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世界経済レビュー - 国際金融情報センター
世界経済レビュー No. 9 JULY 2005 JAPAN CENTER FOR INTERNATIONAL FINANCE 財団法人 国際金融情報センター 「世界経済レビュー」は、先進国経済および、アジア、 中東、中南米、中東欧・ロシア、アフリカ各地域の新興市 場経済の概要について、6 月上旬の情報をもとにまとめた ものです。 本資料は、年 2 回の公表を予定しております。なお、主 要 29 カ国の経済指標は、JCIF オンラインサービスにおい て、 「新興市場等経済指標」として随時更新しております。 JCIF オンラインサービスホームページ http://www.jcif.or.jp/ 目 次 ページ Ⅰ.先 …………………………………………………………… 1 Ⅱ.アジア地域(1)、(2) …………………………………………………………… 6 Ⅲ.中 域 …………………………………………………………… 20 域 …………………………………………………………… 26 Ⅳ.中 進 東 南 国 地 米 地 Ⅴ.中東欧・ロシア、アフリカ地域 ………………………………………………… 34 財団法人 国際金融情報センター 世界経済レビュー No. 9 2005.7 Ⅰ.先進国 JCIF調査部長 藤井 資久 1.先進諸国経済の概観 先進諸国では景気回復・拡大の基調自体は継続しているものの、地域により格差がある。 米国経済は原油価格の高騰にもかかわらず、巡航速度で底堅く推移、世界経済の牽引車の 役割を果たしている。欧州は緩やかな景気回復が続いているが、個人消費など内需が好調 なスペイン、フランスが比較的堅調であるのに対し、内需が弱いドイツ、イタリアは低成 長となるなど、ユーロ圏内での景気動向が二極化してきた。日本の景気は一進一退、強弱 入り混じる状況にある。 [図表 I-1]実質 GDP 成長率 米国 ユーロ圏 日本 出所: (%、年率) 2000 2001 2002 2003 2004 3.7 3.7 2.4 0.8 1.7 0.2 1.9 0.9 -0.3 3.0 0.7 1.4 4.4 2.0 2.6 2005 (見通し) 3.6 1.6 0.8 各国統計局、2005 年は IMF 見通し(4 月 13 日発表) 2.各国の最近の動き (1)米国 2004 年の米国経済は夏場以降の原油価格高騰にもかかわらず、個人消費と設備投資が増 加するなど力強い内需に支えられて通年の実質 GDP 成長率は 4.4%と高い伸びになった。原 油高による物価への影響が懸念されたものの、通年の消費者物価上昇率は CPI2.7%、食料・ エネルギーを除くコア部分 1.8%と比較的小幅にとどまった。05 年第1四半期の実質 GDP 成長率(前期比、年率換算)は 3.5%と、04 年第4四半期の同 3.8%を下回ったものの、3% 台半ばといわれる潜在成長率並みの伸びは維持した。 家計部門は雇用・所得環境の改善を受け、消費が堅調である。個人消費は 04 年に 6.0%増 加、05 年第1四半期は前期比年率 3.6%増加した。堅調な個人消費の背景には、所得要因 のほかに住宅価格上昇による資産効果もあげられる。05 年第1四半期の平均住宅価格は前 年同期比 12.5%上昇している。こうした住宅資産価値の増加がホームエクイティローン(住 宅価格が当該住宅のローン残高を上回る場合に、その超過部分を担保として行う住宅担保 貸付)の増加を通じて、個人消費を押し上げる要因になっている。 1 財団法人 国際金融情報センター 世界経済レビュー No. 9 2005.7 非農業雇用者数は 04 年を通じて 219 万人の増加、05 年 1-5 月でさらに 90 万人増加した。 失業率は 03 年の平均 6.0%から、04 年 5.5%、05 年 5 月は 5.1%にまで低下している。 企業部門の設備投資は設備投資減税(04 年末までの時限措置)を背景に高い伸びを続けて きたが、減税終了により、足元では若干減速しているようだ。製造業では在庫調整や海外 景気の鈍化による輸出減速を受けて、生産は抑制傾向にある。一方、非製造業の活動は順 調な拡大ペースが続いている。 こうした中で、FRB(連邦準備制度理事会)は 5 月 3 日の FOMC(連邦公開市場委員会)に おいて FF レート(フェデラル・ファンド・レート)を 0.25 ポイント引き上げ 3.00%とした。 利上げは 04 年 6 月以降、計 8 回となり、累計利上げ幅は 2.00%となった。景気が底堅く推 移するなか、今後とも 3.5~4.0%といわれる中立水準に向けて利上げが継続されるとみら れる。長期金利については短期金利引き上げにもかかわらず、先行きインフレ懸念が抑制 されていることなどから低下傾向にあり、米 10 年債利回りは 6 月以降 4.0%を挟む展開とな っている。 米国経済は引続き堅調な拡大を続けるものと思われるが、以下のリスクファクターには注 意が必要である。 ①原油価格の更なる高騰 WTI(ウェスト・テキサス・インターミディエート)原油価格は 5 月に 46 ドルまで下落し た後、6 月以降上昇に転じており、一時 60 ドル台まで上昇している。 ②住宅価格の急落 米国の家計部門が保有する不動産の資産価値は約 19.2 兆ドル、株式・投資信託が約 10.0 兆ドル、ホームエクイティローンは約 5,000 億ドル。中古住宅価格は昨年比 12.5%上昇、 1980 年の水準を 100 とした住宅価格指数は約 350 にまで上昇している。今後住宅価格が急 落した場合の消費の落ち込みが懸念される。 (2)欧州経済 ユーロ圏の 04 年の実質 GDP 成長率は 2.0%となった。年前半は好調な外需が景気を牽引し たが、年後半には原油価格の高騰に加え、ユーロ高から輸出が伸び悩み、景気の回復はや や減速した。05 年第1四半期の GDP 成長率は前期比年率で 2.0%を記録したが、これはド イツがエアバス部品等の大型受注の効果により年率 4.2%と一時的に上振れしたこと等に よるものである。 ユーロ圏の成長率は、全体としてゆるやかなものにとどまっているだけでなく、各国間 でばらついていることにも懸念が強まっている。個人消費や住宅投資需要が強いフランス、 スペイン等が比較的高い成長率をあげているのに対して、ドイツ、イタリアのように内需 が弱く成長率が低い国という、二極分化が生じている。イタリアは既に2四半期連続のマ イナス成長となり、事実上のリセッション入りといえる。 EU の通貨統合による ECB(欧州中央銀行)の統一金融政策が成長率の二極分化を助長し 2 財団法人 国際金融情報センター 世界経済レビュー No. 9 2005.7 ている面もあるだろう。スペインのように比較的成長率が高い国はインフレ率が高めで、 ドイツのような成長率が低い国はインフレ率は低めになるが、ユーロの導入により金利・ 為替調整がなくなり、実質金利は高成長国で低く、低成長国で高くなる。その結果、内需 の弱い国の内需はさらに抑制され、強い国では一層刺激される傾向にある。 5 月のユーロ圏インフレ率は前年比 1.9%で、今後も ECB 参照値(前年比 2%未満)を下回 るものとみられる。ECB は 03 年 6 月以来、政策金利を 2.00%で据え置いている。ECB は成 長率予測を下方修正する一方、原油価格の高騰もありインフレへの警戒姿勢は維持してい る。ユーロ圏景気の不透明感から利下げ論も表面化しているが、ECB は、年内は様子見継続 とみられる。 一方、英国の 04 年実質 GDP 成長率は 3.1%、05 年第1四半期の GDP 成長率は前期比年率 2.0%と緩やかな回復となった。これまで景気を牽引してきた住宅ブームは沈静化の方向に あり、住宅価格上昇率は昨年、前年比 20%強を記録したが、足下では一桁台の伸びに鈍化 している。失業率は 2%台後半で安定しており、景気は底堅く推移するものと思われる。BOE (イングランド銀行)は 6 月も金利を据え置いた。住宅価格の上昇率鈍化はソフトランデ ィングの範囲内であることから、BOE は今後についても様子見を続け、中長期的な経済・物 価の安定に努めると展望される。 (3)日本経済 日本の 04 年実質 GDP 成長率は 2.7%、05 年第1四半期(2 次 QE)は年率 4.9%となった。 外需にやや落ち込みがみられるものの、個人消費や民間企業設備投資の堅調な拡大は維持 されている。この状況下、政府は 6 月の月例経済報告で基調判断を「弱さを脱する動きが みられ、緩やかに回復している」と 11 ヶ月ぶりに上方修正した。 05 年上期の日本経済は企業業績の改善を起点とした好循環が持続し、景気は全体として 底固く推移するとみられる。下期にかけて、自律的な景気回復の動きがさらに強まり、個 人消費と設備投資の拡大がみこまれる。また米国景気の再加速やアジアでの在庫調整終息 により輸出持ち直しがみこまれる。このため、実質 GDP 成長率は 05 年を通して、1%台前 半の潜在成長率をやや上回る水準で推移するものと予想される。 3 財団法人 国際金融情報センター 世界経済レビュー No. 9 2005.7 米国の主要経済指標 別表Ⅰー1 実質 GDP * C 2000 2001 2002 2003 2004 2003/7 8 9 10 11 12 2004/1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 2005/1 2 3 4 5 3.7 0.8 1.9 3.0 4.4 7.4 4.2 4.5 3.3 4.0 3.8 3.5 景気先行 指数 * B 2000 2001 2002 2003 2004 2003/7 8 9 10 11 12 2004/1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 2005/1 2 3 4 5 0.9 -0.9 2.1 1.3 2.9 0.6 0.4 0.1 0.4 0.3 0.3 0.4 0.1 0.8 0.1 0.4 -0.1 -0.2 -0.3 -0.3 -0.3 0.3 0.3 -0.3 -0.1 -0.6 -0.2 鉱工業 生産 * B 設備 稼働率 * % 総事業 失業率 売上高 除く軍人 在庫率 * * % % 非農業 雇用者 増減 * (千人) 個人 所得額 * B (名目) 個人 支出 * B (名目) 個人 貯蓄率 * (名目) 自動車販売 小売 売上高 (軽トラックを * B 含む)百万台 * 年率 4.3 -3.6 -0.3 0.0 4.1 82.0 76.6 75.3 75.5 78.1 1.43 1.42 1.41 1.33 1.30 4.0 4.7 5.8 6.0 5.5 1,948 -1,779 -544 94 2,194 8.0 3.5 1.8 3.2 5.8 7.3 4.7 4.6 5.2 6.0 2.4 1.8 2.0 1.3 1.3 6.6 3.2 2.5 4.3 7.3 17.3 17.1 16.8 16.6 16.8 0.6 -0.1 0.7 0.2 1.0 0.2 0.3 1.1 -0.3 0.5 0.7 -0.4 0.7 0.1 -0.3 0.8 0.3 0.8 -0.1 0.5 0.2 -0.3 0.4 75.4 75.3 75.8 76.0 76.7 76.8 76.9 77.7 77.4 77.7 78.2 77.8 78.3 78.3 78.0 78.5 78.7 79.2 79.1 79.4 79.4 79.1 79.4 1.36 1.36 1.35 1.35 1.35 1.33 1.33 1.33 1.30 1.31 1.30 1.31 1.32 1.32 1.31 1.30 1.31 1.30 1.30 1.32 1.31 1.30 6.2 6.1 6.1 6.0 5.9 5.7 5.7 5.6 5.7 5.5 5.6 5.6 5.5 5.4 5.4 5.5 5.4 5.4 5.2 5.4 5.2 5.2 5.1 3 2 94 123 96 83 117 94 320 337 250 106 83 188 130 282 132 155 124 300 122 274 78 0.3 0.4 0.4 0.4 0.7 0.4 0.3 0.4 0.4 0.7 0.6 0.2 0.5 0.4 0.2 1.1 0.9 4.0 -2.5 0.5 0.5 0.7 0.6 1.0 -0.2 0.2 0.8 0.6 0.6 0.6 0.4 0.1 1.0 -0.3 1.2 0.1 0.6 0.7 0.4 0.9 -0.1 0.7 0.9 0.6 2.2 2.2 1.4 1.5 1.3 1.2 1.1 0.9 1.0 1.5 1.0 1.5 0.7 1.0 0.5 0.8 1.2 4.5 1.2 0.9 0.5 0.4 0.8 1.6 -0.9 -0.1 1.3 -0.3 0.9 0.6 2.2 -1.2 1.8 -0.5 0.8 -0.1 1.8 0.9 0.0 1.3 0.1 0.7 0.3 1.5 -0.5 16.8 17.9 16.9 16.1 16.9 17.4 16.3 16.5 16.7 16.6 17.7 15.4 17.2 16.6 17.5 16.9 16.3 18.3 16.2 16.3 16.8 17.4 16.6 消費者 信用 増減額 民間住宅 着工件数 年率 耐久財 受注額 非国防 資本財受注 消費者 物価 (航空機を 3.2 5.2 輸入額 貿易収支 経常収支 十億ドル 十億ドル 十億ドル 781.9 1218 -436.1 1,573 8.0 4.4 4.7 4.5 1,601 1,710 1,854 1,950 -10.5 -1.7 2.6 10.8 -12.9 -7.1 6.6 11.7 2.8 1.6 2.3 2.7 1.9 -1.3 3.2 3.6 729.1 693.1 724.8 818.8 ###### ###### ###### ###### -411.9 -468.3 -532.3 -650.9 5.1 12.1 9.8 5.4 -1.2 7.0 17.1 1.0 9.9 3.1 4.9 5.6 9.0 7.6 13.0 12.3 0.4 7.1 11.9 5.9 6.9 1.3 1,897 1,833 1,939 1,967 2,083 2,057 1,927 1,852 2,007 1,968 1,974 1,827 1,986 2,025 1,912 2,062 1,807 2,050 2,188 2,228 1,833 2,005 2,009 1.6 -0.1 2.2 3.9 -2.4 1.7 -2.6 3.9 5.9 -2.7 -0.9 1.3 1.9 -0.5 1.0 -1.0 2.0 1.5 -1.2 -0.1 -1.5 1.9 0.5 -0.2 6.0 1.4 -5.8 3.8 -0.4 2.3 6.2 -2.1 -2.0 1.8 0.6 0.7 5.4 -4.0 1.2 3.4 4.4 -2.1 -1.6 1.7 0.2 0.3 0.3 -0.1 -0.1 0.2 0.5 0.3 0.4 0.2 0.6 0.3 -0.1 0.1 0.2 0.6 0.3 0.0 0.1 0.4 0.6 0.5 -0.1 0.1 0.6 0.3 0.5 -0.1 0.5 0.3 -0.1 0.5 0.7 0.6 -0.1 0.1 0.1 0.3 1.5 0.7 -0.3 0.1 0.4 0.7 0.6 -0.6 61.0 59.3 61.0 61.9 64.5 63.5 63.1 65.7 67.8 67.1 69.1 66.8 68.5 68.9 70.0 70.2 69.5 71.9 72.4 71.5 72.5 75.5 104.6 102.2 105.7 107.0 107.6 111.0 111.9 114.4 118.2 118.7 120.5 124.1 122.5 124.9 124.4 128.4 131.5 130.3 134.0 135.2 130.1 136.4 -43.7 -42.9 -44.6 -45.0 -43.1 -47.5 -48.7 -48.7 -50.3 -51.6 -51.4 -57.3 -54.0 -56.0 -54.3 -58.2 -62.0 -58.4 -61.6 -63.7 -57.6 -61.0 4 3.8 輸出額 (通関ベース) 11.4 *季調済 A:前年同期(月)比増減率 B:前期(月)比増減率 C:前期比年率 貿易収支は通関ベース 3.4 生産者 物価 最終財 十億ドル -416 -389.0 -475.0 -520.0 -668.0 -129.0 -125.2 -146.1 -166.6 -167.0 -188.4 -195.1 財団法人 国際金融情報センター 世界経済レビュー No. 9 2005.7 ユーロ圏の主要経済指標 別表Ⅰー2 実質GDP 鉱工業生産 失業率 * C * B * (年率換算) 2000 2001 2002 2003 2004 2003/7 8 9 10 11 12 2004/1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 2005/1 2 3 4 5 3.7 1.7 0.9 0.7 2.0 