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2012年02月01日 日本企業のコーポレートガバナンス~第8回JCGIndex
論 文 日本企業の コーポレートガバナンス ∼第8回JCGIndex調査の データ分析∼ 藤島 裕三 わが国企業のコーポレートガバナンスは過去数年間で着実に改善してきた。社外取締役を選任して いる企業数や、独立性を備えた社外取締役の割合などに、ガバナンスの改善度は現れている。ただし 直近ではリーマンショックの影響などもあり、株主重視のガバナンスに対する懐疑的な見方も拡がっ ている。今後さらにガバナンス改革が進展するか後退するのか、わが国は岐路となるポイントを迎え ているのかもしれない。 目 次 はじめに 6.指名委員会の設置 1.第8回調査の概要 7.報酬委員会の設置 2.重要視する財務指標 8.監査役会・監査委員会 3.経営者の業績評価 9.株主ガバナンスの捉え方 4.取締役会の構成 まとめ 5.社外取締役の状況 36 経営戦略研究 2010年新年号 VOL.24 日本企業のコーポレートガバナンス ∼第8回JCGIndex調査のデータ分析∼ はじめに JCGR(日本コーポレートガバナンス研究所、若 杉敬明理事長)は、毎年、東証一部上場企業を対 象として、コーポレートガバナンスに関するアン ケート調査を実施している。2009年も8月から10 月にかけて第8回調査を行い、回答企業のガバナ ンスをJCGIndexとして数値化した上で、これに 基づいて各種の分析を試みている。 本稿は、DIR経営戦略研究所がJCGRの協力を得 て、第8回調査のアンケート結果を集計・分析す ることによって、わが国企業におけるコーポレー トガバナンス像を読み取ろうとするものである。 また単年度の数値だけでなく過去5期間(2005∼ 2009年)のデータを時系列で分析することで、近 年におけるトレンドを併せて追った。 1.第8回調査の概要 JCGR(日本コーポレートガバナンス研究所)は 2009年8月から10月にかけて、東証一部上場企業 (7月29日時点の1,697社)を対象に、コーポレー トガバナンスに関するアンケート調査を実施し た。コーポレートガバナンスの数値指標である JCGIndexを作成するためで、全体の12.7%に相当 する215社から回答を得た。 回答企業の平均規模(総資産、売上高、従業員 数)は、全上場企業と比較して2倍以上となって いる。したがって当調査および本稿の記述は、企 業規模が一定以上かつガバナンスに関心の高い企 業に限ったものだと捉えるべきだろう。なお回答 があった215社のうち、委員会設置会社は14社(回 答企業全体の6.5%)であった。 JCGRでは企業業績とガバナンスの相関関係を 検証するため、JCGIndexが特に高い企業(平均よ り1標準偏差以上、上方に乖離している37社)を 高JCGIndex企業と、特に低い企業(平均より1標 準 偏 差 以 上 、 下 方 に 乖 離 し て い る 3 7 社 )を 低 JCGIndex企業と定義して、各種の分析を実施し た。主な結果は以下となっている。 ○ROAとROEは高JCGIndex企業の方が高い ○株式投資収益率は高JCGIndex企業の方が高い ○従業員数伸び率は高JCGIndex企業の方が低い これらを受けてJCGRは、 「JCGIndexと企業業績 との間には正の相関がある」と結論付けている。ま た「資本の利益と従業員の利益の調和を目指す」こ とを重要なポイントに挙げている。詳しくはJCGR の報告書を参照されたい(http://www.JCGR.org/) 。 参考までに第8回調査の高JCGIndex企業ランキン グを下記する(図表1) 。 図表1:高JCGIndex企業ランキング 順位 JCGIndex 企 業 名 1 82 東芝 2 81 ソニー スミダコーポレーション 順位 JCGIndex 11 74 企 業 名 昭栄 エーザイ 13 73 アサヒビール イオン コニカミノルタHD 大和証券グループ本社 三菱商事 6 78 ニッセンHD 野村HD 7 77 帝人 ベネッセコーポレーション 8 76 パルコ 9 75 オムロン りそなHD 18 72 旭硝子 いちよし証券 20 71 リコー (出所) JCGR資料よりDI R経営戦略研究所作成 経営戦略研究 2010年新年号 VOL.24 37 論 文 2.