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ゲ ンジボタル成虫の野外個体群
< 京 都市清滝川での情況 と方法>
堀
道
α
航α "″続 ↓
Natural PcPulation Of adulte of 胡
L″
は じ
め
浩 治/村 上興正
雄 /遊 磨正秀/上 回哲行/遠 藤 彰 /伴
Bッ 猟:chio H。高 and Other3
ジボ タル個体群 を対象 に して野外調査 をつづ け て
い ます。 今 回 は誌面 の都合 もあ ります か ら, 主 に
に
ゲ ンジボ タル は ヘ イケボ タル とともに ,我 国 で
は昔 か ら最 も親 しまれ て きた昆虫 の一 つ です 。 こ
成虫 に話 を限 って , 野 外 で個体群 を研究す るには
どの よ うな方法 を使 うのか とい うこ とをふ くめ つ
の虫 に魅 了 された研究者 も多 く,今 までに主 に飼
つ , こ れ までの調査 で 明 らか に な った こ とのい く
つ かを述 べ てみ た い と思 い ます。
育 に よって生活史 の概略 ,例 えば卵 か ら成虫 まで
の生活環 の各段 階 での習性や成虫 の寿命 ・産卵 数
調
な どが調 べ られ てい ます。そ して最近 では ,各 地
査
場
所
でホ タルが減 少 した ので ,水 槽 内 で 大量飼育 した
幼虫 を放流 した り,人 工 ・半人 工 の水路 を使 って
私達 の調査地 は ,京 都市 の西ゴヒ部 を流れ る清滝
川 で ,昔 か らゲ ンジボ タルの多 い所 です。 この川
大規模 な増殖 を試 み るな どのホ タル の保護 活動 が
行 なわれ る よ うに な って い ます。
は下 流 では舟下 りで有 名 な保 津川 と合流 し,桂 川
とな って京 都 市街 の西端 を流れ て ゆ きます。 この
個 々の習性 だけ ではな く,ホ タルが集 団 として ,
保津 川 との合流点 か ら上流約 2筋 の所 に清滝町 が
あ り,20軒 ばか りの旅館 が川沿 い に立 ち並 んでい
いつ 頃 どの よ うな場所 で どの よ うな生 き方 を して
ます 。私達 は この約 2筋 の間 を調査範 囲 としま し
い るか を知 る こ とも重要 です。 この よ うに あ る種
六二。
しか し野外 でホ タル を保 護 しよ うとす る場 合 ,
類 の個体 が どの よ うに集 団 をつ くり,そ れ を維 持
して い るか を調 べ る分野 を 「
個体群 生態学」 とい
い ます。 と ころで ご存 じの よ うに ,ゲ ンジボ タル
は幼虫期 を水 中,婦 ・成虫 ・卵期 を陸上 と,そ の
生活様式 を大 き く変 えて生活 してい ます。 したが
って野外 の個体群 の生 き方 を ほ ん と うに 知 るため
に は ,各 発育段 階 のそれぞれ につい て ,最 も適 し
た方法 を用 い なが ら平行 して調 べ てゆ かねばな り
ば成虫 につい て考 え る場 合 に は ,ま
ませ ん。frlえ
調査範 囲内 の川 は流れ幅 う∼ 15物で ,水 量 はそ
れ ほ ど多 くあ りませ ん。両岸 は 自然 の岩壁 が発達
して渓谷状 をな してい ます。 と ころ どころで護岸
工 事 が施 され てい ます が ,都 会地 の周辺 としては
比較 的人 の手 が加 え られ てい ない 場所 だ と言 えま
し ょう。川 の両岸 には カエ デ ・ヶャキな どの大木
が 多 く,少 し上 の斜面 はほ とん どがスギの植林地
です。
調
査
方
法
ず そ こにいつ 頃 どれ くらい の個 体数 がい るのか ,
また雄雄 の割合や 死亡 の しかたや そ の要 因 ・産卵
調 査 は ,毎 年成虫 が出現 しは じめ る 6月 上 旬 か
数 な どに つ いての知識 も必要 です。 と ころが ,こ
うい った こ とを野外 で調 べ た研究は ,こ れ までほ
ら,姿 をほ とん ど見 かけ な くな る 7月 始 め まで,
9∼ 4日 お きに 日没か ら午前 0時 頃 まで行 い ま し
とん どあ りませ んで した。
そ こで 私達 の研究 グル ー プは ,197う年 か らゲ ン
た。 ゲ ンジボ タルはか な りの範 囲を飛 び 回 って い
(128)
-4-
る よ うな ので ,2筋
の区域 を適 当 に 300∼ 400物
くらい の 4つ の区画 に 区切 り,そ の各区画単位 に
