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プラント安全運転と技能伝承・教育へ向けた保守・点検作業支援システム

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プラント安全運転と技能伝承・教育へ向けた保守・点検作業支援システム
プラント安全運転と技能伝承・教育へ向けた保守・点検作業支援システムの開発
東洋エンジニアリング株式会社 計装設計部
鈴木 剛
和泉電気株式会社 商品開発センター
野村 光俊
オムロン株式会社 営業統轄事業部 広域営業部
森 正美
2.プロジェクトの概要
1. はじめに
石油精製プラント等の装置産業におけるプラントの
安定的運転や安全確保のためには、運転室操作のみな
らず現場での保守・点検作業という弛みない日常作業
の役割も大きいと考えられる。熟練オペレータは、石
油精製プラントの機器運転状況だけでなく、気象条
件・臭い・音などの情報もプラント運転状況と総合的
に関係づけて異常の予兆発見を行っており,このよう
なマニュアルに表れない作業が安全で安定的な運転に
不可欠になっている。ところが、石油業界においては、
オイルショック以前に採用した多くのフィールドオペ
レータが一斉に定年を迎える時期を迎えており、保
守・点検作業に係る作業ノウハウの蓄積と伝承が緊急
の課題となっている。
一方、近年多発する産業事故を受けて経済産業省が
実施した産業事故調査では、団塊世代の高齢化ととも
に、中堅・若手層の割合が減少し、保安技能の伝承や
安全・保安教育において問題が顕在化してきているこ
とが指摘されている。特に団塊世代の退職ピークとな
る 2007 年以降、
技能者不足が深刻化し
(2007 年問題)
、
保安技能の伝承・教育に対する新たな対策の必要性が
謳われている。
そこで、石油精製プラントを対象に、フィールドオ
ペレータの日常業務である保守・点検作業の内容を自
動蓄積する技術を開発し、その中から作業ノウハウが
表れた場面を抽出して作業教育に利用できる教育コン
テンツを提供することができる技術の開発を行う事業
が経済産業省の委託事業として発足し、社団法人 人
間生活工学研究センターと東洋エンジニアリングが共
同で受託し、独立行政法人 産業技術総合研究所 人
間福祉工学研究部門 総括研究員 松岡克典殿をプロ
ジェクトリーダーの下に実施されているので本稿では
その概要を報告する。
2.1 技術開発のコンセプト
−日常作業の中からの知識化−
石油精製プラントにおける日常点検は、一定期間の
教育を受けた後に、フィールドオペレータが一人で点
検作業を実施することが一般的である。この経験を蓄
積し伝承するために標準運転手順書・点検要領・危険
予知マニュアル・ヒヤリハットなどの資料が作成され
ている。しかしながら、日々の作業内容を詳細に蓄積
することは困難であり、作業の熟練は本人の経験に負
っているところが大きい。
本事業では、このような日々の作業内容を映像等の
情報として取得して運転室と現場での情報の共有化を
図るとともにこれを自動蓄積することにより、後から
作業を振り返ることができるようにする。また、その
情報を基に作業ノウハウが発揮された場面を抽出して、
作業教育に応用する手段を提供することを目指してい
る。
2.2 技術開発の全体概要
具体的には、図1に示すように、作業者のヘルメッ
トに装着する小型カメラ、3軸加速度センサを組み込
んだ通信器、音声通信用のマイクとイヤホンから成る
保守点検支援デバイスを開発し、本デバイスを装着し
た作業者の作業時の映像・音声・姿勢情報を無線 LAN
を通じて常時・自動蓄積できるようにする。このよう
なデータを日常的に蓄積していくと現場作業(点検や
通常操作)においてプラントの状態や観察結果によっ
ては作業時間や作業姿勢・作業場所が変化することが
予想される。このような相異、すなわち普段と異なる
作業が発生した場面や、新人作業員と熟練作業員の作
業が異なる場面を抽出し、その場面で作業者が「何を
感じて」
、
「何をしようとしたか」をヒアリングにより
聞き出す。これにより、従来は明示的に表されていな
かった部分を含む現場作業の知識を収集することが出
来ると共に、作業映像等の収集情報と作業者の判断・
意図を各場面で統合して蓄積することができるように
なる。この情報を教育コンテンツとして新人作業員等
作業者情報蓄積に基づいた作業支援技術 ⇒ 日常作業の知識化
固定カメラ
小型カメラ
作業ノウハウの伝承