重要視する財務指標 以下、JCGRの協力によりアンケート結果のデ ータを分析する。なお過去5期間で回答社数には 変動があり、回答企業には入れ代わりが存する。 しかし本稿においては、各期間の回答結果に一定 の連続性があるものと仮定して議論を進める。 まず本調査は最高経営責任者(CEO)に対して、 中長期的に最も重視している財務指標は何かを聞 いている。内外の投資家は資金を効率運用する観 点から、資金を効率運用する観点からROE(自己 資本利益率)の重視を求めている。しかしROEが 最重要の経営指標であると位置付けた回答は、全 体の12.9%に過ぎない。 最も多かった回答は営業利益(全体の25.3%)で、 経常利益(同13.4%)を併せると4割弱に達する。 共にフローの経営指標として浸透しているが、ス トックが反映されておらず資本収益性を測れない ため、株主に対する説得力に乏しい。説明責任を 履行する目的においては、ROA(総資本利益率) の方が望ましいといえよう。 過去5期間のデータを追うと、ROEを重視する CEOが今回、急激に減少したことが分かる(図表 2)。代わって営業利益や当期純利益、売上高利 益率といったフローの指標が伸びた。昨年秋のリ ーマンショック以降、株主重視のガバナンスに懐 疑的な見方が拡がっていることが、ROE否定につ ながっているのかもしれない。なお経常利益が急 減しているのは、国際財務会計基準(IFRS)を意 識したものだろう。 図表2:CEOが重要視する経営指標 30% 25.3% 23.5% 25% 21.4% 21.2% 19.2% 20% 18.0% 18.2% 18.3% 15% 営業利益 19.4% 経常利益 16.9% 15.0% 16.1% 11.3% 12.1% 10% 13.4% 14.5% 12.9% 12.4% 9.5% ROE 売上高利益率 当期純利益 10.2% 9.7% 5% 7.2% 7.1% 2007 2008 6.3% 4.1% 0% 2005 2006 2009 (出所) JCGRデータよりDI R経営戦略研究所作成 38 経営戦略研究 2010年新年号 VOL.24 日本企業のコーポレートガバナンス ∼第8回JCGIndex調査のデータ分析∼ 3.経営者の業績評価 次にCEOが業績評価される際、何が基準になる かを問うたところ、前述した「重要視する財務指 標」で評価されるCEOが41.3%と、今回調査で大き く増加している(図表3)。これには「重要視する 財務指標」として前回までROEを挙げていた企業 が、今回は営業利益や売上高利益率など他の指標 に変えたことで、結果的に「重要視する財務指標」 と「CEOを評価する指標」が一致した例が多く含ま れると考えられる。 CEO報酬に占める業績連動部分の割合につき、 50%以上とする企業は全体の18.8%に止まってい る(図表4)。やや減少基調にあるのは、昨今の企 業収益低迷を受けて、報酬体系を見直した企業が あるためかもしれない。なお業績変動部分の割合 を平均すると34.2%で、5期間で大きく変わって いない。一般的な水準として定着している模様。 図表3:CEOを業績評価する基準 100% 80% 定量評価 しない 54.1% 38.9% 50.4% 36.2% 45.9% 60% 22.5% 29.6% 21.3% 40% 他指標で評価 17.9% 20% 重要指標で 評価 27.9% 29.1% 32.8% 31.6% 2005 2006 2007 2008 20.5% 41.3% 0% 2009 (出所) JCGRデータよりDI R経営戦略研究所作成 図表4:CEO報酬の業績連動部分 100% 50%以上 19.0% 21.3% 23.8% 19.8% 18.8% 50%未満 81.0% 78.7% 76.2% 80.2% 81.2% 平均 33.9% 35.7% 34.4% 34.6% 34.2% 2005 2006 2007 2008 2009 80% 60% 40% 20% 0% (出所) JCGRデータよりDI R経営戦略研究所作成 経営戦略研究 2010年新年号 VOL.24 39 論 文 取締役の平均人数は、前回調査まで約10.5人で 安定していたが、今回は9.9人と目立って減少した (図表5)。内訳を見ると「6人以下」が急増してい る。前回までは「7∼10人」が順調に増えており、 今回からの新しい傾向といえる。