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班員発表要旨 - 横山G(分子研・電子構造部門)

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班員発表要旨 - 横山G(分子研・電子構造部門)
目 次
I. 特 集
ヘテロスピン単分子磁石の構築
九大院薬
古賀
登…………………………………………………………………...6
ICMM2004 報告
名大院理
阿波賀邦夫、 東大院総合
菅原正………….……………………………8
ICMM2004 ポストカンファレンス報告
名大院理
阿波賀
邦夫………….…………………………………………………10
II. 「分子スピン」公開シンポジウムプログラム……………………………………...12
III. 「分子スピン」公開シンポジウム発表要旨
【招待講演】分子スピンと有機ラジカル電池
早大理工
西出
宏之…….…………………………………………………………16
【特別講演, P03】特異なスピン非局在様式を持つ安定中性ラジカルの開発
阪大院理
中筋
一弘
(A01-03)...…………………………………………………18
【特別講演, P18】天然抗酸化剤による生体老化防御のフリーラジカル生成・消滅ダイナミクス
愛媛大理
向井
和男
(A03-13) …………………………………………………..20
【特別講演, P23】植物へのストレスに応答する生体スピンのダイナミックス
生物ラジカル研
大矢
博昭
(A03-15)…………………………………………...22
【O01, P01】分子およびナノ磁性体の合成と機能開拓
名大院理
阿波賀
(A01-02)...………………………………………………24
邦夫
【O02】有機電荷移動錯体における光誘起相転移の超高速ダイナミクス
東大新領域
岡本
博
(A01-02)...…………………………………………………26
【O03, P07】フォトクロミック化合物による多機能スピンシステムの創製
九大院工
松田
建児
(A01-06)...…………………………………………………28
【O04, P08】スピン分極ワイヤーで金ナノ粒子を紡ぐ-その特異な導電挙動に
みられる量子効果-
東大院総合
菅原
正
(A02-07)….………………..30
【O05, P09】逆ミセル法を用いたプルシアンブルー型Fe/Cr-CN-Co錯体ナノ微粒子の
合成と物性挙動
北陸先端大
山田
真実
(A02-07)..….………………...32
【O06, P15】分子性強磁性体CoC2 -その強磁性における水の役割-
分子研
西條純一・西信之
(A02-10)………………….……………………………34
【O07】磁性細菌が合成するバイオマグネタイトのキャラクタリゼーション
東京農工大
田中
剛
(A02-07) ………......………………………………………36
【O08, P19】高速磁場掃引ストップトフローESR法による生体関連短寿命ラジカルの
検出と反応解析
京都工繊大
田嶋
邦彦
(A03-13)...……………………38
【O09】環境ストレスによりもたらされる生体内ラジカル生成の生体計測ESRによる
解析
放医研
竹下
(A03-14) ………......……………………………40
啓蔵
【P02】反磁性磁化による細胞の動態制御
千葉大工
岩坂正和、東大院医
(A01-02) ……………………………..42
上野照剛
【P04】スピン集積体の磁気的局所構造と機能発現メカニズムの解明
北大院理
(A01-04) ……………………………………………44
武田定・丸田悟朗
【P05】π共役スピン系の光励起状態を利用したスピン整列 (Ⅲ)
阪市大院理
手木
(A01-05) ………………………………………………..46
芳男
【P06】スピントラッピング法によりアルコキシアミニルラジカルの合成と単離
阪市大院工
(A01-05) ………………………………………48
三浦洋三・村中義和
【P10】単分子磁石の合成
筑波大化
二瓶
(A02-07) …………………………………………………..50
雅之
【P11】分子性高スピンアニオンクラスター、及び分子スピン量子演算・量子
テレポテーションの実行
阪市大院理
工位
(A02-08) …………..52
武治
【P12】水素結合を利用したナノ粒子自己集積化:粒子間距離のコントロール
兵庫県立大
八尾浩史・佐藤井一・木村啓作
(A01-09) ……………………………54
【P13】ナノスケール薄膜の表面化学的磁化制御と評価
分子研
(A02-10) …………………………………………………….56
横山利彦
【P14】チオールで修飾された金クラスターの化学組成と安定性・構造
分子研
根岸雄一・佃達哉
(A02-10) ………………………………………………58
【P16】DNA/ナノ粒子複合体の形成と酸化物ナノギャップ電極の作製
阪大産研
田中
(A02-11) …………………………………………………..60
秀和
【P17】三重項分子の水プロトンの緩和速度への影響
九大院薬
(A03-12) …………………………………………62
古賀登・麻生真理子
【P20】バタフライ型スピンフラストレート系有機ラジカル磁性体 3-(aryl-substituted)-1,5diphenyl verdazyl の圧力効果
九工大工
美藤正樹、 愛媛大理
向井和男
(A03-13) ………………………64
【P21】腫瘍移植肢におけるin vivo redox解析
九大院薬
市川和洋・坂部恵美子・国信健一郎・内海英雄
(A03-14)……….……66
【P22】ニトロキシルラジカルとヒドロキシルラジカルの反応性に関する基礎検討
九大院薬
安川圭司・尾田芙美子・内海英雄
(A03-14) …………………………67
【P24】生体内NOの検出と生理作用に関与する鉄錯体−胃での事例
生物ラジカル研
吉村
哲彦
(A03-15) …………………………………………..68
【P25】永久磁石一個と共振器からなる聴診器様 ESR プローブの開発
山形大工
尾形健明、
山形大院理工
種市
山形大学術情セ
暁
伊藤智博、
(A03-15)…………………………………………………...70
【P26】Nitronyl nitroxide による NO の分子機能制御
熊本大院医薬
赤池孝章・芥照夫
(A03-16) ………………………………………72
IV. 研究組織名簿
【一覧表】..................................................................................................................................74
【】....................................…........................................................................... 76
V. 備考....……………...............................................................................................………....89
ヘテロスピン単分子磁石の構築
九州大学大学院薬学研究院
古賀
登
【序】我々は、これまで金属イオンの持つ 3d電子と有機スピンの持つ 2p電子からなるヘテ
ロスピン系を用いて分子磁性の研究を行ってきた。[1] 今回、近年ナノテクノロジーや量子ト
ンネル効果などで注目されている単分子磁石に焦点を絞り研究を行った。単分子磁石構築の
ためには、スピン反転の大きな活性化エネルギー∆/kB = |D|S2:D(< 0);ゼロ磁場分裂パラメ
ーター、S;スピン量子数、を持つことが必須である。そこで、これまでの分子磁性研究に基
づいてヘテロスピン系を用いる基本戦略を考えた。即ち、DとSをそれぞれ金属イオンと有機
スピンに負わせるというものである。本ヘテロスピン系を用いることにより、これまでに例
のない一個の金属イオンのみを含んだ単分子磁石構築が可能となる。
【有機スピン源と金属スピン源】ヘテロスピン単分子磁石の磁気的性質を定量的に明らかに
するため、有機スピンとして安定アミノキシルラジカルを用いた(4NOPy)。更に、大きなス
ピン量子数Sを得るために、ジアゾ基の光分解により得られるカルベンを有機スピン源とし
た。以下に示す1〜3個のジアゾ基を有するポリジアゾーモノピリジン誘導体 DXPy (D1Py,
D2Py, D3lPy, D3bPy) 等を分子
N2
設計・合成して用いた。また、
金属のスピン源としては、磁気
異方性の大きいコバルト二価
イオン (CoY2; Y = NCO, SCN,
t-Bu
N2
N
n-1
n = 1; D1Py
n = 2; D2Py
n = 3; D3lPy
Cl, NO3, ClO4 etc.) 及び反磁性
配位子を持つコバルト錯体
H 3C
N2
N2
N
N2
O
t-Bu
D3bPy
N
Co(II)
CH3
N
O
Co (II)(p-tolsal)2
ポリジアゾーモノピリジン誘導体 DXPy 及びコバルト(II)錯体
Co(p-tolsal)2を用いることとした。
【コバルト錯体の構造とサンプル調製】
配位子 4NOPyとコバルト(II)イオンの溶液を 4:1 の比率で
混合することにより、コバルト錯体Co(4NOPy)4⋅(Y)2が得ら
れた(図1)
。Co(D1Py)4⋅(NCS)2についてもX線結晶構造解析
により同様な分子構造が得られた。Co(p-tolsal)2錯体の系では、
ポリジアゾーモノピリジン誘導体DXPyとCo(p-tolsal)2錯体
の溶液を 2:1 の比率で混合し、得られた混合溶液をSQUID
用サンプルとして用いた。
【SQUID 磁束計による剛体溶媒中での磁気測定】
図1
(1) コバルト錯体Co(4NOPy)4⋅(Y)2 の系[2]
Co(4NOPy)4⋅(NCO)2
ACの磁化率の測定では、χ’及びχ”のシグナルが観測され、またχ”は用いた周波数に依存して
極大値を示した。更にその極大値の温度の周波数依存性より、アレニウスの式を用いてスピ
ン反転の活性化エネルギー(∆/kB): τ = τ0exp(∆/kBT )を 50Kと見積もった。両コバルト錯体におい
6
て、3.5〜5.0Kで対称なCole-Coleプロットが得られ、単一な磁気緩和過程が示唆された。また、
Co(OCN)2⋅(4NOPy)4の 2.0〜5.0Kでの DC磁場依存性の測定結果を、配位子場理論モデルに基づ
いた計算式でフィッティングする事により、スピン反転の活性化エネルギーは 60 Kと見積も
ることができた。∆/kBとの差は、量子トンネル効果の寄与と考えられる。
(2)コバルト錯体Co (Y)2 ⋅ (DXPy)4の系[3]
モノジアゾーモノピリジンDXPyとCo(II)(Y)2 の組み合わせについて、光照射後のDC及びAC磁
化率の測定を行った。ACの磁化率の測定では、χ’及びχ”のシグナルが観測され、またχ”は用
いた周波数に依存して極大値を示した。Co(SCN)2⋅(D1Py)4では、その極大値の温度の周波数依
存性より、スピン反転の活性化エネルギーを 89Kと見積もった。 更に磁化のDC磁場依存性
の測定では、2Kで保持力が 3500Oeを持つ磁化のヒステリシスが観測された。同様の結果が、
今回用いたポリジアゾーピリジン誘導体DXPyとコバルトイオンの全ての組み合わせについ
て観測された。
(3)コバルト錯体Co(p-tolsal)2⋅(DXPy)4の系
モ ノ ジ ア ゾ ー モ ノ ピ リ ジ ン DXPy と
Co(II)(p-tolsal)2 の組み合わせについて、光照射
後のDC及びAC磁化率の測定を行った。ACの
磁化率の測定では、 χ’及び χ”のシグナルが観
測され、またχ”は用いた周波数に依存して極
大値を示した。Co(p-tolsal)2⋅(D3lPy)2では、その
極大値の温度の周波数依存性より、スピン反
転の活性化エネルギーを 73Kと見積もられた。
更に磁化のDC磁場依存性の測定では、2Kで保
持力が 10 kOeを持つ磁化のヒステリシスが観
測され(図2)、また、単分子磁石に特徴的な
図2
保磁力(Hc)の温度依存性が観測された。同様の
ヒステリシス曲線
Co(p-tolsal)2⋅(D3lPy)2の光照射後の
(II)
結果が、DXPyとCo (p-tolsal)2 の全ての組み
合わせについて観測された。
【まとめ】これら3つのスピン系における AC 及び DC 磁化率の測定結果は、比較的大きなス
ピン反転の活性化エネルギー(30〜90K)を持つ単一金属単分子磁石の生成を示す結果であ
る。更に、これらの結果は、ヘテロスピン系の単分子磁石構築の有用性を示す結果である。
今回、有機スピン源としてカルベンを用いることにより、系統だってコバルト錯体のスピン
量子数を変化させることが可能となった。現在、1)スピン量子数と活性化エネルギーの相
関、2)スピン量子数と量子トンネル速度の相関、3)スピン量子数と保磁力の相関などに
ついて、検討を行っている。
【文献】[1] S. Karasawa, H. Kumada, N. Koga and H. Iwamura, J. Am. Chem. Soc. 2001 123, 9685-9686
[2] S. Kanegawa, S. Karasawa, M. Nakano, and N. Koga, Chem. Comm. 2004, 1750-1751
[3] S. Karasawa, G. Zhou, H. Morikawa, and N. Koga, J. Am. Chem. Soc. 2003, 125, 13626
7
分子磁性国際会議(ICMM2004)報告
阿波賀 邦夫(名大院理)、菅原
正(東大院総合)
2004 年 10 月 4-8 日、つくば国際会議場において、分子磁性国際会議(International
conference on molecule-based magnets (ICMM2004))が開催された。参加者総数は 400 名を越
え、合計 20 ヶ国からの参加があった。「分子スピン」特定領域からは、菅原正(主催者)
と阿波賀邦夫が、筑波大学の大塩寛紀とともに運営に参加したほか、多くの領域研究者が
その実施に携わり、また多くが発表者としてこの会議に貢献した。以下、班員の活躍ぶり
を中心に、この会議の概要を報告する。
日本の分子磁性研究は、世界に先駆け、高スピン分子、有機強磁性体、光磁性などを世
に送り出した。これを契機として世界的な広がりをもつに至った分子磁性研究だが、分子
磁性国際会議はその研究発表および討論の場として設立され、今回で第9回を迎えた。こ
れまでの静的な強磁性体を追求した段階から一歩進み、分子が磁性を担うことを最大限に
活かすべく、操作性のあるスピン系を目指すという特色を打ち出した。また、これからの
分子磁性研究を考え、バイオスピンやナノスピン研究との融合を目指し、生体スピンプロ
ーブやスピンエレクトロニクスに関する成果発表のセッションを設けるなどの新機軸も盛
り込まれた。このような企画は、本特定領域「分子スピン」の成果を前提にしたものであ
ることは言うまでもなく、本領域の方向性や成果を国際的に発信し、また評価を受ける絶
好の場となった。
4日夜の Welcome party では、菅原より歓迎の意が表され、国内外の分子磁性研究者が再
会を喜んだ。5日の会議冒頭、有機ラジカル物性とナノ量子ドットに関する2件の Plenary
lecture があり、その後、有機スピン系の講演が続いた。森田靖の新規フェナレニルラジカル
など、新規開殻物質の合成が紹介されたほか、有機ラジカルポリマーを利用した電池作成
などといった報告もあった。この日の夕刻にはバイオスピン系の研究発表があり、内海英
雄が In vivo ESR の開発とその応用、岩坂正和が液体や生体系に対する強磁場効果、田中剛
がバクテリアを利用したナノ磁石合成について、それぞれ招待講演を行い、塩見大輔も水
素結合を利用したラジカル分子配列制御について発表し、本特定領域研究の成果を大いに
アピールした。6日朝は、単分子磁石に関する Plenary lecture の後、量子スピン系の研究発
表が行われた。古賀登による有機-無機複合単分子磁石の発見など、物質合成を基盤とす
る新しい量子スピン現象が次々と報告された。6日夕刻からは多重機能スピン系の研究発
表に移り、分子磁性体を舞台として、磁気特性にさまざまな特性を重ねる試みが報告され
た。7日夕刻からは光スピン系とスピンエレクトロニクス系の発表に移った。最終日8日
の午前は、ナノ磁性体に関する Plenary lecture の後、岡本博が有機ラジカル結晶における光
誘起相転移、松田建児がフォトクロミック部位をスピンカップラーに利用した光スイッチ、
手木芳男が光励起状態のスピン配列 ESR 計測に関して、それぞれ招待講演を行った。光と
8
分子磁性の関わりにおいて、領域発の新機軸が打ち出された。
このような口頭発表のほか、5日と6日の夜にはポスターセッションが開催され、領域
研究者のグループに属する院生やポスドクなどの若手研究者によって、特定領域研究の成
果が発表された。また新企画として、分子磁性の成果をわかりやすく演示実験する「デモ・
プレゼンテーション」が行われ、松田のフォトクロミック・スピン分子の実験などが好評
を博した。
7日の夜には Banquet が開催され、琴の生演奏とともに、Accompanying person 用に用意
した益子ツアーの様子が披露され、大変楽しい懇親の場が持たれた。
会議全体を通じて、分子磁性体
の操作性や量子効果に関する発
表が多く見られ、参加者の関心を
引いた。化学、物理学、さらには
生物学の学際領域研究としての
分子磁性研究という位置づけも
参加者の共感を生み、これまでの
分子磁性国際会議にも増して、将
来の方向性が明確に示された国
際会議となった。
9
ICMM2004 ポストカンファレンス報告
阿波賀 邦夫(名大院理)
2004 年 10 月 8 日午後、分子磁性国際会議終了直後、同じくつくば国際会議場において、
ICMM2004 ポストカンファレンス「Application of Molecular Spin: from Nanomagnets to
Biological Spin Systems」が開催された。この会議は、ICMM 本会議の成功を受けて、本特定
領域「分子スピン」の設立を国際的に発信すると共に、分子磁性研究の将来展望について、
周辺分野の著名な外国人研究者から助言を得る目的で開催された。8件の招待講演があり、
約 60 名の参加があった。
会議冒頭、阿波賀より会議開催の趣旨説明があり、早速、古賀登を座長として、講演お
よび討論に移った。有機ラジカルポリマー合成の権威として知られているネブラスカ大学
のA. Rajca教授は、高スピン化に伴う単分子磁石挙動の発現と、スピンラベル材としての応
用を説明した。生体計測ESR研究で高名なダートマウス医学校のH.M. Swartz教授は、生体酸
素センサーとしてのLiフタロシアニンの臨床応用について講演した。分子性ソフトマテリア
ルの分野で先駆的な研究を進めている北海道大学の中村貴義教授は、[Ni(dmit)2]塩中に見出
された分子モーターがスピン構造に与える効果を議論した。導電性金属錯体の分野で活発
な研究を進めているエジンバラ大学のN. Robertson博士は、分子性物質の電気的および磁気
的性質に対する高圧効果を説明した。小休止の後、座長を筑波大学の大塩寛紀教授に交代
し、後半のセッションに移った。分子磁性研究の草分け的存在であるオハイオ州立大学の
A.J. Epstein教授は、純粋有機スピンバルブ実現に向けて最新の成果を発表した。スピン・フ
ラストレーション系物質の研究で著名なエジンバラ大学のA. Harrison教授は、カゴメ格子な
どの量子スピン系物質における中性子散乱について報告した。
さらに、「分子スピン」特定領域の成果報告として、菅原正と横山利彦が招待講演を行っ
た。菅原は、金ナノ粒子と有機ラジカルがつくる電気伝導ネットワークが示す特異な磁場
効果について講演し、分子性物質を基盤としたスピントロニクスの可能性を、強く参加者
に印象づけた。横山利彦は、放射光を利用した XMCD 法による表面磁気構造解析について
解説し、この手法によって明らかにされた、表面化学吸着を利用した金属薄膜の磁性制御
について報告した。
以上、分子磁性体を用いたバイオスピン研究、分子磁性の動的制御法の発展、分子磁性
体を舞台とするスピンエレクトロニクス、ナノ磁性体の化学制御、などといった本特定領
域研究の最重要研究項目について、貴重な討論の場を持つことができ、特定領域「分子ス
ピン」の方向性に関し、国際的な賛同が得られた。
10
11
文部科学省科学研究費補助金特定領域研究
「分子スピン」公開シンポジウム
日時: 2005年1月8日(土), 9日(日)
場所: 名古屋大学シンポジオン(名古屋市千種区不老町)
1月8日(土)
(座長:阿波賀邦夫)
13:00-13:30
【O01】分子およびナノ磁性体の合成と機能開拓
名大院理
13:30-14:00
阿波賀
【O02】有機電荷移動錯体における光誘起相転移の超高速ダイナミクス
東大新領域
14:00-14:30
岡本
博
松田
建児
東大院総合
菅原
(A02-07)
正
【O05】逆ミセル法を用いたプルシアンブルー型Fe/Cr-CN-Co錯体ナノ微粒子
の合成と物性挙動
15:30-15:50
(A01-06)
【O04】スピン分極ワイヤーで金ナノ粒子を紡ぐ-その特異な導電挙動に
みられる量子効果-
15:00-15:30
(A01-02)
【O03】フォトクロミック化合物による多機能スピンシステムの創製
九大院工
14:30-15:00
(A01-02)
邦夫
北陸先端大
山田
真実
(A02-07)
Coffee Break
(座長:横山利彦)
15:50-16:20
【O06】分子性強磁性体CoC2 -その強磁性における水の役割-
分子研
16:20-16:50
西條
田中
(A02-10)
剛
(A02-07)
京都工繊大
田嶋
邦彦
(A03-13)
【O09】環境ストレスによりもたらされる生体内ラジカル生成の生体計測
ESRによる解析
18:00-
信之
【O08】高速磁場掃引ストップトフローESR法による生体関連短寿命ラジカル
の検出と反応解析
17:20-18:00
西
【O07】磁性細菌が合成するバイオマグネタイトのキャラクタリゼーション
東京農工大
16:50-17:20
純一,
放医研
懇親会
12
竹下
啓蔵
(A03-14)
1月9日(土)
(座長:菅原正)
09:30-10:20
【招待講演】分子スピンと有機ラジカル電池
早大理工
10:20-12:00
西出
宏之
【ポスターセッション】
12:00-13:20
昼食
(座長:古賀登)
13:20-14:00
【特別講演】特異なスピン非局在様式を持つ安定中性ラジカルの開発
阪大院理
14:00-14:40
中筋
【特別講演】天然抗酸化剤による生体老化防御のフリーラジカル生成・
消滅ダイナミクス
14:40-15:20
愛媛大理
向井
和男
(A03-13)
【特別講演】植物へのストレスに応答する生体スピンのダイナミックス
生物ラジカル研
15:20-
(A01-03)
一弘
大矢
博昭
(A03-15)
【全体討論】
ポスターセッション(班員)
【P01】 分子およびナノ磁性体の合成と機能開拓
名大院理
阿波賀
(A01-02)
邦夫
【P02】 反磁性磁化による細胞の動態制御
千葉大工
岩坂正和、
東大院医
上野照剛
(A01-02)
【P03】 特異なスピン非局在様式を持つ安定中性ラジカルの開発
阪大院理
中筋
(A01-03)
一弘
【P04】 スピン集積体の磁気的局所構造と機能発現メカニズムの解明
北大院理
武田定・丸田悟朗
(A01-04)
【P05】 π共役スピン系の光励起状態を利用したスピン整列(Ⅲ)
阪市大院理
手木
(A01-05)
芳男
【P06】 スピントラッピング法によりアルコキシアミニルラジカルの合成と単離
阪市大院工
三浦洋三・村中義和
(A01-05)
【P07】 フォトクロミック化合物による多機能スピンシステムの創製
九大院工
松田
(A01-06)
建児
【P08】 スピン分極ワイヤーで金ナノ粒子を紡ぐ-その特異な導電挙動にみられる量子効果-
東大院総合
菅原
(A02-07)
正
【P09】 逆ミセル法を用いたプルシアンブルー型 Fe/Cr-CN-Co 錯体ナノ微粒子の合成と物性挙動
北陸先端大
山田
(A02-07)
真実
【P10】 単分子磁石の合成
筑波大化
二瓶
雅之
(A02-07)
13
【P11】 分子性高スピンアニオンクラスター、及び分子スピン量子演算・量子テレポーテーション実行
阪市大院理
工位
(A02-08)
武治
【P12】 水素結合を利用したナノ粒子自己集積化:粒子間距離のコントロール
兵庫県立大
(A01-09)
八尾浩史・佐藤井一・木村啓作
【P13】 ナノスケール薄膜の表面化学的磁化制御と評価
分子研
横山
(A02-10)
利彦
【P14】 チオールで修飾された金クラスターの化学組成と安定性・構造
分子研
(A02-10)
根岸雄一・佃達哉
【P15】 分子性強磁性体CoC2 -その強磁性における水の役割-
分子研
(A02-10)
西條純一・西信之
【P16】 DNA/ナノ粒子複合体の形成と酸化物ナノギャップ電極の作製
阪大産研
田中
(A02-11)
秀和
【P17】 三重項分子の水プロトンの緩和速度への影響
九大院薬
(A03-12)
古賀登・麻生真理子
【P18】 天然抗酸化剤による生体老化防御のフリーラジカル生成・消滅ダイナミクス
愛媛大理
向井
(A03-13)
和男
【P19】 高速磁場掃引ストップトフロー ESR 法による生体関連短寿命ラジカルの検出と反応解析
京都工繊大
田嶋
(A03-13)
邦彦
【P20】 バタフライ型スピンフラストレート系有機ラジカル磁性体 3-(aryl-substituted)-1,5-diphenylverdazyl の圧力効果
九工大工
美藤正樹、
愛媛大理
向井和男
(A03-13)
【P21】 腫瘍移植肢における in vivo redox 解析
九大院薬
市川和洋・坂部恵美子・国信健一郎・内海英雄
(A03-14)
【P22】 ニトロキシルラジカルとヒドロキシルラジカルの反応性に関する基礎検討
九大院薬
安川圭司・尾田芙美子・内海英雄
(A03-14)
【P23】 植物へのストレスに応答する生体スピンのダイナミックス
生物ラジカル研
大矢
博昭
(A03-15)
【P24】 生体内 NO の検出と生理作用に関与する鉄錯体−胃での事例
生物ラジカル研
吉村
哲彦
(A03-15)
【P25】 永久磁石一個と共振器からなる聴診器様 ESR プローブの開発
山形大工 尾形健明、 山形大学術情セ 伊藤智博、 山形大院理工 種市暁
【P26】 Nitronyl nitroxide による NO の分子機能制御
熊本大院医薬
赤池孝章・芥照夫
14
(A03-16)
(A03-15)
【招待講演】
分子スピンと有機ラジカル電池
早大理工
西出 宏之
[email protected]
安定ラジカル分子を高分子化したラジカルポリマーは、酸化還元樹脂の一つとして70年代から多く
合成されてきている。TEMPOのアクリレートやスチレン誘導体のポリマーに代表され、例えばアルコ
ールのアルデヒド、ケトンへの酸化触媒能などを示す。一方、酸化防止剤として汎用されているフェ
ノールや環状アミンのポリマーは、酸素やラジカル不純物を還元して除去するが、それ自身は水素引
き抜きにより安定ラジカルに変換されるので、ラジカルポリマーの前駆体と言える。
ラジカルポリマーのこれら作用機作は、可逆
的な酸化還元(レドックス)対にある。ニトロキ
シドラジカルで例示した(図1)。ニトロキシドは
一電子酸化されオキソアミニウムカチオンに
なり、還元されラジカルが再生する(p型ドーピ
図1
ニトロキシドラジカルのレドックス対
ングに対応)。左側のレドックス対では、ニト
ロキシドは一電子還元されアミノキシアニオンに変換され、酸化によりラジカルに戻る(n型ドーピン
グ)酸化還元が生起する。これらラジカルのレドックス対を蓄電材料、すなわち二次電池の電極活物質
として着眼した研究は従来まったくなかった。
実用されている一次および二次電池は、すべて金属または金属酸化物のレドックス対に基づいてい
る。また、電池としての電位は、電極対に用いる金属、金属酸化物により規定され自由度はない。重
金属を用いることによる廃棄手順の難しさと資源の限界は明白である。有機ラジカル電池は有機材料
化学の立場から、これら問題点に挑戦しようとするものであ
る。
従来、有機物を二次電池の活物質とする試みは2つあった。
80年代前半では導電性高分子のドープ・脱ドープを利用した
ポリマー電池が検討された。80年代後半からは容量密度の高
いジスルフィド電池が登場し、現在でも研究が続けられてい
る。
ラジカルのレドックス対を電極活物質として組み込んだ、
「有機ラジカル電池」と我々が呼ぶところの作動原理を図2
図2
に示した。
有機ラジカル電池の作動原理
この目的のために、いくつものニトロキシドラジカルのポリマーを合成している(図3)。電極活物質
としての利点は次のようにまとめられる。(1)化学的に極めて安定。例えば、1aのラジカル濃度は室温
大気下で半年以上にわたり減少ない。(2)スピン密度はN-Oに局在しており、ラジカル当りの分子量が
小さいため、重量当り大きな電荷容量が取れる。(3)すべてのモノマー単位で電荷を担えるので、100%
近い究極のヘビードーピングが可能となる。(4)純有機物であり、焼却可、無臭、低毒性は従来の電極
材料にはない利点。(5)ポリマーとして適切な溶媒溶解性。電解液に適度に膨潤しかし溶出せず。電極
としての成形性や接着性。(6)もっとも重要な特徴はレドックスの速度と酸化還元電位の可変にある。
16
図3
ニトロキシド類の溶液での電子移動速度定数は10-1cm/s桁で、例えばジスルフィドのレドックス
(RSSR ⇄ 2RS・)のそれ10-8cm/sに比べ非常に大きい。後者が化学結合の生成・切断をともなう化学反
応であるのに対し、ラジカルのレドックスは単なる一電子の授受である(もちろん対イオンの移動をと
もなうが)。金属の析出での反応速度10-1 ~ -2cm/sを上回る速さは、ラジカル電池の高いレート特性・高
出力(後述図5)につながる特徴である。また、分子構造に基づいてp, n型の選択(例えば3, 4, 6はn型)、電
池電位の調整が可能である点は、分子設計できる有機材料の強みである。
1aを正極活物質としたリチウムイオン電池を例に、NEC基礎·
環境研究所にて実証されている動作状況とその特性をまとめる。
PTMA自身には導電性がないので、グラファイトなどとの複合電
極とする。負極としては金属リチウムや黒鉛を(原理的には負極
もラジカルポリマーとできる)。充放電曲線(図4)より、3.5 V付近
に平坦部が認められた。1aのLi基準の酸化還元電位(Ag/AgCl基準
では0.80 V)に一致し、二次電池として動作していることがわかる。
活物質当りの容量は100Ah/kgに近く、仕込みの1a(ラジカル濃度
90%)量と一致する。
繰り返し充放電したサイクル特性を図4挿入図に示す。携帯
図4
充放電曲線とサイクル特性
用などに市販されているリチウムイオン電池が500サイクルで初
期容量の80%程度と比較すると、ラジカル電池のサイクル寿命は
驚くほど優れている。ラジカルの安定性と充放電にともなう構造
変化が小さいことが要因である。
電流量を多くしての放電曲線(レート特性)を図5に例示した。大
電流を1~2分の短時間で放電しても、ゆっくり放電したときの容
量をほぼ維持している(充電時間としては、一分で充分)。高出力
の特徴には、ラジカル分子の示す大きな電子移動速度が寄与して
いると考えられる。
図5
レート特性
有機ラジカル電池はリチウムイオン二次電池に近い(約半分)の容量を持ちながらキャパシタに匹敵
する高出力が現在可能となっている。図3にあるようにラジカル当りの分子量が小さいラジカルポリマ
ーでの検討が進めば、リチウムイオン電池を超える(200Ah/kg)高い容量密度の特性も兼ね備えられる。
環境適合の電池として新しい領域を切り拓くと期待される。
分子スピン有機物質から派生する、新しい切り口の可能性を紹介する。
[文献] 西出ほか、 高分子, 53, 956 (2004); Electrochim. Acta, 50, 827 (2004); Angew. Chem. Int. Ed., 43, 730
(2004); J. Org. Chem., 69, 631 (2004); Org. Lett., 5, 2165 (2003); J. Am. Chem. Soc., 125, 3554 (2003).
