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テクノロジーブランディング
◎特集 特別座談会 「テクノロジーブランディング」 ~人を想う技術を、人へおもてなし~ 1.新 発想の芽が出て膨らんで、 技術をブランドにする動きが産業界に起こり始め た。技術力の強さに比べると、コミュニケーション 力の弱い企業が多い。技術で優れながら事業で劣る 要因の一つだろう。技術とブランドを戦略統合する テクノロジーブランディングこそが、新時代に求め られる知財戦略の展望だ! ても、一般の投資家には届いていない 佐藤さんのセミナーを聴講した同僚 ことに気づいたのです。その後のブ との間で「TBは我々の技術を魅力的 芦田:今回の特別座談会の進行役を務 レーンストーミングで、ふとTBとい にしてくれるアイデアではないか」と めさせていただきます。まず、テクノ う言葉が生まれました。既に使われて いう話題になり、コンタクトを取った ロジーブランディング(以下、TB) いるのではないかとインターネット のがきっかけです。 について、概説をお願いします。 で検索したところ、唯一ヒットしたの その後、佐藤さんと佐渡さんを迎え 佐藤:TBとは技術を中心テーマに位 が佐藤さんのブログでした。 て当社の技術の洗い出しを行ったの 置づけたブランド戦略です。つまり、 佐藤さんと共に研究会をスタート ですが、 「我々が表現したい技術情報 技術の存在を魅力的に際立たせ、それ させたわけですが、最初はTBを定義 と、ユーザーが知りたがっている情報 が搭載されている製品の市場競争力 づけるため、さまざまな事例を検証し は違う」ことに気づかされました。 を高める一連の活動です。シャープの てケーススタディーを整理しました。 我々は新しい技術を開発すると 「プラズマクラスター 」は、この戦 佐渡:私は元・読売広告社の社員です。 ニュースリリースや特許出願等で外 略の典型的な成功事例だと思います。 現在は、CIRCUSという企業に在籍し 部にアピールしますが、他社との差別 芦田:それでは、本研究会の発足にい ています。前職では本研究会の発足か 化にばかり力が入り、市場の目線で伝 たった経緯等についてお願いします。 らかかわり、TBを世に広めるために えることに配慮が足りていなかった 佐藤:3年ほど前、読売広告社からの ブックマーケティングを企画して、 のではないかと感じました。 電話がきっかけでした。私の中では、 2010年1月に発刊しました。 芦田:私と上條さんは、弁理士の立場 2001年ごろにTBについての構想があ 本書の目的は、 「こういうブランディ で本研究会に参加しています。 り、 当時のブログに掲載していました。 ングの仕方がある」と気づいてもらう 上條:金沢工業大学大学院で知財や国 その内容について意見交換したい こと。ですから、事例を中心に分かり 際標準化の講義を担当しています。 という連絡だったのです。 やすくまとめています。我々は、TB 弊学の上司(杉光一成教授/ TB研 芦田:当時、読売広告社はどういった を経済界に広め、 「技術立国ニッポン」 究会顧問)から、ある日「技術は特許 経緯でTBにたどり着いたのですか? を復権したいと考えています。TBは、 だけで守れると思う?」 「ブランディ 田中:IRを視野に入れたコミュニケー 日本のモノづくり産業の新たな成長 ングって何だと思う?」と問われたの ションの施策を構築すべく、2007年 戦略になり得ると考えています。 がTBを知ったきっかけです。その後、 にBtoB対策プロジェクトが立ち上が 芦田:社内でTBの実践を目指してい 杉光教授の勧めもあって佐藤さんと りました。ある時、IR向けイベント る吉田さん、TBとの出会いとは? 会い、 本研究会を紹介いただきました。 を観に行くと、出展企業が自社の技術 吉田:私の主な業務は、生産施設等の そのころ、中小企業の知財コンサル やサービスをどんなに一生懸命PRし 企画提案が中心なのですが、ある時、 ティングを通じて、どんなに良い技術 研究会の誕生 Ⓡ The lnvention 2010 No.12 特別座談会「テクノロジーブランディング」 でも、その価値がユーザーに伝わらな 2.