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本文ファイル - 長崎大学 学術研究成果リポジトリ

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本文ファイル - 長崎大学 学術研究成果リポジトリ
NAOSITE: Nagasaki University's Academic Output SITE
Title
発展途上国の対外債務累積問題と世界経済
Author(s)
田口, 信夫
Citation
東南アジア研究年報, (24/25), pp.1-22; 1983
Issue Date
1983-12-20
URL
http://hdl.handle.net/10069/26481
Right
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http://naosite.lb.nagasaki-u.ac.jp
発展途上国の対外債務累積問題と世界経済
1
発展途上国の対外債務累積問題と世界経済
田
口
信
夫
は じ め に
1982年8月,メキシコに端を発した対外債務支払危機は,その後,他のラテン・アメリ
(1)
力諸国や東南アジアの国々にも次々と飛び話し,発展途上国の対外債務累積問題は,東欧
諸国のそれとならんで,今や世界経済の重大問題の1つとして急速な関心を集めている。
しかし,よく考えてみると,このような事態の発生は,過去,全く予測されないわけで
はなかった。たとえば,1969年に出版されたピアソン委員会報告書は,発展途上国の対外
債務累積問題に関して次のように述べている。
「発展途上国の負債問題は深刻であり,元利支払は大きな負担となっている。これに起
因する危機が,1950年代末から1960年代を通じてつぎつぎと生じており,この問題を少し
しらべれば,今後数年間に,低所得国の負債問題が深刻の度を加えるであろうことは明白
(2)
になる」。
(3)
したがって,長短含め6290億ドルもの対外債務をかかえるに至った現在,メキシコをは
じめとする一連の途上国が対外債務支払危機におちいったからといっても,そのこと自体
は別段おどろくに値しないのだが,しかし危機そのものの性格についていえば,今日の危
機はピアソン委員会段階のそれとは明確に異なった1側面をもっている。それは,途上国
が対外債務を膨らませていく過程で,先進国の民間銀行が途上国の融資に深いかかわりあ
いをもち,そのことによって対外債務支払危機がもはや途上国だけの危機にとどまらず,
貸手側である先進国側の危機にまで深化してしまったからである。「返済が滞っているの
に,借りた側ではなく貸した側が面会をお願いして,追いかけ回すという奇妙な光景」(日
本経済新聞,1982年9月28日付)がみられるのはまさにこのような事態を象徴的に示して
いるといえよう。
ことわざにも言う。
「もし銀行から100万ドル借りて返済できなければ,困るのは自分自身だ。しかし,も
(4)
しユ0億ドル借りて返済できなければ,困るのは銀行の方だ」。
まさにこのことわざほど,現代の国際金融界が直面している深刻な事態を如実に表現し
ているものはないと思われるのだが,ではこのような対外債務に基因する危機的構造とは
どのようにして作られ,それは世界経済にどのようなインパクトを与え,どのようにして
解消されるのであろうか。以下,本稿では,これらの点についての考察を進めていきたい。
2
1 民間銀行の対途上国融資と国際金融不安の構図
現代対外債務問題における最大の特徴は,対外債務に占める民間資金のウエイトの高ま
りであり,それも特定の途上国に集中しているということである。第1表にみられるよう
(単位:億ドル,%)
第1表 非産油発展途上国の経常収支赤字ファイナンス
74
1973年
76
75
77
78
80
79
経常収支赤字
資金調達合計
115
368
465
329
286
375
576
821
214(100)
382(100)
441(100)
454(100)
407(100)
533(100)
678(100)
833(100
非債務資金調達
104(49)
128(33)
120(27)
119(26)
146((36)
153(29)
216(32)
206(25
公的移転等
60(28)
74(ユ9)
66(15)
71(16)
92(23)
90(17)
134(20)
127(15
直接投資純流入
44(21)
54(14)
53(12)
48(10)
54(13)
62(12)
82(12)
79(10
対外借入れ
110(51)
254(67)
321(73)
335(74)
261(64)
380(71)
462(68)
627(75
公的資金
民間資金
57(26)
114(30)
140(32)
145(32)
119(29)
138(26)
147(22)
240(29
53(25)
140(37)
181(41)
190(42)
142(35)
243(45)
315(46)
387(46
125
121
158
101
外貨準備増減(心
99
14
△25
12
(資料)IMF, Annual Report 1981.
(注) ( )内は資金調達合計を100とした構成比。
『DKB調査’月報』1981年12月号より借用
第1図 所得グループ別の借入先構球
に,非産油途上国の経常収支赤字
ファイナンスにはオイル・ショッ
(1,412)
ブラジル,メキシコ,韓国
gルコ,アルゼンチン,レ
バノン,チリ,ポルトガル
ユーゴスラビア, 象牙海
他20力国
(単位.●%)
20
1
ク以降大きな変化が生じている。
1
政
府
エジプト,ペルー,フィリピン,
タイ,スーダン,ボリビア,カメ
ルーン,ザンビア.ケニア,ガイ
まず第1には,返済義務を伴ない
機国 アナ他14力旧
12.7
非債務性資金調達(政府や国際機
関際
関の援助等)の割合が低下し,代
って返済義務を伴う債務性資金調
達(対外借入れ)の割合が上昇し
コモロ他20力王
民
469)
672
(413)
間
ことであり,第2には,債務性資
(361)
金調達の中でも民間資金の割合が
46%)ことである。このことが非
ギアナ,
8力国
ている(1973年51%→80年75%)
上昇している(1973年25%→80年
アフガニスタン,インド,
パキスタン, ザイール,
タンザニア,バングラディ
シュ,ヒルマ,スリランカ
イスラエル, スペイ ン,
ギリンヤ,シンガポール,
ガボン,トリニダード・ト
バゴ,香港,バーレーン
(256)
349
360
48 164
592
487
76
320
P48
210
532
96
614
(202)
706
(107)
(87)
385
419
371
538
284
198
102
産油途上国の対外債務に占める民
1973年末1979年末避シ遡避シ
高中所得国 中所得国 低中所得国 低所得国
問資金のウエイトを高める直接的
各所得グループ別に79年の債務残高の大きい順に10力国を
例示した。但し高中所得国は全部で8力国。
要因となったのであるが,この割
(資料)世銀,World DebtTables.
合は,第1図にみられるように,
(注)国グループ別は,78年の1人当たりGNPベース,高中所
得国3,000∼6,999ドル,中所得国700∼2,999ドル,低中所
公的対外債務残高のみについてみ
得国300∼699ドル,低所得国300ドル未満。高中所得国8
ても,特に今問題となっている中
『DKB調査月報』1981年12月号より借用
力国,中所得国30隣国,低中所得国24力国,低所得国30力国。
発展途上国の対外債務累積問題と世界経済 3
所得国を中心として,かなりの高さにのぼっている。
対外債務の支払危機を貸手側の危機にまで高めた背景は,まさにこのような事情に根ざ
したものであったのであるが,このことは,立場をかえていえば,先進国の民間金融機関
が途上国への融資に積極的だったことを物語っている。では安全性をもっとも重んじる民
間金融機関をして,カントリー・リスクの高い途上国へ融資をかりたてた要因はいったい
何であったのだろうか。われわれは,それをオイル・マネーの先進国への環流と先進国に
おける長期的不況の存在に求めることができる。
(10億米ドル,時価)
第2表 世界の経常収支a1970∼80年
開発途上国
繍還繍入歯石油輸出国薯2舗誹工業国
中央計画 誤 差
経済 圏 脱 漏
1970
1971
一1.7
一7.0
一2.2
2.8
12.1
1.7
−2.5
−8.2
−2.9
n.a.
15.5
n.a.
n.a。
1972
1973
1974
1975
1976
1977
1978
1979
−1.5
−3.8
−3.6
1.9
16.0
n.a.
n.a.
−3.1
−4.2
−2.6
6.7
18.9
n.a.
n.a.
−6.0
−27.1
19.3
43.3
−8.5
n.a.
n.a.