17
【特別講演, P03】
特異なスピン非局在様式を持つ安定中性ラジカルの開発
阪大院理 中筋一弘
1.研究目的
開殻有機分子を用いた分子磁性に関する研究は、α-ニトロニルニトロキシドをは
じめとした既存の安定中性ラジカルを基盤として精力的に行われ、大きな発展を遂げてきた。今
後のさらなる発展のためには、有機
分子が元来有する構造の多様性とい
う利点を最大限に生かし、従来にな
い新しい電子スピン構造を有する安
定な開殻分子を開発することが重要
である。そのような観点から我々は、
共役π電子系に組み込まれ高いスピ
ン非局在性を有する開核有機分子の
設計・合成を行ってきた。これまで
に高対称性の奇交互炭化水素ラジカルであるフェナレニル 1 に着目し、かさ高い置換基の導入に
よる安定化や[1]、窒素原子や酸素原子導入体 2[2]、3[3]、4[4]の設計・合成を行い、高いスピン非局
在性、トポロジー的対称性およびヘテロ原子効果によって誘起された興味深い分子構造や電子構
造を明らかにしてきた。今回は、2 が溶液状態で示すサーモクロミズム現象の要因となっている
低温下生成するσダイマーの構造、およびテトラチアフルバレン(TTF)を結合させた開殻分子 5 が
示すスピン中心移動に基づく動的スピン構造の発現について明らかにしたので報告する。
2.研究成果
(i) 窒素原子置換フェナレニルが溶液状態において形成するσダイマーの構造
多くの純有機
物が示すサーモクロミズムは、古くから知られているが、純有機物の開殻分子が示すサーモクロ
ミズムは、非常に限られた例しか報告されていない。ジアザフェナレニルラジカル2のスピン密度
分布は、導入した窒素原子の影響からやや非対称となっており、結晶中ではハの字型のダイマー
構造を有している(図1)。また、結晶および溶液状態、ともにサーモクロミズムを示し、室温で
は着色し、低温では無色に変化することを我々は見出している。溶液状態におけるこの顕著な色
の変化は、σ結合の形成と開裂が重要な役割を果たしていることを、ESRや電子スペクトルの測定
から明らかにした。今回は、
低温で生成するσダイマーの
構造を決定するために、重ヘ
キサンを溶媒として 1H NMR
の測定を行った(図2)
。180 K
において、5~7 ppm付近に4本
のシャープなシグナルと高磁
場領域に3本のブロードなシ
18
グナルが相対強度1:1:1:1および9:9:9で現
れ、それぞれ芳香族やビニルプロトン、
ベンジルプロトン、tert-ブチルプロトン
であると帰属した。また、99%の15Nで標
識化したサンプルを合成し、重ヘキサン
を溶媒として用い、15NのNMRを測定し
た(図2b)。 その結果、2本のシャープ
なシグナルが低温下明瞭に観測できた。
従って、低温下においてC2対称性を有す
る自己会合型σダイマーの形成が指示さ
れた。最終的には、窒素核とプロトンの
遠隔相関に関する測定を行うことにより、
σダイマー構造を決定することができた
(図2c)。フェナレニル系のσダイマーの構造を実験的に明確に決定した最初の例となった。
(ii) TTF結合型6-オキソフェナレノキシルが示す動的スピン構造
は、高い安定性だけでなく代表的な電子
受容性分子であるクロラニルと同程度の
電子アクセプター性を有している。そこ
で、電子ドナー性を有するTTFを結合さ
せた誘導体5を設計・合成した(図3)。
この中性ラジカルをトルエンおよびトリ
フルオロエタノールに溶解させて測定し
たESRスペクトルを図4に示した。その結果、二
つの溶媒の相違により、大きく電子スピン構造が
変化していることがわかった。詳細なESRスペク
トルおよび電子スペクトルの測定から、それぞれ
5aおよび5bに対応する電子スピン構造を有してい
ることを明らかにすることができた。すなわち、
分子内電荷移動によるスピン中心が移動した動的
スピン構造が実現していることを確認した。固体
状態、単結晶でのスピン構造変化や電導挙動に関
する物性測定は今後の課題である。
3.参考文献
[1] J. Am. Chem. Soc. 1999, 121, 1619–1620.
[2] Angew. Chem. Int. Ed. 2002, 41, 1793–1796.
[3] J. Am. Chem. Soc. 2000, 122, 4825–4826.
[4] Org. Lett. 2003, 5, 3289–3291.
19
6-オキソフェナレノキシル
【特別講演, P18】
天然抗酸化剤による生体老化防御のフリーラジカル
生成・消滅ダイナミクス
愛媛大理
向井
和男・小原
敬士・長岡
伸一
研究目的
人の老化は活性酸素・フリーラジカルと脂質、蛋白、核酸などの分子との反応によって引き起
こされる。生体内には種々の抗酸化剤が存在し、活性酸素・フリーラジカルを速やかに消去し、
老化を防いでいる (図1参照)。ビタミンE(α-, β-, γ-, δ-TocH)(図2参照)は代表的な抗酸化剤とし
て知られ、主に生体膜中に存在して抗酸化の役割を果たしている。また、生体膜中で脂質過酸化
ラジカル(LOO・)との抗酸化反応により生じたEラジカル(α-Toc・, β-Toc・, γ-Toc・, δ-Toc・)は、
更にビタミンC (Vit C)、ユビキノール (UQ10H2)、カテキンなどの抗酸化剤によって還元・再生さ
れることが知られている。しかしながら、Eラジカルが不安定であるために、再生反応の詳細な研
究はこれまで行われていない。そこでStopped-Flow分光光度計を用い、下記の1)ビタミンE再生
反応、および、2)ビタミンEラジカル生成・消滅反応、の速度論的な研究を行なった。
1) ビタミン E (α-, β-, γ-, δ-TocH) 再生反応の研究
Double Mixing Stopped-Flow法を用い、抗酸化反応によって生じたビタミンEラジカルとビタミン
C (Vit C, Na+AsH-)、ユビキノール、カテキンの反応速度 (kr) の測定を試みた。フリーラジカルと
して安定なAroxyl (ArO・)ラジカルを用い、ArO・ とビタミンEとの反応 ([1] 式) を行い、2秒後
に、生成したビタミンEラジカルとビタミンCを反応させ、[2]式のビタミンE再生速度 (kr) の測定
を試みた。その結果、最も不安定なδ-Toc・ を除く、3種のビタミンEラジカルとの反応速度の値
を求めることに初めて成功した。表1に示すように、kr の値は、ビタミンC>ユビキノール
k1
HO
ArO・ + TocH → ArOH + Toc・
[1]
kr
O
+
+
Toc・ + Na AsH → TocH + Na As ・
[2]
α-TocH
R
HO
天然抗酸化剤による生体老化防御のスピンダイナミクス
光
連鎖反応
的脂質過
酸化
喫煙
LOO⋅
+ O2
L⋅
LH
活性消去
HO
OH
H
O
3
OH
ビタミンC
O
H
OH
R
O
ビタミンE・ビタミンC・ユビキノール・
フラボノイド・カテキン
ビタミンE
HO
OH
カテキン
HO
天然抗酸化剤
天然抗酸化剤
フリーラジカル
図1
β-TocH
心臓病・ガン・老化
心臓病・ガン・老化
LOOH
消去
活性酸素
R
O
O
HO
HO
血液・生体膜・食品中に広く存在し、
活性酸素・フリーラジカルの消去作
活性酸素・フリーラジカルの消去
用を行っている。
OH
O
これまでの
研究成果
O
天然抗酸化剤の作用機序の解明
①活性酸素・フリーラジカルの消去活性の速度論的評価
図1.
γ-TocH
HO
②抗酸化反応の構造活性相関と反応機構の解明
20
R
O
δ-TocH
R = C16H33
図2.ビタミンEの
構造
表1 EtOH : H2O = 5:1 (v/v) 混合溶液中における、ビタミンC、ユビキノール、カテキンの
ビタミンE再生速度 (kr)、活性化エネルギー (Eact)、頻度因子 (A)
ビタミンC (Na+AsH-)
o
kr (25 C)
-1 -1
α-Toc・
β-Toc・
γ-Toc・
Eact
ユビキノール(UQ10H2)
log A
kr (25 C)
Eact
log A
log A
M s
kJ/mol
M s
M s
kJ/mol
M-1s-1
2.73×106
3.37
7.41
2.35×105
9.01
7.32
4.77×102
28.1
7.60
6.87×10
5
18.6
9.19
6.27×10
5
18.9
8.77
3.81×10
6.37
11.32
-1 -1
Eact
M s
6
-1 -1
kr (25 C)
kJ/mol
3.92×10
-1 -1
カテキン
o
M s
6
-1 -1
o
>カテキン、となり、ビタミンCが最も速い値を示した。また、kr (α-Toc・) < kr (β-Toc・) ~ kr (γ-Toc・)
となり、電子受容性が高いと考えられる Toc・ が速い速度を示した。
2) ビタミン E ラジカルの生成・消滅反応の解析
Single Mixing Stopped-Flow 分光光度計を用いてα-, β-, γ-, δ-TocH によるArO・ の消去速度 (k1)
を求めた(表 2)。k1 の値はPhenol 環における電子供与性のメチル置換基の数の減少の順に遅くなる
(α- > β- ~ γ- > δ-TocH)。 ArO・との反応によりToc・ が生成される (反応式 [1])。得られた
Toc・ 類の可視吸収極大値 (λmax )とモル吸光係数 (ε) を表2に纏めた。生じたToc・ ラジカルは2
量体化反応により消滅すると考えられている (反応式 [3])。従って、[ArO・] と [Toc・] の濃度の
時間変化は [4]、[5]式で表せる。[ArO・] = x、[Toc・] = y、[TocH] = z、-[ArO・] + [TocH] = -[ArO・] t =
0+
[TocH] t = 0の関係を用いると、[4]、[5]式は x、yの連立微分方程式になる。4次のRunge-Kutta法
を用いて数値解を求め、実測の [Toc・] の時間変化との比較からkdの値を求めると、表2に示した
値が求まる。ビタミンEラジカル類は何れも2量体化反応により減衰し、γ-Toc・ の減衰速度 (kd)
の値はα-Toc・ に比べて、約一桁大きいことが分かる。
k1
ArO・ + TocH →ArOH + Toc・
[1]
kd
Toc・ + Toc・ → (Toc)2
[3]
- d[ArO・] / dt = k1 [TocH] [ArO・]
[4]
- d[Toc・] / dt = – k1 [TocH] [ArO・] + kd [Toc・]2
[5]
更に、ビタミンEとビタミンCの混合溶液と、 ArO・ との反応を行い、ArO・、ビタミンE、Cラ
ジカルの生成・消滅反応を追跡した。次に、ビタミンC (Na+AsH-) によるビタミンE再生反応が関
与するこれらの反応の3元連立微分方程式の解を、4次の Runge-Kutta 法を用いて求めた。この
結果からビタミンEとCラジカルの生成・消滅ダイナミクスに関する検討を行なった。
表2 EtOH 溶液中、25oC における、ArO・ 消去速度 (k1)、Toc・ の2量体化反応速度 (kd)、
Toc・ の可視吸収極大値 (λmax )とモル吸光係数 (ε)
α-Tocopheroxyl
β-Tocopheroxyl
γ-Tocopheroxyl
δ-Tocopheroxyl
k1 / M-1s-1
kd / M-1s-1
λmax / nm
ε / M-1cm-1
5.17×103
2.23×103
428
4800
2.29×10
3
2.06×10
3
431
1600
2.21×10
3
1.94×10
4
432
1300
0.86×10
3
21
【特別講演, P23】
植物へのストレスに応答する生体スピンのダイナミックス
生物ラジカル研究所
大矢博昭
目的
植物は光、風、気温、湿度、力などの
環境ストレスに対して非常に敏感であり、
ビタミンC
本研究の目標
動物のような回避行動が取れない代わり
ESR観測
ポリフェノール
◎ 低温ストレス
に、特有の環境ストレス応答機構及び防
?!
御機構を有する。本研究では植物の生理
◎ NO2
機能を、生体内スピンを通じて明らかに
?
し、さらに、各種ストレスを有効に利用
?
◎
して、遺伝子制御をも含めた、植物の生
活性酸素
スピン試薬
Ca
2+
ラジカル
PO
Oxidative Burst
O2 電子 O ・2
HO・
Ca
2+
NADP+
CaM PK
PLA 2
X
NADPH
葉緑体
?!
性物質生産、高機能作物を育種すること
◎ MV
を最終目的とする。その為に、1)In vivo
全身的シグナル
H 2 O2
ペントースリン酸回路
O2
O 2・
脂質
変性
遊離脂肪酸
脂質過酸化 アポプラスト
(細胞外空間)
1
理機能制御を行い、植物体内での生理活
リグニン化
NADPH
酸化酵素系
受容体 G
光
ヒドロキシラミン
シンプラスト
LOOH
フィトアレキシン
グルカナーゼ
キチナーゼ
mRNA-DNA
防御遺伝子発現
(生きたまま) および in situ(その
◎ 酵素・阻害剤の効果?
場)で計測可能な ESR 計測法を研究する。 図 1
植物は環境ストレスに敏感で測定時に
植物のストレス信号伝達機構と本研究の目標
原形質膜
は対象外ストレス負荷を最小限にした計測法を開発する必要がある。本研究所で培ってきた in
vivo ESR技術[1,2]を展開した、現場での計測が可能な可搬型 In vivoESR装置を試作する。
2)各種蛋白・酵素の阻害剤・拮抗剤を併用して、ストレスに基づく信号伝達機構を調べ、生体内
スピンの果たす役割を解明する。
研究成果
制御器
1)植物用 700MHz 可搬型 ESR 装置の開発研究
当該装置を小型化するために、1) 700MHz 帯 VCO を用いてシングルループで周波数を制御
する発振器を採用した、2)磁石の小型化を図るために、数種のヘルムホルツ型電磁石、永久
磁石、及びハイブリッド型磁石を試作した、3)植物測定用表面コイル型共振器を試作した。
2)植物のストレス応答特性
2.0E+04
気体暴露⇒
ス応答評価を目標に、植物葉に種々の
ストレスを負荷したときの投与スピン
試薬(C-PROXYL、G-TEMPO、)の挙動を
求め、植物のストレス応答特性を検討
した。まず、市販 X バンド ESR 装置
を用いて、コトネアスターの葉に傷つ
け等のストレスを負荷し、経時的シグ
ESR signal intensity (-)
in vivo ESR 法による植物のストレ
1.5E+04
二酸化窒素200ppm
オゾン0.05ppm
二酸化硫黄200ppm
二酸化炭素1%
1.0E+04
5.0E+03
0.0E+00
0
ナ ル 強 度 の 変 化 を 測 定 し た [3] 。
20
40
60
80
Time (min)
G-TEMPO は容易に細胞内に入り、ア
図2.気体曝露による信号の時間変化
22
100
スコルビン酸によりヒドロキシルアミン体に還元された。当還元体は主としてストレス応答に
より産生される酸素ラジカルにより酸化され、シグナル強度の増加として観測された。各種阻害剤
(EDTA、EGTA,BAPTA-AM,W-7,SOD,等)とG-TEMPOを併用することにより、道家らの主張する
シグナル伝達メカニズム(図 1)がin vivoの実験で確かめられた。つぎに、植物試料としてカイワ
レダイコンを用い、NO2、O3、SO2、CO2などの気体暴露系、強光照射系(±MV)、冷却スト
レス系[2]などで、投与スピンプローブ剤の挙動を低周波in vivo ESR法で追跡した結果、NO2、
O3の気体暴露系でC-PROXYLの急峻な信号増強を示し、植物体内が顕著に酸化的雰囲気になること
を見出した(図 2)。これは、ストレス負荷で活性酸素の発生を示唆している。また、光照射と組み
合わせた測定の結果、大気汚染による光の影響について興味ある知見が得られた。
3)酵素・阻害剤の効果
一般的に暗反応ではストレスに対応
BAPTA-AM群
EDTA-2Na群
対照群
9.40
してCa2+の細胞内への流入とそれに続
くNADPH酸化酵素系の活性化によるO2細胞外Ca2++捕捉剤EDTA、EGTA、2)細
胞内Ca2++捕捉剤BAPTA-AM(図 3)
、3)
カルモジュリン阻害剤W-7、等を添加し、
ESR信号強度への効果を調べた結果、
BAPTA-AM添加時のみ、図 2 のストレス
ESR Signal Intensity(-)
の発生が認められている。浸潤液に1)
9.20
9.00
8.80
8.60
8.40
応答が抑制された。これはNO2暴露に対
する応答機構は傷つけに対するそれと
8.20
0
500
は異なり、細胞内Ca2++のみが直接
1000
1500
Time(s)
NADPH酸化酵素系を活性化し、O2-の発生
図3
を促すストレス応答機構が働いている
ことが分った。これは植物に特異的で、
Ca2++捕捉剤の効果
O2
NO2
O 2-
EFハンドを有するgp91 同族体[4]が活
Gp91phox
homolog
性酸素発生に関与するものと思われる
(図 4)。
今後の研究計画
X
EF hand
近年、植物特有の信号伝達機構が明らかにな
ってきた。その中心的役割を果たすのが EF ハン
ドを有する gp91 同族体でその生理機構の解明は
緒についたばかりである。上記結果が本生理機
ER
Ca++
Plasma
Membrane
Ca++
Ca++
構を明らかにする手掛りであると予想される。
NADPH 酸化酵素阻害剤、SOD、カタラーゼ、等の
図4
新規な植物固有の信号伝達機構
添加による効果を計測し、典型的気体暴露であるNO2に関する実験で生理機能を明らかにし、
オゾン、SO2、光、その他の効果に展開を図る予定である。
引用文献
[1] M. Tada, et al, Chem. Lett., 2001:1122-1123.. [2] M. Tada, et al, BBRC 310, 72-77, (2003).
[3] M.Aoyama, et al, ITE Letters(in print). [4] M. Sagi et al, Plant Physiology, Vol. 126, 1281-1290 (2001).
23
【O01,P01】
分子およびナノ磁性体の合成と機能開拓
名古屋大学
阿波賀
邦夫
1. 序
静的な強磁性を追い求めた分子磁性研究が一段落した現状に鑑み、本研究では分子磁性体
特有の操作性や量子効果の深化と開拓を目指している。研究対象は、
(1)強いスピン-スピ
ンおよびスピン-格子相互作用をもつ有機ラジカルと、
(2)構造制御されたナノ磁性体の二
つに大別される。研究期間の半分近くを経た今、両研究とも物質合成の段階をほぼ終え、新
規物性開拓に向かいつつある。
2. 研究成果
(1) 環状チアジルラジカルにおける新規物性開拓
無機物と有機物の中間に位置するような環状チアジルラジカルやその類縁化合物を研究対
象に選び、新規物性開拓に努めている。この系のラジカルは、化学的安定性と強くしかも多
次元的な分子間相互作用を有することから、磁性、電気伝導性、光物性、熱物性など、すべ
てにおいてこれまでの有機ラジカル固体の概念を打ち破るような特性が期待できる。本研究
では、いくつかのラジカル誘導体やその分子間化合物を合成して物性測定を進めたところ、
特異な相転移や新しい強磁性的相互作用の発現機構を見出した。さらに、チアジアゾール環
をもつポルフィラジン化合物 TTDPzM (M=H2, Fe, Co, Ni, Cu, Zu)の結晶成長を行い、多形も含
めて8種類の結晶を得ることができた[1]。これらは、α, β, γ の3種類に分類することができ
M= H2
α
S N
N S
N
N
N
N
S N
α
Co
β
β
Ni
α
Cu
α
γ
γ
Zn
β
N
α-form (TTDPzNi)
N
M
N
N
N
Fe
N
N
N
β
N S
β-form (TTDPzZn)
γ
1 mm
γ-form (TTDPzCu)
図1
TTDPzM (M=H2, Fe, Co, Ni, Cu, Zu)の結晶構造
24
る(図1)。同様な骨格と安定性を有するフタロシアニンには様々な応用があるが、今後は、
チアジルラジカルを含めて、昇華性を活かした薄膜作りやそれに対するキャリアードープを
行い、有機エレクトロニクス素子としての展開を試みる。
(2)分子およびナノ磁性体の量子特性
分子スピン系に特徴的な操作性や量子性を実際の磁性体に持ち込もうとすれば、磁性体の
微小化は必要不可欠であろう。本研究では、既存の単分子磁石分子の物理化学的研究と、ナ
ノ球殻磁性体の研究を並行させることによって、量子効果などのナノ磁性体の特性を、機能
と呼べるまでに深化させようと試みている。
S=10 の巨大スピンをもつMn12 核クラスター[Mn12O12(RCO2)16(H2O)4](以下Mn12 と略記)
は、最も良くその特性が研究された単分子磁石分子である。本研究では、Mn12 中の1個の
Mn+3をCr+3に置換した系、つまりS=19/2 の半整数スピンをもつMn11Crの合成を試みたところ、
Mn12 とMn11Crがほぼ 1:1 で混ざった混晶が得られた[2]。これを用いて磁気測定を行ったと
ころ、その磁気異方性はMn12 のものに極めて近く、量子磁化トンネリングについても、Mn12
との差異はほとんどないことが明らかになった。さらに、外部磁場操作によって、Mn12 と
Mn11Crの磁化を独立して制御できることが分かった。これを用いて、双極子磁場下の磁化ト
ンネリングの存在を示した。
このような分子系の研究に加え、ナノ球殻形状の磁性体合成を試みた。ポリスチレン・ビ
ーズの表面に、コバルト水酸化物を均一沈殿させ、さらにそれらを煆焼させて、コバルトお
よび酸化コバルト(Co3O4)のナノ球殻磁石を合成した。直系は約 500nm、厚さは 40nm程度
である。コバルトはfcc構造で、ソフトな強磁性体だった。Co3O4はスピネル構造をもち、反
強磁性転移点以下で、格子欠陥に由来すると考えられる非常に大きな自発磁化が生じた[3]。
その他、鉄や酸化鉄、希土類酸化物についてもこのような形状を作ることに成功した。現在、
この形状に特有な特性を探している。
3.今後の展望
研究(1)(2)とも順調に計画を進めており、物質作成に関しては、予想通り、あるい
はそれ以上の成果が得られたと考えている。いくつかの系は、単一ナノ粒子計測や有機デバ
イス作成など、新しい展開が十分可能な段階に到達している。残された期間で、操作性や量
子効果について物性開拓をさらに進める。
4.文献
[1] M. Fujimori, Y. Suzuki, H. Yoshikawa, K. Awaga, Angew. Chem. Int. Ed., 42, pp. 5863-5865
(2003); Y. Suzuki, M. Fujimori, H. Yoshikawa, K. Awaga, Chem. Eur. J., 10, pp. 5158-5164
(2004).
