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地方交付税におけるソフトな予算制約の検証:経常経費における補正係数

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地方交付税におけるソフトな予算制約の検証:経常経費における補正係数
ESRI Discussion Paper Series No.183
地方交付税におけるソフトな予算制約の検証:
経常経費における補正係数の決定
By
宮崎
毅
May 2007
内閣府経済社会総合研究所
Economic and Social Research Institute
Cabinet Office
Tokyo, Japan
ESRIディスカッション・ペーパー・シリーズは、内閣府経済社会総合研究所の研
究者および外部研究者によって行われた研究成果をとりまとめたものです。学界、研究
機関等の関係する方々から幅広くコメントを頂き、今後の研究に役立てることを意図し
て発表しております。
論文は、すべて研究者個人の責任で執筆されており、内閣府経済社会総合研究所の見
解を示すものではありません。
地方交付税におけるソフトな予算制約の検証:経常経費
における補正係数の決定
宮崎 毅
y z
明海大学経済学部講師・前内閣府経済社会総合研究所政策研究研修員
E-mail: [email protected]
(
y 本稿を執筆するにあたって、荒井信幸客員教授 広島大学大学院社会科学研究科、前内閣府経済社会総合
研究所上席主任研究官、前大臣官房審議官) 、川瀬晃弘研究員 (法政大学大学院エイジング総合研究所) 、北村
行伸教授 (一橋大学) 、黒田昌裕所長 (内閣府経済社会総合研究所) 、舘逸志景気統計部長 (内閣府経済社会総
合研究所) 、中澤克佳講師 (東洋大学) 、林正義准教授( 一橋大学)、広瀬哲樹次長 (内閣府経済社会総合研究
所) 、法專充男総括政策研究官 (内閣府経済社会総合研究所) 、増淵勝彦上席主任研究官 (内閣府経済社会総合
研究所) から貴重なコメントを頂いた。日本財政学会第 63 回大会では、討論者である土居丈朗准教授 (慶応
大学) から詳細なコメント頂いた。セミナーの討論者である小林航主任研究官 (財務省財務総合政策研究所)
には、本稿の分析について詳細なコメントを頂いた。記して感謝したい。
z 本論文の内容は全て執筆者の個人的見解であり、内閣府経済社会総合研究所の見解を示すものではありま
せん。
1
要旨
地方交付税には、地方の税収確保努力、歳出削減努力を弱める効果があることが
指摘されている。具体的には、事業費補正、
「財源対策債」や「臨時財源対策債」の測
定単位への参入、補正係数の裁量的な操作や単位費用による財政難の自治体の救済な
どが挙げられている。本論文では、地方交付税の補正係数の決定にソフトな予算制約
が存在し 、歳出の増大した地方団体への財源配分が行われているのかを検証する。警
察費、小学校費、衛生費に関する都道府県パネルデータを用いて、補正係数を従属変
数、前期における費用の基準財政需要からの乖離率を説明変数とした推計を実施し 、
次の結果が得られた。第 1 に、小学校費と衛生費では、前期において費用が基準財政
需要から乖離する割合が大きい自治体に有利なように、今期の補正係数が改正されて
いる。第 2 に、補正係数による財源調整の役割が大きい場合に、費用と基準財政需要
の乖離率が補正係数の改正に影響を与える傾向にある。
2
Abstract
It is pointed out that Local allocation tax (LAT), an intrinsic local revenue source
aimed at osetting and balancing the disparity between local governments, relates
to eorts to increase tax revenue and mitigate expenditure. This work investigates
whether local governments confront Soft budget constraints (SBCs) in control of
Hosei-keisu, one of methods to allocate LAT, and it ensures revenue so that local
governments can secure their expenses in whatever region. Two main results are
obtained. First, in Elementary school and Public hygiene and sanitation expenses,
local governments whose rate of divergence between realized expenses and estimated
costs to estimated ones is large receive a large amount of LAT by means of Hoseikeisu. Second, the rate of divergence positively correlates an amount of LAT by
Hosei-keisu when it has an important role of adjusting scal disparities among local
governments.
3
1 はじめに
近年、国から地方への財源の移転制度である地方交付税制度が、地方の自主的な税源確
保や歳出削減意欲を弱める可能性が指摘されている。経済学では、地方交付税が歳出削減
努力・税収確保努力に及ぼす影響を分析した研究がいくつかある (赤井他、2003 田近・宮
崎、2006)。また、交付税制度と歳出・歳入の詳細な関係を分析した研究もあり、歳出で
は元利償還金の交付税措置や事業費補正と地方債発行や公共事業との関係 (土居・別所、
2005a 、b) が分析され 、歳入では固定資産税制度と交付税 (堀場他、2003 持田、2004) 、
交付税の徴収インセンティブ (西川・横山、2004) 等の研究が蓄積されている。
また、交付税制度に内包される、行財政運営を非効率にする要因として、Kornai (1980)
以来経済学で注目されている「ソフトな予算制約 (soft budget constraints: SBCs) 」の問
題が指摘されている (赤井他、2003)。事後的に、中央政府が非効率な行財政運営を行って
いる地方自治体を救済してしまうため、救済を予想した地方自治体は歳出削減や税収確保
のための努力を怠るというものである。特に、補正係数は地方からの要望を考慮して改正
されている、また地方自治体の決算が出た後に枠組みを決定することから、補正係数の改
正には事後的な非効率を容認する制度的特徴があると指摘されている (池上、1998 、2003
赤井他、2003)。
赤井他 (2003) は制度面から、基準財政需要の公債費における元利償還金や公債費の測
定単位への算入、事業量を需要額とする「事業費補正」、地方からの要望が採択される補
正係数などが、地方財政の放漫の一因となった可能性を指摘している。元利償還金や公債
費の測定単位への算入や事業費補正と投資的経費の問題は、土居・別所 (2005a 、b) で分
析されている。土居・別所 (2005a) は、1980 年から 2000 年までの都道府県パネルデータ
で、元利償還金の交付税措置が公共事業を誘導したのかを調べ、80 年代前半までは事業費
補正によって地方債の発行と公共事業が誘導されたが、それ以降は効果がなかったことを
明らかにした。土居・別所 (2005b) では、1976 年から 2000 年までの都道府県データを用
いて、地方債の元利償還金の交付税措置が地方債の発行に与える影響を調べた。公債残高
比率を将来時点の公債費の交付税措置率に回帰した OLS 推定から、措置率を 10 期リード
とした場合には将来の交付税措置が地方債の発行を増加させるという結果を導いている。
一方、補正係数の決定過程における問題点はいくつかの研究で指摘されているにも関わら
ず、これまで補正係数の制度的特徴を十分に考慮した枠組みでの実証研究は皆無である。
そこで本稿では、地方交付税の補正係数の決定にソフトな予算制約が存在し 、歳出の増
大した地方団体への財源配分が行われているのかを検証する。1985 年から 2000 年までの
都道府県データで分析を行い、交付税制度に関する精緻な分析を行うために、目的別歳出
額の他に行政項目別の基準財政需要額を用いる。基準財政需要の算定式を参考に補正係数
を作成し 、さらに補正係数を説明する変数として、目的別歳出の費目別基準財政需要から
の乖離率を用いる。補正係数を自身の 1 期ラグと乖離率の 1 期ラグに回帰し 、補正係数の
1 期ラグでコントロールした下で基準財政需要からの乖離が今期の補正係数の決定にどの
ような影響を及ぼすのかを推定する。パネルデータを用いることから、ダ イナミック・パ
ネル分析の中でもバイアスが小さい Blundell and Bond (1998) によるシステム GMM 推
定を行う。補正係数に単位根が疑われる場合には、パネル単位根検定を行い、適切な方法
で推定する。
地方交付税に関して様々な実証研究があるが、本稿は次の点で既存の研究と異なる。第
4
1 に、補正係数の制度的問題に焦点を当て、制度及び運営方法の実態を丁寧に精査してい
る。警察費、小学校費、衛生費の経常経費を対象に、補正係数の算定方法を調べ、記述し
てある算定方法と実際の運用方法との違いを把握するために、実務担当者に補正係数の運
用の実態を調査している。実態調査を基に、これまで分析に用いられることが少なかった
都道府県の行政項目別基準財政需要のデータを用いて、費目別に、前期の費用の基準財政
需要からの乖離が今期の補正係数の改正に及ぼす影響を推計している。第 2 に 、ソフト
な予算制約の前提条件となる制度的側面を丹念に調べた上で、最近の計量分析手法を用い
てソフトな予算制約の存在を検証している。これまでは、政府から公有企業への資金援助
などを通じたソフトな予算制約を、制度変更や民間企業との比較などで検証するという実
証研究が多く、中央から地方への財源移転に伴うソフトな予算制約の実証研究は少なかっ
た。赤井他 (2003) は交付税制度のソフトな予算制約を検討しているが 、分析に用いてい
るデータの性質上、分析対象がどの費目なのか、元利償還金の交付税措置や事業費補正の
うちどの制度が影響しているのか識別しにくい。本稿では、制度の調査及び 、実際の運用
方法の調査から、補正係数の改正にソフトな予算制約の可能性があることを述べた後に、
費目別基準財政需要や基準財政需要を計算する際の測定単位のデータを利用して、ソフト
な予算制約を検証している。パネルデータを分析する際に、システム GMM 推定やパネル
単位根検定など 計量経済学における最新の分析手法を利用している。
推定から、次の結果が得られた。第 1 に、小学校費と衛生費では、前期において費用が
基準財政需要から乖離する割合が大きい自治体に有利なように、今期の補正係数が改正さ
れている。衛生費についてシステム GMM 推定を行ったところ、乖離率が有意とならな
