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平成 20 年度 対馬野生生物保護センター 年間活動報告書
平成 20 年度 対馬野生生物保護センター 年間活動報告書 引退した2代目公開ツシマヤマネコ「つつじ」のあくび 平成 22 年 1 月 対馬野生生物保護センター運営協議会 (環境省・長崎県・対馬市) 平成20年度トピックス 6月に一般公開を引退した「つつじ」 6月から一般公開されている「福馬」 佐護の民家で保護されたヤマネコ 佐護の民家で保護されたヤマネコの野生復帰 (1月 25 日) (2月 12 日) 井の頭自然文化園イベント 長崎県立博物館「島の宝 対馬展」で 「ヤマネコからの手紙」(11 月1日) ツシマヤマネコ展開催(9月 13 日~10 月 20 日) 交通事故ゼロ記録看板の設置 警戒標識への点滅灯の取付 (6月 26・27 日) (8月 10・24 日) ハザードマップとエコドライバーズマニュアル とらばさみ回収キャンペーンで回収したとらばさみ 既設カルバートの清掃(8月 24 日) とらやまの森再生プロジェクト 「市民参加の森づくりイベント 2008」(11 月 15 日) 第 14 回野生生物保護学会への参加(11 月9日) 対馬環境教育ワークショップ 2008(2月 20 日) 佐護の米づくり勉強会 舟志区座談会 舟志でヤマネコ調べ 2008(12 月7日) 千俵蒔山草原再生プロジェクト(3月8日) 目 次 平成 20 年度トピックス Ⅰ 対馬野生生物保護センターとは・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1 1. 2. 3. 4. Ⅱ 活動目標 協力体制 ツシマヤマネコ保護増殖事業とは スタッフ 平成 20 年度 TWCC 利用状況・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・5 1. 来館者数 2. 施設の利用 (1) レクチャールームの利用 (2) 実習、研究施設の利用 (3) 視察等での利用 Ⅲ TWCC の取り組み①-普及啓発活動-・・・・・・・・・・・・・・・・・・・9 1. イベント (1) 定期自然観察会 (2) 「宝の島 対馬展」にてツシマヤマネコ展開催 (3) 学生実習 (4) とらやまの森再生プロジェクト「市民参加の森づくりイベント 2008」 (5) 捨てペット防止キャンペーン (6) 第 14 回野生生物保護学会への参加 (7) ヤマネコからの手紙 2. 学校教育との連携 (1) 各学校との連携内容 (2) 学校指導者との連携内容 (3) 対馬環境教育ワークショップ 3. 広報活動 (1) 普及啓発物の作成 (2) 季刊誌「とらやまの森」作成・配布 (3) ホームページの運営 4. ツシマヤマネコ一般公開 (1) 一般公開の趣旨と公開個体の交代 (2) ライブカメラの設置 Ⅳ TWCC の取り組み②-調査研究活動-・・・・・・・・・・・・・・・・・・21 1. 野生生物生息情報の収集 2. 動物による既設カルバートの利用等モニタリング調査 3. 平成 20 年度7月 29 日に下島でツシマヤマネコ確認 4. 他の研究機関への協力 (1) 岐阜大学における糞中ステロイドホルモンの測定 (2) 琉球大学における行動観察 (3) 琉球大学における胃内容物に関する研究 (4) 琉球大学における頭骨形態に関する研究 (5) 北海道大学における遺伝的多様性に関する研究 (6) 神戸大学における生殖子の採取と保存 (7) 東京大学におけるツシマヤマネコ保護に関するアンケート調査 Ⅴ TWCC の取り組み③-保護個体及び死体の収容、飼育下個体群の管理-・・・・27 1. 保護個体及び死体の収容 2. 保護個体の野生復帰・判定訓練(Fh-39) 3. 飼育下個体群の管理 (1) 飼育下個体群の分散飼育 (2) TWCC における飼育個体 (3) TWCC での飼育管理の実施内容 4. その他野生動物の救護 ハヤブサ 海鳥の油汚染 Ⅵ TWCC の取り組み④-保護対策-・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・35 1. 交通事故対策 (1) ツシマヤマネコ交通事故防止キャンペーン (2) 警戒標識への点滅灯の取り付け (3) 移動式看板の作成 (4) 交通事故ゼロ記録看板の設置 (5) ハザードマップ及びドライバーズマニュアルの作成・配布 (6) 既設カルバートの清掃・構造改善 2. とらばさみ対策 3. 生息地の評価-ポテンシャルマップの作成- 4. ツシマヤマネコ遺伝的多様性の評価 Ⅶ TWCC の取り組み⑤-地域連携-・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・41 1. 行政機関連携の確保 (1) 対馬地区ネコ適正飼養推進連絡協議会 (2) 対馬野生動物交通事故対策連絡会議 (3) 対馬野生生物保護センター運営協議会 2. 市民、団体等との協働 (1) 舟志での活動 ① 舟志区集落座談会 ② 舟志の森づくり推進委員会 ③ 舟志の森づくりモニタリング調査 ④ 舟志でヤマネコ調べ 2008 ⑤ やまねこ音楽祭 2008 (2) 佐護での活動 ① 佐護の米づくり勉強会 ② 千俵蒔山草原再生プロジェクト ③ 田んぼの楽校(佐護小中学校) (3) 田ノ浜での活動 <資料編> 1. 対馬野生生物保護センター運営協議会規約 2. 対馬野生生物保護センター展示室等管理要項 3. 対馬野生生物保護センター施設等利用規程 4. ツシマヤマネコ保護増殖事業計画 Ⅰ 対馬野生生物保護センターとは Tsushima Wildlife Conservation Center 1. 活動目標 対馬野生生物保護センター(以下、 TWCC。環境省対馬自然保護官事務所含 む)は、ツシマヤマネコなど絶滅のお それのある野生生物保護の拠点施設と 保護行政 して、平成9年に開設されました。 TWCC では、対馬の豊かな自然のシン ボルであるツシマヤマネコを守ること は、対馬の自然を守ること、自然と深 く繋がっている対馬の暮らしを守るこ とであるという活動理念のもとに、 「対 馬もヤマネコも-ツシマヤマネコと共 普及啓発 調査研究 図Ⅰ-1 TWCC の基本的機能 生する地域社会」の実現を目指し、保 護増殖事業を進めるための保護行政や 調査研究、普及啓発活動、その他救護 された野生動物の飼育・リハビリテー ションなどに取り組んでいます。 1 Tsushima Wildlife Conservation Center 2. 協力体制 TWCC では、行政機関、研究機関、NPO、市民など関係者の協力と参画を得ながら、野 生生物保護活動を展開しています。 関係行政機関 ・ ツ シ マ ヤ マ ネ コ 保 護 増 殖 事 業 … 環 境 省 ・農 林水産省 ・希 少 野 生 動 植 物 種 保 護 管 理 事 業 … 九 州 森 林 管理局長崎森林管理署 ・交 通 事 故 対 策 、生 息 状 況 調 査( 痕 跡 調 査 )、 環境調和型ほ場整備等…長崎県 ・ イ エ ネ コ 対 策 、 広 報 、 観 光 PR 等 … 対 馬 市 大学等研究機関 ・生態に関する調査研究…琉球大学 ・ DNA 分 析 に よ る 種 、 個 体 及 び 性 判 別 技術研究、遺伝的多様性研究等…北 海道大学 ・配偶子の収集保存、人工繁殖技術研 究…神戸大学 ・ 疫 学 調 査 ・・・東 京 大 学 、 日 本 獣 医 生 命 科学大学 ・病理解剖検査…鹿児島大学 ・ 性 周 期 に 関 す る 研 究 ・・・岐 阜 大 学 ・ 保 護 へ の 住 民 の 意 識 調 査 ・・・東 京 大 学 多様な主体のインターフェース 日本動物園水族館協会 +動物園 TWCC ・飼育下繁殖個体の飼育、繁殖 ・飼育下繁殖個体の調査研究 ・ブ ー ス 展 示 等 に よ る 島 外 で の 普 及 啓 発活動 … 井 の 頭 自 然 文 化 園 、富 山 市 フ ァ ミ リ ー パ ー ク 、福 岡 市 動 物 園 、よ こ はま動物園ズーラシア ・保護行政 ・調査研究 ・普及啓発活動 すべての主体が重要な参加者 各種民間団体 市民ボランティア ・普及啓発活動、餌場環境の整備、情報収集及び (ツシマヤマネコ応援団) TWCC へ 情 報 提 供 等 … ツ シ マ ヤ マ ネ コ を 守 る 会 ・ TWCC 活 動 支 援 ( HP の 運 営 、 イ ベ ン ト 補 助、情報提供等) ・傷病個体の救急救命活動、ペットの診療と適正 飼 育 の 普 及 活 動 … NPO 法 人 ど う ぶ つ た ち の 病 院 ・生 息 環 境 づ く り の 連 携( と ら や ま の 森 再 生 (対馬動物医療センター) プロジェクト:森林の再生・改善) ・ペットの避妊去勢手術、ウィルス検査、マイク ・交通事故対策プロジェクト ロチップ挿入等の実施…九州地区獣医師会連合 会ヤマネコ保護協議会 協 議 会 携 協 働 ツシマヤマネコの生息を脅かす要因の除去・軽減 生息 適地 の 減 少、 交 通 事 故 、 イ ヌ に よ る 捕 殺 、 ト ラ バ サ ミ に よ る 錯 誤捕獲、イエネコからの病気感染、イエネコとの餌資源の競合 等 + 地 域 活 性 化 目標 ・ ツシマヤマネコ保護増 殖連絡協議会 ・ 対馬地区ネコ適正飼養 推進連絡協議会 ・ 対馬野生動物交通事故 対策連絡会議 連 実行 課題解決のための連携確保 対馬もヤマネコも ツシマヤマネコと共生する地域社会の実現 図Ⅰ-2 2 協力体制 Tsushima Wildlife Conservation Center 3. ツシマヤマネコ保護増殖事業とは 保護増殖事業とは、 「絶滅のおそれの 環 境 省 野生生物保護対策検討会 ある野生動植物の種の保存に関する法 律」 (通称:種の保存法)に基づいて策 定される「保護増殖事業計画」により 環境省 実施される事業のことです。 保護増殖 絶滅のおそれのある野生動植物を保 分 科 会 護するためには、捕獲、譲渡等の規制 評 価 ・助 言 実施 成果の報告 提案 保護増殖事業 維持・改善させるための取り組みが必 飼育下 生息域内 要です。種の保存法では、絶滅の危機 繁殖・野生復帰 に瀕し、保護の取り組みが必要な野生 検討委員会 や生息地等の保全だけでなく、減少し た個体数を回復させ、また生息環境を 動植物を「国内希少野生動植物種」に 指定しています。その中でも特に、生 息状況のモニタリング、生息環境の維 保 全 委員会 課題に沿った議論 図Ⅰ-3 持・改善、飼育下繁殖、普及啓発など 平成 20 年度ツシマヤマネコ保護増殖 事業の実施体制 の事業を推進する必要がある種については「保護増殖事業計画」を策定し、保護及び 増殖のための事業を積極的に推進していくこととしています。平成 21 年3月現在、国 内希少野生動植物種 81 種のうち 47 種で保護増殖事業計画が策定され、これに基づく 事業が実施されています。 ツシマヤマネコについては、 「自然状態で安定的に存続できる状態になること」を目 標に、平成7年7月に環境庁(当時)・農林水産省共同で「ツシマヤマネコ保護増殖事 業計画」が策定されました。以来、TWCC を拠点とし、関係者の協力と参画を得ながら 保護増殖事業を推進しています。なお、事業の実施に際しては、専門家による「ツシ マヤマネコ保護増殖分科会」を設置し、評価・助言を得ることとしています。 表Ⅰ-1 ツシマヤマネコ保護増殖事業計画の事業項目 1. 生息状況の把握・モニタリング (1)島内での分布状況の把握 (2)生息状況のモニタリング (3)個体の健全性の把握 2. 生息地における生息環境の維持・改善 3. 飼育下での繁殖 4. 飼育繁殖個体の再導入を含む野外個体群の回復 5. その他 (1)交通事故防止対策 (2)傷病個体の救護・リハビリテーション (3)生息地における監視 (4)移入種等による影響の防止 4.(5)普及啓発の推進 スタッフ (6)効果的な事業の推進のための連携の確保 とらばさみで負傷した ツシマヤマネコの救護 3 Tsushima Wildlife Conservation Center 4. スタッフ 佐々木 真二郎 自然保護官 阿比留 左智江 事務補佐員、ビジター担当 上山 剛司 事務補佐員、教育普及担当 大谷 雄一郎 教育普及担当 川口 誠 飼育担当 神宮 有梨奈 飼育担当 田代 三徳 ビジター担当、事務補助 前田 剛 アクティブ・レンジャー(自然保護官補佐) 地域社会づくり担当 茂木 周作 アクティブ・レンジャー(自然保護官補佐) 調査研究担当 山本 英恵 アクティング・レンジャー(自然保護専門員) 獣医師 4 Ⅱ Tsushima Wildlife Conservation Center 平成 20 年度 TWCC 利用状況 1. 来館者数 平成 20 年度の来館者数は、10,486 人、TWCC オープン(平成9年8月)からの来館 者総数は、144,944 人になりました。