...

STEP-2012-028 ホールスラスタSide by sideクラスタ作動時の基本特性

by user

on
Category: Documents
49

views

Report

Comments

Transcript

STEP-2012-028 ホールスラスタSide by sideクラスタ作動時の基本特性
STEP-2012-028
ホールスラスタSide by sideクラスタ作動時の基本特性評価
岐阜大・工 宮坂 武志 安里 勝雄
岐阜大・院 久保田 圭 村木 良佑
清水 大地
岐阜大・工 古田 大樹
1.研究背景
近年,国際宇宙探査として火星などへの国際有人探査が検討され 1),LEO から EML への軌道間輸送
用に高比推力という特徴を有する電気推進機の適用が議論されているが,電気推進機の中でも特にホー
ルスラスタが注目されている
2, 3).ホールスラスタは,加速チャンネル形状の違いによりいくつかのタ
イプに分類できる.ロシアを始めとして実機開発が進められているが,国内においてもマグネチックレ
イヤ型 4-20),アノードレイヤ型 21, 22),シリンドリカル型 23),マイクロ波放電式 24) のホールスラスタに
ついて,推進性能評価や作動安定性である振動現象 10-19,
21)や寿命評価 20, 22)に関して,物理現象の理解
に基づく研究が進められてきた.また,スラスタヘッドについての研究だけでなく,中和器についても
従来のホローカソード以外にも,ICP を適用した研究 7) が開始されるなど,研究が進められている.
日本では,これらの研究で得られた知見を基に 25kW 級の大出力ホールスラスタの共同開発が東京大
学を中心とした研究機関によって開始された 2).本開発では,軌道間輸送用としての日本独自のホール
スラスタを構築する目的で,損耗のほとんどないアノードレイヤ型のスラスタヘッドの開発が計画され
ている.単体での大出力化に伴う熱防御等の困難さを回避するため,5kW 級のスラスタヘッド 5 基に
よるクラスタシステムを想定しており,ヘッド開発だけでなく,クラスタ干渉,大出力中和器開発など,
各要素に関しても具体的な検討が進められている.
岐阜大学では,クラスタ干渉効果を評価することによるクラスタ最適設計指針の導出に関して,実験
システムによる基礎的なクラスタ干渉効果の評価通じて解析モデルを導出し,シミュレーションを実施
することを目的に研究を開始した.我々のグループでは,マグネチックレイヤ型のホールスラスタにつ
いて,これまで実験と数値解析の両面から研究を進めてきた 11-19).特に,電離振動に起因する 20 kHz
帯域の放電電流振動の振幅抑制について陽極オリフィス形状効果,推進剤余熱効果等の検討を進め知見
を得てきた 11-19).そこでクラスタ作動の基礎評価として,まずマグネチックレイヤ型スラスタヘッド 2
基とホローカソード 1 基により構成される Side by side(SBS)システムを構築し実験研究を開始した.
これまでと同様の形状のスラスタヘッドを採用することで,これまでの単体スラスタ研究において得ら
れてきた知見を基に,クラスタシステム動作下におけるプルーム干渉効果がより明確に理解できるもの
と期待している.本研究では,まず 20kHz 帯域の放電電流振動を中心に SBS 作動時の評価を行った.
2.実験装置
2.1 マグネチックレイヤ型ホールスラスタヘッド
本研究で用いているマグネチックレイヤ型のスラスタヘッドは,実機搭載が盛んに進められている
SPT と呼ばれるタイプよりも磁力線分布が軸方向により一様に分布しているのが特徴である.これによ
りプルーム発散の抑制効果が期待できるが,反面,陽極近傍で行われるのでアノードレイヤ型ヘッドと
This document is provided by JAXA
同じく 20 kHz 帯域の放電振動振幅が増大する.本研究で用いられたスラスタヘッドの概念図を図 1 に
示す.推進剤は周方向に等間隔で 24 個配置された陽極オリフィスを通って加速チャネル内に流入する.
これまでの単体運転に関する研究から 11-19),オリフィス径やテーパー形状等の陽極オリフィス形状の選
択や推進剤余熱によって振動振幅の抑制効果が得られることが,実験および数値解析によって明らかに
されている.本研究で用いるスラスタヘッドは,これらの振幅抑制効果がクラスタ運転時においても可
能になるように設計されている.
図1 実験に用いられたマグネチックレイヤ型スラスタヘッドの概念図
2.2 Side by side (SBS) システム
本研究では,クラスタによる干渉効果の作動への影響に関する基礎評価を目的としているため,まず
クラスタとしての最小構成である,スラスタヘッド 2 基と中和器 1 基からなるシステムの構築を行った
(図2)
.これらは中和器を挟むように一直線上に配置されている.中和器にはホローカソードを用い
図2
SBS システムの概念図
図3 SBS システム
This document is provided by JAXA
Veeco 製 HCN-252 を採用した.また,干渉効果を確認するため,スラスタヘッド間距離 D
T の変更が
可能であるように製作している.また,電子放出位置による影響を評価する目的で,ホローカソード先
端とスラスタヘッドとの軸方向間隔 D C についても可変となっている(図3)
.
本研究では,推進剤として Xe を用いた.また,電源システムによる影響を評価するため,主電源用
