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Vol. 60 No. 1 - Graduate School of Agricultural Science / Faculty of

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Vol. 60 No. 1 - Graduate School of Agricultural Science / Faculty of
ISSN 0286−4754
栄 養 生 理 研 究 会 報
Proceedings of Japanese Society
for
Animal Nutrition and Metabolism
Vol. 60, No. 1
家畜栄養生理研究会
Japanese Society for Animal Nutrition
and Metabolism
2016
会 報 目 次
(Vol. 60,No. 1)
家畜初期胚におけるニュートリエピジェネティクス
-One-carbon metabolism の初期胚発生における役割- .............................................................. 1
池田俊太郎
(京都大学大学院農学研究科)
飼料中リジン含量の充足により誘発される代償性成長に関する研究 ........................................... 13
石田藍子 1・中島一喜 1・京谷隆侍 2,3・勝俣昌也 1,4
(1 農研機構畜産草地研究所;2 東京農工大学大学院連合農学研究科;
3 福島県農業総合センター;4 麻布大獣医学部)
ニワトリヒナの脳内摂食調節機構における成長ホルモン関連ホルモンの役割 ........................... 25
橘 哲也
(愛媛大学農学部)
グルカゴン様ペプチド 1 の反芻動物における特異的な分泌と作用について ................................. 35
杉野利久 1・福森理加 2・谷口 大 1・Mabrouk EL-SABAGH1,3・小櫃剛人 1
(1 広島大学日本型(発)畜産・酪農技術開発センター、大学院生物圏科学研究科;
2 宇都宮大学農学部附属農場;3 カルフ・エル=シーク大学獣医学部)
放牧飼育による肥育豚の行動と生理的影響 ....................................................................................... 45
戸澤あきつ
(信州大学農学部)
家畜栄養生理研究会会則 ........................................................................................................................ 53
栄養生理研究会報編集・投稿規定 ........................................................................................................ 54
家畜栄養生理研究会役員(平成 27 年度)名簿 ................................................................................... 55
Contents
(Vol. 60,No. 1)
Nutriepigenetics in livestock early embryos
–Roles of one-carbon metabolism in early embryonic development– ................................ 1
Shuntaro Ikeda
(Graduate School of Agriculture, Kyoto University)
Studies on compensatory growth with changing levels of dietary lysine
from deficient to sufficient .................................................................................................................. 13
Aiko Ishida1, Kazuki Nakashima1, Takahito Kyoya2,3, Masaya Katsumata4
(1NARO Institute of Livestock and Grassland Science;
2United Graduate School of Agricultural Science, Tokyo University of Agriculture and Technology;
3Fukushima Agricultural Technology Center;
4School of Veterinary Science, Azabu University)
Role of growth hormone-related hormone on feeding regulatory mechanism
in the brain of chicks .......................................................................................................................... 25
Tetsuya Tachibana
(Laboratory of Animal Production, Faculty of Agriculture, Ehime University)
The characteristics of secretion and action in glucagon-like peptide-1 of ruminants ....... 35
Toshihisa Sugino1, Rika Fukumori2, Dai Taniguchi1, Mabrouk El-Sabagh1,3, Taketo Obitsu1
(1The Research Center for Animal Science, Graduate School of
Biosphere Science, Hiroshima University;
2University Farm, Department of Agriculture, Utsunomiya University;
3 Faculty of Veterinary Medicine, Kafrelsheikh University)
Behavioural and physiological responses of fattening pigs rearing at pasture ...................... 45
Akitsu Tozawa
(Faculty of Agriculture, Shinshu University)
平成 28 年度
家畜栄養生理研究会 春季集談会開催のご案内
開催日時:2016 年 3 月 26 日(土)
11:30 から評議員会の会議室を準備します。
(C 棟 5 階 第 3 会議室:お弁当を準備しています)
11:30 ∼ 12:30 評議員会 (C 棟 5 階 第 3 会議室)
13:00 ∼ 16:40 集談会 (C 棟 5 階 501 講義室)
16:50 ∼ 17:20 総 会 (C 棟 5 階 501 講義室)
17:30 ∼ 19:30 意見交換会(大学内食堂)
会 場:日本獣医生命科学大学
(〒 180−8602 東京都武蔵野市境南町 1−7−1
TEL:0442−31−4151 ㈹ FAX:0442−33−2092,
http//www.nvlu.ac.jp)
会 費:集 談 会 ………………………… 一般会員 無料
非 会 員 2,000 円
意見交換会 ……………………… 一般会員 4,000 円
(予定)
連 絡 先:京都大学大学院農学研究科応用生物科学専攻
家畜栄養生理研究会(事務局庶務担当:舟場正幸)
TEL:075−753−6055
FAX:075−753−6344
E-mail: [email protected]
HP: http://www.agri.tohoku.ac.jp/ruminol/eiyoseiri.html
平成 28 年度
家畜栄養生理研究会 春季集談会予定時間
13:00 ∼ 13:40
池田俊太郎(京都大学大学院農学研究科)
「家畜初期胚におけるニュートリエピジェネティクス −One-carbon metabolism の
初期胚発生における役割−」
13:40 ∼ 14:20
石田藍子(畜産草地研究所)
「飼料中リジン含量の充足により誘発される代償性成長に関する研究」
14:20 ∼ 14:40 休憩
14:40 ∼ 15:20
橘 哲也(愛媛大学農学部)
「ニワトリヒナの脳内摂食調節機構における成長ホルモン関連ホルモンの役割」
15:20 ∼ 16:00
杉野利久(広島大学大学院生物圏科学研究科)
「グルカゴン様ペプチド 1 の反芻動物における特異的な分泌と作用について」
16:00 ∼ 16:40
戸澤あきつ(信州大学農学部)
「放牧飼育による肥育豚の行動と生理的影響」
17:30 ∼ 19:30 意見交換会(大学内食堂)
栄養生理研究会報 Vol.60,No.1 2016
家畜初期胚におけるニュートリエピジェネティクス
- One-carbon metabolism の初期胚発生における役割-
池田俊太郎
(京都大学大学院農学研究科)
1.はじめに
「胚、胎児、幼児が発生・成長する環境が、生涯に
ニュートリエピジェネティクス(Nutriepigenetics)
わたる健康と幸福あるいは非感染性疾患のリスクに
は Nutrition と Epigenetics を 合 わ せ た 造 語 で あ り、
影響する」という、DOHaD(Developmental Origins
簡潔には「エピジェネティクス修飾を介した栄養素
の影響」と言うことができよう 1,2)。全ての細胞あ
(A)
るいは個体が同一の DNA 塩基配列を有していなが
ら、遺伝子の発現情報が細胞ごと個体ごとに異な
り、そしてその発現情報が細胞分裂や個体の世代を
超えて伝達される場合、そこには DNA あるいはク
ロマチン構造に刻印されたエピジェネティクス修飾
が関与していると考えられる。ニュートリエピジェ
ネティクスは、特定の時期の栄養環境がその後長期
にわたり遺伝子発現を介して個体の形質に影響を及
ぼす場合に、その背景として考えられる機構の一つ
である。
メチオニン、葉酸、ビタミン B12 などの栄養素は、
葉酸とメチオニンの共役した代謝経路を軸とする
one-carbon group(メチル基、メチレン基、メテニル基、
ホルミル基、ホルムイミノ基)の相互変換・転移反応、
(B)
1細胞
2細胞
8細胞
桑実胚
胚盤胞
(C)
MAT1A
MAT2A
MAT2B
AHCY
MTR
BHMT
SHMT1
SHMT2
MTHFR
すなわち one-carbon metabolism(OCM)を構成する
(図 1A)。DNA やヒストンがメチル化を受ける際の
唯一のメチル基源、S-adenosylmethionine(SAM)が、
この経路によって産生されることから、OCM を構
成する栄養素は、エピジェネティクス機構に影響を
及ぼし得る栄養素として注目を集めてきた 3,4)。
本稿では、家畜を含む哺乳動物の受精卵(ここ
では受精から胚盤胞期まで)の発生とエピジェネ
ティクスにおける OCM の役割について、筆者らの
結果も含め関連する知見を紹介したい。また近年、
PI
図 1.One-carbon metabolism と受精卵
(A)One-carbon metabolism の主要な経路と各代
謝を担う酵素(楕円)、補酵素(四角)を示した。
メチオニンの代謝によって作られる S−アデノシ
ルメチオニンは、エピジェネティクスにおける
代表的な修飾機構である DNA とヒストンのメ
チル化の際のメチル基源となる。(B)ウシ受精
卵の各発生段階における(A)に示した酵素の
mRNA 発現を示す(RT-PCR の結果)。黒線で示
した時期に mRNA の発現が見られる。(C)ウシ
8 細胞期胚における MAT1A タンパク質の発現を
免疫蛍光染色の上、レーザー顕微鏡で観察した。
PI はヨウ化プロピジウムによる核染色像を示す。
(文献 22)より改変引用)
Proceedings of Japanese Society for Animal Nutrition and Metabolism 60(1): 1-11, 2016.
Nutriepigenetics in livestock early embryos
–Roles of one-carbon metabolism in early embryonic development–
Shuntaro Ikeda
(Graduate School of Agriculture, Kyoto University)
-1-
MAT1A
of Health and Disease)の概念が確立され 5)、個体発
後 6∼7 日ほどで、直径が 0.2mm、細胞数が 100 個
生の早期に環境要因によってエピジェネティクス修
程度になり内部に腔を形成した胚盤胞と呼ばれる発
飾の形で形成された遺伝子発現情報が、その後の成
生段階に達する(図 2)。この受精から胚盤胞まで
長を通じて伝達されることが、DOHaD の一つの要
の発生段階は、先人たちの努力の結果、実験動物か
因と考えられている 。DOHaD の概念に基づいて、
ら家畜、ヒトに至るまで、哺乳動物の受精から出生
肉質や乳量といった家畜の生産形質の素因の形成
までの期間の中で実用化レベルでは唯一、母体の外
(プログラミング)を、受精卵を含む胎仔期、新生
に取り出して培養皿の中で発生させることのできる
仔期あるいは育成期の栄養環境の制御によって行え
期間となっている。栄養環境を母体から切り離して
ないかという、その可能性を探る動きが国内外で見
人為的に制御可能であるという理由から、筆者らが
られる
。そこで、受精卵期におけるニュートリ
ニュートリエピジェネティクスを介した形質プログ
エピジェネティクスを介した家畜の生産形質のプロ
ラミングの可能性のある介入期としても着目してい
グラミングの可能性についても言及したい。
る発生段階である。そこで本稿では受精卵期を、一
6)
7,
8)
般に体外で培養可能な受精から胚盤胞期までとして
2.受精卵期 -エピジェネティクスがダイナミック
に動く時-
論を進めたい。
エピジェネティクス修飾として代表的なものに
精子と卵子の融合すなわち受精によって出来た受
DNA のメチル化、そして DNA とともにクロマチン
精卵は卵割を繰り返した後、例えばウシの場合受精
を形成するヒストンの翻訳後修飾(メチル化、アセ
Day 1
Day 2
Day 3
Day 4
Day 5
9-16細胞
桑実胚
Day 6
Day 7
100 µm
1細胞
D
N
A
雄性前核で急
激なメチル化
の低下
2細胞
4細胞
8細胞
メチル化の漸減
初期胚盤胞 拡張胚盤胞
メチル化の漸増・ICMとTEでメチル化レベルに差異
インプリント遺伝⼦のメチル化状態の保護
遺伝⼦・配列特異的なメチル化の変化
ヒ
ス
ト
ン
雄性前核で
⾼アセチル化
アセチル化の漸増(e.g. H4K5)
あるいは漸減(e.g. H3K9)
アセチル化の漸減(e.g. H4K5)あるいは漸増(e.g. H3K9)
ICMに⽐べTEで⾼アセチル化(e.g. H4K5, H4K12)
雌性前核で
⾼H3K9me3
H3K9me2の漸減
H3K9me2の漸増
ICMに⽐べTEで低H3K9me2
雌性前核で
⾼H3K27me3
H3K27me3の漸減
H3K27me3の増加
遺伝⼦・配列・ICM/TE分化特異的なヒストン修飾の変化
図 2.哺乳動物の受精卵の発生とエピジェネティクス機構のダイナミクス
受精からの経過日数によるウシ受精卵の発生段階と、受精卵の中で起こるエピジェネティクス機
構の変化を、DNA のメチル化とヒストン修飾に限って示した。変化のタイミングやヒストン修
飾の種類はウシでも報告されているもののみを示した 9,53,54,55,56,57,58)。ICM は内部細胞塊、TE
は栄養外胚葉、ヒストン修飾の表記の例として、H4K5 は「ヒストン H4 の 5 番目のリジン残基」
についての変化を、H3K9me3 は「ヒストン H3 の 9 番目のリジン残基のトリメチル化」を表す。
-2-
チル化等)があるが、受精卵期には、これらのエピ
の着床前の受精卵において OCM に関与する酵素群
ジェネティクス修飾がダイナミックに変化する(図
の遺伝子が発現していることが、筆者のグループを
2)。DNA のメチル化(主として CpG 配列のシトシ
含む二つの研究室から相次いで報告された 22,23)
(図
ンがメチル化される)に関しては、生物種によって
1B, C)。
タイミングの差はあるものの受精後にゲノムワイド
生体内で OCM の活性が高い組織として肝臓があ
な脱メチル化が起こり、ゲノム全体でみるとメチル
るが、その原因として他組織においては発現が低い
化の程度はいったん低下し、その後上昇する 。一
肝臓型の SAM 合成酵素(Mat1a の遺伝子産物から
方で、インプリント遺伝子における父方と母方由来
なる)や、ホモシステインからメチオニンへのリサ
のゲノムのどちらか一方がメチル化されている領域
イクルをベタインの持つメチル基を用いて行う酵素
が脱メチル化を免れたり(メチル化を維持する酵素
すなわち BHMT の発現や活性が他組織に比べて高い
の働きによる)10,11,12)、インプリント遺伝子に限らず
ことが挙げられる 24)。哺乳動物の受精卵はこれらの
配列特異的なメチル化の制御も同時に起こる 13,14)。
遺伝子あるいは酵素をも発現しており、ユニークな
もう一つの代表的なエピジェネティクス修飾であ
OCM を有していることが明らかになった22,23,25,26)。
9)
るヒストンの修飾について、受精卵期における変化
を見てみる。精子の DNA に結合してクロマチンを
4.胚盤胞発生における One-carbon metabolism の
重要性
形成しているタンパク質、プロタミンは受精直後に
卵子由来のヒストンに置換される。この時に特定の
OCM に含まれる種々の栄養素やその代謝が受精
ヒストンバリアントが雄性ゲノムに優先的に取り込
卵の胚盤胞発生において重要な役割を果たしている
まれることも要因と考えられるが、卵子由来の核(雌
ことが明らかになりつつある。筆者らは、メチオニ
性前核)と精子由来の核(雄性前核)では、ヒスト
ンサイクルにおけるメチオニン前駆物質であるホ
ンの特定のアミノ酸残基のアセチル化やメチル化の
モシステインをウシ体外受精卵の培養液に添加す
レベルに差異が見られる
。雌雄前核はやがて融
ると胚盤胞発生が遅延することを報告した 22)。ま
合して受精卵は卵割を開始するが、卵割期から胚盤胞
た、体外培養系においてウシ受精卵をメチオニンの
に至るまで、様々なヒストン修飾酵素の協調した発現
代謝拮抗阻害剤であるエチオニンで処理すると、桑
変化とともにヒストン修飾は複雑に変化する
実胚から胚盤胞への発生が抑制される 27)。この抑制