−5.4
−33.2
−2。5
30.8
22.0
一7.0
4.7
−2.4
−24.4
一〇.3
36.3
3.9
−35
9.6
−16
−2L3
−5.5
32.9
−1.5
−1.1
1.9
−5.1
−20,4
−17.6
18.8
29.9
−0.2
5.4
−7.2
−37.2
5.1
55.7
−9.5
−0.8
6.1
−10.9
−58.7
1.0
102.2
−39。7
−0.1
−6.2
1980c
5.7
a公的移転を除く。
b1972年の数値にはサウジアラビア,リビア及びイラクだけが含まれる。
c推定値
『世界銀行年次報告』ユ981年版,21頁。
第2表にみられるように,2度にわたる産油国の大幅石油値上げは,非産油途上国に大
(5)
主な経常収支の赤字を,そして産油国には巨額の経常余剰(いわゆるオイル・マネー)
をもたらした。では産油国はその巨額の経常余剰をどのように運用したのであろうか。第
3表によってそれをみてみよう。この表によると,産油国の投資合計金額は,54年末残高
で2360億ドルであるが,その大半(80.5%)は先進国で運用されており,うちイギリスが
24.1%,アメリカが23.5%,その他先進国が32.9%を占めるに至っている。これに対し,
途上国での運用は16.1%にすぎない。
次にその運用形態についてみると,約5割の1150億ドルが銀行預金(うち890億ドルは
ユーロ預金)の形態で運用されており,運用先別には,イギリス,アメリカで約5割の
1123億ドル,他の先進国で約33%の777億ドルが運用されている。産油国の巨額の経常余
剰,いわゆるオイル・マネーは,かくてその過半が,銀行預金の形態を通じて,先進国の
金融市場へ環流したわけである。銀行としては預金を受け入れた以上,それを何らの方法
で運用しなければならない。
しかし,第2図の操業度比較にもみられるように,先進国はいずれの国も1974・75年恐
4
第3表 産油国の国際収支・資金運用推移
昭49
50
53
52
51
54年末
残 高
55
56
I II III IV
1,710 1,220
390
330
260
240
1,230 1,130 1,380 1,540
1,480 2,180
3,040 2,810
750
720
670
660
1,160 1,070 1,300 1,440
1,380 −
360
390
410
420
840 540 640 640
輸 出
石油・ガス
貿易外・移転収支
54
440 1,120
貿 易 収 支
輸 入
(単位 億ドル,%)
390
590 740 900
1,040 1,060
1,330 1,590
△170△ 250 △290 △370
△450 △460
△610 △570 △150 △140 △140 △140
240
190
120
160
210
190
経 常 収 支
670
290 350 270
△10 660 1,100
(A)投資可能資金
551
363 386 376
同 上 累 計
一 3,843 4,053 4,243
650
551
914 1,300 1,676
188 710 1,190
1,864 2,574 3,764
内容不詳(A−B)
19
11 28 59
42 104 325
一△29
97
106
(B)投資合計金額
532
352 358 317
146 606
− 189
113
84
同 上 累 計
イ ギ リ ス
210 43
45
38
外 貨預 金
138 41
ポンド預金
532
2,360 865
100
(100.0)
1,705 2,311
一3,176
△18
172
569 176
(24,1)
51 5
56
31
△20
148
457 148
(19.1)
46 3 34
17 △14
3
3
2
14
841 14
(1.7)
3 3△ 1
117 96
121
73
9
68 554 141
49 26 27
26
国 債
55 25
32
△24
22
149 96
33 24 26
20
銀 行預 金
41 6
17
4
8
50
143△11
(6。1)
3△ 8△19
5
その他先進国
121 108
108
133
(注2)154
274
777
(32.9)
432
70 59 4
銀 行預 金
90 50
65
75
50
187
509
(21.6)
262
△ 1 19△21
発展途上国
49 65
64
70
(庄2)NA
96
380
(16.1)
67
12 17 14
IMF・世 銀
35 40
20
3
1
△4 80
(3.4)
49
7 6 5
銀行預金合計
286 99
120
130
39
373 1,150
ユーロ預金合計
216 79
115
107
11
310
ア メ リ カ
884 1,242 1,559
34
(23.5)
(6.3)
一 3,365 3,478 3,562
34△ 1
10
(48,7)
890
(37.7)
(注) 1.昭和54年末残高のカッコは構成比。
2.その他先進国と発展途上国の合計。
3.産油国とは,OPEC諸国にトリニダード・トバゴ,バーレーン,ブルネイ,オーマンを加えたもの。
(資料)イングランド銀行四季報 ・
『大蔵省国際金融局年報』昭和57年版,23頁より借用。
慌を境として長期的不況におちいっており,先進国内部における資金需要はきわめて弱い
ものであった。このため,先進国の民間銀行は産油国から潤沢な資金が入りこんでいたに
もかかわらず,自国内における民間企業の資金需要が弱いため,資金がだぶつく状態にあ
ったのである。
他方,これに対して,非産油途上国の方は,この間,石油価格の引き上げに伴う石油輸
(6)
入代金支払いの急増や,とくにNICsを中心とした積極的な経済開発の推進によって巨
額の資金を必要としていたから,先進国民間銀行がその余剰資金のはけ口をきそって非産
油途上国(それも一部の)へ求めたのは,けだし当然であった。1975年以降,多少の変動
5
発展途上国の対外債務累計問題と世界経済
第2図 操業度比較(1973∼74年のピーク=100)
100
’\、
アメリカ
95
カナダ
90
ミ\kト \一一一 . 、 、 一
∠ !
’”
85
m≧=
@ ヤ
@イギリス
80
、、、、、一’、 、!
75
^ m’、
@ 日 本
!㍉、 / 、
@ 西ドイツ
一
@フフンス
п_
@\
!一
@ 、隔、 1
@ \ 、
@一、 、 、 、
70
1974
1975
1976
1977
1978年
(出所)Federal Reserve Bank of New York,、4ηη襯1ノ∼の。%1979, p.25。
木下悦二「世界経済の現局面の性格と国際通貨制度の課題一構造的不況からの脱
却をめざして」『世界経済諸論』1983年3月号,34頁より借用。
はあるにしても,非産油途上国向け貸し出し金利(スプレッド),幹事手数料に短縮化の
(7)
傾向がみられ,貸し出し期間にも長期化の傾向がみられたのはこのためである一(いわゆ
るユーロ・クレジット市場の借手市場化)。
今や先進国民間銀行の途上国全体に対する債権は1981年末で3310億ドル(うち非OPE
C途上国2580億ドル,OPEC73億ドル)にのぼっており,貸手では米銀が,借手ではメ
キシコ,ブラジル,アルゼンチン,韓国,台湾といったいわゆる新興の工業諸国(NICs)
(8)
が大きな役割を占めるに至っている 第4表参照。かくして,第1次オイル・ショック
以降,産油国の巨額の経常余剰は先進国の金融市場を経て一部の途上国(とくにNICs)
に貸し出され,ここに対外債務不履行に基因する以下のような国際金融不安の構図が醸成
されるに至ったのである。
途上国の債務不履行一→貸付銀行の資産内容の悪化一→貸付銀行の信用力低下一→個人
・企業・産油国の銀行預金取り付け,又は預金の手控え一→信用組織の崩壊と信用収縮
一→国際金融恐慌
そして,このような構図の現実化の可能性は,メキシコの対外債務支払い危機を契機と
する,国際資本市場における投資家の行動の変化にもすでに現われているといえよう。たと
えば,日本経済新聞1982年10月1日付けは,国際金融不安がつのる一方の環境下での投資
家の「質志向」の高まりについて次のように述べている。
6
第4表 BIS報告銀行の特定諸国に対する債務
借 入 国
発展途上国 ★
非OPEC途上国★
1981年末の債権総額
(10億ドル)
1981年末総額に占める米銀の割合(%)
全 米 銀
9 大 銀 行
258.5
35
36
メ キ シ コ
ブ ラ ジ ル
56.9
38
20
52.7
32
20
アルゼンチン
24.8
34
21
韓 国
チ リ
ブイ リ ピン
台 湾
19.9
28
10.5
45
55
10.2
53
36
6.6
75
331.3
23
23
31
コ ロ ン ビア
5.4
51
47
36
タ イ
5.1
32
21
マレーシア
4.4
エ ジ プ ト
4.4
22
27
ペ ル 一
19
4.4
45
20
24
ト ル コ
42
34
21
OPEC諸国
ベネゼエラ
72.8
32
22
26.2
40
27
アルジェリア
インドネシア
ナイジェリア
エクア ドル
8.4
16
11
7.2
33
27
6.0
19
15
4.5
47
27
東ヨーロッパ
ソ ビ エ ト
71.5
11
7
16.3
3
2
ポーラン ド
15.3
13
8
東 ド イ ツ
ユーゴスラビア
10.7
9
6
10.7
25
15
ハン ガ リ 一一
7.7
15
9
ルーマニア
5.1
7
5
★オフシヨワー・バンキング・センターとなっている国を除外している。
Morgan Guranty Trust Company of New York,吻帽Fげ欄π磁1ハ砲吻お,
oct 1982, P. 3.
