経営が担い、役割分 担が進みつつあるといえる。 一方、畜産物については、農業企業のシェアが 1 桁台にとどまる一方で、農民経営も伸 びてきているとはいえ、シェアは依然 1 桁台にとどまっている。ここでも、住民の副業経 営による小規模、副業的な分野へのシフトが進みつつある。畜産物の生産は、農村住民に よる極めて零細な半自給的経営によって担われるようになり、専門的な酪農経営、肉用家 畜の専門経営は、少なくなりつつある。ただし、養鶏分野については、工場型の企業経営 が生産の主力となっている。 また、野菜、ジャガイモについては、従来から住民の副業経営による生産が多かったが、 その傾向がさらに強まるとともに、より小規模な農民経営が従来の農業企業に代わり、そ の供給源として重要性を増しつつある。 このように、カザフスタンでは穀物以外の農畜産物の生産を担う経営体の零細化と非専 門化が進みつつある。この結果、生産効率の低下、供給の季節的不安定化、食品加工向け の原料の品質の劣化など、農業のみならず、国内の食品加工産業の競争力低下を招きかね ない状況が進みつつある。 また、国民所得の向上に伴い農産物・食料に対する国内市場も変化しつつあり、一部の 農産物・食料の輸入依存度が急速に高まった。 農業における生産構造も大きく変化してき ており、農民経営のシェアが高まってきている。一方で、数的にはほとんどないものの、 一部の旧社会主義農場について、海外の穀物トレーダーなど外部資本による買収や資本参 加がみられる。 4.農産物貿易 カザフスタンの主要輸出産品である小麦と大麦について、輸出量の推移をみると以下の ようになっている。なお、旧ソ連時代にはカザフスタンは旧ソ連の一構成共和国であり、 従って、当時のカザフスタン共和国からの「輸出」は統計がないため、1992 年から 2007 62 年までの推移についてみることにする。 まず、小麦については、旧ソ連崩壊直後の 1992 年の輸出量は 288.6 万トンであった。小 麦の輸出量は、年ごとの変動があり、例えば 1993 年は 464.8 万トンと増加したものの、旧 ソ連崩壊後も、極端に落ち込むことなく、1998 年まで概ね 200 万トン台を維持した。さら に、1999 年に輸出量が 310.4 万トンと 300 万トン台に乗って以降は、2003 年まで 300 万 トン台から 500 万トン台の一段の輸出増となった。1999 年以降、輸出が増加した背景には、 1998 年のロシアの金融危機後の通貨切り下げにより輸出競争力が増したことが影響してい る。 図表16 小麦と大麦の輸出量の推移 (トン) 年 小麦 大麦 年 小麦 大麦 1992 2,886,000 n.a. 2001 3,022,663 253,313 1993 4,648,000 8,000 2002 3,944,430 351,798 1994 2,209,000 829,000 2003 5,194,873 574,641 1995 2,485,588 1,200,900 2004 2,587,499 248,527 1996 1,909,441 870.687 2005 1,898,999 98,905 1997 2,792,388 742,228 2006 4,194,802 378,907 1998 2,457,140 345,615 2007 6,178,065 647,330 1999 3,103,597 626,977 2008 4,950,800 n.a. 2000 4,989,634 619,353 2009 3,229,000 n.a. (資料)国家統計局 2004 年以降も、小麦の輸出量には年ごとに変動がみられるが、これは、同国の小麦の輸 出が、基本的に生産量から国内消費量を差し引いた余剰分について行われていることによ る。 次に、大麦の輸出についてみると、こちらも、小麦と似たような動きをしている。大麦 も、余剰分を輸出する構造となっており、年ごとに輸出量に変動がみられるものの、輸出 自体は途切れることなく行われている。 旧ソ連の崩壊後の 1990 年代に、穀物の生産量は既にみたように大きく落ち込んだにもか かわらず、小麦と大麦の輸出が減っていない理由についてみるため、旧ソ連崩壊の前後の 穀物の用途別消費量の変化をみると以下のとおりである。 