15,
16)
。ま
16,
17)
た DNA メチル化の変化と同様に、ゲノム全体にわた
は SAM の同時添加によって一部回復すること、また、
る変化の中で、遺伝子(あるいは配列)特異的なヒス
SAM 合成酵素の特異性の高い阻害剤によっても同様
トン修飾の変化があることも分かっている
の胚盤胞発生の抑制が起こる(投稿準備中)ことか
。
18,
19,
20)
以上のようなエピジェネティクス機構の動的変化
ら、メチオニンの SAM への代謝が胚盤胞発生に重要
ゆえに、受精卵期は外的な刺激によるエピゲノムの
な役割を果たしていると考えられる。さらに他の研究
変化に関して脆弱な時期と考えられている
グループからも葉酸サイクルの阻害によってウシ胚や
。
17,
21)
マウス胚の胚盤胞発生が抑制されること23,25)、BHMT
の特異的阻害により、マウス胚においてやはり胚盤
3.受精卵における One-carbon metabolism 酵素群
の発現
胞発生が抑制されること 25)が報告されており、正
常な OCM は受精卵の発生、特に胚盤胞への発生に
稿の初めで述べたように、エピジェネティクス
重要と考えられる。
の代表的な分子機構である DNA とヒストンのメチ
ル化においてメチル基源として機能する SAM は、
5.One-carbon metabolism の阻害・擾乱が受精卵
のエピジェネティクスに及ぼす影響
OCM によって産生される。OCM は生体内組織に普
遍的に存在するが、未分化な細胞からなる受精卵が
受精卵の発生における OCM の重要性について述
これを持つかは不明であった。2010 年、哺乳動物
べたが、エピジェネティクス機構への関与について
-3-
はどうだろうか。前述の受精卵の培養液へのホモシ
5‐MeC
ステインの添加やメチオニン代謝阻害剤の添加は、
PI
抗メチル化シトシン抗体を用いた免疫染色で測定可
能な、グローバルな DNA のメチル化の増加あるい
は低下をそれぞれもたらした(図 3)22,27)。マウス
胚において葉酸サイクルと BHMT の阻害により胚
盤胞発生の抑制を示したグループも、同様の手法
4
でグローバルな DNA のメチル化の低下を示してい
る
。主要な DNA メチル化酵素(Dnmt1, Dnmt3a,
25)
Dnmt3b)を全てノックアウトしたマウス胚でも正
う必要があるが、ウシやヒツジの体外受精卵にお
いて Dnmt1 をノックダウンすると(ウシの報告で
は DNA のメチル化の低下も示している)胚盤胞発
3
5‐MeC/PI
常に胚盤胞発生が起こるという事実 28)に注意を払
P < 0.001
生が著しく抑制されるという報告 29,30) やウシ体外
2
1
受精卵の培養液に過剰のメチオニンを添加すると
DNA のメチル化の増加とともに胚盤胞発生が低下
するという筆者らの結果 27)もあり、少なくともウ
0
シやヒツジ胚においては、OCM の阻害や擾乱によ
る DNA のメチル化の変化は、胚盤胞発生の異常を
Control
Ethionine
図 3.メ チオニン代謝の阻害がウシ受精卵の DNA メ
チル化に及ぼす影響
引き起こす要因の一つと考えられる。
メチオニン代謝阻害剤(エチオニン)を添加し
た培養液でウシ体外受精卵を 8 細胞期から培養
し、受精後 6 日目の桑実胚を抗 5- メチルシトシ
ン抗体を用いた免疫蛍光染色(5-MeC)および
ヨウ化プロピジウムによる核染色(PI)に供した。
PI の蛍光強度に対する 5-MeC の蛍光強度をエチ
オニンを含まない対照区と比較した。プロット
は各胚の値を示す。エチオニン添加区でメチル
化の低下が観察される(分散分析)。このような
ゲノム全体にわたるメチル化の変化からは、遺
伝子特異的なエピジェネティクスの変化を説明
することができない。(文献 27)より改変引用)
OCM が実際に受精卵のエピジェネティクス機構
に関与していることが明らかとなったが、グローバ
ルな DNA メチル化という、ゲノム全体にわたるエ
ピジェネティクス修飾の変化では、特定の遺伝子に
対する影響を説明することができない。胚盤胞発生
も含め特定の形質への遺伝子発現を介した関与を考
えた場合、遺伝子特異的なエピジェネティクス修飾
について検討する必要がある。
胚盤胞発生の阻害という形態的な変化のみなら
ず、胚の遺伝子発現を調べてみると、メチオニン代
し、メチオニン代謝阻害の有無によって、メチル化
謝を阻害された胚では Nanog や Tead4 といった胚盤
の程度に差は見られなかった(図 4B)。そこで、各
胞における細胞系列分化を担う転写因子の遺伝子が
遺伝子のプロモーター近傍のヒストンについて、転
異常な高発現を示していた(図 4A)
写抑制性のヒストン修飾であるヒストン H3 の 9 番
。筆者らは、
27,
31)
これらの転写因子の発現変化に着目して、遺伝子特
目のリジン残基のトリメチル化(H3K9me3)の程
異的なエピジェネティクス修飾における OCM の役
度を調べた。その結果、メチオニン代謝の阻害によっ
割について研究を進めた。まず、上述したようなゲ
て当該遺伝子の H3K9me3 は低下し、それはメチオ
ノム全体で見てもわかる DNA のメチル化の変化が、
ニンの添加により回復した(図 4C)。この結果から、
遺伝子特異的に見ても観察されるのではないかと予
受精卵においてメチオニン依存的なヒストンのメチル
想し、発現の変化が現れた遺伝子のプロモーター領
化修飾が存在することが明らかになり、メチオニンが
域について DNA のメチル化を解析した。予想に反
この機構を介して特定の遺伝子の発現制御に関わって
-4-
いることが示唆された 31)。ゲノムワイドに DNA の低
ル化によらずヒストンの修飾によって遺伝子発現の
メチル化が起こる受精卵期においては、DNA のメチ
制御が行われることを示す知見が、レトロトランス
(A)
mRNAの相対発現量
ポゾン 20)、細胞系列分化関連遺伝子 19,32,33)、そし
b
10
て成長や代謝に関連する遺伝子 34)においても続々
8
と報告されており、筆者らの結果は、受精卵期にお
けるヒストン修飾を介した遺伝子発現のエピジェネ
6
ティクス制御への OCM の関与を示すものと位置づ
4
2
a
a
a
けられる。先述のように、マウスの胚盤胞発生にお
b ab
いて DNA メチル化機構が必須である可能性は低い 28)
が、いくつかのヒストンメチル化酵素について、そ
0
抑制される 20,35) ことから、ヒストンのメチル化の
プロモーターの
DNAメチル化
(B)
れらをノックダウンしたマウス胚では胚盤胞発生が
正常性は、種を超えて胚盤胞発生において必須であ
る可能性が高く、OCM がヒストンのメチル化制御
に関わることは、その胚盤胞発生における重要性を
(C)
ChIP-qPCRにおける
相対濃縮率(H3K9me3)
1.2
a
a
ab
0.6
0.4
6.受精卵期の栄養環境と出生後の形質
a
1.0
0.8
示すものと考えられる。
NE
NE
1.4
前節で紹介した筆者らの研究では、胚盤胞発生に
おいて重要な役割を果たす遺伝子についてのみ解析
b
を行っているが、エピジェネティクス機構を介した
遺伝子発現情報の伝達という観点から見ると、受精
b
0.2
卵を取り巻く OCM に関する環境が、長期にわたっ
0.0
て個体の形質に影響を及ぼすことが考えられる。本
節では、OCM も含め受精卵期の栄養環境が出生後
Nanog
の形質に及ぼす影響に関する知見を紹介したい。
Tead4
受精卵期の栄養環境が出生後の形質に影響を及ぼ
図 4.メチオニン代謝の阻害がマウス胚盤胞における
細胞系列分化関連遺伝子の発現およびエピジェ
ネティクス修飾に及ぼす影響
す例には、母体の飼養環境制御によるものと受精卵
マウス 1 細胞期胚をメチオニン代謝阻害剤であ
るエチオニン(Et)の添加あるいは過剰量のメチ
オニン(Met)を同時に添加した培養液で培養し、
得られた胚盤胞において、細胞系列分化関連遺
伝子(ここでは Nanog と Tead4 の結果を示す)
の発現およびエピジェネティクス修飾について
無添加対照区と比較した。(A)RT-qPCR により
各遺伝子の相対発現量を解析した。(B)バイサ
ルファイトシークエンスを用いてプロモーター
領域の DNA のメチル化を解析した。○は非メ
チル化 CpG、●はメチル化 CpG、NE は解析し
ていないことを表す。(C)クロマチン免疫沈降
(ChIP)
-qPCR によって解析したプロモーター近
傍のヒストン H3 の 9 番目のリジン残基のトリメ
チル化(H3K9me3)の程度を示した。a, b:異
符号間有意差あり。
(Tukey-Kramer test, P<0.05)。
31)
(文献 より改変引用)
の体外培養環境制御によるものがある。まず前者で
あるが、OCM に関連しては Sinclair らによるラン
ドマーク的な報告がある 36)。彼らは、ヒツジにお
いて妊娠 8 週前から妊娠 6 日後という卵子の成長、
受精、受精後の胚盤胞期までの発生に相当する限
られた時期に、コバルトと硫黄を欠乏した飼料を与
えることによりビタミン B12、葉酸、メチオニンの
体内レベルを低下( methyl-deficient =MD 群)させ
た。この試験では、食
介入を前述の時期に限るた
めに、妊娠 6 日目に回収した受精卵(胚盤胞)を代
理母畜に移植している。そして生まれてきた子畜で
あるが、対照群に比べて MD 群では成長後に体重の
増加、脂肪割合の増加と筋肉割合の低下、安静時血
-5-
圧(拡張期および平均)の増加、アンジオテンシン
ことが明らかとなっている 49)。ヒトの ART におい
投与後の血圧上昇(拡張期、収縮期および平均)の
ても、体外受精卵の培養に用いる培養液の違いが新
増大、インスリン抵抗性、免疫応答の増大が見られ、
生児の出生体重に違いをもたらすことが報告されて
これらの表現型はオスで特異的あるいは顕著であっ
いる 50,51,52)。Rinaudo のグループは、マウス受精卵
た。Zhang らも胚移植を用いて、受精卵で言えば胚
を組成が単純な Whitten 培地(無機塩類、グルコース、
盤胞期までの母ヒツジに対する摂取エネルギー制限
ピルビン酸、乳酸、ウシ血清アルブミンを含む水溶
によって、子畜において副腎の肥大と機能亢進が起
液)かつ気相の酸素濃度(20%)条件下で、あるい
こることを示した 37)。他にも、交配後数日間の母体
はより改良された KSOMaa 培地(上記の濃度が改
への低タンパク質飼料の給 が、性差はあるが子の出
変され、さらにアミノ酸等を含む)かつ低酸素(5%)
生体重の低下
38,
39)
条件下で培養し、その子宮内移植によって産仔を得
収縮期血圧の増加 38,39)、肝重量体重比 38)や心重量
た場合、生体内由来胚と比較して、前者由来の子マ
体重比
、自発行
ウスでは出生後の増体の低下と耐糖能の低下が、後
をもたらす例がマウスやラットで報告
者由来のメスでは、低出生体重、増体の上昇、脂肪
39)
動の増加
あるいは増加
38)
、増体の上昇
39)
の低下、腎重量体重比の増加
39)
、
38)
されている。
蓄積の増加と耐糖能の低下が見られることを報告し
一方、受精卵の培養に起因する、あるいはその培
た。彼らは耐糖能の低下に関連して、胚盤胞におけ
養条件の違いによる出生後の形質変化の例を挙げ
る網羅的な遺伝子発現解析から可能性のある原因遺
る。代表的なものとしてウシやヒツジの体外操作
伝子として Txnip(thioredoxin interacting protein)に
胚(体外受精卵、核移植胚を含む)由来の新生仔で
着目し、体外培養によって胚盤胞でその発現と転写
しばしば見られる large offspring syndrome(LOS)が
促進性のヒストン修飾(ヒストン H4 のアセチル化)
あり、過体重、巨舌や内臓の肥大、呼吸困難、虚弱
が増加することを示した。さらに興味深いことに、
などを示す
成長後の筋肉や脂肪においても組織特異的に Txnip
。LOS は複数のインプリント遺伝子
40)
の loss of imprinting と当該遺伝子の発現異常を伴い、
の遺伝子発現情報が維持されていることを見出し(胚
病態や発症メカニズムの面で、ヒトの生殖補助医療
盤胞と個体成長後の間の状況については不明)
、エピ
(Assisted Reproductive Technology, ART)においてリ
ジェネティクス機構にまで踏み込んで、体外培養系
スク増が指摘されている先天性インプリント疾患、
を DOHaD の一つのモデルとして提唱している 34)。
Beckwith-Wiedemann 症候群との類似性が考察され
受精卵の置かれた環境による出生後の形質変化の
ている 41,42)。ART による出生児の多くは健康であ
例を見てきたが、これらの研究で報告された形質
りその恩恵は計り知れないが、ART において自然
は、DOHaD の概念が確立してきた背景とも関連し
妊娠による出生児と比較した場合にリスク増が示さ
て、非感染性疾患に関連するものが多い。しかし、
れた表現型としては、インプリント疾患を含む先天
中でも体重や代謝、体組成の変化は家畜の生産形質
性異常だけでなく、低出生体重
、成長後の空腹
に密接に関連するものであり、受精卵期における出
時血糖の上昇 44)、血清中中性脂肪の増加 45)、拡張
生個体の生産形質のプログラミングを考える上で興
期および収縮期血圧の上昇
味深い。筆者らも、ウシ体外受精卵を用いた解析で、
43)
44,
45)
等が報告されてい
る。また実験動物においても、体内由来胚と比較し
OCM 代謝の制御が、胚盤胞発生に関連する遺伝子
て、受精卵の体外培養によって変化が示された表現
のみならず、成長・代謝において重要な役割を担う
型として、収縮期血圧の上昇
遺伝子においてもヒストン修飾および遺伝子発現
、耐糖能の低下
46)
自発行動の増加や空間記憶能力の低下
低下あるいは増加
、
34)
、増体の
47)
等がある。
の変化を引き起こす結果を得ており(投稿準備中)、
受精卵期における家畜の生産形質の素因形成を考え
34,
48)
家畜受精卵の培養液では、胚発生を促進するため
た場合に、OCM は有力なターゲットになり得ると
に血清が添加されたり、体細胞との共培養がしばし
考えている。
ば行われるが、これらは LOS のリスク要因である
-6-
7.おわりに
培養液で言えば、各組成成分の組み合わせや濃度、
筆者らの結果は、受精卵期のニュートリエピジェ
血清やタンパク質添加の有無、母体の飼養条件に関
ネティクスによる形質プログラミングのメカニズム
しては低タンパク質、摂取エネルギー制限、高脂肪
について、OCM の切り口からかすかな光を当てた
といったマクロな栄養条件の影響を説明し得るよう
に過ぎない。OCM の制御による受精卵のヒストン
な理論の構築も、栄養環境制御による形質の変化の
修飾がその後の細胞分裂を経て維持されるのか、ま
メカニズム解明とその応用を目指す上で重要であろ
た DNA メチル化を含む他のエピジェネティクス制
う。
御機構の素因になるのか、そしてそれは実際に出生
後の形質の変化をもたらすのか、検討すべき課題は
謝 辞
尽きないが今後も研究を進めていきたい(図 5)。筆
本稿を発表する機会を与えていただいた京都大学
者らが行ったような限られた遺伝子のピンポイント
大学院農学研究科 久米新一教授に深謝いたします。
な解析ではなく、ゲノム全体にわたる網羅的な解析
また、本研究の遂行を支援していただいた研究室の
も OCM 制御による生産形質に関わるエピゲノムの
諸氏に深く御礼申し上げます。本研究は、JSPS 科
変化を探る上で有力な手段と考えられる。また先に
研費、一般財団法人旗影会、京都大学コアステージ
も述べたように、形質の変化を引き起こす栄養条件
バックアップ研究費の助成を受けて実施しました。
は OCM に関するものだけには限らない。受精卵の
受精卵を取り巻く
栄養環境
(⺟体の飼養条件、体外培養条件)
ニュートリ
エピジェネティクス
DNA
ヒストン
家畜の⽣産形質・
健康のコントロール
CV
図 5.受精卵期におけるニュートリエピジェネティクスによる家畜の形質のプログラミング
受精卵を取り巻く栄養環境の制御により DNA やヒストンの修飾をはじめとするエピ
ジェネティクス機構が影響を受け、その影響が個体発生・成長を通じて伝達されるこ
とによって、出生後の家畜の生産形質や健康のコントロールにつながる概念を模式的
に描いた。
-7-
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- 11 -
栄養生理研究会報 Vol.60,No.1 2016
飼料中リジン含量の充足により誘発される代償性成長に関する研究
石田藍子 1・中島一喜 1・京谷隆侍 2,3・勝俣昌也 1,4
(1 農研機構畜産草地研究所・2 東京農工大学大学院連合農学研究科・
3
現所属;福島県農業総合センター畜産研究所・4 現所属;麻布大獣医学部)
1.代償性成長研究の背景
代償性成長を誘発するためには、一定期間成長を
栄養制限によって成長が遅延したウシやラットに
抑制しなければならない。ブタの成長を抑制する方
おいて、その制限を解除すると、栄養制限を受けて
法として、制限給
いない同じ種の同じ日齢の個体よりも高い増体を
エネルギー含量の低減などさまざまな栄養制限が報
示すことが 20 世紀の初めに報告された
告されている 10−13)しかし、これらの先行研究では
。この現
1,
2)
、飼料中タンパク質含量および
象は Bohman によって「代償性成長(Compensatory
成長抑制解除後の成長についての結果が一致せず、
3)
growth)」と名付けられた 。今日では代償性成長は、
明瞭な増体の促進が観察される報告 7,8,13)や、代償
栄養制限や疾病などで成長を抑制された生体におい
性成長が観察されない報告 12,14,15) が存在する。こ
て、これらの制限要因が解除された後に成長が促進
のように再現性が確立できないことから、現時点で
される生理学的過程と定義されている (図 1)。ブタ
は養豚の現場における代償性成長を利用した生産体
を用いた代償性成長の研究は、豚肉生産性改善を目
系は実施されておらず、またメカニズムの解明が進
指し、と体中のタンパク質や脂肪などの体構成成分
んでいない。
変化、肉質の改善、栄養素の利用効率、窒素排泄量
制限給
などについて進められてきた
量低減の後の代償性成長においては、多くの栄養素
4)
。
5−9)
後の代償性成長や、飼料中タンパク質含
が不足した状態から多くの栄養素が急速に充足する
ことから、複数の因子が変動する 16)。このことが、
再現性の確立やメカニズムの解明の障害となってい
ると考えられた。給
量や飼料中タンパク質含量の
他に、増体を抑制する要因として飼料中アミノ酸量
があげられる。他の栄養素が充足している場合でも、
飼料中の一つの必須アミノ酸の不足によって増体は
抑制される 17,18)。これらのことから、単一のアミ
ノ酸の不足の後にそのアミノ酸を充足させると、代
償性成長が生じる可能性が考えられた。さらに、単
一のアミノ酸の充足で代償性成長を誘発できれば、
メカニズムの解明につながると考えられた。そこで、
穀物主体の飼料で第一制限アミノ酸となるリジンの
不足後に充足させることにより代償性成長を誘発し
図 1.代償性成長の概念図
てそのメカニズムを検討した。
Proceedings of Japanese Society for Animal Nutrition and Metabolism 60(1): 13−23, 2016.
