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知的障害児の家族支援における関係者との連携構築に向けた
知的障害児の家族支援における関係者との連携構築に向けた養護教諭の役割 ―家族のケア能力の高まりを視点に― The Role of Yogo Teacher for Cooperation Construction with the Person Concerned In the Family Support of the Mental Disabilities Children - A Surge of the Ability for Care of the Family in a Viewpoint – プロジェクト代表者:中下富子(教育学部・准教授) 英語表記 Tomiko Nakashita(Faculty of Education) 1 研究目的 知的障害養護学校児童生徒の家族のケア能力を高めるために養護教諭が行った家族への支援方法を明らかに することを目的とした。 2 研究方法 1)対象: 対象者は、知的障害養護学校の養護教諭で14名であり、知的障害児の健康課題に対して、養護教諭が 実施した家族への支援とした。 2)調査期間: 平成17年 10 月~平成18年 3 月 3)調査方法: 半構成的面接法によるインタビュー調査を実施した。対象者1名につき、面接時間は1時間以内であ り、面接の内容は対象者の了解を得て、テープに録音し逐語録を作成した。 4)データ収集の実際 研究依頼は、群馬県・埼玉県・東京都の養護学校の学校長に電話により、協力を依頼し、依頼状を送付した。その 際、養護教諭に本研究の目的、方法を説明し、自主的な参加を依頼した。 インタビューガイドを作成し、養護教諭に対して、障害児 1~2事例の家族への支援過程における聞き取りを行っ た。養護教諭が、学校で児童生徒の健康管理をする上で家族への支援の必要性を判断した児童生徒に対して家族 に対して行った支援過程等について語ってもらった。 5)分析方法 有効データは逐語録のうち、養護教諭による家族への支援行為を「児童生徒の健康課題とその状況」、「家族への 支援として必要だと考えた内容・方法」「それに対して家族や関係者に対して行ったこと」「行ったことの意図」「行った 結果」を抽出した。分析手順として、①「行った結果」から、ケア能力の高まりを抽出し、島内らによる家族生活力量に おける家族セルフケア能力項目に分類した*。②ケア能力項目に関する支援の意図と支援行為を事例ごとにひとまと まりにして抽出した。③有効データを意味内容の類似性に従い分類し、カテゴリー化した。また個々の内容と全カテ ゴリーの中での位置づけ、各カテゴリー間の関係から、データ分類およびカテゴリーネームの妥当性について、検討 しカテゴリーネームをつけた。 なお、本研究の知的障害の家族への支援の意図、支援行為へのカテゴリー化への過程では、繰り返し逐語録に 戻り、カテゴリーの命名の妥当性を吟味した。また、データの妥当性を高めるために、逐語録からの支援の意図、支 援行為の抽出及びカテゴリー化への過程に際して、2 名の質的研究家によって確認しながら進めた。 6)倫理的配慮 調査対象となった養護教諭に対し、研究の趣旨及び方法、個人のプライバシーの保護、研究参加意思の自由等 を記載した依頼書を事前に送付し、書面及び口頭で説明を行い、同意書によって研究参加の同意を得た。 3 結果及び考察 対象者の属性として、養護教諭の経験年数は 3 年から 34 年であり、特殊教育経験年数は 2 年から 27 年であった。 事例児童生徒の所属学部は、小学部 10 名、中学部 4 名、高等部 7 名であった。児童生徒の健康課題は、てんかん 発作 7 例、高度肥満 5 例、パニック 3 例、自傷・他傷行為 3 例、虐待 1 例、統合失調症 1 例、心臓病 1 例であった。 家族のケア能力を高めるために行った家族への支援のコードは、合計 320 件抽出された。その内訳として、家族の ケア能力の高まりとするコードは 38 件、支援の意図は174件、支援行為は 108 件抽出された。 1)家族のケア能力の特徴 家族のケア能力の高まりについて、島内らの家族の健康課題に対する家族生活力量の要素に当てはめた結果、 《健康維持力》《健康問題対処力》《養育力》《家族の関係力》《社会資源の活用》といった5つの要素に分類することが でき、5 つの要素であるケア能力について、次のように捉えることができた。 《健康維持力》は、家族が健康な生活を維持する上で、家族に必要な基本的な保健行動力である。《健康問題対処 力》は、家族が子どもの健康状態や健康状態の悪化を理解し、対処しようとする保健行動力である。《養育力》は、家 族が家族員である知的障害児の状況を判断し、子どもの生活を家族が互いに補充しようとする保健行動力である。 《家族の関係力》は家族員の生活を保持し、家族員同士の協力関係を調整し家族としてまとまろうとする力である。《社 会資源の活用力》は、家族が子どもの健康問題の対処や家族の健康生活を維持するために、子どもの関係者と信頼 関係を築くとともに、関係者や関係機関から支援を受けるなどの社会資源を活用しようとする力である。 知的障害児を療育する家族におけるケア能力の高まりは、5 つのケア能力が相互に関連し合いながら、家族の機 能を高め、ケア能力が強化され、家族が様々な問題や課題を乗り越えていく力を身に付けることにより、ケア能力の 拡大へとつながっていくものといえる。 2)家族のケア能力を高めるために行った養護教諭による支援方法の特徴 家族のケア能力を高めるために行った養護教諭による支援方法は、次のようであった。《健康維持力》は、家族の 健康生活の維持を図ろうとすることへの支援を行うことである。《健康問題対処力》は、子どもの健康状態から家族へ の支援の必要性を判断し、家族の子どもへの健康管理能力の向上を図ろうとして、子どもの健康管理や子どもの学校 生活に対する家族への支援を行うことである。《養育力》は、家族の子どもへの対処が困難であったり、また子どもの 健康状態から緊急に家族に対処する必要性があったりすることを判断し、家族の療育への負担軽減を図り、障害児を 療育する家族への支援を行うことである。《家族の関係力》は、家族の安定した生活を図ろうとして、家族の関係性を 把握するといった家族の生活への支援を行うことである。《社会資源の活用力》は、家族に医療機関や関係機関の活 用を促し、また家族と関係者との信頼関係を築こうとして、家族が学校を活用する、家族が関係機関を活用するため の支援を行うことである。 家族のケア能力を高めるために影響を及ぼす関係者、関係機関に対する養護教諭による支援方法は、家族が学 校・教育機関、医療機関、地域におけるそれぞれの関係者との関係形成を図るために、連携による家族に対する支 援を行うことである。 5 結論 知的障害児の家族のケア能力を高めるために養護教諭が行った支援方法について次のような知見が得られた。 ①家族のケア能力は、《健康維持力》《健康問題対処力》《養育力》《家族の関係力》《社会資源の活用力》の 5 つの要 素からなり、これらは相互に関連し合いながら高められていた。②養護教諭が行った家族のケア能力を高めるための 支援方法には、「家族のケア能力を高める支援」と「家族のケア能力を高めるために影響を及ぼす支援」による働きか けが必要である。③家族のケア能力を高める支援として、ケア能力 5 つの要素である《健康維持力》《健康問題対処 力》《養育力》《家族の関係力》《社会資源の活用力》それぞれへの支援方法が見出された。④家族のケア能力を高め るために影響を及ぼす支援には、「学校・教育機関との関連」「医療機関との関連」「地域との関連」が見出された。 文献 *島内節、久常節子、野嶋佐由美 編:地域看護講座 2 家族ケア,医学書院,(1994)