「投資家の『質志向』には拍車がかかる一方だ。このトバッチリを受けているのが銀行
が発行した債券。IBM債が発行された当時,『銀行債を売ってIBMなど超一流銘柄に
乗り換える動きが続出した』という。ケチのつき始めは米国のペンスクエア銀行の倒産事
件。同銀行と取引関係にあった米国の大手銀行,コンチネンタル・イリノイがまず,売り
の洗礼を浴びた。同行が今春,クーポン15.75%で発行した債券は大幅に値下がりし,流
通利回りは急上昇,このところ16.13%程度の高原に居座ったままだ。
さらにメキシコの対外債務問題が追い打ちをかけた。メキシコに対して最大の貸付残高
を抱える米銀は危ない という不安心理が投資家に芽生え,ついにBOA(バンク・オ
ブ・アメリカ)が発行した普通債まで『ダンピング(投げ売り)同然の売りを浴びた』ほ
どである。米国内では,米銀の有力な資金調達手段であるCD(譲渡性預金)への人気が
離散,同じ期間のTB(短期の財務省証券)に比べて利回りは2.5%も上回る(従来は0.75
−1.625%上回っていた)という事態になっている。米国内でもユーロ市場でも銀行債は
7
発展途上国の対外債務累積問題と世界経済
『嫌われ者』になってしまった」。
II 対外債務支払危機の諸要因
では,いかなる要因が途上国を対外債務支払危機におとしいれているのであろうか。以
下,いくつかの点を列挙してみたい。
まず第1は,先進工業国の経済停滞からくる先進工業国への工業製品の輸出減と先進国
の一次産品輸入需要停滞に伴う一次産品価格の下落である。とくに一次産品価格の下落に
ついては,第3図にみられるように総合指数は前
第3図 一次産品価格指数
回のピークである80年10月の230.1ポイントから,
275
(ロンドン・エコノミスト指数ドルベール,1975年=100)
1982年8月の150.アポイントまで34.9%下落して
おり,商品別でみると,最も大幅に値下りしたの
は非鉄金属で,80年2月から82年6月にかけ,実
(9)
に43.4%も下落している。
工業製品の輸出減といい一次産品価格の下落と
いい,これらは途上国の外貨収入を減らし,彼ら
250
A
/私
●
x総合指数
225
\へ㌧
200
繊維
讐叛
試
175
、
、
の対外債務返済能力に大打撃を与えるものであっ
た。Morgan Guaranty Trust Company“既z1げ
F勿侃6刎!吻漉θ虹,(以下,WFMと略す>oct
1982は,非OPEC途上国の輸出所得増加率は
、
150
125
100
1975−80年の年平均23%から1981年には年5%以
、
\,《 A!
、 、、.隔
、♂’ 、’
、
非鉄金属
、一「
、
1ノー
80 81年 82年一
毎日新聞,1982年9月7日付
下に落ち,1982年にはほぼゼロという状態にまで
第5表 途上国の金利返済負担
(1982年における利払いの財およびサービスの輸出に占める割合:推定,%)
ブ ラ ジ ル
アルゼンチン
チ リ
メ キ シ コ
コ ロ ン ビア
ペ ル ー
ベネズエラ
フィ リ ピン
ト ル コ
タ イ
台 湾
40
35
35
34
20
20
18
13
13
12
10
インドネシア
ナイジェリア
7
台 湾
4
マレーシア
4
5
Morgan Guranty Trust Company of New York,レ7∂癬E吻η磁11吻娩θ虹august
1982,p.10.
8
落ちこんでいると述べている。
第2は,1979年以降の米国の高金利に由来する世界的高金利で,これは第5表にみられ
るように,とくに民間銀行借入れ依存度の強いラテン・アメリカ諸国の金利返済負担に重
大な影響を与えている。金利上昇による金利負担がどのくらいのものになるかというと,
たとえば,短期金利の3%の低下は,途上国の債務返済コストを年100億ドル低下させる
(10)
といわれているほどである。
第6表 途上国の対民問銀行債務11(1981年末)
国 名
総額(10億ドル)
1年あるいは1年以内に支払い期限の来るもの
総額に占める割合(%)
メ キ シ コ
ブ ラ ジ ル
56.9
52.7
49
35
輸出2}に占める割合(%)
85
67
ベネズエラ
26.2
61
79
アルゼンチン
24.8
100
韓 国
チ リ
19.9
47
58
10.5
40
78
フ ィ リ ピン
10.2
56
63
インドネシア
7.2
41
14
台 湾
6.6
14
ナイジェリア
6.0
62
34
コ ロ ン ビア
5.4
53
37
12
タ イ
5.1
49
60
マレーシア
4.4
31
10
ペ ル 一
4.4
60
62
ト ル コ
4.2
25
10
29
1)BIS報告所在国銀行およびその在外子会社の対外資産の満期構成にもとづいている。
2)1982年に予想される財およびサービスの輸出
Morgan Guararty Trust Company of New York,防帽F疹欄η磁1伽娩礁 august
l982, p.10.
第3は,支払期限の集中化であり,第6表に示されるように,とくにラテン・アメリカ
諸国については,1年以内(すなわち1982年)に支払期限のくるものが輸出所得のかなり
の部分を占めるにいたっている。すなわち,これら諸国は,支払期限の集中化によって,
一時的にせよ,当該年において,能力以上の返済をせまられているということである。ア
ルゼンチンなどは,1982年における輸出所得の全額をその年の対民間銀行債務の返済にあ
てなければならないという状態になっている。
第4は,産油国についてであるが,先進国における景気停滞にともなって石油は,1981
年以降,需要・価格ともに低落し,石油収入に大きく依存する産油国(たとえば,今問題
になっているメキシコの場合,石油の輸出総額に占める割合は1981年に75%に達してい
る)の対外債務返済に重大な影響を与えていることである。
1982年,1バーレル33ドル近くもあった石油価格は,1983年の今日,4ドル近くの落ち
こみをみせ,いわゆる樋オイル・ショ・ソク、といわれる事態をひきおこしているが11)メ
・キシコの場合,1バーレル当たり仮に4ドル下落すれば,年間20億ドルの経常収支の悪化
発展途上国の対外債務累積問題と世界経済 9
(12)
になるといわれているし,輸出総額の80%,財政収入の70%を石油から得ているといわれ
るインドネシアについては,1バーレル当たり1ドル下がると年間3億ドルの収入減にな
(13)
るといわれている。
III銀行貸付の縮小とそのインパクト
以上は債務返済の危機的諸要因を借手側である途上国の立場からみたものであるが,他
方,貸手側である銀行としても,1970年初頭以来の急速な海外貸付によって自行の自己資
本・資産比率はかなり低下しており(第4図
第4図
米国巨大24行の特定のグループ諸国に対する貸 参照),銀行としてはこのような貸付リスク
付け(年末における債権の資本に対する割合)
が増大した世界的環境のもとにおいて,適正
な自己資本・資産比率を維持する必要上,近
200
(4>
年,途上国への貸付を縮小するか,または貸
付をおこなうとしても,中長期の貸付よりも
150
Non−OPEC LDCs
短期の貸付をおこなう傾向にある。
さらに,これに併行して,先進各国の通貨
当局も制度的側面から民間銀行の対外融資に
100
対して規制を強化する方向にある。たとえば,
OPEC
50
Eastern Europe
松波断割によると,アメリカでは最近,連邦
準備制度理事会,通貨監督官,連邦預金保険
会社の三者が米銀の対外貸付業務の監視を目
0
1977 1978 1979 1980 1981
Morgan Guranty Trust Company of New
York,レ7∂714π紹η6乞α1伽7ん薦, october
1982,p.2.
