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ヒト遺伝データに関する国際宣言* INTERNATIONAL DECLARATION

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ヒト遺伝データに関する国際宣言* INTERNATIONAL DECLARATION
ユネスコ(国連・教育、科学、文化機構)
ヒト遺伝データに関する国際宣言*
INTERNATIONAL DECLARATION ON HUMAN GENETIC DATA*
*2003 年 10 月 16 日の第 32 回ユネスコ総会(The General Conference of UNESCO)において、賛成の満場一致で採
択された。
総会
1948 年 10 月 10 日の「世界人権宣言」、1966 年 12 月 16 日の 2 つの国連国際盟約「経済
的、社会的及び文化的権利に関する国際規約」及び「市民的及び政治的権利に関する国際
規約」、1965 年 12 月 21 日の「あらゆる種類の人種差別の排除に関する国連国際盟約」、1979
年 12 月 18 日の「女性に対するあらゆる差別の排除に関する国連国際盟約」、1989 年 11 月
20 日の「国連子どもの人権に関する盟約」、2001 年 7 月 26 日の国連経済社会理事会決議
2001/39「遺伝的なプライバシー及び差別の禁止」及び 2003 年 7 月 22 日の 2003/232「遺
伝的なプライバシー及び差別の禁止」、1958 年 6 月 25 日の「雇用と職業の尊重に関する ILO
条約(No.111)、2001 年 11 月 2 日の「ユネスコ文化多様性世界宣言」、1995 年 1 月 1 日に
効力が発する WTO(世界貿易機構)を設立する契約の付録文書である「貿易に関する知的
財産権協定(TRIPs 協定)」、2001 年 11 月 14 日の「TRIPs 協定と公衆衛生に関するドー
ハ宣言」並びに国際連合と国際連合の専門組織により採択されたその他の国際的な人権に
関する法律文書を念頭に置き(Recalling)、
1997 年 11 月 11 日に全会一致の喝采により採択され、1998 年 12 月 9 日の国連総会におい
て支持された「ヒトゲノムと人権に関する世界宣言」及び、1999 年 11 月 16 日の第 30 回
決議において支持された「ヒトゲノムと人権に関する世界宣言の実施のためのガイドライ
ン」をさらに念頭に置き(Recalling more particularly) 、
幅広い市民の「ヒトゲノムと人権に関する世界宣言」に対する世界的な関心、国際社会か
ら得られた堅実な支持、そしてこの世界宣言を国の法律、規制、規範や基準、そして行動
や指針の倫理規約の参考とする加盟国に対する影響を歓迎し(welcoming)、
医学情報や個人情報と同じように、科学的データの収集、処理、使用、及び保管に関して、
人権と基本的自由の保護、及び人間の尊厳に関連する国際的・地域的な法律文書、国の法
律、規制及び倫理的な文書を心に留め(bearing in mind)、
遺 伝 情 報 ( genetic information ) は 遺 伝 デ ー タ (genetic data) や プ ロ テ オ ー ム デ ー タ
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(proteomic data)を含む全ての全医療データ(overall spectrum of medical data)の一
部であり、遺伝データ(genetic data)やプロテオームデータ(proteomic data)を含むあ
らゆる医療データ(medical data)の情報(information)の内容は、前後関係及び特定の
状況に高く依存するということを認識し(recognizing)、
また、ヒト遺伝データ(human genetic data)は、個人に関して遺伝的疾病素因を予見するこ
とが可能であり、その予見力は情報を引き出した時点の評価よりも強くなり得ること、世
代を超えて子孫を含む家族に対して、場合によっては集団全体に対して、重大な影響を及
ぼし、生体試料収集の際にはその意味が必ずしも知られていない情報を含む可能性がある
こと、そして人々及び集団に対する文化的意味を持ちうることから、ヒト遺伝データ
(human genetic data)がその過敏な性質がゆえに、特別な地位を持つことについても認識し
(also recognizing)、
医療データ(medical data)は、その目に明らかな情報の内容によらず、同じように高い基
準の機密性により扱われるべきであることを強調し(emphasizing)、
経済及び産業におけるヒト遺伝データ(human genetic data)の重要性が増加していること
に注目し(noting)、
発展途上国においては特別な要請と脆弱性があること及び、ヒト遺伝学の分野における国
際協調の強化が必要とされていることに配慮し(having regard))