平成 15 年度にヤマネコの一般公開を開始後は、 来館数は増加していましたが、平成 17 年度から大幅に減少し、一般公開する前の来館 者数まで落ち込みつつあります。更に平成 19 年度は館内でのイベント・学校での総合 学習等など、上島中心に行っていましたが、下島の参加者が少なかった(時間が掛か る)ため、平成 20 年度は、センター外(下島)での活動を中心に行いましたその分来 館者数が減少、子供の来館数は、平成 18 年度「1,814 人」・平成 19 年度「1,702 人」・ 平成 20 年度「1,342 人」と減っています。 更に韓国からのツアー客が、平成 18 年度「1,632 人」・平成 19 年度「1,080 人」・平 成 20 年度「887 人」と大幅に減少しています。来年度は、イベント・総合学習などの 企画運営および展示物の作成等を改善し、来館者の増加に心掛けたいと思います。 人数 島内 島外 18000 合計 16000 14000 12000 10000 8000 6000 4000 2000 0 H9 H10 H11 H12 H13 H14 H15 H16 H17 H18 H20 年度 H19 ツシマヤマネコ一般公開開始 図Ⅱ-1 来館者数の推移 島外 島内 人数 2500 2000 1500 1000 500 0 4 5 6 7 図Ⅱ-2 8 9 10 11 12 1 2 3 月 月別来館者数の推移 注:左縦棒(H17 年度)、中央縦棒(H18 年度)、右縦棒(H19 年度) 5 Tsushima Wildlife Conservation Center 2. 施設の利用 (1) レクチャールームの利用 表Ⅱ-1 平成 20 年度対馬野生生物保護センター レクチャールーム利用一覧 利用日 利用団体 利用目的 4 月 26 日 ツ シ マ ヤ マ ネ コ 応 援 団 ( 12 名 ) 年度総会開催のため 6 月 14 日 ツシマヤマネコ応援団(7名) 勉強会開催のため 9 月 20 日 ツ シ マ ヤ マ ネ コ 応 援 団 ( 13 名 ) 勉強会開催のため 11 月 1 日 ツ シ マ ヤ マ ネ コ 応 援 団 ( 14 名 ) 勉強会開催のため 12 月 13 日 ツ シ マ ヤ マ ネ コ 応 援 団 ( 12 名 ) 勉強会、交流会開催のため (2) 実習、研究施設の利用 表Ⅱ-2 平成 20 年度対馬野生生物保護センター 実習・研究利用一覧 利用日 利用団体 利用目的 6 /19~ 6 /21 琉球大学理学部(学生2名) ツシマヤマネコの行動観察調査のため 7 /31~ 8 /3 琉球大学理学部(学生2名) ツシマヤマネコの行動観察調査のため 日本大学、日本獣医生命科学大学、岐阜大学、 8 /4 ~ 8 /17 TWCC 学 生 実 習 参 加 の た め 金沢学院大学、近畿大学(学生5名) 日本大学(2名)、東京農工大学、 8 /18~ 8 /31 TWCC 学 生 実 習 参 加 の た め 宮崎大学、岐阜大学(学生5名) 6 9 /23~ 9 /28 琉球大学理学部(学生2名) ツシマヤマネコの行動観察調査のため 11/3 ~ 11/13 琉球大学理学部(学生2名) ツシマヤマネコの行動観察調査のため 2 /16~ 3 /17 日 本 大 学 、宮 崎 大 学 、東 京 農 工 大 学 (学 生 3 名 ) カルバート調査のため 3 /10~ 3 /12 日本大学(1名) 鳥類標本サンプリングのため Tsushima Wildlife Conservation Center (3)視察等での利用 表Ⅱ-3 平成 20 年度対馬野生生物保護センター 視察等での利用一覧 利用日 利用団体 利用目的 5 月 16 日 離島振興対策協議会事務局(4名) 離島振興事業視察 6月9日 (財)横浜市緑の協会(4名) 対馬視察 6 月 17 日 九州地方環境事務所(3名) 対馬視察 6 月 17 日 長崎県環境部(1名) 7月5日 横 浜 弁 護 士 会 公 害 環 境 委 員 会 ( 13 名 ) 対馬ヤマネコ調査の協力依頼について 7月5日 九州地方環境事務所(7名) 九州西部視察 9 月 11 日 九州地方環境事務所(1名) 対馬視察 11 月 8 日 JICA、 ( 財 ) 横 浜 市 緑 の 協 会 ( 5 名 ) 対馬視察 11 月 14 日 長崎県対馬地方局管理部総務課(3名) 施設見学 2月3日 軽井沢町議会議員(9名) ツシマヤマネコの保護とその管理について 3 月 11 日 佐世保市亜熱帯動植物園(4名) 対馬視察 平 成 20 年 度 自 治 体 職 員 協 力 交 流 事 業 に よ る 協力交流研修員の訪問について 「ながさき歴史発見・発信プロジェクト」 3 月 22 日 長崎県 文 化 振 興 課 ( 10 名 ) 推進会議の対馬視察について 3 月 26 日 長崎県知事他(6名) 対馬視察 7 Tsushima Wildlife Conservation Center 8 Ⅲ TWCC の取り組み①-普及啓発活動- Tsushima Wildlife Conservation Center 1.イベント ツシマヤマネコ保護のためには、地域住民をはじめ島内外の数多くの方々の理解と 協力が必要不可欠です。まずは「知ってもらう」ことが保護の第一歩と考え、TWCC で はツシマヤマネコの生態や保護活動を知ってもらうために、イベントや学校教育との 連携等様々な普及啓発活動に取り組んでいます。下表の通り、TWCC では普及啓発活動 の一環として、定期的な自然観察会やイベント、ツシマヤマネコ展等を開催しました。 表Ⅲ-1 開催日 4月6日(日) 5 月 1 ・27・29 日 、 7 月 16 日 、 10 月 20・29 日 、 12 月 1 日 5月4日(日) 5月5日(月) 平成 20 年度対馬野生生物保護センター実施及び共催・協力イベント一覧 イベント名 自 然 ふ れ あ い イ ベ ン ト 「 エ コ MY は し づ く り ! 」 参加者数 3名 田んぼの楽校(主催:佐護区資源保全活動隊) ヒトツバタゴ祭り(主催:上対馬町商工会) 自然ふれあいイベント「ねずみの時間」 6 月 1 日 、 7 月 17 日 、 対 馬 ヤ マ ネ コ 田 ん ぼ の 学 校 ( 主 催 : 対 馬 ヤ マ ネ コ 田 ん ぼ の 学 校 ) 10 月 19 日 、 11 月 2 日 、 12 月 12 日 6月8日(日) あじさい祭り(主催:あじさい祭り実行委員会)ツシマヤマネコ・ブース出展 6 月 26・27 日 交通事故ゼロ記録看板の設置 自然ふれあいイベント「虫の標本づくり」 7 月 20 日 ( 日 ) 9名 25 名 10 名 23 名 2名 - 8 月 4 日 ~ 8 月 31 日 8月9日(土) 8 月 16 日 ( 土 ) 9 月 13 日 ~ 10 月 20 日 9 月 27・28 日 10 月 12 日 ( 日 ) 11 月 1 ・2 日 11 月 7 日 ~ 9 日 学生実習(前・後期2週間ずつ) 第4回捨てペット防止キャンペーン(主催:対馬地区ネコ適正飼養推進連絡協議会 自 然 ふ れ あ い イ ベ ン ト 「 ヤ マ ネ コ 博 士 学 校 2008」 宝の島 対馬展(ツシマヤマネコ・ブース出展) ツシマヤマネコ交通事故防止キャンペーン 自然ふれあいイベント「どんぐりハイキング」 峰町文化祭(主催:対馬市教育委員会)ツシマヤマネコ・ブース展示 第 14 回 野 生 生 物 保 護 学 会 11 月 15 日 ( 土 ) ヤマネコ音楽祭(主催:ヤマネコ音楽祭実行委員会)ツシマヤマネコ・ブース出展 と ら や ま の 森 再 生 プ ロ ジ ェ ク ト 「 市 民 参 加 の 森 づ く り 2008」 ( ツ シ マ ヤ マ ネ コ 応 援 団 、 NPO 法 人 対 馬 郷 宿 、 TWCC 共 催 ) - 11 月 16 日 ( 日 ) 12 月 16 日 ( 火 ) 1 月 17 日 ( 土 ) 2 月 1 日 、 3 月 15 日 自 然 ふ れ あ い イ ベ ン ト「 ツ シ マ ヤ マ ネ コ の 今 」、内 山 盆 地 祭 り( ツ シ マ ヤ マ ネ コ・ブ ース出展) 自然ふれあいイベント「エコ年賀状づくり!」 自然ふれあいイベント「ツシマヤマネコ物語」 舟志区集落座談会 7名 - 2 月 3 日 、 3 月 14 日 佐護区米づくり勉強会 2 月 14 日 ( 土 ) 自 然 ふ れ あ い イ ベ ン ト 「 家 具 製 作 所 Kiiro」 2 月 20 日 ( 金 ) 対馬環境教育ワークショップ 2 月 22 日 ( 日 ) 千俵蒔山草原再生シンポジウム 3月8日(日) 上県町佐護千俵蒔山野焼き 16 名 19 名 約 100 名 - 9 Tsushima Wildlife Conservation Center (1)定期自然観察会 対馬の自然に親しむことを目的に、TWCC 周辺や各地域の自然観察を行う「自然ふれ あいイベント」を毎月一回開催しました。今年度は地元の自然愛好家の方を講師に招 いた自然観察会や、つしま図書館やツシマヤマネコ応援団など他団体と協力しイベン トを開催しました。また、昨年に引き続きヤマネコ博士学校を開校し、ツシマヤマネ コの飼育舎の見学や餌の肉きり作業を参加者に体験してもらいました。 5月「ねずみの時間」 8月「ヤマネコ博士学校 -飼育編-」 12 月「エコ年賀状 2008!」 10 7月「虫をつかまえて、標本をつくろう!」 11 月「ツシマヤマネコのいま!」 2月「木のしおりと木ハガキづくり」 Tsushima Wildlife Conservation Center (2)「宝の島・対馬展」にてツシマヤマネコ展開催 長 崎 県 長 崎 市 に あ る 長 崎 歴 史 文 化 博 物 館 が 9 /13( 土 ) ~ 10/20(月)までの間、宝の島・対馬展を開催しました。本展 覧会では対馬の魅力を自然史・考古・民族・歴史の各分野にわ たって紹介しました。その中で普段はなかなか対馬まで来るこ とのできない本土の人たちに対馬の素晴らしさを知ってもら えるように、ヤマネコをはじめ対馬の自然を代表する鳥類の剥 製や写真、ヤマネコの糞分析セットなどの体験コーナーを用意 し、ツシマヤマネコ展を開催しました。 宝の島 対馬展 (3)学生実習 8月4日~8月 31 日の間、現場業務の体験を通じ、ツシマヤマネコをはじめとする 野生生物保護について学ぶ学生実習を行い、野生生物保護に関心を持つ学生計 10 名を 受け入れました。実習では、本種のおかれる現状や保護対策についての講義、飼育や 普及啓発などの TWCC 業務の補助や交通事故現場検証などを行った他、地域住民との協 働作業や交流を多く取り入れました。 飼育方法の説明 調査研究実技(ラジオ・トラッキング) (4)とらやまの森再生プロジェクト「市民参加の森づくりイベント 2008」 11 月 15 日(日)、旧舟志小学校(対馬市上対馬町舟志)において、 「市民参加の森づ くり 2008」(共催:舟志の森づくり推進委員会)が開催され、市民約 50 名が参加しま した。毎年参加する常連の方々に加え、新たな一般参加者が多数みられ、森づくりの 輪が広がっていることが確認されました。 この森づくりイベントは、苗づくりや対馬の森の自然観察を通じて、 「とらやまの森 再生プロジェクト」の考え方・活動内容を対馬市民、NPO 等各種団体、行政関係者等に 知ってもらい、森づくりの輪を広げるため毎年秋に実施しているものです。 今年度は、より多くの参加者を得るため、旧舟志小学校で開催される「音楽祭」と コラボレーション開催となりました。 11 Tsushima Wildlife Conservation Center イベントでは、プロジェクトの経緯説明の後、舟志の森植樹地の観察会、どんぐり、 ネズミ、ヤマネコ、森、川、海の関わりについてのレクチャーがありました。 毎年恒例の苗づくりでは、7種のどんぐり(コナラ、アベマキ、スダジイ、マテバ シイ、クリ、アラカシ、ウラジロガシ)約 5,500 個を用いて、1,600 個のポット苗を参 加者全員で作りました。 イベント終了後、旧舟志小学校内で「やまねこ音楽祭」が開催され、応援団では、 カフェ「山ねこ軒」をオープンしました。カフェでは、森の恵みを食べること(森食) を通じて、森と人との関わりを再認識してもらおうと、どんぐり料理(どんぐりコー ヒー、クッキー、ケーキ、ぜんざい等)を振る舞いました。また、森づくりの活動 PR のために、森やどんぐり、ヤマネコに関する展示も行いました。 “猫と魚”、森と海の関わりを考えるレクチャー 約 1,600 個のポットが完成 (5)捨てペット防止キャンペーン 8月9日(土)に厳原町今屋敷の対馬市交流センター1階ポケットパークにおいて、 対馬地区ネコ適正飼養推進連絡協議会(以下、協議会。)