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波方国家石油ガス備蓄基地建設工事
大成建設技術センター報 第 46 号(2013) 波方国家石油ガス備蓄基地建設工事 組織横断的技術の活用による諸課題の克服 下茂 道人*1・臼井 達哉*2・坂本 淳*2・新藤 竹文*1・藤原 靖*1・ 川又 睦*3・谷 卓也*4・大黒 雅之*5 Keywords : underground LPG storage, groundwater management, plug concrete, water supply, AE measurement, CFD LPG 地下貯槽,地下水管理,プラグコンクリート,水封水供給,AE 測定,気流解析 Table 1 表-1 波方 LPG 地下備蓄基地の概要 Outline of Namikata Underground LPG Storage Project 波方国家石油ガス備蓄基地(以下,波方基地)は, 発注者 (独)石油天然ガス・金属鉱物資源機構 (JOGMEC) 地下の岩盤内に空洞を設け,石化石油ガス(以下 LP 場 所 愛媛県今治市波方町 ガス)を貯蔵する国家備蓄基地である 1)。国家備蓄目 貯蔵方式 水封式地下備蓄方式 標 150 万 t のうち,波方基地では 45 万 t の LP ガスを 貯蔵容量 プロパン 30 万t,ブタン/プロパン 15 万 t 1. はじめに 貯蔵する。我が国の LP ガス地下備蓄では,コンクリ ートやスチールなどのライニングを用いず,地下水の プロパン貯槽 幅 26m×高 30m×延長 485m×2 条 プロパン/ブタン兼用 幅 26m×高 30m×延長 485m×1 条 貯槽諸元 流れにより岩盤空洞内に高圧の LP ガスを閉じ込める 作業トンネル 水封方式が採用されており,プロジェクトの成功のた 配管立坑 めには,社内の技術力を結集して対応することが求め られた。本報では,主として技術センターが中心とな 波方 2. 波方国家LPGプロジェクトについて 2.1 波方基地の概要 水封トンネル 水封ボーリング って対応した技術課題と成果を紹介する。 485m 波方基地の概要と空洞配置を表-1 および図-1 に示す。 ブタン/プロパン貯槽 No.2 プロパン貯槽 波方基地は,地上の波方ターミナルに隣接して立地さ れている。貯槽は,海面下 150~180mの新鮮な花崗岩 Fig.1 No.1 プロパン貯槽 図-1 波方 LPG 地下備蓄基地の空洞配置 Cavern layout of Namikata Underground LPG Storage Site 中に位置する。当社 JV が施工したプロパン貯槽は,卵 地下水圧 PW > 貯槽内圧 PG 水封トンネル 型断面をした延長 485mの大空洞 2 条で,貯槽周囲を 水封式地下貯槽の特徴である多数の注水ボーリング 地下水流れ (水封カーテン)が取り囲んでいる。 水封式備蓄方式の原理 水封式 LPG 地下備蓄方式とは,図-2 の概念図に示す ように,常温高圧で液化(プロパン 20℃,0.8MPa)し た LP ガスを,貯槽に向かう地下水の流れにより貯蔵 *1 *2 *3 *4 *5 技術センター 技術センター 技術センター 技術センター 技術センター 土木技術研究所 土木技術研究所 土木技術研究所 土木技術研究所 建築技術研究所 土木構工法研究室 水域・環境研究室 地盤・岩盤研究室 環境研究室 縦水封ボーリング孔 2.2 地下水圧 PW PG LPG (液) PG:貯槽内圧(ベーパー圧) Fig.2 09-1 図-2 水封式地下備蓄方式の原理 Conceptual image of hydraulic sealing system 大成建設技術センター報 第 46 号(2013) する方式である。貯槽周辺の地下水圧を常に貯蔵圧力 以上に保持するため人工的な注水設備(水封カーテン) 表-2 水封式 LPG 貯槽施工時の主な技術課題 Table 2 Technical issues for construction of water sealing underground LPG storage cavern を設けるとともに,貯槽周辺の高透水箇所は,止水グ 技術課題 ラウトにより改良する。