として2基の電源を並列に接続し1基とした共通電源を用いる場合,およびそれぞれのヘッドに対して
独立な電源を用いた場合の2ケースについて実験を行った(図4).
(a) スラスタヘッドに共通電源を用いた場合
(SBS-1)
図4
(b) スラスタヘッドに共通電源を用いた場合
(SBS-2)
SBS実験に使用した電源システム
3.結果および考察
構築したSBSシステムの作動時の様子を図5に示す.本SBSシステムを用いて放電電流波形に対する
干渉効果の評価・検討を行った.
図5 SBSシステム作動の様子
This document is provided by JAXA
スラスタヘッドを複数設置するクラスタシステムの場合,各ヘッドによって生じる磁力線同士の干渉
が予想されるが,この磁力線の干渉効果は,各ヘッドのコイル電流の向きの組み合わせにより異なって
くるはずである.そこで,本研究では2つのヘッドに流れるコイル電流の向きを同方向とした場合と異
なる方向にした場合について同一条件下で放電電流振動波形の比較を行った.作動条件は,推進剤流量
17sccm,放電電圧170V,加速チャンネル内の磁束密度の代表値約0.05Tである.また,基本作動条件は,
ヘッド間距離DT = 156mm,ホロードカソードはヘッド下流面と同じ位置(DC= 0mm),主電源システム
を共通電源とした(SBS-1).
図6 放電電流振動波形
(SBS-1, DT = 156mm, コイル電流方向異なる)
図8 放電電流振動波形
(SBS-1, DT = 298mm, コイル電流方向異なる)
図7 放電電流振動波形
(SBS-1, DT = 156mm, コイル電流方向同じ)
図9 放電電流振動波形
(SBS-2, DT = 156mm, コイル電流方向異なる)
図6および図7はそれぞれコイル電流の向きを同方向とした場合,異なる方向にした場合の放電電流
振動波形を示している.これらの図から20kHz帯域の振動振幅,振動数について,磁力線の向きの組み
合わせによる明確な影響は確認できない.しかし,どちらの場合も2つのヘッドの波形は,逆位相の関
係にあることがわかる.この逆位相の関係により総放電電流波形の振幅が抑えられており,このことは
This document is provided by JAXA
クラスタシステムのおける電源負荷の低減の可能性を示している.
次に,ヘッド間距離を長くしてDT = 298mmとした場合の波形を図8に示す.この図8とヘッド間距離
の短い図6の結果を比べると,磁力線の向きの比較の場合と同様に20kHz帯域の振動振幅,振動数につ
いては明確な違いは確認出来ないが、図8の場合,2つのヘッドの波形が同位相となっている様子も確
認できる.その結果,総放電電流波形の振幅が増大している.このようにヘッド間距離が長い場合,す
なわち干渉効果が弱くなるような配置で逆位相という特徴が弱まったことは,この逆位相が2つのヘッ
ドの間の干渉効果によって引き起こされている可能性が高いことを示している.SemenkinらによるD-55
で構成されるクラスター実験においてもこのような逆位相の現象は報告されているが,本実験のように
干渉領域の磁束密度が小さい,マグネチックレイヤ型ヘッドにおいても逆位相の効果がみられることは,
磁場干渉以外の可能性も含めて検討を進めていく必要があることを示している.
図9には各ヘッドに対して独立して1基ずつ電源を組み合わせた場合であるSBS-2の結果を示す.こ
の図9の場合はヘッド間距離DTが156mmと短いにも関わらず逆位相という特徴は見られない.このこと
は,クラスタ干渉において電源システムが重要な役割を果たしていることを示している.
また,SBS作動時のスラスタヘッド1基あたりの放電電流値は,mono(単体)作動時に比べ15%程度
の上昇がみられた.この放電電流値の上昇については電位の干渉などの要因も考えられるが,全体流量
の増加による真空環境に与える影響,つまり排気性能の影響も予想されることから更に詳細な検討が必
要である.
4.まとめ
大電力アノードレイヤ型ホールスラスタによるクラスタシステムの最適化設計指針を導出するため
には,数値解析による検討が不可欠であり,その数値モデル導出に向け,これまで扱ってきたマグネチ
ックレイヤ型スラスタヘッドからなるSBSシステムを構築し,基本的な作動特性の評価を行った.本評
価により干渉磁場の弱いヘッドを用いた場合においても,20kHz帯域の放電電流振動においてヘッド電
流間の波形が逆位相となる様子がとらえられた.今後は,干渉領域における詳細なプラズマ診断等によ
り,これらの特性について検討を進める必要がある.
本研究は,科学研究費補助金(基盤研究(B)(No. 24360348))の支援を受けた.ここに謝意を表する.
参考文献
1) ホールスラスタ研究会 http://art.aees.kyushu-u.ac.jp/research/Hall/inspace/inspace.html
2) 山本直嗣,宮坂武志, トニー ショーンヘル, 横田茂, 尾崎敏之, 大須賀弘行, 田原弘一, 小紫公也, 小泉宏之, 船
木一幸:In space propulsion としての大型ホールスラスタの検討, 平成 23 年度宇宙輸送シンポジウム, 講演集録,
2012.
3) 栗木恭一,荒川義博編:電気推進ロケット入門, 2003.