的として,合同管理委三会を設立し,79年5
月からは国法銀行に対して課せられている
「一債務者に対して,その銀行の資本勘定の
10%まで」(国法銀行法第84条)の融資限度規制(ただし,
ニューヨーク州などの州法銀
行は例外として外国政府,政府機関に対して25%まで認められる)を厳しく運用する方針
(15)
を打ち出しているし,またわが国においても,日本経済新聞1982年9月13日付けによれば,
大蔵省が1982年9月,国際金融不安の高まりを受けて,邦銀各行の対外融資に対する「指
導」と「監視」.を10月以降強化する方針を以下のように打ち出している。その具体的内容
は,①中長期融資だけに限られていた1国当たりの融資限度規制(自己資本の20%以下)
を短期融資にも広げる,②その場合,限度額を全体で自己資本の30%程度に拡大する,③
海外支店に対する銀行検査を国内の本店検査と連動する“内外同時検査、に改める,とい
(16)
うものである。
では,先進国民間銀行の途上国に対する貸付けの縮小は,途上国の経済に対して,また
は世界経済全体にどのようなインパクトを与えるのだろうか。モルガンWFM(oct 1982)
10
によって,それをみてみようρ同誌は,第2次オイル・ショック以降の新規銀行貸付けが
主要借入国の輸入の25%以上をカバーしていることを指摘した上で,銀行貸付けの減少が
非OPEC途上国の経済成長におよぼす潜在的な影響を2つの異なったシナリオのもとに
検討している。いずれのシナリオも,工業諸国と途上国とを結びつける世界貿易のフレー
ム・ワークにもとづいている。
第1のシナリオは,1981年に20%の増加を示した新規の銀行貸付けが10%へ落ちこんだ
ことを想定している。このことは,他のすべての要因を不変と仮定すれば,新規の銀行貸
付けが20%の割合で増加する場合に比べて,非OPEC途上国へのネットの資本流入
が250億ドル少なくなることを意味している。この結果,同誌は,非OPEC途上国の最
初の年における成長率は,20%増の銀行貸付けが維持された場合に比べて,6.5%低くな
るであろうと見積っている。とりわけ,このインパクトはラテン・アメリカ諸国において
大きく,そこでの経済成長は概して,20%:増のペースでの貸付けが維持された場合に比べ
て,3%低くなるであろうと見積られている。これは,多くのラテン・アメリカ諸国が輸
入のための資金を銀行貸付けに著しく依存しているためである(第7表参照)。
これに対して,アジア途上国の経済成長は約0.5%しか低下しない。というのは,アジ
ア途上国の場合は,銀行貸付けにそれほど依存していないからである。
第2のシナリオは,非OPEC途上国に対する新規の銀行貸付けが全くおこなわれない
極端なケースを想定している。この場合には,途上国へのネットの資本流入は,新規の銀
行貸付けが20%の割合で増加する場合に比べて,500億ドル少なく,経済成長率は3%低
第7表 途上国の商品輸入に占める対外国銀行借入れの割合(%)
国 名
1979∼81年(年平均)
1981年
ラテシ・アメリカ
アルゼンチン
75
60
メ キ シ コ
チ リ
ブ ラ ジ ル
61
47
59
48
31
32
28
27
エクア ドル
コ ロンビア
27
17
ベネズエラ
37
15
ペ ル 一
9
9
44
40
マレーシア
8
16
韓 国
タ イ
19
14
10
12
フ ィ リ ピン
24
11
インドネシア
4
6
台 湾
4
6
11
10
上記8力国の平均
ア ジ ア
上記6力国の平均
Morgan Guranty Trust Company of New York, W∂帽F劾αη磁1
漁漉θ云s, oct 1982, P.7.
発展途上国の対外債務累積問題と世界経済
11
第8表 先進国の輸出とGNPに占める特定グループ諸国の割合 (%)
輸入国
輸出国
東ヨーロッパ
発 展
全発展途上国
途 上 国
ラテン・アメリカ
OECD
輸 出
3.8
26.2
6.1
G N P
0.6
4.2
1.0
アメリカ
輸 出
2.1
38.0
16.6
G N P
0.2
3.1
1.3
日 本
輸 出
2.7
45.0
6.4
G N P
0.4
6.0
0.9
フランス
輸 出
4.4
26.8
3.1
G N P
0.8
4.7
0.5
西ドイツ
輸 出
5.6
17.8
3.4
G N P
1.4
4.5
O.9
イタリア
輸 出
4.8
29.2
4.2
G N P
1.O
6.3
O.9
イギリス
輸 出
2.7
24.4
2.4
G N P
0.6
5.3
0.5
Morgan Guranty Trust Company of New York,賄7‘4.F伽η磁1ハ勿吻虹
oct 1982, P.8.
下すると見積られている。ラテン・アメリカ諸国のみについてみれば,経済成長率はほぼ
5.5%低くなるとされている。
以上のように,先進国民間銀行の新規貸付けの縮小は,途上国の経済に対して,直ちに
(17)
ネガティブな影響を与えるが,この影響は何も途上国だけには限らない。それは途上国と
の貿易またはサービスの取引きを通じて,先進国側の経済にもマイナスのインパクトを与
える。なぜなら,民間銀行の途上国への貸付けの縮小は先進国の途上国向け輸出を低下さ
せ,ひいてはそのことを通じて,経済成長率を低下させるであろうからである。現在,途
上国は第8表にみられるように,工業諸国全体の輸出のほぼ26%,日本の輸出の45%,米
国の輸出の38%を占めているが,このような途上国の対先進国貿易に占める位置にかんが
みて,モルガンWFMは,「銀行の新規貸付けが10%の:増加率へ落ちこむか,あるいはゼ
ロになるかによって,OECDの成長率は,非OPEC途上国への銀行貸付けの:増加が20
%のペースで維持される場合に比べて,少なくともO.5%ないし1%落ちこむだろう」と
見積っている。
以上が銀行貸付の縮小が途上国の経済あるいは先進国の経済におよぼすインパクトにつ
いてのモルガンの分析であるが,この分析は,われわれが途上国の対外債務問題を考える
12
場合,この問題のもつ複雑性をあらためてわれわれの前に提示してくれている。それはこ
ういうことである。もし銀行貸付が縮小すれば,途上国の貿易収支あるいは経常収支は改
善し,国際均衡は保たれることになるだろう。これは国際収支赤字ファイナンスのための
対外借入れを縮小し,対外債務累積に一定の歯止めをかけるかもしれない。しかしこれは,
途上国の成長率の低下,耐乏生活の容認という国内均衡を犠牲にしたうえでのことである。
これは人口が急速に増加している途上国にとっては,政治的・社会的不安を増長させるも
のであり,とても容認できるものではないし,また,このような途上国の政治的・社会的不
安は,東西対立というより高次な政治的問題をかかえる西側先進国としても放置できるもの
ではないだろう。銀行貸付の縮小は民間銀行にとっては貸付けリスクの軽減を意味するかもし
れないが,そのことは逆に体制上のあらたな問題を生み出す危険性をはらんでいるのである。
また銀行貸付けの縮小は途上国だけに影響をおよぼすのではない。先にみたように,銀
行貸付けの縮小に伴う途上国の成長率の低下は,財およびサービスの取引きを通じて,先
進国の経済にもマイナスの影響をおよぼす。このことは,とくに,先進各国が構造的不況
と貿易摩擦の問題をかかえ,先進各国がかってのように先進国間取引きを通じる発展にそ
れほどの期待をかけえない今日的状況においてはなおさらのことである。この点で,私は
かつて,今日における南北問題の質的変化ということで,次のように書いたことがある。
「南北問題は,今や,質的に大きく変化している。南北問題の当初の性格は,南側が北
側に一方的な要求をつきつけ,北側がそれをのむかのまないかという,いわば南側の一方
的な問題であったが,今や南北問題はその様相を変え,北側自身の内部的な問題にまで転