水封式地下備蓄は,欧米で多 内 容 くの実績があり,石油備蓄(常温常圧)では,我が国 水封機能評価・管理 地下水挙動予測,水封機能確認試験 に 3 基地(串木野,菊間,久慈)が建設され 20 年以上 グラウチング プレグラウト,ポストグラウトの計画 にわたる操業実績を有する。 空洞安定 モニタリング,荷重評価,支保設計 プラグコンクリート 充填性能,マスコン打設時の温度管理 貯槽の施工は,まず,地上坑口から EL-125m まで斜 計測・モニタリング 機器選定,精度確認,データベース 坑(作業トンネル)で下り,水封トンネルおよび水封 水封水供給システム 目詰まり対策,水封水質,配管材料 ボーリングを掘削した。仮設配管により水封水の供給 貯槽気密試験 気流温度解析,温度計配置,昇圧計画 2.3 貯槽の施工手順 を開始した後,作業トンネルを EL-180m まで延ばすと ともに,頂設,アーチ,ベンチ(4 段階)の順番で発 破工法により貯槽を掘削した。貯槽完成後,プラグコ ンクリートを施工し,水封ボーリングを恒久配管に切 り替えた後,水封トンネルおよび作業トンネルを水没 計測・試験 ・湧水量・排水量 ・地下水位・間隙水圧 ・水押し試験 ・水封機能効果確認試験 した。その後,貯槽気密試験を実施し,水封式 LPG 貯 槽としての気密性能の確認を行った。 2.4 対 策 予測解析 ・追加水封ボーリング ・グラウチング LPG 貯槽の施工における技術課題 水封機能評価 ・水収支 ・水封カーテンの形成 ・貯槽周辺岩盤の飽和 ・許容排水量 ・水理地質モデルの見直し ・掘削進行を考慮した三次 元地下水解析 完成した空洞が高圧の LP ガスを貯蔵する水封式貯 槽としての機能を有するためには,施工中において, 表-2 に示すような,多様な技術課題への対応が求めら 図-3 水封管理のための地下水情報化施工のフロー Fig.3 Obsevational approach for groundwater management れた。以下においては,特に技術センターが中心とな に停止し,隣接孔内の水圧を測定する簡便な方法であ って対応した技術課題と成果について述べる。 る。圧力低下速度(dH/dlog10t)が均質モデルで得られ た基準値より大きい場合は,水封カーテンの形成が不 3. 水封機能評価・管理の課題と対策 十分である可能性があるため,水封ボーリング掘削時 の削孔応答や水押し試験結果等を含め総合的に評価し, 3.1 水封ボーリングの追加を適宜実施した。追加後は,水 水封機能管理のための地下水情報化施工 水封式 LPG 貯槽の工事においては,水封機能確保の 封機能確認試験を再度実施し対策効果を確認した。図- 要件である,①所定の地下水位の維持,②水封カーテ 4 に追加ボーリング実施前後に実施した試験結果の例 ンの形成,③貯槽周辺に不飽和部を残さない,を満た を示す。水封機能確認試験は,アーチ掘削完了後およ すため,施工中においても厳格な地下水管理が求めら び貯槽掘削完了後に実施した。 れる。そのため,図-3 に示すように,調査・計測→評 0 管理のための情報化施工2),3)」を実施した。施工中の -5 地下水挙動を詳細に把握するため,地下水位,貯槽周 辺の間隙水圧,貯槽湧水量,水封水供給量等をリアル タイムで常時監視した。 3.2 水封カーテンの健全性確認技術の開発 水封ボーリング周辺に貯槽とつながる高透水性の割 水頭低下量, dH [m] 水頭低下量,dH[m] 価→予測解析→対策,を繰り返し実施する「地下水位 水封ボーリング追加後 |dH/dlog10t|=6.5 -10 -15 -20 対策実施前 |dH/dlog10t|=21.3 -25 れ目がある場合や透水性が非常に低い場合にはボーリ ング間の水圧の連続性が損なわれる可能性がある。そ こで,水封ボーリングの水理的な連続性を網羅的に確 認できる「水封機能効果確認試験 4)」を開発した。同 試験は,水封ボーリングからの注水を 1 本づつ一時的 09-2 -30 0.001 0.01 第 2 水封トンネル TD393 鉛直水封ボーリング 基準値|dH/dlog10t|=8 0.1 注水停止からの経過時間 [hours] 1 注水停止からの経過時間[hours] 図-4 水封機能効果確認試験による判定例 Fig.4 An example of water sealing performance test 10 大成建設技術センター報 第 46 号(2013) 3.3 三次元地下水流動シミュレーション技術の活用 貯槽掘削に伴う地下水挙動は,図-5 に示すような三 次元モデル5)による予測解析値と地下水計測データ比 較し管理し,間隙水圧の低下量や湧水量が予測値を上 回る場合には対策工を見直し,ポストグラウトや追加 水封ボーリング孔設置等を適宜実施した。