4) Yamamoto, N., Ezaki, T. and Nakashima, H.: Thrust Performance of a Low Power Hall Thruster, Trans. of Japan Soc.
for Aeronautical and Space Sci., Aerospace Technology Japan, Vol. 10, No. ists 28, pp.Tb_9-Tb_12, 2012.
5) 弓削政郎, 白崎篤志, 田原弘一:ホールスラスタの推進効率および内部効率に与える磁場特性の影響, 日本航空
宇宙学会論文集, 第 55 巻, 第 636 号, pp.8-16, 2007.
This document is provided by JAXA
6) Ando, A., Tashiro, M., Hitomi, K. and Inutake, M.: Beam Extraction from a Hall-Type Ion Accelerator, Rev. Sci. Instrum.,
Vol. 79, 2008.
7) Kasagami, S., Okuma, T., Yamamoto, N., Watanabe, H., Nakabayashi, T., Tamida, T., Osuga, H., Aoyagi, J. and
Takegahara, H.: Feasibility Study on Hall Thruster with Inductively Coupled Plasma Cathode, Proc. of the Eighth
International Symposium on Applied Plasma Science, Advances in Applied Plasma Science, Vol. 8, pp.27-30, 2011.
8) Ozaki, T., Inanaga, T., Nakagawa, T., Kasai, Y., and Matsui, K.: Development Status of High Power Xenon Hall Thruster
of MELCO, 25th International Symposium on Space Technology and Science, ISTS paper 2005-b-34, 2006.
9) 淵上健児, 網本順一, 上野文裕, 宮田升美, 上松和夫, 井伊谷不二夫, 田原弘一, 吉川孝雄:ホールスラスタの熱
特性, 平成 14 年度宇宙輸送シンポジウム, pp.209-212, 2003.
10) Nejoh, Y., Nakamoto, H., Tahara, H.: Investigation on the Cross-Field Ion Transport on the Discharge Current Oscillation
and Performance of SPT-100 Type Hall Thusters, J. Plasma Fusion Res. Ser., 2009, pp.773-779.
11) Miyasaka, T., Shibata, Y., Asato, K. and Segawa, K.: Investigation of Acceleration Channel Processes in Hall Thrusters
by Particles Simulations, Trans. of Japan Soc. for Aeronautical and Space Sci., Space Technology Japan, Vol. 7, No. ists 26,
pp.Pb_83-Pb_88, 2009.
12) Miyasaka, T., Shibata, T., and Asato, K.: Particle Simulation of Discharge Current Oscillation in Hall Thrusters, Vacuum,
Vol.83, pp.61-66, 2008.
13) Furukawa, T., Miyasaka, T., Nakayama, E. and Soga, T.: Enhanced Propulsion Performances under Optimum Parameters
in Closed Drift Accelerators, Vacuum, Vol.73, pp.407-418, 2004.
14) 古川剛, 桜井康行, 宮坂武志, 藤原俊隆:,ホールスラスタにおける低周波振動現象のプラズマ特性,日本航空宇
宙学会論文集, 第 48 巻, 第 561 号, pp.336-342, 2000.
15) Furukawa, T., Miyasaka, T. and Fujiwara, T.: Control of Low-Frequency Oscillation in a Hall Thruster, Trans. Japan Soc.
Aero. Space Sci., Vol.44, No.145, pp.164-170, 2001.
16) 古川剛, 宮坂武志, 藤原俊隆:ホールスラスタの低周波振動制御に及ぼす推進剤予熱効果実験, 日本航空宇宙学
会論文集, 第 50 巻, 第 583 号, pp.325-329, 2002.
17) 古川剛, 宮坂武志, 藤原俊隆:ホール型電気推進機の放電特性に与える中性粒子条件の影響,プラズマ応用科学,
第 10 巻, pp.36-43, 2002.
