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大学生における食生活の特徴と心身愁訴

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大学生における食生活の特徴と心身愁訴
大学生における食生活の特徴と心身愁訴
村上 亜由美・苅安 利枝・岸本 三香子*
(福井大学教育地域科学部,*武庫川女子大学生活環境学部)
(2002年8月(2005年8月30日受付)30日受付)
Characteristics of Dietary Life,
and Psychosomatic Complaints in College Students.
Ayumi MURAKAMI, Rie KARIYASU, Mikako KISHIMOTO*
Faculty of Education and Regional Studies, Fukui University
緒 言
近年の食生活をとりまく環境は、ファミリーレストランやファーストフード店、コンビニエン
スストア(以下、コンビニ)などが街に多くみられ、外食や中食(家庭外で調理されたものを家
庭内でとる食事)が進み、食の外部化・簡便化が進行している。このような社会環境の変化は、
現代の食生活を豊かにするような望ましいものばかりではなく、製造・流通・保管の不備による
安全性への不安など様々な問題も多い。また、コンビニの利用頻度が多いほど、副食を伴わない
食事の頻度が高くなり、緑黄色野菜類の摂取量が少ないこと1)、間食の食べ過ぎ2)が報告される
など、栄養面での不安も挙げられる。さらに、嗜好の面では、味覚の画一化・家庭の味の個性の
消失など、生活面では受身の食生活からくる料理意欲の減退などが挙げられる。
しかし、このような問題が指摘される一方で、外食や中食には、食事の時間を気にせず、誰も
が好きなときに何でも手軽に飲食できる利点があり、高齢者世帯や単身者世帯の増加にともない、
その需要は年々増加している。従って、豊富に提供されている外食や中食などの中から、どのよ
うに組み合わせて、個々人に適したものを選択するかが大切になってくる。
特に大学生は、自分の意志で食事を選択する機会が多い環境にある。大学生は、大学での講義、
アルバイト、サークル活動、友達との付き合いと毎日忙しく過ごしているため、その中での食事
は、生活の時間帯に合わせて自由に摂られている。食事中心に生活が回っているわけではないた
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福井大学教育地域科学部紀要 Ⅴ(応用科学 家政学編),44,2005
め、生活の時間帯が不規則になれば、当然食事も不規則になり、欠食にもつながりやすい状況で
ある。また、実家を離れ一人暮らしをして大学生活を送っている学生や家族と同居していても生
活時間の違う学生も多いことから、食事の時間に家族みんながそろって同じものを食べ、団らん
を楽しむ習慣が希薄になってきている。それは、自分の食べたいものを好きな時間に食べること
にこだわり、外食や中食の利用にも関連していると考えられる。
また食の簡便化が進む一方で、従来から理想とされてきた主食・汁・主菜・副菜の食事パター
ンも最近はみられなくなってきている。この主食・汁・主菜・副菜の食事パターンは、主食を米
にすることで、多彩な料理構成が可能となり、動物性食品のとりすぎや野菜不足も解消でき、パ
ン食や麺類より栄養構成が良好となると考えられている。しかし、現在の大学生の食生活は、カ
レーライスやどんぶり、サンドイッチなどの主食・主菜・副菜の区別のない単品物の食事や、主
食にパンや麺類の摂取が多くみられ、食事に代わって菓子パンやお菓子だけの間食で済ませてい
ることも少なくない。食事に栄養のバランスを考えるというよりも、利便性や簡便性を求めるこ
とが多いと考えられる。反対に、食生活や健康を気にかけている学生もみられ、時間のないとき
の1食代わりに栄養調整食品を摂ったり、また、食事で不足する栄養成分を補うため、サプリメ
ントを使用している学生もみられる3)。しかし、食生活に問題を感じている学生は多くいるもの
の、その改善に取り組む学生は少数であり、消極的であることがいわれている4)。
そこで本研究では、自分の意志で食事を選択する機会が多いと考えられる大学生に注目し、連
続する3日間の食事記録により食生活の実態を調査し、食事摂取状況、献立構成や調理方法、栄
養調整食品の利用などを分析するとともに、食の外部化・簡便化と心身愁訴との関連性について
検討を行った。
方 法
1.調査対象及び調査時期
福井大学生 173名(男性97名、女性76名)を対象とした。対象者の年齢は、18∼23歳(平均
年齢±標準偏差,19.0±1.1)、自己申告によるBMIは、16.0∼29.8(平均BMI±標準偏差,21.5±2.4)
であった。調査時期は、2004年7月と10月に実施した。なお、7月と10月の調査対象者は重複し
ていない。
2.調査方法
食生活及び体調に関する質問、連続する3日間の食事記録について、講義レポート課題として
記名式で実施した。回収率は96%であった。
3.食事記録とその分析方法
食事記録は、連続する平日3日間について記入するように指示した。食べたものすべて、食品
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名、食べた時間、場所、同席者と人数を尋ねた。料理ごとに、外食(学食を含む)、調理済み食
品(惣菜・持ち帰り食品)、半調理済み食品(冷凍食品・インスタント食品・レトルト食品)、手
作り料理、その他に区別して記入させた。サプリメント、栄養調整食品、栄養ドリンクは商品名