業績悪化局面を 意思決定のスリム化で乗り切ろうとする動きが反 映されたのかもしれない。 取締役会の議長については、66.8%の企業でCEO が務めている。監督と執行の分離という観点からは、 執行側のトップであるCEOが監督側の会議体まで主 宰することは本来、好ましくない。もっとも前回・今 回と続けて「議長兼CEO」は減少している(図表6) 。 次いで多いのは取締役会会長(CEO兼任者を除く) の28.6%で、近年コンスタントに割合が増加して 4.取締役会の構成 コーポレートガバナンスの要として取締役会が 有効に機能するには、十分な議論を戦わせること ができるよう、自ずと適切なサイズがあると考え られる。本調査が取締役会を構成するメンバーの 数を聞いたところ、最も多かった回答は9人(全 体の14.0%)であった。次いで10人(12.6%)、7人 (11.2%) 、8人(9.8%)と続く。 一方で20人を超えていると回答した企業は、全 体の2.3%に過ぎなかった。わが国企業の取締役会 はかつて、20∼30人が普通とされた状況が長らく 続いたが、近年においては大幅に改善されている。 なお最多は28人だった(最少は4人)。 図表5:取締役会の人数 100% 11.5人 15人超 15.9% 80% 60% 40% 11∼14人 23.3% 16.1% 12.5% 13.7% 24.4% 28.3% 25.9% 11.7% 23.8% 10.5人 平均 10.6人 10.5人 7∼10人 47.1% 45.5% 10.5人 10.5人 47.7% 10.0人 47.4% 49.4% 9.9人 20% 0% 11.0人 9.5人 6人以下 13.7% 14.0% 11.8% 11.0% 2005 2006 2007 2008 16.8% 9.0人 2009 (出所) JCGRデータよりDI R経営戦略研究所作成 図表6:取締役会の議長 100% その他 5.9% 4.3% 5.4% 4.6% 3.0% 80% 取締役会 会長 26.3% 25.4% 最高経営 責任者 67.9% 69.2% 2005 2006 23.8% 25.1% 28.6% 60% 40% 73.3% 70.6% 66.8% 2008 2009 20% 0% 2007 (出所) JCGRデータよりDI R経営戦略研究所作成 40 経営戦略研究 2010年新年号 VOL.24 日本企業のコーポレートガバナンス ∼第8回JCGIndex調査のデータ分析∼ 2.3人で、近年のレンジ(2.2∼2.4人)に収まっている。 ゼロから新たに1・2名を選任する企業が毎年ある 以上、想定できる事象ではある。 ちなみに東証が上場企業に提出を求めている「コー ポレートガバナンスに関する報告書」によると、 2009年12月25日現在、社外取締役を選任している企 業は1,074社で、同市場全体(2,319社)の46.3%となっ ている。本調査によるデータの方が大きい割合である のは、先述した通り、対象を東証一部上場企業に限 っていること、中でもガバナンスに関心の高い企業 の回答が多いこと、が反映されていると考えられる。 社外取締役の選任企業において、独立性を伴った 社外取締役の平均人数は着実に増加しており、今回 調査では2.0人である(図表8)。社外取締役全体に いる。なお「その他」は社外取締役などである。 上述の「議長兼CEO」は近年の米国で、経営者に よる不祥事の温床として批判が強い。わが国企業は 未だ社外取締役の選任が問われる段階のこともあ り、取締役会議長の在り方には未だ矛先が向いてい ないが、将来的には批判に晒される可能性もあろう。 5.社外取締役の状況 回答企業のうち社外取締役を選任している例は 65.8%で、5期間を通じて順調に増加している(図表 7)。特に今回調査では「4人以上」が増えている。 