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Network経済
Network 経 済
特集 経済学部新学科
2012
Autumn
「国際環境経済学科」開設
獨協大学経済学部
獨協大学経済学会
:SP
CONTENTS
Network経済 2012 Autumn Vol.23
特
集
経済学部新学科
「国際環境経済学科」開設
特 集 経済学部新学科「国際環境経済学科」開設
03 新学科「国際環境経済学科」への大いなる期待
04 「国際環境経済学科」第1期生は「経済学部」第50期生!!
05 国際環境経済学科開設記念シンポジウム
05
登壇者紹介
06
基調講演 1
経済学部特任教授 山根一眞
10
基調講演 2
前アジア開発銀行研究所・総務部長 木原隆司
16
基調講演 3
名古屋大学地球水循環研究センター長・教授 中村健治
22
パネルディスカッション
26 ゼミ活動報告 高安ゼミ「日経GSR学生アイデア・コンテスト」2年連続入賞 27 編集後記
S
特 集
経済学部新学科「国際環境経済学科」開設
新学科
「国際環境経済学科」への大いなる期待
現代社会は、グローバル化、少子高齢化、科学技術の発達、環境問題の深刻化な
どにより、急激な変化を起こしています。獨協大学は、現在、こうした社会の構造変
化に対応するため、教育の内容や方法を改革し、学内の英知と資源を集中し、現代
社会のニーズを反映した教育インフラの再編をめざした「攻め」の改革に取り組んで
います。経済学部では、既存の経済学科と経営学科のカリキュラムや教育内容にも
改革を加える一方で、社会が要請する新たな教育・研究ニーズに応えるために、
「国
際環境経済学科」を2013年4月に開設することになりました。この学科は、経済・経
営の一部門といった狭い領域での新学科ではなく、むしろ広領域的で学際的であり、
現代社会のニーズにも適合し、外部からも改革の実像がわかるもの、といった観点か
獨協大学学長
犬 井
正
ら慎重に検討を重ねてきたものです。その結果、現代の経済や経営を分析、考察する
うえで、不可欠な「環境」と「国際(グローバリゼーション)」をキーワードとして、少
人数教育の演習(ゼミナール)や語学教育、情報教育を推進し、持続可能な社会の
担い手の育成をめざす新学科を創設したのです。
「環境」と「国際」は現代社会を象徴するとともに、一時の流行では終わらない社
会的要請をもっている2つの重要なキーワードです。日本はこれまで、大量生産、大
量流通、大量消費、大量廃棄の経済活動により、環境問題を引き起こしながら、人々
が必要とする財・サービスの供給を行ってきました。しかし、現在、大量生産、大量流
通、大量消費、大量廃棄の経済から脱却し、持続可能な社会を作り出す知恵を行政、
経済・産業界では真剣に模索しています。これからの経済成長は環境やグローバリ
ゼーションを抜きには語ることができません。今や環境への配慮こそが企業や自治
体の生命線となっていて、環境共生志向型人材の育成は急務と言われています。同
時に、グローバルな視点に立ちながら科学的・計量的に環境状況や経済動向を把握、
分析、考察することが重要です。そして、多種多様な情報の中から真に価値のある情
報を見極め、それらを十分に活かしながら、私たちを取巻く自然、社会、経済、文化
の質を高めていく必要があります。今まさに「環境」と「国際」の時代であり、環境マ
インドを育み、情報力を高めながら持続可能な社会を実現できる「グローバル人材」
を育てることこそが希求されているのです。これを実現するために、獨協大学経済学
部が過去に培ってきたICT教育や環境教育の成果を存分に活用するとともに、アカ
デミックかつ実践的な教育・研究を進めていただきたいと思っています。さらに獨協
大学の特色である英語を中心とした外国語教育を重視し、グローバルなコミュニ
ケーションスキルと国際的教養の教育に力を入れることを大いに期待しています。
Network経済
3
「国際環境経済学科」
第1期生は「経済学部」第50期生! !
斉藤 美彦
獨協大学経済学部は2013年4月に新学科「国際環境経済学科」
新学科のコンセプトにおいては「持続可能性」というのは大きな
を設立します。
「Network経済」の本号においては、この新学科の設
位置を占めます。新学科の英語名称を、
“Department of Economics
立記念シンポジウムを特集し、新学科の魅力の一端を開示している
on Sustainability”にしたのには、この思いが込められているのです。
わけですが、私からは経済学部の歴史と新学科設立の背景等につ
そして新学科は、
「持続可能性」の問題について「経済学」の視点
いて簡単に解説したいと思います。
から解決策を考えるということを基本としたいと考えているのです。
獨協大学経済学部は、1964年の大学開学時から設置されている
具体的には、
「国際」を意識し英語をはじめとする外国語教育を
学部です。当時は経済学科のみでしたが、2年後の1966年には経営
重視すること、
「学際」を意識し経済学を基本としつつもそこにとど
学科が設立され、それ以後2学科体制を維持してきました。なお、大
まることなく他の領域の教育も行うこと、
「動」を意識し能動的に問
学院経済学研究科は1990年に修士課程が設置され、その2年後の
題や課題を発見し、解決するための実践に関する教育を行うことを
1992年に博士後期課程が増設されました(修士課程は、博士前期課
教育の重点とします。
程に名称変更)。これにより学士、修士、博士 の3つの学位が授与可
能な体制が整い、実際に授与されてきています。
獨協大学経済学部は1964年に誕生したわけですから、2013年の
入学者は経済学部第50期生となります。そしてもちろん「国際環境
この間、産業界等に有為の人材を供給してきたという自負はあり
経済学科」の入学者はその第1期生です。この冊子を手にされた受
ますが、ここに来て「国際」、
「学際」、
「動」をコンセプトとする新
験生の皆さんは、是非獨協大学の次の50年を切り開く人材となるこ
学科を設立する背景について説明したいと思います。
とを目指して「国際環境経済学科」を志望していただきたいと考え
そのひとつはグローバリゼーションの進展です。世界各国はこの
過程で相互依存関係を強めてきています。もっとも「尖閣問題」で日
ます。勿論、既存の「経済学科」、
「経営学科」について志望される
ことは大歓迎です。
中両国間の関係が悪化し、それが貿易等にも影響していることから
獨協大学経済学部は、学生の期待を裏切らないような教育を提供
もわかるように、グローバリゼーションは直線的に進展するものとは
します。また就職、進学等の進路についてもサポート体制を確立し
いえないでしょう。しかしながら、やはりそれは着実に進展していく
ていきます。新学科で内向きではない自分を実現するための積極的
ことが予想されます。
な4年間を過ごしてください。
そしてこのグローバル社会は環境破壊、種の絶滅、地球温暖化と
いった環境問題を抱えることとなりました。環境問題自体は資本主
義の歴史とともにというかそれ以前においても存在していました。し
かしながらそれらの多くは足尾鉱毒事件や水俣病問題のように地域
的な問題でした。現代の環境問題は地球温暖化であるとかオゾン
ホール問題であるとか、それがグローバルな規模での問題であるこ
とがその特徴です。さらに環境問題に関連して、貧困と飢餓の問題、
人口と食料の問題、経済格差の問題、資源・エネルギー問題、国際
貿易や直接投資の自由化に伴う問題など多くの問題が発生してきて
います。
大量生産・大量消費・大量廃棄の経済から脱却し、環境と成長を
両立して、持続可能な発展を達成することは、私たちに突き付けられ
た最大の課題の一つでありましょう。そしてこれらの解決のための人
材育成の場として構想されたのが新学科「国際環境経済学科」なの
です。
この学科で学んだ学生には、どのような組織、コミュニティに入っ
ても、考え、行動し、協力できる人材、リーダーシップがとれる人材と
なることを期待したいと思います。そして持続可能性、グローバル共
生といった視点をもち、持続可能な社会の実現に貢献できる人材と
して成長していってほしいと考えています。
4
経済学部長
Network経済
特 集
経済学部新学科「国際環境経済学科」開設
獨協大学経済学部
国際環境経済学科開設記念シンポジウム
登壇者紹介
経済学部特任教授
山根 一眞
日時:2012年10月7日(日)
場所:獨協大学東棟1階 E-102教室
前アジア開発銀行研究所 総務部長
木原 隆司
名古屋大学地球水循環 研究センター長 教授
中村 健治
小林(コーディネーター) 皆様、こんにちは。経営学科長の小林
木原隆司先生は、1980年に一橋大学の商学部をご卒業後、大
でございます。本日はどうぞよろしくお願いいたします。
蔵省(現財務省)に就職され、以来、米州開発銀行勤務、WTO交
本日のパネリストの先生方をご紹介させていただきたいと思いま
渉などを含めて国際経済政策にかかわる業務に携わってこられま
す。講演の順番でご紹介させていただきます。
した。また、著書として『援助ドナーの経済学』を発表されるなど
まず、山根一眞先生です。山根先生は、1971年、獨協大学の外
して、一貫して開発援助にかかわるお仕事を続けておられます。
国語学部ドイツ語学科を卒業されました。在学中からジャーナリス
2009年から本年7月まで、アジア開発銀行研究所の総務部長を務
トとして活躍され、その原点であるアマゾンには、1972年以来、お
めていらっしゃいました。本日は「持続可能な開発と援助」という
よそ20回の取材を続けられておられるとのことです。週刊誌に約
タイトルで、開発と援助の基本的な考え方から、国際公共財として
800回、17年にわたって連載を続けた「メタルカラーの時代」では、
の環境保全に至るまでの議論をご紹介いただくことになっており
日本のものづくりの現場の仕事と人生を生き生きと伝えてこられま
ます。
した。また、後で先生のほうから詳しくお話があると思いますけれ
続きまして、中村健治先生のご紹介に移らせていただきます。
ども、1997年に低炭素化社会を目指す「環業革命」を提唱され、廃
中村先生は、1972年に東京大学理学部をご卒業後、同大学院
棄物0のゼロエミッション社会や再生可能エネルギー、省エネを目
理学系研究科の修士・博士課程で気象学の研究を続けてこられ
指す新産業の創造、生物多様性の保全に至るまで斬新な取材と提
ました。その後、郵政省通信総合研究所を経て、名古屋大学地球
言を続けておられます。
水循環研究センターの教授、そして、2011年から同センター長を兼
2009年から獨協大学経済学部の特任教授に就任され、学生に、
任されておられます。
ものづくりや「環業革命」などのテーマで講義を行っております。講
本日は「大気水圏環境と人間」というテーマで、地球圏外から
義のレポートがハードなことは学生の間での伝説となっております。
眺めた大気圏の様子から、地表の水やごみに至るまでの我々人間
また、小惑星探査機「はやぶさ」のプロジェクトも長年取材を続
を取り巻く環境についてお話しいただくことになっております。
けてこられて、著書『小惑星探査機 はやぶさの大冒険』は東映映
2013年4月からは、国際環境経済学科で、地球環境ご担当の教
画の原作にもなりましたし、2011年に獨協大学で行われた天文宇宙
授として就任される予定でございます。
ウィークでの「はやぶさ」の実物カプセルの展示や関連シンポジウム
では、先生方、よろしくお願いいたします。
の開催にご尽力くださいました。以上、山根先生のご紹介でした。
Network経済
5
基調講演 1
「地球生命をみつめた新しい経済の創造」
経済学部特任教授 山
根 一眞
皆さん、こんにちは。ようこそ獨協大学へいらっしゃいました。
量の石炭や石油をエネルギー源と
国際環境経済学科を目指していらっしゃる学生さん、あるいはそ
して、大量のモノを生産し続けて
の親御さんもいらっしゃると思いますが、心からウェルカムです。新
富を手にしてきました。しかしそれ
学科では、ぜひ私たちとともにこれからの時代が求めている環境経
が、地球温暖化という危機をもたらしてしまった。今、その反省のも
済学に取り組んでいただきたいと思っています。
とに、二酸化炭素を排出しない経済のありようが問われています。燃
私は獨協大学のドイツ語学科出身ですが、ジャーナリストとして、
料電池自動車は、水素が燃料です。水素は燃やすと水になる。つま
ノンフィクション作家とし40年以上続けてきた取材執筆の大半は、
り排気ガスは水蒸気のみです。この実験車が意味するものは、
「環
科学や技術の分野が中心でした。また環境についてはアマゾン取材
境を基軸にした新しい産業革命」の到来を物語っていると感じたの
がきっかけとなり1980年代初頭から大きな関心を持って、さまざまな
です。環境に配慮するがために経済が
アクションを続けてきました。1996年にアマゾン初の国際環境シン
低迷してはいけない。環境を基軸にし
ポジウムの主催や愛知万博愛知県館プロデューサーとして温暖化問
ながらダイナミックな経済活動を興さな
題や生物多様性をテーマにしたパビリオン出展をしたのもその一環
くてはいけない。そこで、18〜20世紀の
です。
「産業革命」は人が興したのだから、
私は今、特任教授として講義を行っています。講義では、日々国内
21世紀型の、環境による新しい産業革
外の取材現場で得てきた最新情報を、メディアに発表する前に学生
命も人が興せるはずと考えて、
「環業革
の皆さんにふんだんな映像や写真とともに報告することにも力を入
命」という言葉を創ったのです。
れています。
小惑星探査機「はやぶさ」が地球に帰還したのは2010年6月13日
地球生命=生態系の変化、危機は、じわじわと進展しています。
の深夜でしたが、私はオーストラリアのウーメラ砂漠で大気圏再突入
昨年の2月、東日本大震災の直前に北海道の稚内市が大きな環境
し、神々しいまでの輝きを放ち燃え尽きた「はやぶさ」、そして分離・
フェアを開催することになり、そのお手伝いを依頼され、事前視察に
帰還する「カプセル」を目撃しました。その様子や意味も、帰国後、
行きました。稚内市には宗谷岬に発電用の風車が74基も並ぶウィン
真っ先に獨協大学の講義で報告しています。
ドファームがあり、また設備容量が5020kWという巨大太陽光発電
さて今日は、国際環境経済学科が目指していることを、私なりの
受けとめ方でお話ししたいと思います。
施設「メガソーラー発電所」がある。さらに、生ごみと下水道汚泥か
らバイオガス(メタンガス)を回収しエネルギー源とする「バイオエネ
ルギーセンター」も完成させるなど、稚内市は先進的なエコシティを
何よりも考えたいことは、気候変動(地球温暖化)による地球環
境の異変が、人間を含めたあらゆる生命に脅威をもたらしている点
です。そして、これからの経済は、そのことを考えなければ成り立た
目指しています。
残念ながらこの環境フェアは、東日本大震災の2日後が開催日で
あったために中止になってしまったんですが。
ないということを。福島第一原発による原子力災害で、多くの日本人
が怒りや不安を抱いているのは、それが生命を脅かす問題だからで
事前視察の途上で訪ねた場所が稚内市の抜海村漁港でした。
す。電力などのエネルギー産業は経済の根幹ですが、それが生命を
防波堤などに大変な数のゴマフアザラシが集まっていることで知
脅かしている。それと同じように二酸化炭素の大量排出という経済
られている漁港です。こういうゴマフアザラシを見るために訪れる観
活動が、地球温暖化の進展をもたらし、地球のあらゆる生命の危機
光客も多いんです。
をまねいています。これからの経済は、生命という視点抜きには成り
立たなくなっていると私は考えています。
しかしおそろしいことに、その数が500〜600頭にものぼっている
のです。2003年には95頭だったのが2008年冬には691頭が確認。こ
の日も300頭はいました。なぜこんなことが起こったんでしょうか?