の主催で、ネコをはじめとす る捨てペットの防止を目的とした、第4回捨てペット防止キャンペーンを実施しまし た。協議会には、環境省、長崎県、対馬市などの行政関係者、NPO 法人、市民代表、有 識者などが参加し、イエネコの適正飼養の推進を通じて、生活環境衛生の向上や、イ エネコの飼育環境の改善、イエネコ由来感染症などの影響からツシマヤマネコを保護 することなどを目的とした活動を行っています。 協議会ではより多くの市民にペットの適正飼養を訴えるため、買い物客で賑わう土 曜日にキャンペーンを実施することとしました。 TWCC 夏期実習生5名にもご協力いただき、「ペットを捨てないで!」という看板を 掲げて、ツシマヤマネコの着ぐるみ「つばき」と「ろくべえ」が、買い物客に対して、 捨てペット防止を呼びかけるチラシや、協議会がネコの適正飼養のために実施してい る「ネコの健康生活サポートキャンペーン」の申し込み用紙を配付しました。また、 ペットの適正飼養に関するパネル展示を行いました。 12 Tsushima Wildlife Conservation Center チラシを配布する様子 キャンペーン参加者の集合写真 (6)第 14 回野生生物保護学会への参加 11 月7日~9日に、長崎県佐世保市の長崎国際大学で、野生生物保護学会第 14 回大 会が開催されました。センターでは、野生生物の交通事故対策に関するテーマセッシ ョン、公開シンポジウム「ツシマヤマネコの過去・現在・未来」に参加しました。 テーマセッションでは、「ツシマヤマネコの交通事故の現状とその防止策」と題し、 長崎県、対馬市、市民ボランティア等と連携して実施している交通事故対策を紹介し ました。また、GIS(地理情報システム)を活用したツシマヤマネコの交通事故ハザー ドマップの作成状況に関する発表、イリオモテヤマネコの交通事故対策の発表、その 他全国の野生生物の交通事故対策に関する最新の状況について発表が行われ、多くの 研究者等との意見交換を行うことができました。センターでは、テーマセッションで 得られた知識・経験を、今後のツシマヤマネコの交通事故対策に活かしていきます。 公開シンポジウムには約 200 人が参加し、一般参加者を含めた多くの人にツシマヤ マネコの現状と課題を伝えることができました。基調講演として、長年ツシマヤマネ コの調査に関わってきた(財)自然環境研究センターの中島絵里氏から、 「ツシマヤマ ネコの生態と個体群の推移」と題して、ツシマヤマネコそのものに関する知識、個体 群の減少状況、減少原因等について発表があり、その後、センターの佐々木自然保護 官より、 「ツシマヤマネコの保護活動」と題して、現在対馬で取り組まれている保護対 策の紹介がありました。パネルディスカッションは、日本獣医生命科学大学の羽山伸 一氏がコーディネーターを務め、基調講演の2人に加え、対馬市総務企画部地域振興 課の玖須博一氏、長崎県農林部農政課の小寺祐二氏、井 の頭自然文化園の小林和夫氏、NPO 法人どうぶつたちの 病院の藤原新一氏がパネリストとして参加し、ツシマヤ マネコの未来に向けての課題、今後の保護の在り方につ いて議論されました。会場からは、対馬市民も保護活動 を頑張る必要があるが、島外からも積極的に応援する必 要がある、といった心強い意見が聞かれました。 パネルディスカッションの様子 13 Tsushima Wildlife Conservation Center (7)ヤマネコからの手紙 2月 22 日~6月 22 日に井の頭自然文化園の本園資料館にて「ヤマネコからの手紙」 が開催されました。これはツシマヤマネコから手紙が届き、その手紙の中には、子ど もたちにも理解しやすいようにと、ヤマネコがどんな動物なのか、なぜ減ってしまっ たのかについて書かれていました。参加した子どもたちは、ヤマネコの特徴や、置か れている現状を知り、ヤマネコに返事を書きました。 その返事の手紙の内容から、対馬市長賞を受賞した小学生3名を、実際にツシマヤ マネコの棲む対馬に招待しました。対馬野生生物保護センターでは、ヤマネコの生息 地ならではの体験として、ヤマネコ痕跡ハイクと糞分析を実施しました。最初は糞の 臭いを嫌がっていた3人も、最後はヤマネコが何を食べているのか夢中になって調べ ていました。子どもたちはツシマヤマネコをはじめとする対馬の自然に感動し、大切 にしたいと感じてくれたようでした。 フンをほぐす子どもたち 14 フン分析の様子 Tsushima Wildlife Conservation Center 2.学校教育との連携 TWCC では学校からの要請に応じ、総合学習やその他課外授業に協力しています。平 成 20 年度は 11 の小中高等学校に協力した他、長崎県小中高校教員の若手教職員社会 貢献活動研修、中央大学の離島教育研究への協力も行いました。 (1)各学校との連携内容 学校教育との連携は TWCC での「ヤマネコ教室」 (レクチャー、ヤマネコ生体見学、 フィールドサイン等の野外観察)が主ですが、来館が難しい下島の学校を中心に、 スライドを用いた「出張ヤマネコ教室」も行いました。また、加志々中学校ではツ シマヤマネコの交通事故を題材として自分たち自身で交通事故が発生する要因とそ の対策について考える学習を実施し、豊玉小学校6年生はツシマヤマネコを多くの 人に伝える方法として、 「ツシマヤマネコ飛行機」、 「ツシマヤマネコ手帳」などを考 えてくれました。また、地域の自然を題材とした学習に取り組むなど、ヤマネコ以 外の対馬の自然を教育素材とした学習にも取り組みました。 (2)学校指導者との連携内容 長崎県教育委員会からの依頼を受け、若手教職員社会貢献活動研修の受け入れを 行ったほか、対馬市教育委員会主催の対馬市小中 学校の校長が一堂に会する校長会に参加させて いただきました。TWCC ではツシマヤマネコをはじ めとする対馬の自然や歴史・文化を誇りに思う子 どもを育てることを目的とした「対馬教育」に取 り組んでいます。対馬市小中学校校長会では、 TWCC でも「対馬教育」の支援が可能であること等 を説明させていただきました。 校長会の様子 (3)対馬環境教育ワークショップ 2月 20 日(金)、厳原地区公民館にて対馬環境教育ワークショップを開催し、島 内の教員や環境教育関係者約 19 名が参加しました。 今回のワークショップでは、当センターから「ツシマヤマネコの魅力」と題して ツシマヤマネコ保護の現状とツシマヤマネコを題材とした環境教育プログラムの紹 介をした後、島内の教員2名にツシマヤマネコを題材とした学校教育の実践を報告 していただきました。その後、ツシマヤマネコの魅力について考えるグループワー クを実施し、参加者にツシマヤマネコを題材として取り入れ可能な身近な教材をあ げてもらい、簡易的なプログラムを作成しました。 15 Tsushima Wildlife Conservation Center 参加していただいた先生方からは「ツシマヤマネコを総合学習や理科の教科の題 材としてはもちろん、音楽や体育、給食の授業に取り入れていきたいといった意見 も出て、とても驚いたが参考になった。自分の学校でも実践していきたい」などの 感想が聞かれました。 実践報告 16 グループワークの発表 Tsushima Wildlife Conservation Center 3. 広報活動 (1)普及啓発物の作成 今年度、TWCC では以下の普及啓発物を作成しました。 1.ヤマネコ BOOK 2.ドライバーズマニュアル 3.エコドライバー認定ステッカー 4.とらばさみパネル(15 枚) (1) (2) (3) (4) (2)季刊誌「とらやまの森」作成・配布 平成 10 年創刊の「とらやまの森」を今年度は、5、8、12、 3月に発行しました(通算 43 号)。対馬島内全戸(約 16,000 戸)、 と関係者や島外定期購読希望者に配布し、最新の話題を提供しま した。今年度は今までの白黒印刷から単色カラー印刷に変え、横 書きを縦書きにしました。 とらやまの森 41 号 (3)ホームページの運営 平成 14 年8月に開設したホームページ(http://www.tsushima-yamaneko.jp/)には、 平成 21 年3月末現在までに約 303,300 件のアクセスがありました。 平成 20 年度においては、市民シンポジウムなどのセンターの活動報告や月例のふれ あいイベント情報などの広報活動の掲載の充実に努めました。 人 55000 50000 45000 40000 35000 30000 25000 20000 15000 10000 H18 対馬野生生物保護センターHP H19 H20 年度 アクセス数の年推移 17 Tsushima Wildlife Conservation Center 4. ツシマヤマネコ一般公開 (1)一般公開の趣旨と公開個体の交代 ツシマヤマネコ保護にとって、島内外の数多くの方々の理解と協力は必要不可欠で す。しかし、対馬島民でさえツシマヤマネコを見たことのある人は少なく、ヤマネコ の厳しい現状を身近に感じることは難しい状況といえます。 そこで環境省では、実際にヤマネコを見ることによってその存在を身近に感じ、さ らにそれを取り巻く問題に関心を高めていただきたいと考え、平成 15 年 12 月9日か ら、FIV(ネコ免疫不全ウイルス)感染により保護されているツシマヤマネコ(Mt-09、 愛称「つしまる」)の一般公開を開始しました。その後、平成 19 年1月に体調不良で 引退し、平成 19 年3月からは、後任として同じく FIV に感染している「つつじ」を一 般公開していました。しかし、「つつじ」も高齢に伴い、平成 20 年6月で引退するこ とになり、現在は「福馬(ふくま)」が代役を担っています。福馬は平成 16 年4月に 福岡市動物園で生まれその年の 12 月に対馬にやってきました。センターで飼育してい るヤマネコの中でも好奇心旺盛でとても立派なしっぽの持ち主です。 「福馬(ふくま)」プロフィール 個体番号:No.23 性別:オス 年齢:5歳 体重:約 3.5 ㎏ 頭胴長:57 ㎝ 尾長:23 ㎝ 備考:福岡市動物園で生まれ、対馬で育った ため「福馬」と名付けられた。 18 Tsushima Wildlife Conservation Center (2)ライブカメラの設置 平成 18 年4月より、対馬市が設置したライブカメラを通じ、一般公開されているツ シマヤマネコの様子をインターネットで見ることができます(アドレス: http://58.90.155.114/)。閲覧者の中には「毎日1回アクセスし、ヤマネコを見るこ とができたらその日は幸せ!」という「ヤマネコ占い」をされている方がいるなど、 人気サイトになっています。ライブ画像は 30 秒ごとに配信され、ベストショット集も 充実しています。また、棹崎公園ライブカメラからは対馬海峡を展望することが出来、 空気の澄んでいるときには韓国を眺めることも出来ます。 ライブカメラ ベストショット集 棹崎公園からの風景もご覧になれます 19 Tsushima Wildlife Conservation Center 20 Ⅳ TWCC の取り組み②-調査研究活動- Tsushima Wildlife Conservation Center 1. 野生生物生息情報の収集 TWCC では、平成9年の開所以来、ツシマヤマネコの生息状況をモニタリングするた め、ツシマヤマネコをはじめとする野生生物の目撃情報を収集しています。 平成 20 年度は、上島からは確実にツシマヤマネコのものと思われる目撃情報が 15 件寄せられました。情報が寄せられた地域は上対馬町と上県町、豊玉町で、峰町と美 津島町、厳原町からの情報はありませんでした。今後もより多くの方からの、より広 範囲な目撃情報の収集を行なってゆく必要があります。 今後、TWCC では、寄せられた目撃情報等をもとに、交通事故が起こりやすいと予想 されるエリアでのドライバーへの注意喚起を行ってゆきたいと考えています。 上県町棹崎公園 ・ H20.8.30 0:10 ・ H20.10.24 18:40 ・ H21.1.16 10:10 ・ H21.3.17 17:06 上県町佐護湊 ・ H20.9.23 ・ H21.1.26 23:50 上対馬町比田勝の国道沿い ・ H19.10.23 18:55 上対馬町富ヶ浦 ・ H20.12.6 16:10 上県町佐護平野 ・ H20.8.26 7:30 ・ H20.8.29 20:35 ・ H20.9.5 12:30 上県町佐護仁田ノ内 ・ H20.9.6 8:10 ・ H20.12.16 23:26 上対馬町唐舟志 ・ H20.10.26 18:00 生きもの情報マップ記入用紙 上県町中山~志多留 ・ H20.10.20 18:35 図Ⅳ-1 平成 20 年度ツシマヤマネコ目撃情報図 21 Tsushima Wildlife Conservation Center 2. 