ヒト遺伝データ(human genetic data)の収集、処理、使用、及び保管は、生命科学と医学の
進歩、それらの応用、そして非医学的目的のための使用に際しても非常に重要であること
考慮し(considering)、
また、収集される個人情報の量が増加していくことによって、正確に補修すること(genuine
irretrievability)がますます困難になることについても考慮し(also considering)、
ヒト遺伝データ(human genetic data)の収集、処理、使用、及び保管は、人権及び基本的
自由の実行、観察そして人間の尊厳の確保に対して潜在的な危険をもつことを承知し
(aware)、
個人の利益及び福祉が、社会や研究の権利及び利益よりも優先されるべきであることに注
目し(noting)、
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「ヒトゲノムと人権に関する世界宣言」において確立した諸原則と、ヒト遺伝データ
(human genetic data)の収集、処理、使用、及び保管の基礎となるべき、平等(equality)、
公正(justice)、連帯(solidarity)及び責任(responsibility)、そして同様に研究の自由及び
人のプライバシーと安全性を含めた人間の尊厳の尊重、人権及び基本的自由、特に思想と
表現の自由の原則を再確認し(reaffirming)、
以下の諸原則を宣言し、この宣言を採択する。
A.一般規程(General Provisions)
第1条:目的と範囲(Aims and scope)
(a)この宣言の目的は:ヒトの遺伝データ、ヒトのタンパク質データそしてこれらが由来す
る生物学的試料、(以下、“生物学的試料”という)の収集、処理(訳注:匿名化など一定
の手順を加えること)、使用、及び保管に際して、平等(equality)、公正(justice)、連帯
(solidarity)を保ちつつ、同時に、研究の自由を含む思想と表現の自由に当然の敬意を払
い、人間の尊厳の尊重を保障し、人権と基本的自由を保護すること;これらの問題におけ
る法律や政策の立案に際して各国への指針となるべき原則を設計すること;そして、関係
する機関や個人を対象とした、この分野における正しい業務遂行 (good practice)のための
ガイドラインの基礎作りをすることである。
(b)ヒトの遺伝データ、ヒトのタンパク質データ及び生物学的試料の収集、処理、使用、及
び保管は如何なるものであっても、国際人権法に矛盾のないものでなければならない。
(c)この宣言の規定は、刑事犯に関する調査、検出及び犯罪訴追手続き並びに、国際人権に
矛盾のない国内法を条件とした親子鑑定を除き、ヒトの遺伝データ、ヒトのタンパク質デ
ータ及び生物学的試料の収集、処理、使用、及び保管に適用される。
第2条:用語の定義(Use of terms)
この宣言において使用される用語の意味は、次のとおりである。
(i) ヒト遺伝データ(human genetic data):核酸の解析又は他の科学的解析により得られ個
人の遺伝的特性に関する情報;
(ii) ヒトプロテオームデータ(human proteomic data):発現、修飾、相互作用を含む個
人のタンパク質に関する情報;
(iii) コンセント(consent):、個人の遺伝データ(genetic data)の収集、処理、使用、保
管に際して、そのことに特定した、情報が与えられた上での(informed)、本人の自由意思
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により明示された、すべての同意;
(iv)
生物学的試料(biological samples):核酸が存在し、個人の特徴的遺伝的構成
(characteristic genetic make-up)を含む生物学的な材料となる試料(例えば血液、皮膚
及び骨細胞や血漿);
(v) 集団遺伝学的研究(population-based genetic study):集団間或いは1グループの個
人間、或いは異なるグループの個人間における遺伝的多様性の性質と広がり(extent)を理
解する目的で行われる研究;
(vi)
行動遺伝学的研究(behavioural genetic study):遺伝的性質と行動との間に起こりう
る関係を確立する目的で行われる研究;
(vii) 侵襲的処置(invasive procedure):注射針や注射器を用いて血液サンプルを得るように、
人体を侵襲する方法を用いる生物学的収集;
(viii) 非侵襲的処置(non-invasive procedure):口の粘膜採取のように、人体を侵襲すること
のない方法による生物学的収集;
(ix)
特定の人に連結したデータ(data linked to an identifiable person):氏名、生年月日
及び住所のように、それによって、誰に由来するデータ(data)であるか、その人を特定
