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3)GOG の取り組みと日本の展開

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3)GOG の取り組みと日本の展開
N―366
日産婦誌60巻 9 号
卒後研修プログラム2 婦人科癌の治療標準化を目指して
3)GOG の取り組みと日本の展開
座長:岩手医科大学
杉山
徹
鹿児島市立病院産婦人科
自治医科大学
波多江正紀
鈴木 光明
Gynecologic Oncology Group
(GOG)
は,将来の医療の展望を見越し,基礎および臨
床的研究が必要との認識を共有する gynecologic surgeon が中心となり1970年に発足
した,婦人科癌に特化した研究者指導の臨床研究グループである.65の parent institute
とその関連医療機関200程で構成され,2,400人の医師が関与している.International collaboration として,イギリス,オーストラリア,ニュージーランドが2001年から,日本
は2002年,韓国が2007年から参加するようになった.2008年1月現在,full member 46
施設,provisional member 7施設,probational member 4施設等の構成になっている.
婦人科腫瘍医以外に,放射線治療医,腫瘍医,病理医,免疫専門医,生物統計家,information technologyist,data manager,social scientist,basic scientist,ethicist,nurse,
CRC から構成されている.
現時点で最も確立された世界最大の研究組織である GOG の使命は quality の高い臨床
試験を通じ,より高いエビデンスを導き,臨床へフィードバックすることとしており,こ
れまで300以上の臨床試験を通じ,550以上の論文作成に貢献してきている.子宮頸がん,
卵巣がん,子宮体がんの初論文が,それぞれ1975年,1976年,1981年に発表されてい
る.その世界の先導的研究を実践できてきた要素は,米国の新薬開発の力とスクリーニン
グの早さ,臨床試験の早さそして,精度の高さを担保するシステムであるといえる.これ
等はアメリカの国益と大きく連携していることは当然といえる.
GOG の先導的業績は図1のごとく卵巣がんの治療レジメの変遷そのものと大きく直結
しているが,子宮頸がん,体がんにおいても同様である.
GOG の骨格は管理,財務,統計データセンター部門からなり,それぞれ25人,7人,
53人と圧倒的マンパワーを有している.Protocol の検討,作成には disease committee
と phaseⅠ"
Ⅱ,vaccine 等々の subcommittee に並んで disease committee が構成さ
れており,最終 protocol の決定は膨大な論議の後,protocol committee の合議でなさ
れる.ほとんどの会議は原則公開でなされ,聴衆からも論議を提出することも可能として
Strategy of GOG and Perspective of JGOG
Masayuki HATAE
Department of Obstetrics and Gynecology, Kagoshima City Hospital, Kagoshima
Key words : GOG・JGOG・International group study・Drug lag・Evidence gererating medicine
!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
2008年 9 月
N―367
(図 1)
(図 2)
いる.また参加施設の評価が membership committee でなされ,会議の度に登録症例数
と症例の質,登録の遅滞のないことの評価がなされ,GOGJ のみならず米国の参加施設
の多くも常に緊張を強いられている.各施設の研究を運営する資金もこの成績如何で配分
が大きく変化することにもなり,臨床試験への参加支援システム財政的根拠を失い,研究
の維持が不可能となるために懸命の努力がなされている.
検討中の protocol には分野ごとに略号が付けられ,最終承認を得た後は GOG number
が与えられる.120以上の審議検討が現在同時進行しており protocol の選別がされてい
る.さらに Study の品質管理として重要な病理診断の評価は,複数の病理医の合意で確
定されており,business meeting の期間中毎日進められている.
図2のごとく年間予算は四つの研究組織 GOG,EORTC,JCOG,JGOG の protocol
当たりで見ると大きな差はないように見えるが,data center 等の infra が長年にわたっ
て確立され,下支えをしていることは運用上大きな相違と思われる.もちろん研究全体に
かけている資金は大きな隔たりがある.これに加えて GOG では製薬会社からの産学協同
の資金が同程度提供されている.
GOG approved concept は,財政的スポンサーである NCI から,CTEP を通して費用
対効果と臨床試験内容と進捗状況の審査を定期的に受けている.16億円の公的資金の支
援にも関わらず,GOG は財政的危機感を常に抱えており,製薬会社からの支援,国際共
同研究での協力金に加え,国防省からの支援なども予算に組み込まれている.患者に,あ
るいは国家に対する臨床試験がもたらす利潤を追求するとともに,国境を越えて参加する
施設への data の共有の方針も維持している.
GOG よ り2001年 共 同 研 究 へ の 共 同 参 画 の 打 診 が あ り,Gynecologic Oncology
Group Japan(GOGJ)
を立ち上げ,複雑な承認手続きを完了して,2003年より症例登
録を開始した.翌年には GOG より GOGJ の parent insutitute 2施設が監査を受け,登
録症例の増加と quality の評価をクリアして2005年より full member に承認された.