解析に用い H た水理地質構造モデルは,施工中に得られる地質・地 20 下水データをもとに逐次更新し,計測データの再現性 0 -20 を向上させた。図-6 に解析結果の例を示す。当該断面 -40 -60 では,貯槽間において低い間隙水圧が計測された。解 -80 -100 析結果から,貯槽間を横断する粘土割れ目による水封 -120 -140 水の遮断が原因と考えられたため,貯槽間に注水ボー -160 -180 リングを追加したところ,工事期間を通じて水圧を基 -200 図-5 地下水流動シミュレーションに用いた三次元モデル Fig.5 3D model for groundwater simulation H 20 0 -20 -40 -60 -80 -100 -120 -140 -160 -180 -200 準値以上に保持することができた。掘削完了時の湧水 量計測値は,三次元モデルの予測値 719L/min に対し 716L/min であり,設計湧水量 800L/min 以下となった。 グラウチングを実施しなかった場合の湧水量を三次元 モデルで解析的に求めたところ 876L/min となり,止水 対策が適切であったことが確認された。 4. プラグコンクリートの課題と対策 4.1 プラグコンクリートへ求められる性能 図-6 間隙水圧分布の予測解析結果の例 Fig.6 An Example of simulated porepressure profile AA TD55 (STD80) case6461 プラグコンクリートは,LPG 貯槽と作業坑や竪坑と を仕切るための遮蔽壁であり,貯槽の密閉性を確保す る重要な構造物である。プロパン貯槽では,図-7 に示 す 4 基のプラグコンクリートを構築した。プラグコン クリートには,横坑タイプの底設プラグおよび頂設プ ラグと竪坑タイプの配管竪坑プラグおよび換気竪坑プ ラグがある。プラグコンクリートの施工にあたっては, 気密性と水密性を確保するために,コンクリートと岩 盤との界面および配管等の埋設物周辺へ密実に充填す ることに加え,マスコンクリート部材であることから, 図-7 プラグコンクリートの全体図 Fig.7 General view of plug concrete 温度応力を主要因とするひび割れ発生を抑制すること, 具体的には,ひび割れ指数 1.75 以下の連続した領域が 発生しないことが求められた。それぞれの課題につい て対策を検討し,①低発熱・収縮低減型高流動コンク リート,②パイプクーリング工法を採用した。 4.2 4.2.1 要求性能を満足するための対策 低発熱・収縮低減型高流動コンクリートの採用 底設プラグコンクリートにおける打設前のプラグ内 部状況を写真-1 に示す。プラグ内部には配管やマンホ ール等の埋設物が多数配置されており,この周囲やプ ラグ拡幅部などでは締固め作業が困難であること,プ ラグと岩盤との聞にブリーディングや自己・乾燥収縮 09-3 写真-1 Photo.1 打設前の状況 Inside of plug before concrete casting 大成建設技術センター報 第 46 号(2013) 表-2 高流動コンクリートの配合と使用材料 Mix proportions of self- compacting concrete and propaties of materials 20 1 55 材料名 低熱ポルトランドセメント 低添加型膨張材 石灰石微粉末 高性能AE減水剤 86 産地 単位粗骨材 容積(m3/m3) 水 低熱C 低添加型 膨張材 石灰石 微粉末 0.28 175 303 15 282 品質・主成分 材料名 164 密度3.22g/cm3 - 密度3.16g/cm3 高炉スラグ砕砂 砕砂 高知産 密度2.71g/cm3 山砂 ポリカルボン酸 エーテル系化合物 砕石 増粘剤 神戸産 山砂 砕石 187 765 高性能 増粘剤 AE減水剤 5.7 蒲刈産 - 8800 4@950 4@1050 800 ら,確実な充填性が期待できる自己充填性ランク l 相 B 品質・主成分 表乾密度2.71g/cm3,吸水率2.25%,粗粒率2.57 表乾密度2.74g/cm3,吸水率0.49%,粗粒率6.68 多糖類ポリマー系 16100 2200 2000 1145 800 1695 2730 1375 800 1465 1890 A 2750 当の併用系の高流動コンクリー卜を採用し,収縮補償 6300 13600 に必要な膨張量(150~250×10-6)が得られるように,膨 張材を添加した配合6)とした。