まで記入させた。食品名には、使われている食品をわかる範囲で書き出すこととした。
この食事記録から、調理方法、献立構成、栄養バランス、注目食品、汁物の有無について分析
を行った。調理方法は、「生」、「揚げ」、「焼き・炒め」、「煮・炊く」、「蒸す」、「その他」に分類
した。献立構成は、主食、主菜、副菜などのそろい方により「揃っている」、「主菜なし」、「副菜
なし」、「主食なし」、「主食のみ」、「主菜のみ」、「副菜のみ」、献立形式にこだわらず複数の皿が
並ぶ「居酒屋型」、丼物や麺類、カレーライスなどの「単品物」とその組み合わせである「副
菜・単品物」、「主菜・単品物」、「主食・単品物」、「主菜・副菜・単品物」、どれにもあてまなら
い「その他」の計14パターンに分類した。栄養バランスは、野菜、肉・魚・卵に注目し、「揃っ
ている」、「肉・魚・卵がない」、「野菜がない」、「両方がない」に分類した。ただし、量まで調査
していないため、わずかでも料理に含まれていれば、あることとした。注目食品として、特に、
健康を意識して摂取していると考えられる「果物」、
「乳製品」、
「栄養調整食品」、
「サプリメント」、
「野菜・100%果汁ジュース・ゼリー」、嗜好性の高い「菓子類」
、「コーヒー」の8品を選んだ。
3日間のすべての食事について朝食、昼食、夕食、間食、夜食の5種に分類し、個人ごとの回
数と品数として、また全体の出現件数として集計を行った。
4.統計処理
データ解析には統計ソフトSPSS for windows 11.0J を使用した。各質問項目に対する回答を集
計し、それぞれの質問項目間の関連性にはX2検定を用いた。また、2群間の比較にはT検定によ
り、3群間の比較には一元配置分散分析の後、Dunnet T3の多重比較検定により平均値の差の検
定を行った。クラスター分析には、階層クラスター分析により作成したテンドログラムを用いて
決定したグループ数を指定し、大規模ファイルのクラスター分析を行った。
結 果
1.食事場所と同席者
朝食を食べた場所は、「自宅」が396件(約93%)と最も多かった。自宅以外では、「学食」や
「研究室・講義室」など大学にきてから朝食を摂る学生や、通学途中の「車中」で朝食を摂る学
生が少数ではあるがみられた。これらは、起床時間が遅く、自宅で朝食を摂る時間がないためと
考えられる。また、車の中で摂る学生においては、運転しながら朝食を摂っているため、菓子パ
ンやおにぎり、栄養調整ゼリー、飲料水のみなど簡単に済ませていた。昼食を食べた場所は、
「学食」210件(約44%)、「研究室・講義室」141件(約30%)とほとんど大学構内で摂られてい
た。夕食を食べた場所は、「自宅」が375件(約77%)と最も多かったが、他にも、「飲食店やフ
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表1 居住形態別の食事時の同席人数
表2 食事別の品数と所用時間
ァーストフード店」の利用49件、「アルバイト先」20件と自宅以外でも食事が摂られていた。間
食を食べた場所は、「自宅」159件(約47%)、「学食」50件(約14%)、「研究室・講義室」71件
(約21%)であり、ほとんどが自宅や大学構内で摂られていた。夜食は、
「自宅」が15件(約62%)
であった。
食事時の同席者について、朝食は、「一人」が265件(約63%)と最も多く、ついで、「家族」
145件(約35%)であった。朝食を一人でとる学生は、一人暮らしの学生に限らず、自宅生にも
みられた。これは、起床時間や家を出る時間など家族との生活時間のずれが原因であると考えら
れる。昼食は、「友達・先輩」が333件(約74%)で最も多く、昼食は大学構内で友達・先輩と食
事を摂っていた。また、夕食も、「一人」や「家族」が大半を占めていたが、「友達・先輩」も73
件(約16%)みられた。間食は「一人」177件(約55%)、「友達・先輩」118件(約37%)であっ
た。自宅で摂る間食は一人で、大学構内で摂る間食は一人または友達・先輩と摂られる傾向がみ
られた。夜食は、15件(約75%)が「一人」で摂っていた。
食事時の人数は、居住形態によって違いがみられ(表1)、昼食に比べ、朝食、夕食で特に違
いがあった。これは、平日においては、自宅生も一人暮らしの学生も、昼食は大学構内で摂って
いるためである。朝食と夕食では、自宅生の方が多数で食事を摂っている傾向はあるが、朝食で
は、夕食ほど人数の差はみられなかった。
2.食事における品数と所要時間
食事における品数は、朝昼夕の三食とも2∼3品が最も多かった。間食は、1品が247件(約
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72%)で最も多く、これは、菓子類や飲み物のみを摂っているためである。また、三食の平均品
数の間には有意差がみられ、多い順に、夕食(3.23品)、昼食(2.94品)、朝食(2.9品)であった
(表2)。これは、朝食では主食のみ、昼食では単品物が多いためであった。
食事時の所要時間は三食間に有意差があり、長い順に、夕食、昼食、朝食で、朝食14.9分に対
して、夕食30.1分と約2倍長かった。また、品数との関連性をみると、相関係数r=0.293で有意差
(p<0.001)がみられ、品数が増えるにつれて、所要時間も有意に長くなっていた。また、朝食と
昼食の品数には、あまり大きな差はみられなかったが、食事時の人数は昼食の方が多いため、所
要時間は有意に長かったと考えられる。
表3 食事別の献立構成
表4 食事別にみた頻出献立名(度数)
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3.献立構成および栄養バランス