2.1 1.9 2.6 1.7 1.1 0.6 2.0 5.3 0.5 -0.6 0.3 1.9 1.4 -0.3 -0.7 1.7 0.1 0.1 -0.6 0.9 0.3 0.0 0.6 0.1 0.3 -0.7 0.8 -0.5 -0.3 0.4 0.5 -0.7 -0.1 0.6 小売売上 生産者物価消費者物価 貿易収支 経常収支 * B B B 十億ユーロ 十億ユーロ (数量) (通関ベース) 8.2 7.8 8.3 8.7 8.9 2.2 1.7 0.1 0.4 0.1 5.3 2.0 -0.1 1.4 2.3 2.1 2.4 2.3 2.1 2.1 8.7 8.7 8.8 8.8 8.9 8.9 8.9 8.9 8.9 8.9 8.9 8.9 8.8 8.9 8.8 8.9 8.8 8.8 8.8 8.9 8.9 8.9 -0.1 -0.5 0.5 0.6 -0.9 -0.1 1.1 -1.1 -0.1 1.4 -1.6 1.3 -0.4 -0.1 -0.4 0.2 0.3 -0.3 0.8 0.0 0.2 -1.2 0.0 0.2 -0.1 0.1 0.2 -0.1 0.3 0.2 0.6 0.4 0.6 0.0 0.5 0.4 0.2 0.8 -0.2 -0.2 0.7 0.4 0.7 0.4 -0.2 0.2 0.4 0.2 0.0 0.4 -0.3 0.3 0.6 0.5 0.3 0.1 -0.2 0.2 0.1 0.4 -0.1 0.3 -0.6 0.3 0.8 0.4 0.2 実質 GDP *C 2003/7 8 9 10 11 12 2004/1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 2005/1 2 3 4 5 12.9 7.1 8.4 9.1 5.2 6.4 1.7 6.9 10.4 6.8 7.2 8.8 12.8 2.4 2.3 5.6 2.8 5.4 -1.7 3.6 4.2 -82.1 -3.3 64.6 20.4 45.3 6.2 3.1 4.5 4.8 2.6 6.6 2.2 6.0 7.9 -1.8 0.5 4.7 8.3 3.3 -0.1 3.5 5.3 5.5 -7.2 8.8 3.0 日本の主要経済指標 別表Ⅰー3 2000 2001 2002 2003 2004 -12.2 47.8 99.0 69.8 73.3 2.4 0.2 -0.3 1.4 2.6 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 4.9 鉱工業 生産 *B 失業率 全世帯消費 新設住宅 機械受注 水準指数 着工(年率) (民除船電) * 5.2 -6.5 -1.3 3.3 5.3 4.7 5.0 5.4 5.3 4.7 0.5 -1.1 3.7 1.1 1.3 -0.6 2.9 -3.8 1.2 2.6 -0.5 0.5 0.1 -0.3 -0.6 -1.1 1.1 -0.2 3.2 -2.3 -0.2 1.9 5.2 5.1 5.2 5.1 5.1 4.9 5.0 5.0 4.8 4.8 4.6 4.6 4.9 4.8 4.6 4.7 4.6 4.5 4.5 4.7 4.5 4.4 * 100.0 98.9 99.4 98.4 98.9 千戸 * 96.9 99.2 99.2 98.6 98.8 98.9 99.8 99.5 98.3 102.3 102.0 98.9 98.2 99.6 97.9 96.9 97.5 95.9 100.1 99.4 98.6 99.5 1,145 1,075 1,133 1,173 1,144 1,210 1,221 1,169 1,197 1,131 1,171 1,191 1,233 1,188 1,247 1,187 1,152 1,185 1,302 1,173 1,166 1,138 1,232 1,174 1,152 1,159 1,189 *:季節調整済 A: 前年同期(月)比増減率 B: 前期(月)比増減率 C:前期比年率 5 *B 19.9 -6.3 -12.1 11.1 4.5 0.6 -1.5 -1.7 17.3 -12.4 8.3 -7.0 2.1 -3.6 9.7 -1.7 2.7 -8.4 4.5 -2.4 1.0 11.2 -7.1 -1.5 4.8 1.9 -1.0 国内 企業 物価 B 全国 通関収支 経常収支 消費者 (季調前) (季調前) 物価 B 兆円 兆円 0.1 -2.3 -2.1 -0.8 1.2 -0.7 -0.7 -0.9 -0.3 0.0 10.7 6.6 9.9 10.2 12.0 12.9 10.7 14.1 15.8 18.6 0.3 0.0 0.0 -0.2 0.1 0.1 0.2 0.2 0.2 0.2 0.0 0.3 0.5 0.0 0.2 0.0 0.1 -0.1 -0.3 0.1 0.3 0.7 -0.1 -0.2 0.2 0.1 0.0 -0.5 0.1 -0.2 0.0 0.2 0.0 0.1 0.2 -0.3 0.1 0.3 0.5 -0.2 -0.5 -0.5 -0.2 0.3 0.2 0.8 0.8 0.9 1.0 1.0 1.1 1.1 1.1 1.0 1.0 1.2 0.9 1.0 1.0 0.9 0.9 1.0 0.9 0.9 0.9 0.9 0.7 1.5 1.3 1.5 1.5 1.5 1.3 1.7 1.5 1.5 1.5 1.8 1.4 1.5 1.7 1.5 1.4 1.5 1.7 1.5 1.7 1.4 1.4 財団法人 国際金融情報センター 世界経済レビュー No. 9 2005.7 Ⅱ.アジア地域(1) JCIFアジア第1部長 石井 久哉 1.概観:中国、韓国、香港、台湾 中国経済については投資過熱と投資抑制策の行方が引き続き注目されているが、04 年 8 月以降の純輸出の驚異的な伸びにも注目する必要がある。05 年第1四半期の実質 GDP 成長 率は前年同期比 9.4%と大方の予測を超えたが、投資の成長寄与度は低下し、純輸出の成長 寄与度がかなり大きくなっているものとみられる。 こうした純輸出の拡大の要因として、為替相場の影響が考えられる。近隣諸国の通貨、 特に韓国ウォン、台湾ドルは 04 年後半以降、対米ドルで大幅に上昇している。このため、 米ドルに実質的にペッグされている人民元は近隣諸国の通貨に対して安くなり、中国の輸 出競争力が大幅に向上している可能性がある。また、素材産業において、過去の投資によ り生産能力が拡大しているところに、投資抑制策によって国内需要が減退したため、販路 を海外-特に、近隣の韓国、台湾-に求めた点も指摘される。こうした見方を裏付けるよ うに、韓国、台湾の純輸出は 04 年後半以降、低迷し、両国の経済成長率が大方の予測を下 回る事態が続いている。 問題は、中国の純輸出の拡大が持続的なものであるか否かである。主要な国際機関は、 純輸出の拡大は一時的なものであるとし、輸入の伸びが輸出の伸びを上回るトレンドが続 くとの従来のシナリオを維持している。中国の純輸出の拡大が予想以上に続けば、韓国、 台湾の経済成長率は予想以上に鈍化する可能性が高い。中国の純輸出の動向は、人民元切 り上げ論議、貿易相手国-特に、近隣諸国-の経済動向に及ぼす影響も大きく、今後とも 注視する必要がある。 2.中国、韓国、香港、台湾の最近の動向 (1) 中 国 中国経済については投資過熱と投資抑制策の行方が引き続き注目されている。05 年第1 四半期の固定資産投資の伸びは前年同期比 22.8%と、04 年通年の伸び率 25.8%を下回った。 また、投資に関するデフレーターが高い(注)ため、05 年第1四半期の固定資産投資の実質 伸び率は 10%台前半まで低下しているものと考えられる。国家統計局国民経済総合統計司 の鄭京平・司長は 4 月 20 日、05 年第1四半期の主要経済指標を発表した際に、 「固定資産 投資の伸びが 20%前後を維持できれば中国経済の健全な発展にとって有益」と述べている。 6 財団法人 国際金融情報センター 世界経済レビュー No. 9 2005.7 この発言は、投資に関するデフレーターが高いことを前提に、投資の実質伸び率が 10%前 後であれば持続的な成長が可能であるとみているものと解される。さらに、投資の内容に も大きな変化が見られる。鉄鋼、セメント、非鉄金属、不動産など、投資過熱が指摘され 行政措置による投資抑制策が採られた業界では、投資の伸びが鈍化し、農業、エネルギー、 電力、交通・運輸、教育・衛生など、投資を伸ばすべき分野においては投資が伸びている。 03 年以来の投資抑制策は一定の効果を発揮しているものと評価できる。 (注) 中国の 05 年第1四半期の GDP デフレーター上昇率は 6.1%であるが、消費者物 価指数上昇率は前年同期比 2.8%にとどまること、中国の名目 GDP に占める消費と投資 の構成比がいずれも 43%前後とほぼ等しく、この両項目で名目 GDP の 86%前後を占め ること(残りは、政府消費、純輸出、在庫投資)を勘案すると、投資に関するデフレー ター上昇率は 10%近いものと思われる。 中国の最近の経済動向をみる際、04 年 8 月以降の純輸出の驚異的な伸びにも注目する必 要がある。中国の貿易収支(通関ベース、以下同様)は、04 年 1 月から 4 月の間、4 カ月 連続で赤字を計上し、04 年 7 月時点でも年初来の貿易収支は 56 億ドルの赤字であった。し かしながら、04 年 8 月以降、輸出の伸びが輸入の伸びを上回り始め、04 年 8 月から 12 月 の 5 ケ月間で 377 億ドルの黒字を稼ぎ、04 年通年の貿易黒字は前年比 26.0%増の 321 億ド ルと大方の予想を裏切り前年を上回った(1 年前には、経済成長に伴う一次産品の輸入の拡 大、一次産品の価格上昇により、輸入の伸びが輸出の伸びを上回るため、04 年通年で貿易 赤字になるとの予想が有力であった)。こうした純輸出の拡大は 05 年に入っても続いてい る。05 年第1四半期の貿易収支は 165 億ドルの黒字であり、前年同期の 86 億ドルの赤字と 対比すると、 純輸出は 251 億ドル拡大した。これは 05 年第1四半期の名目 GDP 成長率の 6.6% に相当する。05 年第1四半期の実質 GDP 成長率は前年同期比 9.4%と大方の予測を超えた が、投資の成長寄与度は低下し、純輸出の成長寄与度がかなり大きくなっているものとみ られる。 こうした純輸出の拡大の要因として、為替相場の影響が考えられる。近隣諸国の通貨、 特に韓国ウォン、台湾ドルは 04 年後半以降、対米ドルで大幅に上昇している。このため、 米ドルに実質的にペッグされている人民元は近隣諸国の通貨に対して安くなり、中国の輸 出競争力が大幅に向上している可能性がある。また、中国の投資抑制策との関連で、素材 産業において、過去の投資により生産能力が拡大しているところに、投資抑制策によって 国内需要が減退したため、販路を海外-特に、近隣の韓国、台湾-に求めた点も指摘され る。例えば、05 年第1四半期の金属・金属製品の輸出は前年同期比 94.2%の大幅な伸びを 示しているが、金属・金属製品の輸入の伸びは同 5.4%にとどまり、この品目で黒字を稼ぐ にいたっている。こうした見方を裏付けるように、韓国、台湾の純輸出は 04 年後半以降、 低迷し、両国の経済成長率が大方の予測を下回る事態が続いている(後述参照) 。 また、電機業界の急速な発展に伴い、部品の国内調達が進んでいる点も影響している。 05 年第1四半期の機械・輸送機器の輸出は前年同期比 32.4%の伸びを示しているが、輸入 7 財団法人 国際金融情報センター 世界経済レビュー No. 9 2005.7 の伸びは同 9.7%にとどまっている。この背景として、電機部品の国内調達の拡大という要 因は無視できない。より根本的な要因としては、中国への生産拠点の移転が一巡したため、 対中直接投資が生産設備の移転などにより純輸出の減少をもたらす初期段階を経て、純輸 出の増加に寄与し始めた可能性も指摘できる。 問題は、中国の純輸出の拡大が持続的なものであるか否かである。主要な国際機関は、 純輸出の拡大は一時的なものであるとし、輸入の伸びが輸出の伸びを上回るトレンドが続 くとの従来のシナリオを維持している。しかしながら、「2006 年問題」(石油化学、鉄鋼、 自動車などのセクターにおいて、投資抑制策が本格化する前に前に着工された巨大プロジ ェクトが次々と完成し、06 年以降新たな生産能力が稼動するという問題)によって、06 年 以降、ますます生産余剰になるため、輸入がさらに減少する一方、輸出がさらに拡大し、 純輸出の拡大が予想以上に続く可能性もある。中国の純輸出の動向は、人民元切り上げ論 議、貿易相手国-特に近隣諸国-の経済動向など、政治的・経済的な影響が大きく、今後 とも注視する必要がある。 なお、通貨供給量 M2 の伸び率は 05 年 5 月末で前年同月比 14.6%と、中国人民銀行の目 標値 15%を下回っている。この伸び率は名目成長率よりも低く、活発な外貨流入と大規模 な為替介入も不胎化が円滑に進んでいるため金融政策の足枷になっていないことを示して いる。国内的に見る限り、人民元切り上げの必要性が差し迫っているとは言い難い。 (2) 韓 国 韓国では、個人消費、設備投資は緩やかな回復傾向にあるものの、成長を牽引してきた 輸出の伸びが鈍化している(下表参照)。民間消費は 05 年第1四半期、前年同期比 1.4%の 伸びを示し、7四半期ぶりのプラス成長に転じた前期から 2 期連続のプラス成長を確保し た。しかしながら、輸出の伸びは、04 年第2四半期の前年同期比 26.9%から 05 年第1四 半期の同 7.4%へと急速に鈍化している。外需の成長寄与度も、04 年第1四半期の 6.8%か ら 04 年第4四半期の 0.2%へと低下した。外需の成長寄与度は 05 年第1四半期には 1.7% へと若干回復したが、内需の低迷から商品輸入が前年同期比 3.1%の低い伸びにとどまった ことによるところが大きい。 通関統計を見ると、中国向けの輸出の前年同期比の伸び率は、04 年第3四半期=36.8%、 04 年第4四半期=24.5%、05 年第1四半期=23.8%と低下しているが、中国からの輸入の 前年同期比の伸び率は、04 年第3四半期=33.5%、04 年第4四半期=37.8%、05 年第1四 半期=40.8%と上昇している。 韓国銀行(韓国の中央銀行)は、05 年の実質 GDP 成長率について、上半期=3.4%、下半 期=4.4%、通年=4.0%との予測を示しているが、達成は困難と思われる。 8 財団法人 国際金融情報センター 世界経済レビュー No. 9 2005.7 [図表II-1]GDP成長率の推移(2000年価格、対前年同期比伸び率) 国内総生産 最終消費支出 民間 政府 総固定資本形成 建設 設備 輸出 商品輸出 輸入 商品輸入 (出所)韓国銀行 2002 年間 2003 年間 1Q 7.0 7.6 7.9 6.0 6.6 5.3 7.5 13.3 16.5 15.2 15.6 3.1 -0.3 -1.2 3.8 4.0 7.9 -1.2 15.6 18.5 10.1 11.4 5.3 -0.6 -1.3 3.0 2.2 4.9 -0.3 26.9 29.2 12.3 12.7 (単位:%) 2Q 2004 3Q 4Q 年間 2005 1Q 5.5 0.2 -0.5 4.2 4.3 3.6 6.2 26.9 29.2 20.7 22.2 4.7 -0.1 -0.8 2.9 3.0 1.3 6.8 17.7 18.0 12.0 12.5 3.3 0.9 0.6 1.9 -1.2 -3.4 2.5 9.8 10.5 11.1 8.8 4.6 0.2 -0.5 3.0 1.9 1.1 3.8 19.7 21.0 13.8 13.8 2.7 1.7 1.4 3.2 0.1 -2.9 3.1 7.4 8.1 5.2 3.1 (3) 香 港 香港では、新型肺炎 SARS の影響を受けた 03 年第2四半期を底に、経済成長が続いてい る。05 年第1四半期の実質 GDP 成長率は前年同期比 6.0%と、04 年通年の 8.1%からは低 下したが、前期比(季節調整済)伸び率で 1.5%を確保した。このうち、財輸出の実質伸び 率は前年同期比 8.9%と、比較的高い水準を維持している。この要因としては、香港ドル安 が考えられる。香港政府も、中国本土の貿易が活発であることのほかに、米ドル安により 価格競争力が向上したことを挙げている(注)。05 年第1四半期の消費の実質伸び率も前年 同期比 4.6%と、雇用環境の改善、不動産市況の回復を受けて、高い水準を維持している。 (注)香港の中央銀行にあたる香港金融管理局(HKMA)は 5 月 18 日、米ドルにペッグ している香港ドルの通貨制度を変更、小幅ながら変動を認める目標相場圏制度を導入し た。これは、ペッグ制を放棄するものではなく、投機資金の封じ込めを狙いペッグ制を 強化するものである。 香港政府は、05 年通年の実質成長率について、05 年 3 月に発表した 4.5-5.5%との見通 しを維持している。