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日本神経・筋疾患摂食・嚥下・栄養研究会 (JSDNNM)

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日本神経・筋疾患摂食・嚥下・栄養研究会 (JSDNNM)
日本神経・筋疾患摂食・嚥下・栄養研究会
(JSDNNM)
第3回
学術集会
徳島大会
抄録集
会長:国立病院機構徳島病院
臨床研究部
野﨑園子
日
時:平成 19 年 10 月 20 日(土)
会
場:ホテルグランドパレス徳島
プログラム
特別講演
アンチエイジング食から嚥下食のクッキング
ユーリーズ
代表取締役
フランス料理シェフ
多田鐸介
昼食会(嚥下障害食のバイキング)
一般演題
1
演
題
寒天ミキサーを使用した嚥下造影時の食道機能評価
演者
金藤大三
演者所属
国立病院機構鳥取医療センター神経内科
2
演
題
神経筋疾患患者における錠剤の食道通過についての予備研究
演者
山本
敏之
演者所属
国立精神・神経センター武蔵病院 神経内科
3
演
題
摂食・嚥下障害患者にとって口腔内崩壊錠は飲みやすい製剤か?
演者
馬木良文
演者所属
国立病院機構徳島病院
神経内科
4
演
小脳海綿状血管腫術後遺症による嚥下障害の 1 症例 ―嚥下障害が回復できるか―
題
演者
大塚義顕
演者所属
国立病院機構千葉東病院
歯科
5
演
進行の早い ALS の一症例∼胃ろう増設後に経口摂取の限界を考える∼
題
演者
演者所属
宮本純子
兵庫医科大学
リハビリテーション部
6
演
ALS およびパーキンソン症候群における長期経腸栄養の問題点
題
演者
市原典子
演者所属
国立病院機構高松東病院
神経内科
7
演
題
経腸栄養剤の半固形化の糖代謝に与える影響
演者
植田友貴
演者所属
国立病院機構長崎神経医療センター
リハビリテーション科
8
演
題
演者
在宅で経口摂取を支援する
森光
演者所属
∼通所リハビリテーションでの関わり∼
大
あいの里クリニック
9
演
題
摂食・嚥下・栄養サポート外来における指導内容を患者が継続するために何が必
要か
演者
椎本久美子
演者所属
国立病院機構 徳島病院
リハビリテーション科
10
演
嚥下障害と誤嚥性肺炎の prevalence:全国調査の結果から
題
演者
演者所属
山脇正永
東京医科歯科大学
神経内科
抄
録
特別講演
「アンチエイジング食と介護食の融合」
ユーリーズ
代表取締役
フランス料理シェフ
多田鐸介
嚥下介護食と出会ってから12年が経つ。5年間フランスの料理留学から帰国しホテル
やレストランに勤め、高額所得者のために料理を作り続けていた時、外資系の調理機械メ
ーカーよりホテルに求人が来て、当時の勤務先、オープンして間もない外資系ホテルのド
イツ人の料理長から呼ばれ自分に白羽の矢が経った。
その会社に入社して単調なサラリーマン生活に飽きてきた頃、聖隷三方原病院の新厨房
の技術指導として出張した。帰り支度をしていた際に出会った人がその後の私の人生を変
えた当時の栄養科長
管理栄養士
の金谷節子先生である。先生の「最後のワンスプーン
まで幸せを運んで」という言葉に共感を得てフランス料理の技術を応用した嚥下障害食に
取り組み、その間5年間東京の麻布十番で自身がオーナーシェフとして腕をふるい現在は
その店を閉じシニアビジネス、アンチエイジングビジネスのコンサルタントとして老人施
設のプロデュースやアンチエイジング食を取り入れた医療施設などのコンサルテーション
日常の業務としている。また3年ほど前にプロスキーヤーの三浦ファミリーの料理本の制
作を携わった際、抗加齢医学の順天堂大学教授
白澤卓二先生と出会いアンチエイジング
食の研究をすることにもなった。
自分は料理のスペシャリストとして医療介護施設の調理指導をして感じる部分は何か?
そして一番の問題点とは一般に医療食は治療や回復を目的とした物であり、味わったり楽
しむものとはほど遠い何よりも医師を中心としたヒエラルキーが存在している医療介護の
現場に料理の作り手の声や姿は存在しない。一方、一般のフードサービス業界は厳しい市
場原理にさらされておりメニューや調理方法を駆使していかないと消費者から支持をされ
ないと言うのが現実だ。
いろいろな医療介護施設から食事をレベルアップさせたいと言う言葉を耳にするが以上
の様な事が少しでも改革されない限り「あの病院の飯は旨いらしい!是非入院して食べて
みたい!」などということは設備を新しくしたところで実現は不可能だ。作り手の思いが
食べての通じないため、調理師学校を出た優秀な生徒はホテルやレストランに集まってし
まう。その悪い介護食の例を上げると通常の焼き魚を一度、ミキサーにかけ再び魚の形に
して成形をしたりして自己満足しているのをよく見かける。ペースト状にしなくてはとい
う考えが根底にあるため通常食を変化させるという方向に走ってしまう。素材にはつぶし
て美味しい物と不味い物、そのままの状態でもつぶした状態でも美味しい物の三体が存在
する。その素材の特性、メカニズムを捉えて美味しく心地よい介護食を作ることが重要課
題である。
現在の私の関心事は次世代の介護食としてアンチエイジング理論に基づいたフードデザ
インと介護食に導入する事にある。アンチエイジングのキーワードは
抗酸化力、デトッ
クス力、生きるモチベーションである。いわゆるアンチエイジング食材と言うのは何千年
と続いた伝統料理や天然由来の食材や調味料にそのヒントが隠れている。食べ継がれてき