動物による既設カルバートの利用等モニタリング調査 TWCCでは、交通事故対策の一環として、動物によるカルバート(道路下に設置され ている排水管)の利用状況を把握することを目的として、平成19年2月から平成20年 9月までカルバート利用状況モニタリング調査を実施しました。 調査地は、上対馬町三宇田の市道と小鹿の主要地方道で、実際にヤマネコの交通事 故が発生した現場周辺です。カルバートの出入口付近に自動撮影カメラを設置し(三 宇田6箇所、小鹿7箇所)、撮影された動物種を識別し、各種の季節や時間帯、カル バートの構造上の特徴による利用頻度を調べました。 その結果、ヤマネコをはじめ多くの野生動物がカルバートを利用しており、野生動 物に対して“無意識的”に整備されてきたカルバートであっても移動経路として十分 に機能していることが分かりました。一方、呑口や吐口に高い直壁や窪みが設けられ ているといったようなカルバートの構造や土砂や草木が堆積してカルバートが閉塞し ているような場所では、動物の利用頻度が低いことが明らかになりました。これらの カルバートには、直壁を2段に分ける、窪みの脇に棚や斜路を設ける、常時水が流れ ている場所では「ネコ走り」を設ける、堆積した土砂を取り除くなど、少しの工夫を 加えることで動物の利用を促すことが可能と考えられます。 これらの調査結果をもとに、カルバート新規・改修工事を行う際の配慮・工夫事項 をとりまとめ、具体例を示した配慮事例集づくりを行い、道路関係者の理解と協力を 求めていくことが必要だと考えています。 改修前の吐口 改修後の吐口 (水が溜まって通れない) (「ネコ走り」を設置) ※吐口が水流により洗掘されて水が溜まり動物の利用を阻害していると思われるカルバー トにおいて、土嚢を並べ、移動経路を確保した(作業は「ツシマヤマネコ応援団」との協 働で実施)。 22 Tsushima Wildlife Conservation Center 3. 平成 20 年7月 29 日に下島でツシマヤマネコの痕跡確認 TWCC では平成 19 年3月に厳原町の内山周辺で 23 年ぶりに自動撮影カメラによって ツシマヤマネコの確実な生息が確認されました。このことを受け、引き続き長崎県・ 対馬市と協働して下島における生息状況調査を実施してきました。その結果、平成 19 年度は自動撮影カメラによる生息確認が2回、痕跡調査によって採取した糞による生 息確認が 1 回ありました。平成 20 年度は、7月 29 日にヤマネコの糞を採取しました (採取した糞は DNA 分析によって種の判定を行った結果、性別は不明ですがヤマネコ の糞であることが確認されています)。 今回糞を採取した場所は、昨年度に3回生息を確認した尾根上から少し離れた山腹 斜面の林道上でした。今回採取された糞がこれまで確認されていた個体のものである かどうかは不明ですが、引き続き下島でヤマネコが生息していることが確認されまし た。また、生息範囲についても、これまでの確認地点が全て尾根上であったため線状 でしか分かっていませんでしたが、今回の確認地点により面的な広がりとして捉える ことが可能となり、少しずつですが確実に下島におけるヤマネコの生息状況が明らか になってきました。 現在は自動撮影カメラを 27 台、痕跡調査を 10 ルート設定してモニタリング調査を 実施しています。今後も引き続き、関係行政機関、専門家、地域住民の皆さんの協力 得て、更に下島でのヤマネコの生息状況を調査していく予定です。 下島での発見場所 23 Tsushima Wildlife Conservation Center 4. 他の研究機関への協力 対馬野生生物保護センターでは、ツシマヤマネコの保護に関わる研究が円滑に実施 されるように様々な研究機関と協力しています。 (1)岐阜大学における糞中ステロイドホルモンの測定 飼育下のツシマヤマネコが受けているストレス量を、糞の中に排泄されるステロイ ドホルモンの量を測定することで調べる試みを、岐阜大学応用生物科学部 生産環境科 学課程 動物繁殖学研究室と協力して実施しました。TWCC では、Fm-28 の糞を1ヶ月分 採取して岐阜大学に送りました。ツシマヤマネコの糞中ステロイドホルモンを測定す るのはまだ研究が始まったばかりで、今回1度の検査でははっきりした結果を出すこ とができませんでしたが、今後も協力して研究を進めたいと考えています。 (2)琉球大学における行動観察 ツシマヤマネコを保護していく上でツシマヤマネコの日周期活動やマーキング行動、 採餌行動、体重の変動などの基礎的な生態情報を収集することは必要不可欠です。し かし、ツシマヤマネコのように森林の中の見通しの悪い環境に1頭ずつで暮らしてい る動物の場合、野外で直接動物の行動を観察することはとても困難です。 そこで、琉球大学理学部伊澤雅子教授の研究グループではTWCCにて飼育している個 体の行動観察を行なっています。平成20年度は、6月19日~22日(連続48時間)、7 月31日~8月3日(連続72時間)、9月23日~28日(連続120時間)、11月7日~12日 (連続120時間)に実施しました。 TWCCではこれらの行動観察によって得られた知見を、傷病個体や人工繁殖によって 生まれた個体の野生復帰に向けたより効果的な訓練方法を構築する上での基礎資料と して活用していくことも考えています。 (3)琉球大学における胃内容物に関する研究 琉球大学理学部伊澤雅子教授の研究グループでは、TWCC で保管されているツシマヤ マネコの死体標本を用いて、胃内容物の分析を行なっています。これまで、ツシマヤ マネコの食性は主に糞分析の結果から明らかになる各餌動物種の出現頻度などから考 察されてきました。しかし、胃内容物を分析することによって、糞分析では分からな かった各餌動物種の個体数などから餌資源としての重要性に関してより詳細な情報が 明らかになることが期待されます。 24 Tsushima Wildlife Conservation Center (4) 琉球大学における頭骨形態に関する研究 ツシマヤマネコとイリオモテヤマネコはともに島嶼に生息するベンガルヤマネコの 仲間ですが、生息地の餌動物相の違いによってその食性は大きく異なっていることが 分かっています。琉球大学理学部伊澤雅子教授の研究グループでは、TWCCで保管して いるツシマヤマネコの死体標本などを用いて、胃内容物の分析と頭骨形態の計測を行 なっています。 本研究の成果によって、2種の食性や狩猟行動などの採餌生態と頭骨形態との比較 からベンガルヤマネコの島嶼への適応が明らかになることが期待されます。 (5)北海道大学における遺伝的多様性に関する研究 対馬島の中央部には複数の地峡があり、1691 年に大船越瀬戸が、1900 年には万関瀬 戸が運河として開削され、現在は上島と下島に分断されています。対馬に生息する食 肉目はツシマヤマネコ,ツシマテン,チョウセンイタチの3種ですが、ツシマヤマネ コは対馬下島にはほとんど生息していないと考えられています。そこで、北海道大学 大学院理学研究院増田隆一准教授の研究グループでは、ツシマテンとチョウセンイタ チの上島個体群と下島個体群の遺伝的な差を把握することで、ツシマヤマネコの保全 に活用できる知見を入手することを目的として、2種の遺伝的多様性解析を進めてい ます。 対馬上島のツシマテン及びチョウセンイタチについては、TWCC において過去収集し てきたサンプルがありましたが、対馬下島については、両種のサンプルがほとんど得 られていないため、長崎県対馬振興局道路課の協力のもと、2種のサンプルを収集し ました。 解析に必要なサンプル数は各種 30 個体で、ツシマテンについては平成 20 年度に収 集が終了しましたが、チョウセンイタチについてはまだまだサンプル数が少ないため 引き続き平成 21 年度も収集を続ける予定です。 遺伝的多様性の解析は、2種のサンプル収集が全て終了した後に行なわれる予定で す。 (6)神戸大学における生殖子の採集と保存 ツシマヤマネコの死体が収容された場合、オスであれば精巣、メスであれば卵巣を 取り出して、神戸大学農学部動物多様性教室に送付し、精子・卵子の採集と保存を行 っています。 また、野生下から成獣のオス個体が保護された時、野生復帰させる前に精子を採集 し保存する取り組みを行う準備を進めています。 これらは、将来ツシマヤマネコの繁殖のために人工授精などの技術が必要になった 場合に備えて行われています。 25 Tsushima Wildlife Conservation Center (7)東京大学におけるツシマヤマネコ保護に関するアンケート調査 将来実施が検討されている野生復帰計画を含めツシマヤマネコの保護を住民がどの ように捉えているのか、住民意識を探るため、対馬市全域住民を対象にアンケート調 査を平成 21 年1月に行いました。対馬市及び環境省対馬野生生物保護センターの協力 をうけ、アンケート票(全 20 問、枝問を含めると全 42 問)を作成しました。対象者 は、住民基本台帳法第 11 条の規定に基づき、住民基本台帳から無作為に抽出した 20 歳から 79 歳の男女 1,000 人としました。郵送により配布し、回収率は 48.8%と非常に 高い回収率となり、住民の関心が高いことが伺えました。 集計結果から、ツシマヤマネコは、「対馬にだけ生息する生き物」「対馬を象徴する もの」として、その固有性が評価されていました。野生復帰そのものに関しては肯定 的に捉えられていましたが、実施場所に関しては検討されている下島が適当とする回 答は少数で、上島を適当とする回答や、上島・下島に関わらず適した自然環境がある 場所を適当とする回答が多くなりました。また、回答者の約半数がツシマヤマネコを 見たことがないと回答していましたが、 「対馬にのみ生息する」や「絶滅のおそれがあ る」という認識は、主に交通事故対策を中心とした保護活動の展開や新聞テレビ報道 により、広く共有されていました。ただし、これはツシマヤマネコが日常生活とは「遠 い」存在であるがゆえに利害関係が想像されにくく、肯定的に捉えられているとも考 えられます。 しかし、これまでの保護活動が住民のツシマヤマネコを肯定する捉え方に貢献して いることはたしかであり、今後生息地整備活動など日常生活に「近い」存在にする取 り組みの中で、ツシマヤマネコや保護活動がどのように捉えられていくのか、引き続 き調査課題としたいと思います。 26 Ⅴ Tsushima Wildlife Conservation Center TWCC の取り組み③ -保護個体及び死体の収容、飼育下個体群の管理- 1. 保護個体及び死体の収容 TWCC には、さまざまな事情で保護されたツシマヤマネコの生体や、回収された死体 が運ばれてきます。 保護された個体は、原則として野生へ帰すことを目標として、治療やリハビリを施 し、データ収集のための計測、疫学検査等を行っています。 死体については、計測や疫学検査と共に、各地の大学と協力して生殖細胞および筋 肉組織の保存や、病理解剖を行っています。これらは、配偶子の保存、遺伝的多様性 の把握や減少要因の解析、生態の解明や死亡原因の追及など、保護対策のために最大 限活用されています。 平成 20 年度、TWCC に収容されたツシマヤマネコの保護個体は3頭、死体は1頭でし た。各個体の情報は表Ⅴ-1 の通りです。 表Ⅴ-1 発見日 個体番号 平成 20 年度保護・収容個体一覧 年齢 性別 体重 保護要因・死因 発見場所 備 考 H20.9.23 Mm-40 成獣(老齢) オス 2880g 衰弱 上県町 佐護 田んぼの中にうずくまっている 所を発見。救護直後に死亡。 H20.12.6 Mt-41 亜成獣 オス 1340g 衰弱 上対馬町 富ヶ浦 民家の離れでうずくまってい た。保護収容するが翌日死亡。 H21.1.25 Mm-42 亜成獣 オス 1580g 民家に入り込 み出られなく なった 上県町 佐護 2 月 12 日 佐 護 山 中 で 野 生 復 帰 H21.2.1 DU090116 亜成獣 不明 260g 不明 上県町 佐護 路上で発見。ミイラ化。 収容直後の Mt-41 Mm-42 の野生復帰の瞬間 27 Tsushima Wildlife Conservation Center 2. 保護個体の野生復帰・判定訓練(Fh-39) 平成 20 年2月1日路上で倒れていたところを地元住民によって保護された Fh-39 は、 交通事故にあった可能性が高く、TWCC へ収容した直後は脳しんとうや内臓損傷を受け た疑いがありました。しかし、その後 Fh-39 が順調に回復したことを受け、平成 20 年 9月~11 月にかけて野生復帰が可能かどうかを判定するための訓練が行なわれました。 訓練は主に野生でヤマネコが餌として狩っている生きた動物をちゃんと捕えて食べ ることができるかどうかを確かめることで行ないました。訓練用として Fh-39 に与え た餌動物は、ネズミ類から鳥類、両生類、爬虫類、昆虫類など非常に豊富なメニュー となりました。訓練初期には動きの速い餌動物を上手に狩ることができなかった場合 もありましたが、徐々に慣れた様子で生きた動物を狩る行動が観察されました。 