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文化によるまちづくり

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文化によるまちづくり
文化によるまちづくり
【指導教員】
野田邦弘
榎木久薫
小泉元宏
【学
足羽大希
上島拓真
浦川杏里
生】
丹羽のぞ美
平岡里彩
宮田梨央
大石花織
吉田
司
1.まちづくり班とは
大西利永子
尾崎元気
片山詞野
HSUEH, YU-CHEN
・11月8日
私たち「文化によるまちづくり」班(以下、まちづく
小坂智子
カチュナリック氏のトーク&ウェルカム
パーティー
り班)は、自分たちが住んでいる地域の方々とふれあい、
・11月14日∼12月6日 「ホスピテイル・プロジェクト」
作品制作参加
新たな繋がりを作る「きっかけ」となる活動を行うこと
を目的としている。今年度のまちづくり班の活動のテー
・11月29日
マは、私たちにとって
・12月13日 「ホスピテイル・プロジェクト」展覧会の
!非日常的"な存在であるアート
木ノ下智恵子氏のトーク
オープニング
が地域と関わることにより、どういった効果が得られる
・12月14日∼1月13日 「ホスピテイル・プロジェクト」
のかを調査することである。
展覧会の受付
1―1
3つの柱
各活動内容についてはこれから詳しい説明するが、今
次項以降で、前期・後期の活動内容を考察を含めて次
年度の活動には共通している部分をみることができる。
の順序で報告していく。
これらを3つの柱として据えて報告していく。
①まちあるき
①使われなくなった歴史的建造物を新たに再活用するこ
②文献研究
と。
③複合型滞在スペース「たみ」の見学内容
②サイトスペシフィックな作品であるということ(再活
④「大山アニメ―ションプロジェクト」の見学内容
用された場所でアートプロジェクトが行われることで
⑤「ホスピテイル・プロジェクト」への参加内容
新しい価値観がその場所から生み出されるため、その
2.まちあるき
地域でしか作れない作品が生まれるということ)
。
私たちは、鳥取駅周辺のまちあるきをした。目的は実
③それぞれの活動にDiYの思想が含まれていること。
際に鳥取のまちをあるいてみることで、まちの建物や雰
1―2
活動内容
囲気などの現状を自分たちの目で確かめることである。
前期は、まちあるきや文献研究、複合型滞在スペース
全部で8か所を訪れたが、その中でもまちの中で創造活
「たみ」の見学、赤井あずみ氏へのインタビューなどを
動を行っている場や歴史性を感じる場所を紹介する。
通して、後期の活動のための基礎を学んだ。そして後期
2―1
では「大山アニメ―ションプロジェクト」の見学をした
まちあるきをした場所
くう
のち、「ホスピテイル・プロジェクト」に参加し、レオ・
写真1はギャラリーそらとスペース空である。このス
カチュナリック氏とともにアート作品の制作、展示を
ペース空はJR鳥取駅から徒歩3分駅前サンロード商店
行った。以下、そのスケジュールである。
街にある貸しギャラリーであり、1階と2階はギャラ
リーそらとして主に様々な展覧会や企画イベントを行っ
・2013年4月26日
まちあるき
ている。私たちが訪れたときは、地下1階のスペース空
・5月10日∼24日
文献研究
では、「家仕事」をテーマとした企画展と販売を行って
・5月31日
複合型滞在スペース「たみ」の見学
・6月7日∼7月5日
いた。
文献研究
つぎに、鳥取たくみ工芸店である。ここは民芸運動家
・7月12日
赤井あずみ氏のトーク&インタビュー
の吉田璋也が開いた工芸店だ。陶器類を中心に伝統の技
・7月26日
旧横田医院の見学、掃除
が生きた作品が並んでる。吉田璋也はある民芸の「高価
の見学
・10月11日 「大山アニメーションプロジェクト」
な美術品や高名な作家の作品にだけ美があるのではなく、
21
2013年度
写真1
地域文化調査成果報告書
ギャラリーそら
写真2
旧とめや旅館
名もない民衆が作り、使い続けてきた日用品のなかにこ
そ健康で豊かな美が宿る」という思想を胸においている。
2―2
考察
この民芸の思想にそって、鳥取や九州、沖縄などの工人
まちあるきを終えて、これからまちづくり班として活
の手による作品を集めて販売している。この隣には鳥取
動していくにあたって、鳥取市のまちなかの様子を把握
民芸美術館がある。
できた。例えば、鳥取雑貨堂のような新しくできた場所、