63 図表17 穀物の生産量、消費量、輸出量の推移(1990・1995 年) (1000 トン) 1990 年 穀物生産量 1995 年 28,488 9,506 穀物消費量(飼料用) 6,063 1,755 穀物消費量(食品加工用) 8,619 6,114 穀物輸出量 2,923 3,818 (参考)肉(と体重量) 1,560 985 (資料)国家統計局 1990 年と 1995 年とを比べると、生産量は 28,488 トンから 9,506 トンに激減するなかで、 消費の落ち込みの最も大きかったのは飼料用で、1990 年の 6,063 トンから 1995 年には 1,755 トンに減少した。食品加工用も同時期に減っているものの、飼料用ほどの落ち込みと はなっていない。生産面での飼料穀物の統計はないものの、参考として挙げた肉の生産が 同時期で大きく減少していることからも、この間で飼料穀物の生産が大きく減少したこと が推測される。 このように、穀物の生産が大きく減少したにもかかわらず、輸出量に影響がなかった背 景には、同時期の穀物生産量の減少のほとんどが飼料用の減少であり、食用穀物について はそれほど大きくは落ち込まなかったことから、結果として、食用穀物の国内需要分を差 し引いた余剰分が、輸出に回ったものとみることができる。 次に、小麦と大麦の輸入量についてみると、小麦については多少の変動はあるものの、 輸入は極めて限られている。一方、大麦については、2004 年以前には輸入は多くなかった が、2005 年以降、徐々に増加してきている。2007 年の大麦の輸入量は 65,051 トンであっ た。ただし、大麦の国内生産量は 200 万トンを超えており、この程度の輸入は需給関係に は、大きな影響を与えないとみられる。 64 図表18 小麦と大麦の輸入量の推移 (トン) 年 小麦 大麦 年 小麦 大麦 1992 245,000 20,000 2000 1,517 2,212 1993 0 0 2001 2,412 12,338 1994 1,100 530 2002 2,176 8,430 1995 934 707 2003 8,731 309 1996 4,709 1,459 2004 5,403 4,957 1997 6,184 1,225 2005 3,762 28,534 1998 4,386 4,844 2006 18,760 42,645 1999 6,134 413 2007 1,743 65,051 (資料)国家統計局 5.カザフスタンにおける農業の地域性 カザフスタンの国土の大部分は、砂漠、準砂漠(半乾燥地域)、ステップに占められてお り、その大半が農業に不向きであるか、あるいは草地を利用した牧畜のみが可能な地域と なっている。農作物栽培用の耕地として利用されているのは、総農地面積 2 億 2,200 万ヘ クタールのうち 10.4%の 2,400 万ヘクタールにとどまる。 カザフスタンの農業および牧畜業は、3 つの地域に区分されることが多い。 第 1 は、北部地域である。この地域は北部 4 州より成る、ステップ・森林ステップ地域 である。カザフスタンにおける穀物生産のおよそ 7 割(小麦の場合は 85.8%、2008 年)が ここに集中している。同地域において、穀物生産が本格化し、発展したのは、旧ソ連時代 の 1950 年代にさかのぼる。この時代は、 「処女地開拓」の時代と呼ばれ、1,990 万ヘクター ルにおよぶ土地が新たに開墾され、ロシアやウクライナなど旧ソ連の他地域からの移住者 を大量に動員して、ソフホーズが組織された。各ソフホーズは大規模な農地面積を保有し、 穀物の生産が始められた。 第 2 は、中部および中南部地域である。この地域は、農作物の栽培に不向きな乾燥地帯 が広がり、草地を利用した畜産地帯としてもっぱら発展した地域である。同地域は、カラ ガンダ州を中心とする中部から南部にかけての放牧中心の畜産地帯と東カザフスタン州を 中心とする東部の畜産地帯に分けられる。 第 3 は、南部地域である。クズロルダ、南カザフスタン、ジャンブール、アルマトイの 4 州より成る。南部のシルダリア河流域などに広がる灌漑農業地帯である。この地域にはカ ザフスタンの潅漑農地の約 7 割が集中しており、米、綿花、野菜、果樹、瓜類など、北部 ステップ地帯や中部乾燥地域では生産が困難な農作物が作られている。この地域は、人口 65 の 6 割以上がカザフスタン人であり、旧ソ連時代からロシア人などの非カザフ系住民の人 口比率が相対的に高かった北部カザフスタンとは、様々な面で対照的な地域となっている。 このように、カザフスタンの農業生産においては、地域的な多様性が極めて顕著である といえる。特に、北部ステップ地域の穀物生産地域と南部の灌漑農業地域とでは、農業の 歴史、農作物の種類、農法、生産組織などがまったく異なっている。