調 査す る こ とに しま した 。毎 回 う∼ 10人が参加 し
ま した ので , 1∼ 3人 を 1つ の班 として 4班 に別
れ ,各 班 がそれぞれ の 区画 を分担 しま した。夜 間
に岩 の多 い 川原 で作業す るわけ です か ら,服 装 は
で きるだけ 体 に ピ ッタ リ合 うものを着 て ,足 のつ
け根 まであ る長 ぐつ をは ぎ,ラ イ ト付 きの ヘル メ
ッ トをかが る とい う重 装備 で 出かけ ます。
図 2 標 強 のつ けか た
How io mork o coP,ured firefry
各班 は 現地 につ くと,ま ず ホ タルの数 を う分間
目撃 に よってかぞ え,気 象条件 を記録 します 。 次
にホ タル を捕虫 網 で採 集 します。捕虫網 は ,ホ タ
ルが高 い所 を飛 んだ り高 い 木 の上 に止 った りす る
ために ,柄 を う物 まで つ な ぐこ とので きる もの を
使 い ます。捕 まえた ホ タルは , 1匹 捕 まえ るたび
に傷 つ け ない よ うに気 をつ け なが ら,性 別や標識
(後述 )が 付 い てい ない か ど うか を確認 して各人
が用紙 に記録 します。採 集場所 と採 集時 の状態 ,
月 _日 __時 分
枚中 枚 目 記
一 時
録者
__分 区 画
一
﹁
!
括一
斜針一
針一
針
針
打
一
十
鍋一
抽
一一
↓
捕獲 記 録
用紙
々│17番
時却!場所!停考
: │
例 365番
図 3 標 識 の数 の位 置 ,お よび標設 個体 の例
Code sysiem fOr mtarring firefry
例 えば草 の上 に止 ってい た とか下流 の方 へ飛 んで
カ ゴN 0
い た とか もい っし ょに記録 します。記 録 には 図 1
の よ うな用紙 を もちい ま した 。記録 が済む と, ホ
時_少区
一
画
霊
鴛
績
斜=晟ず五旨―
釜
曇
蓄
二
タル は虫 か ごの 中 に 入れ , ま た次 の採 集 にか か る
蓮
コ
基
H蕃
弓弄
昌夢卵
わけ です が , こ の 間 には3 0 分に 1 度 ず つ , 目撃 に
よる数 かぞ え と気象観 測 も くり返 します。 これ ら
の作業 を約 2 時 間 ほ ど行 うのです。
次 に , そ の 日に捕 まえた ホ タルの うち, 標 識 の
│
気 つい た こど
付 いてい な い ものに標識 を付け ます。
_二
!!__1:│_1_」
標 識 の付 けか た
(例
え五ゴ月の光 Z宗 々ルの 動 きわてた等 )
私達が成虫 の調査 で採用 した方法 は 「
標識再捕
法」 とい って ,標 識 した ホタルを放 し,以 後 の捕
れ方 (再補)か らい ろい ろ考えてみ るとい う方法
です。標識は,白 ・赤 ・青 ・緑などホタルに付け
た とき目立つ色 のラ ノカ を 選び,適 当にラ ッカ
図 1 観 査 に用 いた記録 用 力 ニ ド。 この他 に区画別 調査 時刻 。人員
記録 用紙 ,標 酸 原簿 用紙 ,地 国 の三 つ のカ ー トも用 いた。
Fieid survey ctBrd
―
タ ー
(129)
―用 シ ンナ ーで うすめた ものを,図 2の ように柄
付 き針 の先を切 って丸めた もので付けます。標識
は個体 ご とに別 の番号を付けます が,そ の番号は
んだ のか ,ま た どれ くらい の範 囲 を飛 び 回 るのか
上翅 の上 に 1・ 2・ 4・ 7を 意味す る位置を決 め
ておけ ば ,標 識を付け る位置 の組合せに よって表
整理す る こ とが必要 です。 まず番号 1番 の個体 か
ら順 に ,表 1の よ うに 「
標識 をつ け た 日 ・再捕 し
た 日」 の一 覧表 を作成 します。 この場合 ,オ ス と
わす こ とができます(図3)。 例えば図 うの右上 は
17番,右 下は,6う
番 の個体を表 わ してい ます 。4カ
所 で同時 に作業す るので,互 いに混乱 しない よう
に ,区 画 ごとに違 った色で番号を付け るこ とも必
要 です。なお,こ の方法 では 1色 につ き 1番 か ら
399番までの番号が付け られ ますが,これ以上 の数
が採れた場合は,ラ ッカーの色を変 えた り,違 っ
た色を組み合 せた りすれば よい わけです。
全部 の未標識個体 に標識を付け終 った ら,そ の
日にその区画 で採 れた ホタルを,各 区画 ご とに決
