...

日本病院会雑誌 病院学 2003年6月号

by user

on
Category: Documents
43

views

Report

Comments

Transcript

日本病院会雑誌 病院学 2003年6月号
日本病院会雑誌
目
病院学
2003年6月号
次
グラフ:永寿総合病院……………………………………………………………………………
巻頭言:
「道のため,人のため」変わりゆく時代を映して
OSAKA,次のステージへ ………大道
7
學
11
常雄
13
榮
15
②日本型 DRG は質の改善にどう役立つのか …………………………川渕 孝一
③標準医療の功罪 ―質の改善と経営への影響― ……………… 長谷川敏彦
19
④米国 HMO の考察で整理したときの医療の質と医療経営 ……… 西田 在賢
⑤地域医療を実践する現場の立場から ………………………………渥美 哲至
30
<論説> 厚生労働省の新臨床研修制度案の問題点及び課題 ………堺
<パネルディスカッション>
医療の質の改善と医療経営 ―質の改善は経営に影響を及ぼすか―
①医療の質を測ることの意義について ………………………………岩﨑
<シンポジウム> 病院機能分化と生き残り戦略
①急性期病院から …………………………………………………………岩本 一寿
25
35
43
②療養型病院から …………………………………………………………田中 英雄
③回復期リハビリテーション病院から ………………………………皆川 晃慶
50
④外来機能分化の病院から………………………………………………中島 久宜
<シンポジウム> 次世代の食事サービスを考える
65
①病院におけるクックチルシステムを考える……………………… 殿塚婦美子
忠
②IH 加熱カートを使用した食事サービス……………………………山本
81
③クックチル導入の現状 …………………………………………………佐藤 美保
豊
<講演> 地震発生時における対応に関する調査……………………… 河口
97
<講演> 東海集中豪雨災害を経験して ……………………………………柴田 恒洋
<報告> 院内掲示物は患者の視点で書こう ………………………… 根本とよ子他
57
92
105
111
115
病院経営管理者養成課程通信教育・
「通教月報」巻頭言…………………………………118
<一番町だより>
平成14年度第12回定例常任理事会議事抄録 ……………………………………………… 120
平成14年度代議員会・総会議事抄録 ………………………………………………………… 129
<掲示板>
DEHP を含有しない輸液セット,カテーテル等の医療用具について
(医薬安発第0317001号,15.3.17)…………………………………………………………135
グラフの病院の平面図…………………………………………149
7月研究会のお知らせ…………………………………………152
診療情報管理課程通信教育第63期生募集について……153
巻 頭 言
「道のため,人のため」変わりゆく時代を映して
OSAKA,次のステージへ
大
道
學※
この度,歴史と伝統ある第53回日本病院学会を,平成15年6月12日(木)
・13日(金)
の2日間,大阪市において開催させていただくことは身に余る光栄であり,その重責を痛
感いたしております。
ご承知の通り,日本病院学会は日本病院会が主催するわが国でも最大規模を誇る病院人
のための学会で,病院を構成するすべての職種が一堂に会し,病院医療の資質向上と病院
経営の改善進歩に貢献すべく努めております。
大阪での開催は11年ぶりであり,今回は学会のメインテーマを「道のため,人のため・
変わりゆく時代を映して」
,サブテーマを「OSAKA,次のステ−ジへ」といたしました。こ
の「道のため,人のため」という言葉の由来についてですが,大阪は古くから交流の町で
あり,人・モノ・文化・情報といった様々なものが行き交じった町でもございます。幕末・
明治の激動期に緒方洪庵が大阪に開設した適塾は,当代日本一の蘭学塾として全国各地か
ら大志を抱いた若者達がここに集結,福沢諭吉・橋本佐内など,多くの俊英を輩出いたし
ました。
「道のため」は,医学の本来的なあり方を,
「人のため」は,医療人の本分を示す
もので,緒方洪庵が手紙に書き添える言葉として好んで使った言葉でございます。激変す
る今日のわが国の医療制度改革を,医学の原点に立ち戻って考えようという意味を込めま
して,今回のメインテーマに用いさせていただきました。
さて,本学会のプログラムでございますが,まず記念講演として,ノーベル物理学賞の
東京大学名誉教授・小柴昌俊先生に「素粒子と宇宙」についてのご講演をお願いいたしま
した。次に,特別講演1では,日本病院会参与である行天良雄先生に「あなたのあすを誰
が看る」というテーマでのご講演を,特別講演2には,大阪大学名誉教授・梅渓昇先生に
「適塾(緒方洪庵)と大阪」
,また,特別講演3には,米国イェ−ル大学内科小児科合同
プログラム(ブリッジポート病院)研修医の田中まゆみ先生に「米国における看護師−医
師関係と患者の権利」と題するご講演をそれぞれお願いいたしました。
次にシンポジウムについてですが,本学会では6つのシンポジウムをご用意しておりま
す。
シンポジウム1は,
「機能分化と医療経営−病床区分選択へのファイナルカウントダウ
ン−(座長:東北大学大学院教授・関田康慶先生)
」。シンポジウム2は,
「最新の先進医
療について(座長:大阪大学病態情報内科学教授・堀正二先生)
」
。シンポジウム3は,
「病
院改革と医療 IT(座長:国立大阪病院名誉院長・井上通敏先生)
」
。シンポジウム4は,
「安
全・危機管理と医療経済(座長:上都賀総合病院名誉院長・大井利夫先生)
」
。シンポジウ
※おおみち まなぶ (社)日本病院会副会長 医療法人大道会理事長
日本病院会雑誌
2003年6月
11
ム5は,
「看護実践能力の向上をめざして−質が高く安全な看護を提供していくために−
(座長:高槻病院副院長・内藤正子先生)
」。シンポジウム6は,
「中小病院の歩むベき道
−輝く病院づくりのために−(座長:上飯田第二病院名誉院長・福田浩三先生)
」の6題
です。各シンポジウムにおきまして,活発な議論が展開されます事をご期待申し上げてお
ります。なお,一般演題発表におきましても520題もの多数のご応募をいただきました。
発表者の皆様方には日頃の業務成果を存分に述べていただき,また,参加者の皆様方にお
かれましては,本学会にご参加いただくことで,一つでも二つでも明日からの業務に役立
つ成果をお持ち帰りいただきますことを心よりご祈念申し上げます。
学会場の大阪国際会議場は完成して3年ほどの新しい会場でございまして,また,大阪
は「食いだおれ」の町としても有名です。更に,ユニバーサル・スタジオ・ジャパンとい
う,映画をテーマにした魅力的な施設もオープンし,学会にご参加いただく方々へのおも
てなしの場としては,最高の環境であると申せましょう。皆様方のご来阪を心よりお待ち
申し上げております。
12
日本病院会雑誌
2003年6月
論
説
厚生労働省の新臨床研修制度案の問題点及び課題
聖隷浜松病院長
堺
常
雄
今回の制度は全般的には抜本的改革にふさわしいものと評価できる。例えば,今までの
努力義務がはっきりと義務化されたこと,臨床研修の基本理念が明示されたこと,臨床研
修の到達目標が明確に示されたこと,
研修病院の病床要件が取り外されたことなどである。
病床要件撤廃の影響については,先般の日本病院会の調査で新たに研修病院になりたい病
院が多くあったことと,今回の現行制度最後となる新たな臨床研修病院指定が77病院と増
加しており200床台の病院で主病院の指定を受けたところがあることからもうかがえる。
しかし問題点や課題は存在し,それを明確にしてどのように考えていくのか認識を共有
化することはこの制度を成熟させていく上で重要である。処遇,マッチングについては最
終的な結論が得られていない状況なので,
今回は主に施設基準を中心に述べることとする。
施設基準の中で研修プログラムに関する基準,施設・人員等に関する基準,受け入れ研
修医に関する基準について考えると以下のような問題点があげられる。①研修施設そのも
のの質の保証,②研修制度そのものの評価,③コアプログラムと研修期間,④臨床研修病
院と大学病院との関係,⑤地域医療の中での臨床研修(病院)の役割である。
① 研修施設そのものの質の保証:これは日本病院会が強く要望をしてきたところであ
るが,3月の「臨床研修病院の指定基準等について」の一部改正で「将来,財団法人日本
医療機能評価機構による評価等第三者による評価を受け,その結果を公表することを目指
す」と明示されており見通しは明るくなった。その実現の確認が必要である。
② 研修制度そのものの評価:研修プログラム,施設・指導医,研修成果等については
第三者による評価が不可欠であり,定期的な評価を経て臨床研修の成果が基本理念に合致
しているか検証する必要がある。研修医の定員要件についても同様であり,実際に十分な
症例・種類が保証されているかどうかも検証されなければならない。
③ コアプログラムと研修期間:研修期間については先の法律で2年間以上と決められ
ており今回はそのままとなったが,コアプログラムについては今回の基本研修科目,必修
科目及びその期間が妥当なものかどうかは検証されなければならない。どちらも卒前のク
リニカル・クラークシップが充実したものになれば当然変わってよいものと考える。
④ 臨床研修病院と大学病院との関係:いわゆるダブルスタンダードの問題と,厚生労
働省が考えている「将来的には地域の病院がすべて臨床研修病院となり,特定機能病院(大
学病院)は高度専門医療の研修を行うという役割分担を進めていく必要がある」という点
をどう捉えるのかの2つの問題がある。ダブルスタンダードはどうしても解消すべきであ
る。二点目については,大学病院自体の機能分担が問われてくるし,大学病院を医学部か
ら切り離さない限り明確な役割分担は難しいだろう。また一般病院では高度専門医療の研
修を行えなくなるということであればこれも大きな問題といわなければならない。
日本病院会雑誌
2003年6月
13
⑤ 地域医療の中での臨床研修(病院)の役割:最近,
「地域医療の現場で,大学からの
医師引き揚げなど様々な問題が起こっており」
,
これはあたかも新制度が原因のように言わ
れているが問題のすり替えをしないで認識を明確にする必要がある。医療の地域格差,医
療過疎の問題は今に始まったことではない。臨床研修の大きな目標はプライマリ・ケアを
しっかりできる医師を育成して医療レベルの底上げをすることであり,
地域格差を解消し,
結果として地域医療に興味を持つ医師が増えることを期待することだろう。
4月26日に第21回臨床研修研究会が開催され事業展開の転換が決められた。臨床研修必
修化を受け研究会を発展的に解消して臨床研修協議会とし,大学病院の積極的な参加を求
めることとなった。活動では情報委員会,研修評価委員会,指導医研修委員会等を設置し
て,マッチングの実施・研修の評価・臨床研修指導医養成講習会等を第三者として行うと
いうことである。日本病院会としても第三者評価に関しては積極的に参加・協力しなけれ
ばならないし,指導者講習会についても,臨床研修問題小委員会で具体策を検討している
ところである。
新制度の内容に関しては,拠るべきスタンダード,エビデンスがまだ存在しないので,
とにかくスタートして前述の問題点等を検証する必要がある。幸い本制度は5年以内に見
直しをすることになっており,その間日本病院会や会員病院が果たすべき役割は重大であ
る。その意味では「変われるか?臨床研修制度」でなく「どのように定着させるか?臨床
研修制度」と捉えたいものである。
14
日本病院会雑誌
2003年6月
病院医療の質を考えるセミナー・パネルディスカッション
医療の質の改善と医療経営
―質の改善は経営に影響を及ぼすか―
岩 﨑
川 渕
国立保健医療科学院政策科学部長 長谷川
岡山大学大学院医歯学総合研究科医療経済学担当客員教授 西 田
聖隷浜松病院副院長 渥 美
日本医科大学常務理事
東京医科歯科大学大学院医療経済学教授
榮
孝 一
敏 彦
在 賢
哲 至
平成14年7月・東京
岩﨑
私どももたじたじとなっているわけです。
榮
これはもう最後のところのスライドに書いてお
医療の質の改善により病院経営はよくなるか
りますが,
その効果というのは数知れぬ,
そうやっ
てお金に換えることのできない効果がもたらされ
岩﨑です。それでは早速お話に入りたいと思い
るという一言でもって院長さん方には,それがお
ます。ただこのメインテーマは,
「病院医療の質を
答えでございますということを言っていますの
考えるセミナー」でありますが,サブテーマに「質
で,今日も私の話は,その最後のところの話であ
の改善は経営に影響を及ぼすか」と。つまり医療
ります。
の質の改善と医療経営というのは成り立つかとい
そうは申しましても,現在私どもがやっていま
う話であったのだろうというふうに思っていま
す病院機能評価ということは,その測ることの意
す。
義ということでお話をこれから進めさせていただ
例えば今,私が属しています医療機能評価機構
でやっています,いわゆる病院機能評価ですが,
これには現行版では180万というお金をいただい
ています。
180万かけて質の評価を受けて,
それで,
きます。
質のよい医療とは
まず,この「質のよい医療とは」という定義か
病院の医療の質は改善するし経営もよくなるのか
ら入るわけですが,Donabedian というアメリカの
というふうな,受診していただく病院様からはそ
病院管理学の第一人者であったわけですが,この
ういうご質問をよくいただきます。
方の定義は「医療のあるべき姿」ということです。
そして,また受診をしていただいた病院は180
下限を定義することは困難であるということで
万どころではなかったと。受診する前に3,000万
あります。実際に現在日本の医療機能評価機構が
使ったとか,5,000万使ったとか,なかには1億近
使っています基準は評価項目,スタンダードと
くも改造費にかかったとか,これは評価を受けて
言っておりますが,その評価項目の小項目を「満
認定を受けると返してもらえるのかということさ
たしているか」
,
「満たしていないか」
,その真ん中
えおっしゃる理事長さんや病院長さんがいらし
の「十分満たしているとは言えない」
,この3つで
て,それはいろいろ経営の状況を改善することに
a b c という判断をして,中項目の評点をしてい
よってそういうお金が先生方のところに収益とし
く仕組であります。中項目の評点は5点から1点
て上がってくるのではないか,それは何年間で保
まで,5・4・3・2・1という評点をしていま
証してくれるんだ,そういう質問を受けて,大変
すが,小項目のaの数とかbの数とかcの数に
日本病院会雑誌
2003年6月
15
よって,5,4,3,2,1を付けています。
NA というのもありますが,それは評価するのに
医療の質の要素とは
は該当しないという項目も設けています。そのよ
そのことと平行的に,医療の質の要素といわれ
うなことで評点をしていることになっています。
るものがあります。
「技術的要素」と「人間関係的
これも Donabedian が発表した論文ですが,
時間
要素」というものが。やはり医療というのは相手
経過と病人の健康の回復度というのを見てみます
がいるということで,
単なる技術だけで質を測る,
と,普通は疾病の自然経過で治癒に向います,こ
技術だけの要素でもって医療の質というのは定義
れに最良のケアを介入させると,非常に経過が早
できないと。やはり人間的関係ということが大変
く疾病の回復度が早いと。そういう一例ですが,
重視されるようになるわけです。
こういったことからいっても,最良のケアという
この2つが兼ね備えられていることが,医師だ
ことによって健康回復度は増すものだと普通には
けではなくてすべての医療従事者に要求されるこ
言われているわけです。
とになるのではないか。それが,アメニティが大
これは「医療の質」を時間軸と関連させて見て
変高いところで提供されればそれに超したことは
います。例えば平均在院日数が短ければ医療の質
ないと,そういう意味にここはとりたいと思って
はいいのかということが問われていますが,一般
います。
的にはアメリカの文献などを見てみますと,平均
この要素間の関係と特長ということで,先ほど
在院日数が短ければ短いほど院内感染率は低いん
申しましたようなことを見てみますと,医療提供
だと。例えば院内感染率と時間軸とをとってみる
者,特に医師は「技術的要素」を重視すると。患
とそのような論文も多数出ているわけです。
者さんは「人間関係的要素」を重視すると。ごく
医療の質は患者の安心・安全・満足の度合いで
測れる
当たり前のことですが,医療提供者が医療の質を
云々する場合には,やはりその人の持つ知識・技
術,そういうものによって評価をするということ
私が定義した「医療の質」ですが,ちょっと私
を重視するという意味です。
の言葉で読んでみたいと思いますが,
「患者さんの
それから患者さんというのは,そういう技術や
求める医療サービスを効果的・効率的に提供をす
そういうことは十分にわからないわけですので,
ることで,その過程(プロセス)及び結果(アウ
やはりその人がかもし出す人間関係・態度,そう
トカム)において,患者及びその家族の安心・安
いうものを重視して評価をするとそういうことに
全・満足とが得られる度合いである」と。つまり,
なる関係です。
この医療の質というのは,患者さんや家族の安
「人間関係要素」
からすると大変評価は困難です
心・安全・満足,その度合いであるということ」
が,患者からの評価の重大性はますます増大をし
で,アウトカム指標というのが最近言われ始めま
てきています。QOL の重視の趨勢であるとか,ア
した。
メニティは患者さんの感受性による評価というこ
したがって,こういうことからしますと,医療
すうせい
の質を測る指標としては,患者やその家族の安心
とになるわけです。
質の評価は,構造,過程,結果からアプローチ
度・安全度・満足度で測ることができるのではな
できる
したがって,今私ども医療機能評価機構での質
いかということです。
そうはいっても,じゃあ安心度というのは何を
の評価は,この3つの方法をとっています。「構
もってこれをさらに詳細に測るのか,安全度とい
造」
,
「過程」
,
「結果」
。
「構造」は,どちらかとい
うのもどの程度か程度があるということです。こ
うとヒト・モノ・カネ・情報・システム,そうい
れをさらにブレークダウンした指標の開発が必要
うものが病院ではどのようになっているのかと。
ではないかということです。
「過程」というのは,提供している医療の過程そ
のものです。それから「結果」は,その結果どう
いうふうに患者さんがなったのかということに
16
日本病院会雑誌
2003年6月
よって,この3つの観点から評価をしているとい
ある,いわゆる表層的な評価をしているに過ぎな
うことになるわけです。
いわけです。したがって,目安であります。
どちらかというとわが国の評価機構が開発して
ニューバージョンには,改めてこのリーダシッ
います評価の体系というのは,構造にやや偏りが
プ,やる気をどういうふうに評価するかという項
あって,これを何とかして過程ないしは結果から
目も新しいバージョンでは入りました。
評価をするような方向に今変えつつあります。
それから過程と結果との関係が必ずしも明確に
今まで5年間やってきたのが「構造寄り」とい
はなっていません。例えば,
「すばらしい手術を
うふうに批判を受けています。今年,それを構造
やった」というふうに外科医は言っても,患者は
的にも改革をして新しいニューバージョンと言わ
亡くなることもある。過程がよかったからといっ
れるものを開発しました。それを今年の9月から
て結果がいいということにはなかなかつながらな
はそのニューバージョンを使って病院を評価しま
い。過程だけで測っていくことの難しさを示して
す。それは,過程ないしは結果から見ていくとい
いるわけです。
う方向に少しずつ変わってきている。もちろん構
結果というのは大変理想的でありますが,臨床
造を当然見てはおりますが,それよりも実際に提
指標というもの,
「クリニカル・インディケーター」
供されている医療そのものを見ていこうというこ
と言っていますが,そういうふうな臨床指標の開
とからすれば,過程・結果から見るのが順当では
発は大変困難です。例えば,従来からよく厚生省
ないかというふうに私どもも思っています。
等も使っています平均在院日数一つを取り上げて
それぞれ長所,短所があるわけで,構造という
みても,本当に在院日数というものがこの質を表
のはヒト・モノ・カネ,例えば医師が何人います
現しているのかというと必ずしもそうではないわ
か,専門医が何人いますか,どういう建物構造に
けです。
なっていますか,看護師が何人いますか。そうい
例えば術後の死亡率とかそういう限定した死亡
うことでみるというのは大変容易なんです。
ただ,
率を見ていくとか,または術後感染によってそれ
人数がそろっていればいい医療が本当に提供され
が死亡したとかそういう限定した死亡率をとって
ているのかどうか,ということは大変問題がある
いくならば,それは評価に通じる問題ではないか
わけです。
と,そういうことが言われて,まだまだこの臨床
わが国には昔から,
「少数精鋭主義」なんていう
指標の開発というのは開発途上です。
言葉があります。精神論で物を言う人たちも大変
アメリカではもう既に十何年もこの指標の開発
今でも多いわけですが,それには限界があるだろ
をやっているわけですが,まだ「これだ」という
うということで,やはりこの医療法等で決められ
指標は出ていません。私どもも臨床指標の開発に
たものというのは,あれは私どもの考え方からす
努めていますということだけは申し上げておきた
れば最低基準だというふうに思っています。それ
いと思います。
以上あることが要求されますし,さらには,やは
JCAHO というのは,これはアメリカの認定機関
りグローバルスタンダードと言われるこの世界の
でありますが,アメリカはほとんど構造的なこと
基準というものには大変ほど遠い人員基準になっ
をやめてできるだけプロセスで評価をしよう,ア
ている。それをよりよい方向,グローバルスタン
ウトカムで評価をしようという方向に変わってい
ダードに近づけるべく私どもの評価の項目も今変
ますが,本当に構造を省いていいのかという問題
わりつつあるということです。
は残っているわけです。
構造からプロセスそしてアウトカム評価へ
Lohr という人がこの死亡率を出して,これがい
いんじゃないかという提案をしたのが1988年のこ
ところが,この構造から見ていくというのは先
とでありました。そのほか,この Lohr という人の
ほども言いましたように,人間がそろっていれば
功績は,患者満足度で評価をする,それから QOL
すべていいのかということになりますので,これ
という指標でもって評価をする,そういうことが
で質を評価するということは最も間接的な方法で
いいのではないかということで,アウトカム指標
日本病院会雑誌
2003年6月
17
を打ち出した論文を書いたということです。
その場合の内容が,面接以下そういうことを評価
これは私の単なる発想ですが,まだこれが十分
して,そしてこれを点数化するということのほう
に証明できていないわけです。こういうものをア
がこれからの質の評価と点数との関係にはリーズ
ウトカム指標にしたら日本の現状にどうマッチす
ナブルな考え方ではないかと。
るのか。例えば「3分診療の3時間待ち」なんて
それから,患者さんからのフィードバック,こ
いうマスコミからの批判を受けていますが,これ
れには満足度,クレーム数というのを入れる必要
を診療や手術や検査の患者数等による評価指標。
があります。ただ単に,満足度だけではないと。
私は外来で,例えば15分以上の診療時間をかけて
それから診療の記載内容も,これもチェックでき
診た患者数,標準は週当り20名程度でどうだろう
る項目です。POS 形式というのを日本医師会も推
と。少なくとも週当り20名,患者さんを診る場合
奨していますが,そのほかに誰もが分かる言葉で
には15分ぐらいかけてみた患者さんを20名ぐらい
読める字で書いてあるということも一つの指標に
と設定してみたわけです。
なるのではないか。毎日回診ごとの記載は当たり
それから対診数とか紹介数,そういうものに
前であります。それからインフォームド・コンセ
よって外来の診療の評価ということをやってみた
ントの内容,患者さんの同意した内容,診療計画,
らどうだろう。それから,この入院患者さんにつ
クリティカルパスなんかもそうです。
いては,受け持ち患者数とか,または毎日30分以
それから検査結果の考察には,対診や処方箋の
上かけて診るという指標。その一方で主治医たち
内容,紹介状の適切性,こういうものによって診
は患者さんのベッドサイドへ行かないということ
療から評価できるのではないかと。
もよく言われていますし,そいういうことは,面
接や診察や検査や説明を合わせて毎日30分以上患
者さんの側にいるということが大事ではないか
それから,患者の評価としては,健康回復では
家庭復帰率や ADL や QOL の向上程度。
質の評価の目的は質の改善を目標にしていると
と。その場合でも,対診数や紹介数も必要である。
いうことです。Bad apple つまり,不良品を排除
それから手術,今回の診療報酬改定等で手術例
するという思想ではなく不良品を作らないように
数というものがある程度に達しなければ減点とい
するというのが私ども医療機能評価機構がやって
う方式がとられるようになりました。しかしこの
います質の評価です。
場合例数ではなくてやっぱり内容であろうと。一
サーベイヤーによる差をなくすためにも外的基
例一例の内容がどうであったかという吟味の中
準の開発をすすめている問題の1つとしてサーベ
で,別に50例なくても質的なものがきちっと評価
イヤーの問題があります。そこでできるだけ誰が
できればそれでよいとする方向に私はもっていく
やっても同じ結果が出るという評価にしていくと
必要があると。しかし当面のああいう考え方自体
いうことが重要であるということで,そこに「内
は,私は賛成をしているわけです。
在的基準」とか「外在的基準」という考え方があ
そういう手術に関しては,やはり面接にどれだ
ります。ここではできるだけ内在的基準をやめて
けかけたかとか,インフォームド・コンセントに
外在的基準化をしていくということが重要であり
どれだけかけたか,かかわりの度合い,それから
ます。
術前後の管理数,術前にどの程度関わったか,そ
したがって,評価のスタンダードというものが
れから術中はもちろんでありますが術後どのよう
たくさん並べられていますが,それは外的基準を
に関わったかと,それからその手術の結果どのよ
増やすことによってサーベイヤーの負担,または
うになったのか,その説明をどのようにしたのか
サーベイヤーの経験による差を少なくする方向で
と,そういうものを一例一例吟味するということ
工夫されています。つまりできるだけ客観化でき
によって,手術を評価する,さらに患者さんのそ
るような指標化ということを考えているわけで
の後のフォローも必要であります。
す。
要するにここで私が申し上げたいのは,例数で
はなくて,一例一例の内容の評価ではないかと。
18
日本病院会雑誌
2003年6月
DRG および DPC の考え方は基本的には,重症な
評価することのメリットとは
患者さんは医療資源すなわち人件費とか薬とか材
さいごに評価することのメリットということで
料をいっぱい使うのではないかということです。
まとめましたが,①社会的ステータスが得られる
なぜこうした患者の分類表が出現したかといい
のではないか,それから②信頼が得られる,それ
ますと,患者特性を考慮に入れるためです。病院
から③質の保証,そして④病院における改善点や
が黒字とか赤字ということをよく言われるんです
問題点が明確になる。それによって改善目標が立
がなぜ赤字なのかというと,人件費が高いからで
てられるということです。それよりも一番受審さ
す。黒字は人件費が安いから,しかし,人件費も
れた病院からの声として支持が強いのは,職員の
さることながら,やはりその患者さんの属性とい
質改善への動機付け,意欲が増して心を入れ替え
うものを少し考慮に入れないと,ただ黒字・赤字
て病院が質改善に向けて努力するように職員全員
ということを論じてみてもだめなのではないか
が一丸となってそれに当たったということでし
と。
た。院長さんや理事長さんからはどちらかという
そこで文献を調べますとケースミックスという
とお褒めの言葉をいただいて,
「受けてよかった」
用語がありました。日本では何となくケアミック
というのが最終的には,我々にいただいている評
スというのが非常にはやっていますが,これは和
価,評価機構への評価ということです。
製英語で,療養型と一般病床をうまく組み合わせ
るという話があります。ケースミックスとは患者
川渕
さんの属性のことです。ポイントはどうやって患
孝一
者のリスクをアジャストメントするかです。
(キーワーズ:DRG(Diagnosis Related Group),
DPC(Diagnosis Procedure Combination),ICD
(International Classification of Diseases),
ケ ー ス ミ ッ ク ス , CC(Complications and
Comorbidities) , PCI(Percutaneous Coronary
Intervention))
ここでキーワードは,WHO が作りました「ICD」
という国際疾病分類です。
ICD コードというのは14,000もあります。また必
ずしも DRG は1種類ではないことです。例えばア
メリカの HCFA(現在,CMS)という,日本の厚生
労働省に当たるところは,
499の DRG を今支払い方
式に使っていますが,どんどん合併症とか併存疾
ただいまご紹介ありました川渕です。岩﨑先生
のほうから非常に広範な話がありました。私は20
患を精緻化してきますと,
1,500の分類に広がって
いくわけです。
分ぐらいいただきましたので,23枚のパワーポイ
ICD も一種類ではありません。ICD には ICD-10
ントで,DRG が医療の質,あるいは経営に少し役
とか ICD-9-CM などがあります。WHO は ICD-10や
立たないかという話を今日申し上げます。
ICD-9が出しているんですが,
アメリカ政府はこれ
通常「DRG」と言いますと,何となく定額制で,
をクリニカル・モディフィケーションと称し,独
何か暗いイメージがあるんですが,実は DRG とい
自に臨床応用をして,先生方が使いやすいような
うのは患者の分類表です。そのへんの誤解も払拭
形の要件にしています。わが国は平成7年より
できれば光栄だと思います。
ICD-10を採用しています。
今申し上げましたように,DRG というのは「悪
しかし1万4,000もあるコードを持ってして患
名 高 き DRG 」 と 言 わ れ て い ま す が ,
者を分類することには少し細かすぎます。
そこで,
「Diagnosis-Related Group」の略であります。今
医療資源の投入の同質性という観点から,
500から
日の表題の「日本型 DRG」というのは DPC のこと
1,500という分類にしているというわけです。
です。何かよく横文字がとび交っていますが,
先ほど申しましたように,わが国でも ICD の普
Diagnosis Procedure Combination が日本版 DRG
及ということで,厚生労働省も急性期特定加算の
です。今年の4月から特定機能病院等にこの DPC
要件にしています。平成14年10月から「急性期特
に基づく,包括払い方式が導入されます。
定入院加算」と名前が変わりますが,同加算の要
日本病院会雑誌
2003年6月
19
件として,ICD コーディングが実施されたわけで
す。診断コードと処置・手術コードがありまして,
ことを申し上げます。
HCFA-DRG と IR-DRG の何が違うかといいますと,
これは日本病院会でも通信教育で実施していま
ここに「脳血管障害」と書いてありますが,この
す。しかし,処置手術コード ICD-9-CM はアメリカ
DRG の番号は1341です。先ほど500から1,500と言
等で使われていますが,なかなか日本では普及し
いましたが,この DRG は全部で938ありますが,こ
ていません。
の「1341」はその中の一つの番号なんです(図1)
。
そこで,98年からの DRG の試行でも,今の点数
横にちょっと見にくいんですが,without cc と
表のKコードを準用しているわけです。ただK
書いてあります。実は without cc というのは,い
コードは非常に数も少なくて,私は不十分ではな
わゆる合併症併存疾患がない脳血管障害というこ
いかなと思うんですが,こういうコーディングポ
とです。
リシーがはっきりしたために,DRG の試行は非常
このほかにもう2つ分類がありまして,with cc
に今苦戦しているところであります。支払い方式
の意味は,合併症併存疾患がある脳血管障害,そ
に使うとして,なかなかこれは難しいのではない
れから with major cc が重篤な合併症及び併存疾
かと思います。
患がある脳血管障害ということで,都合3分類に
しかし,今日の本題は,DRG を支払い方式に使
うのではなくて,医療の質の改善や経営に役に立
なっているというところが IR-DRG の特徴ではな
いかなと思います。
たないかという視点です。ですから,今日は少し
DRG はよく重症度をコントロールしていないと
私がやっている DRG を用いた病院ベンチマーク事
いうご批判がありますが,
その欠点を IR-DRG はあ
業を紹介したいと思います。
る程度クリアしているということです。
詳細は今3月に辞した日医総研のホームページ
次に,
この IR-DRG を使って入院から退院までに
に全部公表しています。それをダウンロードして
要したコスト,これは先ほど申しました疾患別原
いただければ全容を見ることが可能です。
価計算をやってみた所,都合1から36までの病院
ではこれから,DRG を用いた「医療の質」評価
で随分バラツキがあることがわかりました。
として① コスト比較,② 死亡率,③ 再入院
今日ご参画いただいている病院の5病院が実は
率,④ 帝王切開率,⑤ 医師別成績比較,がで