Studies on Compensatory Growth with Changing Levels of Dietary Lysine from Deficient to Sufficient
Aiko Ishida1, Kazuki Nakashima1, Takahito Kyoya2,3, Masaya Katsumata1,4
(1NARO Institute of Livestock and Grassland Science; 2United Graduate School of Agricultural Science, Tokyo University of
Agriculture and Technology, 3Present address; Fukushima Agricultural Technology Center; 4Present address; School of Veterinary
Science, Azabu University,)
- 13 -
2.飼料中リジン含量の充足によるブタの代償性成
長と窒素出納
代償性成長区のブタの血清中遊離リジン濃度は、
21 日間の低リジン飼料の給与により対照区のブタよ
19)
1)増体への影響
り低かったが、飼料の切り替え後増加し(P<0.01)、
6 週齢の(ランドレース×大ヨークシャー)×デュ
飼料切り替え 3 日後(24 日目)には処理区間に差が
ロック(LWD)種の同じ母豚から生まれた兄弟(以
なかった。血清中 IGF-1 濃度は、代償性成長区で低
下同腹)4 頭を 1 反復とし、実験を 5 反復(5 腹)、計
リジン飼料の給与により、21 日目に低く、飼料切り
20 頭を供試した。試験飼料は、NRC 飼養標準
に
替え後に増加し(P<0.05)、24 日目には処理区間で
基づき、全ての養分要求量を充足する対照飼料(CP:
差がなかった。インスリンおよびコルチゾール濃度
16.1%、リジン含量:1.15%)と、リジン含量が対照
は、処理による差はなかった。
飼料の約 63%のリジン不足飼料(CP:16.1%、リジ
Chaosap らは、制限給
ン含量:0.73%)を用いた。対照飼料を 24 日間給与
は、骨格筋重量には影響せず、内臓や脂肪の蓄積
する対照区、低リジン飼料を 21 日間給与しその後 3
に影響することを報告している 9)。一方 Yang らは、
日間対照飼料を給与する代償性成長区の 2 区とし、
タンパク質制限後の代償性成長において筋肉蓄積が
同腹の 4 頭から各区に 2 頭ずつ体重に基づいて割り
増加したと報告しており 6)、増体抑制の条件や強度
付けた。飼料切り替え前、飼料切り替え 3 日後に採
によって代償性成長時に蓄積が促進される体成分が
血した。
異なることが考えられた。本実験で低リジン飼料給
その結果、飼料中リジン含量は飼料摂取量に影響
与時に比べて代償性成長中において血清中 IGF-I 濃
を及ぼさず、エネルギーおよびタンパク質摂取量が
度が増加していたことから、少なくともタンパク質
同じであったが、低リジン飼料を給与したブタは 21
蓄積の増加が関与していると考えられた。そこで次
日目までの増体が低く(図 2)、飼料効率も低かった
にタンパク質蓄積量について検討するため、窒素出
20)
(P<0.05)。リジン充足(21 日目)後の代償性成長
の後に生じる代償性成長
納試験を実施した。
区の増体量は対照区よりも高かった(図 2)。0 日目
から 21 日目までの日増体量に対する 21 日目から 24
2)窒素出納
日目までの日増体量の比は、対照区で 121%であっ
LWD 種の三元交雑種のオス、同腹の 3 頭を 6 腹供
たが、代償性成長区では 187%であった(P<0.05)。
試し、計 18 頭を供した。飼料には、内部標準とし
すなわち、代償性成長が誘発できた。
て酸化クロムを 0.1%配合した。6 週齢から対照飼
図 2.ブタの飼料中リジンの不足から充足にともなう増体量(A)および体重の変化(B)
0−21 日:n=10, 21−24 日:n=5。a,b: 処理区間に有意差あり(P<0.05)。
*
:同処理区の 0−21 日と有意差あり(P<0.05)。参考文献 19 から一部改変して転載。
- 14 -
料(リジン含量:1.36%)を 24 日間給与する対照区、
照区と代償性成長区に差はなかった。その理由に、
低リジン飼料を 21 日間給与しその後 3 日間対照飼料
21 日目での体重の差が考えられた。21 日目では、
を給与する代償性成長区、低リジン飼料(リジン含
対照区(25.8kg)と代償性成長区(22.7kg)の体重
量:0.73%)を 24 日間給与する低リジン区の 3 区と
に差があった(P<0.05)。そのため、窒素蓄積量を
した。実験開始 18 日目から試験終了まで毎日尿を
代謝体重あたりで示したところ、21 日目から 24 日
全量採取し、毎朝、新鮮糞を採取して分析に用いた。
目における代謝体重あたりの窒素蓄積量は、対照区
窒素摂取量、窒素消化率、糞中窒素排泄量、見か
に比べて代償性成長区で高かった。この結果は、リ
けの窒素吸収量は実験のいずれの時点においても差
ジンの充足に伴う代償性成長において窒素蓄積の増
がなかった。低リジン飼料給与により低リジン区と
加が寄与したことを示している。
代償性成長区の 19 日目から 21 日目における尿中窒
飼料摂取量の制限(60%)や、タンパク質摂取量
素排泄量は対照区より高かった(P<0.05)。飼料切
の制限によって増体を抑制した後にこれらの制限要
り替え後には、代償性成長区で尿中窒素排泄量が減
因を解除すると、と体にしめる筋肉の割合が高くな
少し、22 日目から 24 日目までの測定値は対照区と
るとの報告や、筋肉や脂肪がと体に占める割合は対
代償性成長区に差はなかった。19 日目から 21 日目
照区のブタと変わらないという報告がある 21)。一
までの窒素蓄積量は、低リジン飼料給与により低く
方で、本実験における代償性成長中のブタの飼料効
なったが(図 3、P<0.05)、飼料切り替え後、代償
率は対照区より高く、窒素蓄積効率には差がなかっ
性成長区の窒素蓄積量は増加した。飼料切り替え 3
たことを踏まえると、Chaosap らが示した様に、脂
日後の 24 日目には、代償性成長区の窒素蓄積量は
肪や炭水化物など窒素以外の蓄積効率が変化した 9)
対照区に比べて高い傾向があった(P=0.10)。22 日
可能性も考えられるが、その点についてはさらなる
目から 24 日目までの代償性成長区の代謝体重あた
研究が必要である。
りの窒素蓄積量は、対照区の代謝体重あたりの窒素
3.リジン充足に伴う代償性成長における骨格筋タ
蓄積量より高かった(図 3、P<0.05)。
ンパク質代謝 22)
先の実験において、代償性成長中に血清中 IGF-I
濃度が増加したことから、日増体量の増加には窒素
1)骨格筋タンパク質代謝
蓄積の増加が伴うと考えられたが、窒素蓄積量は対
飼料中リジン含量の不足から充足への変化によっ
図 3.ブタの飼料中リジンの不足から充足にともなう代償性成長時の窒素蓄積量(A)および代謝体
重あたりの窒素蓄積量(B)
参考文献 ○ から一部改変して転載。n=6。a, b:処理区間に有意差あり(P<0.05)。*:同処理
区の Day19-21 と有意差あり(P<0.05)。参考文献 19 から改変して転載。
- 15 -
て、ブタが代償性成長を示すことを明らかにした。
(リジン含量:1.30%)と、リジン含量が対照飼料
また、リジン充足に伴う代償性成長中のブタにおい
の 35%の低リジン飼料(リジン含量:0.46%)を調
て、体内へのタンパク質蓄積が増加することが示唆
製した。4 週齢時から対照飼料を 21 日間給与する対
された。タンパク質の蓄積はタンパク質の合成と分
照区、低リジン飼料を 14 日間給与しその後 7 日間対
解のバランスによって変化し、タンパク質の蓄積が
照飼料を給与する代償性成長区の 2 区とした。
増加するには、タンパク質合成の増加とタンパク質
代償性成長区のラットは低リジン飼料給与により
分解の減少のどちらか、または両方が必要である。
14 日目までの体重と日増体量が対照区より低かった
しかし、リジン充足に伴う代償性成長中のタンパク
(表1、P<0.05)。飼料摂取量は14日目まで差がなかっ
質蓄積の増加が、タンパク質代謝のどのような変化
たが、飼料切り替え後には代償性成長区の飼料摂取
によるのかについては不明である。そこで、飼料中
量は対照区より低かった(表 1、P<0.05)。飼料切
のリジン含量の不足から充足への変化により骨格筋
り替え 1 日後の 15 日目には、代償性成長区の日増体
タンパク質の合成および分解がどのように変化する
量は対照区よりも高くなり、14 日目から 21 日目の
のかについて検討した。
間の日増体量は代償性成長区で高かった(表 1、P
タンパク質分解比速度の測定には、3−メチルヒス
<0.05)。代償性成長区の 3 週目の増体は 2 週目より
チジン法が用いられる。3−メチルヒスチジンは、骨
80%増加した(表 1、P<0.05)。すなわち、ラット
格筋のタンパク質分解に伴って放出される。ところ
でもリジン不足飼料給与の後の充足による代償性成
が、ブタ
では、3−メチルヒスチジンがβ−アラニ
長が再現できた。飼料効率は 14 日目までの代償性
ンとのジペプチドであるバレニンの生成に利用され
成長区のラットで対照区より低かった(表 1、P<
るため、尿中への排出量からタンパク質分解比速度
0.05)。飼料切り替え後の代償性成長区の飼料効率
を測定することはできない。一方、ヒトやラット、
は飼料切り替え前より 70%高く、対照区より高かっ
マウスなどではタンパク質合成に 3−メチルヒスチジ
た(表 1、P<0.05)。
ンが再利用されず、代謝されずに尿中に速やかに排
骨格筋タンパク質合成比速度は、低リジン飼料給
泄されるため、尿中に排泄された 3−メチルヒスチジ
与によって低くなった(表 2、P<0.05)。リジン充
ン量を測定することにより、骨格筋の主要構成タン
足飼料給与によって、飼料切り替え 1 日後、および
パク質であるミオシン、アクチンの分解速度を測定
7 日後に骨格筋タンパク質合成比速度が対照区より
できる
。そこでラットを供試し、リジンの充足
高くなった(表 2、P<0.05)。骨格筋タンパク質分
に伴う代償性成長中における骨格筋タンパク質代謝
解比速度には、低リジン飼料給与の影響は無かった
の変化について検討した。
が、飼料切り替え 2 日後および 3 日後で対照区に比
Wister 系ラット 3 週齢オス 24 頭を供試、対照飼料
べて低くなった(表 2、P<0.01)このとき、タンパ
23)
24)
表 1.飼料中リジンの充足から不足への変化がラットの飼養成績と腓腹筋重量に及ぼす影響(n=6)
- 16 -
表 2.飼料中リジンの充足から不足への変化がラットの骨格筋タンパク質合
成比速度(Ks)および分解比速度(Kd)に及ぼす影響(n=6)
ク質分解関連遺伝子の腓腹筋における発現の変化を
その結果、低リジン飼料を給与した代償性成長
調べたが、差は無かった。
区の血清中リジン濃度は対照区より低かった(表
これらのことから、リジン充足における代償性成
3、P<0.01)。飼料切り替え 1 日後の 15 日目に、代
長では、骨格筋タンパク質蓄積にタンパク質合成の
償性成長区の血清中リジン濃度は対照区より高くな
増加とタンパク質分解の減少の両方が寄与するが、
り(表 3、P<0.01)、飼料切り替え 3 日後の 17 日に
そのタイミングは異なることが示された。
は対照区と差がなかった。血清中インスリン濃度
は、飼料中リジン含量およびリジン充足による影響
2) リジン充足直後の IGF-I およびコルチコステロ
を受けなかった。低リジン飼料を給与したラットの
ンの血中濃度と骨格筋タンパク質分解の検討
IGF-I と IGFP-3 は対照区より低かった(表 3、いず
先の実験の結果から、リジン含量の充足による代
れも P<0.01)。飼料中リジン含量を充足させると、
償性成長において、リジン充足 2 日後と 3 日後にタ
血清中 IGF-1濃度と IGFBP-3濃度は速やかに増加し、
ンパク質分解の減少が確認されたが、どのタンパク
IGF-I 濃度は 1 日後、IGFBP-3 濃度では 3 日後には処
質分解経路の抑制に起因するのかは不明であった。
理区間に差がなかった。血清中コルチコステロン濃
そこで次に、リジン含量の充足 1 日後と 3 日後にサ
度は低リジン飼料給与によって対照区より高い傾向
ンプリングし、リジン充足直後のタンパク質分解系
があった(表 3、P=0.06)。一方、代償性成長区の
について検討をおこない、タンパク質代謝の制御に
血清中コルチコステロン濃度はリジンの充足に伴っ
中心的な役割を果たす血中の IGF-I、IGFBP-3 およ
て低下し、その結果リジン充足 3 日後(17 日目)に
びコルチコステロンの濃度の変化との関係を検討し
は処理区間に差がなかった。代償性成長区のリジン
た。
充足 3 日後(17 日目)の血清中コルチコステロン濃
表 3.飼 料中リジンの不足から充足への変化がラットの血清中リジン、IGF-I、IGFBP-3、
コルチコステロン濃度に及ぼす影響(n=6)
- 17 -
度はリジン不足時(14 日目)より低かった(表 3、
は減少することが観察されている 27)。しかし、そ
P<0.05)。
の発現量の増加や減少の程度は、atrogin-1/MAFbx
腓腹筋におけるタンパク質分解関連遺伝子の
mRNA が MuRF1 の mRNA より大きいことが報告さ
mRNA 発現量には低リジン飼料給与による影響はな
れている 28)。Atrogin-1/MAFbx と MuRF1 発現量の
かった。飼料切り替え 1 日後(15 日目)と 3 日後(17
変化の大きさに違いが生じる機構については不明で
日目)に代償性成長区の腓腹筋における atrogin-1/
あるが、本実験における単一のアミノ酸の不足およ
MAFbx の発現量は、対照区より低くなった(15 日目:
び充足は、MuRF1 発現量を変化させるほどの強い
P<0.01、17 日目:P<0.05)。MuRF1 の腓腹筋にお
作用がないのかもしれない。
ける発現量は、飼料中リジン含量およびリジン充足
リジンが充足した飼料に切り替えてわずか1日で、
による影響がなかった。caspase-3 の mRNA 発現量
血清中の IGF-I と IGFBP-3 濃度が増加したが、この
は飼料切り替え 1 日後(15 日目)に代償性成長区で
結果は、代償性成長区のラットでは、飼料の切り替
低かった(P<0.05)。他のタンパク質分解酵素の腓
え 1 日後にすでに IGF-I の生理活性が増強されてい
腹筋における mRNA 発現量は、いずれの時点にお
ることを示唆している。一方、血清中のコルチコス
いても処理による差がなかった。
テロン濃度はリジンが充足した飼料に切り替えて
atrogin-1/MAFbx は、骨格筋における主要なタン
3 日後に減少した。以上の結果から、飼料中リジン
パク質分解経路であるユビキチン−プロテアソーム
含量の不足から充足への変化は、血清中の IGF-I 濃
系における骨格筋特異的リガーゼである。リジン不
度を増加させ、さらに血清中のコルチコステロン
足後のリジン充足によるタンパク質分解の抑制がユ
濃度を減少させることにより、骨格筋の atrogin-1/
ビキチン−プロテアソーム経路の抑制に起因する可
MAFbx mRNA 発現量とタンパク質分解を抑制した
能性が示唆された。
可能性があると考えられた。
本実験において、リジン充足 1 日後には、血清中
のコルチコステロン濃度が低下し、リジン充足 3 日
4.C2C12 筋管細胞における代償的なタンパク質蓄
積の検討
後にはリジン不足時よりも低かった。グルココルチ
コイドは、ユビキチン−プロテアソーム系における
1) 培地中リジン濃度の増加がタンパク質蓄積へ及
ぼす影響
atrogin-1/MAFbx の発現を促進することによって、タ