できる情報(information)を含むデータ(data);
(x)
特定の人と連結していないデータ(data unlinked to an identifiable person):その人
に関する全ての特定可能な情報(information)を、コード化して置換したり、分離したり
することによって、特定可能な人と連結していないデータ(data);
(xi)
特定の人に到達できないような連結不可能なデータ(data irretrievably unlinked to
an identifiable person):試料を提供した人について特定可能な全ての情報(information)
との連結を破棄することによって、特定の人に到達できないデータ(data);
(xii) 遺伝学的検査(genetic testing):特定の遺伝子や染色体の存在、欠損、または変化(変
異)を検出する方法で、主として特定の遺伝的変化を明示する遺伝子産物や他の特定の代
謝産物を検出するような直接的でない検査も含む;
(xiii) 遺伝学的スクリーニング(genetic screening):未発症の人々の遺伝的特性を検出する
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目的で、集団または小集団を計画対象にして提供される大規模で制度化された遺伝学的検
査;
(xiv) 遺伝カウンセリング(genetic counselling):遺伝的検査又は遺伝的スクリーニングの
結果、起こり得ることの意味、その利益やリスク、について説明する行為、また必要に応
じて、結果の運用に際して長期にわたり個人を援助する行為。遺伝的検査や遺伝的スクリ
ーニングの前と後に行われる;
(xv) 交差照合 (cross-matching):異なる目的で調整された様々な情報ファイルに含まれる
個人やグループの情報を照合すること。
第3条:人の個性 (Person’s identity)
個人(individual)はそれぞれに、特徴ある遺伝学的構成をもっている。しかしながら、人
の個性(person’s identity)は、遺伝学的特性に限定されるべきではない、なぜならば、それ
は複雑な教育的、環境的そして個人的な要素を含み、さらに他者との感情的な、社会的な、
精神的なそして文化的な結合を含み、そして、自由の広がり(dimension of freedom)を意味
するからである。
第4条:特別な地位(Special status)
(a)
ヒト遺伝データは特別な地位を有する。なぜならば:
(i)
ヒト遺伝データは個人に関する遺伝的素因の予測を可能にし;
(ii)
世代を超え、子孫を含む家族に、そして場合によっては関与する人が属する集団全体
に重要な衝撃を与えるかもしれないし;
iii)
生物学的試料を収集した時点では必ずしも知られていない重要な情報を含むかもしれ
ないし;
(iv)
人や集団にとって、文化的重要性をもつかもしれないからである。
(b)
ヒト遺伝データのもつ鋭敏性(sensitivity)に対し正当な配慮がなされるべきであり、ま
た、これら情報と生物学的試料への適切なレベルでの保護が確立されるべきである。
第5条:目的(Purposes)
ヒト遺伝学的データ及びヒトプロテオームデータは、次に述べる目的のいずれかに一致
した場合のみ、収集、処理、使用、保管することが可能である。
(i)
スクリーニング及び予測的な検査を含む、診断及び健康管理;
(ii)
疫学的研究、特に集団遺伝学的研究、同様に人類学や考古学的研究を含む医学研究及
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び他の科学研究(以下、まとめて“医学及び科学研究”という);
(iii) 第1条(c)の規定を考慮した、法医学及び民事、刑事及びその他の法的手続;
(iv)
その他の目的で、ヒトゲノムと人権に関する世界宣言及び国際人権法に矛盾しない場
合。
第6条:手続き(Procedures)
(a)
ヒトの遺伝データ(genetic data)及びプロテオームデータ(data)は、明白な、また倫理
的に受け入れられる手続きを踏んで、収集、処理、使用、そして保管が行われることが倫
理的に必要不可欠である。国は、ヒト遺伝データやヒトプロテオームデータの収集、処理
使用、保管、及びそれらの運営の評価に関して、特に集団遺伝学的研究の場合には、社会
全体が主要政策の意思決定をする過程に関与するべく努力しなければならない。この意思
決定の過程は、国際的経験から得られたように、様々な視点からの表現の自由を保証する
ものでなければならない。
(b) 「ヒトゲノムと人権に関する世界宣言」の第16条の規定に従い、独立した、学際的で
多元的な倫理委員会が国(national)、地方(regional)、地元(local)又は機関(institutional)レ
ベルで、促進され、設立されるべきである。適切と判断された場合は、国家レベルでの倫
理委員会は、ヒト遺伝データ、ヒトプロテオームデータ及び生物学的試料の収集、処理、