先ほどご紹介のあった「環業革命」とは、私がNHKテレビの「未
来派宣言」
(1996〜97年放送)という番組のキャスターをしていた時
漁港にはゴマフアザラシを
に創った言葉です。1997年4月、番組では開発途上の燃料電池自動
観察する小さなプレハブ建物
車をスタジオに運び込み、新しいクルマ時代を論じたのですが、こ
があり、観光客は置いてある
れを見て瞬時に「環境による産業革命」の到来だなと思ったのです。
ノートに「ゴマちゃん、かわい
18世紀から19世紀の欧州で興った「産業革命」によって20世紀型
い」、
「アザラシ、かわいい」と
の文明の基礎ができ、我々は今もその上にいる。
「産業革命」は、大
6
Network経済
記しています。
特 集
しかし新聞は、
「アザラシふえすぎ」、と危機を訴えています。一体
何が起こっているんでしょうか?
経済学部新学科「国際環境経済学科」開設
エチゼンクラゲの大量発生の原因はまだ未解明ですが、中国の揚
子江沿岸部の経済発展で東シナ海に富栄養化した河川水が流れ込
このプレハブの建物の中でNPOの方がアザラシが到来するシーズ
んでいるためともいわれています。また温暖化で海水温が上昇してい
ンには観察を続け、また来訪者に説明をしています。それによれば、
ることも大きな要因のようです。2007年、このエチゼンクラゲの大群
アザラシの異常繁殖の原因のひとつは、流氷が少なくなったことな
は日本海を北上し、津軽海峡から太平洋に出て、三陸沖にまで棲息
のです。温暖化によってこの100年で、流氷は半分に減りました。ア
が拡大していました。三陸の被災漁港の漁師さんから、つい先日、
ザラシは子育てのための「場」である流氷が少なくなったため、漁港
「うちのほうにも来て大変だった」と聞きました。果たしてこれが温
の防波堤内に押し寄せ続けているわけです。かつて広く行われてい
暖化によるのかどうかはわかりませんが、温暖化が進めばこういうこ
たアザラシ漁が衰退、さらに禁猟となりアザラシにとって人間が脅威
とが数多く起こるのでしょう。
ではなくなったことも、漁港内に押し寄せている原因のひとつとされ
ています。
さて、今から1分40秒間、
なるほど、オホーツク海の氷の面積を示す気象庁の最新データを
ナイアガラの滝の映像を
見ると、過去10年で173万平方キロメートルも減少していることがわ
投影します。これが 何を
かります。
意味しているか、じっくり
と考えながらご覧下さい。
こうしたアザラシの集
中と大繁殖によって、漁
これは、私が2010年に外務省の依頼で世界一周の「環業革命」
業者のニシン、タコ、サケ
講演ツアーを行った途上、ナイアガラの滝でその圧倒的な水量を撮
などの水 揚げは大幅に
影したものです。1分40秒間に落ちた水量は7億2670万リットル、その
減少、大きな経済的な損
水量はアメリカで1日に使われているガソリンの量なのです。
失をもたらしています。
ちょっと古いデータですが、2008年世界のエネルギー消費量の統
一方、今年の9月、北海
計を見ると、アメリカの石油消費量は圧倒的です。日本も少なくはな
道で南の海でしかみない
いですが、ナイアガラの水量でいくと18秒間分です。石油のみならず
マンボウがやたらに獲れ
石炭と天然ガス(炭化水素ガス)も大量に消費されています。これら
ているという報道がありました。サケ470匹に対して、マンボウが100
の炭素エネルギーは燃やして使ったあと、
「ガスごみ」として二酸化
匹も揚がった、と。漁師は、
「マンボウは売れないので困っている」と。
炭素が大量に大気中に棄てられてきたわけです。日本には54基の原
また9月28日のNHKのニュースは、釧路港の水揚げのうち、サバが
子力発電所がありますが、今、動いているのは福井県の大飯原子力
昨年の2000倍以上獲れていると報じました。海水温度の上昇が原因
発電所のみ。電力供給の大半を火力発電に依存するようになってし
のようです。気象庁のデータで釧路付近の海面温度を見ると、今年
まったため、日本の二酸化炭素排出量は膨大になっているでしょう。
は特に水温が高いようで、水温が高い海域にのみ棲息してきた魚が
北海道にまで北上していることが伺えます。
では、大気中の二酸化炭素濃度が高くなると何が起こるのか? 強
釧路沖の冬の海水温はこの100年で2℃上昇、三陸沖でも0.86度
く疑われているのが気候変動です。投影したのは、NASAによる大
〜1.22度上昇しています。わずかな変化ですが、それによって生態系
型台風が九州に向かっている様子をとらえた衛星画像です。こうい
の大きな変化が起こっているわけです。
う台風は今後、さらに大型化していくでしょう。また、今年、北極海
の氷が観測史上最小になったというニュースもありました。こういう
これは2007年11月2日に、福井県沖で撮影した映像と画像です。
ものすごい数のエチゼンクラゲが発生しており「海を覆い尽くすほど
だ」と聞き、現場に飛んで行きました。漁船に乗せてもらい漁場を見
気候変動や極地の異常を伝えるニュースは、今や当たり前のように
なっていますね。
記録的な猛暑が襲うことも増えました。2007年には各地で最高気
たのですが、こういう最大
温が40℃を超えました。私は1947年生まれですが、
「各地で気温が
で2メートルもある化け物
40℃を超えた」なんて初めての経験です。平均気温が1℃、2℃上が
のようなクラゲが大量に網
るだけならたいしたことではないと思いがちですが、
「平均」ですか
にかかっていました。まと
ら、それは最高気温が40℃を超える日が当たり前になるということ
もに魚がとれなくなり、ま
です。
た商品価値のある魚がク
多くの観測や解析によって、こういう気候変動の原因が人為的な
ラゲにやられて傷んでおり漁業に大きなダメージを与えていました。
二酸化炭素の排出量の増大にあることはほぼ間違いないとされるよ
水揚げしたブリに混じってゼリー状のクラゲの破片も多く見ました。
うになっています。
まるでエイリアンの襲来です。
気候変動によってもたらされるもののひとつが、突然起こる激甚
気象災害です。
Network経済
7
今年の5月6日、茨城県つくば市を、日本が経験したことのない竜
も満たないうちに世界の人口が2倍近くになったわけです。70億人の
巻が襲いました。私の教え子である経済学科3年の廣田翔君が災害
誰もが豊かさを求めているのですから、人為的な大気中の二酸化炭
ボランティアの先遣隊としてすぐに現場入り、現場の様子を私の講
素は増える一方です。
義で写真による報告してくれました。また、朝日新聞社が飛行機から
ここで、大気中の二酸化炭素濃度の推移を示すグラフを見ると、
撮影した竜巻の被災現場も見ましたが、竜巻の巨大な勢力には驚く
産業革命前は280ppmだったものが、現在は400ppm前後に達して
ばかりでした。
いることがわかります。280ppmは、大気中に二酸化炭素が0.02%含
私は東日本大震災の被災現場を延べ50ヵ所は訪ねていますが、つ
くば市の竜巻被害は津波被害と同じように住宅街を破壊しつくす凄
まれていることを意味します。それが人為的に0.04%になってしまっ
た。この差は「わずか」のように思えますが、そうではないのです。
まじいものでした。数日前
ネット上などで「地球温暖化のしくみの図」をよく見ます。太陽の
にも秋田や函館でも竜巻
光が地上に当たると温められた熱が宇宙へと放射されるが、大気が
が起こったようですが、ま
なければその熱は全て宇宙に逃げて地球は極寒の地となる(放射
さに激しい気候変動です
冷却)。しかし幸い、大気中に含まれる二酸化炭素がその熱の一部
を反射し地球に戻している。そのおかげで地球の平均気温は14℃前
さて、この図は経済活動
後に保たれてきた。二酸化炭素が地球
の拡大によって地球規模で
をくるむ布団、断熱材の役目を持ってい
の気候変動がどのような影響をもたらすかを表現した国連環境計画
るからこそ(温室効果)、私たちは快適
(UNEP)の図で、私が和訳し作り直したものです。人類が経済活
な生命維持を続けてこられた。
動を増大させることによって、大きな気候変動=地球温暖化がもたら
され、人やあらゆる生命の危機に見舞われることがわかります。
経済学ではこういう人間の文明活動が、社会や経済にどういう影
しかしこれらの説明図は、いずれも誤
解をまねく描き方をされています。大気
層が極端に分厚く描かれているからです。
響(損失)を与えるかに関心があるわけですが、この図はそれを物
語っています。豊かさの実現を目指す経済活動が、逆に莫大な経済
的な損失をまねくということです。
とはいっても、地球温暖化は、
「目には見えない」温室効果ガスが
原因である(と、考えられる)ため、とても理解しにくいのです。
これはNASAが宇宙から撮影した地
球の姿でもっとも美しいといわれる「ブ
ルーマーブル(青い大理石)」と呼ばれている写真です。この衛星写
真の地球で大気層がどれくらいの厚さかというと、この地球の写真
温暖化の原因は、石油や石炭など化石燃料に含まれる炭素の燃
には描けないほど薄いんです。写真の上には、大気層のごく一部分
焼にあります。炭素Cは、燃焼することで酸素Oと結びつき熱エネ
を拡大してあります。そこに白いモノを描き加えましたが、これは星
ギーを産み出したあと、二酸化炭素CO 2という「ガスごみ」として大
出宇宙飛行士が滞在している宇宙ステーション(ISS)の位置です。
気中に棄てられてきました。
ISSの平均高度は約370キロ、ここはもう宇宙。一方、大気がある対
草加市の北西部にある「そうか公園」に、その化石燃料の利用を
流圏は、高度がほぼ10キロ程度。二酸化炭素はそこにたまっていま
物語る油井ポンプがあるのを見つけ、びっくりしました。草加市と姉
す。高度370キロのISSがここですから、高度10キロの大気層はこの
妹都市であるアメリカのカーソン市から贈られたものだそうですが、
図では描けないぐらいごくごく薄いのです。そこに、断熱材である二
日本では見る機会はそうないので一度ご覧になってみて下さい。
酸化炭素がどんどん増えているわけです。
この油井ポンプで汲み上げた石油によって人類は、
「大量生産、
さて、280ppmという量をわかりやすく理解するために用意したの
大量消費、大量廃棄」という経済活動を続け、豊かさを手にしました。
が2リットル入りの烏龍茶のペットボトルです。この烏龍茶を全大気量
その猛然たる経済活動の米国での始まりは1950年代であるため、こ
とすれば、二酸化炭素の濃度280ppm=0.028%は、たったの1滴です
の経済的なムーブメントは「1950年代現象」と呼ばれています。日本
(0.28cc)。地球上の全生命に望ましい温度を保つ働きをもつ二酸
は10年遅れて1960年代から同じ道をたどり、中国などは1990年代か
化炭素は、これほど少ない量で十分な断熱効果を持っている。それ
ら猛然とこの道を進んでいます。これからご覧いただく「1950年代
だけに、二酸化炭素のごくごくわずかな増加でも、地球の断熱効果
現象」を描いたドキュメンタリー映像によって、
「大量生産、大量消
が大きくなり異常な温暖化が進んでしまうのです。
費、大量廃棄」の凄まじい急上昇ぶりを知ることができます。
地球の平均気温が上昇すると、あらゆる生物の生命の危機が起こ
「大量生産、大量消費、大量廃棄」という経済発展は、地球の人
8
ります。それはどんな危機でしょうか?