献立構成は、朝食では、「主食のみ」が131件(約30%)と最も多く、菓子パンのみ、おにぎ
り・ご飯のみの学生が多数みられた(表3)。ついで、「主菜なし」「副菜なし」「揃っている」の
順であった。また、「その他」が65件(約15%)と多くみられたのは、栄養調整食品や果物・乳
製品のみが学生も多数みられたためである。昼食は、「単品物」176件(約37%)、「揃っている」
95件(約20%)、「副菜なし」61件(約12%)であった。「単品物」では、麺類やカレーライス、
丼物が多くみられた。また、昼食は、学食を利用している学生が多いため、「揃っている」や
「副菜なし」が多くみられたと考えられる。夕食は、「揃っている」が129件(約26%)で最も多
かった。ついで、「単品物」「副菜と単品物」と続いた。また、夕食では、主菜、副菜関係なしに
いろいろなおかずを少しずつ食べる「居酒屋型」が自宅での食事でもみられた。間食においても、
「主食のみ」や「単品物」がみられ、間食で食事をしている学生もみられた。夜食は、16件(約
67%)が「単品物」であった。食事別にみた頻出献立名を表4に示した。全体的に「単品物」が
多く摂られていた。
栄養バランスは、朝食では、
「両方がない」が147件(約41%)と最も多かった(表5)。これは、
菓子パンのみや、トーストに乳製品などのパン食が多かったことも関係していると考えられる。
また、ご飯に味噌汁、納豆など豆類は摂っているが、野菜などが含まれていない食事も多くみら
れた。昼食、夕食では、「揃っている」がそれぞれ267件(約58%)、344件(約71%)と最も多か
った。全体的に「揃っている」食事が多かったものの、野菜が不足しがちであった。肉・魚・卵
の料理は、朝食では目玉焼きや卵焼きなどの卵料理が、昼食・夕食には肉や魚を使った料理がよ
く摂られていた。
表5 食事別の栄養バランス
表6 外食・中食・内食別にみた頻出献立名(度数)
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表7 調理方法別にみた頻出献立名(度数)
汁物の中では、「味噌汁」が224件(約86%)と大部分を占めていたが、全体的に汁物は摂られ
ていなかった。「味噌汁」は朝食で101件(約45%)と最も多く、昼食、夕食でも平均的に摂られ
ていた。「スープ」は、夕食で16件(約64%)摂られていた。また、その他では、「ラーメン」や
「うどん」などを汁物として摂る食事もみられた。
4.外食・中食・内食の利用
外食(729件)、調理済み食品(611件)、半調理済み食品(288件)、手作り料理(1416件)とそ
の他に分類された。その他とは、菓子類、果物、乳製品など注目食品やその他の飲料を表してい
る。それぞれの利用品数、及び1食に占める割合から利用頻度と三食の分類との関連性をみたと
ころ、すべてに有意差がみられた。
外食・中食・内食別にみた頻出献立を表6に示した。外食において、「ご飯」127件(約17%)、
「味噌汁」70件(約10%)と多いのは学食利用者が多いためである。また、「野菜サラダ」も多数
みられることから、意識的に食事に野菜を取り入れようとする学生の様子がうかがえる。調理済
み食品では、最も多かったのは「菓子パン」104件(約17%)で、続いて「食パン」52件(約9%)
、
「調理パン」44件(約7%)、「おにぎり」36件(約6%)であった。主食物が多いことから、主
に朝食や昼食で利用され、調理済み食品のみで食事を済ませていることがわかる。また、揚げ物
などの惣菜や弁当、丼物などの「単品物」も多数みられた。半調理済み食品では、「味噌汁」が
36件(約13%)と最も多かった。また、「ラーメン」や「カレーライス」なども多く、インスタ
ント食品やレトルト食品に頼りがちであることがわかった。手作り料理では、「ご飯」440件(約
31%)、「味噌汁」126件(約9%)、「卵焼き・目玉焼き」113件(約8%)、「野菜サラダ」105件
(約7%)という順に多かった。「ご飯」、「味噌汁」、「卵焼き・目玉焼き」は、主に朝食で摂られ
ていた。
外食利用の割合は、昼食44%、夕食15%であり、朝食ではみられなかった。昼食で外食の利用
が多いのは、学食を利用している学生が多いためである。調理済み食品は、朝食、昼食では、
「単品物」として利用しているのに対して、夕食ではおかずの1品として摂られる傾向があった。
半調理済み食品は、朝食では「味噌汁」として、昼食ではラーメンなど「単品物」として、夕食
では「単品物」やおかずの1品として利用される傾向があった。手作り料理は、夕食での品数、
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福井大学教育地域科学部紀要 Ⅴ(応用科学 家政学編),44,2005
図1 食事別にみた注目食品の利用品数
1食に占める割合ともに、最も高かった。昼食では、朝食、夕食に比べ、あまり摂られておらず、
これは、昼食は大学構内で摂っているためである。その他に分類した食品は、朝食では、食事と
して注目食品を摂り、夕食では、食事のあとのデザートまたは1品として摂っていることがわか
った。
また、外食、調理済み食品、半調理済み食品、手作り料理、その他の利用頻度は居住形態によ
っても違いがみられ、下宿生では、外食、調理済み食品の利用頻度が、自宅生では、手作り料理
の利用頻度が有意に高かった。
5.調理方法
調理方法は、生(396件)、揚げ(348件)、焼き・炒め(711件)、煮・炊き(1528件)、蒸し
(15件)、その他に分類された。これら調理方法について、三食別にそれぞれの利用品数、1食に
占める割合から利用頻度との関連性を調べたところ、蒸す以外で有意差がみられた。
調理方法別にみた頻出献立を表7に示した。生では、「野菜サラダ」162件(約41%)、「果物」