[2] H. Hachisuka, K. Awaga, T. Yokoyama, T. Kubo, T. Goto, H. Nojiri, Phys. Rev. B, 70, No.
104427 (2004).
[3] H. Yoshikawa, K. Hayashida, Y. Kozuka, A. Horiguchi, K. Awaga, S. Bandow, S. Iijima, Appl.
Phys. Lett., in press.
25
【O02】
有機電荷移動錯体における光誘起相転移の超高速ダイナミクス
東京大学新領域創成科学研究科
岡本
博
光照射によって物質の電子構造やマクロな物性が変化する現象は光誘起相転移と呼ばれており、
最近の光物性のトピックスとなっている。本研究では、分子性結晶を対象として、光誘起相転移
の探索を進めている。分子性結晶は、その狭いバンド幅のために電子相関が重要であり、典型的
な強相関電子系の一つである。多くの分子性結晶は、異方的な結晶構造を持っており、その結果
生じる電子構造の低次元性と電子相関効果が絡み合うことにより、CDW や電荷秩序形成、スピン
パイエルス転移、中性イオン性転移、など特徴的な相転移を示す。これらの秩序への不安定性を
光で制御できれば、様々な光誘起相転移の実現が可能である[1-4]。
本講演では、有機電荷移動錯体で見出された光誘起逆スピンパイエイルス転移、および、光誘
起中性イオン性転移[4-6]について、スピン系の不安定性が関係した転移の超高速ダイナミクスに
ついて紹介する。
○光誘起逆スピンパイエルス転移
分離積層型の電荷移動(CT)錯体である K-TCNQ では、K から TCNQ に電荷移動が生じ、TCNQ
積層は half-filled の一次元電子系を形成する。TCNQ 分子上の大きなクーロン反発のため、系はモ
ット絶縁体となる。この系では、スピンパイエルス(SP)機構により TCNQ 積層は 395K 以下で分
子の二量体化を生じる。この SP 相において、パルス幅 100 フェムト秒のパルス光照射を行い、光
励起後のダイナミクスを調べた。図1に、反射スペクトル(上)とポンプープローブ分光法を用いて
測定した反射率変化のスペクトル(下)を示す。赤外域 0.35eV 付近にミッドギャップ吸収が生じて
おり、光キャリアが局在していることが示唆される。CT バンドの領域のスペクトル変化は、光キ
ャリア生成による bleaching から、光励起後 1ps 以内にもとの反射スペクトルの微分形へと移行し
ている(図1中青線)。また、反射率変化の時間変化(図2)には、コヒーレント振動が観測される。
これらの結果は次のように解釈される。光励起で生じる電荷移動によって、SP 機構により生じた
スピン一重項状態が壊され、その結果 SP 相が不安定となり、二量体化が一斉に開放される(逆
SP 転移)。その際、二量体化の開放に対応したコヒーレント振動が生じる。この系では、電子励
起がまずスピン格子相互作用を通して格子系の変化(二量体化の開放)を誘起し、その格子系の
変化によって電子状態変化(CT バンドのシフト)が生じることになる。
○光誘起中性イオン性転移
交互積層型CT錯体であるTTF-CAは、温度低下により中性(N)からTc=81Kでイオン性(I)へ転移す
る。I相では、格子はSP機構により二量体化する。この系のN相を光励起すると、励起後瞬時にI
ドメインが生成し、過渡的なSP不安定性によってIドメインの二量体化がコヒーレント振動ととも
に生じる(図3上)。図3下は、振動成分の拡大図である。この相転移では、分子間クーロン引力
26
に基づく電子系の価数不安定性が重要であり、光励起直後にN状態からI状態への電子系の高速な
変化が生じ、それに引き続いて格子系の二量体化が生じる点が特徴である。最近、二つのパルス
列を使うことによって、光誘起NI転移によって生じるコヒーレント振動を非線形に増幅できるこ
とが示された。この結果は、超短パルス光を用いた相転移制御の新しい切り口を与えるものとし
て興味深い。
(ここで紹介する研究は、以下の方々との共同研究による。松崎弘幸、若林
毛
剛、池上一隆、石
悠、岸田英夫(以上東大新領域)岩井伸一郎(東北大理)。)
[1] S. Iwai et al., PRL 91, 57401 (2003).
[2] H. Matsuzaki et al., PRL 90, 46401 (2003).
図2
[3] H. Matsuzaki et al., PRL 91, 17403 (2003).
0.1
[4] H. Okamoto et al., “Photoinduced phase
transitions Chap.6” ed. by K. Nasu (World
∆R/R
0.05
Scientific 2004).
[5] S. Iwai et al., PRL 88, 57402 (2002).
0
[6] H. Okamoto et al., PRB 70, 165202 (2004).
0.71eV
-0.05
0
図1
0.3
Pump
1.55 eV
0.2
0.1
0
0.15 photon/TCNQ
0
-0.02
-0.04
-0.06
0
0ps
1ps
5ps
20ps
0.5
1.0
1.5
Photon Energy (eV)
図3
3
Oscillatiog comp. (arb.u.)
∆R
0.02
10
K-TCNQ
R
∆R/R (x10 )
K-TCNQ
8
-2
Reflectivity
0.4
2
4
6
Time Delay (ps)
2.0
2
1
0
TTF-CA
0
-1
0
1
2
3
Time Delay (ps)
27
4
5
【O03,P07】
フォトクロミック化合物による多機能スピンシステムの創製
九大院工
松田
建児
ジアリールエテンは熱不可逆、高い繰り返し耐久性などの特徴を持つフォトクロミック化
合物である。ジアリールエテンは光異性化反応により、吸収スペクトルのみでなく様々な物
理的、化学的物性が変化する。これまでに我々はジアリールエテンの開環体と閉環体とでの
π共役の結合様式の違いによる、ジアリールエテンの両端に配置した 2 つの有機ラジカル間
の磁気的相互作用の光スイッチングについて報告してきた[1]。ジアリールエテンで連結され
た2個のニトロニルニトロキシド間の磁気的相互作用はフォトクロミック反応により、150
倍以上のスイッチング効率で光スイッチされることを明らかにしてきた。
しかし、ワイヤー分子を用いたシグナル伝達では、ジアリールエテン両端の共役鎖が長く
なるとワイヤー部分の HOMO がオリゴマーの中心部分に集まってくるので、HOMO の軌道
はジアリールエテン部分からはずれ、光反応量子収率が著しく低下するという問題点も明ら
かとなった。
そこでスイッチングユニットはオリゴマーの中央に配置し、外側にスイッチ部分をつなげ
る設計をとると良いことを着想した。具体的には、新しい ON-OFF 逆転系の分子として 1a-3a
について検討を行った[2]。これらの分子では、開環体では共役がつながっているためにラジ
カル間の磁気的相互作用の強い ON 状態を取っているが、閉環することにより共役が sp3 炭素
により切れ、相互作用の弱い OFF 状態を取ることが期待される。
F2
F2
S
O
N
F2
F2
O
N
Me
S
N
O
2a
N O
F2
N
F2
S
O N
2b
N O
F2
365 nm
F2
OMe
S
578 nm
S
3a
O
N
O N
N
O
O N
F2
F2
OMe
S
N
N
28
N
O
F2
Me
N
F2
S
N
S
S
O
O
O
N
1b
578 nm
S
N
F2
Me
N
O
365 nm
F2
N
F2
F2
Me
O
S
O
N
F2
S
O
578 nm
N
O
1a
F2
365 nm
3b
N
O N
合成した 1a-3a の光反応性について調べたところ、これらの光反応性は分子構造によって
顕著な違いを示すことが明らかとなった。2つのニトロニルニトロキシドを両端のベンゼン
環のパラ位で置換した 1a では、紫外光照射時の変換率が非常に低かったのに対してベンゼン
環のメタ位に置換した 2a では 58%であった。これは 1a では、両端のニトロニルニトロキシ
ドが、キノイド構造をとりうる形でつながっているので、開環体の電子状態が変化している
ためだと考えられる。反応点のメチル基をメトキシ基で置き換えた 3a では変換率は 82%ま
で向上した。これは、メトキシ置換することで、開環反応の量子収率が抑えられたために変
換率が高くなったためと考えられる(図1)。
3a のフォトクロミック反応に伴う ESR スペクトル変化を測定した(図2)。開環体では2
つのイミノニトロキシド間に超微細構造定数より大きい交換相互作用が観測されたのに対し
て、閉環体では sp3 炭素によってπ共役が切断されているために、交換相互作用は観測されず
に、孤立した2つのイミノニトロキシドの ESR スペクトルを示した。線形のシミュレーショ
ンから見積もったスイッング効率は 150 倍以上であった。
このように長い共役鎖に対応可能なスイッチ分子を構築することができた。この分子はジ
アリールエテンのもう一方のアリール基部分にフリーなサイトが残っているために、更なる
拡張が可能である。
a)
Absorbance
7 lines
a)
0.1
b)
0.05
c)
0
300
400
500
600
700
800
13 lines
d)
Wavelength / nm
b)
0.8
e)
Absorbance
0.6
f)
0.4
7 lines
g)
0.2
3260
0
300
400
500
600
700
800
3280
3300
3320
3340
3360
Magnetic Field / G
Wavelength / nm
図1 a) 2a b) 3a の酢酸エチル中での紫外可視吸収スペクトル
図2 3a のトルエン中でのESRスペクトル
(実線) 開環体、(点線) 閉環体、(破線)365 nm 照射時の
a) 閉環体 b) 578 nm 光5分照射 c) 7分照射 d) 10 分照射
光定常状態
e) 365 nm 光1分照射 f) 3分照射 g) 5分照射
[1] K. Matsuda, Bull. Chem. Soc. Jpn. in press (Accounts).
[2] N. Tanifuji, K. Matsuda, and M.Irie, in preparation.
29
【O04,P08】
スピン分極ワイヤーで金ナノ粒子を紡ぐ
-その特異な導電挙動にみられる量子効果-
(東大院総合)菅原正
局在電子と伝導電子が共存する新規な分子磁性体を構築することは、現在の分子磁性の研究におけ
る最も挑戦的な課題の一つである。この目的の上で、我々は、金属的性質を示す極限である 4 nm の平
均粒径を持つ金ナノ粒子と、スピン分極したナノメートルサイズの分子ワイヤーからなるネットワー
ク構造を構築する事を試みた。
金ナノ粒子の電子構造は粒子の大きさに依存し、粒径 4 nmのナノ粒子は、520 nmにプラズモン吸
収を示すことから金属的な伝導特性を有するものの、電子1個が増えることによるチャージングエネ
ルギー(Ec = e2/C)が約 60 meV と大きく、室温における熱エネルギー(kBT, ca. 20 meV at 300 K)を上
回る。このような金ナノ粒子は、実際にSTMを用いたトンネル電流の計測で階段状のI-V特性が
観察されており、単電子トランジスターとして研究対象となっている。
一方、我々は分子の両末端にチオール前駆体である
ジスルフィド基が置換したピロール・チオフェン系ス
ピン分極ワイヤー2を合成している。このπ分子ワイ
ヤーは、局在スピンによってスピン分極を受けている
ため、分子レベルのスピンエレクトロニクス素子と見
なすことが出来る。この分子ワイヤーの両末端のジス
ルフィド基が金表面で還元的に開裂し、チオール基と
なって金表面に化学吸着することで、金ナノ粒子や金
電極の間を橋渡しできれば、分子を通るトンネル電流
を計測することが可能と考えられる。
X
X=NN
X=NN
Y
N
S
S
Y
X=
O
O
Y=H
1
Y=SShex
2
Y=SShex
3
図 1. ピロール型スピン分極ドナー1,分子
ワイヤー2およびスピンレスワイヤー3
このスピン分極ワイヤー2を、2 µm
の間隔を持つ櫛型の金電極の上で、
TOAB で保護された平均粒径 4 nm の金
ナノ粒子と混合し、
一晩静置することで、
電極を繋ぐ構造体の形成が認められた。
実際に、スピン分極ワイヤーが多数の金
ナノ粒子を連結し、金電極の間が橋渡し
されたことがわかる。さらに、電界放射
図 2. ネットワークの FE-SEM 像 (左)、および TEM 像(右)
型走査電子顕微鏡 (FE-SEM)による観
察から、用いた金ナノ粒子の粒径は、4 nm であるのにも拘わらず 100 nm のクラスターが形成され、
さらにそれがネットワーク化するという、階層性のある構造体であることが分かった。透過型電子顕
微鏡(TEM)より求まった粒子間隔は 1.8 nm であり、分子ワイヤーの長さ 1.6 nm とほぼ一致した。同
じ条件でネットワークを調製し、磁化率を測定したところ、χT 値とその温度依存性から、その磁性が
常磁性的であることと、1個のナノ粒子に対して平均30本のスピン分極分子ワイヤーが置換してい
ることが明らかになった。
30
次に、櫛型電極上に形成されたネットワークの導電特性の検討を行った。試料の抵抗値は、温度変
化に対して数桁にわたる変化を示すため、20 MΩの抵抗を直列に接続し、1V の定電圧を印加するこ
とで、試料にかかる電圧を常に1V 以下、電流値を 50 nA 以下に制限した。その上で試料にかかる電
圧をマルチメータで検出し、抵抗値を算出した。温度制御は Quantum Design 社の MPMS-5XL を用い
た。
アレニウスプロットを行ったところ、ほぼ同じ長さのアルカンジチオールで形成されたネットワー
クが直線的なプロットを与えるのに対し、π共役型のワイヤーで連結されたネットワークは、高温部
(T> 40 K)においては直線的であるものの、低温部(T<40 K)では大きく直線から外れ、非線形
なプロットを与えた。さらに、極低温にかけて傾きが急激に減少してほぼ水平となり、コンダクタン
ス(抵抗の逆数)の温度依存性がほとんど無くなることがわかった。この際、高温部における活性化
エネルギーは約 16 meVであり、ワイヤー分子のバンドギャップ(3.5 eV)に比べて圧倒的に小さく、
むしろ金ナノ粒子のチャージングエネルギーに近い。このことは、高温部においては、金ナノ粒子間
のホッピング伝導が支配的であることを示している。このネットワークにおいては、個別の金ナノ粒
子間の抵抗値が抵抗量子(ca. h/e2 =26 kΩ)を大きく越えているため、金ナノ粒子が量子ドットとして動
作し、金ナノ粒子間の電子ホッピングが電気伝導を支配していると考えられる。一方、このような多
粒子系において、コンダクタンスの温度依存性が非線形となる原因は、通常バリアブルレンジホッピ
ングモデルで説明されるものの、今回のような極低温においてホッピングが生じることは考えられず、
特にコンダクタンスが一定値に近づくことは説明できない。オリゴチオフェンのHOMOのエネルギー
(-5.29 eV)が、金のフェルミエネルギー(-5.1 eV)と近いことからも、コンダクタンスの傾きの減少は、
トンネル伝導の寄与によるものと考えられる。このような多粒子系におけるトンネル伝導は、複数の
粒子間のコトンネリングと考えられ、理論的
にも大変興味深い。
低温領域において、スピンレスのワイヤー
の コンダクタンスがほぼ一定値に近づくの
に対し、スピン分極型の分子ワイヤーネット
ワークでは、温度の低下とともにコンダクタ
ンスが下がりつづける挙動を示した。このこ
とは、局在スピンの存在により、トンネル伝
図 3. 低温域の抵抗値の温度依存性 : スピンレスネット
導が乱されている可能性を示唆している。
ワーク (青),スピン分極ネットワーク (紫)
そこで、この回路に 4.2 K で磁場の印加を
行った結果、スピンレスネットワークでは磁
場の印加とともに抵抗値が上昇する正の磁
気抵抗を示したのに対し、スピン分極ネット
ワークでは、逆に抵抗値が低下する負の磁気
抵抗が認められた。外部磁場によって局在ス
ピンの向きが揃うことで、ワイヤー部の電子
の散乱が抑えられたためと解釈される。
図 4. 磁気抵抗測定 : スピンレスネットワーク (左),
スピン分極ネットワーク (右)
以上の結果により、有機分子の局在スピンと伝導電子が相互作用することが初めて示された。ネッ
トワークの電子輸送機構及び磁気抵抗効果の詳細についてはいまだ完全に理解されてない部分がある
ものの、分子スピンエレクトロニクスを開拓する基礎として重要な知見が得られたといえよう。
31
【O05,P09】
逆ミセル法を用いたプルシアンブルー型 Fe/Cr-CN-Co
錯体ナノ微粒子の合成と物性挙動
北陸先端大
山田
真実
始めに
一般的に組成式がAk[B(CN)6]l · mH2O(A,
B : 遷移金属)を取るプルシアンブルー型錯体
Co NC M
N
C
C
N
M CN Co NC M
(a)
は、エレクトロクロミズム、強磁性体、光誘
C
N NC
Co NC
起磁気相転移など多彩な3次元金属錯体結晶
して着目を集めているが、現在までの物性検
討はマイクロオーダーのバルク状態であった。
C
N
N
C
M CN Co
N
C
6 ~10 nm
M = Fe, Cr
: H2N(CH2)17CH3
本研究は、プルシアンブルー型錯体のナノ微
粒子化手法の確立とそれらの物性挙動を明ら
図 1 stearylamine に保護された Fe/Cr-CN-Co
錯体ナノ微粒子.
かにすることを目的とした。今回は、非イオ
ン性界面活性剤による逆ミセル法を用い、有機配位子stearylamine(SA)で表面保護された
Fe/Cr-CN-Co型錯体ナノ微粒子の単離を行なった(図1)。合わせて金属組成制御を行い、そ
れに伴う物性変化を検討した。
合成
0.4 M polyethylene glycol mono 4-nonylphenyl ether (NP-5: HO(CH2CH2O)5 C6H4C9H19) / cyclohexane溶液2 mLに対し、0.1 M K3[X(CN)6](X = Fe and/or Cr, Fe:Cr = 1:0 (1), 3:1 (2), 1:1 (3), 1:3
(4), 0:1 (5))水溶液70 µL、又は0.1 M CoCl2水溶液70 µLを加え、逆ミセル溶液を生成した。作
製した二種の逆ミセル溶液を混合、3時間反応させ、金属イオンに対して5等量のSAを加え更
に1時間攪拌した。反応溶液に過剰のメタノールを加え再沈、濾物を真空乾燥することによ
りSA保護Fe/Cr-CN-Co型錯体ナノ微粒子を得た。合成物の各種物性測定(TEM, TGA, ICP, 元素
分析, FT-IR, UV-Vis, XRD, SQUID)を行った。
結果と考察
TEM像から合成したFe/Cr-CN-Co錯体ナノ微粒子1-5は、約6
-10 nmの粒子径を有し、特にFe、Coのみで構成された微粒子
1は、特徴的なキュービック形を示した(図2)。XRDパターン
は、バルク錯体と比較すると微粒子化によりブロードニング
を起したが、回折ピーク位置と格子定数はバルク錯体と一致
し、典型的なfcc構造であった。ナノ微粒子の組成分析を行っ
たところ、反応時の錯体濃度比によって金属組成制御が可能
32
50 nm
図2
化合物 1 の TEM 像.
であることがわかった。保護剤のSAは、Coに対して0.4-0.6であり、これはSAが粒子径6 nm、
格子定数10 Åと仮定した際の微粒子表面に存在するCoサイトの割合0.5にほぼ一致すること
から、SAが微粒子表面のCoサイトと1:1の錯形成反応で保護機能を果たしていることが示
唆された。
Fe/Cr-CN-Co錯体ナノ微粒子1-5は、表面の疎水性SA保護基によりクロロホルムやTHFなど
低極性溶媒に再可溶し、Cr成分が増すにつれて赤紫色からほぼ無色に変化した(図3)。それら
の色変化は、UV-Visスペクトルからも明らかであり、
Fe-CN-Co型錯体ナノ微粒子1はFeII-CN-CoII (還元サ
イト)およびFeIII-CN-CoII(LS相)に由来する極大吸
収波長(λmax)を各々375 nmおよび545 nmに示すのに
対し、Cr-CN-Co型錯体ナノ微粒子5では可視光部位
II
に目立った吸収は観察されなかった。Fe -CN-Co
II
(還元サイト)に由来するλmaxと錯体ナノ微粒子中に
1
図3
2
1.6
ることから、ナノ微粒子中に金属成分が偏り無く均
1.2
一に分散していると考えられる。IRスペクトルでは、
0.8
2854 cm–1、 錯体架橋配位子のシアノ基伸縮ν (CN):
2050 ~ 2242 cm–1が現れた。磁性特性では、Cr成分が
Co成分比の約75%以上になる錯体ナノ微粒子4お
よび5において、強磁性を示した。4および5の転移
温度(Tc)は各々16 K、30 Kで、Cr成分が増加するに
4
5
化合物 1-5 の TEF 溶液.
含有するCr成分比をプロットすると、ほぼ直線に乗
保護剤に由来するν (NH): 1475 cm–1とν (CH): 2930,
3
0.4
0
0
15 30 45 60
Temperature / K
図 4 化合物 1 (青), 2 (赤), 3 (黄), 4 (緑)
および 5 (黒)の磁化率-温度依存性.
つれてTcおよび磁化率が上昇した(図4)。
今後の研究計画
新規な錯体ナノ微粒子合成法を目指し、逆ミセル法にカチオン性(セチルトリメチルアン
モニウムブロミド)やアニオン性(AOT)界面活性剤に変化させることで、合成した錯体ナ
ノ微粒子の物理構造および物性の界面活性剤依存性を比較する。続いて、他種の配位子を保
護剤として導入し、物性変化の検討を考えている。
Reference
1) M. Yamada, M. Arai, M. Kurihara, M. Sakamoto, M. Miyake, J. Am. Chem. Soc. 2004, 126, 32,
9482.
2) S. Vausher, J. Fielden, M. Li, E. Dujardin, S. Mann, S. Nano Lett. 2002, 2, 225.
33
【O06,P15】
分子性強磁性体 CoC2 -その強磁性における水の役割-
分子研
目的
西條純一,西信之
構造が固定された金属系・酸化物系の磁性体と異なり,遷移金属錯体などの分子を構
成単位とする分子性磁性体は金属-配位子結合や配位子の配向などが比較的変化しやすいこ
とが知られている.構造的な変化は必然的にスピン間の相互作用を変化させることから,分
子性磁性体は外場や吸着分子等により磁性をコントロールできる可能性を秘めていると言え
る[1].しかし残念なことに,分子磁性体はスピン間をサイズの大きな分子で架橋しているた
め一般にスピン間の相互作用が弱く,結果として室温を超える転移温度を持つものは非常に
稀であり,実用上の大きな問題となっている.さて,強い相互作用を実現するには,スピン
を持つ遷移金属原子間をつなぐ配位子が小さいことが望ましい.クラスターの研究分野では
遷移金属と C2 ユニットからなる安定なクラスターが知られているが,この系は最小といって
も良いコンパクトな配位子 C22−と,磁性を担う遷移金属イオンからなる分子性磁性体と捉え
ることが出来る.つまり,この系をより大きなサイズで得ることが出来れば,優れた特性を
持つ磁性体となると考えられる.演者らは,これまで MC2 化合物の合成例がなかったことは
溶媒中の水や酸素による分解であると推測,それらを徹底的に取り除くことで初めて CoC2
の合成に成功するとともに[2],その磁気的性質および分子ゆえの特徴について研究を行った.
研究成果
【CoC2 の構造】無酸素・無水条件のグローブボックス中,無水の CoCl2 5.2 mmol と細粉化し
た CaC2 5 mmol を脱水アセトニトリル 300 ml 中に懸濁させ 78 ℃で 140 時間攪拌するとイオ
ン交換反応によりベージュ色の無水 CoC2 粉末が,またこの無水物を数時間大気に晒す,も
しくは水を含んだ溶媒で洗浄することにより黄色の含水物が得られる.TEM による観察から,
無水物はおよそ数十 nm 程度の単一ドメインのナノ粒子として,また含水物は粒子のサイズ
自体は無水物とほとんど変わらないものの,結晶格子が歪み数 nm 程度の非常に小さなドメ
インに分断されていることが明らかとなった.
それぞれの粉末 X 線パターンから推測される構造を図 1 に示す.無水物においては C22−の
配向は無秩序であり,等方的な fcc 型の結晶構造となっている.一方,含水物においては水が
入ることにより格子は二軸が異方的に伸長し,C22−はその面内に配向する.C22− の分子長軸が
特定の面内を向くためそれと直交する
とが期待される.またこの構造変化は
4.82 Å
でのスピン間の相互作用が強くなるこ
3.40 Å
一軸は逆に縮小しており,この軸方向
可逆的であり,真空中で加熱する事に
3.41 Å
より容易に水が脱離し,再び無水物を
3.41 Å
3.80 Å
3.80 Å
得ることが出来る.このような吸着・
図 1. 無水(左)および含水(右)CoC2 の構造(水は除く)
脱着による容易な構造変化は
無水物については,fcc 構造の一部のみを示した.
34
Co2+−C22−が緩く結びついているため C22−が容易に回転できるという点に由来しており,まさ
に分子性磁性体の特徴が表れた現象である.
15
【CoC2 の磁性】水による構造変化は磁性にも大きな影響
FC, H = 10 Oe
を与えることが予想される.そこで無水物および無水物
anhydrous
10 min
30 min
60 min
10
を大気に 10,30,
60 分曝露した CoC2 の磁性を測定した.
時の磁化率の温度変化を示す.無水物は高温で
Curie-Weiss 則に従う常磁性体,2 K 以下で小さな自発磁
化を示す強磁性体であるが,その Curie 定数は 1.1 emu K
/ mol と Co2+のもつ S = 1/2 のスピンから期待される値
χ / 10-3 emu g-1
図 2 に磁場中冷却(FC,10 Oe)およびゼロ磁場冷却(ZFC)
0.375 emu K / mol よりかなり大きい.これは 6-7 個程度
の Co
2+
5
0
3
が強磁性ドメインを形成し超常磁性的に振舞っ
2
ていることを示している.この超常磁性的挙動は C22− の
配向が乱雑であるということから説明できる.配向が乱
1
雑であるということは Co2+イオン間の相互作用も場所に
0
20
30
40
T/K
図 2. 水の吸収に伴う FC(上)およ
び ZFC(下)での磁化率の温度変化
より強い強磁性から反強磁性までさまざまな値をとって
いるはずであるが,このような相互作用の分布は強磁性
ドメインを各所で分断,超常磁性体化させるものである.
30
顕著に現れるようになる.Curie 定数は 1.1 から 2.8
20
振舞い始めるブロッキング温度が 2 から 15 K へと増
加する.これは水を吸収することで C22− の配向がそ
ろい,強磁性的な Co2+−Co2+間相互作用のパスが増え
ることによると考えられる.さらに,合成時の温度
を 100 ℃に上げさらにゆっくり水を吸収させること
で,大きな強磁性ドメインを持ち室温においても強
磁性を示す粒子を作ることにも成功している(図 3).
今後の計画
M / emu g-1
この無水物に水を吸収させると,強磁性的性質が
emu K / mol へと増加するとともに,強磁性体として
ZFC, H = 10 Oe
anhydrous
10 min
30 min
60 min
4
0
10
1.8 K
300 K
10
0
-10
-20
-30
0
0.5
H/T
図 3. 100 ℃にて合成した CoC2 の
1.8 および 300 K における磁化過程.