ンパク質分解を促進する。IGF-I は、骨格筋における
哺乳類の細胞において、培地中の複数のアミノ酸
タンパク質合成を促進する成長因子である。一方
の不足が mTOR シグナルとタンパク質合成を減少
で、IGF-I はタンパク質分解を抑制し、グルココル
させ、その効果はアミノ酸の再供給によって速やか
チコイドの一つであるデキサメタゾンによるタンパ
に回復する(Fox et al., 1998)。一方、分岐鎖アミノ
ク質分解の促進効果を抑制する。デキサメタゾン
酸であるロイシン、イソロイシン、バリンがニワト
と IGF-I によるタンパク質分解の変化は、atrogin-1
リ筋管細胞におけるユビキチン・プロテアソーム
/MAFbx の mRNA 量と密接に関連している 25)。本
系のタンパク質分解を抑制することを我々はすで
実験において、リジンの充足に伴い代償性成長を示
に報告しており 29)、さらにアルギニンも atrogin-1/
したラットは、選択的に atrogin-1/MAFbx の mRNA
MAFbx および MuRF1 の mRNA 発現量を減少させ
発 現 量 が 減 少 し た が、atrogin-1/MAFbx と 同 じ E3
て、C2C12 筋管細胞のタンパク質分解を抑制するこ
リガーゼである MuRF1 の mRNA 発現量は減少しな
とが報告されている 30)。リジンの充足に伴って血清
か っ た。atrogin-1/MAFbx お よ び MuRF1 の mRNA
中の IGF-I やグルココルチコイドの濃度も変化してい
の発現量は飼料摂取制限や糖尿病、デキサメタゾン
たことから、飼料中リジン充足がタンパク質代謝に及
処理、拘束や除神経などの筋萎縮性刺激を受けた
ぼす影響が、リジンの直接作用によるものか、これら
ラットの骨格筋において増加する 26)。一方、アミ
のホルモン濃度の変化を介しているかは不明である。
ノ酸投与によってタンパク質分解を抑制した実験で
そのため次に、C2C12 筋管細胞を、定法で用いられ
- 18 -
る Dulbecco s Modified Eagle Medium( 以 下 DMEM)
を DMEM 培地の 1/20 ×とした培地(以下 1/20×
よりリジン濃度が低い 5 水準のリジン濃度の培地で
Lys、Lys:0.04mM)を調製した。それぞれの培地に、
培養後に、
定法の DMEM 培地で培養することにより、
IGF-1 および Dex を添加する、しない培地を調製し
骨格筋への代償的なタンパク質蓄積が観察できるか
た。すなわち、IGF-1(100ng/ml),Dex(1.0μM)
どうか検討した。
含有 1 × DMEM、IGF-1(50ng/ml),Dex(1.5μM)
マウス筋芽細胞 C2C12 を使用し、増殖、分化誘導
含有 1/20 × Lys、IGF-1(100ng/ml),Dex(1.0μM)
後、実験をおこなった。増殖培地は DMEM に、ウ
含有 1/20 × Lys、IGF-1(50ng/ml),Dex(1.5μM)
シ胎児血清(10%)を混合して作製、分化培地は、
含有 1 × Lys の 4 つの培地である(図 4)。リジンが
DMEM にウマ血清(2%)を混合して作製した。試
充足し IGF-I 濃度が 100ng/ml、Dex 濃度が 1.0μM
験培地はいずれもウシ血清アルブミン(0.5%)を
である、IGF-1(100ng/ml),Dex(1.0μM)含有 1
含み、DMEM の組成に基づいて調製した培地(以
×DMEM(1×Lys)」で 36 時間培養した区をポジティ
下 1 ×DMEM)と、リジン以外の成分を DMEM に
ブコントロール(以下 PC)区とし、生体における
準 じ、 リ ジ ン 濃 度 を DMEM のそれぞれ 1×(Lys:
対照区を想定した。リジンが不足し IGF-I 濃度が
0.80mM)
、
1/2×
(Lys:0.40mM)
、1/5×
(Lys:0.16mM)
、
PC 区に対して1/2×で Dex 濃度が PC 区に対して1.5
1/10 ×(Lys:0.08mM)
、1/20 ×(Lys:0.04mM)、0
×である IGF-1(50ng/ml),Dex(1.5μM)含有 1
×(Lys:0mM)とした培地である。
/20× Lys で 36 時間培養した区をネガティブコント
24 時間までの培地中のリジン濃度は、細胞内タン
ロール(以下 NC)区とし、生体における低リジン
パク質蓄積量に影響を及ぼし、0×が増加せずに減
区を想定した。また、生体における代償性成長区を
少し、1/20 ×では 1×に比べて減少する傾向を示し
想定したリジン濃度が不足(1/20×)から充足(1
たが、培地中リジン濃度が 1/10 ×以上では 1×と差
×)へ変化し、IGF-I 濃度が 2 倍に増加し、Dex 濃度
がなかった。また、24 時間から 48 時間までの 24 時
が 2/3 倍に低下する処理をリジン+ホルモン区(+
間におけるタンパク質増加割合に、処理による影響
Lys&Hormone)とした。さらに、IGF-I 濃度が 2 倍
は無かった。以上の結果から、生体を用いた実験と
に増加し、Dex 濃度が 2/3 倍に低下する変化がタン
同様に、培地中リジン濃度の増加だけでなく IGF-I
パク質蓄積へ及ぼす影響を検討するためにホルモン
濃度の増加やグルココルチコイド濃度の低下を組み
区(+Hormone)、リジン濃度の不足(1/20×)か
合わせることによって、代償的なタンパク質蓄積を
ら充足(1×)への変化がタンパク質蓄積へ及ぼす
誘発する可能性が考えられた。
影響を検討するためにリジン区(+Lys)を設定した。
また、タンパク質分解関連遺伝子の mRNA 発現量
2) 培地中リジン濃度の変化および IGF-I、デキサ
についても検討した。
メタゾン濃度の変化によるタンパク質蓄積への
IGF-1(50ng/ml), Dex(1.5μM)含有 1/20×Lys
影響
で 18 時間培養すると、IGF-1(100ng/ml), Dex(1.0μ
31)
生体と同様に、培地中リジンの充足に合わせてホ
M)含有 1×DMEM(1×Lys)で培養するよりも、ウェ
ルモン濃度の変化が代償的なタンパク質蓄積に必須
ルあたりのタンパク質量およびタンパク質増加割
であることを明らかにするために、培地中リジン
合はいずれも低かった(図 5、P<0.01)。その後培
の充足と IGF-I および細胞培養で一般に用いられる
地を交換すると、NC 区およびホルモン区ではタン
グルココルチコイドであるデキサメタゾン(以下
パク質量は低く(P<0.05)、PC 区とタンパク質増
Dex)の濃度の変化を組み合わせて、代償的なタン
加割合は変わらなかった(図 5)。また、リジン区
パク質蓄積が起こるかを検討した。
では、タンパク質量が PC 区と差がないレベルとな
1/20×濃度をリジン不足培地として用いた。試験
り、タンパク質蓄積量も PC 区と差がなかった(図
培地は、DMEM 培地(以下 1× DMEM、Lys:0.80mM)
5)。リジン+ホルモン区は PC 区よりタンパク質量
と、リジン以外の成分を DMEM に準じリジン濃度
がわずかに高くなり、タンパク質増加割合は PC 区
- 19 -
図 4.実験概要
引用文献 31 より一部改変して転載。
図 5.培地中リジン濃度の増加、IGF-I 濃度の増加および Dex 濃度の増加の組み合わせが C2C12
筋管細胞のタンパク質量(A)およびタンパク質蓄積割合(B)に及ぼす影響(n=6)
a, b, c:処理区間に有意差あり(P<0.05)
、**:PC 区と有意差あり(P<0.01)。引用文献 31 より
一部改変して転載。
- 20 -
よりも高かった(図 5、P<0.01)。タンパク質分解
本実験では、培地を交換して 6 時間後にatrogin-1/
関連遺伝子である atrogin/MAFbx の mRNA 発現量
MAFbx の mRNA 発現量が減少しており、リジンの
は、リジン+ホルモン区のみが 24H で低くなった
充足とホルモンの同化的な変化により、ユビキチン・
(P<0.05)。培地交換 18 時間後において、培地中の
プロテアソーム系のタンパク質分解が抑制されてい
リジン充足のみではタンパク質蓄積量は増加せず、
る可能性が示唆された。
IGF-I 濃度の増加と Dex の低下によるホルモンの同
本実験においては、リジン濃度の増加とホルモン
化的な変化のみでもタンパク質蓄積量は増加しな
の同化的な変化により、筋管細胞に代償的なタンパ
かった。一方、リジンの充足とホルモンの同化的な
ク質蓄積を誘発した。このことから、ブタおよびラッ
変化を組み合わせた処理によってタンパク質蓄積量
トにおける代償性成長が、リジン単独の直接作用に
が増加した。
よるものではなく、血中 IGF-I 濃度の増加および血
C2C12 筋管細胞において、IGF-I は mTOR のリン
中グルココルチコイド濃度の低下によるホルモン濃
酸化を介してタンパク質合成を促進し、筋管細胞は
度の同化的変化を介して誘発されると考えられた。
肥大しタンパク質蓄積は増加する
。一方、C2C12
25)
筋管細胞において、培地中への Dex の添加はタンパク
5.おわりに
質合成を抑制する一方でタンパク質分解を促進し、タ
低リジン飼料を給与したブタおよびラットにおい
ンパク質量は Dex に用量依存的に減少する25)。C2C12
ては、リジン不足状態に適応した代謝の変化が起き
筋管細胞に Dex を処理すると、atrogn-1/MAFbx の
ていたと考えられる。また、IGF-I 濃度とグルココ
mRNA 発現が増加してタンパク質量が減少するが、
ルチコイドの血中の濃度変化も重要であると考えら
Dex と同時に IGF-I を処理すると、atrogn-1/MAFbx
れた。しかしながら、代償性成長時には IGF-I 濃度
の mRNA 発現は増加せず、タンパク質量は減少し
がリジン不足時よりも高くなったが、同時点の対照
ない
。つまり、IGF-I 濃度の増加および Dex の減
区より高くなったわけではなかった。一方グルコ
少は、タンパク質合成を促進し、タンパク質分解を
コルチコイド濃度も、代償性成長中には低下した
抑制する作用がある。また、Sadiq ら
は、アミノ
が、同じ時点の対照区の濃度と差はなかった。ま
酸とインスリンのタンパク質分解を抑制する効果に
た、C2C12 筋管細胞における代償的なタンパク質蓄
は加法性が成立することを報告している。ホルモン
積は、ポジティブコントロールと同じ培地への切り
区のタンパク質蓄積割合は NC 区と差がなく、リジ
替えによって観察された。すなわち、代償性成長お
ン区およびリジン+ホルモン区のタンパク質蓄積割
よび代償的なタンパク質蓄積は、対照区またはポジ
合は NC 区より高かった。IGF-I については検討し
ティブコントロールと同じ IGF-I、グルココルチコ
た報告がないものの、増殖因子であるインスリンや
イド濃度によって、誘発されたことから、受容体も
上皮増殖因子、神経成長因子は、培養細胞において
しくはシグナル感受性の変化が関与している可能性
タンパク質合成を促進するが、細胞外のアミノ酸が
が考えられ、今後さらに検討が必要である。
不足した環境ではこれら増殖因子を加えてもタンパ
代償性成長の機構の解明を目的として、リジンの
ク質合成を促進しないことが、これまでにも報告さ
不足後の充足によって誘発される代償性成長のモデ
れている
。同様にホルモン区では、ホルモン
ルを作成し、実験を重ねてきた。代償性成長の機構
の同化的な変化にもかかわらず、リジン不足により
の全体像を明らかにするためにはさらに研究が必要
タンパク質合成が促進しなかったと考えられた。こ
であるが、代償性成長はまさに栄養状態への適応の
れらのことから、筋管細胞の代償的なタンパク質蓄
末に生じる現象で有り、その機構の解明は家畜の精
積に、リジンの充足とホルモンの同化的な変化が必
密な栄養管理方法の開発に通じると考えられる。
25)
32)
33,
34)
須であると考えられた。
- 21 -
謝 辞
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栄養生理研究会報 Vol.60,No.1 2016
ニワトリヒナの脳内摂食調節機構における成長ホルモン関連ホルモンの役割
橘 哲也
(愛媛大学農学部畜産学研究室)
1.はじめに
さらに GH の分泌を抑制するソマトスタチンを哺乳
幼雛期の摂食量はその後の成長や効率的家禽生産
類に脳室内投与すると、低濃度では摂食を亢進し、
に影響を与えることから、ニワトリヒナにおける摂
高濃度では摂食を抑制するが 10,11)、ニワトリヒナ
食調節機構の解明が進められている。哺乳類を対象
では一様に摂食を亢進する 12)。このように、ニワ
とした研究により、動物の摂食は脳に作用する様々
トリヒナでは GH の分泌に関わる摂食調節因子の作
な生理活性物質によって調節されていることが明ら
用が哺乳類とは正反対であることが多い。不思議な
かになり、摂食調節因子の概念が生まれた。その後
ことに、ニワトリヒナでは GH の分泌を促す因子(グ
鳥類であるニワトリではニワトリヒナを中心に脳内
レリン)が摂食を抑制し、GH の分泌を抑制する因
における摂食調節因子の解明が進められてきた。
子(ソマトスタチン)が摂食を亢進する。GH の分
その結果、ニワトリヒナの摂食に影響を与える摂
泌を促し成長を亢進するはずの因子が摂食を抑制す
食調節因子が多数報告されるに至った 。しかし、
るという事実は、成長と摂食の関係においては矛盾
それらの摂食調節因子の作用の一部は哺乳類とは異
するように見えるが、その原因については未だ明ら
なることが明らかにされつつある。例えば、哺乳類
かにされていない。
の摂食を促進するメラニン凝集ホルモンやモチリ
GH の分泌に影響を与える因子の一つとして成長ホ
ン、オレキシンはニワトリヒナの摂食には影響を与
ルモン放出ホルモン(GH-releasing hormone、GHRH)
えない
がある。GHRH は哺乳類の GH 分泌を促すとともに、
1)
。また、脂肪細胞から分泌されるレプチン
2,
3)
は哺乳類の摂食を抑制することで知られているが 4)、
摂食を亢進することで知られている13)。哺乳類由来
ニワトリヒナに哺乳類由来のレプチンを脳室内投与
の GHRH をニワトリヒナに脳室内投与すると摂食
しても摂食に変化は見られない 。興味深いことに、
が抑制されることから14)、この GHRH も前述の GH
キンギョをはじめとする硬骨魚類における摂食調節
関連ホルモンと同様に哺乳類と異なる作用を示すと
6)
因子の作用は哺乳類と類似しているものが多い 。
考えられる。ただし、この哺乳類由来の GHRH はニ
これらの事実からニワトリヒナの摂食調節機構は脊
ワトリ由来の GHRH との間の相同性が低く、哺乳
椎動物の進化の過程で独自に発達したものと考えら
類由来の GHRH をニワトリに静脈内投与すると GH
れている。
分泌を促すものの15)、ニワトリ由来の GHRH を投与
哺乳類や硬骨魚類とは明確に異なる作用を示す因
しても血中 GH 濃度には変化が見られない 16)。さ
子の中には、成長ホルモン(GH)の分泌調節に関
らにニワトリ GHRH の近傍遺伝子座を哺乳類のも
わるものが多い。例えば、哺乳類の胃から分泌され
のと比較すると明らかに異なる。ニワトリの GHRH
るグレリンは、GH の分泌を促すとともに摂食を亢
は 2 番染色体にある下垂体アデニレートシクラー
進させるが
ゼ活性化ポリペプチド(pituitary adenylate cyclase-
5)
、ニワトリヒナにグレリンを脳室内
7,
8)
投与すると哺乳類とは正反対に摂食が抑制される 。
9)
activating polypeptide、PACAP)と同じ遺伝子に由来
Proceedings of Japanese Society for Animal Nutrition and Metabolism 60(1): 25-33, 2016.
