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「フラット化する世界」に応じたシステム開発とは
GLOBAL VIEW 「フラット化する世界」に応じたシステム開発とは 福島栄二 世界各地に広がる開発拠点 1月からは日本、サンフランシス の仕事が国境を越え、次々にアウ 「おはようエリック、シリコンバ コ、インドでの共同プロジェクト トソーシングされているという。 レーは午後3時半か。天気はどう も立ち上がった。 野村総合研究所(NRI)でも中 だい。ところで君の最新改訂版だ このように、ソフトウェア開発 国、インドのIT企業との協業は けど、昨日実装してもらった例外 業界では、これまで存在した開発 1990年代後半以降、飛躍的に進ん 処理の挙動がおかしいぞ」 場所の物理的制約を取り払おうと でいる。現地で超エリートに当た 「そうかいケン。じゃあ、こっち するチャレンジが進んでいる。 るITエンジニアを採用できるた でサービスを起動するから、ヨコ め、ソフトウェア開発の下流工程 ハマで君が再現してくれよ」 システム開発の世界で (詳細設計、開発、テスト)部分 「どうだい、エリック」 大きく進むフラット化 のアウトソーシングは飛躍的に進 「確かに。原因はわかった。1時 トーマス・フリードマンの『フ んだ。 間後に修正プログラムを配布させ ラット化する世界』 (伏見威蕃訳、 特に日本との時差が少なく、言 てくれ。この件はロンドンのリッ 日本経済新聞社)によると、現代 語の壁が比較的低い中国の大連、 クにも伝えておくよ」 は「共産主義の崩壊」「インター 北京などのソフトウェア開発企業 ネットの爆発的拡大」などによ は、NRIを含めた日系企業のアウ 筆者の研究開発活動で、実際に り、BRICs(ブラジル、ロシア、 トソーシング攻勢で、優秀なエン 日本の協業相手と交わした会話で インド、中国)、共産圏、アジア ジニアは雇用コストも上がり、獲 ある。若干小説風に脚色している の発展途上国など世界の各所に潜 得が難しくなりつつあると聞く。 が、ソフトウェアの基本的な開発 在していた知的リソース(経営資 の進め方はこのとおりである。 源)と、旧来では考えられないほ シリコンバレーに見る人材 筆者のプロジェクトに限らず、 どの低コストで協業できるように 筆者はカリフォルニア州のフォ IP電話、スカイプ(パソコンの無 なったという。 スターシティーに住んでいる。長 料音声通話ソフト)、テレビ会議 また、そのために、1980年代ま 男が通う小学校のクラスの3分の などのコミュニケーション手段を での西側資本主義諸国の労働者の 1は中国系、3分の1はインド 活用し、あるプロジェクトでは日 優位性はどんどん崩れ、定型化で 系、残りの3分の1が白人、中 本、シリコンバレー、シカゴの きる業務プロセスや知的付加価値 国・インド以外のアジア系、ヒス 3地点で並行開発を進めており、 の低いプロセスに従事する労働者 パニック系、黒人だ。また、わが 72 知的資産創造/ 2007年 2 月号 当レポートに掲載されているあらゆる内容の無断転載・複製を禁じます。すべての内容は日本の著作権法および国際条約により保護されています。 CopyrightⒸ2007 Nomura Research Institute, Ltd. All rights reserved. No reproduction or republication without written permission. 町の隣に本社のあるオラクルのエ んでいた。今後は、通信インフラ る。しかし、要件定義や開発中の ンジニアも、今や3分の1以上は の整備、インターネット上でのサ 顧客のビジネス環境の変化などの インド人で、中国系、その他移民 ービスの発展に伴い、「実物のデ 各局面では、そうはならない。顧 を含めると、非白人系が半分近い リバリーが不要なサービス、非対 客のビジネス、業界の文化、置か という。 面で提供可能なサービス」など、 れている立場などを理解し、顧客 シリコンバレーのIT企業のエ 第三次産業のフラット化がますま の立場で考えつつも自社の利益を ンジニアとしてはアジア系が最も す進んでいくだろう。 確保するという、泥臭く時に心理 多く、なかでもインド系が多い。 筆者の近辺で見られるのは、ソ 的、アナログ的思考の総合力が求 米国との言語の壁が低いインドで フトウェア開発工程のオフショア められるからである。 は、知識層がこぞって米国の大学 (国外委託)化だけではない。以 心理的、アナログ的思考と一口 院へ留学したり、米国のIT産業 前、ソフトウェア製品のサポート にいっても、さまざまなビジネス へ就職したりしてきた。 センターに電話した際、インドに 環境に鑑みて状況判断を求められ ところが、近年の通信インフラ 転送された経験がある。また、会 る局面での対応、今までに前例の の整備、加えてインド国内のソフ 計事務所によっては、税務申告書 ないビジネスへの参入判断など、 トウェア産業振興政策により、米 類のデータをインドの事務センタ 求められるヒューマンスキルは多 国からインド国内に回帰してビジ ーに転送し、そこで処理させると 種多様である。したがって、容易 ネスを立ち上げる企業家も増えて ころもあるそうである。 に機械化、ロジック化、データ化 いる。たとえば、筆者の知り合い つまり、機械化、ロジック化、 できない。 のインド系の企業家数人も、開発 データ化しやすいルーチンワーク 一流のSI企業は、過去の経験か リソースはほぼ例外なくインド現 (定型業務)は、言語の壁が低く らこうしたビジネス変化を理解で 地のエンジニアに依存し、ビジネ コストの安い他国へ流出し、そう きている。求められるのは、定型 スによっては、現地と外部委託契 した労働に従事する人々は人件費 化が可能なプロセスを随時切り出 約をするだけでなく、自社でイン を切り詰められるか、就業機会を してパートナー企業に任せ、「既 ドに現地法人を立ち上げている。 失っていくことになる。 成ロジックでは判断の難しい」ビ こうした流れは中国でも増えて ジネスへシフトしながら成長を持 おり、「海亀派」と呼ぶという。 一流SI企業に求められる 続することである。それができな 今後のシステム開発 ければ、いずれ他のSI企業や、中 フラット化の波のなかでの さて、日本のSI(システムイン 国、インドの先進企業に追い越さ 定型業務 テグレーション)企業は「わが身 れるだけであろう。 第二次産業におけるオートメー の雇用の心配」をする必要はない ションでの分業を中心に、1990年 のだろうか。ソフトウェア開発の 福島栄二(ふくしまえいじ) 代以前から「定型化されやすい業 下流工程は、上述したようなプロ NRIパシフィック上級テクニカルエン 務プロセス」でのフラット化は進 セスではフラット化が進んでい ジニア 「フラット化する世界」に応じたシステム開発とは 73 当レポートに掲載されているあらゆる内容の無断転載・複製を禁じます。すべての内容は日本の著作権法および国際条約により保護されています。 CopyrightⒸ2007 Nomura Research Institute, Ltd. All rights reserved. No reproduction or republication without written permission.