109件(約28%)という順で多かった。揚げでは、「唐揚げ」が最も多く70件(約20%)で、主に
主菜になる食品が多く、また、調理パンや丼物など単品物でも多く利用されていた。焼き・炒め
では、「卵焼き」83件(約12%)、「目玉焼き」35件(約5%)など卵料理が多くみられた。煮・
炊きは、ご飯584件(約38%)、味噌汁230件(約15%)が最も多かった。カレーライス、煮物と
続き、手作り料理で挙がった料理と同じようなもの多く挙げられていた。蒸しは、「焼売」が最
も多く8件(約53%)であったが、他の調理方法より利用されていなかった。
生ものは、いずれの食事においても1∼2品ずつ摂られており、夕食の中での1品が最も多か
った。朝食では果物、昼食、夕食ではサラダが多くみられた。揚げ物は、昼食の1品で157件と
最も多かった。これは、学食の献立に揚げ物が多いためである。また、調理済み食品からも唐揚
げ弁当やカツ丼、カツサンドなどを摂る学生が多数みられた。朝食での揚げ物は、あまり利用さ
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図2 食事摂取状況の性別比較
れていなかった。「主菜」には唐揚げや魚のフライなどが、「副菜」にはフライドポテトやコロッ
ケなどが利用されていることがわかった。カツ丼などの丼物やカツカレーなど「単品物」では、
1食中の料理に揚げ物の占める割合が高くなった。焼き・炒め物は、1品での利用が多く、特に
夕食で最も多く利用されていた。単品で摂るというよりは、主に、主菜や副菜などおかずの1∼
2品として摂られていた。朝食、昼食、夕食の順に、2品以上利用される傾向があり、これは1
食あたりの料理の品数が増えるためであると考えられる。朝食では、「卵焼き・目玉焼き」が特
に多く摂られ、昼食、夕食になると「野菜炒め」や「肉の炒め物」など焼き物が多く摂られてい
た。また、朝食では、食パン(トースト)の利用も多数みられた。焼き・炒め物の「単品物」で
は、「チャーハン」や「焼きそば」が多かった。煮・炊き物は、調理方法の中で最も多く利用さ
れ、三食すべてにおいて1∼2品の利用がみられた。これは、「ご飯」や「味噌汁」が大部分を
占めているためである。昼食や夕食では麺類やカレーライスなどの「単品物」の利用や、また、
朝食では、おにぎりやご飯のみや味噌汁とご飯などの食事では、1食中の料理はすべて煮・炊き
物であった。
6.注目食品の利用
注目食品の摂取状況は、三食いずれの食事においも1∼2品の利用が最も多かった。これは、
食事のデザート感覚で果物や菓子類、乳製品を摂っているためである。また、食事別でみると、
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朝食で最も多く摂られており、果物や乳製品、栄養調整食品、野菜ジュースなどのみで朝食を済
ませているため、3品以上も多数みられた。
食事別に注目食品の利用との関連性を見ると、有意差がみられ、注目食品の摂取方法に特徴が
みられた(図1)。最も多く摂られていたのは、
「菓子類」269件(約32%)で、続いて、
「乳製品」
228件(約27%)、「果物」105件(約13%)の順であった。「黒酢」は、合計9件であり、少数で
あったため図中には加えなかった。「菓子類」は、170件(約63%)が間食で摂られていたが、食
事を「菓子類」のみで済ます学生もみられた。また、「コーヒー」は間食で最も多く摂られ、「菓
子類」に「コーヒー」の組み合わせも多数みられた。注目食品は朝食で最も多く利用され、「栄
養調整食品」34件(約67%)、「サプリメント」33件(約58%)、「野菜・100%果汁ジュース・ゼリ
ー」34件(約51%)、
「乳製品」118件(約52%)、
「果物」44件(約42%)であった。サプリメント、
栄養調整食品を利用している学生は少数であったが、利用者はほぼ毎日利用しており、サプリメ
ントについては、決まった時間帯に摂取していた。
7.食事状況の性別比較
平日3日間の食事回数を性別比較すると、朝食回数、間食回数、夜食回数、合計回数で有意差
がみられた(図2)。朝食は、男性2.45回、女性2.69回と男性の方が朝食を欠食しがちであった。
また、昼食、夕食に比べ、朝食は男女とも欠食されがちであった。間食は女性の方が、夜食は男
性の方が多かった。3日間の食事の合計回数は、男性は10.18回、女性は11.09回と女性の方が多
かった。
食事別に平均品数を性別比較すると、昼食、夕食、食事全体の平均品数で有意差がみられた。
昼食では、男性2.72品に対して女性3.12品、夕食は男性が2.99品に対して女性が3.48品と男性より
も女性の方がより多くの品数を摂っていた。
肉、魚、卵、野菜に注目した栄養バランスは、「野菜がない」において、男性2.21回、女性1.46
回と男性の方が有意に野菜が不足しがちであった。全体的に、「揃っている」の食事が多いもの
の、男女とも野菜が不足する傾向がみられた。
外食・中食・内食別の利用頻度を性別比較すると、すべての項目において有意差がみられた。
男性は女性より、外食や調理済み食品、半調理済み食品などの中食の利用頻度が有意に高かった
のに対して、女性では注目食品や手作り料理の利用頻度が有意に高かった。
8.心身愁訴の性別比較
心身愁訴について性別比較すると、「体がだるい」、「肥満気味である」、「痩せすぎである」、
「便秘である」、「手足が冷える」、「イライラして怒りっぽい」、「胃が重い」、「疲れやすい」、「頭
痛がする」で有意差がみられた。これらの中で、「痩せすぎである」以外は、女性のほうが強く
そう思うと回答しており、女性の心身愁訴が高いことが明らかになった(図3)
。