例えば農法について みると、北部が天水に依存する非灌漑農業であるのに対し、南部では灌漑が発達している。 また、生産組織については、北部が農業企業を中心とする大規模生産組織を中心とした大 規模農業生産方式であるのに対し、南部では個人経営が主体の、相対的に規模の小さい農 業生産方式となっている。また、労働力の確保の方法や村落の社会的構造なども大きく異 なっている。 66 第2章 カザフスタンの農業関連政策 1.体制移行からロシア金融危機までの農業関連政策 1991 年の旧ソ連の崩壊により、カザフスタンの農業をとりまく環境は一変した。旧ソ連 時代には、農産物の価格は国家が決定し、生産者・消費者双方に対して補助金の支給が行 われた。このような補助金政策の下では、安易な補填が常習化し、農業生産者が生産性を 上げようというインセンティブも働かず、生産効率も低いままにとどまっていた。 これに対して、旧ソ連の崩壊後には、ロシアで行われたと同様に、カザフスタンでも農 産物価格が自由化され、基本的に市場における需給動向に応じて価格が決定されることに なった。このような価格の自由化が進められるのに並行して、農業における補助金の廃止、 資源の効率的配分、生産効率の向上などが期待された。 旧ソ連のうち、ロシア共和国(当時)が先行した土地制度の改革や農業企業制度の導入 に倣い、カザフスタンにおいても、農地制度の改革と集団農業制度の見直しが進められた。 そして、1992 年には、コルホーズ、ソホーズの民営化とともに、土地の使用権が民間に移 譲された。 このように、市場経済への移行開始直後から始められた農業政策は、農地制度の改革に よる農地の価値創出と流動性の確保、ソフホーズ・コルホーズの農業企業への再編成、農 民経営の創出といった構造改革にその中心がおかれていた。そして、このような政策推進 の根本には、自由化と競争促進、個人農家の創設により、弱者の淘汰を図ること、残った 強者をさらに統合、再編成することで、真に競争力のある農業経営体を形成し、これを核 にしてカザフスタン農業の発展と競争力の強化を図るという意図があった。 その後、ほぼ全ての農業企業の再登録が行われ、有限会社、農業協同組合などへの組織 の変更が行われた。しかし、多くの場合、このような変革当初の経営体の変更は、中身を そのままに名称のみを変えたにすぎないものが多く、組織の実態は従来とほとんど何も変 わらないものであった。 一方で、結果的にその後のカザフスタンにおける農業企業の再編に大きな影響をもたら したのが、農地改革の推進であった。既に述べたように、カザフスタンの農地改革は、農 地を国有とせず、初期の段階から農地の利用権を、相続、売買、賃貸借の対象として認め、 その取引を自由化したことに大きな特徴がある。この制度の導入により、農地の流動性が 著しく高まり、農地の所有者に大きな変化をもたらした。 所有者の変更は、従来の大型集団企業をベースとする大型企業の集約化と細分化、また 比較的規模の小さな農業企業からの世帯単位の農民経営の離脱を中心に進んだ。 これに加えて、旧ソ連崩壊後の経済状況の悪化と、政府支援の停止、採算性を重視した 経営経験の不足などの要因により、多くの農業経営体が経営危機に陥り、倒産した。政府 はこのような破産企業に救済を与えず、弱者淘汰が進められた。 67 この結果、生き残った農業企業の競争力が強まり、これが、1990 年代終盤以降の生産の 回復に大きく貢献することとなった。 2.ロシア経済危機後の農業関連政策の変化 これまでみてきたように、1990 年代のカザフスタンにおける農業関連政策は、競争力の 強化を市場に委ねるレッセフェールの立場が取られた。政府は実際の農業企業の再編には 一切関与せず、構造改革が順調に進むための法律の制定などのルール作りを行うだけであ った。 しかし、1998 年のロシアの通貨・金融危機の影響から農業を取り巻く環境が一段と悪化 するに伴い、農業政策に、農業生産者の保護という観点が見え始めるようになった。さら に、カザフスタンの農産品の輸出競争力を高めたのが、危機後に行われた通貨の切り下げ であった。この場合、通過の切り下げはやむにやまれぬもので輸出競争力の向上を意図し て導入したものではなかったが、結果的に、その後の輸出の拡大に大きく貢献した。 一方、これまでみてきたように、旧ソ連崩壊後の農業政策は、所有形態の転換に重点が おかれたが、従来の国からの手厚い保護が縮小されたため、他の様々な要因で落ち込んだ 農業生産の減少にさらに拍車をかけるものとなった。