Role of growth hormone-related hormone on feeding regulatory mechanism in the brain of chicks
Tetsuya Tachibana
Laboratory of Animal Production, Faculty of Agriculture, Ehime University
- 25 -
するとされていたのに対し、ヒトの GHRH 遺伝子
移し、実験環境に馴化させた。実験直前にニワトリ
は PACAP 遺伝子がある 18 番染色体になく、20 番染
ヒナの体重を測定し、各群の平均体重が等しくなる
色体に独立して存在している 17)。以上のことから、
ように実験群に分けた。
ニワトリ GHRH は哺乳類とは全く異なるものであ
脳室内投与は Davis の方法19)に基づいて実施した。
り、GH 分泌作用が欠如していると考えられてきた。
簡潔に説明すると、透明アクリル製の頭部固定装置
しかし、2007 年に既知の GHRH とは別の GHRH
にヒナの頭部を挿入して保定し、固定装置の上部の
がニワトリで発見された
穴にマイクロシリンジを挿入して試薬液を 10μ1 投
。この新しく発見され
17)
た GHRH の遺伝子は 20 番染色体に存在しており、
与した。なお、試薬液にエバンスブルーを加えるこ
近傍の遺伝子群も哺乳類のものと完全に一致してい
とで、脳室内に正確に投与されたかを開頭後に目視
ること、さらにニワトリの GH 分泌を促したことか
により確認した。
ら 18)、これが真のニワトリ GHRH(以下 cGHRH)
自由摂食状態の 5∼6 日齢ヒナを 4 群に分け、0
であることが判明した。そしてこれまでニワトリ
( 溶 媒 の み、 対 照 群 )、0.04、0.2 ま た は 1.0nmol の
の GHRH と考えられていたものは、脊椎動物の進
cGHRH を脳室内投与し、投与 30、60 および 90 分
化の過程で生じた全ゲノム重複によって生じたもの
後の摂食量を測定した。cGHRH はその全長にあた
で、GH 分泌促進作用を失った GHRH 様ペプチド
る cGHRH(1−47)の他、N 末端側から 27 番目のみ
(GHRH-like peptide、以下 cGHRH-LP)であることが
の cGHRH(1−27)、さらにその C 末端がアミド化
明らかとなった。すなわち、ニワトリには 20 番染
された cGHRH(1−27)NH2 が存在すると考えられ
色体に存在する cGHRH(新しく発見された GHRH)
ている。そこで、この 3 種の cGHRH を脳室内投与
遺伝子と、2 番染色体に存在する cGHRH-LP(過去
した後の摂食量を調べた。その結果、cGHRH(1−
に発見されていた GHRH)遺伝子の 2 種類がある
47)および cGHRH(1−27)NH2 を脳室内投与した
こ と に な る。 な お、 哺 乳 類 で は PACAP 遺 伝 子 の
場合にニワトリヒナの摂食量が有意に減少した(図
近傍に存在する遺伝子によってコードされている
1)20)。cGHRH(1−27)に摂食抑制作用が見られな
PACAP 関連ペプチドが cGHRH-LP と相同であると
かったことから、C 末端側のアミド化が摂食抑制作
考えられている。
用に関わっていると考えられる。また、全長である
以上の様にニワトリには cGHRH と cGHRH-LP と
cGHRH(1−47)が最も強い摂食抑制作用を示した
いう 2 つの GHRH 関連ペプチドがあることが明らか
ため、cGHRH の摂食抑制作用には C 末端側配列が
となった。ただし、これらの GHRH 関連ペプチド
重要な役割を果たしていることが示唆された。
がニワトリヒナの摂食にどのような影響を与えるか
この摂食抑制作用は cGHRH-LP を脳室内投与し
は明らかにされていない。本研究ではニワトリヒナ
た場合にも見られた(図 1)20)。したがって、ニワ
の摂食調節機構における cGHRH および cGHRH-LP
トリに存在している二つの GHRH 関連ペプチドは
の役割を明らかにすることを目的とした。これら
両者とも摂食抑制作用を有していることが明らかと
に加え、GH 分泌に影響を与えるとされているプロ
なった。
ラクチン放出ペプチド(prolactin-releasing peptide、
PrRP)の役割についても明らかにすることを目的と
3.cGHRH および cGHRH-LP の腹腔内投与による
摂食量の変化
した。
これまでの研究により、cGHRH および cGHRH2.cGHRH および cGHRH-LP の脳室内投与による
摂食量の変化
LP は脳以外の末梢組織にも発現していることが
明らかにされている 17)。したがって、末梢組織の
本研究には卵用種オスヒナを用いた。1 日齢ヒナ
GHRH 関連ペプチドが脳に作用することで摂食を抑
を室温 30±1℃、24 時間点灯条件下で市販飼料と水
制している可能性がある。そこで GHRH 関連ペプチ
を不断給与して飼育した。実験前日に個別ケージに
ドを腹腔内投与した場合の摂食量の変化を調べた。
- 26 -
上述の GHRH を生理食塩水に溶解したものを腹
および cGHRH-LP についても同様の検討を行った。
腔内投与に用い、一羽あたり 200μ1 投与した。自由
その結果、cGHRH(1−47)を腹腔内投与した場合に
摂食状態の 6∼7 日齢ヒナを 3 群に分け、0(溶媒のみ、
のみ摂食量が有意に減少したことから(図 2)21)、
対照群)、0.2 または 1.0nmol の cGHRH(1−47)を
末梢由来の cGHRH も摂食抑制に関わっている可能
腹腔内投与し、その 30、60 および 90 分後に摂食量
性が示唆された。
を測定した。cGHRH(1−27)、cGHRH(1−27)NH2
図 1.cGHRH および cGHRH-LP の脳室内投与による
摂食量の変化
数値は平均値±標準誤差で示す(各群 n=6∼10)
。
同一時間帯において異符号間に有意差あり(P<
0.05)。
- 27 -
図 2.cGHRH および cGHRH-LP の腹腔内投与による
摂食量の変化
数値は平均値±標準誤差で示す(各群 n=6∼9)。
同一時間帯において異符号間に有意差あり(P<
0.05)。
4.cGHRH および cGHRH-LP の投与によるヒナの
行動の変化
プチドが PACAP 受容体を介している摂食を抑制し
ている可能性が残る。そこで、GHRH 関連ペプチド
以上のように GHRH 関連ペプチドを投与すると
の摂食抑制作用と PACAP 受容体の関係を調べた。
ニワトリヒナの摂食量が低下した。ただし、これは
自由摂食状態の 5 日齢ヒナを、溶媒のみ(対照群)
GHRH 関連ペプチドが他の行動を活性化させたり、
脳 室 内 投 与、1.0nmol の cGHRH(1−27)NH2 ま た
あるいは睡眠様行動や痙攣等を引き起こすことで、
は cGHRH-LP を単独で脳室内投与、そしてこれら
ニワトリヒナの摂食行動が阻害されたためなのかも
の GHRH 関連ペプチドおよび PACAP 受容体アンタ
しれない。そこで、GHRH 関連ペプチドの投与がニ
ゴニストである PACAP(6−38)を同時に脳室内投
ワトリヒナの行動にどのような影響を与えるかを調
与する群の 3 つに分けた。それぞれの脳室内投与を
べた。
実施し、その 30、60 および 90 分後の摂食量を測定
自由摂食状態の 5 日齢ヒナを 2 群に分け、0(溶
し た。 そ の 結 果、PACAP(6−38) は cGHRH(1−
媒のみ、対照群)または 1.0nmol の cGHRH(1−27)
27)NH2 および cGHRH-LP の摂食抑制作用には影響
NH2 または cGHRH-LP を脳室内投与し、その後 30
を与えなかった(図 3)20)。以上のことから、GHRH
分間の行動を観察した。ニワトリヒナの自発運動量
関連ペプチドによる摂食抑制作用には PACAP 受容
はニワトリヒナのケージの上に取り付けた赤外線セ
ンサーと、それを接続した自発運動量測定装置にて
測定した。さらにケージの正面にデジタルビデオカ
メラを設置してニワトリヒナの行動を撮影し、録画
した映像を基にニワトリヒナの立位時間と座位時間
を測定するとともに、毛繕いやジャンプなどの回数
を計数した。その結果、cGHRH(1−27)NH2 およ
び cGHRH-LP の脳室内投与は毛繕いの回数を除い
てニワトリヒナの行動に影響を与えないことが明ら
かとなった 20)。また、血中コルチコステロン濃度
も cGHRH(1−27)NH2 および cGHRH-LP の脳室内
投与による影響を受けなかったことから 20)、両ペ
プチドはストレス反応の内分泌経路である視床下部
−下垂体−副腎皮質軸を活性化させないと考えられ
た。以上のことから、GHRH 関連ペプチドは行動の
活性化や睡眠、痙攣など異常行動の誘発によるもの
ではないことが明らかとなった。
5.GHRH 関連ペプチドの摂食抑制作用と PACAP
との関連
前述の様に、cGHRH-LP 遺伝子は PACAP 遺伝子
の近傍にあり、哺乳類では PRP と名付けられている。
PACAP 受容体を発現させた培養細胞を用いた研究に
より、高濃度の cGHRH や cGHRH-LP が PACAP 受
容体を活性化させることが明らかになっている 17)。
PACAP の脳室内投与は PACAP 受容体を介してニワ
トリヒナの摂食を抑制するため 22)、GHRH 関連ペ
- 28 -
図 3 cGHRH および cGHRH-LP の摂食抑制作用に対
する PACAP 受容体アンタゴニストの効果
この実験は 12 時間絶食後に実施した。PACAP
受容体アンタゴニストとして PACAP(6−38)を
用いた。cGHRH および cGHRH-LP の投与量は
1nmol で あ り、PACAP(6−38) の 投 与 量 は 0.5
nmol である。数値は平均値±標準誤差で示す
(各
群 n=8∼12)。同一時間帯において異符号間に
有意差あり(P<0.05)。
体が無関係であることが明らかとなった。
遺伝子発現量は低下すると考えられたが、それとは
cGHRH と cGHRH-LP はそれぞれの受容体があり、
正反対の結果になった。この理由については今のと
cGHRH-LP の受容体は cGHRH-LP によってのみ活
ころ明らかにされていない。ただし、間脳のうち漏
性化されるのに対し、cGHRH の受容体は cGHRH
斗部のみ取り出しその cGHRH の mRNA 発現量を調
と cGHRH-LP の両者によって活性化されると考え
べたところ、絶食により有意に低下した(未発表)
。
られている
。したがって、cGHRH と cGHRH-LP
これは cGHRH の摂食抑制作用が絶食により低下し
の摂食抑制作用には cGHRH 受容体が関わっている
たと判断する考えと一致する。いずれにしても、間
可能性がある。
脳には絶食に応じて様々な変化を示す cGHRH 含有
23)
細胞が数種類存在することが考えられる。
6.摂食行動の変化に伴う GHRH 関連ペプチド遺伝
子発現の変動
このように脳内の cGHRH 遺伝子は絶食に応じて
変化することが明らかとなった。しかし、この実験
これまでは cGHRH や cGHRH-LP を外因的に投
の絶食期間が 24 時間と長いため、この変化が食欲
与した後の摂食反応について調べてきたが、脳内の
の変化に伴って生じたのか、あるいは絶食による代
GHRH 関連ペプチドが実際に摂食調節に関わってい
謝の変化によって生じたのかは現在のところ分から
るかはわからない。内因性 GHRH 関関連ペプチド
ない。cGHRH および cGHRH-LP の受容体アンタゴ
が摂食に関わっているかを調べるため、絶食に伴う
ニストが開発されれば行動薬理学的な解析が可能に
cGHRH および cGHRH-LP の遺伝子発現量の変化を
なり、また cGHRH や cGHRH-LP あるいはそれらの
調べた。7 日齢ヒナを 2 群に分け、片方には飼料を
受容体を遺伝子発現の操作あるいは遺伝子改変ニワ
自由に摂取させ、もう片方には 24 時間絶食させた。
トリを作製すれば、GHRH 関連ペプチドの摂食にお
絶食後に間脳を採取し、全 RNA を抽出、cDNA を
ける作用が解明できるであろう。
合成し、リアルタイム PCR を用いた相対定量によ
り cGHRH および cGHRH-LP の mRNA 発現量を調
7.cGHRH と成長との関係
べた。その結果、cGHRH-LP の mRNA 発現量は増
これまでの研究により、cGHRH の末梢投与がニワ
加する傾向にとどまったものの、cGHRH では有意
トリの GH 分泌を促すことが明らかにされている 18)。
に増加した(図 4)20)。絶食期間中は食欲が低下す
この結果は、cGHRH の摂食抑制作用が GH を介し
るため摂食抑制作用を持つ GHRH 関連ペプチドの
ている可能性をしている。そこで、ニワトリヒナに
GH を腹腔内投与した後の摂食量の変化を調べたが、
摂食量に有意な変化は見られなかった 21)。この結
果から、cGHRH の作用には GH が関与していない
と考えられた。cGHRH-LP には GH 分泌作用はない
ことも、GHRH 関連ペプチドの摂食抑制作用には
GH が無関係であることを支持している。
また、浸透圧ポンプを用いた cGHRH(1−47)の
慢性的末梢投与を行い、数日間の摂食量の変化を調
べたが各日の摂食量に変動は見られなかった(未発
表)。これは、cGHRH(1−47)の摂食抑制作用はあ
くまで短期的なものであり、成長に影響をもたらす
ものではないことを示唆している。
図 4 異なる摂食条件における間脳 cGHRH および
cGHRH-LP の mRNA 発現量
数値は平均値±標準誤差で示す(各群 n =7 ∼ 8)。
*
自由摂食群と比較して有意差あり(P<0.05)。
8.ニワトリヒナの摂食調節における PrRP の役割
PrRP はその名の通り当初は視床下部から下垂体
- 29 -
前葉のプロラクチンの分泌を促すホルモンとして単
パラログにあたることになり、脊椎動物には PrRP
離された
。しかし、その後の研究により PrRP 含
と C-RFa の両遺伝子が存在することになる。実際に
有神経細胞終末が視床下部内側隆起外層に投射して
様々な硬骨魚類や爬虫類、両生類、鳥類に両者の遺
いないこと
伝子が存在していることが明らかにされている 37)。
24)
、PrRP にプロラクチン分泌作用がほ
25)
とんどないことから 26)、PrRP はプロラクチン分泌
これらの事実から、著者は C-RFa を PrRP2 と改称
にはそれほど関わっていないと考えられている。た
することを提案している 37)。なお哺乳類では PrRP2
だし、哺乳類では PrRP が摂食抑制作用を有し 27)、
遺伝子が欠損していると考えられている 36)。これ
そしてストレス反応に関与していることが明らかに
らの事実から、プロラクチン分泌作用および GH 分
されているので
泌抑制作用を有する祖先遺伝子が遺伝子重複によっ
、現在ではこれらの作用に注目
28)
が集まっている。
て PrRP と PrRP2 になり、哺乳類では PrRP2 が欠損
なお、哺乳類に PrRP を脳室内投与すると血中
して PrRP にそれらの作用が残ったと考えられる。
GH 濃度が低下することが報告されている
。こ
硬骨魚類では PrRP2 にプロラクチン分泌作用と GH
の作用はニワトリヒナに哺乳類由来の PrRP を脳室
分泌抑制作用があるが、PrRP 遺伝子が失われてお
内投与した場合にも見られることから
らず、硬骨魚類の PrRP の生理作用については今後
29)
、PrRP は
30)
GH 分泌に影響を与える因子の一つである可能性が
の研究が必要である。
ある。この哺乳類 PrRP をニワトリヒナに脳室内投
以上のことから、著者らが調べてきた C-RFa は
与したところ、哺乳類とは正反対に摂食が有意に亢
PrRP2 であったことになる。現在、著者らはニワト
進することから
、PrRP もニワトリヒナ独自の作
リの PrRP を合成し、ニワトリヒナに脳室内投与す
用を示す摂食調節因子である可能性が高いと考えら
ると PrRP2 と同様に摂食が亢進することを見出して
れていた。しかし、ニワトリヒナに哺乳類 PrRP を
いる(未発表)。PrRP2 に加えて PrRP の摂食に対す
脳室内投与すると血漿中プロラクチン濃度が低下す
る作用も哺乳類とは正反対であることになる。ニワ
ることから
トリにおける PrRP および PrRP2 の生理作用を調べ、
31)
、この PrRP がニワトリヒナにおいて
30)
本当に PrRP として作用しているのかという疑問が
哺乳類をはじめとする脊椎動物のものと比較するこ
残っていた。
とで、脊椎動物の脳内摂食調節機構における PrRP
これらの研究とは別に、硬骨魚類では哺乳類 PrRP
の役割とその進化が明らかになるかもしれない。
と類似したアミノ酸配列を持つ C-RFa というペプチ
ドが単離されている 32)。このペプチドは 20 個のア
9.おわりに
ミノ酸からなり、哺乳類の PrRP の C 末端側のアミ
以上の様に、ニワトリヒナの脳内摂食調節機構に、
ノ酸配列と完全に一致していたこと、そしてプロラ
GH 分泌に関わる GHRH と PrRP が関わっている可
クチン分泌作用を示したことから
、硬骨魚類の
能性を示した。さらにこれらのホルモンの摂食に対
PrRP と考えられていた。さらにこの C-RFa は硬骨
する作用がニワトリヒナと哺乳類で異なっていたこ
魚類の GH 分泌を抑制することも明らかにされてい
とから、成長と摂食の関係が両者で異なっている可
る
。著者らの研究グループでは、ニワトリにお
能性を示している。ただし、過去の研究により、ニ
いてこの C-RFa と相同の遺伝子を単離し、その成熟
ワトリは幼雛と中雛以降では摂食調節機構に違いが
ペプチドが脳に存在することを見出している 34)。さ
あることも報告されている。例えば哺乳類由来のレ
らに、C-RFa をニワトリヒナに脳室内投与したとこ
プチンを 3 週齢までのニワトリヒナに脳室内投与し
ろ、摂食が有意に亢進することを報告している
ても摂食に影響を与えないが 5)、4 週齢以降では摂
33)
33)
。
34)
ところが後のシンテニー解析により、この C-RFa
食を抑制する 37)。ニワトリヒナだけではなく、中雛、
の遺伝子は PrRP 遺伝子と相同ではなく共通の祖先
大雛または成鶏を用いた研究を実施することで、ニ
遺伝子が遺伝子重複したことによって作られたこと
ワトリの脳内摂食調節機構における GH 分泌に関わ
が明らかとなった
るホルモンの役割がより明らかになるだろう。
。すなわち、C-RFa は PrRP の
35)
- 30 -
ニワトリヒナには祖先遺伝子の重複によって作ら
of leptin in the control of feeding of goldfish
れた 2 種類の GHRH および PrRP があることを紹介
Carassius auratus: interactions with cholecystokinin,
したが、それらは硬骨魚類にも見出されている17,35)。
neuropeptide Y and orexin A, and modulation by
したがって、この遺伝子重複は少なくとも硬骨魚類
fasting. Brain Res., 972:90−109.
の誕生までには生じていたことを意味する。そのよ
7) Kojima M, Hosoda H, Date Y, Nakazato M, Matsuo
うな長い歴史をもつペプチドであるにも関わらず、
H, Kangawa K. 1999. Ghrelin is a growth-hormone-
摂食と言う生命維持に必須の行動に対する作用がニ
releasing acylated peptide from stomach. Nature,
ワトリヒナのみ独自の作用を示すことは実に興味深
402:656−660.
い。本稿では GHRH および PrRP について、外因的
8) Nakazato M, Murakami N, Date Y, Kojima M,
に投与した実験結果を中心に説明した。これらのペ
Matsuo H, Kangawa K, Matsukura S. 2001. A role
プチドの内因性の作用について明らかにすることが
for ghrelin in the central regulation of feeding.
できれば、ニワトリヒナの脳内摂食調節機構、ニワ
Nature, 409:194−198.
トリヒナにおける成長と摂食の関係、そして脊椎動
9) Saito ES, Kaiya H, Takagi T, Yamasaki I, Denbow
物の摂食調節機構の進化を解明できるのかもしれな
DM, Kangawa K, Furuse M. 2002. Chicken ghrelin
い。
and growth hormone-releasing peptide-2 inhibit
food intake of neonatal chicks. Eur. J. Pharmacol.,
【引用文献】
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injection
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of
mammalian
motilin,
melanin-
concentrating hormone or galanin does not stimulate
13) Vaccarino FJ, Bloom FE, Rivier J, Vale W, Koob GF.
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5) Bungo T, Shimojo M, Masuda Y, Tachibanab
Yoshimatsu
T,
Denbow
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Comparison
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ES, Nakanishi T, Koutoku T, Tsukada A, Ohkubo
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- 32 -
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"prolactin-releasing
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- 33 -
栄養生理研究会報 Vol.60,No.1 2016
グルカゴン様ペプチド 1 の反芻動物における特異的な分泌と作用について
杉野利久 1・福森理加 2・谷口 大 1・Mabrouk EL-SABAGH1,3・小櫃剛人 1
(1 広島大学日本型(発)畜産・酪農技術開発センター、大学院生物圏科学研究科、
2
宇都宮大学農学部附属農場、3 カルフ・エル=シーク大学獣医学部)
1.はじめに
で あ る DPP-Ⅳ(dipeptidyl-peptidase Ⅳ )に よ っ て 血
単胃動物において、血漿グルコース濃度の増加を
中で速やかに分解され、その半減期は数分である 6)。
同程度になるように設定し、経口あるいは静脈内に
GLP-1 は、産生細胞から毛細血管床、腸間膜静脈を
グルコースを注入した場合、経口から注入する方が
経て門脈に到達した時点で約 75%が不活化、肝臓で
血漿インスリン濃度をより増加させる。これは、食
の代謝を経て体循環に入る(first pass)ときには約
事に伴い消化管から産生・分泌されるインクレチン
90%が不活化するとされている 7)。このことから、
(incretin)と総称される消化管ホルモンが、グルコー
GLP-1 は、多くの組織で受容体が発現しているもの
スの吸収により分泌され、血糖依存的に膵ラ島 B
の、インクレチンとしての作用と肝臓での作用が生
細胞に作用し、インスリン分泌を促進するからであ
理的には重要であるかもしれない。
る。インクレチンには、小腸上部に存在する K 細
出生直後の反芻動物は、反芻胃が未発達のため、
胞から分泌される GIP(gastric inhibitory polypeptide
単胃動物と同様の消化吸収様式を示すが、反芻胃の
あるいは glucose-dependent insulinotropic polypeptide)
発達や離乳により飼料の消化を反芻胃内発酵に依存
や GLP-1
(glucagon-like peptide-1
(7−36)
amide)
がある。
するようになる。特に炭水化物のうちデンプンや糖
これらホルモンの受容体欠損マウス
では、イン
類は、そのほとんどが反芻胃内発酵により揮発性脂
スリン分泌が野生型マウスと比較して低下し、血糖
肪酸(VFA)として胃壁から吸収されるため、小腸
値が増加する。したがって、単胃動物においてイン
からのグルコースの吸収はほとんど無い。そのため、
クレチンは、血糖調節に重要なホルモンであると考
離乳後の反芻動物のグルコース供給は、肝臓での糖
えられている。
新生に依存しており、血漿グルコース濃度は単胃動
発見の経緯から GIP と GLP-1 はインクレチンと
物と比較して低く、給飼後の血漿グルコース濃度の
称されてはいるが、インスリン分泌促進作用以外に
変化もほとんど無い。しかしながら、VFA はイン
も生理作用を有している。GIP 受容体は脂肪や骨芽
スリン分泌を促進するため、給飼後に血漿インスリ
細胞にも発現しており、脂肪取込や骨へのカルシウ
ン濃度の増加は認められるが、血漿グルコース濃度
ム沈着を促進する 。GLP-1 受容体は、多くの組織
が低いため、生来的にインスリン感受性が弱い(イ
に局在し、胃排泄抑制作用、インスリン作用増強作
ンスリン抵抗性)。反芻動物においても、腸管 L 細
用、肝臓での糖新生抑制や脂肪細胞への糖取込など
胞には GLP-1 は局在しているが、その生体内での役
のインスリン類似作用、中枢においては食欲抑制作
割は不明な点が多い。
用など数多くの作用が報告されている 3,4,5)。しかし
本稿では、反芻動物の GLP-1 の分泌と作用に関し
ながら、両ホルモンは、アミノ酸配列の N 末端か
て、筆者らの研究成果を踏まえて概説する。
1)
2)
ら 2 番目がアラニンであるため、タンパク分解酵素
Proceedings of Japanese Society for Animal Nutrition and Metabolism 60(1): 35-43, 2016.