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図3 心身愁訴の性別比較
9.心身愁訴と食事摂取状況との関連性
心身愁訴に性差がみられたことから、男女別に食事回数、栄養バランス、1食あたりの平均品
数により心身愁訴に差がみられるかどうか、一元配置分析を行い、平均値の比較を行った。
男性では、「朝食回数」と「体がだるい」、「肥満気味である」、「イライラして怒りっぽい」、
「虫歯が多い」、「胃が重い」、「朝起きられない」、「疲れやすい」、「頭痛がする」において、また、
「夜食回数」と「体がだるい」において有意差がみられた(図4)。「昼食回数」と「イライラし
て怒りっぽい」、「夕食回数」と「痩せすぎである」、「全食事回数」と「虫歯が多い」「かぜをひ
きやすい」においても有意差がみられた。栄養バランスでは、「野菜がない」と「虫歯が多い」
において有意差がみられたが、それ以外では有意差は認められなかった。1食あたりの平均品数
では、「朝食平均品数」と「味がわからない」、「イライラして怒りっぽい」、「胃が重い」、「疲れ
やすい」において有意差がみられた。また、「昼食平均品数」「夕食平均品数」と「イライラして
怒りっぽい」においても有意な差がみられた。
女性では、「昼食回数」と「手足が冷える」、「すぐ眠くなる」、「かぜをひきやすい」において、
「夕食回数」と「体がだるい」、「食物アレルギーがある」、「味がわからない」、「手足が冷える」
において、また、「全食事回数」と「朝のうちはぼーっとしている」において有意差がみられた。
しかし、食事回数が少ない方が、必ずしも心身愁訴が高いというわけではなかった。栄養バラン
スでは、「肉・魚・卵がない」、「両方がない」と「虫歯が多い」に有意差がみられた。また、「野
菜がない」と「味がわからない」にも有意差がみられた。1食あたりの平均品数では、「昼食平
均品数」と「体がだるい」
、「全食事平均品数」と「痩せすぎである」に有意差がみられた。
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図4 心身愁訴と食事摂取状況との関連(男性)
10.外食・中食の利用と心身愁訴
心身愁訴と外食、調理済み食品、半調理済み食品、手作り料理の利用頻度との関連について、
3日間の食事に出現する割合で分類し、0%を少ない群、20%以下を中間群、21%以上を多い群
として比較した。その結果、外食の利用頻度と「朝のうちぼーっとしている」、半調理済み食品
の利用頻度と「朝のうちぼーっとしている」「味がわからない」「疲れやすい」に有意な関連がみ
られた。また、心身愁訴をクラスター分析により「悪い」「やや悪い」「良い」に分類した3タイ
プと外食・中食の利用頻度を比較したが、これらには有意な関連はみられなかった。
考 察
近年、外食や中食の発達により食の外部化・簡便化が進行し、食生活をとりまく環境は大きく
変化している。自由な時間が多く、多様な活動をしている多くの大学生は、生活リズムの乱れと
ともに、朝食の欠食、偏食、孤食(個食)など食生活の乱れが指摘されている1)2)3)4)5)6)7)。
そこで、本調査では、大学生の食生活の実態を調べるため、連続する3日間の食事記録により食
事摂取状況を調査し、心身愁訴との関連性について分析を行った。
食事時の人数は、三食の分類や居住形態により差がみられ、朝食、夕食において自宅生より下
宿生の方が、有意に少数で食事を摂っていた。しかし、居住形態に関わらず、昼食は大学構内で
友達・先輩と複数で摂っていたが、家族と同居している学生の中にも、朝食や夕食は一人や少数
村上・苅安・岸本:大学生における食生活の特徴と心身愁訴
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で摂る傾向が強く、大学生は、昼食を除き一人で食べる食事が多く、孤食が多いことが明らかに
なった。田辺らの調査8)でも、一人で食事した者が朝食や夕食で過半数を占めていたが、昼食は
複数人数で摂る傾向がみられたと報告されており、同様の結果となった。また、起床時間が遅い
学生は、朝食の欠食が多いと報告されている4)が、本調査でも、朝食は自宅以外に大学構内や車
の中などで多く摂られており、起床時間が遅く、家を出るまでの時間がないため、大学までの通
学中や大学に着いてから講義前に食事を摂ってた。一方、夕食は、大半は自宅で摂られていたも
のの、飲食店やファーストフード店、アルバイト先など自宅や大学構内以外での食事も多く、同
席者も家族や友達・先輩など複数で摂る傾向もよくみられるなど、各個人に応じて多種多様な形
態で摂られていた。また、食事時間について、大河原ら4)や田辺ら8)の調査結果で、食事時間は
朝食で短く、夕食で長かったと報告されているが、本調査でも、食事時間は、長い順に夕食、昼
食、朝食となり、夕食では朝食の約2倍の時間を要しており、同様の傾向がみられた。
朝食は菓子パンやおにぎりのみが多く、また注目食品が多く摂られていた。献立構成では、
「主食のみ」や「その他」の評価が多く、栄養バランスでは「両方がない」の評価が多くみられ
た。昼食での献立構成は「単品物」が多く、夕食では「揃っている(主食・主菜・副菜)」、「単
品物」が多かった。「単品物」はカレーライスや麺類などが多くみられ、昼食、夕食では米だけ
でなく麺類も主食として摂られていた。大河原らの調査4)でも、米は主に昼食・夕食に、パンは
主に朝食に、麺類は昼食と夕食に主食として摂られていたと報告されており、同様な結果となっ
た。また、大河原ら4)は栄養バランスについても、食物摂取状況と関連づけて調査しており、男
女学生とも食物摂取状況・栄養バランスを「悪い」と報告している。本調査においても、昼食、
