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2011年5月号 Vol.208 全編
5 MAY 208 特集 トライボロジー・ソリューション ﹁機械の血液検査﹂で設備の長寿命化と省エネルギーを実現 ◉ものづくりの原点 鉄鋼生産で磨いた情報技術を進化させ、 ビジネスの先鋭化に貢献 ︵下︶ 統合システム基盤技術 ◉ト ー ク ス ク エ ア 人生の積み重ねが、人形の情をつくる。 吉田 和生 氏 吉田 玉女 氏 文楽人形遣い 挑戦しています。 夢のものづくり 技術開発本部 鉄鋼研究所 加工技術研究開発センター 主任研究員 河内 毅 (1998 年入社、素粒子宇宙物理学専攻) 専門性を深め、 お客様の真のニーズに応える ス テ ィ ー ヴ ン・ホ ー キ ン グ 博 士の を 得 た。しかしそこに とどまること な く、2006年 か ら 年 間、自 動 りがなかった。 究 に 携 わ り、まった く 鉄 とはかか わ 室では 流 体 解 析 を 用いた 星 形 成の研 奥の深い学 問であ り、自 動 車 にはこ どさま ざまな 領 域から成る、複 雑で 学、構 造 力 学、流 体 力 学、制 御 論 な ﹁自 動 車 工 学 は 材 料 力 学、機 構 力 Series ブ ラック ホ ー ル に 関 す る 研 究 な ど で ﹁大学院修了後の進路を考えている う あ る べき だ とい う ﹃正 解﹄ がありま 車 工 学 を 体 系 的 に 学 ぶ た め ド イ ツ・ ときに、新日 鉄には流 体 力 学の研 究 せん。自動車工学を習得することは、 知 られる宇 宙 論に 魅せられ、大 学で に 取 り 組 ん でい る 部 門 が あ る こ と を 個 々の 自 動 車 メ ー カ ー が 持 つ 思 想 を アーヘン工科大学に留学した。 知 り、鉄 鋼メーカーの研 究 者 として より深く理解するのに役立っています。 は素粒子宇宙物 理 学 を 学 んだ。研 究 自 分の知 識 が 活 かせるのでは と、初 これからも 専 門 性 を深 めて、お 客 様 きたいと思います﹂ のニー ズ をつか み、そ れ に 応 え てい めて興味を持ちました﹂ 入社後はプロセス技術研究を経て、 鉄の利 用 加 工 技 術 を 研 究 開 発 す る 部 署に異動。主に自動車メーカーのニー ズに応える研究開発・ソリューション 提案に携わってきた。 ﹁お客様との対話の中で、新商品や 新 技 術 開 発 につ な が るニー ズ が 見 え てきま す。多 くの開 発 要 素 を 包 含 し たハードルの高い課題が多いのですが、 そ う し た 技 術 的 な 難 問 を 解 決 す るこ とが、私 たち研 究 者の存 在 価 値 だと 思っています﹂ 加 工 技 術 研 究 開 発 セン タ ー に 配 属 されてからの数 年 間、自 動 車 用 部 材 の 利 用 加 工 技 術 に 関 す る 新 た なア プ ローチ を 提 示 し、お 客 様 か らの信 頼 留学時に使用した自動車工学のテキスト 研究開発の現場から 10 (Wolfgang Matschinsky 著、 Professional Engineering Publishing 発行) (小玉英雄著、丸善 (株)発行) 『Road Vehicle Suspensions』 学生時代に使用した素粒子宇宙物理学の 専門書『相対論的宇宙論』 2 特 集 トライボロジー・ソリューション 「機械の血液検査」 で 設備の長寿命化と省エネルギーを実現 新日鉄化学 (株) は新日鉄と連携し、製鉄所の設備機械の保守運用に 欠かせない潤滑管理技術に関する知見を蓄積。この技術ノウハウを 活かして高性能潤滑材を開発するとともに、 「機械の血液」 と言われ る潤滑材を分析し、設備機械の損傷状態を診断する潤滑管理診断に よるトライボロジー・ソリューションを提供している。新日鉄化学 のトライボロジー・ソリューションは、設備機械の寿命低下や稼働 停止などの経済損失を未然に防ぎ、省エネルギーに貢献する技術 としてさまざまな産業分野で活用されている。 3 NIPPON STEEL MONTHLY 2011. 5 まざまな機械の円滑な運転を助けている。健 械に多種多様な潤滑材が使われている。 圧 装 置900基にのぼり、この膨 大 な 数の機 早期発見にも定期検査が必要。潤滑管理診断 と同じように、機械のトラブル予防や故障の 始 ま り、潤 滑 に 終 わ る﹂ とまで言われるよう て き た。﹁設 備 機 械 の メ ン テ ナ ン ス は 潤 滑 に 性状管理や油漏れ防止など潤滑管理を行っ り 組みを行っていました。当 社では、鉄の力 ﹁油漏れの管理ができてからも、依然として 返る。 潤滑油使用量の大幅な削減に成功した。当時、 と化学の力を融合することによって、設備の 設備機械の故障が絶えません。潤滑異常を早 の強みについて、安浦重人は次のように語る。 こともわかる数少ない潤滑材メーカーとして、 期に発見し根本的な対策を取るためには、機 名古屋製鉄所で潤滑管理に奔走した倉橋基文 トライボロジー︵※1︶ 技術を駆使した潤 滑 管理 械の潤 滑 状 態 を 直 接 的 に診 断できる質 的 管 理 ﹁新日鉄では設備機械保全の一環として、す 診断と高機能潤滑材を提供し、設備の故障防 は大幅に減少しているにもかかわらず、 〝内科 滑材を解析したところ、 〝外科的〟 な トラ ブル 開発したフェログラフィーの技術を応用し潤 年に米国海軍とマサチューセッツ工科大学が の 技 術 が 必 要 不 可 欠でした。そこで1980 ︵現・新 日 鉄 化 学 技 術 顧 問 ︶ は次のように振り 15 的〟 には極めて多くの潤滑異常が潜在している 二 色 顕 微 鏡 を 用い て して使ったのが始まり。報告書では摩擦損失に フェログラムスライド よるエネルギー損失、修理費や部品交換の損失、 設備機械ごとに定着す な潤滑管理が行われないことによって膨大な経済 る摩耗粒子の形や量は 的損失が発生していることが示された。 皮膜や水、高温・高荷重など、製鉄特 有の環 下にある。一つの製鉄所で使われている代表 境のもと昼夜連続運転される過酷な使用条件 潤滑油やグリースなどの潤滑材は、人間の 的 な 機 械 装 置 は、歯 車 減 速 機9000台、転 鉄の力と化学の力が融合 血液に相当し、機械内部を循環しながら、機 がり軸受 万 個、す べり 軸 受2000台、油 械の摺動部やかみ合い部を油膜で保護し、さ 康診断によって医師が患者の健康状態をチェッ 年前から各製鉄所で潤滑油の は ﹁機械の血液﹂ と言われる潤 滑 材 を採 取し分 に、油漏れは油量不足による設備トラブルの 新日鉄は約 析することによって、現 在 機械で起こってい 原 因 と な る。 