判定訓練を終了した段階で一定の訓練成果は認められましたが、個体を保護した経 緯が交通事故であったことや、収容期間が半年以上あったこと、訓練が終了した 11 月 という季節的な問題 ※ などを考慮した結果、現状の生存能力は十分でないと判断し、今 回の野生復帰は見送りました。平成 21 年の春以降に再度判定訓練にチャレンジする予 定です。 ※冬は気温が低くなるので体温維持に多くのエネルギーを必要とする一方で餌動物 は少なくなります。またヤマネコの繁殖期であるため個体間の干渉が激しくなるな ど、ヤマネコにとっては1年の中で最も生存に厳しい季節だと考えられています。 28 Tsushima Wildlife Conservation Center 3. 飼育下個体群の管理 (1)飼育下個体群の分散飼育 平成 20 年までにツシマヤマネコの分散飼育園は、福岡市動物園、井の頭自然文化園、 よこはま動物園ズーラシア、富山市ファミリーパークの4園になりました。各園では、 ツシマヤマネコの普及啓発のため一般公開を行っています。公開されるのは、将来野 生復帰する可能性がなく、その年は繁殖の予定のない個体に限られています。 今年度は、TWCC で飼育するツシマヤマネコの移動はありませんでしたが、福岡市動 物園から富山市ファミリーパークに、平成 19 年生まれの No.42(メス)が繁殖のため に移動しました。 福岡生まれ 1 頭 福岡市動物園 富山市ファミリーパーク 対馬野生生物 保護センター よこはま動物園 ズーラシア (神奈川) 井の頭自然文化園 図Ⅴ-1 表Ⅴ-2 平成 20 年度の分散飼育 TWCC 飼育個体〔飼育下繁殖個体〕一覧(H21.3月現在) 施設 飼育頭数(♂/♀) 公開個体 福岡市動物園 10 (4/6) 井の頭自然文化園 4 (2/2) トラジロウ(♂) よこはま動物園 4 (2/2) No.18(♀) 富山市ファミリーパーク 4 (1/3) みどり(♀)、もも(♀) TWCC 13 (7/6) 福馬(♂) 29 Tsushima Wildlife Conservation Center (2)TWCC における飼育個体 対馬野生生物保護センターでは、現在 13 頭のツシマヤマネコを飼育しています。飼 育しているツシマヤマネコは、①野生から保護され、感染症などのために生涯飼育す る個体(CFT-17、Fm-28)、②野生から保護され、一時飼育中の個体(Fh-39)、③野生 から保護され、野生復帰困難と判断されたため将来動物園に移動する見込みの個体 (Mk-30)、④福岡市動物園で生まれ、対馬に里帰りしている個体(No.17、No.22、No.23 =福馬、No.24、No.30、No.36、No.37、No.40、No.41)です。 CFT-17(9才<)♀ Fm-28(5才<)♀ Fh-39(推定1才)♀ Mk-30(推定2才)♂ No.17(5才)♀ No.22(4才)♂ No.23(4才)♂ No.24(4才)♀ No.30(3才)♀ No.36(3才)♂ No.37(2才)♂ 表 V-3 TWCC 飼育個体 No.40(1才)♂ 30 No.41(1才)♂ Tsushima Wildlife Conservation Center (3)TWCC での飼育管理の実施内容 ① 飼育作業の内容 飼育員2名で、ツシマヤマネコを収容している獣舎(一般公開棟、一時収容施設、 検疫舎)の清掃や給餌などを行っています。 ■ 平成 20 年度の飼育業務内容 ・ 獣舎の清掃…放飼場の池や寝室等の清掃、糞の回収など。 ・ 給餌…基本のメニューとして、ブロイラー、鶏頭、馬肉、牛肝臓、生き餌として マウスを与えている。肉にはビタミン、タウリン、カルシウムなどが入ったサプ リメントを添加し、不足しがちな栄養素を補っている。平成 18 年度から、腎機 能障害を示す個体には肉類・玄米粥・バターなどで腎臓機能を維持するための処 方食をつくり与えている。 ・ 体重測定…給餌の際、餌台に設置されている体重計で体重を測定。 ・ モニター観察と記録…給餌量、残餌量、体重、排便場所や糞の大きさ、排尿の有 無などを個体ごとに記録。また、昼間のツシマヤマネコの行動を 1-2 時間おきに モニターで観察し、記録している。 ・ その他…獣舎のメンテナンス、巣箱づくりやフェンス張りなどによる飼育環境の 整備、環境エンリッチメントのための飼育環境の工夫・改善。 餌の準備 糞の状態の観察 給餌 餌用マウス 31 Tsushima Wildlife Conservation Center ② 健康管理 飼育個体が体調不良を示した時には獣医師が対応し、検査や投薬などの治療を行 っています。感染症個体については、年に2回を目安に定期検診を行なっています。 ■平成 20 年度に体調不良などにより行った治療(一部) ・11 月…福馬の右後肢が腫れたため、一般公開を一時中止し治療を行いました。順調に 回復し、一般公開も再開されました。 ・1月…CFT-17 が元気食欲を無くしたため、検査を実施しました。健康状態に大きな問 題は認められませんでしたが、暖かくなるまで室内ケージで飼育することにし ました。 ・ 3月…No.37 の右前肢の爪が根本で起きた炎症のために化け爪になったため、爪を切 り、炎症部位の消毒を行いました。 福馬の後肢 No.37 の化け爪 ■ 平成 20 年度に実施された検査(一部) ・感染症個体の定期健康診断(年2回) FIV 感染の CFT-17 と、FeLV 感染の Fm-28 は、6月2日と 10 月 31 日の2回、健康 診断を実施しました。 ・飼育個体の定期健康診断(年1回) その他の飼育個体は、6~11 月の間に1回の健康診断を実施しました。 CFT-17 の健診 32 No.37 の健診 Tsushima Wildlife Conservation Center 3. その他野生動物の救護 対馬野生生物保護センターでは、ツシマヤマネコ以外の希少野生動物の救護も行っ ています。平成 20 年度の救護活動は以下の通りです。 (1) ハヤブサ 平成 21 年2月1日、上県町佐護の畑で飛べなくなっ ているところを保護されました。右翼の骨を骨折してお り、整復は難しいと考えられたため、治療と並行して生 涯飼育してくれる施設を探しました。その結果、長崎県 佐世保市の佐世保市亜熱帯動植物園が受け入れてくれ ることになり、2月 24 日に動植物園に輸送されました。 動植物園によると、経過は良好であり、別の保護され た個体とペアリングして飼育下繁殖を目指す意向とい 保護されたハヤブサ うことです。 (2)海鳥の油汚染 平成 18 年2月から3月にかけて、対馬近海で 114 件の海鳥油汚染被害が発生した事 件を受け、毎年冬季に状況把握のための調査、漂着油・廃油缶の回収を行っています。 平成 20 年 12 月から平成 21 年3月にかけても状況把握のための調査、漂着油・廃油缶 の回収を行いました。 今年度は昨年度の半分ほどの被害状況でした(表 Ⅴ-4参 。最終的には 64 件の海鳥の被害が確認されました(目撃 照) 57、救護1、死体6件)。被害は西海岸で多く、被害に遭っ た鳥の種類はアビ類が多いという傾向が見られました。残念 ながら救護された1羽は治療の際に死亡してしまいました。 今年も対馬市民を中心に、島内外の数多くのボランティア の方々にご協力いただきました。 表Ⅴ-4 油が付着したアビ類 年度別油汚染の被害状況比較 180 160 140 件数 120 死体 保護 目撃 100 80 60 40 20 0 2005年度 2006年度 2007年度 2008年度 海鳥の油汚染ポスター 33 Tsushima Wildlife Conservation Center 34 Ⅵ TWCC の取り組み④-保護対策- Tsushima Wildlife Conservation Center 1. 交通事故対策 (1)ツシマヤマネコ交通事故防止キャンペーン 死因が判明しているツシマヤマネコの死亡原因のうち、最も多いのは交通事故です。 毎年数頭のツシマヤマネコが交通事故に遭い、命を落としています。1年間に起きる 交通死亡事故を1件防ぐことができれば、100 年後のヤマネコの絶滅の可能性が半分に なると言われています。平成 19 年度には、3件の交通事故が発生し、1頭は野生復帰、 1頭は命を落とし、もう1頭は現在もリハビリ中です。 ヤマネコの交通事故を防ぐためには、ドライバーが安全運転を心がけ、道路に飛び 出す動物に注意をしていなくてはなりません。それを呼びかけるため、春と秋に交通 安全協会により実施される交通安全キャンペーンに、ツシマヤマネコの着ぐるみ「つ ばき」と「ろくべえ」が参加し、交通事故防止を訴えるチラシやステッカーを配布し てドライバーに協力を求めています。 平成 20 年度は、9月 27 日(厳原町、美津島町)、28 日(上対馬町)、に開催されま した。 安全運転をお願いするツシマヤマネコの着ぐるみ「ろくべえ」と参加者 (2)警戒標識への点滅灯の取り付け 環境省・長崎県・対馬市では、事故発生地点を中心として「ツシマヤマネコ交通事 故防止警戒標識」を 46 基設置しています。 しかし、警戒標識は、時間の経過とともに道路利用者にとっては「見慣れた存在」 になってしまい、注意意識が低下しています。 そこで、注意意識の維持・向上を図るために、平成 20 年8月、TWCC・長崎県・ツシマヤマネコ応援団・TWCC 実習生の協働作業によって、警戒標識 31 基にソーラ ー充電式の点滅灯を取り付けました。併せて、警戒標 識の中には、長年風雨にさらされて汚れているものや 木枝によって見えづらくなっているものもあり、標識 の機能を維持するため、標識の拭き掃除や枝きり作業 を実施しました。 点滅灯取り付け作業 35 Tsushima Wildlife Conservation Center (3)移動式看板の作成 TWCC では、交通事故の発生や道路付近での目撃情報に応じ、 迅速かつ自由に移動できる注意看板を設置し、ドライバーに 一層の注意を促すため、「ツシマヤマネコ交通事故防止移動 式看板」を8基作成しました。 移動式看板 (4)交通事故ゼロ記録看板の設置 環境省・長崎県・対馬市では、交通事故の発生状況を タイムリーに発信し、運転時の注意をさらに促すため、 人身交通事故ゼロ記録看板のヤマネコ版「ツシマヤマネ コ交通事故ゼロ記録看板」を平成 20 年6月 26・27 日に 設置しました。現在、対馬やまねこ空港到着口、鈴木石 油(株)佐須奈給油所、TWCC 展示室の3箇所に設置して います。平成 21 年2月1日には 365 日をカウントしま した。 看板設置記念式典の様子 (5)ハザードマップ及びドライバーズマニュアルの作成・配布 TWCC では、 「どこでどのような交通事故対策を行うか」という対策実施箇所と内容の 絞込みを行うために、ヤマネコの過去の交通事故情報、道路の形状や周辺の土地利用・ 地形などから交通事故の発生する危険性を GIS(地理情報システム)によって図化した 「ツシマヤマネコ交通事故ハザードマップ」を作成しました。 さらに、ハザードマップの成果やヤマネコの習 性を踏まえ、ドライバーに対して「いつ、どこで、 どのような注意をすればよいのか」という運転時 の具体的な注意点を示した「ヤマネコエコドライ バーズマニュアル」を作成しました。 なお、このマニュアルの中には、ドライバーの 「エコドライブ度」を診断する質問項目覧を記載 しました。一定の点数に達したドライバーには、 自己申告により「ヤマネコスーパーエコドライバ ハザードマップ ー」として、認定証と認定ステッカーを発行します。 ドライバーズ マニュアル (6)既設カルバートの清掃・構造改善 TWCC では、ツシマヤマネコ応援団や TWCC 実習生の協力を得ながら、平成 20 年8月 24 日、市道三宇田線既設カルバートの清掃・構造の改善等を行いました。これは、“意 識的”に野生動物に配慮して設置されたカルバートだけでなく、“無意識的”に設置 された排水用の既設カルバートであってもヤマネコをはじめとする様々な動物が利用 36 Tsushima Wildlife Conservation Center していることから、そのアンダーパスとしての機能を維持・向上させるために実施し ているものです。 市道三宇田線のカルバート6基のうち2基の吐口に土砂が堆積していたため水が溜 まり、ヤマネコが通過しにくい状況になっていました。本作業では、土砂を掘り取っ て水はけを良くするとともに、土のうを積み並べることで動物たちの通路づくりを行 いました。 今後、清掃・改善が必要となるカルバートをピックアップし、今後の対策に資する ための基礎情報を得ることを目的に、平成 21 年2月、国道 382 号線比田勝~佐須奈、 国道 382 号線御岳~樫滝、主要地方道上対馬豊玉線志越トンネル~佐賀、主要地方道 木坂佐賀線大久保三叉路~佐賀起点のカルバートの点検調査を行いました。 