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122. 成長因子の骨端持続注入による骨成長促進法 安井 夏生
上原記念生命科学財団研究報告集, 22(2008) 122. 成長因子の骨端持続注入による骨成長促進法 安井 夏生 Key words:骨端線,成長帯,骨髄内注射,IGF-I,成 長因子 徳島大学 大学院ヘルスバイオサイエンス 研究部 運動機能外科学 緒 言 整形外科を受診する患者には左右の脚長差を有する疾患が多々あり, 現在我々は主として仮骨延長術により脚長差の補正を行 なっている. 仮骨延長術はひとつの骨を10cm以上も延長できるすばらしい方法であるが, 骨切りを要すること, 長期間の創外 固定を必要とすることが最大の問題である. 本研究の目的は「骨切りも創外固定も必要としない骨延長法」を開発することであ る. 骨の長軸方向の成長は骨端線(成長軟骨)において行なわれる. 成長ホルモン(GH)を連日皮下注射すると全身骨の成長 が促進されることが分かっているが, 個々の骨の成長を別々にコントロールする方法は現在のところない. 本研究では骨の成長因 子であるソマトメジンC (IGF-I) を骨端の骨髄内に持続的に注入することにより, 特定の成長軟骨だけの成長促進を計る方法 を確立した(図1). 1) 図 1. 骨端部骨髄内持続注入の模式図. 注入された成長因子は骨端から成長軟骨に浸潤していく. 方 法 生後4週齢の家兎48羽を用いた動物実験を行った. 左右の脛骨の近位骨端の骨髄内に注射針を刺入し, 背部皮下に移植し た浸透圧ポンプとシリコンチューブで連結した(図2). 右の浸透圧ポンプにはソマトメジンC(IGF-I)を, 左のポンプに は生理食塩水を満たし, 2mlの溶液を4週間かけて持続注入した. 術後、軟X線撮影にて経時的に脛骨長を測定した. 組 織像にて成長軟骨の幅の増大, 細胞数の増加, 分裂像を観察した(図3). 骨成長因子の代わりにインデアンインクを浸透圧 ポンプで持続注入し, その分布を観察した(図4). 1 図 2. X 線像. 家兎背部皮下に移植した2つの浸透圧ポンプと左右の脛骨骨端の骨髄内に刺入した針をシリコンチューブで連結したと ころ. 結 果 骨端部骨髄内に IGF-I を持続注入した右脛骨は, 生理食塩水を注入した左脛骨に比べ,4週間で約2mmの過成長を認 めた(図3). このとき 右頚骨の骨端線は左に比べ約20%肥厚していた. 組織学的に観察すると成長軟骨では増殖層, 肥 大層を含む全ての細胞層の肥厚が認められた(図4). また IGF-I 注入した右骨端部骨髄では左にくらべ新生骨梁の著しい 増加を認めた. これらの変化は IGF-I 注入後1週間では目立たず, 2週後から顕著となった. X増像で計測した脛骨長左右 差も注入後1週後では0mm、2週後で1mm、4週後で2mmとなった. IGF-I の分布をみるためにインデアンインクを用 いた実験では, 注入された薬剤の大部分は骨端部骨髄内に留まるが, その一部は成長軟骨内に浸潤していくことが明らかとなっ た. 図 3. 家兎脛骨 X 線像. 骨端骨髄内に IGF-I を4週間持続注射した右脛骨は生理食塩水を注射した左脛骨より2mm過成長した. 2 図 4a. 組織像 IGF-I 投与側. 成長軟骨細胞は増殖層も肥大層も約20%増加した. 図 4b. 組織像 コントロール側. 骨端骨髄の骨梁数が IGF-I 注射側より少ない. 考 察 本研究で骨成長因子の骨端への持続的注入が骨成長を促すことが確立された. 世界ではじめて骨切りをせずに個々の骨の成 長をコントロールする方法ができたことになる. この骨成長促進法は従来の仮骨延長法に比べ, 骨切りや創外固定の装着を必要 としないため、痛みが少なく合併症も圧倒的に少ない骨延長法である. 臨床応用の際には埋め込み式の浸透圧ポンプに代えて 簡便な体外式の携帯ポンプを使用することができる. 唯一の欠点は成長軟骨の存在する小児にしか用いることができない点であ る. 成人には用いることはできない. 本法を用いて両側の同時手術を行なえば骨系統疾患などの小人症の治療にも用いることが でき, 応用範囲は広い. 3 図 5. インディアン・インクの骨端骨髄内注射. インクの大部分は骨端骨髄内に貯留したが, 一部は成長帯にまで浸潤していた. 文 献 1) Abbaspour A, Takata S, Matsui Y, Katoh S, Takahashi M. & Yasui N:Continuous infusion of insulin-like growth factor-I into the epiphysis of the tibia. Int Orthop., 2007(Epub ahead of print) . 2) Abbaspour A, Takata S, Sairyo K, Katoh S, Yukata K. & Yasui N: Continuous local infusion of fibroblast growth factor-2 enhances consolidation of the bone segment lengthened by distraction osteogenesis in rabbit experiment. Bone, 42:98-106, 2008. 3) Takahashi M, Yukata K, Matsui Y, Abbaspour A, Takata S, & Yasui N: Bisphosphonate Modulates Morphological and Mechanical Properties in Distraction Osteogenesis through Inhibition of Bone Resorption. Bone, 39:573-581, 2006. 4