従来の見通しを据え置く理由として、原油高の継続、東アジア経済の 減速、中国経済の減速、米ドル高の継続による輸出競争力の悪化、米国及び EU による中国 の繊維輸出に対するセーフガード措置の発動などのリスクが増加していると指摘しつつ、 消費が堅調であること、景気回復の足枷になってきた建設セクターが改善していること、 05 年後半に香港ディズニーランドが開園されることにより観光客の増加が見込まれること をポジティブな要因として挙げている。 香港の CPI 上昇率は、2004 年 7 月に 98 年 11 月以来のプラスに転じ、05 年 1-4 月も前 年同期比 0.4%と小幅ながらプラスを維持している。香港政府は、原油高、ドル安が価格上 昇要因になったとしても、インフレ圧力は大きくはないとして、05 年通年の CPI 上昇率に ついて 1.5%との従来の見通しを維持している。 9 財団法人 国際金融情報センター 世界経済レビュー No. 9 2005.7 (4) 台 湾 台湾では、外需の不振により、経済成長率が政府見通しを下回る事態が続いている。実 質 GDP 成長率は、04 年第3四半期の前年同期比 5.27%から、04 年第4四半期の同 3.25% (政府見通しは同 4.11%)、05 年第1四半期の同 2.54%(政府見通しは同 4.03%)へと鈍 化しているが、政府見通しとの乖離は外需の不振によるところが大きい。外需の寄与度は、 04 年第4四半期=-3.18%、05 年第1四半期=-0.28%と、2四半期連続でマイナスとな った。 政府は 5 月に 05 年の実質 GDP 成長率の見通しを 2 月時点の 4.21%から 3.63%に下方修 正した。外需の寄与度の見通しを 1.20%から 0.76%に下方修正したことが主な要因である。 貿易収支(通関ベース)の見通しは、2 月時点の 81 億米ドルの黒字から前年比 42.9%減の 35 億米ドルの黒字に下方修正した。しかし、05 年 1-4 月の貿易黒字(実績値)は前年同 期比 87.2%減の 3.7 億米ドルと落ち込みが大きく、今回の下方修正された政府見通しの達 成も容易ではない。 10 財団法人 国際金融情報センター 世界経済レビュー No. 9 2005.7 Ⅱ.アジア地域(2) JCIFアジア第2部長 松村 淳 1.概観 (1)政治・社会 昨年東南アジア・南アジア各国では、重要な選挙や政権交代があったが、特に選挙前後 の騒乱もなく整斉と実施され、今年については概ね各国現政権の基盤固めの段階に入って いるところが多い。タイにおいて今年 2 月に総選挙があったが、与党が地すべり的に大勝 し、3 月に発足した第 2 次タクシン政権はタイ憲政史上初の単独政権となった。同地域にお いては、選挙や政権交代を契機に政治・社会状況が悪化する国はあまりなく、各国政権は 直面する課題に腰を据えて取り組んでいる。その中でフィリピンでは、5 月以降アロヨ大統 領本人の選挙時の不正や家族の不正資金受取などへの疑惑が噴出し、政権の先行きにも不 透明感が出てきていることから、今後の動きに注意が必要である。 治安面では、4 月にタイ南部の空港など 3 ヵ所で連続爆弾テロ事件、5 月にインドネシア のスラウェシ島の 2 ヵ所でやはり連続爆弾テロ事件が発生したのが目立った。 また、04 年 12 月に発生した大地震・大津波はインドネシア、タイ、インド、スリランカ などの周辺諸国に大被害をもたらしたが、諸外国の援助などもあって少しずつ復興作業が 進展してきている。 (2)経済動向 東南アジア・南アジア地域の各国経済は、昨年までは総じて好調に推移してきたが、05 年第1四半期に至り成長が減速する国が出てきた。産油国のマレーシア・インドネシアに ついては引き続き堅調に推移しているが、石油輸入国のタイ・フィリピン・シンガポール では、05 年第1四半期の実質 GDP 成長率が前四半期や 04 年通期との対比で減速がみられた。 [図表 II-1] 主要国のGDP成長率 フィリピン インドネシア マレーシア シンガポール タイ インド (出所: (%、年率) 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 05/1-3 -0.6 -13.1 -7.4 -0.9 -10.5 6.5 3.4 0.8 6.1 6.4 4.4 6.1 6.0 4.9 8.3 9.4 4.8 4.4 1.8 3.8 0.3 -2.4 2.1 5.8 4.3 4.4 4.1 2.2 5.4 4.0 4.7 4.9 5.3 1.1 6.7 8.5 6.1 5.1 7.1 8.4 6.1 6.9 4.6 6.3 5.7 2.5 3.3 n..a. IMF 統計、各国資料等) (注)インドの 2004 年は見込値。 11 財団法人 国際金融情報センター 世界経済レビュー No. 9 2005.7 [図表 II-2] 主要国の物価上昇率 1998 フィリピン インドネシア マレーシア シンガポール タイ インド 1999 9.7 77.6 5.3 -0.3 8.1 5.8 6.7 1.9 2.7 0.0 0.3 3.9 (%、年率) 2000 2001 4.0 9.3 1.5 1.3 1.6 6.5 6.8 12.5 1.4 1.0 1.6 4.5 (出所: IMF 統計、各国資料等) 2002 3.0 10.0 1.8 -0.4 0.7 2.5 2003 2004 3.5 5.1 1.1 0.5 1.8 5.3 05/1-3 6.0 6.2 1.4 1.7 2.7 6.5 8.5 7.8 2.4 0.3 2.8 5.0 (注)インドは WPI、他国は CPI シンガポールは一時的要因によるものと指摘されているが、タイ・フィリピンでは原油価 格の上昇や輸出の伸び悩みによる国際収支の悪化が外需のマイナスを通じ成長の鈍化に結 びついている。 物価については、各国とも過去数年高い経済成長率にもかかわらず、歴史的に見ても非 常に低い水準の上昇率で推移してきた。しかしながら、今年に入って、やはり原油価格高 騰等の要因が各国物価にも波及してきている。シンガポール、インドの物価は昨年と比較 しても安定しているが、フィリピン・インドネシア・マレーシア・タイでは上昇率が前年 比で上がってきており、今後個人消費へのマイナスの影響も懸念される。 現状においては、アジア諸国の主要な輸出先の先進国経済が大きく落ち込むような状況 も考えにくく、個人消費や投資などの内需も相応に底堅い国が多い。また、かつてのアジ ア経済危機の時代と比較すれば、各国の対応力も格段に高まっており、各国の適切な政策 判断により対応できる部分も多くなってきたと考えられる。従って、原油価格高騰の影響 が避けられないとしても、当面各国経済成長率が大幅に低下する可能性は小さいと思われ る。 アジア各国は相互連携をますます強めており、ASEAN 域内だけでなく、日本・韓国・中国 などの北東アジア地域やオセアニア地域との連携も着実に拡大してきている。最近におい ても EPA(経済連携協定) ・FTA(自由貿易協定)などの交渉促進や域内経済の緊密化を促進す る体制強化に向け、積極的な姿勢を表明している。日本も FTA を含む EPA 交渉を強化して おり、02 年 11 月に協定が発効したシンガポールに続き、04 年 11 月にはフィリピンと、本 年 5 月にはマレーシアとの間でそれぞれ大筋合意に至った。更に現在タイとの間で交渉中 であり、インドネシアとは 7 月以降交渉が開始される見込みとなっている。 2.主要国の最近の動き (1)フィリピン 04 年 5 月の大統領再選後、アロヨ政権は 2 期目に入った。アロヨ大統領は、昨年 2010 年 までの中期開発計画を発表し、特に財政改革、特に税収増をねらいとした税制改革に傾注 12 財団法人 国際金融情報センター 世界経済レビュー No. 9 2005.7 してきた。これまで議会での審議は難航したものの、酒・たばこ増税、徴税職員への賞罰 法、付加価値税率の引き上げの 3 つの法案を成立させ、2010 年までの財政均衡に向けて一 歩前進した形となっていた。しかし、高インフレ率や高失業率、増税懸念などを背景に、 国民の支持は低下しており、国内調査機関の最新世論調査では、支持率は 26%と歴代大統 領の中でも最低となっている。 こうした中、野党や大統領非支持層から、大統領の選挙不正疑惑の証拠テープが公開さ れ(真偽は解明中)、また大統領の長男などの違法賭博業者からの不正資金受取への関与が 上院公聴会で証人によって証言されるなど、政局は混迷を見せはじめている。現在野党は 大統領の辞任を要求しているものの、大統領は自身の不正関与を否定し、家族の汚職につ いては厳格に調査を実施するとして、強硬な姿勢を貫いている。真相の解明は必ずしも容 易ではないとみられるが、今後の政局の動向次第では、同国が一気に不安定化する可能性 もあり、情勢は引き続き予断を許さないものとなっている。 04 年の実質 GDP 成長率は、好調な輸出と旺盛な個人消費に牽引されて、前年比 6.1%と、 政府目標である 4.9%~5.8%を上回った。05 年については、個人消費が、引き続き高水準 の海外労働者送金(OFW)に下支えされて堅調を維持するとみられるものの、エルニーニョ による農業生産の落ち込みや先進国のエレクトロニクス需要減退による輸出の減少により、 経済全体としては緩やかに減速するとみられる。国際機関によると、05 年の同成長率は 4.7 ~5.0%と予想されている。 物価動向をみると、04 年通年の CPI 上昇率は、食料品価格の上昇や原油高による燃料価 格高騰などを受け、前年比 6.0%となったが、05 年に入ってからは 1-5 月までの平均で前 年同期比 8.5%と、中央銀行の目標とする 5.0~6.0%を上回って推移している。これを受 けて中央銀行は、「さらに物価上昇が加速する恐れがあり、需要サイドに影響が出ることは 避けなければならない」とし、4 月に利上げを決定、政策金利を 0.25%ポイント引き上げ た(RP(Repo)レート:9.25%、RRP(Reserve Repo)レート:7.00%)。 財政は、ラモス政権下の一時期(94~97 年)を除き、慢性的な赤字体質にあるが、徐々 に改善のきざしがみえつつある。財政赤字は 02 年に対 GDP 比 5.3%にまで拡大したものの、 歳出抑制効果により微減ながら縮小し、04 年は対 GDP 比 3.8%(1,861 億ペソの赤字)とな っている。しかし、徴税機関の腐敗や富裕層の納税忌避などのため、税収基盤は脆弱であ り、その結果、歳入額の対 GDP 比は年々低下、04 年には 14%程度にまで落ち込んでいる。 また、年々増加する利払い費は歳出額全体の 30%に達し、適切な歳出コントロールを困難 にしている。こうした問題に対処すべく、アロヨ政権は、前述の通り税制改正などの財政 改革に傾注してきた。政府は、05 年の財政赤字については対 GDP 比 3.6%、通年で 100 億 ペソ程度赤字額を削減する目標を設定しているが、これまでの所は税収が堅調に増加して おり、4 月には単月で 4 年ぶりに黒字を達成するなど、予想を上回る成果を挙げている。今 後政情不安が解消され、付加価値税増税や電力公社の民営化などの効果が順調に財政赤字 の縮小に反映されれば、2010 年までの財政均衡実現に向け見通しが立つものと思われる。 13 財団法人 国際金融情報センター 世界経済レビュー No. 9 2005.7 金融市場では、高い経済成長率や財政改善などを背景に、05 年に入り、株式を中心とし た証券投資が急増している。フィリピン総合株価指数(Phisix)が 3 月に 2,166.10 ポイン トの最高値をつけたほか、為替相場も 5 月に 53.95 ペソ/ドルの高値を記録した。また、 短期金利である 91 日物財務省証券利回りは、5 月末に 6.0%を割り込んだ。しかし 6 月に は、上述のアロヨ政権の不正疑惑浮上に伴い、相場は反転、短期金利も上昇に転じている。 政情不安が長引けば、金融市場だけでなく、対内直接投資にも影響し、同国経済の成長の 足を引っ張る形となりかねない。今後の政治面の動向には注視が必要である。 (井方 賢治) (2)インドネシア 04 年 10 月に発足したユドヨノ政権は、経済再生、汚職撲滅、テロ対策、国家統一の維持 といった課題に、積極的に対処する姿勢を示している。政府は、05 年 1 月に発表した中期 国家計画にて、09 年(大統領の任期最終年)の経済成長率を 7.6%に引き上げ、失業率を 5.1%に低下させる目標を掲げた(04 年の経済成長率は 5.1%、失業率は 9.9%)。新政権は、 経済活性化による雇用確保と貧困削減を重要課題とし、高成長の実現に向けインフラ整備 を含む投資環境の改善に意欲的に取り組んでいる。 マクロ経済の情勢は概ね安定的に推移しており、04 年の実質 GDP 成長率は前年比 5.1%、 05 年第1四半期は前年同期比 6.3%であった。同国では、耐久消費財の販売が好調で民間 消費が成長を牽引してきたが、04 年に入り投資も回復基調に転じた。建設投資が盛り上が っていることに加え、主力の製造業が機械や輸送機器を中心に好調で、投資主導の成長に 移行しつつある。なお、04 年末のスマトラ沖大地震・インド洋大津波による同国の被災者 は約 23 万人(死者 11 万人、行方不明者 12 万人)に達し、経済的損失は 44.5 億ドルと試 算されている。人的・物的被害は甚大だが、アチェ地域が当国全体の経済成長に占める割 合は数パーセントにすぎず、また復興需要も期待できることから、同災害が経済成長へ与 える影響は軽微とみられている。中銀は 05 年の経済成長見通しを 5.0~6.0%としている。 物価は、04 年下期は概ね安定的に推移し、04 年の CPI 上昇率は 6.4%と中銀見通し(6 ~7%)の範囲内に留まった。しかし、05 年に入り物価は上昇基調に転じ、3 月には前年同 月比 8.8%と 2 年ぶりの高水準に達した。これは、政府が燃料補助金の削減を目指し、石油 燃料 6 品目(ガソリン、灯油、軽油等)の価格を約 3 割引き上げたことが主因である。そ の後 CPI 上昇率は、中銀の利上げ、ルピアの対ドルレートの上昇、食品価格の上昇抑制な どにより、4 月に同 8.1%、5 月に同 7.4%へと低下した。なお、中銀証券証書(SBI、中央銀 行が金融機関に対して売り出す証券で、流動性吸収、金利調節の主要手段)の金利(1 ヶ月 物)は、05 年 4 月以降 6 月半ばまでに約 60bp 上昇した。中銀は今後も物価動向を注視しつ つ、金融引締策を継続するとしている。 04 年の国際収支をみると、経常収支の黒字が 29 億ドルと前年実績(81 億ドル)の半分 以下に縮小する一方、資本収支が通貨危機以降、初めて黒字に転じた。経常収支の黒字縮 14 財団法人 国際金融情報センター 世界経済レビュー No. 9 2005.7 小は、貿易黒字の減少に加え、所得収支の悪化と経常移転収支の黒字縮小が要因である。 04 年の輸出額は 718 億ドル(前年比 12%増)で、非石油製品、原油・石油関連製品ともに 低調であった。他方、輸入は年初より 2 桁増が続き、輸入額は 506 億ドル(同 27.8%増) に達した。特に、資本財や中間財・原材料の輸入が増加している。なお、当国は産油国だ が、原油生産の低迷と石油輸入の増加で、04 年に入り石油の純輸入国に転じた。05 年 1-4 月の貿易動向(通関ベース)をみると、輸入が 180 億ドル(前年同期比 30.9%増)と引き 続き高水準で推移しているものの、同期間の輸出も 26.6 億ドル(同 31.1%増)と回復し、 貿易収支が改善している。04 年の資本収支は、株式・債券市場への海外資金の流入が活発 であったことに加え、海外直接投資が純流入に転じたこと、その他投資の流出幅が縮小し たことで 22 億ドルの黒字を計上した。外貨準備高は、輸入増加による実需要因や為替市場 への介入により、04 年末の 363.2 億ドルから、05 年 5 月末には 346.1 億ドルへと減少した。 株式市場では、新政権への期待を背景にした海外資金の流入などから、04 年下期に株価 が急ピッチで上昇し、ジャカルタ総合株価指数(JCI)は、04 年 12 月に 1,000 ポイントの 大台を超えた(04 年の年間上昇率は 45%)。05 年に入ってからも株価の上昇力は衰えず、3 月後半に 1,152.6 ポイントの過去最高値を記録した。その後は、大手銀行の不正融資疑惑 や利食い売りから値を下げたが、4 月以降、概ね 1,050 ポイント前後で推移している。為替 市場では、05 年 2 月以降、米国による利上げ、石油関連の輸入増加に伴う実需要因などか ら軟化基調が強まり、4 月半ばに一時 9,750 ルピア/ドルと約 3 年ぶりの安値をつけた。そ の後、中銀が金利の引き上げや国営企業のドル調達規制といった施策を打ち出したほか、 現地企業買収のための海外資金の流入も順調であったことなどから、ルピアは 5 月末に 9,500 ルピア/ドル近辺まで戻した。ただし、6 月以降は、輸入増加と対外債務の返済とい った実需要因から、再びルピアは弱含みで推移している。 世銀によると、04 年の財政赤字は対 GDP 比 1.2%へと縮小した。05 年度予算(04 年 9 月 国会可決)では、財政赤字を GDP 比 0.8%へ縮小させる緊縮財政が採用されている。ただし、 同予算は前提条件が楽観的であるうえ、新政権がインフラ投資の拡大を志向していること、 被災したアチェ地域への復興資金の手当てに向けて、05 年 6 月半ば現在、補正予算案が国 会で審議されていることから、当初計画比財政支出の増大は避けられないと思われる。 (柏木 敬子) (3)マレーシア 政治情勢は、03 年 10 月のアブドラ首相就任以降も、概ね安定している。同首相はマハテ ィール前首相のような強力な政治手腕で主導するタイプではないが、その手堅くクリーン な政治運営は多くの国民から支持されている。同首相の具体的な政策としては、マハティ ール時代に最重視されていた①経済の持続的発展に加え、②社会政策の充実(貧富の差の 縮小など)、③イスラム国家としての国際社会へのアピール、などが挙げられる。 実体経済は好調を続けている。04 年通年の実質 GDP 成長率が 7.1%の高水準を記録した 15 財団法人 国際金融情報センター 世界経済レビュー No. 9 2005.7 ほか、05 年第1四半期も前年同期比 5.7%と高めの伸びを維持している。中央銀行は「世 界的な IT 関連需要の伸び悩みや原油高などの要因から成長ペースはやや穏やかになるもの の、内需主導で引き続き成長を維持する」とみており、05 年通年の GDP 成長率を 5~6%と 見通している(アジア開発銀行の予測は 5.7%)。 物価面では、CPI の上昇が目立つ。04 年の CPI 上昇率は前年比 1.4%であったものの、05 年に入り、1 月に前年同月比 2.4%を記録して以降、2.4%(2 月)→2.6%(3 月)→2.7%(4 月) →3.1%(5 月)と月毎に上昇幅が拡大している。一方、中央銀行は 5 月の金融政策声明で「物 価は 05 年後半には軟化する」との見通しを示しており、景気てこ入れを継続する目的もあ って、現時点では金融引き締めには動いていない。 為替制度について、現行の固定相場制度(1米ドル=3.8 リンギット)に関する変更観測 が高まっているものの、政府・中央銀行は今のところ制度変更に積極的でない。その理由 として、リンギットの価値が中銀の算出する理論値からさほど乖離していないこと、現行 制度が今のところ経済全体に好影響を与えていること、等が挙げられている。ただし、人 民元の柔軟化観測の高まりとも相俟って、今後 1~2 年以内にも現行制度は変更されるので はないかとの見方も少なくない。 財政面の改善は進んでいる。財務省は 05 年度の財政赤字を GDP 比 3.8%と見込んでおり、 前年度実績の 4.1%(予算案時点では 4.5%)を下回っている。今後数年以内に財政均衡を 達成するとの目標のもと、公共事業の見直しや石油価格補助金縮小など政府支出の削減を 進めている。 国際収支面をみると、IT 関連や一次産品の輸出が好調であったことを背景として、04 年 の経常収支は 149 億ドルの黒字に拡大した(前年 139 億ドル)。05 年第1四半期も、産油国 であるため原油輸出価格の上昇等を背景に輸出(前年比+13.5%)が輸入(同+9.8%)を 上回るペースで伸びており、経常収支の黒字基調は維持される見込みである。一方、海外 直接投資は、04 年の製造業直接投資(金額・認可ベース)は前年比-16.0%、05 年第1四 半期は前年比-57.2%(金額・認可ベース)と、低調を続けている。主要投資国である日 本を始め、シンガポールからの投資低迷が背景にある。マレーシアは、政治安定度・イン フラ・英語力などの点で他国(中国等)に対する優位性を持っていると言われるが、高め の賃金や小さい国内市場などといったマイナスの要素も少なくなく、今後もまとまった新 規投資資金の流入は見込みにくいと考えられる。 外貨準備(含む金)は増加している。02 年末に 346 億ドル、03 年末に 449 億ドル、04 年 末 667 億ドルと増加を続け、05 年 5 月末時点では 749 億ドルに達している。 外交面では、FTA を積極的に進めている。日本とは 5 月に基本合意に至り、年内にも締結 される見通しとなった。また、オーストラリア、ニュージーランド、インド、パキスタン などとも交渉を進めている。最近は、EU とも FTA 交渉に関する準備を進めている。 (シンガポール事務所 吉田 悦章) 16 財団法人 国際金融情報センター 世界経済レビュー No. 9 2005.7 (4)シンガポール 政権は極めて安定的である。1965 年の建国以来、与党・人民行動党(PAP)が事実上の一 党独裁を続けており、01 年 11 月の直近の総選挙でも、84 議席中 82 議席を獲得する圧勝を 収めた。04 年 8 月には、リー・シェンロン副首相(建国の父リー・クアンユーの長男)が首 相に就任した。政権移譲も円滑に行なわれ、引き続き政権に対する内外の信頼度は高い。 対外政策をみると、FTA の締結に引き続き積極的である。ニュージーランド、EFTA(欧州 自由貿易連合)、日本、豪州、米国、ヨルダンと締結済みであるほか、韓国、インド、パナ マ、カタールとも締結の最終段階にある(このほか、チリ、ニュージーランド、ブルネイ との4カ国間 FTA も妥結。来年 1 月発効の見通し)。また、カナダ、スリランカ、パキスタ ン、バーレーン、エジプト、ペルー、などとも FTA 締結に向けた交渉を進めている。 経済面では、04 年の実質 GDP 成長率が 8.4%となるなど、好調に推移している。もっと も、05 年第1四半期は、ウェイトの高い医薬品が特殊事情から一時的に大幅に落ち込んだ ことにより、季調済み前期比年率-5.5%と弱い数字となった。通年成長率の政府見通しも、 当初の 3.0~5.0%から 2.5~4.5%へと下方修正された。とはいえ、個人消費を中心に内需 は堅調を続けているほか、下期には世界的な IT 需要の回復が見込まれることもあり、全体 としては明るさを維持している。 物価動向をみると、04 年の CPI 上昇率は、国際商品市況の上昇や内需の好調等を背景に、 前年比 1.7%と最近の同国の物価上昇率からはやや高めであった。05 年に入ると、統計ベ ースの変更もあって、第1四半期は前年同期比 0.3%と低下した。しかしながら、国際商品 市況の強めの推移や内需の堅調といった状況は変わっておらず、内外のインフレ圧力は引 き続き残っている。こうした中で、通貨当局である MAS(シンガポール金融管理局)は金融 引き締め(自国通貨高)政策を 04 年 4 月以降継続している。なお、05 年通年の CPI 上昇率 見通しは 0~1%、06 年は 1~2%としている。 国際収支面をみると、経常収支は、エレクトロニクス関連や石油化学の堅調等を背景に、 幾分幅を縮めながらも黒字基調を維持している。資本収支は、国内金融機関等の積極的な 対外証券投資やオフショアへの貸出などを背景に、赤字で推移している。 財政面では、05 年予算案が 5 年ぶりの黒字となり、改善が続いている。ただし、もとも と同国にはこれまでの膨大な財政黒字の累積があるとみられることから、財政面での懸念 はほとんどない。 (シンガポール事務所 吉田 悦章) (5)タイ 昨年 12 月 26 日に発生したインド洋大津波により、死者数は南部 6 県で 5 千人を超え、 観光産業をはじめとして、タイ経済に大きなマイナスの影響を与えた。2 月 6 日に行われた 下院選挙では、大方の予想どおり、タクシン首相率いる愛国党が圧勝を収め、史上初の単 独政権となる第 2 期タクシン政権が発足した。 17 財団法人 国際金融情報センター 世界経済レビュー No. 9 2005.7 南部 3 県では、04 年以降、分離独立を求めるイスラム系反政府武装組織の活動が活発化 するなど、治安が悪化している。今年に入っても、4 月にはハジャイ国際空港など 3 ヵ所で 同時爆弾テロが発生するなど、引き続き警戒が必要となっている。 各国との FTA 交渉は、日本、米国をはじめとして精力的に進められている。日本との交 渉では、両国は 7 月中の決着を目指すことを合意しているが、タイ側の鉄鋼・自動車分野 の自由化などの問題において交渉は若干難航している。 05 年第1四半期の実質 GDP 成長率は、石油価格の高騰、インド洋大津波の災害、南部 3 県の治安悪化などによって 3.3%と、04 年通年の 6.1%、第4四半期の 5.3%から大幅に減 速した。国家経済社会開発委員会(NESDB)は、05 年通年の成長率を前回発表より引き下げ、 4.5%~5.5%と予測しており、景気の見通しについて強気の発言が続いていたタクシン首 相も、5%の成長は困難とコメントしている。 貿易収支は 4 月まで 4 ヶ月連続の赤字を記録し、05 年第1四半期の赤字額は 49.9 億ドル まで拡大した。経常収支は 2 ヶ月連続の赤字で、第1四半期の赤字額は 31.1 億ドルとなっ た。NESDB の予測では 05 年通年の貿易収支・経常収支を、それぞれ 49 億ドルの赤字、1 億 ドルの黒字としている。貿易・経常収支悪化の最大の原因は石油価格の高騰であり、今後 も価格の高騰が続けば、GDP 成長率の鈍化と貿易・経常収支の更なる悪化は避けられない。 物価動向についても、やはり石油価格の高騰などの影響から CPI は上昇傾向にあり、5 月 の CPI 上昇率は前年同月比 3.7%、1-5 月平均では前年同期比 3.2%と 04 年通年の前年比 2.7%の数字を上回って推移している。このため、中央銀行は 6 月 9 日に政策金利を 0.25% ポイント引き上げて引き締めに踏み切った。 6 月 14 日の閣議では、総事業費 1.7 兆バーツの大規模インフラ整備 5 ヵ年計画(メガプロ ジェクト)が承認された。大量輸送システム、運輸・通信をはじめとした大規模公共事業が 今後本格的に始動することになる。事業費財源のうち政府予算が約 6,579 億バーツ、借入 金が約 7,151 億バーツとなっている。大規模公共事業による景気の底上げを狙ったもので あり、国内外の注目を集めているが、借入金の増加による財政悪化、建設資材の輸入増加 による貿易収支の悪化を懸念する向きもあり、本計画の成否はタイ経済の今後を大きく左 右するものとして注目される。 (藤田 孝) (6)インド マンモハン・シン首相(会議派:Congress Party)を中心とする「統一進歩連合」 (UPA:United Progressive Alliance)は、政権発足後 1 年を迎えた。同政権は、左派の閣外協力を仰ぐ 少数与党連立政権であるが、前政権が進めた経済改革路線を受け継ぎ、財政赤字の削減、 VAT(付加価値税)の導入、外国直接投資(FDI)の規制緩和など、成果を挙げている。 ただし、労働者保護を第一に考える左派との協調関係が乱れた場合、安定した政権運営 ができず、改革のペースが鈍化する可能性がある。 18 財団法人 国際金融情報センター 世界経済レビュー No. 9 2005.7 外交面でも、同政権は前政権が採用した現実主義路線を継承している。対パキスタン関 係は、両国の独立以来、最も良好な関係にある。05 年 4 月にムシャラフ大統領が訪印し、 両国最大の問題である「カシミール問題」について、和平に向けた対話を継続する旨の共 同声明を発表した。とはいえ、同問題は、国際問題であると同時に国内問題でもあるとい う性格上、短期的な解決は期待できない。一方、対米関係は、核開発問題で関係が一時悪 化していたが、00 年にクリントン大統領が訪印したのを機に、両国の関係は改善に転じ、 現在では経済面に加えて軍事面での強化も進んでいる。また、中国や ASEAN 諸国、日本と も、同国の経済発展に伴って関係が緊密化している。 経済面についてみると、04 年度第3四半期(04 年 10~12 月)の実質 GDP 成長率(以下、成 長率)は、前年同期比 6.2%となった。工業部門、サービス部門は好調が続いているが、農 業部門は、モンスーン期の降水量が平年を下回ったことなどから、前年比で大きく落ち込 んだ。インド準備銀行は、04 年度(04 年 4 月~05 年 3 月)通年の成長率を 6.9%の着地と見 込んでいる。 物価動向をみると、卸売物価指数(WPI)上昇率は、原油や鉄鋼の価格上昇に伴い 04 年 8 月には前年同月比 8%台を記録したものの、政府の関税引き下げ(04 年 6~9 月)、金融政策 (現金預金準備率引き上げ、逆レポ引き上げ)が奏功し、今年に入っての WPI は、概ね政 府の目標値(5.0~5.5%)内で推移している。 同国の経常収支は、03 年度に黒字を確保したものの、04 年度(04 年 4 月~05 年 3 月)は 赤字となった可能性が高い。04 年度第3四半期まで(04 年4月~12 月)の統計をみると、輸 入伸び率は、原油価格の高騰と資本財の国内需要拡大を受け、前年同期比 47.4%となった。 輸出も 33.0%の伸びを示したものの、貿易赤字は 03 年度に比べて大幅に拡大している。一 方、サービス収支は、ソフトウェア輸出が好調で、9 ヶ月間で 03 年度のサービス黒字額を 上回った。資本収支では、証券投資の増加が注目される。好調な経済を背景に、4~12 月ま での流入額は 51.0 億ドルとなった。直接投資も、外資に対する規制緩和や投資制度の簡素 化を進む中で、安定した流入が確保されている。 外貨準備は、①非居住インド人(NRI)預金の増加、②海外機関投資家による証券市場へ の資金流入に伴い、急速に積み上がっている(05 年 5 月 13 日現在:1,401 億ドル)。した がって、債務返済リスクは特に懸念する水準にはない(04 年 9 月時点の対外債務:1,136 億 ドル)。 (石田 19 一馬) 財団法人 国際金融情報センター 世界経済レビュー No. 9 2005.7 Ⅲ.中東地域 JCIFアジア第2部長 松村 淳 1.概観 (1)政治・社会 中東地域においては、イラク情勢とパレスチナ情勢が政治面でのポイントとなる。それ ぞれ和平進展に向けて一定の進展が見られたが、いずれも今後着実に治安が回復し、政治 面が安定するかは不透明感が強い。 イラクについては、サダム・フセイン政権が崩壊したが、その後も混乱状態が続いてい る。実施自体が危ぶまれた今年 1 月末の国民議会選挙は、投票率 58%という高い参加率で 無事終了し、その 3 ヶ月後の 4 月末にタラバニ大統領、ジャファリ首相以下の移行政府が 発足、大きな前進をみた。今後 8 月 15 日までに新憲法案を作成し、年内には正統政府を樹 立することとされている。 しかしながら、武装勢力のテロ攻勢は激しさを増している。これに対処するため、駐留 米軍とイラク治安部隊は、本年 4 月にバグダッドにおいて 4 万人を動員した武装勢力掃討 作戦を実施した。その後においても、バグダッドやその他の地域で武装勢力に対する攻撃 や拘束を強めているが、テロや攻撃の件数は毎日数十件にも及び改善の兆しはみられない。 テロが収まらないのは、シーア派主導の移行政府に対する他派からの反発など政治的な要 因もからんでいるものと考えられる。 国連安全保障理事会は、こうした状況に加え、イラク移行政府の要請も受けて多国籍軍 の駐留を継続することで合意した。駐留期限は「政治移行プロセス完了」までであり、正 統政府樹立予定の今年の年末が新たな駐留期限となる。多国籍軍の中核をなす米国兵士の 死者数は開戦以降既に 1,700 人を超え、米国内では早期の全面ないしは部分撤退を求める 世論が高まってきているが、現状では更なる多国籍軍駐留の長期化は避けられないと思わ れる。 パレスチナ情勢は、永年にわたり個人指導体制を敷いてきたアラファト議長が 04 年 11 月に死去し、穏健派のアッバス議長が後任のパレスチナ自治政府議長に就任したことによ り、新たな進展を窺わせる状況となった。更に本年 2 月にイスラエルのシャロン首相とア ッバス議長が首脳会談で停戦に正式に合意し、 「ロードマップ」に基づき、今夏に予定され るイスラエルによるガザ地区等からの撤退完了と和平実現に向けて着実に歩みだしたもの と評価された。 4 月には、米国でブッシュ大統領とイスラエルのシャロン首相の首脳会談が行われたが、 ブッシュ大統領はイスラエルのガザ地区からの一方的な撤退に強い支持を表明すると同時 20 財団法人 国際金融情報センター 世界経済レビュー No. 9 2005.7 に、同国がヨルダン川西岸で計画している入植地拡大計画には強い反対を表明した。一方、 アッバス議長は 5 月に米国を訪問し、「ロードマップ」に基づく和平の実現について米国か ら支持を取り付けており、米国も永年の懸案事項を解決させることに強い意欲を示してい る。同月日本を訪問したアッバス議長に対し、我が国も問題の解決に向けての取組の支援 と経済協力などを表明した。 ただし、このような海外からの和平への強い期待に反し、イスラエル・パレスチナ双方 において内部的な対立が問題となっている。イスラエルでは右派・極右派らが各地で政府 への抗議行動等を行ってきており、入植地からの撤退反対運動も相変わらず根強い。一方 で、パレスチナ側もイスラム原理主義組織のハマスなど過激派から休戦維持に向けた協力 を取り付けたものの、パレスチナ自治政府のもとで国内がまとまったとはいい難い。また、 その後もイスラエル側とパレスチナ側の間の小規模な衝突やテロ行為もしばしば発生して いる。6 月 21 日に開催された再度のシャロン首相とアッバス議長の首脳会談においても、 イスラエルの平和的なガザ地区撤退について基本合意はなされたが、具体的な諸問題につ いてはかばかしい進展が見られなかった。