使用及び保管に関する標準、規制そしてガイドラインの構築に関し、助言を求められるべ
きである。その倫理委員会はまた、国内法で規定されていない場合の問題についても、助
言を求められるべきである。機関(institutional)、または地元(local)レベルの倫理委員会は、
特にそのレベルでの研究計画の適用に関し、助言を求められるべきである。
(c) ヒト遺伝データ、ヒトプロテオームデータ及び生物学的試料の収集、処理、使用及び保
管が、2つ以上の国で行われる場合、関係国における倫理委員会は、適切と判断された場
合、助言を求められるべきであり、また、こうした問題についての適切な審議は、この宣
言に規定された原則及び関係国によって受け入れられる倫理的、法的基準に基づいてなさ
れるべきである。
(d)
事前に、情報が与えられた上で(informed)、自由意思により明示された同意を取得
する場合、明確で、偏りのない、充分で、適切な情報を与えることは、倫理的に絶対不可
欠(imperative)である。そのような情報(information)は、他に必要な詳細情報の提供ととも
に、ヒト遺伝データ、ヒトプロテオームデータを生物学的試料から取得する目的、さらに、
それらのデータを使用し、保管する目的を明確に伝えるものでなければならない。必要で
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あれば、この情報に、リスクと推定される成果(consequences)を示すべきである。また、こ
の情報に、同意した人でも、撤回することができること、強制ではないこと、そしてこれ
が、当事者に対して不利益や不利になることもないことも含むべきである。
第 7 条 : 差 別 し な い こ と 、 及 び 烙 印 を 押 さ な い こ と (Non-discrimination and
non-stigmatization)
(a)
ヒト遺伝データ、ヒトプロテオームデータが、個人の人権、基本的自由、人間の尊厳
を侵害する、または侵害しようとする差別目的、或いは、個人、家族、集団または地域に
烙印を押す目的に使われないように、そのことを保証するためのあらゆる努力が採られる
べきである。
(b)
この問題に関連して、集団遺伝学的研究及び行動遺伝学的研究の成果、及びそれらの
解釈に対し、適切な注意が払われるべきである。
B.収集(COLLECTION)
第8条:コンセント(Consent)
(a)
ヒト遺伝データ、ヒトプロテオームデータまたは生物学的試料の収集に際して、それ
が侵襲的になされるか、もしくは非侵襲的になされるかに関係なく、また、次の過程であ
る処理、使用及び保管が、公的機関によりなされるか、民間機関によりなされるかに関係
なく、経済的または他の利益を勧誘に利用することのない状況下で、事前に、情報提供が
なされた上で、自由意思に基づく同意の明示を得なければなければならない。このコンセ
ントの原則における制限は、国際人権法に矛盾することのない国内法に従った、論理的な
理由のある場合のみ無効とされるべきである。
(b)
国内法に従って、人がインフォームド・コンセントを与えることができない場合、国
内法に基づく法定代理人による代諾(authorization)が与えられるべきである。法定代理人は、
当事者の最善の利益を考慮すべきである。
(c)
コンセントを与えることのできない成人においては、できる限り代諾手続きをとるべ
きである。未成年者の意見は、年齢と成熟度に応じて、決定要因として考慮されるべきで
ある。
(d)未成年者及びコンセントを与えることのできない成人を対象とした、診断と健康管理に
関する遺伝学的スクリーニング及び遺伝学的検査は、それが本人(the person)の健康に関す
る重要な問題及び当事者の最大の利益に関する場合にのみ、通常、倫理的に受け入れ可能
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である。
第9条:コンセントの撤回(Withdrawal of consent)
(a)
ヒト遺伝データ、ヒトプロテオームデータまたは生物学的試料が医学及び科学的研究
を目的として収集される場合、コンセントは、そのようなデータが特定の人に到達できな
いような連結不可能でない限り、当事者によって撤回することができる。第6条(d)の規定
に従って、コンセントの撤回は、当事者に対して不利益やペナルティーをもたらすもので
あってはならない。
(b)
人がコンセントを撤回した場合、その人の遺伝データ、プロテオームデータ及び生物
学的試料は、それらが特定の人に到達できないような連結不可能でない限り、もはや使用
されるべきではない。
(c)
もし連結不可能でないならば、情報及び生物学的試料は、その人の希望に沿って扱わ
れるべきである。もしその人の希望が決定性、実現性、または、信頼性に欠ける場合には、
情報及び生物学的試料は、特定の人に到達できないよう連結不可能にするかまたは破壊す
るべきである。
第10条:研究結果について、情報提供を受けるか否かを決定する権利(The right to decide