-0.5
CoC2 に限らず,Mn,Fe,Ni のアセチリド化合物の合成に成功している.これ
らは CoC2 に比べると水に対して不安定であり,未だその強磁性発現における水の役割は明ら
かではない.今後はごく微量の水を吸収させることによる磁性の変化を通し,これらアセチ
リド化合物においても水が強磁性発現に関係するかどうかを検討する.また構造変化だけで
はなく,結晶中での水の分子軌道そのものが強磁性に関与している可能性もある.そこで水
を含めた構造での電子状態計算を行い,C22−の配向および水の有無が相互作用にどのような影
響を与えているのかという点の解明を目指す.
[1] S. Kitagawa et al., Chem. Eur. J. 8 (2002) 3587 and D. Maspoch et al., Nature Mater. 2 (2003) 190.
[2] N. Nishi et al., Chem. Phys. Lett. 369 (2003) 198 and Eur. Phys. J. D 24 (2003) 97.
35
【O07】
磁性細菌が合成するバイオマグネタイトのキャラクタリゼーション
東京農工大学大学院 田中
研究目的
剛
磁性細菌が菌体内に合成するマグネタイト微
結晶 (バイオマグネタイト)は高度に形態制御された 50~
100 nmの粒子であり、単磁区構造を持つと考えられている。
バイオマグネタイトの形状・大きさは種特異的であり、磁
1 µm
性細菌Magnetopirillum magneticum AMB-1 株から得られる
マグネタイト微結晶は、粒子の1つ1つはhexagonal prism
(100)
構造を有しており (図 1)、脂質膜で被覆されている。近年、
マグネタイト結晶の形状制御を司るタンパク質、Mms6 が
見いだされており、マグネタイト結晶のナノレベルでの合
(111)
(111)
(010)
成制御が可能となりつつある。ここでは、磁性細菌M.
magneticum AMB-1 が生合成するマグネタイトの調製と物
性評価について報告する。
研究成果
各種バイオマグネタイトの調製
図1.Magnetospirillum magneticum
AMB-1及び、バイオマグネタイ
トの結晶構造
磁性細菌M. magneticum AMB-1 株の培養菌体をフレンチプ
レスにより破砕し、ネオジウム-鉄-ボロン磁石 (表面磁束密度: 0.5 T)によりバイオマグネタイ
トを磁気回収した。このバイオマグネタイトの粒径を粒度分布計、及び透過型電子顕微鏡観
察により評価したところ、
平均粒径 80 nmのマグネタイト微結晶を得られることが分かった。
また、抽出条件を改変することで 25nm, 45 nm, 65 nm, 75 nmの各平均粒径のバイオマグネタイ
トの調製が可能となっている。これら微粒子の電子線回折分析により、各微粒子がマグネタ
イト結晶構造を有していることが示唆された。また、バイオマグネタイトの一つ一つは脂質
膜で被覆されており、この脂質分析を行ったところ、ホスファチジルエタノールアミンを主
成分としたリン脂質二重膜で被覆されていることが示さ
れた。これらの結果、バイオマグネタイトは、4~6 nmの
リン脂質膜で被覆された微結晶であることが分かった。
さらに、チェーン状のバイオマグネタイト微粒子の調製
を行った。磁性細菌を磁気誘導によりガラス基板上に磁気
固定した後、飽和 NaOH エタノールに浸漬し、細胞膜等の
除去を行った。この基板を超純水で洗浄、風乾した後、
AFM 観察した。その結果、100 nm 以下のバイオマグネタ
イトがチェーン状に連なったものが磁力線に沿って配向
している様子が確認でき、チェーン状のバイオマグネタイ
ト調製が可能であることが示された (図 2)。
36
図2. 磁性細菌から分離されたチェーン
状バイオマグネタイトのAFMイメージ
バイオマグネタイトの磁気的性質
平均粒径 65 nm のバイオマグネタイトの
M / arb. units
0.6
H-M 曲線を図 3 に示す。この結果からこの
0.5
0.4
バイオマグネタイトは残留磁化を示すフェ
リ磁性体として挙動していることが示され
0.2
た。この性質は、バイオマグネタイトを被
0.1
覆するリン脂質二重膜の有無にかかわらず
0
-2000 -1500 -1000 -500 0
-0.1
保持されていた。また、各温度での交流磁
500
1000 1500 2000
H / Oe
-0.2
化率を測定した (図 4)。その結果、低温部
-0.3
では磁化率の周波数依存性がほとんど見ら
-0.4
れないものの、50K から室温までの高温部
-0.5
-0.6
では 300Hz 以上の高い周波数で顕著な減少
が認められた。これは、フェリ磁性体の磁
200 K
100 K
50 K
10 K
5K
0.3
図3. バイオマグネタイト (65 nm)のH-M曲線
極の反転が高周波数では追随できなくなった結果であると考えられた。
2.0
1.8
ブリングし、細胞の有機成分を溶解する
モーメントを有することが示された。カ
ンチレバーの磁場を反転させた場合に
その白黒シグナルが反転することから、
それらが磁気シグナルであると確認さ
れた。今後、磁性細菌の基板上へのアセ
ンブリングを磁気制御することで、バイ
M' / arb. Units (x 10-3)
ン状の微粒子がチェーンの両端で磁気
M'
6.0
1.6
ことでチェーン状の微粒子を調製した。
磁気力顕微鏡による解析の結果、チェー
7.0
5.0
1.4
4.0
1.2
3.0
1.0
0.8
10 Hz
0.6
M"
2.0
30 Hz
1.0
100 Hz
300 Hz
0.0
1000 Hz
0.4
0.2
0.0
0
50
100
150
200
T/K
250
300
M" / arb. Units (x 10-5)
また、磁性細菌を基板上に磁気アセン
-1.0
350
図4.バイオマグネタイト (65 nm)磁化率測定結果
オマグネタイトのチェーン長の制御が
可能であることが示唆された。
今後の計画
本研究成果により得られた各粒径のバイオマグネタイトの磁気的性質を解析し、量子サイ
ズ効果による磁気特性を示すバイオマグネタイトの探索、並びに調製条件を検討していく。
さらに、リン脂質の有無による各マグネタイト微粒子の磁気的性質への影響を評価するとと
もに、チェーン状マグネタイト微粒子や Mms6 タンパク質を用いて形状制御したマグネタイ
ト微粒子の磁気的挙動の動的変化を解析する。
37
【O08,P19】
高速磁場掃引ストップトフローESR 法による
生体関連短寿命ラジカルの検出と反応解析
京都工芸繊維大学
田嶋邦彦
【目的】生命活動の維持に関わる物質変換には、化学結合の切断と形成を伴う過程と、電子の移
動を伴う酸化還元過程に大別できる。前者の過程では、しばしば奇数電子を有するラジカル種が
反応過程に関与する。他方、後者の一電子移動過程では必然的に不対電子を有するラジカル種が
生成する。たとえば、脂質過酸化過程で生成する脂質由来ラジカル、その消去過程で生成するビ
タミン E および C ラジカルも生物ラジカルの代表例である。この他にも、酸素の還元的代謝過程
で副産する活性酸素種は、化学反応性の高い生物ラジカルである。これらの生物ラジカルは様々
な疾患との関連性が指摘され、その生理的な機能性が注目されている。我々は、生物ラジカルの
直接的な高感度検出を目指した装置開発を進めている。これまでに、流通型 ESR システムに高速
積算システムを組み込んだフローインジェクション ESR 装置を開発した。固定磁場条件で本装置
を使用すると、ニトロキシドラジカル水溶液の最高検出感度は 10nM の領域に到達した。さらに、
急速混合装置とフローESR セルを組み込んだストップトフローESR 装置を新規に開発し、デッド
タイムが約 25msec 以降でラジカル濃度の増減を検出できるシステムを構築した。反応後に生成す
る未知の不安定ラジカル種の ESR 信号を検出するには、このストップトフローESR 装置と高速磁
場掃引によるスペクトル測定を組み合わせる必要がある。本研究では短寿命生体関連ラジカル種
の直接検出を達成するための装置開発と反応解析を展開している。講演では、磁場掃引型ストッ
プトフローESR 装置の現状と可能性について紹介する。
【研究成果】生物ラジカルの生成と消滅の機構を検討するには、生物ラジカルを定量的に生成す
る反応系とその系で生成したラジカルと抗酸化物質を急速に混合する反応制御系、および生物ラ
ジカルを選択的に高感度かつ高速計測する検出系が必要である。我々は、高速積算機能を有する
新規 ESR 装置を検出系として、ラジカルの生成系と制御系を接続した複数の測定系を試作した。
たとえばストップトフローESR 装置(図1)は、シリンジ内に充填した試料をガス圧(0.8 Mpa)
でミキサーに噴出するため素早い混合が可能である(Dead time: 25ms)。試みとして、本システム
での混合には分光学などの類似装置で多用されている 4-ジェット型ミキシングセルを使用した。
このセルを ESR 装置のキャビティーに固定し、ストップトフロー装置からの送液停止直後から急
速磁場掃引を繰り返すことで、短寿命ラジカルの増減と ESR スペクトルの直接検出を試みた。現
状の ERS 装置では約 3.0mT の磁場幅を 500msec で高速掃引することが可能で、そのインターバル
は最短で 200msec である(図 2)。
水溶性のビタミンE誘導体であるtroloxの水溶液と、無機ニトロキシドラジカルであるフレミー
塩をヘリウム雰囲気下(pH10)で混合すると、フレミー塩のESR信号は急速に減少し(図 3.inset)、
その 2 次反応速度定数をおおよそ 102M-1s-1のオーダーと解析した。この反応系に新規の急速磁場
掃引型ストップトフローESR測定法(スナップショットESR)を応用すると、混合停止直後から 4
38
秒間にtorolox由来の中性ラジカルのESR信号が明瞭に検出され(図 3)、その後急速に消失する時
間変化ESR信号が得られた。水溶液中でビタミンE誘導体のESR信号(図 4)を強度よく検出した
観測例は比較的少なく、本測定法の短寿命生物ラジカル検出への有効性が支持された。このよう
に、急速混合装置と急速磁場掃引法を組み合わせた新規のESR測定法は、これまでに不安定で検
出が困難とされていた生物ラジカル種の検出と、その動力学解析に可能性をもたらした。今後は、
流通法と混合法を基盤とするESR計測法を様々な生物ラジカルを対象として応用し、生物ラジカ
ルの生成と消失に関わる素反応の動力学的な詳細を明らかにしたい。
磁場強度
送液停止
電磁石
Sample A
ESRセル
Mixer
Sample B
測定
時間①
Hb
測定
磁場 時間②
制御
電磁石
データ処理
装置制御
Ha
データ処理
データ処理
遅延時間
時間
図 1. ストップトフローESR 装置の構成
図 2. スナップショット ESR 測定の記録形式
フレミー塩の固定磁場ESR
Condition ;
Fremy’s salt 0.5mM (pH 10.0)
trolox 2.5mM (He2 gas)
Intensity
1000
2.0mT
掃引磁場領域
0
-1000
1.0
Time constant ; 3 ms
Sweep time ;3.6 mT/360ms
1.5
2.0
2.5
3.0
3.5
4.0
4.5
5.0
Time (sec)
図 3. フレミー塩と trolox のスナップショット ESR
図4.trolox の分子構造と反応 2 秒後に得られた中性ラジカルの ESR 信号
39
【O09】
環境ストレスによりもたらされる生体内ラジカル生成の
生体計測 ESR による解析
放医研
竹下
啓蔵
私たちの体は環境から様々な形でストレスを受けており、それによる多様な障害が報告されている。
その障害のメカニズムは環境因子により様々であるが、それらのあるものは物理的ストレス、化学的
ストレスを問わず活性酸素やフリーラジカルの生成が引き金となる酸化的ストレスであることがわか
りつつある。環境ストレスに曝されたときどのような活性酸素やフリーラジカルがどこで生成するか
がわかれば、これら環境ストレスによる様々な障害の予防に役立つものと考えられる。活性酸素やフ
リーラジカルは試験管内の研究から寿命が極めて短いことや、生成に酸素分圧が影響することがわか
っている。そのため、他の物質のように生体から抽出してから測定することはできず、in vivoでそれら
が生成されるときに生成される場所で測定することが望まれる。我々はプローブとしてニトロキシル
ラジカルを動物に投与し、これが酸素ラジカルとの反応で常磁性を失う様子を生体計測用ESR(in vivo
ESR)により測定することで、物理的あるいは化学的環境ストレスによる酸素ラジカルの生成を生きた
動物で解析してきた。これらの研究では非拡散性のニトロキシルプローブやサーフェイスコイル型共
振器の使用により、酸素ラジカルをそれが生成する場所で捉えてきた1, 2,)。
ディーゼル排気微粒子曝露による肺内ラジカル生成1)
ディーゼル排気微粒子(DEP)はコアの炭素とそれに付着した多環芳香族化合物や微量の重金属か
ら成り、喘息などのアレルギー、肺浮腫、肺繊維症、呼吸器がん発生リスクとの関係が報告されてい
る。DEPは試験管内ではそれ自身でO2 ・ - や ・ OHを生成することや、実験動物肺内への投与で肺に
8-hydroxydeoxyguanosine (・OHとDNAとの反応生成物)が増加することなどから、DEPによるラジカル
生成と上記肺障害との関係が推測されているが、その直接的証拠はない。
等張液に懸濁したDEPをマウス肺内に径気道的に投与し、1 日後にプローブとして膜非透過性のニト
ロキシルラジカルCAT-1(図 1)を同様に投与して
2.5
麻酔下 in vivo ESRにより胸部のESRを測定した。
Control
DEP投与マウスではコントロールの等張液投与マ
N (CH3 )3
CONH2
N
N
O・
O・
CAT-1
Carbamoyl-PROXYL
1.5
0
Ln (signal height)
2.0
+
DEP
5
10
15
20
min
図 2 マウス肺に投与した CAT-1 の ESR
図 1 スピンプローブの構造
シグナル消失に及ぼす DEP 処理の影響
40
ウスに比べ、肺内でのニトロキシルラジカルの消失が増加した(図 2)
。このシグナル消失速度の増加
は・OH消去剤をCAT-1 と共に投与すると投与量に依存して抑えられた。シグナル消失速度の増加はカ
タラーゼや鉄キレート剤デスフェリオキサミンの投与でも抑えられた。スーパーオキシドジスムター
ゼ(SOD)の投与ではシグナル消失が更に亢進したが、同時にカタラーゼを投与するとコントロール
のレベルまで抑えられた。これらのことから、DEPの肺内投与 1 日後では肺で・OHの生成が起きている
こと、この・OHはO2・-からFenton反応のような過酸化水素と鉄を介する経路で生じることが示唆された。
紫外線照射による皮膚でのラジカル生成
紫外線は 200〜280 nm の UVC、280〜320 nm の UVB そして 320〜400 nm の UVA に分類される。生
物作用の強い UVC や UVB のほとんどはオゾン層で吸収され通常地表には届かないが、1980 年代のオ
ゾンホールの発見によりこれら有害紫外線の照射量の増加が憂慮されるようになった。紫外線を実験
動物に照射すると日焼け、光老化、免疫抑制や皮膚がんの発生が見られ、その原因として活性酸素や
ラジカルの生成が挙げられている。しかし、紫外線照射下で生きた動物皮膚で如何なるラジカルが生
成するかに関する報告は今のところほとんどない。
皮膚におけるラジカル生成を調べるために carbamoyl-PROXYL(図 1)を麻酔下でヘアレスマウス
に静脈内投与した後サーフェイスコイル型共振器を用いて背部を ESR 測定した。Carbamoyl-PROXYL
の投与 5 分後から紫外線(UVA+B)を照射しながら測定すると、シグナルの消失が照射しない場合に
比べて明らかに増加した。この消失速度の増加は照射約 45 分前にスピントラップ剤 N-t-butyl-α
-phenylnitrone(PBN)やパーオキシルラジカルの消去剤を腹腔内投与すると抑制され、
・
OH消去剤の投与は効果がなかった。ESRシグナルの消失速度と皮膚の血液速度、血液量あるいは表面
温度との相関は低く、シグナル消失速度の増加がプローブの体内動態が変わったためではないことが示唆さ
れた。In vitroで調べたcarbamoyl-PROXYLの各種活性酸素・ラジカルとの反応性の結果を総合すると、ESRシ
グナルの減少速度の増加は皮膚で生じたパーオキシルラジカルによるものと考えられ、carbamoyl-PROXYLの
シグナル消失を指標に紫外線照射下でのラジカルの生成を皮膚で測定できることが示された。
今後の展望
ニトロキシルラジカルは短寿命ラジカルとの反応ばかりでなく種々の還元剤や還元酵素の作用によってヒドロ
キシルアミンとなり常磁性を失うことが知られている。これを利用することにより生体内の酸化還元(レドックス)状
態を in vivo ESR で非侵襲的に探ることも可能と思われる。今回用いたサーフェイスコイル型共振器に
よる局所検出法に加えて ESR 画像化法を用い、疾患モデルにおける生体内ラジカル反応並び
にレドックス状態の解析から疾患のメカニズムの解明やその予防・治療法の開発を目指して
いく予定である。
[1] J.-Y. Han, K. Takeshita and H. Utsumi, Free Radic. Biol. Med. 30 (2001) 516-525.
[2] K. Takeshita, T. Takajo, H. Hirata, M. Ono and H. Utsumi, J. Invest. Dermatol. 122 (2004), 1463-1470.
41
【P02】
反磁性磁化による細胞の動態制御
千葉大工
研究目的
岩坂
正和、
東大院医
上野
照剛
近年、再生医学の展開の中で生体細胞の制御に対する新しい技術の需要が高まっ
ていると考えられる。磁性ビーズを用いた細胞の形態誘導やマニピュレーション、常磁性液
体を用いた細胞パターニングなど、磁気を利用した細胞の動態制御に関する報告が多い。こ
れら生命科学における強・常磁性の利用は、将来の室温における分子磁性の制御技術が開発
された際の、生命科学における分子磁性のインパクトの大きさを予感させるといえる。
現在、数テスラ~10数テスラの超伝導強磁場が室温空間で生物実験に用いられるように
なり、様々な磁場の生体応用の報告が見られる。強微粒子等を特に与えずとも、生体構成成
分が外部からかけられた磁場によって獲得する弱磁性(反磁性)は、数テスラ以上の強磁場
下では無視できない効果を生じる場合がある。
本報告では、生体を構成する細胞が有する反磁
性物質(タンパク質(細胞骨格)や細胞膜)の磁
気異方性による磁場配向、そして反磁性または常
磁性を有する生体系物質の勾配磁場空間内での自
由エネルギーの差から生じる磁気力の効果を考慮
しつつ、反磁性磁化による細胞動態変化について
検討した結果を述べる。生体系における微弱な磁
化を細胞組織工学へ応用する可能性について考察
する。
研究成果
細胞の磁場配向による細胞集団形態の制御
これまでの研究で我々は付着系の細胞に8テス
ラ程度以上の磁場をかけながら数日間細胞培養す
ると細胞集団全体の配向方向が磁力線方向にそろ
う現象(細胞の磁場配向)を見出した[1]。
本研究ではさらに、細胞集団が形成するコロニ
ーの外郭形状に対する磁場配向の効果を可視化す
ることを試みた。図1は培養開始3日後の細胞コ
ロニーの形状を示す。磁場印加なし(0T)では
コロニー形状はほぼ円形であるのに対し、12 テス
ラ以上の磁場では肉眼でコロニー形状が磁力線方
向へ伸展する様子が肉眼でも観察された。
42
図1 細胞コロニーの形態に対する
強磁場の効果。12テスラ以上ではコ
ロニーの形状が磁力線方向へ伸展し
た。右側の拡大写真では、細胞(血管
平滑筋細胞)が磁力線方向へそろって
並んだ様子(磁場配向)が見られた。
図2 磁場中においてリアルタイム観察
した細胞(骨芽細胞)
。8テスラ磁場の磁力
線に平行に並びつつ、図の左右方向へ動く
様子が観察された。白い棒状の物体が1個
の細胞に相当する。磁場曝露開始600分およ
び960分後の暗視野像。
図3 磁場に応答する(磁力線方向へ並ぶ)
細胞成分。分子長軸に平行にαへリックスコ
イルを有するタンパク質は重合度が十分で
あれば磁力線に平行に並ぶ。この磁場配向し
たタンパク質重合体が細胞の形状を磁力線
に平行に誘導すると考えられる。
生体組織は、それを構成する細胞に配向性を持たせつつ機能を保持している場合(血管壁な
ど)が多い。強磁場で細胞の配向性しいては組織形状そのものを制御できる可能性が考えら
れる。
強磁場下での細胞の動態ダイナミクス 超伝導磁石の8テスラ空間で細胞像をリアルタイム
で長時間撮影するシステムを構築した。磁場中では細胞(骨芽細胞)が8テスラ磁場の磁力
線に平行に並びつつ、図の左右方向へ動く様子が観察された(図2)
。先行研究では3日間(3
回細胞が分裂じ増殖する期間)以上、磁場に細胞を曝した後でないと細胞の磁場配向は明確
に確認されなかったが、磁場中でのリアルタイム観察では細胞のダイナミクスにおける配向
性が確かめられた。細胞の磁力線に平行な配向の機構として、細胞骨格の成分に多く含まれ
るタンパク質のαへリックスコイル内部のペプチド基の反磁性磁化がペプチド面(図3の下)
に垂直な方向に最大値をもつことが挙げられる[2]。
今後の計画
生体構成成分の磁化率(分子全体の磁化率および反磁性磁化率異方性)の差による細胞や
組織の形態形成について研究を進める。これまで主に用いた水平磁力線に加え鉛直方向磁力
線による細胞動態変化、さらに空間勾配磁気力を重畳させた場合の細胞動態変化も検討する。
[1] M. Iwasaka, J. Miyakoshi, and S. Ueno, In Vitro Cellular & Developmental Biology – Animal, 39
(2003) 120.
[2] L. Pauling, Proc Natl Acad Sci U S A. 76 (1979) 2293.
43
【P04】
スピン集積体の磁気的局所構造と機能発現メカニズムの解明
北大院理
研究目的
武田
定、丸田
悟朗
磁性金属イオンに配位した有機配位子へのスピンの染みだしと電子スピン密度分
布は、単分子磁石も含む分子性磁性物質におけるスピン間の相互作用を決定する要因として
重要であるばかりでなく、磁性金属イオンを持つ酵素の特異な電子状態研究の重要な手がか
りになると考えられる。特にSやN原子を配位原子とする構造体は、酵素に多く見られ重要と
考えられる。本研究では、このような配位子上の電子スピン密度分布を、その符号も含めて
実験的に精密決定していく。さらにスピン集積体の磁気機能に注目し、原子価互変異性に基
づくスピンと電荷の動的ゆらぎと磁気物性、磁性体のナノ微粒子化による表面スピンの効果
や磁気秩序のサイズ効果などのメカニズムを解明することを目的とする。
研究成果
磁性金属イオンから複素環配位子へのスピンの染みだし
酵素活性中心に見られる磁性金属
の配位構造の特徴を表すキーワードとして(i)「歪んだ配位構造」
、(ii)「アミノ酸に含まれるイ
ミダゾール配位子」や(iii)「SやN原子を配位原子とする配位子」などが挙げられる。(i)を念頭
に 置 い て 、 Cu(II) イ オ ン が ピ ラ ゾ ー ル 配 位 子 (pz) で 架 橋 さ れ た [Cu(II)(pz)2]n(1) と
Cu(II)2(NO3)(pz)2(phen)2]NO3(2)に注目し、(ii)を念頭に置いてCu(II)イオンにイミダゾール分子
(Him)が配位した[Cu(II)(Him)2Cl2](3)に注目し、また(iii)を念頭に置いてSとN原子でCu(II)イオ
ンにキレート配意するAMTTOを持つ[Cu(II)(AMTTO)Cl2](4)などに注目し、それぞれの配位子
の固体高分解能2H-および13C-NMRスペクトルによりCu(II)イオンから配位子上に誘起された
超微細結合定数(電子スピン密度分布)を決定した。例として図1にAMTTO配位子の構造と
固体高分解能13C-NMRスペクトルの測定例を示す。このスペクトルのシフトの温度依存性か
ら決定したC1~C4 炭素原子上の超微細結合
定数は、密度汎関数法による計算によりほ
ぼ再現することができる。この結果、電子
スピン密度分布を可視化したものを図2に
示すが、S原子上に電子スピンが大きく流れ
込んでいるのがわかる。またこの錯体分子
はC(II)イオンの上下を隣接分子のS原子が
挟む形で積層しているが、磁化率測定の結
果、J= −15cm−1の一次元反強磁性鎖となって
いることがわかった。今後、さらに酵素に
図1 [Cu(II)(AMTTO)Cl2](4)の固体高分解能
13
C-NMRスペクトルとAMTTO配位子
近いモデル系や生体スピン関連物質などへ研究を展開していく。
Co, Mn/カテコール(Cat)・セミキノン(SQ)系のスピン・電荷ゆらぎ
溶液中で磁性金属イオ
ンと有機ラジカル配位子との間で電荷移動(原子価互変異性)を起こすことが知られている
[Co(3,5-di-t-butyl-1,2-benzoquinone)2(2,2'-bipyridine)](5)について(図3)、熱処理した安定結晶
相では原子価互変異性によるスピン・電荷ゆらぎが起こるが、再結晶で得られる純安定結晶
相ではこれが起こらないことを固体高分解能2H-および13C-NMRスペクトルにより示した。
44
Benzoquinone 配 位 子 の 固 体 高 分 解 能
13C-NMRスペクトルにより、この配位子が
スピンを持つSQかまたはスピンを持たない
Catかを見分け、重水素化したbipyridineの固
体高分解能 2H-NMRスペクトルによりCoイ
オンのスピン状態の温度変化を決定した。
図2 [Cu(II)(AMTTO)Cl2](4)の電子スピン密
度分布。右はより小さい値の等高面を示す。
この結果、図4に示すように低温で低スピ
ン状態である[CoIII(SQ)(Cat)(bpy)]でも、SQ
ラジカル状態と非磁性Cat状態とが速い交
換により平均化されていることを初めて実験的に示した。互変異性(電荷・スピンのゆらぎ)
が起こっても全スピンの大きさが変化しないMnの同
様な化合物については、磁化率測定ではこの現象をと
らえることは困難である。Co化合物と同様に、固体高
分解能2H-および13C-NMRスペクトルにより、このMn
系の有機配位子上のスピン変化とMn4+ とMn3+ のスピ
ン変化を微視的視点から独立にとらえることに成功し
た。またこの系についてもカテコール/セミキノン間の
速い状態交換を見出した。今後、電荷のゆらぎを誘電
分散測定によって観測し、また、一次元ネットワークな
図3
(5)の原子価互変異性体
averaged
どへと展開していく。
反強磁性体ナノ微粒子のコアおよび表面近傍スピンの
状態の解析
ネ ー ル 温 度 70K を 示 す 反 強 磁 性 体
ND4MnF3(6)のナノ微粒子(~30nm)の中心部分の電子ス
ピン状態と表面近傍の電子スピン状態とを重水素化し
たアンモニウムイオンの重水素核をプローブとした
SQ
Cat
NMR ス ペ ク ト
ルにより見分
けることに成
功した。反強磁
図4 固 体高 分 解能 13C-NMR
による(5)のSQとCatの平均化
の検出
性相における
アンモニウムサイトで見たナノ微粒子の中心部分の
内部磁場が 4.2Kではバルク試料のそれと一致する。
一方温度を上げていくと、バルク試料ではネール温
度の直下まで内部磁場が維持されネール温度の極近
傍で臨界現象が見られるのに対して、ナノ微粒子で
図 5
ND4 の D-NMR で み た
ND4MnF3(6) の 反 強 磁 性 相 に お け
る内部磁場。●はナノ微粒子のコ
ア、▲はナノ微粒子の表面近傍、●
はバルク試料(TN = 70K)。
は中心近傍の内部磁場も緩やかに減少していくとい
う違いを見出した(図5)
。表面近傍のスピンも、キ
ュリースピンとして振る舞うのではなく、弱い内部
磁場を持つような秩序を持つことがわかった。
45
【P05】
π共役スピン系の光励起状態を利用したスピン整列 (Ⅲ)
- 光励起有機高スピン系のスピンダイナミックスと、
CT 錯体を利用した機能性発現へのアプローチ -
阪市大院理
研究目的
手木
芳男
我々は、これまでに純有機π共役スピン系(有機磁性系)の光励起高スピン状態
の生成に成功し、光励起状態でのスピン整列の解明を行ってきた [1-4]。この研究成果を基に
光励起高スピン状態の動的性質を利用したπ共役有機磁性系における新しいタイプの分子間
スピン整列を達成し、有機磁性系における光誘起磁性の実現を目指しています。当面の目標
として、まず光励起高スピン状態の動的性質と電荷移動光励起高スピン系の基礎的性質を明
らかにする目的で(1)励起高スピン状態の寿命、(2)光励起三重項-ビラジカル系の特異
な光励起三重項状態と光誘起スピン整列、
(3)励起高スピン系を電子ドナーとする電荷移動錯
体の基礎的性質、について研究を行った。
研究成果
(1)及び(2)の結果に関しては、第2回の本領域の領域会議要旨に記載したので、ここ
では簡単にふれ、(3)の「励起高スピン系を電子ドナーとする電荷移動錯体の基礎的性質の研
究」を中心に報告する。また、昨年度依頼準備をすすめていた励起状態のパルス ESR を用い
た実験が、ごく最近パルスマイクロ波ユニット等を現有装置に追加することにより可能にな
ったので、当日はその結果も報告する予定である。
(1)及び(2)の結果
過渡吸収測定の信号強度の時間減衰から、励起高スピン有機分子
の高スピン状態の寿命は、77Kで数十μ秒程度であることが明らかになった。また、励起三重
項とラジカルとの分子内交換相互作
用の符合及び大きさがともに異なる
事が期待される位置にπ共役安定ラ
ジカルを付加した光励起三重項-ビ
J1 > 0
Triplet State
O
N
N
O
J2 < 0
N
ラジカル系1(図1)の電子状態に
ついて実験・理論の両面から研究し
N
1
Photoexcited
Triplet State
J1 > 0
Radical
J2 < 0
Radical
(S = 1)
laser
図1 符号と大きさの異なる交換相互作用を持つ特異な光励起三重項状態
た。この分子では、4つの不対電子
スピンから形成される特異な光励起三重項状態を最低光励起状態と、それに近接した励起五
重項状態が存在する事が解った。また、それらスピンハミルトニアンパラメータは、それぞ
れS = 1, D = 0.0360 cm-1, E = 0.0 cm-1及びS = 2, D = 0.0125 cm-1, E = 0.0 cm-1と求まった[5]。
(3)励起高スピン系を電子ドナーとする電荷移動錯体の基礎的性質[6,7]
図3には、適切な
位置への電子供与基(dimethylamino基)を導入する事により、電子供与性を高めた2の励起
四重項状態の時間分解ESRを示す。同様の光励起高スピン状態が分子3においても観測された。
この様に、励起高スピン状態をとる性質を保持したまま電子供与性のみを向上させることに
成功した[6,7]。この研究の結果、電荷移動励起高スピン系を実現する上での問題点
46
(a) Observed
Abs.