しかし、農業の持続的な発展と競争 力の強化のためには、肥料・農薬の使用拡大、機械化の推進などが不可欠であるという認 識が強まり、国家財政による農業への支援が再開された。 68 第3章 カザフスタンの農業・農産品の評価とカザフスタンにおける農業投資の可能性 1.カザフスタンの農業・農産品の国際市場における位置づけ カザフスタンの農産物および食品のうち、輸出額の多い上位 10 品目は以下のとおりであ る。 図表19 カザフスタンの農産物および食品の輸出額の上位 10 品目 順位 品目 2007 年 輸出額 2006 年 輸出単価 輸出額 (1000 ドル) (ドル/トン) (1000 ドル) 1 小麦 1,170,509 189 522,755 2 小麦粉 339,224 233 172,352 3 大麦 111,365 172 39,503 4 スイカ 39,890 410 17,165 5 トマト 21,207 726 19,769 6 精糖 15,596 469 35,607 7 乾燥タマネギ 14,303 165 9,570 8 菜種油 11,483 328 6,123 9 ひまわり油 9,995 849 6,409 10 加工食品 9,899 428 7,828 (資料)国家統計局 カザフスタンの輸出上位 3 品目は、小麦と大麦の穀物と第 2 位の小麦粉となっている。 カザフスタンの小麦は、蛋白含有量が多く、旧ソ連時代から良質の食用小麦としての評 価が高く、当時からロシアなどへの輸出が行われていた。小麦の品質自体はかなり高いこ とに加え、カザフスタンでは、現在、戦略的に蛋白含有量の多い食用小麦の生産比率を高 めてきており、その割合は 8 割強に達している。 また、一方で、カザフスタンは小麦の加工品の輸出にも力を入れ始めており、近年、小 麦粉の輸出が増加している。 小麦以外の穀物のなかでは、大麦が第 3 位に入っており、安定的に輸出が行われている。 スイカとトマトが第 4 位と第 5 位に入っているが、これは遠距離の輸送には向かないこ とに加え、差別化が打ち出しにくい品目である。また、6 位以下の品目についても、例えば、 精糖、植物油などにおいて差別化を図るのは難しい状況にある。 なお、2007 年のトウモロコシの輸出額は 50.9 万ドル、大豆は 75.8 万ドルにとどまる。 69 2.カザフスタンの農業・農産物の国際競争力の評価 (1)小麦 カザフスタンの農産物の中で、最も品質的に評価されているのは小麦である。しかし、 小麦のカザフスタンからの輸出については、競争力の観点から難しい面もある。 第 1 は、輸送コストの問題である。 この問題は、カザフスタンの地理的な位置と深く関わっており、小麦に限らず、すべて の農産物の輸出に関係する。 小麦を加工せず、小麦のままで輸出する場合には、付加価値の少ない割に輸送運賃が多 くかかる。そして、輸送コストの負担が大きすぎる場合、競争力の確保が難しいという問 題が生ずる。とくに、カザフスタンは内陸国であり、自国内に港湾を持っていないことに 加え、海上輸送を行うための港湾までの距離が極めて遠いために、そこまでの輸送費もか かるという構造的な問題を抱えている。一方で、空路での輸送はコストの高さの面から言 って現実的ではない。仕向地にもよるが、カザフスタンの場合、輸送コストが大きなネッ クとなっている。 また、カザフスタンの輸出先が従来のようにロシアや中央アジア一辺倒ではなく、より 遠方の地域へと変わってきており、輸送コストの問題は一層深刻になっている。しかも、 2005 年以降、ロシアが自国経由の第三国への輸出穀物の鉄道輸送に対して、輸送料金を大 幅に引き上げており、この点においても輸送コストの上昇が著しくなっている。この結果、 黒海やバルト海の港湾に小麦を輸送する場合のコストは、トンあたり 40~50 ドルとなり、 生産者価格の 2 分の1から 3 分の 2 にも達している。 鉄道を利用した陸路での輸送の場合、ロシアや近隣の中央アジア諸国、あるいは、同じ く距離的に近いコーカサス地方の CIS 諸国(グルジア、アゼルバイジャン、アルメニア) とその先のトルコ、そして国境を接する中国とは、距離、鉄道などの陸路でのアクセス面 において、比較的アプローチがしやすい位置関係にある。 これ以外では、ロシア経由の陸路で、ウクライナや旧東欧諸国へのアプローチ、また、 黒海を経由するアフリカ諸国への海路を通じた輸出がある。 しかし、いずれの場合も、輸送コストの軽減が競争力の面において大きな課題となって いる。 