クし病気の予防や早期発見が可能になったの る摩耗現象やその原因を突き止めてその後の 1500ℓの損失となり、新油購入費や廃油 滴の油漏れは年間 保全計画に反映することができる設備管理手 処理費用などコストアップにつながる。その 秒間に 法の一つだ。 開し、名古屋製鉄所では1971年から 年 診断の技術サービスを提供し始めるとともに、 間で 分の に激減させる成果をあげるなど、 ため各製鉄所で徹底した油漏れ防止活動を展 高性能潤滑材の開発に取り組んできた。同社 新 日 鉄 化 学では、1987年から潤 滑 管 理 1 止と長寿命化に挑戦しています﹂ ﹁内科的﹂ に潤滑異常を あぶりだす 製鉄機械は高温の鋼材表面に付着する酸化 を観察している様子。 40 1 設備寿命の低下による設備投資増大など、適正 上に定着した摩耗粒子 10 1 でに1969年から各製鉄所で潤滑管理の取 6 重人 化学品事業部長 安浦 基文 潤滑材料部 技術顧問 倉橋 新日鉄化学(株)執行役員 製鉄化学事業本部 新日鉄化学 (株) 製鉄化学事業本部 化学品事業部 写真 1 フェログラフィー分析 ※1 トライボロジー (tribology) ギリシャ語のtribos (摩擦を意味する言葉) を用い た造語。イギリス機械学会のピーター・ジョスト 書の中で、潤滑の重要性をアピールする標語と 博士が 1966 年、イギリス政府に提出した報告 異なる。 4 2011. 5 NIPPON STEEL MONTHLY 特 集 トライボロジー・ソリューション 高性能な潤滑材への切り替えで 大幅なコストダウン達成 クすることで、フィードバック・コントロー さらにその結果を次回の定期診断時にチェッ 発行して必要な対策を製造現場に示す ︵図 ︶ 。 無や異常部位とその原因を特定し、診断書を 減し、年間約2・5億円のコストダウンを実現した。 工事費で約 %、グリース購入量で約 %を削 た名古屋製鉄所では、軸受の購入費と取り替え に世界初のオールウレアグリース︵※ ︶ に切り替え ブ マルチスーパーグリース﹂ を開発。1984年 振動が発生したりしますが、それらを検知す ﹁軸と軸受が接触すると温度が上がったり、 ついて次のように語る。 に携わっている藤井 彰は、潤 滑 管理の意 義に 社を決め、現在名古屋製鉄所で設備機械保全 管理は当初、経過時間を基準に潤滑材を交換 合理性を追求することが大切です ︵図 ︶ 。新日 を見極め、劣化傾向管理により保全の計画性や 破損 なじみ なじみ ・その後の点検で、ギヤ歯元のクラックと軸受の損傷が 確認された。 ことがわかりました。これによって、製 鉄 所 では 〝守りの潤滑管理〟 から一歩進めて 〝攻めの 潤 滑 材は摩 擦、摩 耗 防 止のカギを 握 り、機 効果と、ギヤの長寿命化と故障防止を実現した。 ルも行 うことができる。フェログラフィー分 製 鉄 所 に お け る ト ラ イ ボロ ジ ー 実 践 の 軌 跡 る診断法に比べて、フェログラフィー分析は ﹁設備機械の寿命は有限です。したがって、補 を紹介した倉橋の論文に感動し新日鉄への入 感度が高く、機械が定常状態から故障に至る 修工事の適切なタイミングや補修が必要な部位 していました。それがフェログラフィー分 析 鉄化学と連携するアドバンテージを活かし、製造 変 遷 を 把 握 す ることがで き ま す ︵図 の導入によって、設備機械の損傷状態を定量 現場を支える基盤技術の一つとして、今後とも設 振動法 摩耗︵劣化度︶ ※ 2 ウレアグリース:分子内に「ウレア結合」を持つ増ちょう剤を用いたグリース。耐熱、耐水、耐摩耗性に優れるが、リチウム系グリースと比べ製造が難しい。 潤滑管理〟 としてのトライボロジー活動が展開 されるようになりました﹂ 械の長 寿 命 化、省エネルギー、故 障 防 止な ど の波及効果が極めて大きい。鉄鋼業では多く % が歯 車 装 置 を 介して動 力 伝 達 されている。摩 擦、摩 耗に 鉄 所 に お け る 全 使 用 電 力の 約 の設備機械が電動機を動力源としており、製 新日鉄化学では新日鉄の潤滑管理技術ノウ よる膨大な数の歯車の表面損傷は、電力損失 機械の非破壊検査を可能にした フェログラフィー分析 ハウを継承し発展させてきた。同社の潤滑管 新日鉄は1984年に ﹁シンルーブ NSギヤ と設備寿命の低下をもたらす大きな課題だ。 グラフィー分析装置で、装置内から採取した 油﹂ を開発し、大電力を消費する熱間仕上圧延 理診断では、キーテクノロジーとなるフェロ わずか約1 の油に含まれている摩耗粒子を 機で %、熱間粗圧延機で %の省エネルギー 微鏡で摩耗粒子の形態や大きさ、濃度などを 析による診断技術の特徴について、長野克己 観察 ︵写真 さらに軸受の大幅な長寿命化に貢献する ﹁シンルー 磁力によってスライド上に配列させ、二色顕 ® ︶ 。潤滑 は次のように解説する。 2 備の体質改善を進める保全を展開していきます﹂ 潤滑油の漏洩によって損傷が起こったと判断した。 70 ︶ することにより、潤 滑 異常の有 4 歯面にはく離の進行が確認される ・シールの損傷が著しく、油量も低下していたことから、 異常摩耗 正常摩耗 自己修復機能 ® 化でき、結果として機械の非破壊検査を可能 にしました﹂ NIPPON STEEL MONTHLY 2011. 5 5 時間 0 厚みのある摩耗粒子が確認され歯面 が摩耗していると推察 摩耗防止 (原因の除去) 30 3 温度法 フェログラフィー法 (早期発見) 25 図 1 天井用クレーン巻上減速機のフェログラフィー分析事例 図 2 各種診断法による機械の摩耗劣化検出 3 cc 1 1 2 新日鉄化学(株)製鉄化学事業本部 化学品事業部 新日鉄 名古屋製鉄所 設備部 克己 潤滑材料部 参事 長野 彰 機械技術グループリーダー 藤井 特 集 トライボロジー・ソリューション アリングの寿命を飛躍的に延ばした技術は、他 訓練コースでは日本トライボロジー学会の専 機械学会が、2009年度から導入したもの。 日本トライボロジー学会と一般社団法人日本 を供給。最近では、新日鉄エンジニアリング ︵株︶ しても高性能潤滑材の基油 ︵ポリα オレフィン︶ を誇っている。さらに日本の石油元売各社に対 オーダーメイド感覚で最適な潤滑材が提供で ンドをつかみ、起こり得る問題をチェックし、 に精密診断し、膨大なデータベースからトレ ﹁当社の強みは機械の損傷状態に応じて個別 補修工事 検出限界 劣化度 6 2011. 