R
N
(b) Simulated
Emi.
R=
NN
N
O ,
NN
2
N
O
3
250
300
350
400
Magnetic Field / mT
図2 電子供与性を高めた分子
図3 分子2の時間分解 ESR
の1つを解決できた。また、Iminonitroxide系の分子とBenzoquinone-F4 (BQF4)とのCT結晶系
を単離精製することができた。図2にその拡散反射スペクトルを示す。この系は、非常に弱
い反強磁性分子間相互作用を示した。また、このCT
錯体系を極性剛体溶媒に希釈して測定した時間分解
O N
N
異常分極したESR信号が観測された。同様の信号が、
dimethylamino基の導入により電子供与性を高めた分
子3とTCNQとのCT錯体でも観測された。これらの信号
の由来は、ドナー-アクセプタ-間の電子移動と関連
Absorption / a.u.
ESRスペクトルには、微細構造の消失した 1 本の強い
O
F
F
F
F
O N
O
N
F
F
F
O
F
O
したものである可能性がある。現在、これらの信号の
由来と励起高スピン電荷移動系での励起状態におけ
る磁気的相互作用の解明を目的として、これらのCT
錯体系の過渡吸収スペクトルと、励起状態のパルス
400
600
800
1000
1200
Wave Length / nm
図 4 拡散反射スペクトル
ESRを用いた実験を計画中である。当日は、これらの結果に関しても報告する予定である。
今後の展望
今後、光誘起電子移動等と CT 結晶系の時間分解 ESR スペクトルとの関連を詳細に検討する
予定である。また、この光励起高スピン状態からの電子移動やエネルギー緩和を通じて基底
状態のスピン状態に変化をもたらす系を設計、構築していく計画である。また、分子内ドナ
ー-アクセプタ-集積型安定ラジカル系(電荷移動光励起高スピン系のモデル分子)を用いた
研究により、励起状態を介在した分子間相互作用とスピン整列および光誘起電子移動やエネ
ルギー移動を詳細に明らかにしていく計画である。最終的には、これらの知見をもとに、有
機スピン系での光誘起磁性を目指します。
[1] Y. Teki, S. Miyamoto, K. Iimura, M. Nakatsuji, and Y. Miura, J. Am. Chem. Soc., 122, 984 (2000).
Miyamoto, M. Nakatsuji, and Y. Miura, J. Am. Chem. Soc., 123, 294 (2001).
[2] Y. Teki, S.
[3] Y. Teki, M. Nakatsuji, and Y. Miura, Mol.
Phys., 100, 1385 (2002). [4] Y. Teki, M. Kimura, S. Narimatsu, K. Ohara, and K. Mukai, Bull.Chem. Soc.Jpn. (Selected
Paper), 71, 95-99 (2004). [5] Y. Teki and S. Nakajima, Chem. Lett., 33, 1500-1501 (2004).
Polyhedron, in press.
[7] T. Toichi and Y. Teki, Polyhedron, in press.
47
[6] Y. Teki and S. Nakajima,
【P06】
スピントラッピング法によりアルコキシアミニルラジカルの
合成と単離
大阪市大院工
研究目的
三浦
洋三・村中
義和
単離可能な安定ラジカルは有機磁性材料のみならず、リビングラジカル重合の
mediatorあるいは有機ラジカル電池材料などの研究でその重要性を増している。チオアミニル
ラジカルの酸素類似体であるN-アルコキシアミニルラジカルはこれまでにESRにより詳細に
検討されてきたが、ラジカルの単離に成功した例はなかった。しかし、最近、我々は 2,4,6トリ置換アニリンのリチウム塩と過安息香酸tert-ブチルの反応により生成するN-tert-ブトキ
シアリールアミニル ラジカル(図1)を収率 13-27%で単離することに成功した。このラジカル
は酸素と反応しない、熱的に非常に安定であるなどの特徴を備えている[1-4]。本合成法ではア
ニリンのリチオ化にブチルリチウムを用いるために、エステルやカルボニル基などの官能基
をもつラジカルの合成はできない。そこで、この問題点を克服すべく他の合成法を検討した
結果、スピントラッピング法を用いてトリ置換ニトロソベンゼンとアゾ化合物の熱分解によ
り生成させた 3 級ラジカルとの反応によりN-tert-アルキルアリ-ルアミニルラジカルを合成
する方法が有用であることを見出した。その結果について報告する。
NO
Ar
Ar
Ar
NO
Ar
NO
Ar
Ar
NO
Ar
研究成果
スピン トラッ ピング法に よる N-tert-ア ルキルア リ-ルアミ ニルラジカ ルの合成と 単離
N-tert-アルキルアリ-ルアミニルラジカル(1)の合成法をスキーム1に示す。反応は、ニトロ
ソベンゼンとアゾ化合物をベンゼン中、窒素雰囲気下、還流温度で加熱するという極めて単
純な操作で行なった。トリ置換ニトロソベンゼンとして 2,4,6-トリアリールニトロソベンゼン
(3a)と 2,4-ジ-アリール-6-tert-ブチルニトロソベンゼン(3b)を用い, アゾ化合物として 4a-cを
用いた。3aを用いた場合、アゾ化合物の構造に関係なくニトロキシド 2 が優先的に生成し、1
の生成はわずかであることが反応液のESRにより示された。一方、3bを用いた場合、目的の 1
が優先的に生成し、1 をカラムクロマトグラフィーにより分離後、再結晶すると赤色結晶が
27-49%の収率で単離された。結果を表 1 に示す。
1 の収率は用いたアゾ化合物の構造と 3b/4 の比に大きく依存し、4b と 4c は高い収率で 1
48
を与えた。
N O
Ph
R
N N
+
NO R
Ph
+
Ph
R
Ph
4
3b
1
Ph
CN OMe
R:
a=
COOMe
2
Ph
N R
O
CN
b=
c=
Scheme 1
Table 1
ニトロソベンゼン 3bとアゾ化合物 4 との反応による 1 の合成a)
run
4 (mmol)
mole ratio (3b/4)
time (h)
radical (yield/%)
1
0.40
2/1
4.0
1a (31)
2
1.59
1/2
4.0
1a (27)
3
0.79
1/1
0.5
1b (49)
4
1.59
1/2
0.5
1b (49)
5
0.79
1/1
0.5
a)
1c (49)
aN (mT)b)
gb)
0.993
2.0039
0.998
2.0038
0.988
2.0038
b)
3b 0.79 mmol; benzene 30 mL, temperature 80.℃. Solvent benzene.
単離した 1 の構造確認は元素分析とESRに
より行なった。元素分析の計算値は相当する
ニトロキシドと同じであるので、ニトロキシ
ドとの区別はESRにより行なった。また、ラ
ジカル 1bおよび 1cについて良好な単結晶が
得られたのでX線結晶構造解析を行った。1c
の 分 子 構 造 を 図 1 に 示 す 。 Torsion angle
O1-N1-C1-C2 は-158.1˚を示し、π共役系は少
Figure 1. 1c の ORTEP 図
しねじれていることがわかった。また、パラ
位のベンゼン環はアニリノベンゼン環と 35.9˚、オルソ位のベンゼン環は 97.1˚ねじれているこ
とを示した。
[1] Y. Miura and T. Tomimura, Chem. Commun., 2001, 627.
[2]
Y. Miura, T. Tomimura, N. Matsuba, R. Tanaka, M. Nakatsuji, and Y. Teki, J. Org. Chem., 2001,
66, 7456.
[3] Y. Miura, N. Matsuba, R. Tanaka, Y. Teki, and T. Takui, J. Org. Chem., 2002, 67, 8764.
[4] Y. Miura, T. Nishi, and Y. Teki, J. Org. Chem., 2003, 68, 10158.
49
【P10】
単分子磁石の合成
筑波大化
研究目的
二瓶
雅之
単分子磁石は、量子スピ
ントンネリングなどのメゾスコピック
O2
系に特有な量子物性を示し、かつ単磁
N
Mn
Cu
区磁石(ナノマグネット)としての性
Cl
Br
O1S O1
質を有することから、量子コンピュー
ター、量子デバイス、分子メモリーな
図 1.
[MnIIICuIICl(5-Br-sap)2(MeOH)] (1)
どへの応用が期待される物質系である。
単分子磁石の基底状態はエネルギー的に縮退した二つの状態(上向きスピンと下向きスピン)
からなる二極小ポテンシャルで表され、∆E = |D|Sz2の活性化障壁を有する。ここで、Sはスピ
ン量子数、Dは一軸性の磁気異方性を示すゼロ磁場分裂定数である。この活性化障壁により、
極低温・ゼロ磁場においては熱励起過程に由来する非常に遅い磁気モーメントの反転(磁気
緩和)と量子スピントンネリングが観測される。 演者はアルコキソ基をもつ三座配位子
5-bromo-2-salicylideneamino-1-propanol (H25-Br-sap) 及 び N-(2-hydroxybenzyl)-3-amino-1-propanol
(H2hbap)から異核金属錯体[MnIIICuIICl(5-Br-sap)2(MeOH)] (1) (図 1)[1]及び[MnIII2CuII2 (hbap)4Cl2] (2)
(図 3)を合成し、磁気的挙動について検討した。
研究成果
異核金属複核錯体 1 の合成と磁気的性質
シッフベース配位子と磁気異方性をもつMnIIIイ
オン及びCuIIイオンとの反応により、異核複核錯体[MnIIICuIICl(5-Br-sap)2(MeOH)] (1)を得た(図
1)。錯体 1 は二つの配位子のアルコキソ基で架橋されたMnIII-CuII異核複核構造をもつ。1 の
温度依存DC磁化率測定から(図 2a)、アルコキソ基で架橋されたマンガン銅イオン間には強い
強磁性的相互作用(J = 78 cm-1)がはたらき、その結果錯体 1 はS = 5/2 を基底状態にもつ基底高
スピン分子であることがわかった。また、high-field EPR (HFEPR)スペクトルの温度依存(図 2b)
(a)
(b)
図2
(c)
錯体 1 の (a) 温度依存 dc 磁化率、(b) HFEPR スペクトル、(c) ac 磁化率.
50
からゼロ磁場分裂パラメーターDは-1.86 cm-1と見積もられた。錯体 1 の極低温におけるAC磁
化率(図 2c)は周波数依存性を示し、アレニウスプロットから錯体 1 はスピン反転の活性化エ
ネルギー∆E = 10.5 K をもつ単分子磁石であることがわかった。
異核金属四錯体 2 の合成と磁気的性質
III
シッフ
II
塩基誘導体 H2hbap とMn イオン及びNi イオンと
N2
O1
の 反 応 に よ り 、 異 核 金 属 四 核 錯 体
O4
Cl
Ni
O3
[MnIII2CuII2(hbap)4Cl2] (2)を得た(図 3)。錯体 2 は
Mn
N1
アルコキソ基及びフェノキソ基で架橋された不完
O2#
O3#
O2
全ダブルキュバン型異核4核構造を有する。錯体
2 の温度依存DC磁化率測定(図 4a)において、χmT
値は温度の低下に伴って増加し、解析の結果金属
イオン間の相互作用はそれぞれJMnNi = 4.4(1)、
図 3.
[MnIII2CuII2(hbap)4Cl2] (2).
4.2(1) cm-1、JMnNi = -7.9(1) cm-1、基底状態はS = 6 であることが解った。また、錯体 2 のHFEPR
スペクトル(図 4b)は負のゼロ磁場分裂パラメーターDを持つ化合物に特徴的な温度依存を示
し、解析の結果D値は-0.69 cm-1と見積もられた。AC磁化率測定においてはは磁化率の実部、
虚部共に周波数依存性を示したが、1.9 Kまでの測定ではピークは観測されなかった。0.55 K
における磁化の磁場依存測定を行ったところ(図 4c)、単分子磁石に特有の量子スピントンネ
リングによるステップを伴ったヒステリシス挙動が観測された。以上より、錯体 2 が単分子
磁石であることを明らかにした。
今後の計画
本研究成果による異核金属錯体の合成法は金属イオンの組み合わせを変えるこ
とにより、多様な異核金属錯体を得ることが可能である。これらの錯体の量子物性を詳細に
検討することにより、単分子磁石の量子スピントンネリングに対する金属イオンの核磁場の
影響などを明らかにする。また、異核金属イオンとして大きな磁気異方性を持つ希土類金属
イオンを導入することによる 3d-4f異核金属単分子磁石の合成を行う。
Transmission / arb. units
10
0
100
200
T/K
図4
300
15 K
10 K
4.2 K
375.1 GHz
0
10
5
B / Tesla
8
4
M / Nβ
-1
χmT / emu mol K
15
5
(c)
(b)
(a) 20
15
0
-4
-8
-10
-5
0
5
10
H / kG
錯体 2 の (a) 温度依存 dc 磁化率、(b) HFEPR スペクトル、(c) 磁化曲線.
[1] H. Oshio, M. Nihei, A. Yoshida, H. Nojiri, M. Nakano, A. Yamaguchi, Y. Karaki, H. Ishimoto, Chem.
Eur. J., in press.
51
【P11】
分子性高スピンアニオンクラスター、及び
分子スピン量子演算・量子テレポテーションの実行
大阪市立大学大学院理学研究科
物質分子系専攻/化学科
工位
武治
1.研究の背景と目的
分子性・有機磁性の研究は、国内学界においては、1989 年を前後して初のナショナルプロ
ジェクト化の企画が実現し、1992 年から科学研究費補助金重点領域研究「分子磁性」
(3 年間)
が実行され、先端科学としての分子磁性・スピン化学の急速な進展に貢献した[1]。その後も、
学際領域的な特徴を一層強めた特定領域などに発展し、ナショナルプロジェクトとして、分
子スピンからバイオスピンまでを視野に入れた新たな特色ある領域が開拓されつつある。高
スピン化学に支えられた分子性(有機磁性)研究は、1998 年頃を境にして第 3 世代に入った
と言える。
分子磁性(有機磁性)は、本来的に“分子システム”化された生体高分子機能との類似性
を内在しているので、第 3 世代の分子スピン研究分野では、従来の一中心性の原子磁性とは
異なり、高度超機能の一つであるシステム磁性とも呼ぶべきスピンテクノロジーや分子スピ
ニクス、あるいはセミマクロ(メガ-テラ数)相互作用・スピン集積系の本質を扱う量子波
位相化学への発展が期待されるものである。また、有機磁性の物質科学・化学は、その潜在
的応用の視点からは、
「有機物質の光・電子機能」と「磁気的分子量子機能」との複合化によ
る「機能の増幅・強化」や「新規機能の発現」の範疇においてのみ把握されるべき分子科学・
新物質科学のローカルなテーマではなく、
「粒子的な描像」を基調とする 20 世紀までのエレ
クトロニクスの枠組みを越えた次世代の超機能分子素子材料・分子スピン制御(Spin Control in
Science(SCS)
:Molecularly Controlled Spin(MCS)
)の未来技術に関わる学問領域の一つとし
て位置づけることができる。この領域には、超微細加工などの物質形態のダウンサイジング
技術によって実現する超格子構造の量子磁性機能制御も含まれる。これらの半巨視的スケー
ルの物質形態を含む新たな領域を、Spin-Mediated Electronics にとどまらず広く「分子スピニ
クス」と呼ぶことができる。
「分子スピニクス」は、電子スピンナノサイエンスおよびスピン
テクノロジーの一つと位置づけることができる[2]。
2.研究の目的
先に述べた研究の背景のもとに、本研究課題「サブミクロン超格子強磁性量子細線・タイル
及び超高スピン巨大単分子のスピニクス」では、
「分子スピニクス」のジャンルとして、(1)
電子スピン磁気共鳴をベースとした走査型トンネル顕微分光法を開拓し、超格子強磁性量子
系の自己発振および超常磁性系、開殻系単一分子の検出を行うこと、
(2)
「分子スピニクス」
の展開に資することができる新奇な開殻分子系を開拓すること、
(3)量子位相化学的なアプ
ローチから、分子スピン量子演算(Molecular Quantum Computing)、量子情報処理(Quantum
Information Processing)の実行を可能とする「分子スピニクス」系量子コンピュータを実験的
に実現することを、具体的な目的にしている。昨年は、
(1)の課題に関連して成果の一部を
発表したので、本年度は、(2)の課題に関連して、「分子性高スピンアニオンクラスターの
生成と電子・分子構造の解明」について、
(3)の課題に関連しては、電子スピンを介在した
52
「分子スピン量子演算・量子テレポテーション」の Implementation について発表する。本要
旨では、紙面の関係で、(2)の課題について、概略のみを述べる。
3.分子性高スピンアニオンクラスターの生成と電子・分子構造の解明
分子性高スピンクラスターの研究は、1960 年代に広田・Weissman が先駆的に行なったベン
ゾフェノンベースのジアニオン3重項クラスターの研究に遡ることができる。以降、オリゴ
ケトンベースの多価アニオン高スピンクラスターの安定な生成と検出は、長年の課題であっ
た。これらの新奇なクラスターの設計指針は確立していなかったが、ここでも、高スピン分
子のスピン整列機構において汎用的に用いられてきた「πトポロジー則」を拡張することが
できる。すなわち、擬縮重LUMOをトポロジー的な対称性を利用して無数に準備できる分
子・高分子系を設計することができる。図1に、ケトン置換位置をトポロジー的に制御した
ポリケトン高分子の2次元系の擬フラットバンド構造(LUCO)を示す。フラットバンド
は、ゼロエネルギー近傍に出現しており、多価アニオン状態では、強い動的スピンン分極機
構によって基底高スピン状態が生成することが期待できる。
オリゴケトンについても、擬縮重LUMO出現の事情は同じである(図2)。本課題では、
この設計指針に基づく高スピンアニオン、及びそのクラスターを化学還元などにより安定に
生成し、検出することができた。高スピンクラスターの存在は、我々が開発した遷移モーメ
ント分光法である電子スピンニュテーション法によって、直接証明した。観測された複雑な
微細構造スペクトルは、最終的に、ハイブリッド固有磁場法によって再現し、精度の高いス
ピンハミルトニアンパラメータ(微細構造定数、g値)を得た。分子性高スピンクラスター
の分子構造は、高スピン分子間の相互作用も考慮した半経験的・群論的なアプローチと量子
カチオン種の存在を考慮した化学計算を併用して解析した。
図2.1,3-ジベンゾイルベンゼン、及びメチ
ル置換体の擬縮重 LUMO と軌道エネルギー
図1.2次元拡張型オリゴケトン高分子の擬縮重
(3n 重)πLUMO フラットバンド構造
本研究課題の分担者は、大阪市立大学大学院理学研究科物質分子系専攻に所属する塩見大輔
助教授、佐藤和信助教授、豊田和男助手である。
[1] K. Itoh and M. Kinoshita (eds.), Molecular Magnetism: New Magnetic Materials, Gordon & Breach
Publishers (Kodansha Publishers as co-publishers), 2000.
[2] 工位武治、塩見大輔、佐藤和信、第8章第2節、ナノ・IT時代の分子機能材料と素子開発」
(清水剛夫/吉野勝美監修)、2003.
53
【P12】
水素結合を利用したナノ粒子自己集積化:粒子間距離のコントロール
兵庫県立大 物質理学研究科
研究目的
○八尾 浩史・佐藤 井一・木村 啓作
金ナノ粒子を構成要素とする粒子膜・粒子結晶は、粒子内部はÅの周期を持ち、
結晶としてはnmを周期とする2重周期構造の超格子物質である。現在、溶液中で自己組織的
にナノ粒子を2次元或いは3次元的に組み上げる方法によって実現
されている。これらの集積体は通常の分子結晶と異なり、① 1つの
粒子の大きさの関数である量子サイズ効果に基づく電子状態が系統
的に設計できる、② 成長過程を制御する事によりモルフォロジーの
コントロールが可能である、③ 粒子間の相互作用を粒子間距離によ
り変調できる、という特徴を持つ。粒子の集合過程においてそれら
がお互い融合しないように粒子表面を1分子層で覆うが(図 1)
、こ
の分子の選択により、粒子間距離、絶縁障壁エネルギーの高さ、粒
子間相互作用、ひいては粒子結晶の結晶構造を設計できる自由度が
ある。多くの研究者が長鎖アルカン分子の誘導体をナノ粒子の表面
図 1. 設計された金
属(M)ナノ粒子、
表面有機分子層:
0.4~2 nm 、粒子径:
1~20 nm がコントロ
ールされる。
修飾剤として使用しているのに対し、我々は研究の当初からジカルボン酸を用いた水溶性の
金ナノ粒子を対象に粒子間に働くであろう水素結合を介して粒子の集合過程を制御しようと
試みてきた。今のところ、集積体の精密構造や障壁厚さ、エネルギー準位の位置、金属部分
の電子準位の量子化を自由に設計できる所までには至っていない。本研究では、方向性を持
った水素結合が粒子の自己集積過程に大きく寄与している点に注目し、水素結合を介した金
ナノ粒子の自己集積体の構築とその粒子間距離のコントロールについて検討した。
研究成果
金ナノ粒子2次元膜・3次元結晶の形成と粒子間距離の延長
これまで、表面をメルカプト
こはく酸(MSA)で修飾した金ナノ粒子が、高濃度の
塩酸酸性条件下で粒子結晶が気水界面に自己組織的に
形成することを報告してきた。今回、この系に2点水素
結合型のスペーサー分子を添加し、粒子膜や粒子結晶の
形成が可能か、その粒子間距離の延長が可能かどうかを
調 べ た [1] 。 使 用 し た ス ペ ー サ ー 分 子 は
4-pyridinecarboxylic
acid
(
PyC
)
或
い
は
trans-3-(3-pyridyl)acrylic acid(PyA)である。種々条件の
検討の結果、PyC存在下で得られた3次元結晶及び2次
元粒子膜のTEM写真をそれぞれ図 2 及び図 3 に示す。
図 2 では、スペーサー分子が存在しない場合と同様に綺
麗なファセットを持った粒子結晶の形成が観測される。
図 2. PyC 存在下で形成した MSA 修
飾金ナノ粒子の3次元粒子結晶の
TEM 画像。
一方、極めて広範囲に規則正しく配列した2次元粒子膜の形成が確認された。この系では、
54
図 3 (a). PyC 存在下で形成された
MSA 修飾金ナノ粒子の2次元粒子
膜。構成する粒子のコア直径 = 5.7
図 3 (b). 2次元粒子膜(図 3a)の正方形
で囲まれた領域の2次元パワースペクト
ル。
ナノ粒子の平均直径は 5.7 nmであった。図 3(b)は、その超格子膜の一部を広領域に抽出して
得られた2次元パワースペクトルであるが、6回対称のスポットが観測され、粒子配列に殆
ど乱れのないことを意味している。パワースペクトルのスポット位置と平均粒子径から、粒
子表面間の間隔はおよそ 2.0 nmである。この値は、スペーサー分子が存在しない場合(〜1.4
nm)と比べて間隔が伸びていることを物語っている。得られた粒子表面間距離は、接近する
粒子間にPyCが1分子挿入されたときの長さに
ほぼ等しく、水素結合性スペーサー分子によって
粒子間間隔のコントロールが可能である事を示
唆している。図4にそのモデル図を示した。
得られた2次元粒子膜が水素結合ネットワーク
を通して形成していることは、ATR-IR 吸収測定
により明らかとなった。また、3次元粒子結晶に
図4.水素結合性スペーサー分子によるナ
ノ粒子間の結合モデル図
対してはエネルギー分散型 X 線分光法による元素分析を行った所、ピリジン基に由来する N
の存在が見出され、結晶中に PyC が取り込まれていることが確認された。
今後の計画
ナノ粒子超格子系の大きな目標は、構成粒子のサイズや並び方(translational ordering、
orientational ordering)をコントロールしてその電子状態を制御することにある。特に、粒子の
重心位置だけではなく粒子内の原子配向も結晶全体にわたって整列している完全結晶の作成
は重要である。また、原子数で十数個以下のクラスター領域の超格子化は、例えば金属系で
言えば量子効果が著しく発現しうる領域であり、極めて興味深い。この様な新規な結晶を母
胎にして有機ラジカルや無機磁性イオンをドープして新規な磁性体を構成するのが本研究グ
ループにおける我々の研究課題でもある。
[1] H. Yao, H. Kojima, S. Sato, K. Kimura, Langmuir 20 (2004) 10317.
