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建設コンサルタントの持続可能性強化に関する研究

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建設コンサルタントの持続可能性強化に関する研究
平成 23 年度
修士論文
建設コンサルタントの持続可能性強化に関する研究
A study on cultivating functionalities & sustainability of Japanese engineering
consulting firms
高知工科大学大学院 工学研究科 基盤工学専攻
社会システム工学コース 1145128
中村 公紀
指導教員
草柳 俊二
Table of Contents
平 成 23 年 度
修 士 論 文 ............................................................................ 1
1. 序論 ............................................................................................ 1
1.1. 研究の背景と目的 ................................................................................ 1
1.2. 内容および構成 ................................................................................... 1
2. 我が国の建設コンサルタントの成り立ちと現状........................................ 2
2.1. 建設コンサルティング産業の形成過程........................................................ 2
2.2. 国内事業における建設コンサルタントの機能 ............................................... 4
2.3. 建設コンサルタントの経営状況と技術者継承問題 .......................................... 6
3. 海外 ODA 市場における我が国の建設コンサルタントの事業展開 ................. 9
3.1. 日本のコンサルタントの海外市場における進出過程 ....................................... 9
3.2. ODA(政府開発援助)事業への展開...................................................... 10
3.2.1. ODA の仕組みと近年の動向 ................................................................................. 10
3.2.2. ODA の実施形態と役割 ........................................................................................ 14
3.2.3. ODA において建設コンサルタントに求められる機能 .......................................... 20
3.3. 国内事業と海外事業における建設コンサルタントの機能の相違と考察 ............... 25
4. 建設コンサルタントのサービスと業態.................................................. 26
4.1. はじめに.......................................................................................... 26
4.2. 現在の市場構造とサービスの関係 ........................................................... 27
4.2.1. 国内における市場構造とサービスの関係 ............................................................. 27
4.2.2. 海外市場におけるプロジェクトの特徴 ................................................................ 28
4.3. 建設コンサルタントに対する要請(ニーズ)と市場の関係性 .......................... 30
4.3.1. 社会資本に対するニーズ ...................................................................................... 30
4.3.2. ニーズに対して形成されるコンサルタント市場 .................................................. 30
4.3.3. 建設コンサルタントの提供するサービス領域 ...................................................... 31
4.4. 今後の建設コンサルタント市場の変革と事業展開の方向性 ............................. 35
4.4.1. サービス領域・技術分野拡大によるコンサルタントの業態多様化 ..................... 35
4.4.2. 我が国のコンサルタント市場改革の方向性 ......................................................... 36
5. 結論 ........................................................................................... 37
謝辞 ............................................................................................... 38
1. 序論
1.1. 研究の背景と目的
我が国の建設投資の縮小につれて、建設コンサルタント市場は過当競争が続いている。一方
で、典型的なホワイトカラー産業であるコンサルタントは、収益の下方圧力を人件費削減や人
材の自然減により比較的容易に吸収できるため、技術者人口の減少が進んでいる。こうした状
況に対する危機感は、企業の海外進出の促進などに表れているが、依然として多くの技術者が
国内市場の中で業務に従事している。
こうした過当競争の要因として、建設コンサルタントの市場構造や業態の硬直性に原因があ
るのではないかと考え、コンサルタントの持続可能な成長と機能強化のため、その事業展開の
方向性について考察したものである。
1.2. 内容および構成
「2 我が国の建設コンサルタントの成り立ちと現状」において、国内(公共事業)における
建設コンサルタントの成り立ちと機能を整理し、国内建設コンサルタントの抱える課題を整理
した。
「3 海外 ODA 市場における我が国の建設コンサルタントの事業展開」において、海外(ODA
等の国際協力事業)における建設コンサルタントの成り立ちと機能を整理し、国内、海外にお
ける我が国建設コンサルタントの機能の相違を明らかにした。
「4 建設コンサルタントのサービスと業態」では、建設コンサルタントの機能(提供するサ
ービス)と市場の関係について、国内外の実態把握および概念的な整理を行った。さらに、我
が国の建設コンサルタントの機能・持続性強化に必要な事業展開の方向性を提示した。
-1-
2. 我が国の建設コンサルタントの成り立ちと現状
2.1. 建設コンサルティング産業の形成過程
ここでは、戦前から戦後にかけて我が国のコンサルタントが歩んできた歴史を整理し、我が
国の建設コンサルタントの成り立ちについて考える。また、建設コンサルタントの現状につい
て触れる。
戦前、我が国の公共事業は、内務省、鉄道省、農林省等の行政機関自らが企画、調査、計画、
設計から施工までを一貫して直営で行われることが一般的であった。戦後、連合国軍の設営指
令や国土復興の施策による公共事業の増大に伴い、工事の施工については順次施工業者(建設
業者)が実施するようになったものの、調査、計画、設計および施工監理については、なお、
官公庁自らの手によって行われていた。そうした中、施設設営にあたって、日本に建設コンサ
ルタント業がないことに気づいた米軍当局が、
「コンサルタント業や技術の活用」について勧告
する。その後、1948 年の嘱託制度廃止を背景に、政府はプロジェクトの調査・設計の一部を、
民間企業に委託する方策の制度化に努める。幸い戦後復興から社会資本整備の事業量が急速拡
大する中で、コンサルティングエンジニアの必要性は増し、このことはコンサルティングエン
ジニアに相当する日本語として「技術士」という新語を誕生させ、1951 年、日本技術士会が設
立される。
一方、同じ頃、欧米諸国の土木技術界に精通していた白石多士良・宗城の兄弟や平山復二郎
らは、戦後の国土復興や技術者のあり方について議論を行う「火曜会相談所」を組織している。
ここでも、日本への欧米式のコンサルタントエンジニア制度の導入の必要性が叫ばれており、
彼らは技術士の法制度化を訴えた。技術士法は、一度は廃案となったものの、原案から 6 年か
けて 1957(昭和 32 年)年 5 月 20 日に無事制定される。
さらに、昭和 30 年代になると、名神高速道路や東海道新幹線等の大規模事業が着手され、
公共事業量が急速に増加するとともに、外部民間技術力の活用への期待が高まりをみせる。こ