め られた場所で全 部放 して しまい ます。 ここまで
でそ の 日の調査は終了 します。
さて, こ うした調査か ら, 各 番号 の個体 がいつ
どこで採れたか とい うデータが集 まります。 この
デー タを整理す ると, 各 調査 日にそ の調査地内に
どれ くらいのホタルがい るか とい う個体数 の消長
と, 何 匹が新たに加わった のか , 何 匹 ぐらい が死
表 1 標 設 再構 の原簿
番 号 1番 の個 体 か ら順 に,標 議 された回 は◎ ,再 編 された回 は ①,
綿 ま らなか った回 は 一 で 示 され てい る。調 査が全部 終 った ら各値 体
〇の間)に 十をつ
け る。
ls
Regisier for marked and recoplured individu。
図 4を み て くだ さい 。 ″回 目の調 査時 にそ の地域
内 に全 部 で N↓ 匹 の個体 がい る とします。 そ の う
ち舟イι
匹 は ガ回以前 に放 された標識個体 の うち ″回
目に生 き残 ってい る ものの数 とします。 ここでは
図 4か らわか る よ うに ,も し標識個体 と未標識
個体 との間 に ,再 捕 率や死 亡 率 に差 が無けれ ば ,
以下 に述 べ る よ うな関係 が成 り立 ち ます。 つ ま り
ガ回 日で放 した個体 の うち, ケ +1回
目に再捕 さ
の
の
は
れた個体 割合 (Rづ/%か ,標 識個体 うちで ガ
回 目には捕 ま らなか ったが , ガキ 1回 目に再捕 さ
れた もの の書」
合 (Z抑 ら 一物う と等 し くな る と考
一 十
(130)
さて ,こ の 4つ の数 を どの よ うに計 算 す れ ば上
に述 べ た よ うな こ とが らがわか るので し ょうか。
数 とどの よ うな関係 に な るか の式 さえ考 えれ ば ,
丹んや Nヶ は計算 に よって得 る こ とが で きます。
一⋮ 〇
1う2
1う3
数 (各回の十の合計)
で きます 。 4つ の数 は野外調 査 に よってす でに わ
ガが この 4つ の
か ってい るわけ です か ら,7,や ハ「
十 〇
:
151
○の合計)
鳥 :″│の うち,以 後少な くとも 1回捕まったものの
数 (各回の◎と① の うち,次 回に○か十がついて
Rサ,る の 4つ の数 と総個体数 Nι,総 標識個体数
%と は 図 に 示 した よ うな関係 に整理す る こ とが
一⋮
102
103
″ι:f回 目に捕まえたものの総数 (表 1の各回の◎ と
○の合計)
初が そ の うちで標識 の付いていたものの数 (各回の
十 〇
:
101
4つ の数 を求め ます 。
十 十 ⋮
,3
目,第 2回 目とい う順 に な るわけ です が ,こ れ を
第 ガ回 日と一 般化 して説 明 します )ご とに以下 の
説 明 をわか りやす くす るため に すと(ガ +1)回 目
,
の場合だけ を考 えてみ ま し ょう。す る と,%,,物ι
一〇
う1
う2
一十 ○ ○ ⋮ ○ 十 一⋮ ○ 十 一⋮ ◎ ◎ ◎
1 1 ◎
2 1 ◎
う │◎
4 1◎
一〇 十 ○ ⋮ ◎ ◎ ◎ ⋮ ◎ ◎ ◎
ぐ
J l
番
号
メスは別 々の表 に ま とめた方 が 良い で し ょう。次
に この表 か ら,そ れぞれ の調査 日 (つ ま り第 1回
いるものの合計)
ろ :ど 回目以前に標識された個体 の うち,ど回目には
捕まらず,以 後少な くとも 1回は捕 まったものの
個体 数 の推 定 法 な ど
に つ い て ,生 存 してい るはす の回 (◎ とO,Oと
とい った こ とが推測 で きるのです。
これ らを推 測す るため に は次 の よ うに デ ー タを
-6-
対 す細 即 鞍
%デ 標識 個 体 数
れ す捕 獲個 体 数
規則なときは,こ の生存率を 1日 あた りに換算 し
てお くと便利です。調査間隔が '日の ときには,
1日 あた りの生存率は7房 とな ります。例えば調
物 すれ 中 の 標識 個 体 数
え rれ の 再 捕個体 数
Zす ル′以 外 の n/の 再 捕個 体数
査間隔 2日 の ときはγ所 で ,4日 ならγ万 です。
なお捕獲数 ″tのうち,も し誤 って傷つけた り殺 し
標 識 の つ い て い る個 体 数
慰 Sそ の時 点 で 捕 獲 した個 体 数
て しまった りして放 した数 と違 った場合 は,標 識
の計算をす るとき,%ιのかわ
個体数舟れと生存率φι