もっとも選任企業における社外取締役の平均人数は 図表7:社外取締役の人数 100% 80% 60% 4人以上 6.6% 7.0% 8.9% 3人 8.4% 9.9% 8.9% 2人 14.2% 14.5% 1人 21.3% 21.1% 11.8% 11.4% 14.2% 11.0% 17.9% 23.1% 21.5% 18.0% 19.2% 35.7% 34.2% 2008 2009 21.9% 40% 20% 0人 45.9% 47.5% 42.4% 0% 2005 2006 2007 (出所) JCGRデータよりDI R経営戦略研究所作成 図表8:社外取締役の独立性 3.0人 84.3% 76.0% 2.5人 81.0% 80% 75.0% 独立比率 65.1% 2.0人 70% 1.5人 1.0人 0.5人 90% 60% 社外 取締役 2.2人 2.2人 独立 取締役 1.5人 2.2人 1.7人 2.4人 1.7人 2.3人 2.0人 50% 2.0人 40% 0.0人 30% 2005 2006 2007 2008 2009 (出所) JCGRデータよりDI R経営戦略研究所作成 経営戦略研究 2010年新年号 VOL.24 41 論 文 占める独立した社外取締役の割合は84.3%で、 2005年から20ポイント近く高まった。内外の投資 家が社外取締役の独立性に対して近年、要求水準 を上げてきたことが影響していよう。 なおJCGRは独立性の定義を、「株主以外のステ ークホルダーからは中立で、純粋に当該会社の株 主の立場から判断や行動ができること」とする。 具体的には、以下の5点を全て満たしている社外 取締役のみを、独立性が伴っていると認める。 ①過去5年間、当該会社およびその子会社の取 締役(社外を除く)または従業員でなく、かつ 現在もそうでないこと ②過去5年間、親会社または大株主(総議決権 株の3分の1以上保有)の取締役(社外を除く) または従業員でなく、かつ現在もそうでない こと ③過去5年間、主要取引先(金融機関を含む)の 取締役(社外を除く)または従業員でなく、か つ現在もそうでないこと ④当該企業から取締役報酬以外の報酬を受けて いないこと ⑤親族が当該会社の取締役(社外を除く)でない こと 6.指名委員会の設置 委員会設置会社は会社法によって指名委員会の 設置が義務付けられているが、監査役設置会社が 任意で設置することも当然、ガバナンスを強化す る取り組みとして望ましい。監査役設置会社によ る回答のうち、指名委員会を任意で設置している 例は24.3%あった(委員会設置会社を含めた全体で は22.6%)。過去5期間で見ると、年によってばら つきはあるものの、トレンドとしては着実に「任 意で設置」が増えている(図表9)。 指名委員会の平均人数は4.9人(今回調査)で、 最近5期間で大きくは変わらない(図表10)。また 同委員会はCEOの人選に関与するため高い独立性 が求められるが、独立した社外取締役の割合は約 37.8%に止まった。もっとも2005年と比較すれば 10ポイント近く上昇しており、トップ人事の透明 性は高まっていると評価できる。 ただし任意で指名委員会を設置している監査役 設置会社に限って、指名委員に占める独立した社 外取締役の割合を抽出すると、28.9%(平均5.0人中 の1.4人)に低下する。背景として、同委員会を設 置している監査役設置会社の中に、社外取締役が 1名もしくはゼロの企業が含まれることが推測さ れる。このようなケースでは、社外監査役や外部 有識者を同委員会に加えることで、独立性を確保 図表9:指名委員会の設置状況 100% 80% 設置が 法定 6.6% 7.5% 6.9% 6.3% 6.9% 任意で設置 14.0% 18.3% 18.4% 23.1% 22.6% 設置して いない 79.4% 74.3% 74.7% 70.6% 70.5% 2005 2006 2007 2008 2009 60% 40% 20% 0% (出所) JCGRデータよりDI R経営戦略研究所作成 42 経営戦略研究 2010年新年号 VOL.24 日本企業のコーポレートガバナンス ∼第8回JCGIndex調査のデータ分析∼ している例もあるだろう。 議長として指名委員会を束ねる役割は、29.7% の設置事例でCEOが務めている。上述のように同 委員会はCEOの人選に関わるため、当の本人が議 長の座にあることは望ましいとはいえない。もっ とも同様の事例は徐々に減少してきている(図表 11)。その代わりとして社外取締役(独立していな い者も含む)、「その他」としてCEOを兼任してい ない取締役会会長などが、議長に選任されている 例が増加している。 議長の座に就くかは別として、そもそもCEOが 指名委員会に関与するのかについては、同委員会 を設置する企業のうち71.4%がCEOの参画を認め ている(今回調査)。同委員会はCEOのみならず取 締役全員の選任を扱うため、役員人事の最高責任 者であるCEOが議論に加わるべき、とする考え方 については、一概に否定されるべきではないかも しれない。