のような背景から、1959(昭和 34)年 1 月に建設コンサルタントの契約方式、標準契約書、価
格の積算方法などを規定した「土木事業にかかわる設計業務等を委託する場合の契約方式等に
ついて」が建設省より通達され、調査、計画、設計および施工監理についてはコンサルタント
に委託するようになる。この通達によって、任意の事業について原則として設計業務を行うも
のに施工を行わせてはならないという、いわゆる「設計・施工分離の原則」が明確化され、設
計業務(調査、計画、設計)を建設コンサルタントが行うという形態が確立された。
その後、先行する国内のコンサルタント会社 12 社で建設コンサルタンツ協会が昭和 36 年 4
月(1961 年 4 月)に設立され、昭和 38 年には建設大臣の許可を受けて社団法人化した。同年
9 月中央建設業審議会から「建設コンサルタントの育成対策について」として、建設コンサル
タントの活用をはかること、および発注者の便宜のため一定の技術的能力を有する者に限って
登録を実施すべきこと、との答申が出されることとなる。
-2-
これを受けて、建設コンサルタントの業務内容等を公示し、これらの建設コンサルタントを
利用する発注者の保護と利便をはかるとともに、併せて建設コンサルタントの健全な発展に資
するため、昭和 39 年 4 月(1964 年 4 月)建設大臣から「建設コンサルタント登録規程」が
告示され、建設コンサルタント登録制度が創設、これを契機に建設コンサルタントは飛躍的な
発展を遂げた。
-3-
2.2. 国内事業における建設コンサルタントの機能
前項では、我が国の建設コンサルタントの成り立ちおよび現状について整理した。本項では、
このような歴史とともに歩んできた我が国コンサルタントが、これまで国内建設産業のなかで
どのような機能を果たしてきたかについて、建設プロジェクトの各段階(企画・計画、設計、
入札・契約、施工、維持管理・運用)毎に述べる。
(1). 企画・計画段階
国内建設産業においては企画・計画の主要業務は発注者が担っている。企画・計画段階にお
いては、長期的な視点に立った計画立案能力、関係機関との調整能力、地域における合意形成
能力等の高度な技術力が必要とされるが、この段階でコンサルタントが機能することはほとん
どない。
近年、建設コンサルタントが事業評価、F/S(フィージビリティ・スタディ)等の調査業務に
より発注者を支援するケースは増加傾向にあるものの、主体的に実施するのは発注者であり、
建設コンサルタントはあくまで「支援」という形での参加である。
(2). 設計段階、入札・契約段階
戦前、公共事業の設計業務は、発注者自らが行うことが一般的であった。しかしながら、戦
後の公共事業の拡大や業務量の増大に伴い、現在では用地買収や発注に必要な設計図面の作成、
工事数量の算定等は、建設コンサルタントが主体となって実施することが一般的である。
(ただ
し、発注者と協議しながら、という形)設計および数量算出については建設コンサルタントが
主体的に行うが、工事の発注や入札書類の作成は、一般的に発注者が実施する。
近年では、地方公共団体等での技術者不足から、積算業務等の一部をコンサルタントへ委託
したり、施工者選定、技術力評価のアドバイザー的役割を求められたりと、その機能は広がり
を見せているが、まだ市場規模はわずかである。
(3). 施工段階
公共工事においては、発注者と施工者の二者の間で結ばれる工事請負契約によって、それぞ
れの機能が定められている。したがって、一般的にコンサルタントは、施工時に携わることは
少ない。特殊構造物や大規模構造物の建設プロジェクトなどでは、コンサルタントが現場技術
業務や施工監理業務を請け負って、工事の品質管理等を実施することがあるが、通常、その役
割は発注者の監督者補助の域を出ることはない。
しかしながら近年では、平成 17 年度以降、国土交通省を中心に三者合同技術連絡会議が制
度化されたことを受け、工事着手段階および工事中に、発注者、施工者および設計者の三者が
参加して設計意図を共有し、適切な設計・施工方法を協議、調整するケースが増えつつある。
建設コンサルタントが徐々に施工時に関与することが行われ始めており、施工段階における建
設コンサルタントの役割は拡大傾向にあるが、役割上、道義上の責任はあっても、契約上の責
任は規定されていない。このため、コンサルタント側には過度のリスクを負わされる事を敬遠
して積極的に関与できない場合もあり、今後の課題といえる。
-4-
があり、施工時役割を果たす能力を有しています。また、近年、国土交通省や一部の自治
体では設計・施工調整会議が試行され、建設コンサルタントが設計者として参画していま
す(図 3-1-3)。
3者合同技術連絡会議開催フロー例
工事請負者
発注者
コンサルタント
入札・工事請負契約の締結
「設計照査ガイドライン」に
基づく設計照査
問題あり
①
②
質問内容の検討
関係者及び日程調整
資料及び質問書の提出
「合同技術連絡会」の要請
要 請
「3者合同技術連絡会議」の開催
「三者合同技術連絡会議」の開催
受 諾
回 答
参 加
開 催
参 加
三者合同技術連絡会議の運営(設計意図の伝達)
3者合同技術連絡会議の運営(設計意図の伝達)
②詳細設計の設計内容に関する事項
②詳細設計の設計内容に関する事項
③条件変更に関する事項
④設計図書の照査に関する事項
③条件変更に関する事項
④設計図書の照査に関する事項
⑤新技術の提案などのコスト縮減に関する事項 ⑥その他必要と認めた事項
⑥その他必要と認めた事項
⑤新技術の提案などのコスト縮減に関する事項
①当該工事の品質確保に関する事項
①当該工事の品質確保に関する事項
必要に応じた変更設計成果の作成
工事着手
施工条件の変化
要 請
「合同技術連絡会」の要請
参 加
「3者合同技術連絡会議」の開催
「三者合同技術連絡会議」の開催
三者合同技術連絡会議の運営(施工中の変更協議)
3者合同技術連絡会議の運営(施工中の変更協議)
②詳細設計変更の必要性に関する事項
②詳細設計変更の必要性に関する事項
③設計図書変更に関する事項
④その他必要と認めた事項
④その他必要と認めた事項
③設計図書変更に関する事項
受 諾
参 加
①条件変更に関する事項
①条件変更に関する事項
必要に応じた変更設計成果の作成
工事継続
図 3-1-3 三者合同技術連絡会議の例
図 2-1 三者合同技術連絡会議の例例
(4). 維持管理・運用
維持・管理段階においては、建設コンサルタントが実施することは希であり、大部分は発注
者によって実施されている。橋梁等の構造物では、建設時と同様に補修/補強に関する計画・
設計をコンサルタントが受託するほか、点検業務が増加傾向にある。
今後は、アセットマネジメントによる包括的な経済性調査や施設の運用、利活用計画立案な
どにより、維持・管理・運用段階における建設コンサルタントの活用が期待されている。
-5-
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2.3. 建設コンサルタントの経営状況と技術者継承問題
日本国内におけるコンサルタント関係5団体の受注量の推移を図 2-2 に示す。平成 11 年度
以降、年々減少しており、平成 21 年度までの 10 年間で約 30%減少している。
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図 2-2 建設コンサルタント関係5団体の受注⾼高
ここで、現在までの建設コンサルタント数の推移として、登録コンサルタント数を図 2-3 に
示す。建設コンサルタント登録企業数は、昭和 39 年度(1964 年度)の当初 226 社から継続的
な建設投資の増加とともに年々増加し、平成 18 年度(2006 年度)には 4,214 社にまで至る。
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これをピークに減少に転じ平成 21 年度(2009 年度)には 3,952 社まで若干減少している。し
かし、その減少量は建設投資額やコンサルタント部門全般の売上高の減少率に比べて緩やかで
ある。市場の需給バランスの均衡は一般にやや時差が生じることから、今後さらにコンサルタ
ント企業数は減少傾向にあるとも考えられる。
-6-
図 2-3 建設コンサルタント登録企業および建コン協会員企業数
ただし、こうした受注減に伴う対策を各社が講じており、必ずしも減少一辺倒になるとは言
い切れない面もある。建設コンサルタントのコストの大部分は人件費であり、給与削減や従事
者の自然減(他産業への流出)で比較的容易にコスト削減ができるため、突発的な倒産は生じ
にくいといえる点が特徴的である。むしろ、こうしたコスト削減の効果から、企業の経営体質
を示す指標はここ数年、健全化しつつある。このため、今後とも企業数が激変することは考え
にくく、競争による受注単価の減少に伴って、人件費に対する下方圧力も強まっている。
一方で、コンサルタントの業務はより従来の設計/数量計算の範囲から、事業の関係機関と
の調整補助など、複雑化する傾向にある。詳細設計等に見られる図面・数量計算の作成量で計
る事を基本とした報酬体系においては、こうした行為が成果としての評価されにくく、コスト
効率は低くなる。このため、企業としての受注高が減少しても、技術者一人当たりの作業量は
ほとんど変わらないか、人員の減少によってむしろ増加傾向にあると推察される。こうした点
は、近年、超過勤務の問題として深刻化している。
以上のように、従来のコンサルタントにとっての市場構造は、現状では、個々の技術者の仕
事に対するモチベーションを低下させる状況にあると考えられる。図 2-4 の年齢構成を見ても
わかるように、20-30 代の次世代を担う年齢層の比率が極端に低い。さらに、高齢化によりいわ
ゆる管理層の比率が高くなっている事から、管理コストが増加する傾向にある。こうした歪ん
だ年齢構成は、コンサルタント企業にとっての技術的基礎体力を低下させる一方、コストの高
止まりを生む結果となっている。一般的に少子化傾向にある中で、後継人材の確保はより一層
