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手書き情報入力速度の面から見た タブレット PC の評価

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手書き情報入力速度の面から見た タブレット PC の評価
広島工業大学紀要研究編
第 41 巻(2007)pp. 263-269
論
文
手書き情報入力速度の面から見た
タブレット PC の評価
森 本 荘 平* ・梶 本 孝 代**
平 原 幸 子**・中 村 靖*
(平成18年10月30日受理)
Evaluation of Tablet PC
from the Viewpoint of an Input Speed of Hand-written Information
Souhei MORIMOTO, Takayo KAJIMOTO,
Yukiko HIRAHARA and Yasushi NAKAMURA
(Received Oct. 30, 2006)
Abstract
Nowadays, many college students possess PC as an educational study tool. However, PC is
hardly used for taking notes of a lecture. The main reasons are as follows: (a) A text input speed
using a keyboard is slow, for the student unfamiliar to a keyboard. (b) In keyboard type PC, it is
difficult to input figure information.
It is expected that the input of a figure is easy for a tablet PC with the pen interface function
which can input handwriting information, and it is suitable for the tool taking notes of a
lecture.
In this paper, comparative evaluation of a tablet PC and a keyboard type PC was carried out
from the viewpoint of the input speed of handwriting information. The main conclusions of an
evaluation experiment are as follows:
① The input speed of character operating keyboard by the student who mastered a keyboard,
is about 1.2 times faster than the input speed in handwriting using a tablet PC, but the
difference is not big.
② The input speed of figure when operating a tablet PC is 2.3 times or more faster than the
input speed when operating a keyboard type PC. Superiority of the tablet PC is big.
Key Words: pen-interface, tablet pc, keyboard, input speed, evaluation
学生が自分専用の PC を所持することで情報処理スキルが
1.は じ め に
向上するだけでなく,コンピュータの理解促進など情報教
パーソナルコンピュータ(以下,PC)の軽量化と低価
育面でも効果があることが分かっている。
格化に伴い,大学入学時に学生全員にノート型の PC を所
教育学習の色々な面で有益な PC であるが,学生が授業
持させ,教育学習ツールとして活用することが進んでいる。
中にノートを取る目的ではほとんど使われていないとい
***
広島工業大学環境学研究科地域環境科学専攻
***
広島工業大学情報学部情報工学科
― 263 ―
森本荘平・梶本孝代・平原幸子・中村 靖