第 2 は、付加価値の低さである。 これも、小麦に限らず、農産品全般についていえるが、小麦の場合も、小麦のままで輸 出していては、いくら良質の食用小麦であっても、付加価値には限界がある。 このため、カザフスタンでは、近年、小麦の加工品の輸出に力を入れようとしている。 小麦に関しても、そのまま輸出するのではなく小麦粉の形で輸出する割合が大幅に増えて いる。2007 年の小麦粉の輸出量は 145 万トンで、同年の小麦の輸出量 618 万トンの 4 分の 70 1近くに達している。しかし、加工品強化の取り組みは、小麦粉を除いては、目に見えた 結果は表れていない。 一方、加工品の中では、小麦粉は最も付加価値が低い製品であり、依然運送コストの問 題も残る。 また、小麦粉以外の製品として、近年注目されているのが、EU 向けのバイオエタノール である。カザフスタンでは、政府が支援し、北カザフスタン州で2つの最新プラントが建 設され、既に生産を開始している。また、同プラントでは、副製品としてグルテンの生産 も行われ、これも輸出向けとなっている。 カザフスタンは潜在的に大きな輸出余力を抱えており、供給面における問題は比較的少 ないといえる。しかし、このような潜在性を顕在化させるためには、新しい市場の開拓と そこに輸出するための輸送問題の解決が大きな課題となっている。 (2)小麦以外の作物の可能性 これまでみてきたように、カザフスタンの農業生産、とりわけ輸出用農産物の生産は小 麦に集中している。小麦以外の作物については、そもそも現状の生産量が極めて少ない。 実際、穀物のなかでは小麦の輸出が順調であり、この結果として、小麦の場合にはある程 度のスケールメリットが働いているといえる。一方で、小麦以外の作物については、生産 量も輸出量も少なく、今後、かなり急速に生産量が増えない限り、スケールメリットを享 受することは難しい状況にある。 小麦以外の作物が、輸出向けに競争力を持つ前提として、小麦の場合にみられるように、 農業企業による大規模生産が可能であることが、極めて重要であるといえる。しかし、農 業企業の生産は穀物、そのなかでも小麦への集中を強めており、小麦や現在生産している 農産物を切り替えて、新たに生産を始める可能性は極めて低いとみられる。 このように、現時点では、カザフスタンにおいて、農民がトウモロコシや大豆など、小 麦以外の作物の生産を自主的に選択する環境にはないといえる。しかし、良質の小麦の生 産にみられるように、カザフスタンの北部地域は肥沃な黒土地帯に覆われており、穀物、 油糧種子など、多くの種類の農産物の生産に適したところである。ただし、北部ステップ 地帯は、年間の降水量が 250~350 ミリ程度と少ないことや、冬季には極端に温度が低下す るなどの問題点もあり、注意が必要である。特に、乾燥や寒気に弱い作物・品種の栽培は、 避けなければならない。 今後、小麦以外の作物の生産の可能性があるとすれば、カザフスタンの農業企業への生 産の委託や、農地を賃借し、そこで農業従事者を雇って栽培を行うなどの方法である。 カザフスタンでは、世界第 9 位の面積を持つ国土に開発可能な広大な農地を有し、将来 的にみて、農地の拡大とそれに伴う農産物の生産拡大の潜在性は極めて高いということが できる。このような生産余力の存在が、将来的な潜在性という意味で、カザフスタンの大 きな魅力となっている。 71 3.カザフスタンの外資受け入れ制度・関連法制 (1)カザフスタンの外資受け入れ制度 カザフスタンの外資政策は以下の法律に基づいている。 ① 外国投資法(2003 年1月改正・発効) ② 国家調達法(1997 年3月発効) ③ 2001 年税法 ④ 2003 年税関法 外国投資法(2003 年1月改正・発効)は、外国投資家への内国民待遇および内外投資家 間の非差別を認めている。政府は構造改革の一環として国営企業の民営化を進めており、 これまでに銀行、石油・ガス会社等の民営化を実施している。 さらに、国家支援法により、外国投資受け入れの優先分野は以下の通りとなっている。 これらの分野に投資する外国投資家は関税や法人税の減免について国家投資委員会と交渉 することができる。また、外国投資導入のための特別経済地域が設けられている。 ① 電気・通信を含む社会基盤整備 ② 軽工業 ③ 農産物の栽培および家畜の飼育 ④ 肥料および農薬の製造 ⑤ 保健、教育、スポーツ、および観光を含む公共サービス ⑥ 首都移転に関する投資 (2)カザフスタンにおける農業関連投資の現状と今後の可能性 既に述べたように、カザフスタンにおいては、移行経済の早期の段階から、土地の使用 権の流動化を進め、その結果、国内資本のみならず、外国資本が農業に投資をした場合に、 農地を利用することが可能となっている。