難しくなる。結果として、産業規模とともに人材・技術の衰退が起きる方向にあると考えられ
る。
-7-
9.建設コンサルタント技術者の年齢別構成
10
図 2-4 建コン協会員企業の技術者⼈人⼝口
各企業はこうしたなかで従来の分野のみに固執するのではなく、隣接領域への展開を模索し
始めている。例えば、道路・橋梁等を手がける大手コンサルタントが、測量・地質の専業コン
サルタントを買収して、分野をするなどがある。しかし、何れにせよ、コンサルタントが主戦
場とする市場は、いわゆる「コンサルタント業務」である設計業務の枠内に限定され続けてい
るため、過当競争から脱却できずにいる。
こうした業態の多様性の欠如が、我が国のコンサルタントが抱える大きな問題の一つである
と考える。過当競争に起因する建設コンサルタントの人口問題は、そのまま技術継承問題とな
って顕在化しつつある。今後 10 年、20 年で、経済的理由よりも人員不足によりコンサルタン
トが自主廃業をするといったケースも起こりうると考えられるのである。
技術継承を可能とするだけの技術者人口の確保には、それに見合った市場規模のもとで適正
な競争を行える必要である。しかし、現在の建設コンサルタントの市場(設計業務)は今後拡
大することはない。このため、同じ設計業務の範囲で隣接分野に手を広げるくらいでは供給過
剰は解消されないであろう。
だからこそ、我が国の建設コンサルタントは、市場の垣根を乗り越え、産業全体の中での川
上、川下に手を広げていく必要があると考える。これは、海外で意味するところの Consulting
Firm の業態に近づいていく事を意味する。そこで、
「3 海外 ODA 市場における我が国の建設コ
ンサルタントの事業展開」では、国際建設プロジェクトにおける我が国のコンサルタントの成
り立ちおよび位置づけについて整理する。
-8-
3. 海外 ODA 市場における我が国の建設コンサルタントの事業展開
3.1. 日本のコンサルタントの海外市場における進出過程
ここでは、我が国の建設コンサルタントが、海外で行ってきたコンサルティングの歴史につ
いて述べる。
戦前、日本の建設関連企業の海外での建設活動は、当時、植民地あるいは占領地であった台
湾、朝鮮半島、満州(現在の中国東北部)、樺太(現サハリン)、中国本土の一部、太平洋諸島
など、様々な地域で行われていた。その活動内容(工事)は道路、港湾、鉄道の建設をはじめ
として上水道整備、水力発電開発、灌漑工事など、産業発展の基盤となるインフラの整備とい
えるものであり、それぞれの国の発展を支えるものであった。これらの事業は、敗戦とともに
打ち切られたが、各事業で造られた構造物のなかには現在も生き続け、現役で活躍するものも
数多く存在する。
戦後の海外における主な建設活動は、アジア諸国(ビルマ、インドネシア、ベトナム、ラオ
ス、香港)での戦後賠償工事であった。戦後、コンサルタント会社は各途上国を回り、インフ
ラが必要となる土地を調査し、これを途上国政府に対し開発プロジェクトとして提出した。イ
ンフラ整備には莫大な資金が必要となるため、途上国政府では資金調達が問題となる。そこで、
日本政府が戦後賠償としてプロジェクトへ出資し、建設は日本の企業が行うという形で、戦後
賠償工事が実施されることとなった。このなかで、建設コンサルタントが援助案件を発掘し、
それを日本の建設会社が請け負うという援助実施における基本パターンが確立されていった。
その後、戦後賠償活動における案件発掘調査の充実を目的に、建設コンサルタントは政府に
対し、案件発掘調査の助成を働きかけるとともに、業界団体を組織する方向へ進んだ。その結
果、旧建設省主導のもと(社)国際建設技術協会、(社)建設コンサルタンツ協会が設立され、
さらには旧通産省主導のもと(社)海外コンサルティング企業協会が設立されることとなった。
このようにして、業界全体として開発援助を行う枠組みが形成され、海外における ODA 案件
の発掘、形成に関する連絡、情報交換、政策提言が行われてきている。
-9-
3.2. ODA(政府開発援助)事業への展開
前項では、我が国の建設コンサルタントの国際建設プロジェクトへの関わりについて、歴史
を追って述べた。ここでは、まず、現在の国際建設プロジェクトの7∼8割を占める ODA(政
府開発援助)事業の仕組みと近年の ODA の動向について整理し、ODA 事業における我が国
の建設コンサルタントの機能について整理する。
3.2.1. ODA の仕組みと近年の動向
政府開発援助(Official Development Assistance)は、開発途上国の経済・社会の発展や、福
祉の向上に貢献するため、政府が行う資金や技術による協力のことで、日本は約 140 以上の国
や地域に援助を行っている。ODA には、途上国に対して直接援助を実施する二国間援助(無
償資金協力、技術協力、有償資金協力)と、国際機関を通じた多国間援助がある。二国間援助
は二国間援助および二国間政府貸付(有償資金協力)に分類され、さらに二国間贈与は無償資
金協力および技術協力に分けられる。二国間政府貸付は、日本政府と対象被援助国の二国間の
有償援助であり、主体は「有償プロジェクトへの資金援助(プロジェクト借款、ノンプロジェ
クト借款および債務繰り延べ)」である。これらの援助形態は、援助を受ける国の要望を受けて、
相手国と協議し援助の内容を決定する。
多国間援助は、世界銀行、アジア開発銀行、アフリカ開発銀行等、国際援助機関への出資・
拠出であり、主な実施機関は外務省である。ここで、2008 年度 ODA 白書の世界各国の援助額
より、近年の我が国の ODA 事業について述べる。
2007 年度の我が国の政府開発援助実績は、支出純額(ネットベース)で、二国間政府開発援
助が約 57 億 7,815 万ドル(約 6,807 億円)、国際機関に対する出資・拠出などが約 19 億 80 万
ドル(約 2,239 億円)、政府開発援助全体では対前年比 31%減の約 76 億 7,895 万ドル(円ベー
スでは対前年比 30.2%減の約 9,046 億円)となっている。
- 10 -
を決定する。
多国間援助は、世界銀行、アジア開発銀行、アフリカ開発銀行等、国際援助機関への
出資・拠出であり、主な実施機関は外務省である。
無償資金協力
・ 経済開発等援助
・ 食料増産等援助
等
贈与
技術協力
・
・
・
・
・
・
二国間援助
政府開発援助
(ODA)
開発調査
研修員受入
青年海外協力隊派遣
技術協力プロジェクト
専門家派遣
国際緊急援助派遣
有償資金協力
政府貸付等
・ プロジェクト借款
・ ノンプロジェクト借款
・ 債務繰り延べ
は米国が圧倒的にリードしていたが、80 年代後半からかつての被援助国日本が援助国
国際機関に対する出資・拠出
へと変身を遂げ、90 年代にはいると冷戦後の国際政治の環境変化の中で、米国、ある
・ 世界銀行
多国間援助
・ アジア開発銀行
いは欧州各国の援助実績が落ち込み、日本が世界一の援助国として台頭した。その後、
・ アフリカ開発銀行
日本は 1993 年から 2000 年までの 8 年間 ODA トップの座を保つが、2001
年の 9.11
等
テロ事件以降、米国を始めとした欧州各国の援助額を拡大させている一方で、日本は厳
図 2-5 ODA の形態別分類
しい財政難を背景に ODA を抑制しており、欧米に大きく水をあけられ、OECD-DAC
図 3-1 ODA の形態別分類
加盟国では米国、ドイツ、フランス、英国に続く第5位となった。
ここで、2008 年度 ODA 白書の世界各国の援助額より、近年の我が国の ODA 事業に
ついて述べる。
2007 年度の我が国の政府開発援助実績は、支出純額(ネットベース)で、二国間政
府開発援助が約 57 億 7,815 万ドル(約 6,807 億円)、国際機関に対する出資・拠出など
が約 19 億 80 万ドル(約 2、239 億円)
、政府開発援助全体では対前年比 31%減の約 76
億 7,895 万ドル(円ベースでは対前年比 30.2%減の約 9,046 億円)となっている。
図 2-8 に世界各国の ODA 実績の推移を示す。先進国の ODA は 1980 年代前半まで
12
ODA 白書 2008 より抜粋
図 2-6 日本の ODA 予算の推移・他の主要経費の推移
図 3-2 ⽇日本の ODA 予算の推移・他の主要経費の推移
- 11 -
ODA 白書 2008 より抜粋
図 2-6 日本の ODA 予算の推移・他の主要経費の推移
ODA 白書 2008 より抜粋
図 2-7 近年の DAC 主要国の ODA 実績の推移(支出純額ベース)
図 3-3 近年年の DAC 主要国の ODA 実績の推移(⽀支出純額ベース)
図 3-3 に世界各国の ODA 実績の推移を示す。先進国の ODA は 1980 年代前半までは米国
が圧倒的にリードしていたが、80 年代後半からかつての被援助国日本が援助国へと変身を遂げ、
90 年代にはいると冷戦後の国際政治の環境変化の中で、米国、あるいは欧州各国の援助実績が
落ち込み、日本が世界一の援助国として台頭した。その後、日本は 1993 年から 2000 年までの
8 年間 ODA トップの座を保つが、2001 年の 13
9.11 テロ事件以降、米国を始めとした欧州各国
の援助額を拡大させている一方で、日本は厳しい財政難を背景に ODA を抑制しており、欧米
に大きく水をあけられ、OECD-DAC 加盟国では米国、ドイツ、フランス、英国に続く第5位
となった。
- 12 -
社会実情データ図録(http://www2.ttcn.ne.jp/honkawa) より抜粋
図 2-8 1970 年以降の DAC 主要国の ODA 実績の推移(支出純額ベース)
図 3-4 1970 年年以降降の DAC 主要国の ODA 実績の推移(⽀支出純額ベース)
14
- 13 -
次に、各援助形態(無償資金協力、技術協力、有償資金協力)の仕組みについて外務
省 HP(http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/index.html)等を参考にまとめる。