う問題がある。大学入学時に全員ノート PC を所持してい
を「通常 PC」と呼び,ペンインタフェースによる手書き
る大学3,4年生を対象にアンケート調査を行った例では,
情報入力が可能な PC を「タブレット PC」と呼ぶことと
約 91%の学生が紙のノートに依存し,ノート PC を使用
する。
して授業のノート作成を行っている学生は 10%にも満た
本研究では文字情報入力速度については
ない結果が出ている。その最大の原因は,入力インタフェー
① 通常 PC のキーボードによる入力
スにあるのではないかと考えられる。
② タブレット PC のペンインタフェースによる入力
現在,文字情報入力インタフェースとして主流と成って
③ 紙への手書き
いるキーボードは,(a)操作の習熟に時間がかかる,(b)
の三種類の方法により,図形情報入力速度については
自由図形の入力が困難,
(c)装置小型化のネックになる,
① 通常 PC の図形描画機能あるいはマウスによる入力
などの問題があり,必ずしもベストな入力インタフェー
② タブレット PC のペンインタフェースによる入力
スとは言えない。キーボードの習熟には通常数ヶ月かかる
③ 紙への手書き
ので,一斉導入後ただちに本格的に活用できない事や,ま
の三種類の方法による入力速度を,多数の被験者について
た習熟度が極端に低い学生にとってはノート PC が学習の
測定し数量的に比較検討する。
ハンディとなりかねない。また授業で黒板に書かれた自由
図形をノート PC では素早くメモ出来ないなどの問題があ
2.2 実験に用いた入力装置
り,特に大学生が授業中のノートを作成する目的には適し
2.2.1 キーボード入力装置
ていないと言える。
キーボードによる文字入力装置としては,被験者が使い
一方,手書き情報をコンピュータに入力するペンイン
なれているノート PC のものを使用した。
タフェース技術が研究されており,最近この技術を組み込
キーボードで文字情報を入力する場合,仮名入力とする
んだタブレット PC が商品化された。タブレット PC では
かローマ字入力にするかは各被験者の好みにまかせたが,
手書きの文字情報の入力と手書きの図形情報の入力が容易
大部分の被験者はローマ字入力を選択した。
であり,授業のノート作成の用途には適しているのではな
2.2.2 ペン入力装置
いかと期待される。ペンインタフェ−スは習熟困難性の問
ペンインタフェースによる文字入力手段として,表示
題が少ないので,PC 導入期における補完的な入力インタ
一体型タブレットを持ち,手書き文字認識機能を持つタブ
フェースとしても期待される。
レット PC を使用した。
一般に PC を情報ツールとして活用するためには情報の
(1)タブレット PC の概要
入力速度が重要であり,特に授業のノート作成のような場
タブレット PC の外観を図 2.1 に示す。その主な仕様は
面では文字情報や図形情報の入力速度が決定的に重要な要
モデル名/型番
素となる。そこで本研究では文字情報と図形情報の入力速
dynabook SS M200 160L/2X モデル
度の面からタブレット PC を評価分析し,既存のキーボー
プロセッサ
ドとマウスを中心とした通常の PC との比較検討を行うこ
Intel® Pentium® M プロセッサ 725 動作周波数 1.60GHz
ととした。
筆者らはノート PC を授業で利用している大学生(主に
3,4年生,一部大学院生)を被験者として,文字情報入
力速度と図形情報入力速度の面からタブレット PC とキー
ボード中心の通常の PC を比較評価し,授業のノート作成
ツールとしての長期的な意味でのペンインタフェースの効
果を明らかにした。
以下,2章では研究の概要および使用した装置,被験者
について,3 章では文字情報入力速度の取得方法と結果の
分析について,4 章では図形情報入力速度の取得方法と結
果の分析について,5 章ではまとめについて述べている。
2.研究の概要・装置・被験者
2.1 研究の概要
本論文ではキーボードとマウスを中心とした通常の PC
― 264 ―
図 2.1 実験に使用したタブレット PC の外観
手書き情報入力速度の面から見たタブレット PC の評価
主メモリ 標準 / 最大
2.4 被験者
512MB / 2GB(PC2700 対応,DDR SDRAM)
本研究において情報入力速度の測定対象とした被験者
内部ディスプレイ
は,2006 年度時点での情報系学科の大学3,4年生およ