一
りに%ぅ あ を用い ます (れ は ガ回 目に捕 えた個体
勿
の うち放 さなか った ものの数 です)。総個体数 N↓
ヒ
の計算 には %│のままで良いのです。そ の理 由は皆
さんで考えて ください。
最後 に ,(″ -1)回 日か ら ″回 目までの加入数
カ
ト
才
才
ナ
図 4 標 設 再捕 を行 った場合 の各個 体の関係
各 社 の長 さが それ ぞれ の 個体 数 を表わ す
Relo,ionship omong recopiured otJulis
え られ ます。 つ ま り,
我
=玩
浮劣万
の関係 が成 り立 ちます。 この等式
を整理す る あ 比 = 後
争
十物↓とな って , ″ 回 目に
ヽ
るはず の標識個体数 舟れが計算 できます。ユれが
,の推定をします。丹んの うち,そ
わかれば次は ハ「
の回に捕まえた標識個体 の害J合(物サ
4)は ,全 個
/丹
ア
の
の
の
を
体数 うち,そ 回に捕まえた個体 割合(%サ
)
/ハ
と等 しい と考えられます。 したがって,
捻
= 荒 の等式 が成 り立 ち, こ れ を整理す る と,
比 = 洗 % と な って , ″回 目の総個体 数 比 が推
を推定 してみましょう (加入数 とは羽化 に よって
新た に個体群 に加わった新成虫 と,調 査地 の外か
ら移入 してきた個体があ くまれます。同様 に上記
の生存率φサ
の計算 では ,調 査地 の外 に移出 した個
てあつかわれます)。
体 は死亡 した もの とL′
Aア
・ 1はφ,1の 生存率 で生 き残 るはずですか ら,
_1・Nガー1とな ります。 もし,″回 目の
″回 目にはφヶ
総個体数 Nぁを計算 して,そ れが この φか 1・Nど 1
より多ければ ,そ れ はそ の期間に増えた個体 の数
にな ります。つ ま り加入数 Btは ,
Nど 1と して推定 されます 。調査
βi=ハア
,一φ】1・
地外か らの移入がない場合は ,こ れが羽化 に よっ
か し,
て新たに個体群 に加わった個体数 です。 L′
この値 は真 の加入数 または羽化数 よりも小 さく推
定 されます。なぜなら,(ど -1)回 日以後加入 し
た個体 のなかには, ブ1可目になる以前 に死ぬ もの
′
もいるか らです。そ こで真 の加入数β″は,
定 で きます。 この計算 を順 にや ってゆ け ば ,第 2
′
あ =ジ
回 目よ り最後 か ら 1回 前 まで の調査 日の個体数 が
祈
として 計算 します。 この式 の意 味 はや
わか ります (以前 か らの標識個体 が い な い第 1回
目と,再 補 の デ ー タの ない 最後 の 回 は推定 で きま
や 複雑 な ので説 明を省略 します が , ど , がβ/ に く
の大
らべ て どれ くらい 小 さ くな るか は , 生 存 率 φι
せ ん)。
さて次 は ,ガ 回 目か ら ″+1回 目の間 の生存 率を
小 と関 係 が あ る ことはお わか りで し ょう。 そ して
この値 を全期 間 に つ い て合計すれ ば , そ の地 域 で
推定 してみ ま し ょう。″ 回 目の調 査 を終 えた段 階
加入 または羽化 した個体 の総 数を知 ることが で き
では ,全 標識個体 は新 し く標識 した ものが加 え ら
十%,に な って い ます。 この標
れ ます か ら 丹允一物ぅ
るのです。
識個体数 が ″+1回 目までには 舟4■ 1に減 ってい る
化 と移 入) が あ る個 体群 に対 して使 われ る標識再
捕 法 に よる推定 法 で , ジ ョリー J 0 1 l y とい う人 が
はず な ので ,こ の期間中 の生存 率ゆぅは ,
0,=ん
とな ります。こ れ も順 に数
字 を入れて計算す れ ば よい のです。調査間隔 が不
以上 の方法 は , 消 失 ( 死亡 と移 出) と 加入 ( 羽
考案 した 方法 をわか りやす く説 明 した ものです。
もっ と くわ しい こ とを知 りた い 人 は , 文 末 に掲 げ
た文 献 を参照 して くだ さい 。
7 -―
( 1 3 1 )
0
0
3 匹 2
―
― ―
― ―
に よって も,こ の関係 は違 って くるで しょう。 し
たがってある場所で,日 撃数 の何倍 ぐらいの個体
一
│
数 がい るかを知るには ,何 回か の標識再捕法 で個
体数を推定 して,こ の関係を求めてお くとわか り
現
存
1000