マイク
作業行動計測用
デバイス開発
教育システム
通信装置
ノウハウ情報
の蓄積技術
作業行動解析技術
B
D
A
携帯
カメラ
C
作業
動線
A C
B
画像タグ
情報から
作業場所
ヒアリング情報
作業行動 蓄積
E
映像情報
から視点の
滞留時間
作業 の違 うポイント検知
注視点
何を感じて
何をしようとしたか
映 像情 報
音情 報
プラン ト 運 転 情 報
身体加
速度計
身体加速度情報
姿勢情報
図1 石油プラント保守・点検作業支援システム開発の全体概要
に提示することにより、効果的な作業教育を可能とす
ることを目指している。
2.3 技術開発項目
上記目標を達成するために、下記の5つの技術開発
項目の研究開発を進めている。なお、本事業は、経済
産業省からの委託事業として図2に示す研究開発体制
の下、平成16年度から3ヵ年の計画で開始されてい
る。
(1)保守・点検支援機材の開発
作業時の映像等の情報を現場で撮影して配信でき
る小型軽量で作業者が装着でき、防爆仕様を満足す
る保守点検支援デバイスの開発。
(総重量 1kg 以下、
充電なしで2時間以上連続使用可能)
(2)保守・点検作業管理システムの開発
中央計器室において、
(1)で開発した保守・
点検作業支援機材を用いることにより、現場におけ
る作業状況を映像等により把握することができ、中央
計器室と作業現場との情報の共有化が図れる保
守・点検作業管理システムの開発。
(3)作業情報データベースの開発
稼働中の石油精製プラントでの熟練作業員及び新
人作業員の実際に行った保守・点検作業に関わる作
業情報のデータベースの開発。
(4)保守・点検作業情報の人間工学的解析技術の開発
石油精製プラントで収集・蓄積した保守・点検作
業情報から、熟練作業員と新人作業員の作業の異な
る場面や、普段と異なる作業の発生した場面
を自動抽出する解析手法の開発。
(5)保守・点検作業教育ツールの開発
未熟練作業者への作業ノウハウの効率的伝承を目的
として、実際の石油精製プラントでの保守・点検
作業から得られた作業情報や熟練作業者の作業ノウ
ハウを基に、熟練作業者の模範作業を具体的な作業状
況を再現しつつ提示できる保守・点検作業教育ツール
保守・点検作業支援機材の開発
経済産業省
東洋エンジニアリング(株)、和泉電気(株)
(株)ビー・ユー・ージー
保守・点検作業管理システムの開発
東洋エンジニアリング(株)、オムロン(株)
プロジェクトリーダ
人間工学的解析技術、作業情報データベース、教育システムの開発
(社)人間生活工学研究センター、東洋エンジニアリング(株)
(独)産業技術総合研究所、横河電機(株)
(財)電力中央研究所、奈良先端科学技術大学院大学
実プラントの実証実験
(社)人間生活工学研究センター、(株)コスモ総合研究所、
(株)新日石総研、コスモ石油(株)、新日本石油(株)
図2 研究開発体制
を開発する。
の音声のやりとりも可能にするために専用ヘッドセット
の取り付けを可能にしている。
(主な仕様を表 3.1 に示
3. 本質安全防爆仕様の保守点検作業支援デバイスの開
発
す。
)
この防爆作業支援デバイス開発では、実際に現場の作
上述のように石油プ
業者の意見を反映させながら開発をすすめていて、作業
カメラモジュール
ラント等の現場の作業
者の負担を軽減させる使いやすい仕様を目指している。
情報の共有化と作業デ
ヘッドセット
ータ収集のために本質
安全防爆仕様の保守点
表 3.1 保守点検作業支援デバイスの仕様
検作業支援デバイス(以
下、防爆作業支援デバイ
防爆構造
本質安全防爆構造 ExibIIBT3
電池
ニッケル水素電池内蔵
ス)を開発している。
(保持時間:2 時間以上)
防爆作業支援デバイ
本体
スは、図 3.1 のように
ウェアラブル化するこ
とを前提としていて、小
型軽量となっている。
図 3.1 防爆作業支援
デバイス取付図
使用周囲温度
0∼40℃
重さ
本体 約 600g, カメラ部 約 200g
カメラモジュール
CMOS 31 万画素
通信規格
IEEE802.11b
4. 保守・点検作業管理システムと作業情報データベー
スの開発
保守・点検作業管理システムは、防爆作業支援デバイ
ス及び関連データ(現場設置固定カメラ、オペレータ身
体加速度、プラント運転データなど)の作業情報を収集・
蓄積するシステムである。
作業情報データベースは、収集されたデータおよびそ
れから得られる人間工学的解析結果(視点の滞留時間や
作業の姿勢等)や、収集情報の提示をしながら得られる