た料理の歴史は西洋医学の歴史より長く疫学的にも食材が豊富な地域ほど長寿者が多い。
そのアンチエイジング食材をフランス料理の乳化という技術を用いて作った薫り高い料
理が私の提唱したい「新介護食」である。
一般演題
1
寒天ミキサーを使用した嚥下造影時の食道機能評価
国立病院機構鳥取医療センター神経内科
同
リハビリテーション科
金藤大三
横田嘉子、森智美、森田愛
【はじめに】今回我々は何を食べることができるかを調べるのでなく、嚥下障害の背後に
ある変化を捕まえるようにVF模擬食を選定し食道機能を評価した。【対象】2006.4.1∼
2007.3.31 の1年間に VF をし、正面像で食道期を観察し得た嚥下障害 CVD 患者 23 例(脳梗
塞19例、脳出血6例)男性 9例、女性14例 平均年齢80.4才(年齢 58 才∼92 才)
同様のやり方で食道相を観察し得た多系統萎縮症 MSA-C 8 例(2003.∼2007.3.31)男性5
例、女性3例
平均年齢 67.4 才(54 才 78 才)【方法】食道相を見るために寒天ミキサー
(粘度 24,600mPa・s)を使用した。寒天は体温で溶けず粘度が変化しにくく ある程度まと
まりがあり適度に柔らかく広がり食道の動きを捉えやすい。また一般的に広く使われてい
る食材で全国どこででも手に入るからである。
検査は VF 正面で寒天ミキサーを20ml(1
0ml)を咽頭嚥下でもっとも残留が少なく、誤嚥を認めない Best swallow の体幹角度で
嚥下してもらい以下の項目で評価した。①残留の程度②残留部位③食道内逆流の有無④食
道拡張⑤蠕動遅延である。食道残留評価は黒田百合らの方法に準じた。(日摂食嚥下リハ会
誌 10(2);152−160、2006)評価は2∼3人で行い、最終判断は協議して決定した。
【結果】
23例の脳血管障害患者(脳梗塞18例脳出血7例)の食道残留は重度6例中等度3例軽
度2例なし12例で、重度と中等度を合わせて39.1%軽度となしを合わせて60.9%
であった。一方8例のMSA患者の食道残留は重度7例中等度1例軽度0例なし0例で重
度と中等度を合わせて100%軽度となしは0%であった。【考察】食道横紋筋部は食道入
口部(上部昇圧帯、輪状咽頭筋)と上部食道からなり迷走神経(体性神経)に支配され、
食道平滑筋部は迷走神経(副交感神経)に支配される.上部食道の蠕動波低下と食道平滑筋
部の異常な蠕動波はいずれも食道の迷走神経の変性を反映する.
食道内圧検査では栗原和男らは OPCA で上部昇圧帯の静止圧低下と全食道にわたる食道蠕
動波の振幅の軽度低下を,また OPCA で食道内圧異常(輪状咽頭筋、横紋筋部、平滑筋部),
SDS で初期からの食道内圧異常(横紋筋部、平滑筋部),SND でも食道内圧異常(横紋筋部)
を認めている.Thatcher らはSDSで上部食道の蠕動波の消失(1 例)と食道全般にわたる
高振幅同期波(1 例)Higo らも MSA-C5y 以上群 60%に上部食道括約筋開大不全を認めて
いる.しかしながらVFによる MSA の 食道相の所見をみると、栗原和男らは ディオノジ
ール15ml を用い下部食道の拡張を 6 例/13 例に認め、また他の論文には早期より 33%に
下部食道拡張を認めているが Higo は 食道上部開大に異常がないことをのぞき食道相に記
載なし.長屋正博らも食道相の記載はない。
これまでの報告では食道内圧検査では食道の異常が指摘されているにもかかわらずVF
で言われていないのは VF では食道機能の変化をVFに反映できるような模擬食(食道の蠕
動をよく描写できる粘度)を使用しないと描写できないからと考えられる.
【結論】食道機能が評価しやすいように調整された VF 検査食を用いることで鋭敏に食道の
異常所見を捉えることができる。
2
神経筋疾患患者における錠剤の食道通過についての予備研究
山本敏之(1,2),濱田康平(2),吉村まどか(1),柴崎久仁子(2),清水加奈子(2),廣實真弓
(2),小林庸子(2),村田美穂(1)
(1) 国立精神神経センター武蔵病院
(2) 同
神経内科
リハビリテーション科
【目的】
神経筋疾患患者が錠剤を内服したときに,錠剤が食道から胃へ良好に通過して
いるかを評価する.
【対象と方法】 対象は坐位保持が可能で,経口摂取している神経筋疾患患者 45 人.対象
者の内訳は,筋強直性ジストロフィー(MYD) 18 人(男 8 人,女 10 人.平均 52.4 ± 15.9
歳),顔面肩甲上腕型筋ジストロフィー(FSHD) 7 人(男 1 人,女 6 人.平均 47.1 ± 14.9
歳),パーキンソン病 6 人(男 2 人,女 4 人.平均 72.8 ± 9.4 歳),ミオパチー 5 人(男
4 人,女 1 人.平均 37.0 ± 14.0 歳),酸性マルターゼ欠損症(AMD) 5 人(男 2 人,女 3
人.平均 52.8 ± 15.6 歳),デュシェンヌ型筋ジストロフィー 2 人(21 歳,25 歳)
,ベッ
カー型筋ジストロフィー 2 人(42 歳,52 歳)であった.
被検者は座位で,コップ一杯の水でクエン酸第一鉄ナトリウム(フェロミアR 50mg)1錠
を内服した.被検者の食道下部から胃上部を正面から透視し,錠剤が通過する様子を DVD
レコーダーに記録した.食道下部に移動した錠剤が 30 秒以上噴門を通過しなかった場合,
「停溜」と判断した.20 秒以上かけて通過した場合,
「通過遅延」と判断した.また,食道
機能の評価として,液体バリウム(Ba)を飲んだ後の食道の拡張部位と Ba 残留部位を評価
した.