The characteristics of secretion and action in glucagon-like peptide-1 of ruminants
Toshihisa Sugino1, Rika Fukumori2, Dai Taniguchi1, Mabrouk EL-SABAGH1,3, Taketo Obitsu1
(1The Research Center for Animal Science, Graduate School of Biosphere Science, Hiroshima University, Higashi-Hiroshima 739 -
8528, Japan, 2University Farm, Department of Agriculture, Utsunomiya University, Mohka 321-4415, Japan, 3Faculty of Veterinary
Medicine, Kafrelsheikh University, 33516, Kafr El-Sheikh, Egypt)
- 35 -
2.反芻動物の GLP-1 分泌 8)
図 1 にホルスタイン種子牛の出生後からの血漿
GLP-1 濃度の推移を示した。血漿 GLP-1 濃度は、出
生後から離乳に向けて徐々に減少したが、離乳を境
に、再び増加した。血漿グルコース濃度は出生後か
ら徐々に減少し、離乳後 13 週齢では成牛と同程度
の濃度であった。一方で、血漿β−ヒドロキシ酪酸
(BHBA)濃度は、固形飼料摂取量の増加に伴い増
加し、離乳後は高値で推移した。この BHBA 濃度
の増加は、反芻胃内での酪酸発酵に依存しているも
のと推測される。離乳前の血漿 GLP-1 濃度は、単胃
動物と同様にグルコース濃度と類似した推移を示し
たが、離乳後はグルコース濃度が低値で推移してい
たにもかかわらず、GLP-1 濃度が再び増加に転じた
ことから、反芻動物ではグルコース吸収以外の要因
が GLP-1 分泌に関与している可能性が考えられ、ま
た酪酸発酵に起因する BHBA 濃度の増加と離乳後
の推移が類似していることから、インスリン分泌同
様に反芻動物では、VFA が GLP-1 分泌を促進する
一要因であると考えられた。
図 2 および 3 に、離乳前後の子牛におけるグルコー
スおよび VFA 頸静脈投与後の血漿 GLP-1 濃度の推
移を示した。単胃動物ではグルコース投与によって
血漿 GLP-1 濃度は増加するとされているが、離乳前
後の子牛では、グルコースによる GLP-1 分泌促進は
認められなかった(図 2)。本稿ではデータを示さな
いが、離乳前の子牛に経口からラクトースを注入し
た場合、血漿 GLP-1 濃度の増加は認めている(Sugino
et al., 16th AAAP proceeding, 2014)。このことから、
反芻動物においてもグルコース吸収が GLP-1 分泌促
進の一要因であると考えられるが、単胃動物のそれ
と比較してその効果は弱い可能性が考えられる。一
方で、VFA による血漿 GLP-1 濃度の増加は、出生
後から認められた(図 3)。また、第一胃カニューレ
装着去勢ヒツジを用い、第一胃に VFA を注入した
場合も、同様に血漿 GLP-1 濃度の増加が示されてお
り、その効果は酪酸>プロピオン酸>酢酸の順で大
きかった(杉野ら、未発表)。さらに、血漿 GLP-1
濃度は、消化吸収を反芻胃内発酵に依存している成
ヒツジにおいて、給飼後の増加が認められている(杉
野ら、未発表)。このことから、反芻動物の GLP-1
- 36 -
図 1.子 牛の血漿 GLP-1(a),グルコース(b)およ
び BHBA(c)濃度推移(n=5)。
矢印:離乳,実線:給飼前濃度,点線:時系列
調整曲線
図 2.離乳前後の子牛へのグルコース単回投与(i.v.)が血漿 GLP-1 濃度に及ぼす影響(n=4,相対値)。
矢印:投与時間
*:投与前と比較して有意差あり(p<0.05)
- 37 -
図 3.離乳前後の子牛への混合 VFA 単回投与(i.v.)が血漿 GLP-1 濃度に及ぼす影響(n=4,相対値)。
矢印:投与時間
*:投与前と比較して有意差あり(p<0.05)
- 38 -
分泌は、VFA により促進され、その効果は生来的
に有していること、また VFA は反芻胃壁から吸収
されることから、吸収後の VFA が GLP-1 分泌に関
与している可能性が考えられ、その効果は酪酸およ
び酪酸発酵由来の BHBA で最も大きいことが考え
られる。
3.反芻動物の GLP-1 作用
3-1.インクレチン作用 8)
単胃動物における GLP-1 のインスリン分泌機序
は、膵ラ島 B 細胞に局在する 7 回膜貫通型 G 蛋白共
役受容体に結合し、アデニル酸シクラーゼ活性を介
して細胞内 cAMP 濃度を増加させ、インスリン分泌
を惹起する。しかし、cAMP シグナルは、単独では
インスリン分泌を惹起せず、細胞内 Ca2+ 濃度の増
加が同時に起きたときに、初めてインスリン分泌を
増強する。したがって、血糖値が低い状態では細胞
内 Ca2+ 濃度が増加しないため、GLP-1 によるイン
スリン分泌は発現しない 1,9,10)。また、GLP-1 は膵
ラ島 B 細胞のアポトーシスを抑制し、細胞増殖を
促進する 11)。他方で、GLP-1 は血中を介したインク
レチン作用のみならず、門脈から迷走神経求心路を
介して、脳幹経由で迷走神経遠心路を刺激しインス
リン分泌を増強することも報告されている 7)。この
ように GLP-1 によるインスリン分泌促進は、①血中
を介した血糖依存的な経路、②膵ラ島 B 細胞増殖
を介した経路、③神経系を介した経路の 3 つの経路
が考えられている。
図 4.離乳前後の血漿 GLP-1とインスリン濃度との相関
前項で述べたように、反芻動物の GLP-1 分泌は、
生来的に VFA により促進され、またグルコースに
よる促進効果は弱い。図 4 に離乳前後の子牛におけ
る GLP-1 のインスリン分泌促進作用は、血糖依存的
る血漿 GLP-1 濃度とインスリン濃度との相関を示
ではなく、他の経路を介した作用であると推察され
した。両者は離乳前後ともに正の相関関係にあった
るが、その作用機序に関しては今後の検討課題であ
が、相関係数は離乳後の方が高値であった。図 5 に
る。反芻動物は、VFA によりインスリン分泌が促
離乳前後の子牛における GLP-1 頸静脈投与後の血
進される。また著者らの研究により、GLP-1 は VFA
漿インスリン濃度増加面積を示した。GLP-1 による
により分泌が促進され、また GLP-1 は血糖非依存
インスリン分泌促進作用は、出生後から認められた
的にインスリン分泌を促進することが明らかとなっ
が、その効果は離乳により増大した。血漿グルコー
た。このことから、反芻動物におけるインスリン分
ス濃度は離乳前が離乳後と比較し高値であったにも
泌機序には、GLP-1 が関与している可能性が考えら
関わらず(図 1b)、GLP-1 とインスリンとの関係性
れる。
は離乳後の方が強い。したがって、反芻動物におけ
- 39 -
図 5.離乳前後の子牛への GLP-1 単回投与(i.v.)が血漿インスリン濃度に及ぼす影響
(n= 4,増加面積:min・ng/ mL)。
矢印:離乳
3-2.膵外作用 12,13,14)
ている可能性が示された。GLP-1 投与による血漿イ
先述のように、GLP-1 受容体は多くの組織で発現
ンスリン濃度の増加は一過性であり、バイオプシー
しており、GLP-1 は膵ラ島 B 細胞におけるインスリ
時にはすでに低値で推移していた(GLP-1 は高値)
ン分泌促進作用の他、A 細胞ではグルカゴン分泌抑
ことから、この肝臓代謝物への影響は GLP-1 による
制、中枢神経系では摂食抑制があり、神経系を介し
可能性が考えられる。
た作用として胃酸分泌抑制や消化管運動抑制作用な
そこで詳細に GLP-1 の肝臓での作用を検討する
どを有する。また、Ⅱ型糖尿病(インスリン抵抗性)
ために、去勢ヒツジを用いて、ユーグリセミックク
では、インスリン作用増強やインスリン類似作用を
ランプと GLP-1 注入併用試験を実施した。血漿イ
発現する
ンスリン濃度はユーグリセミッククランプ開始後か
。このように単胃動物において GLP-1は、
15)
インクレチンとしての作用以外にも栄養代謝におい
ら高値を示し、その後、GLP-1 注入により一過性の
て重要な作用を有することが明らかとなってきてい
増加を示した後、ユーグリセミック終了後、速やか
る。しかしながら、GLP-1 は DPP- Ⅳにより速やか
に減少し、試験終了まで低値で推移した(data not
に不活化され、肝臓を通過する量は少ない。したがっ
shown)。一方、血漿 GLP-1 濃度は、GLP-1 注入開始
て、門脈から迷走神経求心路を介した作用および肝
。
から試験終了まで高値で推移した(data not shown)
臓での作用が生理的条件下では重要であるかもしれ
図 6 にその時の血漿成分濃度を示した。血漿トリグ
ない。
リセリド(TG)濃度は、インスリン注入に伴い増
表 1 にホルスタイン種去勢牛への GLP-1 頸静脈単
加したが、インスリン注入終了後は減少した。総コ
回投与 30 分後に変化した肝臓代謝物を示した。肝
レステロール(T-CHO)濃度は、インスリン注入に
臓代謝物はバイオプシーにより得られた組織片を用
よる影響は見られず、GLP-1 注入により減少した。
い、CE-TOFMS により解析した。結果として、203
血漿遊離脂肪酸(NEFA)、ケトン体および乳酸濃度
代謝物のピークが検出され、そのうち主要代謝物は
は、インスリンにより減少したが、GLP-1 注入下で
85(47 cations, 38 anions)検出された。GLP-1 の投
は増加した。また、血漿グルカゴン濃度は試験期間
与により対照区と比較して変化した肝臓代謝物は 20
を通して低値で推移した。
産物であり、その変化した代謝物から、GLP-1 は、
図 7 にインスリン、GLP-1 および併用注入時の去
肝臓での糖新生、脂質合成および尿素合成を促進し
勢ヒツジ肝臓代謝物濃度(相対値)を示した。これ
- 40 -
表 1.去勢牛への GLP-1 単回投与(i.v.)後に変化した肝臓代謝物(n=3)。
Ratio:GLP-1 投与後の肝臓代謝物/生理食塩水(対照区)投与後の肝臓代謝物
図 6.去勢ヒツジにおけるユーグリセミッククランプおよび GLP-1 注入が血漿成分に及ぼす影響(n= 4)。
〇:ユーグリセミッククランプ開始時と比較して有意差あり(p<0.05)
△:GLP-1 注入開始時と比較して有意差あり(p<0.05)
□:ユーグリセミッククランプ終了時と比較して有意差あり(p<0.05)
※グルコースは基礎血糖値を維持するように可変的に試験終了まで頸静脈から注入
- 41 -
a)
b)
c)
d)
図 7.去勢ヒツジにおけるユーグリセミッククランプおよび GLP-1注入が肝臓代謝物に及ぼす影響(n=4)。
a)解糖系・ペントースリン酸回路 b)TCA 回路 c)糖源性基質 d)脂質代謝
a,b:p<0.05
ら肝臓代謝物の一部は、図 6 で示した血漿成分と同
要吸収エネルギー源を前述のように VFA に依存し
様の変化を示しており、また、多数の肝臓代謝物に
ており、生来的にインスリン抵抗性を有する。この
おいて GLP-1 はグルカゴン様の作用を示した。
ような動物種において、GLP-1 が抗インスリン作用
以上のことから、反芻動物の GLP-1 は単胃動物と
を示すことは、ある意味で合目的である。
は異なり、インスリン作用の増強あるいはインスリ
【参考文献】
ン類似作用は示さず、グルカゴン様の作用を示す可
1) Scrocchi LA, Brown TJ, MaClusky N, et al. 1996.
能性が考えられる。
Glucose intolerance but normal satiety in mice
4.おわりに
with a null mutation in the glucagon-like peptide 1
反芻動物の GLP-1 は、単胃動物とは異なり、グル
receptor gene. Nat. Med., 2:1254−1258.
コースによる分泌刺激は生来的に弱く、反芻動物の
2) Tsukiyama K, Yamada Y, Yamada C, et al. 2006.
主要エネルギー源である VFA により分泌が促進さ
Gastric inhibitory polypeptide as an endogenous
れる。また、インクレチンとしての作用は単胃動物
factor promoting new bone formation after food
同様に有するが、それは血糖依存的作用ではない。
ingestion. Mol. Endocrinolo., 20: 1644−1655.
また膵外作用に関しては抗インスリン(グルカゴン
3) Turton MD, O Shea D, Gunn I, et al. 1996. A role
様)作用を示すことが考えられる。反芻動物は、主
for glucagon-like peptide-1 in central regulation of
- 42 -
feeding. Neture, 379: 69−72.
Double incretin receptor knockout (DIRKO) mice
4) Holst JJ. 2007. The physiology of glucagon-like
reveal an essential role for the enteroinsular axis in
peptide 1. Physiol. Rev., 87:1409−1439.
transducing the glucoregulatory actions of DPP-IV
5) Seino Y, Fukushima M, Yabe D. 2010. GIP and
GLP-1, the two incretin hormones: Similarities and
inhibitors. Diabetes, 53: 1326−1335.
11) Farilla L, Bulotta A, Hirshberg B, et al. 2003.
differencis. J. Diabetes Invest., 1:8−23.
Glucagon-like peptide 1 inhibits cell apoptosis and
6) Larsen J, Hylleberg B, Ng K, et al. 2001. Glucagon-
improves glucose responsiveness of freshly isolated
like peptide-1 infusion must be maintained for 24 h/
human islets. Endocrinology, 144: 5149−5158.
day to obtain acceptable glycemia in type 2 diabetic
12) El-Sabagh M, Taniguchi D, Sugino T, et al. 2014.
patients who are poorly controlled on sulphonylurea
Effect of glucagon-like peptide-1 and ghrelin on
treatment. Diabetes Care, 24: 1416−1421.
liver metabolites in steers. Anim. Prod. Sci., 54:
7) 山下英一郎,上野浩晶,中里雅光.2013.摂食
ホルモンの臨床.Annual Review 糖尿病・代謝・
1732−1736.
13) EL-Sabagh M, Taniguchi D, Sugino T, et al. 2015.
内分泌,205−210.
Insulin-independent
8) Fukumori R, Mita T, Sugino T et al. 2012.Plasma
concentrations
and
effects
of
actions
of
glucagon-like
peptide-1 in wethers. Anim. Sci. J., 86: 385−391.
glucagon-like
14) EL-Sabagh M, Taniguchi D, Sugino T, et al. 2016.
peptide-1 (7-36) amide in calves before and after
Metabolomic profiling reveals differential effects
weaning. Domest. Anim. Endocrinol., 43: 299−306.
of glucagon-like peptide-1 and insulin on nutrient
9) Miyawaki K, Yamada Y, Yano H, et al. 1999.
Glucose intolerance caused by a defect in the
partitioning in ovine liver. Anim. Sci. J., accepted.
15) Ikezawa Y, Yamatani K, Ohnuma H, et al. 2003.
enteroinsular axis: a study in gastric inhibitory
Glucagon-like
polypeptide receptor knockout mice. Proc. Natl.
induced glycogenolysis in perivenous hepatocytes
Acad. Sci. U S A, 96: 14843−14847.
specifically. Regul. Pept., 111: 207−210.
10) Hansotia T, Baggio LL, Delmeire D, et al. 2004.