かったが、小学校費と衛生費の補正係数に単位根を想定した推定では、小学校費と衛生費
の乖離率の係数が正で有意となることが示され 、乖離率を前半と後半に分けた分析でも、
同じ傾向が確認された。第 2 に、補正係数による財源調整の役割が大きい場合に、費用と
基準財政需要の乖離率が補正係数の改正に影響を与える傾向にある。年度別に補正係数の
変動係数を計算したところ、変動係数が大きい期間において、前期の乖離率が当期の補正
係数と相関を持っていた。これらの分析から、客観的な指標で構成される補正係数の決定
には、政策形成者の意図よるか否かはともかく、ソフトな予算制約が存在している可能性
が示唆された。
本稿の構成は、次の通りである。第 2 節で先行研究を紹介した後、第 3 節で交付税の制
度及び現状を概観する。第 4 節で推定モデルとデータを記述し 、第 5 節で推定結果を示す。
第 6 節が結論となる。
2
先行研究
2.1 Soft budget constraints に関する理論研究1
Kornai (1980) が 1970 年代のハンガリー経済について記述して以来、社会主義経済にお
ける SBCs は良く知られ、最近では東アジアにおける銀行の融資や国営企業に対する中央
政府からの資金援助にも SBCs が存在することが指摘されている (Kornai et al. 、2003)。
Kornai (1980) は言葉による記述だったが、SBCs の概念は様々な理論モデルで応用されて
日本語では「ソフトな予算制約」と訳されているが、英語の文献を紹介する際は soft
の略語である SBCs を用いる。
1
5
budget constraints
いる2 。最初に、契約理論に基づいた理論モデルで SBCs の問題を説明し 、その後 SBCs の
理論研究をサーベイする。
SBCs の理論を、政府が国有企業を救済する例で紹介する3 。社会厚生最大化を目的とす
る政府は公共事業の実施をある金額で企業に委託し 、事業が実現すれば住民は便益を得ら
れるが 、失敗すれば便益が得られないとする4 。企業は公共事業の実施にかかる費用を下
げるために金銭的・非金銭的努力を行い、事業が完成した時に実際の費用が実現する。委
託金額を費用が上回るようであれば 、事業は完成しないが、政府は事後的に企業を救済す
る目的で介入することが出来るとする。ここで、事前・事後という言葉を用い、事業が完
成した時点の前を事前、それ以後を事後とする。
このとき、政府が国有企業に公共事業の実施を委託する場合を backward 的推論で考え
る。政府は介入して事業を完成させた方が便益が高ければ 、企業を救済する。事後に政府
が介入することが予測されるのであれば 、事業実施に必要な費用を下げるための努力水準
は 、介入しないという政府によるコミット メントがある状況に比べて、低くなるだろう。
政府が事後的に介入しないのであれば 、努力による期待費用の限界的削減効果と努力の限
界費用が等しくなるまで努力が行われる。この状況がファースト・ベスト 5 (FB) である
が 、政府の介入があるときには努力水準が FB よりも低くなり、SBCs によって過小努力
となる。
SBCs の理論研究の先駆けとなった Dewatripon and Maskin(1995) は、分権化と貸付金
の関係について、銀行と借り手の間に情報の非対称性があるモデルで検討している。そし
て、中央集権の下では貸し手の間に競争が無いために、事前には完成しない方が望ましい
プロジェクトを実施する起業家に貸し付けてしまうという SBCs をモデル化している。一
方、地方財政との関連では、Qian and Roland (1996 、1998) は中央政府、地方政府、国
営或いは民間企業という 3 層モデルで、財政当局の中央から地方への分権化と SBCs の関
係について考察している。集権国家の下では、中央政府は国営企業に課税し 、余剰をイン
フラ投資や国営企業への救済に向け、連邦制の下では、地方政府が課税して管轄内で支出
する。厚生最大化を目的とする政府を仮定すると、連邦制の下では、地域の投資は私的投
資の限界生産性を増加させるだけでなく、資本の流出を防ぐ役割を持つ。そのため、出来
の悪い企業を救済する機会費用は集権的な財政当局よりも連邦制の下で高くなり、連邦制
の方が hard budget constraints (HBCs) が成立していると言える。Sato (2002) は日本の
財政移転制度の特徴を取り入れたモラル・ハザード モデルで、収入の自立性を地方政府に
もたらす財政分権化はモラル・ハザード を軽減する働きを持つこと示した。このように理
論研究では、中央集権よりも分権することで SBCs が弱まるという結論が多い。
SBCs のサーベイには Maskin (1999) 、Kornai et al. (2003) があり、日本語では赤井 (2005) がある。
SBCs と契約理論の不完備契約の概念は密接に関連しており、不完備契約を参考にしたモデルを紹介す
る。不完備契約については Tirole (1999) が良いサーベイとなっており、不完備契約に基づいた国有企業の分
析には Schmidt (1996a 、b) 、Bos (1999) がある。
2
3
4
行政の行動原理は厚生最大化ではなく、費用最小化にあるという見方もあるが 、ここでは既存の研究にし
たがって厚生最大化を目的とする。
5
ファースト・ベストは事業の期待費用から努力の費用を減じた関数の努力に関する最大化から求められる。
6
2.2 SBCs の実証研究
最近では、SBCs に関する実証研究も蓄積されつつあるが、実証研究の多くは必ずしも
移行経済を対象としているわけではなく、市場経済における SBCs の検証にも取り組んで
いる。多くの研究は、公営企業は利潤最大化を目的とする民間企業に比べて生産性が劣り、
多くの従業員を抱えているため、SBCs によって非効率が生じていることを指摘している。
Majumdar (1998) は 1991 年の 157 企業を対象に、規模の経済が一定を仮定した CCR
モデルと様々な規模の経済を仮定した BCC モデルで DEA (data envelopment analysis)
を行った。国有企業、民間企業、外国企業別に BCC モデルで資源利用の効率性を計測し
たところ、外国企業、民間企業、国有企業の順に効率的であることが分かり、特に外国企
業は最も非効率的な企業でも比較的効率的なことが示された。また、DEA 効率スコアを
負債資本比率に回帰したところ、国有企業の負債資本比率は、民間企業の 8:1 に対して
110:1 と明らかに過剰債務となっているだけでなく、負債資本比率の回帰係数も負で有意
となり、SBCs が存在することが示された。
Duggan (2000) は、1990 年のカリフォルニア州政府による、貧困患者の診察に対する病
院の金銭インセンティブを増加させるプログラム (DSH:Disproportinal Share Program)
という外生的な政策変更で組織行動の理論を検証し 、次の結果を得ている。第 1 に、公営病
院から最も利益になる貧困患者を奪うため、民営営利、非営利病院は公営病院よりも DSH
に有意に反応する。第 2 に、民営営利、非営利病院は DSH の収入を、貧困者の医療の改善
に費やすのではなく、金融資産を増やすのに使用している。公営病院は利潤に対する権利
を有しないため、財政的インセンティブが変化して収入が増加したとき、民営病院とは異
なった行動をとる。つまり、この 2 つの結論から、政府所有の組織における SBCs が支持
されている。Bertero and Rondi (2000) は 1977 年から 93 年までの 1278 企業( 150 国有
企業)のパネルデータで、企業の予算制約をハードにすることが公企業の行動やパフォー
マンスに及ぼす影響を調べている。1970 年代から 80 年代半ばまでのイタリアの公企業に
は資金供与があり、国有銀行に融通してもらった多くの負債で特徴付けられる。しかし 、
公債の累積、EMU や EU の要請による国家主導の救済の削減、民営化プログラムの進展
が 、80 年代終わりより SBCs から HBCs へのシフトを進めた。予算制約の効果を調べる
ために、実質売り上げを LEV (負債/資産) に回帰したところ、SBCs 期の LEV (負債/資
産) の係数は負、HBCs 期には正という結果が得られた。また、雇用を従属変数としたコブ
=ダグラスモデルの推定から、HBCs 期の LEV の係数と SBCs 期の係数は負となったが、
HBCs 期の係数の方が絶対値でみて大きく、HBCs 期には財政圧力によって雇用を削減さ
せることが分かった。このように、国営企業あるいは公営企業は民間企業に比べて SBCs
に直面することが多く、過剰債務、過剰雇用に陥っていることが示されている。
一方、Lizal and Svejnar (2003) は 、1992 年から 98 年までのチェコ共和国で活動した
4000 の大・中規模企業による 83500 以上の 4 半期データを使って企業の投資行動を分析
し 、別の結果を得た。第 1 に、外国企業が最も投資性向が高く、国内の協同組合が最も低
い。ただ、民間企業が国有企業よりも投資するという結果は得られなかった。第 2 に、協
同組合と中規模かそれ以下の企業が信用割り当てに直面する一方、国有企業や大規模な民
営化企業など 、ほとんどの企業は信用割り当てには直面していない。後者の企業では、投
資資金の入手可能性と生産性に負の相関がある。国有企業や規模の大きい民営化企業で投
資率が高いことから、大規模企業は SBCs の下で運営されていたと考えられる。第 3 に、
7
どのタイプの企業の投資行動も新古典派の静学モデル或いは、動学モデルにおける利潤最
大化行動と整合的である。SBCs は国有企業だけではなく、大規模企業においても存在す
るが、どの所有権構造においても経済理論と整合的であることが述べられている6 。このよ
うに、国有企業と民間企業に SBCs があるのかについては様々な見解が示されているが 、
概ね民間企業よりも国有企業において SBCs があるという結論が多い。
日本にも、公営企業の SBCs に関する実証研究がいくつかある。赤井・篠原 (2002) で
は、1980 年から 98 年までの都道府県パネルデータを用い、第三セクターの設立・破綻要
因を分析している。県別の第三セクター設立数を従属変数とした固定効果モデルの推計か
ら、官民の馴れ合いによる設立が多い (民間出資比率が 32%ぐらいがちょうど 設立数が最
大) 、失業対策としての設立という結果を得ている。また、1996 年から 2001 年までのデー
タをプールした都道府県別クロスセクション分析から、官民の馴れ合いによる破綻 (民間
出資比率が 40%で破綻割合が最大) 、大規模プロジェクトほど 破綻しているという結果を
得ている。山下 (2003) は、1993 年から 97 年までの市営或いは都府県営バス事業を実施
している 36 団体についてのパネルデータで、自治体による他会計からの繰入が事業の効
率性に影響を与えているのかを検証した。事業の総費用を従属変数としたパネル・フロン
ティア費用関数の推計から、過去の他会計依存度が高い自治体では、SBCs によって非効
率が生じており、東京都や横浜市では最も効率的な事業主体に比べて 60 − 70%程経費が
浪費されていることが分かった。