選定されたコンクリー 2750 2800 ト配合を表-2 に示す。セメントは,マスコンクリート として温度応力に起因した貫通ひび割れを抑止するた めに,低熱ポルトランドセメン卜を使用することとし, ランク 1 相当の自己充填性を得るために不足する粉体 A B 量は,石灰石微粉末により補った。 (A-A 縦断図) パイプクーリング工法の適用 (B-B 横断図) (単位:mm) 図-8 パイプクーリングの配置図 Layout of the concrete cooling pipes プラグコンクリート打設時には,パイプクーリング Fig.8 工法による温度制御対策7)を実施した。頂設プラグコ 50 実測値 解析値 クーリング停止管理値 リバウンド管理値 最高温度上限値 下限温度 45 ン ク リ ー ト の 配 管 レ イ ア ウ ト を 図 -8 に 示 す 。 内 径 40 温度 (℃) 25.4mm の鋼管を使用し,配管間隔を 0.95~1.05 m とし, 1 系統当たりの配管延長が 100m 程度になるように,プ ラグの上下に 4 系統ずつ計 8 系統に分けて渦巻状に配 35 30 25 20 置した。パイプクーリング実施方法 (冷却水温度,通 15 10 水量,通水期間)検討のため,上記の配管系統を考慮 0 15 30 45 した三次元温度応力解析を実施した。解析結果をもと に,ひび割れ指数 1.75 以下となる連続した領域が発生 4 しないように,打設エリア毎に打設温度の上限を設け 3 応力 (N/mm ) 2 停止時期, 2 次クーリング開始時期等の温度管理基準 を設けた。打設中の温度管理は,プラグ内部に設置し た熱電対,ひずみ計により行った。打設温度を制御す 2 1 0 -1 るため,冷水の使用,骨材の温度管理等のプレクーリ -2 ングを適宜実施した。頂設プラグコンクリートにおけ 0 る温度管理曲線と温度計測結果の一例を図-9 に示す。 15 30 45 60 75 90 105 120 135 150 1次クーリングの停止 同図に示すように,解析値と計測値はほぼ一致し,ク 経過日数(日) 60日 2次クーリング(22℃) ーリング停止管理やリバウンド管理値も満足しており, 80日 2次クーリング(20℃) 93日 2次クーリング(19℃) パイプクーリングにより躯体内部の温度履歴を制御で 128日 2次クーリング停止 きていることがわかる。躯体内部の発生応力も予測値 と同等以下であり,ひび割れ指数 1.75 相当の応力を下 図-9 Fig.9 09-4 60 75 90 105 120 135 150 経過日数 (日) ひび割れ指数1.75相当の応力 ひび割れ指数 1.75 相当の応力 た他,パイプクーリングの最高温度,1 次クーリング 回っていることを確認した。 0.3 北九州産 表乾密度2.63g/cm3,吸水率0.77%,粗粒率2.53 今治産 表乾密度2.58g/cm3,吸水率1.40%,粗粒率2.21 等による隙間を極力生じさせない必要があったことか 4.2.2 435 産地 - - 単位量(kg/m3) 高炉スラグ 砕砂 砕砂 800 Gmax 自己充てん性 自己充填性 水結合材比 水粉体容積比 (mm) ランク (%) (%) ランク 450 5@950 600 7@950 360 13600 Table 2 コンクリート温度と応力の経時変化 Time dependent change of concrete temperature and stress 大成建設技術センター報 第 46 号(2013) すべてのプラグコンクリートにおいて,有害なひび 割れは発生せず,低発熱性や膨張性を付与した高流動 コンクリートを採用し,さらにパイプクーリングを用 いた温度制御を実施した結果,高品質なプラグコンク リート構造物を構築することができた。 5. 5.1 水封水の安定供給のための課題と対策 写真-2 黒色沈殿物 Photo 2 Black sediment 水封水としての循環利用における課題 波方基地は高縄半島の先端部に位置し,工事開始当 初は水道が完備していなかったため,海水淡水化プラ ントで生成した淡水を工事用水および水封水として使 用せざるを得ず,良質な水封水の安定供給が重大な課 題であった。