双方の相手方への不信感が依然根強く、今夏の ガザ地区等からのイスラエル撤退が平和裏に行われるか、まだ予断を許さない状況にある といえる。 イランでは、6 月に大統領選挙が行われ、強硬保守派のアフマディネジャド氏(現テヘラ ン市長)が当選した。同氏は外交面でも強硬姿勢を貫くものとみられており、欧米各メデ ィアは、今後の欧米諸国との関係悪化は避けられないとみる向きが多い。 中でも、同国の核開発問題に新政権がどう対処するかが当面の大きな焦点となる。イラ ン革命時の在テヘラン米国大使館占拠事件以来、米国との関係は断絶状態にあり、米国は イランの核開発を絶対に許さないスタンスを継続している。イランは 04 年 11 月の英仏独 3 国との合意に反し、本年 5 月にウラン濃縮関連活動を再開することを表明したが、その後 の 3 国との交渉の結果、当面本年 7 月末までに 3 国から新たな包括的提案を行うことで、 核開発活動の再開は一時凍結されている。国際的にも北朝鮮に加えてイランへの非難は高 まっているが、依然としてイランの核開発活動再開への意欲は高く、引き続き中東地域の 不安定要因の一つとして今後の動きに注意が必要である。 サウジアラビアでは、04 年 12 月の米国領事館襲撃事件などテロ活動が頻繁に発生したが、 治安当局の厳しい取締りもあって今年に入りかなり沈静化している。 (2)経済動向 他方で、治安面で大きな懸念がない産油国では原油価格高騰に伴う石油収入増加の恩恵 を受けている。 原油価格は今年に入り再度騰勢を強め、4 月上旬にはニューヨークの WTI 原油先物が 1 バ ーレル 58 ドル台を付けた後、一旦は落ち着きを見せた。その後、石油消費国側の増産要請 が強まったことを背景に 6 月 15 日の OPEC(石油輸出国機構)臨時総会では、公式生産枠を 21 財団法人 国際金融情報センター 世界経済レビュー No. 9 2005.7 日量 50 万バーレル引き上げ、2,800 万バーレルとすることで合意がなされた。しかしなが ら、WTI 原油先物市場は、総会後の 6 月下旬に 1 バーレル 60 ドル台の市場最高値を付ける など、むしろ臨時総会以前より上昇している。原油相場上昇の原因は、①産油国の生産能 力がサウジアラビアを除けばそれほど余力がないとされている、②世界第二の石油消費国 の中国をはじめ世界的に需要が拡大している、③中東地域やナイジェリアなどのテロ懸念 の継続、④投機資金の流入、などが指摘されている。今後においても前述の諸要因からは、 短期間での原油価格の大きな低下は期待しがたいとの見方が多い。 一方で、このような原油価格の上昇は、サウジアラビアやイランをはじめ中東地域各産 油国にとって財政状況や国際収支の改善に直結している。しかしながら、これらの国でも、 石油収入に依存する体質や概ね高い失業率などの構造的な問題点の解決に向けての取組は 遅れており、増加する石油収入を有効に活用した経済構造改革が引き続き重要な課題とな っている。 非産油国のトルコは、01 年 2 月の金融危機以降 IMF の経済改革プログラムを推進中だが、 本年 5 月に IMF の新規スタンドバイ協定 100 億ドルが IMF 理事会で承認され、ファイナン ス面での安定度は高まった。また、04 年 12 月に EU 加盟交渉の開始決定がなされたことも 相俟って、今後 EU 加盟実現を重要な目標に据えて経済改革に取り組むことになる。インフ レ率も一桁台に留まっており改善がみられるが、国内景気堅調を受けた輸入の増加や原油 価格上昇などにより貿易収支・経常収支の赤字が拡大していることが今後の懸念材料であ る。 2.主要国の最近の動き (1)サウジアラビア 5 月 27 日、ファハド国王(84 才)が肺炎と高熱を患い入院した。当初、西側の一部メディ アでは重体とも報道されたが、王室はこれを即座に否定し、経過はその後安定していると のことである。ただ、高齢かつ病弱なだけに今後については予断を許さない。国政はアブ ドラ皇太子(82 才)が既に代行しており、王族内の支持も厚く、外交面でも諸外国と良好な 関係を築いていることから、次期国王は同皇太子の即位がほぼ確実とみられている。一方、 次期皇太子については、スルタン国防相が有力とみられているが、ファハド国王、アブド ラ皇太子と同じ第 2 世代(初代国王の子供世代)で 81 才と高齢であることから、人選に波 乱が起きる可能性が残されている。米紙報道によれば、米国も次期皇太子には第 3 世代の 現代的思考を持つ人物を望む意見があり、サウード外相(64 才)などの名前があがってい る。当面、王位継承問題には目が離せない。 04 年実質 GDP 成長率(暫定値)は、原油価格高騰や米国、中国、インドなど世界的な経 済成長による原油需要拡大の恩恵を受け、5.3%と過去 10 年間では 03 年(7.2%)に次ぐ 22 財団法人 国際金融情報センター 世界経済レビュー No. 9 2005.7 高い成長率となった。石油部門は、03 年の 14.9%から 04 年の 5.9%へと大きく減速したが、 通信、建設など非石油分野が石油収入増大の波及効果などにより 03 年の 3.4%から 04 年 5.7%へと好調であり、オイルブーム(74~82 年の 2 度の石油危機時)最終年の 82 年(6.3%) 以降で最も高い伸びを示した。同国は、依然輸出の 9 割を石油部門に依存する状況にある が、GDP 構成比でみると、民間の非石油部門は全体の 4 割強を占めるに至っており、近年進 められている経済改革が一定の成果を上げてきていると言える。 内政では、地方の諮問機関レベルながらも、建国以来初の選挙が実現した。国民の選挙 に対する参加意識や理解度はまだ十分でないが、実現したことは緩やかな民主化への第一 歩を踏み出したという点で意義深いと言える。 外交では、4 月にアブドラ皇太子がブッシュ米大統領と会談し、同国の WTO 加盟への協力 をとりつけ、今年 12 月に香港で開催される WTO 会議の加盟実現に目処がついた。また、湾 岸協力会議(GCC)域内関係では、EU および EU への加盟を目指すトルコと FTA の年内締結 で合意に至った。これまで同国は、GCC6カ国中唯一の WTO 未加盟国であり、他の GCC 諸国 が米国との FTA 締結にも動くなか、貿易面で孤立することが懸念されていたが、米国との 首脳会談の成果により、その懸念は大きく後退した。 テロについては、昨年欧米人を標的とした銃撃、死亡事件が相次いで発生したが、昨年 12 月にジッダで起きた米領事館襲撃事件以降、05 年に入ってからは発生していない。同国 政府が治安部隊によるイスラム過激派襲撃作戦を昨年来格段に強化したことが、テロ組織 の摘発、事件の発生防止に一定の成果をあげてきている。米国もこうした同国のテロへの 取組みを評価し、5 月 19 日に 1 年以上にわたる自国民の渡航延期勧告を緩和する決定を下 している。 (竹内 覚) (2)イラン 本年 6 月 17 日、第 9 期大統領選挙が行われた。7 人の立候補者により争われたが、いず れも過半数を超える得票を取ることはできず、上位 2 名の決選投票の結果、強硬保守派の アフマディネジャド氏(テヘラン市長)が第 9 期大統領に当選した。選挙戦前の調査では 穏健保守派のラフサンジャニ公益評議会議長(元大統領)の優勢が伝えられており、アフ マディネジャド氏の当選は大方の予想と反するものとなった。同氏は今回選挙では、失業 などの国内の経済問題に焦点を当て、生活環境の改善されない貧困層や労働者層の支持を 受けた。また、同氏は「イスラム法に則った強いイランを作る」ことを表明しており、今 後核開発問題などをめぐって欧米諸国との関係が悪化する可能性も考えられることから、 同氏の当選は国内外に強い衝撃を与えている。今後は、アフマディネジャド新大統領の具 体的な政策が焦点になる。 外交面では、依然として米国はイランを「悪の枢軸」とする敵視政策を継続している。 一方で、近年緊密な関係を維持してきた欧州諸国、ロシア、インド、アラブ、アジア、ア 23 財団法人 国際金融情報センター 世界経済レビュー No. 9 2005.7 フリカ諸国とは引き続き関係を維持する積極外交を行っている。核兵器開発疑惑に関して は、国際的にも北朝鮮と並んで問題視されている。イランはあくまで「平和利用の権利」 を主張し、04 年 11 月の欧州諸国(英独仏)との合意に反し、本年 5 月核濃縮活動の再開を 表明した。その後の欧州 3 国との交渉の結果、当面 7 月末までに 3 国から包括的提案を行 うことで核開発活動の再開は一時凍結された形となっており、今後は、両者間で妥協点を 探る動きが焦点になる。 経済面に関し、中銀の発表によると、04 年度の実質 GDP 成長率は 4.8%と前年に比べ低 成長となった。主要な要因は、前年度 12.9%だった石油部門が 2.6%と伸び悩んだことで あるが、これは OPEC の増産を受けて同国も前年度に大きく生産量を拡大し、04 年度は更な る生産量拡大が困難であったことが指摘されている。また、農業も前年比 2.2%と伸び悩ん だ。一方で、鉱工業部門とサービス部門は、それぞれ 8.1%、4.8%と堅調に推移した。ま た、中銀発表の 05 年の成長率予測は 5%程度、今後 5 年間の経済成長率は、非石油産業の 育成や外国資本の導入を推進することにより、年平均 8%程度を目指していくものとしてい る。インフレ率については、前年度の 15.6%から 15.2%へと若干低下したものの、目標の 13.0%に抑えることはできなかった。 財政収支をみると、例年同様、歳入では石油収入が全体の 5 割~6 割を占め、税収は全体 の約 3 割程度に過ぎない。一方、歳出は経常支出が 7 割~8 割を占め、これは主に各種補助 金や公務員給与により構成されている。石油収入は市場の影響を受けやすく、歳出は補助 金や雇用創出、国家プロジェクト向け資金を中心に年々増加し続けており、財政赤字が継 続している。しかしながら、予算を超える石油収入は石油安定化基金に蓄えられており、 財政赤字についてはそこから補填されているため、ファイナンス自体に問題はない。なお、 05 年度予算も、拡張財政を続ける計画である。 国際収支面では、貿易収支が輸出額の 8 割を占める石油の影響を強く受ける構造に変化 はない。03 年度第3四半期末時点では、OPEC の減産合意により石油輸出量は減少したもの の、石油価格が高めに推移した影響により、輸出額は前年同期比 28.5%増加した。輸入額 は、政府が輸入規制を緩和したこと、国内需要が旺盛であることなどを背景に、輸出を上 回る 33.1%の増加を見せた。対外債務残高に関しては、98 年以降、対外債務を優先的に返 済する政策を採ってきたため、01 年度末までは順調に減少してきたが、02 年度末は 98 年 以降初めて増加に転じ、04 年度末残高は前年同期比 36 億ドル増加の 157 億ドルとなった。 短期債務増加の主な要因は内需好調に伴う輸入関連債務の増加とみられる。中長期債務は、 石油収入増加により国内プロジェクト資金を自己資金で対応することも可能になったこと から、00 年以来増加傾向だったが、03 年を境に減少に転じている。また、一方で石油収入 増加により外貨準備残高が、04 年 9 月末時点で、250 億ドル超に達したと報じられている。 同国は実質的には純債権国であり、既存の対外債務返済に懸念はないとみられる。 (臼田 24 慎吾) 財団法人 国際金融情報センター 世界経済レビュー No. 9 2005.7 (3)トルコ 政治面では、AKP(公正発展党)政権は成立から 2 年半を経過し、議会で単独過半数を制 する安定政権として改革を推し進めてきた。特に IMF 主導の経済改革プログラムの遂行が 認知され、国民や経済界からの信頼を高めている。ただし、AKP 政権がイスラム的政策を打 ち出せば、大統領や軍との対立が顕現化する可能性は常にあり、政教分離主義とのバラン スがとれた政権運営が引き続き必要である。EU 加盟交渉は 05 年 10 月に開始される予定だ が、長年の紛争国であるギリシャ系のキプロス共和国をアンカラ連合協定(EU とトルコと で政治・通商等を包括的に取り決めた 1963 年の協定)に加えることが条件となっており、 AKP 政権にとって野党からの攻撃材料となることが予想される。また、本年 6 月に EU 憲法 批准を巡り顕現化した既存加盟国の足並みの乱れが、トルコの EU 加盟交渉開始に障害とな るという懸念も否定できない。05 年 10 月に向け、AKP 政権の舵取り、EU 既存加盟国の動向 が注目される。 経済面では、04 年の実質 GDP 成長率は 8.9%となり、過去 38 年間でもっとも高い成長と なった。高成長を牽引したのは、支出項目では民間消費および民間投資であり、産業部門 別では輸出の好調に後押しされた製造業であった。05 年も安定成長への期待が高まる中、 第 1 四半期の鉱工業生産指数は前年同期比 6.2%と堅調な伸びを示した。05 年の実質 GDP 成長率は政府目標では 5.0%とされているが、潜在的な成長率と照らし合わせても、十分達 成可能な数字とみられている。 物価動向については、04 年末の CPI 上昇率が政府目標 12.0%をクリアする 9.3%となり、 34 年振りに年末一桁台の数字に改善した。05 年末の CPI 上昇率の政府目標は 8%となって いるが、05 年 5 月の CPI 上昇率は前月比 0.9%、前年同月比 8.7%と落ち着いた動きを見せ ており、インフレ率のさらなる低下に期待がかかる。なお、中銀は 06 年から公式なインフ レ・ターゲットを導入する方針である。 04 年の国際収支については、輸入・輸出とも過去最高額を更新したが、内需拡大とトル コ・リラ高に伴う輸入増のため貿易赤字は 239 億ドルと、前年比 99 億ドルの大幅な拡大を 示した。観光収支は 134 億ドルに達したものの、経常収支は 156 億ドルの赤字となり、前 年を 75 億ドル上回った。05 年 1~4 月までの経常赤字は累計 88 億ドルに達しており、これ からシーズンを迎える観光収入の増加、民間消費の抑制による消費財輸入の減速等を勘案 しても、05 年の経常赤字は 04 年を若干上回ると予想され、引き続き警戒すべき水準にある。 IMF とトルコ政府は、05 年 5 月に 3 年間にわたるスタンドバイ協定 100 億ドルを締結し た。同時に、2006 年返済予定額のうち 38 億ドルが 1 年間返済期限延長となった。スタンド バイ協定に伴う経済改革プログラムでは、引き続きプライマリー収支を中核としたターゲ ットが設定されており、具体的な施策として社会保障改革、税制改革、金融セクター改革 に重点が置かれている。本スタンドバイ協定の締結により、トルコの当面の債務マネジメ ントは懸念がないとみられている。 25 財団法人 国際金融情報センター 世界経済レビュー No. 9 2005.7 Ⅳ.中南米地域 JCIF中南米部長 桑原 小百合 1.概観 (1)政治・社会 主要国は 06 年~07 年の大統領選挙に向けて政治の季節に入った。今のところ政治ノイズ は「コップの中の嵐」にとどまっており、政治危機にまで発展するおそれはない。 エクアドル(4 月)とボリビア(6 月)では先住民らを中心とする反政府運動が激化し、政 権の崩壊を招いた。このほか域内には、ニカラグアの政情不安、ベネズエラのチャベス政 権と米国との不和、コロンビア和平、ハイチ安定化問題などの不安定要因があるが、これ らの問題の解決に向けての進展はほとんどなかった。ウルグアイでは 3 月 1 日に同国史上 初の左派政権が発足し、独立以来 170 年以上にわたって続いた 2 大政党制が終焉した。バ 「新左翼」、 スケス新大統領の就任により、南米の左派または中道左派政権は 5 カ国となり 1、 「新人民主義」の台頭が顕著になった 2。中南米では 80 年代後半以降進んだネオリベラリ ズム(新自由主義)的な改革がマクロ経済の安定化をもたらす一方で、政治腐敗・汚職の 横行はとまらず、所得格差は拡大し、治安は悪化した。こうした状況が、人々に改革や民 主主義への失望感を抱かせ、近年の新しい指導者の誕生につながった。しかし、所得再分 配などのポピュリズム的スローガンを掲げて登場した新リーダーはしばしば、財政的裏づ け、強力な支持基盤、政治手腕などを欠くため国民の過大な期待に応えることができず、 政治・社会不安が表面化している。着実に政権基盤を強化しているのは、石油のウィンド フォール・ゲインを元手にばら撒き政治を行っているチャべス大統領だが、同政権の命運 は石油価格が握ると言え、先行き不透明感が付き纏う。 05 年後半は、外部経済環境の悪化が予想される状況下、政権交代期の接近とともに低下 する統治能力の低下、諸改革の遅れにどのように対処し、投資家の信任を維持していくか、 各国政府とも難しい舵取りを余儀なくされよう。 05 年第2四半期は、日本国内で中南米関係のイベントがいくつか開催され、80 年代の累 積債務危機以来停滞してきた同地域と日本の関係再活性化の呼び水となることが期待され た。しかし、4 月上旬の米州開発銀行沖縄総会では、参加者の関心が、陰の主役といわれた 中国に集まり、5 月末のルーラ大統領訪日も、国連安保理改革から移民問題、バイオマス・ エタノールの売り込みと目白押しのアジェンダをもっての初来日であったが、日伯の思惑 1 チリ(ラゴス大統領)、アルゼンチン(キルチネル大統領)、ブラジル(ルーラ大統領)、ベネズエラ (チャベス大統領)。 