人のこころに宿るもの ベースがブランドであり、その空気感 ければ意味がなく、ユーザーの求める 芦田:さて、ひと口に「ブランド」と や世界観をつくろうとする行為がブ 価値を提供できる技術であることを いっても、漠然としたイメージを持つ ランディングなんです。 説明する必要性を強く感じていたの 方も多いと思うのですが……。 芦田:ブランディングにはストーリー で、TBを知った時、 「コレだ!」と思っ 佐藤:ブランドは、極めて包括的な概 も重要ですよね。 た次第です。現在、TEPIA(機械産 念です。知財との関係でいうと、商標 田中:どういうストーリーがユーザー 業記念事業財団)の助成を受け、芦田 権は限定的な位置づけだと思います。 の心に響くのか、内部では分かりにく さんとTBの研究をしています。 佐渡:ブランドは、あくまでユーザー いんですよ。意外と外部の人間が気づ 芦田:私は、主に意匠と商標の権利化 の心の中で醸成されていきます。一般 くことのほうが多いかもしれません。 業務を行っています。縁あって本研究 のユーザーが認知し、好意を抱き、信 地方の観光地の活性化事業で、観光 会へのお誘いを受けました。 頼して初めて成立するものです。 コンテンツの発掘にかかわってきま 「技術」をブランド化するという新 芦田:そこがブランドと商標の決定的 したが、例えば地元の方は、毎日見て たな視点が加わることで、ブランドが な違いということですね。 いる景色の魅力には気づかないもの グッと身近に感じられる知財関係者 佐藤:ブランディングとは、受け手に です。外部の人間だから「この景色は も多いのではないでしょうか。本研究 とって好ましいと感じられる状況を 素晴らしい!」と感動できるのです。 会の活動に参加することで、私自身の 実体と情報でつくり出すこと。対象が 佐渡:だから、 外部の人を呼んでミー ブランドに対する考え方も変わって 技術でもこの発想が有効なのです。 ティングやディスカッションをする きました。まずは、多くの方々にTB 佐渡:例えば、具体的に説明すると、 のは有益ですよね。 を知っていただきたいと考え、今回の 座談会を企画しました。 「おいしそうだからそのレストランに 行く」の「~そう」というイメージの 【テクノロジーブランディング研究会とは!?】 佐藤:新しい発想は、なかなか内部か らは生まれ得ないのが実情ですね。 【テクノロジーブランディングの対象と一例】 ●設立の目的 わが国が「技術立国」として復権するための 新たな企業戦略の一つ「テクノロジーブラン ディング」を広く世の中に提起すること。 ●研究会の構成 代 表:佐藤 好彦 顧 問:杉光 一成(金沢工業大学大学院 教 授 博士/知的財産科学研究セン ター長) 会 員:芦田 望美、上條 由紀子、佐渡 俊彦、 田中 操 他 ●連絡先 ㈱読売広告社 企画開発推進局内 (℡ 03-5544-7218)担当:田村・勝海 http://www.yomiko.co.jp/ability/tb/ ©Quintsense ●著者:佐藤 聡 ●監修:佐藤 好彦+テクノロ ジーブランディング 研究会 ●発行:技術評論社 プラズマクラスターは、シャープの登 録商標。プラズマ放電により発生させ た+と-のプラズマクラスターイオン を空気中に放出する。同社では、除菌 やウイルスの作用抑制に効果があるこ の特許技術を空気清浄機やエアコン、 冷蔵庫、洗濯機、加湿器や専用のイオ ン発生機など多彩な家電製品に搭載し ている。 ©SHARP 2010 No.12 The lnvention 上條 由紀子 氏 佐藤 好彦 氏 田中 操 氏 金沢工業大学大学院 准教授 太陽国際特許事務所 弁理士 ㈱クイントセンス 代表取締役社長 ㈱読売広告社 企画開発推進局 局長 3.技術におぼれない心がけ きれば、新製品のリリースやライン の存在に気づいてもらうには、ユニー 芦田:それでは、 「なぜ技術をブラン アップの拡充といった面で優位に立 クな表現や「魅せる化」が必要です。 ド化する必要があるのか」というテー てるかもしれません。製品の前に技術 技術自体の有用性よりも、興味や関 マをもう少し掘り下げてみましょう。 にフォーカスすることで、ユーザーの 心を惹きつけることが優先される局 上條:技術開発に自信を持つ企業は多 理解を得られることもあるのです。 面があります。