そこで,水の有効活用を図る目的で,水 封水の循環利用を検討したが,バクテリアスライムや 無機物により形成されるスケール,さらには水封配管 内の腐食と発生する錆,などによる水封ボーリングの Photo 3 写真-3 黒色沈殿物の電顕写真 (左:×10,000,右:×15,000) Electron microscopic photograph of black sediment 目詰まりの発生が懸念された。 5.2 5.2.1 施工中に観察された水封水に関係する事象 水封トンネル内湧水状況からみた水質 水封ボーリング施工時に,水封水供給量の低下が見 られたため,原因調査を行った。水封トンネル内の湧 水箇所で写真-2 に示すように黒色沈殿物の付着がみら れたため,湧水中の微生物を蛍光顕微鏡により測定し 5 たところ,10 個/mL オーダーの菌数であった。水質は, 写真-4 分岐配管内の錆 Photo 4 Rust in branch piping 写真-5 鉄酸化細菌の一種 Photo 5 A kind of iron oxidizing bacteria pH6.6 前後,電気伝導率 60mS/m 前後であり,地下水や 平均的な河川に比べ高かった。全有機炭素は水道水の よるスケール形成の要因の一つとして写真-5 に示すよ 基準値(5ppm 以下)以下であったが鉄イオン濃度は沈 うな鉄酸化細菌が関与していることが示唆された。 殿物の見られた試料において非常に高かった。黒色沈 一方,鉄錆発生の主原因は分岐配管のバルブ周辺お 殿物の走査型電子顕微鏡画像は写真-3 に示したように よびネジ部に異種金属のものを使用したため,電気腐 自生の結晶鉱物が観察され,観察視野のエネルギー分 食を生じたものと推定された。 散型 X 線分析では,鉄化合物と推定された。蛍光 X 線 5.2.3 分析では,Fe, Si,Al,K が主要成分であり,粉末 X 湧水再利用に関する水質管理の必要性 貯槽アーチ掘削時に,水封水の有効活用の観点から, 線回折では,花崗岩の造岩鉱物である白雲母,鱗鉄鉱, 水封トンネル内に堰で仕切ったプールに水封ボーリン 磁鉄鉱が確認された。以上のように電気伝導率,菌数, グからのリターン水を貯留し,水封水として再利用を 沈殿物の産状からみて,湧水の水質は鉱物生成などに 試みたところ,通水開始間もなく流量に低下傾向が見 よる目詰まりを生じる可能性が示唆された。 られたため,原因について調査を行った。 5.2.2 プール内に貯留された水は岩石細粒懸濁物質が多く, 水封水仮設配管内発錆状況からみた水質 水封水の分岐配管内には写真-4 に示すように鉄錆が 吹付けコンクリートの影響でカルシウムイオン濃度が 見られた。鉄錆が岩盤内に注入されると目詰まりが生 高く,かつ海水混入がみられたため,ろ過処理や電気 じる可能性がある。そこで,水封トンネル内の壁面付 伝導率などの水質管理が必要なことが明らかとなった。 着物を採取し,試料中の全菌数を計測したところ,菌 5.3 水封水に求められる水質と供給方法 数は 10 ~10 個/ mL オーダーであった。顕微鏡観察や 湧水および水封水の水質に関する以上の知見から, 遺伝子解析により,特徴的な形態を持つ Gallionella 属 水封仮設配管やバルブの材質は異種金属による電気腐 や Leptothrix 属等の鉄酸化細菌が確認された。鉄錆に 食を防止するため,全品防錆仕様への変更を提案した。 4 6 09-5 大成建設技術センター報 第 46 号(2013) 水封水を循環水として用いる場合には,岩石細粒分を が急増し,周波数と m 値はそれ以前から低下傾向を示 フィルターにより除去するとともに,カルシウムによ すことが分かった。この傾向は,異なる岩種で行われ るスケールの発生抑制条件として,pH7,電気伝導率 た既往の研究の結果と概ね整合している。したがって, 250mS/m 未満(海水の混合率 3%以下に相当),カルシ 波方花崗岩についても,破壊の前兆を AE 計測で捉え ウムイオン濃度 150mg/L を管理基準として適用した。 られる可能性が示された。 5.4 水質からみた適切な操業時水封水供給方式 6.2 光式 AE センサを用いた計測システムの概要 当初設計では,操業時は仮設配管を撤去した後水封 可燃性の液体を貯蔵する LPG 貯槽においては,長期 トンネルを水没する坑道給水方式が計画されていた。 