そして、旧横田医院だ。旧横田医院とは昭和31年に横
たくみ工芸店のような昔からある場所などが混在してい
田浩院長が開業した胃腸外科専門の医院で、もとは旧大
た。地域の資源を生かした商品や、その土地にゆかりの
栄町にあった元婦人科の病院である。建物の内部は、内
ある人々の痕跡を知った。旧横田医院でのホスピテイル
側の廊下部分の周囲に、扇形の部屋が配置されたドーナ
の活動や、旧とめや旅館でのことめやプロジェクトなど
ツ状になっており、一部はプライベートな住居として使
も昔からある建物の中で新しい取り組みをしている。こ
われていた。建物の設計は横田院長自身の設計で、その
のことから、ただ新しいものを取り込んでいくようなま
形は当時では珍しく、新聞各紙に紹介された。
ちづくりではなく、地域が持っている記憶や歴史をふま
ここでは今までにも様々なアートプロジェクトやトー
えたまちづくりを展開していくべきではないだろうかと
クイベント、ワークショップなどが行われた。
いう考察にいたった。
最後に写真2は旧とめや旅館である。ここはかつて遊
郭として使われていた場所で、現在ではイベントやミー
3.文献研究
ティングスペースとして開放され、若者やアーティスト
3―1
活動目的
鳥取だけに限らず、日本や世界各国で行われている、
たちの空間として活用されている。今年は「ことめや・
アートプロジェクトやまちづくりなどの活動の実態を文
プロジェクト」として様々なイベントが開催された。
ことめやとはプロジェクトの開発基地、まちの実験室、
献から読み取り、アートによるまちづくりの基本的知識
開かれたミーティングスポットなど「みんながいろいろ
を身につけことを目的とした。そのために3冊の文献を
やる」というコンセプトを掲げた場所のことである。複
読んだ上で、まちづくり班全員で文献に関する意見の共
数の人が場所を共有しながら、それぞれの仕事を持ち込
有を行い、私たちのアートプロジェクトに対する考えを
んで働く場、コワーキングスペースとして、またコミュ
深めた。
ニティに関する実践、実験を行うグループと連携し、さ
3―2
まざまな活動のプラットホームとして活用している。こ
文献について
こで行われる3つのプロジェクトを紹介する。一つめは
第1回目に読んだ文献は、毛利嘉孝の『はじめての
コワーキングスペースとしての活用、二つめはまちなか
DiYなんでもお金で買えると思うなよ!』である。この
の空き物件を見つけて、セルフリノベーションを行う実
本では、目の前にある世界を当たり前として捉えるので
践型プロジェクト、三つめは、記憶のレシピ・プロジェ
はなく、疑問を持つことが重要視されている。新しい世
クトがある。最後の記憶レシピ・プロジェクトとは昔な
界を創造するDiYの思想と、それに基づいて行われてい
じみの家庭料理のメニューをレシピ化し、シェアし、料
るメディアや空間、政治などにおける様々な実践の活動
理本にする試みである。
例が紹介されている。
よし お
第2回目には、白川昌生の『美術館・動物園・精神科
22
文化によるまちづくり
施設』から抜粋した一部分を研究した。この本では、「根
は管理人の二人が代表の合同会社「うかぶLLC」が管理
源的な破壊と死、そして苦しみ」に満ちたこの世界に
している(「LLC」には「有限責任会社」という意味も
あって、アーティストのなし得ることや、美術館、動物
あるが、うかぶLLCでは「合同会社」の意味で使用され
園、精神科施設の内外において「見せ物」にする、また
ている)
。
は、されるという関係における「倫理」について述べら
「たみ」は三宅氏と蛇谷氏の二人が経営している。二
人は2011年2月より鳥取県へ移住。東郷湖の畔の元漁師
れている。
第3回目には、『金と芸術
小屋を改装した「うかぶ」に暮らし、準備を進め、2012
なぜアーティストは貧乏
年10月に「たみ」をオープンした。
なのか?』の著者であるハンス・アビングが、この本を
出版した時に行った講演での講演録を研究した。ここで
「たみ」を訪れた目的は、第一回目の輪読で取り上げ
は、経済学者であり、アーティストであるという著者に
た「はじめてのDiY」に書かれていたような「DiY的な
よって、経済の視点から芸術やアーティストを支えてい
ライフスタイル」の身近な実践例を知るためである。
「DiY」 とは、「Do it Yourself」(自分でやってみよう)
る構造を明らかにしている。
第4回目では、吉澤弥生の『芸術は社会を変えるか?