夕食とも「揃っている」が最も多かったものの、全体的に、肉・魚・卵よりも野菜が不足しがち
であり、少数ではあるが、昼食や夕食を菓子類のみで済ませている学生もみられ、栄養面での不
安が推察された。また、間食や夜食でパン類や麺類、米飯を摂るなど三食以外で食事を摂る学生
もおり、量や内容で不十分であった食事を補っていることが考えられる。肉・魚・卵の料理につ
いては、朝食で目玉焼きや卵焼きなどの卵料理が多く、昼食、夕食では魚・肉料理が主によくみ
られ、大河原らの報告4)と同様であった。
汁物は、従来から理想とされてきた主食・汁・主菜・副菜の食事パターンには欠かせないもの
であったが、本調査では、食事回数1391件(ただし、三食に含まれるもののみ)のうち汁物は
260件(約19%)しか摂られていなかった。なかには、うどんやラーメンを汁物として摂ってい
る学生もみられた。これは、朝食にパン食や注目食品のみの食事が多く摂られ、また、昼食、夕
食では「単品物」が多くみられたことが関連していると考えられる。また、味噌汁やスープは、
一人暮らしの学生を中心に半調理済み食品を利用したり、昼食に学食で摂る学生が多くみられ、
味噌汁を一人暮らしの学生が調理しているのは、ほとんどみられなかった。また、自宅生でも半
調理済み食品の味噌汁の利用がみられたことから、味噌汁を毎日作る家庭が減少してきているこ
とも考えられる。
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福井大学教育地域科学部紀要 Ⅴ(応用科学 家政学編),44,2005
注目食品に関しては、果物、乳製品、栄養調整食品、サプリメント、野菜・100%果汁ジュー
ス・ゼリーとほとんどの注目食品が朝食で利用されていた。また最近、注目食品の中でも、栄養
調整食品の利用が増加し、特にサプリメントの利用が増加している3)。本調査においても、少数
ではあるが利用者がみられた。サプリメントの利用者は、「毎日」または「2∼3日に1回」の
頻度で利用し、決まった時間帯に摂取する傾向がみられ、食事で不足する栄養分を補うかたちで
利用していた。栄養調整食品は、朝食代わりやおやつとして利用されていた。これらの注目食品
は、主に朝食で利用される傾向があり、朝食を菓子パンのみなど手軽に済ませようとする一方で、
食事代わりに栄養調整食品を摂っている学生もみられた。つまり、大学生は、朝食に簡便性を求
める一方で、栄養面も気にかけ、健康な食事を心掛けていることが明かになった。
難波らの調査2)では、10、20歳代の若者で“食事やおやつ”の購入を目的にコンビニを利用す
る頻度が高く、パン、おにぎり、弁当、インスタント・レトルト食品などの購入割合が高い傾向
がみられたと報告している。また、浅野らの調査9)でも、大学生のファーストフードの利用頻度
が高いことが示されており、食事の選択の自由度が高い大学生では、食生活の外部化、簡便化志
向が強いことが示唆されている。
そこで、本調査では、朝昼夕の三食と外食、調理済み食品、半調理済み食品、手作り料理、そ
の他の利用頻度の関連を比較したところ、利用品数、1食に占める割合で全てにおいて有意差が
みられた。外食は、朝食ではみられず、昼食や夕食で多くみられた。昼食で外食が多いのは学食
を利用しているものが多いことも関連していた。調理済み食品は、朝食、昼食、夕食の全てにお
いて、平均してよく摂られていたが、朝食、昼食では、菓子パンや調理パン、弁当類などの「主
食」や「単品物」が多かったのに対して、夕食ではおかずの1品として惣菜などが多く摂られて
いた。半調理済み食品は朝食、夕食で多く摂られていた。献立としては、朝食では味噌汁、昼食
ではカップ麺、カレーライスなどの「単品物」が、夕食では「単品物」やおかずの1品として利
用される傾向があった。しかし、半調理済み食品の利用は全288件で全体の約20%であり、全体
的にあまり利用されておらず、学生は、半調理済み食品よりも外食や調理済み食品に頼っている
ことがわかった。手作り料理は、夕食で最も多く摂られ、1食に占める割合が高かった。これは、
手作り料理は1品だけ作るよりも、いくつかまとめて作る傾向があるためである。「その他」は
朝食での利用が最も多く、これは乳製品や果物、栄養調整食品などの注目食品を利用しているた
めであった。
以上のことから、大学生は、朝食は時間的にも余裕のないため手軽に済ませる調理済み食品や
注目食品に頼りがちであり、昼食は、大学構内にいるため、手作り弁当も持参している学生も少
数はみられるものの、多くの学生が学食または生協やコンビニの調理済み食品を利用しているこ
とが明らかになった。一方で、夕食は、自宅で手作り料理を摂っている学生が多くみられ、一人
暮らしの学生でも女性を中心に自炊をしている者が多数みられた。平成14年厚生労働省国民栄養
調査10)では、20歳代の若者の朝昼夕別の食事構成比で朝食は欠食が、昼食は調理済み食品や外食
村上・苅安・岸本:大学生における食生活の特徴と心身愁訴
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が、夕食は家庭食(手作り料理)が高率を示しており、本調査においても、これらの結果とと同
様であった。
また、外食や中食の利用頻度には居住形態によっても違いがみられ、下宿生では、外食、調理
済み食品の利用頻度が、自宅生では、手作り料理の利用頻度が有意に高かった。これは、下宿生
では、調理担当者は学生自身であるため、食事を作る手間を省くために外食や中食を比較的よく
利用していることが考えられる。しかし、中食に関しては外食ほど居住形態による差はみられず、
一般の家庭でも多く利用されていたため、中食が現代の食生活に大きな役割を占めていることが
推察された。