技術が事業ソースとし いと思いますが、先ほどのお話のよう 佐渡:日本企業の海外移転や技術流出 て認められるには、シンボリックな情 に、社内では当たり前になってしまい が問題になっています。最近の急激な 報武装をする必要があるのです。 技術の価値がみえなくなるケースや、 円高で状況はさらに深刻です。現在、 上條:そうですね。産業のグローバル 逆に自社技術を過大評価してしまう 情報や製造技術のデジタル化により、 化、研究開発のオープン化、製品のモ ケースも少なくないと思います。 製品の品質に差が出にくいため、今後 ジュール化が進む今日、目に見えない 佐藤:確かにそうです。その思い込み は製品を売るのではなく、仕組みや技 価値情報である知的財産の重要性が を払拭するためにも、自社技術を外部 術を売る時代になるでしょう。 ますます高まり、そのなかでも新たな の視点から見直す必要があるのです。 そこで、重要な中身はブラックボッ 付加価値を創出する技術を活かした 田中:しかし現在は、商品・サービス、 クス化しつつ、技術の優位性をTBで イノベーションの促進が求められて ブランドが乱立して競争がボーダー アピールすることによって、国際競争 いること、効率・収益・物質重視の社 レスです。そのため、コーポレートや を勝ち抜くことができるのです。 会から、環境配慮・社会貢献・感性や 製品レベルで他社との差別化を図る 佐藤:もう一つ重要なのが情報の記号 心の豊かさに価値を見いだす社会に ことが難しい。そこで、企業や製品の 化。オープンイノベーションでは、互 シフトしていることを考えると、ブラ ことは知らなくても、 「その技術は知っ いに探し合っている技術の出会いに ンディングやコミュニケーションが ている」という状況をつくることがで 効率性が求められます。その際、技術 さらに重要視されてくると思います。 The lnvention 2010 No.12 ひ 特別座談会「テクノロジーブランディング」 芦田 望美 氏 佐渡 俊彦 氏 吉田 昌司 氏 三好内外国特許事務所 弁理士 ㈱CIRCUS Communication ConciergeⓇ 三井住友建設㈱エンジニアリング本部 プロジェクト推進部 課長 芦田:技術を前面に出したブランディ に市場から評価されるという視点を ではその先の購入者がエンドユー ング。技術を分かりやすく伝えること 持つべきなのに、そうではないケース ザーであり、そのニーズを直接みるこ で、製品や企業の価値も高めるという が多いのです。 とができません。しかし、ブランドの ことですよね。しかし、無意識にTB 「ブランドとは、ユーザーの心の中 基軸がエンドユーザーにあるならば、 を実践している企業も多いのでは? に構築されるものであり、企業が一方 我々がそれを認識するにはTBの考え 佐藤:そのとおりですね。研究過程で 的に押し付けるものではない」 。この 方をもっと活用すべきだと考えます。 巧みなTB事例だと取り上げても、企 事実を企業側が認識するには、TBが もちろん、 事業主との関係は重要で、 業にその自覚がないケースも数多く とても良いきっかけになるでしょう。 そのニーズに合った技術や製品の提 見受けられます。もっと戦略的に取り ユーザーを意識することで、上市す 供が必要ですが、当社の情報がその先 組めば、さらに効果を上げられるので る技術の在り方や仕様、搭載する製品 のエンドユーザーにブランドとして はないかと思います。 をはじめ、経営戦略に良い影響を与え 認知されれば、次のビジネス発想を展 佐渡:当初、我々もTBにどんな効用 てくれるはずなのです。 開するうえで重要な意味を持ちます があるのか、散々検討してきました。 佐藤:TBは企業のさまざまな活動に し、そのブランドをつくる技術の価値 アライアンスしやすい、コミュニ 貢献できる、マネジメントのツールに を持続的に育むサイクルが生まれる ケーション効率が高まる。さらに、IR もなり得ます。TBを戦略的に活用す のではないかと期待しています。 やリクルートの面でも大きなメリッ ることで、ステークホルダーと新たな 芦田:田中さん、どうされました? トが考えられますが、確実にいえるの 対話の機会が生まれ、相互理解のきっ 田中:本誌の読者である知財関係者が は、 「企業が伝えたいことと、ユーザー かけになると思います。 