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トロヤ群小惑星の形は どこまでわかったか 佐藤 勲 、浜野和 博巳 トロヤ群小惑星 トロヤ群小惑星とは 常に木星の軌道上の木星の前後60゜付近を公 転している小惑星の群。1906年に最初のトロヤ 群小惑星(544)アキレスが発見された。 制限3体問題の5つのラグランジュ解のうちの安 定な定常解。エネルギーが保存されている場 合、ゼロ速度曲線の内側から出ることはなく、 外部から入り込んできた天体は、そのうちに出 て行くため、現在のトロヤ群天体は、ガス抵抗、 小惑星同士の衝突、他天体の摂動などによっ て捕獲されたものと考えられる。 制限3体問題のゼロ速度曲線 トロヤ戦争とは 古代ギリシャのホメロスの 叙事詩「イリアス」の中 に、古代都市トロイ(現在 のトルコ領内)でギリシャと の戦争があったと記され ており、ドイツの実業家 シュリーマンが発掘を行っ て、紀元前12世紀ごろの 史実であることを証明し た。 映画「トロイ」 2004年に映画化され た。 トロイの木馬 トロイの王子パリスがス パルタ王メネラウスの王 妃ヘレーネを連れ去った ため、これを取り戻そうと したギリシャ軍が10年もト ロイの城壁を包囲し、最 後には贈り物に見せかけ た巨大な木馬の中に兵 士を潜ませて、トロイ市内 に攻め入った。 アキレス腱 パリスの放った矢が アキレスのかかとに 刺さって倒れたこと から、アキレス腱とい う名前がついた。 トロヤ群小惑星の名前 パリザの提案により、L4にはギリシャ軍の、L5にはトロヤ軍の名前が付 けられることになった。ただし、(617)パトロクルスと(624)ヘクトル は、ルール化される前に命名されたために例外となっ た。 . L4 (ギリシャ軍) (588) Achilles (624) Hektor (例外) (659) Nestor (911) Agamemnon (1143) Odysseus (1404) Ajax (1437) Diomedes (1583) Antilochus (1647) Menelaus (1749) Telamon (1868) Tersites (1869) Philoctetes L5 (トロイ軍) (617) Patroclus (例外) (884) Priamus (1172) Aneas (1173) Anchises (1208) Troilus (1867) Deophobus (1870) Glaukos (1871) Astyanax (1872) Helenos (1873) Agenor (2207) Antenor (2223) Sarpedon トロヤ群小惑星の研究はなぜ重要か 太陽系形成モデルとして、ニースモデルが注目されて いる。 後期重爆撃期仮説 アポロが持ち帰った月の石の研究により、太 陽系ができた約46億年前から約7億年後に 地球付近に多数の天体が衝突して数多くの クレーターを作ったらしい。 従来の太陽系形成理論では、現在の海王星 の位置では、海王星を作るのに時間がかか りすぎる。 なぜ外側の海王星が天王星より大きいの か。 冥王星やカイパーベルト天体はどうやってで きたのか。 ニースモデルとは ゴメスらが2005年に発表した太陽系形成モデル かつて、土星は今より太陽に近い軌道を回っていたが、周囲の 微惑星に摂動を与えて内側の軌道に落とした反作用で、外側の 軌道に移動した。 その途中で、木星との2:1の不安定共鳴軌道を通過し、離心率 が大きくなって、海王星が土星に接近して外側の軌道に飛ばさ れた。 土星が外側の軌道に移動していく時に、トロヤ群領域が不安定 となり、微惑星の出入りが激しくなった。 土星が2:1の不安定共鳴軌道を外れると、トロヤ群領域は再び 安定となり、その時にあった微惑星がトロヤ群小惑星として捕ら えられ、現在に至った。 実際にこのシナリオが起こったかどうかをトロヤ群の観測的研 究で検証することにより、太陽系の起源の謎に迫ることができ る。 小惑星による恒星の掩蔽観測 小惑星が背景の恒星を隠す現象を多数の地点で 観測すると、隠した小惑星の断面が浮かび上が る。 1958年にスウェーデンで世界初の観測成功。以 来、世界で約2000回の観測成功。日本では、 1980年に初めて観測に成功。以来、約200回の観 測成功。 測光観測を行なって小惑星の光度曲線を得ること により、掩蔽時の小惑星の自転位相角と変光幅が 求められる。 複数の掩蔽の断面と光度曲線の組み合わせか ら、小惑星の立体形状を求めることが最終ゴー ル。 2003年3月23日(704)インテラムニアによる HIP036189の掩蔽の観測結果 掩蔽観測では…… 3軸不等楕円体モデルを 仮定するため、楕円体か ら大きくはずれた形状の 小惑星に対してはうまくい かない。 (704)インテラムニアの光度曲線(浜野和天文 台) ライトカーブだけだと…… 小惑星の大きさがよく決まら ない。 