口増加によっても加速しました。私が大学生時代の世界の人口は約
地球温暖化についての科学的知見をまとめているIPCC(気候変
38億人でした。
「今日、地球の人口が50億人になる」という1987年7月
動に関する政府間パネル)の『第4次報告書』
(2007年公開)を見て
11日、私は国連番組のキャスターとして、人口問題を伝えましたが、
みましょう(来年『第5次報告書』が出ますが)。報告書には1980年
後にこの7月11日は国連人口基金によって「世界人口デー」になって
〜1999年と比較して2090年〜2099年の気温上昇予測が記されてい
います。そして現在、世界の人口は70億人を超えています。半世紀に
ます。別のページには、平均気温の上昇ごとの地球上の生物が受け
Network経済
特 集
る影 響の予測が 記
食べている。その微小生物は土壌
されています。
に含まれるバクテリア群を食べて
まず、平均気温で
す が 、最 大の 温 暖
いる……。ここにも見事な食物連
鎖があります。
化 対 策をした場 合
タラを食べている私は、つまると
の上昇は約2℃、そ
ころ海や森の無数の生命を食べて
れをしない 場 合は
いるんですね。地球上のあらゆる
最大で6.4℃上昇す
生物は、生命の鎖でつながってい
るとしています。じつは、先進国間では今世紀末の平均気温を4℃に
ることを、はからずも私はタラに
抑えようという暗黙の了解があることを取材で知りました。
よって実感として学んだのです。
ところが、生態系への影響を見ると、2℃の上昇ではサンゴ礁はほ
温暖化が進展するとまず環境に
とんど全てが白化し、生きていられなくなる。3℃上がればサンゴは
敏 感な小さな生物が 絶滅するで
広範囲にわたり死滅。1〜3℃の上昇では「最大30%の種の絶滅のリ
しょうが、それがひいては私たち自
スクが増加」、それ以上では「地球規模での重大な絶滅」という予
身の絶滅につながるのは、「生物
測が記されているんです。
は生物を食べてしか 生きられな
経済活動にマイナスにならないようという配慮から「平均気温を
4℃に抑えよう」という数値目標になったようですが、これでは地球
生命は重大な絶滅危機に直面することになりますね。
経済学部新学科「国際環境経済学科」開設
い」からなのです。
温暖化をはじめとする環境の変
化によって、多くの生物の絶滅が
私たちをはじめ地球の全生物は、ある一定の大気、水、気温の条
加速度的に進んでいます。恐竜時代の絶滅数は100年間に1種でし
件などの環境にあわせて進化をしてきました。もし、その環境条件が
たが、100年前には1年間に1種に増え、現在は1日100種=1年間に4万
わずかでも変われば、生命維持の条件が損なわれ生存の危機が見
種が絶滅しているといわれています。このままいけば25年から30年
舞うのです。環境問題が地球生命の問題と表裏一体であるという意
後には、地球上の全生物の4分の1が絶滅するという予測も出ていま
味がここにあります。
す。
もう一つ大事なことがあります。
「生物は生物を食べてしか生きる
そういう生命連鎖の破綻を防ぐためには、あらゆる生物が絶滅し
ことができない」ということです。私が生命を維持しているのは、生
ないで生き続けられる、新しい経済活動のありようが必要になります。
物を食べているからです。岩石や大気を食料にはできない。
これまでの人間の経済活動は、資源、エネルギー、大気、水、森林が
また、地球上の全生命は食物連鎖の鎖のひとつひとつを担ってい
無限にあり利用可能ということを前提にしてきました。しかし従来の
るため、小さな生物たちが絶滅すれば、食物連鎖の鎖が断たれ、私
経済学では、もはや私たちも含めた地球生命維持の道は見出せない
たちも滅びてしまう可能性が大きくなります。そういう意味から私は、
でしょう。これからは、あらゆる生命の持続可能な生存を可能にする、
生物多様性維持の重要性、さまざまな生物について知ることが非常
新しい経済学の理論やマネジメントが必要だと、私は考えています。
に大事だと訴えてきました。
それは、まさに「環業革命」によってのみ実現できる課題なのです。
でも、たとえば地中に棲息する微生物や小さな昆虫の命が私の命
経済の基本はおカネです。経済活動は、あらゆるモノがおカネに
とどうつながっているかは、わかりにくいですね。それを、はからずも
換算できるとしてマネジメントを行ってきた。しかしこれからの経済
実感として教えてくれたのは、先の稚内訪問の際に魚市場で購入し
学は、
「カネに換算できないもの=地球上のあらゆる生命」をかけが
た新鮮なタラでした。
いのない富=資本とする、持続可能な発展を続けるための経済学が
必要です。
魚市場で買ったタラは体長70cm、1480円でした。
タラちりを作るため三枚におろし、鍋で食べました。じつにおいし
い。
来年4月に発足する国際環境経済学科では、私たちが初めて経験
する「地球生命」を基軸とした経済学の構築を目指してほしいので
す。それは未踏の仕事になるでしょうし、望ましい理論や体系は簡単
その調理中に、
「私はタラを食べるが、タラは何を食べてきたの
には得られないでしょう。しかし、皆さんとともにこの国際環境経済
か」を知りたくなりました。そこで、調理前にタラの胃の中身を調べて
学科で、世界が待っているその新しい経済学を構築する作業が進め
みたんです。何と小魚が2匹出てきました。と、なると、
「その小魚は
られればと願っています。
何を食べたのか?」。小魚の胃の中をあけたところ、エビが出てきまし
た。「じゃ、このエビは何を食べたのか?」。動物プランクトンでしょ
う。動物プランクトンは植物プランクトンを食べている。植物プランク
トンは浮遊する有機物を食べている。
その有機物の一部は森が故郷です。森から川をへて海に運ばれ
たのです。森には昆虫などの小動物がいて枝葉やより小さな生物を
Network経済
9
基調講演 2
「持続可能な開発と援助」
前アジア開発銀行研究所・総務部長 木
原 隆司
皆さん、こんにちは。木原と申します。
が行われています。ここで出てい
私、山根先生のようなインプレッシブなプレゼンテーションがな
る「地球環境ファシリティー」とい
かなかできないかもしれません。ちょっと字が多くなるかもしれませ
うのもその1つです。日本はものす
んが、30分強おつき合い願えればと思います。
ごく環境協力をやっています。皆さんそう思わないかもしれませんが、
現在は財務省のほうに戻っておりますが、きょうお話しする話は、
今のポストと余り関係がないので、前職の昔の名前で出させていた
だいております。
外務省が下手なので、全然そういうプレゼンをしないんですけれど
も、実は世界で一番環境ODAを出しているんです。
特に、今、山根先生からお話があった温室効果ガスの削減、二酸
化炭素の削減というのは世界全体でやらなきゃいけない。世界全体
まず、きょうのお話の筋をお話しさせていただくと、まず、私は開
でやるためにはどうしたらいいか。ほかの国も巻き込んで、みんなで
発援助研究をずっとやってきております。あと、経済政策の研究も
やっていくためにはどうしたらいいか。悲しいかな、愚かな人間は、
やってきておるんですが、きょうは「持続可能な開発」と「援助」を
自分たちの利益になることを一番に考える。その愚かな人間たちが、
つなげて考えてみたいと思います。
自分たちの利益になるようにしていけばいいじゃないか。そういうメ
正直言えば、今、山根先生のお話にあったように、地球は非常な
危機にある、生命の危機にあるにもかかわらず、愚かな人間はなぜ
カニズムをつくっていくというのが、恐らく環境協力を推進させる一
番の道かなと思います。これがきょうの私のお話です。
か協力できない。これが現実です。じゃなぜ協力できないんだろう、
協力するためにはどうしたらいいんだろうというのを最後のほうにお
話しさせていただきたいと思います。
まず、前段として「開発ってなに? 援助ってなに?」ということです
が、開発というのは開発途上国での開発です。その開発途上国とい
うのは何か。皆さんおわかりのとおり、開発途上国というのは、1人
その準備として、まず「開発ってなに? 援助ってなに?」というお話
をして、その後、今もお話があったコンセプトとして、
「持続可能な開
発」について若干お話しさせていただこうと思います。
人当たりのGNI(国内総所得)が低いということ。
例えば1日1.25ドルよりも所得の低い国は、絶対的貧困の状態に
実は、
「持続可能な開発」というのは、環境保全というものすごく
ある国と言われます。所得が低いだけじゃない。マイナス・アルファ、
大きなテーマがあるわけです。国際公共財というと難しくなってしま
要はこういう途上国は、所得だけじゃなくていろんなハンディキャッ
いますが、要は公共財というのは、
「消費の非排除性と消費便益の
プがあるわけです。高い人口増加率、健康状態が悪い、教育水準が
非競合性を持つ財」というふうに経済学では定義するんですが、簡
低い、産業構造は農業中心で、なかなか外に売れるようなものがで
単に言えば、何かに協力しない人間も、同じようにただで便益を受
きない。そういう状態から抜け出せない多くの国がある。これが「貧
けられる。それが国際公共財です。
困の罠」なんですが、一たん「貧困の罠」に入ってしまうと、非常に
そうするとどういうことが起こるか。
「ただ乗り」というのが起こり
ます。「だれかがやりゃいい。俺
大規模な投資とかを行わないとそこから抜け出せない。
「big push」
ということがよく言われます。
はやらなくたっていい。日本が二
この次の表で見ていただきま
酸化炭素の排出を削減すりゃい
すが、サハラ砂漠以南諸国、これ
い。そしたら、アメリカ人の俺も
を「サブサハラ・アフリカ」といい
恩恵にあずかれる」。そういうの
ますが、こういう国とかインド、
が公共財です。でも、こうなると、
パキスタン、バングラデシュ。最
みんなただ乗りばかりしてしまう
近大分よくなってきましたけれど
と全く協力が行われない。それ
も、南アジアの国々はいまだに低
で、どうしても地球規模での環
開発です。じゃ開発って何かとい
境保全の努力をまとめていくこ
うと、こういう開発途上国での所
とが必要になる。協力していくこ
得水準を上げることはもちろんで
とが必要になるわけです。
すけれども、それとともに経済や
その1つのやり方として、多国
間の基金をつくって、それを途上
国などに流していくという試み
10
当たりの稼ぎとか儲け、1人当たりのGDP(国内総生産)あるいは1
Network経済
社会の状態、構造を変えていくと
いうことになります。
特 集
ただ、今話しているのは、まだ「持続可能な開発」ではありません。
経済学部新学科「国際環境経済学科」開設
もう1つは、貯蓄がない。貯蓄がなきゃ何でいけないのか。例えば
これは現在の状態を数字であらわしています。これを見ていただく
橋をつくる、道路をつくる、あるいは工場をつくる。こういう投資と
と割とわかりやすいと思うんですけれども、一番上が日本です。日本
いうのは、貯蓄がもとになってできるものです。それは国内の貯蓄
が先進国の典型だった。1人当たり大体4万ドルぐらいの所得を持っ
が一番いいわけです。でも、国内の貯蓄がない。じゃどうするか。外
ています。それに比べて、さっきのサブサハラ・アフリカは1000ドル
国から借りてくる、あるいは外国のドナーがお金を出す。それによっ
です。
て工場をつくっていく。所得が低いのでなかなか貯蓄ができない、
人口増加率は、日本はマイナスです。サブサハラ・アフリカは、毎
年、毎年2.5%ふえている。サブサハラ・アフリカにも8億5000万人の
だから投資ができないという状態をなくすために、貯蓄を埋めると
いうことが必要です。
人たちがいますので、2.5%ふえるということは、毎年、毎年2000万
あと、経済活動をすると、どうしても一部分は外国から買わなけ
人以上ふえているということです。2000万人以上ということは、日本
ればいけません。日本も相当外国から買っている。途上国にとっても
の人口の6分の1ずつふえているんです。それがサブサハラ・アフリカ
そうです。ところが、外国から買うためには国際通貨というのがな
の今の状態です。
きゃいけません。ドルとか円とか、そういうものがなきゃいけない。
それと「平均余命」を見ると、日本は非常に高い。でも、サブサハ
途上国の場合は、輸出だけでなかなかその外貨をとることができな
ラ・アフリカは54歳まで生きるか生きないか。一番すごいのは「乳幼
いので、援助資金が入って、それを輸入に使うというのがあるわけ
児死亡率」。5歳未満で死んでしまう子どもたちがどれくらいいるか。
です。
日本は1000人中3人、サブサハラ・アフリカは、1000人生まれたら120
人は死にます。どれぐらい読み書きができる人たちがいるか。これを
こういう「技能」、
「貯蓄」、
「外貨」の制約を埋めるために外から
の援助が必要になる。
見てもらうとわかりますが、大体男性のほうが読み書きできる人が
多いです。これは「非識字率」ですから、読み書きできない人たち。
援助はどんなふうにやっているのか。これは私が九州大学にいた
それが男性で3割、女性で約5割。1日1.25ドルの絶対的貧困の水準
ときに、学生たちとフィリピンのストリートチルドレンを支援している
にある人たち、約5割。GDPに占める産業の割合で見ると、農林水
日本のNGOのところに行ったんですが、ここで彼らは英語教育を受
産業の比率が高い。都市人口は少ない。日本は7割ぐらいが都市に
けていました。ここに日本のODAが出ています。それから、ラオスの
いますが、サブサハラ・アフリカの場合は約4割。
ビエンチャンのナムグム・ダムというところです。こういうところの建
設や運営費用にもODAが出ています。「ダム?」と思うかもしれませ
こういう国に対して、先進国は援助を行っています。よく「ODA」
ん。でも、ラオスにとってダムは本当に重要なんです。なぜか。実はラ
という言葉を聞くと思いますけれども、これは援助の中でも3つほど
オスの一番の稼ぎ頭、外貨収入源はダムです。どういうことか。「水
条件があります。簡単に言いますと、政府や政府機関が行っている、
です」と言おうと思ったけど、水じゃないんです。電気です。電気を
いわゆるオフィシャルなものです。経済開発や福祉を目的とする。目
水力発電で起こして、それを隣のタイに売っています。タイに売るこ
的が経済開発じゃなきゃいけない、福祉じゃなきゃいけないという
とによって外貨を得ているというのがラオスの状態です。外貨獲得
ことで、例えば軍事品を渡すというのはいけない。
のためにも援助が使われているということであります。
私が財務省で援助の仕事をやっているときに、スペインが「アフ
リカのある国にフリゲート船を寄贈しました。これをODAで認めてく
もちろん援助を出す側(ドナー)からすれば、途上国の人たちは1
ださい」と言ってきたことがあった。フリゲート船は何のために使う
人当たりの所得も低いし、かわいそうだ。そういう慈善の気持ちもあ
のか。戦争です。それはODAとは言えませんということになります。
ります。これが根底にあるんだと思いますが、そのほかにも実はド
もう1つは、途上国にとって、できるだけ条件のいいもの、条件の
ナーの側からする
いいお金じゃなきゃいけない。「グラント・エレメント」といいます。
と、幾つか 援 助を
「グラント」というのはただのお金です。ただのお金の要素が非常に
する事情がありま
高くて25%以上のものでなければ、これはODAといいませんという
す。
話です。
1つは、きょうの
概念、先進国の一
こういうODAといった援助をどうして途上国が受けるのか。それ
員として地球 環 境
は先ほど言ったようにギャップがあるからです。よく言われるのは3
を守ろう、もしくは
つのギャップです。
感染症にかかって
1つは技能の制約。途上国の場合は、いろんな組織、政府組織に
いる人たちがふえる
しろ民間の組織にしろ、なかなかうまく機能するような組織をつくれ
のを防ごう。こうい
ていないとか、制度がなかなかうまくつくれていない。それから、産
う国際的な公共財を提供するというのも先進国の義務であります。
業の技術水準も低い。こういうものを先進国からの技術支援でつけ
そのためには、例えばCO 2の排出を減らす技術を途上国に提供する
てあげるというのが1つです。
とか、