もっとも、トップ人事に透明性を厳し く求める立場としては、CEOは人事案を上程する だけで決定に関わるべきでないと主張することが 考えられる。 図表10:指名委員会の独立性 5人 45% 独立して いない 取締役など 3.4人 4人 3.0人 3.2人 3.3人 37.8% 3人 独立取締役 比率 28.9% 2人 1人 32.5% 40% 3.2人 32.6% 29.0% 35% 30% 1.9人 独立した 社外取締役 1.4人 1.4人 1.5人 1.5人 2005 2006 2007 2008 0人 25% 20% 2009 (出所) JCGRデータよりDI R経営戦略研究所作成 図表11:指名委員会の議長 100% その他 24.1% 21.3% 社外取締役 29.1% 34.4% 31.6% 80% 60% 25.0% 28.8% 32.8% 31.5% 37.5% 40% 20% 最高経営 責任者 46.8% 44.3% 43.4% 39.7% 29.7% 0% 2005 2006 2007 2008 2009 (出所) JCGRデータよりDI R経営戦略研究所作成 経営戦略研究 2010年新年号 VOL.24 43 論 文 討機関ならば比較的設置に踏み切りやすいのだろ う。なお指名委員会と同様に過去5期間では、ト レンドとして着実に「任意で設置」が増加している (図表12)。 報酬委員会を構成する平均人数は4.6人で、指名 委員会と同様、最近5期間で大きくは変わらない (図表13)。また独立した社外取締役が占める割合 についても、指名委員会と大差なく35.8%で、や はり2005年と比べれば大幅に高まっている。 7.報酬委員会の設置 指名委員会と同じく委員会設置会社で義務付け られている報酬委員会についても、監査役設置会 社が任意で設置することは望ましい。監査役会設 置会社による回答例のうち、設置事例は34.7%(委 員会設置会社を含めた全体では32.3%)で、指名委 員会よりも多くなっている。CEOの人事を論じる 委員会の設置に抵抗があっても、報酬に限った検 図表12:報酬委員会の設置状況 100% 80% 設置が 法定 6.6% 7.4% 6.9% 任意で設置 19.5% 24.4% 25.7% 設置して いない 73.9% 68.2% 67.3% 2005 2006 6.3% 6.9% 33.7% 32.3% 60.0% 60.8% 2008 2009 60% 40% 20% 0% 2007 (出所) JCGRデータよりDI R経営戦略研究所作成 図表13:報酬委員会の独立性 5人 4人 3人 2人 45% 独立して いない 取締役など 3.2人 3.0人 3.2人 3.2人 独立取締役 比率 28.9% 35.8% 30.5% 40% 3.1人 35% 30.5% 30% 27.1% 1人 独立した 社外取締役 1.3人 1.2人 2005 2006 1.4人 1.4人 2007 2008 1.6人 0人 20% 2009 (出所) JCGRデータよりDI R経営戦略研究所作成 44 25% 経営戦略研究 2010年新年号 VOL.24 日本企業のコーポレートガバナンス ∼第8回JCGIndex調査のデータ分析∼ 8.監査役会・監査委員会 監査役設置会社における監査役会は4.2人で、過 去5期間で大きく変わっていない(図表14)。うち 社外監査役は2.6人、独立性の伴った社外監査役は 2.1人となっている。独立した社外監査役の割合は、 2005年の38.3%から今回調査は50.4%と、過半数を 占めるまでに拡大している(社外監査役そのもの は会社法が半数以上を義務付け) 。 委員会設置会社における監査委員会は3.9人で、 やはり過去5期間では大きく変わらない (図表15)。 うち社外監査委員は2.9人で、ほとんどは全てが独 立性を伴っている。独立した社外監査委員の割合 は、2005年の57.6%から今回調査は72.7%と、3 分の2を超えるまでに拡大している(社外監査委 員そのものは会社法が過半数を義務付け)。 監査役会、監査委員会ともに、社外役員の独立 性が高まっている。