2 中南米では、 50 年代~70 年代初頭に人民主義政権、左翼政権が相次いで誕生したが、経済運営に失敗し、 軍による収拾が図られた。80 年代にほとんどの国が民政に戻り、一部で再び人民主義政権が誕生した。 26 財団法人 国際金融情報センター 世界経済レビュー No. 9 2005.7 の相違が浮き彫りになった。当面、本邦企業の対中南米ビジネスの活性化は、資源関係と EPA 関連の対メキシコ投資を除いては、望めそうもない。特に金融部門では、アルゼンチン のデフォルトの後遺症がしばらくは続くこととなろう。 [表 Ⅳ-1] 中南米主要国の大統領支持率 国、現大統領名 アルゼンチン キルチネル大統領 ブラジル ルーラ大統領 チリ ラゴス大統領 コロンビア ウリベ大統領 メキシコ フォックス大統領 ペルー トレド大統領 ベネズエラ チャベス大統領 次期大統領選 07 年 4 月 05 年 12 月 支持率推移 治安の悪化などを背景に 03 年 5 月就任時の 70%超から 50%台半ばに低 下 03 年 1 月就任時の 84%から低下傾向を辿ったが 04 年 5 月の 54%を底 に回復し 05 年 2 月には 66%まで上昇。その後低下し 5 月時点で 57% 過去 1 年間のラゴス政権への支持率は 60%前後で安定 06 年 5 月 02 年 8 月の就任以来 66~78%の支持率を維持 06 年 7 月 2000 年末の就任以来以来おおむね 50%台半ばを維持 06 年 4 月 10%程度で推移 06 年 12 月 04 年 8 月の国民投票によると約 60%の支持率。05 年 3 月実施のアンケ ートで大統領の業績を良いとする回答は全体の 71%と、前年同期比 11 ポイント上昇 06 年 10 月 (2)経済動向 04 年の中南米経済は、石油をはじめとする一次産品価格の高騰と国際金融市場における 潤沢な流動性を背景に、ほぼ四半世紀ぶりの高成長を遂げた。しかし、足許、世界経済に は減速感とインフレ懸念が強まり、中南米諸国を取り巻く環境は確実に悪化している。ま た、域内の政治・社会不安は、経済パフォーマンスを侵食し始めている。主要国の政策当 局は、財政・金融の規律にコミットするとともに、国際金利の上昇と新興市場国への資金 フロー縮小を見込んで、対外ショックへの抵抗力強化に努めている。 05 年に入り、メキシコ、ブラジルの 2 大国(両国あわせて中南米域内総生産の約 65%を 占める)で減速が色濃くなって、両国の第1四半期実質成長率は 2%台にとどまった。アナ リストの多くは、05 年、06 年の経済成長見通しを 3%台前半へと下方修正している。 一方で、04~05 年の石油価格の高騰が国内エネルギー価格に波及し、さらにノンコアイン フレの加速がコアインフレにも及んで、多くの国でインフレの緩やかなリバウンドがみら れる。 国際収支面では、一次産品価格の高値圏での推移と、減速しているとは言え依然として 強い中国・米国からの需要に支えられ、輸出が高い伸びを続けている。内需の回復にとも なう輸入増を反映して、貿易収支・経常収支が悪化している国が多く、05 年の地域全体の 経常収支は小幅な赤字に転落すると予想する。なお、ブラジルとペルーでは、輸出額が史 上最高を更新し、貿易収支・経常収支とも昨年を上回る大幅な黒字を計上している。 経済政策については、アルゼンチンとベネズエラが、為替・資本取引の規制強化や外資 に不利な税制・投資規則の導入といった、政府介入と民族主義の色が濃い政策を打ち出し 27 財団法人 国際金融情報センター 世界経済レビュー No. 9 2005.7 ている。財政面で一次産品への依存度が高いチリ、ウルグアイで、予算見込を上回る収入 を安定化基金として積み立てるなど景気調整的な財政政策がとられる一方、ベネズエラは、 歳出規模を大幅に拡大させるとともに各種減税を実施するなどの拡張的財政政策を続けて いる。通貨金融政策においては、各国金融当局は、03 年初以降の資金流入増を背景とする 通貨高と、昨年来のインフレ圧力の台頭に対処するという難しい政策運営を迫られてきた。 変動相場制でありながら実質的には為替相場ターゲットを採用しているのがコロンビア、 ペルーなど、インフレ・ターゲットを優先させているのがブラジル、チリ、メキシコなど である。前者は、多額の不胎化介入(ドル買)による中銀バランスシートの悪化というコ スト、後者は金融引き締めにともなう短期資金流入と通貨高というコストを払わされてい る。ただし、ここにきて予想以上の景気減速あるいはインフレ懸念の後退を受けて、ブラ ジル、チリ、メキシコでは引き締めサイクルに終止符が打たれた。対外債務管理政策に関 しては、中南米主要国は引き続き、前倒返済や借替えによる返済コストの圧縮、返済スケ ジュールの平準化、借入れ通貨の多様化によるリスク分散に努めている。また、対外環境 の悪化に備えて、06 年の返済資金の資金調達の太宗を終わらせている。 上半期の株・為替・債券市場は、他の新興市場国と同様、米国を初めとする先進国の動 向に影響を受けた。年初来上昇基調にあった新興市場国の債券、株式市場は、2 月 16 日の グリーンスパン発言 3をきっかけとした米長期金利上昇を背景に下落に転じ、4 月半ばまで 軟調に推移した。しかし、5 月に入ると、米景気に対するマーケットの見方が落ち着きを取 り戻すとともに反発している。GM やフォードの格下げにより、世界の投資資金は米国債に 向かい、その一部は比較的安全な新興市場国にも流れた。6 月前半のブラジルのように、各 国の個別事情にマーケットが反応することはあろうが、石油価格の乱高下あるいは中国発 の国際金融不安等のリスク要因が顕在化しなければ、年後半の金融市場は安定的に推移す るものとみられる。 [表 Ⅳ-2] IMF による中南米主要国の経済見通し 西半球 アルゼンチン ブラジル チリ コロンビア メキシコ ペルー ベネズエラ 実質 GDP 成長率 04 05 5.7 4.1 9.0 6.0 5.2 3.7 6.0 6.1 4.8 4.0 4.4 3.7 5.4 4.5 17.3 4.6 (%) 06 3.7 3.6 3.5 5.4 4.0 3.3 4.5 3.8 CPI 上昇率 (%) 04 05 06 6.5 6.0 5.2 4.4 7.7 6.7 6.6 6.5 4.6 1.1 2.5 3.1 5.9 5.2 4.8 4.7 4.6 3.7 3.7 2.1 2.4 21.7 18.2 25.0 経常収支/GDP 04 05 0.8 0.2 2.0 -1.2 1.9 1.1 1.5 0.9 -1.1 -2.6 -1.3 -1.4 -0.1 0.5 13.5 12.0 (%) 06 -0.5 -2.9 0.4 -1.3 -2.6 -1.6 0.2 8.4 (注)CPI 上昇率は年平均 (出所)World Economic Outlook, April. 2005, p.36 Table 1.7. 3 グリーンスパン FRB 議長は 05 年 2 月 16 日の議会証言で、短期金利引き上げ過程における長期金利の急 低下を「謎」と述べ、長短金利差の縮小を牽制した。 28 財団法人 国際金融情報センター 世界経済レビュー No. 9 2005.7 2.主要国の最近の動き (1)アルゼンチン 経済成長が鈍化するなかで、インフレ圧力が後退する兆しは見えない。01~02 年の不況 下で設備投資が大幅に落ち込んだため生産余力が低下しており、急回復する国内需要に生 産能力が追いつかず、経済成長の足枷となりつつある。財政収支は、景気回復にともなう 税の自然増および、輸出・金融取引に対する課税により、良好なパフォーマンスを示して いる。05 年に入って、金融政策スタンスは若干引き締められたが、マイナスの実質金利と 潤沢な流動性を背景に個人消費は急拡大した。中銀は、為替相場ターゲット (ARP2.87-2.97/USD)とインフレ・ターゲット(5~8%)の二兎を追い、ドル買い介入と中 銀債等の売りオペによる不胎化、対市中銀行信用の回収を強化させている。その結果、ペ ソの対ドル為替レートはターゲットの範囲内で推移し、外貨準備は積み増されている。一 方、インフレ率は目標範囲の上限を 1 ポイント近く上回っており、現在の金融政策を続け れば、政府は、中銀債務の膨張と市場金利の大幅な上昇という、財政リスクを抱えること となろう。 史上最大規模のソブリン債務再編が終了し 、IMF との新規プログラムの交渉が 7 月にも 開始されるとの観測が強まっている。しかし、アルゼンチン政府は、IMF が求めるマクロ経 済の数値目標、構造改革へのコミットメントに否定的な姿勢を崩していない。IMF と合意に 達しなければ、05 年の政府のファイナンス・ギャップは、50 億ドル超に上ると推定され、 国債の増発や外貨準備の取り崩しによる補填を余儀なくされるだろう。政策リスクとして は、中間選挙をにらんだ財政政策の緩み、インフレ圧力の増大があげられる。景気下振れ 要因として、冬季のエネルギー不足の影響も懸念される。 (2)ブラジル 閣僚や政府幹部を巻き込んだ贈収賄、公金の不正使用疑惑が次々と表面化し、政府は対 応に苦慮している。世論調査でもルーラ政権に対する評価、信頼度は低下傾向にある。ル ーラ大統領に対する評価は依然として高く4、一連の政治スキャンダルが政権の根幹を揺る がすような事態に至ることはないと思われるものの、野党連合のルーラ政権批判は今後激 しさを増すだろう。野党連合が過半数議席を制する国会では、カバルカンチ下院議長が、 立法府は行政府の指示は受けないとして独自の路線を堅持しており、政府提出の法案審議 に多くの支障が生じている。連立与党内部でも、政策や人事を巡って、ルーラ大統領の労 働者党(PT)とその他の政党との溝が深まっている。5 月以降、グシケン広報担当長官による レベロ政治調整相更迭要請、ジュカー厚生相の汚職疑惑、メイレレス中銀総裁の海外不正 4 5 月 24 日から 27 日にかけて全国輸送業連合会 (CNT)と Sensus が共同実施したアンケート調査によれば、 5 月の大統領支持率は、調査対象者の 57.4%となって、4 月の 60.1%から低下した。不支持率は 4 月の 29% から 5 月は 32.7%に上昇した。 29 財団法人 国際金融情報センター 世界経済レビュー No. 9 2005.7 送金疑惑、ジェファソン・ブラジル労働党(PTB)総裁の郵政収賄疑惑、PT 政権による野党 議員買収疑惑と続き、金融市場では 6 月上旬に株価、レアル、債券価格が大幅に下落した。 外交面では、国連安保理常任理事国入りへの支援獲得などを狙いとして、中東、アフリ カなどの途上国を中心に積極外交が展開された。対アジアでは、昨年のインド、中国訪問 に続き、5 月 23~28 日に韓国と日本を訪問した。 上半期の経済パフォーマンスは、景気に陰りがみえるものの、史上最高の貿易黒字、財 政収支目標の達成(05 年第1四半期プライマリー黒字/GDP 比率は 4.8%)など、好調さを 維持した。昨年 9 月に始まった金融引き締めサイクルは最終局面にあり、年後半は内需の 持ち直しが予想される。インフレ率は(IPCA 上昇率)は、中銀の目標(2.6~7.6%)の上限を上 回っているものの、低下傾向に転じた。金融引き締めスタンスの強化と貿易黒字・経常収 支黒字を背景に、外貨準備は年初来 50 億ドル積みあがり、為替レートは 5 月時点で BRL2.5 /USD 前後と、前年同期から 15%程度レアル高となっている。 (3)チリ 12 月 11 日の大統領選挙戦は、与党連合がやや優勢に立っている。しかし、与野党連合間 に大きな政策の相違はなく、大統領選挙の結果が政治・経済に大きく影響することはない とみられる。与党連合コンセルタシォンは、キリスト教民主党(PDC)のソレダ・アルベア ール前外相が 5 月下旬に立候補を取り下げ、社会党(PS)および民主主義のための政党(PPD) のミシェル・バチェレ前国防相が統一候補となる。野党連盟アリアンサは、独立民主同盟 (UDI)のホアキン・ラビン前サンチャゴ市長が内定していたが、5 月 14 日、アリアンサの 中核である国民革新党(RN)がセバスティアン・ピニェーラ氏の擁立を表明した。大統領 選挙は、バチェレ、ラビン、ピニェーラ 3 候補の戦いとなろう。世論調査ではバチェレ氏 の支持率がもっとも高いものの、ピニェーラ候補の追い上げが予想され、予断を許さない 状況となっている。なお、12 月 11 日の選挙で得票率が 50%を超える候補者がいなければ、 上位 2 候補による決選投票が 06 年 1 月 11 日に実施される。 第1四半期の実質 GDP 成長率は、5.7%と 04 年下半期より減速したものの、中南米域内で はチリ経済は相対的に高い成長を遂げている。03 年に始まった景気回復局面はけん引役が 当初の輸出から、民間投資、さらに個人消費へと移っている。一方、石油価格高騰の影響 で、公共料金・運輸などのインフレ圧力が強まっている。中銀は、04 年 9 月以来金融引き 締めを継続し、政策金利は 04 年 8 月の 1.75%から 05 年 5 月には 3.25%へと引き上げられた が、6 月の金融政策決定会合では据え置きとした。内需の堅調さは貿易収支にも現れ、05 年の月間貿易収支は、前年同月比縮小を続けてきた。銅価格は高水準で推移していること から、景気過熱感の後退とともに、貿易収支の悪化にも歯止めがかかるだろう。 30 財団法人 国際金融情報センター 世界経済レビュー No. 9 2005.7 (4)コロンビア 治安対策と経済安定化に成果を挙げてきたウリベ大統領に対する国内外の信任は厚く、 直近アンケートでの支持率は約 70%となっている。憲法裁判所の判断待ちとなっている大統 領の再選を可能にする憲法条項の改正案が合憲となれば、来年 5 月の大統領選挙にウリベ 大統領が出馬し再選される可能性が高い。非合法組織との和平交渉は、進展が期待されて いる極右準軍組織 AUC の社会復帰プロセスは停滞している。外交面では、2~3 月、最大ゲ リラ組織 FARC 幹部の逮捕をめぐってベネズエラとの関係が一時険悪化したが、これまで同 様、関係は修復され、両大統領は友好関係を深化していくことで合意した。 マクロ経済は好調に推移しており、産業間でバランスの取れた成長、インフレ率と失業 率の緩やかな低下が続いている。金融市場では、短期資金の流入により、為替・株価の上 昇傾向が続いた。ペソ高に対する輸出業界からの懸念もあり、中銀は金融緩和に踏み切っ た。 IMF は 5 月 2 日、期間 18 ヶ月(06 年 11 月まで)、405 百万 SDR(約 613 百万ドル)のスタ ンドバイ取極(Stand-By Arrangement, SBA)を承認した。経済が好調に推移しているため、 金額は前回の 3 分の 1 以下の規模にとどまった。新 SBA も、国際金融市場における信用補 完のための予防的な融資契約であり、借入れは行わない予定である。また、財政改革を初 めとする多数の構造改革の実施が目標として導入されている。財政再建に不可欠とされる 年金改革の法案は、6 月 15 日、政府案提出から 1 年を経、大幅な修正が施された上で可決 成立にこぎつけた。国会での法案承認手続きの複雑さ(たとえば年金改革など憲法改正が 必要な改革案は上下両院で 8 回の承認が必要)や、大統領が国会において安定した政権基 盤を持たないことから、今後の改革審議過程も長期化することが予想される。 (5)メキシコ 3 月~4 月、メキシコシティのロペス・オブラドール市長(民主革命党=PRD、中道左派の 野党第 2 党)の不逮捕特権剥奪をめぐり、同市長・PRD と、フォックス大統領・連邦政府・ 議会の対立が国内外の耳目を集めた。大統領による検察長官更迭、検察庁の起訴断念によ り事態は収拾されたが、本件は、次期大統領の最有力候補と目されるロペス・オブラドー ル市長への支持率をさらに高め、フォックス大統領と与党・国民行動党(PAN)のイメージを 低下させる結果となった。ロペス・オブラドール市長は、7 月 31 日に市長を辞任する意向 を明らかにし、PRD の大統領候補指名選挙(9 月 18 日)に向け本格的に動き出した。一方、 PAN では、サンティアゴ・クリール内相が予備選出馬のため 6 月 1 日に辞任を表明した(党 内の候補者選出は 11 月 6 日)。政権奪回を狙う前与党・制度的革命党(PRI)はロベルト・マ ドラソ氏を正式候補とする可能性が高い(党内選挙は 11 月以降)。今年後半の国内政治は 3 大政党の大統領候補者選びを中心に動くだろう。ロペス・オブラドール大統領、PRD 政権誕 生の可能性は、潜在的な政治リスク要因として、金融市場に影響を及ぼすこととなろう。 日本とメキシコの経済連携協定(EPA)が 4 月 1 日に発効した。農業分野も含む本格的 FTA 31 財団法人 国際金融情報センター 世界経済レビュー No. 9 2005.7 は日本にとって、また、アジア諸国との FTA はメキシコにとって初めてのものである。カ ナレス経済相は通商政策に関して、二国間交渉から「卒業」する考えを示し、今後は、米 州自由貿易圏(FTAA)構想や WTO による多国間協定の推進に注力すると語った。