whether or not to be informed about research results)
ヒト遺伝データ、ヒトプロテオームデータまたは生物学的試料が医学及び科学的研究目
的に従って収集される場合、コンセントの時点で提供される情報(information)には、研
究結果を知らされるか否かを決定する権利がその当事者にあることを示すべきである。こ
れは特定の人に完全に連結不可能な状況にあるデータに関する研究、もしくは研究に参加
した人、個々人の結果に到達することが不可能なデータには適用されない。必要に応じて、
知らされない権利(right not to be informed)は、その結果により影響を受けるかもしれない
身元を判明できる親族(identified relatives)にも広げるべきである。
第11条:遺伝カウンセリング(Genetic counselling)
その人の健康に重要な意味をもつ可能性のある遺伝学的検査が考慮されるときには、遺
伝カウンセリングが適切な方法で利用できるよう設定されていなければならない、このこ
とは倫理的に必要不可欠である。遺伝カウンセリングは、非指示的で、その国の文化に適
応し、当事者の最善の利益に即していなければならない。
第12条:法医学または民事、刑事及び他の法的手続きのための生物学的試料の収集
(Collection of biological samples for forensic medicine or in civil, criminal and other
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legal proceedings)
ヒト遺伝データ、ヒトプロテオームデータまたは生物学的試料が、親子鑑定を含む法医
学または民事、刑事及び他の法的手続きを目的として収集される場合、生体または死体か
らの生物学的試料の収集は、国際人権法に矛盾のない国内法に沿ってのみ行われるべきで
ある。
C.処理(PROCESSING)
第13条:アクセス、利用の権利(Access)
識別可能な情報源(source)として、そのデータ(data)が特定の人に連結することが完全に
不可能な状況に置かれていない限り、または国内法上、公衆衛生、公的要求(public order)
または国家機密保持のために利用(access)することが制限されていない限り、何人も自身の
遺伝データまたはプロテオームデータへのアクセス(利用の権利、access)を拒まれるべき
ではない。
第14条:プライバシーと秘密情報(Privacy and Confidentiality)
(a)
国は、国際人権法に矛盾のない国内法に従って、個人のプライバシー及び特定の人、
家族、また場合によっては、集団と連結するヒト遺伝情報の秘密性(confidentiality)を保護
する努力をするべきである。
(b)
特定の人に連結可能なヒト遺伝データ、ヒトプロテオームデータまたは生物学的試料
は、国際人権法に矛盾のない国内法によって重要な公共の利益に寄与する理由で限定的に
提供された場合、または事前の、自由意思による、情報提供を得た上での同意の明示が、
国内法および国際人権法に沿って提供されている場合を除き、開示されるべきではない、
またそうした情報に第三者、特に雇用主、保険会社、教育機関および家族がアクセス可能
であるべきではない。ヒト遺伝データ、ヒトプロテオームデータまたは生物学的試料を用
いた研究に参加した個人のプライバシーは保護され、さらにそのデータ(data)は、秘密情報
(confidential)として取り扱われるべきである。
(c) 科学研究目的に収集されるヒト遺伝データ、ヒトプロテオームデータまたは生物学的試
料は、通常、人が特定できるように連結されているべきではない。そのような情報や生物
学的試料は、人が特定されないように連結不可能な状態にしてあっても、情報や生物学的
試料の安全性を保障するための必要な予防措置が採られるべきである。
(d)
医学研究及び科学研究目的で収集されるヒト遺伝データ、ヒトプロテオームデータま
たは生物学的試料は、必要性があって、個人のプライバシー及びその人のデータや生物学
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的試料の秘密性が国内法に沿って保護される場合にのみ、その人を特定できるよう連結さ
せた状態に置くことができる。
(e) 収集されるヒト遺伝データ、ヒトプロテオームデータは、収集された目的またはその後
の過程を達成する目的で、必要以上に、その情報を特定できる状態に止めおくべきではな
い。
第15条:正確性、確実性、品質及び安全性(Accuracy, reliability, quality and security)
ヒト遺伝データ、ヒトプロテオームデータまたは生物学的試料の処理に責任を負う人及
び独立集団(entities)は、これらの情報や生物学的試料の処理の正確性、確実性、品質及
び安全性を保証するため必要な対応をとるべきである。彼らは、ヒト遺伝データ、ヒトプ