これらの実証分析は、SBCs が必ずしも社会主義や移行経済だけではなく市場経済にお
いても問題となることを示唆している。また、ほとんどの実証分析は、民間企業と国有企
業の比較、或いは SBCs から HBCs への制度変更などを利用し 、SBCs は負債や投資の増
大、雇用の拡大など 非効率な運営をもたらすと結論付けている。
2.3 地方交付税制度と歳出削減・歳入確保努力
地方交付税が地方自治体の歳入確保や歳出削減のための努力に及ぼす効果について、様々
な研究が行われてきた。田近他 (2001) が交付税制度の問題として税収増大意欲が小さくな
ることを主張する一方で、西川・横山 (2004) は現在の徴収率の決定方法には税収確保意欲
を阻害する可能性はないことを示した。また、山下 (2001) は交付税が法人住民税における
超過税率の採用意欲に及ぼす影響を分析しているし 、土居 (1996 、2000) 、堀場他 (2003) は
固定資産税におけるモラルハザードについて詳細な研究を行っている。土居 (1996 、2000)
は現在の制度には税収を確保する意欲を阻害する可能性があることを指摘しているが 、持
田他( 2003 )は制度上そのような可能性はないと反論している。一方、歳出への影響につ
いては、土居・別所 (2005a) が元利償還金の交付税措置が公共事業を誘導したのかを検証
し 、80 年代前半まで事業費補正によって地方債の発行と公共事業が誘導されたことを明ら
かにした。土居・別所 (2005b) では元利償還金の交付税措置が地方債の発行に与える影響
を調べて、将来の交付税措置が地方債の発行を増加させる可能性を示唆した。
また、地方交付税のソフトな予算制約に関する問題では、山下他 (2002) および赤井他
他にも、Schaer (1998) は SBCs の様々な定義を調べて 、SBCs を識別する際に直面する概念や測定の
問題について考察し 、移行経済において銀行はよく議論されるような SBCs の温床にはなっておらず、1992
年にはハンガリー銀行は貸付の多くを不良債権に分類しており HBCs を企業に課していたと結論付けている。
貸付けではなく、税の滞納が改革中の移行経済では SBCs の源泉となっていることを指摘している。
6
8
(2003) が,交付税によって地方自治体の歳出削減努力が阻害される可能性を示す一方、田
近・宮崎 (2006) は全国市町村データを用いた実証分析から、交付税は税収確保努力を弱
めるが 、歳出削減努力には影響を及ぼさないと主張している7 。しかし 、これらの研究で
は総歳出や総歳入のデータを用いているため、元利償還金の交付税措置や事業費補正など
の誘導効果と補正係数や単位費用におけるソフトな予算制約を識別出来ていないと考えら
れる。
3
地方交付税制度および推定仮説
3.1 基準財政需要の算定
基準財政需要、基準財政収入、単位費用の算定方法
本節では、基準財政需要及び 、基準財政需要の構成要素である、単位費用、測定単位、
補正係数の計算方法について説明する。普通交付税額は良く知られているように、次の計
算式で表すことができる8 :
普通交付税額 = 基準財政需要
; 基準財政収入
基準財政需要は 、次に述べるような行政項目別の基準財政需要を合計して求められ 、基
準財政収入は法定外目的税、法定外普通税、都市計画税を除く「標準的な地方税収入」の
75%と地方譲与金の合計で計算される。
基準財政需要の行政費目は大別すると、警察費、土木費、教育費、厚生労働費、産業経
済費、その他行政費、公債費、農産漁村地域活性化対策債からなり、より詳細には表 1 の
「費目」のように分類されている9 。行政費目ごとの基準財政需要の計算式は
基準財政需要 = 測定単位
補正係数 単位費用
だが、財政需要は基本的には測定単位に単位費用を乗じることで算定され 、考慮できない
費用については補正係数を乗ずることで調整している。
表 1.行政費目別の補正適用一覧 を挿入。
単位費用は「標準的条件を備えた団体10が 、妥当な水準で地方行政を行う場合に要する
費用」と規定され 、行政項目の測定単位ごとに次のような式で算定される:
単位費用 =
;
標準団体の標準的な歳出 そのうち国庫補助金等の特定財源
標準団体の測定単位の数値
国データを用いた地方財政における SBCs を検証した論文もある。Moesen and van Cauwenberge (2000)
は、最初に Niskanen の官僚制のモデルで SBCs が公共サービスの生産性に与える影響を調べ、HBCs の下で
は技術的非効率が減じられるだけでなく、公共財の生産も制限されること示した。また、SBCs と分権化の関
係について議論した上で、1990 年から 92 年までの OECD の 19 カ国のデータを用いて、分権化の進展と政
府の規模の関係を調べた。政府支出比率を、地方政府の支出に占める地方政府の税収で構成される新たな分
権化の指標と 1 人当たり GDP に回帰したところ、OLS と操作変数推定から分権化が進んでいる国では政府
の規模が小さいことが示された。
8
地方交付税総額の決定過程、及び交付税の配分方法については、付録を参照されたい。
9
制度に関する説明は、特に断らない限り 2000 年度の制度に基づく。
10
標準団体は、都道府県では人口 170 万人、面積 6500km2 、世帯数は 63 万世帯、道路の延長が 3900km
とされている。ただし 、標準的な経費を算定するため、各費目ごとに細かく行政規模などを設定している。
7
9
歳出は地方団体が行うべき標準的事務が設定され 、経費区分ごとに計算される行政経費を
足し合わせて算出される。必要な一般財源額は国庫支出金などを差し引いて求められ、そ
れを標準団体の測定単位数で除して単位費用が得られる。例えば 、平成 17 年度の小学校
費 (道府県分) は次のように算定される。標準団体 (人口 170 万人) では教職員数 (測定単
位) は 6686 人で、歳出 (給与費、旅費等) は 60,587 百万円、歳入 (国庫支出金) は 18,749
百万円となり、差引一般財源は 41,838 百万円となる。したがって、差引一般財源を標準団
体教職員数で除することで単位費用、6,285 千円が算出される。
補正係数の算定方法
次に、本稿で最も関心のある変数である「補正係数」について概観する。単位費用はす
べての都道府県で同一なのに対して、補正係数の目的は「実際の各地方団体の測定単位当
たり行政経費は、自然的・社会的条件の違いによって大きな差があるので、これらの行政
経費の差を反映させるため、その差の生ずる理由ごとに測定単位の数値を割り増しまたは
割り落とししている」ことにある。実際、地域間には人口、人口密度、面積、都市化の程
度、気象条件などの違いのほか、政令指定都市など 他の市町村とは行政権限が異なる団体
があり、地方公共団体の測定単位当たり費用は自治体間で異なると考えられる。表 1 にあ
るように補正にはいくつかの種類があり、行政費目、経常経費か投資的経費かに応じて適
用される補正の種類が異なる。
種別補正は、測定単位別に単位当たり費用に差がある場合に測定単位の数値を補正し 、
段階補正は測定単位の増減によって単位当たり費用が割高、割安になる点を補正する。密
度補正は人口密度に応じて行政経費が割高、割安になる状況を考慮する。態容補正には、
都市化や隔遠の度合いによる普通態容補正、普通態容補正のような級地区分とは関係のな
い経常経費の差を算定する経常態容補正、投資補正や事業費補正からなる投資態容補正が
ある。その他に、寒冷補正、数値急増・急減補正などがある。
表 2.補正係数の連乗加算の方法 (道府県分) を挿入。
表 3.小学校費 (道府県分) における普通態容補正の計算 を挿入。
すべての行政項目で同じように補正が適用されるわけではなく、項目ごとに適用される
補正の種類は決まっている。表 1 には、費目別に適用される補正が載せてある。本稿で関
心のある経常経費では、種別補正、段階補正、密度補正、普通態容補正、経常態容補正、
給与差に基づく寒冷補正、数値急増補正が適用され、一方投資的経費では投資補正、事業
費補正、数値急増補正が適用されている。
このように経常経費か投資的経費かで適用される補正の種類は分かれるが、数種類の補
正係数を計算する方法は非常に複雑である。本稿の分析と関係ある費目の補正係数の連乗
または加算の方法は表 2 であるが、いくつかの補正係数から測定単位に乗算される段階に
至るまでに複雑な計算を行っている。一方で、個別の補正係数の計算方法においても、複
雑な計算が必要とされる。例えば 、小学校費 (道府県) の補正係数の算定式は
f普通態容補正係数 + (経常態容補正係数 ; 1)g 寒冷補正係数
であるが、普通態容補正、経常態容補正、寒冷補正の計算は次のようになる。普通態容補
10
正は、表 3 のように一般財源総額に占める給与費の割合 (0.944) に共通の係数を乗じて得
た率 (表 3 の B) に、給与費以外の率 (1 0:944 = 0:056) を加えて種地11ごとの補正率を
計算する。この率に該当する市町村の人口を乗じて得た値の合計を都道府県の人口で除し
て補正係数を得る。経常態容補正の計算には、次の算定式が用いられる:
;
(A ; 1) 0:2 + 1:000
A は平均棒級月額比率 (市町村立の小学校の教諭又は養護教諭が 、国立の小学校の教諭又
は養護教諭であると仮定した場合の棒級の合計額12を、全国市町村立小学校の教諭の平均
棒級月額で除した率) で、 は標準団体の給与費比率、0.2 は算入率である。各都道府県の
教職員の年齢構成による、行政経費の差を反映させている。
最後に、寒冷補正は次の算定式で計算される:
f職員 1 人当たり支給額 8612 人 1=2g =45115159 千円
ただし 、8612 人は標準団体の職員数、45,115,159 千円は標準団体の一般財源額を表してい
る。職員 1 人当たり支給額は級地 (1 から 8) ごとに異なるため、補正率も級地によって 8
種類存在する。このように、人口、面積、気象条件などによる自治体間の費用の差を反映
させる、個別の補正係数は複雑な算定式から求められる。
3.2 補正係数の改正:実務面からの分析13
補正係数改正の総論
補正係数は、自然的・社会的条件の違いによって生ずる行政経費の差を反映する目的を
持っているが 、地方団体が置かれている状況の変化などにより毎年改訂されている。補正
係数の改正には、次の 3 種類がある。第 1 は、各省庁から交付税への算入基準の変更を要
請されたり、政策的な補正係数の見直しの要請があった場合である。例えば 、2002 年から
2004 年にかけて実施されている市町村分の段階補正の見直しや事業費補正の見直し 、都道
府県分の補正係数の半減に向けた取り組みなどがある。第 2 に、地方団体からの意見を算
定に反映する場合である。1999 年までは地方からの制度改正要望を総務省で実務上聴取
していたが、地方団体の意見を的確に反映するとともに採否の過程を明らかにすべきとの
考えから交付税法を改正し 、算定方法に関する意見の申出の規定が新たに設けられ、2000
年より地方団体から提出された意見については、その処理の結果を地方財政審議会に報告
することとなった。地方団体からの意見の申出には単位費用等(法律事項)と補正係数等
( 省令事項)に関するものがあり、省令事項にかかるものについては、算定の際に処理さ
「全日制、定時性等の区
れる。例えば 、2005 年度の算定について提出された意見のうち、