化してきている。それを端的に示すのは,いわゆる先進国間貿易のゆきづまりである。戦
後の資本主義世界における貿易は,先進国間の取引きを中心として発展してきたといわれ
るが,今や先進国市場は飽和状態に達し,それが先進国間における貿易摩擦を引きおこす
一因ともなっている。このゆきづまりを打解するには,先進国は従来の先進国市場に代わ
る新たな市場を積極的に開拓していかなければならない。その方法は,社会主義国との貿
易も含めて,途上国との貿易を大きく拡大していくことである。そのためには,北側が南
側の発展を南側の一方的な要請としてではなく,北側自身の自らの問題(あるいは要請)
として,積極的にうけとめることである。ここに,今日の南北問題の新しい意義があると
(18)
いえる」。
すなわち,今日の先進資本主義国は,途上国の正常な発展あるいは途上国との貿易の拡
大なくしてはその存立もあやぶまれる,そういう状況に立ちいたっているのである。事実,
1974−75年恐慌が1930年代恐慌のような深刻な状況にまでいたらなかった一因は,この時
(19)
期に途上国が高成長政策をとり,先進国からの輸入を拡大したためだといえなくもない。
そして,このような途上国(とくにNICs)の高成長を可能にしたのが,実は,先進国民
間銀行の対途上国融資だったのである。いわば,この期,あるいはそれ以降現在にいたる
期間においてさえ,先進国民間銀行の対途上国融資は,公的資金の撒布(いわゆる対外援
発展途上国の対外債務累積問題と世界経済 13
助)になりかわり,グローバルなレベルでのスペンディング・ポリシーの役割を果したの
であり,そのことによって,先進国の経済危機をある程度緩和させたのである。
このようにみてくると,民間銀行の対途上国貸付けの縮小が,単に途上国だけの問題で
はなく,先進国経済にも重大な係り合いをもっていることが明らかとなろう。対外債務問
題とは,単に貸付けを縮小すればそれですむというなまやさしい性格のものではないので
ある。
むすびにかえて
問題解決への道
さて,先にみたように,発展途上国への融資が先進資本主義国にとって,いわばビルト
・イン・スタビライザーともいうべき役割を果しているかぎり,途上国への融資を急激に
縮小することは,たとえ金融不安という1つの問題をある程度緩和するにしても,問題を
全面的に解決するものではない。反対に,木下教授も言われるように,「今日必要なのは,
まさに,潜在的な需要を抱えた国々ぺの大量の信用供与であり,…・……たしかに速効性は
期待できないカ㍉先進国の構造的不況を克服するもっとも確実な途である璽 しかし,こ
れは反面で,途上国の対外債務を累積し,債務不履行にともなう国際金融不安を増長させ
ていく過程でもある。
問題は,この矛盾をいかに解消していくかである。
短期的にはおそらく,この矛盾(債務不履行にともなう金融不安)は,政府間,民間金
融機関間,中央銀行間,および民間銀行とIMF・世銀などの国際的金融機関との協調に
よって対処できるかもしれない。事実,1982年8月のメキシコの金融危機に際しては,約
100億ドルにのぼる5つの国際的な救済措置がとられることが,米財務省のマクナマー財
⑳
平平長官によって明らかにされた。それによると,メキシコ救済措置の大枠は,①先進各
国中央銀行によるメキシコ短期金融支援のための総額15億ドルのスワップ(通貨の預け合
い),②IMFによる今後3年間に40億ドルまで引き出す権利の供与(ただし,・IM:Fが
メキシコの財政,経済政策を監視する条件付き)と8億ドルまでの援助,③日米欧民間金
融機関の計100億ドルの短・中期元本返済を90日延長し,かつ新たに10億ドルの新規融資
を行う,④米国が10月以降,戦略備蓄用としてメキシコ原油を1年間購入,10億ドルを前
払い,⑤メキシコによる米国産農産物買い上げに対し10億ドルのローン保証をおこなう,
というもので,元本返済の繰り延べも入れると200億ドルに達するという巨額の内容で
ある。
これらの措置によって,メキシコの金融危機は鎮静化し,国際的なパニックを引きおこ
すまでにはいたらなかったが,しかしこれらはあくまでも突発的な事態に対する一時的な
弥縫策であり,問題そのものを根本的に解決するものではない。途上国の経済発展に
外部資金の導入が不可欠であり,その上で対外債務問題を根本的に解決するには,途上国
14
が正常な発展をとげ,対外債務を確実に返済していく条件(あるいは状態)ができあがら
なくてはならない。
今,そのことを図式によって示してみよう。国際収支表の観点から国家の発展段階をみ
れば下図のような経過をたどるといわれそいる12)
(受取勘定) (支払勘定)(資本移動) ∴(貿易収支)
第1段階(若年債務国)………B+X = M+Ip………B>Ip ∴ X〈M
第2段階(成年債務国)一…・・B+X = M+Ip………B=Ip ∴ X=M
第3段階(成熟債務国)………B+X = M+Ip………B〈Ip ∴ X>M
第4段階(若年債権国)一…4r+X = M+L…………L>Ir .’. X>M
第5段階(成年債権国)・・……{r+X = M+L…………L=Ir ∴ X=M
第6段階(成熟債権i国)・……・{r+X− M+L…………L<Ir ∴ X<M
(ただし,Xは商品の輸出, Mは商品の輸入, Bは資本輸入純額, Lは資本輸出純額,
Ipは支払い利子純額,Irは受取り利子純額を,それぞれ示す)
これに照らして現在の対外債務問題を考えれば,現在の途上国は第1段階の貿易収支が
赤字で,それを補聞するために外国からの借入れに依存しなければならないという若年債
務国の立場にあると考えられるから,これらの国が対外債務を確実に返済しえるためには,
第3段階の成熟債務国へ成長し,輸出超過によって以前の借入れの返済ができるという状
態が作り出されねばならないわけである。そのためには,途上国の内部的努力はもちろん,
それを保証する国際経済体制の再編が不可欠であろう。
まず前者についてい嵐対外債務累増の原因となる外資依存体質の改善13)大型プ。ジ
(24) (25) 、
エクト,工業化戦略,農業政策等の見直しが必要であろっし,後者について言えば,先進
国側の産業構造の調整(第5,第6段階への移行),石油を含む一次産品価格の安定や輸
出所得の保証,工業製品の輸出に関しては一定の優遇措置を与えるような,そのような体
制(いわゆる新国際経済秩序)が必要であろう。
さらにこの上に,木下教授の提唱される国際清算同盟とかSDRの途上国への優先的配
分とかいった,途上国の負担を軽減するような通貨体制ができあがれば,よりベターであ
ろう。
これらはそのほとんどが困難で多大の努力を必要とし,その達成にはかなりの時間を要
しようが,これらが実現されないことには対外債務を確実に返済し,現代世界経済がかか
える矛盾を解消する途は開かれてこないように思われる。財政上の問題で,公的資金の撒
布(=対外援助)に多大の期待をかけえない今日,先進国の金融機関がそれまでの期間,
国家になりかわり,たえず対外債務の不履行という金融的不安におののきながら,自らの
体制を安定させるために,途上国への融資を続けていかねばならないのは,やむをえない
ことであろう。
発展途上国の対外債務累積問題と世界経済
15
(注)(1)本稿で発展途上国と言う場合,それは概ね,非OPEC途上国の意味で使っている。
(2)Co㎜ission on International Development,勲燃勿Dω吻蹴1969.
大来佐武郎監訳『開発とi援助の構想』日本経済新聞社,1969年,56頁。
(3)Euromoney, aug,1982によるもので,1981年末における債務残高である。
(4)
B.Franklin,更更Debt Peonage:The Highest Form of Imperialism,”Moπ孟物1∼θ碗鋤mar
1982,p.20.
