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第22回 保証(1)[PDF形式]

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第22回 保証(1)[PDF形式]
誌上法学講座
【消費生活相談に役立つ民法の基礎知識】
村 千鶴子
第
22 回
Mura Chizuko 東京経済大学現代法学部教授・弁護士 日本消費者法学会理事
専門は契約法、消費者法。国民生活センター消費者判例情報評価委員会、経済産業省消費経済審議会、
東京都消費者被害救済委員会などの委員を務める。著書に『Q&A 消費生活相談の基礎知識−知って
おきたい民事のルール』
(ぎょうせい)、『誌上法学講座−特定商取引法を学ぶ−』
(国民生活センター)
ほか多数。
保証
(1)
です。以下は、A が B から借金するときに C が
1 はじめに
保証をする場合を例に説明することにします。
この場合の A を主たる債務者、B を債権者、C
保証は、お金を借りるときに保証人になって
を保証人といいます。
もらう、あるいは逆に保証人を頼まれるといっ
たかたちで日常生活でもしばしば耳にするよう
3 保証人とは何か
な身近な契約です。
今回と次回の2号にわたって
「保証人になる」
保証人とは、主たる債務者が弁済期日になっ
ということはどういうことかを取り上げます。
ても弁済しない場合に主たる債務者に代わって
保証人には、単純な保証人、連帯保証人、事業
弁済することを約束する人を意味します。民法
資金の借り入れなどでよく利用されている根保
では「保証人は、主たる債務者がその債務を履
証人、就職などの場合に利用されている身元保
行しないときに、その履行をする責任を負う」
証人があります。
と定めています
(446 条*1)
。
この中から今回は単純な保証人と連帯保証人
主たる債務者 A が弁済しないために債権者 B
を取り上げます。
から請求を受けた保証人 C が
「私はだまされた。
A から絶対迷惑をかけないからと頼まれたから
2 保証の特殊性
保証人になった。だから、私は支払うつもりは
ないし支払う義務もないはずだ」と腹を立てる
これまで典型契約について説明してきました。
典型契約は、組合を別にして2当事者間の契約
ケースがあります。A が破産した場合には、C か
が基本でした。契約は、AB の2人でするものと
ら破産者の代理人や破産管財人に対し、こうし
して定義されていました。
た苦情が持ち込まれることは日常茶飯事といっ
ところが、保証の場合には違います。保証人
てもよいくらいです。これは、C が保証人にな
と債権者との間で保証契約をします。この点で
るという意味を理解していない発言といえるで
は保証契約も2当事者間の契約です。しかし、
しょう。C に保証人になるように頼んだ A も正
保証の場合にはその前提として、金銭債務を負
しく理解していなかった可能性があり得ます*2。
担する人(典型的なものはお金を借りる人です)
*1 以下、断りのない場合は、民法の条文を指します。
と金銭債権を取得する人
(典型的なものはお金
*2 保証人が「保証の意味を知らなかったので支払わない」と主張す
る場合がありますが、保証人になった者が保証人の意味を知ら
なかったと主張しても支払義務を免れることはできません。
を貸す人です)との間の基本となる契約が必要
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また日本では、C が保証人になる場合、主た
者といいます。高齢社会となって認知症などで
る債務者 A に頼まれてなる場合が多いので、保
判断能力が著しく低下する人が増加傾向にあり、
証人は主たる債務者と保証人との契約だと思っ
悪質商法にねらわれやすくなっていますが、こ
ている人がいますが、これも間違いです。保証
のような人が残された能力を生かしてその人ら
契約は、保証人 C と債権者 B との契約で、その
しい生活ができるよう支援する制度として設け
内容は「主たる債務者が弁済しないときには私
られたものが成年後見制度です。
が代わって弁済します」
というものなのです。
例えば、成年被後見人 A が B から借金をした
このように、保証契約は保証人からすれば債務
ときに、C が保証人になった場合を考えてみま
を負担するだけの契約でなんの経済的なメリッ
しょう。A の成年後見人は、A の債務を取り消
トもありません。しかし、知人や親族などに頼
すことができます。もし、A の債務が取り消さ
まれて気軽に引き受けてしまって大変なことに
れたら、C の保証人としての債務もなくなるの
なる場合が少なくありません。そこで、保証人
でしょうか。民法では、場合によって取り扱い
となる人を保護する意味から保証契約は書面で
を区別しています。
行うことが必要とされ、口頭の契約は無効と定
C が保証人になったとき、A が成年被後見人
められています(446 条2項)
。
であることを知っていた場合には、
「保証契約の
民法では口頭で契約は成立する諾成契約を原
時においてその取消しの原因を知っていたとき」
則としています。保証契約は、契約締結のため
に該当します。このときには、
「主たる債務の…
に書面という要式を必要としているもので、民
取消しの場合において
(保証人は)
これと同一の