- 43 -
peptide-1
inhibits
glucagon-
栄養生理研究会報 Vol.60,No.1 2016
放牧飼育による肥育豚の行動と生理的影響
戸澤あきつ
(信州大学農学部)
1.はじめに
りつつある 3)。2015 年 10 月に TPP(環太平洋パー
動物の行動と生理は互いに影響しあっている。生
トナーシップ)が合意されたいま、安価なだけでな
体内化学物質濃度が変化することにより、それに
く、アニマルウェルフェアに準じて生産された輸入
伴って行動に変化があらわれることがある。哺乳動
畜産物が国内市場に流通すると見込まれる。国内産
物では消化管、脂肪組織、脳における栄養素あるい
の畜産物の生き残りのためにもウェルフェアに配慮
は内分泌の変化によって空腹を感じ、エネルギーを
した畜産の推進および付加価値をつけた生産が求め
得ようと食物を探すように行動する。食物を得るた
られることは必須である。
めに探査し、栄養源となるものを探し当て、口にし、
アニマルウェルフェアは動物の飼育状態を動物主
咀嚼して体内に取り込む。繁殖行動でも同様のこと
体で捉え、「5 つの自由」を共通概念として掲げて
がいえる。オスではテストステロン、メスではエス
いる 4)。「①空腹および渇きからの自由」「②不快か
トロジェンの血中ホルモン濃度が上昇することによ
らの自由」「③苦痛、損傷、疾病からの自由」
「④正
り、互いに受入れるようになる。
常行動発現の自由」「⑤恐怖および苦悩からの自由」
また、その逆も起こる。行動発現の有無によって、
である。いずれかのみが満たされれば良いのではな
生体内の生理的変化が生じる場合である。種の存続
く、これらの 5 つがバランスよく満たされている状
のためにも種の典型的な行動や個体および社会的集
態を目指す。アニマルウェルフェア評価では動物の
団の中で行われる生得的な行動が動物には備わって
状態を正確に捉えるために、欲求や内的状態が表出
いる。生得的な行動の発現が困難な場合あるいは動
しうる行動からの側面と、行動だけでは捉えられな
きを拘束されることによって、動物はストレスを感
い生理的な側面からの両方を組み合わせた総合的な
じ、グルココルチコイドやアドレナリン、ノルアド
評価が望ましい。
レナリンといった血中ホルモン濃度が上昇する。特
現行の集約的な畜産方式における肥育豚の飼育環
に家畜や動物園動物といった、人間の管理下におか
境は狭小かつ単調であり、外部刺激が少なく、生得
れている飼育動物は自然下で発現している行動が制
的な行動が十分発現できない 5)。単調な環境の中で
限されやすいため、長期ストレスにさらされているこ
の慢性的無気力症 5)、あるいは適切な刺激の欠乏に
とが多い。また、母子行動における授乳・吸乳行動と、
よる異常な転嫁行動や常同行動の発達は長期的スト
乳汁の合成や分泌に関与するプロラクチン、オキシ
レスのあらわれであり、繁殖率の低下や疾病の増加
トシンといったホルモンの分泌の相関は高く
、行
といった生産性の低下へとつながる。対して、放牧
動の発現あるいは受容することによる生体内の生理
という飼育方式は、飼育スペースが拡大することや
変化が認められている。
屋外での多様な刺激が存在することから、行動の自
海外では家畜にとって苦痛や不快の少ない飼育方
由度が増し、家畜は活動的になる。給水や給
法を目指したアニマルウェルフェア畜産が主流とな
病予防、怪我への対応といった基本的な飼育管理が
1,
2)
Proceedings of Japanese Society for Animal Nutrition and Metabolism 60(1): 45-51, 2016.
Behavioural and physiological responses of fattening pigs rearing at pasture
Akitsu Tozawa
(Faculty of Agriculture, Shinshu University)
- 45 -
、疾
徹底されれば、アニマルウェルフェアの「5 つの自由」
入した。4 腹から 2 頭ずつ導入し、異なる腹の子豚
のうち、現行の集約畜産では実現しにくい「④正常
を 4 頭 1 群として舎飼区と放牧区に供試した。両処
行動発現の自由」が放牧では充足され、アニマルウェ
理区は同敷地内に設置し、気候、衛生環境、給与飼
ルフェアが向上すると考えられる 。
料を統一した。また、同一人物が管理することで、
そこで本稿では、現行の畜産で主流となっている
供試豚に対する扱いも統一した。舎飼区は開放式の
集約的な舎飼方式(以下、舎飼)と、粗放的な飼育で
豚舎を利用し(1.2m2 /頭)、床の半分はスノコ、半
ある放牧方式(以下、放牧)で飼育された肥育豚の行
分はベニヤ板であった。放牧区では舎飼区と同様の
動と生理的変化について生産性も含めて紹介する。
豚舎を設置し、加えて牧草のケンタッキーブルーグ
6)
ラス(Poa pratensis)、イタリアンライグラス(Lolitum
2.舎飼と放牧における肥育豚の行動発現と生産性
multiflorum)、レッドトップ(Agrostis alba)が優占す
の比較
る放牧地(200m2)を提供した。不断給
、自由飲
集約的な畜産方式における肥育豚の一般的な飼育
水であり、豚舎内の清掃は毎日行った。肥育豚の導
では、生産効率や衛生面、適度な休息場所の提供(横
入時期は 87 日齢、体重(平均±S.D.)は舎飼区で
臥が可能であるか)といった観点から、1 頭あたり
36.3±1.0kg、放牧区で32.9±1.1kg であった(P=0.04)。
0.8m2 程度の広さが提供された屋内ペンでの群飼が
行動観察は 151∼156 日齢、体重 100kg 前後の肥育
多い。また、飼育ペン内の環境はコンクリートやス
後期に行った。観察した行動の項目は表 1 の通りで
ノコ床で単調であり、多くの農家ではエンリッチな
ある。個体自身の生理的平衡を保つために発現され
環境を提供していない。ブタはイノシシを家畜化し
る維持行動と、間欠的にみられるイベント的な行動
た動物である。イノシシは林地あるいは草地で生活
を観察した。また、生産性の指標として、体重を導
することから、ブタを放牧地で飼育することで生得
入時、肥育後期に差しかかる 70kg 前後の時期(138
的な行動の発現がみられる。そこで、狭小で刺激が
日齢)と出荷時(193 日齢)に測定した。出荷時には
少ない単純な環境(舎飼区)と半自然下の環境(放
外傷評価を welfare Quality® assessment protocol9)に
牧区)での飼育が肥育豚の行動にどのように影響す
従って行った。
るか検討した 7,8)。
維持行動(表 2)では、飼料、生草、土壌すべて
同時期に産まれた LW 種、去勢雄を 8 頭同時に導
の摂食行動を合わせた全摂食行動の時間配分が舎飼
表 1.行動観察に使用した肥育豚のエソグラム
@&C
)NC
O/R8BRc)NcE
O/c)N
?PcJO/obhRZn
8Bc)N
-6cKBTle6BobhRZn
c)N
-6cobhRZn
(1C
H(1Ry{uqzsR=a`obi
$
3AkXVdA$Tle<;
[c
)NCR(1CR$cC
rwzv:b98ZnC
y{uqzs
Q_o'n
tx{rzs
b7op_Zn
!C
#UYmoiLUYmR0FUYmR
I%C
GnR2+MR7cmSRo]^4\gmofVfV5>^n
."C
b"Zn,*R
DC
cSoWRajn
(文献 7 をもとに改変)
- 46 -
表 2.肥育豚の維持行動の時間配分(平均±S.D.%)
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(
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(
(
"
+
(
+
(
(!
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"!(
(
,
)
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a:マンホイットニーの U 検定
(文献 7 をもとに改変)
区で 12.7±1.0%、放牧区で 19.9±3.5%となり、放牧
期よりも後期に高い増体を示すといえる。
区で摂食行動の発現が多くなった(P =0.03)。摂食
行動観察において、探査行動の時間配分は舎飼区
行動のうち、飼料の摂食では時間配分に違いがみら
で 3.3±0.8%であったが、放牧区では 12.2±1.0%と
れなかったが、放牧区では生草や土壌の存在により、
3.7 倍も発現していた(P=0.03)。ブタにとって発現
それらの摂食が発現されていた。同じ給与飼料を同
機会が減少することにより問題となる行動のひとつ
程度の時間摂食していたため、舎飼区と放牧区では
に探査行動がある。ブタは積極的に探査を行う動物
飼料からの栄養摂取は同程度であると考えられる。
であることから、探査行動の発現は重要である 11)。
しかし、放牧区では生草の摂食が全摂食行動のうち
探査行動には、
の 26.1%、土壌の摂食は 10.5%行われていた。摂取
明確な目的がある外因性探査と新規物といった外部
食物が異なれば、体内に取り込まれる栄養素も異な
からの刺激に対する好奇心に動機づけられた内因性
ると考えられた。
探査がある。探査行動の発現形態は外因性と内因性
このように、飼育環境が異なることで全摂食行動
で区別を付けることができないことから、内因性の
の時間配分に違いがあらわれることから、体重増加
探査行動を発現するためにも外部からの刺激は重要
にも影響を与えると考えられた。しかし、表 2 の結
となる。放牧地には適度な刺激が存在し、複雑な環
果からもわかるように、放牧区では休息が舎飼区の
境を提供できていたことから探査行動の発現を促す
73%であり、活動性が高かった。高い活動性はエネ
ことが可能であったといえる。
ルギー消費を促すことから、十分な増体が見込まれ
また、ブタは探査行動の中でも鼻先で穴を掘る行
ない可能性もある。本研究で体重測定を行ったとこ
動であるルーティング、そして口の中でものの咀
ろ、導入時(P=0.04)および 138 日齢(体重=平均
嚼を行うチューイングといった、口先を動かす oral
±S.D.;舎飼区 78.1±1.8kg、放牧区 70.1±1.4kg、P
behaviour の発現欲求が高い。ルーティングは舎飼
=0.03)では、放牧区よりも舎飼区で体重が有意に
区で発現がみられなかったが、放牧区では 13.9±6.0
増加していた。しかし、出荷時には舎飼区の体重(平
回/時と発現されていた(表 3、P=0.01)。チューイ
均± S.D.)は 119.3±11.5kg、放牧区は 119.9±4.6kg
ングは舎飼区で 0.3±0.3 回/時であったが、放牧区
となり、差がみられなかった(P=0.57)。Gentry ら
では 19.4±3.6 回/時発現されていた(P=0.02)。ブ
(2002)は夏期の放牧によって舎飼よりも肥育豚の
タは oral behaviour の発現が不十分な場合、その行
増体が良好だったと報告している
や休息場所を探し求めるといった
。本研究も夏
動を他個体や施設に向けて転嫁する12,13,14)。攻撃を
期に行われたが、導入時体重に差があったにも関わ
受けた個体は外傷の増加や食欲不振といった生産性
らず、出荷時体重では差がみられなくなった。肥育
の低下をもたらすことがあるため、失宜行動は精神
豚は放牧でも舎飼と
的ストレス指標のひとつといえる。他個体に対する
10)
色なく成長し、また、肥育前
- 47 -
表 3.各行動の 1 時間あたりの出現頻度(平均±S.D. 回/時)
! )+'#*%
"
&(+$*%
"
"
"
"
"
"
"
"
"
a:マンホイットニーの U 検定
(文献 7 をもとに改変)
攻撃性や転位行動を含めた失宜行動が舎飼区では
不飽和脂肪酸が肥育豚の体内に取り込まれ、体内不
8.3±5.9 回/時となり、0.7±0.8 回/時であった放牧
飽和脂肪酸含量の増加につながったと考えられた。
区よりも有意に多く発現されていた(P=0.02)。本
放牧地のブタは土壌の摂食も行っていることか
研究において出荷時外傷を評価したところ、舎飼
ら、土壌中のミネラルを摂取していると考えられ
区では 47.5±22.7 点、放牧区では 6.3±4.6 点となり、
る。しかし、ミネラルやビタミンといった微量の栄
放牧区で外傷が有意に少なくなった(P=0.03)。放
養素は給与配合飼料で十分補えることから、肥育豚
牧することで肥育豚は正常な行動の発現が可能とな
の土壌摂取による栄養学的メリットは少ないとされ
り、精神的ストレスが少なくなり、外傷の少なさと
ている 17)。ただ、生理的貧血を起こす哺乳期に放
いう生産性低下の防止につながったと考えられた。
牧下で飼育された子豚は鉄製剤を投与しなくても貧
血を起こさないという報告がある18)。このことから、
3.放牧地での生草および土壌摂取、高い活動性に
よる肥育豚の生理的変化
土壌の摂食はブタの体内生理に少なからず影響を与
えているといえる。
前項に示した通り、肥育豚を放牧した場合、放牧
放牧飼育により、肥育豚は舎飼よりも背脂肪が薄
地に存在する野草あるいは牧草といった生草の摂食
く、赤身肉割合が高くなることが報告されている19)。
や土壌の摂食がみられる。摂取食物が異なることで
また、筋線維組成が舎飼と放牧で異なるという報告
体内の栄養組成が変化すれば、体成分や生産物の構
もある 20)。放牧地で肥育豚は活動的であり、運動
成にも影響する。
量が影響すると考えられた。しかし、前述したよう
Högberg ら(2001)は放牧することによって肥育
に放牧では舎飼と増体変化も異なるため、その違い
豚の筋肉内脂肪中の不飽和脂肪酸が変化すると報告
が関係しているともいわれており、さらなる研究が
している
必要である。
。この報告によると、筋肉内脂肪中の
15)
ω−3 脂肪酸含量が舎飼では 1.01%であったのに対
し、放牧では 1.17%と有意に増加し(P=0.02)、ω−
4.正常行動の発現有無による肥育豚の生理的スト
レス指標の変化
6 脂肪酸含量は舎飼で 7.41%、放牧で 7.69%と増加
する傾向にあった(P=0.55)。ω−3、ω−6 脂肪酸は
これまで述べてきたように、放牧という半自然環
共に動物の体内では合成できない必須脂肪酸である
境下では生得的な行動の発現が可能であるが、現行
ことから、これらの変化は外部からの摂取に依存す
の集約的な畜産方式では制約されてしまうことか
る。Van der Wal と Mateman(1993)は給与飼料のう
ら、肥育豚は長期的にストレスにさらされていると
ち 10%が粗飼料であった放牧豚の背脂肪中リノレ
考えられる。放牧下でのブタの生理的ストレス評価
ン酸(C 18:3)含量が増加したと報告している 16)。
を行っている研究は少ない。しかし、舎飼の環境改
放牧地での生草の摂取により、生草に含まれている
善のためにエンリッチメント資材を提供することで
- 48 -
正常行動の発現を促し、そのことによるストレス状
4 頭中 3 頭、放牧区で 4 頭中 2 頭であった。ワクチン
態の生理的評価は数多く行われてきた。De Jong ら
接種前後の平均抗体価上昇度は PRRS で舎飼区 2.47
(2000)は単調な環境とワラを提供したエンリッチ
±0.81、放牧区 2.36±0.86 となり、AD で舎飼区 0.42
環境で飼育した肥育豚の唾液コルチゾール濃度につ
±0.34、放牧区 0.37±0.28 となった。いずれも有意
いて報告している
な差はみられず(P >0.05)、ワクチン接種による抗
。この報告において、単調な環
21)
境は 0.84m2 /頭で半分がコンクリート床、半分がス
体反応は飼育環境で変わらなかった。
ノコ床であり、エンリッチ環境は 1.26m2 /頭で半分
以上のことから、飼育環境の違いによる正常行動
がコンクリート床にワラが提供され、半分はスノコ
発現の抑制という長期的ストレスは、内分泌に影響
床であった。ワラの提供はブタにとって探査行動を
をおよぼすという報告はあるものの、抗体産生等の
はじめとする正常行動を促すことから一般的に使用
免疫機能に変化をもたらすほどの影響は与えないと
されているエンリッチメント素材である。肥育豚を
考えられた。
10 週齢以降にそれぞれの環境で飼育し、22 週齢で
唾液コルチゾール濃度を 1 時間おきに 24 時間測定し
5.おわりに
たところ、エンリッチ環境で飼育された肥育豚は日
20 世紀後半の効率主義的な産業の発展は地球環境
中にコルチゾール濃度が上昇し、概日リズムが保た
へ多大なる負荷をかけ、自然を消耗してきた。今後、
れていた。しかし、単調な環境で飼育された肥育豚
世界は持続可能な発展を行うべく、これまでの産業
では一日を通してコルチゾール濃度が上昇せず平坦
の在り方を見直す時期にさしかかっている。家畜の
化しており、概日リズムが保たれていなかった。コ
放牧飼育は、草地生態系の多様性維持に貢献する持
ルチゾールは概日リズムを有するホルモンである。
続可能な農業のひとつである 22)。また、わが国で
概日リズムが保たれていないということは副腎機能
増加している耕作放棄地の有効利用、つまり未利用
の低下を意味し、長期的なストレス負荷がかかって
資源の活用にもなりうる。これらのことも考慮する
いたと考えられた。よって、エンリッチメント資材
と、肥育豚の放牧飼育はこれまでの集約的な畜産と
の提供による正常行動の促進は肥育豚にとって長期
は異なった視点を持った畜産のひとつとして提案す
的ストレス負荷が軽減されていたといえる。
ることができる。
このように、正常行動発現の有無は身体への生理
これまで述べてきたように、放牧することで肥育
的な影響をおよぼす。長期的なストレス負荷による
豚の正常行動発現が促され、長期的ストレスの回避
副腎機能の低下は内分泌物質への影響だけでなく、
により、体内の生理状態も機能し、身体的な健康性
免疫機能へも影響し、正常に機能しない可能性が考
を維持した生産が可能であると考えられた。また、
えられた。そこで、前述の行動観察に用いた舎飼区
消費者の食生活への健康志向が高まっているいま23)、
と放牧区の肥育豚へのワクチン接種による免疫機能
脂肪が多い肉よりも赤身肉の需要が高まっている。
の評価を行った。
そして、食べることにより中性脂肪を減少させると
ワクチンによる抗原刺激により、抗原刺激に対す
いわれている多価不飽和脂肪酸を多く含む食品が注
る抗体価の変化を調べた。使用ワクチンは日本脳
目されている。これらを鑑みると放牧豚の産肉は添
炎、豚繁殖・呼吸障害症候群(PRRS)、豚オーエス
加物を給与しなくても高付加価値をつけられる畜産
キー病(AD)の 3 種であった。接種前に採血を行
物となりうる。ただし、体内の栄養素組成について
い、ワクチン接種 3 週間後に再び採血を行い、接種
は、行動の発現だけでなく外部環境の影響が大きい
前後の抗体価を測定して比較した 。日本脳炎の抗
と考えられた。放牧は自然環境下での飼育のため、
体価は HI で測定した。PRRS および AD の抗体価
ヒトが十分に制御することができない気候や各放牧
は ELISA で測定し、補正値(披検血清の ELISA 値
地特有の植生および土壌環境が存在する。それらの
/参照陽性血清の ELISA 値)を算出した。ワクチン
体内生理への影響を把握することにより、高ウェル
接種 3 週間後の日本脳炎の抗体保有個体は舎飼区で
フェアなだけでなく、個々の放牧地での特徴的な環
8)
- 49 -
境を活かした高付加価値生産が可能となる。わが国
育豚飼育方式の福祉性改善要因の解明.博士論
における高付加価値国産豚肉の生産のためにも、今
文.東北大学.