12.1 型 SXGA+ 低温ポリシリコン TFT カラー液晶
びその学科出身の大学院生による計 37 人である。これら
入力装置 タブレット
の学生は大学入学時に全員ノート PC を所持しているの
電磁誘導式デジタイザ,タブレットペン
で,3年間以上に渡り PC を使用し,PC の使用スキルは
十分な経験を持っている被験者である。
そのため,キーボー
(2) ペン入力座標検出方式
使用したタブレット PC は,座標検出方式として電磁誘
ド入力を習熟の上でペンインタフェースの効果を測定する
導方式を利用している。電磁誘導方式は,ペン側から磁界
のに適した集団である。
を与え,X,Y それぞれの方向に設けられたセンスライン
に誘起された誘導信号から X および Y 座標を検出する方
式である。感圧方式と比較して座標分解能が高いので小さ
い文字の入力が可能である。
3.文字情報入力速度に関するデータ取得方法と
結果の分析
3.1 文字情報入力速度のデータ取得方法
(3) 文字情報の入力
各被験者に対し,あらかじめ決めた下記の定型文(47
実験で使用したタブレット PC はディスプレー上に表示
文字3符号)を①紙への手書き,②タブレット PC を使用
される「Tablet PC 入力パネル」
(図 2.2 参照)を介して情
したペン入力,③通常 PC のキーボード入力,の3通りの
報を入力する。手書きパッド,文字パッド,スクリーンキー
方法で入力させ,所要時間を測定してそのデータを基に入
ボードの 3 種類の入力パネルを使って,アプリケーション
力速度(文字/分)を求める。
にテキスト入力ができる。テキストを入力したいポイント
また,タブレット PC を使用したペン入力では,書いた
のそばに「Tablet PC 入力パネル」を開くことができる。
文字を認識させることによりどれだけの時間差があらわれ
文字の入力モードとして(a)手書き文字をそのままイ
るのかを明らかにするために,文字認識機能有りの状態と
メージ情報として入力するモード,(2)手書き文字を認識
文字認識機能無し状態の二つのデータを取った。
して入力するモード,の二つがある。
定型文:「私は広島工業大学環境情報学科の1年生です。
今年4月に入学以来,パソコンの使い方を毎日練習してい
ます。」
定型文には画数の多い漢字,片仮名,数字も含むよう考
慮した。データ取得にあたり,被験者への説明・練習は下
記の内容である。
① 紙への手書き:幅7mm の罫線(市販のレポート用紙
の罫線幅に準拠)付き記入用紙を配布し,これに鉛筆ま
たはボールペンで手書きさせる。手書きに対するガイダ
図 2.2 「Tablet PC 入力パネル」の外観
ンスや制約はなし。したがって,被験者は自然に7mm
2.3 紙への手書き
の罫線に納まる文字サイズで手書きすることとなる。
ペンインタフェースによる入力速度の測定のために本研
② タブレット PC を使用したペン入力:ほとんど全ての
究ではタブレット PC を使用するが,実験に使用したタブ
被験者はタブレット PC を使った経験が無い。したがっ
レット PC はその時点の可能な技術で実現されたペンイン
て実験に先立ち5分間程度,最小限のタブレット PC の
タフェースであり,技術の進歩とともに仕様・性能は変わっ
使い方と注意事項を説明する。個々の被験者は,まず1
ていく。これに対し紙への手書き速度はペンインタフェー
分間程度自分の名前を手書き入力する等して,タブレッ
スにおける理想的な情報入力速度と見なせるので,本研究
ト PC の使い方の要領を把握し,その後定型文の入力時
ではこれを「理想的ペン IF 入力速度」と呼ぶ。今後技術
間測定を行う。
が進歩すればペンインタフェースによる入力速度は理想的
③ 通常 PC のキーボード入力:被験者は大学入学時に全
ペン IF 入力速度に近づくと考えられるので,理想的ペン
員ノート PC を所持し,その基本的使い方ガイダンスを
IF 入力速度を比較検討の対象に加えた。また,理想的ペ
受け,かな漢字変換およびワープロソフトの使い方につ
ン IF とタブレット PC へのペン入力速度を比較する事に
いては承知している。したがって,本実験に際して,キー
より,現状でのペン入力の完成度を評価することができる。
ボードによる文字入力方法の説明・練習は行わない。
― 265 ―
森本荘平・梶本孝代・平原幸子・中村 靖
3.2 ペン入力時間の補正
本実験では,定型文をペン入力する際,誤認識が発生し
てもその場で個別に誤認識訂正をせず,そのまま書き続け