分を指標とした「教職員数」に係る補正の廃止」、
「徴税努力を反映した補正の新設」等に
ついて、意見の趣旨を踏まえ、算定方法の改正を行った。ただ、市町村など 地方団体から
の意見の申出は、実際には自分の自治体に有利になるような意見が多い。第 3 に、総務省
11
種地とは、都市化による経費に違いを考慮するもので、人口密度に比例して高くなる。
詳しくは、地方交付税制度研究会編 (2000b) 及び 、そこで引用されている法令を参照されたい。
13
本節の分析、及び記述は、総務省(旧自治省)で交付税に関する業務に携わった経験のある実務家からの
ヒアリングに基づく。また、都道府県の財務部長や総務部長は別の見解を持っている可能性もあるが 、今回
は意見を伺うことが出来なかった。
12
11
の裁量による、個別の補正係数の微小な改正がある。個別の行政項目の補正係数の見直し
は、次のような流れになっている。まず前年度に実現した費用を見て、基準財政需要との
乖離を確認する。このような費用の乖離を何らかの方法で措置するのか、措置するとした
らどの経費なのか、措置する方法が決まったら割り増すのか割り落とすのかを地方財政計
画(地財計画)の総額と比べながら決定する。このように時代の変化に合わせて慎重に決
定されるが 、後から見ると実際の需要をうまく反映させているものが多い。
また、補正係数が実務の現場でどのような政策的目的を持って改訂されてきたのかにつ
いて述べる。前年度の費目別決算を当年度の補正係数を改訂する際の参考にしているが 、
前年度の費用が高い団体を救済することを意図して補正係数を改訂しているわけではな
い。制度上、個別の団体を直接優遇するような制度変更は出来ず、すべての団体に影響が
及ぶような外生的な変数を持ってきて、交付税では措置されてこなかったが実際の需要を
反映させるために必要と思われる改訂を行う。つまり、実際に必要とされる費用を交付税
にきちんと反映させようという意図を、実務に携わっている現場では持っている。このよ
うに出来るだけ実際の需要を反映させようとして行われてきた補正係数の改訂を毎年繰り
返してきたことで、係数の中身が複雑化しており、最近では補正係数の簡素化が進められ
ている。
費目別の補正係数の改正
次に、警察費、小学校費、衛生費の各費目別に補正係数の改正について説明する14 。表 2
にあるように、警察費の補正係数は段階補正、普通態容補正、経常態容補正、寒冷補正か
ら構成される。段階補正では、警察官数別の単位当たり費用を計算した後、標準団体の単
位費用で除して基礎となる数値を求め、この値を元に段階補正係数を定める。警察費の実
績値と基準財政需要額を比べて、基準財政需要が運営に必要な費用を反映できていないよ
うならば 、警察官数段階別に必要となる経費を見直すことにより、各段階における単位当
たり費用の比率を段階補正に反映させることが可能である。物価の割高分を考慮した種地
別に共通係数が定められ、共通係数に給与比率をかけた数値にその他の経費比率を加えて
普通態容補正は計算される。地方財政計画で人件費が改訂されると、給与費のウェイトの
変化に伴い普通態容補正も変わるため、普通態容補正は毎年変更されるようである。寒冷
補正は、寒冷地手当に係る増加需要額を算定するため給与差による補正を適用している。
給与差は国家公務員の寒冷地手当に関する法律で規定された級地ごとの支給額を基にして
いるが 、毎年大きな見直しは無いと考えられる。また、近年犯罪の増加に伴い、大都市で
測定単位である警察官数が増加しており、警察費も都市部に集中する傾向にある。
小学校費の補正は、普通態容補正、経常態容補正、寒冷補正から構成される。ほとんど
が人件費によって占められており、普通態容補正の給与費のウェイトは 0.944 と非常に高
い。人件費やその他の費用が変化すれば 、給与費のウェイトが変わるため、補正係数は毎
年変更されることとなる。寒冷補正の職員一人当たり支給額は警察費と小学校費で異なる
が、補正率の計算方法、級地の区分などは同じなので、この補正係数の毎年の変化は小さ
い。また、測定単位である教職員数は、
「公立義務教育諸学校の学級編制及び教職員定数の
標準に関する法律」第 6 条の規定に基づいて算定されており、標準団体の教職員数は 8612
人と想定している (2000 年度)。
14
ただし 、この節で説明する制度は
2000 年度である。
12
表 2 にあるように、衛生費の補正係数には、病院事業債の元利償還金を含む密度補正 II
等が含まれており、主に人件費だけを項目とする警察費や小学校費とは性質が異なる。密
度補正 I では、人口密度の大小による保健所数及び県内旅費の逓増、逓減を考慮しており、
密度補正 II では病院事業債や上水道水源開発事業などの元利償還金を算入、密度補正 III
では国民健康保険の保健基盤安定事業に係る需要額を算定している。密度補正の各項目は、
厚生労働省の制度改正によって新たに基準財政需要に加えられた項目を考慮する目的があ
り、厚生労働省の政策の影響が大きい。新しい項目を算入する際、総額とともに単位費用
を変更するが、測定単位である人口で新しい需要をうまく反映できない場合、補正係数に
よる割り増しや割り落としが必要となる。つまり、個別の費目について需要をうまく捉え
ることができる指標を用いて、補正を行う。
3.3 推定仮説
このような複雑な方法で、毎年度補正係数が決定されている。これまでの議論から、補
正係数の改訂に当たっては個別の事情を考慮するのではなく、すべての団体が同じ基準で
補正されるが 、基準の決め方には (意図するか否かによらず ) 裁量が働く余地があること
が分かる。そのため、意図するか否かはともかく、前年度の費用が高い都道府県に割り増
すような補正係数が実現している可能性がある。項目別基準財政需要を用いて元利償還金
措置が公共事業や地方債の発行に与える影響は分析されている (土居・別所、2005a 、b)
が 、補正係数による財源保障の効果はまだ分析されていない。
これまでの議論を踏まえ、本稿では次の仮説を検証する。まず、前期において費用の基
準財政需要からの乖離率が大きい都道府県で、当期の補正係数が高く設定されるかど うか
を検討するのが本稿の主目的である。もし乖離率が大きい団体で補正係数が高く設定され
ていれば 、費用が実現した後の事後に予算が拡大されるという意味でソフトな予算制約が
存在していると言える。さらに、乖離率が大きい団体で補正係数が高いのであれば 、その
理由を補正係数における財源調整の役割との関係から考察する。
4
推定モデルとデータ
4.1 推定モデル
システム GMM 推定
本稿では、非効率な団体に配慮する形で補正係数が改正されていたのかを、前期の費用
と基準財政需要額の乖離が補正係数の改訂に影響を与えるモデルで検証する。警察費、小
学校費、衛生費のそれぞれの費目について、基準財政需要の計算式より行政項目別の基準
財政需要 c1it 、測定単位 c2it 及び単位費用 c3t のデータを用いて、補正係数 cit の対数を計
算できる1516 :
log c = log c1 ; log c2 ; log c3 i = 1 : : : 46 t = 1985 : : : 2000
it
it
it
t
(1)
単位費用はすべての団体で同じなので、c3t に下付き文字 i はない。
計算式から、(1) にあるように補正係数を算出できるが 、本稿で用いる測定単位と基準財政需要の算出で
用いられる測定単位は必ずしも一致しないため、真の補正係数とは異なる。しかし測定単位の誤差が非常に
小さいことは確認している。
15
16
13
表 2 にあるように、衛生費の補正係数には、病院事業債の元利償還金を含む密度補正 II
等が含まれており、主に人件費だけを項目とする警察費や小学校費とは性質が異なる。密
度補正 I では、人口密度の大小による保健所数及び県内旅費の逓増、逓減を考慮しており、
密度補正 II では病院事業債や上水道水源開発事業などの元利償還金を算入、密度補正 III
では国民健康保険の保健基盤安定事業に係る需要額を算定している。密度補正の各項目は、
厚生労働省の制度改正によって新たに基準財政需要に加えられた項目を考慮する目的があ
り、厚生労働省の政策の影響が大きい。新しい項目を算入する際、総額とともに単位費用
を変更するが、測定単位である人口で新しい需要をうまく反映できない場合、補正係数に
よる割り増しや割り落としが必要となる。つまり、個別の費目について需要をうまく捉え
ることができる指標を用いて、補正を行う。
3.3 推定仮説
このような複雑な方法で、毎年度補正係数が決定されている。これまでの議論から、補
正係数の改訂に当たっては個別の事情を考慮するのではなく、すべての団体が同じ基準で
補正されるが 、基準の決め方には (意図するか否かによらず ) 裁量が働く余地があること
が分かる。そのため、意図するか否かはともかく、前年度の費用が高い都道府県に割り増
すような補正係数が実現している可能性がある。項目別基準財政需要を用いて元利償還金
措置が公共事業や地方債の発行に与える影響は分析されている (土居・別所、2005a 、b)
が 、補正係数による財源保障の効果はまだ分析されていない。
これまでの議論を踏まえ、本稿では次の仮説を検証する。まず、前期において費用の基
準財政需要からの乖離率が大きい都道府県で、当期の補正係数が高く設定されるかど うか
を検討するのが本稿の主目的である。もし乖離率が大きい団体で補正係数が高く設定され
ていれば 、費用が実現した後の事後に予算が拡大されるという意味でソフトな予算制約が
存在していると言える。さらに、乖離率が大きい団体で補正係数が高いのであれば 、その
理由を補正係数における財源調整の役割との関係から考察する。
4
推定モデルとデータ
4.1 推定モデル
システム GMM 推定
本稿では、非効率な団体に配慮する形で補正係数が改正されていたのかを、前期の費用
と基準財政需要額の乖離が補正係数の改訂に影響を与えるモデルで検証する。警察費、小
学校費、衛生費のそれぞれの費目について、基準財政需要の計算式より行政項目別の基準
財政需要 c1it 、測定単位 c2it 及び単位費用 c3t のデータを用いて、補正係数 cit の対数を計
算できる1516 :
log c = log c1 ; log c2 ; log c3 i = 1 : : : 46 t = 1985 : : : 2000
it
it
it
t
(1)
単位費用はすべての団体で同じなので、c3t に下付き文字 i はない。
計算式から、(1) にあるように補正係数を算出できるが 、本稿で用いる測定単位と基準財政需要の算出で
用いられる測定単位は必ずしも一致しないため、真の補正係数とは異なる。しかし測定単位の誤差が非常に
小さいことは確認している。
15
16
13
i は東京を除いた都道府県を区別するインデックスで、行政項目 (警察費、小学校費、衛
生費) を区別する添え字は用いていない。
毎年補正係数は調整されているが、多くの場合調整は軽微であり、当期の補正係数の多
くは前期の補正係数に依存していると考えられる。そこで (1) 式から、次のようなダ イナ
ミック・パネルモデルを、Blundell and Bond (1998) のシステム GMM で推定する17 :
E
;1 ; c1 ;1
+ x1 + + + v
(2)
log c = log c ;1 + c1 ;1
E は目的別歳出、x1 は外生的説明変数、 は時間効果、 は固定効果で、v は通常の