FTA の相手 国は日本を含めて 34 カ国となり、メキシコの FTA 戦略は一つの到達点に達した。 経済面では、04 年に景気回復を牽引した対米輸出の不振で、景気減速感が強まっている。 第1四半期 GDP が 2.4%の低水準にとどまったほか、消費者信頼感指数、コンポジット・イ ンデックス、自動車販売台数、設備投資、製造業就業者数などの低下傾向が顕著になって いる。国際収支については、貿易収支・経常収支赤字は拡大しているが、移民送金は増加 傾向をたどっており、対内直接投資・証券投資ともに堅調に推移している。金融市場では 5 月以降、株価・為替とも上昇に転じた。 (6)ペルー ペルーは大統領選(06 年 4 月)まで 1 年を切った。トレド大統領の支持率は引き続き 10% 前後と低水準であるが、各陣営とも既に大統領選に焦点を合わせており、大統領の早期退 陣を迫る声は聞かれなくなった。 APOYO 社が 5 月に実施したアンケート調査で、「明日、大統領選が行われるとしたら、誰 に投票するか」との問いに対する回答率は、フジモリ元大統領 18.9%、ルールデス・フロー レス氏(Unidad Nacional)18.3%、アラン・ガルシア APRA 党首・元大統領 13.1%、バレンテ ィン・パニアグア元暫定大統領 11.9%という結果になっている。また、ルイス・カスタニェ ダ現リマ市長の支持率が 86%と高率で、同氏が現職を辞して大統領選に臨むのかどうかが 注目される。 大統領選に関わる最大の不安定要素は、フジモリ元大統領の帰国・出馬であろう。同氏は 既に各種メディアを通じて帰国の意思を明らかにしており、ペルー国内のとりわけ貧困層 を中心にしたフジモリ待望論を背景に帰国・出馬を目指している。ただ、現政権側は同氏の 帰国がもたらす選挙戦の混乱を避けるべく、フジモリ氏の訴追問題をハーグ国際司法裁判 所に持ち込む準備をしているとされる。 経済は米国・中国の需要を背景に、輸出が引き続き好調で、04 年第3四半期に 15 年ぶり に経常黒字(四半期ベース)を記録して以来、05 年第1四半期まで 3 期連続の経常黒字とな っている。04 年は鉱産物の騰勢を通じて、鉱業部門が経済を牽引したが、現在は製造業部 門が堅調に推移し、経済成長の底支えをしている。インフレも目標レンジ内に収まってお り、この良好なマクロパフォーマンスが、トレド政権の存続を可能ならしめたといっても 過言ではない。 経済政策面では、トレド政権・与党は対米 FTA 交渉妥結をてこに支持率回復を図ろうとし てきた。しかしながら、農業分野、知的所有権の分野での交渉が一向に進まず、いまだ交 渉妥結の見通しは立っていない。 32 財団法人 国際金融情報センター 世界経済レビュー No. 9 2005.7 (7)ベネズエラ 昨年 8 月の国民投票でチャべス大統領の罷免が回避され、10 月末の地方選挙で与党側が 圧勝を収め、チャベス政権は政治基盤を強固なものとした。その後も大統領への権力集中 を進めており、今年に入って、経済活動への政府介入と外資への締め付けが厳しくなった。 外交においては、チャべス大統領は昨年来ロシア、中国、インド、イランや、中南米諸 国を歴訪し、エネルギー外交を展開、主要な新興市場国や反米的といわれる国々との親交 を深めている。一方、第 2 次ブッシュ政権下でも、米国および中南米で最も親米的な国の ひとつであるコロンビアとの間の緊張関係は続いている。両国とも、チャべス大統領が昨 年 11 月のロシア訪問を機にロシアから大量の武器購入計画を進めていることに警戒を強め ている。 経済政策に関しては、拡張的財政政策・金融緩和スタンスが継続され、一方で価格統制 によるインフレ抑制が図られている。政府は、石油収入を原資とする社会支出を大幅に増 やしており、さらに最近は大統領が中銀の外貨準備にキャップを設け、超過分を社会プロ グラムに回すよう圧力をかけている。4 月末に金利規制が導入され、公定歩合を 50bps 下回 る貸し出し金利上限が設定された。 経済パフォーマンスは、05 年上半期も石油価格の高止まりを背景に、好調に推移した。 第1四半期は 8%の実質成長(前年同期比)を遂げ、財政赤字は縮小し、外貨準備は積み増さ れた(輸入の約 18 ヶ月分)。相対的に対外債務指標が良好(04 年の対外債務/輸出比率は 85%)であることから、カントリー・リスクは低下している。 年末に国会選挙、来年は大統領が予定されており、財政・金融政策は緩和スタンスが維 持されるだろう。石油価格は当面高水準で推移するとみられることから、経済は好調に推 移しようが、依然として石油価格の急激かつ大幅な下落が中期的な下振れリスクとして残 る。 33 財団法人 国際金融情報センター Ⅴ. 世界経済レビュー No. 9 2005.7 中東欧・ロシア、アフリカ 地域 JCIF欧州・アフリカ部長 沢辺 拓也 1.概観 中東欧 3 ヵ国(ポーランド、ハンガリー、チェコ)は、04 年 5 月に EU 加盟を果たした。 次なる目標は EMU(経済通貨同盟)への加盟である。財政赤字等を克服し、マーストリヒト・ クライテリア(EMU 加盟条件たる経済収斂基準)の充足に取り組む必要があるが、各国の政 権基盤の脆弱性も相俟って、速やかな基準到達は容易ではなく、2010 年前後の加盟目標達 成は不透明と言わざるを得ない。欧州憲法条約の批准については、既にハンガリーは議会 での議決をもって批准を終えたものの、国民投票を予定するポーランド、チェコの行方に ついては予断を許さない。一方、ルーマニアは、05 年 4 月に EU 加盟条約の調印に漕ぎ着け た。07 年 1 月の加盟を目指し、引き続き、条約批准に向けた交渉が進められる。 当該 4 ヵ国においては、EU 圏への好調な輸出や根強い内需に支えられ、総じて経済成長 は堅調に推移している。EU 加盟の実現や展望を背景に、海外の信認が着実に向上し、外国 投資の流入も堅調に推移している。その結果、多少の調整は見られるにしても、各国の通 貨は上昇基調を維持し、株式市場も好調である。しかし、政策運営については、各国とも 経済全般に亘る構造改革の重要性は認識しているものの、痛みを伴う諸改革が国民から全 面的に支持されているわけではなく、今後の展開は紆余曲折が予想される。 ロシア経済については、原油価格の高騰などを追い風に高成長が続いている。増大する 貿易黒字や、ルーブル急騰回避のためのドル買い介入により外貨準備の増加も著しい。一 方、IMF やパリクラブ(主要債権国会議)に対する債務の返済取り組みも着実に進展してい る。しかし、04 年下半期以降、経済成長の勢いに衰えが見られる。脱税騒動を端緒とする 大手石油会社の解体に象徴されるように、国内外の投資家の信頼向上に向け、まだまだ乗 り越えるべきハードルは数多く存在するように思われる。 南アフリカ経済については、物価を安定させた現政権のマクロ経済政策に対する国際的 評価は高いが、深刻な雇用問題、貧富の格差の拡大など、引き続き困難な問題が山積して いる。また、暴政により経済が壊滅状態にある隣国ジンバブエについて、現状打開に向け 南アフリカへの国際的な期待が高まっている。05 年に入り若干減速気味の国内経済の舵取 りと併せ、現政権の手腕が注目される。 34 財団法人 国際金融情報センター 世界経済レビュー No. 9 2005.7 2.主要国の最近の動き (1)ポーランド ポーランドは、04 年 5 月に EU へ新規加盟した 10 ヵ国のなかで、最大の人口、国土、経 済規模を有する。EU 統合を柱としつつ、従来から緊密な米国との関係を維持し、EU 内で の発言力強化を図ってきた。また、04 年冬の隣国ウクライナでの「オレンジ革命」に際し ては、クワシニエフスキ大統領らが積極的に仲介の労をとるなど、国際社会において一定 の存在感をもち始めている。 04 年は内政面での不透明感が拭えない年であった。曲折を経て、ベルカ内閣(民主左翼 同盟(SLD)および労働同盟(UP)から成る連立政権)が発足した 04 年 6 月以降、繰上げ総 選挙の可能性が常に取沙汰されてきた。しかし、野党 3 党(市民プラットフォーム(PO)、 法と正義(PiS)、ポーランド家族同盟(LPR))が、05 年 5 月初めに上程した議会会期短縮 案は、連立与党の反対により否決された。この結果、繰上げ総選挙の可能性は消え、任期 満了後の 9 月 25 日に次期議会選挙が実施されることになった。なお、総選挙後の 10 月 9 日には、クワシニエフスキ大統領の任期満了に伴う大統領選挙が予定されている。 04 年の同国経済は、EU 加盟に後押しされて好調な成長を遂げた。対 EU 諸国向けの輸出 は、農産物、食料品のみならず、工業製品についても拡大した。さらに、EU からの構造基 金など各種補助金の流入もあり、04 年の実質 GDP 成長率は 5.3%となった。しかし、04 年 第 1 四半期をピークとして、期を追うごとに成長のペースは鈍化している。05 年第1四半 期の実質 GDP 成長率は、大方の予想を大幅に下回る前年同期比 2.1%となった。民間消費お よび総固定資本形成の伸びが各々同 1.8%、同 1.0%と低水準だったためである。05 年の G DP 成長率は、年初の予測(4.5%)より下方修正され、3.5~4.0%程度にとどまるとの見通 しが強い。雇用情勢にも改善の兆しはみられず、失業率は 18~20%と高止まりが続いてい る。 内需の鈍化を受け、CPI 上昇率は改善傾向にある。05 年 5 月の CPI 上昇率は前年同月比 2. 5%へと低下した。高騰する原油価格とユーロ/ドル相場が、引き続き輸入物価を左右する リスク要因であるが、中銀の掲げるインフレ目標(コンスタントに 2.5%±1%)は当面達 成可能とみられている。中銀は、6 月末にも主要政策金利であるリファレンスレートを 50 ベーシスポイント引き下げ、同国としては過去最低水準の 5.0%とした。今後も継続的な金 利引下げが見込まれている。 今後の成長の鍵を握るのは、設備投資の動向であろう。04 年中、同国製造業の設備稼働 率は高水準に達し、企業は大きな収益をあげたにもかかわらず、将来の生産拡大に資する ような積極的な投資を手控えてきた。多くの企業が債務返済を優先し、バランスシートの 改善に努めている。背景として、ドイツ系を始めとする外資系製造業が、先行きの需要見 通しに不透明感を拭いきれないことが強く影響している模様である。こうしたことから、 同国中銀による金融緩和が、どの程度の景気刺激効果を持つか疑問視する見方も強い。 35 財団法人 国際金融情報センター 世界経済レビュー No. 9 2005.7 現状では、9 月の次期総選挙で政権交代が起き、右派の PiS、PO から成る連立政権が誕生 すると予想されている。05 年春までは、改革志向の強い PO が最大の支持を集めていたが、 ここへきてキリスト教的色彩が強く保守的な PiS が勢いを増している。PiS は、雇用・所得 といった国民生活に直結する諸問題に最優先で取り組む姿勢が支持を集めている。従来、 政府・中銀は、早期の EMU 加盟(2010 年)を目指してきたが、社会保障制度改革を通じた 財政健全化など、EMU 加盟に向けた取り組みは、今後ややスローダウンする可能性がある。 ( 山本 さくら ) (2)ハンガリー ハンガリーでは、02 年春の前回総選挙以来、国内世論の分断状況が続いてきた。このた め、連立与党(ハンガリー社会党(HSP)と自由民主連盟(AFD)から成る)は、難しい政策運営 を余儀なくされている。04 年 9 月に就任したジュルチャーニ新首相は、HSP 幹部の世代交 代を図り党勢の立て直しを試みた。体制転換後、30 歳代で事業に成功し、国内有数の資産 家となった経歴もあり、当初、首相に対する国民の期待は高かったが、05 年に入ると人々 の熱気も冷め、再び支持率低下に悩まされるようになった。現状は、オルバン元首相率い る野党・青年民主連盟(Fidesz)への支持が与党への支持を恒常的に上回っている。 05 年 6 月初めに同国議会(1 院制、定数 386)で実施された大統領選挙では、連立与党内 の対立が露呈した。HSP と AFD は統一候補を擁立することができず、野党 Fidesz の推すシ ョーヨム元憲法裁判所長官の当選を許す結果となった。このことは、06 年 5 月の次期総選 挙での再選を目指すジュルチャーニ HSP 政権にとって少なからぬ痛手であった。AFD は、議 席数わずか 20 の小政党にもかかわらず、引き続きキャスティングボートを握る状況が続く とみられる。 経済面では、同国は底堅い成長を維持してきた。04 年の実質 GDP 成長率は 4.2%となっ た。05 年第1四半期の実質 GDP 成長率は、ユーロ・エリアの景気低迷を受けて、前年同期 比 2.9%へと鈍化したものの、前年同期が EU 加盟を控えて高成長だったことを踏まえれば、 同国は依然、着実な成長を続けているといえよう。輸出と投資が成長を牽引しており、同 国の成長構造は健全さを取り戻しつつある。05 年の実質 GDP 成長率は、04 年よりやや減速 し 3.5%程度との見通しがコンセンサスとなっている。 CPI 上昇率も、EU 加盟に伴う一時的な上昇が収束し低下傾向にある。同国民の一般的な 所得水準に鑑みると、原油価格の高騰は大きな負担であろう。しかし、消費者物価は、電 気・電子機器など工業製品の価格低下と全般的な需要の弱さから、むしろディスインフレ 傾向にある。中銀はこれまで、慎重に金利引下げを続けており、主要政策金利(2 週間デポ・ レート)を 04 年 6 月の 11.5%から 7.0%(05 年 6 月末時点)へと引下げた。しかし、この 金利水準は、EU 域内で最も高く、また実質金利でみても引き続き高い水準であることに変 わりはない。 36 財団法人 国際金融情報センター 世界経済レビュー No. 9 2005.7 同国通貨フォリントは、04 年から騰勢を強め、05 年 3 月まで対ユーロ為替変動幅の上限 近く(241~248 フォリント/ユーロ)で推移した。その後は、ユーロ/ドル相場の影響な どもあり、248~255 フォリント/ユーロへと若干弱含んでいる。雇用情勢については、民 間部門の雇用拡大が政府部門の雇用減少(公務員のリストラ、軍再編など)を下回ってお り、失業率は僅かながら悪化している。失業率は引き続き、6.5~7%程度の水準で推移し よう。 EU 加盟後の次なる課題として、同国は 2010 年 1 月の EMU 加盟を目指しており、財政健全 化が引き続き最大の課題である。政府は、02 年から中期的な経済見通しを含む「収斂計画」 (“Convergence Programme”)を発表しているが、過去 3 年間連続して財政赤字目標を超過 している。05 年度については、財政赤字を対 GDP 比 3.8%へと縮小することを前提として 予算が策定されたが、05 年前半も財政赤字は 04 年を上回るペースで拡大した。ジュルチャ ーニ首相は 4 月に、赤字拡大の責を問い、ドラシュコビッチ財務相を更迭するとともに、 新財務相に内閣官房長のヴェレシュ氏を任命した。 また、政府は、次期選挙での再選と財政健全化を目指し、 「100 ステッププログラム」と 称する広範な政策パッケージを打ち出した。しかし、その詳細は依然明確とはいえない上、 与野党間の対立がすでに激しさを増していることを考えると、同プログラムが 05 年の財政 赤字縮小に寄与するとは期待し難いだろう。同国が目指す 2010 年の EMU 加盟を実現するた めには、社会保障制度を含む歳出構造の改革が不可欠だが、財政健全化に向けた本格的な 施策は、総選挙後に発足する新政権に委ねられるものとみられる。 (山本 さくら) (3)チェコ 04 年 5 月に EU 加盟を果した同国は、ここ 1 年順調な景気拡大を維持したが、次なる目標 である EMU 参加に向け、財政赤字削減を目指すことが主要課題となっている。しかし、同 国の国民は、社会保障制度改革や、EU 加盟に伴う競争の本格化、高止まりを続ける失業率、 などに不安を感じている。こうした中で、グロス首相の自宅購入資金に関する疑惑が浮上 し、連立与党内部の対立に発展した。結局 05 年 5 月に、内閣は総辞職し、事実上グロス氏 を更迭した。新内閣は、パロウベク新首相を首班とし、従前と同じく社会民主党、キリス ト教民主同盟=チェコスロバキア人民党、自由同盟=民主同盟の連立 3 党で、組閣された。 新内閣は、前政権の重要施策である EMU 加盟に向けた準備、保険医療制度の財政安定化策、 輸出・中小企業対策を重視している。与野党の世論支持率が逆転しており、政局が流動化 する可能性はあるが、EU 加盟を果した同国において、今後の欧州先進国との統合深化が国 内政局の流動化によって大きく阻害される可能性は低いとみられる。 中東欧諸国(ポーランド、ハンガリー、チェコ、ルーマニア、スロバキア、ブルガリア) の 04 年実質 GDP 成長率単純平均は 5.5%(チェコ:4.0%)と、EU 先進 12 カ国の同 2.7%に比 べ相対的に高い成長を遂げている。一方、一人当たり GDP をみると中東欧諸国平均 6,786 37 財団法人 国際金融情報センター 世界経済レビュー No. 9 2005.7 ドル(チェコ:10,480 ドル)に対して、EU 先進 12 カ国平均は 34,178 ドルとなっている。 