の略である。一般的には、専門業者に任せずに自らの手
文化生産の社会学からの接近』を研究した。この本は、
で生活空間をより快適に改装、工事、作製しようとする
地域住民とアーティストの共同制作など、2000年代以降
概念を指すが、「はじめてのDiY」では、DiYの思想の一
の大阪の文化政策を契機に生み出された「芸術運動」の
例として「既存の在り方や生き方を当たり前として捉え
調査をもとに構成されている。文化政策の現状、創造の
るのではなく、疑ってみること。そして、自分たちの手
現場が直面した困難と可能性、アクティヴィズムとの関
でおもしろい生活を作っていくこと」と述べられている。
連を論じて、社会を変える契機になる芸術のあり方を照
たみでは、普段の宿泊業、カフェの他に、不定期で
らしている。
様々なイベントを行っている。例えば「たみの一日店長
カフェリレーTAMI 1DAY SHOP」が挙げられる。これ
3―3 考察
は2014年1月から3月の毎週土日、たみのカフェの店長
文献研究を終えて、私たちはまちづくりの基本的知識
が毎回変わり、料理を提供したり、展示、ワークショッ
や様々な地域の文化現象や活動を知ることができた。ま
プなどを行うイベントである。店長を務めるのは松崎の
た、アートによる地域づくりは容易ではなく、その想い
地域の人、大学生、県外から来た人、たみの住人など
だけでなく、その土地の環境や経済面などを考慮する必
様々で、各々がやりたいこと得意なこと好きなものテー
要があることを知った。今回の文献研究で学んだことは、
マに店を開く。このように、たみでは人それぞれの個性
今後の活動の指針になるのではないかと私たちは考えた。
や創造性を生かした活動を行う場として機能し、それを
共有できる機会を提供している(写真3、4、5を参照)
。
4.複合型滞在スペース「たみ」
4―1 「たみ」の見学
4―3
私たちは5月31日、輪読で学んだことを実際に肌で感
考察
実際に私たちが「たみ」を訪れ、そこで知った活動に
じるため、鳥取県東伯郡湯梨浜町にある複合型滞在ス
ついて印象に残ったことを次の3つの点にまとめる。
ペース「たみ」を訪れた。
①メディアとの関わり方
4―2 「たみ」について
②サービスに対する考え方
「たみ」は松崎駅から徒歩約三分の距離にある複合型
③地域の人との関わり方
の滞在スペースである。元々、旧国鉄の職員寮として使
まず、第1の「メディアとの関わり方」について。
「た
われていたものの、その後空き家になっていた建物を管
理人の三宅航太郎氏、蛇谷りえ氏が中心となって改修し、
み」では写真撮影が一切禁止となっている。それは前
800円で泊まることができるゲス
利用している。一泊2,
もって情報を出しすぎないことで、実際に行ってみない
トハウスであり、複数人でひとつの住居を共有するシェ
と分からないというワクワク感や不安、何の情報もない
アハウスでもある(ゲストハウスとは、一般のホテルな
ままで感じた「たみ」を自分なりに楽しんでもらいたい
どとは異なり、寝室や風呂、台所を共有する宿泊施設)
。
という意図によるものである。また、「たみ」では人と
また、まちの人たちに場所を提供するレンタルスペース
のつながりを重要なメディアとして利用している。実際
や、週末だけ営業しているカフェ併設されている。たみ
に「たみ」を訪れた人に家族や知人に「たみ」について
23
2013年度
地域文化調査成果報告書
伝えてもらう=メディアになってもらう、という考えで
ある。「確かな」一つの情報ではなく、訪れた人たちそ
れぞれが感じた「たみ」が情報として発信されるのであ
る。
第2は、サービスに対する考え方。「たみ」では、訪
ねてくる人に対していつでも同じサービスをするのでは
なく、その時々で異なる「たみ」の状況を楽しんでもら
うような仕組みづくりを行っている。
第3は、「たみ」と地域の人々との関わり方。
「たみ」
はシェアハウス、ゲストハウスとして外から来た人を受
写真5 たみ一日店長
(http://www.tamitottori.com/)
け入れる施設であるが、同時に地域の人々とのつながり