ます。それ以後は光 ってい るホタルをかぞえるだ
け で,お お よそ の個体数を推定す るこ とが可能な
個 「
体8 0 0 ト
数
│
定
│
のです。
羅6 0 0 ト
成 虫 の 出 現 時 期 と個 体 数 の 変 化
こ うして推定 した この地域 の成虫個体 の消長を
一例 として1976年度 について見てみ ましょう (図
6)。 オスは 6月 10日前後か ら7月 10日頃まで 6
月下旬を最盛期 として ,メ スは 6月 15日前後か ら
c 4 0 0 ,
2 0 0 ト
0%
0
.メ
20
40
///
60
目
80
撃
7月 15日頃 まで 7月 始めを最盛期 として活動 して
い る ことがわか ります。 この ようにォス とメス と
では,活 動 の時期 が 1週 間∼ 10日ほ どずれてい ま
100
120 140 160匹
数
図 5 目 車数 と現 存個体 数 (推定値 )の 関係 (1975年の調 査結果 )
Re,ollon be,ween ihe number of adulis observed and of
the PoPuldiion estim。 led
す。また時期的なずれ はあ って も,最 盛期 の個体
数は どちらも700匹前後でほ とん ど変 らない こと
と ころで ,こ れ まで野外 でホ タル の数 (密度)
を調 べ る場 合 ,光 って い る ホタル の数 をかぞ え る
もわか ります。
それ ではオス とメスは,そ れぞれいつ頃 また何
匹 ぐらい 羽化 して くるので しょうか。前に述べ た
方法 が よ く用 い られ てい ます。 この方法 で も,範
囲を決め ていつ も同 じや り方 でか ぞ えてい れば ,
ホ タル の個体数 の一 応 のめや
1日 当 りの 生 存率 の 変化
1
す に な ります。 しか し,そ こ
方法 で推定 した値 (日数 で害Jって 1日 あた りに直
にい る ホ タルが 皆光 って い る
同 じ個 体 をかぞ えて しまった
0
0匹
た個体数 と,上 記 の標識再捕
1]"
千
可
ア 1「
工 「打
15
¬
「■ i
20
l「
25
干
T
0
T3
T 0
図 5を 見 て くだ さい 。 これ
は私達 が 目撃 に よってか ぞ え
―
オ スの生 存率
° j メ スの生 存孝
∼
り,物 影 にい て見 えない 個体
もい るはず です。
11L
わけ ではあ りませ ん し,2度
r
i
丁
丁
百
T
「
5
個 体 数 と 1 日 当 りの加 入 数 の変 化
下
「¬
-オ
場合 は,日 撃数 100以 下 の比
較 的数 の少 ない ときには , 日
で見 てか ぞ えた個体 数 よ り約
9倍 の個体数 がい る こ とがわ
か ります 。 しか し数 が多 くな
くの個体 がい る こ とに な りま
10
1 5
2 0
6 月
2 5
図6
3 0
5
ゲ ンジボ タル個体辞 の個体 数 ・加入数 ・生 存率 の消長
Changes in ,he size of populo市 on, new enir:es ond survivol ,o,c
す。 もち ろんかぞ え方や地形
(192)
…
■ 可
十
スのイ
回体数
メ スの個体数
匡∃オスの加入数
匝]メスの加入数
法 に よって推 定 した個 体数 の
関係 を表 わ してい ます 。 この
る とこの関係 は曲線 的 とな っ
て ,日 に見 え る よ りず っ と多
可
10
―- 8 -一
7 月
Ⅲ
してあ ります)が 図 6に 棒 グラフで示 してあ りま
す。調査地 の下流 の保津川 にはほ とん どホタル は
い ません し,上 流 とは旅館街 の明 りや街灯 の光 に
じゃまされて,ホ タルは少 ししか行 き来 していな
い よ うなので ,こ の加入数 の値 は羽化数 と考えて
も良い と思われ ます。雌雄共 に,そ れぞれ の活動
期 の主 に前半 で羽化が起 ってい ます。それぞれの
羽化 の最盛期は ここで も約 1週 間 のずれを示 して
い ます。 メスがォスょ りもやや遅れて羽化す るの
は,昆 虫では よく見 られ る現象 です。
この毎 日の羽化数をそれぞれ合計す ると総羽化
数 がわか ります。 この年 はオスが約4,700匹,メス
は約 1,700匹とな り,オ スの方 が メス よりも2.7倍
も多 く羽化 しているこ とがわか りました。 これは
上に述べた こ ととつ じつ まが合いません。羽化数
は 3倍 近 くも違 うのに ,活 動 してい る個体数はほ