55
【P13】
ナノスケール薄膜の表面化学的磁化制御と評価
分子研
横山利彦
[序論] 我々は、超高真空中で作成した磁性超薄膜の表面を化
学修飾することにより、薄膜の磁化を制御するということを目
標に研究を行ってきている。ここでは、単結晶平坦面上のFe, Co
超薄膜に電子供与を施した(アルカリ金属吸着)場合に磁化が増
大するかどうかに関する評価結果と、基板に単結晶微斜面を用
いた階段状超薄膜の一軸異方性に関して表面修飾効果した場合
の評価結果を報告する。
[Cu(001)上のFe, Co超薄膜へのK吸着による磁化変化]
図1 3 ML Fe / Cu(001)系の K 吸
着による極 Kerr 効果強度変化。
磁性体に電子を注入することで磁化が増大するか否
かは古くから注目されていることであるが、バルク磁
性体では電子を供与する原子を添加すると合金を形成
し、純粋な電子注入の効果を観測しているとは限らな
い。一方、薄膜の表面ではアルカリ吸着などを行うこ
とで、より純粋に Slater-Pauling 曲線の検証になると考
えられる。Cu(001)上の Fe, Co は歪んだ fcc 構造を示す
が、バンド計算によると Fe の場合電子を注入すると磁
化が増大する可能性があり、Co/Cu(001)では磁化が減
少すると予想される。今回これを実験で確認した。
図1に K/Fe(3 ML)/Cu(001)における極 Kerr 強度の
K 吸着量依存性を示した。K 約 0.1 ML で強度最大とな
った。0.1 ML を過ぎると減少に転ずる。0.1 ML はこの
系の仕事関数が極小になる吸着量に対応している。
極Kerr強度は必ずしも磁化の増大に対応する保証が
ないため、Fe-L吸収端XMCDを測定した。この結果を
図2に示した。K 0.1 ML吸着で確かに僅かながら磁化
が増大し、それ以上では減少することがわかった。一
方、Co/Cu (001)ではKの吸着とともに磁化は単調に減
少した。XMCDの解析結果を表1にまとめた。スピン
磁気モーメントはスペクトルからの推察どおりの結果
を与え、d空孔数dhはFe, CoによらずK 0.2 MLまで単調
に減少し、電子が注入されていることも確認できた。
56
図2 3 ML Fe / Cu(001)系の K 吸着による Fe-L
吸収端 XMCD スペクトル。
表1 K / 3 ML Fe, Co / Cu(001)における 3d空
孔数dh, スピン磁気モーメントms, 軌道磁気モ
ーメントmlのK吸着量依存性。
3 ML Fe
dh
ms (µB)
ml (µB)
Clean
3.40
1.82
0.23
K 0.1 ML
3.27
2.05
0.20
K 0.2 ML
3.02
1.64
0.15
K more
3.10
0.87
0.11
3 ML Co
dh
ms (µB)
ml (µB)
Clean
2.50
1.67
0.26
K 0.1 ML
2.37
1.58
0.26
K 0.2 ML
2.27
1.50
0.29
[Cu(1 1 17)面上のCo超薄膜へのAgおよびNO吸着による磁気転移]
Cu(001)の微斜面[4.8°傾いたCu(1 1 17)]に蒸着され
たCo薄膜ではstep平行方向が磁化容易軸、面内step
垂直が困難軸、表面垂直方向が最困難軸である。磁
気履歴は図3のようになる。ここではAg, NO吸着に
よる磁気転移を磁気光学Kerr効果(MOKE)とX線磁
気円二色性(XMCD)により検討した。
図 4 に 6 ML Co 薄 膜 に 対 す る NO 吸 着 前 後 の
MOKEによる磁化曲線を示す。清浄面ではstep平行
方向が容易軸であるが、NO吸着後は劇的に磁化曲線
が変化し、保持力の著しい低下とともに一軸異方性が消
図3
図
Co/Cu(1 1 17)表面の磁気履歴の概念
失していることがわかる。図5にはNO吸着前後のCo L2,3
吸収端XMCDスペクトルを示す。吸着前ではstep平行の
L3ピーク(~778 eV)がstep垂直のものより負に大きく、L2
ピーク(~783 eV)ではほぼ差がない。L2とL3ピークの面積
差が軌道磁気モーメントmlの寄与を表すので、step平行
方向のmlのほうが大きいことがわかる。定量的には総和
則よりstep平行がml // = 0.256 µB、垂直がml⊥ = 0.224 µBで
図4 NO 吸着前後の 6 ML Co / Cu(1 1 17)の
MOKE による磁化曲線。
あった。形状異方性(2πMs2)を除くと、スピン軌道相互作
用により磁気異方性が決まり、mlが大きいほうが容易軸と
なる。確かにこの系でもmlの大きさと磁気異方性は対応し
ていることがわかる。これに対してNO吸着後は、L3, L2ピ
ークとも差がなくなっており、step平行がml //= 0.116 µB、
垂直がml⊥=0.123 µBである。やはり、mlの差がほとんどな
いことは一軸異方性が消失したこととよく対応する。
一方、Agの吸着ではすでに報告[1]のあるように、Ag吸
着により完全に磁気異方性が逆転しstep垂直方向が容易軸
となることが観測された。この場合、Co 6 MLに対して、
吸着前でml // = 0.246 µB、ml⊥ = 0.225 µBで、吸着後はml // =
0.200 µB、垂直がml⊥ = 0.218 µBとなり、軌道磁気モーメン
トの大きさも逆転することがわかった。
図5 NO 吸着前後の 6 ML Co / Cu(1 1
17)の Co-L 吸収端 XMCD。
今回の結果は、step cornerとstep edgeにCo原子の磁気異方性が異なることから理解できる。Neel
モデル[2]によると、清浄表面において、step edge, step cornerのCoはそれぞれstep平行、step垂直方向
の磁化が安定となる。NO, Ag吸着により、step edgeのCoが最も影響を受け磁気異方性が低下し、step
cornerの原子は影響されないと考えると、今回の磁気転移が現象論的には説明できる。
[1] W. Weber et al., Rhys. Rev. B52 (1995) R14400. [2] D. S. Chuang et al., Phys. Rev. B49 (1994) 15084.
57
【P14】
チオールで修飾された金クラスターの化学組成と安定性・構造
分子研
根岸
雄一・佃
達哉
【研究目的】金とチオール (R-SH) で構成される複合系は,金の凝集サイズに応じて多彩で特異
的な構造・物性を示すことから,医療・錯体化学・ナノテクノロジー・材料科学に跨がる幅広い
分野で研究されている (図1).なかでも,チオール単分子膜で保護された金ナノ粒子は,新規機
能性物質の構成単位として,近年大きな注目を集めている.特にコアサイズが 1nm 程度まで微細
化された複合系では,電子準位の離散化・金-チオー
1
造変形などの結果,フォトルミネッセンス[1],常磁
101
性[2],レドックス挙動[3],キラリティー[4]などバル
クでは見られない特異的な性質・機能が出現する.
これらの特異的機能の発現機構を理解し,制御する
size (nm)
1
ル界面での電子移動・チオール配位によるコアの構
10
102
103
number of Au atoms
: gold
R : thiolate
R
(
)n
金 (I)チオラート錯体
R
R
ためには,構成する金原子とチオール分子の数が厳
R
R
R
密に規定された複合系を系統的に単離する技術の開
R
R
R
R
R
R
チオール修飾
金クラスター
気泳動法 (PAGE) とエレクトロスプレーイオン化
R
R
R
発が不可欠である.我々は,ポリアクリルアミド電
R
R
R
R
チオール保護
金ナノ粒子
R R R R R R
質量分析法 (ESI-MS) に基づいた分画・組成評価方
法の開発を進めると共に,得られた複合体の安定
自己組織化膜
性・構造・基本物性と化学組成の相関を明らかにす
図1 金ーチオール物質系の分類
ることを目的として研究を進めている.
【研究成果】これまでPAGEとESI-MSを用いて,スルホン酸チオールやカルボン酸チオールで修
飾された金属クラスターを特定の組成ごとに分離することに成功した[5].今回さらに,複合体の
調製法を改良し,質量分析装置の分解能向上および校正方法の改良を加え,従来よりさらに精度
の高い帰属が可能となった.グルタチオン (GSH) 分子で表面修飾された金クラスター (Au:SG)
について,新しく得られた結果を図2に示す.例えば,これまでAu28(SG)16として帰属されていた
複合体[4,5]は,今回の測定の結果Au25(SG)18であることが明らかになった (0.2%の誤差).これら
の結果,特定組成のクラスターが選択的に生成される
40
見が得られた.
1) 安定性の起源: 単離されたAu:SGクラスターの水溶
液中での劣化過程に対する安定性を調べた.その結果,
Au15(SG)13やAu25(SG)18は他に比べて高い安定性がある
Number of GSH
メカニズムや電子状態と組成の関係について新しい知
30
39
20
22
15
10
25
29
33
18
10
ことが分かった.一方,これらの生成モル比には熱力
学的安定性の差は反映されていない.これらのことか
ら,今回の実験で得られたAu:SGクラスターの安定性
58
10
20
30
Number of Au atoms
図2 安定に単離したAu:SGの化学組成
は,生成反応における速度論的な要因により支配されていると結
n -m=
10-10
論した.すなわち,チオール単分子膜の形成によって金クラスタ
ーの連続的な成長が速度論的に阻害されることによって,ある特
定サイズの金クラスターが準安定に生成することが分かった.
15-13
2) 構造の転移− 金(I)錯体から金クラスターへ:これらの複合体の
Au4f光電子スペクトルを測定した結果,金からチオールへの部分
18-14
外可視吸収スペクトル (図3緑線)には,HOMO-LUMO遷移に相当
する吸収の立ち上がりとピークが可視—近紫外領域において観測
され,コアサイズの減少とともにブルーシフトしAu15(SG)13付近を
2+
境に消失する様子がわかる.信定による[Au13(SCH)8] のDFT計算の
結果[6]をもとに考えると,可視領域における吸収ピークは,チオー
Intensity (arb. units)
的な電子移動がおきていることを示唆する結果を得た.一方,紫
22-16
22-17
25-18
ルが直接結合していない金(0)原子の 6s軌道からなるバンドから,チオ
ールと結合した表面の金(I)原子の非占有 6s/6p軌道からなるバンドへ
29-20
の電子移動に帰属される.すなわち,図3で見られた吸収ピークの振
る舞いは,金の 6sバンドの関与した吸収帯がAu10(SG)10で消失し,
33-22
10
全ての金原子がd 閉殻電子配置をとりはじめることを表してい
る.このように,Au:SGクラスターは,Au10− Au15を境に金(I)チオ
39-24
ラート錯体で代表的に見られるポリマー的な構造から,3次元構
造を持つ金クラスターをコアとする複合体へと構造転移をするこ
とが明らかになった.クラスター内の[GSH]/[Au]の割合がこのサ
イズ領域で1から1未満へと変化している (図2)ことも,この構
1.0
2.0
3.0
4.0
Photon Enegy (eV)
図3 Au n (GTR) m の吸収(緑)・発光
(赤)・励起(青)スペクトル
造転移を支持している.また,Au22(GTR)16とAu22(GTR)17の吸収スペクトルの比較から,チオール
分子数が変化することによりクラスターの電子構造が変化することが明らかになった(図3).この
ことは,チオール配位による金コアの変形を示唆する初めての実験例である.さらに,このよう
な分子的な電子構造をもつAu:GTRクラスターは光励起により可視発光を示すことが分かった(図
3).
【まとめと今後】以上のように,数十量体程度の金クラスターをコアとする金-チオール複合系に
対するサイズ分画法・評価法を開発し,それらの安定化の要因・幾何構造や電子構造についてそ
の一端を明らかにすることが出来た.今後は,EXAFS や UPS を用いてさらに構造解析を進める
とともに,触媒作用や磁性の発現を目指した複合体の創製を進める.
[1] Y. Negishi and T. Tsukuda, Chem. Phys. Lett., 383 (2004) 161. [1] P. Crespo, et. al, Phys. Rev. Lett., 93 (2004)
087204. [3] D. G. Georganopoulou, M. V. Mirkin, and R. W. Murray Nano Lett., 4 (2004) 1763. [4] T. G.
Schaaff and R. L. Whetten, J. Phys. Chem. B, 104 (2000) 2630. [5] Y. Negishi, Y. Takasugi, S. Sato, H. Yao, K.
Kimura, and T. Tsukuda, J .Am. Chem. Soc. 126 (2004) 6518. [6] K. Nobusada, J. Phys. Chem. B, 108 (2004)
11904.
59
【P16】
DNA/ナノ粒子複合体の形成と酸化物ナノギャップ電極の作製
大阪大学
産業科学研究所
田中
秀和
1) はじめに
DNA 分子は生命の遺伝情報を担う医学的に重要な分子であるのみならず、4 種類の塩基分
子から構成され 0.4nm 間隔のアドレスを持った情報材料でもある。この為 DNA をテンプレー
トとして望みの位置に分子やナノ粒子を配列させる事が可能でありナノスケールでの構造制
御が可能となる。また 4 種類の塩基配列を任意に制御する事で塩基のスタック方向にバンド
構造を制御した 1 次元物質を構築できる。DNA 自身が良好な電気伝導性を示すか否かは様々
な議論がありこれまで統一を見ていないが、伝導度を付与できれば、DNA/強磁性体ナノ粒子
複合体等においてナノスケールのスピン素子の創成が期待される。これまで、シリコン製ナ
ノギャップ電極中の DNA 薄膜の伝導度測定
1, 2)
、マイカ基板上への DNA/磁性ナノ粒子ネッ
3)
トワークの形成 、さらに Al2O3 単
結晶基板上への自己組織化による
DNA/ナノ粒子複合体の一次元配線
の形成を 4)行ってきた。
図 1 ナノ粒子/DNA 複合体
1) AFM リソグラフィーによる機能性酸化物ナノギャップ電極の形成
分子デバイスを作製するに当たり微細加工によるナノギャップ電極は非常に重要である。
強磁性、超伝導、完全スピン偏極、金属的伝導など多彩な物性を示す遷移金属酸化物薄膜
に対して、走査型プローブ顕微鏡(AFM)を用いたナノリソグラフィーにより数十ナノメート
ルのギャップを持つ“酸化物ナノ電極”を作製することをこれまで試みてきた
物は大気中でも極めて安定であ
る 。 レ ー ザ MBE 法 を 用 い
。金属酸化
(c)
(b)
(a)
4)
SrTiO3(001) 単結晶基板上に、ほ
ぼ 100 % ス ピ ン 偏 極 率 を 示 す
(La,Ba)MnO3 薄膜(厚さ 10nm)を形
成し、AFM 探針により試料表面
(e)
(d)
Height [nm]
へ約 5V の電界を印加することに
より局所的な表面の改質を行っ
た。その後、HCl 溶液でエッチン
5.0
0.0
-5.0
グすることによりリソグラフィ
0.5
ーを行った。図 1 示すナノギャッ
1.0
1.5
Distance [nm]
プ電極においては、一方の電極の
図 1:強磁性酸化物(La,Ba)MnO3 ナノギャップ電極の作製、
幅を狭く(100nm)、もう一方の電
(a)フォトリソグラフィー後、(b)AFM リソグラフィー後、
極幅を広く(10µm)作製すること
(c)HCl エッチング後、(d)ギャップ部拡大図、(e)ギャップ
により、両者で保磁力差を付ける
部断面プロファイル
60
ように作製した。電極ギャップ幅はこのナノ電極においては約 250nm である(保磁力差をつけ
ない簡便なナノギャップ電極ではギャップ幅は約 100nm である 4))。
2) DNA/ナノ粒子複合体の自己組織化による形成
2-(A) - Poly(dA)・Poly(T)と金ナノ粒子(5nm)を混合した溶
液を原子層ステップ(高さ約 0.2nm)を持つ Al2O3(0001)単
結晶基板上に滴下・ 乾燥させることにより、DNA ネットワー
クと Au ナノ粒子からなるネットワーク構造を得ることが出
来た。さらに多くの Au ナノ粒子(およびそれを取り巻く DNA
分子)は、Al2O3 の原子ステップに沿って直線状に並んでいる
ことが判った。幾何学的要因からステップ端に引っかかり形
成されている可能性、およびステップ端での特異な電子状態
により優先的に集合している双方の可能性が考えられる。最
も密にナノ粒子が詰まっている場所の粒子間距離は数十ナノ
メートル以下である。
2-B) さらに、図 3 に示すように 3 種類の DNA(N1-DNA
および N2-DNA:金ナノ粒子に直接結合
するチオール基で末端を修飾したもの、
L-DNA:N1-DNA と N2-DNA に対して相
図 2: Al2O3(0001)単結晶表面上
の Au ナノ粒子/DNA ネットワ
ーク複合体(2µm×2µm)
L-DNA
5’TAC-GAG-TTG-AGA-ATC-CTG-AAT-GCG3’
3’S-(CH2)3-ATG-CTC-AAC-TCT TAG-GAC-TTA-CGC-(CH2)6S5’
N1-DNA
N2-DNA
補的な塩基配列を持ち、両者をつなぐ役
L
割を持つ)を準備しハイブリダイゼーシ
ョンさせることにより、DNA の相補性を
Au
利用した金ナノ粒子と DNA を化学的に
Au
N1
結合させた系を準備した。光吸収スペク
N2
トル測定により DNA を通じ金ナノ粒子
図 3: DNA 塩基配列の相補性を利用した金ナノ粒子と
が結合している事を確認している。
DNA 結合系の作製概念図。
これ等の DNA−金ナノ粒子系を、強磁性酸化物ナノギャップ電極内に配置することにより
DNA の(スピン依存)伝導度を計測できる可能性が期待される。
.参考文献
[1] H. Y. Lee, H. Tanaka, Y. Otsuka, K. Yoo, J. Lee, T. Kawai, Appl. Phys. Lett. 80 (2002)1670
[2] M. Taniguchi, H. Y. Lee, H. Tanaka,, T. Kawai, , Jpn. J. Appl. Phys.42(2003)L 215,
[3] H. Y. Lee, H. Tanaka, T. Kawai et al, J. Nanosci. and Nanotechnol. 2 (2002) 613
[4] 田中
秀和 分子スピン通信 Vol.2
[5] R. Li, H. Tanaka, T. Kawai et al, , Appl. Phys. Lett., 84( 2004) 260
[6] R. Li, H. Tanaka, T. Kawai et al, , J. Appl. Phys. 95 (2004)7091
61
【P17】
三重項分子の水プロトンの緩和速度への影響
九州大学大学院薬学研究院
古賀
登
・
麻生真理子
造影剤存在下で、水プロトンの核スピン緩和に及ぼす重要な相互作用として、1)プロト
ン-電子スピン間の双極子相互作用、2)電子スピンとの接触相互作用、3)Curie スピンと
の相互作用の3つが考えられる。このうち1)
、2)を考慮し、更に高スピン化合物構築可能
な非局在電子スピン(共役スピン)を用いることとした。これら高スピン化合物の水プロト
ンの核スピン緩和に及ぼす影響について調べ、多くの研究例のある局在電子スピン(孤立ス
ピン)と比較検討する。造影剤の変遷の歴史の中で主流は有機ラジカルが常磁性金属イオン
に取って代わられているが、本研究では純粋有機スピン系とヘテロスピン(常磁性金属イオ
ンと有機ラジカル)系の2つの系について検討する。これまで培ってきた分子磁性の基礎的
研究の展開の一つとして、分子磁性体の MRI 造影剤としての利用を目指す。そこで、まず手
始めに (I)純粋有機高スピン系と(II)ヘテロ高スピン(常磁性金属イオンと有機ラジカル)系
の2つの系を用いて、検討をはじめている。具体的には図1に示す高スピン有機分子又は高
スピン金属錯体の持つスピン多重度と水プロトンの核スピン緩和との相関について調べる。
また、全く異なった発想に基づいて出発した(III)核酸塩基スピン系を新たに加えた。
<図1>
(1 )純 粋有 機スピン 系
水 分子
n
孤 立ス ピン
高ス ピン 有機 分子
共 役ス ピン
常 磁性金属 イオ ン
(2) ヘテ ロス ピン 系
反磁 性配 位子
n
A
不 対電 子を 持つ
共 役配 位子
高スピン 錯体
B
( 3) 核酸 塩基 スピ ン系
A*
A*
A*
A*
A*
A*
A*
A*
A*
T
T A*
A*
O
T
A*
T
A*
T A*
A* T
A*
T
A*
T
A*
T
H
H
N
N
N H N
N
N
N
O
N
O
T = A* (2)
本研究での興味は、
「高スピン分子の持つ共役スピン系と非局在化スピン(孤立スピン)とで
62
水のプロトンの緩和速度に及ぼす影響がどのように異なるのか」という点にかかっている。
即ち、三重項種1個と二重項種2個では、水のプロトンの緩和速度に及ぼす影響がどのよう
に異なるのか、である。この点を(I)純粋有機高スピン系、(II)ヘテロ高スピン系、を用いて、
明らかにすることを第一の目標に掲げた。 (III)核酸塩基スピン系については、オリゴヌクレ
オチドへ導入する事による電子スピン(ラジカル)の集積化を行い、プロトンの緩和速度に
及ぼす影響を調べる。即ち、化合物 1—4 をオリゴヌクレオチドへ 1 個、または複数個導入し、
導入したスピン源と緩和能の相関を調べる。またランダムな一本鎖とπースタッキングを構造
の内部に持つ二重鎖形成時での緩和能を比較する。
純粋有機スピン系では、以下に示す基底状態三重項が期待されるスピン種(Dシリーズ)及
び対応する二重項種の合成を行った。現段階では、図2に示すNN(ニトロニルニトロキシド)
のシリーズの合成及び精製が終了した。TNO(tert-ブチルニトロキシド)のシリーズについ
ても合成は終了し、三重項種の精製の段階に入っている。また、今回、新たに加えた核酸塩
基スピン分子 1 については、オリゴヌクレオチドに導入可能であることを確認した。現在、
図2に示す16 種のうち精製の終了したサンプルについては、水プロトンの核スピン緩和(T1,
T2)の測定及び解析を行い、TEMPO分子との比較検討を行っている。
<図—2>
(1 ) 純粋 有機 ス ピン 系
S
S
M NNA1a
M NNA1b
M INA1a
M INA1b
S
A
A
M
D
DNNA1a
DNNA1b
DINA1a
DINA1b
O
N
N
O
M TNOA2a
M TNOA2b
DTNOA2a
DTNOA2b
O
NN
IN
O
N
R
DPAB 1a
DPAB 1b
N
COO H
A1a :
TEM PO
HO
N
O
OH
H
N
A1b :
O
N
HO
N
O
O NH 2
N N
N O
HO
O
NH
N N
O
OH
OH
OH
1
2
3
63
OH
N
O
N
O
HO
OH
OH
O
( 3) 核酸 塩 基系
N
O
TNO
DPA
NH 2
N
N N
O
N
te rt-Bu
S
N
N
N
S:
(2 ) ヘテ ロス ピ ン系
S
N
O
OH
4
O
NH
N O
OH
【P20】
バタフライ型スピンフラストレート系有機ラジカル磁性体
3-(aryl-substituted)-1,5-diphenylverdazyl の圧力効果
九州工業大学工学部
研究目的
美藤 正樹,
愛媛大学理学部
向井
和男
有機ラジカル磁性体は、しばしばその低次元的分子積層構造と高いスピン対称性
によって、数々の量子スピン現象を我々の眼前に提供してくれる。その中でも、三角格子を
ベースにした幾何学的格子構造と反強磁性的な分子間相互作用に起因したスピンフラストレ
ーションは、量子スピン的興味だけでなく、分子設計の面からも非常に興味深い現象である。
これまで三角格子構造に起因するスピンフラストレーションは 1,3–bisdiphenylene–2-phenylallyl [1],
2,4-dimethoxyl-1,3,5-benzenetriyltris(N-tert-butyl nitroxide) [2], [Mn(hfac)2]bnn (hfac:
hexafluoroacetylacetonate, bnn: 2,2’-bis(1-oxyl-3-oxide-4,4,5,5- tetramethyl-imdazolinyl) [3], 3-(aryl
-substituted)-1,5-diphenylverdazyl [4]の系で報告されており、m-MPYNN (m-N- methlpyridinium
α-nitronyl nitroxide)・X [5]ではカゴメ格子によるフラストレーションが報告されている。我々
は、有機物が「圧力」というパラメーターに非常に敏感であるということに着眼し、幾何学
的な構造が要因になっているスピンフラストレーションを圧力によって制御することを目指
した実験を行っている。本研究では、まず、反強磁性的一次元鎖間にバタフライ型反強磁性
的ネットワークが形成されている 3-(aryl-substituted)-1,5
-diphenylverdazyl 系で圧力実験を試みた。
研究成果
3-(aryl-substituted)-1,5-diphenylverdazyl の結晶構造
と磁気的性質
図 1 の三種類のフェルダジルラジカル結晶では、反強
磁性一次元鎖間のバタフライ型ネットワークによると見
図 1. 3-(aryl-substituted)-1,5diphenylverdazyl
られるスピンフラストレーション現象が報告されている。
図 2 に p-FPDV の分子積層構造示すが、平面的分子が c 軸
方向に対称的に積層し、結晶学的には一見、反強磁性一次
元鎖とみなされそうであるが、その鎖間には二つの三角格
子が一辺を共有した形のバタフライ格子型の反強磁性相互
作用が働き、そのスピンフラストレーションによってその
磁気的性質は S=1/2 ハイゼンベルグ反強磁性一様鎖の理論解
では定量的に説明できない。
図 3 に三つの物質の中で一番磁気シグナルの大きな
m-PyDV の常圧下における磁化率の温度依存性を示すが、
64
図 2. p-FPDV の結晶構造(a)と
相互作用ネットワーク(b)
反強磁性一様鎖の理論解に比べると、その磁化率は約
3 割程度大きく、短距離秩序におけるスピンフラスト
レーションの存在を示唆するものとなっている。
3-(aryl-substituted)-1,5-diphenylverdazy の圧力効果
図 4 に m-PyDV の加圧下における磁化率の温度依存
性を示す。本加圧実験では静水圧性を保つために、試
料には圧力媒体を十分になじませているが、短距離秩
序によるブロードピークが無媒体のときに比べて大幅
に低温にシフトしている。これは、支配的な鎖内相
互作用が小さくなったことを示唆しており、負
の化学的圧力を受けたと判断できる。一様鎖の理
図 3. 常圧下における m-PyDV の
磁化率の温度依存性
論解との比較より、この状態でさえフラストレー
ションがかなり解消されていることが伺える。こ
の状態に物理的な圧力を印加していくと、短距
離秩序によるブロードピークは高温にシフトし
ていきながら、その大きさを減少させていく。
反強磁性的鎖内相互作用の増加とともに、その磁
化率の大きさも反強磁性一様鎖モデルにより近づ
いていく形で変化しており、フラストレーション
解消の傾向に圧力が作用していることを示唆して
いる。
今後の計画
反強磁性鎖間にバタフライ格子型の反強磁性ネット
図 4. m-PyDV の加圧下における
磁化率の温度依存性
ワークが形成され、短距離秩序化においてスピンフラストレーションの効果がみられている
フェルダジルラジカル結晶 m-PyDV において、負の化学的圧力効果と正の物理的圧力効果を
観測した。その実験の中で、圧力がスピンフラストレーションに敏感に影響するという結果
を得た。今後は、他の二物質の圧力下磁気測定と同時に、圧力下における結晶構造解析を行
い、圧力印加によるスピンフラストレーション解消のメカニズムを解明する。
[1]
N. Azuma, T. Ozawa and J. Yamauchi, Bull. Chem. Soc. Jpn. 67 (1994)31.
[2]
J. Fujita, M. Tanaka, H. Suemune, N. Koga, K. Matsuda and H. Iwamura, J. Am. Chem. Soc. 118
(1996) 9347.