仮定を満たす誤差項である。x1 は各費目の補正係数改正に影響を与えると考えられる要
因で、小学校費では 15 歳未満人口比率、衛生費では 65 歳以上人口比率である。また、x1
it
it
it
it
it
t
i
it
it
it
it
t
i
it
it
it
は strict exogeneity を満たすとする。通常の Blundell and Bond (1998) と異なり、1 期ラ
グ以外の説明変数、つまり乖離率にも基準財政需要の 1 期ラグが含まれているため、どの
期間においても説明変数と誤差項が相関を持たないという strict exogeneity 条件が成立し
ない。そこで、乖離率の 2 期ラグ、3 期ラグを操作変数とするシステム GMM 推定を行う。
y log c it
it
x E ;1c ; c1
1 ;1
it
;1
it
it
it
と定義すると、推定式は
y = y
it
;1
it
+ x + x1 + + v
it
it
i
(3)
it
と表される。ここで、
?v on i
E ( ) = 0 E (v ) = 0 E (v ) = 0 E (v v ) = 0 E (x v ) = 0 8t 6= s
E (y 1 v ) = 0
i
it
i
i
it
it
i
it
is
it
it
it
を仮定する。ただし 、最後の仮定は初期条件 yi1 に関する仮定である。(3) 式を時間につい
てまとめると
y
i
= y ;1 + x + x1 + i + v (T ; 1) 1
= X ;1 + u
i
i
i
i
i
i
i
で、さらにすべての個人についてまとめると
y = X;1
となる。ただし 、i
(xi2 : : : xiT )0 、x1i
+ u N (T ; 1) 1
= (1 : : : 1)0 、y = (y 2 : : : y )0 、y ;1 = (y 1 : : : y
= (x1 2 : : : x1 )0 、v = (v 2 : : : v ;1 )0 、X ;1 = (y
i
i
iT
i
i
iT
i
i
iT
i
i
)0 、x =
;1 x x1 ) 、
iT
i
;1
i
i
i
Blundell and Bond (1998) のシステム GMM 推定について記述する。システム GMM 推定は N ! 1 、
T が有限のときに成立するが 、モーメント条件の妥当性は yi21 を生成する初期条件に依存する。また、追加
的なモーメント条件を用いることによって、 1 或いは n2 が大きいときにもバイアスの小さい推定量が
v
17
得られるという特徴を持つ。
14
= ( ) 、y = (y1 : : : y ) 、X 1 = (X1 1 : : : X 1 ) 、u = (u1 : : : u ) であ
る。本稿のモデルでは Blundell and Bond (1998) と異なり説明変数 (乖離率) に先決変数
が含まれているため、x の操作変数として x 1 (1 期ラグ ) 、x 2 (2 期ラグ ) を用いる。そ
のため、システム GMM 推定の操作変数行列は、次のようになる18 :
0
0
0
0
0
;
N
0
;
it
0
0
0
N ;
it;
0
N
it;
Z+ =
0
BB(y 1 x 01 x1 1 )
BB
..
BB
.
BB 0
BB
BB
@
1
C
C
C
C
C
C
C
C
C
C
C
C
A
i
i
i
i
0
0
0
..
.
:::
(y 1 y 2 x 1 x 2 x1 2 ) : : :
i
i
i
i
..
.
0
i
...
: : : (y 1 : : : y
i
2
iT ;
x
0
2
iT ;
x
1
iT ;
x1
2
iT ;
)
y 2
..
.
0
(4)
i
0
0
0
:::
...
: : : y
1
iT ;
したがって、このモーメント条件を用いたシステムによる 2 段階 GMM 推定量は
^ = (X+1 P + V^ 1 P + X+1 ) 1 (X+1 P + V^ 1 P + y+ )
0
;
;
;
z
z
0
;
;
z
;
z
= (y1 : : : y y1 : : : y ) 、X+1 = (X1 1 : : : X 1 X1 1 : : : X 1 ) 、
+ + + +
+
^
^
^
P + = Z+ (Z+ Z+ ) 1 Z+ 、Z+ = diag(Z+
1 : : : Z ) 、V = E (Z u u Z ) 、V = diag(V1 : : : V )
となる。ただし、y+
0
0
0
0
0
N
;
0
N
0
0
;
;
N ;
0
0
Z
N
i
0
0
;
0
i
i
i
である。
パネル単位根検定
システム GMM 推定では 、他のダ イナミックパネル分析と比べて自己相関の係数 が
1 に近くてもバイアスは小さいが、一致性のある推定は難しい。そこで、パネルデータに
よる単位根検定を行い、単位根があるという結果が得られたモデルでは単位根を考慮した
推定を行う19 。何種類かの単位根検定が提案されているが、それぞれの検定で想定する仮
定が異なるため、本稿では代表的な LLC 検定 (Levin et al., 2002) 、IPS 検定 (Im et al.,
2003) の 2 種類の検定を行う。LLC 検定では、すべての個人について同じ単位根を仮定し
ているが、すべての個人で同じ単位根を仮定するのは現実的には厳しい。一方で、IPS 検
定ではすべての個人が同じ単位根ではないケースも考慮している。LLC 検定と IPS 検定
の詳しい導出方法は付録を参照されたい。
パネル単位根推定
推定式の従属変数と説明変数に単位根がある場合、共和分が疑われるが、本稿では従属
変数である補正係数にしか単位根の可能性がなかった。多くの時系列分析で、従属変数の
みに単位根があるモデルでは、1 階差分を従属変数として推定することから (山本 (1988)
18 (4) 式の左上部分に当たる、1 階差分推定式にレベル変数のラグを操作変数としたモーメント条件は Arellano
and Bond (1991) で用いられているが 、Blundell and Bond (1998) では (4) 式の右下部分にあるように、1
階差分のラグをレベルの推定式の新たなモーメント条件としている。
19 従属変数と説明変数双方に単位根があると、共和分推定の可能性があるが、本稿では従属変数と説明変数
双方に単位根があるケースは無かった。
15
0
N ;
N
などを参照されたい) 、(2) 式を参考に次のように定式化する:
log c = it
E
1
it;
; c1
1
c1
it;
1
it;
+ x1 + + + v
it
t
i
it
(5)
説明変数 it;c11it;11it;1 は誤差項 vit − 1 と相関を持つと考えられ 、strict exogeneity 条件が
満たされないため、固定効果推定や 1 階差分推定では推定量にバイアスが生じる。そのた
め、説明変数の 1 期ラグ xit;1 、2 期ラグ xit;2 を操作変数とした 1 階差分操作変数推定を
行う。
E
4.2
;c
データ
表 4.記述統計量 を挿入。
表 4 が、年次別項目別の基準財政需要、目的別歳出、測定単位の記述統計量である。警
察費、小学校費の基準財政需要の平均は 1985 年から 2000 年にかけて年々上昇している
が、衛生費は制度変更があった関係で 95 年に減少している20 。目的別歳出も警察費と小学
校費は平均が単調増加を示しているが 、衛生費では 2000 年に減少に転じている。変動係
数を考察すると、警察費では基準財政需要が約 0.92 、目的別歳出が 0.9 、測定単位が 0.94
で、基準財政需要と測定単位で変動係数がほとんど 変わらないことから、補正係数による
都道府県間格差への影響は小さいと考えられる。また、小学校費の基準財政需要と目的別
歳出の変動係数は、目的別歳出の方が 0.05 ほど高いがほぼ同じになる。基準財政需要にお
ける衛生費の変動係数は 85 年の 0.46 から 2000 年の 0.58 へ単調増加を示しているが、測
定単位の変動係数が常に 0.8 以上であることから、補正係数による変動係数の減少、つま
り補正係数によって都道府県間格差が是正されている可能性がある。
図 1.費目別基準財政需要:2000 年の経常経費 を挿入。
図 1 は、基準財政需要の経常経費全体に占める各費目の比率である。警察費と小学校費
のシェアは高く、衛生費は経常経費全体に占めるシェアは低いものの、社会福祉費や 65 歳
以上人口の高齢者保健福祉費とほぼ同じ額である。このように警察費と小学校費のシェア
が高く、衛生費は高齢者保健福祉費が創設される前には額が大きかったため、本稿では分
析対象とした。
5
推定結果
5.1
パネルデータ推定
表 5.システム GMM 推定 を挿入。
システム GMM 推定
20 1994 年に高齢者保険福祉費の創設に伴い、老人保健費を新費目に移し替えたため、衛生費が減少してい
る。
16
表 5 は、前期の補正係数と今期の補正係数が相関することを考慮したダイナミック・パネ
ル分析の結果である。分析方法は、自己相関係数 が 1 に近くても推定量のバイアスが小
さい、Blundell and Bond (1998) によって提案されたシステム GMM 推定である。(1) −
(3) より、警察費、小学校費、衛生費では補正係数の 1 期ラグの係数が 1 に近く、単位根
の可能性がある。警察費と衛生費の乖離率の 1 期ラグの係数は有意にならないが、前期に
おける費用と基準財政需要の乖離は補正係数に影響を与えない。小学校費では乖離率の 1
期ラグの係数は正で、1%水準で有意となる。
本データの分析期間は約 15 年と長く、期間中に乖離率の 1 期ラグの係数が変化する、つ
まり基準財政需要からの費用の乖離が補正係数に及ぼす影響が異なる可能性がある。そこ
で、衛生費の基準財政需要が 93 年と 94 年で大きく変化していることと、ダ イナミック・
パネルデータ分析に必要な期間を考慮して、乖離率と 85 年から 93 年で 1 をとるダ ミー
変数の交差項、及び乖離率と 94 年から 2000 年( 警察費は 1999 年)に 1 をとるダミー変
数の交差項からなる 2 つの乖離率の変数 (乖離率 A 、乖離率 B) を作成して推定する。表
5(4) − (6) の推定結果より、警察費では乖離率 A の 1 期ラグは正で有意となるが、乖離率
B の係数は有意とならない。一方、小学校費と衛生費では補正係数の 1 期ラグが有意、ま
た乖離率を分割していない推定と異なり、衛生費の乖離率 A の係数は正で有意という結果
が得られている。しかし 、バイアスは小さいものの、システム GMM 推定では 1 期ラグの
係数が 1 に近いときにはラグの係数だけでなく、外生変数の係数にもバイアスが生じるこ
とが知られている。
パネル単位根検定と推定
表 6.パネル単位根検定 を挿入。
次に、補正係数の変数及び 、乖離率に単位根があるのかを検定し 、単位根がある場合に
は適切な推定方法で再び推定する。パネルデータの単位根検定にはいくつかの方法が提案
されているが 、本稿では Levin-Lin-Chu (LLC) 検定と Im-Pesaran-Shin (IPS) 検定を実
施する。LLC 検定ではすべてのグループの 1 期ラグの係数が同じと仮定しているが、IPS
検定ではグループごとに従属変数の 1 期ラグの係数が異なることを許容している。ただ、