GOGJ のその他の施設は GOGJ の audit 委員会で定期的に監査をし,その結果を GOG
に on site で報告する義務も負っている.研究の質を常に全体として維持するための重要
なステップでもある.JGOG の中に GOGJ 委員会を設置して担当部署を作成し,日本の
数々の制約の中で参加可能な protocol の抽出後,海外の臨床試験を各施設 IRB に承認を
受けるという婦人科癌における初めての国際臨床試験が開始した.英文 protocol を日本
語に訳し,なおかつその訳が原本から逸脱していないとの再評価を再度本邦で使う患者説
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明書と同意書の再英訳の審査も受けるなど複
雑な手続きの後,GOG study に参加してき
た.その間 GOG の有するシステムを受け入
れ可能な範囲で JGOG にも取り入れ,日本
の臨床試験にも少なからず改変がもたらされ
た.
現在北海道から九州まで15施設が GOGJ
として参加している.これまで8 study に参
加してきたが,既に終了した研究が3,
現在
protocol 修 正 中 の も の も あ る が,2つ の
study は結果が公開 さ れ た.Low risk tro(図 3)
phoblastic disease に お い て actinomycin
の方が MTX よりも優れていることを証明し
た研究が今年の SGO で発表された.AGUS の診断に,MN 蛋白が補助的診断に意義が高
いとの結論が,間もなく国際雑誌に発表される予定である.遅れてこの研究に参加した
GOGJ ではあるが,症例数の多さと良質さは高く評価されることになり,更なるステッ
プアップした関連 protocol が始まろうとしている.最近5年で GOG に登録された全症
例数は21,000で,この中の178例が本邦からのもので,わずかに0.8%であるが,世界の
エビデンスのアウトカムを共有することにより,日本での治療の指針に大きな方向を示す
結果が出始めているといえる.
GOG218は卵巣癌の標準治療である TC 療法に Avastin を併用することが,予後改善
に貢献するかの臨床試験であるが,placebo を含む3 arm で試験が進められている
(図3)
.
本邦では製薬会社主導の開発治験が当分進まないことから,日本が参加する部分だけは医
師主導型臨床試験として,きわめて大きな障害を乗り越えて,しかも国際共同試験として
昨年末より登録を始めている.
この運用にあたってはがんセンター勝俣医師の努力により厚労科研費を導入して未承認
薬の開発治験が実施されるという,これまでにない画期的なシステムで試験が進められる
ようになった.GOGJ としての最大の目標の一つは海外で標準治療に組み込まれた薬剤
の本邦への導入の遅れ,drug lag の解消である.
GOG218は primary endpoint を全生存期間とし,3年間で2,000例の症例を集積中で
あり,そのうち日本は90例を登録し,医師主導治験かつ国際共同試験の形をとり,Avastin
の卵巣癌に関する日米共同承認取得を目指している.医師主導型治験の性質上,事務的荷
重が膨大になるなか,北里研究所臨床 coodinating 部門による強力な支援と,各施設内
の積極的な支援体制のもと,エネルギッシュに新しい形の臨床試験が進行中である.
文部省,厚生労働省は新 GCP の導入前後より,臨床試験の件数が減少して来たことを
強く認識しており,改善に向けて大きく舵を切り始めている.このような状況の下,paclitaxel,oxaliplatin,Avastin はそれぞれアメリカ FDA の承認から5∼3年と立ち遅れ,
それらの薬剤も対象疾患が厳しく制約される状態が続いてきた.1990年から2005年の
間に USA で承認された癌関連薬剤は68種類あり,現在本邦で使用可能な薬剤はそのうち
の10種に限られているのが現状である.
それぞれの国での新薬が自国で承認されるまでの時間が,日本で極端に長いという事態
に対して,改善を図ろうとする行政の動きが示されつつある.新たな治験活化5カ年計画
では,最新の治療が一日も早く患者さんに提供されること,日本からイノベーション的治
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(表 1) RecentAct
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子宮頸癌
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Phase
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CPT11+ NDP
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1066
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ESGO 2008
DT102
卵巣癌
子宮体癌
3014
CCC TC vsCPTP(n= 99) st
at
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t2007
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ASCO 2008
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CCC
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2033
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ASCO 2005
2041
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ASCO 2008
2042
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comaCPT11
suspended*
2043
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2045s
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2044s
postopemanagement
r
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*高価安全性評価委員会審査中
療が発信されることを目標に,アクションプランが作られている.このような環境の中で
具体的に GOG218の登録が本邦でも実施され,患者に世界の標準治療がより早く提供で
きる事の意義は,きわめて大きいと言える.そもそも米国製薬工業協会の報告では動物実
験等の前臨床試験レベルでは5,000種の化合物が作られ,治験に進む薬はその中のわずか
5品であり,臨床に提供されるに至るのは1品まで減少することを知れば,海外での標準
薬が本邦で使用できないというギャップは,なんとしても回避されるべき問題である.本
邦で基礎研究から製品供給までの開発力は,世界と比較すれば大河の一滴に等しい状況で,
効率よく海外の優れた治療法,薬剤を導入していくシステムが求められる.