信頼性,防爆性,長距離伝送性を備えたセンサが要求 しかし,施工中の経験から坑道給水方式では,懸濁物 されるため,従来の PZT 型センサは適用が困難であっ 質や溶出したカルシウム分,海水混入による微生物増 た。そこで,レーザドップラ変調を利用して振動を測 殖などにより,水封ボーリングに目詰まりが発生し長 定する新しい原理の FOD (Fiber Optical Doppler)センサ 期的な水封機能の維持が困難と想定された。そこで水 封供給を坑道方式から恒久配管方式に変更する提案を 行い採用された。 6. AE 計測を用いた岩盤健全性評価対策 大規模岩盤地下空洞の施工時における岩盤の健全性 の 監 視 手 法 と し て , 岩 石 の 微 小 破 壊 音 で あ る AE (Acoustic Emission)計測が有効であることが,地下発 電所施工の実績などから知られている。岩盤の損傷 (破壊)の程度や形態は,岩盤や岩盤を構成する岩石 の力学的な性質によって異なるため, AE 計測データ から岩盤状態を評価する際には,施工地点の岩盤の AE Fig.10 図-10 波方花崗岩の AE 特性 Acoustic emission characteristics of Namikata granite 特性を事前に把握しておく必要がある。また,LPG 貯 槽においては,操業時に継続的に使用するために,長 Table 3 表-3 AE 計測システムの仕様 Specification of AE measuring system 期的な安定性と防爆性を兼ね備えた AE センサが必要 とされた。そこで,室内試験により波方花崗岩の AE 型式 光式 AE センサ 周波数帯域 特性を調べるとともに,光式 AE センサを採用したモ 10~200 kHz サンプリングレート 1 MHz ニタリングシステムをプラグ周辺岩盤内に設置し,空 1波形の記録時間 2 msec 洞施工中および気密試験時の岩盤の健全性モニタリン 最小感度 100 mV 測定最大範囲 5000 mV グに適用した。 6.1 波方花崗岩の AE 特性把握 8) [ 岩 級 ] Hv,H級 M級 波方プロパン貯槽サイトで採取した岩石試料を,φ 1.0 AE センサは,圧電素子型セラミック振動子(PZT 型セ 2.3 50mm,高さ 100mm の円柱形に成形して試験に供した。 PCAE1 ンサ)で,破壊に至る岩石破壊音の周波数変化を確実に 把握できるよう,広帯域(100kHz~1MHz)の周波数 特性を有するものを用いた。試験には,容量 2,000kN の高剛性圧縮試験機および油圧セルを用いた。載荷は 速度を 0.05%/min としたひずみ制御で行い,原位置で に試験中の応力とひずみの関係,AE 発生数,AE 周 m 波数,m 値(NA =一定,N:AE 発生数,A:振幅) を示す。試験結果より,供試体が破壊に至る直前に AE 09-6 PCAE2 1.0 の初期地圧測定の結果から側圧は 5MPa とした。図-10 図-11 AE センサの配置(頂設プラグ周辺) Fig.11 Location of AE sensors around topheading drift plug 大成建設技術センター報 第 46 号(2013) で用いた AE 計測システム仕様の一覧を示す。 AE 計測による岩盤健全性モニタリング結果9) 光式の AE センサは,頂設プラグ(図-11)および底 設プラグ周辺の岩盤に設置した。プラグに対して最も 荷重条件が厳しくなる作業トンネル充水時における頂 設プラグ周辺の計器(PCAE1)の計測結果を図-12 に示 す。AE 発生数のピークが,水位上昇速度が最大となっ た 7/30~8/1 頃に表れており,AE 発生数と荷重載荷速 度との相関性が示唆される。しかしながら,AE 発生数 は時間あたり 100 個を下回っており,周波数の連続的 PCAE1 6.3 1.2 作業トンネル水位 水位上昇速度 0 0.9 -50 0.6 -100 0.3 -150 0.0 頂設プラグ位置 -200 7/12 -0.3 7/17 7/22 7/27 8/1 8/6 8/11 8/16 8/21 8/26 水位上昇速度(m/h) 作業トンネル水位(EL.m) 防爆性を備え長期的な安定性も高い。表-3 に当サイト 最大振幅 重心周波数 AE発生数 (kHz) (mV) (個/時間) れている。