水が溜まって通りにくい吐口 土のうによる「ネコ走り」を設置し通 りやすいようにした吐口 37 Tsushima Wildlife Conservation Center 2. とらばさみ対策 TWCC 開所以来、とらばさみによるヤマネコの錯誤捕獲が8件発生しています。ヤマ ネコ以外にもツシマテンや鳥類、飼いイヌ、飼いネコなどがかかったことも報告され ています。とらばさみは動物を無差別に捕獲し、かつ重大な苦痛を与え殺傷させてし まうおそれがあるため、野生生物保護、動物愛護、そして人の安全確保の観点からそ の使用を一掃する必要があります。 そこで、環境省・長崎県・対馬市では、とらばさみの使用を防止し、動物と人が安 心安全に暮らせる社会を築くために「どうぶつたちの命を守ろう!とらばさみ回収キ ャンペーン」を8月1日から平成 21 年3月 31 日まで実施しました。回収希望者に対 しては、とらばさみ1個につき 500 円の協力金(対馬野生生物保護基金を活用)を支 払い、19 個のとらばさみを回収しました。 とらばさみ回収へのお願い 38 回収したとらばさみ Tsushima Wildlife Conservation Center 3. 生息地の評価-ポテンシャルマップの作成- これまでに得られている環境選択性や各植生タイプにおける餌資源量の評価などツ シマヤマネコの生態学的な知見と対馬全体としての自然環境の分布から、ツシマヤマ ネコの潜在的な生息地としての評価を示したポテンシャルマップの作成を行なってい ます。作成フローは、1.ヤマネコの分布情報の整理、2.対馬全土の環境情報の整 理、3.分布と環境との関係、4.モデル構築、5.地図上に表現の順です。 このようにして作成されたポテンシャルマップと実際のヤマネコの生息密度情報を 照らし合わせ、詳細な現地調査などをふまえたギャップ分析を行なうことでヤマネコ の効果的な保全計画の構築が可能となると考えられます。 例えば、植生や地形などの環境条件 からはヤマネコの生息地として好適と して判断された場所であっても、現地 で行なった痕跡調査などの結果からヤ マネコの生息密度は低いと判断された 場所(=ギャップ)があった場合、そ こでは環境条件以外にヤマネコの生息 を阻害する何らかの要因があると考え られます。ヤマネコの減少要因は多く の問題が複雑に絡んでいるため生息地 全域を捉えマクロな視点で進めていく 対策以外にも、よりミクロな視点で行 なう対策も必要不可欠です。ギャップ 分析によって抽出された場所は、生息 地の分断・孤立化や交通事故など何ら かの減少要因が特に強く働いている可 能性があり、対策を実施する地域の優 先順位を決める上で有効な情報の1つ となると考えられます。 ポテンシャルマップ 39 Tsushima Wildlife Conservation Center 4. ツシマヤマネコ遺伝的多様性の評価 平成 19 年度に 23 年ぶりの対馬下島におけるツシマヤマネコの確かな生息確認があ りましたが、その後の生息情報は乏しく、現在ツシマヤマネコは上島に偏って分布し ている状況です。かつては下島でも多くのツシマヤマネコの生息情報が確認されてい ましたし、島内および全国の資料館・博物館で保存されている下島産のツシマヤマネ コの標本もあります。 本研究では、これらの下島で採取されたツシマヤマネコの標本(糞サンプル、剥製 および毛皮標本、ホルマリン液浸標本等)を収集して DNA を抽出し、PCR 法、遺伝子型 の分析を行い、上島のツシマヤマネコ個体群との特徴の比較を試みました。 分析結果から、上島個体群には見られない遺伝子が下島個体から見出されました が、上島個体群でも個体差は見られるため、下島の特異性を意味するかどうかは今 のところ不明です。現時点ではサンプル数が少ないため、上島個体群と下島個体群 が長期にわたり地理的に隔離されて互いに遺伝的分化が進んだかどうかを結論づけ ることは困難ですが、今後も引き続きより多くの情報を収集していくことが必要だ と考えられます。 40 Ⅶ Tsushima Wildlife Conservation Center TWCC の取り組み⑤-地域連携- 1. 行政機関連携の確保 ツシマヤマネコ保護を効果的に進めるためには、関係者間で目標や情報を共有しな がら、多主体協働で事業に取り組むことが重要です。 現在、協働を促すことを目的に、以下のような会合を開催しています。 (1)対馬地区ネコ適正飼養推進連絡協議会 対馬地区ネコ適正飼養推進連絡協議会は、対馬におけるイエネコの適正飼養の推進 を通じた住民生活環境の向上や、ネコ由来感染症などの影響からツシマヤマネコを保 護することを目的として、平成 17 年2月に設置されました。協議会には、対馬市、対 馬市教育委員会、長崎県、環境省などの関係行政期間、NPO 団体、対馬獣医師会、長崎 県獣医師会、九州地区獣医師会連合会ヤマネコ保護協議会、佐護区長などが加わって います。 協議会では、①ネコの適正飼育の推進(飼いネコへの避妊去勢手術、ウイルス感染 状況検査、マイクロチップ挿入等無料診察の実施)、②普及啓発活動(パンフレットの 配布、「捨てペット防止キャンペーン」実施(Ⅲ.1.(5)参照)、③調査・分析(疫 学検査等)を柱とした「対馬地区ネコ適正飼養推進事業」を進めています。 平成 20 年度はこれらの活動に加え、9月の動物愛護週間にはイベントを開催し、動 物愛護を呼びかけるポスターコンクールや、ペットの適正飼養を訴える講演会、対州 馬乗馬体験を実施しました。 また、年1回開催される協議会の本会議では、沖縄県の竹富町でネコの適正飼養条 例策定に関わった神奈川大学の諸坂先生、東郷先生にご参加いただき、対馬版ネコ適 正飼養条例の策定に向けたアドバイスをいただきました。 飼い主のいない FIV・FeLV 感染イエネコの飼い主捜しでは、2頭の FIV 感染ネコが 長崎県内の動物病院から新しい飼い主の元へ譲渡されました。現在、福岡市内の動物 病院で2頭の FIV 感染ネコが、北九州市内の動物病院で2頭の FIV 感染ネコと1頭の FeLV 感染ネコが新しい飼い主を探しています。 動物愛護週間イベントでの対州馬乗馬体験 長崎市内の動物病院から譲渡される FIV 感染ネコ 41 Tsushima Wildlife Conservation Center (2)対馬野生動物交通事故対策連絡会議 ツシマヤマネコを中心とした対馬の野生動物にも配慮した道路整備や道路周辺の環 境整備を進めるため、公共事業担当部局や自然保護担当部局を構成員として平成 18 年 6月に設置されました。 連絡会議では、相互の連絡調整・連携強化を促すため、①ツシマヤマネコの交通事 故発生状況及びその防止対策、②対馬における公共事業の計画及び実施状況、③先進 事例についての情報交換が行われています。 平成 20 年度の連絡会議は平成 21 年2月 19 日に 開催され、今年度の交通事故の現状や交通事故対 策の説明、今後の対策の進め方等についての協議 が行われました。また、エゾシカの交通事故対策 の専門家である(社)北海道開発技術センターの 原宏文理事より「野生生物の交通事故の現状・対 策の全国的動向~土木技術の視点・経験から~」 と題したレクチャー及び現地指導が行われました。 会議の様子 (3)対馬野生生物保護センター運営協議会 TWCC は、対馬市、長崎県、環境省の共同で管理運営されています。対馬野生生物保 護センター運営協議会は、三者が相互に連絡調整を行うことにより、TWCC の活動と利 用の促進を図り、もって対馬の野生生物保護に資することを目的に平成9年8月1日 に設置されました。本協議会では、TWCC の管理運営に関する事項、平成 11 年 11 月1 日に設置された「対馬野生生物保護基金」の有効活用等についての協議が行われてい ます。 平成 20 年度は9月2日に開催され、とらばさみ回収キャンペーン、対馬野生生物保 護基金の適正運用等について協議しました。 42 Tsushima Wildlife Conservation Center 2. 市民、団体等との協働 (1)舟志での活動 ①舟志区集落座談会 TWCC では、ヤマネコと共生する地域社会づくりを進める上での方向性、推進課題を 明らかにするため、平成 15 年度より集落座談会を開催しています。平成 18 年度から は、ツシマヤマネコの生息密度の高い上対馬町舟志区をモデル地区とし、ワークショ ップ形式で、地区の魅力や課題、行動計画づくり、実践のための討議を行っています。 平成 20 年度において、平成 21 年2月1日、3月 15 日に集落座談会を開催しました。 2月1日の座談会では、日本エコツーリズムセンター代 表理事の広瀬敏通氏を招き、エコツーリズムの概念を取 り入れながら舟志区の地域資源を活かしたエコツアー プログラムづくりを行いました。3月 15 日には、(株) 地域計画研究所の井原満明氏を招き、グリーンツーリズ ムやエコミュージアムなどの概念・実践事例紹介を取り 入れながら、ヤマネコ保護と地域振興の両立を図る拠点 (旧舟志小学校)づくりのための討議を行いました。 集落座談会の様子 ②舟志の森づくり推進委員会 舟志区にある住友大阪セメント株式会社が所有する約 16ha の森林(以下、「舟志の 森」)において、ツシマヤマネコをはじめとする対馬の野生生物を保全し、人と自然 が共生するモデル林を確立するため、舟志区とツシマヤマネコ応援団、住友大阪セメ ント株式会社、対馬市によって平成 19 年2月 16 日に舟志の森づくり推進委員会が発 足しました。TWCC はオブザーバーとして参加し、植樹祭や自然観察会等イベントの企 画準備やモニタリング調査等を行なっています。 舟志の森づくりでは市民、企業、ボランティア団体、行政の協働を通じて、森林保 全および野生生物保全に対する意識の向上を図ることを目的として、管理方針やスケ ジュール、役割分担などを定めた舟志の森管理計画に従って活動しています。活動を 開始して3年目を迎えた今年は、これまでの活動の経過を振り返り、管理計画を改訂 しました。新しい管理計画では、舟志の森を森林地区と湿地地区の大きく2つに分け ています。さらに森林地区では、①人工林を管理して混交林化・複層林化を図る、② 竹を管理して竹林を維持する、③どんぐり苗を植樹して広葉樹林化を図る、④萱場を 創出する等の方針によって 17 区画にゾーニングし、 各区画の特性に合わせた森林管理を実施していま す。また、湿地地区では4区画にゾーニングして池 造成や観察路の整備を検討しています。 平成 20 年度は植樹地の下草刈りやソバまき、竹 林の防猪フェンスの設置、植林地の間伐、萱場の造 成等を実施しました。 推進委員会の様子 43 Tsushima Wildlife Conservation Center ③舟志の森づくりモニタリング調査 森林保全・野生生物保全の効果的促進のためには、森林管理の効果測定を行なう必 要があります。そこで、TWCC ではツシマヤマネコの主要な餌資源となっている小型哺 乳類(特にネズミ類)を指標として、植林地で間伐前と間伐後の森林環境におけるヤ マネコの餌資源量という観点から森林管理の効果を評価しています。 調査は平成 20 年5月から実施しており、平成 22 年3月までの2年間実施する予定 です。調査地には、間伐を実施する実験区(50m×50m)と間伐を実施しない対照区(50m ×50m)を設定しました(小型哺乳類の個体群動態には季節変動と年変動によるものが あるため、間伐前と間伐後の2年間を通して対照区を設定しています)。2ヶ月に1 度、連続1週間の捕獲調査を実施し、捕獲したネズミは計測後個体識別用のマーキン グを施しています。平成 20 年度はヒメネズミが最も多く 53 回、次いでアカネズミが 18 回、ヒミズが 10 回捕獲されました。また、実験 区と対照区ともに最も捕獲数が多かったのは3月 で、全体の約半数の個体がこの時期に捕獲されまし た。ヒメネズミとアカネズミは秋~春にかけて繁殖 しているようです。 平成 21 年3月には実験区において間伐を実施し ており、平成 21 年度は間伐後の小型哺乳類の生息 状況を調査していく予定です。 モニタリング調査の様子 ④舟志のヤマネコ調べ 2008 舟志の森づくりではネズミ類の生息状況調査から森林管理の評価を試みていますが、 「ヤマネコに優しい森づくり」を目指している以上、実際に舟志の森でツシマヤマネ コがどのように暮らしているかは気になるところです。そこで、TWCC では平成 20 年 12 月7日にツシマヤマネコの生息状況調査を実施しました。この調査では舟志区民に 参加を呼びかけ、区民参加型のイベント形式として実施しました。 このイベントでは、痕跡調査と自動撮影カメラを使った生息状況調査を実施しまし た。調査終了後は、旧舟志小学校の教室で報告会を行い、痕跡を発見した参加者がツ シマヤマネコの糞の特徴を説明して、参加者全員で情報を共有しました。また、自動 撮影カメラの撮影結果を確認したところ、複数枚の写真にてツシマヤマネコの姿を確 認することができ、ツシマヤマネコが舟志の森を定期的に訪れていることが分かりま した。 