マラリアにかかっている人が多ければ、感染が拡大しないよう
写真はストリートチルドレンの人材育成・保健衛生事業
(日本NGO無償)
(国境なき子供たち)
Network経済
11
2000年ぐらいになったら援助も出せなくなってしまった。ここのとこ
ろで、総額としては余りふえてないことがあります。
また、下のほうは、日本の国民所得の中でどれぐらい援助を出し
ているのか。日本は残念ながら低い。0.18%。国際的には0.7%目標
というのがあります。これを満たしているのは、今のところ、スウェー
デン、ノルウェー、ルクセンブルク、デンマーク、オランダの5カ国のみ
という形であります。
ミレニアム開発目標はどういうものか。8つの大目標があります。
「極度の貧困と飢餓の削減」。一番よく言われるのは、さっき言った
絶対的貧困、1日1.25ドル未満の貧困人口の割合を半分にする。具
体的に言うと、1.25ドルの割合が1990年には45%だったんですが、
それを22.5%ぐらいにしていく。これは恐らく達成できます。何で達
成できるかというとすごく簡単で、中国、インドの両方がものすごい
にワクチンを提供するとか、そういうのも先進国の義務。いわば地球
成長をしている。中国、インドの貧困人口がむちゃくちゃ減ってきて
という町内会の会費を払うということです。
いるということがあります。
それだけではなくて、援助を出す側としては政治的な利益と経済
そのほか初等教育の完全普及だったり、男女の格差を教育の場
的な利益がある。援助を出すことによって、例えば地域の安定が図
でなくすとか、あるいは乳幼児の死亡率を減らす、妊産婦の死亡率
れる。
を減らす。それから、感染症、エイズやマラリア、その他の疾病を防
最近よく言われる「アラブの春」、北アフリカの国々が続々と民主
止する。
化していく。この民主化をとめてはいけないというので、アメリカが
実はミレニアム開発目標の中にも「環境の持続可能性」というの
中心になって、カネ出せ、カネ出せと言う。これも一種の政治的な利
も入っていまして、第7目標、安全な水へのアクセスあるいはスラムの
益です。
居住者を減らすといったことも入っています。それから、第8目標は
あと、経済的な利益。まさに中国なんかは大成功の例でしょうけ
ODAをふやしていきましょうという目標です。ただ、残念ながら、ミレ
れども、近隣の国が非常に成長が高まる。それによって市場が大き
ニアム開発目標の中でも、第7目標がすごく注目されるということは
くなる。そうすれば、もともとドナーだった国のモノも売れるというこ
ありませんでした。
とが出てきます。
いずれにしても、その資金自体が国民の税金もしくは貯金だった
2015年までにミレニアム開発目標を達成しなきゃいけないんです
り、そういうものから出ている限りは、そのドナーの国にとっては、国
が、さっき言った教育の目標あるいは貧困の目標は恐らく達成でき
民の厚生・効用・広義の国益といってもいいかもしれません、こうい
ます。ただ、保健衛生の分野、例えば乳幼児の死亡率や妊産婦ある
うものを高めるものでなければ、なかなか援助としては出しづらい。
いは衛生施設の利用、こういうものはなかなか達成できそうもない。
援助を出すと、こういう利益も返ってくる。途上国が安定する。ま
2015年以降も開発目標を続けていかねばならないだろうという話が
た、地球環境もよくなる。そのほか経済的な利益も出てくる。援助と
国連で持ち上がっておりまして、これをどうするかというのが、今ホッ
いうのは単なる情けではなくて、
「情けは人のためならず」、自分の
トイシューになっています。
ため、ドナーのためにもなるんだということを知っていただきたいと
思っています。
ここでやっと「持続可能
な開発」になります。
「持続
その援助ですけれども、これを見ていただくと、最近の援助の傾
可能な開発」というと、
「何
向として、
「貧困削減」というのが大目標になっています(図表、省
だそれは」という話になる
略)。その中で2015年までの「ミレニアム開発目標」というのがあり
んですが、定義も「何なん
まして、これを設定して、援助量の拡大や援助の質の向上を図って
だ」という話の定義が一般
いる。
に用いられております。国
グラフが2つありますが、日本が最近だめよというのを示している
ようなグラフです。
12
連のブルントラント委員会の
「我ら共通の未来」という
アメリカが2000年ぐらいからぐっと伸びてきて、このところずっと
報 告 書に書かれていた定
トップドナーです。赤い線が日本ですが、日本は1990年代はトップ
義で、これが使われていま
ドナー、世界で一番ODAを出している国でした。しかしながら、
「失
す。「将来世代のニーズを
われた20年」といいますが、1990年ぐらいからどうも景気がよくない。
満たす能力を損なうことな
Network経済
特 集
く現代世代のニーズを満たす開発」。聞いても何のことやらよくわか
れだけ魚をと
らないんですが、要は将来世代への配慮、将来世代も同じようにい
り、これを地
いことがあるようにする。同じような資産、同じような財産を持って
球の生物生
いるようにしよう。開発することはやってもいいんだけれども、その
産力と比べて
範囲内でやりましょうというのが、この「持続可能な開発」の概念だ
みると、ここ
と思います。経済だけではなくて、社会、環境、全ての分野で持続可
にありますよ
能。先ほど山根先生のお話にもありましたけれども、経済の分野だ
うに1. 52 。ど
けじゃなく、環境も社会もずっと続くことが可能である開発をやって
ういうことか。
いこう。
今の生活が
1992年に、ブラジルのリオ・デ・ジャネイロで地球サミットが行わ
経済学部新学科「国際環境経済学科」開設
持 続可能な
れて、今後どういうふうにやっていくかという「リオ宣言」が出される
地球を52%も超えている。ですから、地球はこのままだと持続可能
とともに、京都議定書という話も先ほど出たかもしれませんが、温暖
じゃありません。
化ガスをどれだけ削減していくかといった京都議定書のもととなる
特に、日本人1人当たりのエコロジカル・フットプリントは、1人で地
国連気候変動枠組み条約とか生物多様性条約、こういうものの署
球の面積を使うとすれば、4.7ヘクタール使うという話になります。世
名が開始されました。
界の人口は今約70億ですが、1人当たりの人間が使える土地の面積
実は10年ごとにこういうサミットをやっています。2002年には、南
が1.8ヘクタールです。みんな同じように使うのであれば、1.8ヘクター
アフリカのヨハネスブルグでサミットが行われた。まさに、ことし6月
ルしか使えない。でも、日本人は4.7ヘクタールも使っている。つまり、
にもう1回、リオ・デ・ジャネイロで国連持続可能な開発会議(リオ
地球が2.6個ないと、世界の人たちが我々と同じような生活ができな
+20)がありました。その結果、
「我らの求める未来(The Future
い。明らかに使い過ぎです。
we want)」という成果文書が出されることになりました。
これがグローバル・フットプリントネットワークがつくっているエコ
では、
「持続可能な開発」とは何か。基本的なメッセージは、先ほ
ロジカル・フットプリントの推移です。1970年ぐらいから既に生物生
ど言った「世代間の衡平性」です。今だけよくてもよくない。将来も
産力をずっと超えてきています。見てわかるのは、明らかに一番超え
考えましょう。後の世代まで総資本を残しましょう。各世代が享受す
ているのは「Carbon」と書いてあるもの。これは二酸化炭素です。
るような満足は、ずっと低下させないようにしましょうというのが基
要は二酸化炭素を出し過ぎていて、それを吸収するための土地が全
本的なメッセージです。そのためには地球の資源制約を考える。そ
然足りない。吸収するためには森林がなきゃいけない、光合成がな
れから、先ほど山根先生も食物連鎖のお話をおっしゃっていました
ければいけない。でも、その光合成をやるものがなくなってきている
けれども、生態系全体の保全を図る。もちろん将来世代を配慮する。
ということです。
さっきちょっとお話が出ました、地球ではかるというやり方、その1
つが今試みられています。地球何個分という考え方です。それが「エ
もう1つおもしろい概念があります。これが環境クズネッツ仮説で
コロジカル・フットプリント」という考えです。将来ずっと持続可能な
す。所得水準と環境汚染は逆U字型の関係です。経済成長の初期の
地球であるための面積があるわけですが、それを地球の「生物生産
段階ではまだ、みんな環境よりも成長のほうがいい。開発が大事だ
力」といいます。じゃ、人間が生きていくために今まで踏みつぶして
と言って、環境は悪化していく。でも、ある所得水準を超えると良好
きた面積、つまりどれだけCO 2を排出し、どれだけ農耕地に使い、ど
な環境を望むようになります。もうちょっと環境規制したほうがいい
んじゃないという話になって、環境が改善していく。
もし、これが全ての環境問題に当てはまるのであれば、我々がや
るべきことは1つです。所得を上げればいい。所得を上げれば、みん
な豊かになって、環境問題は大事だなということになっていく。実際、
環境問題が地域的に限定された、例えば大気汚染、酸性雨の原因
になるSOXあるいはNOX、こういうものであれば、逆U字型の関係、
つまり、最初は環境が悪化するけれども、所得水準の上昇とともに
だんだん環境が改善されていくということが起こる。
ところが、地球温暖化の場合はそうはいきません。地球温暖化の
場合は、結局自分が今規制しても、その効果はほとんどないじゃな
いというのが1つ。もう1つは、所得が相当上がるとしても、実際に統
計的に推定してみると、9万ドル以上の所得に上がらないとなかなか
頂点を迎えない。
Network経済
13
これが逆U字型の環境クズネッツ曲線です(図表、省略)。汚染量
たりCO 2 排出量(トン))
を縦軸、経済水準(1人当たりのGDP)を横軸にとって、環境汚染の
関係を見てみると、最初はずっと汚染が上がっていくわけです。次第
国際公共財の要素を環境問題は実は持っている。さっきちょっと
申し上げましたけれども、
「消費の排除不可能性」、
「消費便益の
非競合性」といってますが、これはどういうことか。一番下のところ
を見てもらうと、各国の協力がうまくいかない理由は、CO 2の削減努
力をした国としない国、しない国にもCO 2の削減の利益、地球の気
温が上がらないという利益は及ぶわけです。
削減努力をした国と同じだけの利益、地球の気温が4度じゃなく
て2度しか上がらないとしたら、その利益は、例えばアメリカが全く
CO 2の削減を行わなかったとしても、アメリカにも及ぶし、日本にも
及ぶ。つまり、自分はやらなくてもほかがやってくれればいいという
ので、ただ乗りを誘発するということが起こってきます。実際の気候
変動対策をとらないコストは、世界のGDPの20%にも及びますが、
温室効果ガスを削減するための費用はGDPの1%。だから、削減し
たほうがいいんですが、なかなかそれがうまくいかないというのは、
に1人当たりの所得が高まるに従って、環境規制をしていったほうが
こういうことによります。
いいんじゃないかというので、だんだん汚染水準は下がっていく。
ゲーム理論を使って今のを説明しようとしたんですが、第1国も
実際、下のほうのグラフを見てもらうと、これはSO 2、大気汚染の
「協力」、第2国も「協力」とありますが、両国が協力したほうがプラ
グラフです(図表、省略)。何年かにわたって何カ国でやった早稲田
スは多い(図表、省略)。ほかの国との関係が余りよくないと、第1国
大学の栗山先生たちのものですが、これを見てもらうと、統計的な
も第2国も「離反」、
「離反」となりまして、全く協力しないところに
処理をすると逆U字型になっているわけです。
落ちついてしまうという「囚人のジレンマ」と呼ばれるゲーム理論で
私はこれをCO 2についてやってみました。CO 2についてやると、一
応逆U字っぽくなったんですが、頂点に達するのに9万ドルの所得が
解き明かすことができます。これはまだ次の機会に詳しくお話したい
と存じます。
必要。日本の今の所得は4万ドルです。9万ドルの所得といったら、1
カ国か2カ国しかなく、ノルウェーが8万ドルぐらいです。そこまでは
待てない。地球環境問題を所得の上昇だけでは改善できない。した
GEF(地球環境ファシリティー)というのがあります。これはマルチ
がって、持続可能な開発を推進するのに国際的な合意、みんなでや
という多国間の協力の中では一番大きいもので、生物多様性、気候
りましょうというのが必要だということで、1992年の「リオ宣言」あ
変動、国際水域、土地劣化、残留性有機化合物、オゾン層、こういう
るいは「アジェンダ21」、さっき言った環境条約、近年ではリオ+20の
ものに対する支援をやっています。
合意などの「持続可能な開発」を進める合意がいろいろと受け入れ
られてきているわけであります。
14
こういう地球環境を保全するために国際協力をやっている1つに、
ここの事務局のトップは、私の1年後輩ですけれども、この前まで
財務省の副財務官をやっていた石井菜穂子です。
(下図は186カ国の2008年の一人当たり所得水準(GNI)と一人
この地球環境のファシリティーでどうやってみんなの協力を得て
当たりCO 2 排出量との関係;横軸一人当たり所得(ドル)縦軸一人当
いくか。1つは、地球環境保全という全体の利益とともに、それぞれ
Network経済
特 集
経済学部新学科「国際環境経済学科」開設
ほど言った持続可能な開発目標(SDGs)を中心に据えて、それに今
までうまくいかなかった保健や衛生の分野を加えた形にしていって
はどうか。ポストMDGsへの支援が国際公共財を提供する。それと
ともにドナーへの名声とか、そういうものも含めた私的な利益も与え
ていく。さらに途上国の開発への利益も与えていくということで、
パートナーシップも形成しやすくなるのではないか。
一番最後のところですが、いずれにしろ日本政府が主体的に参加
して、我が国の広義の国益につながり、また、他のドナー・受益国の
公共益になるような提言を十分やっていったらいいんじゃないかと
思っております。
の途上国が持続可能な開発にしていくような資金を伸ばしていると
いうことであります。環境の利益を及ぼすとともに開発の利益も及
ぼしていく。そのためにパートナーシップによる協力が得られるよう
になっています。
先ほど申し上げた6つの支援対象です。気候変動、生物多様性、
国際水域、オゾン層の保護(フロンガスの削減)、土地劣化、残留
性有機汚染物質(ダイオキシン)です。
最初に申し上げましたが、我が国は先進国の中で一番環境ODA
を出している。先進国で254億ドルを出しているんですが、そのうち
の71億ドルを出しています。ODAに占める比率も56%ぐらいを占め
ている。
今後の環境協力を進めていくためにはどうすればいいかというこ
とであります。先ほどから「ただ乗り」とか言っていました。これは特
に途上国についてですが、今回リオ+20の合意で「The Future we
want」というのができたんですが、その中で途上国が求めているこ
とは、今のところは環境保全というよりは開発です。彼らに環境保
全の利益を見えるようにして与えていく。両方できるようにやってい
くというのが、恐らく重要なことだろうと思います。そのためにも、今
度持続可能な開発目標をつくることになりました。この中にはもちろ
ん気候変動や生物多様性などの要素も入ってきますが、教育とか食
料、そういうものも入ってくる予定です。
先ほど申し上げた貧困人口の割合を半分にするという2015年ま
でのミレニアム開発目標(MDGs)、これはある意味成功しました。
この間援助は増額され、それぞれの指標も改善されました。その成
功の要因は何かというと、貧困削減という普遍的な価値が非常によ
かったということと、実現可能で簡潔な成果指標をつくった。それか
ら、援助増額の大義名分を与えた。達成手段が特定されず、成長で
もいいし、所得移転をしてもいいという形で、いずれにしろ貧困を半
減させましょうという形の目標をつくったということです。
同じようなことをやっていったらどうか。今後、ミレニアム開発目
標の後釜であるポストMDGsをつくらなければいけない。それを先