もなくてはならないものだと考えている。カフェやイベ
ントを通して地域の人々と、たみを訪れる旅人の交流の
ディアから発信された娯楽・楽しみをそのまま受容する
場としても機能している。
ことに慣れてしまっている。普段の生活のなかで自分の
たみの活動から、私たちがあたりまえと思っている生
持つ創造性を自由に形にすることのできる機会が少ない
活の在り方に捕らわれず、外部のモノや制度に頼りすぎ
ため、「たみ」で行われているような、自分で何をした
ない生き方があることを知った。たみでの活動は私たち
いかを考え、創り、他の人と共有するという活動がいま
学生にとって珍しく、新鮮に感じられた。そこで「なぜ
新鮮に思えるのではないだろうか。
このような活動を新鮮に感じたのか」と考察した結果、
5.大山アニメーションプロジェクトの見
学
次のような結論に至った。私たちは普段、さまざまなメ
5―1
大山アニメーションプロジェクト
10月11日に、大山アニメーションプロジェクトの見学
を行った。大山アニメーションプロジェクトは、2013年
10月3日から12月3日の2ヵ月間に渡って行われた活動
であり、カナダ人と日本人のアーティスト計4名によっ
て短編アニメーション作品が制作された。このプロジェ
クトでは、「地域」
「ひと」
「アート」を組み合わせ、新
しい創造を生み出すことを目的としている。
今回、このプロジェクトに呼ばれたアーティストは、
ディレクターとして監督、脚本を担当するデイビット・
ディック氏、アニメーションを担当するアニメーターの
写真3
たみ玄関(学生撮影による)
長嶋佳代子氏、そしてデザインを担当する藤嶋佳代子氏、
そしてデザインを担当する藤本牧氏と大下志穂氏であっ
た。
5―2
AIR(アーティスト・イン・レジデンス)
私たちがこの見学を行った目的は、後に関わるホスピ
テイルプロジェクトのひとつであるアーティスト・イ
ン・レジデンスについて、実際の現場の雰囲気や地域と
の関わりを知るためである。このアーティスト・イン・
レジデンスとは、アーティストを一定期間ある土地に招
き入れ、その土地に滞在しながら作品制作を行う事業の
ことである。この大山町アニメーションプロジェクトに
おいても、アーティストたちが後に紹介する「まぶや」
写真4
一日店長(学生撮影による)
に滞在しながら、その場で作品の制作を行っている。
24
文化によるまちづくり
5―3
まぶや
旧横田医院が、プロジェクトを通じて、アーティストを
このプロジェクトが行われた場所は「まぶや」である
迎え入れる場所として、また、アーティストの展覧会を
(写真6)
。この「まぶや」は、築き会(大山町のUIJター
行うことで、地域の人々を迎え入れる場所として再生さ
ン者を中心に活動を行う若手企業家による任意団体)を
れることを試みているプロジェクトである。
母体とした馬淵邸実行委員会のメンバーが、大山町のサ
ポートのもとで元病院であった木造建築の建物を再利用
したコミュニティスペースである。
写真7
6―2
写真6
まぶやの外観
旧横田医院
キュレーター
赤井あずみ氏
赤井あずみ氏は、鳥取大学地域連携研究員であり、ま
た、鳥取県立博物館の学芸員でもある。大山アニメー
5―4 考察
ションプロジェクトやホスピテイルプロジェクトなどに
私たちは、建物がどのように再利用されているのか、
携わり、アートを通してまちを活性化する活動を行って
建物内部の様子を見学した。また、普段見ることのでき
いる。ホスピテイルプロジェクトでは、ディレクターと
ないアニメーションの制作現場を見ることや作品制作の
してアーティストの招へいや、イベントのマネジメント
話を聴くことが出来た。そこから、大山アニメーション
等を担当している(写真8を参照)
。
プロジェクトの見学を通して、活動の大変さや可能性を
感じられた。このプロジェクトに参加しているアーティ
ストたちから作品制作における話を聴いて、新たな環境
の中での新鮮さがある反面で、慣れない環境での苦労も
あることを知る。アーティスト・イン・レジデンスでは