ど ちらの検定でも、検出力が弱いことが問題とされている。また、LLC 検定では Levin et
al. (2002) が提案するモデルのうち、モデル 1 (定数項とタイムトレンド を含まない都道
府県別 ADF 回帰) とモデル 2 (定数項のみを含む都道府県別 ADF 回帰) で検定を行う。
ADF 回帰のラグ次数の選択は、Levin et al (2002) が提案しているように Campbell and
Perron (1991) の方法に従う。IPS 検定では、定数項のみを含むモデルで推定し 、都道府
県別 ADF 回帰のラグ次数の平均が 0 に近いことから、ラグを 0 として検定を行っている。
単位根検定の結果は表 6 で、LLC 検定ではどの変数も「単位根が存在する」という帰無
仮説を棄却する。一方、IPS 検定では小学校費と衛生費の補正係数だけが「単位根が存在
する」という帰無仮説を棄却できない。その他の変数については単位根の可能性は示され
ておらず、各行政項目の補正係数と乖離率が共和分関係にある可能性もない。従って、小
学校費と衛生費について、補正係数だけに単位根が存在することを前提とした推定を行う。
表 7.1 階差分操作変数推定 を挿入。
17
推定は、補正係数の 1 階差分を従属変数とし 、従属変数を乖離率の 1 期ラグに回帰する。
乖離率が誤差項と相関することを考慮して、操作変数 1 階差分推定を行う。表 7 の (1) 、
(2) より、小学校費と衛生費において単位根を仮定した下で乖離率の 1 期ラグが補正係数
に正の影響を与えることが分かった。小学校費では前期において実現した費用が基準財政
需要から乖離している割合が 0.1 (10%) 増加すると今期と前期の補正係数の比は 0.0015
(0.15%) 上昇する。表 7(3) 、(4) は 、乖離率を 1985 年から 93 年 (乖離率 A) と 94 年から
2000 年21 (乖離率 B) に分割した推定の結果である。小学校費では乖離率 A の係数は正で
有意水準 1%で有意となり、衛生費では乖離率 B が 5%水準で有意となる。前半と後半に
分離すると有意にならないケースもあるが係数はすべて正であり、小学校費と衛生費では
目的別歳出が基準財政需要から乖離している割合が大きいほど 、割り増す形で補正係数を
変更していたと考えられる。
5.2
補正係数の改正と都道府県間格差
図 2.補正係数の年度別変動係数 を挿入。
パネルデータを用いた推定から、前期の小学校費、衛生費の乖離率が大きいと今期の補
正係数も大きいことが示されたが、このような補正係数の調整と補正係数のばらつきにつ
いて考察する。図 2 は各行政項目の補正係数の変動係数を、年度別に計算したものである。
衛生費の変動係数は小学校費と警察費の約 6 倍で、衛生費は最も補正係数のばらつきが大
きい。小学校費は 、1985 年の変動係数が 0.054 だったのが 2001 年には 0.017 と 3 分の 1
以上も減少しており、全体的に変動係数が減少傾向にある。制度変更により基準財政需要
が大きく減少する 1993 年から 94 年にかけて、衛生費の補正係数の変動係数は、0.026 か
ら 0.31 と約 18%上昇する。表 7 より、小学校費と衛生費で乖離率の 1 期ラグと補正係数
に相関があり、特に小学校費のサンプル期間の前半、及び衛生費の後半で有意に影響して
いるという結果が得られている。そのため、補正係数の都道府県間格差が大きい場合に、
乖離率が大きい都道府県に有利な補正係数の改正が行われている可能性がある22 。
6
結論
地方交付税には地方の税収確保努力、歳出削減努力を弱める効果があることが、制度面
と実証研究で指摘されている。山下他 (2002) 、赤井他 (2003) は事業費補正、
「財源対策債」
や「臨時財政対策債」の測定単位への参入といった価格効果及び 、補正係数の恣意的な操
作や単位費用による財源難の自治体の救済といった soft budget constraints (SBCs) によ
り、制度上財政改善努力が弱められる可能性があると指摘している。池上 (1998 、2003 )
は、密度補正による操作の余地と地方からの要望が採択される基準が曖昧な点を指摘して
いる。
本稿では、経常費における補正係数の調整が、費用の基準財政需要からの乖離が大きい
団体に有利となっているのかを分析する。特に、前期の費用と基準財政需要の乖離率がそ
21 警察費では 1999 年である。
22 もちろん 、サンプル期間前半の衛生費の方が 、小学校費よりも補正係数の標準偏差が大きいにも関わら
ず、推定から有意な結果を得ていないという問題もある。
18
の費目の補正係数に与える影響を分析しており、項目別基準財政需要を用いることによっ
て制度的な関連性を考慮している。
1985 年から 2002 年までの都道府県データを用いた推定から、次の結果が得られた。第
1 に、小学校費と衛生費では、前期の乖離率が高い自治体に対して、今期の補正係数が高
くなる傾向にある。第 2 に、補正係数による財源調整が強い場合、補正係数は前期の乖離
率が高い都道府県で高くなる傾向にある。これらの結果から、補正係数で調整が行われて
いるとき、前期に予定より多くの費用が必要となった自治体で、結果的に補正係数が高く
なることが示唆された。
ただし 、本稿には分析上の限界がある。各費目の一般財源所要額は総額から国庫支出金
や手数料・使用料を減じて計算されるし 、補正計数の改正には各省庁からの参入基準の見
直しの要請が影響するため、特定財源との関連を吟味する必要がある。しかし 、本稿では
こうした特定財源の影響を考慮していない。また、本稿では事後的に費用が高い団体で補
正係数が高くなるというソフトな予算制約の存在を検証したが、ソフトな予算の制約問題
は、本稿の文脈では予算がソフトになることを見越して地方が歳出削減努力を怠り、非効
率になることにあるという考え方もある( Kornai 、2003 赤井、2005 )。一方で本稿の分
析のように 、事後的に予算がソフトになることをソフトな予算制約というケースもある
( Maskin,1999 )
。本稿では後者の意味でのソフトな予算制約の存在を検証しており、事前
における過小努力までは検討できていない。この点については今後の課題としたい。
A
A.1
付録
地方交付税の決定過程
地方交付税額の決定方式は、複雑で分かりにくいという批判がある。本節では、赤井他
(2003) 、岡本 (2002) を参考にして、交付税総額、各地方自治体の交付税額の決定方法を
述べたい。交付税は、最初に交付税総額 (マクロ) 決定され、次に各市町村への配分 (ミク
ロ) が決まる。
まず、マクロの交付税総額は、次のように決定される。基本的に国税 5 税 (所得税、酒
税、法人税、消費税、たばこ税) の一定割合として地方交付税総額が法定され 、地方財源
は総額として保障されている。一方、地方が必要とする財源は、国が策定する地方財政計
画で歳出、歳入が決定され 、歳出と歳入の差から交付税総額も計算される。しかし 、マク
ロの交付税総額とミクロの交付税総額 (地方財政計画から積み上げられた額) が一致する
とは限らない。双方のギャップを埋めるための財源を調達する機能として「地方財政対策
(地財対策) 」があり、基本的に地方が標準的な行政水準を確保できるように算定された地
方財政計画に沿う形で財源がファイナンスされる23 。
こうして確保された交付税総額は、次のようにして地方公共団体に配分される。各自治
体の基準財政需要は基本的に単位費用と測定単位から積み上げて計算されるが、積み上げ
られた総額とマクロの交付税総額には大きな違いはない。地方財政計画の算定方法と、基
準財政需要の算定方法がほとんど 同じで、しかも単位費用は各行政項目別に必要総額を測
定単位で除して求められるため、合計がマクロの総額と一致するようになっている。また、
23 地財対策には、特別加算、交付税特別会計借り入れ 、地方債発行 (財源対策債、臨時財政対策債) という
手段がある。
19
単位費用で考慮されない人口、面積や気象条件など 地域の実情は、測定単位を割り増し・
割り落としする補正係数で調整される。
A.2
パネル単位根検定24 :
LLC 検定と IPS 検定
(1) LLC 検定
LLC 検定では、次の仮定を設ける。第
1 に、誤差項 u が個人間で独立に分布し 、定常
P
反転可能な ARMA 仮定に従う:u =
=1 + " 。また、誤差項について
it
1
it
it
j
it
E (u4 ) < 1
E ("2 ) B > 0
it
E (u2 ) + 2
X
1
E (u u
it
it
j
=1
8i t
it
"
1
)<B <1
it;
u
も仮定する。また、非定常パネル分析では漸近分析を行う際に、T と N についていくつ
の後に 、N
となる sequential
かの収束方法を用いるが 、LLC 検定では T
asymptotics を用いる。LLC 検定は、いくつかの特定化に対応した検定統計量があるが 、
本稿では以下の定式化を用いる:
!1
モデル 1
y = y
モデル 2 y = y
!1
+u
1+ +u
1
it
it;
it
it
it;
i
i = 1 : : : N
it
これらのモデルの ADF 回帰式は、
M1 y = y
it
1
it;
+
X
pi
j
M2 y = y
it
1
it;
+
=1
X
pi
j
=1
ψij yit;j
+u
ψij yit;j
+ + u i = 1 : : : N t = ;p + 1 ;p + 2 : : : T
it
i
it
i
i
である。時間 t についてまとめると
y = y
i
1
i ;
+Q +u
i
となる。ただし 、yi = (yi1 : : : yiT )0 、yi ;l
t = (1 : : : T )0 である。また、
Q
i
8
<(y 1 y 2 : : : y
=:
(i y 1 y 2 : : : y
i ;
i
i ;
i ;
i ;
i ;pi
)
i ;pi
)
i
= (y
i
i
1;l
:::y
i T ;l
8
<( : : : )
=: 1
( 1 : : : i
i
i
ipi
i
ipi
M1 H0 : = 0 v:s: H1 : < 0
M2 H0 : = 0 = 0 8i v:s: H1 : < 0 2 R
24 Levin et al (2002) 、Im et al (2003) 、Choi 氏のレクチャーを参考にしている。
20
0
0
0
と定義する。LLC 検定の検定仮説は、次のようになる:
i
) 、i = (1 : : : 1) 、
)
0
if M1
(6)
if M2
モデル 2 について LLC 検定統計量を考える。個体別の ADF に基づいた OLS 回帰から、
i を計算する:
2
1
2 =
T ;p
i
i
; 1 (M y ; ^ M
Qi
i
i
Qi
= I ; Q (Q Q ) 1 Q 、^ = y
のとき、Pooled OLS 推定量は
ただし 、MQi
^ =
X
NT
0
i
i
i
i
y
=^
1 MQi yi ;1
0
i ;
=1
1
1 Xp
p=
N
0
Qi
Q
i
y
1
1
y
Qi
i
2
i ;
1
)
1 M i y である。こ
0
Q
i ;
y =^
1 MQi
i ;
=1
i
i ;
N
0
i
;
1M i y
0
! 1 X
) (M y ; ^ M y
i
!
