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テクノロジーブランディング

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テクノロジーブランディング
◎特集
特別座談会
「テクノロジーブランディング」
~人を想う技術を、人へおもてなし~
1.新 発想の芽が出て膨らんで、
技術をブランドにする動きが産業界に起こり始め
た。技術力の強さに比べると、コミュニケーション
力の弱い企業が多い。技術で優れながら事業で劣る
要因の一つだろう。技術とブランドを戦略統合する
テクノロジーブランディングこそが、新時代に求め
られる知財戦略の展望だ!
ても、一般の投資家には届いていない
佐藤さんのセミナーを聴講した同僚
ことに気づいたのです。その後のブ
との間で「TBは我々の技術を魅力的
芦田:今回の特別座談会の進行役を務
レーンストーミングで、ふとTBとい
にしてくれるアイデアではないか」と
めさせていただきます。まず、テクノ
う言葉が生まれました。既に使われて
いう話題になり、コンタクトを取った
ロジーブランディング(以下、TB)
いるのではないかとインターネット
のがきっかけです。
について、概説をお願いします。
で検索したところ、唯一ヒットしたの
その後、佐藤さんと佐渡さんを迎え
佐藤:TBとは技術を中心テーマに位
が佐藤さんのブログでした。
て当社の技術の洗い出しを行ったの
置づけたブランド戦略です。つまり、
佐藤さんと共に研究会をスタート
ですが、
「我々が表現したい技術情報
技術の存在を魅力的に際立たせ、それ
させたわけですが、最初はTBを定義
と、ユーザーが知りたがっている情報
が搭載されている製品の市場競争力
づけるため、さまざまな事例を検証し
は違う」ことに気づかされました。
を高める一連の活動です。シャープの
てケーススタディーを整理しました。
我々は新しい技術を開発すると
「プラズマクラスター 」は、この戦
佐渡:私は元・読売広告社の社員です。
ニュースリリースや特許出願等で外
略の典型的な成功事例だと思います。
現在は、CIRCUSという企業に在籍し
部にアピールしますが、他社との差別
芦田:それでは、本研究会の発足にい
ています。前職では本研究会の発足か
化にばかり力が入り、市場の目線で伝
たった経緯等についてお願いします。
らかかわり、TBを世に広めるために
えることに配慮が足りていなかった
佐藤:3年ほど前、読売広告社からの
ブックマーケティングを企画して、
のではないかと感じました。
電話がきっかけでした。私の中では、
2010年1月に発刊しました。
芦田:私と上條さんは、弁理士の立場
2001年ごろにTBについての構想があ
本書の目的は、
「こういうブランディ
で本研究会に参加しています。
り、
当時のブログに掲載していました。
ングの仕方がある」と気づいてもらう
上條:金沢工業大学大学院で知財や国
その内容について意見交換したい
こと。ですから、事例を中心に分かり
際標準化の講義を担当しています。
という連絡だったのです。
やすくまとめています。我々は、TB
弊学の上司(杉光一成教授/ TB研
芦田:当時、読売広告社はどういった
を経済界に広め、
「技術立国ニッポン」
究会顧問)から、ある日「技術は特許
経緯でTBにたどり着いたのですか?
を復権したいと考えています。TBは、
だけで守れると思う?」
「ブランディ
田中:IRを視野に入れたコミュニケー
日本のモノづくり産業の新たな成長
ングって何だと思う?」と問われたの
ションの施策を構築すべく、2007年
戦略になり得ると考えています。
がTBを知ったきっかけです。その後、
にBtoB対策プロジェクトが立ち上が
芦田:社内でTBの実践を目指してい
杉光教授の勧めもあって佐藤さんと
りました。ある時、IR向けイベント
る吉田さん、TBとの出会いとは?