【結果】 錠剤の通過に問題がなかったのは 45 人中 39 人であった.そのうち 33 人の食道
機能を評価し,16 人に食道の拡張を認めた.食道全長にわたる拡張は 12 人,食道中部のみ
の拡張は 2 人,食道上中部の拡張は 1 人,食道中下部の拡張は 1 人であった.また,33 人
中 20 人に食道内の Ba 残留を認めた.食道全長にわたる Ba 残留は 2 人,食道中部のみの Ba
残留は 3 人,食道下部のみの Ba 残留は 8 人,食道上中部の Ba 残留は 1 人,食道中下部の
残留は 6 人であった.
錠剤の通過に異常があったのは 45 人中 6 人だった.そのうち,食道下部に錠剤が停溜した
のは 3 人で,16 歳 MYD 女性,61 歳 FSHD 女性,69 歳 MYD 女性であった.16 歳 MYD 女性は食
道中下部の拡張を認め,他の 2 人には食道の拡張はなかった.また,MYD 患者 2 人は食道中
下部に Ba 残留を認め,FSHD 患者は食道上中部に Ba 残留を認めた.錠剤の通過遅延があっ
たのは 32 歳 AMD 女性と 68 歳 FSHD 女性であった.どちらも食道拡張はなかった.FSHD 患者
は食道中部に Ba 残留を認めたが,AMD 患者には Ba 残留はなかった.気管切開をしていた
43 歳 AMD 女性は食道上部に錠剤が停溜した.この患者には食道の拡張はなく,上部食道と
下部食道に Ba 残留を認めた.
【考察】
食道内で崩壊すると食道炎や食道潰瘍を起こす薬剤には,アレンドロン酸ナト
リウム水和物,テトラサイクリン系抗生剤,ニューキノロン系抗生剤,カリウム製剤,副
腎皮質ステロイド,塩酸メキシレチンなどがあり,剤型はさまざまである.薬剤の食道通
過を評価したこれまでの報告の多くは,バリウム入りカプセルを検査に使用しているが,
カプセルや糖衣錠は食道粘膜に張り付きやすいことが知られている.本研究では錠剤を使
用し,神経筋疾患患者では,錠剤が食道に停溜することが稀ではないことを示した.しか
し,錠剤の通過異常がある患者に,必ずしも食道機能の異常があるわけではなく,錠剤の
通過に異常がなかった患者においても食道機能の異常が多かった.どのような疾患の患者
が,どの程度の食道機能の異常で,錠剤の通過障害が起こるかは,引き続き検討する必要
があると考えた.
3
摂食・嚥下障害患者にとって口腔内崩壊錠は飲みやすい製剤か?
馬木良文 1),野崎園子 2),杉下周平 3),椎本久美子 3),橋口修二 1),乾俊夫 1),足立克
仁 4)
独立行政法人国立病院機構徳島病院神経内科 1),臨床研究部 2),リハビリテーション 3),
内科 4)
【目的】
口腔内崩壊錠(OD 錠)は,摂食・嚥下障害を有した成人にとって,内服の努力を要さな
いことから,簡便で用いやすく有益であると考えられており,国内でも同様の文献が散見
される.Carnaby-Mann らは嚥下内視鏡を用い評価を行っているが,ほとんどの報告は OD 錠
を患者に服用させ,自覚症状から嚥下のしやすさを評価している.
我々は,OD 錠が摂食・嚥下障害のある患者にとって内服しやすい製剤であるかどうか,
ビデオ内視鏡(VE)を用いて客観的に検討した.
【対象と方法】
対象は摂食・嚥下障害を自覚したか,または他覚的に認められ,VE を施行された 6 例で,
年齢は 48 歳∼83 歳,性別は男性 5 名と女性 1 名であった.疾患はパーキンソン病などの神
経変性疾患が 3 名,脳血管障害が 2 名と頸髄症が 1 名,摂食・嚥下能力は藤島のグレード
で 10 が 1 名,III-7が 3 名,II-5 と II-4 が 1 名ずつであった.
これら対象患者に対して VE を行い,OD 錠の模擬製剤と,対象とした錠剤を内服させ,そ
の嚥下の動態を観察した.OD 錠の定義は,わずかな唾液で速やか(10 秒以内)に崩壊し唾液
と一緒に飲み込むことができる製剤とされる.我々は OD 錠の模擬製剤として,口腔内で速
やかに溶解し嚥下しうる和三盆糖を錠剤の形に形成して用いた.さらに VE で確認しやすい
よう食用色素を塗布した.また対象患者の背景を摂食・嚥下問診票とビデオ嚥下造影(VF)
から検討した.
【結果】
錠剤を正常に嚥下できたものは4名で,このうち 2 名は OD の模擬製剤も嚥下できたが,
他の 2 名は模擬製剤が咽頭に残留した.錠剤が咽頭に残留した 2 名は模擬製剤も咽頭に残
留した.模擬製剤が咽頭に残留した全例(4 名)で咽頭の残留感がなく,嚥下し得たか確認
すると「できた」との返事であった.残留した模擬製剤は指示を与えて始めて,反復嚥下,
あるいはトロミ水を用いて除去できた.
食事に関する問診では,模擬製剤が咽頭に残留した群で一定の傾向がなく,咽頭残留の
兆候である痰の増加や湿声,咽頭違和感のみられないものもあった.また,VF でも一定の
傾向がなく, 水分摂取・ゼリー摂取ともに咽頭残留の所見のないものもあった.
【考察】
今回対象とした 6 例のうち 4 例で模擬製剤は咽頭に残留し,嚥下されていなかった.ま
たこれらの患者では服用後の残留感がなく,複数回の嚥下を行う,あるいはトロミ水を用
いるよう指示をして初めて嚥下し得た.これらの患者への摂食・嚥下に関する問診や,VF
では,必ずしも摂食での咽頭残留を示唆する結果は得られず,OD 錠の残留を問診や VF でス
クリーニングすることは困難と考えられた.
今回の結果からは,摂食・嚥下障害のある患者で,他の製剤に比較して口腔内崩壊錠が
有用とは言えず,個々の摂食・嚥下障害の病態に応じた剤形の選択が必要と考えられた.