本調査では、揚げ物は外食や中食でよく摂られており、揚げ油の処理など調理の際に手間がか
かるため、特に一人暮らしの学生で揚げ料理をしているものはほとんどみられなかった。また、
揚げ物は朝食にはあまりみられず、朝食には好まれない傾向があった。揚げ以外の調理方法では、
朝昼夕の三食に関係なく摂られていたが、やはり朝食には卵焼き、ウィンナーやベーコンなどの
簡単にできる「焼き・炒め」料理や前日の夕食の残りの煮物などが多くみられたのに対して、夕
食には多種多様な料理がみられた。これは、夕食に手作り料理が多くみられたことも関連してい
ると考えられる。
小西らの女子短大生の食事調査11)では、食事は夕食にウエイトを置き、朝食、昼食を簡単に済
ませる傾向があったと報告されている。本調査においても、同様の傾向がみられた。これは、家
族構成員の生活時間が多様化する中、食事の時間が唯一家族と会話できる時間であり、また、夕
食は比較的家族が揃いやすい時間であるため、多種多様な料理が食卓に並ぶためであると考えら
れる。また、居住形態を問わず多くの学生にとっては、夕食は調理時間においても食事時間にお
いても、最も時間をかけられる食事であるため、朝食や昼食などよりもウエイトを置く傾向があ
るためと考えられる。
心身愁訴に関して、第39回学生生活実態調査12)では、「良好」が68%と多いが、「健康面で気に
かかっていることがある」学生は68%もいると報告されており、また、その内容は、女性は「肩
がこる」、「視力の低下」、「疲れやすい」、「手足の冷え」、
「便秘しやすい」、男性は「視力の低下」、
「体がだるい」、「疲れやすい」などであった。男女を比較した調査では、精神的健康度は男性と
比較して女性の方が低いことが冨永らの調査6)で報告されている。本調査において、心身愁訴に
関する18項目の質問をしたところ、「体がだるい」、「肥満気味である」、「痩せすぎである」、「便
秘である」、「イライラして怒りっぽい」、「胃が重い」、「疲れやすい」、「頭痛がする」で性差が認
められ、「痩せすぎである」以外は女性の方が強くそう思っていた。また、第39回学生生活実態
調査12)と同様に、本調査においても「疲れやすい」は男女とも高得点であった。
食事摂取状況を性別に比較すると、朝食回数、間食回数、夜食回数、合計食事回数において有
意差がみられた。男女とも、昼食、夕食に比べて、朝食は欠食されがちであったが、特に男性に
朝食を欠食するものが目立った。朝食の欠食については、平成14年厚生労働省国民栄養調査10)で、
16
福井大学教育地域科学部紀要 Ⅴ(応用科学 家政学編),44,2005
20歳代男性が26.5%、20歳代女性が20.6%と高い確率で欠食されていると報告されている。また、
男性の方が朝食の欠食率が高いことは他の調査4)13)でも報告されており、本調査における結果と
一致していた。間食、夜食については、大河原らの調査4)で、間食は女性の方が男性より多く摂
取し、夜食では男女差はみられなかったと報告されている。本調査においても同様に、間食は女
性の方がよく摂る傾向がみられ、女性は男性よりも間食として菓子類を多く摂取していた。しか
し、夜食を摂っていたのは、ほとんど男性であった。また、女性は、菓子類を楽しみとして間食
を摂る傾向が強いのに対して、男性は、間食や夜食を楽しみというよりは、三食の食事で不足し
た量や内容を補うための食事として摂るものが多くみられた。栄養バランスについて、「野菜が
ない」のみに有意差がみられ、男性の方が女性より野菜が有意に不足していた。大河原らの調査
4)
でも、男性は積極的に野菜を摂取しているというより、付け合わせなどで淡色野菜を多く摂取
していることを指摘している。
食事回数、栄養バランス、平均品数の摂取状況から食事状況は、男性より女性の方が良好であ
ると判断できた。また、外食・中食の利用頻度を性別に比較しても、男性は外食や調理済み食品、
半調理済み食品など中食に頼る傾向が有意にみられたのに対して、女性は外食や中食よりも注目
食品や手作り料理を利用する傾向があり、これは、男性よりも食事に気を使っているため、また、
調理技術が比較的高いことから手作りができるためであると考えられる。伊藤らの調査14)では、
女性は男性に比べて食べることへの関心が高く、食生活充実志向が強いと報告しており、本調査
でも同様のことが示唆された。
心身愁訴と食事摂取状況との関連性については、男性は、特に「朝食回数」との間に有意な関
連がみられ、朝食を欠食しているものほど「体がだるい」、「肥満気味である」、「イライラして怒
りっぽい」、「虫歯が多い」、「胃が重い」、「朝起きられない」、「疲れやすい」、「頭痛がする」の項
目で高得点であった。大河原らの調査4)では、朝食を食べているにもかかわらず1日の食事内容
に不足意識を持つため、朝食を欠食していない学生に栄養不足をいつも感じる者が多くみられ、
反対に、朝食を欠食している学生の中には、朝食を抜いても他の昼食、夕食、間食などで十分栄
養を補っていると思っているため、栄養不足を感じない者もみられたと報告されている。本調査
においては、朝食を欠食しているものほど、心身愁訴を訴えている結果であった。これは、大河
原ら4)は意識だけを調査しているが、本調査では心身愁訴と食事回数を実際に比較して分析した
ため、朝食欠食の影響が明確にみられたと考えられる。また、男性における夜食との関連性は、
夜食回数の多いものほど「体がだるい」と感じるもの有意に多くみられた。「朝のうちはぼーっ
としている」、「疲れやすい」、「朝起きられない」、「気力がない」でも有意ではなかったが、夜食
回数が多いものほど高得点であった。これは、夜食の摂取により朝の心身愁訴にも影響を与え、
朝の食欲不振など朝食の欠食につながってくるためと考えられる。