Network経済
15
基調講演 3
「大気水圏環境と人間」
名古屋大学地球水循環研究センター長・教授
中 村 健 治
皆様こんにちは。中村です。
やってきた成果あるいは私自身の
現在、名古屋大学地球水循環研究センターに所属しております。来
知見、私のできること、環境保全
年4月からこちらにご一緒させていただいて、私の今までやっていたこ
等々という言葉になるかもしれませ
とと少し違うかもしれませんが、文系の学生さんと一緒になって、新し
んが、そういったところにもっと還元したいなという気持ちも伝えられ
い分野の地球の環境をやっていきたいと思っております。
ればと思います。獨協大学に新たな職場を得て、私が少しでも寄与で
私の現在所属は名古屋大学地球水循環研究センターです。この名
きればということで参加させて頂くに至ったわけです。
前は私にとっては何の違和感もありませんが、私はこういうところにい
ると言いますと、知らない人からは、
「人間の体の循環器のお医者さ
これは山根先生も見せられました地球の絵です(図、省略)。山根
んですか」と言われることがあります。地球の表層、地球の上に水が
先生とかなりかぶるようなので、話の内容をもうちょっと調整したほう
いっぱいあります。その水がどんなふうに流れているか、健康に流れ
がよかったかもしれません。我々もよく講義内容の調整をやります。そ
ているのか、あるいはおかしいのか、そういったことを研究しておりま
の時に、
「この先生がこういうことを話すから、あなたはここを話しな
す。そういう意味では、ある種地球のお医者さんと言えるかもしれませ
さい」と、なるべくオーバーラップしないようにするのですが、私は考
ん。しかし人間のお医者さんはちゃんと病気を治してくれますが、我々
えがちょっと違います。皆、話したいことをどんどん話せば良い、重
はとても治せません。どうもこうなっているようだということしか言え
なった部分は皆が大事に思っていることであって、別に重なって構わ
ません。
私自身が国際環境経済学科に所属しようと思うようになったのは、
今までずっと自然界、自然の中の水の循環、そういったものを研究し
それくらいの学生を期待したいと思います。
てまいりましたが、それを社会へどのようにフィードバックできるか、
これが地球の絵です。当然ながら青い地球です。右上にあるのが
あるいは私が少しでもそういうことに寄与できるか、ということも考え
火星で、時々すごい砂嵐が起きて火星全体を覆いますが、地面がほと
るようになったことがあります。最近のことを言いますと、福島原発の
んど見えています。一番上のほうに少し白いものが見えていますが、こ
事故がありました。私は幾つか学会に所属しておりますが、気象学会
れはドライアイスあるいは水が凍ったものと言われています。実際に
にも入っており常任理事をやっておりますが、福島原発のときに、気象
火星の冬になると、白い部分が広がります。
学会のある種の対応の仕方が非常に批判を浴びました。我々自身は
右下は金星です。これも火星のように黄色いのですがモヤモヤとし
それに対してきちんと考えてやったわけですけれども、批判を浴びま
た模様が出ています。これは雲です。金星には非常に分厚い雲があっ
した。そして理事会の中で非常に深刻な議論が起こりました。我々は
て、地面は見えません。火星の場合は下が見えていますが、金星の場
どうしてこういうことになったのか、どうしてこういう批判を浴びたの
合は下が見えないのです。
か。結論的に言いますと、我々気象学会にとっても、言葉は非常に悪
地球をもう一度見ますと、かなり雲がありますけれども、下が見えて
いのですが、
「想定外」だったわけです。それまで科学者、特に理学
います。こういった惑星はほとんどありません。大気があって、水が
系の科学者は、気象学会も理学系が中心ですけれども、アカデミズム
あって、陸地もある。気体と液体と固体があり、そして表面が見える非
に閉じこもってきました。おもしろい発見ができればそれで良いという
常に珍しい惑星であり、非常に特異な所です。特に液体の水の存在
ことでやってきました。
が非常に重要です。こういったところに我々は住んでいます。我々は幸
ところが、我々のやっていることが社会に対して明らかにいろんな
運だったという言い方をよくしますけれども、人間原理という考え方が
インパクトを与えている。それから、我々自身の研究本体も、実際には
あります。こういったところだったから我々が存在しているのだ、だか
皆さんの税金から賄われている。しかも、使っているお金というのは
ら我々が存在している地球がこういうとても好条件のところにあるの
多額になっています。それに対しては、我々は単に研究で良い成果を
は当たり前である、そういう考え方もあります。実際それはかなり正し
上げればいいということではなくて、我々の倫理として社会のことをき
いと思われます。
ちんと考えなければならない、その点が甘かったのではないかという
16
ない。重なった部分の内容が異なっても、あの先生はああ言って、こ
の先生はこう言っているけれども、どうなっているのかと質問してくる、
地球上には雲が沢山あります。そしてその一部で雨が降っています。
非常に重大な、かつ深刻な反省を行いました。そして、もっともっと社
雲がなければ雨は降りません。雨は地球全体でザーザーと降ってい
会に対して発信していかなければいけないという我々自身の非常に痛
るわけではなくて、非常に細かく、あるところは降っているけれども、
切な反省があります。そのような議論を踏まえて、私自身もそうだなと
あるところでは降っていません。今日も午前中は雨が降りましたけれ
いう思いを深くしました。
ども、今は良い天気になりました。私は今朝名古屋から出てきました
私の今日の話は理学的な、地球表層で水がどのように流れている
が、名古屋を出るときは秋のとても良い日でした。東京に近づくとどん
か、ということにありますが、それと同時に、長年それなりにいろいろ
どん雲ってきて、草加に着いたら雨が降っていました。その後どんどん
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特 集
経済学部新学科「国際環境経済学科」開設
晴れてきました。それくらい、あるところでは降っていて、あるところで
水素が最も多くその次にヘリウムがあって、酸素があります。水素と
は降っていません。また雨の降っているところには上昇流が、晴れて
酸素が結びつくと水になります。宇宙全体で水は決して稀な物質では
いるところには下降流があります。上昇流、下降流がいっぱいある、そ
なく、あちこちにあるのです。実際、太陽系の惑星の中でも水は結構
れが地球です。
たくさんあります。ところが、その一方で、水は特殊です。水の分子が
書いてありますけれども、真ん中に酸素原子があって、それが手を広
これもまた山根先生とかぶる図ですが、真ん中は地球の絵です
げて水素が2つついています。これは単純に真っすぐついているので
(図、省略)。大気がボーッと光っています。これは大気が広がってい
はなくて、少し曲がってついています。これには理由があるのですが、
て、太陽光を反射しているので光っています。これで大気がこれくらい
曲がってついていることで特殊な電気的な性質を帯びます。また水素
あることがわかります。
による結合によって水分子は例えば物を沢山溶かすとか、凍ると少し
その下はオーロラです。地球の表面から上のほうにグリーンのもの
体積が増えるとか、いろいろ特徴を示します。
があります。これは大体150キロぐらいだと思いますけれども、太陽
このように水は地球上にも宇宙にも豊富にあります。ところが、水
等々から荷電粒子が入ってきて、酸素の原子をたたきます。酸素は下
の物性は非常に特異です。そういった水が豊富にある地球の上に我々
層大気では分子になっていますが、大気の上層に上がると衝突が少
がいて、我々は水があることの恩恵を受けています。水に適応して生
なくなり、一たん原子になると、なかなか相手がいなくて原子のままで
活しています。我々は大気、そしてその下にある水は、あるのが当たり
います。そういうところで荷電粒子でたたかれますと励起されて、それ
前だと思っていますけれども、不可欠なとても大事なものです。
(図、
がもとに戻るときにグリーンのライトを出します。それがこのオーロラ
省略)そういった中で、今までずっとお話がありましたように、人間が
の光です。
ものすごく増えました。山根先生は「小さいころは38億だった」とおっ
オーロラも、高いオーロラ、低いオーロラ、といろいろありますけれ
しゃいました。私も同じ年代ですけれども、38億でも多過ぎます。そ
ども、この場合は大体150キロぐらいです。この高さまで、薄いですが
れが今や70億です。人間は大型獣で人間より大きな獣はそうたくさん
大気が広がっているという1つの証拠です。
はいません。このような大型獣が70億も地球上に存在しているのは異
向かって左の絵は、太陽の地球による日蝕です。光っているところ、
常なことです。そして、今までは何でもやりたい放題。ごみが出ても山
ダイヤモンドリングのダイヤに見えるところは一部顔を出している太陽
の中に放り出せば何とかなる、そういう状態でした。ところが、人間が
です。そして、地球の周りがずっと光っています。月による日蝕の場合、
これだけ増えてきて、そうはいかなくなりました。
こういうことにはなりません。数カ月前に金環食があって、私も見まし
た。曇り空になりそうで、どうなるかなと思ったら、ちょうどそのときだ
これもNASAのホームページから出した有名な夜の地球の画像です
け雲が切れて、ラッキーなことに見えました。非常にきれいな金環食
(図、省略)。夜の地球といっても、夜の部分だけモザイクしたもので
になりました。私は本当は皆既日食のほうが見たかった。皆既日食に
す。明るいところは当然文明国といいますか、人間がいっぱいいて、か
なったらコロナが見えるからですが、地球の状態では金環食のほうが
つエネルギーを沢山出しているところです。日本は非常に明るく映って
多いのです。皆既日食のほうは少なく、見える場所は非常に限られま
います。北朝鮮は非常に暗いけれども、韓国も中国もヨーロッパも明
す。地球に大気があるというのは当たり前ですけれども、この図もそ
るい。これくらいエネルギーを使い、かつ人間がいっぱいいます。例え
のきれいな証拠です。我々が住んでいる地球の上には大気があります。
ば10年前、20年前、あるいは30年前にこういった画像がもし撮れてい
それから、液体の水があり、陸地があります。このような非常に居心地
たら、その発展途上がきれいに見えたに違いありません。今この光が
がいいといいますか、とてもいい状態の惑星の上に我々がいることを
どんどん増えている状態です。
認識していただきたいと思います。
これもNASAのホームページ
この図は宇宙にどれくらい元素があるかという理科年表から作った
から持ってきた有名なアマゾン
ものです(図、省略)。少し天文学的な話をしますと、すぐこういう図が
の画像です(図、省略)。下のほ
出てきます。皆さんもよくご存じかと思いますが、宇宙全体では水素が
うにスケールが書いてあります
一番多い。圧倒的に水素です。宇宙ができたときに水素が一番最初に
けれども、これで40キロです。
できました。その次に多いのはヘリウムです。縦軸は対数スケールで
40キロといいますと、東京から
書いてありますので、一目盛り違うと10倍違います。水素に対して、ヘ
鎌倉ぐらい。東京駅から草加ま
リウムはその10分の1以下です。その次は酸素です。地球大気にも酸
で20キロちょっとです。そうす
素が沢山ありますが、地球大気の酸素は植物から発生したもので、植
ると、そのスケールがわかると
物が無かったら非常に少なかった筈です。しかし、宇宙全体では酸素
思います。フィッシュボーンと呼
がいっぱいあります。その次に多いのは炭素です。それから、窒素、
ばれますが、魚の骨のように
珪素、
マグネシウム、ネオンと続きます。鉄もあります。軽い元素が沢山
なっているところが開拓された
ありそうな気がしますが、鉄はちょっと特殊で、非常に安定な物質な
ところです。もともとはジャング
ので宇宙には沢山あります。
ルだったところに開拓地がどん
Network経済
17
は非常に難しいのです。自然というのは結構タフで、しかもどこにどう
いうフィードバックがかかるかよくわからないところがあります。
これはまた別の大気環境の例です(図、省略)。左の上は木漏れ日
です。林の中に太陽光があって、木漏れ日が見えています。太陽光が
見えるというのは、皆さんはそんなのは当たり前だと思うかもしれませ
んが、本来、光は何かに反射しないと見えません。しかしここでは見え
ています。これは大気中にいろいろな細かいごみ、エアロゾルとか、
微粒子が沢山あって、それで見えているわけです。私が小さい頃は日
本家屋に住んでいて、夜は雨戸を閉めました。雨戸に節穴があって、
明け方になると、節穴のところから朝日が入ってきました。よく見ると
細かいものがいっぱいあって、こんなごみがいっぱい飛んでいるとこ
どん広がっています。森を一部焼き払うくらいだと、余り問題になりま
ろに自分は寝ていたのかと思ったことがあります。最近の人はもう少し
せんが、このように土地の改変が大々的に広い範囲で行われています。
きれいな家に住んでいるから、そういうことはないのかもしれません
これはアマゾンだけではありません。例えばタイでも昔は森林が広
が、空気中にはいっぱいごみが飛んでいます。花粉症の方もいらっ
がっていたのですが、それが無くなっています。こういったことが実際
しゃるかもしれません。左の下はタクラマカン砂漠です。ここは時々低
の自然に影響していることがだんだん見えてきました。
気圧が来て、非常に乾いた砂が巻き上がり黄砂の原因となっています。
黄砂はゴビ砂漠でも出ます。それがずっと流れ、時には日本まで流れ
これはオゾンホールです(図、省略)。有名な話ですから、皆さんも
てきて、気象庁が「黄砂が来ますよ」という情報を出しています。最近、
よくご存じだと思います。日本の南極観測隊の忠鉢さんという方が見
中国がどんどん経済発展して、黄砂だけではなくて、ブラックカーボン
つけて報告したけれども、余り注目されませんでした。そのうちイギリ
などの人為起源の粒子をいっぱい出しています。そういったものも日
スの人が「これは非常に重大なオゾンホールという現象である」と言
本にどんどんやってくるようになりました。さらに流れてアメリカにも
い出して有名になりました。実はNASAの人工衛星ではその前から観
行っています。微量ながらも地球を1周することがちゃんと測れるよう
測されていたのですが、
「これは異常なデータだ」として捨てていまし
になりました。こういったことも人間の活動が大気環境、水圏環境を
た。後から見直したら、衛星でも確かにちゃんと観測されていたという
変えている例です。
有名な話があります。
横軸に1980年から2010年まで書いてあります。1987年にモントリ
これは海岸への漂着ごみです(図、省略)。山根先生の話にもあり
オール議定書が採択されオゾンホールの原因はフロンに違いないか
ましたけれども、現在、
「しんかい」が潜ると、どこへ潜ってもビニール
ら、フロンを規制しようということが始まりました。現在やっと少し減
袋が落ちていたりという状態です。プラスチックのない大昔だったら、
り気味になりました。フロンは非常に安定な物質なので、壊れるまで
木材などは自然に分解しましたけれども、プラスチックはなかなか分
数十年かかります。モントリオール議定書でフロンを規制したら、オゾ
解しません。皆さんもよくご存じのとおりでプラスチックはきれいで壊
ンホールの広がりがとにかく収まってきました。これは非常に劇的な
れませんから、私たちもとても便利でよいものとして当たり前のように
話です。それまで大気と水圏が悪くなったということで、いろいろな防
使っています。けれども、私は最近、考えを変えました。なかなか壊れ
止策等々がとられましたけれども、オゾンホールの場合は地球規模の
ないもの、分解しないものは、一見きれいですが実は汚いものだと思
現象に対して地球規模で防止策がとられて、しかもその効果がきちん
うようになりました。スーパーへ行っても、ビニール袋はやめようという