法上では唯一の例外です。
目的を有する独立の債務を負担したものと推定
する」と定めています
(449 条)
。主たる債務で
(保証人の責任等)
第 446 条 保証人は、主たる債務者がその
債務を履行しないときに、その履行をする責
任を負う。
2 保証契約は、書面でしなければ、その
効力を生じない。
3 保証契約がその内容を記録した電磁的記
録
(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚に
よっては認識することができない方式で作ら
れる記録であって、電子計算機による情報処
理の用に供されるものをいう。
)によってされ
たときは、その保証契約は、書面によってさ
れたものとみなして、
前項の規定を適用する。
ある A の債務が取消しによってなくなっても、
保証人 C の責任は残るわけです。
保証人になったとき、A が成年被後見人であ
ることを C が知らなかった場合には、A の債務が
取り消されれば、C の保証債務もなくなります。
(取り消すことができる債務の保証)
第 449 条 行為能力の制限によって取り消
すことができる債務を保証した者は、保証契
約の時においてその取消しの原因を知ってい
たときは、主たる債務の不履行の場合又はそ
の債務の取消しの場合においてこれと同一の
目的を有する独立の債務を負担したものと推
定する。
(保証債務の範囲)
第 447 条 保証債務は、主たる債務に関す
る利息、違約金、損害賠償その他その債務に
従たるすべてのものを包含する。
2 保証人は、その保証債務についてのみ、違
約金又は損害賠償の額を約定することができる。
5 単純保証人とは
(保証人の負担が主たる債務より重い場合)
第 448 条 保証人の負担が債務の目的又は
態様において主たる債務より重いときは、こ
れを主たる債務の限度に減縮する。
民法の条文で単に
「保証人」
としているものを
連帯保証人と区別する意味で、民法の教科書や
判決などでは
「単純保証人」
と呼んでいます。民
法の条文に
「単純保証人」
という規定があるわけ
4 主たる債務が制限行為能力者による場合
ではないので注意してください。
これは、一般社会で利用されている保証人制
未成年者、成年被後見人などを制限行為能力
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度のほとんどが連帯保証人であるため、このよ
つ、執行が容易であることを証明したときは、
債権者は、まず主たる債務者の財産について
執行をしなければならない。
うな説明の仕方をするほうが分かりやすいから
ではないかと推測されます。市販されている借
(連帯保証の場合の特則)
第 454 条 保証人は、主たる債務者と連帯
して債務を負担したときは、前二条の権利を
有しない。
用証書の定型書式でも、貸主、借主と並んで
「連
帯保証人欄」が用意されているものが一般的で
す。連帯保証の意味を知らない人でも、この書
(催告の抗弁及び検索の抗弁の効果)
第 455 条 第 452 条又は第 453 条の規定に
より保証人の請求又は証明があったにもかか
わらず、債権者が催告又は執行をすることを
怠ったために主たる債務者から全部の弁済を
得られなかったときは、保証人は、債権者が
直ちに催告又は執行をすれば弁済を得ること
ができた限度において、その義務を免れる。
式を使って契約すれば、意識しないままに連帯
保証人をたてることになるわけです。
6 単純保証人の場合の取り扱い
保証人が債権者から返済を求められた場合に、
「借りた本人
(主たる債務者)
から回収してほしい」
「保証人だけがひどい思いをした、借りた本人が
債権者が1つの債務について複数の保証人を
知らんふりで生活しているのは納得できない」
取る場合があります
(共同保証)
。例えば、A が
という気持ちを持つことが少なくありません。
B から 300 万円の借金をした場合に、CDE の3
単純保証人の場合には、債権者に対して「ま
人の保証人を取った場合を考えてみましょう。
ず主たる債務者に請求してください」と主張で
債権者は、最も資力のあるCに対して 300 万円
きます(452条)
。これを催告の抗弁といいます。
を支払うように請求できるでしょうか。
ただし、主たる債務者が破産している場合には
3人とも単純保証人の場合には、保証人の誰
催告の抗弁はできません。
に対してもこのような請求はできません。保証
さらに、保証人が主たる債務者に容易に強制
契約で別の定めをした場合を除いて、3人で3
執行できる資産があることを知っている場合に
分の1ずつ分割して保証債務を負うことになり
は、債権者に対して
「主たる債務者には○○とい
ます。これを分別の利益といいます。つまり、
う資産があります。まず、この資産に対して強
B は、CDE のいずれに対しても 100 万円を支払
制執行をしてください」と主張することができ
うようにと請求することしかできないのです
ます(453 条)。これを検索の抗弁といいます。
(456 条、427 条)
。
債権者が催告の抗弁や検索の抗弁を無視した
(数人の保証人がある場合)
第 456 条 数人の保証人がある場合には、
それらの保証人が各別の行為により債務を負
担したときであっても、第 427 条の規定を適
用する。
場合には、もし抗弁された時点で主たる債務者