アーティストを別の地域から呼び、その地域固有の作品
を作ることが出来る。一方で、アーティストたちにとっ
て普段とは異なる環境で作品を作ることの大変さがある
ことも感じた。
6.ホスピテイルプロジェクト参加
以上を経て、わたしたちは、11月8日から1月13日に
かけて行われた、ホスピテイルプロジェクトの制作と作
品展示までの活動に参加した。
6―1
ホスピテイルプロジェクト
写真8
赤井あずみ氏
ホスピテイルプロジェクトとは、鳥取市中心部に位置
6―3
する旧横田医院(写真7を参照)を拠点に、アーティス
今回のプロジェクト
今回のプロジェクトでは、プロジェクトの開催場所と
ト・イン・レジデンスや、展覧会、レクチャー、ワーク
ショップといったアートイベントなどを行う活動である。
25
なる旧横田医院の雰囲気と作風が合うアーティストとし
2013年度
地域文化調査成果報告書
ing a Re-Death Machine)
」である(写真9を参 照)
。「リ
てレオ・カチュナリック氏を招いた。
デス・マシーン」とは、人のアイデンティティが変化す
る、あるいはせざるを得ないという事から着想した、
「あり得たかもしれない別の人生、人格、アイデンティ
ティ」の創出のための装置としてレオさんが作り出した
架空のシステムだ。展覧会は、9つの映像と、それをも
とに制作された絵画作品によるインスタレーションで構
成されている。また、舞台装置としても使われた旧横田
医院の建物内を巡ることで、物語が進行していく構成に
なっている。
作品に出てくるプラカードに描かれているものは、幼
い頃、自分がなりたかったけど、なれなかったものだ。
「リデス・マシーン」のコンセプトとして先ほど挙げた
ように、この作品では、ありえたかもしれない別の人生、
人格、アイデンティティの創出をえがいている。
写真9 「ホスピテイルプロジェクト」チラシ
6―4
アーティスト
レオ・カチュナリック氏
レオ・カチュナリック氏とは、クロアチア出身のアー
ティストで、世界各地で儀式的なアートパフォーマンス
を行うほか、戯曲、オペラ作家、アート・ビデオのディ
レクターでもある。
写真11 リデス・マシーンの構想図
写真11は、カチュナリック氏が作成した9つの映像作
品から受けたインスピレーションをもとに描いたリデ
ス・マシーンの構想図である。
このプロジェクトに参加する目的は、地域にアートを
組み込むことでどのような反応が人やまちに起こるのか
を調べるためである。また、今までの学習をふまえつつ、
アーティストと共に実際の活動に携わることによって、
地域との関わりを広げることも目的のひとつだ。
私たちが行った活動内容としては、カチュナリック氏
によるアーティストトークの準備、旧横田医院やイオン
モール、ゲームセンター、サンロードにて行った作品制
作、ポスター貼りなどの展示会場の準備や受付などであ
る。また、写真12は、実際にサンロードで行われた撮影
写真10 レオ・カチュナリック氏(右)
現場である。自分たちのまちに異質なものが入ってきた
という、通りの人たちの戸惑いの表情が見受けられた。
6―5
作品について
今回のホスピテイルプロジェクトは、2013年12月6日
今回、カチュナリック氏が制作したアート作品は「コ
の日本海新聞に取り上げられた。メディアでも取り上げ
ンストラクティング・ア・リデス・マシーン(Construct-
られ、自分たちが携わっている活動を多くの人に知って
26
文化によるまちづくり
【職業】学生11名
社会人34名
その他4名
未回答2名
写真12 撮影風景
【この企画を知った理由】
知人の紹介22名
インターネット9名
ギャラリー3名
たみ2名
チラシ5名
ことめや1名
【何に興味をひかれて見に来たのか】
アート(現代アート、映像、ペインティング) 24名
横田医院の活用法 23名
まちづくりや中心市街地の活性化
その他
8名
2名
【これまでのイベントに参加したことがあるか】ない31
名
ある14名
【今回のイベントの感想とその理由】
大変良かった
写真13 2013年、12月6日の日本海新聞