森が生活圏にあり、日常的に森に入っている地元の人でさえなかなか姿を見ること が出来ないツシマヤマネコを写真で確認できたということは、参加者にとって予想以 上の感動があったようでした。参加者からは「実際に舟志の森にツシマヤマネコが暮 らしていることが分かって良かった」、「自分たちが管理している森に暮らすツシマ ヤマネコの顔が分かり、森づくりに対する意識も一層強くなった」といった声が聞か 44 Tsushima Wildlife Conservation Center れました。 TWCC で は こ の イ ベ ン ト を 通 し て 舟 志 区 の み な さんがヤマネコへの理解を深め、より良い森づく り活動への一歩を踏み出したという確かな手応え を感じました。そして、これからも定期的にこの ような区民参加型の調査を実施することで、人に も生き物にも優しい森づくりの輪を広げていきた いと考えています。 生息状況調査の報告 ⑤やまねこ音楽祭 2008 11 月 15 日、上対馬町舟志の旧舟志小学校で、 「やまねこ音楽祭 2008」が開催されま した。これは、ツシマヤマネコをはじめとする対馬の生き物との共生を目指す「舟志 の森づくり」と舟志地区を応援するため、有志がやまねこ音楽祭実行委員会を結成し、 平成 19 年から開催されています。 平成 20 年は、対馬愛鼓連、プロサックス奏者脇本志津子さん、佐世保ネコかぶりジ ャズアンサンブル、対馬市民吹奏楽団、Hi-CLASS が出演し、180 名の来場者が生演奏 を楽しみました。 やまねこ音楽祭 2008 ポスター Hi-CLASSの演奏 (2)佐護での活動 ①佐護の米づくり勉強会 TWCC では、ヤマネコと共生する地域社会づくりを進める上での方向性、推進課 題を明らかにするため、平成 15 年度より集落座談会を開催しています。平成 18 年度からは、ツシマヤマネコの生息密度の高い上県町佐護区をモデル地区とし、 ワークショップ形式で、地区の魅力や課題、行動計画づくり、実践のための討議 を行っています。 平成 20 年度において、平成 21 年2月3日、3月 14 日に開催し、今回からはヤ マネコにとって重要な生息環境である「田んぼ」にテーマを絞って、ヤマネコ保 45 Tsushima Wildlife Conservation Center 護と地域振興の両立を 図るための 討議を行い ました。 2月3日の勉強会では、NPO 法人農と自然研究所の 宇根豊氏のアドバイスをもとに、今後の稲作の方向性 について、3月 14 日は、農家が生き物調査を通じて 田んぼを観察し、適切な防除技術を身につけ、環境配 慮型の農業を推進することを目的とした「試験田の設 置」について討議しました。 佐護集落座談会の様子 ②千俵蒔山草原再生プロジェクト TWCC と佐護区(佐護の7集落をまとめる自治組織)では、区民主体で佐護の魅 力や課題を抽出し、魅力の保全・再生、課題解決に向けた集落座談会を平成 18・ 19 年度に実施しました。その中で、かつての千俵蒔山の草原景観を再生させたい、 次世代の島の子供たちにその景観を継承したいという声が数多く挙げられました。 そこで佐護区では、そのような区民の要望を受け、千俵蒔山の草原を再生する こと等を目的とした「千俵蒔山草原再生プロジェクト」に平成 19 年度から取り組 んでおり、平成 20 年3月には約 40 年ぶりに野焼きを復活させました。 今年度においては、千俵蒔山の価値を見直すために、専門家による植生や歴史 文化の学術調査、千俵蒔山草原再生シンポジ ウム「大陸のみえる山 千俵蒔山草原再生への 挑戦」の開催(H21.2.22)や普及啓発パンフ レットの作成・配布等に取り組みました。TWCC としては、ツシマヤマネコの生息環境の維 持・再生するとともに、環境保全活動への住 民の自主性を育むため、活動のサポートを行 いました。 野焼きの様子 ③田んぼの楽校(佐護小中学校) 田んぼの持つたくさんの役割や魅力に気づいてもらい、田んぼが育む生き物や 対馬を代表する野生動物であるツシマヤマネコを身近に感じてもらうため、佐護 小中学校で「田んぼの楽校」を開校しました。田んぼの楽校では代掻きした田ん ぼでの泥んこ学習や、田植え、どんな生き物が田んぼにいるかを調べる生き物調 査などを行いました。その後昔ながらの手刈りでの収穫をし、そのお米を使った おにぎりを食べました。 生徒の中には初めて田んぼに入る子供も多く、はじめは気持ち悪がっていまし たが、すぐに慣れて泥だらけになっていました。また、生き物調査では、田んぼ に多くのオタマジャクシや様々な種類の虫がいることに初めて気づき、驚いてい ました。子供たちは田んぼがお米だけでなく多くの生き物を育んでいることを体 感していました。 46 Tsushima Wildlife Conservation Center 泥んこ学習 手植え体験 生き物調査 稲刈り体験 (3)田ノ浜での活動 ツシマヤマネコの重要な生息環境である田んぼの保全とヤマネコの採食資源の維持 をしながら、環境調和型農業の実現および活動の普及啓発を目的に、上県町田ノ浜に て、島内のエコファーマーを中心に「対馬ヤマネコ田んぼの学校」を開校しました。 田んぼの学校では古代米や黒米など5種類のお米の手植えや草刈り、郷土食の体験、 稲刈り、はざ架け、脱穀などのイベントを島内の参加者と一緒に実施しました。イベ ントは毎回 50 名ほどの参加者が集まり、参加者からは「初めて自分の手で苗を植えて 感動した」、「草取りをしたら、たくさんのトンボがいた」などの感想が聞かれ、ツシ マヤマネコをはじめとする多くの生物の生息場所である田んぼの重要性とその魅力を 十二分に感じたようでした。 手植えの様子 稲刈りの様子 47 資 料 ○ 対馬野生生物保護センター運営協議会規約 ○ 対馬野生生物保護センター展示等管理要項 ○ 対馬野生生物保護センター施設等利用規程 ○ ツシマヤマネコ保護増殖事業計画 編 資料 1 対馬野生生物保護センター運営協議会規約 (名称) 第1条 本会は、「対馬野生生物保護センター運営協議会」と称する。 (目的) 第2条 本会は、会議を構成する機関が、センターの運営、管理等について、相互に連絡、 調整を行うことにより、センターの活動と利用の促進を図り、もって対馬の野生 生物保護に資することを目的とする。 (協議会の構成) 第3条 本会は次に掲げる機関の代表者等をもって構成する。 (1) 九州地方環境事務所 (2) 長崎県 (環境部自然環境課、対馬地方局管理部総務課) (3) 対馬市 (観光商工部観光交流課) なお、必要に応じて、関係者に出席を求めることができる。 (協議会の役員) 第4条 協議会に次の役員をおく。 (1) 会長 1名 (2) 副会長 1名 (3) 事務局長 1名 (4) 監事 1名 2 会長は、九州地方環境事務所統括自然保護企画官とし、協議会を代表し、会務を 総理する。 3 副会長は、長崎県環境部自然環境課長とする。副会長は、会長を補佐し、会長に 事故ある時は、その職務を代行する。 4 事務局長は、九州地方環境事務所対馬自然保護官とし、第7条に定める事務を執 行する。 5 監事は、対馬市観光商工部観光交流課長とし、協議会の会計を監査する。 (協議会の開催) 第5条 本会は、会長の招集により、原則として年 1 回、その他必要に応じて開催するも のとする。 2 本会の議長は、会長または会長が指名した者があたる。 (協議事項) 第6条 本会では、次の事項を協議するものとする。 (1) センターの管理、運営 (2) 「対馬野生生物保護基金」の収支決算及び使途の承認 (3) 本協議会規約の改正 (4) その他本会で必要と認めた事項 なお、対馬野生生物保護基金の事業については、別途「対馬野生生物保護基金設置 規定」で定めるものとする。 (事務局) 第7条 事務局長は、会長の命を受け、または本会の決定に基づき、次の事務を執行する。 (1) 本会の委任した事項 (2) 「対馬野生生物保護基金」に関する事務、及び金銭出納に関する事項 (3) その他庶務に関する事項 2 本会の事務局は、対馬野生生物保護センター内に置く。 (補則) 第8条 上記のほか必要な事項は、運営協議会の議決により定める。 附 本規約は、平成 9 年 8 月 1 日をもって施行する。 則 平成 17 年 8 月 11 日 平成 18 年 6 月 5 日 平成 19 年 4 月 25 日 一部改正 一部改正 一部改正 資料 2 対馬野生生物保護センター展示室等管理要領 【趣 旨】 第1条 対馬野生生物保護センター(以下「センター」という。)内の展示室、観察室、レ クチャールーム、ホール、公共用トイレ等(以下「展示室等」という。)の管理運 営については、この管理要領によるものとする。 【展示室等の管理運営】 第2条 展示室等の施設管理責任者は九州地方環境事務所対馬自然保護官とし、展示室等 の管理運営は施設管理責任者が対馬野生生物保護センター運営協議会構成員の協 力をもって行う。 2 施設管理責任者は、センターの展示室等の設備(備品等を含む)を管理し、その 整備に努めなければならない。 3 施設管理責任者は、設備に関する諸帳簿を整理し、その現有状況を明らかにしな ければならない。 【開館時間】 第3条 センターの展示室等の開館時間は、午後 10 時から午後 4 時 30 分まで(入館は午 後 4 時まで)とする。ただし、施設管理責任者は都合によりこれを変更すること ができる。 【休館日】 第4条 センターの展示室等の休館日は、次のとおりとする。 (1) 定期休館日 月曜日。ただし、国民の休日に関する法律(昭和 23 年法律第 178 号)に規定する日(休日)に当たる場合は、これを開館日とし、その 日の後日において最も近い休館日でない日をもって、休館日に替えるもの とする。 (2) 12 月 29 日から翌年の 1 月 3 日まで (3) 臨時休館日 2 特別の事由により施設管理責任者が休館を必要と認めた日 第 1 項の規定に関わらず、施設管理責任者は都合によりこれを変更することがで きる。 【入館者の遵守事項】 第5条 入館者は、次の事項を遵守しなければならない。 (1) センターの展示室等及び展示物を損傷しないこと。 (2) センター内の秩序を乱さないこと。 (3) 所定の場所以外において喫煙をしないこと。 (4) センター内に持ち込んで飲食をしないこと。 (5) 他人に危害を及ぼし、若しくは迷惑となる物品の携帯及び動物類の携行は しないこと。 (6) その他九州地方環境事務所対馬自然保護官事務所及び対馬野生生物保護セ ンターで勤務する職員(以下、「センター職員」とする)の指示に従うこと。 なお、ツシマヤマネコの見学及び観察室における遵守事項については、次項の 定めるところによる。 2 入館者のうち、一般公開されているツシマヤマネコの生体を見学しようとする者 は、次の事項を遵守しなければならない。 (1) 見学の事前に、センター職員またはその監督下にあるものによるレクチャ ーを受けること。 (2) 見学は、センター職員またはその監督下にあるものの誘導に従うこと。 (3) 許可なく撮影を行わないこと。 (4) 観察室において大声で話す、手摺り及びガラスを叩く等、展示個体にスト レスを与える行為を行わないこと。 【入館の制限等】 第6条 センター職員は、次の各号の一に当該する者に対して入館を禁じ、又は退館を命 ずることができる。 (1)前条の事項を遵守せず、職員の制止を聞き入れない者 (2)施設等の利用目的に違反する者 (3)その他施設管理責任者が適当でないと認める者 2 センター職員は、展示室等またはその一部について入室者数及び入室時間を制限 することができる。 3 センター職員は、展示室等の施設状況、展示個体の健康状態等によって、展示の 全体あるいは一部を中断あるいは休止することができる。 【公開中のツシマヤマネコの撮影】 第7条 施設管理責任者は、ツシマヤマネコの一般公開の趣旨を理解し、ツシマヤマネコ 保護の普及啓発に資すると認められる場合においては、申請者に対し撮影を許可 することができる。 2 その際に、撮影者はあらかじめ「対馬野生生物保護センター観察室ツシマヤマネ コ撮影申請書」(様式 1 号)を施設管理責任者に提出し、その許可を受けなければ ならない。 3 施設管理責任者は、許可をした者に、「対馬野生生物保護センター観察室ツシマヤ マネコ撮影許可書」(様式 2 号)を交付するものとする。 4 撮影の際には、撮影者は第 3 項に定める許可書を携行しなければならない。 【資料の館外貸出し】 第8条 2 施設管理責任者が適当と認めたものは、資料の館外貸出しを受けることができる。 センターの資料の貸出しを受けようとする者は、あらかじめ「対馬野生生物保護 センター資料貸出許可申請書」 (様式第 3 号)を施設管理責任者に提出し、その許 可を得なければならない。 3 施設管理責任者は、許可をした者に、 「対馬野生生物保護センター資料貸出許可書」 (様式第 4 号)を交付するものとする。 