この病院の中に入っているんですが,名前を公表
きるということを説明していきたいと思います。
しないということを条件に出しましたので,何番
まず病院ベンチマーク事業は私のみならずいろ
の病院はどことは言いません。しかし,コストが
んな方が今始めています。恐らく病院ベンチマー
安い病院から高い病院まで部門別に都合11の事業
ク事業を行うためには,①患者の属性重症度を計
部に分けてさらに見てみると各病院の問題点が見
測する尺度(ケースミックスの開発)
,②一定の患
えてきます(図1)
。
者を治療するのに要する投入コスト
(インプット)
こんなような形の分析をしていけば,
「うちの病
や医療資源を計測する尺度の開発,
③治療成果
(ア
院は全体の中でどれぐらい人件費,材料費が高い
ウトプット)や医療の質を計測する尺度の開発,
のか」ということがわかってくるのではないかな
といった3つの尺度を開発する必要があります。
と私は思っています。
それでは DRG は患者の分類表としてどうなのか
それから,DRG を支払い方式に使った場合には,
ということですが,必ずしも DRG がベストとはい
「こういう病院は黒字になる」
「こういう病院は赤
いません。しかし,いろんな国の学者が DRG を各
字になる」も予測可能になります,残念ながら厚
病院の評価,あるいは各国の病院のパフォーマン
生労働省にはこういうデータがまだ出ていないの
スを見る一つの共通言語として使っているのも事
です。
実です。今日ご説明するのは,アメリカの厚生労
働省が支払い方式に使っている DRG ではなくて,
DRG/PPS の試行はもうあと1年半で満期を迎え
るわけですがどうするのでしょうか。
もう少し精緻化した IR-DRG というものです。
今度は外科系ということで,眼科のケースを
IR-DRG を使って,どんなことがわかったかという
持ってきました。眼科のケースと内科のケースで
20
日本病院会雑誌
2003年6月
図1 DRG 別一人当たり平均コストの部門別構造比較(内科系)
図2 DRG 別一人当たり平均コストの部門別構造比較(外科系)
日本病院会雑誌
2003年6月
21
若干違う点は,手術室を使うか使わないかという
かということです。
ことです。したがって手術部門のコストが違って
図4のように等高線を引いてみますと,同じ疾
きます。この緑色は手術室のコストということで
患でありながら№30の病院と№2の病院はずいぶ
す。これも相当ばらついているなということであ
ん違いました。平均在院日数はあまり変わりなく
ります(図2)
。
て,もっぱらコストに要因があるということがわ
当該病院はどうしても自院のコストはどうして
高いのか,低いのかということを聞きたい。そこ
かってきます。こんな形で,経営分析に使えばい
いのではないかと思います。
で我々は,病院分析と称して,1人1日の平均コ
それから症例数が増えることは果たしてよいの
ストと平均在院日数に分けて分析したらどうか,
かということですが,この仮説は DRG1341に関し
あるいは症例数が増えることは果たして規模の経
て申し上げますと,必ずしもあてはまらないよう
済が働いてコストパフォーマンスがよくなるのか
です。つまり,規模のメリットは働かないという
ということについて少し研究分析をしています。
ことが今回わかりました。
それを次に紹介します。
死亡率についても分析してみました。死亡率は
これに関しては,横軸は平均在院日数,縦軸は
先ほど申しましたように,レベル1からレベル3
1人1日当りのコストということで,掛け算すれ
まで DRG ごとにコントロールしてありますので,
ば先ほどの入院から退院まで要したコストとなり
without cc, with cc, with major cc でやってみ
ます(図3)
。今の診療報酬政策だと平均在院日数
ましたら,やっぱりわが国のデータでも当然死亡
を短くしてコストを切り詰めればいいということ
率は上がっていくということがわかりました(図
ですが,過度に短くすると問題があるのではない
5)
。
図3 DRG 別一人一日当たりのコストと平均在院日数
22
日本病院会雑誌
2003年6月
図4 コストの高い病院と低い病院
こんな形で死亡率をある程度把握すれば,ある
けですが,これがよかったかどうか。確かにねら
程度重症度をコントロールしながら病院の評価が
いは良かったんですが,症例数にエビデンスが
できるのではないかということです。
あったかどうかというところがよく批判されてい
他方,症例数が増えると死亡率が下がるのかと
ます。
いうことですが,統計的な有意はありません。
そこで,
今回 PTCA 等のいわゆる PCI のケースに
DRG1341に関していえば若干右下がりのカーブを
ついて少し見てみました。年間100例以上なけれ
描いていますが,統計的有意はない(図6)
。
ば,手術料は3割カットになっているということ
一方,肺炎,百日咳,with cc に関しては,逆
に右上がりのカーブになっています(図7)
。
ですが,どうでしょうか。
今回の36病院に関して申し上げますと,むしろ
先ほど出てきたように,今4月の診療報酬です
症例数が多くなると死亡率が高まってしまうとい
が,勘と度胸で年間30,50,100例と決めてみたわ
うことが出てきました。必ずしも厚生労働省の
やった政策が正しくなかったようです。もちろん
デースペースが限られているので,このデータだ
けでは言えませんが。
それから100例以上ということなので100例以上
に区切りますと,もっと病院の数も減ってきます
が,傾向はやはり右肩上がりのカーブになってい
ます。
今度は主治医コードを振って先ほどの36病院の
主治医番号別に症例数と死亡率を持ってきます
と,これは逆に症例数が多くなると死亡率は下
図5 CC レベルと死亡率
がっていくという傾向があります(図8)
。
日本病院会雑誌
2003年6月
23
図6 症例数と死亡率
図7 症例数と死亡率
手術の件数を施設別に決めていくのがいいの
れから評価が分かれるのかなと今回思いました。
か,あるいは,ある程度主治医といいますか,医
ですから,一市民としてどうせ手術を受けるな
師ごとにみていくのがいいのかというところがこ
ら症例数のの多い先生に診ていただきたいなと思
24
日本病院会雑誌
2003年6月
ず病院に役に立つということになると思いますの
で,ありがとうございました。
長谷川敏彦
(キーワーズ:臨床指標,ベンチマーク,医療事
故,医療の質,医療の安全管理)
ご紹介ありました長谷川です。台風明けの,か
つ,梅雨明け前の午後のひと時,この「医療の質」
図8 主治医別・症例数と死亡率
には大変ご熱心で,その業務に参加できたのは大
いますが,これで「優秀なドクター」ということ
変に光栄に思っています。
でいいのかどうかまだ研究の余地があります。し
現在,国立保健医療科学院という名前の研究所
かしある程度エビデンスが出てくれば努力するも
に変わっていますが,元は国立医療・病院管理研
のは報われるような形になってくるのではないか
究所でした。首都圏機能移転で無理やりに埼玉に
なと思います。
移されて大変迷惑しています。
これが最後ですが,この研究を始めて3年目に
自己紹介のかわりに,
所属機関の紹介をします。
なりますが,ある程度わかってきたことは,DRG
国立医療・病院管理研究所は1949年に,GHQ の命
というのはいろいろ批判がありますが,医療資源
令で生まれまして,そして1961年に研究所に昇格
の使用状況,あるいは治療成果を特定でき,それ
して,最後に1991年に国立医療・病院管理研究所
から,死亡率の査定もある程度できるのではない
という名前になったのですが,今回,和光市で国
かということです。さらに,平均在院日数の短縮
立公衆衛生院と一緒に保健・医療・福祉の統合的
にも貢献するのではないかと思います。先ほど申
政策研究所となりました。かわいそうに,国立医
しましたように,他病院と比べてみて初めて他流
療・病院管理研究所は享年53歳で,この3月31日
試合ができるわけで,そういう形でやっていけば
に亡くなりました。新しい名前が,保健医療科学
いいのです。
院です。
中には,お互い同士名前を知りたいという先生
挽歌として,
「病院経営戦略」という本を書きま
もおいでなんですが,先ほど申しましたように病
して,
病院管理の研究53年間の研究の集大成です。
院名は公表できません。しかし,2003年3月には
今日はこの販売促進にまいったわけです。大変売
ある程度病院名を出しながら,うちはあそこより
れていて,ほとんど1刷全部売り切れたそうです
低いのか高いのかなという具合に疾患別に見てい
が,第2刷に入っているところです。
くことができるのではないかと思っています。
さて,今日のテーマですが,何か「標準医療の
そして,先ほど申しました,今回の診療報酬政
功罪―質の改善と経営の影響―」とかいうテーマ
策に関しては,必ずしも症例数が増えるほど死亡
をいただいたのですが,こういう問題設定が間
率が低下するということは言えません。中にはそ
違っていると今日のセミナーを考えた方に申し上
ういうケースもありましたが,そのへんはケー
げたのですが,すでに決まっていると。
ス・バイ・ケースではないかと。そして110項目に
「客はいいサービスを求めて集まり,
安全性と質
もああいう施策を導入したのがよかったのかどう
とクオリティは同時に改善される」ので,これだ
かというのはちょっと私自身,個人的にクエス
け申し上げたら今日は帰っていいでしょうか。だ
チョンマークです。
めですか。ではこのことを本日は説明してみたい
こういう研究を今後とも私ども続けていきたい
と思っていますので,
またデータ等いただければ,
と思います。
まず第1番に,私がつい最近気が付いたことで
各病院に CD-ROM という形でお返しいたします。
よ
すが,国際的に「医療の質」ということの定義が
ろしくお願いいたします。ご協力いただければ必
変わったのではないでしょうか。
昔の教えでは
「医
日本病院会雑誌
2003年6月
25
療の質」というと,何か高度で複雑で困難で難し
問題にするのだというふうに言って,NHS の新し
いことをできるのかと。私が医学校にいた時代に
い 医 療 安 全 の 政 策 ,「 An Organization wish
はそういうふうに教えられていたし,一般の方も
Memory」なかなかいい言葉で僕は大好きなんです
多くこういうふうに思っていた方がまだおられる
が,過去の失敗から学びながら,事故を防ぐとい
のではないかと思うんですが,しかし,国際的に
う計画がかかげられました。
かつ国内的にもまったく「医療の質」って変わっ
たのではないでしょうか。
オーストラリアだけはちょっと違いまして,
ウィルソンという教授が実際にカルテをくって医
新しい「医療の質」の定義,それは「ごく普通
療事故を調べますと,何と入院患者の16・6%,
のことを普通にすること」であります。考えてみ
6回に1回事故が起っていると。全世界5カ国を
ると,我々が学校で習った質とずいぶん違うので
通してみますと,事故率は約10%でした。死亡率
とまどわれるかもわかりません。もうちょっと詳
は0.4%でそれを日本に当てはめますと,500床の
しく申し上げますと,
「日常の医療を科学的根拠か
病院ですと年間14人医療事故で死んでいます。月
ら到達しうるレベルまで到達するように実行する
に1回ずつ死んでいます,大体。そういう計算で
こと」であります。
す。
何でこうなったのか。
それは私に言わせますと,
つまり,もし日本の医療がアメリカよりもレベ
国民,世界の人たちが,
「ノー」と言い出した。つ
ルが変わらない,オーストラリアと変わらない,
まり,アクロバットは美しい,しかし危険である。
イギリスと変わらない,
デンマークと変わらない,
医療は研究開発のサイクルですので,研究開発が
ニュージーランドと変わらないのであれば,大体
尊敬される。高く評価されると。
月1回死んでいるのです。
実はこれはつい最近のこと,人類史的につい最
皆さんの実感とはちがうかもしれませんが,僕
近の現象だというふうに思われます。私も医療の
の友人で医療情報部の責任者は,それぐらいある
質と安全性の問題というのは,大変長い興味だっ
のではないかと言っていました。つまり,皆さん,
たのですが逃げ回ってきましたが,とうとう逃げ
気が付かないだけで,カルテをくっているとそれ
切れなくなって2年前に捕まりましてつい最近,
ぐらい死んでいる可能性があります。
厚労省に命令されて医療の質と安全性の研究を始
めました。
さて日本では,大変医学的・研究的にも評価が
高い,
某大学病院で1999年に事件は起こりました。
安全への関心は研究して分かったのですが国際
ちょっとおもしろいのは,日本の場合は,質の政
的に同期的に連動している。まず94年に,アメリ
策は教えられず,まず事故のアクションプランが
カの場合,ダナ・ハーバーの事件が起こり,ハー
できまして政策プランができました。
実は日本は,
バード大学のガンセンターで有名なマスコミの人
世界で4番目にコンプリヘンシブな,全国レベル
が医療行為で殺された。たまたまそういうことが
の医療安全の政策を作った国でして,
医政局長は,
数回続いたのです。それで,クリントン大統領は,
日本は医療安全先進国だとおっしゃっておられま
諮問委員会を作って検討しました。その結果,IOM
す。
という私的研究ですが,そこに質の研究をしろと
ただやり方がほかの国と違っていて,ほかの国
いうことになって「人はまちがうもの」という報
は順番は,事故が起こったあと質を問題にし,安
告書が99年にまとめられました。
全の戦略計画,アクションプランの順になってい
イギリスの場合は,ブリストル小児病院で異常
ます。日本は,まず事件が起こりました。そして
に高い心臓の小児の手術の失敗結果が出て,そこ
アクションプランを作って,そして,いまから質
で,ちょうどその政権が変わってブレア政権に
の問題に入ると,ちょうど反対になっています。
なって最初に出たレポートが,
「クオリティファー
そうしますと,先ほどの話で元に戻りまして,
スト」です。つまり,前サッチャー政権は,功利
何がいい手段か。質は平均値を高め,バラツキを
性を中心に
「お金を減らすぞ」
というプレッシャー
少なくするんだ。ベンチマークをし,それに近づ
をかけたけど,我々は違うんだと。クオリティを
くのだ。医療事故というのは極値であり,はずれ
26
日本病院会雑誌
2003年6月
値です。だからはずれ値ということをなくすと質
ふうに変わってきた。情報が大変発達したと思い
は上がるわけですし,また逆に質が上がると事故
ます。コンピュータのクロック,記憶容量は想像
が減る。つまり,質と安全性はコインの裏表とい
を絶する進歩です。
う議論の証拠であります。
そして,標準化。やっぱりここ5年ぐらいなの
事実,ここ数年間の間に,医療の質が再定義さ
でしょうか,ある病気のあるステージだと,大体
れました。次の3カ国でされていまして,アメリ
これぐらいのアウトカムである。どっちが先か知
カは,セーフティを質の中の一部に取り入れてい
りませんが,つまり標準化があったので EBM が始
ます。イギリスは outcome と表現しますが,安全
まったのか EBM ができたからマネジメントができ
性というものを入れて,それから最後にオースト
るようになったかということがあると思います
ラリアもセーフティをその最初に入れていると。
が,医療の標準化が進んできていると。
ちょっと横道にそれますが,この3カ国で安全
やっぱり5年,10年前というのは,標準化ガイ
性が問題になったというのは,ちょうど80年後半
ドライン,EBM の本もなかった,英国医師会出版
から約10年間にわたって国際的に広がったプロ
部が出しているクリティカルエビデンスという本
マーケット,市場中心的な政策によって,医療の
は大変いい本ですが,そういうものがなかった。
質が下がっているのではないかという国民の不安
そして,国際的に疾病管理という概念が広がって
があったからだなというふうに私は思っていま
いった。それが先ほど申し上げた「医療の質」と
す。
いうものの考え方を変えてきたのではないか。コ
なぜこういうふうになったかというもう一つの
理由があります。今まで皆さん方はマネジャー,
ンビニ医療ですね,どこへ行っても同じものがあ
ります。
トップディシジョンメーカー,最終意思決定者
こうなったもう少し遠因をみてまいりますと,
だったというふうに理解いたしますが,そういう
結果マネジメント,もう既に1988年のニュー・イ
連中が個々の専門家,医師や看護婦さんを捕まえ
ングランド・ジャーナル・オブ・メディシンの編
て,
「おまえ,ちゃんとやっているか」というふう
集長,レルマン教授の報告によりますと,人類は
に言うと,
「いや,やっているよ」と。
「おまえ,
この第3次を含め,評価と,アセスメント&アカ
やっていないじゃないか」というと,
「いや」とい
ウンタビリティが入ってくる。アウトカムを測っ
う,
「グダグダぬかすな」とこういうふうに言うと
てがんばっていこう。この三次があるためには一
思うのです。それは,臨床家にとっては,目の前
次と二次がありました。一次でどんどん医療産業
の患者さんが死ぬか生きるか,治ったか治らな
が広がる。第二次はそれをぎゅっと抑えつける。
かったといって,100か1か,0,1のコードなの
医療費抑制です。
一番簡単な医療費抑制の方法は,
ですね。
病院を全部つぶして医者を全部クビにすること
ところがマネジャーは,
少しうしろに下がって,
集団でパターンを見ると,
パターンが見えてくる。
で。ナンセンスですね。
第三次医療費革命は,それに対する反応で,こ
このようにできるようになったのは実は人類史的
こが重要ですが,専門家,病院の側からそういう
にはつい最近のことです。考え方はもう既に70年
風潮,政府あるいは国全体,あるいは株式会社 HMO
からあった。私もたまたまアメリカにいましたか
に対する反発として起こってきているということ
ら,70年代のパラダイムというんですか,新しい
です。Value for Money。資源をしぼりこむのは必
考え方で,既に展開されていました。今日 EBM と
要かもしれないけど,
プロとして質が問題なんだ。
言われる,医学判断学の教え方が医療,既にその
質を守らねばならないという運動でありました。
ころに始まっていました。
これを見ますと,最近出てきたいろんなカタカ
しかしパターンが見えても,臨床には生かせな
ナがよく理解できます。結果マネジメント。さっ
かったのですが,まず IT の,政府も先ほど申し上
き申しましたように,EBM やクリティカルパスに
げた非常に市場経済中心的な政策から安全性や
よって測れないか,そして平均を上げばらつきを
セーフティネット,政府に明かりを見直すという
下げる方法として,TQM,経営工学,極値をなくし
日本病院会雑誌
2003年6月
27
て医療事故を防ぐ,以上は医療の言語ですが,そ
みたかったんですが,というのは,なぜ日本は順
れを患者の言語に置き換えると CS,これを発表す
番が反対か。諸外国は昔から事故問題,僕は75年
る第3者評価がはじまってます。つまり,ムリ,
から80年,アメリカの病院で働いていましたが,
ムダ,ムラを省いてできるわけです。ツールがで
その時から医療事故の問題はがんがんやってまし
きたということであります。
た。何で今さら。もう既にあるリスクマネジメン
まとめますと,安全と質と効率は同時に改善さ
トに対して,そして常にあるクオリティマネジメ
れます。あのシステムでいくと,ムリ・ムダ・ム
ントに対して,新しく「人はまちがうもの」とい
ラが全部一緒に入る。したがって,単に安全性と
う報告書は挑戦しました。
質だけではなくて,効率も高まるのではないで
しょうか。
何でかということを先ほどちらっと申し上げた
のですが,そういう伝統がなぜ外国にあって日本
私が言っているのは,じゃあ安全性にカネをか
にないか。私の感想を申し上げます。日本の医療
けたって,患者数がすごく増えるわけではありま
は軍事医学だったからだと思います。その話は
せん。だけど無駄をなくして,そのお金をその安
ちょっと後でするとして,もう一つは,というの
全性に向ければ,改善されることを申し上げてい
は,日本は世界で一番複雑なライティングシステ
るだけです。ちょっと横道に逸れますが,実は世
ムをもっています。人類史上の奇跡です。2,600
界中で,国立病院改革に成功した国はありません
の漢字を音訓二読み,平仮名,カタカナ,アルファ
でした。成功したのはアメリカだけ。アメリカは
ベット26文字を読みこなせる人間が,人口の95%
安全性と人を使って成功しました。
以上を占めている。アメリカは,アルファベット
ところが,アメリカの国立病院の負担は一銭も
26文字が読める人間が85%に過ぎません。その国
上げなかったのです。お金を投入せずに,質と医
があれだけ訴訟をするんです。日本は世界で最も
療を変える,
安全性を変えると言われていました。
インテレクチャルで,そのために大変登校拒否等
もちろん安全性と質にはカネがかかります。しか
のコストを払っていますが,世界のベスト。95%
しそれは,逆に無駄を省いてそのカネで安全と質
の識字率を誇る,26文字どころか2,600
に回したと思われます。
文字,これが使いこなせる。それなのになぜこん
ということで,私は現在,長谷川の3段階とい
50
26
なに日本人は黙っているのですか。ほかの商品は
うのを提案しています。リスクマネジメントはも
世界最高で,商品の取揃え,デパートの商品の数,
ともと病院へのリスクとかそうという目的でし
もうアメリカと比べたら格段の差です。その理由
た。Risk to Hospital です。それが最近 Risk to
は,軍事医学だと思います。今日は説明しません。
Patient をへらそう,ひっくり返しますと,Safty
もう一つは,データなかったです。アメリカ・
to Patient に変わってまして,かつては医療を含
ヨーロッパではここに並んでいるように,さまざ
まない,例えば,盗難とか火事とかそういうセー
まな活動がありました。古くはハムラビ法典,ナ
フティを意味していましたが,最近では医療行為
イチンゲール,こういうのもある。これは本当は
を含むセーフティマネジメントに変わってきまし
えげつない本なのですが,それは今日は説明しま
た。したがって,ここではっきり申し上げますが,
せんが,
医者をあごで使ってイギリスの院内感染,
リスクマネジメントとセーフティマネジメントは
イギリスの病院科学を遂行しました。アメリカの
意味が違うんです。
日本の場合には,
もうストレー
コドマン教授,この人がクレージーでしたね。そ
トに安全管理(セーフティマネジメント)という
してウエンバーグ教授。ぼくも一度お会いしまし
のから入ってもいいのではないでしょうか。そし
たが,デューク大学で近代的に医療の質を証明し
て,危険管理(リスクマネジメント)から安全管
たのは彼だと言われています。最近です。本当に
理(セーフティマネジメント)
,そして,質の管理
最近。76年かな。
(クオリティマネジメント)TQL と,
「長谷川の3
段階」というふうに言っているわけです。
あとちょっと医療の質の歴史なんかの話をして
28
日本病院会雑誌
日本では,虚血性心疾患の開胸手術を分析して
みますと,例えば手術しない施設ほど死亡者が多
い。しかし残念ながら4例以下の手術をするとこ
2003年6月
ろが大半を占めていると。病院か心臓外科医かの
減るわけではない。平均在院日数が短くたって,
エゴで患者が少ないのに,とりあって年間少数例
医療の質が高くなるわけでもない。もちろん若干
しか手術をせずに手術に慣れずに患者さんを殺し
は上がるのでしょうが,そのまま直接相関がある
てしまっているというのが日本の医療界なのでは
というわけではないと僕はずっと思っていまし
ないでしょうか。
た。
これは,きちっとよい病院に紹介して技術集積
何でアメリカであんなに平均在院日数にこだわ
することによって防げると思います。内科疾患で
るのだろうと。わかったのはつい最近,お恥ずか
心筋梗塞で右下がり,若年喘息,ぜんそくでも8
しいですが1年前でした。幸か不幸か,日本の病
例以上はゼロで,8例以下は1%の死亡率となっ
院は先進国ではめずらしく,最終意思決定者であ
ています。
る院長が医師です。例外はありますが,全国で2
でもこの救急の問題はかなり深刻でして,どれ
カ所,非医師の方が院長をしていますが。
がいい,どういうふうにするかということは言え
アメリカは大半が非医師です。そして,医師は
ません。と言いますのは,症例数を集めると救急
外部に開業していて,病院を使う。病院は,トッ
施設が減るからです。年間8例扱っているぜんそ
プマネジャーがビジネスパーソンで,ミドルマネ
くの施設は全国で50しかありませんので,ぜんそ
ジャーは看護師長さん。アメリカの病院の最大の
くを扱うのは県に1個しかないということは大変
カスタマーは医師であり,病院の売りは看護付き
危ないことです。
ベッドホテル貸し業です。もし皆さん方,その立
ですから,これについては,行政官も決めませ
場にあったらどうです。医療のことがわからない
ん。研究者も決めません。病院の皆さん方も決め
でレイパーソン(素人)で,ビジネスのことは知っ
ない。国民が決めることです。ですから僕は国民
ていますよ。しかし,そこそこ自分の会社の商品
にアンケートをする必要があるのではないかと。
の質に責任をとらなければならない。そして,そ
あなたは死にたいですか,それとも近い病院がい
の頼りにする最も重要なクリニカルな臨床の判断
いですか,これを聞く必要があると思います。本
をする医師は組織の部にどうしてコントロールし
当です。これはリスク管理です。リスクコミュニ
なければいけない。僕だと確実に胃潰瘍になりま
ケーションです。
す。
帝王切開率も県別でずいぶんばらついていま
しかもアメリカの外科医,特に外科医なんかよ
す。年齢階級,ハイリスクでこんなにばらつくん
く知っていますから,すごく自己主張が強い。も
だと。診療所で和歌山と高知で約3倍。病院では
ともと自己主張の強い国民ですから,
アメリカは。
約4倍のばらつきがあります。それでもアメリカ
それを院長がマネージしている。非専門家と専門
より少ないのですが,日本は大体診療所で10%,
家は机に座って,医療の質も効率も経営的な側面
病院で15%ぐらいですが,アメリカは23∼24%
をもって,しかも伸びたり縮んだりできるものは
いっているので,アメリカは明らかにカネを儲け
何なのか。カットできるものは何なのか。それが
るためにやるわけですが。
平均在院日数だったのです。
したがって,遅ればせながらやっと日本でも医
だから,アメリカ政府も病院経営者も,平均在
療の質のばらつきがあるということが科学的に証
院日数を経営のツール,ベンチマーキングに使っ
明されてきた。
ここに日本の先駆者がおられます。
たんだと思われる節があります。いまから思い起
川渕孝一さん,今まで一生懸命がんばって医療の
こせば。
バラツキをデータを使って証明されてきました。
しかし,もはや必要なくなりました。なぜなら
最後に,私,実はアメリカでトレーニングを受
ば,アメリカは平均在院日数はあまりも短くなっ
けたんですが,外科をやっていましたが,アメリ
た。もうこれ以上短くできない。4日程度ですよ。
カはもう1970年代の後半から,いや,その前から
大腸癌結腸切除手術でも4日目に退院させていま
でしょうね,僕が行く前から,平均在院日数が短
す。
かった。別に平均在院日数が長くたって医療費が
日本病院会雑誌
もう一つの理由は,臨床指標ができました。私,
2003年6月
29
ちょうど1年前にジョンズボブキンス大学病院に
さて,私の話しは,米国の HMO を考察すると,
行って,その質の担当者にお会いしたんです。そ
医療の質と医療経営とがどのようにつながるか,
の方は,自分たちの病院のパフォーマンス,臨床
についてです。
指標をダアッと並べて見せてくれました。だから
HMO,
ヘルス・メインテナンス・オーガニゼーショ
もはや,素人でも,非医師でも,非専門家でも,
ンは,
「健康維持機構」というような直訳などで紹
ちゃんと専門家と座って我々のパフォーマンスは
介されたりします。ですが,この日本語では,ま
こうだと専門家を追い詰めることができるわけで
るで公の施設か組織のように聞こえます。しかし
す。それにはこのメリーランドの病院協会が大変
実際のところ,HMO というのは,日本人からみれ
大きな役割を果たしています。
ば「会社」であり,企業です。営利,非営利の両
臨床指標を使って質を管理していくということ
については,いろんなモデルがあります。例えば,
JACHO のアプローチ。あるいは,内部が集まって,
方がありますし,近年では加入者数の点で圧倒的
な規模を誇るのは営利の HMO です。
HMO そのものは,今から30年前の1973年,ニク
その自分たち内部でやるというアプローチ。それ
ソン大統領の時代に施行された HMO 法によって姿
からその政府が出てきてそれを調べるというアプ
を現します。ただし,その頃の HMO と現在 HMO と
ローチ。いくつかのモデルがあるんですが,この
では,仕事や組織が大分変わったようです。ただ,
メリーランドは,病院が一度集まって一緒に勉強
変わらないのは,医療とファイナンスの両方の
しましょうというやり方です。
サービスを手がける事業だということです。そし
アメリカがリスク調整にうるさいのは,認証団
て,そういう現在の HMO の事業を指して「マネジ
体が権力を持っているからです。病院の医師に
ドケア保険」と言い,そのような HMO の事業を運
とってみれば,ちゃんとリスクをアジャストして
営する組織は,日本でいうところの「会社」その
点数をきちっとやってもらわないと,収入に響く
ものだというふうにご理解ください。
から。だけどメリーランドの場合は,自分たちが
日本の世間一般では,どういうわけか保険業が
よくなろう,自分たちの質がどのへんだというこ
金融業の一つだということが知られていません。
とを知りたいだけですから,あまりそこのところ
もちろん銀行や証券会社は代表的な金融業です
は言わないわけです。アメリカは結構言いますけ
が,保険業も代表的な金融業です。金融を英語で
れど,歴史がありますので。こんなデータを用い
言えば,ファイナンスです。ですから,米国の HMO,
ながら集まってやっていくと。
マネジドケア保険会社は,医療とファイナンスの
世界的にはさまざまあって,
一番いいのは,
オー
ストラリアなんですね。あまりうるさいことを言
両方の専門的なサービス提供を手がけている点
で,日本には類するものがないと言えます。
わない。大体の規模と地域ぐらいで集めて,あま
私はこの何年かに渡って,米国のマネジドケア
りリスクをどうのこうの言わないという手法を
について集中的に調べてきました。そして,理解
使っているようです。
したことは,マネジドケアは「医療とそのための
最後になりました。一体自分の病院のことがわ
資金のバランス」を説明する概念のようなもので
からなくて何ができるんですかと。つまり臨床指
あり,昨今に実体としてあるのはマネジドケア保
標を集めたら日本の医療の質に貢献することがで
険会社 HMO だということです。そして,マネジド
きます。日本病院会の役割は大変重要なのではな
ケア保険会社のビジネス原理は図①のように整理
いでしょうか。どうもありがとうございました。
できることが分かりました。
つまり,マネジドケア保険会社は,非常に特長
西田
のある保険商品の作り方をしています。
在賢
図の中でx軸に保険加入者のアクセス条件,y
(キーワーズ:マネジドケア,HMO,医療経営,医
療の質,ピアレビュー)
30
軸には医療提供者への診療報酬支払条件というふ
うにして,保険会社にとってリスクが小さくて済
む条件を原点に近いところに置き,リスクが大き
日本病院会雑誌
2003年6月
図① マネジドケア保険商品と保険料で見た三者間の経済リスク分担
い条件を原点から遠いところに置くようにしま
は,当然のことながら,医師や医療機関が必ずし
す。具体的には,アクセス条件では「ゲートキー
も合意するわけではありませんから,このような
ピング」から「フリーアクセス」までの幅で保険
条件を受ける医療機関のリストは限られたものと
会社のリスクが変わりますし,医療提供者への診
なります。つまり,保険加入者は自分が診てもら
療報酬支払条件では「人頭払い」から「出来高払
える医師や医療機関を限られます。しかし,
「ゲー
い」までの幅で保険会社のリスクが変わるという
トキーピング」で「人頭払い」というような条件
わけです。
だと,保険会社側の経済リスクをずいぶんと軽減
ちなみに,
「ゲートキーピング」というのでは,
しますので,保険会社は保険料を下げることがで
加入者は保険契約時に病気のときに診てもらう医
きます。だから,このような条件の保険でも加入
師を(保険会社が契約する医師リストの中から)
しようとする人たちが現れます。現に,80年代末
決めます。そして,その先生に診てもらった上で
から90年代初めにかけて大不況のさなかにあった
承諾を得ないことには,他の医師や専門医,ある
米国では,市民の多くがこのような安い医療保険
いは病院に入院することはできない取り決めに
を提示する HMO に飛びついたわけです。そこで,
なっていて,まるで門番(ゲートキーパー)を設
このような「窮屈ながら保険料の安い医療保険」
けるような仕組みです。
を象徴的に HMO 型と呼ぶことにします。
(実際のと
また,保険会社から医療提供者への診療報酬の
ころ,米国市民は HMO が始めた保険料の安い医療
支払い方法では,ゲートキーパー医師との契約で
保険商品そのものについても HMO と呼ぶようにな
加入者1人当りいくらといった「人頭払い」もあ
り,保険会社と保険商品とを同じ名前で呼ぶとい
りえますし,契約病院に向けても一部人頭払いと
う混乱が生じました。
)
か,疾病単位で「包括払い」にするという条件も
ありえます。
これに対して,例えば PPO といった型(図中,
下から3つ目のボール)の場合は,加入者が医療
ちなみに,
「人頭払い」や「包括払い」について
日本病院会雑誌
機関にかかるときの条件が緩くなり,最初に診て
2003年6月
31
もらえる医師をもっと柔軟に選べます。つまり,
実は,これが,米国マネジドケア保険会社 HMO
x軸のアクセス条件が「フリーアクセス」の方向
の医療保険商品の作り方なのです。もちろん,こ
にズレます。もっとも,診てもらえる医師の幅を
れはかなり単純化して説明していますが,米国マ