とんど同数 とい うことに なって しま うか らです。
この謎に対す る答 は,ォ ス とメスの死 に方 の違 い
にあ ります。図 6上 の生存率の部分を見て くださ
い。 オスは平均 して 1日 当 り0.74,メ スは0.84で
す。 この 1日 あた りの値ではそ う大 きな違 い では
ない と思われ るか もしれませんが ,こ れは 日数が
たてばたつほ ど大 きな差 にな ります 。つ ま リメス
はオスに くらべ て少 ししか羽化 しないのに ,長 く
生 きつづけ るので同 じ くらいの個体数がい るこ と
になるのでする
2
,メ
ス
泳
平
均
」
期
準
ぎ
1
4
ビ
[ → オ スの
平 均 生 存期 間
図 7 ゲ ンジ ボタル成 虫 の生 き残 りか たのモ デル
Survivo, poi!erns of odu:l fireflies
存 率一 定 とい う現象 は ,野 外 のホ タルが どんなふ
うに死 ぬか を知 る ヒン トに な るのです。 もし野外
で ,若 い 成虫 が 非常 に元気 が よ く,年 令 (こ こで
は 日令 )が 進 む に した が って弱 ってゆ き,最 後 に
は衰弱死す る としま し ょう。 この場 合 の集 団 の生
存 率 は ,若 い個体 の多 い 羽化 の最盛期 に は高 く,
成 虫 の活 動期 の終 りには低 くな るはず です。現実
にはそ うではな く,と くに オス では生存 率 が一 定
だ とい うこ とは (メ スでは 弱 い なが らやや上 述 の
この よ うに 同 じゲ ンジボ タル とい う種 で も,成
虫 のオ ス と メスはず い ぶ ん違 った生 き方 をす るこ
傾 向がみ られ ます ),逆
とがわか ります 。 ゲ ンジボ タルに か ぎ らず ,ホ タ
ル 類 は昆虫 の 中 で も性 別 に よる違 いが大 きい のが
会 的な死 に 方 といい ます。成 虫 の密度や 時期 に関
特徴 です。大 きさ もた いてい は メス の方 がず いが
ん と大 きい し,行 動や性比 もオ ス と メス とで 異な
ってい るものが 多 い よ うです。 中 には ア キ マ ドボ
タルの よ うに ,成 虫 の メスに翅 が な くて ,ま るで
幼虫 の姿 を して い る種 もあ ります。 したが ってホ
タル の研究 をす る場合 ,こ こであ つ か った ょ うに
オ ス と メス はPlj々に整理 しない と,は っ き りした
に 日令 に関 わ りな く死 ぬ
こ とが多 い と考 え られ ます。 こ うい う死 に方 を機
係 な く偶然 の こ とが らに よって死 ぬ こ とが多 い と
い う意味 です。
では ,実 際 に は どんな要 因 に よって死 んでゆ く
のか とい うこ とに な ります が ,残 念 なが らそれ が
まだ ょ くわか りません。 しか しクモ類 がホ タル を
か な り捕 食 してい るこ とは確か な よ うです。調査
中,ほ とん ど毎 回の よ うに各区画で クモ の網 にか
か ってい るホ タル を観 察 しま した し,ま た つ,徊性
の クモが ホ タル を くわ えて い るの も何 度か見 か け
こ とが言えな くな るこ とがあ ります。
ところで ,も う一 度 図 6の 生存率 に注 目して く
だ さい 。 オ ス と メス ではそ の高 さが違 ってい ます
が ,ど ち らも活動期 を通 じてほぼ一 定 した生 き残
け の こ とです。多分 ,昼 間 も捕食 に よって ,例 え
ば 昼行性 の クモや 肉食性 の昆虫 な どに よって殺 さ
り方 を して い ます。そ んな こ とはた い して重要 で
れ てい る こ とで し ょう。 しか し,こ の こ とは推測
はない と思 われ るか もしれ ませ ん。 しか し この生
で きるだけ で ,ま だ確か め られ てはい ませ ん。
-9-
ま した。 もっ とも これ らの観察 は夜 間 につい てだ
(193)
さて成虫 の死 に方 につい て ,も う一 つ 注 目す べ
は ,標 識個体 を捕 えた とき,そ の位置 を記録 して
き こ とがあ ります。それ は今 まで考 え られ ていた
い るので ,ど こで放 した個体 が何 日後 に どこまで
移動 して い たかがわか ります。 この記録 の うち,
よ りも,オ スは もちろん メス も非常 に早 く死 んで