4 資料の貸出期間は、30 日を限度とする。ただし、施設管理責任者が、特に必要が あると認めたときは、この限りではない。 【資料の複写利用】 第9条 センターの資料を調査研究等のために複写しようとする者は、 「対馬野生生物保護 センター資料複写利用申込書」(様式 5 号)を施設管理責任者に提出し、著 作 権 法 ( 昭 和 45 年 法 律 第 4 8 号 ) 第 31 条 に 規 定 す る 範 囲 内 に お い て 、 複 写 を 行 う こ と が で き る 。 ただし、次の資料は利用することができない。 (1) 複写した場合に資料が損傷するおそれがあるもの (2) その他、施設管理責任者が不適当であると認めたもの 【資料の寄贈】 第 10 条 2 センターは、資料の寄贈を受けることができる。 センターに資料を寄贈しようとする者は、あらかじめ「対馬野生生物保護センタ ー展示室等資料寄贈申込書」(様式第 6 号)により施設管理責任者の承認を受け なければならない。 3 施設管理責任者は、資料の寄贈をした者に対し、「対馬野生生物保護センター展 示室等資料受領書」(様式第 7 号)を交付するものとする。 4 前項の規定により寄贈を受けた資料については、理由の如何にかかわらず返却し ないこととする。 【損害の賠償】 第 11 条 入館者が故意又は過失により、センターの展示室等及び展示物等を損傷し、若し くは紛失したときは、その損害賠償は原則として原因者に請求するものとする。 【その他】 第 12 条 この要領に関し疑義が生じた場合は、別に定める対馬野生生物保護センター運営 協議会において協議し処理するものとする。 (付則) 本要領は、平成 9 年 8 月 1 日をもって施行する。 平成 17 年 8 月 11 日 平成 18 年 6 月 5 日 一部改正 一部改正 資料 3 対馬野生生物保護センター施設等利用規程 【目 的】 第1条 対馬野生生物保護センター(以下「センター」という。)のうち、展示室・観察室・ ホール・公共用トイレ等を除く研究施設及びレクチャールーム、付帯施設並びに 備品等(以下「施設等」という。)を、次の各号に該当する事由により団体又は個 人(以下「者」という。 )が利用する場合は、この規定に定めるところによる。 (1) 絶滅のおそれのある野生生物の保護増殖に関する調査研究及び事業 (2) 絶滅のおそれのある野生生物の保護増殖に関する研究又は実習 (3) 絶滅のおそれのある野生生物の保護増殖に関する普及啓発 (4) その他、九州地方環境事務所対馬自然保護官(以下「自然保護官」という。) が特に必要と認めた業務 【資 格】 第2条 センターの施設等を利用できる者は次の各号に該当するものとする。 (1) 九州地方環境事務所職員及びセンター職員(地方公共団体等に嘱託等され た職員を含む) (2) 前条第 1 号に掲げた調査研究又は事業に従事するもの (3) 環境省自然環境局及び九州地方環境事務所の受託を受けた者及び当該作業 に従事する者 (4) 前条各号の目的でセンターを利用しようとする者で自然保護官が認めたも の 【承 認】 第3条 前条第 3 号及び第 4 号に定める者は、あらかじめ別途定める「センター施設等利 用申請書」を自然保護官あて提出し、承認を得るものとする。 【注意義務】 第4条 センターの施設等を利用しようとする者は、当該施設等を善良な利用者の注意を もって使用しなければならない。 【災害の補償】 第5条 センターの施設等を利用中に生じた事故等による災害の補償に関しては、当該利 用者の責任において措置するものとする。 【施設等の損傷に対する賠償】 第6条 センターの施設等を利用しようとする者が、故意又は重大な過失によりセンター の施設等に損傷を与えたときは、当該利用者がその損害を賠償するものとする。 【その他】 第7条 (付則) この規定に定めない事項又は細則については自然保護官が別に定める。 本規定は、平成 9 年 8 月 1 日から施行する。 平成 17 年 8 年 11 日 平成 18 年 6 年 5 日 一部改正 一部改正 資料 4 平成 7 年 7 月 17 日官報告示( 「種の保存法」第 45 条に基づく) ツシマヤマネコ保護増殖事業計画 環 境 庁 農 林 水 産 省 第1 事業の目標 ツシマヤマネコは、長崎県対馬にのみ生息するネコ科の動物で、かつては、対馬島内全 域にわたり広く分布していたが、生息環境の悪化等により、個体数の減少が進み、現在、 個体数は 100 頭弱と推定されている。また、比較的多くの生息が確認できるのは、対馬北 部地域に限定され、南部地域や中央部地域では生息密度が極めて低い状況にある。 本事業は、本種の生息状況の把握と監視に努めつつ、島内の生息地において本種の生息 に必要な環境条件の維持・改善及び生息を圧迫する要因の軽減・除去等を図り、また、飼 育繁殖個体の再導入を含めた野外個体群の回復等を図ることにより、本種が自然状態で安 定的に存続できる状態になることを目標とする。 第2 事業の区域 主として長崎県対馬 第3 1 事業の内容 生息状況の把握・モニタリング 本種の生息状況を常時監視しつつ、保護増殖事業を適切かつ効果的に実施するため、以 下の調査を行う。 (1)島内での分布状況の動向の継続的把握 これまでの調査研究により、本種の島内での分布状況及びその動向が把握されてき ているが、今後とも、自動撮影、痕跡調査等により、本種の分布状況の動向を継続的 に把握する。 (2)生息状況のモニタリング 島内での分布を考慮して調査区を設定し、自動撮影、ラジオトラッキング等により、 個体識別及び行動追跡を継続的に行いつつ、個体数、行動圏、繁殖、移動分散等の本 種の生息状況に関する情報の蓄積及びモニタリングを行う。その結果、個体数等に憂 慮すべき変化が見られた場合には、緊急調査の実施を含め必要な対策を講ずる。 (3)個体の健全性の把握 保護・死亡個体や調査のために捕獲される個体について、病理・寄生虫検査を実施 し、伝染性の疾病の侵入・流行を監視するなど、個体の健全性に関する分析を行う。 検査の結果、本種の生存を脅かすような伝染性疾病の病原体や発病が確認された場合 は、緊急調査の実施を含め必要な対策を講ずる。 なお、死亡個体については、生物学的資料の蓄積のため、可能な場合には、回収し 適切に保存するものとする。また、病理・寄生虫検査のほかに、本種の遺伝的な多様 性に関する情報の収集及び分析を進める。 2 生息地における生息環境の維持・改善 本種の自然状態での安定した存続のためには、本種を食物連鎖の頂点とする多様な餌動 物を含む生態系全体を良好な状態に保つことが必要である。 このため、本種の生息にとって良好な環境条件を備えた地域については、その状態を維 持し、また、各種の土地利用、営農形態の変化等に伴い、生息環境が悪化し、個体群の維 持上影響が生じている地域については、その悪化の程度に応じて、採餌、休息、繁殖等の 活動や個体の移動分散・交流を可能とするための生息環境の改善・回復を図る。 具体的には、次のように生息環境の状況に応じて適切な対策を講ずる。 (1)島内の低標高部で入り組んだ沢や谷地形を有しており、植生としてはコナラを 主体とした森林に耕作地を含む草地や低湿地が混在し、アカネズミ、ヒメネズミ等の 餌動物が豊富である地域など本種の生息にとって良好な環境条件を備え、良好な生息 状況のみられる地域については、その生息環境を維持し、必要に応じて改善する。 (2)本種にとって生息環境の悪化がみられる地域であって、生息適地の拡大、個体 の移動分散等の観点から島内個体群の維持上必要な地域については、自然的社会的条 件を踏まえつつ、本種の生息に適した広葉樹を主体とした多様な森林の育成、小規模 な草地や低湿地の整備等を行うことにより、生息環境の改善・回復を図る。また、生 息域に介在する農用地等の開けた空間において、農用地間や河川沿いの樹林等を維持、 育成することなどにより、個体の移動分散・交流のための経路を確保する。 これらの生息環境の維持・改善のための事業は、本種の生態特性及び事業の実施が本種 を含む生物群集に及ぼす影響を考慮し、効果的な実施方法の検討・見直しを行い、長期的 な視点に立って進めるものとする。その際、地域の協力体制の確立に努める。 また、本種の生息地及びその周辺での土地利用や事業活動の実施に当たっては、重要な 餌場や移動経路等本種の生息に必要な環境条件を確保するための配慮が払われるよう努 める。 3 飼育下での繁殖 本種の個体数は減少傾向にあり、特に対馬南部地域や中央部地域の個体群は生息密度が 低い。このため、生息地における保護対策の強化だけでは、これらの地域の個体数の回復 は困難と考えられることから、飼育繁殖個体の再導入による野外個体群の回復を目的とし た飼育下での繁殖を行う。また、併せて、伝染性の疾病の侵入、流行等による野外個体群 の急激な減少に備えるため、飼育下での個体の集団の維持・充実を図るものとする。 この事業は、島内の個体の一部を捕獲し、適切な施設に搬入することにより行うものと するが、必要な個体の捕獲は、野外個体群への影響を最小限にとどめるよう、最新の生息 状況を踏まえつつ、段階的に実施する。また、初期の段階は、人工繁殖技術の確立のため の飼育繁殖研究として位置づけて行うものとする。 また、飼育下の集団の近親交配による遺伝的な弊害や疾病等による集団の全滅の危険を 防止するため、血統に配慮して飼育繁殖の母体となる集団を段階的に確保するよう努める とともに、繁殖成績に応じて複数の飼育施設間で適切な血統管理を行うものとする。 4 飼育繁殖個体の再導入を含む野外個体群の回復 対馬南部地域や中央部地域を中心に、野外個体群が既に絶滅した地域あるいは減少が著 しい地域において、上記2に示した生息環境の改善・回復を図り、また、上記3による飼 育下の集団の維持の目途が立った段階で、飼育繁殖個体を再導入することにより、野外個 体群の回復を図る。 この際、島内の適切な施設において、野生復帰のためのリハビリテ-ションを事前に行 うとともに、再導入個体の選定に当たっては、個体の血統関係に留意する。また、再導入 を行う個体の行動や再導入を行う地域の生物群集に及ぼす影響に関する継続的な追跡調 査を行うものとする。 5 その他 (1)事故防止対策 交通事故の防止のため、道路上での目撃情報を収集し、交通事故の多発が予想され る区間については、関係機関の協力を得て、施設の改善、注意標識の設置等の対策を 講ずる。 (2)傷病個体の救護及びリハビリテーション 傷病個体の救護及びリハビリテーションについては、適切な実施体制を整備しつつ、 その充実に努め、野外での生活が可能な状態に回復した場合には、原則として野外へ 帰すものとする。ただし、上記3の飼育下での繁殖のための個体の確保が必要な場合 には、健康を回復した傷病個体の活用を図ることを検討する。 (3)生息地における監視 本種の生息及び繁殖に悪影響を及ぼす行為を防止するために、生息地における監視を 行う。 (4)移入種等による影響の防止 生態的競合等による影響を及ぼすことや疾病感染の原因となることが懸念されるノ イヌ、ノネコその他の移入種について、その侵入状況や影響を監視しつつ、飼育動物 の適切な管理の徹底や野外からの除去等の影響防止策を検討し、適切な対策を講ずる。 猟犬については、その適切な管理の徹底を図るとともに、特に出産時期を中心に、 本種の繁殖上重要な地域に猟犬が侵入することを避けるための対策を講ずる。 また、疾病感染の原因となる可能性の高いイエネコについては、伝染性疾病の病原 体の保有状況を定期的に検査し、本種の生存を脅かすような伝染性疾病の病原体や発 病が確認された場合には、適切な対策を講ずる。 (5)普及啓発の推進 本種の保護増殖事業を実効あるものとするためには、各種事業活動を行う事業者、 関係行政機関、関係地域の住民を始めとする国民の理解と協力が不可欠である。この ため、本種の生息状況及び保護の必要性、保護増殖事業の実施状況等に関する普及啓 発を推進し、本種の保護に関する配慮と協力を呼び掛けることとする。また、関係地 域の公共施設において本種の理解を深めるための活動を行うことなどにより、地域の 自主的な保護活動の展開が図られるよう努める。 (6)効果的な事業の推進のための連携の確保 本事業の実施に当たっては、事業にかかわる国、長崎県及び関係町の各行政機関、 本種の生態等に関する研究者、飼育繁殖にかかわる機関並びに本種の生息地及びその 周辺地域の住民等の関係者間の連携を図り、効果的に事業が推進されるよう努める。 平成 20 年度対馬野生生物保護センター活動報告書 平成 22 年1月発行 編集:対馬野生生物保護センター 発行:対馬野生生物保護センター運営協議会 (環境省・長崎県・対馬市) 〒817-1603 長崎県対馬市上県町棹崎公園 TEL:0920-84-5577 FAX:0920-84-5578 URL:http://www.tsushima-yamaneko.jp/