軌道の全周にわたる観測が ないと、自転軸の方向がよく 決まらない。 表面のアルベドの不均一性 と形状のいびつさが分離しな い。 多面体法では、小惑星の形 が凸型ではなく、へこみやく びれがある場合に、影の効 果のためにうまくいかない。 トロヤ群小惑星による恒星の掩蔽観測実績 年月日 1997.11. 7 2001. 3.21 2001. 4.25 2004. 5. 6 2005. 1.28 2005. 9.29 2007. 5.13 2008. 1.24 2010. 6. 1 2010. 8.17 2010.10.30 2011. 4 17 小惑星 地点数 観測地 (1437) Diomedes 9 日本 (911) Agamemnon 2 アメリカ (2920) Automedon 1 ニュージーランド (911) Agamemnon 2 ニュージーランド (617) Patroclus 1 アメリカ (23135) 2000AN146 1 フランス (1867) Deiphobus 7 日本 (624) Hektor 2 日本 (1867) Deiphobus 1 アメリカ (3317) Paris 2 オーストラリア (624) Hektor 1 アメリカ (1538) Antilochus 2 アメリカ 1997年11月7日 (1437)ディオメデスによる HIP014402Aの掩蔽の観測結果 2007年5月13日 (1867)デイフォブスによる HIP053416の掩蔽の観測結果 2008年1月24日 (624)ヘクトルによる TYC057700887の掩蔽の観測結果 624 Hektor - a Complex Asteroidal Multiple System resolved Observations taken in July 2006 Not resolved Bilobated shape of the primary Moonlet at 0.36” (1150 km), with Δm=6 (15 km) - First multiple L4-Trojan - First moonlet companion in the Trojan population - First complex system in the Trojan population 624 Hektor - a Complex Asteroidal Multiple System resolved Observations taken in July 2006 Not resolved Bilobated shape of the primary Moonlet at 0.36” (1150 km), with Δm=6 (15 km) - First multiple L4-Trojan - First moonlet companion in the Trojan population - First complex system in the Trojan population (617)パトロクルスの衛星の発見 Bulk Density of 624 Hektor Using Roche Ellipsoid Assumption (for primary) From lightcurve: P = 6.921 h From AO image: Apparent separation ~ 160 km (~50 mas) Mass ratio ~1 In agreement with lightcurves published since 1968! (a,b,c) = (80, 55, 50 km) Dapp~ DIRAS Using the moonlet orbit • Only three positions (July 16, Aug 3) • Assuming a circular and equatorial orbit (e = 0, i = 0) • System is seen nearly pole-on Prevolution = 3.61 ± 0.09 days a = 1178 ± 4 km ~ 1/100 x RHill ⇒ Mass = 9.94E18 kg ⇒ ρ(by Roche) = ρ(by moonlet) ~ 2.2 g/cm3 Weak shear strength (rubble pile internal structure?) 結論 小惑星による恒星の掩蔽と測光観測の組 み合わせから、小惑星の立体形状が求めら れる。 トロヤ群小惑星は、まだ探査機による詳しい 直接観測が行われていない天体であり、日 本で探査計画が立てられている。 日本では、トロヤ群小惑星による恒星の掩 蔽観測で世界のトップを走っている。 トロヤ群ミッション計画をアマチュアの立場 からサポートしよう。