3.2.2. ODA の実施形態と役割
(1)無償資金協力
1)無償資金協力とは
(1). 無償資金協力
無償資金協力とは、被援助国(開発途上国)等に返済義務を課さないで資金を供与(贈
1). 無償資金協力とは
与)する経済協力の一形態である。我が国の無償資金協力は、原則的に資金供与の形態
無償資金協力とは、被援助国(開発途上国)等に返済義務を課さないで資金を供与(贈与)
をとっており、現物供与ではなく、開発途上国が経済社会開発のための計画に必要な資
する経済協力の一形態である。我が国の無償資金協力は、原則的に資金供与の形態をとってお
機材、設備および役務(技術および輸送等)を調達するために必要な資金を贈与するも
り、現物供与ではなく、開発途上国が経済社会開発のための計画に必要な資機材、設備および
のである。
役務(技術および輸送等)を調達するために必要な資金を贈与するものである。
近年の無償資金協力事業予算の推移をみてみる。図 2-9 に近年の無償資金協力事業予
近年の無償資金協力事業予算の推移をみてみる。図 3-5 に近年の無償資金協力事業予算の推
算の推移を示す。2002
年度まで 2,000 億円を維持していた無償資金協力であったが、
移を示す。2002 年度まで 2,000 億円を維持していた無償資金協力であったが、2003 年に 2,000
2003 年に 2,000 億円を割る形となった。
その後も微減を続けており、2008 年度は 1,630
億円を割る形となった。その後も微減を続けており、2008 年度は 1,630 億円となっている。
億円となっている。
ODA 白書 2009 参考資料集より抜粋
図 2-9 近年の無償資金協力事業予算の推移
図 3-5 近年年の無償資⾦金金協⼒力力事業予算の推移
15
- 14 -
また、図
3-62-10
に無償資金協力額および
ODA ODA
全額の推移を示す。概ね、全
ODA ODA
額の1∼2
また、図
に無償資金協力額および
全額の推移を示す。概ね、全
額の
割の比率で推移している。
1∼2割の比率で推移している。
無償資金協力額の推移
(百万米ドル)
18,000
無償資金協力額
ODA
16,000
14,000
12,000
10,000
8,000
6,000
4,000
2003
2001
1999
1997
1995
1993
1991
1989
1987
1985
1983
1981
1979
1977
1975
1973
1971
1969
1967
1965
1963
0
1961
2,000
総務省統計局データ より抜粋
図 2-10 無償資金協力額の推移
図 3-6 無償資⾦金金協⼒力力額の推移
2)役割と形態
無償資金協力は、開発途上国・国際社会のニーズに迅速かつ機動的に応えることから、
2). 役割と形態
外交ツールとしての意味合いが強い。
無償資金協力は、開発途上国・国際社会のニーズに迅速かつ機動的に応えることから、外交
支援対象国は開発途上国の中でも所得水準の低い国であり、支援対象分野は基礎生活
ツールとしての意味合いが強い。
分野(Basic Human Needs: BHN[保健・感染症、衛生、水、教育、農村・農業開発等])
、
社会基盤整備、環境および人造り等幅広い。近年では、平和の構築・定着支援や地雷対
支援対象国は開発途上国の中でも所得水準の低い国であり、支援対象分野は基礎生活分野
策、テロ・海上保安対策など、多様なニーズへの対応が行われている。
(Basic
Human Needs: BHN[保健・感染症、衛生、水、教育、農村・農業開発等])、社会基盤
整備、環境および人造り等幅広い。近年では、平和の構築・定着支援や地雷対策、テロ・海上
保安対策など、多様なニーズへの対応が行われている。
16
- 15 -
図 3-7 ⼀一般プロジェクト無償資⾦金金協⼒力力の流流れ
外務省 HP より抜粋
図 2-11 一般プロジェクト無償資金協力の流れ
(2)技術協力
(2). 技術協力
1)技術協力とは
1). 技術協力とは
技術協力は、開発途上国の社会開発や経済開発の担い手となる人材の育成を目的とし、
技術協力は、開発途上国の社会開発や経済開発の担い手となる人材の育成を目的とし、その
そのために日本の技術や技能、知識を開発途上国に移転、またはその国の実情にあった
ために日本の技術や技能、知識を開発途上国に移転、またはその国の実情にあった適切な技術
開発支援、技術水準の向上、制度や組織の確立や整備などを行うものである。具体例を、下記
適切な技術開発支援、
技術水準の向上、制度や組織の確立や整備などを行うものである。
に示す。
具体例を、下記に示す。
・開発途上国の技術者や行政官等に対する技術研修の実施
・ 開発途上国の技術者や行政官等に対する技術研修の実施
・専門的な技術や知識をもつ専門家やボランティアの派遣
・ 専門的な技術や知識をもつ専門家やボランティアの派遣
・ 都市や農業、運輸など各種の開発計画の作成
・都市や農業、運輸など各種の開発計画の作成
・ 資源の開発などを支援する開発調査
・資源の開発などを支援する開発調査
- 16 -
協力分野は、保健・医療などの基礎生活分野から産業化に必要な技術分野にまでわた
る。このように広範囲に渡る分野で、日本の技術、ノウハウを相手国の指導的役割を担
う人々(カウンターパート)に教育し、彼らを通じて技術を広く伝えることにより、国
協力分野は、保健・医療などの基礎生活分野から産業化に必要な技術分野にまでわたる。こ
の発展に寄与することを期待している。
のように広範囲に渡る分野で、日本の技術、ノウハウを相手国の指導的役割を担う人々(カウ
2)役割と形態
ンターパート)に教育し、彼らを通じて技術を広く伝えることにより、国の発展に寄与するこ
技術協力は多様な形態をとり、留学生の受入れについても技術協力にあたる場合もあ
とを期待している。
る。また、実施主体についても、政府ベースで行われるものから、海外進出企業との関
2).
役割と形態
連で行われるもの、
さらにはボランティア団体の国際協力活動の一環として行うものま
で、きわめて多岐に渡る。まず、我が国の政府ベースの技術協力として行うものは、技
技術協力は多様な形態をとり、留学生の受入れについても技術協力にあたる場合もある。ま
術研修員の受入れ、専門家の派遣、機材の供与に加え、開発調査、青年海外協力隊の派
た、実施主体についても、政府ベースで行われるものから、海外進出企業との関連で行われる
遣などがあり、国際協力事業団(JICA)が中核的な役割を果たしている。また、JICA で
もの、さらにはボランティア団体の国際協力活動の一環として行うものまで、きわめて多岐に
は海外における大規模な災害等に際し、「国際緊急援助隊」を派遣し、国際的な援助活
渡る。まず、我が国の政府ベースの技術協力として行うものは、技術研修員の受入れ、専門家
動にあたるための業務も行っている。
の派遣、
機材の供与に加え、開発調査、青年海外協力隊の派遣などがあり、国際協力事業団(JICA)
その他、公的資金で実施される技術協力事業として、途上国からの国費留学生の受入
が中核的な役割を果たしている。また、JICA
では海外における大規模な災害等に際し、「国際
緊急援助隊」を派遣し、国際的な援助活動にあたるための業務も行っている。
れ事業、各省庁付属機関などが途上国政府機関との間で実施している調査研究事業など
がある。
その他、公的資金で実施される技術協力事業として、途上国からの国費留学生の受入れ事業、
各省庁付属機関などが途上国政府機関との間で実施している調査研究事業などがある。
技術協力額の推移
(百万米ドル)
18000
技術協力額
ODA
16000
14000
12000
10000
8000
6000
4000
2003
2001
1999
1997
1995
1993
1991
図 2-12 技術協力額の推移
1989
1987
1985
1983
1981
1979
1977
1975
1973
1971
1969
1967
1965
1963
0
1961
2000
図 3-8 技術協⼒力力額の推移
(3). 有償資金協力
1). 有償資金協力とは
有償資金協力とは、
「円借款」と呼ばれる政府直接借款であり、低金利で返済期間の長い緩や
18
- 17 -
(3)有償資金協力
1)有償資金協力とは
有償資金協力とは、「円借款」と呼ばれる政府直接借款であり、低金利で返済期間の
長い緩やかな条件で、開発途上国に対して開発資金を貸付ける援助形態となる。
かな条件で、開発途上国に対して開発資金を貸付ける援助形態となる。
開発途上国に対する援助を行うにあたっては、贈与に加え、開発途上国に借款を供与
開発途上国に対する援助を行うにあたっては、贈与に加え、開発途上国に借款を供与し、返
し、返済義務を課すことによって、その国の自助努力を一層促すことができると考えら
済義務を課すことによって、その国の自助努力を一層促すことができると考えられる。我が国
れる。我が国は、当該国の所得水準等種々の要素を考慮して借款条件を決定しており、
は、当該国の所得水準等種々の要素を考慮して借款条件を決定しており、対象国は LDC(後開発
対象国は LDC(後開発途上国)から中進国までである。
途上国)から中進国までである。
有償資金協力額の推移を下記に示す。1999 年度に 40 億ドルを超えていた円借款は、
有償資金協力額の推移を下記に示す。1999
年度に 40 億ドルを超えていた円借款は、年々減
年々減少をみせ、2003 年度には 20 億ドルを切った。
少をみせ、2003 年度には 20 億ドルを切った。
有償資金協力額の推移
(百万米ドル)
18,000
有償資金協力額
ODA
16,000
14,000
12,000
10,000
8,000
6,000
4,000
2003
2001
1999
1997
1995
1993
1991
1989
1987
1985
1983
1981
1979
1977
1975
1973
1971
1969
1967
1965
1963
0
1961
2,000
図 2-13 有償資金協力額の推移
図 3-9 有償資⾦金金協⼒力力額の推移