(5)
オイル・ショックは先進国の経常収支にも大きな影響を与えたが,先進国はOPECや他の非産
油途上国への輸出増によって,石油値上げによる赤字をカバーしており,
経常収支の赤字は非産油
途上国ほど大きくない。なお,
この点についての分析は,井関博「非石油輸出開発途上国の貿易と
資金移動」『東銀月報』第27巻第7号に詳しい。
(6)
たとえば,外部資金依存度(あるいは対外債務残高)がもっとも高いラテン・アメリカ諸国につ
これら諸国は1950年代には非耐久消費財を中心として輸入代替工業化を完了させ,60
いてみれば,
メキシコ)を中心として,第2期工業化段階へ
年代には域内経済大国(アルゼンチン,ブラジル,
移行し,70年代には中聞財,
資本財の輸入代替工業化へのシフトを強めている。この結果,化学品,
基礎金属,製紙などを中心として基礎素材産業が急速な発展をとげているが,
これらは相対的に巨
大な稼動資本を必要とするものであり,貯蓄能力の低いラテン・アメリカでは外資への依存を強め
る主要因となっている。
ちなみに,ラテン・アメリカの国内投資に占める1外国資金の割合は,1961∼70年の8.80%から
工971∼80年には20.11%へと急増している。(以上の叙述は,小林志郎「中南米の対外債務問題とそ
の背景」『海外市場』1983年3月号に依拠した)。
(7)ちなみに,非産油途上国の対外借入れに占めるユーロ・クレジットの割合は,ユ974∼75年の25%
前後から1976∼78年には40∼60%へと大きくふくれあがっている。田下雅昭「途上国のファイナン
ス問題とユーロ・クレジット市場の対応」『日本長期信用銀行調査月報』Nα174,16∼19頁参照。
(8)米銀貸し出し急増の理由としては,1974年における対外投融資の自由化があげられ,その大部分
は短期の貸し出しである。なお82年末の西側民間金融機関の対外貸し出し残高の52%は,ブラジルー
(870億ドル),メキシコ(850億ドル),アルゼンチン(380億ドル),韓:国380億ドル)の4力国に
集中している(OECD発表による。日本経済新聞,1983年1月10日付参照)。
(9)毎日新聞,1982年9月7日付に依拠。なお,モルガンwFM(oct 1982)は,1980年以降の石油
を除く一次産品価格は実質(real term)でみると過去30年間で:最低であり,1974∼75年恐慌時の
水準を20%を下回っていると報じている。
(1①モルガン,WFM(aug 1982), p.11。
⑳石油の値下りは石油輸入国の貿易収支を改善させ,世界経済を活性化させると期待されているが,
反面で新たな問題もひきおこすと言われている。
まず,非産油途上国におよぼす影響としては,次のようなことが考えられる。
①産油国の石油収入減によるプロジェクトの縮小とそれに基づく対産油国(とくに中東)輸出の
減少および出稼ぎ労働者からの国内送金の減少である。たとえばフィリピンについて言えば,同国
の中東への出稼ぎ労働者は30万人で,昨年の国内送金額は20億ドルであった。この他,韓国,タイ
16
等もかなりの出稼ぎ労働者を中東へ送っている。
②石油の急激な値下りに基因する民間銀行貸付の縮小,ユーロ貸付けにおけるスプレッドの拡大,
融資条件の悪化である。
次に先進国におよぼす影響としては,以下あようなことが考えられる。
①第1は産油債務国による債務返済遅滞の可能性であり,メキシコはその典型的な例である。
②第2はエネルギー開発事業に対する支障であり,「昨年秋には日本の電源開発が参加した豪州
のマウントアーサー石炭開発事業やバーズロック石炭開発事業が原油価格の下落のあおりで採算の
見通しが立たずに延期せざるを得なくなった」(日本経済新聞,1983年2月3日付)との報導かな
されているし,また「米国の中小銀行ペンスクエアか倒産したのもエネルギー開発事業に大量に
融資したものの,エネルギー価格が下がり事業が失敗したのが主因」(同)との指摘もなされて
いる。
なお後者との関連では,米国第6位の大手商業銀行コンチネンタル・イリノイは,「石油開発業者
への貸し込みから7月に倒産したペン・スクエア銀行の倒産劇によって,3億4千万ドルとも推定
される損失を被った」(日本経済新聞,1982年9月28日付)といわれている。
(12) 日本経済新聞,1983年2月3日付。
(13)日本経済新聞,1983年2月14日付。
(14)貸付縮小の1つの方法はユーロ市場におけるインターバンク取引(具体的にはインターバンク
預金)の制限である。インターバンク預金 これはグロスのユーロ・カレンシー負債の半分以上
を占めている は多くのユーロ・バンクの重要な資金調達源泉であり,彼らの流動性の重要な構
成要素となっている。したがって,インターバンク預金が縮小すれば,対外貸付も縮小せざるをえ
ないわけである。
(15)松波博「開発と債務の狭間で 発展途上国の債務累積問題 」『一興銀調査』(1980年No 1)
111頁。
(16)同日付け日本経済新聞によれば,①の措置は中南米諸国の短期債務か急増していること,メキシ
コの債務返済の繰り延べ対象が中長期分だけでなく短期融資も対象となったことなどが理由であり,
③はこれまで海外検査と国内本店検査が連動していなかったため掌握しきれなかった海外支店の短
期融資の実態を掌握するため,内外検査を同時におこなおうというものである。
なお同新聞は,邦銀の海外進出件数,対外融資残高について以下のとおり報導している。
「大蔵省の調べによると,7月末現在の邦銀の海外進出数は,支店,現地法人,駐在員事務所を
合計して421カ所に及ぶ。対外融資残高(3月末現在)は期間1年未満の短期融資が外貨建;てだけ
で367億ドル,中長期融資は外貨建て,円建て合計で530億ドルにのぼっている。このほか短期の円
建て融資が昨年末で700億円あり,全体で年内に1,000億ドル台になるのは確実視されている。
国際金融市場全体に占める割合では,55年8.6%,56年9,4%だった。だが今年の1∼3月期に貸
し付けた中長期融資額は37億3千万ドルで市場全体の16.8%を占めた。国際金融不安の広がりの中
で各国の金融機関が対外融資を抑制しているのに対して,邦銀は昨年より2割増のペースで貸し出
しを続けているためだ。
邦銀か対外融資を増大させている理由としては,景気の低迷で国内の貸し出しが不振なため,各
行とも収益性の高い海外部門への依存を高めていることがあげられる」。
発展途上国の対外債務累積問題と世界経済 17
したがって,本文で取りあげた規制強化は,邦銀のこのような海外貸し出しの現状に対応したも
のと言うことができる。
なお参考のため,1982年11月22付け日本経済新聞が発表した「わが国金融機関の国別貸出残高」
と「わが国の民間銀行融資や公的円借款の相手国で債務返済の遅れている国」の表をあげておく。
わが国金融機関の国別貸出残高
(中長期,単位百万㌦,億円,円建てのドル換算は各期末の終値による)
一56年3月末一 一57年6月末一一一一・
外貨換
外貨換
OECD
アメリカ
カナダ
オーストラリア
ニュージーランド
オーストリア
ベルギー
デンマーク
フィンランド
フフンス
西ドイツ
ギリシャ
アイスランド
アイルランド
イタリア
ルクセンブルク
オランダ
ノルウェー
ポルトガル
スペイン
スウェーデン
スイ ス
トルコ
イギリス
発展途上国
(うち産油国)
べ不ス:エフ
インドネシア
イ ラン
外貨建
円 建
13,334
1,100
1,346
16,875
1,004
1,347
6,883
956
399
527
715
364
410
206
356
637
354
273
866
931
299
782
109
691
179
519
53
53
86
156
161
358
232
103
120
711
382
732
7
外貨建
円 建
10,591
5,800
996
918
206
162
220
905
36
524
593
274
409
148
356
45
174
502
7
258
190
1
123
21
11
98
220
1,460
11
549
26
1,282
382
17
17
1,221
18,901
2,977
1,054
594
61
36
55
2,098
2,098
イ ラ ク
サウジアラビア
蘭領アンチイール
アラブ首長国連邦
1,585
算合計
35
71
2,067
17
33
9,214
1,653
1,255
23,257
3,758
1,054
230
298
1
ガボン
ノく一レーン
トリニダード・トバゴ
(その他の中南米)
ブラジル
メキシコ
アルゼンチン
ペノレー
チリ
ボリビア
コロンビア
ウルグアイ
パラグアイ
パナマ
ノぐ ノ、 マ
バミューダ
コスタリカ
キユーバ
ドミニカ
ホンジュフス
ジャマイカ
ニカラグア
グアテマラ
559
227
326
38
16
26
1,832
4,392
4,366
1,445
89
292
2
314
967
4
154
2,990
1,236
119
322
14
37
759
8
9
850
5
315
97
16
607
273
874
1,029
388
830
150
691
96
522
3,509
86
,夢
、,261
121
338
714
2,605
,l
ll
735
36
29
1,635
28,710
4,430
1,696
702
202
757
;鴛
49
844
142
1
14
14
1,016
229
326
38
16
99
78
78
453
309
406
92
P
817
311
406
26
26
3
、話
3
13,246
4,977
4,417
1,596
15,593
5,205
5,818
1,954
欄
16,952
5,635
5,893
96
229
622
2
597
蛋
310
2
314
1,161
8
55
78
32
2
914
9
421
2
6
2
6
7
9
1
1
6
18
翻
τ
19
93
2,081
229
636
2
599
21
21
19
18
70
11
1,609
154
18
249
228
124
104
2,018
82
42
16
78
21
l:lll
11
11
648
3,502
リ ビア
アルジェリア
ナイジェリア
エクアドル
1,183
1,912
19,568