ここまでの内容を読んで、果たして腑 が知りたいことの間にはギャップが 吉田:当社の直接の顧客は主に事業主 に落ちるのか? ということが、非常 存在する」ということです。企業は常 となる企業ですが、例えばマンション に気になっているんですが……。 2010 No.12 The lnvention 4.チャンス到来! そのすべてを知財部に期待するの える道筋を知財部が提示すべきです。 知財部が司令塔! ! は困難かもしれませんが、多少でも意 商標は事業展開の有力な武器の一つ 佐藤:技術・事業・ブランド戦略の中 識してもらえたらありがたいですね。 であり、権利化できる案よりも、 「こ 心に知財戦略があるべきだと私は考 佐渡:いずれにせよ、知財部はTBに の名前でこそ事業が加速する!」とい えます。なぜなら、知財部は開発者の 積極的にかかわるべきです。 う最適案を権利化する、その姿勢と判 次に技術や発明の芽にかかわる位置 自社の技術動向や事業の強み等を 断こそが最優先されるべきネーミン づけだからです。開発段階から知財部 客観的に把握しているわけですから、 グ本来の在り方でしょう。 がブランディングの意識をリードで 社内で戦略的にTBをコントロールで 上條:確かにそうです。事業目的を達 きれば、これまでとは違う戦略の可能 きる部署は、知財部しかないのです。 成し得るような知財戦略を提案でき 性を描けるのではないでしょうか。 田中:知財部の方々には、司令塔的な る「攻めの知財部」が理想的ですね。 上條:しかし、知財部の中にブラン 役割を担っていただきたいですね。 田中:逆に、TBに取り組むことに ディング部門がある企業とない企業 佐渡:その際、重要なのが「価値を決 よって、知財部の活動の幅を広げる があります。 また、 社内でも部門によっ めるのはユーザー」という認識です。 チャンスになるかもしれませんよ。 てかなり意識の差があると思います。 なぜなら、 「ウチにもブランドはあ 吉田:そうですね。とはいっても、知 佐藤:意識変革を促す意図を込めて、 る」と思っていたとしても、それは単 財部も多忙ですから、実際には難しい いっそ「知財部をブランディングすべ にネーミングしただけで、ユーザーは 面もあると思いますが……。 きでは?」という問いかけをしてみた ブランドだと認識していないという 上條:しかし、そういう方向性を目指 いですね。しかし、我々には知財部の ケースが非常に多いからです。 すのは素晴らしいことだと思います。 現状や業務の詳細、 他部署との連携等、 それから、本当に良い技術だったと 田中:事業部は、社内特許庁(知財部) 分からないことも多いので、本誌読者 しても、悪い評判が立った瞬間に真逆 から「新規性・進歩性、登録要件を満 とTB研究会がコミュニケーションす の評価になることもあり得ます。 たさない」と言われたら、 「別の方法 る場を発明協会にアレンジしていた 田中:ブランドは本当に壊れやすい。 を考えるか」 「名前、考え直さないと だくことを強く望みます。 構築して育てるには長い時間がかか いけないな」となるそうです。 芦田:それは良いアイデアですね りますが、壊れるのは一瞬です。 そこで本来のTBのコンセプトから 吉田:安易なネーミングが致命的な結 乖離してしまうかもしれません。です 財部はいかがですか? 果を招くこともあります。ネーミング からそのような場合、知財部の方々も 吉田:当社の知財部は優秀なメンバー によって技術の品位が問われること いったん踏みとどまり、共同でアイデ がそろっていて、特許や商標など産業 も認識したいですね。 アを出し合うような体制を構築すべ 財産権の維持等によく対応してくれ 佐藤:ネーミング案の絞り込みで、商 きだと思います。 ています。ただ、現実の社会での評価 標の登録可否を最初に問うこと自体、 上條:弁理士も、発明提案やネーミン においては、 ノウハウや企業イメージ、 本質を見失っている気がします。商標 グについて、その企業の経営目的に ブランドといった広義の知的財産価 の審査基準は承知していますが、事業 沿った知財コンサルティングに取り 値の影響も非常に大きいのです。 とブランド戦略の方針をまとめ、かな 組んでいきたいものですね。 (笑) 。