2)役割と形態
長期的にみて途上国が経済的自立を達成し、また貧困削減を図っていくためには、恒
2). 役割と形態
常的で持続的な経済成長を可能とするような経済基盤、社会基盤の底上げが必要である。
長期的にみて途上国が経済的自立を達成し、また貧困削減を図っていくためには、恒常的で
しかし、途上国においては、そうした基盤整備に必要な資金を市場メカニズムだけで調
持続的な経済成長を可能とするような経済基盤、社会基盤の底上げが必要である。
達することは困難であり、そこで緩やかな条件で供与する円借款の役割が発揮される。
援助としての借款の基本的な役割は、その国の開発のために必要な国内資源を補完す
しかし、途上国においては、そうした基盤整備に必要な資金を市場メカニズムだけで調達す
ることにある。したがって、借款をどのような分野に供与するかは、相手国の経済構造、
ることは困難であり、そこで緩やかな条件で供与する円借款の役割が発揮される。援助として
の借款の基本的な役割は、その国の開発のために必要な国内資源を補完することにある。した
がって、借款をどのような分野に供与するかは、相手国の経済構造、政府の開発計画および国
19
内開発資金配分政策によって異なる。
道路、鉄道、橋の建設・整備などの陸運分野、港湾などの海運分野、発電所や送電施設等の
電力分野など――いわゆる「経済インフラ部門」に対するプロジェクト借款が円借款全体に占
- 18 -
める比率(金額ベース)は、2004 年度には 57.1%(交換公文ベース)となっており、大部分を占め
ている。しかし近年は、灌漑などの農業分野、上下水道整備や植林事業などの環境分野、農村
開発のためのマイクロ・クレジット、留学生借款などの人造り分野など多様な分野にも円借款
が供与されている。また、最近の特徴として、貧困削減、社会開発のための資金需要の増加、
地球環境保全等の地球規模問題への対応の必要性の高まりなど、各国の開発ニーズが多様化し、
開発援助に求められる機能がますます多様化、高度化している。
3). 要請の受理、調査、検討と審査
円借款供与を決定するに際しては、所要の調査を行った上で、プロジェクトの適格性、相手
国の経済・財政状況および経済開発計画、相手国の規模および発展段階、我が国と相手国との
外交関係、我が国の財政状況など諸般の点を総合的に検討することとしている。
- 19 -
3.2.3. ODA において建設コンサルタントに求められる機能
前項では、ODA 事業の仕組みと近年の動向について述べた。ここでは、ODA 事業において
求められるコンサルタントの機能について述べる。ODA 事業では、企画・計画段階、設計、
積算、入札・契約段階については発注者とコンサルタントの2者により、また、施工段階は発
注者、コンサルタントおよび工事請負者の3者が主となってプロジェクトが遂行される。この
中でコンサルタントは、企画・計画、設計の実施、施工監理に対して主として技術的側面から
プロジェクトを円滑に実施する機能を担う。ODA の各段階におけるコンサルタントの機能を
下記に示す。
(1). 企画・計画段階
企画段階においては、通常、JICA が被援助国の現地事務所、日本大使館、領事館を通して、
プロジェクトファインディング(案件発掘)を行うが、これらの在外公館や事務所職員は多く
の業務を抱えている場合や、現地にこれらの機関が設置されていない場合もある。このような
場合、コンサルタントは、日本大使館、領事館、JICA 現地事務所に代わり現地調査を行い、被
援助国に適したプロジェクトを見つけ出すという重要な役割を担う。プロジェクトファインデ
ィングは、被援助国の現地へ出向き、地域住民、政府機関、NGO、政策関係者等のステークホ
ルダーの意見について調査し、被援助国における必要性はもちろん、効果および持続性確保が
可能なプロジェクトを発掘、形成するという重要な段階であり、コンサルタントが果たす役割
は大きい。しかしながら、現実には JICA 調査団や関係省庁の官僚による官主導の調査が主流
である。
計画段階においては、発掘されたプロジェクトに対して事業化実現可能性についての調査お
よび評価(フィージビリティ・スタディ、F/S)が行われる。F/S は、事業実施の可否を決め
る調査である。具体的には、被援助国政府が援助の供与を要請する前に、そのプロジェクトが
技術的、経済的、財務的に可能かどうか、さらに社会、自然環境に対する影響を評価し、ステ
ークホルダーとの間で合意形成を実現するものである。さらに実施機関、銀行、投資家が実施
の可否を決めるための判断材料の提供という意味合いも含む。F/S は、プロジェクトの可否を
見極め、念入りな調査を基に不備のない事業を行うという点において重要な段階であり、コン
サルタントが果たす役割は大きい。
この段階では、発注者は JICA であり、コンサルタントは JICA と委託契約を結び調査業務
を行う。
(2). 設計段階、入札・契約段階
設計段階におけるコンサルタントの主な作業は、F/S レビュー、基本設計(B/D)、詳細設計
(D/D)、数量明細書(BOQ)および入札図書の作成である。設計作業の流れを図 2-14 に示す。
一般的な国際プロジェクトにおいて、コンサルタントは永久構造物の設計、コントラクター(請
負施工業者)は仮設構造物の設計という区分がなされ、当然のことながら、それぞれ担当した
構造物に対する責任を有する。この内、F/S レビューおよび入札図書作成については、国内公
共事業のコンサルタント業務では一般に行わない業務である。
- 20 -
契約書
基本設計(B/D)
/TOR(Terms of References)
・
・
・
・
・
Inception Works
・
・
F/S の見直し
作業実施計画の作成
Basic Design Report
追加現地調査
・
・
・
・
資料収集分析および調査
測量
水文,地質,材料調査
自然環境・資源調査
F/S レビュー
・
基本設計条件の確認,精査
構造計算
代案比較検討
基本寸法の決定
概略図面作成
概略施工計画検討
発注者との協議
詳細設計(D/D)
・
・
・
構造解析および設計
詳細図面(入札用)作成
数量計算
Inception Repot
発注者との協議
・
・
・
・
・
・
・
入札指示書
契約条件書
技術仕様書
関連様式
契約合意書サンプル
保証書サンプル
設計図面
Detail Design Report (Draft)
設計基準・条件設定
・
・
・
入札図書の作成
発注者との協議
適用基準
基本条件
自然条件
Detail Design Report (Final)
図 3-10 2-14 設計作業の流流れ
設計作業の流れ
図
これら一連の作業が完了すると、コンサルタントは発注者(現地政府)が行う工事入
これら一連の作業が完了すると、コンサルタントは発注者(現地政府)が行う工事入札およ
札および請負契約締結の支援を行う。図
2-15 に入札・契約の流れを示す。
び請負契約締結の支援を行う。図
2-15 に入札・契約の流れを示す。入札・契約段階において建
入札・契約段階において建設コンサルタントには、発注者の支援(実施機関は、入札
設コンサルタントには、発注者の支援(実施機関は、入札評価への関与を推奨)機能が求めら
評価への関与を推奨)機能が求められる。入札評価を行う立場において、建設コンサル
れる。入札評価を行う立場において、建設コンサルタントには、公平さと透明性はもちろんの
タントには、公平さと透明性はもちろんのこと、応札者からの応札図書から工事内容の
こと、応札者からの応札図書から工事内容の理解度や計画能力を把握し、現場における生産技
理解度や計画能力を把握し、現場における生産技術を適切に評価する能力が必要である。
術を適切に評価する能力が必要である。
特に、「工事内訳書」、「施工計画書」、「工程表」については、それぞれの記載事項が整
特に、
「工事内訳書」、
「施工計画書」、
「工程表」については、それぞれの記載事項が整合を保
合を保った内容であるかどうかを適切に判断するためにも、コンサルタントには施工に
った内容であるかどうかを適切に判断するためにも、コンサルタントには施工に関する知識と
経験が求められる。しかしながら、実情として我が国の建設コンサルタントには、現場や施工
を熟知するエンジニアが少ないともいわれている。
22
- 21 -
(3). 施工段階
施工段階においてコンサルタントに求められる機能は、施工監理機能である。国際建設プロ
ジェクトにおける工事契約には、国際コンサルティングエンジニア連盟(FIDIC)契約約款が
使用されることが多い。FIDIC 契約約款では、工事契約の当事者である「発注者」、「請負者」
関する知識と経験が求められる。しかしながら、実情として我が国の建設コンサルタン
に加え、コンサルタントは「エンジニア(The Engineer)」という立場で登場し、その権限と義
トには、現場や施工を熟知するエンジニアが少ないともいわれている。
務が規定されている。
入札図書の作成
事前資格審査書類(PQ 書類)作成
入札参加希望者
PQ 公示
評価基準により選定
関係機関との同意
応札資格審査合格者の決定
応募(期間1ヶ月)
PQ 書類提出
入札案内
入札案内の配布
入札図書
入札図書の配布
出席
入札前会議,現地説明会,質疑
入札
応札書提出
入札評価
関係機関との同意
明確化,契約交渉会議
Clarification, Negotiation
落札者の決定
入札受諾書
入札受諾書/落札通知書の配布
契約同意書調印
図 2-15 入札から契約調印までの流れ
図 3-11 ⼊入札から契約調印までの流流れ
(3)施工段階
施工段階においてコンサルタントに求められる機能は、施工監理機能である。国際建
設プロジェクトにおける工事契約には、国際コンサルティングエンジニア連盟(FIDIC)
契約約款が使用されることが多い。FIDIC 契約約款では、工事契約の当事者である「発
注者」
、
「請負者」に加え、コンサルタントは「エンジニア(The Engineer)
」という立
- 22
23 -
場で登場し、その権限と義務が規定されている。