と見えました。これは地球環境に対する1つの非常にきれいな成功例
方向に行っています。釣り糸も非常に丈夫ですが、しばらくしたら溶け
です。
てなくなるようなものにすべきではないかと思います。世界中でごみが
現在、地球温暖化が非常に話題になっていますけれども、オゾン
ホールが1つのプロトタイプです。このときにフロンが原因ではないと
浮いています。こういったことも海洋汚染として今や非常に問題になっ
ています。
いう議論もいろいろありましたけれども、やっぱりフロンだ、そうなら
18
ば世界的に止めよう、となりました。それに対しては当然、負の面もあ
地球温暖化は皆さんも耳にタコができるほどお聞きになっていると
るわけです。フロンは、非常に安定、人畜無害の夢の化学材料という
思いますが、私は何度も言ってもいいだろうと思っています。本屋に行
ことで、それまで冷蔵庫の冷媒などとして広く使われました。ところが
くと、地球温暖化懐疑論の本がいっぱい並んでいます。我々科学者の
オゾンホールという考えてもみなかった悪影響が現れ、その使用をと
立場では異論があるのは当然です。ある理論があっても、それに対し
めた。それでうまくいった成功例です。
て、
「どうかね」「そうではないのではないか」という反論があるのは
もともと自然界にないものを我々がつくり出したときに、そのフィー
非常に健康なことです。けれども、どれくらい正しそうかという評価は
ドバックは実はわからないのです。その場ではその効果があるとわか
できます。現在の地球温暖化は人為起源でまず間違いなかろう。私も
る。けれども、そのもう少し先、もっと先にどうなるかを予測すること
そう思っています。科学は決して多数決ルールで決まるものではあり
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経済学部新学科「国際環境経済学科」開設
ませんが、その論理を追求し、その論理の各段階での確からしさはあ
なり雨になってまた落ちてきます。年間どれくらい蒸発するかといいま
る程度評価できます。それを積み上げて、現在、地球温暖化には、人
すと地球全体、陸も海も全部合わせて大体1mです。私は身長が1.7m
間活動の影響が非常に強いというところまで来ています。
ですけれども、私の胸くらいです。放っておくと1m蒸発します。そして、
1m蒸発したものがまた雨になり河川になって戻ってきます。大昔、雨
山根先生はオホーツク海に言及されましたけれども、これは北極海
はどこから降るのだろうか、あんなに降って水がなくならないのか、地
の海氷がどんどん縮まっているという話です。よく白クマが困っている
面から湧き出ているのか、と悩んだギリシャ時代の人もいたようです。
という話もありますけれども、それはともかくとして、これに関しては、
今は、蒸発してグルッと回って雨になって落ちてくるということを子ど
日本のJAMSTECが船を出して実際に現場観測もやっています。
もでもよく知っています。
1980年代から2010年代に明らかに減っています。世界では氷河も明ら
かに後退しています。一部の氷河は雪がふえて逆に少し伸長している
これは皆さんもよく見る地球温暖化の図です(図、省略)。横軸が
ところもあるのですけれども、世界的に言いますと、氷河も明らかに
年代で、縦軸が炭酸ガスの量です。ギザギザになっていますけれども、
後退しています。このように地球温暖化は目に見えています。
これは季節変化です。北半球では陸地が広がっていて、植物が繁茂
し枯れるということを繰り返しています。そのときに炭酸ガスを吸収し、
これは温暖化の話の関係ですが、太陽光が地面に入ります。放って
分解して放出し、また吸収するということを繰り返します。北半球と南
おいたらどんどん温かくなってしまいますから、地面に入ったエネル
半球ではその面積が随分違いますので、その結果としてギザギザが
ギーは地面から上に逃げます。入ってくる場合と出ていく場合は違っ
現れます。炭酸ガスが280ppmから400ppmぐらいまで、0.03%から
ていて、入ってくるときは太陽光ですが、出ていくときは、一たん物質
0.04%になるだけとも言えますけれども、明らかに増えています。こうい
に吸収されて、違う周波数で出ていきます。出ていき方が違うのです。
う観測が大事だということで、日本でも定期的にちゃんと観測してい
これは色の違いだと思って結構です。横軸は周波数、波長ですけれど
ます。
も、入ってくるときは図の赤いほうで入ってきて、出ていくときは図の
青い方で出ていきます。出ていくときは大気に遮断されます。その遮断
のされ方が強いと、地球がもっと暖まってしまう状態になります。
これは実際に温度が上がっているところです(図、省略)。IPCCの
AR4です。一時は、これは本当か、自然のごく普通の変動ではないか
という議論もありましたが、気温に関してはデータが沢山集まって、地
これも数字はともかくとして、ちょっと知っておくといいと思います。
入ってくる太陽光のかなりの部分は直接地面まで届きます。大気でも
球全体として温暖化しているのは間違いなく、これを否定する人は現
在ほとんどおりません。
吸収されますが、ほとんど地面に入ります。今日は太陽が出ています。
最近の住まいは縁側がないですね。私が小さいころは縁側があって、
これはモデルの結果です。赤線が観測結果で黒の実線がモデル結
縁側でひなたぼっこをしました。ポカポカと暖かくて気持ちがいい。実
果です。もしも人為の炭酸ガスの増加を考えなかったら、ほとんど温
際には太陽光は1平米当たり1.4キロワット、1キロワット強の電熱器の
暖化しなかったという結果が左上です。モデルにはパラメータが非常
熱ぐらいが入ってきます。それくらいエネルギーが入ってきて、それが
に沢山あります。チューニングパラメータという言い方は余りよくない
出ていく途中でかなりの量が遮断される、そういう状態になっていま
のですが、それをいろいろ変えていくと結果がどんどん変わります。
す。
実際チューニングをするのですが、そのチューニングが科学的に正し
いか、もっともらしいチュー
太陽エネルギーは地面にまず入っていきます。それで下が暖められ
ニングなのか、が重要です。
ます。暖められると上昇流ができ、上昇流ができると、水蒸気がそこ
理 由 が き ち ん とと あ る
に集まってきて、上に上がって雲ができて、雨になります。それによっ
チューニングを行って過去
て水の移動が駆動されます。
の観測結果を再現できるか
どうかをまず見て、それを
これもよく出す図ですが、水は海に大量にあります。地球表層の水
の量の97%は海です。水は地球の内部にも随分あるとは言われていま
踏まえて、将来予測をやり
ます。
す。地球の真ん中に行ったら、恐竜が出てきて、湖があってというSF
右の下の図が、これくら
映画にありますけれども、地球の内部に水がどれくらいあるかはよく
いちゃんと過去を再現する
わかっていません。地球表層の10分の1という説もあるし、10倍あると
ことができるようになりま
いう説もあって、分かっていません。けれども、表層に関してはどれく
したという例です。以前は
らい水があるかわかります。海へ行って、超音波か何かで海の深さを
炭酸ガスの増加だけだと少
はかり積算すれば分かります。
し大きくなり過ぎましたが、
海からは水が蒸発します。まずは太陽光が地球の表面に入ります。
表面を暖めるものだから、水がどんどん蒸発し、蒸発したものが雲に
最 近はエアロゾルの影 響 、
さっき言いましたように空
Network経済
19
気の中にいっぱいごみがありますけれども、その影響を加味すると、
必ず上昇流が生じ、水蒸気を集めて雲ができます。地球上では雨があ
再現性がずっと良くなったということがあります。例えばエルチチョン
るのは必然なのです。
とかピナツボの噴火などがあって、その後、日傘効果で全球の気温が
下がったということが実際にあります。ピナツボの噴火は91年ですか
これは地球上の雨の分布です。日本付近を見てください。日本あた
ら、ここにいらっしゃる方は余り知らないかもしれませんが、ピナツボ
りは結構降っています。沖縄あたりからずっと広がっています。また黒
が爆発した後、1年くらい夕焼けがとてもきれいでした。花火などで出
潮の上は結構暖かいですから降っています。アメリカの東海岸のケー
てくる赤紫に近いストロンチウムの色があるのですけれども、普通の
プハトラス、ちょうど銚子に当たるようなところからメキシコ湾流が離
夕焼けよりもっとストロンチウムの色に近い真紅の夕焼けになりました。
れていきますけれども、その上でも雨が沢山降っています。また、赤道
それがピナツボの影響なのです。大気中に非常に細かいごみ、噴煙
域でもいっぱい降っています。
がいっぱい入って、そのために夕焼けの青が弱まり赤が強まった、とい
うことがありました。そういうことがあると、地球の気温に影響が出ま
す。
これはデータが少し古いですが、月ごとの雨を示したものです(図、
省略)。毎月ですけれども、全体に何となく息をついているように見え
ます。これは夏冬の季節変動です。
先ほどまず地面のところで暖まって、それが上に上がると、水蒸気
気温、それから水である雨、この2つが人間環境、特に植生に非常
が凝結して雲になると申し上げました。皆さんはそんなのは当たり前だ
に大きな影響を与えます。どのように植物が生えるかというのは、気温
と思うかもしれませんが、決して当たり前ではないのです。例えば地面
と雨でほとんど決まります。
が暖まる。そうすると、上に上がる。山
これはさっき木原先生も言及されたサ
に登ると涼しくなります。あれを不思議
ブサハラ、サハラの南側です(図、省略)。
だと思ったことはないでしょうか。また
東西の線がきれいに見えます。赤いとこ
昔の話ですけれども、昔のお風呂は沸
ろは雨が無いところです。日本、中国、イ
かすと、上は暖かくて下は冷たい。下手
ンドあたりは、夏の雨が多く、水田が広
に入ると、下が水だということがよくあり
がっています。水田は水を張りますから
ました。下が冷たくて、上が暖かいのが
段々畑です。熱帯にはもちろん熱帯雨林
当たり前なのです。大気は下が暖かくて、
が広がっています。ヨーロッパに行きます
上が冷たい。これは大気屋にとっては
と、雨が少なくなって、かつ寒冷になりま
当たり前なのですが、不思議とは思わ
ないでしょうか。
す。そうしますと、小麦畑が広がります。
ヨーロッパに行った方はよくご存じと思いますが、畑がなだらかに波
打っています。あれは小麦で水を張る必要がないからです。北海道に
これは私の職場で高校生に対してデモンストレーションをやったと
行ってもそうです。畑が広がっていて風景が随分違います。日本の原
きのものです(図、省略)。気象観測用の風船をデモで上げています。
風景はモンスーンアジアの水田が担っています。米は栄養価が非常に
こういうふうに上げた風船はどうなるか。これは実際には放していま
高く、かつ収量が大きいですから、それによってモンスーンアジアは人
せん。離すと航空局に怒られるからですが、実際の観測のときは放し
口密度が非常に高くなっています。気温と水で植生が決まって、その
ています。そうすると、上のほうでは大気が少なくなりますから、気圧
上に人間生活がある。人間生活、人口密度まで第一義的には決まって
が下がってどんどん膨らみます。膨らんでいくところを見たことはない
しまうという状態があります。
のですが、成層圏まで十数キロ上がって、割れて落ちてきます。落ちる
ときにはパラシュートをつけていますのでフワフワ落ちてくる。間違っ
地球温暖化で水のパターンがどう変わるかが大問題の一つです。
てごく近いところで割れてしまって落ちてきたことがあるのですが、確
気温が上がるから、
マラリアがもう少し日本に近づくのではないかとい
かにパラシュートが開いてフワフワ落ちてきて、何かあっても危険はな
うような話もありますけれども、雨がどんなふうに変わるかが大問題
いということを確かめたことがあります。我々ではなく、ほかのグルー
です。地球が温暖化して、例えば日本の梅雨が海の上に移動する、あ
プでは、変なところに飛んでいって警察に通報されたこともあります。
るいは無くなってしまったりするとそれは大ごとです。日本の冬の雪は、
高度が上がって気圧が下がると空気は広がります。その時空気は
最近は少し増えているのですが、長期では減っているという話があり
外に対して仕事をします。広がるために自身でエネルギーを使うので
ます。日本の冬場の雪は山に積もって、ダムの水と同じになって、春の
す。そうすると、気温が下がります。気圧の低いところにいくと気温が
稲作、田植えの時期の水の供給源になっています。冬の雪が減る、あ
下がってしまうのです。そのために具体的には山の上に行くと気温が
るいは雨になるとどんどん流れてしまいますから、米作は困ります。
下がることになります。
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将来、水循環がどうなるか。雨の降るパターン、場所が変化するの
気温が下がると、そこに水蒸気があると、水蒸気は凝結します。凝
か、もっと多くなるのか、もっと少なくなるのか、これらは大問題です
結すると雨になります。太陽光はまず地面あるいは海を暖めることに
が、正直言うとよくわからないのです。温暖化はわかっていますが、雨
使われます。地面付近は放っておいても必ず熱くなります。そうすると、
はあるところは増えるし、あるところは減ります。例えば90年代だった
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か、アフリカのサヘル地方は干ばつがひどくて、人々が非常に困りまし
ると思います。私自身は衛星観測に長く関わっていますが、衛星観測
た。最近その話を聞きません。その後、結構降ったようです。そのとき
は明らかに地球規模の観測ができます。これははやり言葉で言うと、
に周りはどうだったかというと、ある大きなパターンでは確かにそうだ
地球環境変化の「見える化」と言えるだろうと思います。
けれども、あるところはふえる、あるところは減っていてよくわからな
いのです。
そして、木原先生、山根先生がおっしゃられたことを別の言い方を
すると、自然の征服ではなくて、自然との調和を目指すような、持続性
過去を見ると、全球では雨は少し増えています。将来予測モデルで
のある発展を目指さなければいけないと思います。
も増えています。温暖化すると、大気中に含まれる水の量が増えると
いう単純な物理的理由があるのですが、実際にはそのシグナルがき
自然のメカニズムは非常に複雑で、変なことをやりますと、大きな
れいには見えません。全体としてはどうも雨が増えているようだという
しっぺ返しが来ます。やればやるほど人間は浅はかだと感じさせます。
現状です。
目の前のことには対処できても、オゾンホールのように、副作用が出て
きて思わぬことが起きます。そういうものをよく見きわめないと対処方
例えば私がかかわっている熱帯降雨観測衛星が十数年運用されて
針ができません。
います。その衛星による97年から2010年まで、熱帯、亜熱帯でどれくら
それから、科学と社会の関係もあります。最初に申しましたけれど
い雨が降っているか、月毎に並べてあります。最初は黒線、途中から
も、科学的目的のみならず、社会への貢献部分が増大しています。科
赤線になるのですけれども、赤線を見ていただくと、余り変わらないよ
学者もこれを意識しなくてはなりません。これは私自身の反省でもあ
うに見えます。最近もう少しきちんとした解析により、
「やっぱりどうも
ります。
増えているようだ」「特に熱帯域で増えているみたいだ」となってきま
した。
最近、私は余り好きな言葉ではありませんが、地球工学という言葉
が出てきました。例えば風力発電、太陽光発電もある種の地球工学と
なぜこんな話をするかといいますと、地球規模でどうなっているか
言えるかもしれません。それから、人工降雨。なかなか効果が出ない
という問いに答えることは難しいのです。特に気候問題、地球温暖化
のですけれども、ヨウ化銀をばらまいて雨を降らそうといったものも
のような話ですと、数十年スケールです。その間に本当にそうなってい
あります。最近、あれはひどい話であるという本もあります。鉄散布は
るのか。温暖化はまあよいとしても地球上の水循環、雨の降り方が変