18) 古川剛, 宮坂武志, 曾我丈夫, 藤原俊隆:Hall 加速器の非定常数値解析における電圧振動考慮の効果, プラズマ
応用科学, 第 11 巻, pp.41-46, 2003.
19) T. Miyasaka, T. Furukawa, Soga, T., Nakayama, E., Kitagawa, T. and F.Y. Zhang, Influence of Propellant-Inlet Condition
on Hall Thruster Performance, the 28th International Electric Propulsion Conference, IEPC-03-091, pp.1-9, CD-ROM,
2003.
20) Cho, S., Yokota, Y., Hara, Y., Takahashi, Y., Arakawa, Y., Komurasaki, K. and Kobayashi, A.: Development of Lifetime
Evaluation Method Using Multilayer Coated Chip, Trans. of Japan Soc. for Aeronautical and Space Sci., Aerospace
Technology Japan, Vol. 8, No. ists 27, pp.Pb_51-Pb_54, 2010.
21) Yamamoto N., Nakagawa, T., Komurasaki, K. and Arakawa, Y.: Discharge Plasma Fluctuations Hall Thrusters, Vacuum,
Vol. 65, issues 3-4, pp. 375-381, 2002.
22) Yamamoto, N., Tao., L. and Yalin, A. P.: Development of Real-time Erosion Monitoring System for Hall Thrusters by
Cavity Ring-Down Spectroscopy, Trans. of Japan Soc. for Aeronautical and Space Sci., Aerospace Technology Japan, Vol.
8, No. ists 27, pp.Pb_39-Pb_44, 2010.
This document is provided by JAXA
23) Ikeda, T., Togawa, K., Nishida, T., Tahara, H. and Watanabe, Y.: Research and Development of Very Low Power
Cylindrical Hall Thrusters for Nano-Satellites, the 32nd International Electric Propulsion Conference, IEPC-2011-039,
2011.
24) 桑野寛久, 國中均, 中島秀紀:マイクロ波放電式ホールスラスタのチャネル内プラズマ状態およびチャネル長さ
とスラスタ性能の関係, 日本航空宇宙学会論文集, 第 55 巻, 第 639 号, pp. 188-194, 2007.
25) Semenkin, A. V., Zakharenkov, L. E. and Soldukhin, A. E.: Feasibility of High Power Multi-Mode EPS Development
Based on the Thruster wwith Anode Layer, the 32nd International Electric Propulsion Conference, IEPC-2011-064, 2011.
26) Miyasaka, T., Asato, K., Baharudin, F. B., Sugiyama, H. and Funaki, I.: Study on Electron Distributions in a Three
Dimensional Particle Simulation of an Ion Engine, Trans. of Japan Soc. for Aeronautical and Space Sci., Aerospace
Technology Japan, Vol. 10, No. ists 28, pp.Pb_13-Pb_17, 2012.
27) Miyasaka, T., Asato, K., Sakaguchi N. and Ito, K.: Optical Measurements of Unsteady Phenomena on Coaxial Pulsed
Plasma Thruster, Vacuum,in press.
28) Ito, K., Miyasaka, T., Asato, K. and Sakaguchi, N.: Measurements of Late-Time Ablation Phenomena of PPT Using a
Propellant with Slits, Plasma Application & Hybrid Functionally Materials, Vol. 21, p.66, 2012.
This document is provided by JAXA
Fly UP