一般的にコンサルタントは、発注者からの指名を受け、図面発給、施工計画や材料等
一般的にコンサルタントは、発注者からの指名を受け、図面発給、施工計画や材料等の承認、
の承認、工事計画の変更指示、品質管理、工事進捗管理といった発注者の代理人として
工事計画の変更指示、品質管理、工事進捗管理といった発注者の代理人としての役割だけでな
の役割だけでなく、出来高の証明やクレームに対する査定および決定あるいは裁定を独
く、出来高の証明やクレームに対する査定および決定あるいは裁定を独立した専門家として行
立した専門家として行う評価者としての機能を求められる。エンジニアは、請負者を監
う評価者としての機能を求められる。エンジニアは、請負者を監視し、指示を出し、クレーム
視し、指示を出し、クレームを査定するという強い権限を与えられるとともに、公平中
を査定するという強い権限を与えられるとともに、公平中立な立場からの判断者としての責任
立な立場からの判断者としての責任を担っており、施工を契約に従い円滑に遂行してい
を担っており、施工を契約に従い円滑に遂行していく上で重要な役割を担っている。こうした
く上で重要な役割を担っている。こうした「発注者」、
「請負者」
、
「エンジニア」から成
「発注者」、「請負者」、「エンジニア」から成る契約構造は三者構造と呼ばれ、国際建設市場で
る契約構造は三者構造と呼ばれ、国際建設市場ではごく一般的な契約形態となっている。
はごく一般的な契約形態となっている。
発注者
役務契約
(コンサルタント契約)
建設契約
報告、請求
請負者
監理、指示、承認
エンジニア
図 2-16 FIDIC 契約約款における三者構造
図 3-12 FIDIC 契約約款における三者構造
(4). (4)維持管理、運用
維持管理、運用
ODA 事業においては、プロジェクト完成後にその計画の効果(援助効果)の確認が
ODA 事業においては、プロジェクト完成後にその計画の効果(援助効果)の確認が必要と
必要となる。効果の確認は、下記4段階に渡り行われ、コンサルタントはこれらの実務
なる。効果の確認は、下記4段階に渡り行われ、コンサルタントはこれらの実務を行う。
を行う。
a).①
事前評価
事前評価
「事前評価」は、プロジェクトを開始する前の段階において、プロジェクトの妥当性
「事前評価」は、プロジェクトを開始する前の段階において、プロジェクトの妥当性等を確
等を確認するとともに、プロジェクト開始後の、今後の評価計画を策定する。
認するとともに、プロジェクト開始後の、今後の評価計画を策定する。
② 中間レビュー
b). 中間レビュー
「中間レビュー」は、技術協力および有償資金協力にのみ適用される。技術協力につ
「中間レビュー」は、技術協力および有償資金協力にのみ適用される。技術協力については
いえては省略するが、有償資金協力では、借款契約後5年目にその妥当性を再検討し、
省略するが、有償資金協力では、借款契約後5年目にその妥当性を再検討し、もし、プロジェ
もし、プロジェクト遂行の阻害要因があれば、排除計画等を策定する。
クト遂行の阻害要因があれば、排除計画等を策定する。
③ 事後調査
c). 事後調査
「事後調査」は、完成後(無償:4 年後、有償:2 年後)に、今後、被支援国が対
象事業を継続、運営していくことが可能かについて検討する。
「事後調査」は、完成後(無償:4
年後、有償:2 年後)に、今後、被支援国が対象事業を
④ 事後モニタリング
継続、運営していくことが可能かについて検討する。
d). 事後モニタリング
24
「事後モニタリング」は、有償資金協力にのみ適用される。完成後
7 年目に「事後調査」で
- 23 -
得られた教訓が反映されているか、事業効果が継続しているか等の検証を行う。ここで得られ
た教訓、提言は、今後の事業改善に役立てられる。
- 24 -
「事後モニタリング」は、有償資金協力にのみ適用される。完成後 7 年目に「事後
調査」で得られた教訓が反映されているか、事業効果が継続しているか等の検証を
行う。ここで得られた教訓、提言は、今後の事業改善に役立てられる。
3.3. 国内事業と海外事業における建設コンサルタントの機能の相違と考察
2.6 国内事業と海外事業における建設コンサルタントの機能の相違と考察
図図3-13
、
「コンサルタント」
、
「コント
2-17は、国内と海外の建設プロジェクトにおける「発注者」
は、国内と海外の建設プロジェクトにおける「発注者」
、「コンサルタント」
、
ラクター」それぞれの機能と契約形態を示したものである。コンサルタントが担う機能は国内
「コントラクター」それぞれの機能と契約形態を示したものである。コンサルタントが
と海外では大きく異なることがわかる。国内においては、企画・計画段階において参加するケ
担う機能は国内と海外では大きく異なることがわかる。国内においては、企画・計画段
ースも増えてきてはいるものの、依然、コンサルタントは設計段階における設計委託という形
階において参加するケースも増えてきてはいるものの、依然、コンサルタントは設計段
でプロジェクトに参加することが一般的である。一方、国際建設プロジェクトにおいては、通
階における設計委託という形でプロジェクトに参加することが一般的である。一方、国
常、企画・調査段階からコンサルタントが関わり、プロジェクトが確定した後も設計、積算、
際建設プロジェクトにおいては、通常、企画・調査段階からコンサルタントが関わり、
入札図書作成、入札支援を経て、施工監理を行い、対象構造物が完成するまでプロジェクトに
プロジェクトが確定した後も設計、積算、入札図書作成、入札支援を経て、施工監理を
携わる。
行い、対象構造物が完成するまでプロジェクトに携わる。
国内建設プロジェクト
企画・
計画段階
企画
設計・
積算・
入札段階
計画
設計・積算・
入札図書
審査
発注者
積算
入札図書作成
施工段階
入札
入札
施工監理
設計委託契約
コンサルタント
維持管理・
運用段階
維持管理・
運用
工事契約の
締結
基本/詳細設計
施工
コントラクター
二者構造(
発注者−コンサルタント)
契約形態
二者構造(発注者−建設会社)
国際建設プロジェクト(ODA事業を対象とする)
企画・
計画段階
企画
検討
発注者
※計画段階まではJICA、
その後は現地政府
コンサルタント
設計・
積算・
入札段階
計画
現地ニーズ調査
等
設計・積算・
入札図書
審査
JI
CAとの契約
F/S調査
現地政府
コンサ ル タント契
約の締結
入札支援
F/Sレビュー
B/D, D/D
コントラクター
契約形態
二者構造
(JICA−コンサルタント)
施工段階
入札
入札
工事契約の
締結
施工監理
維持管理・
運用段階
JICA:事後評価
現地政府:
維持管理
事後評価への参加
施工
三者構造
二者構造
発注者−請負者、発注者−コンサルタント)
(
発注者−コンサルタント)(
図 2-17 国内建設プロジェクトと国内建設プロジェクトにおける役割分担
図 3-13 国内建設プロジェクトと国内建設プロジェクトにおける役割分担
こうした機能の差違は、建設コンサルタントが歩んできた歴史と密接に関わっている
と考える。国内においては、戦後復興、発展途上国から先進国へ至る段階での膨大な公
こうした機能の差違は、建設コンサルタントが歩んできた歴史と密接に関わっていると考え
共事業に対して、コンサルタントは支援というスタンスで発注者をサポートし、建設会
る。国内においては、戦後復興、発展途上国から先進国へ至る段階での膨大な公共事業に対し
て、コンサルタントは支援というスタンスで発注者をサポートし、建設会社は信義則により特
別な監理がなくとも工事を工期内に高品質で完成させてきた歴史が、背景にあるものと考えら
25
れる。一方、国際建設プロジェクトにおいては、戦後賠償工事としてコンサルタント自身が現
地に調査へ出向き開発プロジェクトを形成してきたこと、また、海外における相互不信頼とい
う環境の中では、工事を監視、監理する役割が必要であったという背景が、国内外のコンサル
タントの役割を大きく異なるものとしていると考える。
- 25 -
4. 建設コンサルタントのサービスと業態
4.1. はじめに
ここまでに、国内と海外 ODA 市場におけるコンサルタントの位置づけについて整理してき
た。ここでは、一般的な海外市場の特徴を整理した上で、そこにおける Consulting Firm の提
供するサービスの多様性を明らかにする。
これに対して、国内の建設コンサルタントがどのような業態、サービスを提供するものと位
置づけられているかを明らかにする。
ここでは、建設産業における市場やコンサルタントの業態のモデルを、多様性の高い海外市
場を参考に整理することで、我が国のコンサルタントの事業展開の方向性について考察する。
- 26 -
4.2. 現在の市場構造とサービスの関係
4.2.1. 国内における市場構造とサービスの関係
これまで見たように、コンサルタントは、社会的要請(ニーズ)を満足するような目的物の
必要性、計画、設計、施工管理等を実施するものであると考えられる。現在、主たる海外市場
である発展途上国においては、事業のより広範なレベルでの解決策を求められる。
一方、国内においては、官公需法に基づく発注ロットの分割により、顧客主導型のサービス
合理化を進めてきた。特に、国際市場に比べると、基本・詳細設計のみに限定され、最近にな
ってメンテナンスが急激に増加しつつあるが、目的物(構造物)レベルの課題解決にとどまっ
ている。
ここで、我が国における「建設コンサルタント登録規定」(最終改定平成 19 年 3 月)による
登録部門について見ると、以下の特徴が見られる。
•
技術士の部門と類似した要素技術や、発注機関の種類が混在した分類であり、コンサルテ
ィングサービスの領域を示すものとはなっていない。
•
技術分野の面から見て、土木構造物の詳細設計が主たる市場であったため、いわゆる構造
部門(土質及び基礎、鋼構造及びコンクリート)の登録が多い。一方で、施工計画につい
てはその半数程度の登録しかない。
表 4-1 建設コンサルタント協会加盟会社の登録部⾨門別登録状況
d).