広げるとなると,保険会社側では契約してくれる
ネジドケア保険に表れる煩雑な用語をかなり整理
医師や医療機関のネットワークを増やさなければ
して説明できます。
いけませんから,
「人頭払い」の条件では難しくな
私がハーバード大学に留学した97年から99年当
り,PPO 型のときにはy軸の医療提供者への診療
時,米国人自身が,これに気付いていなかったよ
報酬の支払い方法が「出来高払い(FFS,フィ・
うです。そんなときに今のような説明方法を考え
フォー・サービス)
」の方向にズレてきます。この
ついて,公衆衛生大学院人口・国際保健学科に置
ように PPO 型になりますと,保険会社にとっての
かれた武見プログラムに世界各国から集う研究者
経済リスクが大きくなる方向にズレるため,保険
や同大学院の研究者らを前にしてプレゼンしまし
会社では保険料は高くします。つまり,z軸方向
た。そして,こんな形でマネジドケア保険会社は
では,上にズレます。
ビジネスをやっているではないかと説明したら,
ちなみに,従来の医療保険ですと「フリーアク
米国人の研究者たちが,
「なるほど,そうだ。
」と
セス」
,
「出来高払い」方式ですから,これは一番
頷いていました。私は米国という国に初めて足を
上のボール(MI 型,マネージド・インデムニティ
踏み入れてから,かれこれ20年を超えますが,観
タイプ)
がそれに相当し,
この場合に保険料がもっ
察するほどに米国という国は,多人種多宗教の国
とも高くなります。
民構成のため,いろいろと社会実験を重ねる運命
こうして見ると,今の日本の姿というのは,こ
の MI 型に相当しています。
ですからどうしても保
にある国だとの感を強くします。結果,それが物
事のフロンティア精神につながるのでしょう。
険医療費は高くなります。高くなっている中で,
さて,こうして米国マネジドケア保険会社の社
今日の話題ではありませんが,医療保険財政の破
会実験から,医療保険事業の経営モデルが導かれ
綻が危倶されるわけです。これについて,医療制
たわけですが,このモデルを使って本日の私の題
度改革はどのようになっているのか。先にお話し
目「医療の質と医療経営」について考えてみたい
された長谷川先生,川渕先生のお二人ともがそれ
と思います。
に関わっておられます。やがて答えが出てくるの
「医療経営」の良し悪しについてですが,世俗的
だと思うのですが,なかなか難しいものであるよ
には,うちの病院の経営は良いとか悪いとかと
うです。
いったときには,そこの病院がたくさん稼いでい
このような難しい問題があることを念頭に置き
るかどうか,あるいは収支が赤字かどうかを言い
ながら,今説明します加入者にとってのアクセス
ます。そんな訳で,本日のお話しでは医療経営の
条件,あるいは(医療保険会社が契約する)医療
良し悪しを収益,売上げの増減で測るということ
機関への診療報酬支払条件でもって,xy平面上
にします。
(
「経営」というのはたいへん幅広い概
に大きく9つの区分けを描くことができます。そ
念ですから,このようにお断りする次第です。
)
して,この中のどの区分けをとるかで,保険加入
収益を伸ばすためには,顧客である患者さんに
者の保険給付条件と保険料が決まるといえます。
来てもらえることが第一です。患者さんに来ても
このことを概念化すれば,xy平面には「給付
らうためには,提供する医療サービスに満足して
の機会」が集まっているということで,ここは給
もらうことが重要です。しかし,患者には医療の
付機会集合平面であると言えます。
内容や技術のレベルということはなかなか分かる
他方で,保険料と言ったz軸についても,保険
ものではありません。要は,どの程度自分の思い
料も税も自己負担も全部含めた,要するに医療給
どおりに診察・治療が受けられたか,そして,
(大
付を受けるための資金,この資金が少ないと給付
きな要素ですが)それに対していくら払うことに
条件の選択肢は少なくなり,資金が多くなれば選
なったかの「主観的な」収支バランスでしょう。
べる給付の範囲が広がると説明できます。
また,保険で診てもらおうとする患者さんには,
32
日本病院会雑誌
2003年6月
保険からの給付に条件が設けられています。しか
は明らかにアップル社のマッキントッシュのほう
し,もともと保険の給付条件は保険料に依存して
が,マイクロソフト社のウィンドウズよりも優れ
変るものですから,満足な医療サービスを受けよ
ていたと思います。ところが,経営業績の点では,
うとすると利用者・患者の負担もそれに比例して
ウィンドウズに軍配が上がりました。マイクロソ
増えます。すなわち,給付と負担のバランス次第
フト社のほうは,
基本ソフト OS の販売戦略や事業
で患者満足度も変るというわけです。
資金調達の点で群を抜いていました。
結果として,
そのようなことから,もしも医療の質を,医療
費を支払う側の満足度だけから測るとなれば,医
技術的には劣っていたウィンドウズがマッキン
トッシュよりも圧倒的に普及しました。
療の質と医療経営は比例することでしょう。しか
そのような訳で,もしも技術的な意味で「高い
し,医療の質の議論は,そのような消費者の満足
質」の提供が経営と結びつくかどうかといわれた
だけで測ることは難しく,医師をはじめとする医
ら,そうとは限らないというのが答えです。それ
療の専門家でなければ判定がつかない面が多くあ
よりもむしろ,消費者・顧客に何を訴えるかに成
ります。
功したところが,業績を伸ばし,経営の成功を収
それでは医療の質を判断するのを医療プロ
フェッショナルに限れば,医療の質と医療経営と
めるというわけです。
再び米国の HMO の話に戻ります。HMO の事業は,
はつながるのかというと,これは必ずしもつなが
加入者から集めた医療資金と加入者・患者の医療
らないのではないでしょうか。
給付のバランスを管理する,いわば金融業です。
医療の話ではなくて一般の産業界の話ですが,
ただ,一般の保険・金融業と違うのは,医療給付
分かりやすい実例があります。これは技術的な意
の管理を担当する部署には,じつは医師や看護師
味での高い質を提供することが,必ずしも経営成
といった医療技術が分かる専門家が管理職に就い
果に結びつくとは限らないという実例を2つご紹
ていることです。そして,この部署が HMO と契約
介します。
する医療提供機関のサービス内容とその請求を審
1つは,ビデオデッキの話。かつて VTR 戦争と
いうのがありました。VHS 方式とベータ方式でど
査するということですから,これはピアレビュー
のシステムにほかなりません。
ちらが良いかという競い合いです。私は昔電子工
たとえば,ボストンにありますハーバード・ピ
学を学んでおりましたから同窓生には就職して
リグリム・ヘルスケアという HMO の1997年のとき
VTR の研究に就いた人が何人かいます。当時,彼
の組織を紹介します。この HMO は96年,97年に全
らと集まって聞いた話では,皆が皆,録画技術と
米 HMO の評価ランキングのトップに名を連ねたと
してはベータ方式のほうが VHS 方式より優れてい
ころです。もっとも2000年になって,資金繰りの
ると断言していました。ですが実際には,VHS 方
破綻を起こし,日本式に言えば会社更生法の適用
式の陣営がソフトウエアとも言うべき映画タイト
を受けました。現在は,マサチューセッツ州の支
ルをより多く揃えたことで,貸しビデオ屋さんの
援を得て,再び事業活動を行っています。ここは
品揃えはほとんどが VHS 方式となり,そのことが
非常に質の良い HMO と言われていますが,ここの
VHS 方式のデッキの需要を増やすので,このデッ
場合も,社長の下にさまざまな部門があり,そこ
キは安くなり,VHS 方式の利用者をさらに増やし
の部門長のうち,影付の箱のところについている
ました。結果,今では電気屋さんの店頭からベー
のは,
じつは医師ライセンスを持っている方です。
タ方式のデッキは消え,生産もされなくなりまし
つまり医師が,このマネジドケア保険会社 HMO の
た。つまり,技術の質ではなく,営業の巧拙が経
経営幹部に多くいるということです。さらには,
営業績の成否を決めたわけです。
医療管理部門では部門長をはじめとして,医師が
もう一つの事例は,パソコンの場合です。情報
中間管理職に就いているのが目立ちます。じつは
工学も私が修めた専門のひとつです。その立場か
このほかにも看護師の資格を持っている方々も部
らしますと,
パソコンの基本ソフトウエア OS の操
長の職に就いています。
作性や画像処理の能力などからしますと,かつて
日本病院会雑誌
そのような訳で,医療提供機関と HMO との間に
2003年6月
33
図② 医療管理部門の実際例をみる
はジレンマがあるということが,日本にもよく喧
こと,保険者も医療内容に精通していません。今
伝されていますが,そのなかには,じつは医療専
の国保・社保,それぞれの長に医療について精通
門家たちが医療を管理する側と資金を管理する側
している人が管理部門の長にいるかというと,ほ
とに分かれて生じた対立もあるわけです。ですか
とんどいないに等しいですね。外部にある審査・
ら,これがために個々の医療機関で医療の質の改
支払機関自体も,自前で医療プロフェッショナル
善努力があったのは事実ですし,クリニカルパス
を抱えた医療管理部門を持っていない,というの
の普及も HMO 側の押しで促進されたのも事実で
が日本の現状です。
す。
そんな事業環境下で,医療機関が質の改善努力
医療の質と医療経営の良し悪しとの因果関係に
をしたからといって,果たして医療費資金を拠出
ついては,まだまだ十分には説明がつけられない
する国民・患者側には分かろうハズがありません。
ものと思いますが,
「ピアレビュー」が大きな鍵を
そのようなことからも,医療の質と医療経営とが
握りそうであり,その実証のために壮大な社会実
結びつくような下地が果たして日本にあるか否か
験を行っているのが米国の HMO の姿だと私は見て
は不確かです。
います。
そこで結論です。本格的なピアレビューの仕組
では日本はどうかというと,患者はもちろんの
34
日本病院会雑誌
みが整わない限り,技術面での医療の質の改善が
2003年6月
医療経営に結びつくことの因果関係は,約束され
ていないということです。
当院は,第1回目の医療病院機能評価を受け,
昨年の試行調査を受け,
さらに,
今年7月
(Ver4.0)
ですが,そのための準備は,岩﨑先生が孵化さ
せた第三者評価機構で始まっています。ただし,
一般で受けました。試行調査の結果について報告
します(図2)
。
まだ具体的な方策にはなっていないというのが現
それぞれのデータに関しては図2,3,4,5
状ではないでしょうか。ですから,本日のテーマ
の評価レベルのうち,5は2つぐらいしかなくて
であります米国 HMO の考察を念頭において申しま
大体が4に入っています。それぞれの項目を見ま
すと,保険からの審査・支払いに明確なピアレ
すと,第1領域のこの「組織の運営と地域におけ
ビューの仕組みが取り入れられないことには,
「医
る役割」は大体4プラスですが,一部3のところ
療の質」と「医療経営」とは直接的には結びつき
があって,我々から見ても,きついところを突い
難いということになります。
てくるなという印象です。
以上で私のお話を終わらせていただきます。
「患者の権利と安全の確保」
についても3と4の
そこそこの評価を受けているところです。
渥美
それから,
「医療環境と患者サービス」について
哲至
もこういうところで,このへんはうちの病院とし
(キーワーズ:病院医療機能評価,組織の運営,
患者の権利,安全の確保,患者サービス,質の
確保,パス,開放型病院)
ては結構いいかなという自己満足に陥りがちなと
ころなんですが,
いくつかは指摘をされています。
それから「質の確保」
,診療の質に関しては,大
体4前後です。今,管護記録非常に努力していま
現場の話をということで,当院の現状を報告す
ることで責務を果たしたいと思います。
うちの病院,
現在の平均入医院患者数603.2人と
外来の患者数1,960人,診療科42科,平均在院日数
は15.3日です。職員数が,1,334名,看護婦が59%,
医師が13%,あとコメディカルが3%ぐらいずつ
という陣容です。
すが,まだ3ちょっとのデータです。
診療活動の展開,先ほどのは構造の部分でしょ
うか。こちらが展開の部分ですが,大体4の評価
で,一部そうでないところがある。
看護についても,高く評価されているようで,
大体4のレベルになります。
管理運営の部分に関して,4が大体です。薬品
これは,今年の7月の病院医療機能評価を受け
管理がちょっと落ちていますが,このへんは評価
たときの中間報告のデータです。平均100に対し,
機構とうちの事務レベルでの評価基準がちょっと
当院の現状は150前後のところで機能していると
違うためだという指摘です。
評価されています(図1)
。
全体の評価としては4の弱というぐらいです。
図2
図1
日本病院会雑誌
2003年6月
35
昨年度(2001)の試行調査との1997年の調査と比
この評価を受けまして,当院としては医療評価
較しますと評価項目の順番はちょっと違ってま
委員会で指摘された項目をもとに各部署に具体策
す。先ほどの説明では,中身も違うんだという話
を作り直すという形で業務の見直しをしています
で,構造はいいけど過程が悪いということがある
(図4,5)
。
のか,若干きつくなっています(図3)
。
「医療の質」に関しては,私の理解としては,
図3
図6
図4
図7
図5
図8
36
日本病院会雑誌
2003年6月
人間性と科学性,さらに経済性というのが大事な
人当りの医療費は下がっている。1日の単価が上
んだろうという理解です。
がっていくことで経営に反映します(図9)
。
当院の経営の現状ですが,医療収益・費用の推
医療収益の推移が上がっているのは紹介率上昇
移は年度平均でいきますと今のところ赤字になら
に一生懸命努力した結果です。在院日数は今言っ
ないで済んでいます。内訳は,入院が59%,外来
たようなことで減らしていく。紹介率を上げてい
が36%と。費用の部分は,50%が人件費,30%が
くということが今の段階では非常に大事ではない
材料費,その他です。
かと考えます(図10)
。
努力しているのは,この平均在院日数,大体18
当院としては,地域医療連絡室,開放型病院へ
から現在15ぐらいに来ています。科によって大分
の対応により,紹介率が上がることで30%紹介加
差があります(図6)
。
算申請します。来年度は,50%を超えたところに
入院患者数の推移は,在院日数が短くなってき
ますから減少して来ます。
いきたいということです。
救急車の受け入れに伴う紹介率の推移です。開
努力をして少しもちなおしているというのが内容
放型の診療件数というのはなかなか増出してこな
です(図7)
。外来患者数に関しては,だんだん減
いんですが,紹介に結びつく病診連携の信頼性の
少してきている。
確保として効いています(図11)
。
病床利用率も空いてくるわけですが,努力をし
入院単価は上がっていますが,外来はそう変
てあがって来ています(図8)
。対策の大きなもの
わっていません。入院収入は上
は,パスになります。在院日数の低下で,患者一
がってきていますが,外来収入,ここはやっぱり
図9
図11
図12
図10
日本病院会雑誌
2003年6月
37
まだ若干増えていて,外来がなかなか減らせない
現状を反映していると思います。
「医療の質」
,実際にいろいろご議論がありまし
たが,そういう患者の人権尊重,医療技術進歩の
経営状況について今回の評価機構からの評価で
促進,運営の透明性,健全経営をどうやって保つ
すが,経営自体に関しても,これが医業収支率,
かということです。医療の質の評価が利用者の信
病院値ですが,100床平均に比べると対150床レベ
頼に結びついていくかどうかと,これが一番大事
ルの経営をやっているのではないかという感じを
なんだろうと思います。
受けます。在院日数だけは短くなってきていると
いうデータです。
(図12)
現場職員の誇りとなっているかどうか。実際に
評価受けた職員は,
「ああ,終わった」ということ
14年度診療報酬の改定でどうなるかということ
を言うんですが,なかなかですね。これが経営に
です。従来言われている構造的なものとしては診
どこまで影響するかというと,今お示ししたよう
療報酬,薬価,医療材料,合計マイナス2.7%。こ
なことで,今年の改革に関してはなかなかきつい
れが当院の試算でいきますと,マイナス2.68%,
というのが現状ではないかという気がしていま
大体2億6,000万ぐらいの減になる予想です。
す。以上です。
質の評価としてこういう急性期入院加算におけ
る追加施設基準はいろいろ中身が変わってきてい
岩﨑 では私がこういう壮大なものの司会をで
ます。これを何とかクリアしていきたい。これが
きるかというとそうでもないわけですが,ただ,
クリアできないと,これぐらいの赤字,マイナス
今日のやっぱり興味は何といっても渥美先生のお
になります。
話で尽きたのではないかなと思うんですが。
それから手術に係る施設基準の見直し,症例数
そこで,そういうことを私が言ってしまうとパ
と医師の経験年数とそれから件数ということが
ネルになりませんので,話が大変おもしろかった
挙ってきていますが,当院の件数はここでありま
のは長谷川先生,おもしろいというのは大変学問
して,施設基準と暫定基準。暫定基準に関して。
的に興味があるということです。
76の手術のうち28の手術の申請をしていく。申
しかしここではまず川渕先生に登場していただ
請しても今のところマイナス600万になります。
来
きましょう。先生のお話しの日本型 DRG というこ
年度になってくると,完全施行になって暫定基準
とで,ずばり言って,先生は,質の改善に役に立
ではなくて完全基準でいきますと,28が18に減っ
つのではないかという話をされたと思うんです
てくるとマイナス3,200万になってきます。
が,確認ですけれども本当に役に立つんですか。
病院機能評価認定を受けていることが診療報酬
川渕
「イエス」
,
「ノー」と2つありますね。つ
に反映する項目として新しくこの2つが挙ってい
まり,
「イエス」と言いたいところなんですが,先
るということですが,当院としては,この外来化
ほど申しましたように,DRG というのは医療資源
学療法加算を申請して,緩和ケアを何とかやりた
の投入量から患者をみているわけです。
いということで検討しています。
今日は臨床の方も多いかと思いますが,この医
そのすべてをトータルすると,大体報酬改定の
療資源の投入量と言われてもよくわからないとい
マイナスが3億6,000万,
急性期入院加算未達でマ
う方が多いと思うんですね。むしろ患者の重症度
イナス11億74万,手術基準が未達で94万マイナス
というのはお金がかかるかどうかではなくて,合
ということで,年度でいくとマイナス5億24万に
併症とか併存疾患があるかないかとか,あるいは
なっていきます。
先天性な要素も関係しているんだろうと思いま
これは実際のこの2001までは実績の純利益です
す。
が,今年度は,上は予算ですが,未達の場合マイ
医療資源の投入量の同質性ですから,合併症・
ナスに変わってきます。来年度はさらにこれがこ
併存疾患がいっぱいあると投入量はたくさん増え
ういう基準ができて施行されてくるということ
るだろうという前提なんです。でもいろんな合併
で,さらにマイナスになる。なかなかきついとい
症,併存疾患があるわけで,それをどうやって分
うところです。
類していくかは,
これは DRG というか,
ケースミッ
38
日本病院会雑誌
2003年6月
クスの永遠のテーマです。
「医療の質」といったと
ればつまり,経営的にも成り立たなければ医療の
きには,なかなか測れないのが実感です。
質の向上などなということです。
「ノー」と言った理由はそれです。先生方からよ
く出てくるご質問に医療資源の投入量だけでは不
十分ではないか。
岩﨑 何か分かったような分からないような意
見ですが,まあいいでしょう。
私が聞きたいのはもう一つ今の日本の出来高払
病名はコードにしたら1万4,000あるじゃない
いと言われる医療保険ですが,どこをどう変えれ
かと。これをどうやって分類表にしていくかとい
ばと,これも長くなると思うのですが,ずばり1
うところです。
つ変えるとすればどこを変えればいいのでしょ
つまり,DRG の話をすると,何かすごく技術的
う。
な話になってしまうんですが,結局何をやってい
例えば重症度とかそういうのを研究的にはい
るかというと,患者特性による補正です。患者特
じっていますよね。じゃあ日本の今の診療報酬と
性を補正しないで黒字・赤字の議論をしていても
いうのは,患者さんはいじればいじるほど,副作
むなしいんです。自治体病院が赤字の理由は不採
用が起これば起こるほど収入が増えるという,端
算医療をやっているからって,本当かなという。
的にものを言いますとそういう仕組みになってい
民間病院が黒字なのは,患者が軽症だからかよく
る。そういう構造になっているんですが,そうい
わかりません。そういう水かけ論に何とか終止符
う面も含めて何か是正するとすれば,1つ選ぶと
を打ちたいというので始めたのが DRG 研究です。
すれば何を。
ただ岩﨑先生がおっしゃったように,
それは今,
川渕 2つ選びたいんですが,長期的には,医
アメリカですら確固たるものがないんです。
「これ
者の数を増やすべきです。医師数は足りない。全
がリスクアジャストメントの最高のもの」という
然足りない。だから医療改革といっても何もでき
のはない。
ないです。頭数が足りないから。看護師さんも足
岩﨑 何か結論が出ないような長い話のようで
すが,結局は医療の質が改善されれば,経営は良
くなるんですか。
りない。
だから今もうバーンアウトしつつある日本の医
療機関の中で,圧倒的に人が足りなさすぎる。し
川渕 そこが問題なんですね。特に日本の医療
制度は,その診療報酬から医療法からもうがんじ
がらめの規制がありますよね。今も言ったような
ほうび
かし,これは時間がかかります。
一方,
短期的には支払い方式の改革が必要です。
また難しい言葉ですが,
「エピソード払い」と言う
医療の質を改善していくと何かご褒美があるのか
のですが,出来高払いでもない,包括払いでもな
と言われたら,何もありません。
先ほど来西田さんもおっしゃったように,ピュ
い支払方式が必要です。例えば糖尿病と白内障,
アレビューみたいなものが必要かもしれません。
い。特にⅡ型は。後者は完治可能であります。疾
本当は自主的な努力によってやればいいんです
患に応じてその支払い方式は違ってくるのではな
が,日本は本当に悲しいかな,一点付けると何か
いかと。
エピソードと言うんですが,
一つのストー
動き出すようなところがあります。それが本当に
リーを書いてみて,それに応じて診療報酬体系を
日本の国民性なのか医療界の常識なのかわかりま
再構築したらどうかなと思います。
全然違いますよね。前者は治らない。完治できな
せんが,
「経営」といったときにお上が決めている
それが僕は一番その起爆剤になると思います。
料金で議論するしかない。そして,人員基準も医
さっき長谷川先生が言ったように疾患ごとにプロ
療法と診療報酬に縛られている。そうすると,こ
フィールといいますか,プロトコルを書いてみる
れで何かおもしろいダイナミックなゲームはでき
のかなと思います。それが料金体系にリンクして
ますか。
いけばいいのではないかと思います。
そこで私は東洋経済新報社から『医療改革∼痛
岩﨑 ありがとうございました。川渕先生,今
みを感じない制度設計を』いう本を出した。です
日宣伝に使った『医療改革』というのは,そうい
が,中心テーマは財源問題です。安定財政がなけ
うことが書いてあるんですね。
日本病院会雑誌
2003年6月
39
川渕 はい。書いてあります。
す。標準化できるようになってきたのです。
岩﨑 ではぜひ,ここで PR されて。
それからますますコンペティションが激しい
それでは長谷川先生に私からの質問ですが,こ
と。だからやらない病院がつぶれるだけのことで
のテーマに「標準医療の功罪」ということを書い
す。だからやりたい人,やれる人から始めたらい
ておられます。この「標準医療の功罪」というの
いんです。
は一言にして何なのでしょう。何が「功」で,何
が「罪」なんでしょうか。
実はこういうふうに申し上げているのは,日本
でも今どんどん進んでいるからです。ぼくもいく
長谷川 あらゆるものには功罪があると思うん
つかの団体から,まさしくコンサルタントとして
です。ですから,功と罪はあるのではないでしょ
呼ばれてますが,どうしたら医療の質が上がるん
うか。
だと。自分たちの質を測っても比べられないから
岩﨑 それで,標準医療と限定すれば。
ベンチマークをして,グループでデータを集めて
長谷川
つまり功罪も何もへったくれもなく
自分がどこにやるかとやっていこうというグルー
て,もう現在なっているんですよ。それから医療
プがいくつかできています。名前をあげることは
は科学ですから,発達するに従って医療技術は標
できませんが。言ってくれるなと言われているの
準化されていくのは当然だと思います。標準化さ
で。だけどみんな集まって測っていこうと。
れていかなければ発達はない。以上です。
岩﨑
第二の医療革命というのは,一方的にだけだっ
先生は医療を科学だというふうに言い
たわけです。しかし専門家として,医療の,地域
切っている,先生は外科医だからそうだったんだ
の健康に責任を持つ技術者として,その自分の医
と思いますが,内科医の私の立場からすると,科
療を,病院をちゃんと経営するには質をどう担保
学だという面で解決しない問題がたくさんある
しながら資源を少なくしていくかと。さすれば
と。
ベースラインを測らないと経営的にもいかないで
長谷川 つまり,臨床家は一人ひとりの患者を
はないですか。今までできなかったんです。
大切に,科学的な根拠とこういうものは経験を基
というのは,方法がなかった。情報のシステム
に個人的に対応してケアをしたらいいんですよ。
がなかった。それから医師がやるとみんな文句を
皆さん方はマネジャーですね,マネジャーですか
言うんです。何でぐちゃぐちゃ言うんだと。俺は
ら,それをいかにマネジメントしていくかという
一人でがんばっているんだと。個人はそれでいい
ことですよ。だから,罪はあまりないでしょうね。
んですよ,がんばればいい。しかしマネジャーは
だから一人ひとりの臨床家は,一人ひとりのケ
そうはいかないわけでしょう。本当にがんばって
アができるようにマネジャーは全体的な標準的な
いるのをきちっとその評価をして,経営をしなが
ものを参照しながらじっとウォッチして経営して
ら患者をやっていると。
いくことが重要です。
だから,つぶれたい病院はやらなかったらいい
ちょっと最後のところ,皆さん誤解しているの
んですよ。もうそれだけのことです。
ではないでしょうか。経営というのは収支ではな
岩﨑 マネジャーの理論はそれでいいですが。
いですよ。経営というのは,質を高めて必要な資
今お話しのベンチマーク方式である一定のレベル
源を低くすることだから,僕,病院関係の講義で
と思われる病院同士がそういった指標を出し合っ
いつも言っています。
てお互いに競い合っているという病院は,メリー
ところが,今までツールがなかったんです,マ
ランドの話と一緒になるんですが,そういうこと
ネジャーとして,質を測るという。僕が申し上げ
をやっておられる病院が日本でも出てきました。
ているのは,ツールが出てきましたよと。もう
今日もご出席の皆さんにも入っておられます
ちょっと訳がわからないのは,もはや皆さんは他
が,そういうものを地域でどんどん作っていって
人にいろいろ言ったり,コンサルタントに聞いて
お互いにコンペティションをやっていかれるとよ
何もわかる訳がないじゃないですか。皆さんがや
いのではないか。コンペティションを別にする必
らなければいけないです。もう測るしかないんで
要もないかもしれませんが,ある程度標準値とい
40
日本病院会雑誌
2003年6月
うものがそこの病院同士で出てくるのではないか
と,そういう中で質をやるという。
岩﨑 西田さんもこの HMO というのが,非常に
日本では評判が悪いわけですが,評判が悪いのを
長谷川 何もコンペティションをするために臨
あえて先生は研究を続けているんですが,今日の
床指標を集めるのではないですよ。自分の位置を
話を一言でもう一度まとめて申し上げてくださ
知って自らの質の改善に役立てるためにみんなで
い。
プールするのです。
西田 岩崎先生は私の恩師でありますので,失
米国でのやり方をみると,
その個別の ID は全部
返しません。米国ではいくつかの団体があり評価
の認証団体がやっている場合とか,病院が集まっ
てやっている場合とかです。
礼があってはいけないわけでありまして,言葉を
選びながら話さないといけませんですね。
岩﨑先生は日本において,医療の質,そして医
療の管理においてリーダーシップをとってこられ
我々が皆さんにお勧めするのは,皆さんが集
ました。その「質」に対して「管理」ではなく,
まって,データをプールして,それで外部に発表
「経営」と結びつけろと言われると非常に難しい
せずに各病院にフィードバックするメリーランド
です。難しいなかで,米国マネジドケア保険会社
病院協会型です。皆さんが自分の病院の質を高め
HMO の社会実験が注目されるというわけです。HMO
るために,そして,どこを無駄を省いていくかと
の社会実験から,何か抽出しろと言われれば,具
いう効率を高めるためにその標準化をして,
見て,
体的な「ピアレビュー」の組織化が挙げられ,こ
ベンチマークしてやられたいかがですかと提案し
れがあると「医療における質と経営」を結びつけ
ています。特に日本病院会はその主要な機能とし
ることができそうだと言うことです。
て期待されるのではないでしょうか。
ですが,じつはこのメッセージは,会場の皆様
アメリカの場合は,アメリカの病院会の地域協
方,病院関係者の方々に向けて言うのではなく,
会であるメリーランドがすごく先駆的にやってお
医療の制度経営を管轄する政府・行政に向けて
られて,
もはやすでに2000の病院を集めています。
言っているのです。
有賀さんの発言に大変びっくりしてしまって,ぼ
くは実はある人から,
複数からの大変優秀な方で,
繰り返しになりますが,キーワードは「ピアレ
ピュー」システムの整備だということです。
アウトカムを測っていろいろがんばっておられる
岩﨑 3人の今の先生方それぞれ,政府にも物
と聞いたんですが,そういう方がその泣き言を言
申しておられますし,また,いろいろ委員会のメ
うというのは非常に不思議でして,やりたい方か
ンバーにもすでに入っておられましていろいろな
らやられたらいいんじゃないか。そして,やりた
ところでご活躍の方なんです。
くなければまったくこれはやる必要がないです。
この3人の話を聞かれて渥美先生,現場で大変
やれといわれるからやることではない。必要だか
ご苦労をなさって,先ほどのようなデータをお出
らやるわけでやりたくなければ,つぶれていけば
しいただいたんですが,むしろ先生の立場からそ
いいんですよ。
れぞれ3人の先生方の話を聞いてということで,
岩﨑 私は。というのは,それを実際にやって
きたん
おられる理事長さんや病院長さん方が,自分の位
何かお言葉があれば忌憚のないお言葉を。
渥美 いろいろ非常に参考にはなったという
置だけをわかってもその後どうすればいいかとい
か,
勉強はさせていただいたというのが一番です。
うその職員へフィードバックするときにそういう
その医療の質と経営そのものを,最後のスライ
コンペティションということを院長先生方自体が
ドにもちょっと出しましたが,経営の観点ではい
お使いになっているということで御紹介を申し上
まのところは赤字になってくる。現場ではいろい
げているのです。
ろ医療政策の中に質の評価の中で医療費抑制策な
長谷川 院内の動機づけに使うのが重要なこと
ところだけ取り込まれているのかなという気がし
で,そういう意味ですが,外の病院と競合するた
ます。病院現場よりも行政にうまく使われている
めにやるのではないんですよね。自分の病院の職
という感じを受けるわけです。
実際それが職員や患者さんの信頼に結びつくな
員のために使うということです。
日本病院会雑誌
2003年6月
41
り,働くことのほこりに結びついていくというの
もこれだけの大きな問題があるということをそれ
に差がありすぎるというところが問題です。多分
ぞれの立場の先生方から改めてお話をお聞きしま
これは医療情報自体の開示がまだ遅れていること
した。
が大きいのですが,充分開示された時信頼に結び
そういう意味からすると,まだ医療の質の研究
ついていくのかどうかというと,いまひとつとい
というのは,日本では,今始まったことではない
う気がしています。
かなと。そして日本の中でも先駆的な研究者の半
岩﨑 ありがとうございました。
数も今日はそろえることができなかったんです
「医療の質」というのは,何年かかっても結論が
が,本日の3人は,中でも代表的な研究者です。
出ないというのが本当のところだろうというふう
に思います。
私は,本当は最後にもう少し時間がありました
ら,日本病院会に対して何を望むかということを
私も病管研時代の前は病院の院長をしていたん
それぞれの一人ひとりの先生方にお聞きしたかっ
ですが,そういう時から医療の質には大変関心が
たわけですが。しかし今日の話の中にも,日本病
あって,どうすれば医療の質が向上するのか。そ
院会はこれがやれるのか,やれないのか,という
してそれが本当に国民のための医療になっていく
話も出てきましたので,日本病院会が今後どのよ
のかどうか。
うにしていけばいいかということも今日の発言の
そういうことを院長をしていたときにマネジメ
内容からくみ取っていただければ,このセミナー
ントをしながらでもそのことを考えて参りまし
が日本病院会主催であるということの意義も出て
た。そして現在大学の経営人として日々そういう
くるのだろうというふうに思います。どうもあり
ことばかりを考えているわけです。
がとうございました。
今回のこのパネルで医療経営ということだけで
42
日本病院会雑誌
2003年6月
病院経営管理研究会・シンポジウム
病院機能分化と生き残り戦略
岡山済生会総合病院副院長・管理局長
中馬病院副院長・事務長
河北リハビリテーション病院院長
音羽病院院長
(座長)田名病院事務局長
岩
田
皆
中
玉
本
中
川
島
木
一
英
晃
久
義
寿
雄
慶
宜
朗
平成14年10月・岡山市
1.