また,信号に光を用い電気を通さないため, 50 8/31 100 75 50 25 0 150 100 50 0 1500 1000 500 0 7/12 7/17 7/22 7/27 8/1 8/6 8/11 8/16 8/21 8/26 8/31 100 80 60 40 20 0 150 100 50 0 1500 1000 500 0 7/12 7/15 7/18 7/21 7/24 7/27 7/30 8/2 8/5 8/8 8/11 8/14 8/17 8/20 8/23 8/26 8/29 9/1 最大振幅 重心周波 AE発生数 (mV) 数 (個/時間) (kHz) 英ガラスで構成されているため,耐久性や耐食性に優 作業トンネル水位 を採用した。FOD センサの材料である光ファイバは石 Fig.12 図-12 作業トンネル充水時の AE 発生状況 AE observations during waterfilling of access tunnel な低下傾向および振幅の増加傾向が見られなかったこ とから,プラグ周辺岩盤の健全性およびプラグの耐圧 送風位置 性が保持されていることを確認できた。 7. 気密試験計画における気流解析の活用 7.1 はじめに (貯槽底部中央) 気密試験は,完成した貯槽が設計圧力に対して十分 図-13 貯槽解析モデル Fig.13 3D mesh of Namikata propane tank な気密性を有することを確認するために実施するもの である。気密試験では,圧縮空気を用いて貯槽を設計 圧力(0.97MPa)まで昇圧したのち送気を停止し,一定 No.2 貯槽 期間貯槽圧力の低下がないことを確認する。貯槽圧力 の変動量(ΔP)の評価には,貯槽内の平均温度変化 を補正する必要があるため,温度計測位置が重要とな る。そこで,熱流体解析技術(以下,貯槽内気流解析) により,気密試験時における貯槽内部の温度分布とそ No.1 貯槽 の変化予測を行った。 7.2 解析方法 図-14 貯槽内温度分布解析結果 Fig.14 3D contour of tank temperature 貯槽気流解析には,圧縮性を考慮した非等温・非定 常 Navier-Stokes 方程式に基づく解析手法を用いた。ま た,貯槽の曲面形状を再現するため,非構造格子によ る形状のモデル化を行った。乱流モデルには工業分野 で実績の多い標準k-ε乱流モデルを用い,解析コー 20.00 19.75 19.50 19.25 19.00 TD 250m 断面 20.00 19.75 19.50 19.25 19.00 単位:℃ ドとして STAR-CD(株式会社シーディー・アダプコ・ 20.00 19.75 19.50 19.25 19.00 19.63 19.58 19.53 19.48 19.43 20.00 19.75 19.50 19.25 19.00 ュ)を図-13 に示す。貯槽周辺の間隙水圧計に付属した 19.63 19.58 19.53 19.48 19.43 ジャパン)を採用した。解析に用いたモデル(メッシ 温度計データから求めた岩盤温度分布を境界条件(温 度固定)とし,貯槽内圧縮空気の温度分布を算定した。 7.3 No.1 プロパン貯槽 解析結果 貯槽壁面付近における貯槽内温度分布を図-14 に示す。 周辺岩盤温度分布の影響を受け,No.2 貯槽側の温度が 09-7 貯槽内温度分布 貯槽壁面温度分布 水床温度分布 No.2 プロパン貯槽 図-15 貯槽壁面およびセンター位置における温度分布 Fig.15 Temperature profile along surface and center of tank 大成建設技術センター報 第 46 号(2013) No.1 貯槽と比較して高くなっている。貯槽内の温度分 布は,19.47~19.62℃であり約 0.15℃の幅となった。別 途実施した岩盤温度を一定とした解析結果との比較か ら,貯槽内変動要因に与える影響は,岩盤温度(62%), 水床温度(23%),貯槽構造(15%)の順に大きいことが分 かった。 7.4 図-16 気流解析結果に基づいた温度計配置(横断) Fig.16 Temperature sensor arrangement based on CFD reslts 貯槽気流解析結果の気密試験への反映 貯槽気流解析結果をもとに,貯槽内の平均温度が得 られるように温度計の配置(計測断面,個数)を計画 した(図-16,17)10)。