[3]
M. Tanaka, K. Matsuda, T. Itoh and H. Iwamura, Angew. Chem. Int. Ed. 37 (1998) 810.
[4]
K. Mukai, M. Matsubara, H. Hisatou, Y. Hosokoshi, K. Inoue and N. Azuma, J. Phys. Chem. B106
(2002) 8632.
[5]
K. Awaga, T. Okuno, A. Yamaguchi, M. Hasegawa, T. Inabe, Y. Maruyama and N. Wada, Phys. Rev.
B49 (1994) 3795.
65
【P21】
腫瘍移植肢における in vivo redox 解析
九州大院薬
研究目的
○市川和洋、坂部恵美子、国信健一郎、内海英雄
癌細胞は、正常細胞と異なるレドックス環境にあり、癌進展との関連の可能性が指
摘されている。in vivo ESR/スピンプローブ法は、スピン造影剤がフリーラジカル、生体内酸化
還元系や電子伝達系等との反応により、還元を受けて常磁性を失うことを利用した、ラジカル・
レドックス計測法である。本研究では、異なる性質のスピン造影剤を併用し、腫瘍移植マウスの
腫瘍・正常組織における腫瘍組織レドックス計測、変化部位の同定を行った。
研究成果
腫瘍細胞増殖と生体レドックス変化 スピン造影剤Carbamoyl PROXYLは、尾静脈内投与後、
マウス足蹠部位で一次消失を示した。NL17 腫瘍移植肢において、造影剤代謝速度亢進が見ら
れ、
・OH消去剤やSOD、カタラーゼ同時投与により抑制されないことから、この亢進には・OH、
O2-、H2O2が関与していないことが示された。また、NL17 移植肢の過酸化脂質量に、顕著な増加
は見られなかった。NL17 接種 4 日後、NL-17 接種肢において、CarbamoylPROXYL還元体比は、
対照肢に比べて有意に増加していた。従って、NL17 移植肢における造影剤代謝速度亢進機序と
して、ニトロキシル体からヒドロキシルアミン体への還元反応亢進が考えられた。
腫瘍組織内レドックスの変化 高水溶性造影剤 Carboxy-PROXYL では、対照肢・NL17 移植肢間
で造影剤代謝速度に有意差は認められなかった(表1)。一方、組織微移行性 Carbamoyl-
PROXYL
では、対照肢・NL17 移植肢で造影剤代謝速度に有意な違いが認められた。また、高脂溶性
MC-PROXYL では、油性・水性領域由来スペクトル[2]分離解析の結果、腫瘍肢油性領域のみで造
影剤代謝速度亢進が生じている可能性を見出した。以上の結果は、NL-17 腫瘍移植肢において、活性
酸素に依存しない造影剤の還元亢進が、脂溶性領域特有のスペクトルを示す部位で顕著であるこ
とを示しており、生体内酸
表 1 種々スピン造影剤の造影剤代謝速度
化還元系や電子伝達系、
種々抗酸化物質変動等のレ
ドックスが、腫瘍組織にお
いて正常組織と異なること
が示唆された。
今後の計画
対照肢
NL17接種肢
⊿
油水分配係数
carboxyPROXYL
0.015±0.002
0.023±0.007
0.008±0.003
0.01
carbamoylPROXYL
0.042±0.008
0.062±0.007*
0.020±0.010
0.68
0.033±0.005
0.045±0.008
0.012
8.7
0.008±0.004
0.048±0.004*
0.040
0.022±0.006
0.002±0.02
-0.020
MC-PROXYL
油層
水層
本研究成果により、生体
腫瘍細胞組織におけるレドックス変化部位が明らかとなった。現在開発中の狭線幅・新規造影剤
と Proton Electron Double Resonance Imaging 手法により、腫瘍組織内外のレドックス画像解析を目
指す。また、特に転移性を規定する腫瘍関連遺伝子発現と組織レドックスの関連を検討すること
により、in vivo 腫瘍解析・評価につながると考える。
[1]
Sano H, Naruse M, Matsumoto K, Oi T, Free Radic Biol Med. (2000) 28:959-69.
[2]
Yamato M, Egashira T, Utsumi H. Free Radic Biol Med. (2003) 35:1619-31.
66
【P22】
ニトロキシルラジカルとヒドロキシルラジカルの
反応性に関する基礎検討
九大院薬
研究目的
○安川圭司、尾田芙美子、内海英雄
ニトロキシルラジカルはヒドロキシルラジカル(•OH)と、あるいはチオール基存在下スーパ
ーオキシド(O2-•)と反応し、その常磁性を消失する。この常磁性消失は、生体計測ESR/ニトロキシルプ
ローブ法においてESRシグナル減衰の亢進として観測され、この亢進は疾患モデル動物で各種抗酸化剤
により抑制される。よって、シグナル減衰の亢進から疾患モデル動物における活性酸素生成を定性的
に知ることができる。しかし、亢進したシグナル減衰速度がどの程度の活性酸素生成量を表すのか、
その定量性については調べられていない。本研究では、活性酸素の中で最も生体傷害性の高い•OHとニ
トロキシルラジカルとの反応性について基礎的検討を行った。
研究成果
スピンアダクト生成量の決定
生体内で主要な・OH生成経路と考えられているH2O2とFeSO4とのフェ
ントン反応を利用した•OH発生系を選択した。•OH発生量は、スピントラップ剤DMPOと•OHとの反応
により生成するDMPO-OHのESRスペクトルから見積もった。フェントン試薬(H2O2, FeSO4)にDMPOを
添加して得られたDMPO-OHの生成量はH2O2やFeSO4濃度の増加に伴って増加した。その増加が擬一次
反応に従うと仮定してカーブフィットし、計測時間とDMPO-OH生成量との関係式を得た。
ニトロキシルプローブ剤のシグナル減衰速度とDMPO-OH生成量との関連性
今回はニトロキシル
プローブ剤として汎用されているcarbamoyl-PROXYLを選択した。種々のフェントン試薬濃度の溶液
にcarbamoyl-PROXYLを添加してESR計測し、以前の方法に従い[1]シグナル減衰速度を求めた。各々
のフェントン試薬濃度でDMPO-OH生成量とcarbamoyl-PROXYLシグナル減衰速度との関係をプロッ
トすると、FeSO4濃度 2~10 µMと 20 µMとでプロットの傾きが大きく変化し、両方ともに非常に良い
相関を示した(図 1)。また、DMPOとcarbamoyl-PROXYLを共存させたところ、シグナル減衰速度は
DMPO 濃 度 の 増 加 に 伴 っ て 抑 制 さ れ た こ と か ら 、
carbamoyl-PROXYLは•OHを競合していることが確認された。
よって、carbamoyl-PROXYLのシグナル減衰速度の亢進か
ら•OH生成量を半定量的に見積もることが可能であることが
示唆された[1]。
今後の計画
本研究成果から生体計測 ESR/ニトロキシルプローブ
法の量的評価が可能であることが示唆された。今後、実
際に動物体内にフェントン試薬を処置して生体計測
ESR 計測を行い、生体でのシグナル減衰速度の亢進から
•OH 生成量を半定量的に見積もることが可能であるか否か
を検討する。
[1]
K. Kasazaki, K. Yasukawa, H. Sano, and H. Utsumi,
Free Radical Research 37 (2003) 757-766.
図 1 carbamoyl-PROXYL シグナル減衰速度
(k)と DMPO-OH 生成量との関係
■ : FeSO4 2 µM, □ : FeSO4 4 µM, ● :
FeSO4 10 µM, ○: FeSO4 20 µM
67
【P24】
生体内 NO の検出と生理作用に関与する鉄錯体−胃での事例
(財)山形県産業技術振興機構・生物ラジカル研究所
研究目的
吉村
哲彦
一酸化窒素(NO)は生体内でNO合成酵素によってL-アルギニンから作られ、血
液循環系では血管の拡張・血小板凝集の阻害を通じて血圧を調節し、中枢神経系では神経伝
達物質として記憶・学習に関与し、免疫系では抗菌・抗腫瘍等の作用を直接的にまたは間接
的に司っていることが明らかにされている。一方、NOは多様な疾患にも関係している。生体
内NOの生理作用を解明するためには、細胞、組織、器官におけるNO濃度と分布に関する知
見が必要である。我々はESR・スピントラップ法により生体内NOを検出することを目指して
NOトラップ試薬の開発を行った。その結果、NOに高親和性のジチオカルバメート(DTC)
鉄錯体が有用であることを見出し、これまでに、生きているマウスの腹部での生体内NOの検
出・画像化の成功を始めとして、多様な病態(主として炎症性病変)モデルにおける神経系
および消化器系でのNOのin vivo, ex vivo測定にこれらのNOトラップ試薬を適用してきた [1]。
また、生体内でNOは鉄—硫黄クラスタータンパク
NO
RS
質と反応してジニトロシルジチオラト鉄錯体
(DNIC, 図1)を精製することが知られている [2]。
Fe
ここでは、生体内NO計測に使用される鉄錯体の有
RS
効性と、
生体内で内因的に産生される鉄錯体・DNIC
NO
の生理的意義について、胃での事例を紹介する。
研究成果
NO トラップ試薬
不安定で短寿命のラジカルを
図1 ジニトロシルジチオラト鉄錯体
(DNIC)
ESR で検出する方法として、スピントラップ試薬を用いる「スピントラップ法」がある。ス
ピントラップ試薬は不安定なラジカルを捕捉(トラップ)して安定なラジカルを生成し、ESR
での観測を容易にする試薬であり、ラジカル種に応じた試薬が開発されている。発表者らは、
生体内で産生された NO を分析するために、水溶性で安定な NO のスピントラップ試薬の開
発を行った。金属イオン特に2価の鉄イオンに対する NO の高親和性を利用する立場から、
NO と結合して安定な NO 鉄錯体を生成する鉄錯体の探索を行った。その結果、DTC の誘導
C2H5
N
C
S
C2H5
S–
DETC (Vanin, 1991)
H3C
N
C
S
CH2(CHOH)4CH 2OH
H3C
H2
C
N
C
S–
S
MGD (Lai, 1993)
O–
S–
O
DTCS (Yoshimura, 1995)
図2 ジチオカルバメート誘導体
体であるジチオカルボキシサルコシン (DTCS、図2)を配位子とする鉄錯体が、NO トラ
68
ップ試薬としての優れた性質を持っていることが明らかとなった。Fe-DTCS 錯体と NO との
反応生成物である NO-Fe-DTCS 錯体は(図3)
、安定な化合物であり、室温および低温で明瞭
な強い ESR シグナルを示す。
O
NO
C
S-
Fe
S
S
-
C
S
また、DTCS の鉄錯体は水溶性
N
C
SS
Fe
S
-
C
S
図3 Fe-DTC錯体のNO捕捉反応
であり、生物試料中の NO 分
析に適している。Fe-DTCS 錯
体を始めとする Fe-DTC 錯体
は、NO トラップ試薬として、
さまざまな生理的・病理的状態にある細胞、脳・肝臓・腎臓・脾臓・肺などの組織・器官を
対象とした NO の測定に、すでに幅広く用いられており、NO の生体内での役割の解明に役立
っている [1]。
亜硝酸塩投与ラットの胃内のNO濃度
野菜などに含まれる硝酸塩は、口腔内で亜硝酸塩に還
元され、食道・胃接合部の強酸性雰囲気でさら還元されNOに変換される [3]。本研究ではこ
のNOの胃組織に与える影響を明らかにするために、NaNO2水溶液(1 mM)を経口投与した
ラット胃組織内のNO濃度をNOトラップ試薬を用いて測定し、胃腔内のNO濃度をNO電極を
用いて測定した。胃腔内NO濃度は、胃噴門部付近で 100 µMと高濃度であるが、胃噴門部付
近を離れると急激に低下し、検出限界以下となった。また、組織のNO濃度は食道胃接合部組
織では 1.8 nmol/g-tissue/30 min、接合部から離れた組織では 0.7 nmol/g-tissue/30 minであった。
このようにNO濃度は、食道胃接合部付近で限局的に高値を示した。
亜硝酸塩投与ラットの胃組織内のDNIC
NaNO2水溶液投与群の食道胃接合部組織のESRス
ペクトルには、g = 2.04 にDNICによるシグナルが観測され、シグナル強度は亜硝酸塩濃度に
依存して増加する傾向が認められた。このシグナルは、食道・胃接合部で産生された高濃度
のNOと組織中の鉄-硫黄クラスターを含む酵素との反応によって生成されたDNICに起因する
ものと考えられる。また、亜硝酸塩投与時には組織のグルタチオン濃度の低下が認められた。
これらの結果は、食道・胃接合部で産生された高濃度の NO が同部位での組織障害に関与す
ること、および DNIC が組織障害のバイオマーカーとして有用であることを示唆している。
今後の計画
硝酸塩摂取後にヒトの食道・胃接合部内で高濃度の NO(~50 µM)が発生することが明ら
かにされており[3]、この高濃度の NO が周囲組織に障害を与えている可能性がある。今回は
亜硝酸塩の単回投与であったが、今後、亜硝酸塩の長期投与および他の刺激要因の共存を考
慮した実験を検討中である。
参考文献
[1] T. Nagano, T. Yoshimura, Chem. Rev. 102 (2002) 1235-1269.
[2] T. Ueno, T. Yoshimura,, Jpn. J. Pharmacol. 82, 95-101 (2000).
[3] K. Iijima et al., Gastroenterology, 122, 1248-1257 (2002).
69
【P25】
永久磁石一個と共振器からなる聴診器様 ESR プローブの開発
1
山形大工・2山形大学術情セ・3山形大院理工
○尾形健明1・伊藤智博2・種市 暁3
[email protected]
研究目的
植物のストレス応答機構を解明するためには、植物が生息している環境の中での応答
測定を行う必要がある。これまで、植物葉のストレス応答測定に、表面コイル型共振器を持つ携
帯可能な低周波 700 MHz ESR装置が使用されている。しかし、その装置では対向型の2つの磁石
が使用されているために、試料の大きさには静磁場発生用磁石の磁極間隔で決まる制限があった。
そこで、より大きな葉試料に対応するために、我々は永久磁石一個と表面コイル型共振器を一体
化したESRプローブを提案した。これは聴診器のように葉に密着させるために、より大きな葉の
計測が可能である。また、より軽量小型化が可能であるためにフィールドワークに適している。
しかし、装置の安定性や感度に問題があった。本研究では、このESRプローブについて、磁場の
均一性を高めるための磁気回路を試作し、屋外でのin vivo計測への有効性を検討する。
原理
ESR信号を検出するためには、共振器のマイクロ波磁界と電磁石から供給される外部磁界
が直交する必要がある。図1に示すように、通常のESR装置では対向する一組の磁石間に発生す
る静磁界と、共振器内のマイクロ波磁界が直交する領域に、試料が置かれてESR信号が観測され
る。共振器の一つである表面コイル型共振器の場合、ループ線を取り巻くようにマイクロ波磁界
が存在する。この磁界を利用するならば、図1のように、一個の磁石でもループ線上付近の試料
のESR測定が可能である。
直流磁界
マイクロ波磁界
N
S
磁石2個型の通常のESR装置では、外部磁
界と直交するループ内のマイクロ波磁界部
部がESR観測領域である。試料の大きさは
磁極間隔の制限を受ける。
N
S
磁石一個型の場合、外部磁界と直交する
ループ線上を取り巻くマイクロ波磁界部分
がESR観測領域である。試料の大きさには
制限がない。
図 1. 表面コイル型共振器と磁石の関係
図 2. 開発した永久磁石一体型
ESR プローブ
アルミケースの直径は 12 cm であり、8 cm
の永久磁石と磁場掃引コイルが内臓され
ている。表面コイル型共振器のループ径
は 10 mm であり、その真下に変調コイル
がある。試料を上部から密着させて ESR
測定が行われる。
研究成果
磁石一体型 ESR プローブは、永久磁石(ネオジム系とフェライト系の組み合わせ)、磁場掃引
コイル、磁場変調コイル、および、表面コイル型共振器から構成されている。磁場掃引コイルは、
永久磁石の周囲に巻くことで、磁場の均一性が向上した。Carbamoyl- PROXYL 水溶液(25 mM)
70
を吸収させたろ紙を用いて、共振器の感度を調
70000
べた。その結果、改良前の従来のものより、90%
60000
感度が向上し、図 3 に示すように、良好な ESR
50000
スペクトルが得られた。
40000
30000
屋外で桜の葉にスピンプローブ剤を取り込
20000
ませる方法を確立するために、小枝付きの桜の
10000
葉を採取し、桜の小枝の皮を 2 cm ほど剥がし、
0
0
キムワイプを巻いた。そのキムワイプに 200
200
400
600
800
1000
図 3. 改良後の共振器で得られた carbamoylPROXYL 水溶液(25 mM)の ESR スペクトル
mM carbamoyl-PROXYL 水溶液を 600 µL 含ま
せ、ラップで包み 90 分間放置した。イオン交
換水に替え、葉の部分に共振器をあて ESR 測
定を開始した。
Carbamoyl-PROXYL 水溶液を吸わせた桜の
葉を測定した結果、図 4 に示すような ESR ス
ペクトル(3 本の hfs のうち、低磁場の信号)
が得られた。その後、イオン交換水に取り替え
たところ、図 5 のように指数関数的に ESR 信
号が減少した。
ESR 装置の重量は、ほとんど磁石の部分が
占める。従来の実験室据え置き型の電磁石タイ
プでは、500 kg 以上を超える重量であった。最
図 4. Carbamoyl-PROXYL 水溶液(200 mM)
近我々が開発した移動可能な ESR 装置では、
を吸収した桜葉の ESR スペクトル
50 kg 以下が実現され、車での移動が可能にな
(3 本の hfs のうち、低磁場の信号)
った。今回の ESR プローブを取り付けること
により、さらに軽量化が実現し、また、聴診器
ESR signal intencity(-)
のように試料サイズを気にすることなく、試料
の表面(表面コイルのループ線上約 1 mm)に
おけるラジカルの検出が可能となった。以上の
ことから、本研究の装置がフィールドワークで
の植物の計測に、有効であると考えられる。
今後の計画
生態系内での測定が如何に重要であるかを
示すために、実験室内と屋外の植物に対するス
14000
12000
10000
8000
6000
4000
2000
0
0
トレス応答計測を試み、比較検討する予定であ
る。
500
1000
time(s)
1500
図 5. 桜 葉 に 取 り 込 ま れ た carbamoylPROXYL の ESR 信号強度の時間変化
71
【P26】
Nitronyl nitroxide による NO の分子機能制御
熊本大学大学院医学薬学研究部
研究目的
微生物学分野
赤池
孝章、芥
照夫
我々は、
これまで nitronyl nitroxide 誘導体、2-phenyl-4,4,5,5-tetramethyl-1-oxyl 3-oxide
(PTIO)を用いて、NO の多彩な生物効果を解明してきた。PTIO は、NO とのラジカル反応に
より、NO に酸素原子を付加し、そのものの常磁性を維持しながら、NO2(二酸化窒素)を生
成する。PTIO は現在、NO 消去剤として、NO の薬理活性や生化学的特性の解析に国内外で
広く応用されている。さらに、最近我々は、NO により細胞内で 8-ニトログアノシンが生成
され、これが細胞の新規シグナル分子として細胞保護作用を発揮することも見出した。一般
に、NO そのものはニトロ化活性がなく、生体内のニトロ化反応は、NO 由来の NO2 やパーオ
キシナイトライトなどの活性酸化窒素種により誘発されるものと考えられている。従って、
これまで報告のある PTIO による細胞保護作用に、PTIO による NO2 生成促進にともなった生
体内ニトロ化反応が関与している可能性がある。そこで今回、NO による 8-ニトログアノシ
ン生成とその細胞保護作用のメカニズム、および、PTIO による 8-ニトログアニン生成につい
て解析を行った。
研究成果
NOによる細胞内 8-ニトログアノシン生成と細胞保護作用の解析:
生体内の 8-ニトログアノシン生成を同定するため特異的抗 8-ニトログアノシン抗体を作製し
た。この抗体を用いて、8-ニトログアノシンの enzyme immunoassay (EIA)による定量系を作成
して、各種培養細胞における NO に依存した 8-ニトログアノシン生成を解析した。例えば、
ヒト hepatoblastoma 細胞株である HepG2 細胞を NO により処理し、細胞内の 8-ニトログアノ
シン生成を免疫細胞化学および EIA により検討したところ、生理的な濃度の NO により 8-ニ
トログアノシンが細胞内の、特に、小胞体近傍で効率よく産生されること明かとなった。さ
らに、8-ニトログアノシンは、グルコース飢餓による HepG2 の細胞死を強力に抑制した。ま
た、8-ニトログアノシン処理により、HepG2 細胞のヘムオキシゲナーゼ(HO-1)の発現誘導
がもたらされることが、Western blotting により確認され、さらに重要なことに、8-ニトログア
ノシンの細胞保護作用は、この HO-1 の酵素阻害剤である Zn プロトポルフィリン IX により
完全に消失した。このことは、NO の生存シグナルに、8-ニトログアノシンが HO-1 の誘導を
介して深く関わっていることを示している。
8-ニトログアノシンのレドックス活性の検討:
8-ニトログアノシンの一電子還元反応を介するスーパーオキサイド生成活性を解析した。そ
の結果、8-ニトログアノシンが、チトクローム P450 還元酵素や各種 NOS アイソフォームな
どの NADPH 依存性還元酵素により一電子還元され、8-ニトログアノシンアニオンラジカル
72
となり、さらに、共存する分子状酸素を還元してスーパーオキサイドを産生することがわか
った。すなわち、8-ニトログアノシンは、強力なレドックス活性を有しており、単なるニト
ロ化のバイオマーカー(footprint)ではなく、生体内のレドックス応答のモデュレーターとし
て機能する生体分子であるといえる。
PTIOによるグアニン・ニトロ化反応の解析:
PTIO による 8-ニトログアニン生成促進作用について解析するため、HPLC-電気化学検出器
(ECD)を用いて、8-ニトログアニンおよびその関連化合物の高感度検出システムを構築し
た。本法は、逆相 HPLC により反応系に生成した 8-ニトログアニンを分離し、引き続き、ECD
により 8-ニトログアニンのピークを、高感度で特異的に検出・定量するものである。NO に
よる 8-ニトログアニン生成反応については、生理的条件の水溶液中で、PTIO 存在下 NO とグ
アニンを反応させ、8-ニトログアニン生成を HPLC-ECD により解析した。その結果、NO そ
のものでは有意な 8-ニトログアニン生成は認められないが、PTIO 添加により 8-ニトログアニ
ンが比較的効率よく(〜0.1%収率/NO)生成がすることがわかった。このことは、PTIO が
8-ニトログアニン生成を介して、NO の細胞シグナルを調節する可能性を示唆している。
今後の計画
NOシグナル制御機能の分子メカニズムを明らかにするため、nitronyl nitroxide誘導体による
8-ニトログアニン生成促進効果に焦点をあて研究を展開する。さらに、PTIOの誘導体を合成
し、生体親和性、特に、細胞内移行性と安定性などを改善させることにより、nitronyl nitroxide
を用いたNOの分子機能制御の解明に向けた研究を推進する。
【発表論文】
Akaike T, et al. 8-Nitroguanosine formation in viral pneumonia and its implication for pathogenesis.
Proc. Natl. Acad. Sci. USA 100: 685-690, 2003.
Sawa T, Akaike T, et al. Superoxide generation mediated by 8-nitroguanosine, a highly redox-active
nucleic acid derivative. Biochem. Biophys. Res. Commun. 311: 300-306, 2003.
Yoshitake J, Akaike T, et al. Nitric oxide as an endogenous mutagen for Sendai virus without antiviral
activity. J. Virol. 78: 8709-8719, 2004.
Fang J, Akaike T, Maeda H. Antiapoptotic role of heme oxygenase (HO) and the potential of HO as a
target in anticancer treatment. Apoptosis 9: 27-35, 2004.