いずれも任意ではなく法定の 図表14:監査役会の独立性 5人 4人 社内 1.6人 1.6人 1.6人 1.7人 1.6人 0.7人 0.7人 0.5人 社外非独立 0.9人 0.6人 2人 1人 社外独立 1.5人 1.8人 1.9人 2.0人 2.1人 2005 2006 2007 2008 2009 3人 0人 (出所) JCGRデータよりDI R経営戦略研究所作成 図表15:監査委員会の独立性 4人 社内 0.9人 0.9人 社外非独立 0.7人 0.4人 1.0人 1.1人 0.3人 0.3人 2.7人 2.6人 2.9人 2007 2008 2009 1.0人 3人 0.1人 2人 1人 社外独立 2.2人 2.3人 2005 2006 0人 (出所) JCGRデータよりDI R経営戦略研究所作成 経営戦略研究 2010年新年号 VOL.24 45 論 文 機関なので、投資家がより厳しく独立性を求めて いることが背景にあろう。一方で監査の質を維持 するため、社内役員も引き続き登用されると考え られる。 9.株主ガバナンスの捉え方 本調査はCEOに直接「株式会社のガバナンスは 株主にある」という主張に対する考え方を答える よう求めた。最も多かったのは「理念としては正 しいが、日本企業の実情には合わない」で、全体 の50.0%に達している。「その通りである」と答え たCEOは24.3%に止まっており、5期間では減少 トレンドにある(図表16)。なお「その他」には「株 主も含めた多様なステークホルダーを広く意識す べき」などがある。 CEOが最も重要視するステークホルダーは何か との質問で、最も支持を集めたのは顧客で54.7% だった。この水準は5期間で大きく変わらない(図 表17)。今回調査の特徴として、株主を挙げる回 答が3.3ポイント減少、代わって従業員が5.3ポイ 図表16:株主ガバナンスの捉え方 100% その他 19.7% 19.8% 80% 60% 22.0% 20.6% 24.3% 4.6% 実情に 合わない 44.1% 5.1% 間違って いる 3.1% 3.3% 3.6% 46.8% 49.3% 45.4% 50.0% その通り 33.1% 28.7% 25.3% 26.7% 24.3% 2005 2006 2007 2008 2009 40% 20% 0% (出所) JCGRデータよりDI R経営戦略研究所作成 図表17:重要視するステークホルダー 60% 顧客 56.9% 50% 40% 54.7% 33.8% 株主 33.5% 54.7% 54.0% 53.8% 30.5% 32.9% 30% 29.6% 20% 13.3% 10% 8.9% 9.1% 2006 2007 8.0% 従業員 4.2% 0% 2005 2008 2009 (出所) JCGRデータよりDI R経営戦略研究所作成 46 経営戦略研究 2010年新年号 VOL.24 日本企業のコーポレートガバナンス ∼第8回JCGIndex調査のデータ分析∼ ント増加した。昨秋以降の、株主ガバナンスに対 する懐疑的な見方の影響だろう。 まとめ JCGRによる第8回アンケート調査の内容を、 過去5期間の時系列比較と併せて分析した結果、 社外取締役の人数および独立性、任意による指 名・報酬委員会など、わが国企業のコーポレート ガバナンスは着実に高まっていることが分かっ た。内外の投資家がガバナンスの改善を強く求め たのに対して、わが国企業の多くが近年までは業 績回復期にあったため、聴く耳を持つ余裕を持っ ていたこともあるだろう。 ただし改善したといっても、依然として温存さ れている問題点も少なくない。取締役会の議長職 は多くの企業でCEOが占めているし、社外取締役 の設置人数は大部分で1・2名に止まっている。 また指名・報酬委員会の任意設置も未だ少数派に 過ぎない。わが国ガバナンスがグローバルな信任 を得るには不十分だと言わざるを得ない。 さらに足下ではリーマンショック以来、株主ガ バナンスに対する批判的な論調が、わが国におい ては支配的となっている。そのため第8回調査で は、経営におけるROEの位置付けが低下した、株 主よりも従業員を重視するCEOが増加したなど、 少なくとも投資家の視点からは後退と評価される だろう事象も明らかになっている。 今回調査で示された後退の事象は、一層のガバ ナンス改善が停滞する兆しとも捉えられよう。投 資家の期待に応えられるのか、透明・公正な経営 を確立できるのか、わが国企業そして資本市場は 岐路となるポイントを迎えているのかもしれない。 ■ 執筆者 藤島 裕三(ふじしま ゆうぞう) 経営戦略研究所 経営戦略研究部 主任研究員 専門:コーポレートガバナンス、IR 経営戦略研究 2010年新年号 VOL.24 47