さらに口腔内崩壊錠については,今後,内服した場合の薬剤の血中濃度の推移や,誤嚥し
た場合の気道への安全性の評価も必要であると考えられた.
【結論】
摂食・嚥下障害のある患者にとって口腔内崩壊錠は必ずしも有用とは言えず,やむを得ず
これを内服する場合,必ず反復嚥下を促すか,トロミ水を用いた交互嚥下を促す必要があ
ると考えられた.
4
小脳海綿状血管腫術後遺症による嚥下障害の 1 症例 ー嚥下障害が回復できるかー
大塚義顕、渋谷泰子
国立病院機構千葉東病院
歯科
【目的】小脳海綿状血管腫(以下脳腫瘍)術後後遺症の嚥下障害のある4歳の男児。現在,
経鼻チューブからのみ栄養摂取をしている。普通食を経口摂取するも,嚥下反射が誘発で
きず全量口腔外に戻す(図1)。「嚥下障害が回復できるかどうか」の主訴で当院摂食外来
を受診。患児は,むせ・嘔吐するのが怖く,食物を加工処理できても飲み込むことを意識
的に抑制している状態であった。また,就寝時に多量の流涎はなく,唾液は嚥下している
と推測された。これらのことから,意識下で嚥下反射が誘発できないものと推察。そこで,
患児の嚥下障害を回復するために,精神的アプローチと口腔・咽頭期の嚥下訓練・誤嚥防
止策とを加えた摂食機能療法を 1 年間実施したので報告する。
【方法】精神的アプローチと口腔・咽頭期の嚥下訓練および誤嚥対策について取り組んだ。
初診時には,摂食機能の診断・評価と頸部聴診検査を施行した。初回の訓練法は,口腔・
咽頭期の嚥下訓練として,1)嚥下反射を誘発するために寒冷刺激法を1日2∼3回。2)
食道入口部の開大時間延長のために頭部挙上訓練(ショキア訓練)を1日2回実施(図2)。
4ヶ月後は,1)超音波検査にて,舌の上下・左右の運動動態を診断したところ,食塊の
移送・移動時の舌の偏移(スラスト)がみられため,スプーンを逆さに銜えさせ,舌尖部
でボール部を押さえさせた。嚥下時の舌位を意識化させた。2)筋機能訓練法(バンゲー
ド法Ⅰ:受動的刺激法)の舌訓練(口外法)を併用(図3)。6ヶ月後には,誤嚥を防止対
策のために,1)声門閉鎖を強化する押し訓練。2)頸部と舌・口唇・頬のROM訓練。
その後の経過を10ヶ月,13ヶ月に評価した。無意識下にできるように訓練計画を立て
実施した。
【結果】初診時の診断では,構音障害があるものの摂食時の口唇・頬・舌・顎の協調運動
には,明らかな異常はなかった。捕食動作(口唇による食物の摂り込み),咀嚼動作(食塊
形成と粉砕・唾液の混和)とにも異常を認めなかった。水分摂取時の口唇・舌・顎の協調
運動にも異常を認めなかった。自食時の手と口の協調機能にも異常を認めなった。嚥下機
能検査のために,頸部聴診法を施行したところ,嚥下音の聴診をするも,反射が惹起しな
いため検査できなかった。嚥下反射の誘発は,4ヶ月経過後も認められなかった。6ヶ月
後,食事中に無意識に食べ物を飲み込み,驚いて,その直後に嘔吐することがあった。本
人が心理的に食べることを拒否することもみられるようになった。また,睡眠中のよだれ
がほとんどなくなった。10ヶ月後は,嚥下反射が多く誘発されるようになった。便の色
が明らかに緑から黄色になり,臭いも変化してきた。口蓋に触れると嘔吐反射がみられる
ようになった。13ヶ月後は,食べ物が咽を通ってゆくのがわかるようになった。むせ・
咳き込み・嘔吐も多く認められるようになった。食べることを拒否することも多くなった。
また,口の中を触られることに強い拒否を生じた。
【考察】患児は,摂食動作には異常を認めなかったが,嚥下機能には問題があった。特に
嚥下反射が惹起しないため,しばらく閉口させていると強いむせ・咳き込みと同時に,全
て口腔外に戻す。これでは,VF 検査は,不可能と判断し,嚥下反射が誘発できるまで経過
観察することとした。患児は,脳腫瘍のため生後8ヶ月頃から32ヶ月までに計5回の摘
出術を施行した。これによって延髄空洞化,水頭症もある。シャント術も施行している。
したがって,嚥下の口腔期と咽頭期に何らかの障害があると予測された。しかし,患児は,
「食べるのは楽しい」,「食べ物を飲み込むのが怖い」,「チューブがあるからこれで良い」
と訴えているため,飲み込むことを意識的に抑制しているとも考えられた。就寝時のシー
ツがべっとり汚れることはないとのことから考えると,意識下では,嚥下反射が惹起しな
いためと推察できる。経管依存症や食事恐怖症が疑われる。
そこで,精神的アプローチとして,無理なくできるように,訓練を「筋肉マン体操」と名
付けて,遊びの中で取り組んだ。これによって,初診から6ヶ月までは,患児も協力的に
実施できた。
口腔・咽頭期の嚥下訓練に関しては,小児を対象としたため,例えば,寒冷刺激法では,
前口蓋弓への圧刺激を片側10回程度とした。頭部挙上訓練(ショキア訓練)では,仰臥
位姿勢から両肩をつけたままつま先を見るように頭部を上げ,3秒間保持。それを5回繰
り返すとした。また,頭のみを上げ下ろす動作は,10回繰り返す程度とした。これを1
セットとし,1 日2回行わせるようにした。嚥下時の舌位を意識化するために,舌縁口蓋閉
鎖訓練用スプーン(セラ・スプーン)を使うのが一般的であるが,今回は,小スプーンを
逆さに銜えさせ,舌尖部でボール部を押さえさせた。押し運動やROM訓練は,通常と同
様の方法で実施できた。訓練は,比較的分かりやすく
初回から6ヶ月経過後には,嚥下反射の誘発を認めた。また,内視鏡検査にて,声門閉鎖
に異常なく,食塊の咽頭流入,食道入口部の開閉を認めたとの報告があった。そこで,訓
練に誤嚥防止策を加え4ヶ月経過後,嚥下反射が多く誘発されるようになった。便の色や