て入力時間を測定することとした。その理由は(1)手書
き文字認識率に関するデータを取得する。(2)被験者がタ
ブレット PC の操作に不慣れであるため,誤認識修正まで
求めると,入力時間測定に不確定要素が加わる等である。
そのため本実験では,誤認識が発生してもそのまま入力
を続け,入力終了後に誤認識文字を確認記録して,誤認識
図 3.1 文字情報入力平均速度と標準偏差
文字数に応じて入力時間の補正をする事とした。
補正時間 Td は次式で表される
2
る文字情報入力速度を分析する。
3
Td=Nβtz + Nβ tz + Nβ tz・・・・・・
2
1.キーボード入力と手書き入力ではキーボード入力速度
3
=Nβtz(1+β+β +β ・
・・・)
が平均値で約 1.2 倍速い。PC 導入後のキーボード未
=Nβtz /
(1−β) ………………………(1)
習熟の段階では手書き入力速度の方が大幅に早い結果
ただし N :入力文字数,β:誤認識率(0≦β≦1)
,
が得られているが,本実験の被験者はキーボードに十
tz:1文字あたりの平均訂正時間
分習熟しているため,キーボード入力速度が上回って
したがって,測定時間 To に対する補正後の入力時間 T は
いるが大きな差ではない。また,キーボード入力は標
T= To +Nβtz /(1−β)
準偏差が大きく入力速度の個人差が大きい。
=N
(to+ β tz /(1−β)) ………………………(2)
2.タブレット PC のペン入力では文字認識機能有りペン
ただし to:1文字当たりの平均入力時間(=To / N)
入力(A)の速度は文字認識機能無しペン入力(B)
本研究では tz=to として測定時間を補正した。その場合
の速度よりわずかに下回る。これは主に認識処理時間
T= N・to/
(1−β)
と認識結果待ちに伴うものと考えられる。文字認識処
理の高速化が今後の検討課題である。
= N・to /α ………………………(3)
3.紙への手書きと文字認識機能無しペン入力(B)では
ただし α:文字認識率(=1−β,0≦α≦1)
紙への手書きの方が平均で約 1.2 倍速いが,大きな差
3.3 文字情報入力速度の分析
ではなく,文字認識機能無しの状態で文字情報を入力
①通常 PC のキーボード入力,②理想的ペン IF 入力(紙
すれば,現状のタブレット PC で理想に近いペン入力
への手書き),③タブレット PC のペン入力A(文字認識
速度が得られると言える。
機能有り),④タブレット PC のペン入力B(文字認識機
能無し)の四つの状態における文字情報入力平均速度と標
3.4 個別被験者の入力速度データの分析
準偏差を図 3.1 に示す。図において棒グラフが平均値を,
個々の被験者ごとに理想的ペン IF 入力速度とタブレッ
棒グラフに重なる線分は平均値±標準偏差を表す。また,
ト PC のペン入力速度の関係を離散図で示すと図 3.2 とな
平均・標準偏差・変動係数の数値を表 3.1 に示す。
る。図の中に回帰直線を示す。
回帰直線は右上がりになっており,両者には正の相関
表 3.1 文字情報入力平均速度と標準偏差と変動係数
が見られる。タブレット PC によるペン入力は紙への手書
きと同じ様な感覚で文字情報入力が可能であることがわか
平均入力速度
(文字 / 分)
標準偏差
変動係数
キーボード
58.1
15.2
0.26
紙への手書き
46.5
7.0
0.15
ペン入力A
33.3
6.7
0.20
ペン入力B
39.9
6.8
0.17
る。
図,表に示すペン入力A速度は個々の被験者ごとに文字
認識率に応じて式(3)により補正を加えた値である。以
下ペン入力A速度についてはすべて文字認識率による補正
を加えた値を基に検討する。以下この図を基に各方式によ
― 266 ―
図 3.2 離散図1
手書き情報入力速度の面から見たタブレット PC の評価
次に個々の被験者ごとにキーボード入力速度と理想的ペ
ン IF 入力速度の関係を離散図で示すと図 3.3 となる。図
よりキーボード入力速度と理想的ペン IF 入力速度の間に
は明確な相関は無い。
図 3.3 の中に優位限界線を破線で示したが,この破線よ
り下側に来る被験者は入力速度で理想的ペン IF が優位で
あることを示している。この図では 30% の被験者が破線
の下側に来ている。
図 4.1 モデル図形A(規格図形)
図 3.3 離散図2
入力速度平均値ではキーボード入力速度が紙への手書き
速度を上回っていたが,キーボードに十分習熟した被験者