i
i
X
N
N (T ; p ; 1)
2
1
i ;
i ;
;
N
i
^ 2 =
;
0
i
y
(M y ; ^M y
Qi
=1
i
Qi
) (M y ; ^M y
0
1
i ;
Qi
i
Qi
1
i ;
) =^ 2
i
i
N
i
i
=1
になる。また自己相関係数 の分散は V ar (^
) = ^ 2
したがって、自己相関係数 の t 検定統計量は
=
t
NT
^
P
2
P
=1 y
N
0
i
i ;
^
=1 yi ;1 MQi yi ;1
N
0
i
NT
次に、t 検定統計量の漸近的特性を考察する。Philips and
のとき
=^
2
1M i y
Q
^2
1 =
i ;
i
1
;
である。
1
;
i
Perron (1988) などから T ! 1
P s R 1 W (r)dW (r)
, q =1P 0 R 1 2
N
t
i
i
NT
^
2
i
N
=1
i
N
s
2
0
i
(7)
i
W (r)dr
i
!1
となる。Wi (r ) は標準ブラウン運動、
^N2 は T
のときの ^N2 T の弱極限を表しており、
si = li =i である。また、yit の長期標準偏差は
"
#
1 X(y ; y )2 + 2 X W
1 X(y ; y )(y ; y )
=
T ; 1 =2
T ; 1 =1
=1
1
w =1;
p+1
ただし 、y は y の i に関する平均で、w はカーネルを表す。また、t
についての
R
R
2
1
1
漸近的特性を考えると 、E ( 0 W (r )dW (r )) = 1=2 及び E ( 0 W (r )dr ) = 1=6 なので、
pi
T
it
li
T
it
pL
i
t
i
it;L
t
L
pL
i
N
pL
it
i
! 1 のとき
1
N
X Z1
N
i
=1
1
N
s
i
i
1 Xs )
W (r)dW (r) ! lim (;
2N =1
N
i
X 2Z 1
s
i
i
=1
i
p
0
N
NT
0
i
N !1
W (r)dr
i
21
! lim (; 61N
p
N !1
i
i
X
N
s)
i
=1
i
i
となる。したがって、t 検定統計量は確率極限において負の無限大に発散する。Levin
al. (2002) では、次のような pooled t 検定の修正を提案している:
t
t =
T
; q P
^2
NT
P
NT
=1
i
s^
i
=1 yi ;1 MQi yi ;1
N
N
et
0
i
=^ 2
i
ただし 、 は平均修正要素、 は分散修正要素である。t は極限で、標準正規分布に従う。
(2) IPS 検定
IPS 検定は、誤差項に系列相関がある (系列相関のパターンはグループ間で異なっても
良い) 場合にも検定が可能である。LLC 検定と同じように 、T と N は十分に大きいと仮
定する。ADF 回帰式は
y = y
it
i
1
it;
i
1
it;
i
y
ij
=1
it;j
+ +u
i
i = 1 : : : N t = 1 : : : T
it
+Q +u
i
i
i
= (iT yi 1 : : : yi
である25 。ただし 、Qi
定統計量は
t =
pi
j
! y = y
i
+
X
;
pi ) 、 i
;
= ( 1 : : : ) 。個別の t 検
i
i
ipi
0
^
q
i
(^2 (y 1 M )y 1 ) 1
1 (y M y )
^ 2 =
T ;p ー1
= T ; p1 ー 1 (M y ; ^ M y 1 ) (M y ; ^ M y 1 )
である。ここで、^ = (y 1 M y 1 ) 1 (y 1 M y ) 、X = (y 1 Q )。このとき、
IPS t-bar 統計量は、次のように定義される:
0
i
Qi
i ;
;
i ;
0
i
Xi
i
i
Qi
i
0
i
i
Qi
i ;
i
i
Qi
;
i ;
0
i ;
0
Qi
Qi
i ;
i
i
i
i
Qi
i ;
i ;
i
X
= N1
t
N
t
NT
i
=1
i
N
! 1 のとき t
NT
の収束先は
t
R 1 W (r)dW (r)
0
q
! const
R
2
1
=1
W (r)dr
X
, N1
N
NT
i
i
0
p
i
i
!1
で、N
のとき t-bar 統計量は定数となり、分布が無くなる。そこで、Im et
が提案した修正済み平均 t 統計量は
p
N (t ;
q P
t~ =
1
N
P
E (t (p 0)jp = 0))
=1 V ar (t (p 0j = 0))
1
NT
N
N
=1
i
i
i
i
N
i
i
25 LLC 検定のモデル 2 と同じ定式化である。
22
i
i
al. (2003)
(8)
j
ただし 、ti (pi 0 i = 0) は AR の次数が
t-bar 統計量である。この統計量は
t~
p 、 1 = = i
i
ipi
= 0 と = 0 を制約とする
, N (0 1) as T ! 1 and N ! 1
であることを示せる。
A.3
出典
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小学校教員数:文部科学省生涯学習政策局『学校基本調査報告書』各年版
警察官数:総務省自治行政局公務員部『地方公共団体定員管理調査』各年版
目的別歳出額:総務省自治財政局『都道府県別決算状況調』各年版
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25
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26
表1.行政費目ごとの補正適用一覧表 (道府県分)
警察費
土木費
費目
区分 測定単位
警察費
道路橋りょう費
経常
経常
投資
経常
投資
経常
投資
経常
投資
経常
経常
経常
経常
投資
経常
経常
経常
投資
経常
河川費
港湾費
(漁港を含む)
その他の土木費
教育費
小学校費
中学校費
高等学校費
特殊教育諸学校費
その他の教育費
経常
経常
厚生労働費
生活保護費
社会福祉費
衛生費
高齢者保健福祉費
産業経済費
労働費
農業行政費
林野行政費
水産行政費
商工行政費
その他行政費 企画振興費
公債費
経常
経常
投資
経常
経常
投資
経常
経常
投資
経常
投資
経常
投資
経常
経常
投資
警察職員数
道路の面積
道路の延長
河川の延長
河川の延長
係留施設の延長
外郭施設の延長
人口
人口
教職員数
教職員数
教職員数
生徒数
生徒数
教職員数
児童及び生徒数
学級数
学級数
人口
高等専門学校及び
大学の学生数
私立の学校の幼児、
児童及び生徒の数
町村部人口
人口
人口
人口
65歳以上人口
70歳以上人口
65歳以上人口
人口
農家数
耕地の面積
公有以外の
林野の面積
公有林野の面積
林野の面積
水産業者数
水産業者数
人口
人口
人口
徴税費
経常 世帯数
恩給費
その他の諸費
経常
経常
投資
投資
災害復旧費
補正予算債償還費
寒冷
数値急減
態容
法の
数値
13①
投資 事 給与 寒冷 積雪
急減
Ⅰ Ⅱ
補正
度
度
Ⅱ 業 差
○
○
○
○
○ ○ ○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○ ○ ○
○
○
○
○ ○
○
○ ○
○
○ ○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○ ○
○
○
○
○
○
○
○
○
○ ○ ○
○
種 段 密
普 経
別 階 度
通 常
○
○ ○
○
○ ○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○ ○
○ ○ ○
○
○
○
○
地域改善対策特定事業債等償還費
公害防止事業債償還費
石油コンビナート債償還費
地震対策緊急整備事業債償還費
○
○
○
○
○
○
○
○ ○ ○
○ ○ ○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○ ○
○
○
○
○
○
○
○
○
○ ○ ○
○ ○ ○
○
○
○
○
○ ○ ○
恩給受給権者数
人口
人口
面積
元利償還金
元利償還金
○
○
地方債の額
○
地方債の額
地方債の額
地方債の額
地方債の額
地方債の額
地方債の額
地方債の額
元利償還金
元利償還金
元利償還金
元利償還金
元利償還金
利子支払額
第一次産業就業者数
○
○
○
○
○
※
○
○
○
○ ○ ○
○
○
○
○
○
○
被災者生活再建債償還費
災害復興等債利子支払費
農山漁村地域活性化対策費
注.※は世帯数急増補正である。
資料.平成12年度地方交付税制度解説 (補正係数・基準財政収入額篇)
○
27
○
○
○
○
○
○
○
○
○
(平成11年度以前許可債にかかるもの)
地方税減収補てん債償還費
地域財政特例対策債償還費
臨時財政特例債償還費
公共事業等臨時特例債償還費
財源対策債償還費
減税補てん債償還費
臨時税収補てん債償還費
○
○ ○ ○
○ ○ ○
(平成10年度以前許可債にかかるもの)
補正予算債償還費
○
○
表2.補正係数の連乗加算の方法 (道府県分)
費目
測定単位
補正係数の連乗又は加算の方法
警察費
経常経費 警察職員数 段階補正×{普通態容補正+(経常態容補正-1)}×寒冷補正
小学校費
経常経費 教職員数
{普通態容補正+(経常態容補正-1)}×寒冷補正
衛生費
経常経費 人口
{段階補正×密度補正Ⅰ×普通態容補正×寒冷補正+(密度補正Ⅱ-1)+(密度補正Ⅲ
-1)}×0.944+密度補正Ⅳ×0.056
資料.平成12年度地方交付税制度解説 (補正係数・基準財政収入額篇)
28
表3.小学校費 (道府県分) における普通態容補正の計算
種地
共通係数: A A×0.944: B
種地ごとの補正率
B+0.056
Ⅰ−10a
1.098
1.037
1.093
10b
1.082
1.021
1.077
1.076
9a
1.080
1.020
9b
1.048
0.989
1.045
8a
1.046
0.987
1.043
8b
1.022
0.965