ちなみに、吉田さんからみた知 The lnvention 2010 No.12 特別座談会「テクノロジーブランディング」 芦田:しかし、弁理士に期待する業務 5.できることから始めよう 田中:いかにメリットを見いだせるか 範囲は、企業や案件によって異なりま 芦田:中小企業のなかには、TBに投 という意識の問題だと思います。 すし、権利化業務のみを依頼される 資する余裕がないといったケースも 例えば現在、工場見学が流行ってい ケースもありますよ。 あるのではないでしょうか? ます。もちろん、技術流出対策は必要 田中:そこは臨機応変に対応すべきで 佐藤:大企業も最初は中小・零細企業 ですが、完成品との接点しかないユー す。実際には商標を権利化することす からスタートしています。大企業へと ザーに作る過程を見せることには、多 ら気にもとめない企業もありますか 成長を遂げ、一流のブランドを構築す くのメリットが存在するのです。 ら、そういうケースで弁理士がコンサ るために、単にモノを作って売るだけ 佐渡:工場見学もTBの手法の一つ。 ルすれば、その評判が広がっていく。 ではなく、高邁な理念やビジョンを掲 つまり、ブランディングとはプロモー そこに意義があると思います。 げて努力してきたはずなのです。 ションの結果そのものであり、いかに 芦田:ニーズの見極めが重要ですね。 中小企業もどこかでそういった努 演出するかなのです。Brandingの「ing」 佐渡:特許や商標のように法的保護に 力をしなければ、大きな成長は望めま は、プロモーションが集積されている よって守るだけではなく、ブランドや せん。 「始めないと始まらない」 という ことを意味し、その集積によってユー イメージを構築することで守るとい ことですね。 禅問答みたいですが……。 ザーにブランドが宿るのです。 う考え方も「アリ」だと思います。 佐渡:要は、初めの一歩をどこで踏み プロモーションは、最初から巨額な 上條:確かに、法的保護がすべてでは 出すかだと思います。 投資をしなくても、今できることを積 ないですからね。 芦田:踏み出す勇気ということですか? み重ねていくことが重要です。 【知財戦略の新しい位置づけ】 【新しいブランド戦略領域の出現】 ©Quintsense 【知財戦略と美的感性戦略の統合】 ©Quintsense ©Quintsense 2010 No.12 The lnvention 上條: 「そんな予算はない」で片づけ り着かない。そこを再度意識して配慮 佐藤:分かってもらえなければ始まら るなということですね。 することが、本当の「おもてなし」に ない、まずはそこに気づくことです。 田中:そうです。技術開発にいたった つながるのだと思います。 田中:魅力的なものに触れると、誰か 社長の思いを名刺の裏に記載するこ 佐藤:難解なうえに長文の技術説明書 に伝えたくなるのが人情です。そこを とでもプロモーションになり得ます。 など、読む人はつらいだけですよね。 利用しない手はないし、それが「見え 佐藤:TBとは、 「技術を分かりやすく 上條:もしや、それは特許明細書のこ る化」 「話せる化」 「広がる化」につな 魅せる化して伝えること」です。ウェ とでしょうか?(笑) 。確かに、特許 がっていくのです。 ブサイトをもっと活用できるでしょう。 明細書は読む側に対する配慮が不足 芦田:ところで、吉田さんが社内に 田中:技術を説明するウェブサイトは しているかもしれません。今後は、 「思 TBの導入を決心した時、社内の反応 分かりにくいものが多いですね。Bto い込み」の知財業務を「思いやり」へ、 はいかがでしたか? C企業の場合、多少ケアされています さらに「おもてなし」の知財業務の域 吉田:新しい取り組みですから費用対 が……。しかし本来、分かりやすさと にまで高めていきたいものですね。 効果も含めて説得するのはやはり難 いう意味では、BもCも関係ない。B 一同:素晴らしいっ!! しいですし、組織にTBを浸透させる の人も家に帰ってスーツを脱いだら、 田中:その思い込みをクールダウンす のは容易なことではありません。 その瞬間からCですよ。 る一つの方法がワークショップです。 しかし、ユーザーに分かりやすく技 佐渡:ユーザーに分かりやすく伝える 市場側からみて、その技術が本当に 術情報を伝えるのは、方向性として正 には、 「おもてなし(hospitality) 」の 役立つのかということを理解し合う しいことですから、それが認知されれ 精神が必要ですが、自分が情報の送り 絶好の場です。