会い、
本研究会を紹介いただきました。
を観に行くと、出展企業が自社の技術
吉田:私の主な業務は、生産施設等の
そのころ、中小企業の知財コンサル
やサービスをどんなに一生懸命PRし
企画提案が中心なのですが、ある時、
ティングを通じて、どんなに良い技術
研究会の誕生
Ⓡ
The lnvention 2010 No.12
特別座談会「テクノロジーブランディング」
でも、その価値がユーザーに伝わらな
2.人のこころに宿るもの
ベースがブランドであり、その空気感
ければ意味がなく、ユーザーの求める
芦田:さて、ひと口に「ブランド」と
や世界観をつくろうとする行為がブ
価値を提供できる技術であることを
いっても、漠然としたイメージを持つ
ランディングなんです。
説明する必要性を強く感じていたの
方も多いと思うのですが……。
芦田:ブランディングにはストーリー
で、TBを知った時、
「コレだ!」と思っ
佐藤:ブランドは、極めて包括的な概
も重要ですよね。
た次第です。現在、TEPIA(機械産
念です。知財との関係でいうと、商標
田中:どういうストーリーがユーザー
業記念事業財団)の助成を受け、芦田
権は限定的な位置づけだと思います。
の心に響くのか、内部では分かりにく
さんとTBの研究をしています。
佐渡:ブランドは、あくまでユーザー
いんですよ。意外と外部の人間が気づ
芦田:私は、主に意匠と商標の権利化
の心の中で醸成されていきます。一般
くことのほうが多いかもしれません。
業務を行っています。縁あって本研究
のユーザーが認知し、好意を抱き、信
地方の観光地の活性化事業で、観光
会へのお誘いを受けました。
頼して初めて成立するものです。
コンテンツの発掘にかかわってきま
「技術」をブランド化するという新
芦田:そこがブランドと商標の決定的
したが、例えば地元の方は、毎日見て
たな視点が加わることで、ブランドが
な違いということですね。
いる景色の魅力には気づかないもの
グッと身近に感じられる知財関係者
佐藤:ブランディングとは、受け手に
です。外部の人間だから「この景色は
も多いのではないでしょうか。本研究
とって好ましいと感じられる状況を
素晴らしい!」と感動できるのです。
会の活動に参加することで、私自身の
実体と情報でつくり出すこと。対象が
佐渡:だから、
外部の人を呼んでミー
ブランドに対する考え方も変わって
技術でもこの発想が有効なのです。
ティングやディスカッションをする
きました。まずは、多くの方々にTB
佐渡:例えば、具体的に説明すると、
のは有益ですよね。
を知っていただきたいと考え、今回の
座談会を企画しました。
「おいしそうだからそのレストランに
行く」の「~そう」というイメージの
【テクノロジーブランディング研究会とは!?】
佐藤:新しい発想は、なかなか内部か
らは生まれ得ないのが実情ですね。
【テクノロジーブランディングの対象と一例】
●設立の目的
わが国が「技術立国」として復権するための
新たな企業戦略の一つ「テクノロジーブラン
ディング」を広く世の中に提起すること。
●研究会の構成
代 表:佐藤 好彦
顧 問:杉光 一成(金沢工業大学大学院 教
授 博士/知的財産科学研究セン
ター長)
会 員:芦田 望美、上條 由紀子、佐渡 俊彦、
田中 操 他
●連絡先
㈱読売広告社 企画開発推進局内
(℡ 03-5544-7218)担当:田村・勝海
http://www.yomiko.co.jp/ability/tb/
©Quintsense
●著者:佐藤 聡
●監修:佐藤 好彦+テクノロ
ジーブランディング
研究会
●発行:技術評論社
プラズマクラスターは、シャープの登
録商標。プラズマ放電により発生させ
た+と-のプラズマクラスターイオン
を空気中に放出する。同社では、除菌
やウイルスの作用抑制に効果があるこ
の特許技術を空気清浄機やエアコン、
冷蔵庫、洗濯機、加湿器や専用のイオ
ン発生機など多彩な家電製品に搭載し
ている。
©SHARP
2010 No.12 The lnvention 上條 由紀子 氏
佐藤 好彦 氏
田中 操 氏
金沢工業大学大学院 准教授
太陽国際特許事務所 弁理士
㈱クイントセンス 代表取締役社長
㈱読売広告社 企画開発推進局 局長
3.技術におぼれない心がけ
きれば、新製品のリリースやライン
の存在に気づいてもらうには、ユニー
芦田:それでは、
「なぜ技術をブラン
アップの拡充といった面で優位に立
クな表現や「魅せる化」が必要です。