73
研究組織名簿
領域代表者
阿波賀
邦夫 名古屋大学・大学院理学研究科・教授
総括班実施グループ
阿波賀
菅原
邦夫
正
名古屋大学・大学院理学研究科・教授
領域の総括
東京大学・大学院総合文化研究系・教授
領域研究方針の策定、
各研究項目企画調整担当
横山
利彦
自然科学研究機構・分子科学研究所・教授
領域の広報担当
古賀
登
九州大学・大学院薬学研究院・教授
領域の連絡担当
研究班
A01
スピンと分子機能
阿波賀
邦夫
名古屋大学・大学院理学研究科・教授
計画研究 2 代表者
藤田
渉
名古屋大学・物質科学国際研究センター・助手
同分担者
岡本
博
東京大学・大学院新領域創成科学研究科・助教授
同分担者
岩坂
正和
千葉大学・工学部・助教授
同分担者
一弘
大阪大学・大学院理学研究科・教授
計画研究 3 代表者
森田
靖
大阪大学・大学院理学研究科・助手
同分担者
久保
孝史
大阪大学・大学院理学研究科・助手
同分担者
北海道大学・大学院理学研究科・教授
計画研究 4 代表者
北海道大学・大学院理学研究科・助手
同分担者
大阪市立大学・大学院理学研究科・教授
計画研究 5 代表者
大阪市立大学・大学院工学研究科・教授
同分担者
九州大学・大学院工学研究院・助教授
計画研究 6 代表者
九州大学・大学院工学研究院・教授
同分担者
中筋
武田
定
丸田
手木
悟朗
芳男
三浦
松田
入江
A02
洋三
建児
正浩
スピンとナノ機能
菅原
正
東京大学・大学院総合文化研究科・教授
計画研究 7 代表者
松下未知雄
東京大学・大学院総合文化研究科・助手
同分担者
川田
勇三
茨城大学・理学部・教授
同分担者
田中
剛
東京農工大学・工学部・助手
同分担者
村田
滋
東京大学・大学院総合文化研究科・助教授
同分担者
二瓶
雅之
筑波大学・化学系・助手
同分担者
山田
真実
北陸先端科学技術大学院大学・材料科学研究科・助手
同分担者
大阪市立大学・大学院理学研究科・教授
計画研究 8 代表者
大阪市立大学・大学院理学研究科・助教授
同分担者
工位
塩見
武治
大輔
74
佐藤
和信
大阪市立大学・大学院理学研究科・助教授
同分担者
豊田
和男
大阪市立大学・大学院理学研究科・助手
同分担者
兵庫県立大学・大学院物質理学研究科・教授
計画研究 9 代表者
木村
啓作
八尾
浩史
兵庫県立大学・大学院物質理学研究科・助教授
同分担者
佐藤
井一
兵庫県立大学・大学院物質理学研究科・助手
同分担者
横山
利彦
自然科学研究機構・分子科学研究所・教授
計画研究 10 代表者
西
信之
自然科学研究機構・分子科学研究所・教授
同分担者
佃
達哉
自然科学研究機構・分子科学研究所・助教授
同分担者
田中
秀和
大阪大学・産業科学研究所・助教授
計画研究 11 代表者
A03
スピンと生命機能
古賀
登
九州大学・大学院薬学研究院・教授
計画研究 12 代表者
秋田
健行
九州大学・大学院薬学研究院・助手
同分担者
唐沢
悟
九州大学・大学院薬学研究院・助手
同分担者
麻生真理子
向井
和男
九州大学・大学院薬学研究院・助手
同分担者
愛媛大学・理学部・教授
計画研究 13 代表者
長岡
伸一
愛媛大学・理学部・助教授
同分担者
小原
敬士
愛媛大学・理学部・助手
同分担者
田嶋
邦彦
京都工芸繊維大学・繊維学部・教授
同分担者
美藤
正樹
九州工業大学・工学部・助教授
同分担者
九州大学・大学院薬学研究院・教授
計画研究 14 代表者
内海
英雄
輿石
一郎
九州大学・大学院薬学研究院・助教授
同分担者
山田
健一
九州大学・大学院薬学研究院・助手
同分担者
竹下
啓蔵
放射線医学総合研究所・放射線安全研究センター・主任研究員
同分担者
山形県産業技術振興機構・生物ラジカル研究所・副所長
計画研究 15 代表者
大矢
博昭
吉村
哲彦
山形県産業技術振興機構・生物ラジカル研究所・副所長
同分担者
尾形
健明
山形大学・工学部・教授
同分担者
赤池
孝章
熊本大学・大学院医学薬学研究部・助教授
計画研究 16 代表者
芥
照夫
熊本大学・大学院医学薬学研究部・助手
同分担者
研究協力者
岩村
秀
放送大学・教授
総括班、評価助言担当
三谷
忠興
北陸先端科学技術大学院大学・材料科学研究科・教授
総括班、評価助言担当
山口
兆
大阪大学・大学院理学研究科・教授
総括班、評価助言担当
上野
照剛
東京大学・大学院医学系研究科・教授
総括班、評価助言担当
山下
一郎
松下電器・先端技術研究所・主幹研究員
総括班、評価助言担当
松本
和子
早稲田大学・理工学部・教授
総括班、評価助言担当
75
研究者プロフィール
A01 スピンと分子機能
阿波賀
邦夫
(13 名)
Awaga, Kunio
あわがくにお
名古屋大学大学院理学研究科物質理学専攻
464-8602
愛知県名古屋市千種区不老町
教授
名古屋大学大学院理学研究科物質理学専攻
[email protected]
電話:052-789-2487
FAX:052-789-2484
生年月日:昭和 34 年 7 月 14 日
所属班等:項目 A01 計画 2 代表、総括班(領域代表)
藤田
渉
Fujita, Wataru
ふじたわたる
名古屋大学大学院物質科学国際研究センター
464-8602
愛知県名古屋市千種区不老町
助手
名古屋大学大学院理学研究科物質理学専攻
[email protected]
電話:052-789-4552
FAX:052-789-2484
生年月日:昭和 43 年 12 月 18 日
所属班等:項目 A01 計画 2 分担
岡本
博
おかもとひろし
Okamoto, Hiroshi
東京大学大学院新領域創成科学研究科
助教授
277-8561 千葉県柏市柏の葉 5-1-5 東京大学大学院新領域創成科学研究科 物質系専攻
[email protected]
電話:04-7136-3771
FAX:04-7136-3772
生年月日:昭和 36 年 1 月 16 日
所属班等:項目 A01 計画 2 分担
岩坂
正和
いわさかまさかず
千葉大学工学部
263-8522
Iwasaka, Masakazu
助教授
千葉市稲毛区弥生町 1-33
千葉大学工学部メディカルシステム工学科
[email protected]
電話:043-290-3499
FAX:043-290-3499
生年月日:昭和 40 年 4 月 3 日
所属班等:項目 A01 計画 2 分担
76
中筋
一弘
大阪大学大学院理学研究科
560-0043
Nakasuji, Kazuhiro
なかすじかずひろ
教授
豊中市待兼山町 1-1
大阪大学大学院理学研究科
[email protected]
FAX:06-6850-5392
電話:06-6850-5392
生年月日:昭和 16 年 6 月 19 日
所属班等:項目 A01 計画 3 代表
森田
靖
Morita, Yasushi
もりたやすし
大阪大学大学院理学研究科
560-0043
講師
豊中市待兼山町 1-1
大阪大学大学院理学研究科
[email protected]
FAX:06-6850-5395
電話:06-6850-5393
生年月日:昭和 35 年 9 月 20 日
所属班等:項目 A01 計画 3 分担
久保
孝史
Kubo, Takashi
くぼたかし
大阪大学大学院理学研究科
560-0043
助手
豊中市待兼山町 1-1
大阪大学大学院理学研究科
[email protected]
FAX:06-6850-5395
電話:06-6850-5394
生年月日:昭和 43 年 5 月 12 日
所属班等:項目 A01 計画 3 分担
武田
定
Takeda, Sadamu
たけださだむ
北海道大学大学院理学研究科
060-0810
教授
札幌市北区北 10 条西 8 丁目
北海道大学大学院理学研究科化学専攻
[email protected]
電話:011-706-3505
FAX:011-706-4841
生年月日:昭和 29 年 9 月 17 日
所属班等:項目 A01 計画 4 代表
77
丸田
悟朗
Maruta, Goro
まるたごろう
北海道大学大学院理学研究科
060-0810
助手
札幌市北区北 10 条西 8 丁目
北海道大学大学院理学研究科化学専攻
[email protected]
電話:011-706-3504
FAX:011-706-4841
生年月日:昭和 45 年 9 月 18 日
所属班等:項目 A01 計画 4 分担
手木
芳男
Teki, Yoshio
てきよしお
大阪市立大学大学院理学研究科
教授
558-8585 大阪市住吉区杉本 3-3-138 大阪市立大学大学院理学研究科物質分子系専攻
[email protected]
電話:06-6605-2559
FAX:06-6605-2559
生年月日:昭和 32 年 1 月 17 日
所属班等:項目 A01 計画 5 代表
三浦
洋三
Miura, Yozo
みうらようぞう
大阪市立大学大学院工学研究科
558-8585
教授
大阪市住吉区杉本 3-3-138
大阪市立大学大学院工学研究科化学生物系専攻
[email protected]
電話:06-6605-2798
FAX:06-6605-2769
生年月日:昭和 18 年 8 月 5 日
所属班等:項目 A01 計画 5 分担
松田
建児
まつだけんじ
九州大学大学院工学研究院
812-8581
Matsuda, Kenji
助教授
福岡市東区箱崎 6-10-1
九州大学大学院工学研究院応用化学部門(機能)
[email protected]
電話:092-642-4132
FAX:092-642-3568
生年月日:昭和 44 年 7 月 30 日
所属班等:項目 A01 計画 6 代表
入江
正浩
いりえまさひろ
九州大学大学院工学研究院
812-8581
Irie, Masahiro
教授
福岡市東区箱崎 6-10-1
九州大学大学院工学研究院応用化学部門(機能)
[email protected]
78
電話:092-642-3556
FAX:092-642-3568
生年月日:昭和 19 年 2 月 14 日
所属班等:項目 A01 計画 6 分担
A02 スピンとナノ機能
菅原
正
(18 名)
すがわらただし
Sugawara, Tadashi
東京大学大学院総合文化研究科
教授
153-8902 目黒区駒場 3-8-1 東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻相関基礎科学系
[email protected]
電話:03-5454-6742
FAX:03-5454-6997
生年月日:昭和 21 年 11 月 8 日
所属班等:項目 A02 計画 7 代表、総括班(領域研究方針策定、各研究項目企画調整)
松下
未知雄
Matsushita, Michio
まつしたみちお
東京大学大学院総合文化研究科
助手
153-8902 目黒区駒場 3-8-1 東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻相関基礎科学系
[email protected]
電話:03-5454-6765
FAX:03-5454-6997
生年月日:昭和 44 年 11 月 14 日
所属班等:項目 A02 計画 7 分担
川田
勇三
かわだゆうぞう
Kawada, Yuzo
茨城大学理学部自然機能科学科
310-8512
教授
茨城県水戸市文京 2-1-1
茨城大学理学部自然機能科学科
kwdyz@mx.ibaraki.ac.jp
電話:029-228-8369
FAX:029-228-8369
生年月日:昭和 22 年 7 月 28 日
所属班等:項目 A02 計画 7 分担
79
田中
剛
Tanaka, Tsuyoshi
たなかつよし
東京農工大学工学部生命工学科
助手
184-8588
東京農工大学工学部生命工学科
小金井市中町 2-24-16
[email protected]
電話:042-388-7021
FAX:042-385-7713
生年月日:昭和 47 年 9 月 27 日
所属班等:項目 A02 計画 7 分担
村田
滋
Murata, Shigeru
むらたしげる
東京大学大学院総合文化研究科
助教授
153-8902 目黒区駒場 3-8-1 東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻相関基礎科学系
[email protected]
電話:03-5454-6596
FAX:03-5454-6998
生年月日:昭和 31 年 8 月 1 日
所属班等:項目 A02 計画 7 分担
二瓶
雅之
筑波大学化学系
305-8571
Nihei, Masayuki
にへいまさゆき
助手
茨城県つくば市天王台 1-1-1
筑波大学化学系
[email protected]
電話:029-853-4426
FAX:029-853-4426
生年月日:昭和 49 年 12 月 4 日
所属班等:項目 A02 計画 7 分担者
山田
真実
Mami, YAMADA
やまだまみ
北陸先端科学技術大学院大学材料科学研究科
923-1292
石川県能美郡辰口町旭台 1-1
助手
北陸先端科学技術大学院大学材料科学研究科
[email protected]
電話:0761-51-1542
FAX:0761-51-1116
生年月日:昭和 49 年 4 月 8 日
所属班等:項目 A02 計画 7 分担
工位
武治
たくいたけじ
Takui, Takeji
大阪市立大学大学院理学研究科
教授
558-8585 大阪市住吉区杉本 3-3-138 大阪市立大学大学院理学研究科物質分子系専攻化学科
80
[email protected]
電話:06-6605-2605
FAX:06-6605-2522
生年月日:昭和 17 年 10 月 19 日
所属班等:項目 A02 計画 8 代表
塩見
大輔
Shiomi, Daisuke
しおみだいすけ
大阪市立大学大学院理学研究科
助教授
558-8585 大阪市住吉区杉本 3-3-138 大阪市立大学大学院理学研究科物質分子系専攻物質科学科
[email protected]
電話:06-6605-3149
FAX:06-6605-3137
生年月日:昭和 40 年 11 月 16 日
所属班等:項目 A02 計画 8 分担
佐藤
和信
Sato, Kazunobu
さとうかずのぶ
大阪市立大学大学院理学研究科
助教授
558-8585 大阪市住吉区杉本 3-3-138 大阪市立大学大学院理学研究科物質分子系専攻化学科
[email protected]
電話:06-6605-3134
FAX:06-6605-3137
生年月日:昭和 40 年 9 月 29 日
所属班等:項目 A02 計画 8 分担
豊田
和男
とよたかずお
Toyota, Kazuo
大阪市立大学大学院理学研究科
助手
558-8585 大阪市住吉区杉本 3-3-138 大阪市立大学大学院理学研究科物質分子系専攻化学科
[email protected]
電話:06-6605-2555
FAX:06-6605-3137
生年月日:昭和 46 年 4 月 3 日
所属班等:項目 A02 計画 8 分担
木村
啓作
きむらけいさく
Kimura, Keisaku
兵庫県立大学大学院物質理学研究科
678-1297
赤穂郡上郡町光都 3-2-1
教授
兵庫県立大学大学院物質理学研究科
[email protected]
電話:0791-58-0159
FAX:0791-58-0161
生年月日:昭和 20 年 7 月 29 日
所属班等:項目 A02 計画 9 代表
81
八尾
浩史
Yao, Hiroshi
やおひろし
兵庫県立大学大学院物質理学研究科
678-1297
助教授
兵庫県赤穂郡上郡町光都 3-2-1
兵庫県立大学大学院物質理学研究科
[email protected]
電話:0791-58-0160
FAX:0791-58-0161
生年月日:昭和 37 年 9 月 16 日
所属班等:項目 A02 計画 9 分担
佐藤
井一
Sato, Seiichi
さとうせいいち
兵庫県立大学大学院物質理学研究科
678-1297
助手
兵庫県赤穂郡上郡町光都 3-2-1
兵庫県立大学大学院物質理学研究科
[email protected]
電話:0791-58-0161
FAX:0791-58-0161
生年月日:昭和 46 年 11 月 8 日
所属班等:項目 A02 計画 9 分担
横山
利彦
よこやまとしひこ
自然科学研究機構分子科学研究所
444-8585
Yokoyama, Toshihiko
教授
愛知県岡崎市明大寺町字西郷中 38
分子科学研究所分子構造研究系
[email protected]
電話:0564-55-7345
FAX:0564-55-4639
生年月日:昭和 35 年 8 月 10 日
所属班等:項目 A02 計画 10 代表、総括班(事務局)
西
信之
にしのぶゆき
Nishi, Nobuyuki
自然科学研究機構分子科学研究所
444-8585
教授
愛知県岡崎市明大寺町字西郷中 38
分子科学研究所電子構造研究系
[email protected]
電話:0564-55-7350
FAX:0564-54-2254
生年月日:昭和年月日
所属班等:項目 A02 計画 10 分担
佃
達哉
つくだたつや
Tsukuda, Tatsuya
自然科学研究機構分子科学研究所
助教授
444-8585 岡崎市明大寺町字西郷中 38 分子科学研究所分子スケールナノサイエンスセンター
82
[email protected]
電話:0564-55-7351
FAX:0564-55-7351
生年月日:昭和 39 年 5 月 2 日
所属班等:項目 A02 計画 10 独立分担者
田中
秀和
大阪大学産業科学研究所
567-0047
Tanaka, Hidekazu
たなかひでかず
助教授
茨木市美穂ヶ丘 8-1
大阪大学産業科学研究所極微プロセス研究分野
[email protected]
電話:06-6879-8446
FAX:06-6875-2440
生年月日:昭和 45 年 5 月 28 日
所属班等:項目 A02 計画 11 代表
A03 スピンと生命機能
古賀
登
(18 名)
Koga, Noboru
こがのぼる
九州大学大学院薬学研究院
教授
812-8582 福岡市東区馬出 3 丁目 1-1 九州大学大学院薬学研究院機能分子合成化学分野
[email protected]
電話:092-642-6590
FAX:092-642-6590
生年月日:昭和 25 年 11 月 9 日
所属班等:項目 A03 計画 12 代表、総括班(連絡担当)
唐沢
悟
Karasawa, Satoru
からさわさとる
九州大学大学院薬学研究院
助手
812-8582 福岡市東区馬出 3 丁目 1-1 九州大学大学院薬学研究院機能分子合成化学分野
[email protected]
電話:092-642-6590
FAX:092-642-6590
生年月日:昭和 47 年 10 月 22 日
所属班等:項目 A03 計画 12 分担
83
秋田
健行
Akita, Takeyuki
あきたたけゆき
九州大学大学院薬学研究院
助手
812-8582 福岡市東区馬出 3 丁目 1-1 九州大学大学院薬学研究院機能分子合成化学分野
[email protected]
電話:092-642-6590
FAX:092-642-6590
生年月日:昭和 45 年 7 月 30 日
所属班等:項目 A03 計画 12 分担
麻生
真理子
九州大学大学院薬学研究院
812-8582
Aso, Mariko
あそうまりこ
助手
福岡市東区馬出 3 丁目 1-1
九州大学大学院薬物分子設計学分野
[email protected]
電話:092-642-6607
FAX:092-642-6603
生年月日:昭和 36 年 12 月 21 日
所属班等:項目 A03 計画 12 分担
向井
和男
愛媛大学理学部
790-8577
Mukai, Kazuo
むかいかずお
教授
松山市文京町 2-5
愛媛大学理学部物質理学科化学系
mukai@chem.sci.ehime-u.ac.jp
電話:089-927-9588
FAX:089-927-9590
生年月日:昭和 15 年 1 月 21 日
所属班:項目 A03 計画 13 代表
長岡
伸一
愛媛大学理学部
790-8577
Nagaoka, Shin-ichi
ながおかしんいち
助教授
松山市文京町 2-5
愛媛大学理学部物質理学科化学系
nagaoka@dpc.ehime-u.ac.jp
電話:089-927-9592
FAX:089-927-9590
生年月日:昭和 31 年 1 月 1 日
所属班:項目 A03 計画 13 分担
小原
敬士
おはらけいし
愛媛大学理学部
790-8577
Ohara, Keishi
助手
松山市文京町 2-5
愛媛大学理学部物質理学科化学系
ohara@chem.sci.ehime-u.ac.jp
84
FAX:089-927-9590
電話:089-927-9596
生年月日:昭和 39 年 11 月 9 日
所属班:項目 A03 計画 13 分担
田嶋
邦彦
京都工芸繊維大学繊維学部
606-8585
Tajima, Kunihiko
たじまくにひこ
教授
京都市左京区松ヶ崎御所海道町
京都工芸繊維大学繊維学部応用生物学科
[email protected]
電話:075-724-7807
FAX:075-724-7807
生年月日:昭和 31 年 12 月 19 日
所属班等:項目 A03 計画 13 分担
美藤
正樹
九州工業大学工学部
804-8550
Mito, Masaki
みとうまさき
助教授
北九州市戸畑区仙水町 1-1
九州工業大学工学部電気工学科電子工学教室
[email protected]
電話:093-884-3286
FAX:093-884-3286
生年月日:昭和 45 年 3 月 11 日
所属班等:項目 A03 計画 13 分担
内海
英雄
九州大学大学院薬学研究院
812-8582
Utsumi, Hideo
うつみひでお
教授
福岡市東区馬出 3-1-1
九州大学大学院薬学研究院機能分子解析学分野
[email protected]
電話:092-642-6621
FAX:092-642-6626
生年月日:昭和 22 年 2 月 5 日
所属班等:項目 A03 計画 14 代表
輿石
一郎
こしいしいちろう
九州大学大学院薬学研究院
812-8582
Koshiishi, Ichiro
助教授
福岡市東区馬出 3-1-1
九州大学大学院薬学研究院機能分子解析学分野
[email protected]
電話:092-642-6622
FAX:092-642-6622
生年月日:昭和 33 年 9 月 8 日
所属班等:項目 A03 計画 14 分担者
85
山田
健一
九州大学大学院薬学研究院
812-8582
Yamada, Ken-ichi
やまだけんいち
助手
福岡市東区馬出 3-1-1
九州大学大学院薬学研究院機能分子解析学分野
[email protected]
電話:092-642-6623
FAX:092-642-6623
生年月日:昭和 45 年 8 月 13 日
所属班等:項目 A03 計画 14 分担者
竹下
啓蔵
Takeshita, Keizo
たけしたけいぞう
(独)放射線医学総合研究所
263-8555
主任研究員
千葉市稲毛区穴川 4-9-1
放射線医学総合研究所放射線安全研究センター
[email protected]
電話:043-206-3123
FAX:043-255-6819
生年月日:昭和 31 年 8 月 6 日
所属班等:項目 A03 計画 14 分担
大矢
博昭
Ohya, Hiroaki
おおやひろあき
山形県産業技術振興機構生物ラジカル研究所
990-2473
山形市松栄 2-2-1
副所長
山形県産業技術振興機構生物ラジカル研究所
[email protected]
電話:023-647-3132
FAX:023-647-3149
生年月日:昭和 14 年 10 月 17 日
所属班等:項目 A03 計画 10 代表
吉村
哲彦
Yosimura, Tetsuhiko
よしむらてつひこ
山形県産業技術振興機構生物ラジカル研究所
990-2473
山形市松栄 2-2-1
副所長
山形県産業技術振興機構生物ラジカル研究所
[email protected]
電話:023-647-3133
FAX:023-647-3138
生年月日:昭和 19 年 5 月 13 日
所属班等:項目 A03 計画 10 分担
尾形
健明
おがたたてあき
山形大学工学部
992-8510
Ogata, Tateaki
教授
米沢市城南 4-3-16
山形大学工学部物質化学工学科
[email protected]
86
FAX:0238-26-3135
電話:0238-26-3135
生年月日:昭和 23 年 1 月 18 日
所属班等:項目 A03 計画 10 分担
赤池
孝章
Akaike, Takaaki
あかいけたかあき
熊本大学大学院医学薬学研究部
860-8556
熊本市本荘 1-1-1
助教授
熊本大学医学薬学研究部感染免疫学講座微生物学分野
[email protected]
FAX:096-362-8362
電話:096-373-5100
生年月日:昭和 34 年 9 月 16 日
所属班等:項目 A03 計画 16 代表
芥
照夫
Akuta, Teruo
あくたてるお
熊本大学大学院医学薬学研究部
860-8556
熊本市本荘 1-1-1
助手
熊本大学医学薬学研究部感染免疫学講座微生物学分野
[email protected]
FAX:096-362-8362
電話:096-373-5320
生年月日:昭和 39 年 3 月 8 日
所属班等:項目 A02 計画 10 分担
評価グループ
岩村
秀
放送大学
108-007
(6 名)
いわむらひいず
Iwamura, Hiizu
教授
東京都港区高輪 2-1-58-203
[email protected]
電話: 03-3443-4646
所属班等:総括班
三谷
忠興
研究協力者(評価助言担当)
みたにただおき
Mitani, Tadaoki
北陸先端科学技術大学院大学材料科学研究科
923-1292
能美郡辰口町旭台 1-1
教授
北陸先端科学技術大学院大学材料科学研究科
[email protected]
電話: 0761-51-1530 or 1297
所属班等:総括班
FAX: 0761-51-1149
研究協力者(評価助言担当)
87
山口
兆
Yamaguchi, Kizashi
やまぐちきざし
大阪大学大学院理学研究科化学専攻
560-0043
豊中市待兼山町 1-1
教授
大阪大学大学院理学研究科化学専攻
[email protected]
電話: 06-6850-5405
所属班等:総括班
上野
照剛
FAX: 06-6850-5550
研究協力者(評価助言担当)
Ueno, Shogo
うえのしょうごう
東京大学大学院医学系研究科医科学専攻
113-8654
東京都文京区本郷 7-3-1
教授
東京大学大学院医学系研究科医科学専攻
[email protected]
電話: 03-5841-3563
所属班等:総括班
山下
一郎
FAX: 03-5689-7215
研究協力者(評価助言担当)
Yamashita, Ichiro
やましたいちろう
松下電器
先端技術研究所
主幹研究員
619-0237
相楽郡精華町光台 3-4
[email protected]
電話: 0774-98-2516(Lab.)
所属班等:総括班
松本
和子
研究協力者(評価助言担当)
Kazuko, Matsumoto
まつもとかずこ
早稲田大学理工学部化学科
113-8654
0774-98-2526(dial-in)
教授
新宿区大久保 3-4-1
55S-5-09
[email protected]
電話: 03-5286-3108
所属班等:総括班
FAX: 03-5273-3489
研究協力者(評価助言担当)
88
FAX: 0774-98-2515
備考
名称等
名称:
分子スピン:ナノ磁石から生体スピン系まで
(略称:分子スピン)
英文名称: Application of Molecular Spins: from Nanomagnets to Biological Spin Systems
領域番号: 769
審査系:
理工
領域代表: 阿波賀邦夫(名古屋大学・大学院理学研究科・教授)
研究期間: 平成 15 年度から 18 年度
研究成果の新聞・機関公式ホームページ掲載にあたって
この科研費による研究成果が新聞に掲載された場合又は研究機関の公式ホームページに掲載さ
れた場合、その都度速やかに「科学研究費補助金による研究成果の新聞掲載等報告書」を電子
メール添付または郵送で事務局・横山利彦宛提出して下さい。事務局から文部科学省研究振興
局学術研究助成課に連絡いたします。この報告書は
http://msmd.ims.ac.jp/molspin/besshiyoushiki22.pdf
からダウンロードできます。
また新聞等の発表においては「○○大学の×××教授らのグループでは、文部科学省科研費の
成果として△△△△であることを明らかにした。」などのように、科研費の成果であることを明
らかにして下さい。
論文中での謝辞
本研究は文部科学省科学研究補助金特定領域研究「分子スピン」(領域番号 769)の計画
和文
研究(課題番号 xxxxxxxx)の助成を得て行われた。
This work was supported by Grant-in-Aid for Scientific Research on Priority Areas “Application
英文
of Molecular Spins” (Area No. 769, Proposal No. xxxxxxxx) from Ministry of Education,
Culture, Sports, Science and Technology (MEXT).
を参考に、適宜簡略化してお書きください。課題番号は各計画研究ごとの 8 桁の番号です。
ホームページアドレス
http://msmd.ims.ac.jp/molspin/
随時,情報を掲載してまいりますので、ご協力よろしくお願い申し上げます。ご意見ご要望は、
事務局:
または
横山利彦
([email protected])
領域代表:阿波賀邦夫([email protected])
までお願いします。
89
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