5 NIPPON STEEL MONTHLY 製鉄所の設備機械の故障防止活動や突発対応 産業でも活躍している。例えば四輪駆動車のロ 用テキストを用いて資格取得に向けた講義を の風 力 発 電 事 業 会 社 ﹁ ︵株︶ エヌエスウインドパ きる点にあります。今後さらに診断精度を上 ﹁機械が健全なときは診断の必要性を感じな 時間 補修のリードタイム の役割を担っており、今年 月 日に発生した 東日本大震災でも、停止した設備がスムースに また新日鉄化学は ﹁機 械 状 態 監 視 診 断 技 術 稼働するよう、万全の対応で協力している。 新日鉄化学では、原油を精製した鉱油では 者 ︵トライボロジー︶ ﹂ の資格認定を行う教育訓 産業機械から電子機器まで 広がる高性能潤滑材の用途 なし得なかった性能を実現した、合成潤滑油 ﹁シ 練 機 関 としての認 定 を 受け、2010年 度か ングライフ・スムースな走行を実現するために、 行い、潤滑管理者の診断技術に関する知識や ワーひびき﹂︵北九州市︶ の風車のメインベアリ げていくとともに、新しい診断法の開発に挑 装置があるため、メンテナンスフリーを目指し いものですが、いざというとき当社の潤滑管 新日鉄化学は総合的なトライボロジー・ソ 使用限界 劣化検出 ンルーブ SBシリーズ﹂ をはじめとす る 高 性 製鉄環境で培われたウレア増ちょう剤が広く採 技能の向上を図っている。今後の抱負について、 ら訓練コースを実 施している。同 資 格は ︵社︶ 用されている。また電子 機器では、3・5イン 武藤敬司と髙原武彦は次のように語る。 ︶ 。名 古 屋製 鉄 所でベ チハードディスクドライブ用軸受モーターに使 能 潤 滑 材 を開 発 ︵写真 われる潤滑油で、新日鉄化学は世界シェア % ングと増速機に潤滑材が採用された。風車は、 戦していきます﹂︵武藤︶ 。 た設備管理が求められており、新日鉄化学は、 を高めることができます。また高性能潤滑材 理診断はいち早くリスクを発見し設備信頼性 供と、潤滑管理診断を実施している。 は単なる補助材料ではなく機能材料として原 単位低減と省エネルギーをもたらします。こ うしたメリットを今後ともPRし、拡販につ 新日鉄化学は潤滑技術拠点として ﹁トライボ リューションの提供を通じて、お客様の製造 なげていきたいと考えています﹂︵髙原︶ 。 センター﹂を新日鉄八幡・名古屋の両製鉄所に 現場に密着した潤滑材事業を展開し、広く産 製造現場に密着した 潤滑材事業を展開 設置し、大分製 鉄所へも技術サポートの要員 業界の発展に貢献していく。 故障 劣化 11 を派遣している。トライボセンターは新日鉄各 正常劣化 (自然劣化) 日常保全 異常劣化 (強制劣化) 3 郊外の立地に加え、上空 メートル以上に発電 45 設備の長寿命化に寄与する適切な潤滑材の提 60 図 3 設備の劣化傾向管理 写真 2 新日鉄化学の高性能潤滑材 「シンルーブ ® シリーズ」 2 ® 敬司 潤滑材料部 トライボセンター長 武藤 武彦 潤滑材料部長 髙原 新日鉄化学(株)製鉄化学事業本部 化学品事業部 新日鉄化学(株) 製鉄化学事業本部 化学品事業部 健全 診断評価 必要性能 ー ャラリ ギ 鉄 新日 所 製鉄 室蘭 北海道唯一の銑鋼一貫製鉄所として、100年以上にわたり、 高品質な製品を供給してきた室蘭製鉄所。1940 年に建設 された「知利別会館」 (当時「知利別倶楽部」 )は社員の 社交の場や会議、来賓宿泊施設としてにぎわい、現在は 迎賓館として利用されている。 室蘭・知利別西区の傾斜地の林に囲まれた一角に建つ。 外観は欧風のモダンな木造建築で、内部は和洋折衷。 新日鉄の 鉛を使わない低炭快削鋼 を世界に先駆けて実用化 自 動 車 や OA機 器 な ど の、切 削 加 工 に よ りつ く ら れ る 精 密 部 品 に 使われる﹁快削鋼﹂ 。その名の通り、 削られやすさ ︵切 削 性︶ が求められ ま す。従 来 は、切 削 性 を 高 め る 成 分として鉛を添加していましたが、 環 境 負 荷 低 減 の た め、新 日 鉄で は いち早く﹁鉛フリー化﹂を進めました。 そ して 鉛 の 代 わ り に、極 めて 微 細な硫化物を鋼中に均一に分散さ せることで、滑 らかな 切 削 面 性 状 命 化 に貢 献 する 鋼 材 を開 発 し、世 を 実 現 し、同 時 に 切 削 工 具 の 長 寿 界 に 先 駆 けて 実 用 化 し ま し た。こ の 開 発 で﹁第3回 も の づ く り 日 本 大賞 優秀賞﹂を受賞しています。 NIPPON STEEL MONTHLY 2011. 5 7 プリンターシャフト ものづくりの原点 科学の世界 VOL.56 鉄鋼生産で磨いた 情報技術を進化させ、 ビジネスの先鋭化に貢献 なるという問題が顕在化した。そ の難易度が高い。 ン構造の統制が必要であり、統合 展開する新日鉄は有効ステップ数 e SYS︵※ ︶ ﹂ ステ ム 基 盤 ﹁NS │ 経営効率の向上を志向した統合シ 多 い 営 業・一般 管 理 系 に 対 し て、 ト部隊は、利用者数とデータ数の 盤上に移行・再構築した。 など約200のシステムを統合基 務、購買、設備管理、原料、人事 務・会計システムなど個別のサー 統 制 が 必 須 だ。従 来 は 営 業・財 ユーザーアクセスまでの諸機能の ③ の ネットワ ー ク 基 盤 か ら ⑧ の ションを 統 制 す るIT 基 盤には、 加とともに全体として保守運用負 しかし、機器などの種類・数の増 ステムのメリットを享受してきた。 ソフトウェアを導入し、分散系シ て、個々の業務別にサーバ機器や より、﹁機能統合﹂を実現している な認証などの共有化を行うことに その統合基盤の上で、共通化可能 日鉄ではまず﹁物理統合﹂を行い、 理 統 合﹂ ﹁機 能 統 合﹂が あ る。新 基盤の統合には﹁拠点統合﹂﹁物 サーバで動かす統合システム基盤 200にも及ぶシステムを同一の つ目的に合う形にチューニングし、 バ、運用管理ツールなどを一つず タベースやアプリケーションサー タ言語や機器の選定をはじめ、デー ﹁物理統合﹂ では、ただ単に統合 8 2011. 5 NIPPON STEEL MONTHLY 新 日 鉄 ソ リュー ション ズ ︵株︶︵以 下、N S S O L︶ は、 鉄 鋼 業 をはじめとする ﹁ものづくり﹂ を支えるIT利用 技術の蓄積・知見をベースに、企画・構築・運用まで、 新たな価値を創造する多彩で柔軟なシステムソリューショ ンを提供している。