4
1
15
16
17
18
19
335
96
36
389
60
85
246
159
345
95
33
389
58
87
255
173
340
98
29
392
58
90
259
167
350
102
31
396
56
94
264
170
275
88
27
326
38
79
213
118
26
13
30
15
65
198
125
274
67
201
127
273
29
18
27
67
201
129
273
30
18
29
68
206
136
266
21
15
28
23
166
127
228
353
148
146
153
8
22
360
149
146
166
8
21
362
142
150
170
8
27
359
140
149
187
8
30
301
128
124
178
3
27
2,937
512
2,998
507
3,036
498
3,089
483
2,533
465
- 27 e).
4
1
15
16
17
18
19
512
507
498
483
465
45,125
43,443
42,296
41,214
39,432
これは、
「2 我が国の建設コンサルタントの成り立ちと現状」において整理したように、そも
そもコンサルタントのサービス領域として設計のみが前提とされてきたことによる。すなわち、
ニーズ=要素技術=実際のサービスという図式が成立してきたと言える。これによる弊害は、
提供できるサービス領域が狭く、企業間で内容に差がつきにくいため、あるところまで合理化
が行き着くと、過当競争になる事である。
海外市場においては、サービスが事業ライフサイクルの段階に対応しており、そこで要求さ
れる技術レベルも事業段階により異なってくる。また、サービスや技術の内容が複合的である
事から、企業により特徴の差が出やすいといえる。
4.2.2. 海外市場におけるプロジェクトの特徴
第3章で見たように、少なくとも、海外 ODA 市場において建設コンサルタントが果たす機
能は、海外全般における Consulting Firm とそれほど違いはないものといえる。それにも関わ
らず、ODA 案件が海外受注の 8 割程度を占めており、海外の民間プロジェクトや公共機関から
の直接的な受注はそれほど多くない。この要因としては、依然として技術資源が国内シフトを
敷いており、急増するアジア・アフリカ市場への資源投入に踏み切れていないことが要因と考
えられる。国内大手 50 社の年間総契約金額を見ても、海外受注高は伸び悩んでいる。日本の
ODA 予算も財政規律の観点から抑制傾向にある事が大きい。
一方で、1件当たりの受注金額(図 4-2)を見ると、全く異なる傾向がある。海外案件の1
件当たり契約金額はここ数年上昇を続けており、国内の平均的な契約金額の約 6 倍に達してい
る。この要因としては、以下の事が考えられる。
•
1案件のプロジェクトの範囲・規模が大きい
•
プロジェクトの契約期間が複数年にわたり長い
このため、多くの職種が協働する体制を構築できなければ、こうしたプロジェクトを受注す
る事は難しい。しかし、国内市場では、一つの道路でも、道路設計、橋梁 A、橋梁 B などで発
注される業務範囲が細分化されているため、企業側もそれぞれの業務範囲に応じた縦割りの部
門構成となっていることが多いと推察される。
以下では、こうした海外プロジェクトを意識しつつ、本来コンサルタントが相手にしている
市場の類型、および、それに対してコンサルタントが提供するサービスについて整理を行う。
さらに、これと平行して、こうした海外で一般的なプロジェクトの様態を想定した場合、国内
の建設コンサルタントの業態や提供するサービスに関してどのような課題があるか整理を行う。
- 28 -
400,000
年間契約金額[百万円]
350,000
300,000
250,000
公共
200,000
民間
150,000
海外
100,000
50,000
0
平成19年度
平成20年度
平成21年度
平成22年度
図 4-1 建設コンサルタント 50 社 年年間総契約⾦金金額
70,000
年間契約金額[千円]
60,000
50,000
40,000
公共
30,000
民間
海外
20,000
10,000
0
平成19年度
平成20年度
平成21年度
平成22年度
図 4-2 建設コンサルタント 50 社 1 件当たり平均契約⾦金金額
- 29 -
4.3. 建設コンサルタントに対する要請(ニーズ)と市場の関係性
4.3.1. 社会資本に対するニーズ
国内、海外を問わず、建設産業および建設コンサルタントの相対する市場は、真の顧客(社
会、納税者等)のニーズに基づいている。多くの場合は、顧客(納税者)の代表としての政府・
公共団体が主体となってこうした定性的なニーズを把握し、具体的な事業を企画・立案して設
定する。その事業に対して、交通手段であれば道路、鉄道、治水・利水であればダム、堤防な
どの具体的な構造物や、ソフト面では交通情報システム、災害情報システムなどが事業を構成
することとなる。
このように、社会資本に対する顧客のニーズは、
(業務レベルでの)目的物の集合体である事
業によって充足される。
4.3.2. ニーズに対して形成されるコンサルタント市場
本国以外でもプレゼンスの強い欧米系コンサルタントは、ほとんどの場合、コアとなる建築・
土木設計のほか、環境・音響など、かなり広範な分野の人材を確保している。これは、欧米系
コンサルタントが、表 4-2 に示すような、社会資本に対する顧客ニーズやこれに対応した事業
全体をマーケットと定めて事業展開してきたことにあるためと考えられる。事業レベルでの分
類としては、以下の類型が考えられる。
表 4-2 社会資本に対するニーズと事業・構成要素の例例
社会的要請
事業レベルの要請
事業の構成要素
(真の顧客のニーズ)
(発注者のニーズ)
(コンサルタントの提供する要素技術)
道路交通網の充実
特定の路線の建設・維持管理
道路、土工、橋梁、トンネル
物流機能の強化
特定の港湾の建設・維持管理
防波堤、護岸、貨物施設
都市の持続的発展
都市インフラの整備
建築、道路、上下水道、造園、発電所
治水・利水
特定河川の整備・維持管理
ダム、堤防、発電所、堰、道路、橋梁
一方、国内では、建設コンサルタントを形成した直接的な要請事項としては、単一目的物の
レベルに細分化された設計業務委託であった。このため、表 4-2 における要素技術の単位にお
いて、企業の差別化・進化が進んできた経緯があり、こうした分野における設計技術は一般的
に我が国のコンサルタントの強みとされてきた。しかし、主に事業レベルの要請に直接応える
必要がある大規模プロジェクトが多い海外市場では、そのニーズに応えられる業態とはなって
いないのではないかと考えられる。
- 30 -
4.3.3. 建設コンサルタントの提供するサービス領域
コンサルタントが提供するサービスは、事業のライフサイクルに沿って、以下のように定義
される。
•
Identification 事業の明確化
•
Pre-feasibility 予備調査
•
Feasibility 事業適格性調査(環境評価・リスク評価を含む)
•
Appraisal 事業費見積
•
Basic design 基本設計
•
Detailed design 詳細設計
•
Supervision 設計監理
•
Construction management 施工管理(コストエンジニアリングとしての積算を含む)
•
Operation 運営
•
Maintenance 維持管理
•
Rehabilitation 補修・補強
•
Transfer / Removal 委譲または撤去
The Tradability of Consulting Services and its implications for developing countries , UNCTAD 2002
一般的に我が国のコンサルタントが提供してきたサービスは建設時の基本設計、詳細設計の
領域であり、近年は補修/補強時の計画・設計も事業量が拡大している。これらはいずれも、
作業量の多い設計計算・図面作成が大半を占める部分であり、発注機関によるアウトソーシン
グの位置づけが強く、設計業務の積算体系にもこの思想が色濃く反映されている。
コンサルタントの業態は、どの事業段階・技術分野を射程とするかによって異なってくる。
図 4-3 に高速道路の建設を例に、事業サイクルに応じたコンサルティングサービスと技術分野
の関係を示した。個別の技術分野に関しては、事業の種類によって変わってくる。例えば、発
電事業、資源開発事業、都市再開発事業などの場合である。事業ライフサイクルのすべてを単
一のコンサルタントが担当することは契約上ほとんどないが、企業側から見れば、すべての段
階を市場と捉えることができる。これに加えて、各段階で必要とされる技術部門を内部に有す
るか、特定分野に特化した他企業との協働によりコンサルタント業務を受注する事になる。
- 31 -
コンサルタントの技術分野 事業計画策定
Identification
事
業
サ
イ
ク
ル
に
沿
た
コ
ン
サ
ル
タ
ン
ト
の
サ
プロジェクト
ファイナンス
(資金調達)
適格性調査
F/S
需要調査
経済性調査
地質・水文調査
測量調査
基本設計
B/D
詳細設計
D/D
設計監理