日本では公的資金の下運用されている JCOG と NPO として活動している JGOG があ
り,また各地域には group study を実践している組織が存在する.共同研究も推進して
さらに症例を集積しているグループもあり,重要な研究結果が提供される可能性が高く
なってきているといえる.
政府からの公的資金で運用されている JCOG の最近の報告では,13の研究グループで
15の phaseⅢ進められてきており,婦人科癌でも子宮頸がんと卵巣がんで2つの phase
Ⅲが進められている.
JGOG の臨床試験は,最近の活動として,ASCO,ESGO を初め,国際学会に成績が
発表され,評価の高い臨床試験も提示されている(表1)
.
JGOG3016で卵巣 癌 に 対 す る Weekly TC と Tri weekly TC の 比 較 試 験 は,今 年 の
ASCO で発表予定*であり,Best of ASCO award を獲得しており,興味ある内容が提
示され,治療へのインパクトがどのように世界から評価されるか興味が持たれている
(*6月1日 Chicago にて発表がなされ,GOG にも impact を与え,今後の世界の評価が
注目される)
.
卵巣明細胞癌 clear cell carcinoma(CCC)
に対する TC 対 CPT-11+cisplatin
(JGOG
3014)
は,症例数が十分といえるレベルに到達しなかったが,PFS において study arm
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が標準治療に比較して劣るものではないことを,統計レポートとして開示している.GCIG
はアメリカ,ヨーロッパ,オーストラリア,ニュージーランドと JGOG,韓国 KGOG を
含む18の研究組織の共同体であり,EBM の策定を目指している国際間共同研究組織であ
る.
CCC に対する JGOG3014を発展的に international study として evidence level を
高くすべく GCIG に提案し,組織特異性を加味した CPT-11 based CT の有用性を証明
できるかを試験中であり今後の結論が期待される.岩手医大杉山徹教授を study chair と
するこの研究では,現在カナダ,スコットランドと,韓国,米国 GOG が参加を表明し,
韓国からの登録が現に始まり日本発の international group study が進行中である.残念
ながら GOG は最近の報告では参加を取り下げることとなったが,MD アンダーソンがん
センターコロンビア大学等の複数の施設が個別に参加することが決定された.
JGOG の中に作られた組織 GOGJ は,米国 GOG との共同研究を通して,臨床試験の
あり方について多くのことを学び,取り入れる事ができるものは多く取り入れてきた.ま
た国際共同試験がもたらす大きな価値についても十分理解し,そのような大きな試験への
探索的臨床試験が,日本国内でまず完成することの有用性を認識することになった.evidence level を高くするということは,精度,迅速性,と何よりも症例数の多さが必要で
あることの意義は本邦でも認識されるに至り,共同研究の体制作りが進みつつある.さら
にこれからは日本から発信する International group study への展開が大きな研究の柱の
一つとなっていくと思われる.
日本においても問題点を抽出し,着眼点を鋭く,国内の臨床試験を作り上げていく努力
が求められ,かついろいろのグループから有用な結果が示されつつあるのが現状で,好ま
しい方向に向かっているといえる.近い将来を見据え,魅力ある protocol を策定し,よ
りエビデンスレベルの高い臨床試験へと積み上げていくことの過程を充実することが必要
となる.group study の意義を理解し,斬新なアイデアとエネルギーを持つ young investigator を養成していくことが重要である.
欧米では microarray gene chip による DNA profile から target pathway specific な
治療を従来の化学療法と併用するような tailor made therapy が模索されている.特にア
メリカでは The Cancer Genomic Atlas
(TCGA)
project が動き出しており,米国の主
だったがんセンターが取り扱う症例の多くの症例の genomic data が Arizona に集めら
れ,国家レベルで統括されようとしている.Tailor made 治療や,早期ガンの発見にもこ
のようなアプローチが重要性を持つことが予測されており,次なる治療戦略としてのイン
フラを準備していくことが日本でも重要となってと思われる.
まとめ
新薬の導入や標準治療の国内導入の遅延がないような努力,新しい治療戦略への創意工
夫,evidence generating medicine への参加することへの教育と今後の戦略に向けた infra の構築がさらに必要である.またこれらの運用に十分な fund を確保することも同様
に重要なことと考えられる.
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