急性期病院から
岡山済生会総合病院
いうふうなつもりで,お話をさせていただこうか
岩本 一寿
(キーワーズ:病院機能分化,診療連携,ガン診
療,クリニカルパスの電子化,紹介状の電子化)
皆様,おはようございます。ただ今ご紹介いた
だきました岡山済生会総合病院の岩本でございま
と思っております。
岡山市ですが,人口は約60万でございます。こ
のなかで,公的ならびに公的に準ずるような病院
は7つであります。岡山大学医学部附属病院を含
め,
約5,000床近い病院が急性期病院を目指してい
るようです。かなりな激戦区です。
す。このような席には私のような浅学菲才のもの
将来,日本の医療といいますか,病院がどうな
が出るべきではないと,かねがね思っておりまし
るかにつきましては,昨日来,縷々お話がありま
た。しかし,長年歴史のある日本病院会の行いま
したので,あえて私は申しあげませんが,そうい
す経営管理研究会,各地方で行われているようで
う現状を踏まえて,当岡山済生会総合病院がこれ
ございまして,その都度,地方の代表が1人,何
までどのような歩みをしてきたか,さらに今後ど
らかの形でこのセミナーに参加するような慣例に
のような歩みをしようとしているのかということ
なっているそうでございます。
をお話しし,皆様方の参考になればと思っており
そういうことで,私が岡山県病院協会の事務長
ます。
部会長をしておりますものですから,ほかの者に
まず,簡単に当病院の概要をご説明申しあげま
という訳にもいかず,しぶしぶ引き受けた次第で
す。当病院は18診療科でございます。開設は1938
ございます。
年で,創立64年になります。病院の機能としまし
皆様方は昨日来,高名な先生方のお話をお聞き
ては,輪番制2次救急病院,臨床研修指定病院,
でございますので,今さら私の話を聞いても恐ら
外国医師臨床研修指定病院ならびにエイズ治療拠
く2番煎じ,3番煎じになりまして,あまりおい
点病院,
災害拠点病院,
へき地中核病院などになっ
しいお話ではないと思っております。しかしなが
ています。その他の大きな指定事項といたしまし
ら,与えられた役目でございますので,しばらく
ては,本年4月から岡山県へき地医療支援病院に
の間ご辛抱願いたいと思います。
なっております。当院は1978年よりへき地中核病
いただきました題が『病院機能分化と生き残り
院であり,へき地医療拠点となって当病院からへ
戦略』というものでありますが,実は,私はこれ
き地の診療所へ医師ならびに医療従事者を派遣し
には抵抗があるのです。生き残り戦略という言葉
ております。
は,あまり使いたくない訳です。私なりに解釈い
病床数は現在588床でございますが,一般が543
たしまして,当院の向かうべき経営の基本方針と
床,緩和ケア病棟が25床,これは増床の特例許可
日本病院会雑誌
2003年6月
43
をいただいた病棟でございます。結核病床がござ
ないと点数が思うように高くなりません。そう
いますが,現在20床,休止中でございます。した
いった意味で恐らく全国の病院の皆様が大変ご苦
がいまして,
現在動いているのは568床でございま
労なさっているのだろうと思います。
す。入院患者数は1日平均526人,病床利用率が約
しかしながら,一般病床,中でも急性期病床と
91.2%,外来数が1,177人,これは昨年度のデータ
して残るためには,手厚い人員を配置しなければ
です。新患率が12.2%,紹介率が37%,平均在院
ならない,そしていろいろな標準化を行っていか
日数が9月現在,15日であります。したがいまし
なければいけません。場合によったら一般病床の
て,平成12年度より急性期加算をいただいており
なかに一部入っていますが,早期リハも考えなけ
ます。
(スライド2)
ればなりません。
こうした,平均在院日数を短縮し,医療機能の
集約化,重点化を図っていこうという国の大きな
医療供給体制の施策が本年8月雑誌に載りまし
た。これにはいろいろご意見があろうかと思いま
すが,大きな流れとすれば,恐らくこういう方向
に向うのは止められないのではないかと思いま
す。
回復期リハビリ病棟というのが,この真ん中に
出ております。実は,ご存じのように医療法では
一番左側の急性期,回復期リハや療養病床という
言葉はありません。医療法であるのは,あくまで
スライド2
も人員配置と構造設備です。今度決まりましたけ
これは皆様よくご存じと思いますが,本年8月
に厚生労働省が発表いたしました資料から抜粋し
れど,病床のあり方としては,一般病床と療養病
床しか,医療法では決められておりません。
たものでございます。病院病床の機能分化,急性
診療報酬点数や告示,通知などいろいろな形で
期のところだけ取り上げてみましたが,来年の8
一般病床のなかが分かれてくるでしょう。先般出
月31日までには,
左の方に書いておりますように,
た議論も,療養病床の必要病床数は,都道府県で
一般病床か療養病床に分けた届出をしなければな
決めており,岡山県におきましても,療養病床の
りません。
(スライド3)
なかの介護療養型についてはほとんどいっぱいで
間もなく戸が閉まるのではないかということで
す。
今,一般病床のところだけが,まだ未分化の状
態になっていますが,本当のごく超急性期といい
ますか,急性期加算をとったり,さらに急性期特
定加算をとれるような病院というのは,まだ少な
いのです。
『社会保険旬報』の9月21日号を読みま
すと,
全国で246病院が急性期加算をとっておる病
院だそうです。残りは一般病床であっても,急性
期加算がとれていないのです。
基準看護の2対1看護,
ならびに2.5対1看護両
スライド3
方足した数が,約70万床といわれています。だか
これもご存じと思いますけれど,一般病床イ
ら,将来急性期病床が60万にされるとか,70万に
コール急性期病床ではございません。しかしなが
されるという根拠は,こういうところから出てく
ら,可能な限りの急性期病床,急性期加算をとら
るのだろうと思います。日本福祉大学教授の二木
44
日本病院会雑誌
2003年6月
立さんの論文が出ておりますから,お読みになっ
たらお分かりと思うのですが,私も見てびっくり
しました。
そうしますと,やはり2.5対1看護の一部分は,
一般病棟から削られる可能性もなきにしもあらず
で,2対1看護をとるか,少なくとも2.5対1看護
をとるかをしておかないと,一般病床として届出
をしても,将来難しいというふうに読めるのでは
ないでしょうか。
急性期病院における地域医療連携はますます必
要になります。自分のところの病院だけで患者さ
スライド5
んを集めるというのは限度がございます。
けません。そして早期の社会復帰のためのいろい
私どもの病院では入院が年間約12,000人ござい
ますが,入院経路を見てみますと,他の医療機関
ろな支援をしていかなければいけないと思ってお
ります。
(スライド4,5)
等からの紹介による入院患者さんが約33%でござ
この10月から,平均在院日数が20日から17日に
います。それから当院の救急から入る患者さんが
なります。ご存じと思いますけれど,20日を17日
32%でございます。残りの30%が一般外来からの
にして,病床利用率90%を維持しようと思えば,
入院でございます。当院は健診事業を行っており
新入院患者数がふえなければなりません。同じ入
ますから,そこからの入院が約5%あります。6
院患者数ならば,20日が17日になると病床利用率
割以上の人は紹介と救急からの入院患者でござい
は76.5%に落ちます。これが14日,さらに短くな
ます。いかに紹介を大事にし,救急を大事にしな
り,新入院患者数がふえないとするならば,病床
ければ急性期病院は維持出来ないかということが
利用率は63%になります。また10日になれば半分
分かると思います。
ですから,45%の利用率しかないという計算にな
これからの病院というのは,外来を縮小して,
ります。
(スライド6)
入院に特化しなさいと,いわれますが,入院に特
化すればするほど紹介と救急医療が重要になりま
すがそれだけのマーケットがあるかということに
なると思います。
急性期病院としての機能を果すためには診療機
能を高度化して集中化しなければなりませんし,
先進医療にも対応しなければなりません。同時に
患者様の満足度,療養環境を向上させなければい
スライド6
病床利用率90%をつねに維持しようと思えば,
新入院患者数をふやさなければならない。それを
下に書いております。
例えば100床の病院で平均在
院日数20日のとき,
新入院患者数が135人おりまし
た。これを17日に短縮しますと159人要します。さ
らに14日に短縮になりますと,193人要します。10
日に短縮になりますと,つまり半分ですから,倍
スライド4
日本病院会雑誌
2003年6月
45
の270人の新入院患者数がいることになります。
て建てることが可能になりました。
急性期の患者さんは急に降ってわく訳ではござ
もう一つは真ん中に市道があり,このため,い
いません。急性期の患者数というものは,人口で
わゆる建物に斜線制限がかかり,大きな道に面し
決まっており,その地域の疾病の発生率が決まっ
ているところは高いものが建ちますが,容積率が
ておれば,当然のことながらそれ以上にはふえな
いくらあっても,
病院を取り囲む道が狭かったら,
い。季節的な病気によっての若干の変動はあるか
建物は高くなりません。これは困ったということ
もしれませんが,大きな流れとして見るならば,
で,真ん中の市道廃止の運動をいたしました,約
急性期の患者は急にふえる訳ではございません。
3年かかりました。建築に着手したら,今後は埋
となれば,結局は共食いというと言葉は悪いか
蔵文化財がいっぱい出てきました。これにも本当
もしれませんが,急性期の病院間同士の患者の争
奪戦が起きるということが,明らかであろうと思
います。
に困りました。ダブルパンチを受けました。
いってみれば,1本の細いクモの糸みたいなと
ころを伝いながら,もう切れたらおしまい,切れ
のり
話を変えます。当病院の急性期病院の道程,ど
たらおしまいと思いながら,背水の陣で建て替え
ういうことを今までやってきたかということにつ
た訳です。もちろん,お金がたくさんあってやっ
いてお話をさせていただきます。
地域医療を行うには,いわゆる連携,紹介逆紹
た訳ではなく,借金も背負いながら,1本のクモ
介が重要であるということに気づき,平成5年12
の糸をたどりながら完成させた訳でございます。
実は,病院建て替え中でも,1床も休床しない,
月,岡山でも早い方だと思うのですが,地域医療
外来患者数も減らさない,無論,収益も1円たり
連携室を開設しております。
とも減らさないということが基本方針でした。建
私どもの病院には非常に古い建物があり,平成
替中に病床を空けて,縮小又は1部分休止して建
元年ごろから平成11年まで,約10年間,年中建て
物を変えるのは経済さえ許せば工事は楽だと思い
替えをやってきました。恐らくこういう病院は全
ます。楽といっては語弊がありますが,当院はむ
国でもまれだと思います。大抵の公的病院はどこ
しろ,建て替え中に収益がふえました。患者さん
か新しい土地を探して,そこに変わっていくのが
にはそれだけいろいろご迷惑をおかけしました
多いと思います。これは私からいえば楽なのです
が,パズルを解くようなことをやりながら,建替
が,私のところは残念ながらそれをしないで,現
えに10年かかりました。
在地の地の利にこだわり,
岡山駅から500メートル
という地の利にこだわってきました。
その間,先のことを考えながら,地域医療連携
室をつくったり,開放病床をつくったりしており
しかし,土地は2,000坪ぐらいしかありません,
ます。
診療機能を集約化しなければいけないので,
非常に狭いところです。当時と病床数は今と変わ
今のところ画像診断センターと内視鏡センター,
りませんが,建物の容積率がオーバーしておりま
腎臓病センターという名前を付けておりますが,
した。消防査察,建築基準法の査察に来るたびに,
診療機能の集約化は,これからまだ考えているの
違反建築である,建て替えなさい,建物を壊しな
は多々あります。
さい,オーバーしていますよと,つねに勧告を受
けておりました。
病床を有効利用するために,当院は昭和30年ご
ろから病床を中央化しており,病床を一元管理す
考えてみれば,容積率オーバーですから,よそ
る入退院係を医事課のなかにおいております。医
に行くしか本当はなかった訳ですが,現在地に残
師,看護師が決めるのではなくて,医事課の病床
るためにはどうするかというので,最終的に容積
責任者がすべての病室を決めるというシステムに
率のアップを図る。当時容積率が200だったのを
しております。ただし事務だけでは限度がありま
500に上げる陳情を行政当局に行いました。
大変苦
すから,病棟管理責任者として任令している副看
労しましたがやっと認められ,それによって土地
護部長と医事の病床管理責任者とが一緒になって
はふえないけれど,建てられる面積がふえ,事実
病床の効率化を図っています。
上土地を買い増したと同じ効果が生じ,高層にし
46
日本病院会雑誌
現在は,オーダリングの画面によっても入院の
2003年6月
待ち状況,入院日数,入院予定日数などが分かり
数値目標を毎年設定しております。各科責任者会
ます。例えば,2週間の入院予定の人がいますと,
議というのを毎月行っております。平均在院日数
オーダリング画面に2週間と入っています。2週
はつねにチェックし,新入院患者数は常時,コン
間が近づき,2,3日前になりますと,メッセー
ピュータの画面で見れるようにしております。
ジが出るようになっていて色が変わります。もう
診療の標準化ということで,クリニカルパスを
間もなく予定が来ますよというふうに色を変えて
入れましたが,
ただパスを入れただけではなくて,
シグナルを出す,それから予定をオーバーしたら
パスの電子化(e−パス)を進めております。パ
赤に変わるというような形で,どこの端末からも
スを電子化することによって,いろいろと医師,
それが見れるようにし,病床の効率化を図るよう
看護師の仕事がやりやすくなったと聞いておりま
なこともやっております。
す。
こういうことをいろいろやりまして,平成12年
紹介患者を得るためには,逆紹介を進めていか
7月,
急性期入院加算をいただいた訳であります。
なければなりません。そうしますと,紹介状のス
(スライド7,8)
ムーズなやりとりということが,大変重要になっ
てきます。
そこで考えましたのが,コンピュータによる紹
介状の自動化ということであります。これには
「MyDoc」と名前を付けておりますが,これによっ
て医師が診察したら,端末機を使って紹介状を送
る,紹介先の医療機関には自動的にファクスでい
くようにしております。ファクスですから,守秘
義務,プライバシーの問題がありますから,必ず
患者さんに,ファクスで送ってもよろしいですか
と聞いて,いいということになればファクスで送
ります。まずい人には,封筒に入れてお渡しする
スライド7
ということですが,大半の方がファクスで送って
おります。
e−パス,
「MyDoc」
」につきましては,後程詳し
くご説明いたします。
次は救急車は断らない方針でございますけれ
ど,やはり1日に何件かは断っているようです。
断る理由は,今入ったばかりであるとか,あるい
は病室が今空いていないから入院できないとか,
いろいろ理由を書いていますが,断った場合には
その都度,担当者を呼んで,なぜ断ったかという
ことを毎朝聞いています。
今年度から救急専門医を1人置きました。これ
スライド8
によって,救急医療が非常にスムーズにいくよう
病院職員の体質を,急性期型に変えなければい
けない,これはなかなか大変なのです。急性期病
院は忙しい訳で,人がたくさん要るのです。たく
になりました。
紹介を大切にということは,今申したとおりで
す。
さんいれば人件費がいる,その辺は入ってくる金
クリニカルパスの電子化,e−パスと当院では
と,出していく人件費をつねに計算しながら,無
呼んでおりますが,これをお目にかけます。
(スラ
制限に人を入れる訳にはいきませんので,各科の
イド9)これはパスの運用でオーダー入力が非常
日本病院会雑誌
2003年6月
47
スライド9
スライド11
スライド10
スライド12
に効率化されました。記録を共有するとともに,
名を書くことはありません。
転記業務がなくなりました。パスのデータをいろ
こうした結果,平均在院日数と病床利用率の関
いろ分析して,パスの発展,改善,成長につなげ
係がどうなったかということですが,平成8年か
ております。
ら14年までをグラフ化しておりますが,黄色が平
こういうことで医療の標準化が進んだというこ
均在院日数でございます。平成8年当時,22.8日
とが,平均在院日数の短縮に大変寄与していると
ございました,それが9年は21.5日,10年は20.4
思っております。
日,11年は19.5日,12年は18.7日,13年は16.7日,
次が先ほど申し上げました診療情報提供システ
ム,
「MyDoc」というものでございます。
(スライド
現在が15日というふうに,ほぼ一直線に右下がり
になっております。
(スライド11)
10)現在,当院も電子カルテを構築中であります
赤が平均病床利用率です。若干下がってはおり
ので,完成しますともっと台数がふえますが,現
ますが,92%以上を維持しております。というこ
在はオーダリングの段階ですので,
200台の端末か
とは12年13年,とくに14年になってから,かなり
らアクセスが可能です。
新入院患者数がふえたからであります。ふえない
約1,700の医療機関とつながっておりまして,
基
と,こうはなりません。
本データを全部データベース化しております。そ
では,これがどこまで続くかということは,大
して電話回線を使って,リアルに紹介状をファク
変難しいと思います。早晩14日になると思います
スしまして,医師は宛名とか固有のことは一切書
が,14日ぐらいまでは何とかいけるかなと思いま
かなくても,
全部データのなかに入っております。
すが,その先の10日になると,これはなかなか今
新たな紹介患者や紹介先でも初診受付ですでに登
までのようなものの考え方や体制では無理だろう
録しておりますから,診察室で医師が住所なり氏
と思います。またあらゆる知恵を働かさなければ
48
日本病院会雑誌
2003年6月
いけないと思っております。
す。
(スライド14)
紹介率でございますが,8年から14年にかけて
地域に求められる病院づくりで申しますと,急
最初のころは26%でございますが,今は37%に上
性期病院というのは,いつでも入院できる態勢を
がっております。
とっておかなければいけない,断っては信用が落
当院の今後の課題としましては,
(スライド13)
ちますから,絶対に断らない医療をしなければい
当院はどちらかというとがんの患者が多いので
けません。そして,早く的確な診断を付けて,そ
す。現在,入院患者数の35%前後ががん患者でご
の患者さんに一番適した療養環境のところへご紹
ざいます。救急からの患者が約30%でございます
介申しあげるというのが,求められる病院づくり
から,6割以上ががんと救急患者と思っていただ
であると思っております。
いてもよいぐらい,がんの患者が多いです。
そのためには医療の質を上げるのは当然のこと
で,第1番です。ケアプロセスを重視した医療を
行う,アウトカムの評価への取組み,これがなか
なか難しいのですが,今後取り組まなければいけ
ない急性期病院の課題だろうと思っております。
(スライド15)
スライド13
スライド15
スライド14
しかし,循環器の患者は少ない,がんの患者が
多いという特徴があります。これは特徴でござい
ますから,そういうものを生かしていかなければ
いけないと思っております。
スライド16
したがいまして,がんの検診から手術,放射線
治療,化学療法,緩和ケアまでやっております。
そして,
診療情報を開示する,
皆様方によく知っ
緩和ケアも最初のころはかなり病床が空いており
ていただく病院は地域の住民あるいは患者さんと
ましたが,今は満床とまではいきませんが,一応
の信頼関係が一番でございます。信頼をなくした
損益分岐点をクリアするところまではきておりま
ら医療は成り立ちません。こういった意味で,信
日本病院会雑誌
2003年6月
49
頼,信用を保持する,そのためには安全な医療を
まず経営を安定させなければならない。そのため
確保し,患者の権利を尊重する。これらは時代の
には,職員の意識を改革しなければいけない,疾
要請でございます。
患別のコストを算定しなければならない,原価計
セカンドオピニオンは時間もかかります,お金
算,人事評価を行う,当院でも3年ほど前から人
も得られませんが,セカンドオピニオンもしなけ
事評価制度を取り入れまして,医師を含む全職員
ればなりません。
(スライド16)
を対象として5段階評価をしております。
これも皆様方も昨日来縷々お話がありましたの
当院は社会福祉法人でございますので,いろい
で省略いたしますが,経営の安定なくしていい医
ろな使命がございます。その使命の1つといたし
療はできません。いい医療をしようと思ったら,
まして,まったく不採算でございますが,へき地
医療をやっております。
ご存じと思いますけれど,
瀬戸内海の島々に済生丸という船を巡回させて40
年間,離島の診療を行っております。へき地医療
というのは当院の使命として,これはもうけでは
なくて,現在も続けております。
(スライド17)
これはご存じと思いますが,医療機能評価にも
ある項目です。こういうことをやっていけば,生
き残れるのではないかと思っております。
(スライ
ド18)
これは,私の言葉でございますが,経営に奇手
妙手というのはありません,ただ基本を極めるの
スライド17
みでございます。
(スライド19)
「よく戦う者は知名もなく勇名もなし」これは
孫子の兵法の形篇に書いてあります。すなわち非
常に華々しい戦いをして,名を挙げたからといっ
て,決してそれは良い勝ち方ではない。本当に強
い者,本当に戦上手というものは華々しい戦いを
せずいつの間に勝ったか分からないようにして勝
つ,勝った痕跡を残さないということです。
誠意をもって日ごろから地道に努力を続け,1
つひとつの問題を潰していき,戦わずに生き残り
たいなと思っております。
スライド18
以上で終わります,ご静聴,ありがとうござい
ました。
2.
療養型病院から
「療養病床の現状と展望−迫られる機能分化の明
確化」
―診療報酬改定から見えるもの―
中馬病院
田中 英雄
おはようございます。中馬病院の田中でござい
ます。今日のシンポジウムのなかで,私の与えら
れたのは『療養病床の立場から』というお話のよ
スライド19
50
日本病院会雑誌
2003年6月
うでございます。ただ,他の先生方と違いまして,
おります。
健診センターのほうは毎年約5,000人く
私どもの病院は非常に小さな病院でございます。
らいのフォローをしております。
私の得意分野というのは都市部における小規模療
病院病棟のほうの稼動病床数は62床から63床,
養病床のこれからのあり方というところでござい
外来数が120人くらいの普通の病院です。
ちょっと
ますので,それをもとにお話させていただきたい
意外に思われると思いますが,この規模では医師
と思っております。私のお話する内容と,言いた
数が7人で多いのです。標欠の病院が多いなかで
いことというのはそのレジュメのとおりです(別
当院は十分に充足をしております。また,看護師
掲レジュメ)
。今日,OHP を使ってお話しますのは,
も160%の充足率です。
65床の病棟で運営している
その内容の検証だと考えていただければ結構で
のですが,看護者が21人,看護補助者が16人,看
す。
護補助委託者を含めて現在は38人でやっている状
レジュメの最初に書いております[療養病床の
現状と展望]とは療養病床自体も機能分化をして
況です。こんなので経営が出来るのかと,皆様に
言われています。
ゆかねばならない,それは今回の平成14年4月の
最近流行っている,もう流行が終わったと思う
診療報酬改定から,非常に見えたわけです。それ
のですが,これはどこでも言っておりますが,院
は療養病床にとって始めての大査定を受けたこ
外調剤は大嫌いです。そのために薬剤師は4人,
と,ここから始まってくるのだと思うのです。
当院は2人でいいはずなのですが…倍の人数をお
戦略という部分でいうと,現状はどうなのかと
いて調剤薬局の機能を全部やっております。
いうところを認識するということ,それからこの
合計79人の常勤がおります。ほかの病院さんと
大きな査定をどう乗り越えるのか,それには何を
違うところはパートさんがいないところです。
しなければならないのか,そういうふうに考えて
パートさんはただ1人だけ,週2回来てもらって
いるわけです。
いる保健師さんだけです。それからリハビリテー
今回の診療報酬改定ではキーワードがいくつか
ションは当然ながら理学療法(Ⅱ)を取得してお
あると思います。まず,これはこの改定以来いつ
ります。それと健診センターは155㎡,これは阪神
もお話するのですが,
「何か変だぞ診療報酬改定」
間では一番大きなものだと思います。平成13年4
ということです。
月から通所リハビリテーションも開始しておりま
もう一つは支払う患者にとっての費用に見合う
サービスの提供の部分です。これは言って良いの
す。
また,
当医療法人はもう一つ病院がありまして,
か分かりませんが,従来「こんなに儲かる療養病
これも59床の全館療養病床です。それと訪問看護
床と,こうして儲ける介護病床」というお話をし
ステーション,居宅介護支援事業所とこのような
ておりましたが,今回の改定からは頑張らなけれ
構成で運営されている法人です。
ばならないのは「こうして儲ける療養病床と,来
これが当院の全景(写真)なのですが,この建
年が怖いぞ介護保険」
,
このあたりを検証しようと
物は平成11年10月に全館新築建替えをしていま
しているのです。
す。いわゆる医療施設近代化施設整備事業をいた
小さくて見えないと思いますので,レジュメの
だき,
約2億7,600万円位の補助金をいただき建て
方に付けておりますが,当院は兵庫県の尼崎市の
替えたということです。補助事業にのり医療事業
寂れた工業地帯,阪神工業地帯にあります。その
をしている限り政策医療をしなければなません
中にある都市型の65床しかない小規模の全館療養
が,私は政策医療がすごく好きなので,平成6年
病床の病院です。医療療養病床が57床と,介護療
10月から療養病床をしております。
養型医療施設が8床,都合1病棟で65床になって
この政策医療の療養病床にとってとても重要な
おります。65床のわりには3,000㎡と,非常に建物
位置にあるのはリハビリテーションだと考えてお
としてはゆったりとしております。
ります。平成12年6月の日本病院会雑誌の巻頭の
それと,併設といいましょうか,院内併設です
病院紹介を参照していただけたらありがたいので
けれど,健診センターと内視鏡センターを持って
すが。当院のリハビリテーション室の特徴は一軒
日本病院会雑誌
2003年6月
51
家をまるごと作ってあることです。玄関から階段
インを引いています。平成6年10月に療養病床に
お風呂から流し台,それでえいっと思って車(た
移行した時も,医療を中心の療養病床(当時は移
だし半分の)も置いています。このような車の乗
行型療養型病床群)をしたい,都市部にあります
り降りなどの練習も必要だと思い設置しました。
ので急性期も見れる療養型病床群にしたいと,今
バリアフリーというのはダメだと思うのです。バ
もそうですけれど,当初の基本的なスローガンは
リア付きのリハビリテーションを考えなければな
「限りなく急性期に近い療養型病床群」です。
らないと思うのです。
今回,
なぜ平均在院日数が90日かといいますと,
さて,中心の病棟の状況をお話したいと思いま
稼動率が90%を超えてくると,平均在院日数の約
す。出てくる前に,インターネットで全国の療養
2倍が,
実在院日数になってゆくということです。
病床の稼動率の平均を見てきましたら,93.8%と
これが見事にあたったといいましょうか,平成14
なっていました。当院も全館竣工後,同じく94%
年4月の診療報酬改定で180日で入院基本料の特
前後で推移しております。昨日も聞いてきました
定療養費化となりました。
が現在10人くらいの待ち患者さんとなっていると
従来から65歳以上の入院6カ月以上の患者さん
思います。他の病院からの送ってくれる患者さん
は絶対,全員介護認定を受けなければならない時
が多く,尼崎市自体には市民病院がなく,県立病
がくるぞが基本と思っていましたから90日は絶対
院からもよく転院の依頼が来ます。これはどちら
守れといつも話しております。
でもご多分に漏れずということでしょう。
ただ,
私は医療療養病床の話が好きなのですが,
それでは,平均在院日数90日もそうですが,今
回の診療報酬改定の実証をレセプトの点数で見て
当院の療養病床がほかの療養病床病院さんと違う
いこうと思います。私は他のシンポジストと違い
のは,
平均在院日数が非常に短いということです。
高尚なお話は出来ませんから細かいお話をずっと
昨年平成13年度で,平均在院日数が74日です。そ
します。
して,基本的に平均在院日数においては90日にラ
52
日本病院会雑誌
今までは診療報酬改定のたびに3月のレセプト
2003年6月
を新点数に置き換えれば,全体で何%の影響が
ではない,この世界は介護保険に任せればいいと
合ったのかという話が出来ました,でも今回の改
いう世界だと思うのです。当院で選定療養費にか
定では出来ないのです。それは今回の改定は患者
かる人数はどうなのか。180日超の患者さんは25
の特性に合った評価,点数配置をする,そういう
人,
そのうち介護認定を受けているのは15人です。
ふうなものでしたから,今回は逆に考えて4月の
でも当院は難病や超重症者などの患者さんが多い
レセプトを全部3月に置き換えてみるとどうなる
のです。それと日常生活障害加算のランクB以上
のか,今回の改定は回数制限などいっぱい出てき
は選定療養費がかからないのですが,そうすると
ましたから,従来の置き換え作業は意味がないの
5人しかいないのです。つまり,医療度の高い患
で逆算をしました。食事療養費などは含まず技術
者さんをどのようにみているのか,それを担保し
料の点などで検討しています。
ているのかが肝心なことだとうと思うのです。
当院は内視鏡センターがありますので,ポリペ
先ほども出ていましたが,難病患者さんのレセ
ク目的入院で実日数5日の患者さんです。これは
プトの置き換えです。この方は日常生活加算がラ
当院の得意なパターンなのですが,初期加算がな
ンクCで,痴呆加算があり,パーキンソン病で難
くなりまして,さらにポリペク自体の手術点数も
病等入院診療加算の対象者です。画像診断が包括
非常に下がり18%のマイナスとなりました。当院
され,リハビリのほうも下がりましたけれども,
の内視鏡専門医はこれを見て嘆いていました。
現実には長期減算がなくなったため,
2.8%のプラ
それでは逆に,180日以上,長期減算がなくなっ
スになっています。
た場合はどうなんだろうということです。
180日以
それではもっと強烈な人工呼吸器をつけた超重
上の入院患者さんで今回新設された日常生活障害
症者のお話をしましょう。
先ほどにも出ましたが,