長らく続いた社会主義体制によって、中東欧諸国の供給サイドは技術革新、資本投入が不 十分であり、脆弱であった。90 年代後半からは EU 加盟に向けた体制整備を進め、外国直接 投資受入れの素地を形成し、技術移転、生産、輸出といった好循環の中で、EU 先進国に比 べ高い成長を達成している。特にチェコは、ドイツに隣接し輸出財生産拠点としての立地 に恵まれ、20 世紀初頭には造船、兵器、自動車などにおいて先進的な工業水準を保有する など歴史的にも技術受け入れの素地があり、更に EU 諸国の中でも大学生の理系進学率がド イツを上回るなど人的資源にも恵まれており、高い潜在力を持っている。また、比較的早 い段階で価格自由化を進め、金融面ではインフレターゲットを導入するなど、市場機能を 強化したことにより、安定した成長を実現している。 同国経済の実質 GDP 成長率は、03 年 3.7%に対して 04 年 4.0%と拡大傾向にある。輸出 に牽引される形での成長が続いており、また輸出産業の設備投資も活発である。 CPI 上昇率(前年比)をみると、04 年は税率引き上げやエネルギー価格の高騰を受けて、 年後半に一時 3%台を記録するまでに上昇し、同年中に中銀が 2 度の利上げを行った。とこ ろが、05 年に入ると同上昇率は、1%台まで低下し落ち着きをみせた。これは、同国のマイ ナス需給ギャップが中銀の予測した以上に大きく、04 年の一連の利上げが景気拡大を必要 以上に抑えた可能性があるためとみられる。このため中銀は 05 年 4 月までに計 3 回の利下 げを実行し、レポレート(2 週間物)は 04 年の 2.5%から 1.75%まで低下した。一方、同 国の株式市場は、指標インデックスが 1 年で 5 割近い上昇をみせるなどしており、他の中 東欧諸国と同様に、比較的高い経済成長と EU 加盟による信頼感の向上を背景に、活況が続 いている。 同国の対外部門をみると、05 年第1四半期に貿易収支黒字 6.5 億ユーロ、経常収支黒字 5 億ユーロを計上するなど、好調である。同期の金融収支においては、FDI が 9.5 億ユーロ の黒字を計上しており、順調である。同期の為替相場については、こうした外貨流入圧力 を背景に、1 コルナ=30 ユーロ程度と、前年同期に比べて 8.6%のコルナ高で推移した。但 し、06 年のインフレ率はドイツより 1%ポイント程度上回るとみられ、一方的なコルナ高 が継続するとは考えにくい。今後も、FDI 流入によって同国の生産・輸出能力が向上し、対 外部門が経済の牽引役となっていこう。同国経済に特段の不安要因はなく、05 年は 4%前 後の成長を維持しよう。 (小椋 隆司) (4)ルーマニア 04 年 11 月に、議会選挙と大統領選挙が実施され、議会選では与党側の勝利、大統領選で は野党側の勝利と、捩れ現象が生じている。バセスク新大統領は社会民主党(PSD)政権の 続投を退け、旧野党連合を中心とした連立政権が発足した。政権交替に伴う大きな政策変 更はないものの、多党連立による脆弱な政権基盤に加え、EU 加盟に即した諸改革の断行は 38 財団法人 国際金融情報センター 世界経済レビュー No. 9 2005.7 国民の反発を招く懸念もあり、政局運営は難しい舵取りを迫られている。 最大目標である「07 年 1 月の EU 加盟」に関しては、04 年末までに全分野の加盟交渉を 終了し、05 年 4 月 25 日に EU 加盟条約が調印された。今後は、既に加盟している 25 ヵ国と、 条約批准に向けて交渉を進めることとなる。一方で、行政・司法改革、腐敗対策、少数民 族問題、国境管理の強化、国家補助金の見直し、環境保護対策等に関し、対応の遅れが指 摘されている。EU は「セーフガード条項」を設け、交渉終了後も合意事項の履行に著しい 不備が生じた場合は、加盟を 1 年延期(08 年 1 月)することができると規定しているため、 今後もルーマニアは、上述の分野に関して早急に整備を進めていく必要がある。 経済面では、 04 年の実質 GDP 成長率は 8.3%を記録し、05 年第1四半期も前年同期比 5.9% と好調である。サービス業、鉱工業が、前年同期比各々6.8%、5.0%と堅調に推移し、経 済成長を牽引した。引き続き内需、特に民間消費、固定資本形成が経済全体を牽引する構 図に変わりはなく、EU 諸国との貿易が漸次拡大し、また外国直接投資の流入が順調に増加 する等、活況を呈している。なお、政府は 05 年の GDP 成長率を 5.5%と見込んでいる。 物価については、04 年の CPI 上昇率は前年末比 9.3%に低下し、90 年以降初めて 10%を 下回るまでに改善した。05 年末の CPI 上昇率は、エネルギー価格の高騰や、物品税の引き 上げという逆境の中で、同 7.0%を目標としている。なお、5 月末時点の CPI 上昇率は前年 末比 3.8%となっている。食料品価格が全体的に沈静化している一方で、非食料品価格とサ ービス価格の上昇率が相対的に高くなっている。また、05 年 7 月 1 日にデノミが実施され た。中銀はインフレへの影響はないと判断している模様であるが、実施以降の物価動向に は注意を要する。 財政は、法人税・所得税等の税収増により、04 年は対 GDP 比 1.5%の赤字に抑え目標を 達成した。05 年は、対 GDP 比 0.4-0.5%の赤字に抑えることを目標としている。なお、同 国は 05 年 1 月より税率を改定し、これまでの法人税 25%、個人所得税 18-40%から、両税 率とも一律 16%に変更した。政府は、外国直接投資の更なる呼び込み、雇用の創出、EU 加 盟に即した競争力強化を狙っている。しかし、加熱傾向にある経済やインフレへの悪影響、 財政赤字の拡大等を懸念し、IMF を中心に現時点での税率変更を問題視する声も強い。 中央銀行は物価の沈静化を背景に、主要政策金利を 04 年後半から繰り返し引き下げてき た。05 年に入っても 4 回、計 4.5%の利下げを行い、現在は 12.5%としている。最近の利 下げの理由としては、先行きの投機的資金の流入防止を挙げ、EU 加盟交渉に即し、05 年 4 月 11 日から外国人による自国通貨レイ建て預金を解禁したが、その資本移動の自由化を睨 み、金利水準の適正化を図っている。 為替政策に関しては管理フロート制を採っているが、介入を極力押さえ、基本的に市場 に委ねる方針をとっている。傾向としては、貿易赤字拡大にも拘らず、外国投資が順調に 流入しているため、通貨レイが対ドル、対ユーロで上昇基調にある。なお、為替のモニタ リングは、 「ユーロ 75%:ドル 25%」の構成比を、05 年から「ユーロ 100%」に変更した。 (中島 智洋) 39 財団法人 国際金融情報センター 世界経済レビュー No. 9 2005.7 (5)ロシア 経済は、高値推移する原油価格と旺盛な個人消費に支えられる構造に変わりはなく、04 年の GDP 成長率は 7.2%を確保した。しかし、04 年第3四半期以降の減速からは未だ脱せ ず、05 年第1四半期の GDP 成長率は 5.2%と伸び悩んでいる。エネルギー部門における国 家管理の強化、連邦税務庁による徴税強化の影響もあり、固定資本投資の伸びが鈍化、最 終的に鉱工業生産の低い伸びにつながっている。ここ 2 年間、年率二桁の伸びをみせた石 油輸出も 1-4 月で年率 4%と鈍化している。なお、5 月 27 日に政府は 05 年の GDP 成長率見 通しを 6.5%から 5.8%へと引き下げ、主な理由として、石油、天然ガス部門の不調を挙げ ている。外貨準備は、多額の貿易黒字や為替市場でのドル買介入から大幅に増加しており、 6 月 10 日時点で 1,465 億ドル(前年末比 17.7%増)にまで達している。今後、原油輸出の 増加ペースが鈍化する一方、投資財の輸入等が堅調に増加すると見込まれることから、貿 易・経常の両収支ともに黒字幅は縮小するものの、外貨準備は高水準で推移しよう。 財政は安定しており、05 年は対 GDP 比 1.5%の黒字予算を編成している。財政安定化基 金は、5 月 1 日時点で 8,580 億ルーブル(約 307 億ドル)に増加した。財務省によれば、05 年末には 1 兆 2,230 億ルーブル(約 440 億ドル)に達する見通しである。政府は、残高が 急増している財政安定化基金等を原資に、1 月 31 日に IMF への債務(約 33 億ドル)を前倒 しで完済したのに続き、5 月 13 日にはパリクラブへの債務 433 億ドルのうち、一部(約 150 億ドル)を 05 年に前倒しで返済することで合意に至った。政府は残りのパリクラブ債務に 関しても前倒し返済する意向で、対外債務圧縮の動きを加速させている。なお、04 年末現 在、ロシアの対外債務残高は 2,114 億ドル(03 年末比 13.8%増)で、うち政府分(含む中 銀)は 1,051 億ドル(03 年末比 0.6%減)である。政府の対外債務が減少基調にある一方 で、好調な経済を背景に民間部門の対外債務は着実に増加しており、04 年末時点で 1,062 億ドル(03 年末比 32.8%増)へと急増している。 物価については、04 年の CPI 上昇率は、政府目標の 10%以内を達成できず 11.7%となっ た。個人所得の増加を背景とする消費の拡大、また原燃料価格の上昇等、依然としてイン フレ圧力が強い状態が続いている。 政府は 05 年の CPI 上昇率の目標を 8.5%としていたが、 1-5 月で既に 7.3%に達し、追加の財政支出による更なる上昇も懸念され、通年では 11-12% の上昇とみる向きが多い。なお、中銀は 6 月に入り 05 年通年の CPI 上昇率の予測を 10%へ と引き上げている。 為替については、輸出増による大量のドル流入でルーブル高圧力が強まるなか、中銀は 急激なルーブル高を抑えるよう、ドル買い介入を続けてきた。ルーブルは 1-5 月期でユー ロ・ドル通貨バスケットにおいて実質 7.4%の上昇となり、中銀目標である 8%に迫ってい る。最近は、04 年 10 月から続いた対ドルでのルーブル高が一服し、1 ドル=28.5 ルーブル を挟む展開となっているが、ルーブル高圧力の強い素地に変わりはない。財務省では、対 ドルの 05 年平均為替レートは 27.4-27.8 ルーブル、通貨バスケットで実質 9-10%の上昇を 見込んでいる。なお、4 月にクドリン財務相は、ルーブルを 07 年までに完全交換可能通貨 40 財団法人 国際金融情報センター 世界経済レビュー No. 9 2005.7 へ移行する予定であると表明している。 ロシアの株価指数(RTS)は依然として変動が激しく、04 年 12 月、石油大手ユコス社の 子会社ユガンスクネフチェガスの落札後は急上昇し、一時 700 ポイント超にまで回復した。 5 月の元ユコス社長ホドルコフスキー氏への判決に相場は影響を受けず、現在は 600 ポイン ト台後半で比較的安定した値動きを見せている。また、金利に関しては、05 年下期に政策 金利(リファイナンスレート)の利下げを検討する可能性を、中銀のイグナチェフ総裁が 表明している。 政治面では、プーチン大統領はテロ対策等の国家安全保障の強化を標榜し、中央集権化 を進めている。04 年 12 月に連邦構成主体首長(共和国大統領、地方・州等の知事)が事実 上の任命制となったことに加え、05 年 5 月には下院における比例代表制への全面移行に関 する法案が可決・承認された。また、効率的な社会・経済政策を実施することを目的とし て、連邦構成主体の合併が推進されているが、これは連邦政府によるマイノリティ統制の 強化であるとの指摘もある。ロシアは今後も民主国家であり続けるとしているが、欧米諸 国によるロシアの垂直的統治体制への懸念は一層強まっている。 チェチェン問題は、独立派のマスハドフ元共和国大統領の殺害により、欧米諸国の望む 平和的解決は困難となった。政府による殲滅作戦と武装勢力によるテロ攻撃という構図に 変化は見られず、大規模な戦闘こそないが、相互の応酬は泥沼化の一途を辿っている。 外交に関しては、WTO 加盟交渉は 06 年の加盟実現に向けて順調に進んでいる。国際社会 では、ロシアの民主化後退問題や CIS 諸国への影響力に関し、大きな見解の相違が生じて いるが、ロシアは大国としての協調姿勢は崩していない。近隣諸国との関係は、キルギス でアカエフ政権が崩壊し、ウズベキスタンで暴動が発生したこともあり、中央アジア地域 での政情不安による同地域におけるロシアの影響力低下と、イスラム勢力の台頭を懸念し ている。一方で、グルジアとの間で難航していたロシア軍基地撤収問題は、08 年末までの 完全撤退で合意され、また親欧米派のユーシェンコ政権の誕生で関係に軋轢が生じていた ウクライナとも、関係修復に向けて新たな関係を構築しつつある。 (中島 智洋) (6)南アフリカ 南アフリカでは与党アフリカ民族会議(ANC)への国民の支持が依然圧倒的であり、2 期 目にはいったムベキ大統領にとっては政権を安定的に運営していく環境が整っている。慎 重な予算運営やインフレ・ターゲットのもとで物価安定に努めてきた実績から、現政権の マクロ経済政策は国際的に高く評価されている。南アフリカ経済への信頼感は高まる方向 にあり、05 年 1 月に格付け会社ムーディーズがソブリン格付けを Baa1 に 1 ノッチ引き上げ たことに続き、5 月には英国バークレーズ銀行が南アフリカの ABSA 銀行を買収することが 正式に決定され、55 億ドル相当となる南アフリカ史上最大の直接投資が近々実現する見込 みとなった。しかし一方では政府には困難な課題も山積みであり、失業率 30%とも 40%と 41 財団法人 国際金融情報センター 世界経済レビュー No. 9 2005.7 も言われる深刻な雇用問題、黒人の間に広がる貧富の格差、そして人道的問題に留まらず 経済成長にも影を投げかけている HIV/AIDS 問題などについて、目に見える成果を挙げてい くことが求められている。 ムベキ大統領は外交面においてアフリカにおけるピースメーカーとして国際的な評価を 確立している。しかし、暴政によって経済が壊滅状態に陥っている隣国ジンバブエ問題に ついては、これまで不介入の姿勢を崩しておらず、英国をはじめとした欧米諸国の落胆を 招いてきた。05 年 7 月の G8 サミットでアフリカ救済が主要議題のひとつとなる中で、欧米 諸国からはジンバブエ問題の打開について南アフリカに期待する声が再度高まっており、 ムベキ大統領の手腕が注目される。 04 年の実質 GDP 成長率は前年の 2.8%から上昇して 3.7%となった。需要面では金利の引 き下げを受けて内需が極めて活発となり、供給面では商業が高成長をとげると共に、中国 の旺盛な需要を受けた鉱業や国内の住宅ブームを受けた建設業が盛況となった。しかし 05 年上半期になると、内需は依然比較的活発ながら、これまでのランド高から輸出が悪影響 を受け供給面では製造業が低迷し、経済成長は若干減速傾向を帯びつつある。 消費者物価指数上昇率は緩やかな上昇基調にあるが 05 年 4 月現在前年同月比 3.4%と依 然低水準にあり、南アフリカ準備銀行がインフレ・ターゲット政策の指標に用いている CPIX (CPI からモーゲージ金利を控除)は 03 年 9 月以降ターゲットレンジ(3~6%)内で推移 している。政策金利は 03 年 6 月以降計 6.5%引き下げられた結果 05 年 6 月現在 7.0%と南 アフリカとしては極めて低い水準にあり、金融政策の大胆な緩和が比較的活発な内需を支 える大きな要因となっている。 南アフリカの通貨ランドは 04 年に対ドルで年間 18%上昇したが、05 年に入りドルが対 ユーロなどで上昇傾向で推移するとランドは弱含みでの推移となり、5 月末現在年初から 17%低下した。この先もランドは、ドルに対する市場の見方に左右される展開が予想され る。 04 年の国際収支についてはランド高のために輸出が伸び悩む一方、代替効果から輸入が 大きく増加したために貿易収支が赤字に転じ、経常収支赤字の GDP 比は 03 年の 1.5%から 3.2%へ拡大した。しかし、外貨準備の増強が進んだことや、英国バークレーズ銀行の直接 投資による資本流入が見込まれることなどから対外ファイナンスを心配する声は聞かれて いない。 (幸田 円) 以 42 上 財団法人 国際金融情報センター 世界経済レビュー No. 9 2005.7 ©財団法人国際金融情報センター このレポートは、財団法人国際金融情報センターが信頼できると思われる情報ソースから入手した情報・データをもと に作成したものですが、財団法人国際金融情報センターは、本レポートに記載された情報の正確性・安全性を保証する ものではなく、万が一、本レポートに記載された情報に基づいて会員の皆さまに何らかの不利益をもたらすようなこと があっても一切の責任を負いません。本レポートは情報提供のみを目的として作成されたものであり、投資その他何ら かの行動を勧誘するものではありません。なお、当方の都合にて本レポートの全部または一部を予告なしに変更するこ とがありますので、あらかじめご了承ください。また、本レポートは著作物であり、著作権法により保護されておりま す。本レポートの全部または一部を無断で複写・複製することを禁じます。 43