作業に関するヒアリング結果などを蓄積するものであり
多角的な検索機能も計画している。
(図 4.1 参照)
図 3.2 試作機外観(ヘルメット部)
(和泉電気(株)提供
支援機材の開発
WCカメラ
作業情報データベース
の開発
保守・点検作業管理
システムの開発
中央計器室
身体加速度
防爆作業支援デバイスは、現場点検や操作を実施する
オペレータが使用するため、取り付け方や使用方法など
を考慮して設計を進めている。
固定カメラ映像
モジュールを固定してあり、点検動作には邪魔にならず、
点検状況表示
ページング音声
プラント運転データ
DB蓄積
ヒアリング
教育ツールの開発
頭部には、図 3.2 に示す様にヘルメットに小型カメラ
収集
検索・
表示
WC映像・音声
マルチメディア
マニュアル
ノウハウ
支援システム
人間工学的
解析技術の開発
注視点の
抽出
姿勢
解析
点検ルート
比較
作業位置点
検対象特定
画像
安定化
行動パター
ン分析
ベテラン
と未熟
者の違
い抽出
ほとんど影響のない構造になっている。また、充電電池
と無線 LAN 受発信器を含む本体は小型カメラを併せて
1kg 以下であり使いやすい仕様になっている。
無線 LAN で AP(アクセスポイント)に画像データを送
る仕様となっている。また、ページングシステムとして
図 4.1 保守・点検作業管理システムと作業情報デー
タベースの構成
本システムでは防爆作業支援デバイスを着用したオペ
レータが現場作業を行なっているリアルタイムのデータ
AIST
歩行
を運転室でモニタリング出来ると共に作業に関するコメ
ントや作業終了後の見解を合わせて蓄積できる仕組みと
身体加速度情報からの姿勢判定
ト
覗き込み
覗き込み
歩行
触診
歩行
中腰目視
覗き込み
触診
ジャンプ
触診
歩行
歩行
中腰点検
歩行
なっている。
(図 4.2 参照)
バルブ操作
目視点検
触診
歩行・階段
覗き込み
歩行・はしご
触診
歩行
はしご・階段
歩行
X
身体
加速度
衝撃
Y
傾斜大
傾斜中
Z
傾斜小
歩行
静止
姿勢判定
その他
15:37:20
15:38:20
15:39:20
15:40:20
15:41:54
産総研 人間福祉医工学研究部門 くらし情報工学
図 6.1 身体加速度と行動の相関の例
(産業技術総合研究所提供)
図 4・2 受信中の画面
5.保守・点検作業教育ツールの開発
保守・点検作業教育ツールに関しては今後の開発課題
であるが、予備実験として現場点検作業の想定実験を行
い、そこから得られた映像等の情報と対照となるプラン
ト及び装置・機器・部位に関する知識を組み合わせて現
場作業の知見を教育するためのソフトウェアの構想を検
討している。教育内容としては、収集した事象に基づく
もの/ルールに基づくもの/知識に基づくものを検討して
いるが、事例を多く作成し実際の運転現場において評価
してもらうことを予定している。
6.保守・点検作業情報の人間工学的解析技術の開発
人間工学的解析では、防爆作業支援デバイスからのデ
ータを解析することによって行動の特徴である姿勢や注
視度合いを判定する。この判定結果を用いてオペレータ
の行動について、個体間の差異(経験者と若手など)や
個々の平均的行動と特定場面における差異を抽出し、そ
の相異と背景にある理由を聞き出すことを考えている。
この方法を採用することによって日常的に気づかなかっ
た差異を定量的に把握することが出来、それに基づくヒ
アリング等から効果的に技術伝承のポイントを判断する
方針である。
図 6.1 に身体加速度からの行動判定の例を示すが、こ
の他の指標も活用して現場での行動の定量的分類を行な
うことを予定している。
7.あとがき
本開発は複数の組織による実施であるが、本稿には筆
者が代表して投稿させていただいた。
実施内容は装置産業における現場作業の技術を日常の
行動から見出してこれを伝承するという試みであり、実
際のプラントでの実証実験をおこなってはじめてその成
果が判断できると考えている。
実プラントでのデータ取り、人間工学的解析による分
析、教育システムへの応用と進展して行く予定である。
平成17年度から実操業している製油所にてテストを開始
する予定であり、今後の成果については機会をみて報告
させていただきたいと考えている。
最後になりましたが、本開発を企画立案、及び、委託
して下さいました経済産業省に、謝意を表す次第です。
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