臭いも変化をみた。この頃より,嚥下障害の回復ができてきたものと推察できる。しかし,
口蓋に触れると嘔吐反射がみられるようになり,3ヶ月経過後には,食べ物が咽を通って
ゆくのがわかるようにまで回復したが,むせ・咳き込み・嘔吐も多くなって,窒息事故を
起こした。また,口腔内の触圧覚刺激に過敏もみられるようになった。
このように,機能的問題が改善できてくるに従って,起こる事故やストレスから,精神的
問題が浮上するため,その不安・恐怖からの摂食拒否や感覚異常症が新たに生じてくると
考えられる。今後は,食べることは楽しいが,飲み込むのが嫌な児に対して,機能的と精
神的のバランスのとれたアプローチ法を検討してゆく必要がある。
【結論】脳腫瘍術後後遺症の4歳男児に摂食機能療法を1年間施行した。訓練開始から6
ヶ月で,嚥下反射の誘発を認めた。10ヶ月以降,嚥下反射が多くみられるようになった。
しかし,むせ・嘔吐は多く,心理的拒否,感覚異常を生じた。食べることは楽しいが,飲
み込むのが嫌な児に対して,嚥下機能の回復は,未だできていない。今後は,機能的と精
神的のバランスのとれたアプローチ法を検討する必要がある。
図1
図2
図3
5
発症後進行の早い ALS の一症例∼胃ろう増設後に経口摂取の限界を考える∼
宮本純子
眞渕
兵庫医科大学病院
敏
※笠間周平
道免和久
リハビリテーション部
※ 内科 神経・脳卒中科
【はじめに】筋萎縮性側索硬化症(以下 ALS)は四肢の筋力低下、嚥下障害、呼吸障
害が進行していく難病であり、特に摂食・嚥下障害はその過程において必発するとい
える。ALS 患者の摂食・嚥下障害の評価・訓練・指導をするにあたっては誤嚥や窒
息、肺炎という合併症にも十分な考慮が必要であるものの、そのリスクに関する研究
や報告はいまだ十分なされていないのが現状である。
今回、発症後進行が早く、胃ろうを増設した後に経口摂取の可否とその限界を考える
経験をしたので報告する。
【症例紹介】70 代後半、女性、主婦 独居。141kg、35kg。BMI17.6(や
せ)。Alb4.5.血液データでその他の異常なし。買い物(重い物の運搬)以外の
ADL 及び APDL は自立。起床・就寝時間などを決め、規則正しい毎日を送られていた。
性格は朗らかで素直。趣味は歌。交友関係は主に近所の主婦仲間。好物は甘いもの
(水ようかん)であった。
【既往歴】約30年前に肝硬変、C型肝炎。入院直前に白内障(両)手術施行。
【現病歴】2 月に声の変化などの感冒様症状あり。4 月に粘調痰を排出困難なための呼
吸苦あり。5 月構音障害が自覚され、うがい、立ち上がりも困難となる。近医にて頭
部MRI撮影(レンズ核・尾状核の変性を指摘される)。7 月確定診断を目的に当院
入院となる。
【入院経過】入院直前及び当日の検査にてすでに血ガスの上昇、呼吸機能の低下(F
VC0.54/FEVI0.48/MVV50.2%)みられ、動作時や発話時に呼
吸苦を生じた。肺炎など明らかな炎症所見は見られなかったものの、唾液の咽頭貯留
音は常に聞かれご本人の嚥下困難感も存在した。ALS機能評価スケール(ALSF
RS−R)では31/48点。STによる評価では全般的な構音器官・嚥下器官の筋
力低下と易疲労は認められたが、発話明瞭度2、水飲み検査プロフィール2、RSS
2回であり構音障害・嚥下障害いずれも軽度であると考えられた。しかしながら呼吸
機能の低下からくる声量の低下、MPTの短縮、咳能力の低下は著明であった。発症
後の進行の早さと呼吸機能低下によるリスクを考慮して入院6日目に胃ろう増設術施
行。しかしながら本人の経口摂取に対する強い希望があり、経口摂取の可能性と限界
を評価する目的でVFが施行された。条件下でのお楽しみ程度(水ようかん一個程
度)の摂食方法を確立して自宅退院となった。
【まとめ】
今回は構音・嚥下・呼吸能力が姿勢によって異なったためそれぞれの場合で検討比較
した結果、座位では構音が優れていたが唾液の吐き出しや開鼻声の増強、呼吸数の増
加などがみられ嚥下と呼吸には不利であった。また一方60∼80度ギャッチアップ
の姿勢では「しゃべりにくい」「たべにくい」といったご本人の口腔期での困難さは
聞かれたが、唾液の吐き出しや呼吸回数の安定など良い点があることも分かった。結
局、先行して悪化する呼吸機能や今後低下していくであろう口腔期の問題をふまえ
ギャッチアップ姿位での摂食方法を指導した後自宅退院に至ったが、ご本人の希望で
あった座位での摂食の実現と継続は可能であったのか検討していただきたい
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ALS およびパーキンソン症候群における長期経腸栄養の問題点
市原典子,藤井正吾,藤岡 譲 1)
国立病院機構高松東病院 神経内科,1)同内科
【目的】神経難病における長期経腸栄養の問題点を明らかにする.
【方法】対象は,神経難病病棟に入院中の患者の内,3 ヶ月以上同一の経腸栄養剤のみにて
栄養され全身状態の安定した患者で,四肢全廃にて 24 時間人工呼吸管理下の ALS 24 名お
よび四肢全廃で寝たきりのパーキンソン症候群(PDS)9 名.対象患者全員に栄養指標となる
血液検査をおこなった.Harris-Benedict の式を用いて総エネルギー消費量(TEE)を算出し
解析に使用した.得られたデーターから全体的な傾向をとらえるとともに,疾患による差
異,各検査値間の相関についても検討した.高脂血症と肝機能障害を合併した患者につい
ては,腹部超音波をおこない脂肪肝の有無をチェックした.