ゆ くとい うこ とです。 図 7を 見 て くだ さい 。 これ
3日 後 に放 された区画以外 の区画 で捕 まった もの
は上 記 の平均 の生存率 で生 き残 る とした ら,あ る
を図 8に 示 しま した。 推雄 とも短 い 期 間 の うちに
日に それぞれ 100匹 い た オ ス と メスが ,日 ととも
もず いが ん移 動 して い る こ とがわか ります。中 に
に どの よ うに減 ってゆ くか を計算 で予想 した もの
は2300物 も離れた所 で捕 まった メス もい ます。そ
です。 オ スで は 2日 後 に , メ スで は 4日 後 に も う
半 分 しか生 き残 ってい ませ ん し,14日 後 には どち
れ ではホ タル は成 虫 の間 に 平均 して何 物 ぐらい 移
らもほ とん ど残 ってお りませ ん。
では ,野 外 のホ タル は平均 して何 日生 きる こ と
に な るので し ょう。それ は ,そ れ ぞれ の 曲線 と万
軸 ・ノ軸 にか こまれた部 分 の面 積 を 100で 言Jった
値 の 日数 です 。 この面積 を計算す るには代数 の積
分 を使 わな くては な りませ ん。 しか し,も っ と簡
単 に平 均 の生 存期 間を知 る方法 が あ ります。それ
は,毎 日一 定 の生存 率 で生 き残 る場 合 に は ,平 均
の生存 期間 は最初 の個体数 が36.8%ま で減 った 日
にな る とい う性 質 を使 えば よい のです 。 つ ま り,
動す るので し ょう。 放 した場所 のす ぐ近 くで再捕
された個体 もふ くめ て計算す る と, 3日 後 にオ ス
では16う物 ,メ スで は196物 とな ります。先 に述 べ
た よ うに ,オ ス と メスの平均生存 期 間 は約 3.3日
7日 で した。 したが って,成 虫 は死 ぬ までに
と う。
平均 して オ スで16う物 以上 ,そ して メス は400物近
く移動す る こ とがわか ります。
また図 8を よ く見 る と,ど ち らか と言 えば下流
よ りも上流 に 向 って移動す る個体 が 多 い こ とに気
づ くで し ょ う。 この傾 向 はオ ス よ リメスの方 に ,
まず 平均生存 率 を次 々 と掛け合 せて 図 7と 同 じ曲
また時期 的 には活動期 の後半 に顕著 に表 われて い
ます。 この上流方 向 へ 移動す る傾 向 は ,こ れ まで
線 を描 きます。 この 曲線 が ノ軸 の36.8%の 高 さを
切 る 日が平均 の生存 期間 とな ります。 これ を計算
調査 した 9年 間 とも表 われ てい ます が ,な ぜ上 流
に 向 って よ く飛 ぶ のか とい う理 由は まだ わか りま
す る とオ スでは 3.3日 ,メ スでは う.7日 とな りま
せん。
い ずれ にせ よ,こ の調査 で野外 のホ タルが予想
した。
ホ タル の寿命 は飼育 下 で約 2週 間 と言 われて い
外 に広 い範 囲 を飛 び回 って い る こ とがわか りま し
ます (あ る飼育記録 に よる と,平 均 してオ ス19.9
日,メ ス 15.う日一 勝 野 1968)。この長 さは,ホ タ
た。最近 はホ タル を保護す る運動 が各地 で活発 と
ル を外敵 のい な い状態 で湿度 な どに も気 を配 って
好適 な条 件下 で飼 えば ,こ れ くらい は生 きつづ け
室 内 で大量 飼育 した幼虫 を放 流 した りす る努 力 も
な され てい ます。 当然幼虫 のため に水 質 を改善 し
る とい う長 さで ,「 生 理 的寿命」 と呼 ばれ てい ま
た り,成 虫 の休み場所 として の植生 を保護す る こ
生 態 的寿命」 と呼
す。 これ に対 して上記 の値 は 「
ば れ ,自 然状態 では平均 して どれ くらい生 きつづ
とも必要 で し ょう。 この場 合 ,上 記 の よ うな移動
な ってい ます。 そ して成虫 の捕 獲 を禁止 した り,
け るか を示 します。そ して私達 の得た値 か ら,野
を考 え るな らば ,ホ タル の多 く見 られ る場所 だ け
では な く,そ の上 流 ・下流 をふ くめて 相当 に広 い
外 で はそ の生 きつづ け る能 力を まっ と うで きない
成虫 が い か に多 い かがわか ります。 メスは羽化 し
範 囲 を対 象 としなければ な らない と思 われ ます。
