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米国の再生可能エネルギー政策(1)

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米国の再生可能エネルギー政策(1)
米国の再生可能エネルギー政策(1)
2015/06/01
クリーンパワープランで米国は世界の低炭素技術をリードするか?
松本 真由美
国際環境経済研究所理事、東京大学客員准教授
環境保護局(EPA)が2014年6月2日に発表した、発電所からのCO2排出量を2030年までに2005年に比べて
30%削減することを目標とした規制案「クリーン・パワー・プランClean Power Plan」。CO2排出削減の目標達
成の方法として、石炭火力から天然ガス火力へのシフト、既存発電技術の効率向上、省エネ技術の導入による促
進などとともに、再生可能エネルギーや原子力発電などの低炭素電源を開発していくことが重要施策として盛り
込まれている。
オバマ大統領は2009年の就任時、「グリーン・ニューディール政策」を掲げ、太陽光や風力などの再生可能エ
ネルギーの利用促進や環境関連技術への投資を景気回復、雇用創出の柱の一つとして位置づけていた。その後、
再生可能エネルギーに原子力、天然ガス、クリーンコールを加えて「クリーンエネルギー」と定義し、これらの
分野への投資の拡大や利用促進を図ることで、エネルギー・セキュリティの向上と雇用の創出を図る政策を推進
してきた。しかし、第二期オバマ政権におけるエネルギーの基本戦略は、「グリーン・ニューディール政策」か
ら「all-of-the-above energy strategy」(全方位的エネルギー戦略)へと転じており、国内で利用可能なあら
ゆるエネルギー資源を活用して、エネルギー自給率を高め、海外から輸入する石油の依存を軽減していく戦略を
推進している。
(the White House ホームページより)
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気候変動問題を最優先課題のひとつとして掲げるオバマ政権は、2015 年 2 月 2 日、2016 年会計年度(15 年
10 月〜16 年 9 月)予算教書に、温暖化対策技術に対して 74 億ドルの予算を盛り込んだ。これは、前年度の 2015
年予算として大統領が提出した 69 億ドル(議会で承認されたのは 65 億ドル)を上回る。予算教書では、発電所
で排出される CO2 削減を促進するために各州へのインセンティブとして 40 億ドルが盛り込まれた。
再生可能エネルギーの促進支援策として、州ごとにさまざまな支援策があるが、連邦レベルでは投資税額控除
(ITC: Investment Tax Credit)や風力発電を対象とした発電税額控除(PTC :Federal Production Tax Credit)
が実施されている。ITC により太陽光発電システムを導入する個人や企業は所得税または法人税の控除を受ける
ことができる。
太陽光に対する ITC は当初 2016 年末に終了予定だったが、2016 年末に現在の 30%控除から 10%控除に縮
小され延長される見通しである。オバマ大統領は、2016 年予算教書において、太陽光への ITC の永久的期間延
長を提案しており、あわせて風力発電に対する PTC も継続される見通しである。この他、連邦レベルの促進策と
して、米国再生・再投資法(ARRA)の債務保証制度やネットメタリング(余剰電力買取制度)、再生可能エネ
ルギー利用基準制度(RPS: Renewable Portfolio Standard)などがある。州レベルで供給電力の一定割合を再
エネ電力で賄うことを義務付ける RPF は、29 州とワシントン DC で導入されており、太陽光市場をけん引して
いる。
風力と太陽光の市場が拡大
2015年3月31日に国連が発表した報告書によると、
2014年の世界の再生可能エネルギーへの投資は2,700億ド
ルとなり、2013年に比べ17%増加した。新規発電容量は、1億300万kWとなった。投資額は、中国が2013年か
ら39%増加し、833億ドルで第1位、米国の資金調達額は383億ドルで2位、日本は357億ドルで3位だった。報
告書では、風力と太陽光が投資額の92%を占めたと述べている。米国のすべての発電電力量に占める再生可能エ
ネルギーの割合は、2014年実績で13%(水力6%、水力除く再エネ7%)であるが(図1)、再エネ電力の内訳を
見てみると、水力、次いで風力の占める割合が多く、太陽光が近年急速に拡大している(図2)
2013年の太陽光発電の導入量はこれまでの最大の4.75MW、翌年の2014年の導入量はさらに前年比36%増の
6.5GWとなり、累積導入量は16.1GWに達する見込みである。最近では、エネルギー省(DOE)が、太陽光発電
技術の信頼性と耐久性を向上させるための研究開発プロジェクトの900万ドル超を出すことを発表している。太
陽電池モジュールの品質や性能、信頼性を向上させ、産業界のさらなる育成を図ることを目的としている。
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(図1)ITTA 米国の2001年と2014年の発電電力量の比較
(図 2)出典 EIA(U.S. Energy Information Administration) 2012 年から 2040 年の再エネ発電電力量の割合予測
2015年の米国のエネルギー需給見通し
3月にヒアリングを行ったITTA(International Technology and Trade Associates, Inc)によると、エネルギ
ー省(DOE)は、2015年の短期的なエネルギー需給見通しとして、電力事業者によって20GW以上の電力が系統連
系されることを期待しており、その内訳は以下の通りである。
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(1)
風力発電(9.8GW):
風力発電の全体の85%は、北部のノースダコタ州とミネソタ州、南部のテキサス州とニューメキシコ州
の間の平地地帯に設置される見通し
(2)
天然ガス(6.3GW):
天然ガスは全米で普及拡大の見込みだが、テキサス州は1.7GWの導入量となり、他州の2倍で全体の
27%を占める。ニュージャージー州、ペンシルバニア州、デラウェア州、メリーランド州などの大西洋
沿岸中央部には全体26%の1.6GWが導入される見通し
(3)
太陽光発電(2.2GW):
カリフォルニア州に1.2GW、ノースカロライナ州に0.4GWが導入の見通しで、全体の太陽光発電の
73%を占める。両州は太陽光促進策としてRPS制度を導入しているが、この数値に小規模の住宅用(屋
根設置型)の太陽光発電システムの導入量は含まれていない。
この他、ITTAは、2015年12月にテネシー州で建設中のワッツバー原子力発電所2号機(1.1GW)が運転開始
する予定だとしており、稼働すれば米国では20年ぶりの新設原子炉となる。
◎次回は「米国の再生可能エネルギー政策(2)〜太陽光の「サンショット計画」」です。
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