加算,痴呆加算の対象外の患者さん,いわゆる特
超重症児(者)入院診療加算の対象者の方ですが,
定療養費の対象の患者さんです。この方たちもマ
この患者さんは従来から10万点超のレセプトに
イナスとなります。しかし,当院には大病院と違
なっています。療養病床でもこれだけの点数が上
う有利さがあります。それは入院患者さんの絶対
がってきます。もちろん日常生活障害加算もあり
数が少ないので,簡単運動療法をしていたのを,
ますし,
難病等入院診療加算の対象患者さんです。
個別療法に切り替えることが簡単にできます。大
今回は人工呼吸が非常に上がっていて,28.4%
きなマイナスになっていない理由です。これが大
アップとなっています。ただよくセミナーなどで
きな病院で集団療法をしていた病院は包括払いに
人工呼吸の点数が非常に上がったけれども,SPO
含まれますからものすごく下がります。でもとり
2等の検査が全部包括されて上がってはいないの
あえずはマイナスはマイナスになってしまうとい
では,とよく言われます。しかし,療養病床はも
うことです。
ともと包括払いですから検査は算定不可です。た
このような患者さんはご存知のように選定療養
だし,酸素が約半分近くになっています。全体の
費の対象で,
15%負担になった場合,
大体約57,000
請求点数としては,
マイナス7.1%になりますけれ
円の費用負担になります。建築会社さんにこうい
ど,
もともと酸素は購入価で請求していますから,
う説明をすると,彼らは即答してくれます。この
これを補正すると8.4%のプラスとなります。
金額,ああ,ワンルームマンションの1カ月の金
あまりお見せしたくないのですが,この患者さ
額ですね。ですからワンルームマンションの家賃
んは当院の最長入院記録者(13年目)です。日常
を払えということなのでしょうか。ここで思った
生活障害加算,痴呆加算がありますが,残念なが
のは「何か変だぞ診療報酬改定」です。逆にいう
らリハビリも出来ない方なのです。この方はリハ
と,お金を払えばいつまでもいててもいいのかと
ビリなどのマイナス要因がないため,
4.3%のプラ
いうことです。ですから,医療度の低い人でも,
スになります。ただしすごく手がかかります。
お金を払えばいつまでもおいてくれると,そうい
ううがった考え方もされるのかもしれません。
ただし,医療療養病床というのはそういうもの
日本病院会雑誌
先ほどから3件,日常生活障害加算や人工呼吸
の話ばかりしてきましたが,何が言いたいのかと
いうのは,これだけです。
2003年6月
53
病棟の看護要員,最初のほうにお話しましたけ
月超の人は全員要介護認定が必要といっていまし
れど,定床65床になぜ38人もいるのか,本当は40
たが,いわゆる医療度,看護度の高い患者さんに
人ほしいのですが,重症度,看護度,介護度の高
ついては介護認定を受けている患者さんを見まし
い患者さんをみるためには,最低この人数が要る
ても改定後の医療療養病床の患者さんが一番高い
ということです。そして,平均在院日数を短くす
報酬となるわけです。
るためには,患者さんが退院できるようにするこ
今回の診療報酬改定で,初期加算などがなくな
とです。そのためにもこのような看護要員が要る
り非常に下がった影響から,介護保険には走ろう
ということになります。
という相談がよく来るのですが,やめた方がいい
現状では,ほとんどの市中の中小病院というの
のではと答えています。現実に医療提供を本気で
は療養病床の状況だと思うのです。今回のように
行っていた場合には,医療療養病床が一番報酬も
非常に低くなった点数配置に,これから新たに移
高いし,そして来年は介護報酬の見直しがありま
行するのは非常に難しいと思います。レジュメの
す。当然財源の問題から医療保険の2.7%より,財
なかで
「すこし報酬をもらいすぎていたのだろう」
源がないわけですからそれより大きく下がるのは
と書いていますが,これだけの医療提供をすれば
当然です。それと,おむつが外れるらしいともい
本当はもらっていいかとも思います。でも,最初
われています。そうなってくると,2.7%程度の減
からこういうふうな体質を持っていたから出来る
であるはずがないのです。
のです。
当然,医療度の高い人と同じような報酬をもら
つぎに,当院の入院の4∼6月で,前年対比を
えるわけがないのです。介護療養型医療施設に
してみます。そうすると,処置は上がっています。
とってより介護度が高い人が対象ですが,介護認
ただ当然ながら画像診断は CT 以外はほとんどダ
定も非常に厳しくなっていくでしょう。来年はこ
メで激減,リハビリも当然下がっております。今
のあたりが非常に難しいところだろうと思いま
回は全体でいくら下がったという計算が出来な
す。
い,日当点くらいしか出来ないのです。それを見
これはどこでも私はお見せするのですが,総売
ると97.12%,いわゆる2.88%の減収です。だんだ
上の推移です。全館竣工してから非常に安定とい
ん診療報酬改定の目標2.7%減に近づいてきてい
うことにはないのですが本年の目標には医療およ
ます。
び介護の保険収入だけでは絶対いかないです。こ
次に総点数での4∼6月の平均と改正前の年間
の隙間を併設の健診センターでの健康診断,当院
平均の比較です。2.9%くらいの減となっていま
には産業医が4人いますので企業の嘱託医,それ
す。
年間を通せば限りなく2.7%の数値に近づくの
から警察医でもありますので検死なども多く行っ
ではという気がしてならないのです。厚生労働省
ております。そういったいろいろな複合体をやっ
の推し進めてきた政策医療を中心に運営してきた
ていて,どうにか目標値を達成できるということ
と思うのですが,そうすると厚生労働省の考えど
です。これからは病院単体の保険だけではなにも
おりの数字が出るんだろうという気がしてならな
できないのです。ですから,いろいろなことを手
いわけです。
がけてゆく商品開発をしていくことが大切だと
ただし,この点数は比較対象になるかどうかぜ
思っております。
んぜん分かりません。先ほども申しましたように
最後になりますが,先ほどの先生も言われまし
患者の特性によって非常に点数がばらけるからで
たが,
「生き残りをかけて」なんてとんでもない話
す。そのあたりがこれからの問題点になるだろう
です。生き残りをかけないといけないということ
と思います。
は,
要らない病院があるということでもあります。
もう一つ,
「来年が怖いぞ介護保険」のところで
私どもの理念というのは,
「地域から必要とされる
すが,当院は8床しか持っていません。基本的に
病院」であればいい,それには冒頭に言いました,
医療療養病床をどんどん進めていきたいという考
都市部にある小規模の療養病床は,急性期もみれ
えで運営してきた訳です。先ほど65歳以上の6カ
ないような病院はだめです。そのためにも看護配
54
日本病院会雑誌
2003年6月
置を拡充しなければならないし,急性期の治療か
院にはならないのだろうと思っております。
ら慢性期の療養病床まで,そして,在宅の医療,
そのように考え,日夜,研鑽したい,まだまだ
介護もやり,健康診断もして,小病院ですから,
発展途上ですので,それを邁進していくというこ
多くは持つ必要はないと思いますが,すべての用
とを考えております。以上でございます。ありが
意だけはしておかないと,地域から求められる病
とうございました。
(レジュメ)
「療養病床の現状と展望−迫られる機能分化の明確化」
−診療報酬改定から見えるもの−
中馬病院副院長 田中 英雄
現状をどのように認識しているか
今回の診療報酬改定は療養型病床群において初の大査定を受けたものであった。特に医療療養
病床においてである。療養病床への移行策としての療養病床優遇措置の終焉と認識している。従
前の療養病棟入院基本料(当院は1)は市中の中小病院での通常の出来高医療の点数配置から考
えて非常に高いものであったといえる。当院は平成6年10月より療養型病床群を行っているが非
常に収益は良かった。やはり少し報酬を貰いすぎていたのであろう。しかし,これから療養病床
に移行しなければならない病院にとってこの低くなった診療報酬点数により,経営ハードルが非
常に高くなったのは否めない。当院のように長らく包括払いや医療周辺事業,特に健康診断事業
や介護関連の事業に関心を持ってきた病院は展開のしようがある。多くの中小その他病床はどう
するのだろうか?と思っているのが現状と言える。
ただし,今回の診療報酬改定は厚生労働省の言っている長期入院の是正と中身が違いそうだ。
「何かへんだぞ診療報酬改定!!!」と言っているのは私だけではないはずだ。医療療養病床も
平均在院日数(当院は70日前後)の短縮が求められているのだが実際は初期加算等が廃止となり
10数%の引き下げ率となっている。逆に長期入院患者では引き上げになっている。ただし,なに
もせずに寝かせっきり患者さん製造病院にとっては大きな引き下げであったはずだ。また,当院
でも180日超患者も多く入院しているが,難病患者などの対象外患者が多いため問題は多く発生
していない。このような看護・介護度の高い患者を診てきたことが唯一のプラス要件とも言える。
それを乗り越える条件は何か
上記において当院の場合,日常生活障害加算,痴呆加算の算定要件に係る患者,難病加算患者
のみならず超重症児(者)加算算定患者もいる。このような患者はとても手がかかる上,医療度
も非常に高いのだ。そのため介護認定を受けてはいるが実際は医療病床での処遇となる。このよ
うな患者さんを多く診てゆくためには,当然ながら看護要員の配置を高める必要がある。当院は
都市部にある定床65床の全床療養病床であるが急性期患者も多く診ている関係上,常時62∼63床
で運営している。この病棟には現在38名の看護要員を配置している。1.7:1看護要員配置と言
える。6:1看護の療養病床が平成15年3月末で削除されるのも当然であろう。今回の診療報酬
改定(引き下げ)のなかでいかにマンパワーの投入と診療の質を高めてゆけるかが今後の患者獲
得・選択と将来的にみて経営をしてゆける鍵になるものと思われる。
また,180日超の入院患者において特定療養費の設定がなされたが,本人負担15%の選定療養
費を支払ってでも入院していたいと希望するような病院でなければならない。これからは支払う
費用に見合うサービスの提供(施設面を含めて)がなければならないと考える。
そのために自院ではどのようなビジョンのもと,具体的に何を行っているか
将来的には看護基準の高い療養病床が出現するものと考えている。急性期入院加算が2.5:1
日本病院会雑誌
2003年6月
55
以上であるためだ。現行の医療法上の病院の看護基準は4:1以上である事から推測すると慢性
期病床つまり医療療養病床は3:1∼4:1の看護基準の病院が担う事になるのであろう。また,
亜急性期患者の問題も一般病院は急性期入院加算を算定するという前提にたてば亜急性期の患
者は事実上,入院できなくなるものと思われる。そのため亜急性期患者も十分に診れる療養病床
が必要となる。当院は現在3:1看護者,6:1看護補助者の構成をしているが次回の診療報酬
時には3:1,5:1(6:1の言葉は厚生労働省は好きでないようなので?)を十分にクリア
できるような体制にしたいと考えている。その時に入院基本料のアップがあるのかな?と期待し
ている。またそういう評価であって欲しいものである。その時には現状の看護・介護体制をすこ
し強化することで移行できるため増収を期待している。
また,療養病床にとって今回の診療報酬改定は非常に重要な意味を持っている。ひとつは医療
保険のみでは病院経営が出来ない事,もうひとつは介護保険の来年の見直しの布石となっている
ことである。おそらく財源の間題から2.7%減どころではないものと思われる。おむつも自費負
担となるということも聞こえているからだ。最近私が言っている「こうして儲ける療養病床と来
年が怖い介護保険」の由来である。当院の場合,療養病床57床,介護病床8床,デイケア1単位,
訪問看護を保険関係で運営をしているが,併設として健診センターを設置している。健診セン
ターは病院事業として唯一営業活動の出来る分野であり非常に期待できる分野と思われる。
また,今後の計画としては近隣でのケア付有料老人ホームの後方病院を考えている。これから
は病院という機能だけではなく健康審査から医療・介護,在宅医療・介護そして住まいまで,い
かに患者さんの人生にかかわる事が出来るかによって患者さんから選択されるのであろう!と
思われる。これらの複合事業を行ってはじめて運営が出来るという時代になるのではないかと考
えている。
中馬病院 病院概要
開 設 者
医療法人中馬医療財団理事長 中馬
病 院 名
中馬病院
管 理 者
院長 中馬
所 在 地
〒661−0862 兵庫県尼崎市開明町3丁目29番地
淳
電話番号
06−6411−6081
FAX 番 号
06−6413−1375
病
院
平成11年10月 新築竣工
構
造
鉄骨造
敷地面積
5階建
1,624.85㎡
総カラーサイディング仕様
建築面積
(1,811.55㎡)
標榜科目
勇
2,997.48㎡
(3,117.15㎡)
内科,消化器科,外科,整形外科,リハビリテーション科,放射線科
健診センター(昨年度実績4800名)
,内視鏡センター併設
病棟種別
療養病棟入院基本料1
病 床 数
病棟数 1
65床
内訳
職 員 数
56
医療療養型病床群
57床
介護療養型病床群
8床
入院平均稼働数 62床,1日外来数
120名
医師
7名
日本病院会雑誌
2003年6月
看護者数
28名
内訳
病棟
21名
外来
7名
在宅
1名
看護補助者 16名
内訳
病棟
15名
外来
1名
検査技師
4名
薬剤師
4名(院内調剤)
放射線技師
2名
理学療法士等
3名
管理栄養士
1名(給食は委託)
事務職員
13名
合計
79名(常勤数)
リハビリテーション施設基準
機能訓練室概要
164.60㎡
健診センター概要
155.48㎡
運動療法施設基準(Ⅱ)
政府管掌健康保険生活習慣病予防健診指定
各種健康診断,特殊検診,人間ドック等
デイケアセンター ぺがさす
3.
回復期リハビリテーション病院から
河北リハビリテーション病院 皆川
晃慶
(キーワーズ:早期発症の患者の受け入れ,十分
なマンパワーの確保,365日訓練の提供,平均在
院日数90日以内,自宅復帰率80%,日当点3000
点)
119.67㎡(平成13年4月開始)
回復期リハビリテーション病棟が制度化される
にあたって,少なからずそこにかかわってきた立
場から,今日は少しお話をしていきたいと思いま
す。
表1は岩本先生の方から,詳しくお話がありま
したので,重複は避けますが,厚生労働省が今年
の8月に出したもので,私ども長くリハビリテー
ションにかかわってきたものには,大変嬉しいも
〈はじめに〉
どうもこんにちは。河北リハビリテーション病
表1
院院長の皆川です。ただ今すばらしいご紹介あり
がとうございました。
今お話にありましたように,私は昨年2月に東
京杉並区にオープンした135床のリハビリ専門病
院で,回復期リハビリテーションを中心にしたリ
ハ医療に従事しています。また,ここ数年間は日
本リハビリテーション病院施設協会で医療保険部
門を担当して,皆さんご存知の石川誠先生ととも
に,2年に1度の診療報酬改定に際し,厚生労働
省に提出するリハビリ関係の要望をまとめるなど
の仕事を行なって来ました。
日本病院会雑誌
2003年6月
57
のです。
というのは,
リハビリ医療の重要性はずっ
すが,私ども現場でリハに従事する人間にはぴっ
と言われていましたが,実際は医療の片隅に置か
たりマッチする言葉遣いであります。そして厚生
れている状況が長く続いておりました。それが2
労働省からも認められたわけです。
年前の介護保険の登場で,リハビリテーションの
急性期とは疾患リスク管理に重点をおくととも
必要性が再認識され,リハビリをしっかり行うこ
に,出来るだけ早期にリハを開始して,廃用症候
とで,寝た切りの患者さんを減らすことができる
群を予防することが要求される時期です。
と合意されるようになり,並行して回復期リハビ
それに引き続く回復期は疾患リスク管理に留意
リテーション病棟が診療報酬のなかでようやく制
しつつも,ADL の改善を目標に,能動的,多彩な
度化されたというわけです。
訓練を行いながら生活の再構築のための基礎を築
私どもは,医療法のなかでのリハビリテーショ
く時期と考えています。
回復期リハが終了すると,
ン専門病床群の制度化を,当時の厚生省にずっと
家庭または施設に入ることになりますが,社会生
要求していました。ただ,当時の状況では時期尚
活を維持するため,その後もリハ的サポートを続
早とのことで,診療報酬改定のなかで位置付けら
けること,これが維持期リハで,ある意味で一番
れたのが2年前です。来年8月には病院病床の機
大事なことかもしれません。
能分化の期限が来ますが,近い将来,医療法のな
最近は私ども日本リハビリテーション病院・施
かで回復期リハ病棟が位置付けられることを期待
設協会副会長の大田仁史氏が終末期リハビリテー
しています。
ションという概念を提起しております。今までの
医療でこの辺りの問題は欠けていた領域なので,
表2
今回の診療報酬のなかに緩和ケア病棟が位置付け
られたことは非常に嬉しく思いますが,同時にそ
の分野にリハビリテーションがどうかかわってい
くべきなのか,今後の課題だと考えます。
さて,現在の回復期リハ病棟施設基準に関して
注意すべき点があります。脳卒中,脊髄損傷,外
傷などの急性発症の疾患においては問題ないので
すが,パーキンソン氏病,慢性関節リューマチ,
CP,あるいはさまざまな難病のように慢性に経過
する病気に関してです。
このような病気の方々も,
経過中のある時期,入院して専門的なリハビリを
要する場合がありますが,現在の回復期リハ病棟
ここで,リハビリテーション医療の基本的な概
念を整理してみたいと思います(表2)
。リハビリ
表3
テーションイコール機能訓練と狭い意味でとらえ
る考え方がいまだに一般的ですが,患者さんの生
活そのものを作り直す,そこに至るすべての努力
の過程こそリハビリテーションであると私どもは
考えていますし,そのような考え方もようやく広
まってきたかと思います。
また,時期的な分類として,急性期リハ,回復
期リハ,維持期リハという考え方も大体定着して
きました。日本語的には急性期に対する言葉は慢
性期で,前述の分類が適切な語法かどうか,日本
リハビリテーション医学会などから批判もありま
58
日本病院会雑誌
2003年6月
の対象疾患の位置付けではこれらの患者さんの入
表5
院が大変困難な状況です。この問題は今後の課題
の1つだと考えます。
〈回復期リハ病棟の現況〉
全国地域リハビリテーション研究会は毎年1000
人規模の参加者で開かれています。これは先月札
幌で行われた同研究会で報告された回復期リハビ
リテーション病棟の全国からの報告ですが,最新
のものと考えていいと思います。
(表3)
現在,全国で166病院,198病棟,9,185床が登録
されており,1病棟平均46床です。毎月全国で5
から6の病院が新しく回復期リハ病棟を取得して
はこれまで東京,
千葉など,
都会でリハ医療を行っ
いて,さらに伸びることが予想されます。
てきました。PT10数名,OT10人近く,ST も3人前
後雇用し,リハ病棟を作り,専従の医師も置いて
表4
やってきましたが,
訓練室に400㎡ものスペースは
とれません。過去20年間その点で大変悔しい思い
をして来ました。今回ようやく総合リハ施設基準
Bが採用されました。PT,OT 合わせて15人以上と
いう細かい規定もありますが,訓練室は合計240
㎡以上で良いと緩和されました。土地の限られて
いる都会で,熱心にリハ医療に取り組んでいる施
設にとっては大変喜ばしい改定だと思います。
私どもの河北リハビリテーション病院も,ぎり
ぎりのスペースで運営しています。現時点ではA
を取得していますが,Bに切り替えることも検討
しています。
表4はそこで報告された施設基準と病床基準の
その他,従来の「複雑・簡単」から「個別・集
取得状況です。一般病棟では76病床中14床(約
団」という単位制になったこと,個々の実施時間
85%)
,療養病床122床の内91床(役80%)が総合
にいろいろな基準があり,ある意味でいままでよ
リハをとっています。
り厳しい基準になった点もありますが,その辺り
〈平成14年度診療報酬改定−リハビリ関連〉
の影響についてはあとからお話しします。
早期リハビリテーション加算の内容が変わりま
今回の診療報酬改定は非常に厳しい内容でした
した。14日,30日,90日です。病棟 ADL 加算が認
が,そのうちリハビリテーションにかかわる項目
められるようになりましたが,ADL が診療報酬の
を取り上げ述べてみたいと思います。
(表5)
なかに位置付けられたという意味で評価されると
言語聴覚療法の新設は待ち望まれたことで,し
思います。
かも PT,
OT と同じ点数が得られたことは予想以上
従来老人だけが対象であった総合計画評価料が
の朗報でした。ST を導入して言語聴覚療法をきち
一般にも認められるようになった点も改善点の1
んと行って,十分に採算がとれると思います。
つです。
リハビリテーション施設基準についても改善さ
それから,これまでは老人と一般で点数が異
れた点があります。総合リハの訓練室の条件は,
なっていたのが,外来移行加算を除き共通になり
従来 PTI300㎡,OTI100㎡の広さが必要でした。私
ました。
(表6)
日本病院会雑誌
2003年6月
59
表6
表8
表7
今年の3月までは,回復期リハ病棟の対象外の
患者さんでも,複雑で PT,OT,ST を行うと出来高
で請求できていました。ところが,今は PT,OT,
ST すべてを提供する患者さんの場合,3日目で11
単位に達してしまいますから,その後は3割カッ
トされ続けます。この影響がもっとも大きな痛手
となっています。
以上まとめてみますと,従来の「複雑,簡単」
に対し,よりきめ細かく,必要な人に必要な治療
を行えば,より高い点数をつけますよ,と厚生労
働省は言っているわけで,それはそのとおりだと
思います。具体的に,総合リハ(Ⅰ),PTⅡ,OT
厚生労働大臣が定める患者区分を表7に示しま
Ⅱ(Ⅱ)を検討します。
(表8)
す。入院患者が対象ですが,早期リハ加算算定患
総合リハを取得すると,
ベースとして1単位250
者,急性発症の脳血管疾患等の患者,これらの患
点です。先ほど,PT,OT,ST ほぼ同じと言いまし
者さんが外来に移行した場合,2カ間だけ外来費
たが,この加算は ST にはつきません。でも ADL
を加算できます。もっとも,そのような患者さん
加算が30点,早期加算,14日以内なら100点,30
はあまり多くなく影響は軽微です。
日以内なら80点,90日以内なら30点つきます。全
表7の3に示される回復期リハ算定患者は1の
早期リハ算定患者とほとんどオーバーラップして
います。
部つけると380点と相当に高い点数になります。
脳卒中など条件を満たす患者さんの場合,点数
は間違いなくアップします。しかし実際は条件を
1,2,3の疾患群では,発症3カ月以内は1
満たさない患者さんも診療しないわけにはいきま
日6単位請求できますから,きめ細かく診療すれ
せんから,今後の戦略を考える際の重要な問題だ
ば必ず診療報酬増加に結びつきます。
と思います。
しかし,4に含まれる対象外の患者さんでは,
最高4単位,
11単位からは30%カットになります。
〈河北リハビリ病院の概要〉
いま全国のリハビリテーション専門病院が悲鳴を
次に,私どもの病院の実践のデータをお示しし
あげているのはこの点です。現実の問題として発
ます。
病院の母体財団河北総合病院の概要ですが,
症3カ月以内の患者さんだけを対象にするわけに
315床の本院,リハ病院,透析センターなどを備え
はいきません。
ています。
(表9,10)
60
日本病院会雑誌
2003年6月
表9
表12
表10
す。
(表11)
病棟配置の状況ですが(表12)
,2階47床は主と
して本院からの整形外科の患者さんに対応しま
す。3階は主として他病院からの脳卒中の患者さ
んに対応,4階は整形疾患,脳疾患,3カ月を過
ぎた患者さんなどの混合病棟となっています。
今回診療報酬改定の影響をみる目的もあって,
今年1月から6月までに入院した313人(男性125
人,女性188人,平均年齢76歳)の動向を分析しま
した。
調査項目は,対象疾患,発症から当院入院まで
の期間,平均在院日数,入院経路,退院経路,そ
私どものリハビリテーション病院は昨年1年間
してリハ医療の効果を見るため ADL の変化(FIM
の平均在院日数は63日,病棟は3つあり,昨年6
と BI)そして皆さんが一番興味がおありかと思い
月から3階,今年8月から2階を回復期リハ病棟
ます日当点の変化です。対象疾患は55%が整形疾
にして,4階は医療保険対応の療養病棟Ⅰとして
患,脳疾患が39%です。整形疾患のほうが多いの
運営しています。施設基準は総合リハ,言語療法
は,
当時本院に脳外科がなかったことによります。
Ⅰで,PT21人,OT17人,ST5人,MSW6人の体制で
そして他院からは脳血管疾患,本院からは整形疾
表11
患の割合が圧倒的に多くなっています。
(表13,
14)
今年8月に本院も脳外科を導入し,2年後に
ER,70床規模の救命センターをつくる予定ですの
で今の疾病構造も変化すると思われます。
発症から入院までの期間,在院日数,入院経路
は表15から17に示すとおりです。なお,入院経路
については本院からの入院が昨年は63%,今年半
年では57%,さらにこの9月は40%と他病院から
の割合が増えています。
退院経路ですが(表18)
,大体75%を自宅にお帰
しています。本院に転送した人が7%ですが,重
度な合併症で手に負えなくなった方達です。そし
日本病院会雑誌
2003年6月
61
表13
表16
表14
表17
表15
表18
て老健に7%です。
この1年半で800数十人の人が
紹介元へ返した方,自宅にも帰れず,老健にも行
退院していますが,自宅に帰れない方のほとんど
けないなどの理由で療養病棟に移った方などが含
が特養を希望されています。しかしながら入られ
まれます。
た人は1人もいないというのが東京の実情です。
他の医療機関に11%で,そのなかには急変のため
62
日本病院会雑誌
我々の病院では入院時,
その後は4週間に1度,
ナースが中心になって全患者の ADL を点数化して
2003年6月
表21の横軸が月,縦軸が点数です。日当点です
表19
から,入院料と訓練料がほとんどで食費と室料差
額は入っていません。病棟ごとに月による推移が
出ていますが,すべて3月までは上向きです。ち
なみに昨年2月にオープンして,
当たり前ですが,
ずっと単月赤字でした。昨年10月くらいにようや
く収支が合いはじめ,この勢いで頑張れば計画通
りに進むと喜んでいました。
ところが4月の診療報酬改定で10%という大幅
なダウンになりました。非常に戸惑って,この点
について徹底的に対策を検討しました。まず,日
常の診療で点数の算定漏れのないようにすること
を徹底させました。その他さまざまな努力によっ
表20
て回復期リハ病棟においては5月,6月は3月よ
りむしろ点数が増加しています。
ただ,全体としてはまだ3月より下回っていま
す。一番深刻なのは,4階病棟で2,000点を切って
います。
日本リハビリテーション病院施設協会の理事の
先生方の病院は地域の中核的なリハビリ病院です
が,
大体同様なところでダウンしているようです。
急性期の病院で生死にかかわるような経過を経
て,リハ病院に移るときは,発症後すでに3カ月
を過ぎているような患者さんがどうしても入院患
者の一定程度を占めます。こういう患者さんも回
復期リハを行うと,改善するのですが,今回の診
表21
療報酬改定によって経済的に大変厳しい状況に
なってしまいました。
表22
います。入院時と退院時の ADL の変化を FIM と BI
で見たものが表19と20ですがいずれも退院時に改
善しています。
次に本日もっとも関心をもっていただける点だ
と思いますが,日当点の変化をお示しします。
日本病院会雑誌
表22は疾患別の日当点の推移ですが,大体疾患
ごとに病棟が分かれていますから,表21と同様な
2003年6月
63
パターンになっています。
表25
ちなみに,全国回復期リハビリテーション連絡
協議会がとった昨年のデータによると,日当点は
2,000点から3,200点,訓練料は300から1,500点と
幅があります。
(表23)
表24は先月の全国地域リハビリテーション研究
会におけるシンポジウム「回復期リハビリテー
ションの現状と課題」で発表されたものの一部で
す。急性期病院併設の立場から私が,療養病床の
立場から鶴巻温泉病院,地元北海道のケアミック
スの立場から苫小牧東病院がそれぞれ発表しまし
た。
表23
今後の回復期リハ医療の目標をどこに置くべき
か(表25)
,第一にできるだけ発症早期の患者さん
を引き受けることが大原則です。90日まで早期加
算をつけることができます。現在,入院までの平
均日数は40日から50日です。とにかく45日以内の
患者さんを増やすことが肝心です。平均在院日数
は,
回復期リハ病棟においては合計180日の入院が
可能ですが,出来れば90日以内に抑えるのが望ま
しいと思います。自宅復帰率は,やはり病棟の使
命として80%程度を目標にしたいと思います。
現在の施設基準では病床数に関係なく,PT2,
OT1となっていますが,その数は十分なリハを行
うには不足であると考えられます。PT 協会 OT 協
表24
会などと協力しながら私ども協会は適正な数を検
討してきましたが,
リハビリテーション専門病院,
専門病棟には病床6床あたり PT,
OT 各1人は必要
だというデータを提出しております。なお,今回
の診療報酬改定では「複雑・簡単」から「個別」
という形になりましたが,その場合,より多くの
人数が必要となるとも考えられます。
その辺りは,
よりきちんとしたエビデンスに基づいたものを提
供したいと思いますが,6床に1人より5∼6床
に1人必要かという印象をもっています。
1人当たりの日当点の目標を3,000点と設定す
ると,入院料は1,680点ですから,1,300点相当の
回復期リハ病院の日当点の全国平均は2,500点
訓練を追及すべきということです。
前後といわれます。我々の病院の日当点が2,800
最後のスライドです(表26)
。初めに少し述べま
点と,平均を上回っているのはマンパワーを十分
したが,現在の回復期リハ病棟基準にはいろいろ
につけて,原則365日,日曜日も訓練を提供すると
な問題点が含まれています。
いう姿勢でやっているからだと思います。
64
日本病院会雑誌
第一は対象疾患です。急性発症の患者さんには
2003年6月
専従医の問題にしても対称疾患にしても,国の制
表26
度でありながら都道府県によって解釈が異なって
います。例えば,熊本県では,骨粗しょう症の圧
迫骨折は絶対に認めないと言っています。残念な
がら杉並区でも大腿骨頸部骨折の患者さんに OT
を行うと大部分が査定されます。まだまだリハビ
リは訓練という考え方が残っているからです。私
はそういう例は全部再請求して,幸い復活してい
ます。全国でそのような努力を積み重ねながら啓
蒙していかなければならないと思っています。
ご静聴ありがとうございました。
4.