ド化する必要があるのか」というテー
てるかもしれません。製品の前に技術
技術自体の有用性よりも、興味や関
マをもう少し掘り下げてみましょう。
にフォーカスすることで、ユーザーの
心を惹きつけることが優先される局
上條:技術開発に自信を持つ企業は多
理解を得られることもあるのです。
面があります。技術が事業ソースとし
いと思いますが、先ほどのお話のよう
佐渡:日本企業の海外移転や技術流出
て認められるには、シンボリックな情
に、社内では当たり前になってしまい
が問題になっています。最近の急激な
報武装をする必要があるのです。
技術の価値がみえなくなるケースや、
円高で状況はさらに深刻です。現在、
上條:そうですね。産業のグローバル
逆に自社技術を過大評価してしまう
情報や製造技術のデジタル化により、
化、研究開発のオープン化、製品のモ
ケースも少なくないと思います。
製品の品質に差が出にくいため、今後
ジュール化が進む今日、目に見えない
佐藤:確かにそうです。その思い込み
は製品を売るのではなく、仕組みや技
価値情報である知的財産の重要性が
を払拭するためにも、自社技術を外部
術を売る時代になるでしょう。
ますます高まり、そのなかでも新たな
の視点から見直す必要があるのです。
そこで、重要な中身はブラックボッ
付加価値を創出する技術を活かした
田中:しかし現在は、商品・サービス、
クス化しつつ、技術の優位性をTBで
イノベーションの促進が求められて
ブランドが乱立して競争がボーダー
アピールすることによって、国際競争
いること、効率・収益・物質重視の社
レスです。そのため、コーポレートや
を勝ち抜くことができるのです。
会から、環境配慮・社会貢献・感性や
製品レベルで他社との差別化を図る
佐藤:もう一つ重要なのが情報の記号
心の豊かさに価値を見いだす社会に
ことが難しい。そこで、企業や製品の
化。オープンイノベーションでは、互
シフトしていることを考えると、ブラ
ことは知らなくても、
「その技術は知っ
いに探し合っている技術の出会いに
ンディングやコミュニケーションが
ている」という状況をつくることがで
効率性が求められます。その際、技術
さらに重要視されてくると思います。
The lnvention 2010 No.12
ひ
特別座談会「テクノロジーブランディング」
芦田 望美 氏
佐渡 俊彦 氏
吉田 昌司 氏
三好内外国特許事務所 弁理士
㈱CIRCUS Communication ConciergeⓇ
三井住友建設㈱エンジニアリング本部
プロジェクト推進部 課長
芦田:技術を前面に出したブランディ
に市場から評価されるという視点を
ではその先の購入者がエンドユー
ング。技術を分かりやすく伝えること
持つべきなのに、そうではないケース
ザーであり、そのニーズを直接みるこ
で、製品や企業の価値も高めるという
が多いのです。
とができません。しかし、ブランドの
ことですよね。しかし、無意識にTB
「ブランドとは、ユーザーの心の中
基軸がエンドユーザーにあるならば、
を実践している企業も多いのでは?
に構築されるものであり、企業が一方
我々がそれを認識するにはTBの考え
佐藤:そのとおりですね。研究過程で
的に押し付けるものではない」
。この
方をもっと活用すべきだと考えます。
巧みなTB事例だと取り上げても、企
事実を企業側が認識するには、TBが
もちろん、
事業主との関係は重要で、
業にその自覚がないケースも数多く
とても良いきっかけになるでしょう。
そのニーズに合った技術や製品の提
見受けられます。もっと戦略的に取り
ユーザーを意識することで、上市す
供が必要ですが、当社の情報がその先
組めば、さらに効果を上げられるので
る技術の在り方や仕様、搭載する製品
のエンドユーザーにブランドとして
はないかと思います。
をはじめ、経営戦略に良い影響を与え
認知されれば、次のビジネス発想を展
佐渡:当初、我々もTBにどんな効用
てくれるはずなのです。
開するうえで重要な意味を持ちます
があるのか、散々検討してきました。
佐藤:TBは企業のさまざまな活動に
し、そのブランドをつくる技術の価値
アライアンスしやすい、コミュニ
貢献できる、マネジメントのツールに
を持続的に育むサイクルが生まれる
ケーション効率が高まる。さらに、IR
もなり得ます。TBを戦略的に活用す
のではないかと期待しています。
やリクルートの面でも大きなメリッ
ることで、ステークホルダーと新たな
芦田:田中さん、どうされました?