【結果・考察】対象者に使用されていた経腸栄養剤のエネルギー量は,ALS で 1030±130kcal,
PDS で 1000±100kcal であり,計算上の TEE との比はそれぞれ 0.92±0.17 および 0.88±0.13
で,両疾患の間に有意差は認めなかった.赤血球・ヘモグロビン・リンパ球数は 42%,ア
ルブミンは 67%,プレアルブミンは 27%の患者で低値を示し,低栄養状態が考えられた.
しかしその一方で,空腹時血糖では 24%,総コレステロ―ルでは 21%,トリグリセライド
では 42%の患者で高値を示し,糖質,脂質の過剰も考えられ,栄養のアンバランスが示唆
された.また,ALP では 15%,γ-GTP では 31%と肝機能障害を認め,高脂血症と肝機能障
害を合併した 8 名のうち 6 名で,超音波上脂肪肝がみられたため,肝機能異常の原因の 1
つに脂肪肝があると思われた.疾患別の検討では,ALS で PDS と比して,GPT,ALP が有意
に高く,GOT やγ-GTP でも同様の傾向がみられた.また,総コレステロールについても有
意な高値を示し,ALS が PDS より肝機能異常や高脂血漿をきたしやすいと考えられた.BMI
と筋肉量を反映すると思われるクレアチニンは ALS で有意な低値を示し,また,ALS におい
て,クレアチニンと各種データーの相関をみると,TG,γ-GTP,FBS が負の相関を示したこ
とから,ALS の高脂血症,肝機能異常,耐糖能異常には筋肉量の減少が関与している事が示
唆された.また ALS において,赤血球・プレアルブミンと TG が正の相関を,赤血球・ヘモ
グロビンと HDL-c が負の相関を示し,
貧血や低蛋白を改善しようとする傾向がみられたが,
これらの傾向は PDS にはみられなかった.
【結論】ALS は PDS とは異なった病態を示し,筋肉量の極端な減少が大きく関与していると
考えられた.ALS においては,従来の経腸栄養剤での管理は困難であり,病態に合った栄養
剤の開発が必要である.
7
経腸栄養剤の半固形化の糖代謝に与える影響
国立病院機構
長崎神経医療センター
植田友貴(リハビリテーション科・臨床研究部)
松尾秀徳(神経内科・臨床研究部),北向由佳,灰塚ふじ子(栄養管理室),本村真紀,増田洋
子,荒木いそみ(看護部)
【目的】胃瘻からの経腸栄養の際の胃食道逆流の防止を目的に半固形化経腸栄養剤が用い
られることが多くなっている.経腸栄養剤の半固形化の安全性と糖代謝に与える影響を液
体経腸栄養剤投与時と比較検討した.
【方法】1日のエネルギーの大部分を胃瘻による経腸栄養に依存している患者7名を対象
とした.経腸栄養剤はラコールを用い,半固形化にはラコール 200mL に対してイージーゲ
ル(EG)1 袋を使用し,調整後はシリンジを用いて胃瘻から注入した.投与量は液体時と半
固形化時とも試験開始直前の量と同じになるよう調整した.封筒法により A および B の2
群に分け,液体栄養剤(1週間)と半固形化栄養剤(1週間)を,クロスオーバー法で投
与した. 液体時と半固形化時のそれぞれ最終日に,朝の栄養剤注入後の血糖・血中インス
リン値の経時的変化を観察した.その他にプレアルブミン,レチノール結合蛋白,体重,
消化器症状(腹部膨満感,下痢,嘔吐),発熱(体温)について検討した.また,一例にお
いて,液体栄養剤投与 15 分前に半固形化剤(EG)のみを先に注入し,その後,液体栄養剤
を 1 時間で注入し,上記と同じように血糖・血中インスリン値の変化を検討した.
【結果】液体栄養剤使用時および半固形化栄養剤使用時のプレアルブミン,レチノール結
合蛋白の値は有意の変動がなく,栄養の消化・吸収には差がないものと考えられた.血糖値
は,液体栄養剤を使用した場合,注入後 30 分でピークに達したが,半固形化栄養剤を用い
た場合は注入後のピークがなだらかになり血糖値も低い傾向が認められた.半固形化栄養
剤の使用により食後の高インスリン血症が抑制されることが明らかとなった.半固形化剤
のみを先に投与して検討した一例では,血糖の上昇は液体栄養剤の場合と類似していたが,
高インスリン血症は抑制されていた.半固形化栄養剤使用時は,問題となる消化器症状は
ほとんどなく,発熱,吸引回数の増加なども認められなかった.また,液体の場合より注
入時間が短縮された.
【考察】半固形化経腸栄養剤の使用により,糖代謝異常を抑制できることが示唆された.
これには胃からの排泄の遅延や腸管からの吸収速度の差などが関与している可能性が考え
られるが,半固形化剤そのものの影響も考えられ,今後の検討が必要である.
【結論】半固形化栄養剤は安全に使用でき,液体栄養剤に比べて食後の血糖の急峻な上昇
や高インスリン血症を抑制できることが示唆された.