外来機能分化の病院から
問題ありませんが,先に述べましたような慢性疾
患の患者さんも,安心して堂々と回復期リハ病棟
に入院できるように適応をあらためて欲しいと思
います。マンパワーについてですが,看護要員3
対1で十分な看護はとうてい無理で,先ほど療養
病棟のお話にもありましたが,2対1,1.5対1は
音羽病院
中島 久宜
(キーワーズ:外来分離,医療改革,電子カルテ,
診療予約制,洛和音羽病院)
ただ今ご紹介いただきました京都の洛和会音羽
病院の中島と申します。
必要です。現在,ST,MSW は義務付けられていま
私どもの病院では昨年8月に外来を分離いたし
せんが,当然義務付けられるべきであり,PT・OT
ました。この準備の段階からの経験を含めての話
の配置もそれぞれ2人,1人ではなく,もっと必
をというご指名をいただき,今日この場でお話を
要だと思います。
させていただきます。
今は過渡期で,移行型が認められていますが,
ハード面では療養型の完全型であるべきです。
ご存じのとおり,診療報酬改定が年々厳しく
なっており,急性期病院におきましては外来の診
そして,これらの課題を考える場合,全国一律
療報酬が随分改定のたびに下がってまいりまし
とはいかない,つまり都会にはスペースを十分に
た。厚生労働省としましては,慢性疾患の安定し
とりにくい,地方ではマンパワーを確保しにくい
た患者さま,いわゆる高血圧とか高脂血症あるい
など,それぞれ特有の問題をかかえています。
は整形外科的なもの,いろいろな慢性疾患があり
それに対する現実的で具体的な解決方法を提起
してみたいと思います。
ますが,
こういったものを急性期病院が診るのが,
そもそもおかしいという発想があるようで,外来
施設基準を回復期リハ病棟Ⅰ,Ⅱ,Ⅲの3段階
に分ける。Ⅲを現在の基準にし,それに対し,例
えば ST を2人配置,PT も6床当たり1人つける,
看護は2.5対1にするなど厚い人員配置をした場
合を基準Ⅰとして診療報酬を2,200点に設定する,
そしてその中間を基準Ⅱとするというものです。
実は今年度の診療報酬改定に際しそのような要求
をしたのですが,今回はご承知のようにこのよう
な厳しい回答となりました。それにめげずに,今
後もこのような要望を出し続けたいと考えていま
す。
最後に,
恐らく皆さんもお悩みだと思いますが,
日本病院会雑誌
スライド1
2003年6月
65
をどんどん締め始めました。
私どもも,もちろん逆紹介もいたしますが,や
はり病院の収入の3分の1は外来の収入でありま
す。これを全部捨てるとなりますと,もちろん職
員の削減もしなければなりませんし,いろいろな
ことをやらないといけないのです。それなら何ら
かの形で外来を分離して,診療所という形にして
いこうということことで,昨年8月に実際分離い
たしました。
このときに,たまたま私どもは電子カルテの導
入を準備しておりまして,結果的にこの電子カル
テの導入が同時になりました。したがいまして,
スライド3
今日のお話は準備の段階,そのプロセスで電子カ
ルテとからんできますので,電子カルテの導入も
少し話に入ってまいりますが,ご了承いただけれ
ばありがたいと思っております。
私どもの病院(スライド2)ですが,京都市の
山科地区にございます。あとで地図が出てまいり
ますが,病床数として698床,一般が478床,先ほ
どのお話にありました回復期リハが50床,医療療
養として60床,介護療養として50床,それから痴
呆疾患として60床を持っております。診療科とし
ては30持っていまして,現在常勤医が121人,看護
職員473人,平均在院日数が8月で15.8日,病床利
用率が83%,1日外来患者数として1,100人,これ
は分離したクリニックの分も含めておりますが,
こういう病院であります。
スライド4
前,歴史としてはまだ浅い病院です。
その後(スライド4)いろいろクリニックを出
したり,
デイセンターをやったり,
訪問ステーショ
ンとかいろいろなことをやっておりますが,2000
年には機能評価受審を終えまして認定いただきま
した。2001年にクリニックの分離と電子カルテの
導入を行っております。
病院としましては(スライド5)
,現在,私ども
の洛和会の音羽病院ともう一つ,京都市内のどち
らかというと西の方にあります丸太町病院の2病
院,
それから全部で7つのサテライトクリニック,
健診センター,10の訪問ステーション,8のデイ
センター,10カ所のグループホーム,特養が1カ
所,老健が1カ所,介護サービスセンターが5カ
スライド2
所,在宅支援センターとして3カ所,ヘルパース
沿革です(スライド3)
。そもそもの洛和会の前
テーションとして8カ所,こういう形で看護学校
身であります矢野医院が1950年,今から52年前に
も持っております。急性期医療から,いわゆる在
開設され,音羽病院としては1980年,今から22年
宅介護までという形で,
幅広く展開しております。
66
日本病院会雑誌
2003年6月
りませんで,旧市内からも来られますし,大津側
からも来られますが,基本的にはこの山科区を中
心とした地域医療密着型になります。
昨今,医療改革や医療ビッグバンなど,いろい
ろな言葉を持つ医療制度改革が行われておりま
す。どんな制度,システムをつくっても,そこに
何らかの「制約」あるいは「制限」といったもの
があれば,今まで良かった方にとっては割を食う
方,損をする方という方が,どうしても出てきま
ほてん
す。この割を食う部分の補填をいかに納得してい
ただけるかということが,
ある意味で問題です
(ス
スライド5
ライド7)
。我々の医療機関もそうですし,実際に
医療を受ける患者さんもそうですし,いろいろな
ところに,そういう問題が出てくるだろうと思い
ます。今度の改定が逆に良かったと喜ぶ方もあれ
ば,腹を立てる人もおられる,困ったなという人
もおられるし,万歳される方もおられるだろうと
思います。
スライド6
これが私どもの病院の位置になるのですが(ス
ライド6)
,
京都をご存じの方はお分かりだと思い
ますが,京都には東山というのがあります。京都
市内は人口140万の町ですが,
山科区以外は東山が
本当に自分たちのいるところから東側に見えま
す。いわゆる東側の山です。山科区だけは東山が
スライド7
実は西山になるのです。東山の東側に山を越えて
最近は医療というものは accountability と
山科区があり,もう一つここに,いわゆる逢坂の
transparency,つまり透明性と責任説明の2つが
関で有名な逢坂山がありまして,この東側に滋賀
キーワードのように盛んに繰り返されておりま
県の大津市,琵琶湖があります。
す。
したがいまして,いわゆる京都市の市街と大津
ニューヨークタイムズが87年にダートマス大学
市の間にはさまれた小さな盆地,人口が137,000,
のジョン・ウェンバーグ教授の言葉を報じており
ちょうど1割の人口がこの山科区にはあります。
ます,
「医師たちが無駄な医療を繰り返し,最善の
北がもう比叡山になっておりますし,東側が逢坂
医療を行うという責任を放棄し続ける限り,政府
の関,西側がいわゆる東山という形で3方が山に
による医療介入はますます厳しくなる。やがて医
囲まれた盆地のなかでやっております。
師たちの臨床的判断よりも,統計学的データや経
この137,000のなかで,
こういった病院をやって
済学的配慮が優先される時代が到来する」
,
もう15
いる訳ですが,もちろん診療圏はここだけではあ
年も前にアメリカでこういう記事が出ております
日本病院会雑誌
2003年6月
67
来の分離と電子カルテの導入を同時に昨年8月1
日,実行に移しました(スライド9)
。
それぞれの目標というのは,やはり病院あるい
はそれぞれの組織によって異なるだろうというこ
とは当然予想されます(スライド10)
。各医療機関
はそれぞれ異なった問題点とか将来像を持ってお
ります。例えばマンパワーの問題,敷地の問題,
経済的な問題,収入の問題,いろいろなものがあ
るだろうと思います。あるいは利益と,患者サー
ビス,医療サービスのバランスをとりながら,自
らの望む姿を整えていかないといけないと思って
います。
スライド8
したがいまして,病院サイドとしては何が必要
(スライド8)
。
無責任といえるかどうかはともかくとしまし
て,従来のような出来高払制,これを認める,何
にも規制の必要のない時代には我々は自由に医療
ができただろうと思います。基本的に保険診療で
したけれど,どんな医療をしても,そんなに大き
か(スライド11)
,これからはどこの病院もそうだ
ろうと思いますが,当然ながら私どもも自前で収
益を上げていかないといけませんので,医業利益
をいかにして確保するか,やはりいい医療を提供
するためには,いい経営がなければいけないと思
く削られることも,まあまあなかったですし,ま
あ割合と古き良き時代の医療ができたと思うので
す。やはり最近のように総医療費が30兆円にもな
り,昨日もお話がありましたように,まだまだ医
療の規模としては拡大の方向にあるなかで,政府
の GDP も今後はなかなか伸びないとなってきます
と,やはり我々の今までの勘に頼る医療よりも,
EBM など根拠がはっきりしているもの,それから
今盛んにいわれる経済学的な配慮,これがやはり
日本の医療といえども導入されてくるだろうと思
います。
私どもはそういった事情を背景にしながら,外
スライド9
68
スライド10
スライド11
日本病院会雑誌
2003年6月
いますし,いい経営がなされていなければ,いい
神高速の東インターチェンジを降りたら最初に目
医療ができないだろうと思います。
につく建物が私どもの病院です。
そのぐらい,
ちょ
そう考えますと,経営と医療の質というのは両
輪のようなものですが,この医療領域の向上をい
かにセットするか,当然ながら以前のように狭い
うど京都の東端になりますので,車で来られる方
が半分以上ということになります。
そういったなかで,
今から5年前になりますが,
スペースに悪いサービス,昔は診てやろう式だっ
まず最初のサテライトクリニックを山科の駅前に
たのが,やはりこれからは患者満足度の向上を目
つくりました(スライド13)
。どうしてもアクセス
指すとなりますと,アメニティの向上が求められ
が悪いということで,駅前に何らかの形でクリ
てまいります。それから医療のサービス,質の向
ニックをつくりたい,もう一つ,もちろん外来の
上となりますと,新規にどんなことをするのか,
混雑を下げるということもありました。電車で来
それから従来のなかからどういうものを強化する
られる方にしてみると,駅から歩いて20分という
か,やはり自分たちの持っている施設,マンパ
距離はちょっと遠すぎますし,路線バスの便もそ
ワー,こういったものから,何をやっていくこと
れほどいいところではありませんので,駅前にク
が可能かということを考えることが必要になると
リニックをつくりました。内科系ばかり8診療科
思います。
を置きまして,こちらを始めております。
私どもの病院の22年間のプロセスなのですが
この外来分離をすることによりまして,3カ月
(スライド12)
,
当初1980年は老人病院として開設
かけて,本院の患者さんでそちらの方がいいとい
されました。地元の医師会から開設承認を得るの
う希望の方,
1日当たり100人の方に移っていただ
に,外来をしないこと,あるいは救急医療はしな
きましたが,それによって本院の外来患者数が減
いことなどいろいろな条件をかなりつけられたよ
るということは結果的にはありませんでした。と
うでして,当初は老人病院として取りあえずス
くにふやせといった訳でもないのですが,その分
タートさせたという形で始まっております。その
新患などがそのままふえていき,本院の方の患者
ため外来のスペースがどうしても少なく,ベッド
数が減ったということはありませんでした。
数に比ベますと,外来病数が当時はこんなスペー
スでいけるのかなと思ったぐらいでした。
したがいまして,慢性的な外来の混雑がありま
した。入院ベッド数に比べて,外来の制約があり
ましたから,初期のころは狭かったのです。
場所は山科の東の端っこ,歩いて5分もすれば
もう大津市に入るという県境のところにあり,名
スライド13
続きまして,その翌年98年にさらに2つのクリ
ニックを分離しました(スライド14)
。こちらは病
院から歩いてすぐのところなのですが,整形外科
単科だけのクリニックです。
1つは実は整形外科が一番混雑しまして,病院
としては午前の外来しかしておりませんが,当時
スライド12
午前12時で受付を終了して,最後の整形外科の患
日本病院会雑誌
2003年6月
69
者さんの診察が終わる日が,
遅い日になりますと,
ターのチェアをふやすという形にいたしました。
夜7時8時という状態になりました。これではと
そのときに,隣のクリニックやサテライトクリ
てもどうしようもありません。もちろん途中で1
ニックなどのカルテの運用問題が出てきました。
回帰っていただいたりいろいろするのですが,何
クリニックですので,8時から5時までしか基本
分,先ほど申しあげましたとおり,ブースがない
的には開いておりません。実際は6時ごろまで
のです。
やっておりますが,夜間はもちろん閉めており,
ブースがないものですから,これではどうしよ
救急がありません。したがいまして,そういった
うもないだろうということで,横にクリニックを
サテライトクリニックも含めまして救急で来られ
つくりブースを一気に2倍以上つくりました。患
た患者さんは本院で診ることになります。
者数が,こちらの方に一気に移動しまして,院内
そのときに,やはり紙カルテだと,あちらのカ
の外来スペースの混雑がさらに緩和されました。
ルテ,
こちらのカルテということになりますので,
もう一つは草田クリニックと申しまして,精神
神経科だけを単科分離しております。
どうしても電子カルテが必要になってまいりま
す。
こういった形でいろいろ分離し,本院の中にも
11の診察ブースをつくったり,リハビリを移動さ
せたりということで,何とか外来のスペースを拡
大しようという工夫をしてきました。
スライド15
まず分離することによりまして,医業利益にも
及ぼす影響(スライド16)としまして,当然なが
ら紹介率が上がります。
スライド14
それから外来・入院比率がダウンします。それ
しかし,これでもやはり限度がありまして(ス
ライド15)
,
今回の音羽クリニックという形のもの
まで1.8ぐらいありました入院・外来比率は,分離
することによって現在0.7です。
で昨年広げまして,4階建てで50診療ブース,基
入院・外来比率1.5以下という急性期入院特定加
本的には全部の診療科をこちらに移すということ
算がありますが,私どもとしましては,分離をす
です。外来の本院の建物のなかから,基本的には
ることにより,紹介率30%,平均在院日数17日,
麻酔科のペインクリニックと歯科だけを除き,あ
入院・外来比率1.5以下,この3つをクリアするこ
とは全部隣に移しました。
とができまして,特定入院加算を取得しておりま
21診療科で,
そこには生理検査,
心電図,
エコー,
あるいはレントゲン写真の単純写真以外は置か
ず,CT,MRI,内視鏡などは本院に委託という形に
しております。
す。当然ながらクリニックを分離することによっ
て,外来診療関係の費用が上がります。
もう一つは(スライド17)
,やはりアメニティが
良くなります。旧外来を活用いたしますので,空
外来を分離することにより,旧外来のスペース
いたスペースを有効利用いたします。それから事
はリニューアルし,全部救急室や歯科口腔セン
務室,非生産部門は別に本館の中になくてもいい
70
日本病院会雑誌
2003年6月
医療のサービスと質の向上としまして(スライ
ド18)
,
先ほど新規としては紹介の外来を充実させ
ると申しあげましたとおり,病診の連携,病病連
携サービスとして特殊検査を重点的に実施した
り,例えば紹介で来られた患者の CT,MRI なども
即日に撮影し,即日に報告書をつけてお返しする
といったことを強化したりしております。
強化する医療サービスとしては,従来も救急告
知病院ですので,救急室はありましたが,非常に
小さいスペースでした。大体月間の救急来院数が
250前後ですが,
とてもそんなスペースでは追いつ
きませんので,従来の救急室を広げまして,一挙
スライド16
に7倍のスペースにしました。DOA とか心肺停止
のような,かなり重症の患者さんが同時に4人ぐ
らい来ても受けられるようなスペースを確保しま
した。
もう一つは口腔センター,歯科口腔外科を充実
させております。
この外来棟なのですが(スライド19)
,当初は洛
和会の外来棟としてつくるつもりでした。場所は
本館に向かって左側に看護学校の小さい建物があ
り,そのもう一つ隣に単身ドクター用の寮がござ
いました。この建物を壊して建てようとしたので
すが,建築基準法上,同じ洛和会の同一法人でし
スライド17
ますと,今出来上がっている建物の半分以下しか
建てられないということが分かりました。いわゆ
るセットバックや日影線などがあるようです。
ところが別法人に土地を分筆してやれば,今回
建てた建物の大きさが建てられるということがあ
りまして,それならもう別にしてしまおうという
スライド18
ということで,周辺に別の建物を建て,いわゆる
事務部門は全部そちらに出していっております。
病院としては本館の方は紹介外来と救急に特化
させており,地区の医師会の先生方からの紹介な
どは本院で受けるという形にしております。
日本病院会雑誌
スライド19
2003年6月
71
ことになってしまって,別医療法人,和行会とい
んをどうやって診るか,建物が違うので外に出て
う形でつくっております。
いかないといけない形になりますので,本館の中
隣接する土地に4階建て50ブースのクリニック
で診るというシステムが必要です。そのためには
をつくり,全診療科をここに移転しました。電子
やはり電子カルテがどうしても要ります。これが
カルテを導入いたしましたので,併せて完全予約
ないと,クリニックごとに幾つもカルテができる
制を引いて,全診療を予約体制にしました。普通
ということになってしまいます。
病院の入口に総合受付がありますが,当クリニッ
したがって問題点も当然幾つかありまして(ス
クでは患者さんが来られましたら,各フロアごと
ライド21)
,別医療法人ですから,患者さんにとっ
の診察ブースの受付に直接行っていただきます。
てすべて最初は新患になってしまいます。病院カ
自動支払機の設置を同時にしております。
ルテ,
診療所カルテの並存の始末がありますので,
外来棟を分離するに当たりましては,したがい
旧病院,今までの紙カルテ外来の希望者は搬送し
まして,いろいろなことの対策をとらなければい
ました。もちろん直接の診療は電子カルテになる
けないのです(スライド20)
。我々は形のうえで別
のですが,紙カルテで今までのことが分からない
医療機関となっておりますが,中で仕事をしてお
と困るということで,取りあえず3カ月は搬送す
ります医者も患者さんも,単に病院の外来部門と
るということで,
マンパワーでこれは運びました。
いう認識しかされておりません。したがって,そ
ただ,その間に,外来サマリーを外来主治医に
のつもりで,実質的にはその形で動くよう運用に
電子カルテに入れてもらいました。処方はレセコ
ついては十分に検討も必要でした。
ンをそのままつないでもらいましたので,新たに
予約制導入は,待ち時間短縮に十分につながり
ます。私自身が循環器外来を今でもやっておりま
すが,一番混雑しますと3時間待ちぐらいはあり
ました。これが予約制を導入してからは,待って
いただいて大体30分で終われるようになりまし
た。3時間待ちのときに,たまたま1時間で終わ
ると,今日は1時間で済んだとものすごく喜んで
いただけるのですが,
30分に慣れてしまいますと,
今度は同じ1時間でも,今日は1時間もかかった
という苦情になってしまうというジレンマがあり
ます。
入院患者さんの他科対診システム,入院患者さ
スライド20
72
スライド21
スライド22
日本病院会雑誌
2003年6月
は入れる必要はありませんでした。
電子カルテは同時に IT 化,
標準化あるいは情報
入院患者の他科対診体制も変更になりますし,
紹介外来,それから対診診療枠というものが必要
の共有化という形でネットが組めますので,もち
ろん医事管理にも随分有用になっております。
になります。問題は医師の外来診療枠が非常にふ
電子カルテを導入するにあたりましては(スラ
えたことです。隣のクリニックの外来枠と同時に
イド23)
,まず問題は,医者の抵抗で,どうでした
入院の再診外来,あるいは紹介外来が必要になり
かと,どこでもおっしゃいますが,まず文句をい
ますので,業務量がかなりふえます。
われます。私どももあれこれあれこれいわれまし
受付方法,検査依頼など,運用変更の徹底とい
うものも,かなり必要になります。
たが,これは入れるとなったら強硬に入れざるを
えません。最初から完成されたものではないとい
外来棟と電子カルテ化の目的としましては(ス
うことを十分認識させないと,何かトラブルがあ
ライド22),当然ながら急性期特定入院加算の取
るたびに,だからだめなんだ,だからだめなんだ
得,
今申しあげましたとおり,
1.5に達するのには,
というふうにいわれます。でも,どんなものでも
この手が非常に役に立ちます。跡地として救急部
そうですが,
初めから完璧なものはありませんで,
を拡充することができました。これから急性期病
やはり車でもパソコンでも何でも使っているうち
院となりますと,やはり救急部をいかに充実させ
に改良されていくものだと思います。
るかというのは,大きなキーになるかと思います
電子カルテの限界を知り,そのなかでの運用を
が,そういった意味では,この救急部としてのス
すべきだと,原則を明確にしないと例外ばかりが
ペースを随分確保することができました。
出てきてしまいます。こういうところは,こんな
スライド23
スライド25
スライド24
スライド26
日本病院会雑誌
2003年6月
73
ことができないから紙でいくとかというふうにな
もちろんパソコンのパの字も知らない看護師さ
りますと,なかなか広がりませんので,例外は原
んなどもたくさんおりましたので,スイッチの入
則として認めない。今申しあげましたとおり,導
れ方からパソコンの使い方について,仕事が終
入後も改良を続けておりまして,現在もやってお
わってから講習会を何度も何度もやりました。
ります。
やはり利点とともに欠点もあります(スライド
もともと昨年度13年度までに実施する予定だっ
26)
。利点としては,いつでもどこでも迅速な情報
たんですが,当初は同時に入れるということは考
の処理と伝達ができるということです。難点は一
えておりませんでした(スライド24)
。たまたま両
番は医師の抵抗で,慣れないと作業がふえる,そ
者の検討をしたのですが,プロジェクトチームの
れから条件付き指示というのがなかなか入れにく
メンバーがかなり重複しておりました。したがっ
い,それからデータベースの利用がまだまだ未整
て同じメンバーが重複して,それぞれの進捗状況
備であって今後まだまだ改良していかなければい
を同時に議論するので,それなら一緒に入れてし
けないといった点は残っています。
まった方が結局1回で済むという形になりまし
て,電子カルテ化が同時になりました。
入院・外来の分離方法ですが(スライド27)
,単
科クリニックか巨大型という形になりますが,私
12年ごろから(スライド25)実際に紙ベースで
どもとしては病院の外来部門を分離した形で,50
予約システムをやり予約制を入れたり,部分的な
ブース全診療科を出すという形でやっておりま
オーダリングを入れたりして段階ごとにやりまし
す。幸いに医師会との摩擦も,すぐ横だというこ
た。
ともありまして,あまりもめずに済みました。
同一法人型か別法人型かということに関しまし
ては,私どもでは建築基準法などの問題もありま
して,別法人といたしました。
したがって,音羽病院としては複合型クリニッ
クが2つ,単科型が2つ,もう一つ丸太町病院の
方は半分だけになっておりまして,こちらは1施
設の複合型と単科クリニックを展開しております
(スライド28)
。
もちろんデメリットもあります(スライド29)
。
分離しておりますので,人件費がどうしても上が
ります。それから医師の数の確保,とくに今申し
あげました外来の担当時間がどうしてもふえます
スライド27
し,隣は別法人ですので,本院の勤務とみなして
くれず,アルバイトに行っている形になります。
したがって臨床研修指定病院だとか,学会認定の
施設基準に,時間数がその分減りますので,その
補充をいかにすることが必要になっておりまし
て,医師数の確保が必要になります。
それから運用経費ももちろん上がりますし,医
療機器の新規購入,それほど重装備ではありませ
んが,やはり泌尿器科とか耳鼻科,産婦人科,眼
科のように外来に装備が必要な診療科がありま
す。紹介用に本院にも装備を残さないといけませ
んし,クリニック用にもつくらないといけません
ので,こういったものの新規導入が要ります。
スライド28
74
日本病院会雑誌
2003年6月
あるいは在宅を抜きにしては,これからの医療は
ありえないということをつくづく感じた訳です。
ただ今日,幾つか診療報酬の関係で若干リハビ
リテーションに問題が出たのですが,私の方でも
若干説明がございます。私の方も行政側と話をす
るときに,ある意味でまともにやっているリハビ
リテーションと,そうでない病院というと怒られ
ますが,要するに向こう側,行政側のいい分とし
ては,治療あるいは診療としてのリハビリテー
ションと,レクリエーション的な要素のものも相
当含まれているのではないかというご指摘をいた
だきました。彼らもデータを持っていて,それを
スライド29
具体的に突きつけられ,ちょうど1年前,点数の
設定のときに骨を折ったように記憶しておりま
す。
それらの問題を含めまして,大変に限られた時
間のなかで,4人の先生方にまとめていただきま
したことを非常に感謝申しあげます。今準備して
おりますが,準備ができましたら,こちらの方へ
来ていただいて,これから皆さんのご質問にお答
えするという段取りになっておりますので,よろ
しくお願いします。先生方どうぞ。
司会者が不慣れでございますので,ランダムに
ご質問を頂戴したいと考えております。先ほど申
スライド30
したとおり,時間は12時まで,25分間ございます
それから何よりも何よりも肝心の入れ物,クリ
ニックの建築費用がかかります。
ので,その辺で皆さんのご質問を頂戴したいと思
います。
最後のスライド(スライド30)ですが,外来棟
質問を受け付けたいと思います。
と電子カルテの同時導入は成功かとあるのです
が,結局,あれこれあれこれ随分心配しましたが,
この1年まあまあ大きなトラブルや問題もなく,
A 済生会病院の岩本先生にお聞きしたいので
す。
もう今は電子カルテがすっかり定着しており,外
先生のところは急性期病院として,救急車で
来患者数の減少はありません。予約制の導入と電
とった患者,急患はまったく断らないという方針
子カルテ・自動支払機の導入によって,待ち時間
だそうですが,循環器はやっていないといわれま
の大幅な短縮,とくに診療終了後は3分ぐらいし
したけれど,循環器の患者はどういうふうにして
かかかりません。
いるのでしょうか。
しかし,何よりも大変でした,これは実感でし
岩本 循環器の患者さんの要請がありました場
た。
1年間かけて,
現在のところ何とか軌道に乗っ
合には連携先ができておりますから,そちらの方
たかなと思っております。以上です。
に転送しています。断らないというのは当院の受
け付ける範囲内で断らないということで,連携す
座長 ありがとうございました。まだまだ時間
る病院はきちんと決めておりますが,疾患によっ
があれば,ゆっくりこの話が聞きたいと思うので
ては当院で入院治療のできないものもございま
すが,4人の先生方のお話を聞いて,連携だとか
す。
日本病院会雑誌
2003年6月
75
A そうすると外来の時点で判別して送る訳で
すか,それとも救急車の中でですか。
してきましが,これが理想的スタイルだと思いま
す。といいますのは患者さんはさまざまな合併症
岩本 来たものはすべて外来で医師が診ます。
を抱えており,リハ專門病院では対応しきれない
断らないというのは,当院で一応診て,それから
ことが多いのです。全科の医師を配置することは
必要に応じて医師が同行してしかるべき病院に転
採算性の上から不可能です。
送するということです。
B
今後,一般病床でいく急性期病院は,在院日数
大雑把なことなのですが,リハビリテー
の短縮を迫られる中で空きベッドがでることが予
ション病棟を導入する際の注意点というところを
想されますが,そこを回復期リハ病棟に転換する
お願いします。
と理想的なリハビリが展開できるのではないで
また,お話を伺っておりまして,医療ソーシャ
しょうか。また,療養病床でいくところは,特殊
ルワーカーの充実という印象を受けました。医療
疾患治療病棟か,ターミナルケアか,回復期リハ
ソーシャルワーカーの充実の効果という点につい
を導入していかなければ存続が難しくなることが
て,お伺いしたいのです。
予想されますので,自院の実態を分析されて,実
皆川
後半の方からお答えします。私はソー
シャルワーカーの存在を重視しています。
情に応じた回復期リハ病棟を作られてはどうで
しょうか。
まず入院の受け付けというのは,すべてソー
C 引き続き回復リハのことでお尋ねしたいの
シャルワーカーが窓口になっております。他病院
で,皆川先生に2点教えていただきたいと思いま
にかかっている患者さんが当院で入院リハビリを
す。
希望されている場合に予約制度をとっています。
1点は整形疾患に関してです。先ほどのグラフ
1ケースに30分あてています。そこではリハ医,
を見せていただいても,整形病棟は非常に低い点
看護部長か婦長などの権限のある看護師,ソー
数であるとか,回復リハに上げたら,それだけ点
シャルワーカーの3人が対応します。患者さん本
数が上がるだろうというお話がございましたが,
人とキーパーソンの家族にきていただき,医師の
その上がる根拠というのは,どういうところで上
診察後おおまかな予後予測をし,当院で引き受け
がってくるのでしょうか。急性期加算がついてと
るかどうか判断し,結果をソーシャルワーカーが
いう状況であれば,リハビリの単身とかはあまり
伝えます。
変わらないと思うので,まるめにすることによっ
入院した患者さんに関しては,入院当日,その
後最低4週間に1度担当スタッフにょるカンファ
て上がるという意味と考えたらよろしいのでしょ
うか。
ランスを実施しますが,その結果を患者さん・家
それから今,回復リハ病棟はだんだんふえてき
族に担当医師から,担当看護師,ソーシャルワー
ております。以前,二木先生のお話を聞いたとき
カー同席のもとに説明します。その辺のスケ
もあったと思うのですが,これがふえてくれば,
ジュール設定もすべてソーシャルワーカーがやり
回復リハに対しても当然もう少しハードルが今後
ます。そうしますと,45床規模だと1病棟に2入
高くなっていくのではないか,今のところ発症か
のソーシャルワーカーは必要になります。
ら3カ月以内という規制が入っている訳でござい
最初の質問は何でしたか。
ますけれど,今後急性期は14日になるということ
B 急性期病院で,今後リハビリ病棟の導入と
になれば,当然回復期リハに入ってくる患者さま
いう病院がふえると思うのですが,大雑把で結構
なんですが,リハビリ病棟を導入する際の注意点
があれば教えていただければと思います。
も最終の時点が早まってくると予想されます。
そうしますと,3カ月以内に入って6カ月でき
るというのは非常に低いハードルのように感じる
皆川 私は現在リハビリ専門病院を運営してい
訳なんですが,そういうような点について,今後
ますが,それ以前の約20年間,総合病院の中に45
の先生のお考え,見込みとして,ハードルあるい
床前後のリハ専門病棟とリハ専門スタッフを備え
は自宅退院率などの規制というものは今後ふえて
たリハビリを都市型リハと称し,その普及に努力
くると考えていったらよろしいのでしょうか。
76
日本病院会雑誌
2003年6月
皆川 大きな問題でどこまで答えられるか分か
ないのは,レセプトを審査する側に,下肢の骨折
りませんが,後半の方からお答えします。現在,
に OT が入ることを認めないという考えがまだま
全国で月に5,6ヶ所,回復期リハ病棟が誕生し
だ根強くあるということです。当院でも開設間も
ています。この傾向は来年8月の病床規制のタイ
ない頃の下肢骨折に OT 併用したケースでは査定
ムリミットまで続くと思われます。まだ制度がで
されることが多く,その都度再請求をしてきまし
きて間もないとはいえ,その実態を分析すると理
た。すなわち,リハビリは単に機能の改善を目指
想的リハとは程遠い回復期リハ病棟もあるようで
すだけでなく生活の再構築を図ることが大切であ
す。そうしますと,ご指摘のように新たな差別化
り,OT を導入することで ADL が速やかに改善し,
が必要になると思われます。日本リハビリテー
結果として在院日数の短縮が可能になることを症
ション病院・施設協会としては昨年の診療報酬改
状詳記し復活請求をしてきたのです。このような
定に際し,厚生労働省に対し,施設基準を3段階
努力で最近は査定されることが少なくなってきま
にし,診療報酬で差別化する案を提出しました。
した。
残念ながら今回は見送られましたが次回の改定に
D 岩本先生にお伺いいたします。
期待したいと思います。
地域医療連携室のことでありますが,先生のと
良質なリハ医療の拡大の為には地域リハシステ
ムの構築が必要なことも付け加えたいと思いま
ころの連携室のスタッフの数や種類,専任か兼任
かという点が1つです。
す。協会は都道府県レベルでリハビリテーション
もう一つは,例えば診療所等から診療依頼が
協議会をつくり,2次医療圏ごとに地域広域リハ
あった場合に,地域連携室で全部受けて予約等も
ビリテーションセンターを作りましょうという活
処理できるのかどうか,あるいは担当のお医者さ
動を続けてきましたが,厚生労働省から予算がつ
ん等の了解を得るようなことになっているのか,
き全国で地域リハシステムの構築作業が急速に進
その辺2点お伺いいたします。
んできています。私のところは,新宿,中野,杉
岩本 地域医療連携室でございますが,当院は
並で2次医療圏を形成しているのですが,地域広
専従ではございません。兼任で担当者が3人おり
域リハセンターの役割を担いたいと思っていま
ます。企画部という部がございまして,この下に
す。
地域医療連携室というのを設けております。同じ
最初の質問は何でしたか。
部屋のなかにシステム計画室と電算室がございま
C
整形病棟の点数が最近非常に低い状態で
して,先程お話ししましたように私どもの地域医
す。そこを今度回復期リハの病棟に転換すること
療連携は電算をフルに使った形にしております。
によって点数がアップするというようなお話かと
外部からまいります紹介ないしは検査依頼等は地
思ったのですが,それはまるめの問題で上がると
域医療連携室を通じて紹介のやり取りをしており
いうことなのでしょうか。
ます。
皆川 診療報酬改定で大幅にダウンした整形外
それから地域医療連携室自ら行う行為といたし
科が回復期リハ病棟の施設基準を取得したことで
ましては,コア情報といいまして,地域医療連携
収支が改善した理由は,入院基本料が1,151点(老
室から,連携しております医療機関に連絡文書を
人)
から1,680点にアップしたことが最大の理由で
出しておきます。そして,開放病床も持っており
す。もう1点,今回の改定の個別療法の仕組みを
まして,開放病床のお世話も,この地域医療連携
勉強し,1人の患者さんに対し可能な範囲の最大
室が行っております。
専従の医師はおりませんが,
単位を追求し徹底したことです。例えば高齢の大
担当の副院長が地域医療連携室のお世話をしてお
腿骨頚部骨折で歩行障害に ADL 障害も合併してい
ります。
る場合,OT も導入し PT3単位,OT3単位を実施す
E
る。比較的若年で ADL は自立している場合は PT3
す。
音羽病院の中島先生にご質問したいので
単位実施するといったようにきめ細かく対応する
外来機能を外に出されたのですが,ちょっと聞
ことが大切です。この場合,注意しなければなら
き漏らしたかもしれませんが,全科を出されたの
日本病院会雑誌
2003年6月
77
かどうかです。
じ病院という形でクレームなど,分離するときに
それから,クリニックには専任を何人ぐらい置
いていらっしゃるのか,本院からそちらに応援に
行くと思うのですが,給与体系などは本院と同じ
ようにやっておられるのですか。
いろいろと行政からいわれると思うのですが,そ
のあたりはどうだったのですか。
中島 遠いところのクリニックとのオンライン
に関してはさほど問題は何もないのです。別法人
中島 最初の件ですが医師そのものはクリニッ
になりますと,
むしろ最近はネットワークづくり,
クの方は管理者1人だけです。あとは病院の方か
地域医療ネットワークというのがありまして,例
ら全部いっております。
えば私ども地域の山科医師会と,地域の私どもの
給与体系としては,洛和会1本でやっておりま
病院,あともう一つの中核病院があるのですが,
して,あくまで委託という形にしております。本
そことのオンラインを全部つなげるという準備を
院で給与を払って,クリニックに行ったものに対
している段階で,診療関係に関しては,行政の方
してのコストというのはとくに考えていないので
もむしろネットワークづくりをしてほしいという
す。税務上は,委託という形で時間分を一括して
立場を持っておりますので,こちらはさほど,行
クリニックの方から支払っていただいている形を
政の方からはとくに指摘は何も受けておりませ
とっています。
ん。
E ということは本院の給与プラスアルファに
なるのですか。
実は今日は診察券は持ってきませんでしたが,
患者さんに対しては,診察券の裏に,
「別クリニッ
中島 いえアルファにはなりません。
クですが,この診察券を見せていただく時点で,
E もともとの給与で,事業長がそれを処理し
相互の情報公開をしているということの了承を得
ていると,こう考えておけばよろしいのですか。
るものとする」と,一言入れておりまして,これ
中島 ええ。ですからタイムカードは1個しか
に関しては患者さんからのトラブルは今まで1例
ありません。
も起きたことがありません。
看護職員などはクリニックの方はクリニックの
方に転籍しております。外来看護婦も転籍し,そ
座長 その問題で,1つだけ引っかかるのは税
れから事務部門もクリニック担当の事務担当者は
法上の問題がありますので,医療法はかなりその
和行会の方に転籍した形で専従になっておりま
辺ではクリアにできても,税法上では,殊による
す。
といろいろな形でその辺は幾つかやっているので
診療科ですが,基本的に麻酔科は外来診療とい
はないか,私どもも見たところでは,完全に費用
うよりもペインクリニックの処置が中心になりま
対効果でやりとりをやった形に税法上の処理をし
すので,何かあったときに,やはり緊急処置が要
ていると思います。
るだろうということで当院に残しております。あ
ともう一つ歯科口腔外科はスペースの関係があり
まして本院に残しております。
E
A 岡山済生会総合病院の岩本先生にお願いし
ます。
543床で急性期で平均在院日数が14か15日,
非常
本院の方には外来はもう全くないんです
か。
に苦労されていると思うのですが,ガンの診療,
3分の1ぐらいの患者さんが悪性疾患のようです
中島 紹介外来があります。
が,そういう場合に手術をする,あるいは化学療
E 紹介だけは受けているのですね。
法をしますと,どうしても入院日数が長くなりま
中島 ええ,紹介と救急です。
す。
F 中島先生に続けてお聞きいたします。
そういった場合,例えば僕は外科なんですが,
本院とそれからサテライトは電子カルテ,いわ
外科で手術をして2週間ぐらいでほかの病院,転
ゆるオンラインでつながっていると思うのです
院した病院にあとの治療を依頼する,あるいは化
が,その際に一応医療法人として別の名前に変
学療法に関してプロポーゼといってもいいのです
わっているので,行政の方から,そういう点で同
が,大量にやった場合に2週間か3週間でほかの
78
日本病院会雑誌
2003年6月
連携先の病院に依頼するとか,そういったことは
ていらっしゃる病院とかクリニックとかと同じこ
しておられるのでしょうか。
とになりまして,それほどもめずに,こちらの方
岩本 ガンの場合に,術後直ちに他の病院にお
はすんなりと承認を得た訳です。
願いするということはあまりなく当院の外来で大
隣にクリニックが移ったときの初診算定です
体診ております。クリニカルパスによりまして,
が,実は初診の算定をとられますが,実際は初診
かなり標準化してきています。ご指摘のように,
料はほとんどとりませんでした。ですから,もめ
外来での化学療法も整いつつあります。
ることはなかったのです。
入退院を何回か繰り返すケースを経ながら,最
座長 まだそれぞれのご質問はあるかと思いま
後は一部の方は緩和ケア病棟へ,一部は在宅へと
すが,ちょうど時間になりましたので,まとめさ
いう形をとっております。在宅で診る場合に,ご
せていただきます。
紹介いただいた医療機関にお返しすることはすす
めております。
いずれにいたしましても,こういう新しい形の
なかでは問題があると同時に,これら病床種別
G 病院の中島先生にお伺いします。
等々を考えますと,地域の連携,あるいは在宅等
2点お伺いしたいのですが,1点はお話のなか
を視野に入れた形のなかで,これから病院経営が
にもございましたが,地元の医師会の先生方もし
存在してくるのではなかろうかという感じがいた
くは開業医の先生方と他病医院,サテライトをつ
します。
あつれき
くるときに,
あまり軋轢がなかったということで,
多分今日ご出席の先生方は,全部病床種別の届
ちょっとぐらいはあったのでしょうか。その解決
出はなされておるかと思いますが,1つだけ注意
方法,どうなさったのでしょうか。
それから医療法人が変更されましたから,いわ
していただきたいのは,去年の3月1日に出まし
ゆるレセプト上は再診の方でも初診料を算定され
から,少なくとも来年の8月までに届出になるの
たということですが,その点について,患者さま
が一番最高だと思います。ぜひ,そういう点では
の方から反発はあったのでしょうか。もしあった
お帰りになりまして,もう一度3月1日の医療法
のであれば,どういうふうにしてご説明されたの
をよくお読みいただいて対応していただきたいと
かという2点です。
思います。
た新しい医療法に基づいた設備基準にしておいて
中島 サテライトの件ですが,最初の駅前とか
多分行政側は療養にいったり,あるいは一般に
中継の単科クリニックのときには,実は同一法人
したり,ある程度地域によっては見込むようでご
のサテライトということで,全国的にもちょっと
ざいますが,いずれにしても,今度は施設が整っ
いろいろ問題になりましたとおり,私どもも随分
ておらないと,全部それはキャンセルといいます
もめました。これに関しては関係修復の努力をし
か,受付けしないと厚労省の方はいっており,県
てきまして,現在はとくに問題なしに収まってお
の方も強硬でございます。ぜひその辺で十二分に
りますが,解決に4年ぐらいかかりました。
皆さんの方で勉強なさっていただきたいと思いま
今回全部,隣のクリニックに出す部分に関しま
す。
しては,別法人という形になりまして,逆にこれ
今日は本当に長時間にわたりまして,休みもな
はあまり問題にしようがなかったようです。と申
く先生方,いろいろありがとうございました。4
しますのは,あくまで個人の人が病院とは別に,
人の先生方に改めて拍手を送りたいと思います。
いわゆる開設申請,診療所開設ですので,いって
どうもありがとうございました。
みれば大学からパートの医者いっぱい雇ってやっ
日本病院会雑誌
それではシンポジウムはこれで終わります。
2003年6月
79
80
日本病院会雑誌
2003年6月
栄養調理研究会・シンポジウム
次世代の食事サービスを考える
殿
日清医療食品(株)業務本部取締役開発部長 山
上尾中央総合病院栄養科係長 佐
女子栄養大学短期大学部給食管理研究室教授
塚 婦美子
本
忠
藤 美 保
平成14年10月・秋田市
1.