集団においても,約 30% の被験者は依然としてペン入力
図 4.2 モデル図形B(自由曲線図形)
の方が文字入力速度で優位であることが分かる。
4.図形情報入力速度に関するデータ取得方法と
度,最小限のタブレット PC の使い方と注意事項を説明
結果の分析
する。個々の被験者は,まず1分間程度自分の名前を手
4.1 図形情報入力速度のデータ取得方法
書き入力する等して,タブレット PC の使い方の要領を
図形入力速度を測定するため,図 4.1,図 4.2 で示すモ
把握し,その後モデル図形の入力時間測定を行う。
デル図形Aとモデル図形Bを定めた。モデル図形Aは,矩
③ 通常 PC の図形描画機能又はマウスによる入力:モデ
形や楕円を中心とした PC の描画機能を利用すれば描ける
ル図形 A は通常 PC の描画機能を使用して入力し,モ
図形(以下,規格図形という)である。モデル図形Bは,
デル図形 B は通常 PC のマウスとキーボードを使用して
自由曲線を中心とした手書きでないと描けない図形(以下,
入力する。被験者は大学入学時に全員ノート PC を所持
自由曲線図形という)である。どちらも,実際に授業で使
し,その基本的使い方ガイダンスを受け,PC の描画機
われた事のある図形である。
能やマウスの使い方については承知している。したがっ
各被験者に対しモデル図形Aとモデル図形Bを①紙へ
て本実験に際して,PC の図形描画機能又はマウスによ
の手書き,②タブレット PC を使用したペン入力,③通常
る図形入力方法の説明・練習は行わない。
PC の図形描画機能又はマウスによる入力,の3通りの方
法で入力させ,所要時間を測定してそのデータを基にモデ
4.2 図形入力速度の定義
ル図形入力速度を求める。
本論文における図形入力速度は,単位時間(分)にモ
① 紙への手書き:記入用紙を配布し,これに鉛筆または
デル図形の何%を入力出来るかを表す指標とする。単位は
ボールペンで手書きさせる。手書きに対するガイダンス
(% / 分)で表す。計算式は以下に示す。
図形入力速度(%/分)= 100/モデル図形入力所要時間
(分)
や制約はなし。
② タブレット PC を使用したペン入力:ほとんどの被験
者は文字情報入力速度の実験に参加した被験者であるた
4.3 図形情報入力速度の分析
め,特には練習時間などを設けていない。一部この実験
①理想的ペン IF 入力(紙への手書き)
,② PC の図形描
のみ参加した被験者については,実験に先立ち 5 分間程
画機能・マウスによる入力,③タブレット PC への手書き
― 267 ―
森本荘平・梶本孝代・平原幸子・中村 靖
優位性が見られる。
入力について,モデル図形Aの平均入力速度と標準偏差を
図 4.3 に,モデル図形Bの平均入力速度と標準偏差を図 4.4
2.紙への手書きとタブレットPC への手書き入力の平均
に示す。図において棒グラフが平均値を,棒グラフに重な
速度はモデル図形Aの場合,1.16 倍,モデル図形Bの場
る線分は平均値±標準偏差を表す。また,モデル図形Aの平
合,1.03 倍と,若干紙への手書き速度の方速いが殆ど差
均入力速度・標準偏差・変動係数の数値を表 4.1 に,モデ
はない。このことから現有のタブレットPCで理想的なペ
ル図形 B の平均入力速度・標準偏差・変動係数の数値を
ンIF入力に近い図形入力速度が得られていると言える。
表 4.2 に示す。以下この図表を基に各入力速度を分析する。
4.4 個別被験者の入力速度データの分析
表 4.1 モデル図形A平均入力速度と標準偏差と変動係数
個々の被験者ごとにタブレット PC への手書き入力速度
と通常 PC の図形描画機能・マウスによる入力速度の関係
平均入力速度
(% / 分)
標準偏差
変動係数
紙への手書き
48.0
8.7
0.18
図形描画機能
18.3
3.3
0.18
タブレットPC
41.4
9.3
0.22
を離散図で示すと図 4.5,図 4.6 となる。図の中に回帰直
線を示す。また優位限界線を破線で示す。
図 4.5 離散図1
図 4.3 モデル図形A平均入力速度と標準偏差
表 4.2 モデル図形B平均入力速度と標準偏差と変動係数
平均入力速度
(% / 分)
標準偏差
変動係数
紙への手書き
58.7
10.3
0.18
マウス
23.8
7.7
0.32
タブレットPC
57.1
12.6
0.22
図 4.6 離散図2
1.図 4.5,図 4.6 において全ての被験者が優位限界線の
上側に有るから,図形情報の入力においては全ての被験