皆さん余り聞いたことがないと思いますが、海の中で太陽光もある、
わるかどうかはよくわからない。それに人間活動がどのくらい影響し
栄養も沢山あるのにどうもプランクトンが繁殖しない。なぜか。鉄分
ているかも非常に難しい問いなのです。マスコミはほとんどマルバツ
が足りない。鉄分をまいたら、そこで本当にプランクトンがワーッと増
的にこうだと決めつけをします。専門家でない人は細かい内容を知る
えたという有名な実験があります。それは一度ならず実験されました。
必要はないとは思いますが、話はそんな簡単ではありません。自分で
それならどんどん鉄をまいて海のプランクトンを増やしたら、魚も沢山
きちんと理解して、自分で納得していただきたい。マスコミのいうまま
増えて良いではないかという話があるのですけれども、実現されてい
ではなく、自分で物事を考えなければいけないと思います。
ません。どういう副作用があるかわからず怖くてできないのです。地
球温暖化でも、エアロゾルを成層圏にばらまいて、日傘効果で冷やし
人間環境は当然ながら大気・水圏環境に非常に大きく影響されま
たらいいという話が議論されています。これも議論はできるけれども、
す。その一方、人間活動が地球環境に明らかに影響を及ぼす時代に
実際には怖くてできない。自然がどういうしっぺ返しをするかわから
なってきました。それは公害のような話ではありません。もっと地球規
ないのです。
模で影響を与えています。
私は理学屋ですから、社会の科学リテラシーを上げなければいけ
以前の環境問題は騒音問題とか、四日市公害などの公害問題で、
ないということは常に考えています。ですけれども、どうもリテラシー
局地的、地域的で時間スケール、空間スケールが小さいものでした。
を上げるだけでは不十分で、社会との連携をもっと考えなければいけ
この場合は当然のことながら原因は比較的特定しやすくまた利害関
ない時代になったと思います。
係も割と特定しやすい。調整は非常に難しいわけですが、それでもあ
る種、物事がよく見えているのではないかという気がします。
地球改変は困難であり、かつ慎重さが必要です。短期的と長期的
でも話が随分違います。
地球規模の場合、オゾンホールはかなりの成功例ですけれども、
原因の特定が困難な場合が多いのです。そもそも、システムが複雑で、
この辺は私自身の反省も含めて、獨協の学生さん、一言で言うと文
反論しようと思えばい
系の学生さんだと思いますけれども、理学的リテラシー、環境の自然
ろいろな穴があります。
科学としてのリテラシーを持っていただいて、地球温暖化等々、研究
実際にはほとんど状況
する必要はありませんが、自分の知識で判断し、我々の活動によって
証拠ばかりで絶対こう
改変されつつあるものを含めて経済をどうすべきか。外部経済の内部
だという実験室的なこ
化という言い方もあるようですが、1つの物差しでは当然計れないもの
とができない状態です。
をどうやって取り入れていくか。そのようなことを考えていただければ
それでも、ある種の
リスク管理的な面があ
と思います。
このあたりでやめたいと思います。どうもありがとうございました。
Network経済
21
パネルディスカッション
山根 一眞
PANEL DISCUSSION
中村 健治
木原 隆司
小林 哲也(コーディネーター)
小林 それでは、シンポジウムを再開
をいかに内部化するかというお話があったのですが、内部化という
させていただきます。
言葉はどのようにとらえればいいのかというところをお聞かせ願え
3人の先生方から「持続可能な社
ればと思います。
会の実現を目指して」というテーマで
中村 私のにわか勉強ですが一言で言いますと、内部化というのは、
お話をいただきました。先生方のお話
経済活動の中に取り込むということです。外部経済はそこに入ってき
をお聞きになって、フロアの方からご
ません。例えば環境は今までは外部経済として、幾ら環境を汚しても
質問等がありましたら、出していただ
コストにはね返らなかった。それをいかにコストにはね返らせるか。
ければと思います。
だから、炭素税などによって経済の中にコストとして取り込んでいく。
質問者A 木原先生にお伺いします。いろいろな環境ODAが世界
そういうものを内部経済と呼ぶようです。これは経済学の先生のほ
で期待されているというお話がありました。私、中国の対中円借款に
うがプロとしてよほどお詳しいと思います。
ついてちょっと調べましたら、環境円借款が非常にふえてまいりまし
木原 ちょっと補足させていただきます。特に環境問題は外部不経
て、円借款は打ち切られたのですが、技術協力と無償資金協力がま
済があると言われます。公害問題はまさにそうですけれども、排水を
だ残っています。先日、外務省に電話をかけましたら、昨今の尖閣諸
上流から出したことに対して、上流の工場がそれの補償を全くしな
島の問題があっても、日本の利益になるのでこれからも続けるという
いということであれば、上流で起こした外部性のある費用に対して
回答がありました。この辺について木原先生はどのようにお考えで
誰も負担をしない。それが外部性なのです。これをコストとして認識
しょうか。
して負担させるようにしようという
小林 環境ODAと対中借款との
のが、外部経済の内部化という話
関係ですね。
です。
質問者A はい。
木原 おっしゃるとおり、実は中
がおっしゃったように、社会的なコ
国への援助は、この10年ぐらい、
ストの部分を税として取る。
「実は
いろいろな意味で抑制的に行われ
今あなたが行っている経済活動は、
ていました。よく言われる理由は、
実際にあなたがお金を払っている
中国自身もほかの国に援助を出し
だけのコストではなくて、社会に対
ている。そういうところに対して援
して、環境に対してこれだけのコス
助を出すのかという特に国会等で
トを与えているんだよ」ということ
のご議論もございまして、中国に対
が算定できれば、そのコスト分を
しては、基本的には環境ODAを中心に出していくというのが日本の
税金として取って上乗せする。それによって過剰な生産を防ぐという
やり方でした。
やり方が1つです。
円借款については、中国は毎年毎年、円借款を非常に多額に返し
もう1つは、排出権取引も外部経済を内部化することになります。
ている国で、借りるのはもう要らないという話ですし、基本的には対
CO2(温暖化ガス)の排出量については、今まではコスト認識が全く
中円借款はなくなりました。ただ、今お話もございましたし、先ほど
なかったわけです。ところが、京都議定書によって何%削減しなけれ
私もちょっとお話ししましたが、地球環境保全のための資金は、中国
ばいけないということが出てきた。その何%を削減するためには、経
のためだけではなく、もちろん日本のためにもなり、地球全体のため
済活動を削減するか、もしくはほかの国が削減した分を買ってくると
にもなります。地球環境保全に対して無償の資金を出していくのは、
いうことがあります。各国に対して排出権を認めて、自国の排出権に
先ほどちょっと申し上げた話をすれば、
「情けは人のためならず」、
さらに上乗せで排出してしまった国が、自国の排出権より、より多く
自分のためであるということにもなりますので、その点については、
削減した国から買う。それによってCO2排出のコストを意識する、そ
技術支援なり、あるいはCO2の排出の少ないエネルギーへの転換と
れをコストとして観念するというのが内部化につながると思います。
かそういうものに対しての無償支援は必要だろうと考えています。
そういう2つのやり方が大きなやり方としてあります。
質問者B 本日は貴重なお話をお聞かせいただいて、ありがとうご
小林 ただいまの外部コスト、外部費用を内部化するというお話は、
ざいました。
山根先生がずっと言われている環業革命につながるのではないかと
中村先生にお伺いしたいと思います。地球規模の環境と外部経済
22
1つのやり方は、今、中村先生
Network経済
思いますので、山根先生、お願いいたします。
PANEL DISCUSSION
パネルディスカッション
山根 私はむしろ木原先生に質問させていただきたいなと思うこと
に聞いてみると金銭的なリターンを求めているのではなく、
「私は少
があるのです。上場企業、特にメーカーの間では、内部経済化につ
しは地球環境のために貢献している」という精神的なリターンを求め
いて、逆にこれをやらないと企業として認めてもらえないという危機
ているためなんですね。でも、日本では、なぜ、そういう個人を対象と
意識が大きくて、想像以上の真剣さで、物すごい勢いで進めています。
したビジネスモデルが成り立ちにくいんでしょうか。
各企業が出している環境報告書を見ると、ここまでやるかというぐら
木原 じゃ、なぜ国のレベルで排出権取引が行われ得るかというと、
い細かな計算をして発表しています。
国のレベルだと排出枠が決まっています。
「排出枠はこれだけしかあ
それはそれでよしとして、問題は個人です。先ほど私は、アメリカで
りません」という形にしているので、そこに売り買いというインセン
はガソリンを1日にこれだけ消費しているということを実感していた
ティブが生まれ、売り買いをすると、そこに値段がついてくることにな
だくために、ナイアガラの滝の水量を
ります。しかし、例えば日本を考えたときに、
「日本全体として6%削
お見せしました。と、訴えながら、私自
減しなければいけません。じゃ、個々人は何%削減しなければいけ
身、ガソリン自動車とハイブリット
ない」という義務が全く課されていない。そこがビジネスとして成り
カーを日々、使っているわけです。つ
立たない1つの理由だと思うのです。
まり、ガソリンによる二酸化炭素を排
企業については、義務というわけではなくて、どちらかというとガ
出し続けている。そこで、私が車の運
イドライン的にそれぞれの産業で何%削減とやっていますので、私は
転で出しているCO2を何とか解消し
「Name and Shame」と書いたのですけれども、ガイドラインを満た
たいと考えてきて、排出量分を吸収す
さず、
「満たさない企業はここだ」と言われたら、そこの企業はある
るためにおカネを払うことにしたんで
意味悪名という不利益を得る。逆に「これだけ満たしています」と
す。
言ったら、Name and Fameで、
「おたくの企業は環境に優しいです
私はアマゾンに2年に1回ぐらい
ね」ということになる。これは企業にとっては1つの利益になります。
行っていますが、植林活動をしている知人がいるので彼に植林用の
企業にとっては、ガイドライン的な
苗を植えるお金を払っているんです。アマゾンでは植物の成長速度
ものだけれども、一応そういう削減の
が大きいので年間のCO2吸収量も大きいんです。これは一種の自己
ラインがある。だから、自分のところ
満足ですが、こういうことをやっているという話をすると、多くの方が
が排出し過ぎたと思ったら、排出権を
ぜひやりたいと言います。実は、そのコストはそんなに大きくないんで
買うメリットがあるわけです。ところ
す。
が、個人の場合、私は「残念ながら」
アマゾンでは凄まじい森林伐採が進んだため、知人は子どもたち
と言ったほうがいいと思いますけれど
に植林活動を通じたエコ教育活動をしているんです。地平線が見え
も、削減の義務化がされていないこ
るほど伐採してしまった場所も多いからです。その植林活動の一助
とがビジネスにならない1つの大きな
にもなると、毎回ほんの数万円ですが拠出しているわけです。
理由だと思います。
ところが、こういう個人を対象にしたCO2の排出権のやりとりが、
山根 炭素をエクスチェンジするマーケットでは、需要と供給の関係
ビジネスモデルとして全く生まれてこない。先生方から、
「環境にい
があるということだと思いますが、そういう従来の経済の枠組みでは
いことをやればもうかる」「とても利益があるとなれば進む」という
なく、個人の思いや贖罪をベースにしたマーケットをつくろうという動
お話がありました。その「利益」とは、私の場合、クルマの利用で地
きがあっていいのではないでしょうか。日本のODAはピーク時には
球温暖化を進めているという心の痛みが、わずかなお金を払うこと
1兆円に達していましたが、めちゃめちゃ下がりましたね。でも、個人
で解消できるという「利益」なんです。経済的な利益ではなく、胸の
向けのこういうビジネスモデルが立ち上がれば、個人による最貧国
痛みの解消という利益です。
や途上国支援の道筋もできるのではないかと思うのですが。
欧州一の環境都市といわれるドイツのフライブルク市では、ソー
木原 山根先生がおっしゃっている個人レベルというより国全体と
ラー発電が増えています。その資金は、市民がソーラー株を買うかた
して考えたときには、まさにクリーン・ディベロップメント・メカニズム
ちでのエコ投資が定着しているからです。投資といっても、市民の方
という部分だと思いますけれども、途上国でCO2の排出がより少な
くなるような技術を導入したり、もしくは植林したりしてCO2を吸収
するような事業に対して、国連が「これはあなたの国の排出権として
カウントしますよ」と認めれば、カーボン・オフセットという形でオフ
セットできる。それを、一国全体ですから、企業とか政府だけではな
くて、個人のレベルまで広げるのは1つのやり方だと思います。山根
先生とか、そういう気持ちのある人たちは個人レベルでもやるのだと
思いますけれども、そこで義務化されていないので、なかなか全体
に広がっていないというのが実態だと思います。
山根 沖縄県にはさまざまな経済特区がありますが、そのひとつの金
融特区だけがうまく動いていないんです。そこで、この金融特区が排
Network経済
23
出権のマーケットを担えな
の中に知られる。その意味では、情報の開示を相当幅広い規模でや
いものかと沖縄県に話し
れば、先ほど中村先生がおっしゃったように、そんな悪い企業の製
ているんですが、動いてく
品は買わないという話にもなってくる。
れませんね。
財務省の国際局は年に4回、NGOとの協議会をやっています。NG
のは、アマゾンの植林で
Oの人たちは、例えばフィリピンでこういうダム事業があって、それが
は各 樹 木のC O 2吸収 量
どういう影響を植生なり住民移転に与えているか、そういうことをつ
が数字として得られない
ぶさに見てきています。彼らがそういうODA事業に対して、我々に
ということです。仕方ない
「これはどうなっているんだ」と言ってくれる。これも一種の見える化
ので、他の地域でのCO2吸収量データをもとにして排出権を買うし
です。本当にそのことによって、余りにもひどくなる前に、しっぺ返し
かないわけです。
を食らう前にとめることもできるというのがありました。これまでNG
温暖化対策として排出権取引ばかりがクローズアップされていま
Oがすごくそういう活動をしていましたが、グーグルマップが世界を
すが、この問題の解決を目指すための多層的な経済の仕組みが作
覆っているような時代ですから、人間の活動は見えて当然だというぐ
れるのではないかと思うんですが。中村先生が、宇宙にアルミ箔のよ
らいにしていくのが、地球に悪さをしない1つのやり方だと思います。
うなものをバーッとまいて、太陽の光を遮るといった試みは怖くてで
山根 温暖化や気候変動の問題で望ましい解決の道に進めるため
きないとおっしゃいましたが、身近なレベルで実現できることがたく
には、かなりのマンパワーが必要と思いますが、そういう能力あるい
さんあるのではないかと思うんですが、いかがしょうか。
は活動経験を持った人の数は日本は十分ですか。例えばドイツは環
中村 むしろ「こういうことをやると、こういう結果が出ますよ」、例
境先進国とされていますが、経済人の中にそういうスキルのある人た
えば木を伐採してしまったら、そこに雨が降らなくなったとかいうこ
ちが多いのでしょうか。
とがきちんと見えて、そういうことをしてはいけないのだということが
木原 おっしゃるとおり、それはいろいろなレベルがあると思います。
「当たり前だね」というような感覚的なインフラがあり、その中で「こ
山根先生がさっきおっしゃったように、各企業の中でも今は環境配
れをやったのはあの会社だ」ということがあると、それで内部化され
慮部署が大体あります。各企業もそれをやっていますけれども、特に