今号では、サービスを含むアプリケー ションとその基盤、そしてシステムの運用・保守にわ たる全領域を緊密に一体化して、企業の経営効率の向 上とスピードアップ、ITコストの削減、環境対策に れた計算機センターに全社システ こで新日鉄は、2002年からシ 貢献する ﹁統合システム基盤技術﹂ の開発事例を紹介する。 ムとして集約されている。その中 図 のとおり、多様なアプリケー が3・8億 ス テ ッ プ に 及 ぶ 大 規 模 の構築を支援し、保守・運用を行っ バごとに一式揃えていたが、本プ な情報システムを保有する。その 共通して必要な機能を統合し ロジェクトでは ⑥から ⑧ までを 荷の増大とそれに伴うコストアッ ︵図2︶ 。この領域はシステム構造 同一のサーバに統合。コンピュー プ、およびシステム間でのハード・ の標準化や個々のアプリケーショ を実現している。 ソフトウェアの相互接続が複雑に システムのオープン化の流れに乗っ さまざまなメリットを生み出す ている ︵図1︶ 。 割が営業系および会計・人事関連 など一般管理系のシステムだ。 時間365日稼働する製鉄所の生 産管理・操業系システムは、日々 の変化に迅速に対応する観点から 製鉄所ごとに計算機センター ︵サー バ︶ が あ り、一 方、営 業・一 般 管 理系の業務システムは、災害対策 として君津・八幡2カ所に設置さ 新日鉄では、1990年代以降、 約7割は製造現場を支える生産管 3 1 理・操業系システムで、残りの 全国 カ所に製鉄所・製造所を 分散系システムの基盤統合に ※本企画では 2010 年4月号から、長年、製 鉄事業で培ってきた経験と技術を基盤に成 長・発展を遂げるグループ各社の保有技術 にスポットを当てて、その原点と最先端の 技術開発を紹介しています。 ステム統合に取り組み、営業、財 統合システム 基盤技術 でNSSOLの新日鉄本社サポー (下) いち早く取り組んだ新日鉄 3 24 10 Technology DATA 1 新日鉄のIT基盤と「NS-eSYS」導入部分 業務システム 3つのIT統合基盤 業務システムの評価 難 ライン稼働システム (指示 / 実績) 弱い 統合システム基盤 (NS−eSYS)の範囲 リアルタイム性 物流管制 生産管制 多い データ量 月次生産計画 品質計画 弱い 障害時の被害・影響 一般管理系 技術情報系 多い 利用者数 計算機停止のコントロール 営業系 物流系 生産管理系サーバの範囲 (製鉄所統合サーバ) 操業オンライン系サーバの範囲 (各工場単位サーバ) プロセス コンピュータ ライン 易 少ない 強い 少ない 強い 2 基盤統合の種類と新日鉄/NSSOLの取り組み 3 統合システム基盤の内容 統合レベルには、 「拠点統合」 「物理統合」 「機能統合」がある。 新日鉄では「物理統合」を行い、その統合基盤の上で、ミドルウェアを含めた 「機能統合」を実現している。 統合 / 統合 の対象 APサーバ 伝送 OS DB AP:Y CCC 大 大/難 DB AP:X AP:Y AAA ◆種別・バージョンの異なるミドルウェアを 1 つに標準化し、機能を統合 Win AP:X Win AP:X AIX AP:Y Win AP:Y HP-UX AP:Z Win AP:Z ⑧ユーザーアクセス (ID・認証・認可) ⑦共通データベース ⑥システム間連携 ⑤統合サーバ/ 統合ストレージ ④運用管理 ◆種別・バージョンの異なる OS を 1 種類に標準化 サーバ CPU 物理統合 メモリ ③全社ネットワーク X Z X Y 4 Z Y ◆複数サーバを物理的に1つの筐体に統合する ◆1台の高性能サーバを、仮想化技術により任意 の能力に分割して提供 目指した統合システム基盤の形 統合の一例(DB 統合) 統合後 各アプリケーション システム AP① AP② AP③ AP④ ストレージ Y Z ディスク コンポーネント ◆仮想化技術により、複数のディスクを 1 つに まとめ、任意の容量に再分割して提供 ユーザーアクセス機構 ミドルウェア 拠点統合 センター A データセンター OS OS OS OS 業務 業務 業務 業務 AP① AP② AP③ AP④ 運 用 セキュリティ X サーバ センター ストレージ X ネットワーク センター B X Y ファシリティ Y 小 小/易 統合システム基盤が管理する範囲 統合システム基盤 ※ 1 NS-eSYS:エヌエス イーシス。新日鉄の社内統合システム基盤の名称。 9 ⑨ビジネスインフラ 認証 負荷 / 難易度 広域防災対策 機能統合 DB DB AP:X AAA 効果 ②エンタープライズアーキテクチャ ミドルウェア (システム機能) 適用イメージ 実 装 ①業務・システム規程/ガイドライン・ルール 統合 レベル ポリシー・ガイドライン NIPPON STEEL MONTHLY 2011. 5 統合 AP ごとインスタンス を提供 AP① AP② AP③ AP④ OS されたサーバの中に機能別にそれ ソースを 活 用 す る ﹁ク ラ ウ ド・コ 照︶ 。100システムすべてをつく 集約する ﹁物理統合﹂ を提案 ︵図2参 合﹂ まで 幅 広 く ﹁プライベート・ク 統合﹂ 、 ﹁物理統合﹂ そ して ﹁機能統 イセンス費用や保守費用を最適化 統合してデータベースソフトのラ できると同時に、データベースを システム運用の負荷の軽減が期待 共用化し﹁機能統合﹂を行うことで、 なる認証、およびデータベースを そこで各システムで共通に必要と ソースを共有するプライベート・ グループ企業内のシステム間でリ を提供してきた。ここでは企業や ら、先行的にさまざまなサービス 集約・統合ノウハウを活用しなが 合システム基盤技術などで培った 研 究 開 発 に 着 手 し、新 日 鉄 の 統 OLでは2003年から同技術の では7割程度の削減効果を生み出 T C O は2∼3割、C O 排 出 量 サ ー バ を200台 以 下 に 削 減 し、 そ の 結 果、500∼600台 の ステム基盤に随時載せていった。 ネット系のシステムなどを統合シ 変えずに、財務システムやインター を使い、アプリケーションは何も と も に 歩 み、そ の 過 程 で、 ﹁ユ ー 画・管理のオンラインシステムを 新日鉄は日本で初めて生産 計 ラウド﹂ を構築しており、その実績 ﹂ が注目さ ンピューティング︵※ ︶ れるようになった ︵図 ︶ 。NSS することが可能だ ︵図 ︶ 。 クラウド ﹁エヌエスグランディール すとともに、ビジネスの変化に迅 ザ ー が や り たいこと を 実 現 す る﹂ から、ある大手製造業が保有する ITの最先端で強みを発揮する 。 ビス﹂ に選出されている︵※ ︶ サービス部門において ﹁ベストサー グ﹂ プライベートクラウド構築支援 実施した ﹁第2回クラウドランキン は日経コンピュータとITpro が 一方、利用者は従来どおりの使 速に対応する環境の提供を実現した。 │ SYSの NSSOLでは、NS e 1500台のサーバの集 約・統 合 運用の安定化を前提とした総所有 NSSOLでは製造業向けだけ 鉄鋼業のDNA 成や停止したときの影響度を考慮 コスト ︵TCO︶ 削 減 と電 気 使 用 量 ではなく、情報ポータル企業の情 ︶ 用環境のまま個別のアプリケーショ ︶®︵※ ︶ ﹂の 事 例 を ︵ NSGRANDIR 紹介する。 運用に当たり、各専門領域の技術 に 取 り 組 んだ ︵図 して、障害時のリカバリーを短時間 低 減によるCO 排 出 量 削 減、そ 報発信のスピードアップを図る統 ︶ 。その目的は 者が結集し、それぞれのシステム構 で実施する体制を整えている ︵図 ︶ 。 してビジネス規格への柔軟で迅速 合基盤 ︵図 ︶ や、東京大学素粒子 年のコンピュータ技術の進化と 君 津 製 鉄 所 に 導 入 し て 以 降、約 5 システム開発を行ってきた。その DN A を 継 承 す るNSSOL は、 1987年 に 開 設 し た ﹁シ ス テ ム 研 究 開 発 センター﹂ を中核とする 研 究 開 発・技 術 力 を 備 え、ソ フ ト・ハードウェア会社系のシステ ムソ リュー ション 会 社 と 異 な り、 お客様のビジネスパートナーとし 仮想化技術を使った り ︵対 象 サ ー バ500∼600台、 あるOSの領域にターゲットを絞 ト効果を出すため、すでに実績の 環境提供︶ の3つだ。短期間でコス 険料率の改定時などのリスク計算 か、生命保険・金融機関向けに保 行うIT基盤を受注・構築したほ る膨大な量の科学計算を短期間で 物理国際研究センターで行ってい コンピューティングの新たな活用 ビスの先鋭化に寄与するクラウド・ て、中立的観点からさまざまなベ 大規模なプライベート・クラウド 100システム︶ 、更新時期を踏ま を行 う 統 合基盤を提 供するなど、 領域に挑戦していく。 様の視点に立ち、企業経営やサー 評価されている。今後も常にお客 わせ最適解を導き出す熱意が高く ンダーの製品技術を的確に組み合 一方、I T 基 盤 は ﹁所 有 か ら 利 えて段階的につくり変え、最終的 さまざまな業種・業態向けの ﹁拠点 を実現 用 へ﹂ と い う 近 年 の 潮 流 の 中 で、 に廉価なウィンドウズ系サーバに 2 ネットワーク を 通 じて 外 部のリ 8 5 40 2 な対応 ︵申 請 後 約2週 間 での 使 用 7 ため、クラウドの仮想化技術︵※ ンを使用できる。また新たなシス N S S O L では2008年4月 り変えるのは工期とコストがかかる ぞ れのシステムが 共 存 してお り、 4 テムも容易に付加することが可能だ。 個別システムの運用負荷がかかる。 2 6 3 4 科学の世界 ものづくりの原点 10 2011. 5 NIPPON STEEL MONTHLY 監 修 新日鉄ソリューションズ(株) Technology DATA 鉄鋼ソリューション事業部 基盤技術部 部長 IT インフラソリューション事業本部 IT エンジニアリング事業部 事業部長 丸岡 琢磨(まるおか・たくま) IT インフラソリューション事業本部 IT エンジニアリング事業部 エンジニアリング第一部 第一グループ シニア・マネジャー 北沢 聖(きたざわ・さとし) (1989 年入社、経済学専攻) 水島 純一(みずしま・じゅんいち) (1990 年入社、計数工学専攻) (2006 年入社、経営学部情報管理専攻) 6 クラウド・コンピューティングとは 5 効果の最大化とリスク回避策 <効果の最大化> <効果 <統合システム基盤> <リスク回避策> リスク想定 業務統合基盤 の構築 (マスター DB、コード統一) AP構造 (DB 構造) の統一 AP案件の変化 に対応できない 可能性 開発費の削減 開発容易さ 品質の向上 共通構造の検討、 統合すべきものの 見極め 広帯域・ ユビキタス性を 有するネットワーク 多様で可搬な端末 膨大な量の サービス・ データ・情報 オープン化に 対応した頑強な構造 論理的構造の 統合 システムリスク コントロールの 容易性 統合共有化による コスト削減 ハードウェアの 統合 統合化による システム停止時 の被害の拡大 (セキュリティ対策、耐障害性) ネットワーク システム管理の 高度化・効率化 レベルアップ時 の作業の煩雑さ (インターネットなど) 膨大な量の IT 基盤 サーバ・ストレージ こちら側 技術者育成 あちら側 7 エヌエスグランディール(NSGRANDIR®)を用いた次世代統合インフラ基盤整備例 Windows A Operating System B Operating System C Operating System D Operating System 集約 集約 次世代統合インフラ基盤 (全プラットフォームを統合) A Operating System B Operating System C Operating System E F Operating System D Operating System G Operating System Operating System Solaris Solaris A Operating System B Operating System 集約 C Operating System D Operating System 集約 ● 統合効果 ● 時間 現 在 H Operating System TCO 削減 CO2 削減 サーバ統合集約効果 ︵コスト・環境貢献︶ Windows 次世代 8 他業種での採用事例(情報ポータル企業の統合基盤) 次世代 IT インフラの構築基本方針 今後もビジネスを取り巻く環境の変動が予想され、求められるインフラの変化も予測が困難。必要に迫られた個別最適ではなく、 今後、全体最適を推進することが必要 コスト削減 機動性向上 アーキテクチャ方針 1. HW の構成 / 配置は統一し、余剰リソースの利用効率を高める 2. ネットワーク / ストレージは統合・仮想化し、論理的に個別利用 3. エンジニア作業 / 構成管理を自動化し、機動性と省力化を実現 4. コストパフォーマンスの高いサーバをスケールアウトにて拡張 5. インフラ構成をシンプルにし、順次拡張するスモールスタート構成 ※ 2 クラウド・コンピューティング:インターネットを 「雲 (クラウド)」の形でシステム図に表現したことに由来。従来個々のパソコンや社内サーバで行っていた 情報処理を、利用者に見えないインターネットの外部にある巨大サーバ群に任せるサービス形態。 ※ 3 NSGRANDIR®:IT インフラの各種計算機資源を共通基盤として統合し、負荷変動などに合わせて自動的に最適配分するためのフレームワーク。GRANDIR とは仏語で 成長する 。 ※ 4 仮想化技術:CPU やメモリなどのコンピュータ・リソースと、それを利用する OS やアプリケーションとの物理的な結びつきを解いて、自在に利用できる ようにする技術。仮想化により、1 台のサーバを複数のサーバとして運用したり、逆に複数のサーバの能力を 1 つに集約して、より大きな力として活用する ことが可能になる。 ※ 5 「第2回 クラウドランキング」 (『日経コンピュータ』2011 年 3 月 3 日号掲載) 11 NIPPON STEEL MONTHLY 2011. 5 ゲスト ◉ 文 楽 人 形 遣い 吉田和生 人生の積み重ねが、 人形の情をつくる。 吉田玉女 氏 氏 吉田玉女(よしだ・たまめ) プロフィール 吉田和生(よしだ・かずお) 1953 年、大阪府生まれ。14 歳で後の人間国宝・吉田玉男に入門。「文七」 などの立役(男人形)を得意とし、次代の文楽界を牽引するリーダーの一人。 1947 年、愛媛県生まれ。人形細工師・大江巳之助氏の勧めで人形遣いの道へ。 1967 年文楽協会人形部研究生となり、吉田文雀 (現・人間国宝) に入門。現在 国立劇場奨励賞、文楽協会賞、因協会賞、国立劇場文楽賞文楽奨励賞、大阪 は女方や二枚目を持ち役に文楽人形遣いの第一人者の一人。因協会奨励賞、 府民劇場賞 (奨励賞) 、国立劇場文楽賞文楽優秀賞ほか、受賞多数。 大阪文化祭賞、国立劇場文楽賞文楽優秀賞ほか、受賞多数。 │ │ 文 楽 の 道 に 進 ま れ た き っか け を 教 え て ください。 和生 まさか自分が文楽をやるとは思っていま せんでしたね。私はもともと職人の世界に憧れ ていたんですけど、高校を卒業して訪ねた人形 細工師さんから﹁作るよりも人形遣いになって みたら﹂と勧められて。それがきっかけです。 玉女 私は大阪の出身ですが、近所に人形遣 いの方が住んでいて、中学生のときに公演の お手伝いをするようになったんです。それが ご縁ですね。 │ │ 修 行 時 代 は 相 当 な ご 苦 労 が あった と 思 います。 和生 うーん、よく聞かれますけど、苦労とい う苦労はないんですよ。それは当たり前やと思っ くれません。うちの師匠が言うのは、 ﹁わしは ていましたから。ただ、手取り足取りは教えて こうやっている﹂ 。体つきも個性も人それぞれ やから、単純に真似るのではなく、自分で考え ながらやってみなさいということでしたね。 玉女 私の場合はとにかく﹁舞台を見なさい﹂ と 言われましたね。芸は盗むもんやと。あと、ほか の弟子が注意を受けたときは、自分のことだと 思って聞けと言われて、それは守ってきました。 ││ 壁にぶつかることはなかったのでしょうか。 玉女 もちろん、若いころは何度もありまし た。ただ、師匠が私をしっかり見ていてくれて、 めてくれるんですね。それが励みになり、支 いいときは ﹁今日は良かったで﹂ ときちっと褒 えになって、続けてこられたと思います。 和生 下積みには下積みの、今は今なりの悩 みがあります。おかげさまで今は大きな役を いただいていますけど、役に自分が負けてな 今もしょっちゅうです ︵笑︶ 。 いかどうか、いつも悩みますよ。だから壁は 12 2011. 5 NIPPON STEEL MONTHLY 文楽とは物語を語る﹁太夫﹂ 、それを演奏で支える 気を配り合わないといい舞台は作れない にどのように伝えていきますか。 │ │ 師 匠 か ら 受 け 継いだ もの を、若い世 代 映像では伝わらないものがある また世界が広がりますから。 いだとか、三味線の音色がいいとか、それぞれ しんでもらえればと思いますね。人形がきれ 多くのお客様に喜んでいただいています。まあ、 │ │ ど う す れ ば 人 形 を 遣 って あ の よ う な 感 玉女 弟子には私が言われたことを言ってい ますね。とにかく舞台を見なさい、芸を盗み 大切さを伝えなくてはと思います。 もまだまだ。奥は深いです。芸を磨き続ける │ │ 最 後 に、今 後 の 抱 負 について お 聞 かせ る場所ですから、またぜひ何かやりたいですね。 かけです。紀尾井ホールは面白い企画ができ た ﹃浪花女﹄ なんかは敷居をまたぐ、いいきっ そういう意味では、今回やらせていただい 好きな何かを見つけてもらえれば、そこから お芝居なんで、あまり構えず好きなように楽 情豊かな芝居ができるのでしょうか。 なさいと。私は 年やっていますが、それで その人形遣いの個性、人生の積み重ね、いろ 和生 長くやっていればね、技術は身につく んです。でも、感情の部分はそうはいきません。 線で活躍できるのはせいぜい 年、わずかな 和生 文楽は300年以上の歴史があり、こ れからも続くと思いますが、その中で私が一 んなものがあって初めて表現できるものです。 役。人形遣いは、腰から下は人形と同じ動き 玉女 感情を込めすぎると、人形の動きが硬 くなるし、見ているお客さんも疲れるんです。 距離感が難しい。 気持ちを込めながらも一歩引くという、その そうしないと人形遣いが主役になってしまう。 と大事な感情や感覚は生で見て、師匠や先輩 いかな。動きは確かに覚えられます。でも、もっ なら、芝居をビデオで覚えようとし過ぎやな ただ、ちょっと今の若い人に苦言を呈する 台を作って、それを後輩たちにつなげたい。 下げられないという思いがあります。いい舞 期間です。でも、だからこそここでレベルを かり引き継いで、後世にきちっと伝えること。 和生 私 の 師 匠 や 玉 女 さ ん の 師 匠 た ち が 築 いてきた昭和・平成の文楽を、私たちがしっ 自問自答しながら精進していこうと思います。 自分の役がどう伝わっているか、それをいつも 玉女 まずは自分に与えられた役をしっかり こなしていくことですね。見ているお客様に ください。 ただ、感情というのは込めすぎてもだめな んです。なぜなら舞台ではあくまで人形が主 方をしますが、腰から上は動きを抑えます。 だから例えば人形の視線と自分の視線をあえ から直接聞かないと身につきません。 ていますが、 ﹁主遣い﹂ が次にどう人形を動か たわけですから、お稽古は真剣で厳しいもの 玉女 たしかに私たちの師匠たちの修行時代 には、ビデオはおろかカセットテープもなかっ やはりそれが一番の思いです。 と言っ ないとできません。文楽の場 合、 ︿頭﹀ すかを、頭や肩の微妙な動きで ﹁左遣い﹂ と ﹁足 でした。それが逆に良かったんでしょうね。 ││ 文楽の楽しみ方についてアドバイスをい 紀尾井小ホール 主演・佐久間良子︵ 3月 日∼ 日︶ 浪花女﹁壺坂霊験記﹂誕生物語 身振り手振りを交えてする話 遣い﹂ に伝えます。共演している相手の人形遣 あと、私らが若手のころは、自分の師匠だけ 今思えばそれも良かった。私もそうしていき 和生 わかりやすく言えば太夫と三味線は音 の世界を、人形遣いは見る世界を受け持ちます。 ただけますか。また、今回の ﹃浪花女﹄ のよう ※仕方話 いに対してもそうですし、舞台で皆が気を配 でなく、ほかの師匠からも指導や助言をもら ︱︱文楽は太夫、三味線、人形遣いの三業一 たいと思っています。 いました。いろんな見方を教えてもらえるので、 り合っていないと、いい舞台は作れません。 体と言われます。その中での人形遣いの役割 基本的に文楽は三権分立で互いに口出しをし な紀尾井ホールの取り組みについてはどうお とは何でしょうか。 ませんが ︵笑︶ 、舞台の進行はあくまで太夫さ 感じですか。 〝好き〟 を見つければ文楽の世界は広がる んが握っています。そこに合わせるのが人形遣 両氏も人形遣いとして出演した。 インタビューに登場した吉田和生、吉田玉女 際の文楽を組み合わせながら描いた作品。本 となるお千賀と団平の夫婦愛を、現代劇と実 ⋮⋮﹀後年、名作浄瑠璃 ﹁壺坂霊験記﹂ の作者 む執 念に心を動かされ、彼 と夫 婦になるが 千賀は文楽の三味線弾き・団平の芸に打ち込 ︿明治時代の大阪、料亭沢田屋の一人娘・お 26 でも、それもほかの人形遣いと息が合って て外してみるとか、抜く部分が必要ですね。 10 いの難しさでもあり、その中でどう表現しき 23 人形浄瑠璃文楽 ﹁三味線﹂ 、人形を操る﹁人形遣い﹂ の三業一体で構 成される舞台。演目は ﹃忠臣蔵﹄ ﹃義経千本桜﹄ など の時代物、 ﹃心中天網島﹄ ﹃曾根崎心中﹄ などの世話 物、 ﹃五条橋﹄ などの景事に分けられる。 人形遣いは1体の人形を3人で操り、リーダーで 人形遣い あ る﹁主 遣 い﹂が 首 と 右 手、 ﹁左 遣 い﹂が 左 手、 ﹁足 遣い﹂ が脚を動かす。 ﹁足十年、左十年﹂ と言われ、 40 和生 文楽の人形は身振り手振りの仕方話︵※︶ です。見て理解しやすいから、海外公演でも るかが面白さでもありますね。 NIPPON STEEL MONTHLY 2011. 5 13 入門後は足遣いから始まり、左遣い、そして長い 修行を経て主遣いとなる。 『妹背山婦女庭訓』 で橘姫と求女を演じる (2010 年 2月23日・24日紀尾井小ホール 『女流義太夫の新たな世界』 より) 釜石製鉄所における 線材の生産再開 GROUP CLIP タイで溶融亜鉛めっき 鋼 板 の 製 造・販 売 会 社 を設立 大阪府寝屋川北部 地下河川の整備状況 緑地共同溝工事に使用される HCCP−SSセグメント製品 新日鉄化学 大分製造所 西日 本ペットボトルリサ イクル ︵株︶ が業界初の 経済産業大臣賞を受賞 ︵株︶ は、新 日 鉄 化 学 大 分 製 造 駆的な役割を担って事業を開 北 九 州 エコ タ ウ ン 構 想 の 先 重 荷 重 が 作 用 す る シ ールド ト 度の ﹁リデュース・リユース・ 板・高 張 力 鋼 板 を 含 む 高 級・ リサイクル推進功労者等表彰﹂ より被害を受けた釜石製鉄所 ノマー ︵仮称︶ ﹂ を設立し、両社 で経済産業大臣賞を受賞した。 始した西日本ペットボトルリ 合 成 セグ メント ︵H C C P ︶ ﹂ とで 合 意 した。今 回の共 同 事 の 合 弁 事 業 と して 運 営 す るこ 2007年 度 の 環 境 大 臣 表 彰 サイクル ︵株︶ が、2010年 の技術開 発 並びに市 場 開 拓 を 業 化 は、原 料 から製 品に至る 所で芳 香 族 事 業 を母 体 とする 同 鋼 板の製 造・販 売 を 行 う 新 推 進 してき たが、国 土 交 通 省 に 続 き、PET ボ トルリ サ イ 共同事業会社 ﹁NSスチレンモ 会 社の設 立を決 定した。新 会 中 部 地 方 整 備 局 が 建 設 を 進め 連 携 と 設 備 改 善の 実 施 な どに に お い て 初 の 名 誉 に 輝 い た。 ク ル 業 界 や 全 国 の エコ タ ウ ン トとして ﹁コンクリート中詰め 社 は 約300百 万 米 ド ル を 投 る緑 地共同 溝工事や大阪 府が 争 力 の 向 上 と 日 本 国 内 市 場へ よ り、ア ジア 市 場への 輸 出 競 ンネルの覆工に適したセグメン 資 して、新 日 鉄の日 本 国 内 最 進 める 寝 屋 川 北 部 地 下 河 川 整 日、生 産 を 再 生産 体 制の構 築に向け、引き 開しました。今 後は本 格 的な 新鋭設備と同等の溶融亜鉛めっ 備 に 採 用 さ れ た。地 下 河 川・ し たが、 月 続き取り組んでまいります。 き 鋼 板 製 造 ラ イ ン を 建 設 し、 ︻新会社の概要︼ ニッポン・スチール・ 会社名 ガルバナイジング ︵タイランド︶︵仮称︶ タイ・ラヨーン県 所在地 百万ドル 資本金 生産能力 年間 万トン 2013年中の稼働を目指す。 高品質の ︵合金化︶ 溶融亜鉛めっ 新日鉄化学 ︵株︶ と昭和電工 新日鉄化学 ︵株︶ 芳香族事業に関する 共同事業会社を設立 グループ き 鋼 板 製 造 ラ イ ン の 建 設 と、 新 日 鉄 は、高い耐 力 を 有 し コンクリート中詰め合成 セグメントの適用拡大 製 品 向けた復旧活動を行ってきま 新 日 鉄 はタイで 自 動 車 用 外 経 営 総務部広報センター 03 │6867 │ 2135・2146・2147 36 13 総務部広報センター 03 │6867 │ 2135・2146・2147 88 4 において、線 材の生 産 再 開 に 新日鉄は、東日本大震 災に スチレンモノマー製造設備 グループ G 経 営 鉄道・道路・共同溝などのシー の安 定 供 給 体 制の整 備 を図る 今 回 は 容 器 包 装 リ サ イ クル 法 西日本ペットボトルリサイクル ︵株︶ 093 │761 │7733 く評価された。 エコタウン事 業での活 動 が 高 の立ち 上げ に 尽 力 したことや 新日鉄化学 ︵株︶総務部 ︵広報︶ 03 │5207 │7600 8月1日の予定。 も の。会 社 設 立 は2011年 総務部広報センター 03 │6867 │2146 ている。 ルド工 事への適 用 が 本 格 化 し ® 14 2011. 5 NIPPON STEEL MONTHLY 新日本製鉄発信のプレスリリースは、 ホームページに全文が掲載されています のでご参照ください。 