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在宅で経口摂取を支援する
∼通所リハビリテーションでの関わり∼
あいの里クリニック
森光
大
あいの里クリニック
山本
道代、水口
中山
真実、宮澤
秀行、森
恵美、
良子
岡山大学病院
特殊歯科総合治療部
石田
瞭
【はじめに】医療機関の第3者評価が始まり、経済効果もありNSTとともに摂食・嚥下
リハビリテーションに関する診断や口腔ケアを実施する大学病院及び総合病院が増加して
いる。その反面、在院日数の短縮化も進み、在宅及び慢性期施設における役割りが同レベ
ルでのケアを継続できるかが懸念されている。そこで当クリニックにおける試みを報告し
たい。
【経緯】一昨年より当クリニックの歯科医師、歯科衛生士、管理栄養士等が、岡山大学歯
学部付属病院で実施している摂食・嚥下リハビリテーション従事者研修の初級コース・上
級コースに参加し、研修生として実際の診療や口腔ケアを修得して日常業務に当たってい
る。
【症例】K氏、58 歳、女性、身長 150cm、体重 46kg、現病歴:頭蓋内血腫、要介護5、日
常生活自立度:B2、認知症なし、ADL:立位・歩行不可、座位保持可能、移乗:全介
助、移動:車椅子他動、右麻痺、言語障害、RSST 1回/30s、MWST score4
【経緯】平成16年5月
6月
12月
平成17年1月
頭蓋内血腫除去、頭蓋骨形成術
リハビリ目的でA病院入院
口腔内の動きが悪く、経口摂取困難になり胃ろう造設後、退院
あいの里リハビリ苑通所リハビリ開始:STによる間接訓練開始
2月
平成18年3月
咀嚼・嚥下機能の改善見られ、通所(3/週)昼食時ゼリー開始
通所(3/週)昼食のみ全粥・きざみとろみ食開始
4月
全粥・軟らかいもの一口大
5月
経管栄養中止
12月
軟飯・軟らかいもの一口大
胃ろう抜去を目指して、VF実施
【アセスメント】経口摂取状況:覚醒にて食物の認識可能、食べ物をスプーンを使って口
へ運べる、口唇閉鎖不十分、舌の動き不十分、咀嚼不十分、食べ物を次々押し込むことに
より、飲み込む、前歯内側へ残留あり、むせあり、嗄声なし、呼吸音の異常なし、20分
間で完食も元気
VFの所見:【準備期、口腔期】口唇閉鎖:不十分、食塊保持:固形及びとろみのあるもの
は正常、
液体不可、口腔残留:多量、舌運動:不十分、
【咽頭期】鼻咽腔閉鎖:不十分、食道入口部
開大:正常、嚥下反射:正常、喉頭侵入:少量あり、舌骨の動き:正常、誤嚥:なし、喉
頭挙上:正常、むせ:あり、咽頭収縮:正常、咽頭残留:あり、喉頭蓋谷残留:あり、嚥
下後に左右回旋+うなずき嚥下やお茶ゼリーで咽頭残留や喉頭蓋谷残留クリア可能
【ケアプラン】奥歯で噛む練習(するめかむ)、舌のリハビリ(上下左右)、ブローイング
(鼻から息が抜けている)、頬を膨らます、しぼめる等の口腔ケアを通所リハビリテーショ
ン参加時(3回/週)実施
【モニタリング】通所参加時毎に実施(体温、血圧、体重、全身状態、摂取量、声の変化
等)
【評価】毎月1回評価を行い、担当ケアマネジャーや主治医に報告
【まとめ】本人の意向を尊重して軟菜食を摂取しているが、誤嚥時にはむせにより喀出す
ることで誤嚥性肺炎を予防している。継続的なモニタリング(顔色、体温、摂取量、声の
変化等)によると体調も安定している。現在のケアプランを本人は満足しており、継続を
希望されている。本人の生活の質(QOL)を優先しながらも、適切なモニタリングと評
価を行い、誤嚥性肺炎の予防的な関わりを継続することが慢性期施設や在宅を担当するス
タッフの役割りと考える。
9
摂食・嚥下・栄養サポート外来における指導内容を患者が継続するために何が必要か
1)椎本久美子,2)野崎園子,3)馬木良文,4)松本綾,1)杉下周平,5)石田瞭
1)国立病院機構 徳島病院 リハビリテーション科,2)臨床研究部,3)神経内科,4)栄
養管理室,5)岡山大学病院特殊歯科総合治療部
【目的】
摂食・嚥下・栄養サポート外来(以下、嚥下外来)での指導内容が在宅でどの程度実践
されているか、また、実践されていない例での問題点を明らかにすることを目的とした。
【対象・方法】
現在、嚥下外来通院中の 67 名のうち、神経・筋疾患患者 35 名を対象とし、郵送によるア
ンケート調査を実施した。アンケート項目は、嚥下外来で指導を行った嚥下訓練,食形態
の調整,姿勢・自助具の使用、利用サービスの状況や嚥下外来満足度などとした。回収率
は 80%で、30 名から返答があった。
【結果】
全体の実施率(以下、指導を行った患者のうち、実践している患者の数を実践率とする)
は、嚥下訓練では、指導を行った 27 名中 21 名(78%),食形態の調整 25 名中 17 名(68%),
姿勢・自助具の使用 26 名中 16 名(61%)であった。嚥下外来に対して「満足している」
「指
導は分かりやすい」との回答が、共に 26 名中 24 名(92%)の方から得られた。
実践されていない背景を明らかにするために、訪問介護サービスの利用,疾患の特性,
嚥下障害の重症度の 3 つの視点から検討した。
訪問介護サービスの利用者 16 名と非利用者 14 名の 2 群に分け、各指導の実践状況につ
いて検討した。以下、実践率を利用者群、非利用者群の順に記すと、嚥下訓練では、10/14
(71%),11/13(85%)であった。食形態の調整では、10/13(77%),7/12(58%)と非利
用者群で実践率が低い傾向がみられた。姿勢・自助具の使用では、7/14 名中(50%),8/14
(57%)であった。
症状が急速に進行する ALS 12 名と緩徐に進行するその他の疾患 18 名の 2 群に分け、各指
導の実践状況について検討した。以下、実践率を ALS 群,その他の疾患群の順に記すと、
嚥下訓練では、7/10(70%),14/17(82%)であった。食形態の調整では、7/9(78%)、10/16
名(63%)、姿勢・自助具では、6/11(55%),10/17(59%)であった。疾患の特性において