1,104
1,810
1,385
24,840
3,823
1,696
12
63
12
63
69
257
算合計
1・4
」
聖
2
1,488
9
61
82
2艶
119
6
9
9
16
16
6
18
一56年3月末一 一57年6月末一
外貨換
外貨換
円 建
円 建
外貨建
外貨建
ケイマン
バルバドス
エルサルバドル
リーワード諸島
その他
(その他のアジア)
韓: 国
香 港
フィリピン
タ イ
シンガポール
マレーシア
台 湾
イ ン ド
スリランカ
ビルマ
ラオス
パキスタン
マカオ
(その他のアフリカ)
エジプト
モロッコ
リベリア
象牙海岸
モーリシャス
マラウィ
カメルーン
ケニア
チュニジア
ザンビア
セネガル
ザイール
タンザニア
ニジェール
22
2,468
1,832
981
457
393
185
173
222
368
弓ζ§
31そ
3象
2・2 艶ケ
307
1・9 カ§
96
586
766
334
202
236
2,276
1
269
1,778
1
2
4
1
2
4
6
3,806
1,447
53
31
18
26
13
3,388
1,155
6
4
6
4
1
124
871
29
12
37
10
37
1,193
算合計
22
互
葬
18
26
14
6
104
ヨルダン
ブイージー
パプア・ニユーギニア
レバノン
431
408
4
3
ポーランド
ハンガリー
ルーマニア
ブルガリア
チェコスロバキア
ソ 連
コメコン
北朝鮮
ベトナム
中 国
国際機関
アジア開銀
ラテンアメり力経済
開発連盟
アフリカ開銀
中米経済統合銀行
C O E
欧州石炭鉄綱共同体
欧州投資銀行
欧州原子力共同体
欧州鉄道金融公社
世 銀
米州開銀
アジア民間投資会社
N I B
合 計
439
400
16
2
3,433
945
116
266
448
キ・プロス
共産圏
東 独
735
515
241
163
587
20
29
1,982
357
262
782
413
107
60
552
312
6
6
葦器
鵬
、1早
37
20
77
宮器
11
、器
,,1
7
4,477
639
597
4
3
17
18
3,881
881
588
810
229
132
354
232
437
9
200
9
2,354
6
6
2,103
267
41
131
3
2
3
33
27
3
5
2,124
2
2
2
486
432
4
3
39
8
3,464
928
449
612
219
404
400
5
966
130
266
502
10
5
146
31
69
47
35
351
161
189
202
3,445
1,630
154
73
20,435
42,822
7,737
10
3
45,466
2
2
644
588
4
3
41
8
3β42
979
553
809
224
73
369
210
461
7
145
12
3,315
548
214
3
152
60
44
90
3
37
3
5
17
14
49
287
33
28
2
54
369
210
461
7
145
1,514
91
91
蜜
33,156
20
55
31
313
166
6
3
837
821
403
205
610
144
683
115
3
2
3
350
弱
4,581
1,587
2,480
信
1艶
4
1
1
1
1,132
17
コ ン コ“
ユーゴスラビア
4
1
1
1
2
リ ジア
スーダン
(その他の途上国)
算:合計
23
230
48
801
221
351
200
31
88
325
127
181
71
80
5,149
25,476
2,015
55,435
日本経済新聞,1982年11月22日付
なお同新聞は,1983年1月13日にも「国別の貸出残高」を発表しているが,これによると,
57年9月末の外貨建:て,円建:て,外貨換算合計は,それぞれ48,031,28,031,58,436となって
いる。
発展途上国の対外債務累積問題と世界経済 19
債務返済の遅れている国
◇邦銀融資
対象国(融資残高,百万ドル) 状況
く中南米〉
○メキシコ(5893)82年8月以降公的借り入れ元本返済凍結。近くリスケジュール交渉へ
○アルゼンチン(2081)82年8月以降元利返済大半止まる。近くリスケジュール交渉へ
○エクアドル(406)82年10月リスケジュール要請
○コスタリカ(82)81年8月以降元利返済大半止まる。リスケジュール交渉進行中
○ボリビア(2)81年9月リスケジュール交渉妥結。82年9月再び利払い遅延
○ホンジュラス(9)81年秋リスケジュール要請,利払い遅延
○・キューバ(119)82年8月リスケジュール要請,9月以降元本返済止まる
○ニカラグア(19)80年12月リスケジュール交渉妥結
Qジャマイカ(9)78−81年7月にかけ3回にわたりリスケジュール実施
くアフリカ〉
○リベリア(1514)82年春以降元利払い遅れ気味,リスケジュール交渉進展中
○ザイール(9!)80年9月リスケジュール交渉妥結,82年4月以降元利払い一部再び遅延
○スーダン(2)81年6月リスケジュール妥結,81年12月以降再び利払い遅延
○セネガル(5)81年以降元本返済遅れ,2度にわたりリスケジュール交渉妥結,再び利払い遅れ
気味
○ザンビア(3)利払い遅れ気味
く東欧圏〉
○ポーランド(553)81年3月以降元利返済遅延,82年4月,11月目スケジュール交渉妥結
○ルーマニア(224)81年夏以降元本返済遅延,リスケジュール交渉進行中
くアジア〉
○ベトナム(145)82年春以降元利返済止まる。82年5月リスケジュール要請
◇経済協力基金,輸銀円借款
○ペルー,トルコ,パキスタン,リベリア,マラウイーリスケジュール実施
○カンボジア,ベトナム,ポーランド,ルーマニア,アルゼンチン=元利返済遅延
日本経済新聞,1982年11月22日付
また毎日新聞1983年6月2B付けによると,邦
主要銀行の海外債権残高と
海外債権損失引当金実績
銀各行は,途上国への融資金が万一回収不能にな
(単位億円,以下切り捨て,%)
った場合に備えて,本年3月期決算から「海外債
権損失引当金」なる制度を設けている。
行名
海外債
権残高
うち対 国
象国へ
の残高 数
引当
引当
金
率
175
4,994 14
188
3,783 17
269
佳
平
5,398 16
過去5年以内に債務返済の繰り延べ(リスケジュ
190
菱
4,213 19
和
227
4,542 18
ール)などが実施された“要注意国、を各銀行ご
143
昌
2,872 14
143
東
昌
3,580 21
とに自主的に判断。対象債権の5∼1%相当を各
太陽神戸
2,260 18 56
和
大
1,221 14
26
行の収益力に応じて有税で引き当てることを認め
三
和
1,193 16
20
二
玉
1,250 16
28
た制度」である。
卸
銀
21
1,375 13
町
興
214
同新聞が発表した主要銀行の「海外債権残高と
7,126 23
180
銀
興
3,610 18
海外債権損失引当金実績」は以下の表のとおりで
106
長
銀
3,530 19
2,330 16 47
日債銀
あり,海外融資残高は邦銀13行と長期信用銀行3
総 言十 219,124 53,277 2,033
これは「元本や利払いが1カ月以上延滞したり,
第一勧銀
富 士
22,100
21,500
23,711
19,000
20,317
13,293
9,600
6,896
5,614
5,169
3,348
3,568
29,408
14,000
13,000
8,600
3.5
5.0
5.0
4。5
5.0
5.0
4。0
2.5
2.1
1.7
2.3
1.6
3.0
5.0
3.0
2.0
行の計16行で21兆9124億円,カントリー・リスク
毎日新聞,1983年6月2日付
ありと判断した国への融資残高は東京銀行の7126億を筆頭に計5兆3277億円,引当金は総計2033億
円にのぼっている。他の金融機関(たとえば生保など)も加えると,わが国全金融機関からの融資
残高は6兆円を超えることはほぼ確実といわれている。
20
(17)もっとも,先進国民間銀行貸付けの縮小は,貿易収支あるいは経常収支の面からみれば,財およ
びサービスの輸入減を通じて途上国の貿易収支あるいは経常収支を改善させるというプラスの効果
をもつ。
モルガンWFMは,もし銀行貸付の増加率が10%のペースに落ちこむならば,経済成長がゆるや
かなものになることによって,非OPEC途上国の貿易収支は約230億ドル(うち,ラテン・アメ
リカ150億ドル)改善され,もし新規の銀行貸付が全くおこなわれないならば,貿易収支の改善はこ
れよりさらに大きく,非OPEC途上国全体でほぼ450億ドル,ラテン・アメリカのみで300億ドル
改善されると述べている(p.7)。
(18)吉信粛編『貿易論を学ぶ』有斐閣,昭和57年,212頁,
(19)この点の事情について,田下雅昭氏は次のように述べている。
「オイル危機直前の1973年の経済成長率は,非産油途上国か7.3%,先進7力国が6.2%で,非産
油途上国のほうが若干高い程度であった。ところか,先進国はオイル危機に直面して,強力な引締
め政策を採ったから,経済成長率が大幅に低下し,1974年△0.1%,1975年△0.8%とマイナス成長
に落ち込んだ。
これに対し,非産油途上国の経済は1974年5.3%,1975年4.1%とかなり高い成長を続けた(いず
れも対前年比変化率)。
非産油途上国と先進工業国における
この違いは当然,輸入量の変化に反
経済成長率と輸入量の変化(対前年比)
映している。先進国の輸入量は1974年
に1.5%とわずかな伸びを示したが,
1975年には△47.5%と大幅に縮小した。
(%)
15
\ 八
これに対し,非産油途上国の輸入量は
\ ’\
先進国と同様のパターンをたどったも
のの,その変化率は1974年8.5%,1975
\ だ
\ 非産油途上国の
10
\▽\/欝鑑
年△6.5%と先進国よりも輸入の伸び
が大きく,また,縮小の程度が小さか
った」「前掲論文,8∼9頁)。
5
またOECDも次のように評価して
1 済成長率(実質)
いる。
「もっとも重要なのは,NICsが
0
1
冒
投資財の輸出市場としてますます重要
1!