病院におけるクックチルシステムを
考える
女子栄養大学
殿塚 婦美子
(キーワーズ:急速冷却,チルド保存,再加熱条
件,新調理システム)
HACCP 管理方式の適応に合致しているというこ
と,生産性の向上が図られるということがある訳
です。
実際に海外のいろいろな文献を見てみますと,
運営・経営上のデータ分析から,クックチルシス
テムは,フードコストの削減効果があり,従業員
ご紹介いただきました殿塚でございます。今日
の労働環境の改善や患者サービスの向上につなが
は「次世代の食事サービスを考える」
,大変大きな
るということ等,1980年代に入り,たくさん報告
テーマのなかで私は病院におけるクックチルシス
されております。
テムについてというお話をいただきました。
日本ではどういう状況かと申しますと,1990年
私はかねてから,病院のみならず,今の給食の
代,ちょうどバブル崩壊後,給食施設におきまし
現状を考えましたとき,クックチルシステムの導
ても,運営の合理化が求められ,一方喫食者ニー
入は必要というより避けられないという思いで,
ズの多様化,食事の質的向上への対応策として,
ずっと研究的な取組みをしてまいりました。今日
クックチルシステムの導入が検討され,事業所給
は,病院において従来のクックサーブ方式とクッ
食,とくに大規模給食施設においてスタートし,
クチルを併用することによって運営の合理化と食
その後,やはり大規模のところでいろいろな形で
事サービスの向上を図ることができるということ
スタートしました。
をお話しさせていただきたいと思い,まいりまし
私は給食管理が専門ですので,どこどこで始
まったというと,真正面から見学させてください
た。
クックチルにつきましては,すでに導入してい
というと,なかなか思うようにいきませんので,
らっしゃる施設,これから導入をお考えの施設,
コネを探しまして見学させていただけるような形
いろいろかと思うのですが,クックチルシステム
を何とかとりまして行きました。しかしハード面
の実際についてお話しさせていただき,そのあと
は見せていただいたりお話を聞くことができるの
のディスカッションの参考にしていただければと
ですが,要するにどんな献立がどのような形で出
思っております。どうぞ,よろしくお願いします。
されるのかなどソフト面の質問は,そういったこ
クックチルシステムにつきましては,申しあげ
とはわが社が1年かけてアメリカに行ったり,い
るまでもなく,欧米ではすでに30数年前から普及
ろいろ検討した結果スタートしたことで,いわば
しております。その背景には,このシステムが品
わが社のノウハウになるようなものだからという
質管理の合理性を持ち,国際的な衛生基準である
ことでお聞きすることはできませんでした。
日本病院会雑誌
2003年6月
81
本当にこのシステムが給食運営の合理化など,
表1 2つのクックチルの特徴
これからの食事サービスのなかで必要であったと
ブラストチラー
方式
しても,ソフト面のデータがなかったら伸びてい
タンブルチラー
方式
調 理
通常の加熱調理機 調理工程が半自動
を使用
化
冷 却
強制冷風で90分で 0∼1℃の冷水中
3℃まで
で60分で4℃まで
ホテルパン使用
特殊バック使用
検討している,それでいろいろとデータが必要な
保存期間
5日間
45日間
のでいただけないかという連絡をいただいたり,
対象規模
小・中規模
中・大規模
この夏には1日かけて,朝から夕方まで「クック
メニュー対 幅広く対応
応
かないなという思いになり,1994年からクックチ
ルシステムに関する研究に,
取り組んでおります。
現状では,私の知っているところでもだいぶ導
入されております。またこれから導入することを
チルシステム導入のポイントとメニュー開発」と
いうようなことで,これまで私どもの研究室で
生産計画
やってきたことの研修会を大学の香友会主催で開
いたのですが,全国からかなりの定員オーバーで
比較的制限される
保存5日間での生 保存期間が長いた
産計画
め生産計画立案が
容易
申し込みがあり,その必要性をひしひしと感じま
労働時間・ 削減が可能
コスト
(作業の平準化)
大きな削減が可能
(作業の平準化)
した。
設備投資
非常に大
しかし,ずっとこのお話をいただいてから考え
ていたのですが,病院食は治療の一貫として,い
わばほとんど個人対応に近い形での食事を提供し
ています。そういったなかに,どのようにクック
中
て違ってくると思うのですが,ご提案という形で
お話しさせていただきます。
クックチルシステムの実際につきまして,OHP
でご紹介させていただきます。
チルシステムを導入することができるのだろう
クックチルシステムは冷却方法の違いから,ブ
か,幾つかお手元の資料にも書かせていただきま
ラストチラー方式とタンブルチラー方式がありま
したが,運営の合理化のみでなく食事サービスに
す。ブラストチラー方式は−4℃以下の強制冷風
つながるという形での導入は可能ではないかとい
で冷却をし,保存期間は調理と提供日を含めて5
うのが,今の私の気持ちです。どのような形でと
日間が限度とされております。それに対してタン
いうのは施設の規模とか運営の細かな条件によっ
ブルチラー方式はブラストチラー方式とは調理工
表2 クックチルシステムの調理工程と衛生基準(ブラストチラー方式)
82
日本病院会雑誌
2003年6月
程が異なり,料理そのものを特殊バッグの中に入
加熱条件といったものが,衛生管理のほかに,品
れ,0∼1℃の冷水で冷却するということです。
質管理として重要になってくると思っています。
半自動化されており,保存期間は45日間,比較的
90分以内に3℃まで冷却するということは,万が
長期の生産計画が可能になるということです。
一加熱によって殺菌できなかった場合には,残存
ブラストチラー方式は小中規模の施設に導入し
やすいのです。というのは設備投資面からもいえ
るかと思いますが一次加熱調理が,通常の加熱調
理とほぼ同じであるため,通常のレシピで対応で
している細菌の増殖を抑制するということで,こ
の時間が設定されています。
表3 クックチルシステムの基本工程と使用機器
きる,メニューの幅が広いということがいえるか
と思います。
タンブルチラー方式は比較的メニューが制限さ
れます。私自身はタンブルチラー方式について実
験的な取組みはしていませんが,実際にタンブル
チラー方式を実施しているところにまいりまし
て,ご説明を聞いたり調べたりしますと,やはり
現状においては,いろいろな面からブラストチ
ラー方式が一般的ではないかと思っております。
クックチルシステムの調理工程と衛生基準は,
多くはイギリスのガイドライン,それから各国独
どのような機器が必要かといいますと(表3)
,
自の衛生基準で実際されております。日本では厚
まず,食品保存のための冷蔵庫,冷凍庫,チルド
生労働省から1996年,院外調理における衛生管理
庫,これは一般的なものです。一次加熱調理は通
のガイドラインが出まして,これはほぼ HACCP に
常の加熱調理機器,ただし通常の加熱調理機器と
準じております。
いっても,温度と時間の管理が重要になりますの
大事なことは,まず一次加熱調理において中心
で,スチームコンベクションオーブン,庫内温度,
温度が75℃以上,なおかつその時点から1分間以
中心温度がデジタル表示,それから記録できるも
上加熱する,加熱によって完全に細菌を死滅させ
のが必要かと思います。それから急速冷却機とし
る,次に加熱後30分以内に冷却を開始する。30分
てブラストチラー,ホテルパンなどです。保存の
以内というのは温度ができるだけ高い,中心温度
ための高湿度チルド庫,再加熱としてスチームコ
が70℃ぐらいということでイギリスの文献などに
ンベクションオーブン,再加熱したものを保存し
は書いてあります。これ以上高くなりますと,冷
ておく湿温蔵庫や温蔵配膳車などになります。
却効率が悪くなり60℃以下になりますと衛生上の
写真で見ますと,
コンビオーブン,
これはスチー
問題もあり30分以内と書いてありますのは,中心
ムコンベクションオーブンです。それからブラス
温度が70℃近辺で冷却を開始することがいいとし
トチラー,再加熱としてのコンビオーブン,やは
ている訳です。冷却を開始してから90分以内に中
り一次加熱調理のスチームコンベクションオーブ
心温度3℃以下とした後0∼3℃以下でチルド保
ンと,再加熱としてのスチームコンベクション
存します。
オーブンは衛生管理上は別にした方がいいという
再加熱においては,これも衛生上の問題が関係
してくる訳で,中心温度が75℃以上,さらに1分
ことです。
さて,クックチルシステム導入のメリットです
間以上の加熱が必要です。実際には加熱最終温度
が(表4)
,これはお手元の資料に書かせていただ
は90∼95℃ぐらいになります。一次加熱,さらに
きました。先ほど申しあげましたようにクックチ
再加熱においても同じような温度と時間の厳重な
ルシステムは HACCP に基づいた衛生管理を徹底し
管理が必要であるということにおいて,各料理の
なければいけないということがありますので,
一次加熱調理における技術的なもの,それから再
クックチルのみならず全般的な衛生管理の徹底が
日本病院会雑誌
2003年6月
83
図1 クックチル空冷ライン
できるということです。実際,クックチルシステ
システムを導入することによってメニューの多様
ムを実施しておりますと,各工程で衛生というこ
化が図れるということです。
とがかなり必要になってきて,衛生に対する意識
調理計画として,
それらをどういう形でやるか,
が向上するということは確実にあります。給食施
1つのパターンですが,例えば朝食と土日,ある
設全般の衛生管理の徹底ができるということにな
いは祭日をクックチルで対応するといった場合,
るのではないかと思っています。
昼食と夕食につきましては従来どおりのクック
それからクックチルシステムの場合は,やはり
サーブの提供をして,朝食のみをクックチル,こ
数量管理が必要になりますので,レシピおよび生
れは可能ではないかと思っているのです。常食か
産工程のマニュアル化による品質管理が徹底でき
ら治療食への展開,かなり病院食の食種は多いと
ます。
思っておりますけれども,朝食というのは比較的
また導入の目的にもよりますが,労働環境の改
集約できる,いわゆる食種を少なくすることがで
善,例えば1日3食の勤務時間の調整とか,土日
きるのではないか,保存期間は,調理した日を含
週休2日,土日の休暇の問題などにもつながるか
めて5日間ですから,朝食を1週間のうちで,1
と思います。
日1食から2食つくっていくことによって組める
それから人件費の削減です。これはどういう形
のではないかと思うのです。
で導入するかによって,かなり大きいです。私が
もし朝食をクックチルにする場合,1つは,ま
お手伝いさせていただいたところでは30∼35%の
ず早番の時間を繰り下げる,あるいは早番勤務者
人件費の削減という数字を見せていただきまし
の人数を減らす,あるいは態勢はそのままで,従
た。
来よりも朝食の内容をもっと豊かにするとかと
それから喫食者サービスの向上は,クックチル
いったような形でのクックチル導入が可能ではな
いかと思っております。
表4 クックチルシステム導入のメリット
クックチルになりますと,再加熱につきまして
も,マニュアル化が必要になりますので,マニュ
アルに従って再加熱をするということです。ベテ
ランの調理師さんがわざわざ朝早く出てこなくて
も,パートさんなどの勤務体制を組むことも可能
ではないかと思っております。土日に関しても同
じです。土日の献立パターン,食事パターンをで
きるだけ整理することによってクックチルにす
84
日本病院会雑誌
2003年6月
的な変化が起こりますので,それに対応したレシ
表5 クックチルシステムの生産管理
ピの確立です。多くのものはクックサーブのレシ
ピが適用できると考えておりますが,料理によっ
てクックチル用のレシピが必要だと思うものもあ
ります。
一次加熱調理で重量減少があります。料理に
よって違いますが,急速冷却においても,0から
数%の脱水,重量減少があります。それから再加
熱では,これは再加熱条件によって,重量減少が
異なります。そのため,クックチルのレシピは,
水分の変化に対応して,例えば同じハンバーグで
もタマネギの割合などを変えた方がいいというこ
とになります。私どものゼミの学生がクックチル
のメニュー開発を行っていますが,水分の問題は
る,そして土日はパートタイマーを中心にした勤
結構関係してくると思っております。
務にすれば,常勤の方は週休2日とれる人数の割
それから栄養成分の変化の抑制,海外の文献な
合が高くなるということで考えられるのではない
どを見ますと,ビタミン類の減少が随分データと
かと思っています。
して載っております。さらに文献には,クックチ
表5を御覧下さい。
ルの場合にはビタミンCの減少率が最も大きいか
クックチルシステムを導入する場合には,まず
ら,それを補うためにフレッシュなフルーツを献
運営計画に基づき,
機器の選定が必要になります。
立のなかに入れた方がいいというようなことまで
先ほど申しあげましたけれど,急速冷却は一時加
書いてあります。
熱調理後30分以内に,しかも90分以内に冷却しな
一般の加熱調理でも,ビタミンの損耗は考慮し
ければいけないので,一次加熱調理工程と,急速
ていますが,クックチルによる,栄養成分の変化
冷却工程を併せて検討しなければいけないという
も考えていく必要があります。
ことになる訳です。当然それに見合った急速冷却
機の能力が必要になってきます。
脂質は,チルド保存,再加熱において,多価不
飽和脂肪酸の多いものについて過酸化物価(POV)
それから急速冷却をする場合,料理によって冷
などの上昇が見られます。
却所要時間は随分違ってきます。ですから,効率
肉類などについて,脂肪酸組成では変化はな
的に冷却するためには,各料理ごとの急速冷却の
かったのですがちょっと油やけを感じるなという
標準化ということが必要になります。同時に,そ
のが時にありましたので,それはどういうことか
れぞれの料理を例えば何食とか,あるいは何十キ
測定してみました。数字として,はっきり有意な
ロ冷却する場合,冷却所要時間はどのぐらいかか
差は出てこなかったのですが,まだそれは続行し
るのか,急速冷却の生産計画のなかで必要になっ
てやっているところです。
てきます。これらのデータを出していく必要があ
ります。
クックチルの食材は鮮度がかなり重要視される
ということです。新鮮食材を使う,それから,調
次に再加熱です。各料理をいろいろな条件で再
理工程において,例えば揚げ物とか焼き物とか油
加熱してみますと,外観,味,テクスチャー,お
を使う場合の油は,なるベく新鮮油の方がいいと
いしさなどが,再加熱条件によって随分違ってき
いうことはあります。同じものを同じレシピで,
ます。ですから,それぞれの料理に対する再加熱
チルド保存して,再加熱し,官能テストをしてみ
条件の標準化が必要になってきます。
ると,ただ油が違うだけで評価が違ったりという
3つ目は,一次加熱調理,急速冷却,保存,再
加熱というクックチル工程で,料理に物理・科学
日本病院会雑誌
ようなことも起きたりしますので,そういうこと
がいえるのではないかと思っております。
2003年6月
85
図2
表6 各温度帯通過時間と急速冷却所要時間の関係(A事業所)
温度帯
r
回帰式
温度帯
r
回帰式
温度帯
n:125
r
回帰式
温度帯
r
70→60℃ 0.882 y=11.34x+11.24 60→50℃ 0.857 y=9.71x+11.20 50→40℃ 0.921 y=8.69x+8.03 40→30℃3) 0.96
70→50
回帰式
y=7.89x+3.69
0.898 y=5.59x+9.18
60→40
0.937 y=5.07x+6.19
50→30
0.954 y=4.24x+4.84 40→20
0.967 y=3.54x+1.90
70→401) 0.933 y=3.60x+6.85
60→30
0.957 y=3.15x+4.43
50→20
0.967 y=2.59x+2.62 40→104)
0.974 y=1.97x+0.96
70→30
0.952 y=2.53x+5.05
60→20
0.969 y=2.15x+2.58
50→10
0.976 y=1.65x+1.34 40→3
0.992 y=1.30x+0.09
70→20
0.966 y=1.85x+3.11
60→10
0.979 y=1.46x+1.26
50→3
0.997 y=1.16x+0.04
60→3
0.999 y=1.07x−0.13
70→102) 0.978 y=1.32x+1.57
温度帯
r
回帰式
温度帯
r
回帰式
30→20℃ 0.949 y=6.12x+2.43
20→10℃ 0.954 y=4.18x+2.27
30→10
0.968 y=2.57x+0.98
20→3
30→3
0.984 y=1.51x+0.58
温度帯
r
回帰式
10→3℃ 0.874 y=2.76x+10.20
0.965 y=1.89x+2.52
表は,測定数125(料理数61)の冷却温度曲線10℃単位の温度帯通過時間をx,急速冷却所要時間(料理の芯温70→3℃)をyとし
たとき,相関係数r,および各温度帯通過時間から急速冷却所要時間を推定するための回帰式を示したものである。
検定結果:すべてに1%の危険率で有意な相関が認められた。
ブラストチラー:FMI HSI-5BC 型
冷却能力
34㎏/90min
次に急速冷却の実際として,それぞれの料理を
は長くかかります。固形のものでは,大きさが関
急速冷却した場合,どれぐらい時間がかかるのか
係してきます。当然のことながら,大きくなるほ
ということを,みたものです。例えば,鶏のつく
ど時間はかかります。早いものでは20分ぐらいで
ね煮とか,さわらの塩焼き,ヒレカツ等1個1個
冷却できるものと70分ぐらいかかるものもあると
固形のものと,ビーフストロガノフのようなもの
いうことです。
とを比較してみますと,固形のものと流動性のあ
図3はかに玉です。1天板20食,大体2.7キロで
るものでは,流動性のある方が急速冷却所要時間
す。図のなかに入っております数字は,1天板,
86
日本病院会雑誌
2003年6月
図3 冷却単位(天板数)のちがいによる冷却温度曲線(カニたま)
図4 1天板の分量のちがいによる冷却温度曲線(ミートソース)
2天板,3天板という天板数ですが,1天板の場
うことです。ですから,一定量冷却する場合には,
合には,35分だったものが,6天板では105分ぐら
1天板の分量を少なくして天板数を多くした方が
いということで,天板数を多くしても,比例的に
いいということがいえるかと思います。
長くはならないので,逆に生産効率,冷却効率か
図4はスパゲティのミートソースです。ソース
ら見ますと,天板数が多い方が効率的であるとい
状のものは,衛生基準のなかで,天板の高さでは
日本病院会雑誌
2003年6月
87
5センチ以下というふうに規定されています。こ
が必要になってくるかと思います。
れは90分以内に冷却するための分量というふうに
そこで急速冷却所要時間を推定するためにクッ
考えてくださればいいと思うのです。実際に1天
クチルシステムを導入している事業所給食施設に
板の高さを3センチ,4センチ,5センチ,6セ
おいて,主材料,調理法別に給食によく出てくる
ンチというふうに変えていきますと,図のように
料理,約60種類について1天板の重量と天板数を
3.4キロ場合,3センチで約40分,約2倍の6セン
かえて冷却に要する温度を測定し,温度履歴の相
チにすると,
急速冷却所要時間は100何分というこ
関分析を行い,70℃→3℃までの冷却所要時間を
とで,非常に効率が悪くなります。1天板の量が
yとして他の温度帯を通過する時間をxとする
多くなると,効率が悪いという1つの例です。
と,表のような回帰式を推定することができます
これまでお示ししましたように,各料理によっ
(図5)
。
例えばある温度帯を,
何分で通過するか,
て急速冷却所要時間は違う,そして1天板の量や
これはブラストチラーに記録計がついており,そ
天板数によっても違う,そういったなかで実際に
れを見るとか,あるいはデジタル表示されますの
現場では1天板の分量とか,天板数が変わったと
で,それを見ることによっても確認することがで
き,一体どのぐらい時間がかかるのかということ
きるのですが,何分で通過するかということによ
図5 各温度帯通過時間と急速冷却所要時間
図6 1天板の分量及び天板数とチル所要時間の関係
88
日本病院会雑誌
2003年6月
り,70℃から3℃になる冷却所要時間が推定でき
た時の各々の1天板の分量と冷却所要時間の関係
るということです。ブルーのカラーが掛けてある
は(図6)
,各天板数において有意な相関関係が認
部分(1)∼4)
)を図に示すと次のようになりま
められ回帰式を推定することができます。急速冷
す。
却所要時間は1天板の分量が増加すると著しく長
例えば,40℃から30℃まで何分かかったか,あ
くなりますが,天板数の増加はわずかであること
るいは70℃から40℃まで何分かかったかというこ
がわかります。すなわち1天板の分量を分散して
とによって急速冷却所要時間が何分だということ
天板数を多くした方が生産効率が高いということ
が出てきて,生産工程のなかでの温度管理ができ
になります。急速冷却の生産計画において各料理
るということです。
の冷却単位は冷却所要時間と生産性を考慮して決
また各料理の1回の冷却単位を1∼6天板にし
表7 焼き物18品目
主材料
卵
魚
調理法
表9 煮物22品目
料
理
名
天板蒸し焼き 厚焼き卵
〃
卵
さんま塩焼き,あじ塩焼き
照り焼き
ぶりの照り焼き,さばの照り
焼き
ムニエル
主材料
カニたま
塩焼き
〃
定しますが,これはその際に活用できると考えま
いわしの蒲焼き,さけの照り
焼き
さけのムニエル
魚・肉
肉
鶏肉の照り焼き,鶏のつくね
衣焼き
ポークピカタ
ソテー
チキンソテー,ポークソテー
味噌漬け焼き 豚肉の味噌漬け焼き
豆腐
豆腐ハンバーグ
表8 揚げ物23品目
主材料 揚げ物種類
魚
肉
野菜
天板蒸し焼き 擬製豆腐
〃
芋
料
理
名
から揚げ
さばの竜田揚げ,たらのから揚げ
衣揚げ
あじの天ぷら,いかの天ぷら,
えびの天ぷら,きすの天ぷら,
たらの華風衣揚げ
パン粉揚げ
あじフライ,いかフライ,たら
フライ,さけフライ
から揚げ
鶏のから揚げ,豚の竜田揚げ
衣揚げ
鶏の華風衣揚げ,豚の華風衣揚げ
理
名
たまごの煮しめ
あじの梅干し煮
かじきまぐろの煮付け
さばのみそ煮
豚肉の煮しめ
厚揚げの含め煮
いんげん豆の甘煮
豆類と加工品
凍り豆腐の含め煮
麻婆豆腐
味噌漬け焼き さわらの西京焼き
照り焼き
料
かぼちゃの含め煮
切り干し大根の煮物
きんぴらごぼう,ごぼうの含め煮
小松菜の煮浸し
さやいんげんの青ゆで
さやえんどうの青煮
大根の煮物
たけのこの含め煮
さすの揚げ煮
にんじんの含め煮
粉ふきいも
さつまいものレモン煮
表10 再加熱条件
パン粉揚げ チキンカツ,豚カツ
素揚げ
かぼちゃの素揚げ,ししとうの
素揚げ,なすの素揚げ,フライ
ドポテト
衣揚げ
いんげんの天ぷら
野菜
パン粉揚げ じゃがいものコロッケ
日本病院会雑誌
2003年6月
89
す。
からスチームでは100℃,遠赤外線レンジでは,非
次に再加熱ですが私の研究室では給食に出てく
常に緩慢な温度上昇で190℃というのは最高温度
るかなりの料理につきまして,実際に再加熱をし
なのです。焼き物につきましては,オーブン,コ
て,再加熱条件による料理の品質の変化,これら
ンビとも110∼150℃です。スチームは焼き物の場
を官能テストを通して確認し,クックチルメ
合はちょっと低めがよかったようです。揚げ物に
ニューとして適当かどうかということをやってま
つきましては,オーブン,コンビとも,煮物,焼
いりました。
き物に比べて,
設定温度はかなり高く,
160∼220℃
焼き物は18例,揚げ物は23例,それから煮物は
22例です。
ぐらいということです。
それぞれの先ほどの表7∼9の揚げ物,煮物,
表10は再加熱条件です。再加熱条件はあらかじ
焼き物を大量につくりまして,それぞれこの6種
め調理法ごとに許容範囲が選定しました。過熱機
類から7種類の条件で再加熱をします。どういっ
器はスチームコンベクションオープン,それから
た状況になりますかといいますと,図7はさばの
遠赤外線レンジ,
加熱方式としてはオーブン,
オー
竜田揚げです。揚げ物ですが,再加熱条件によっ
ブンにスチームを加えたコンビ,
それとスチーム,
て,75℃に到達する時間がこんなに違うというこ
遠赤外線レンジというのは,各段に遠赤外線ヒー
とです。設定温度が高くなると,再加熱時間は短
ターが施してあるものです。
くなります。それから同じ温度でもオーブンとコ
それについては,やはり実際に何品か料理をつ
ンビを比べますと,コンビの方が再加熱時間は短
くりまして,この許容範囲を選定した訳ですが,
くなります。これはスチームが加わることによっ
煮物の場合ではオーブンでは110∼120℃ぐらい,
て,熱移動速度が大きくなるためです。
それからコンビでは120℃から,
スチームが入りま
再加熱時間のちがいは当然,再加熱後の料理の
すと,もう少し設定温度を高くしてもいい,それ
品質にも違いが出てきます。それを官能検査で確
図7 再加熱温度曲線(再加熱条件の違い)さばの竜田揚げ
90
日本病院会雑誌
2003年6月
図8 官能検査の総合評価(再加熱条件別評点平均)
図9 官能検査の総合評価(再加熱条件別評点平均)
認しました。
図8,図9は各々焼き物,揚げ物の例ですが再加
まとめてみますと,料理によって再加熱条件の
熱条件として適していると答えられたものは,ほ
違いによる品質の変化,要するに再加熱条件の影
ぼ総合評価におきましても,0以上,普通以上と
響を大きく受けるものと,あまり受けないものが
いうことで,これらを再加熱条件として適してい
あります。すなわち再加熱条件は料理によって限
ると考え,推奨してもいいのではないかと考えて
定されるものと幅があるものがあり,料理ごとに
います。
各々の品質特性を考慮した再加熱条件の選択が必
要であるということになります。
例えばサンマの塩焼きの再加熱条件は遠赤外線
レンジ又はオーブン110,
コンビ130が適している,
各料理の再加熱条件を選択するために,官能検
それ以外ではマイナスの評価です。どういう状態
査の総合評価の評点平均値を示したものです。再
がいいかというとオーブン110,コンビ130は,ほ
加熱条件および料理がクックチルに適していると
ぼ似たような品質になる。表面カリッとして中が
回答した人数が80%以上であったものについては
ジューシーというような,要するにそれぞれの品
再加熱条件を( )内の記号で図中に示しました。
質特性が生かされた再加熱条件であるということ
日本病院会雑誌
2003年6月
91
です。このように各料理ごとに再加熱条件の標準
①
化が必要で,加熱条件はクックチルとしての料理
の適否にも影響するということがいえるのではな
いかということです。
時間をオーバーいたしまして大変申し訳ござい
ません。ご静聴ありがとうございました。
2.