に対して訴訟を提起し強制執行をしていれば回
収できたはずの部分については、保証人は支払義
務がなくなると定められています
(455 条)
。
(分割債権及び分割債務)
第 427 条 数人の債権者又は債務者がある
場合において、別段の意思表示がないときは、
各債権者又は各債務者は、それぞれ等しい割
合で権利を有し、又は義務を負う。
(催告の抗弁)
第 452 条 債権者が保証人に債務の履行を
請求したときは、保証人は、まず主たる債務
者に催告をすべき旨を請求することができ
る。ただし、主たる債務者が破産手続開始の
決定を受けたとき、又はその行方が知れない
ときは、この限りでない。
7 連帯保証人とは
(検索の抗弁)
第 453 条 債権者が前条の規定に従い主た
る債務者に催告をした後であっても、保証人
が主たる債務者に弁済をする資力があり、か
連帯保証人の場合は、単純保証人と違って、
催告の抗弁・検索の抗弁がありません
(454 条)
。
したがって、債権者は、最も回収が容易な連帯
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保証人に対して請求できるわけです。連帯保証
して求償請求をすることができます。主たる債
人は、まず主たる債務者から回収するようにと
務者から頼まれて保証人になった場合
(委託を受
主張することはできません。
けた保証人)
なのか、そうでないのかによって、
連帯保証人には分別の利益はありません。300
求償請求できる金額や時期に違いがあります。
万円の借金について3人の連帯保証人があった場
訴訟を提起すれば勝てますが
(主たる債務者
合には、債権者はどの連帯保証人に対しても300
が破産していなければ)
、実際に回収できるか
万円を支払うように請求することができます。
は別の話です。プロの債権者が回収できないの
また複数の連帯保証人のうちの1人に対して
ですから、消費者が保証人になった場合、回収
請求すると、他の連帯保証人に対して請求した
は難しいのが現実です。
ものと見なされるので(458 条による 434 条の
(委託を受けた保証人の求償権)
第 459 条 保証人が主たる債務者の委託を
受けて保証をした場合において、過失なく債
権者に弁済をすべき旨の裁判の言渡しを受
け、又は主たる債務者に代わって弁済をし、
その他自己の財産をもって債務を消滅させる
べき行為をしたときは、その保証人は、主た
る債務者に対して求償権を有する。
2 第 442 条第 2 項の規定は、前項の場合
について準用する。
準用)、この点でも単純保証人よりも厳しいも
のです。
このように、連帯保証人の場合には、債権者
は、最も資産を持っている保証人に対して、全
額を返すように請求できるものなので、債権者
にとってみると大変都合がよい制度であるとい
えます。このような事情があるので、世の中で
(委託を受けた保証人の事前の求償権)
第 460 条 保証人は、主たる債務者の委託
を受けて保証をした場合において、次に掲げ
るときは、主たる債務者に対して、あらかじ
め、求償権を行使することができる。
一 主たる債務者が破産手続開始の決定を
受け、かつ、債権者がその破産財団の配当に
加入しないとき。
二 債務が弁済期にあるとき。ただし、保
証契約の後に債権者が主たる債務者に許与し
た期限は、
保証人に対抗することができない。
三 債務の弁済期が不確定で、かつ、その
最長期をも確定することができない場合にお
いて、保証契約の後 10 年を経過したとき。
は連帯保証人が一般的となっているのです。
消費者は、単純保証人と連帯保証人の違いを
知らないことが多いのではないかと思います。
なつ いん
自分が、連帯保証人欄に署名捺印した場合に、
どのような責任を負うことになるのか十分理解
しているとは限りません。しかし、意味をよく知
らなかったとしても、連帯保証人として署名捺
印してしまうと責任を問われることになります。
(連帯保証人について生じた事由の効力)
第 458 条 第 434 条から第 440 条までの規
定は、主たる債務者が保証人と連帯して債務
を負担する場合について準用する。
(委託を受けない保証人の求償権)
第 462 条 主たる債務者の委託を受けない
で保証をした者が弁済をし、その他自己の財
産をもって主たる債務者にその債務を免れさ
せたときは、主たる債務者は、その当時利益
を受けた限度において償還をしなければなら
ない。
2 主たる債務者の意思に反して保証をし
た者は、主たる債務者が現に利益を受けてい
る限度においてのみ求償権を有する。この場
合において、主たる債務者が求償の日以前に
相殺の原因を有していたことを主張するとき
は、保証人は、債権者に対し、その相殺によっ
て消滅すべきであった債務の履行を請求する
ことができる。
(連帯債務者の一人に対する履行の請求)
第 434 条 連帯債務者の一人に対する履行
の請求は、他の連帯債務者に対しても、その
効力を生ずる。
(連帯債務者の一人についての時効の完成)
第 439 条 連帯債務者の一人のために時効
が完成したときは、その連帯債務者の負担部
分については、他の連帯債務者も、その義務
を免れる。
8 求償権
保証人が弁済したことにより主たる債務がな
くなった場合には、保証人は主たる債務者に対
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