そこで、想定していな ば一気に全社的なムーブメントを起 手になると、どんなに受け手を意識し かった新しい価値をユーザーが見い こせるという期待もあります。 たとしても、その域にはなかなかたど だしてくれる可能性もあるのです。 先日、当社が十数年前に建てたマン ションの購入を希望されるお客さま がいて、 「あの建物は○○○工法で造 られていますよね?」と言うのです。 エンドユーザーから専門的な技術に 関する問い合わせがあったことに少 し驚きましたが、それと同時に、提供 したもののなかに技術はずっと生き 続けていて、そこをTBで守らないの はもったいないことだと感じました。 芦田:現在は、具体的にどういった活 動に取り組んでいますか? 吉田:既存のパンフレットや提案書に ※撮影協力:三好内外国特許事務所 10 The lnvention 2010 No.12 対して、TB的視点で作り直したもの 特別座談会「テクノロジーブランディング」 をみんなに比較してもらうといった 吉田:部署の敷居を低くして、みんな ません。 活動を始めています。 でコミュニケーションすべきですね。 それから、人に個性があるように、 芦田:例えば、 「インテル・インサイ 佐渡:そうしようと思うことが初めの 我々は技術にも人柄や人格のような ド」キャンペーンのように、一般ユー 一歩。そして、待ちの姿勢ではなく、 ものを想定し、与えるべきだと考えま ザーに対して部品の技術をアピール 積極的に動くことが大切です。 す。実体や技術思想が優れていたとし するのは非常にTB的だと思いますが、 上條:社内におけるコミュニケーショ ても、市場から「好ましい」と支持さ 広告費の一部負担等を含め、多くの部 ンはもちろんですが、各部門が、お客 れなければブランドにはなれません。 品メーカーがインテル社のような戦 さまやユーザーに思いをはせる意識 つまり体力や知力に、魅力あふれるセ 略をとるのは難しいですよね? を共有することが重要だと思います。 ンスが備わってこそ「素晴らしい」と 吉田:セットメーカーが無視できない 佐藤:まさに、そこに尽きますね。 形容される存在になれるのです。 存在になるような戦略をTB的に工夫 芦田:それでは、TB研究会を代表し すればいいのだと思います。 て佐藤さん、総括をお願いします。 佐藤:そこで評判になれば、誰かが自 佐藤:ブランドには、技術や製品のス 分のブログに掲載したり、それが口コ ペックで比較判断できる品質に加え ミで伝わったり、魅力化の輪が広がっ て「知覚品質」という考えがあります。 て、良い情報がどんどん増殖していく これは受け手の主観で形成される実 可能性がありますよ。 体の評価であり、コミュニケーション 佐渡:そのとき、その技術が何たるか の巧拙で決まります。優れた技術だと ということをできるだけ端的で分か 判断するのに十分な印象を与えなけ りやすい言葉によってうまく表現し れば、高い知覚品質を得ることはでき この続きは「TBサロン」でお会いし た時に……。 ( 「発明」編集部) 【第1回「TBサロン」参加者募集!】 ●日時:平成23年2月4日(金)15 ~ 17時 ●場所:発明会館2階会議室 ●内容:TBの具体的事例の紹介/TBの疑問・質 問にお答えします。 ●参加費:無料 ※12月号の本誌アンケート(p.71)のQ4の欄に 「TBサロン参加希望」とご記載のうえ、メール アドレスも必ず明記してご連絡ください。本 誌編集部より参加票をメールでご連絡いたし ます。 なお、応募者多数の場合は抽選とさせてい ただきますので、あらかじめご了承ください。 ていくことがポイントです。 6.意識を変えれば行動も…… 芦田:TBを円滑に進めていくために、 人材を流動化させるというのはいか がでしょうか? 異なる部署や立場 に置かれることで、視野も広がってい くのではないかと思うのですが……。 田中:ローテーションは各企業で状況 が異なると思います。もし、人材の流 動化がかなわなくても、相手の立場で 物事を考える意識を一人ひとりが持 つだけで新たな展開になるでしょう。 2010 No.12 The lnvention 11