トが考えられますが、確実にいえるの
対話の機会が生まれ、相互理解のきっ
田中:本誌の読者である知財関係者が
は、
「企業が伝えたいことと、ユーザー
かけになると思います。
ここまでの内容を読んで、果たして腑
が知りたいことの間にはギャップが
吉田:当社の直接の顧客は主に事業主
に落ちるのか? ということが、非常
存在する」ということです。企業は常
となる企業ですが、例えばマンション
に気になっているんですが……。
2010 No.12 The lnvention 4.チャンス到来!
そのすべてを知財部に期待するの
える道筋を知財部が提示すべきです。
知財部が司令塔!
!
は困難かもしれませんが、多少でも意
商標は事業展開の有力な武器の一つ
佐藤:技術・事業・ブランド戦略の中
識してもらえたらありがたいですね。
であり、権利化できる案よりも、
「こ
心に知財戦略があるべきだと私は考
佐渡:いずれにせよ、知財部はTBに
の名前でこそ事業が加速する!」とい
えます。なぜなら、知財部は開発者の
積極的にかかわるべきです。
う最適案を権利化する、その姿勢と判
次に技術や発明の芽にかかわる位置
自社の技術動向や事業の強み等を
断こそが最優先されるべきネーミン
づけだからです。開発段階から知財部
客観的に把握しているわけですから、
グ本来の在り方でしょう。
がブランディングの意識をリードで
社内で戦略的にTBをコントロールで
上條:確かにそうです。事業目的を達
きれば、これまでとは違う戦略の可能
きる部署は、知財部しかないのです。
成し得るような知財戦略を提案でき
性を描けるのではないでしょうか。
田中:知財部の方々には、司令塔的な
る「攻めの知財部」が理想的ですね。
上條:しかし、知財部の中にブラン
役割を担っていただきたいですね。
田中:逆に、TBに取り組むことに
ディング部門がある企業とない企業
佐渡:その際、重要なのが「価値を決
よって、知財部の活動の幅を広げる
があります。
また、
社内でも部門によっ
めるのはユーザー」という認識です。
チャンスになるかもしれませんよ。
てかなり意識の差があると思います。
なぜなら、
「ウチにもブランドはあ
吉田:そうですね。とはいっても、知
佐藤:意識変革を促す意図を込めて、
る」と思っていたとしても、それは単
財部も多忙ですから、実際には難しい
いっそ「知財部をブランディングすべ
にネーミングしただけで、ユーザーは
面もあると思いますが……。
きでは?」という問いかけをしてみた
ブランドだと認識していないという
上條:しかし、そういう方向性を目指
いですね。しかし、我々には知財部の
ケースが非常に多いからです。
すのは素晴らしいことだと思います。
現状や業務の詳細、
他部署との連携等、
それから、本当に良い技術だったと
田中:事業部は、社内特許庁(知財部)
分からないことも多いので、本誌読者
しても、悪い評判が立った瞬間に真逆
から「新規性・進歩性、登録要件を満
とTB研究会がコミュニケーションす
の評価になることもあり得ます。
たさない」と言われたら、
「別の方法
る場を発明協会にアレンジしていた
田中:ブランドは本当に壊れやすい。
を考えるか」
「名前、考え直さないと
だくことを強く望みます。
構築して育てるには長い時間がかか
いけないな」となるそうです。
芦田:それは良いアイデアですね
りますが、壊れるのは一瞬です。
そこで本来のTBのコンセプトから
吉田:安易なネーミングが致命的な結
乖離してしまうかもしれません。です
財部はいかがですか?
果を招くこともあります。ネーミング
からそのような場合、知財部の方々も
吉田:当社の知財部は優秀なメンバー
によって技術の品位が問われること
いったん踏みとどまり、共同でアイデ
がそろっていて、特許や商標など産業
も認識したいですね。
アを出し合うような体制を構築すべ
財産権の維持等によく対応してくれ
佐藤:ネーミング案の絞り込みで、商
きだと思います。
ています。ただ、現実の社会での評価
標の登録可否を最初に問うこと自体、
上條:弁理士も、発明提案やネーミン
においては、
ノウハウや企業イメージ、
本質を見失っている気がします。商標
グについて、その企業の経営目的に
ブランドといった広義の知的財産価
の審査基準は承知していますが、事業
沿った知財コンサルティングに取り
値の影響も非常に大きいのです。
とブランド戦略の方針をまとめ、かな
組んでいきたいものですね。
(笑)
。ちなみに、吉田さんからみた知
The lnvention 2010 No.12
特別座談会「テクノロジーブランディング」
芦田:しかし、弁理士に期待する業務
5.できることから始めよう
田中:いかにメリットを見いだせるか
範囲は、企業や案件によって異なりま
芦田:中小企業のなかには、TBに投
という意識の問題だと思います。
すし、権利化業務のみを依頼される
資する余裕がないといったケースも
例えば現在、工場見学が流行ってい
ケースもありますよ。
あるのではないでしょうか?