ロテオームデータまたは生物学的試料の処理及び説明を、倫理的、法的そして社会的問題
の観点から、厳しく、慎重に、誠実にそして正直に行うべきである。
D.使用(USE)
第16条 目的の変更(Change of purpose)
(a) 第5条で述べた中のいずれの目的ために収集されたヒト遺伝データ、ヒトプロテオーム
データまたは生物学的試料の収集であっても、当事者が事前に、自由意思による、情報提
供を得た上での同意の明示を第8条(a)の規定に沿って与えていない限り、または国内法
により決定された提示目的が重要な公的に有益な理由(important public interest reason)
に合致し、さらに国際人権法に矛盾していない限り、本来のコンセントと矛盾する他の目
的に使用されるべきではない。ただし、当事者が第8条(b)及び(c)に規定するような
コンセント能力に欠けている場合には、必要な変更を加えて適用すべきである。
(b) 事前の、自由意思による、情報提供を得た上での同意の明示を得ることができない場合、
または、そのデータ(data)が特定の人と連結不可能な場合、ヒト遺伝データは、国内法
あるいは、第6条(b)で述べた委員会手続きに従って使用することができる。
第17条 生物学的試料の保管(Stored biological samples)
(a)
第5条で述べた目的以外の目的で収集され保管された生物学的試料は、当事者の事前
の、自由意思による、情報提供を得た上での同意の明示を得て、ヒト遺伝データまたはヒ
トプロテオームデータを取り出すために使用することが可能である。しかしながら、国内
法は、そのようなデータ(data)が医学、科学的研究目的(例えば、疫学研究、公衆衛生
目的など)にとって重要性があるならば、第6条(b)の委員会手続きに従って、そのよう
な目的に使用できるように規定することが可能である。
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(b)
保管されている生物学的試料を、法医学利用を目的としたヒト遺伝データ(data)の取得
のために使用する場合は、第12条の規定は必要な変更を加えて(mutatis mutandis)適用す
べきである。
第18条 流通及び国際協力(Circulation and international cooperation)
(a)
国は、国際的な医学及び科学的協力を促進するため、及びこのデータ(data)の公正
な利用(fair access)を保障するために、国内法及び国際協定に従って、ヒト遺伝データ、
ヒトプロテオームデータまたは生物学的試料の国際間の流通(cross-border flow)を調整す
べきである。このようなシステムは、それらを受けとる側が、この宣言で述べている原則
に沿って、適切な保護体制を整備するように努めるべきである。
(b)
国は、ヒト遺伝データ及びヒトプロテオームデータに関する科学的知識の国際的な普
及を促進し続けるために、そして、特に産業国と発展途上国との間の科学的協力、文化的
協力を促進するために、この宣言で述べている原則への正当で適切な考慮を払い、あらゆ
る努力を惜しんではならない。
(c)
研究者は、科学的及び倫理的事柄に関する相互の尊敬に基づき協力的な関係を築くた
めの努力をすべきである。また、研究者は第14条の規定に沿って、関係する集団はこの
宣言で述べている原則を遵守するという条件の下、科学的知識の共有を促進するために、
ヒト遺伝データ及びヒトプロテオームデータの自由な流通を促すべきである。このために
も、研究者は、所定に従って、研究の結果を公表する努力をすべきである。
第19条 利益の共有(Sharing of benefits)
(a)国内法あるいは政策、および国際的協定に従って、医学及び科学的研究のために収集さ
れたヒト遺伝データ、ヒトプロテオームデータ及び生物学的試料の使用によって得られた
利益は、社会全体及び国際的集団において共有されるべきである。この原則への影響要因
として、その有効性を高めるために以下のようなさまざまな手法が考えられる。
(i) 研究に参加した人や集団への特別の援助;
(ii) 医学的ケアの利用;
(iii
)新しい診断の供給、新しい治療のための施設または、研究に基づく薬;
(iv) 健康サービスの援助;
(v) 研究目的のための収容能力をもった施設;
(vi)
発展途上国に特別な問題への配慮を含んだ、ヒト遺伝データの収集及び処理に関す
る発展途上国における許容量の進展と強化;
(vii) この宣言において述べている原則に矛盾しない、他のすべての様式。
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(b)これらの事項に関する限界は、国内法及び国際的協定により規定することが可能である。
E.保管(STORAGE)
第20条 監視と運用体制(Monitoring and management framework)
国は、この宣言で述べられる原則に加えて、独立性、学際性、多元主義、そして透明性