後、放牧養豚の行動学的側面だけでなく、生理学的
9) Welfare
側面も伴った複合的な研究を期待したい。
Quality®
Quality®
Consortium.
2009. Welfare
assessment protocol for pigs (sows and
piglets, growing and finishing pigs). Welfare
謝 辞
Quality® Consortium, Lelystad, Netherlands.
本稿で紹介した研究の一部は東北大学大学院農学
10) Gentry JG, McGlone JJ, Blanton Jr. JR, Miller
研究科附属複合生態フィールド教育研究センターで
MF. 2002. Alternative housing systems for pigs:
遂行されたものである。御指導いただいた佐藤衆介
Influences on growth, composition, and pork quality.
教授(現帝京科学大学教授)ならびに関係者各位に
J. Anim. Sci., 80 : 1781−1790.
厚く御礼申し上げます。
11) Wood-Gush D, Vestergaard K. 1991. The seeking of
novelty and its relation to play. Anim. Behav., 42 :
【引用文献】
599−606.
1) Algers B, Madej A, Rojanasthien S, Uvnäs-Moberg
12) Petersen V, Simonsen HB, Lawson LG. 1995.
K. 1991. Quantitative relationships between suckling-
The effect of environmental stimulation on the
induced teat stimulation and the release of prolactin,
development of behaviour in pigs. Appl. Anim.
gastrin,
Behav. Sci., 45 : 215−224.
somatostatin,
insulin,
glucagon
and
vasoactive intestinal polypeptide in sows. Vet. Res.
13) Beattie VE, Walker N, Sneddon IA. 1995. Effects
Commun., 15 : 395−407.
of environmental enrichment on behaviour and
2) Valos A, Rundgren M, Špinka M, Saloniemi H,
productivity of growing pigs. Anim. Welf., 4 : 207−
Rydhmer L, Hultén F, Uvnäs-Moberg K, Tománek
220.
M, Krejcí P, Algers B. 2003. Metabolic state of the
14) Beattie VE, O Connell NE, Kilpatrick DJ, Moss
sow, nursing behaviour and milk production. Livest.
BW. 2000. Influence of environmental enrichment
Prod. Sci., 79 : 155−167.
on welfare-related behavioural and physiological
3) 佐藤衆介 2012.海外と日本におけるアニマル
parameters in growing pigs. Anim. Sci., 70 : 443−
ウェルフェアの状況.最新農業技術 畜産 vol.5,
23−26.農山漁村文化協会.東京.
450.
15) Högberg A, Pickova J, Dutta PC, Babol J, Bylund
4) Farm Animal Welfare Council. 1992. FAWC updates
AC. 2001. Effect of rearing system on muscle lipids
the five freedoms, Veterinary Record 131, p.357
of gilts and castrated male pigs. Meat Sci., 58 : 223
5) Wood-Gush D, Vestergaard K. 1989. Exploratory
behavior and the welfare of intensively kept animals.
−229.
16) Van der Wal PG, Mateman G. 1993. Scharrel (Free
J. Agric. Ethics., 2 : 161−169.
range) pigs: carcass composition, meat quality and
6) 佐藤衆介 2014.放牧を加味したアニマルウェ
ルフェア畜産の実現.草地農業の多面的機能と
taste-panel studies. Meat Sci., 34 : 27−37.
17) Edwards SA. 2003. Intake of nutrients from pasture
アニマルウェルフェア(矢部光保編),154−171.
筑波書房.東京.
by pigs. Proc. Nutr. Soc., 62 : 257−265.
18) Brown JME, Edwards SA, Smith WJ, Thompson
7) Tozawa A, Tanaka S, Sato S. 2016. The effects
E, Duncan J. 1996. Welfare and production
of components of grazing system on welfare of
implications of teeth clipping and iron injection of
fattening pigs. Asian Australas. J. Anim. Sci., in
piglets in outdoor systems in Scotland. Prev. Vet.
press.
Med., 27 : 95−105.
8) 戸澤あきつ 2014.舎飼と放牧の比較による肥
19) Hoffman LC, Styger E, Muller M, Brand TS. 2003.
- 50 -
The growth and carcass and meat characteristics of
responses to novelty, learning, and memory, and
pigs raised in a free-range or conventional housing
the circadian rhythm in cortisol in growing pigs.
system. S. Afr. J. Anim. Sci., 33 : 166−175.
Physiol. Behav., 68 : 571−578.
20) Gentry JG, McGlone JJ, Miller MF, Blanton Jr. JR.
22) 三田村強 2014.我が国における草地生態系の
2004. Environmental effects on pig performance,
特徴と牧畜の多面的機能.草地農業の多面的機
meat quality, and muscle characteristics. J. Anim.
能とアニマルウェルフェア(矢部光保編),40−
Sci., 82 : 209−217.
59.筑波書房.東京.
21) De Jong IC, Prelle IT, Van de Burgwal JA, Lambooij
23) 日本政策金融公庫.2014.ニュースリリース E, Korte SM, Blokhuis HJ, Koolhaas JM. 2000.
食に対する「健康志向」が引き続き最多.日本
Effects of environmental enrichment on behavioural
公庫・平成 26 年度上半期消費者動向調査.
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家 畜 栄 養 生 理 研 究 会 会 則
(総 則)
第一条 本会は家畜栄養生理研究会と称する。
第二条 本会は家畜栄養生理に関する研究及びその成果の応用を促進する事を目的とする。
第三条 前条の目的を達成するため下記の事業を行う。
一. 家畜栄養生理の研究に関する討議(春季・秋季集談会)
二. 家畜栄養生理に関する研究情報、文献の蒐集配布並びに交換
三. 家畜栄養生理に関する共同研究の促進及び研究相互の連絡
四. 家畜栄養に関する研究成果及び技術につき必要と認めた場合、印刷物刊行等により普及を図ること
五. その他本会の目的達成のために必要な事業
(会 則)
第四条 会員は正会員と賛助会員及び名誉会員とする。
第五条 本会の正会員になろうとするものは、会員の推薦により事務局に申し込むものとする。
2. 事務局は前項の申し込みに対して可否を決定する。但し、名誉会員は評議員会が推薦し、総会において決定する。
評議員は名誉会員に推戴された時点をもってその職を退任することとする。
3. 会員は総会及び集談会に参加し発言することができる。但し、非会員も別途定める参加費を納入すれば、集談
会に参加し、発言することができる。
4. 名誉会員は評議員会に出席し、助言することができる。
第六条 会員は会費を納入するものとする。但し、名誉会員は会費を免除する。
2. 正会員の年会費は 4,000 円とし、賛助会費の年会費は 20,000 円とする。年会費の徴収方法は事務局が決定する。
第七条 会員は下記の事項に該当する時は会員たる資格を失う。
一. 本人の意志による退会
二. 長期の会費未納の場合
三. 会員として不適当と事務局が認め、総会がこれを承認した場合
但し、第一項により退会しようとする時は、事務局宛に届け出るものとする。
第八条 本会の事業年度は毎年 3 月 1 日に始まり翌年 2 月末日に終わる。
(役 員)
第九条 本会に役員として会長 1 名、事務局員若干名、会計監査 2 名、評議員若干名、及び編集委員若干名を置く。役員
の任期は 2 年とし、重任を妨げない。
第十条 役員は総会において選定する。
第十一条 会長及び事務局員は事務局を、編集委員は編集委員会を組織する。
2. 事務局は総会で議決された方針に従って会務を運営する。
3. 会長は本会を代表し、事務局員・編集委員の業務を統轄する。
4. 事務局員は庶務、会計その他の業務を分担する。
5. 編集委員は評議員の推薦による話題提供者の論文等を査読し、編集業務を担当する。
第十二条 評議員は本会の重要な事項につき会長の諮問に応じる。
(会 議)
第十三条 会議は総会及び評議員会とする。
第十四条 総会を分けて通常総会及び臨時総会とする。
2. 通常総会は毎年 1 回開催する。
3. 総会は評議員会の議を得て会長がこれを召集する。
4. 総会の議長はその都度選出するものとする。
第十五条 総会は本会の経理、人事及び事業の全般に亘る主要事項を審議決定する。
第十六条 評議員会は役員を以て構成する。
2. 評議員会は会長がこれを召集し、その議長となる。
3. 評議員会は原則として年 2 回開催する。
第十七条 評議員会は本会運営の基本方針を審議し、主要事項について総会へ提出し、その審議を求める。
(昭和 59 年 4 月 6 日改正) (平成 12 年 5 月 13 日改正) (平成 15 年 5 月 10 日改正)
(平成 17 年 11 月 12 日一部改正) (平成 27 年 11 月 14 日一部改正)
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栄養生理研究会報編集・投稿規程
1. 本会報は、家畜栄養生理に関する論文および研究会資料を掲載する。
2. 掲載論文の著作権は家畜栄養生理研究会に属する。
3. 評議員会は、春季集談会(自由課題形式)および秋季集談会(シンポジュウム形式)の話題を決定し、その話題提供
者を推薦する。
4. 編集委員長より査読を委託された編集委員は、話題提供者等からの論文を査読し、著者に修正を求め、本研究会報へ
の掲載可否を判断する。
5. 原稿はコンピュータソフト(MS-Word、一太郎など)を用いて作成し、ファイル(E-mail 添付ファイル、FD または
CD-R)を事務局へ提出する。図表は本文とは別ファイルとして作成し、本文中には埋め込まない。図はモノトーン
とする。電気泳動写真、顕微鏡写真などの原板は、鮮明なものを添付する。既報の図表を転載(加筆・修正も含む)
する場合には、それらの出版元からの承諾書を添付する。図表を挿入する位置を本文左側の余白に朱書きで指示する。
本文の句読点は 。 、 を用いる。本文中に数値および英文を記載する場合は半角で入力し、コンマ( ,)、セミコロン(;)
、
コロン(:)、ピリオド(.)を適当な位置に挿入する。
イ) 評議員より推薦を受け、本研究会報への原稿執筆を了承した話題提供者は、編集委員長が指定した期日までに原
稿を事務局に提出する。
ロ) 原稿は原則として返却しない。
ハ) 原稿は簡易書留便で郵送する(FD または CD-R の場合)。
二) 原稿提出時に著者略歴(氏名、生年月日、学歴、職歴、専門分野)を添付する。
6. 原稿本文は原則として和文で書き、当用漢字を用いる。原稿はA 4 サイズの用紙を用い、上下左右とも 2.5cm の余白
を設け、35 字× 25 行の横書きとする。図表はA 4 紙 1 枚に 1 表、1 図を作成する。図の説明は、番号順に別紙にまとめ
て記載する。一論文の原稿枚数は、図表、図の説明を含めて 25 枚以内(約 1500 字が刷り上り 1 ページとなる)とする。
本文には連続したページ番号を見やすい位置に記入する。行番号をページごとに付け、左側の余白に記入する。
イ) 原稿には表題、著者名、所属機関名を和文および英文で明記する。ただし英文は 1 ページ目の脚注に記す。
ロ) 特殊文字は用いず、ベ夕打ちとし、原稿中には特殊文字などを赤字で明記する。
ハ) 引用文献は、本文中の関連箇所に肩つきで引用順に一連番号をつけ、番号はアラビア数字を用い片カッコで囲む。
受理済みおよび印刷中のものを除き、投稿中の論文は引用文献として用いない。
二) 引用文献が雑誌の場合の書き方は、著者名、年号、表題、雑誌名、巻:頁一頁の順とする。
(例) 甫立京子・浜田龍夫・前田昭二 1995.銅とビタミン E のアマニ油含有飼料への添加が子豚臓器中の銅,ビタミ
ン E と過酸化脂質に与える影響.日畜会報,66:142−148.
(例) Tomonaga S, Kaneko K, Kaji Y, Kido Y, Denbow DM, Furuse M. 2006. Dietary β-alanine enhances brain, but not muscle,
carnosine and anserine concentrations in broilers. Anim. Sci. J., 77: 79−86.
ホ) 単行本の記載は、著者名、発行年、書名、引用頁、発行所、発行地の順とする。
分担執筆の場合は、所収の表題、編集または監修者名を加える。
(例) 糸川嘉則 1995.マグネシウム.33−48.光生館.東京.
(例) 板橋久雄 2006.ルーメンにおける栄養素の代謝.ルミノロジーの基礎と応用
(小原嘉昭編),32−50.農文協.東京.
7. 初校は著者が行い、文章、図表の改変や追加は原則として認めない。校正の時に著しい改変や追加によって生じた費
用は著者の負担とする。
8. 別刷りとして、筆頭著者に対し当該論文の pdf を無料配布する。
9. 栄養生理研究会報サイズはA 4 版とする。
(平成 7 年 10 月 21 日 評議員会審議)
(平成 8 年 4 月 20 日 評議員会承認)
(平成 11 年 10 月 30 日 評議員会承認)
(平成 13 年 5 月 19 日 評議員会承認)
(平成 15 年 5 月 10 日 評議員会承認)
(平成 18 年 10 月 7 日 評議員会承認)
(平成 19 年 3 月 28 日 評議員会承認)
(平成 19 年 11 月 30 日 評議員会承認)
(平成 25 年 11 月 9 日 評議員会承認)
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家畜栄養生理研究会役員(平成 27 年度)名簿
(名誉会員)(9 名)
安保 佳一(元岩手大学農学部)
石橋 晃(日本科学飼料協会)
川島 良治(元京都大学農学部)
佐々木康之(元帯広畜産大学)
柴田 章夫(元日本大学農獣医学部)
新林 恒一(元家畜衛生試験場)
浜田 龍夫(元東京農業大学農学部)
本好 茂一(全国家畜畜産物衛生指導協会)
渡邉 泰邦(元信州大学農学部)
(評議員)(38 名)
秋葉 征夫(東北生活文化大学)
朝井 洋(日本中央競馬会日高育成牧場)
麻生 久(東北大学大学院農学研究科)
新井 敏郎(日本獣医生命科学大学)
板橋 久雄(日本科学飼料協会)
太田 能之(日本獣医生命科学大学)
小形 芳美(NOSAI 山形)
大塚 彰(鹿児島大学農学部)
奥村 純市(元名古屋大学農学部)
小堤 恭平(元畜産草地研究所)
小原 嘉昭(明治飼糧水戸研究牧場)
小櫃 剛人(広島大学大学院生物圏科学研究科)
加藤 信人(日本配合飼料株式会社)
喜多 一美(岩手大学農学部)
木田 克弥(帯広畜産大学)
木村 信熙(元日本獣医生命科学大学)
久米 新一(京都大学大学院農学研究科)
小林 泰男(北海道大学大学院農学研究院)
坂口 英(岡山大学農学部)
佐々木晋一(元信州大学農学部)
佐藤 幹(東京農工大学)
佐野 宏明(岩手大学農学部)
柴田 正貴(元畜産草地研究所)
菅原 邦生(宇都宮大学農学部)
祐森 誠司(東京農業大学)
高橋 和昭(山形県立米沢女子短期大学)
竹中 昭雄(農業生物資源研究所)
寺田 文典(明治飼糧株式会社)
豊水 正昭(東北大学大学院農学研究科)
中川 二郎(豊橋飼料株式会社)
藤原 勉(元島根大学生物資源科学部)
△古瀬 充宏(九州大学大学院農学研究院)
◎松井 徹(京都大学大学院農学研究科)
松本 光人(農林水産・食品産業技術振興協会)
村井 篤嗣(名古屋大学大学院生命農学研究科)
矢野 秀雄(元京都大学大学院農学研究科)
△盧 尚建(東北大学大学院農学研究科)
和田 賢二(NOSAI 山形)
(編集委員)(10 名)
麻生 久(東北大学大学院農学研究科)
小櫃 剛人(広島大学大学院生物圏科学研究科)
喜多 一美(岩手大学農学部)
黒瀬 陽平(北里大学獣医学部)
後藤 貴文(九州大学大学院農学研究院)
小林 泰男(北海道大学大学院農学研究院)
辰巳 隆一(九州大学大学院農学研究院)
豊水 正昭(東北大学大学院農学研究科)
○松井 徹(京都大学大学院農学研究科)
盧 尚建(東北大学大学院農学研究科)
(平成 27 年 5 月 23 日修正)
◎会長 ○編集委員長 △会計監事
会則第十条に則り平成 28 年度役員を春季集談会総会で改選します。
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賛 助 会 員
全国酪農業協同組合連合会購買部
豊橋飼料(株)テクニカルセンター
(五十音順)
栄 養 生 理 研 究 会 報
第 60 巻 第 1 号
平成 28 年 2 月発行(会員頌布:年会費 4,000 円)
発行者
松井 徹
発行所
家畜栄養生理研究会
〒 606−8502 京都市左京区北白川追分町
京都大学大学院農学研究科応用生物科学専攻
家畜栄養生理研究会事務局
TEL: 075−753−6056
FAX: 075−753−6344
E-mail: [email protected]
郵便振替:口座番号 01060−8−33558
加入者名:家畜栄養生理研究会
銀行口座:ゆうちょ銀行
店番 818 口座番号 0207245
口座開設者名:家畜栄養生理研究会
印刷所
ユニバース印刷
〒 617−0843 京都府長岡京市友岡 2−10−2
TEL:075−953−4335
FAX:075−953−4336
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