しかし、認められる権利は土地の利用権であり、 厳密な意味での所有ではない。 また、カザフスタンでは、 「農産物の栽培および家畜の飼育」が外国投資受け入れの優先 分野の一つに選ばれており、国家投資委員会の優遇措置を受けて投資を行うことが可能で あるとされている。実際、カザフスタンでは、数は少ないものの、穀物商社などの外部投 資家による農業企業の買収や経営参加の例が既にある。 しかし、外国資本が直接農業企業の経営に携わる形での農業関連投資は、今後は限定的 にしか認められなくなる可能性がある。この背景には、石油関連投資などの例に見られる 72 ように、一種の資源ナショナリズムの台頭があり、直接投資や資本参加といった形での外 資の参画に対する警戒感がある。また、外資に対する国民の不信感もある。最近では、2009 年に中国政府がカザフスタン政府に対して、大豆や小麦の栽培に数百万ヘクタールの農地 の貸与を申し入れたことがあった。ところが、この中国の申し入れに政府が回答する前に、 2010 年 1 月にアルマトイで政府の対中政策を批判するデモが発生した。この背景には、中 国に対する根強い警戒心があるものの、程度の差こそあれ、農地を外資に提供することに 対しては、政府、庶民レベルともに反感があることは否定できない。 アラブ首長国連邦のアブダビとの間でも、2008 年以降、カザフスタンでの小麦栽培関連 の農業投資についての話し合いがもたれているものの、農業以外の投資プロジェクトが順 調に進んでいるのに比べ、農業関連の投資については目立った進展がみられない状況にあ る。なお、アブダビは食料の 85%を輸入に依存しており、食料安全保障の観点から、既に スーダンにおいて 29,400 エーカーの農地に投資を行うとともに、パキスタンでも農地を 5 億ドル分購入する計画を進めている。 このような状況の下、農業分野においては、カザフスタン農業の生産性の低さを改善す るための技術支援や、収穫物の品質を高めるためのきめの細かい管理技術などの面で、貢 献が期待されているといえる。 これに加えて、カザフスタン政府は、輸出の促進を目的に、農産品の付加価値を高める ことにも力を入れている。とくに、農産品加工、食品産業といった分野において、優れた 技術を持った海外からの投資については、優先的に受け入れていくことを表明している。 このため、このような加工分野、食品産業における投資も極めて有望である。カザフスタ ンでは、旧ソ連時代から工業分野での発展が遅れており、食品加工分野においても、技術 面での支援を必要としている。 農業への直接的な投資に加え、このような食品産業の面においても、日本をはじめとす る先進諸国の技術的な支援が強く求められており、投資の有望分野として期待される。 なお、以下では、これまでに進んでいる、農畜産業、農畜産加工関連の投資の例を挙げ る。 ・ 農産物の生産構造の垂直統合プロジェクト (加工および国内・海外市場への流通チャネル整備) プロジェクト期間:5 年間 投資地域:コスタナイ州、東カザフスタン州、アルマトイ市 投資額:7 億ドル ・ カザフスタンの穀物輸出チャネルの多元化プロジェクト (穀物専用ターミナルの建設) プロジェクト期間:2007~2010 年(初期調査計画が終了) 73 投資地域:ポチ港(グルジア、年間取扱能力 35 万トン、貯蔵能力 2.45 万トン) アミラバード(イラン、年間取扱能力 50 万トン、貯蔵能力 2.5 万トン) 投資額:4,660 万ドル ・ 穀物およびナタネのバイオ燃料加工施設 プロジェクト期間:2007~2009 年 投資地域:北カザフスタン州 投資額:3.05 億ドル ・ ナタネ加工施設 2007~2012 年 北カザフスタン州ペトロパヴロフスク 生産能力:年間 18 万トン 投資額:1 億 6,800 万ドル ・ 乳製品および食肉加工 2007~2009 年 パブロダール州、コスタナイ州、アクモラ州、東カザフスタン州 生産能力:牛肉年間 4,500 トン、高級羊肉年間 440 トン 投資額:1 億 4,000 万ドル ・ この他、現在進行しているプロジェクトでは、小麦粉加工施設、牛乳の製造・加工施 設、乳製品の製造・加工設備、バイオクリーン農産品の生産施設などがある。 ・ また、農産物の加工施設の建設や生産・加工設備のアップグレードや新築プロジェク トに関しては、補助金が提供される。 74