ます。もちろん、技術流出対策は必要
田中:そこは臨機応変に対応すべきで
佐藤:大企業も最初は中小・零細企業
ですが、完成品との接点しかないユー
す。実際には商標を権利化することす
からスタートしています。大企業へと
ザーに作る過程を見せることには、多
ら気にもとめない企業もありますか
成長を遂げ、一流のブランドを構築す
くのメリットが存在するのです。
ら、そういうケースで弁理士がコンサ
るために、単にモノを作って売るだけ
佐渡:工場見学もTBの手法の一つ。
ルすれば、その評判が広がっていく。
ではなく、高邁な理念やビジョンを掲
つまり、ブランディングとはプロモー
そこに意義があると思います。
げて努力してきたはずなのです。
ションの結果そのものであり、いかに
芦田:ニーズの見極めが重要ですね。
中小企業もどこかでそういった努
演出するかなのです。Brandingの「ing」
佐渡:特許や商標のように法的保護に
力をしなければ、大きな成長は望めま
は、プロモーションが集積されている
よって守るだけではなく、ブランドや
せん。
「始めないと始まらない」
という
ことを意味し、その集積によってユー
イメージを構築することで守るとい
ことですね。
禅問答みたいですが……。
ザーにブランドが宿るのです。
う考え方も「アリ」だと思います。
佐渡:要は、初めの一歩をどこで踏み
プロモーションは、最初から巨額な
上條:確かに、法的保護がすべてでは
出すかだと思います。
投資をしなくても、今できることを積
ないですからね。
芦田:踏み出す勇気ということですか?
み重ねていくことが重要です。
【知財戦略の新しい位置づけ】
【新しいブランド戦略領域の出現】
©Quintsense
【知財戦略と美的感性戦略の統合】
©Quintsense
©Quintsense
2010 No.12 The lnvention 上條:
「そんな予算はない」で片づけ
り着かない。そこを再度意識して配慮
佐藤:分かってもらえなければ始まら
るなということですね。
することが、本当の「おもてなし」に
ない、まずはそこに気づくことです。
田中:そうです。技術開発にいたった
つながるのだと思います。
田中:魅力的なものに触れると、誰か
社長の思いを名刺の裏に記載するこ
佐藤:難解なうえに長文の技術説明書
に伝えたくなるのが人情です。そこを
とでもプロモーションになり得ます。
など、読む人はつらいだけですよね。
利用しない手はないし、それが「見え
佐藤:TBとは、
「技術を分かりやすく
上條:もしや、それは特許明細書のこ
る化」
「話せる化」
「広がる化」につな
魅せる化して伝えること」です。ウェ
とでしょうか?(笑)
。確かに、特許
がっていくのです。
ブサイトをもっと活用できるでしょう。
明細書は読む側に対する配慮が不足
芦田:ところで、吉田さんが社内に
田中:技術を説明するウェブサイトは
しているかもしれません。今後は、
「思
TBの導入を決心した時、社内の反応
分かりにくいものが多いですね。Bto
い込み」の知財業務を「思いやり」へ、
はいかがでしたか?
C企業の場合、多少ケアされています
さらに「おもてなし」の知財業務の域
吉田:新しい取り組みですから費用対
が……。しかし本来、分かりやすさと
にまで高めていきたいものですね。
効果も含めて説得するのはやはり難
いう意味では、BもCも関係ない。B
一同:素晴らしいっ!!