一方、女性は、特に「夕食回数」との間で有意な関連がみられ、夕食回数が少ないほど「体が
だるい」、「食物アレルギーがある」、「味がわからない」の項目で高得点であり、夕食欠食の影響
村上・苅安・岸本:大学生における食生活の特徴と心身愁訴
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であると考えられるが、「手足が冷える」の項目では低得点であった理由については、運動習慣
など、他の要因についてさらに検討が必要である。
1食あたりの平均品数と心身愁訴との間では、男性は「朝食平均品数」との間で有意な関連が
認められ、女性は「昼食平均品数」、「全食事平均品数」との間で有意な関連がみられた。また、
栄養バランスと心身愁訴の間では、男性は「野菜がない」と「虫歯が多い」に、女性は「肉・
魚・卵がない」、「両方がない」と「虫歯が多い」との間に有意な関連がみられ、男女とも野菜や
肉・魚・卵の摂取状況が虫歯に影響を及ぼしていることが明らかになった。これは、野菜を食べ
る時の咀嚼による唾液分泌の影響や、ミネラルなど含有栄養成分の影響による可能性が考えられ
る。
浅野らの調査9)では、ファーストフードを多く利用しているものほど「肥満気味」、「朝起きら
れない」、「疲れやすい」、「体がだるい」、「イライラ怒りっぽい」と感じている割合が多い傾向が
みられたと報告している。また、難波らの調査2)でも、コンビニ利用群で「朝起きられない」、
「疲れやすい」、「イライラ怒りっぽい」で高い率を示したと報告している。本調査において、外
食や中食の利用と心身愁訴との関連はあまり顕著にみられなかった理由としては、心身愁訴の高
い者の度数が少ないため、統計的な関連性が表れなかったと考えられる。
以上の結果より、本調査の対象とした大学生では、規則正しく三食摂っているものが多数いる
一方で、朝食欠食や夜食摂取など乱れた食事摂取状況も観察された。また、三食摂っているもの
の中にも、不規則な食事時間や食事を主食のみや菓子類のみなどで済ます偏食、外食や中食に頼
りがちな食事などが多くみられ、大学生の乱れた食生活が明らかになった。また、昼食を除き、
孤食が多くみられたことも特徴的であった。つまり、大学生は、規則正しく食べることに執着が
なく、自分の空腹の時や時間が空いた時に簡単に食事を済ませる傾向があり、これらが孤食(個
食)や欠食、偏食につながっていると考えられる。さらに、本調査で注目して分析を行った少な
い品数で手軽に栄養補給が期待できる「注目食品」は、このような大学生にとって重要な存在で
あり、高い利用頻度に関連していることが推察された。また、食事摂取状況には様々な点で性差
がみられ、女性の方が男性より良好な食生活を送っていることが明らかとなった。心身愁訴に関
しては、食事摂取状況との間に関連性がみられ、特に、朝食欠食、夜食摂取による影響が大きく、
改めて朝食の重要性を認識する結果であった。不定愁訴を訴える大学生が多い中、食事内容だけ
でなく、食事時間を含む生活リズムの乱れが関連していることは十分考えられる。そこで、今後
は、調査期間を延ばし、比較的長期間の生活リズムとの関連性をみること、さらに、多様な生活
リズムを持つような調査対象者のグループを設定し、比較検討を行う必要があると考える。
要 約
本学大学生173名を対象とし、連続する3日間の食事記録により食生活の実態を調査し、献立
構成や調理方法、食の外部化・簡便化、栄養調整食品の利用などを分析するとともに、それらと
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福井大学教育地域科学部紀要 Ⅴ(応用科学 家政学編),44,2005
心身愁訴との関連性について検討を行った。
大学生は、昼食を除き孤食の頻度が高かった。食事時間の不規則な学生が多くみられ、朝食欠
食や夜食摂取は男性に多く、間食摂取は女性に多かった。朝食では、主食のみの食事が多い反面、
栄養調整食品や乳製品、果物など、簡便に栄養の摂取が期待できる食品の利用も多く、食の簡便
化が進む中にも健康志向がみられた。男性は女性より、外食や調理済み食品、半調理済み食品な
どの中食の利用頻度が有意に高かったのに対して、女性では注目食品や手作り料理の利用頻度が
有意に高かった。外食や中食の利用と心身愁訴には有意な関連はみられなかった。また、女性の
方が、男性より平均品数や野菜のある食事が多い、欠食が少ないなど、全般的に食生活は良好で
あったが、心身愁訴は高かった。男性では、朝食欠食、夜食摂取による心身愁訴への影響が顕著
であった。
引 用 文 献
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ンス・ストアーの利用の実態と食生活状況、栄養学雑誌,59(3)
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4)大河原悦子、小泉直子、藤本晴美、菅陽子、田中久美子、浦畑育生、香月文子:男女学生のライフスタイ
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13)田辺由紀、田中美紀、金子佳代子:大学生の生活価値観と食生活に関する研究(第2報)、日本食生活学会
誌,9
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,31-38(1998)
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家政学会誌,48(11)
,971∼979(1997)
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