性を帯びてきていることである。OE
CD諸国全体の投資財輸出に占めるN
一5
y
ICsのシェアは,1963年の9.1%か
ら73年の11.9%へと上昇した。その後,
OECD域内での投資需要が減退した
一10
1973 74 75 76 77 78(年)
際,NICsの多くは投資財の輸入を
へ
拡大し,OECD諸国にとって歓迎す
イツ,イタリア,カナダの7力学。
べき輸出の増大をもたらした」(OEC
(注) 日本,アメリカ,フフンス,イギリス,西ド
日本長期信用銀行『調査月報』No 174,9頁。
発展途上国の対外債務累積問題と世界経済 21
D,:τ勉1初ρα6’げ訪θ1鞄z吻 1η4鋸’磁1魏㎎ Co観’7蜘1979.大和田恵朗訳『新興工業国の挑
戦』東洋経済新報社,昭和55年,9頁)。
⑳ 木下悦二「世界経済の現局面の性格と国際通貨制度の課題一構造的不況からの脱却をめざして
」『世界経済評論』1983年3月号,39頁。
なお教授は,信用供与国の国家財政に大きな負担をかける方式での援助では,今日求められてい
る巨額の信用供与は不可能であること,IMFが後盾となる民間金融機関の融資では,低開発国の
債務返済負担を大きく改善するだけの融資の長期化と低金利を実現することが困難なことをもって
国際清算同盟案の再検討,SDRの低開発国への優i先的配分を提唱されている。(同上論文,39頁)。
(21)毎日新聞,1982年8月22日付。
(22)赤松要・野江薫雄・名和統一・大来佐武郎監修『講座・国際経済』(第4巻・国際資本移動)有
斐閣,昭和40年,51頁。
㈱ 外資に対して依存度が高いということは,裏がえして言えば,国内における貯蓄能力が低いとい
うことであるが,この点について,そしてそれが国民経済におよぼす影響について,小林志郎氏は,
とくにラテン・アメリカ諸国を対象として,次のような分析をおこなっている。
「中南米の国内貯蓄能力の低さは各国の社会,経済的諸要因と複雑に結びついているが,より直
接的要因としては,第1に国家経済の中で依然として重要な生産・輸出能力を有する伝統的一次産
品部門(農牧業・鉱業など)の貯蓄能力の低さが指摘できる。アルゼンチンの農牧生産・輸出業者
の事業収益が国内工業資本に転化されることなく,為替投機や国内不動産投資に向かいやすいこと
などは国内の貯蓄能力制約要因の一例にすぎない。また,不均等な経済発展(つまり農牧業や鉱業
など特定業種にズバ抜けた富の蓄積が行われてきたこと)は国内の所得分配の著しい不均等をもた
らし正常な貯蓄形成を妨げている。
第2は,近代的な国内(民族系)民間企業の未発達から工業化への主要イニシアチブは,外資系
企業か,非能率な国家機能の一環に結びつけられざるを得なかったことである。外資系企業が各国
の自立的経済発展と対照的性格をもつことは,従来各方面で指摘されてきた。例えば過度な利潤の
対外送金や,技術輸出に伴う輸出制約条項の適用などは国内資本形成を制約し本来期待された経済
発展をもたらしていないといった批判である。この結果,経済成長に占める国家財政の果たす役割
が過度に期待されることになる。とくに福祉重視政策を採用せざるを得ない大衆政権や政権の交代
期には,巨額な財政不均衡発生の危険性が高まる。財政赤字の補填は資本調達市場の未発達(この
こと自体国内貯蓄能力の低さを反映)から,国内的には中央銀行からの借り入れ増,対外的には外
国からの借り入れ増という対応になる。中央銀行からの借り入れ増は通貨膨張をもたらし通貨イン
フレの拡大に結びつく。半面,対外借り入れ増は資本収支の黒字化を通じて初期的段階には当該国の
通貨購買力の過大評価をもたらしやすい。これは輸入インフレの抑制効果と自国通貨建ての対外債
務負担の軽減効果もあるが次第に工業品をはじめ輸出品の対外競争力を弱め貿易収支の赤字幅を一
層拡大し,国際声門相場の好転などによる輸出拡大が望めない限り対外部門の危機は増幅する」(小
林志郎,前掲論文,18頁)。
(24)大型プロジェクトについては,たとえば,メキシコでは巨額の石油収入をあてこんで,①西暦
2000年までにエネルギー生産は10倍,鉄綱は5倍,石油化学は7倍以上増大すること,②300億ド
ルかけて4つの新しい産業港を建設すること,③300億ドルかけて原子力発電所を建設すること等
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が計画されている。
また国営石油会社Pemexも1億5千万ドルかけて52階建てで屋上に4機のヘリコプターが離
着陸できる高層ビルを建てることを決定したり,また巨大な石油化学部門の拡張計画にのりだして
おり,「メキシコは今や建設用地と化しつつある」といわれる,いわゆる投資ブームの状態を呈し
ていた。
しかし,この大型プロジェクトには,その優先順位に多くの誤りがあったといわれている。たと
えば,Banco Nacional de Mexicoの頭取であるオーダスチン・レゴレッタ(Augustin Legoretta)
氏は,「われわれは他の国から安く輸入できる時に,鉄鋼産業の建設にのりだしているのだ」と述
べている。
なお以上の叙述は,B. Caplan,ぞ脇競卜〃昭W∂π挑くセω∂勾gθs’δoγγoz〃飢,, The Banker,
July 1983に依拠した。 ・
また,大型プロジェクトの見直しという点では韓国においても同様であり,日本経済新聞1983年
1月10日付けによれば,韓国は対外債務の増大を抑制する必要上,1982年からスタートした第5次
経済社会発展5田平計画を手直しし,同計画の目玉の1つであるソウルー釜山間の新幹線建設計画
を87年以降に延期したほか,原子力発電,石油備蓄などのエネルギー関係,電信・電話事業,民間
投資など合計33の投資計画を縮小ないし延期することを決定している。
ちなみに,同新聞は韓国の累積債務が78年以降増え始め,82年末残高で380億ドルと4年前の78
年末のエ60億ドルに比べ約2.4倍増大し,ブラジルの870億ドル,メキシコの850億ドルに次いで,ア
ルゼンチンの380億ドルと肩をならべるにいたっていること,このような事態にかんがみて,OE
CDがわが国政府に対して,債務が急増し,将来デフォールトを引きおこしかねない危険のある国と
して,ブラジル,メキシコ,韓国,アルゼンチンの4力国を挙げ,警告してきたことを報導してい
る。
㈱対外債務累増の基本的な要因の1つは工業化にともなう外資借り入れの急増であるが,この工業
化の要請は農業部門の人ロ吸収能力の低下=都市への人口流出と結びついており,土地制度改革を
含めて農業の国民経済建設に果たす役割が検討されなければならない。
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