紙面の都合で割愛した非定常気 流解析の結果から,気密試験時には,加圧速度を可能 な範囲で遅くすること,段階的に昇圧することなどが, 温度上昇量の抑制や温度安定期間の短縮に効果が高い ことが示された。貯槽気流解析で得られたこれらの知 見は,実際の貯槽気密試験の計画に反映した。 8. 図-17 気流解析結果に基づいた温度測定断面(縦断) Fig.17 Temperature measurement sections based on CFD reslts 謝辞 おわりに 本報に示した成果は,作業所,支店,本社すべての方々の 波方プロパン貯槽工事は,2002 年に作業トンネルの 掘削を開始ししてから約 11 年の歳月をかけ 2013 年 3 ご努力の上に得られたものです。ここに,波方プロパン貯槽 工事に関わられたすべての方々に謝意を表します。 月末に竣工した。その間,現場,支店,本社各部署が 連携し,技術センターでは,土木・建築の垣根を越え て個々の課題に対応した。 参考文献 1) 加藤元彦, 前島俊雄, 中島秀一:地下 150mに LPG 岩盤貯 槽を建設, Civil Engineering Journal, 2007.3. 2) 加藤元彦, 前島俊雄, 平井秀幸:LPG 岩盤貯槽掘削におけ 培った技術は,発注者とともに作り上げた技術でもあ る情報化施工-波方国家石油ガス備蓄基地-, 基礎工, 2007.9. る。そこで,最後に,発注者である JOGMEC の前島審 3) 下茂道人, 山本 肇, 上村佳司, 梶 修:LPG 貯槽空洞施 議役からお寄せいただいた一文で本報を締めくくりた 工と地下水管理, 大成建設技術研究所報, 第 31 号, 1998. 4) 下茂道人, 真下秀明, 前島俊雄, 山本浩志, 青木謙治: “水 い。 封ボーリングを用いた LPG 貯蔵空洞周辺の水封機能確認 「私は,作業トンネルの掘削がはじまって間もない 方法” ,第 37 回岩盤力学に関する国内シンポジウム, 2003 年 12 月に,LPG 貯槽建設工事の責任者に就任し 2008.1. 5) 下茂道人, 堀田 渉, 下野正人, 前島俊雄, 山本浩志, 青木 ました。これまで多くの地下発電所工事に関わってき 謙治:主要割れ目を反映した 3 次元水理地質構造モデル た経験から,自然の産物である岩盤は非常に不均質で による LPG 貯槽周辺の地下水挙動解析,第 38 回岩盤力 事前の想定と実際に掘った結果との間に大きな差異が 学に関する国内シンポジウム, 2009.1. 6) 臼井達哉ほか:低発熱・膨張型高流動コンクリートを用 ある場合が珍しくないことを認識しており,波方貯槽 いたマスコンクリートへのパイプクーリング工法の適用, 工事では,計測データと予測解析結果との比較に基づ 土木学会第 63 回年次学術講演会,pp.885-886, 2008.9. いて当初の設計を柔軟に見直しながら工事を進める 7) 坂本淳,島屋進,山本浩志,前島俊雄:低発熱・収縮低 減型高流動コンクリートとパイプクーリング工法を適用 「情報化施工」のアプローチを採用しました。工事の した岩盤貯槽プラグの施工‐波方国家石油ガス備蓄基地 全期間を通じて,施工者の皆さんと徹底的なデータ分 ‐,コンクリート工学,Vol.47,No.10,2009.10. 析に基づいたリスク抽出とその回避策の討議に多くの 8) 谷卓也,他:花崗岩供試体三軸圧縮試験時の AE 測定, 土木学会第 62 回年次学術講演会,pp.389-390,2007. 時間を費やした結果,我が国初の水封式 LPG 貯槽工事 9) 岡嶋和義,他:水封式 LPG 岩盤貯槽における AE 計測シ を無事完成させることができました。波方 LPG 貯槽は, ステムを用いた岩盤健全性評価-波方国家石油ガス備蓄 情報化施工の新たな成功例です。すべての関係者のご 基地-,土木学会第 68 回年次学術講演会,VI-192,2013. 10) 前島俊雄,大久保秀一,板垣賢,黒瀬浩公:波方基地プ 努力に改めて謝意を表します。最後に,本工事で培わ ロパン貯槽気密試験結果と圧力変動量への影響因子の分 れた技術や経験が,我が国の土木工学の将来に必ずし 析結果について,第 42 回岩盤力学に関する国内シンポ や貢献することを心から期待します。 」 ジウム, 2014.1(投稿中) 一方,本報の内容も含め,波方プロパン貯槽工事で 09-8