に基づき、ヒト遺伝データ、ヒトプロテオームデータまたは生物学的試料の監視と運用の
ための体制を築くことを考慮することが可能である。この体制はまた、これらのデータ
(data)の保管の目的やあり方(nature)を扱うことが可能である。
第21条 破棄(Destruction)
(a)第9条の規定は、保管されているヒト遺伝データ、ヒトプロテオームデータまたは生物
学的試料の場合にも準用して適用する。
(b) 犯罪捜査の過程で容疑者から収集されたヒト遺伝データ、ヒトプロテオームデータまた
は生物学的試料は、国際人権法に矛盾のない国内法により規定されない限り、もはや必要
がなくなった時点で破棄されるべきである。
(c) ヒト遺伝データ、ヒトプロテオームデータまたは生物学的試料は、国際人権法に矛盾の
ない国内法により規定されない限り、法医学の目的、および民事手続きにおいてこれらの
法的手続きに必要である限り、利用可能であるべきである。
第22条 交差照合(Cross-matching)
国際人権法上矛盾なく、また特定の理由があって国内法により規定されていない限り、
診断と健康管理、さらに医学と他の科学研究を目的として保管されているヒト遺伝データ、
ヒトプロテオームデータ、または生物学的試料を交差照合する際には、コンセントは不可
欠である。
F.推進と実行(PROMORION AND IMPLEMENTATION)
第23条 実行(Implementation)
(a)国は、国際人権法に沿って、この宣言に規定される原則を実施するために、立法上、行
政上、その他必要性のある適切な措置を講ずるべきである。そのような措置は、教育、研
修そして公的情報(public information)などでの活動を通じて支援されるべきである。
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(b) 国は、国際協力体制の枠内で、発展途上国がヒト遺伝データやそれに関連したノウハウ
を自らのものとし、他国と共有することに参加できる能力を築き上げるために、二極間の
また多極間の協定を結べるように努力するべきである。
第24条 倫理教育、研修および情報(Ethics education, training and information)
この宣言に規定される原則を促進するため、国は、ヒト遺伝データに関する情報や知識
の普及計画の促進に加えて、倫理教育や倫理研修をあらゆる場を通じて育成するために、
その努力をあらゆるレベルで推進するべきである。これらの施策は、特に研究者、倫理委
員会の委員といった特定の対象、または社会全般を対象に的を絞ってなされるべきである。
これに関して、国は、国際機関や地域の政府相互機関(regional inter-governmental
organization )、さらには国際的、地域的そして国内の非政府組織の参与を促進するべきで
ある。
第 2 5 条 国 際 生 命 倫 理 委 員 会 お よ び 政 府 間 生 命 倫 理 委 員 会 の 役 割 ( Roles of the
International
Bioethics
Committee(IBC)
and
the
Intergovernmental
Bioethics
Committee(IGBC))
国際生命倫理委員会(IBC)および政府間生命倫理委員会(IGBC)は、この宣言の実現
および、この中に規定されている原則の普及に寄与しなければならない(shall)。協力の基準
に沿って、ふたつの委員会は、とりわけ国から提出される報告に基づいた、その監視およ
びその実現の評価について責任を負うべきである。ふたつの委員会は、この宣言の効果を
より促進するような意見または計画については、いかなるものであっても、その実現に向
けて特に責任を負はなければならない。ふたつの委員会は、ユネスコの法定手続きに沿っ
て、総会(General Conference)に向けて、提案を作成するべきである。
第26条 ユネスコによる追跡行動(Follow-up action by UNESCO)
ユネスコは、人間の尊厳(human dignity)の尊重、人権および基本的自由の遵守と行使に
基づき、技術を通してライフサイエンスの進歩および適用の育成のために、適切な行動を
とらなければならない。
第27条
人権、基本的自由および人間の尊厳に反する行為の否認(Denial of acts
contrary to human rights, Fundamental freedoms and human dignity)
この宣言において、特にこの宣言で規定されている原則に含まれる人権、基本的自由お
よび人間の尊厳に反する行為は何であれ、それに関与または遂行できるという主張が(訳
注:この宣言文に)暗示されていると解釈することは、如何なる国、団体、個人であって
も許されない行為である。
松田一郎、鈴木美香
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仮訳
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