1.021
7
1.012
0.955
1.011
6∼1
1.000
0.944
1.000
Ⅱ−10
1.044
0.986
1.042
9
1.027
0.969
1.025
8
1.005
0.949
1.005
7∼1
1.000
0.944
1.000
資料.平成12年度地方交付税制度解説 (補正係数・基準財政
収入額篇)
29
表4.記述統計量
1985年
基準財政需要
目的別歳出
測定単位
観測値数
平均
標準偏差
変動係数
最小値
最大値
警察費
46
27,052
25,108
0.928
7,777
126,580
小学校費
46
30,006
20,868
0.695
8,933
93,183
衛生費
46
9,977
4,620
0.463
5,257
24,249
警察費
46
35,570
32,345
0.909
10,333
164,062
小学校費
46
56,757
43,002
0.758
15,714
189,925
衛生費
46
19,992
12,705
0.636
7,372
58,092
警察官数
46
3,822
3,607
0.944
1,078
18,368
小学校教員数
46
5,696
4,414
0.775
1,430
20,796
人口
46
2,374,348
1,926,519
0.811
616,000
8,668,000
警察費
46
33,803
31,096
0.92
9,992
156,075
小学校費
46
35,164
24,870
0.707
10,487
108,201
衛生費
46
15,269
8,137
0.533
7,302
41,395
警察費
46
46,017
42,381
0.921
13,260
208,653
小学校費
46
67,504
51,530
0.763
18,510
225,881
衛生費
46
25,634
18,441
0.719
7,535
82,164
警察官数
46
3,907
3,670
0.939
1,103
18,566
1990年
基準財政需要
目的別歳出
測定単位
小学校教員数
46
5,760
4,224
0.733
1,517
19,120
人口
46
2,429,478
2,017,269
0.830
616,000
8,735,000
警察費
46
39,472
36,367
0.921
11,750
184,505
小学校費
46
44,147
31,192
0.707
13,276
133,997
衛生費
46
11,964
6,684
0.559
6,318
34,122
警察費
46
58,002
52,042
0.897
17,360
265,137
小学校費
46
77,706
58,830
0.757
21,827
259,363
衛生費
46
33,432
21,376
0.639
10,215
94,781
警察官数
46
3,968
3,750
0.945
1,117
18,977
小学校教員数
46
5,467
3,857
0.706
1,499
17,084
人口
46
2,473,848
2,073,232
0.838
615,000
8,797,000
警察費(99年)
46
42,179
38,876
0.922
12,419
197,424
小学校費
46
45,536
31,698
0.696
14,525
135,186
衛生費
46
13,389
7,741
0.578
6,952
39,873
警察費(99年)
46
61,005
54,653
0.896
18,778
281,760
小学校費
46
78,934
58,010
0.735
23,626
250,913
衛生費
46
30,853
18,579
0.602
10,747
89,531
警察官数(99年)
46
4,091
3,863
0.944
1,128
19,492
小学校教員数
46
5,199
3,579
0.688
1,508
15,516
1995年
基準財政需要
目的別歳出
測定単位
2000年
基準財政需要
目的別歳出
測定単位
人口
46
2,497,000
2,117,696
0.848
613,000
8,805,000
注.基準財政需要及び、目的別歳出の単位は百万円、測定単位の警察官数、小学校教員数、人口の単位は人。
2000年の警察費、及び警察官数は1999年の値。
30
表5.システムGMM推定
警察費
補正係数の1期ラグ
乖離率の1期ラグ
小学校費
衛生費
警察費
小学校費
衛生費
(1)
(2)
(3)
(4)
(5)
(6)
0.944***
0.859***
1.003***
0.914***
0.783***
1.012***
(0.044)
(0.024)
(0.013)
(0.071)
(0.019)
(0.024)
0.012
0.039***
0.003
(0.010)
(0.008)
(0.003)
0.047**
0.046***
0.017***
(0.019)
(0.007)
(0.005)
0.013
0.050***
0.001
(0.009)
(0.004)
乖離率Aの1期ラグ
乖離率Bの1期ラグ
(0.013)
15歳未満人口比率
-0.101***
-0.090*
(0.031)
(0.052)
65歳未満人口比率
-0.084
-0.134
(0.101)
(0.178)
観測値数
506
690
690
552
690
690
個体数
46
46
46
46
46
46
注.従属変数は各費目の補正係数の対数、説明変数は各費目の補正係数の1期ラグと乖離率。乖離
率の内生性を考慮した、Blundell and Bond (1998) のシステムGMMで推定。乖離率の1期ラグ、2
期ラグを操作変数とする。*、**、***はそれぞれ、10%、5%、1%水準で有意。警察費の推定期間
は1985-99年、小学校費、衛生費の観測期間は1985-2002年。時間効果の係数は省略。警察費は、1
期ラグと2期ラグを操作変数とすると操作変数と誤差項の相関が強いので、1期と3期ラグをIVとし
た。
31
表6.パネル単位根検定
補正係数
Levin-Lin-Chu (LLC) 検定
Model 1 t-star
P値
Model 2 t-star
Im-Pesaran-Shin (IPS) 検定 Model2
乖離率(1期ラグ)
警察費
小学校費
衛生費
警察費
小学校費
衛生費
-3.972
-10.532
-1.748
-8.343
-6.846
-6.092
(0.000)
(0.000)
(0.040)
(0.000)
(0.000)
(0.000)
-7.888
-6.531
-2.246
-9.135
-6.447
-6.389
P値
(0.000)
(0.000)
(0.012)
(0.000)
(0.000)
(0.000)
t-bar
-2.242
-1.713
-1.241
-2.524
-1.880
-2.297
W(t-bar)
-5.139
-1.407
2.067
-7.365
-2.634
-5.701
P値
(0.000)
(0.080)
(0.981)
(0.000)
(0.004)
(0.000)
ラグ次数の
0.500
0.478
0.435
0.152
0.391
0.043
平均
注:LLC検定では、都道府県別のADF回帰のラグ次数はCampbell and Perron (1991)の提案した方法で選択している。LLC
検定のModel1は、定数項とタイムトレンドを含まず、Model2は個別効果を考慮して定数項のみを含む。IPS検定における都
道府県別のADF回帰のラグ次数は、それぞれの費目のラグ次数の平均を考慮して、0としている。
32
表7.1階差分操作変数推定
小学校費
乖離率の1期ラグ
衛生費
小学校費
衛生費
(3)
(4)
(1)
(2)
0.015**
0.013**
(0.008)
(0.006)
乖離率の1期ラグA
乖離率の1期ラグB
15歳未満人口比率
0.027
観測値数
0.018
(0.060)
(0.039)
0.262
0.013**
(0.172)
(0.006)
0.023
(0.034)
65歳以上人口比率
0.200***
(0.034)
0.027
0.026
(0.064)
(0.064)
690
690
690
690
16.066
5.835
4.96
9.58
6.14
3.45
Hansen's J 検定
1.966
0.100
2.365
0.344
Hansen's J 検定: P値
0.161
0.752
0.307
0.842
Centerd R2乗
0.465
0.152
0.467
0.152
F 統計量:第1方程式
F 統計量:第2方程式
注.従属変数は各費目の補正係数の1階差分で、説明変数は各費目の補正係
数の1期ラグと乖離率。乖離率の内生性を考慮した、パネルの操作変数1階差
分推定。乖離率の1期ラグ、2期ラグを操作変数とする。()内は標準誤差
で、分散不均一一致推定量。*、**、***はそれぞれ、10%、5%、1%水準で有
意。小学校費、衛生費の観測期間は1985-2002年。時間効果の係数は省略。F
統計量の第1方程式は、1期ラグAに対応した第1段階の推定で、第2方程式は1
期ラグBに対応した第1段階の推定。
33
図1.費目別基準財政需要:
2000年の経常経費
その他の諸
費
5%
警察費
16%
道路橋りょう
費
4%
70歳以上
高齢者保健福祉費
3%
65歳以上
5%
衛生費
4%
小学校費
15%
社会福祉費
5%
その他の教
育費
6% 特殊教育諸
学校費
高等学校費
3%
13%
中学校費
8%
出典.総務省自治財政局『地方交付税関係計数資料』
変動係数
図2.補正係数の年度別変動係数
0.35
0.3
0.25
警察費
小学校費
衛生費
0.2
0.15
0.1
0.05
34
2002
2001
2000
1999
1998
1997
1996
1995
1994
1993
1992
1991
1990
1989
1988
1987
1986
1985
0
年
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