www.nsc.co.jp %の株式を保有 総務部広報センター 03 │6867 │ 2135・2146・2147 マレーシアの電気亜鉛めっき 一体 化させ、グローバル市 場 鋼板製造・販売会社の における顧客対応力の一層の 連結子会社化を協議 向上を図っていく。 新日鉄は す るマレ ーシアのニッポン・ イ ー ガル ブ 社 の 発 行 済 株 式 の 過 半 数 取 得 について、同 社の 筆頭株主であるタット・ギヤッ プグループと検討を開始した。 2011年 月末を目途にニッ ポン・イ ーガルブ 社 を 新 日 鉄 議 を 進 めている。マレ ー シア の連結子 会 社とする方 向で協 における電気亜鉛めっき鋼板 事 業 を 日 本 国 内の 事 業 運 営 と 要 設 備 で あ るス プ レ ー ド ラ イ 今 回、連 鋳 パウダ ー 製 造の主 日鉄住金建材 ︵株︶ 中国子会社が連鋳パウダー工場の設備を増強 日鉄住金建材 ︵株︶ は子会社 ヤーを 基 増 設 して2基 体 制 公司 ︵上 海 日 建︶ で、連 続 鋳 造 の上 海 日 建 大 中 冶 金 材 料 有 限 機の鋳型に添加する連鋳パウ として生産 能 力 を 年 間2万ト 日鉄住金建材 ︵株︶ ニッテックス事業部門 03 │3630 │2683 た。 に対する拠点として強化を図っ ンに倍 増。中 国 市 場の高 級 品 上 海 日 建 は1997年 に 設 ダーの製造設備を増強した。 立され、中 国 国 内 と日 本 向 け に 年 間8000ト ン の 連 鋳 パ ウ ダ ー を 製 造 販 売 し て い る。 2009 年5 月 に 退 任 し、同 年 2011年 度 全 日 本 男 子 際大会では、1992年 手賞にも3回輝いた。国 優 勝 を 経 験、最 優 秀 選 ポーツ指導者海 ク委員会のス 日本オリンピッ 7月 よ り ︵公 財︶ バレ ー ボ ー ル チ ー ムのコ ー チ バル セロ ナ オ リ ン ピッ ク 中垣内祐一氏が 全日本男子バレーボールチームのコーチに就任 に、元全日本男子チームのエー 見 込 ま れ る 中 で、現 地でのお インド事務所を現地法人化 客 様への営 業、技 術サービス スの中 垣内 祐一氏が就 任 する 第2番と第5番「春」の2曲を、 ベートーヴェンのソナタから またカプソンの出身地フラン 名品のヴァイオリン・ソナタと を演奏します。 スケジュール ゆう志の会 清治近松復曲三夜 第三夜 「䈛静胎内捃(ふたりしずかたいないさぐり)」 7 月1日 (金) / 18:30 TEL 03-3237-0061 ブラジルでコーチングを学んだ。 7 月6日 (水) / 18:00 フレッシュアーティスト賞:長原幸太 特別賞:豊田耕兒 お問い合わせ・チケットのお申し込み先 紀尾井ホールチケットセンター(日・祝休) 総務部広報センター 03 │6867 │2146 第21回新日鉄音楽賞 贈呈式・受賞者記念コンサート 堺 ブ レ イ ザ ー ズ 監 督 に 就 任。 彩られたラヴェルのツィガーヌ 回の ロマ (ジプシー) の熱い情念に 3 スから、フォーレの薫り高い 外 研 修 員 と して、アメリ カや な どの対 応 力 を 強 化 し、ま た 位 イ ンド に お け る 事 業 展 開 の 検 間集中して取り組んできた 新 日 鉄 は イ ン ド・ニュー デ 演では、カプソンがこの 2 年 2004年 に 選 手 引 退 後 は 入 賞 な ど 全 日 本 男 子 のエ ー ス ルノー・カプソン。今回の公 リ ー グ、V リ ー グ 通 算 で既に日本でも人気の高い リー事務所を現地法人化し ときめきのヴァイオリン ルノー・カプソン ヴァイオリン・リサイタル 2004年 の 引 退 ま で に 日 本 ことが 決 定 し た。中 垣 内 氏 は 6 討・推進を行う。 三味線:鶴澤清治 ほか 1 として活躍した。 端正な容姿と類稀な才能 1990年に新日鉄に入社し、 ⓒ Jean-Francois Leclercq ルノー・カプソン ﹁ニッポン・スチール・インディ 総務部広報センター 03 │6867 │2135 NIPPON STEEL MONTHLY 2011. 5 15 グループ スポーツ 6 ア﹂ を設立した。インドでは経 公演ご案内 済 成長が続き鉄鋼需要拡大が 新日鉄文化財団 6月10日(金)/ 19:00 設備竣工式 http://www.kioi-hall.or.jp ニッポン・イーガルブ社 10 経 営 経 営 MAY Vol. 208 2011 年 4 月 28 日発行 編集発行人 総務部広報センター所長 高橋 望 / 企画・編集・デザイン・印刷 株式会社 日活アド・エイジェンシー 〒 100-8071 東京都千代田区丸の内 2-6-1 TEL03-6867-4111 http://www.nsc.co.jp/ ●本誌掲載の写真および図版・記事の無断転載を禁じます。 ●皆様からのご意見、ご感想をお待ちしております。FAX:03-6867-3597 文藝春秋 5 月号掲載 CONTENTS 表紙のことば『地球−天動説に因んで−』 2008 年 研究開発の現場から Series10 挑戦しています。夢のものづくり ………………2 使い古され包丁の切り跡で表裏とも窪んだ俎板 そんな所から 眼前の地上は広やかに蠢き空は円転す 特集 トライボロジー・ソリューション 「機械の血液検査」で設備の長寿命化と省エネルギーを実現……………………3 新日鉄ギャラリー 室蘭製鉄所 / 新日鉄の ECO Products 鉛を使わない低炭快削鋼 ……………………………………7 ものづくりの原点 科学の世界 VOL.56 鉄鋼生産で磨いた情報技術を進化させ、ビジネスの先鋭化に貢献(下) 統合システム基盤技術 ………………………………………………………………8 トークスクエア 人生の積み重ねが、人形の情をつくる。 文楽人形遣い 吉田 和生氏 吉田 玉女氏………………………………………… 12 GROUP CLIP ……………………………………………………………………………14 木・鉄 多和 圭三(たわ・けいぞう) 作者プロフィール/ 1952 年愛媛県大三島生まれ。日本大学芸術学部美術学科卒業。 81 年に真木画廊で初個展を開催。以来、鉄を叩くことを通して制作を続ける。全国 の画廊や美術館で個展を開催するほか、米国、韓国、バングラデシュでも作品が紹 介されている。94 年には新日鉄本社にて開催された「第3回 STEEL ART展」に出品。 95年タカシマヤ文化基金新鋭作家奨励賞受賞。2003年第 33 回中原悌二郎賞優秀賞 受賞。07年文化庁買上優秀美術作品。09年より多摩美術大学教授、現在に至る。