者にタブレット PC の優位性があると言える。
2.図 4.5,図 4.6 においてどちらも回帰直線が右上がり
であり正の相関が見られる。文字入力の場合には図 3.3
に見られるようにキーボード入力速度と手書き入力速
度の間にはっきりとした相関が認められなかったのに対
し,図形入力では相関が認められる。
図 4.4 モデル図形B入力平均速度と標準偏差
5.ま と め
1.平均入力速度においてタブレット PC のペン入力は,
本研究では文字情報と図形情報の入力速度の面から,タ
モデル図形Aの場合,PC の描画機能入力に対して 2.26
ブレット PC とキーボードを中心とする通常の PC を比較
倍,モデル図形Bの場合,マウス入力に対して 2.4 倍で
評価し,授業におけるノート作成ツールとしてタブレット
あり,タブレット PC による図形入力のはっきりとした
PC が優れていることを明らかにした。
― 268 ―
手書き情報入力速度の面から見たタブレット PC の評価
よりインタフェースを選択できる仕様となっているから,
以下,要点を示す。
(1)文字情報入力において,キーボードの習熟が進んだ段
PC に対して未習熟の学生から習熟した状態の学生まで,
階ではキーボード入力の方が手書き入力より 1.2 倍程度
幅広いユーザーがその機能を最大限に活用できる可能性を
速いが,顕著な差ではない。また,キーボード入力は標
秘めている。
準偏差が大きく個人差が大きいため,キーボード経験が
現状のタブレット PC はまだマイナーな存在であり,数
3年以上ある人でも,30%程度は依然としてとして手書
量が出ないため価格的に通常の PC より割高である。今後
き入力の方が速い。
メーカーの努力と普及量産化が進み,通常の PC 並みの価
(2)図形情報の平均入力速度においてタブレット PC への
格で使用できるタブレット PC が望まれる。
ペン入力は,規格図形(矩形や楕円等で構成された図形)
参 考 文 献
の場合,通常 P Cの描画機能入力に対して 2.26 倍,自
由曲線図形(自由な手書き曲線で構成された図形)の場
1)Charles C.Tappert, Ching Y.Suen, Toru Wakahara:
合マウス入力に対して 2.40 倍の速度が得られ,入力速
The State of the Art in On-line Handwriting
度において大きな優位性が見られる。
Recognition, IEEE TRANSACTION ON ANALYSIS
(3)図形情報の入力速度については個々人のばらつきが少
AND MACHINE
なく,全ての被験者においてタブレット PC への手書き
pp787-808(1990)
入力が通常 PC の図形描画機能やマウス入力より優位で
INTELLIGENCE, Vol.12, No.8,
2)加藤直樹,中川正樹:ペンユーザインターフェース設
あった。
計のためのペン操作性の検討,情報処理学会論文誌,
以上,本実験を通じて図形入力速度の面からタブレット
Vol.39,No.5,pp1536-1546(1998)
PC の大幅な優位性が明らかとなった。文字情報入力速度
3)宮下和久,渡辺秀和,小川清久:ペン入力を用いた携
の面では,PC 導入後数年経過しキーボード習熟が進んだ
帯型個人情報機器,東芝レビュー 1994 Vol.49, No.12,
段階ではキーボードが優位になるが,その差はわずかであ
pp.856-859(1994)
ることもわかった。これらのことからタブレット PC は大
4)中村 靖,福田 愛,川手章正,山本りか:文字情
学生が授業ノートを作成するツールとして適していること
報入力速度の面から見たペンインタフェースとキー
がわかった。
ボードインタフェースの比較評価,広島工業大学紀要,
また,キーボードと比較してペンインタフェースは変
Vol.38, pp337-346(2004)
動係数が小さいから,デジタルデバイドを軽減するインタ
5)中村 靖,川手章正,山本りか:文字情報入力速度の
フェースとしても効果が大きい。
面から見たペンインタフェースとキーボードインタ
実際のタブレット PC はキーボードインタフェースとペ
フェースの比較評価(2),広島工業大学紀要,Vol.39,
ンインタフェースの両方を持ち,用途やユーザーの好みに
pp341-350(2005)
― 269 ―
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