は、指導内容の実践率に大きな差を認めなかった。
藤島の摂食・嚥下能力グレードを用いて重度 4 名,中等度 16 名,軽度 10 名の3群に分
け、各指導の実践状況について検討した。以下、実践率を重度群,中等度群,軽度群の順
に記すと、嚥下訓練 1/2(50%),14/16(88%),6/9(67%)であった。食形態の調整では、
1/1(100%), 14/16(88%), 2/8(25%)、姿勢・自助具の使用では、1/3(33%),12/16
(75%),3/9(33%)と各指導に共通して軽度群にて実施率が低下する傾向が見られた。
結果をまとめると、訪問介護サービスの利用をしていない群で「食形態の調整」が実践
されていない例が多い傾向にあった。また、嚥下障害の軽度群では、
「嚥下訓練」
,「食形態
の調整」,「姿勢・自助具の使用」と各指導に共通して、実践率が低下する傾向が認められ
た。
そこで、実践されていない理由について検討した。「面倒くさい」「仕方が分からない」「自
分に合わない」「必要な物品が揃っていない」「時間がない」
「人手がない」の選択肢を用い
てたずねたところ、「面倒くさい」6 名「仕方が分からない」5 名、「自分に合わない」「必
要な物品がない」その他各 1 名であった。一方で、「時間がない」,「人手がない」といった
介護負担に関する回答はなかった。
【考察】
嚥下外来での指導内容を実践していないのは、軽度の嚥下障害患者に多い傾向にあった。
これまで、指導の際には、患者や家族の理解を促すとともに、継続の鍵は介護負担の軽減
であると考えてきた。しかし、軽度の嚥下障害患者において指導内容が実践されていない
理由では、「時間がない」
「人手がない」といった介護負担の問題ではなく、「面倒くさい」
「仕方が分からない」との声が多く挙げられていた。背景には、患者家族の受容や理解が
十分でないことや、医療者側の指導不足が影響していると考えられた。
【結語】
軽度の嚥下障害患者では自覚に乏しく、誤嚥や栄養障害をしばしば経験するところである。
嚥下外来の目的である在宅支援のためには、軽度の嚥下障害患者に対してこそ、患者や家
族が、指導内容をより深く理解できるような取り組みを重点的に行う必要がある。
10
嚥下障害と誤嚥性肺炎の prevalence:全国調査の結果から
山脇正永、千葉由美*、戸原
玄**、植松
宏**、清水充子***、水澤英洋
東京医科歯科大学神経内科、*同高齢者看護学、**同高齢者歯科学、***埼玉県総合リハビ
リテーションセンター
【目的】嚥下障害の頻度については脳血管障害患者について 22∼65%と報告されている。
特に急性期脳血管障害においては 51∼73%の高率で嚥下障害をきたすとされている。一方、
同じく脳血管障害における誤嚥性肺炎については、発症後 1 週間以内の全症例のうち 10.9%,
以降 4 週後まで週に 0.5%ずつ頻度が減少するとされている。また 1 回の誤嚥性肺炎あたり
の在院日数は 21∼40 日であり、9,460∼33,430 ドルの医療コストが見積もられている。嚥
下障害及び誤嚥の正確な頻度は不明である。誤嚥は肺炎の相対危険度を 6.95 倍に上昇させ
ることが報告されている。国内外を通じて脳血管障害も含めた嚥下障害及び誤嚥性肺炎の
頻度は報告がない。本研究は病院、施設、在宅における嚥下障害および誤嚥性肺炎の頻度
について明らかにすることを目的とした。
【方法】全国の医療機関(病院:看護部門及び言語療法部門)、長期療養施設(施設)、訪
問看護施設(在宅) を対象とした。さらに、嚥下障害患者について嚥下障害の程度、誤嚥
の有無、誤嚥性肺炎の有無、栄養摂取法について調査した。
【結果】病院 27,500 例、施設 12,500 例、在宅 5,800 例の回答を得た。嚥下障害をきたし
ている患者は、長期療養施設 28.5 % > 在宅 17.7 % > 医療機関 14.7 %の順に多か
った。嚥下性肺炎急性期の頻度は、嚥下障害のある患者の 3.9 ∼11.0 %であり、全ベッ
ド数(全患者数)のうち 1.15 ∼ 1.60 %と見積もられた。また、嚥下障害の既往は 在宅
56.3 % > 医療機関 42.0 % > 長期療養施設 35.3 %であった。咳込み、むせこみのな
い患者での嚥下性肺炎は、嚥下性肺炎急性期の患者のうち 5.6 ∼ 11.7 %にみられ、これ
は silent aspiration を反映していると考えた。嚥下障害患者のうちで経口摂取をしてい
る患者は過半数であり、経口摂取できない患者には PEG による栄養ルートが最も使用され
ていた。
【考察】脳血管障害の嚥下障害が 22∼65%とばらつきのある原因としては、嚥下障害の定
義によるものと考えられる。本研究では嚥下障害の定義について嚥下場面における徴候の
みならず、食事の運用面(食事の調整をしているか)も重視した。また、従来は脳血管障
害における頻度の報告が多かったが、本研究においては脳血管障害以外の疾患もふくめた
初の報告である。本研究の結果、嚥下障害の頻度は、入院、施設、在宅のすべての医療シ
ーンに亘る徴候であることが確認された。また、急性期誤嚥性肺炎の頻度は全患者数の 1.5%
と見積もられたが、この数字は3つの医療施設でほぼ一定であった。嚥下障害・誤嚥性肺
炎の原因疾患については特に急性期脳血管障害においては 51∼73%の高率で嚥下障害をき
たすとされている。一方、同じく脳血管障害における誤嚥性肺炎については、発症後 1 週
間以内の全症例のうち 10.9%, 以降 4 週後まで週に 0.5%ずつ頻度が減少するとされている。
今後は脳血管障害など急性疾患の時期による嚥下障害頻度の分析も必要である。さらに脳
血管障害死亡のうち 34%が肺炎であることを考えると、本研究の結果は今後の嚥下障害治
療・リハビリテーションにおける基礎データ及びベンチマークとして重要であると考えた。
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