しいですし、組織にTBを浸透させる
の人も家に帰ってスーツを脱いだら、
田中:その思い込みをクールダウンす
のは容易なことではありません。
その瞬間からCですよ。
る一つの方法がワークショップです。
しかし、ユーザーに分かりやすく技
佐渡:ユーザーに分かりやすく伝える
市場側からみて、その技術が本当に
術情報を伝えるのは、方向性として正
には、
「おもてなし(hospitality)
」の
役立つのかということを理解し合う
しいことですから、それが認知されれ
精神が必要ですが、自分が情報の送り
絶好の場です。そこで、想定していな
ば一気に全社的なムーブメントを起
手になると、どんなに受け手を意識し
かった新しい価値をユーザーが見い
こせるという期待もあります。
たとしても、その域にはなかなかたど
だしてくれる可能性もあるのです。
先日、当社が十数年前に建てたマン
ションの購入を希望されるお客さま
がいて、
「あの建物は○○○工法で造
られていますよね?」と言うのです。
エンドユーザーから専門的な技術に
関する問い合わせがあったことに少
し驚きましたが、それと同時に、提供
したもののなかに技術はずっと生き
続けていて、そこをTBで守らないの
はもったいないことだと感じました。
芦田:現在は、具体的にどういった活
動に取り組んでいますか?
吉田:既存のパンフレットや提案書に
※撮影協力:三好内外国特許事務所
10 The lnvention 2010 No.12
対して、TB的視点で作り直したもの
特別座談会「テクノロジーブランディング」
をみんなに比較してもらうといった
吉田:部署の敷居を低くして、みんな
ません。
活動を始めています。
でコミュニケーションすべきですね。
それから、人に個性があるように、
芦田:例えば、
「インテル・インサイ
佐渡:そうしようと思うことが初めの
我々は技術にも人柄や人格のような
ド」キャンペーンのように、一般ユー
一歩。そして、待ちの姿勢ではなく、
ものを想定し、与えるべきだと考えま
ザーに対して部品の技術をアピール
積極的に動くことが大切です。
す。実体や技術思想が優れていたとし
するのは非常にTB的だと思いますが、
上條:社内におけるコミュニケーショ
ても、市場から「好ましい」と支持さ
広告費の一部負担等を含め、多くの部
ンはもちろんですが、各部門が、お客
れなければブランドにはなれません。
品メーカーがインテル社のような戦
さまやユーザーに思いをはせる意識
つまり体力や知力に、魅力あふれるセ
略をとるのは難しいですよね?
を共有することが重要だと思います。
ンスが備わってこそ「素晴らしい」と
吉田:セットメーカーが無視できない
佐藤:まさに、そこに尽きますね。
形容される存在になれるのです。
存在になるような戦略をTB的に工夫
芦田:それでは、TB研究会を代表し
すればいいのだと思います。
て佐藤さん、総括をお願いします。
佐藤:そこで評判になれば、誰かが自
佐藤:ブランドには、技術や製品のス
分のブログに掲載したり、それが口コ
ペックで比較判断できる品質に加え
ミで伝わったり、魅力化の輪が広がっ
て「知覚品質」という考えがあります。
て、良い情報がどんどん増殖していく
これは受け手の主観で形成される実
可能性がありますよ。
体の評価であり、コミュニケーション
佐渡:そのとき、その技術が何たるか
の巧拙で決まります。優れた技術だと
ということをできるだけ端的で分か
判断するのに十分な印象を与えなけ
りやすい言葉によってうまく表現し
れば、高い知覚品質を得ることはでき
この続きは「TBサロン」でお会いし
た時に……。
(
「発明」編集部)
【第1回「TBサロン」参加者募集!】
●日時:平成23年2月4日(金)15 ~ 17時
●場所:発明会館2階会議室
●内容:TBの具体的事例の紹介/TBの疑問・質
問にお答えします。
●参加費:無料
※12月号の本誌アンケート(p.71)のQ4の欄に
「TBサロン参加希望」とご記載のうえ、メール
アドレスも必ず明記してご連絡ください。本
誌編集部より参加票をメールでご連絡いたし
ます。
なお、応募者多数の場合は抽選とさせてい
ただきますので、あらかじめご了承ください。
ていくことがポイントです。
6.意識を変えれば行動も……
芦田:TBを円滑に進めていくために、
人材を流動化させるというのはいか
がでしょうか? 異なる部署や立場
に置かれることで、視野も広がってい
くのではないかと思うのですが……。
田中:ローテーションは各企業で状況
が異なると思います。もし、人材の流
動化がかなわなくても、相手の立場で
物事を考える意識を一人ひとりが持
つだけで新たな展開になるでしょう。
2010 No.12 The lnvention 11
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