ていくのではないかという感じは持っています。新たな税を作ると
私がずっとつき合っている国際協力銀行、政策投資銀行などの政府
いったやり方の内部化とは少し違いますが「あそこの製品は安いけ
系機関、あるいは普通の金融機関でも、環境を配慮した融資とか、逆
れども、それを達成するためにああいうことをやっている」というよう
に融資する際の環境ガイドラインをつくってやっています。
なことが見えて、それがどこまではね返るかも見える、そういうメカニ
なので、一応金融機関を経由する融資、あるいは各企業の活動は、
ズムのインフラも必要だろうと思います。
環境に配慮することになってはいます。なってはいますけれども、特
山根 取り返しがつかなくなると困るというお話がありました。取り
に気候変動のように、悪いことをしたからといって、すぐには影響が
返しがつかないことではないのです
あらわれない。しかも、自分だけに影響があらわれるものではないと
けれども、
「夏の暑さをしのぐために
いうことに対して、どれだけ配慮していくかというと、そこは相当足り
打ち水が効果がある」と言われて、あ
ないと思います。
ちこちで打ち水イベントが行われるよ
いろいろな銀行などの環境ガイドラインにしても、例えばダムをつ
うになりましたが、最近、打ち水をす
くると、そこで住民移転が起こり得ます、あるいは植生が荒らされる
ると、かえって蒸し暑くなり過ごしにく
かもしれません、生態系に影響があります、ここら辺はすごく見える
くなるので逆効果だと言わるようにな
のです。ところが、これでどれだけCO2が排出されますというあたり
りました。これも1つの学びですかね。
はほとんど見えない。直接的な影響、また結果がすぐ返ってくるよう
中村 そのようなしっぺ返しが当然
なものについては見ていると思いますけれども、特に長期的な地球
あります。何かを退治するためにマン
環境問題、温暖化の問題については余り見ていないというのが実態
グースを入れたら、マングースがふえ過ぎて逆効果になったとかいう
です。
ことがよくあります。そう簡単ではないのです。
山根 刻々と新しい情報が出てきて、前のことが否定されたりします
山根 本当に簡単じゃないですね。
ので、経済だけではなくて当然サイエンスの知識がなければいけな
中村 その簡単ではないということをちゃんと理解してほしいと思い
いんでしょうね。専門家が「複雑過ぎる」とおっしゃっているのだか
ます。それも含めて経済活動になっていると思います。そうすると、
ら、専門家以外にはいっそう難しい。
(笑)一方、この問題に取り組
我々自身の環境に対するリテラシーが上がらないとどうにもならない
む科学者は足りていますか、全然足りないと感じていますか。
ところがあって、それこそ大学のミッションだと思います。
木原 私の意見としては、先ほど山根先生のお話にもありましたけ
木原 おっしゃるとおりだと思います。まさに見える化ではないです
24
これまでそういう役割を担ってきたのは、実はNGOだと思います。
もうひとつ困っている
れども、第4次報告書とか、今度は第5次報告書とか、特に気候変
けれども、自分たちがやっている経済活動なりその他の活動が環境
動については、世界の知見を集めた報告書が一応出てきますので、
にどういうふうに影響を与えているのか。また、まさに汚染者負担で
我々としてはそれを信じるしかないと思うのです。知見の部分はそう
はないけれども、それは誰がやっているのかということがちゃんと世
だとして、じゃ、その知見を前提としたときにどう行動するか。日本で
Network経済
PANEL DISCUSSION
パネルディスカッション
小林 環境経済学という点で言うと、排出権取引とか、かなり精密
な議論がされていると思います。TPP、汚染シャットダウン、誰が環
境に負荷を与えているかがわかるようにしましょうとか、あるいは誰
が環境に貢献しているか見える化しましょうとか、そういう話は非常
に厳密な形ではあると思うのですけれども、それが本当に社会全体
に見えるような形で知恵となっているとはまだ言えないと思うのです。
その点は、環境経済学の専門家もいらっしゃるので、もしフロアか
ら何かご発言があれば。―塩田先生、よろしいですか。
塩田 ご指名ですので、一言だけお話しさせていただきます。獨協
やるべきことはむしろそっちのほうかなと思います。
大学で何をやっているかというお話ですが、学生の環境に関する関
中村 直接その辺にかかわっている人数はどうかと言われると困る
心をかき立てていこうということで、大学では環境サークルがありま
のですけれども、学会レベル、アカデミズムのサイドは社会のほうを
す。そこでは、例えば獨協大学の周りには伝右川があるのですけれ
向き始めています。大震災、原発で大きく変わったということが明ら
ども、川に捨てられた自転車を引き揚げて、そこの水について考えて
かに言えます。今までのようにアカデミズムに閉じこもってはいけな
みようとか、まず自分の身の回りの身近な環境問題について、自分の
い。我々の知見を社会が理解できる形で発信しなければいけない。
頭で考えて実際に活動していこうということで、そこから私や他の先
誰がやるかは別ですけれども、そういう意識に大きく変わってきてい
生の環境のゼミや授業に関心を向かせる、そういうアプローチがう
ます。
ちの特徴ではないかと思います。
山根 文科系の獨協大学が国際環境経済学科を立ち上げたことは、
小林 本日のシンポジウムは、
「持続可能な社会の実現を目指して」
非常に新しいムーブメントだと思っています。で、理工系の大学での、
というテーマで、各界のご専門の先生方からいろいろお知恵を出し
環境研究の取り組みは常識となっているんでしょうか。
ていただきました。新学科の国際環境経済学科はスタートラインに
中村 「環境」という言葉は広過ぎると思います。何でも環境で、例
立ったばかりですけれども、フロアの皆さんを含めて、きょういただ
えば汚染水の除去とかそういったものまで環境になっています。
いたお話を教員一同で共有して、新学科の取り組みを学部として、大
山根 確かに。
学としてどのように考えていくのかということの参考にさせていただ
中村 私自身は「環境」という言葉は少し広過ぎて、例えば環境経
済とか、もう少し絞らないと、何をやっているのか、わけがわからなく
なると思います。
きたいと思います。
以上をもちまして、本日のシンポジウムを終了とさせていただきま
す。どうもご参加ありがとうございました。
山根 では、気候変動の専門家は……。
中村 気候変動はサイエンスですから環境とは思っていません。温
暖化でどうなるかというのは環境問題かもしれないけれども、気候
変動本体は気候サイエンスです。
山根 理系の世界から文系の世界を見て、文系の大学をどんなふう
にごらんになっていますか。言いたいことを言っていただけますか。
(笑)
中村 現在私の所属している大学もそうですが、
「文理融合」という
言葉をよく言います。文理融合を必要としているのは、工学部だと私
は思います。工学部は、やっている本人は面白いからやっているわけ
ですが、よいものを作っても、人に使われなければ意味がありませ
ん。文系は文理融合を必ずしも必要としていないように思います。工
学部は人間社会にインパクトを持ち、かつ何かしたいと思っています。
そのためここが一番文理融合を必要としているのではないでしょう
か。文系の方には失礼かもしれませんが、私はそういう気を持ってい
ます。
山根 iPhone5が大ヒットしましたが、スティーブ・ジョブスは理系で
はない。あの人は文系の人です。ジョブスのアイデアを形にしたもう1
人のジョブスがいた。そういう意味では、スティーブ・ジョブスは文系
と理系の融合のようなことをやったと言えるかもしれません。
私が獨協大学で教鞭をとってまだ4年目ですが、小林先生、この
10年とか20年、獨協あるいは文系の大学の環境に対する意識や教
育の内容についてはどうですか。
Network経済
25
ゼミ活動報告
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
高安ゼミ
「日経GSR学生アイデア・コンテスト」
2年連続入賞
経済学部経済学科教授 高 安 健 一
高安ゼミ(開発経済学専攻)は2012年9月22日に、日本経
済新聞社と日本経済研究センターが共催する第3回日経GSR
プロジェクト「大学生と共につくる地球の未来」コンテストに出
場、前年の優秀賞に続き、ユニーク賞を獲得した。以下は、3
年生6名と2年生3名の計9名からなるチームの奮闘記である。
CHANNELでご覧頂けます。
企業と共に創る地球規模の問題解決策
を取り戻せた。3週間にわたるプレゼンの練習期間中に、高安先生
GSR(Global Social Responsibility)とは、法令順守などの「守
り」のCSR(企業の社会的責任)を発展させたもので、企業が各国
(http://channel.nikkei.co.jp/business/nikkei_gsr/1305/)。
プレゼン当日の緊張感と学び
プレゼン当日は、電通ホールに200名を越える聴衆が陣取り、映
像がライブ発信されるなど、3名の発表者の緊張感は否応なしに高
まった。しかし、応援に駆け付けてくれたゼミ生の顔を見て、平常心
が姿勢や発声を含むプレゼンの基礎を丁寧に指導して下さったこと
もあり、本番では落ち着いて聴衆に語りかけることができた。
の政府、市民社会とグローバルに連携しながら、貧困や水問題と
コンテスト終了後の懇親会で、他大学の学生と交流したことも新
いった地球規模の課題の解決策を経営プロセスの中に組み込む
鮮な体験であった。彼らの意識の高さに驚かされた。企業の方々が
「攻め」のCSRである。コンテストに参加した8大学のチームは、地
懇親会のスピーチで、
「学び」に言及なさっていたことも印象に残っ
球規模の課題を解決するためのビジネスプランの作成に取り組んだ
ている。「学び」には机上のもの以外に、他人から教えてもらうもの、
(参加大学は、関西学院大、慶應大、東大、獨協大、一橋大、法政
感じるもの、直接現場に足を運んで獲得するものなど様々な形態が
大、明治学院大、立教大)。
あるという。プロジェクトを通じて、多様な学びを経験できたことは
本コンテストの特徴は、学生が日本経済研究センターが主催する
「地球規模の社会的責任(GSR)研究会」に参加している企業と協
幸運であった。
私にとってのGSRプロジェクト
働で、ビジネスプランを練り上げるところにある。私達は、参加企業
リーダーとしてプロジェクトに取り組んだ半年の間に、ハードルの
8社(伊藤忠商事、資生堂、第一三共、武田薬品工業、千代田化工建
高さに苦しむことが何回もあった。そうだからこそ、コンテスト終了
設、東芝、富士ゼロックス、ベネッセホールディングス)のうち、第一三
後の達成感は格別であり、得たものは計り知れない。難しいプロジェ
共と富士ゼロックスとタッグを組み、開発途上国の医療問題に挑戦
クトをやり遂げるには、リーダーシップやマネジメント力のみならず、
した。学生チームは、夏休みに企業を2回訪問することを認められ
チームワークが重要であることを痛感させられた。一緒に苦しみ頑
た。時には第一線で活躍している方々から厳しいコメントをもらいな
張り抜いた仲間、いつも支えて下さった高安先生、応援してくれたゼ
がらも、自分達の想いを形にした。
ミ生の有り難さを再認識した。これが今回のプロジェクトから得た最
「インドで起こす医療革命」を提案
も大切な財産である。日経GSRプロジェクトは、私達にとって青春そ
私達は、
「インドで起こす医療革命~ポストMDGsの世界を創る
のものである。
(文責:鹿住太郎)
~」と題するビジネスプランを、半年を費やして作成した。ミレニアム
開発目標(MDGs)の達成が医療分野で危ぶまれている状況下、イ
ンドの乳幼児死亡者と栄養不良児が世界最多であることに注目した。
リーダーを務めた鹿住君(3年生)の文章から読み取れるように、
社会的弱者である妊産婦、乳幼児、小学生に、医療サービスを適正
外部コンテストに参加することから得られる教育効果は絶大である。
な価格で十分に供給できる医療システムを提案した。
加えて、今回印象的だったのは、ゼミに一体感が醸成されたことであ
ビジネスプランの柱は3つある。第1は、地域医療体制の構築に
る。コンテスト開催10日前の夏合宿で、3名の発表者がプレゼンを
小学校を活用し、国民の94%に医療サービスを届けることである。
披露した際に、他のゼミ生から多くのコメントや励ましの言葉が寄
第2は、富士ゼロックスの技術を生かした医療用電子タブレット端末
せられた。2年生の何人かは、先輩が奮闘する姿を間近にし、来年
をインド全土の医療従事者に配布し、貧困層を含む情報の収集と活
のコンテストに向けて襷を受け継ぐ決心をしたようだ。学生の成長
用を推進することである。第3は、インド政府が推進しているジェネ
には、
「お祭り=人間形成の場」が欠かせない。
リック薬品の無償配布と学校給食の提供プロジェクトを、第一三共
の現地子会社であるランバクシー・ラボラトリーズ社を活用して効率
的かつ経済的に進めることである。
企業担当者と審査委員長から高い評価
コンテストの審査基準は、
「2社の経営資源のマッチング性」「革
新性」「実現性」「社会的インパクト」「プレゼンテーション能力」の
5つである。高安ゼミは、優れたアイデアを披露したチームに贈られ
るユニーク賞を獲得した。第一三共からは「非常に実現性の高い提
案だ。今後のビジネス展開を考える上で、一つの切り口として参考に
したい」、富士ゼロックスからは「身近にある小学校を活用するアイ
デアは新鮮で面白い」との評価が寄せられた。新井淳一審査委員長
(GSR研究会会長)からは、
「小学校を拠点にする発想はユニーク」
との 講 評 を頂 戴した 。なお 、コンテストの 模 様 は 、N I K K E I
26
担当教員からの一言
Network経済
編 集 後 記
『ネットワーク経済』23号は、経済学部新学科「国際環境経済学科」開設の特集号です。10月に
行われた新学科開設記念のシンポジウムを中心にまとめました。シンポジウムに登壇していただい
た木原隆司、中村健治、そして山根一眞の三先生には、この号の発刊に間に合うよう急ぎ筆を執っ
て頂きました。多忙の先生方に無理なお願いをしたにも関わらず、原稿執筆を快諾頂くと同時に締
め切りをお守り頂いたことにこの場を借りて感謝する次第です。
さて、先生方のディスカッションを拝見して感じたことですが、それは専門分野がそれぞれ違い
ながらも一つのテーマ(「持続可能な社会の実現を目指して」)について議論したことの意味、重要
性です。通常、私たちは同一の専門分野の研究者同士で議論することが多いのですが、その場合に
は非常に細かな点に焦点を当てて議論する傾向が強くあります。それはそれで研究にとっては大事
ではあるのですが、重箱の隅を突いていることが多く、一般の方や学生諸君にはどうでも良いこと
になぜそんなにこだわるのか、もっと大事なことは別にあるのでは、と思われることが多々あるよ
うです。それに比べて今回のシンポジウムのように専門分野を異にする研究者が集まると、これだ
け幅広い視野で物事が議論でき、本当に大事な議論とは何なのかを改めて思い知りました。
実際のところ、異分野との協働は現実社会では普通に行われていることです。高等教育の場では
以前から学際が叫ばれてきましたが、学際的な教育や研究がなされてきたとは言えないようです。
新学科「国際環境経済学科」のキーワードの一つに学際があります。新学科で行われる教育や研究
を楽しみにしたいと思います。
ネットワーク経済編集委員会
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2012 Autumn :SP
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2012年12月10日
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特 集 経済学部新学科「国際環境経済学科」開設
Network 経 済 2012 Autumn Vol.23
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