3名〈理由〉大変印象に残る映像で時間
的・空間的なものを考えさせられた。etc
もらうことができた(写真13を参照)
。
良かった 26名〈理由〉不思議な作品を見ることができ
た。etc
6―6
アンケート結果
まあまあ 12名〈理由〉世界観が難しかった。etc
以下、2013年12月13日から2014年1月13日までの一ヶ
あまり良くなかった
月間に展覧会を訪れた方たち、51名に記入していただい
理解しづらい。etc
たアンケートの結果を報告する。
【性別】男性25名
女性24名
未回答2名
【年代】10代2名 20代19名 30代18名 40代10名
50代
2名
27
2名〈理由〉表現していたものが
2013年度
地域文化調査成果報告書
【今後どのような企画を期待するか】
やってみる」ということの重要性を感じた。
希望が持てるような企画
私たちはこれまでの「まちづくり」という言葉にある
子ども楽しく参加できる企画
種の違和感を覚えていた。この「まちづくり」という言
etc
葉は、私たちにとってイメージのしにくい、漠然とした
施設を生かした作品制作
ものであった。「まちづくり」がどういうものか理解し
6―7 考察
にくかったため、私たちは行動を起こすという簡単な作
アンケート結果からホスピテイル・プロジェクトへの
業に、ブレーキをかけていたのではないかと考えた。こ
参加を通じて、地域の人との直接の関わりは少なかった
の実習を通じて、主体的な行動の大切さに気がついた。
ので、今後の活動では関わる機会を増やしていったうえ
その結果、私たちは「まず、やってみる」という事が、
で、より主体的な地域への関わり方を模索する必要があ
まちづくりに繋がるのではないかという結論に至った。
ることが示唆された。また、地域住民へのアナウンスが
今回のような様々な経験は、地域の方々の協力があっ
少なかったため、自分たちでもっと積極的に広報活動に
てこそできたものである。これから、私たちは違う分野
取り組む必要があったのではないだろうか。
に分かれていくが、今回の調査実習での経験をそれぞれ
の分野の研究につなげていきたいと考えている。
7.まとめ
ここからは、一年間の活動を振り返って気づいたこと
や反省点、それをもとにまちづくり班全員で意見を出し
合い導き出した考察などを述べていくことにする。
今回の地域調査実習は、はじめにも述べたように、歴
史的建造物の再活用、DiY、サイトスペシフィック性を
軸として進めてきた。旧とめや旅館、旧横田医院などで
は、地域に昔からある建物の価値を見直している。その
建物を利用しつつ、その土地の文化や歴史などをふまえ
ながら、さまざまな分野の人たちが積極的な活動を行っ
ている。そこでは、地域固有のものを上手く利用した、
文化によるまちづくりがなされていた。
わたしたちは、実際にまちに出て活動するまでは、文
献研究で読んだほかの地域の活動は遠いものだと思って
いた。しかし、「たみ」
、「大山のアニメーション プ ロ
ジェクト」
、「ホスピテイルプロジェクト」など、実際に
活動に触れてみたことで、今までに無かった自由な視点
や、新しい価値観を得ることができた。「たみ」など、
一見まちづくりを目的として活動しているわけではない
取り組みでも、広い視野で見てみると前述の3つの軸と
関連する要素を持った様々な活動が合わさっている。そ
のことにより、それらの活動も地域の創造拠点としてま
ちづくりの重要なきっかけになっているのではないかと
考えた。
今回の反省点は、より積極的、自発的に活動に参加す
るべきだったということである。私たちは、今回の活動
を行ったことによって、地域のためになったのか、地域
の方々の声を聞くことができたのか、という疑問をまず
抱いた。その解決のためには、活動を始める前に、地域
との関係性についてアーティスト達と十分に意見を交換
する機会も必要であったと思われる。だが、それに加え
て、私たちは、この実習を通じて、自分たちから「まず、
28
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