日本 中 で ゲ ンジボ タル の生息地 として天然記 念物
てか ら3∼ 4日 で産卵 をは じめ る と言 われ てい ま
に指定 され てい る場所 はそ う多 くあ りませんが ,
す か ら,毎 日0,84の割 合で生 き残 った とす れば ,
今 回 の結果 か らみ て ,そ のい ず れ もの指定 範 囲が
狭す ぎる と言 え るよ うです。
産卵 で きるまで生 き残 る個体 は ,図 7か らもわか
しか も,た だ広 さだけ を考 えれば よい とい うゎ
る よ うに ,約 半 数 な のです。
け ではあ りません。私達 の調査 で捕 えた時 の状況
を調 べ た と ころ ,メ スは羽化 の最盛期 には草 に止
移動 について
次 に , ホ タル の成虫 は どれ くらい の範 囲 を飛 び
回 って い るのか を見 てみ ま し ょう。私達 の調査 で
(134)
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ってい る ものが多 く,な かに は交 尾中 の個体 も見
つ か ります。 しか し後半 に な る と,し だ い に飛 び
300m
1
図 8 ゲ
Dispersdi of tt c″
zc′
″″
α
レ ジボ タ ル の 移 動 ( 3 日 間) 。 黒 丸 は 各 区 回 の 放 遂 点 を 示 す 。
回 った り木 に止 った りして い る個 体 の害」
合 が多 く
な り,同 時 に産卵 してい る個体 も見 つ か る よ うに
あ る地域 のホ タル を保護す るには ,そ れ らの棲み
場所 をす べ てふ くみ ,か つ充 分 な広 さを もつ 環境
な ります。 こ うした観 察 か ら,メ スは 羽化 してす
を守 り育 ててゆ かね ばな らない のです。
ぐに近 くの革や背 の低 い 木 の しげみ の中 な どで交
尾 し, 9∼ 4日 して卵 を産 め る よ うに な る と,産
よ うな場所 を どの よ うに使 い ,個 体群 が 安定 して
卵場所 を求 めて飛 び 回 った り,高 い 木 の上 で休息
棲息 しつづ け るた めには ,ど の よ うな性 質 の場所
した りす るので はないか と考 え られ ます。今 回は
を どれ くらい の広 さで必要 として い るのか とい う
成虫 の個体群 につい てだ け述 べ て きま したが ,ゲ
ンジボ タル の老熟幼虫 は水 中か ら陛 へ上 が る と,
こ とについ て , くわ しい こ とは ほ とん どわか って
い ない のです。
柔 か い 上 の中 に も ぐって蛹化 します 。 この ときに
岸 が コン ク リー トで 回め られて い る と,上 のあ る
所 まで移動 しな けれ ば 婦化 で きない わけ です。
この よ うに ゲ ンジボ タル は ,生 活環 の各段 階 で
の
そ 棲 み場所 を変 えてゆ きます。そ して同 じ陸上
とい う環 境だけ を考 えて も,蛹 化 と羽化 ・交 尾 ・
休息 そ して産卵 とい うぐあ い に ,各 時期 に応 じて
異な った棲 み場所 を次 々 と選 んで生 活 してい るの
です 。 も しこれ らの棲み場所 の どれ か一 つ で もま
った く無 くな った とした ら,他 の棲 み場所 が 最適
の状態 でた くさんあ った として も,そ の地域 では
ホ タルは生 きて ゆけ な くな るで し ょう。 つ ま り,
- 1 1 -
しか し現在 の と ころ残 念 なが ら,ホ タルが どの
今 回 は , 主 に私達 が どんな方法 で野外 のホ タル
の成虫 個体群 を調 べ てい るか を中心 に述 べ てみ ま
した 。皆 さん も これ らを参考 に して, そ して また
それぞれ の工 夫 を こ らしなが ら力を合 わせて調 べ
れ ば , き っ と野 外 のホ タルについ てお もしろ く有
益 な こ とがい ろい ろわか って くる と思 い ます。
参
1)勝 野I美
2)巌
考
文
献
(1968)辰 野のホ タル と人工霧 化養殖 ,昆 虫 と自然
Vo1 6,No 6
俊 ― (1971)標 識 再捕 に よる動 物個体数 の推定(1)(2)
生物科学 ,Vo1 23,No l,2
京都大学理学部 生態学研究室〕
〔
( 1 9 う)
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