施工管理
Supervision/CM
環境影響評価
道路設計
信号・標識
照明設備
各種構造物の
計画・設計
(土木構造物)
橋梁
土工
トンネル
カルバート
関連施設の
計画・設計
(建築・電気)
料金所
休憩施設
積算
(コストエンジニアリング)
各構造物等の
設計監理・施工管理
ビ
ス
領領
域
事業計画
運営・管理
O/M
施設の運営計画
(PPP/BOT)
施設・構造物の
維持管理計画
ICT 交通システムの構築
各種構造物の
補修・補強設計
各種モニタリング調査
図 4-3 ⾼高速道路路建設事業におけるコンサルタントのサービスと技術分野の例例
- 32 -
一方、国内のコンサルタントの市場形成状況や企業の各サービス領域に対する対応状況は図
4-4 の通りである。
•
事業計画立案や適格性調査の段階は、国内にはほぼ市場はなく、調査の一部分を受託す
る形式が多い。
•
基本・詳細設計の分野は国内市場の大半を占めるサービス領域であり、実績は豊富であ
る。
•
設計監理・施工管理については、市場がほとんどない。最近、地方公共団体では積算業
務が発注されているが、施工管理のための積算(コストエンジニアリング)ではなく、
予定価格算出のための積算にとどまっている。
•
運営・管理 O/M については、点検や補修/補強設計などについては実績を伸ばしてい
るが、計画立案を実施するような領域は市場としては未成熟である。
このように、コンサルタントのサービス領域全体を見渡した場合に、我が国の建設コンサル
タントはサービス領域が偏っている。もちろん、大手企業では海外 ODA 案件を受注しており、
設計の上流/下流領域も事業対象とする海外部門を有するが、国内とのサービス領域の差が大
きいため、国内・海外部門の人材の有効な交流・異動が難しい状況にある。
- 33 -
コンサルタントの技術分野 事業計画策定
Identification
事業計画
プロジェクト
ファイナンス
(資金調達)
適格性調査
F/S
国
内
の
サ
ビ
ス
領領
域
需要調査
経済性調査
地質・水文調査、測量
基本設計
B/D
詳細設計
D/D
設計監理
施工管理
Supervision/CM
運営・管理
O/M
環境影響評価
道路設計・
関連施設の
計画・設計
(建築・電気)
料金所
休憩施設
信号・標識
照明設備
各種構造物の
計画・設計
(土木構造物)
橋梁
土工
トンネル
カルバート
積算
(コストエンジニアリング)
施設の運営計画
(BOT の場合)
関連情報
システムの構築
渋滞情報等
各構造物等の
設計監理・施工管理
施設・構造物の
維持管理計画
各種構造物の
補修・補強設計
各種点検・モニタリング調査
図 4-4 ⾼高速道路路建設事業における⽇日本のコンサルタントのサービス領領域
*
国内市場が形成されていない、または未成熟であるもの
- 34 -
4.4. 今後の建設コンサルタント市場の変革と事業展開の方向性
4.4.1. サービス領域・技術分野拡大によるコンサルタントの業態多様化
以下では特に、国内大手コンサルタントを想定して、企業側から見た事業展開の方向性につ
いて、具体的に考察する。今後の建設コンサルタントの事業展開の方向性を論じるに当たって
は、以下の点に留意が必要である。
•
サービス領域の拡大は、今後の国内市場の形成する原動力として考える。
•
当面は、既に多様な領域で市場が形成されている海外を重点的に取り扱う。
•
サービス領域や技術分野の拡大は、企業内部の育成では時間がかかりすぎるため、基本
的には企業合併・買収により達成する。
企業合併・買収は国内コンサルタント市場ではまれであるが、金融業界などにおいては過去
に銀行の合併による国際競争力強化が行われるなどの例があり、参考とすべきところがある。
海外事業への進出のみであれば業務提携で十分であるが、プロジェクト単位での海外企業との
JV 結成などアドホックな対応は、企業間で役割が分担されるため、日本企業が不得意な領域に
ついてのノウハウの蓄積は効率的とは言えない。このため、海外への展開によるサービス拡大
は M&A による方が、目的達成に対する実効性が高いと考えた。しかし、いずれの方策をとる
にしても、M&A 自体の成否の問題や、多国籍企業へと脱皮するための諸課題が付随すること
は忘れてはならない。以上を表 4-3 に整理した。
表 4-3 建設コンサルタントの事業展開の⽅方向性
事業展開の方向性
手段
課題
短期的
海外市場への参入
プロジェクト単位での海
外企業との JV 結成
サービス領域拡大のためのノウ
ハウ蓄積の実効性が低い
長期的
国内市場が形成されていない
サービス領域(ファイナン
ス,CM 等)の拡大により、多
様な市場(発注形態)へのア
プローチを目指す。
必要なサービス領域で優
位の企業との提携・合併
または買収
M&A の成否(人的資源の円滑な
統合)
事業目的(高速道路・鉄道等)
に応じた技術分野を拡大する
事で、ワンストップサービス
の提供を目指す。
国内・海外を問わず、必
要な技術分野で優位の企
業との提携・合併または
買収
独立・安定した技術拠点の確
保
現地企業の買収、または、
現地法人の立ち上げ
- 35 -
多文化環境を前提とした経営マ
ネジメント力の獲得
4.4.2. 我が国のコンサルタント市場改革の方向性
我が国のコンサルタントは、国内市場における顧客主導型の合理化が進んだため、本来コン
サルタントが提供しうるサービス領域に対応できない状況となった。これを脱却するためには、
以下の変革が必要と考える。
•
企業側から見た場合は、現下の国内市場に適応する合理化ではなく、潜在的な市場を見
定め、いわゆる市場開発型の事業展開を進めることが重要であると考える。具体的には、
事業サイクルに沿ったサービス領域をできるだけカバーできる業態を確立する。
•
ただし、市場がなければ事業展開はできないため、すでに海外部門を有する場合は、当
面の海外事業へのシフトを行って企業としての成長を図る。
また、本研究では主たる対象とはしていないが、発注機関による市場開放も同時に行われな
ければ、企業側の業態変化も国内事業の実施には還元されない。発注機関側から見た場合は、
中長期的に予想される、道州制移行などに伴う行政組織の再編にあわせて、コンサルタント市
場の上流・下流への拡大・開放をすすめ、大手企業の海外での経験活用や中堅企業の育成を図
ることが必要と考える。
これらは、どちらが先に必要という事ではないため、同時に、可能な部分から手を付けてい
く必要がある。
サービス領域・技術分野の分断
海外市場でのサービス領域の拡大
ノウハウの蓄積
コンサルタントとしての業態の多様化
発注領域の拡大による
国内市場の多様化
多様な発注形式・業務範囲の市場
およびプレーヤーによる事業遂行
産業としての持続可能性
図 4-5 コンサルタントの業態多様化と市場改⾰革の⽅方向性
- 36 -
5. 結論
本研究では、投資縮小や技術者人口の減少に伴う、建設コンサルタント市場の持続性に対す
る危機感から、今後の建設コンサルタントの事業展開の方向性について考察を行った。
まず、日本の建設コンサルタントの形成過程、および、海外のコンサルタント市場の実態を
整理した。これをもとに、コンサルタントに対する潜在的なニーズや市場の特徴を示す一方で、
事業サイクルに沿ってコンサルタントの提供しうるサービスの領域を整理した。
また、内外のコンサルタント市場の比較から、現下の国内市場における過当競争の主たる要
因として、コンサルタントに求められるサービス領域の多様性の欠如を指摘した。国内のコン
サルタントが適当な量の人材を確保するためには、設計業務だけの単一市場ではなく、より複
合的な市場へのアプローチが不可欠であると考えた。
しかし、現在の国内には、限られた事業段階・技術分野でしか市場が形成されておらず、コ
ンサルタントの成長を阻害する要因となっている。
そこで、我が国の建設コンサルタントが事業の上下流へとサービス領域を拡大するため、海
外市場への参入を通して実施する方策について考察を行った。アドホックな JV や業務提携より
も、M&A や現地法人設立などの方が、設計の上下流のサービスノウハウを蓄積するためには
実効性が高いと考えた。
これにより蓄積されたサービスのノウハウが、国内市場における事業領域の民間開放・市場
の多様化に向けた原動力となり、公共事業の多様な執行形態の担保に資するとともに、コンサ
ルティング機能や産業の持続可能性を高めることになると期待される。
- 37 -
謝辞
本学の社会人修士課程では、長いようで短い、濃密な時間を過ごす事ができました。日常業
務を離れ、産業全体の抱える課題を落ち着いて考える時間を持てたことや、さまざまな立場・
年代の方々と机を並べたことは大事な経験となりました。
東京から通う不便もあり、仕事の都合で欠席となることもしばしばありましたが、不思議と
高地に来る事は苦ではなく、日常からの解放という意味でもよかったと思っています。
そして何よりも、これからの自身の進む道を整理したことになる研究に取り組めたことは、
少し大げさではありますが、人生のひとつの区切りともなりました。
決して十分な形で相談に伺えた訳ではないにも関わらず、的確な指導をしていただいた草柳
先生に、末筆ながら感謝を申し上げます。
- 38 -
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