IH 加熱カートを使用した食事サー
ビス
日清医療食品(株)
山本
忠
(キーワーズ:日清医療,日清,日清医食,医療
食,IH)
昭和61年からスタートした外部委託業務です
が,今年3月末現在の委託率は,病院42.5%,老
皆さん,こんにちは。ただ今紹介を賜りました
日清医療食品株式会社開発部の山本と申します。
高い席からですが,平素は大変お世話になってお
ります。ありがとうございます。さて本日のテー
マであります「次世代の食事サービスを考える」
ですが,
本日は IH 加熱カートを使用した食事サー
ビスについてお話をさせていただきたいと思いま
健施設57.6%・特別養護老人施設31.5%になりま
す。
(当杜資料)
全体の外注化は,45%に届くところまできてい
るというのが現状です。
今後,外注化の傾向は尚一層進むものと思われ
ます。
また,当社の受託先は,2,890カ所,床数約27
万床の病院・介護施設等に食事を提供させていた
す。
皆さん方のお手元にレジュメで資料をすでに配
布されておるかと思いますが,給食外部委託状況
だいております。
さて,本日のテーマは将来の少子高齢化社会の
中で,5年10年先の医療,介護の食事サービスは
を少しお話させていただきます。
② IH による加熱の原理
92
日本病院会雑誌
2003年6月
どういうサービスを必要とされているのかを考え
の温度で再加熱していくという考え方で,例えば
てみるいい機会となりました。ぜひ皆様も,10年
味噌汁の場合,カート内の4つのユニットを変え
先の食事サービスについてこの機会に考えてみて
ることで,高齢者の方には55度前後,一般の方に
はいかがでしょうか。
は65度前後の温度で召し上がっていただくことが
医療,介護の食事サービスは当然奥深いものが
あると考えております。
可能なのです。
まず IH 加熱カートは4つの加熱コイルに制御
提供する食事サービスは栄養価を計算した食事
を使い,個別に温度設定を行い,IH 対応トレーを
を患者様に満足して食べてもらわなければなりま
通して食器の底の発熱体によって料理別に加熱す
せん。現実に料理の適温にしても,料理別に温冷
る訳です。
温度管理での提供は難しい課題です。せっかくの
料理も温度が冷めてしまっては何もなりません。
この画面では4カ所の加熱するところにつきま
してご飯の温度60度,味噌汁が65度,小鉢が70度,
できたてのあつあつの食事を提供することはで
主菜が75度,仕切板を使って冷菜の温度につきま
きないだろうか?そしてなんと言っても食べてい
しては,0から1度刻みで10度の設定で料理別の
ただく病院・介護施設に入院・入所されている皆
温度提供が可能です。
様に,心のこもった食事サービスをしたいという
デザートは冷たく,煮物は温かく,汁物はあつ
思いを原動力に,
今回 IH 加熱カートをこの4月か
あつというように,それぞれの料理での適温とな
ら全国にスタートさせていただきました。ちなみ
ります。
にこの IH 加熱カートの開発は,三洋電機(株)
・
(株)ノリタケカンパニーリミテドと3社により
④ 食べたい温度を実現(加熱・保冷ゾーン)
共同開発をしてまいりました。
昨年は,この共同開発チームでドイツの病院を
視察してきたのですが,
すでにドイツの病院では,
IH 加熱カートの導入が進んでおります。
IH カート導入のいきさつについてお聞きしま
すと,調理後の喫食前の温度を,最も大事にして
おり患者さんに召し上がっていただく前に,再加
熱をして60度の温度を確認して提供するとのこと
でした。
IH(電磁誘導加熱)は,専用食器底の発熱体に
電気を通すことで熱を発生させる安全性の高い加
熱方式です。
⑤ 仕切板の移動による個別対応
今回の提案は,それぞれの料理に応じた料理別
③ 料理別トレー上の喫食温度設定
加熱ゾーン,冷菜ゾーンという形で温と冷の区
分ができます。
また,仕切板が移動式になっており,メニュー
日本病院会雑誌
2003年6月
93
⑥ 4ユニット制御の構造
日清医療食品(株)
によっては仕切板を移動することにより,4カ所
熱する食器のセットする位置はABCDの位置に
の加熱位置を,2カ所に変更することができ,メ
セット致します。
ニューによってユニットを別々の仕切板で使い分
ユニット別の使用方法の例として,1のユニッ
けのできるようになっております。これは20膳の
ト,2のユニット,3のユニット,4のユニット
カートも同じ仕様です。カート内は4つのユニッ
別に料理別の温度設定ができ,例えば1台のカー
トで32膳用は8段,20膳用は5段となります。加
トで一般食の方,老人食の方,治療食の方という
⑦ パワーアシストで楽々操作(メロディー付)
形でメニュー別温度設定が可能です。
食べる人,
作る料理にあわせて温度制御ができ,
IH 加熱により料理に応じた適温食事サービスを
実現しました。
この IH カートのハード部分につきましては,三
洋電機(株)と,それからパワーアシストにつきま
しては松下電工(株)の製品を搭載しております。
カートにはメロディチャイムをつけさせていた
だきました。廊下を歩行されている方に,また食
事が運ばれてきたというお知らせをするためで
す。
食器につきましては,
(株)ノリタケカンパニー
リミテドと強化磁器による IH 専用食器を,開発
し,色彩は青と黄と緑,これを主体にアクセント
として赤を採用,家庭的な温かみある食器を追求
94
日本病院会雑誌
2003年6月
りますので,発熱体が剥がれるということはあり
しました。
この食器は小鉢ですが,約700度で1度焼き色
ません。
フルーツを保冷ゾーンで使う場合は,発熱体の
⑧ 豊かな色彩を実現
ない食器を使用します。
また,デザインと色彩を自由に組み合わせて使
⑪ IH 加熱カートにセッティング(パススルー付)
⑫ パワーアシスト付にて1名で病棟に配膳
⑨ 3デザイン(色・柄)組み合わせ自由[器とトレー]
⑬ 両開きによるスピーディーな配膳
⑩ IH 加熱カートを使用した厨房内での加熱
彩,
発熱体を転写してもう一度1,300度で焼いてお
日本病院会雑誌
用していただけるよう配慮されています。
2003年6月
95
トレーは,溜色,グリーン,朱色という3色を
用意いたしました。
一例として,調理後90度前後の料理を盛り付け
配膳を経て喫食前には30度前後にさがった状態で
例えば,トレー・食器を混ぜて使っていただく
提供している現状から,IH 加熱カートを使用して
ことにより多様なアイテムで,よりおいしく,楽
約25分加熱することにより患者様には70度前後で
しくをテーマとした提案です。
料理に応じた適温の食事提供を実現します。
現在,カートは4月から,約30カ所で150台ほど
これは今トレー上にセットしている状況です。
稼動しており,導入先の現場で高い評価をいただ
パススルー方式を採用,狭い廊下でも使いやすい
⑭ ヘルスケアフードセンター岩槻(CK)
設計です。
32膳用はパワーアシストを採用しておりますの
で,女性の方がお1人で簡単に配膳,下膳ができ
ます。
これは病棟で患者様に食事を配膳している風景
です。
昨年5月に,
埼玉県岩槻市に1日生産5,000食の
CK 工場を完成いたしました。
新食事サービスの研究開発を中心に,上尾中央
総合病院様を含め,現在,合計4ヶ所の病院,施
2001年5月埼玉県岩槻市
⑰ SK 厨房内(IH 加熱カート1号機で加熱中)
⑮ CK 内の作業状況
⑱ 展示会場内 IH 加熱カートのブース(独)
⑯ CK∼SK の配送カート・配送車
設に給食提供をしている CK 工場です。
いているところです。
96
日本病院会雑誌
2003年6月
⑲ IH 加熱カートの対応食器(独)
だきます。ご静聴ありがとうございました。
3.
クックチル導入の現状
上尾中央総合病院
佐藤 美保
(キーワード:院外調理)
こんにちは,ただ今ご紹介に預かりました上尾
中央総合病院の栄養科の佐藤と申します。私の方
からは院外調理におけるクックチル方式を導入し
ての現状と今後ということで,お話をさせていた
⑳ ラウダウホスピタル(独)
だきたいと思います。
IH 加熱カートプールでの加熱状況
スライド1
これは CK 工場の内部です。これは配送車で,配
送用のカートを使用しております。
まず施設概要ということですが,資料の方にパ
ンフレットが載っておりますので,そちらの方を
これは上尾中央総合病院様のサテライトキッチ
ン内の IH のカートプールです。
ご覧になっていただければと思います。当院は昭
和39年12月に上尾市立病院を引き継ぎ,現在に
これは,ドイツのインターノルガで開催された
至っております。昨年5月に大規模な増床工事が
厨房機器展の IH カートのブースです。
ドイツでは
配膳車はすでに IH が主体で,
世界的な機器展で展
示されております。
また,日本の料理は,料理の種類が非常に幅広
いですが,ドイツでは料理を大の丸血に混載した
物と,スープの加熱の2カ所加熱です。
これはドイツの IH カートを使用している病院
です。
料理を IH カートにセットしているところで
す。こちらは加熱しているカートプールです。こ
こでは全て無線で,カート1台1台に加熱タイ
マー設定しております。
これは,患者さんに出す前に,芯温計で60度を
スライド2
確認し,患者様に食事を提供しています。ここで
あり,10階建ての新棟をオープンいたしました。
時間となりましたので,私の話を終了させていた
513床から753床へと240床増床をいたしました。
日本病院会雑誌
2003年6月
97
新棟のA館,既存棟のC,D,E,F館の5棟
しく説明していきたいと思います。
から成っております。新棟に関しては,各フロア
1番目のスペースの問題ということなのです
に食堂を設置いたしまして,食事環境をアップい
が,
以前は513床で本館と新館の2カ所に厨房があ
たしました。
り,業務的にもすでに飽和状態でした。大規模な
院外調理,クックチル方式を導入するまでの簡
改築工事に当たり,病院の方針として,2カ所の
単な経緯ですが,まず平成10年の3月までは,本
厨房のうち1カ所分のスペースがほかに当てるこ
館と新館2カ所に,それぞれ栄養科と厨房がござ
とになりました。2カ所のうちの1カ所のスペー
いまして,直営でやっておりました。平成10年4
スのみを利用して,
実際753床分の食事を提供しな
月に日清医療食品に厨房業務を全面委託化いたし
ければいけないという現状がありましたので,何
ました。平成13年5月,新棟オープンを機に,院
かいい方法はないかということで,そのとき委託
外調理におけるクックチル方式を導入いたしまし
をしておりました日清医療食品へ相談を持ちかけ
て,現在,システムを導入してから丸1年半経過
たというところがきっかけとなり,院外調理導入
したというところです。
に至りました。
以前の厨房の3分の1のスペースで,
753床分の
食事提供が可能になるという,これが導入の一番
大きな要因になったと考えられます。
スライド3
院外調理におけるクックチル方式を,なぜ当院
が導入したのかという目的,理由として,大きく
3つ挙げられるのではないかと思います。まず1
スライド5
2番目の高度な衛生管理ということに関してで
すが,当院の以前の厨房は非常に古く,ハード面
でも限界を感じておりました。また,本館と新館
2カ所に栄養科,厨房があったということで,ス
タッフの人数も非常に多く,その中でもパートの
方が多く,衛生管理の指導や教育がなかなかすみ
ずみまで行き届かなかったというのが現状でし
た。
今回,
こういうシステムを入れることによって,
HACCP の概念に基づいた徹底した衛生管理が行わ
れるという事これがやはり大きなポイントになっ
スライド4
たと思います。このような点で病院側の衛生管理
つ目がスペースの問題,
2つ目が高度な衛生管理,
の範囲や負担といったものが大幅に軽減できるの
3つ目が質の向上です。これらをそれぞれ少し詳
ではないか,
また厨房から食事を提供するよりも,
98
日本病院会雑誌
2003年6月
更に安心した食事提供ができるのではないかとい
まず栄養基準に関してなのですが,5年前より
うところで,導入に至ったと言えると思います。
当院の場合,オーダリングシステムを導入してお
ります。ですから,食事のオーダーもコンピュー
タ管理で行われております。当院の栄養基準は病
態別で約72種ございます。これをセントラルキッ
チンの方では成分栄養別に変換させ,32種にまと
めた形で対応していただいております。
システム導入の準備段階でこの基準の調整が一
番最初の難関だったと言う事ができます。それは
なぜかというと,院内の食事基準というのは,各
病院の特色やドクターの意向が強く出され,かな
り独自に作成されているものだと思いますが,こ
れらを,CK と,それから院外調理をやっていると
ころは当院だけではございませんので,当院を含
スライド6
めた4施設の協議のもとで,どうしても平均ある
3番目としては,
食事の質の向上という点です。
セントラルキッチンでの一連の作業がシステム化
いは妥協点をみいださなければいけないという難
点がありました。
されることによって,一定の水準を保ち安定した
形態の方は,今現在,普通,一口大,刻み,ペー
技術のなかで,おいしい食事が提供できるのでは
スト,副のみペーストという5種類設定をしてお
ないかということへの大きな期待が私達病院側と
ります。コメントに関しては,魚禁・肉禁という
してはありました。という事は,作業の効率化,
禁止対応をはじめ,約67種ぐらい対応をしており
技術レベルの安定が今以上に得られるのではない
ます。
かと考えたからです。
当院のオーダリングからの情報を委託会社のコ
またシステム化することによって,厨房調理で
ンピュータに手入力で入れ,CK へそのデータを送
はどうしても限界がある事でも,今以上に新しい
信するという流れになっております。現在は一応
食事サービスを拡大させていく大きな可能性を秘
前日までに CK の方に連絡すれば,
ある程度変更が
めているのではないかと思いました。
可能という状況になっております。当院のオーダ
リング締切りと CK のデータ送信の締切りには丸
スライド7
以上の3点が導入の目的,理由です。
次に栄養基準や献立の細かい内容に入っていき
スライド8
1日タイムラグがありますので,当院の最新の食
事オーダーに対応するためには,予備食と称して
たいと思います。
日本病院会雑誌
2003年6月
99
現在50食ほど,毎食ごとに準備をして対応してい
いただいているメニューとしては煮込みうどんが
ただいております。
あります。以前厨房ではなかなか提供しにくいも
献立に関しては,昨年の導入当初は14サイクル
のでしたけれども,今回のシステム,IH カートで
で開始をいたしました。この14サイクルというの
は,非常に煮込みうどんがおいしくでき,これに
は,当院の在院日数の平均から割り出したものな
関しては,患者様からも非常においしいというお
のですが,実際運用してみますと,少々短く,同
声をいただいております。
じものが繰り返し出てくるという,患者様からの
次にこのシステムを入れてのメリットとデメ
声もありまして検討し直し,4カ月後には倍の28
リットというところを少し考えてみたいと思いま
サイクルへふやしました。現在も同様で28サイク
す。
ルで動いております。行事食に関しては,昨年の
私自身が考えるメリットとして,3点挙げてお
クリスマスから開始をいたしまして,現在月1の
ります。まず衛生管理の徹底,温度管理,そして
ペースで実施を行っております。
専用食器という3点でございます。
献立作成は現在セントラルキッチン,委託会社
衛生管理に関しては,クックチルということで
の方で作成いたしまして,それを随時病院側に提
先ほどもお話がありました点がとても良く生かさ
出をいただいて,私たちが確認し,また要望等を
れていると感じております。
出して検討するという流れになっております。CK
温度管理という面でいえば,システム導入前は
の方でも献立チームを強化いたしまして,やっと
当院の場合,
保冷配膳車を使用しておりましたが,
先月ぐらいから CK の献立チームと病院側の代表
どんなに吟味しても,盛り付けでドアの開閉等も
者との献立会議というのが随時開催されるように
あり,実際に患者様の手元に届くときには,中心
なり,双方で内容を検討していく体制がだいぶ出
温度が下がってしまったりということもありまし
来上がってきたと感じております。来年は,現在
た。しかし今の IH カートを使用することで,あつ
検討中の新献立,新しい形の28サイクルで動き出
あつの状態で配膳が可能になったということは非
す予定になっております。
1年半稼働してきた状況の中で献立に関してい
常に大きかったと思います。
それと専用の食器についてですが,以前はメラ
えば,まだできるメニューと,できないメニュー
ミン食器を使用しておりましたが,強化磁器にか
というのがあります。また個別対応の枠をどこま
わりメラミンにはない質感があり,家庭での食事
で引くか,まだまだ検討の必要な事項というのは
にとても近づいたという印象があります。ただ一
数多くあると感じております。システム化される
方で,ご高齢の方にとっては重くなったという意
ことによって,逆に融通が効かないなと感じる部
見も実際ございました。
スライド9
スライド10
ぎんみ
分も多くあります。献立の幅はこれからどんどん
1年半経過し状況をみますと,食器に対するク
拡大させて行きたいと思っています。現在好評を
レームというのは非常に少ないですし,思いのほ
100
日本病院会雑誌
2003年6月
か,院内での破損率というのも少ないようです。
とが把握しきれない不安感がないとは言い切れま
これらの点ではこのシステムのコンセプトが良い
せん。
意味で生かされているのではないかと思います。
最後の CK,SK,病院の連携ということですが,
次にデメリットということで幾つか挙げてみた
院内での調理であれば,委託であろうとそうでな
いと思います。
かろうと,栄養科内のそして厨房内での連携とい
まず,①患者個々の多様性への対応,それから
うことになりますが,院外調理ということになり
②緊急時の対応,③質の低下の可能性?④CK,SK,
ますと,どうしても病院対委託会社との連携とい
病院の連携,この4つを挙げてみました。
うことになり,
組織の規模が大きくなりますので,
まず患者個々の多様性ということですが,当院
情報の伝達速度や対応の速度というものが以前よ
の場合,急性期の病院になりますので,日々の患
り遅くなるということを感じざるをえません。で
者様の食欲や病態が変動していきます。その患者
すから,その部分の体制をしっかりしていかなけ
様へのタイムリーな対応というのが院外調理とい
れば,双方にとって不満が積み重なっていく状態
うことでいえば非常に難しいと感じております。
となり良い連携がつくれないと感じております。
それらを追求していくとすれば,院外調理という
以上の4点が,現状でのデメリットと言えるの
システムでは対応しきれない部分が出てくる,実
ではないでしょうか。
際には当初導入する前に考えていたよりも,施設
側のサテライトキッチンでの細かい作業が徐々に
ふえているという現状があります。
患者個々に合わせたオーダーメードという考え
方がある一方で,ある程度簡素化したうえに成り
立つ院外調理のシステムという考え方があり,当
院の場合,まさにその相反する間に立たされてい
るというのを,強く感じています。
2番目の緊急時の対応ということなのですが,
これは先ほども申しましたように,細かな食種変
更に対応できるだけの予備食というものが必要に
なってくるということと,また別の意味で配送時
のトラブル,電源のトラブルなどの緊急時にどう
対処していくかという大きな問題も抱えていると
いうことです。
スライド11
経済効果としてはどうなのかということです
が,実際,この部分を具体的な数字であらわすこ
質の低下の可能性?ということに関しては,こ
とは難しいです。しかし院外調理という選択を当
れは質が低下したということでは決してございま
院が選んだということは,病院経営にとっては非
せん。ただ,今まで厨房の業務ですと腕のある調
常に大きい効果があったということは感じており
理師さんの技術が生かされたりということがあり
ます。
ましたけれども,その必要性がなくなるというこ
その直接的な要因としていえることは,一番最
とが挙げられると思います。ですから,システム
初に挙げている経営の効率化ということで,必要
化することで手の込んだ,手をかけた料理という
厨房スペースの多目的利用ということだと思いま
のが逆に難しいのではないかと感じたりもいたし
す。
ます。
また,それらのいろいろなタイミングが重なり
実際,現献立,調理には,完調品というものが
委託業者との連携のもとに実現されたということ
多く使われております。ですから,病院側にとっ
が,
当院にとっては非常に大きかったと思います。
ては,どんな調味料をどのように計算して,どん
これだけの規模のシステムを自分の病院だけで取
な食品をどういう過程で調理しているかというこ
り入れるということはまさに不可能でありとても
日本病院会雑誌
2003年6月
101
難しいことではないでしょうか。
平成14年2月に,このシステムを導入して初め
またこのシステムの契約費などはどうかといい
て嗜好調査を全員の方に行いました。また,選択
ますと,これは導入前と比べると若干ではありま
メニューなども導入いたしましたので,来月には
すが,アップしております。
嗜好調査の第2回目を実施予定になっています。
また人件費に関しては,システム導入前から全
患者様の評価としては,丸1年半経過したとい
面委託化になっておりましたので,実際には病院
うことによって,導入当初より日々厳しいお声が
管理栄養士の人数は,このシステムの前後で変動
返ってきているというのが現状ではあります。メ
はございません。
リットで挙げたハード面の良さというのは,時間
ただ,私たち病院側の管理栄養士にとっては非
がたてばどうしても当たり前のことになってしま
常にメリットが大きかったと言えると思います。
いますので,より食事内容・質に関してのお声を
それは今まで給食管理が幅を占めていた業務か
いただくことが多くなってきております。
ら,
ある程度開放されて臨床活動に専念できる事,
これは院外調理というものを取り入れて初めて
そして栄養指導の面などから経営貢献ができると
感じた事なのですが,患者様には,院外調理とい
いうことは,やはり経済効果の1つのメリットと
う言葉のとらえ方というのでしょうかイメージ
してとらえられると思います。
に,かなり誤解をされている観があるということ
最後の食材費?なのですが,全面委託になって
です。院外調理という言葉だけで,外でつくって
から,すでに5年が経過しておりますので,実際
いるものを,ただ運んできて,ただ温めているだ
どの部分と比較をしたらいいのかなというところ
けなんでしょうというお声が返ってきて,ちょっ
で,クエスチョンマークをつけました。ただ結果
と驚いたということがあります。
としては,実際こういうことがすべてが含まれて
クックチル方式を導入したということに関して
委託業者との契約費というところに加味されます
も,チルド,冷蔵ということを1人ひとりに説明
ので,どういった内容で契約を結ぶかというとこ
をしてまわっても,いつの間にか「冷凍食品」と
ろが,大きなポイントになると思います。
いうようなイメージでとらえられてしまったり致
します。これは患者様だけではなくて,院内のド
クターでもいまだにそういうふうにおっしゃった
りすることがありますので,病院側の栄養士の立
場からいえば,悲しい現状もございます。院外調
理という言葉一つで,今までの,調理師さんの手
づくりの食事という暖かいイメージがなくなって
しまったような,そういう印象でとらえられる患
者様が非常に多いということを改めて強く感じま
した。
今まで多くあがってきているクレームの1つを
お話しさせていただくとすれば,このシステムの
最大の壁と申しあげたらいいのでしょうか,ご飯
スライド12
の状態についてです。とてもクレームが多くなっ
システムを導入して,実際,患者様からはどう
ております。先ほど見ていただいた食器をじかに
いう声があがっているかといいますと…病院栄養
加熱するためなのか,それともやはり一度炊いた
士の方は,9月までですが,毎昼各病棟をラウン
ご飯をチルドにして再加熱するという経過が原因
ドして,患者様のもとに行き,喫食状況を把握し
なのか,詳しいところが未だよくわからないので
ながら,患者様がどういうふうに思っていらっ
すが,どうしても現状としては表面が乾燥してし
しゃるのかという声をすい上げたりしてまいりま
まって,底がこびりついてしまったりという現象
した。
がおきています。そこをどう改善していくかとい
102
日本病院会雑誌
2003年6月
う事が現在の最大の課題です。
ですから,今その現状をしっかり見極めて,ど
これに関しては CK 側でもいろいろなことを検
う次につなげていくのかということが,今の大き
討して参りました。米の業者を変えたり,米の配
合の変更や水分量の調整,カートの過熱の微調整
も何度も行い,新食器での検討という事もやって
みました。そのたびに私たちも試食をし,それを
繰り返してきましたけれども,今日に至っても,
納得いく状態では提供できておりません。
総合的に見て,このシステムが非常にいい評価
を得ているとか,得ていないとか2つに1つの答
えを出すのはなかなか難しいと感じます。
スライド14
な課題だと考えております。
新システムのメリット,デメリットをきちんと
見極めて,それを踏まえたうえで最善の食事サー
ビスを検討していくことが大事だと思っておりま
すし,またそれができるスタッフに1人ひとりが
ならなければいけないと痛感しております。
また院外調理を導入したことで,フードサービ
スの部分とクリニカルサービスの役割が明確にな
り,よりそれぞれが専門的になったといえると思
スライド13
当院の場合,このような新しいシステムを導入
することに挑戦したという事,それは1つの評価
に値するのかもしれないのですが,今まで述べて
きたように,このシステムに関しては,メリット
も更にはデメリットもたくさんあります。
システムを開発するのも,またそれを動かして
いくのも人でありますし,まだまだ私自身も,そ
れから私たち側のスタッフも,このシステムに関
して非常に不勉強な部分が多いと感じておりま
す。ミーティングを重ねても,何でこういうこと
が起こるんだろうとか,どうしてこうなるんだろ
うということの連続で,まだまだ未完であり不完
全なシステムだと感じておりますし,本来の良さ
います。いいかえれば私たち病院側の管理栄養士
にとっては,臨床を専門として活躍できるチャン
ス,新しい道が広がったということもできると思
います。
今後は,分業性・専門性を十分発揮し,それぞ
れがそれぞれの視点で患者様のお食事のあり方を
考え,提案し検討を重ねていくということが大切
だと思っております。それが新しい食事サービス
を生み出していくことにつながると思うからで
す。ですから,当院の場合,まずこの体制をいち
早く構築していくことが使命だと感じておりま
す。
以上です。ありがとうございました。
というのが,まだまだ発揮しきれていないという
気はいたします。
日本病院会雑誌
2003年6月
103
104
日本病院会雑誌
2003年6月
救急医療防災セミナー・講演
地震発生時における対応に関する調査
広島国際大学医療福祉学部教授
河
口
豊
平成14年10月・名古屋市
私も土屋委員長の下に病院会の救急医療防災対
に,どのような状況であったかということをお示
策委員会の委員としてお手伝いをしている訳です
ししてございます。同じグラフを映写しますけれ
が,毎年ここ5年ぐらい会員病院の皆様にお願い
ども,お手許のグラフも御覧いただきながら話を
をしまして,防災とか感染対策,救急などの調査
進めてまいりたいと思います。
をさせていただいております。
「地震対策防災マニュアルが作成されておりま
本年も地震発生時における対応に関する調査を
すか」というのが,まず最初でございます。この
させていただきました。
具体的には,
回収率は30%
調査は,皆様方の整備状況を病院間で交流してい
を切ってしまう訳ですが,
回答病院数としては580
ただくという目的があるのですが,もう一つ,こ
病院ぐらいご回答いただきまして,その結果を分
ういったような項目についても皆さん十分注意し
析しました。皆様のお手許の本日のセミナー資料
て整備をしていただきたいというような意味も含
グラフ1 地震に対する防災マニュアルは作成されていますか(病床規模別)
グラフ2 防災マニュアルは職員が病院へ集合する方法も含みますか(病床規模別)
日本病院会雑誌
2003年6月
105
めての調査項目であります。かつては「作成して
これもまた災害の医療としては重要なもので,阪
ある」あるいは「作成中である」も含めまして80%
神淡路の大震災の際にも薬品あるいは医療材料が
にもなりませんでしたが,今回は87%と,かなり
不足し始めて,被災した問屋の倉庫まで行って
の整備状況になりました。
持ってきたとか,あるいは関連の病院からの応援
「防災マニュアルに職員が病院へ集合する方法
でやっとつないだというようなことがありまし
も含みますか」という質問ですが,これも以前よ
た。これから考えていかなければいけない点と考
り上がっております。それでも「含んでいる」が
えます。
61%という状況で,職員が災害時にどのような方
次に
「防災マニュアルに避難場所を含みますか」
法で,あるいは連絡で集合するか。これはどれだ
を聞いていますが,
「含む」が62%,3分の2弱で
けの人的資源が投入できるか,そういう意味では
した。建物自体が,先ほどの講演で阪神淡路の地
災害医療を行うときの重要なポイントになってく
震の写真がありましたけれども,全員待避という
る訳ですが,61%というのが現在の結果でござい
ような病院はそう多くないとは思います。ただ待
ます。
避をしたときに集合場所が決まっていませんと,
「含んでいる」というご回答のうち,職種別の職
だれがまだ残っているのか,点呼ができない訳で
員の役割を示しているのが71%になっておりま
す。連絡が十分できないということは,いろいろ
す。
な面で余計な負担になってきます。確認ができれ
さらには「医療材料や薬品などの備蓄も防災マ
ば次の行動に移れるというような意味では,万が
ニュアルのなかに含んでいる」が半数でしたが,
一の場合の避難場所というものを定めておくべき
意外に29%が
「含まない」
「特に規定はしていない」
であろうと思います。
ということです。医療材料・薬品などの備蓄は,
「防災マニュアルに応援者への対応を含めます
グラフ3 防災マニュアルは職種別職員の役割を含みますか(病床規模別)
グラフ4 防災マニュアルは医療材料・薬品などの備蓄も含みますか(病床規模別)
106
日本病院会雑誌
2003年6月
グラフ5 防災マニュアルは避難場所を含みますか(病床規模別)
グラフ6 防災マニュアルは応援者の対応も含みますか(病床規模別)
か」
,これになりますと「含んでいる」が38%にと
と思う訳です。ボランティアだったり,それから
どまっています。震災が発生したあと1日,2日
系統の病院だったりするのですが,その応援者へ
はその時の職員で何とか持ちこたえられる訳です
の対応について,いわゆるボランティア保険であ
が,そういう人たちが休養をとって次に当たらな
るとか,登録の問題であるとか,医療に携わって
いと,場合によっては医療的なミスが起きたりす
もらうか,どういう状態で携わってもらうのか,
る訳です。そういうときに,応援というものを視
そういったこともあらかじめ考えておくことが必
野に置いた取り扱い方を考えておくべきであろう
要であります。
「震災時に必要な設備・機器に対して補強や対震
用マットなど耐震整備を行ったか」という質問で
すが,
「整備済み」
「一部整備済み」がまだ3分の
1です。
「整備中」というのが60%強で,各病院と
も何らかの形で整備をしていただく必要がありま
す。
では実際にどのような整備がされているかをお
聞きした訳ですが,病棟については,例えば病室
上記ご回答で「1. 整備済み」∼「3. 整備中」の病院
にお聞きします。どのような部門でどのような設備・機
械に対して整備したかを自由書きでお答えください
グラフ7 震災時に必要な設備・機械に対し補強や耐震
マットなど耐震整備を行いましたか
日本病院会雑誌
になりますけれども,固定器具で固定されている
か。あるいは棚の固定はナースステーションのな
かになりますが,それから医療機器の固定,これ
らが整備されているものであります。
検査部では棚の固定,あるいは医療機器の固定
2003年6月
107
グラフ8 病棟について
グラフ12 事務部門について
グラフ9 検査部について
グラフ13 エネルギー部門について
というものがかなりの割合になっておりまして,
のに必要な機器については,特に耐震の措置を施
これは複数回答になっておりますので,数として
すことが大切であります。
は両方に入ったりしています。特に検査部全体が
X線の撮影部についても,棚の固定とか医療機
もちろん被害を受けないことが一番大切なのです
器の固定があります。医療機器の固定というのは
が,少なくとも災害を受けたあと災害医療を行う
天井の機械の,
例えば走行レールを補強するとか,
そういったようなことも入っています。
その他の診療部門では,棚の固定,あるいは治
療機器についてです。その他の部門というのは,
透析の部門であれば例えば透析の機材が落下しな
いようにする,そういったものも含めてのことで
す。
それから事務部門については直接患者に対応す
る医療をする訳ではございません。しかし例えば
情報伝達,そのためのコピー機を確保することは
グラフ10 X線撮影部について
意外と忘れがちですが,災害医療の場では口だけ
の伝達ではなかなか難しく,そういったときに各
部署に伝達事項をコピーをして貼り出す。それが
非常に有効であったことが,阪神淡路のときに報
告されています。
エネルギー部門は熱源とか給水などについてで
して,この前の阪神淡路の報告から,病院として
は整備に力を入れております。
あと,耐震の計画については種々,例えば電気
のパーツ等について抑えをしっかりしていると
グラフ11 その他の診療科について
108
日本病院会雑誌
2003年6月
エネルギーについても同様でして,エネルギー
はなかなか難しい,阪神淡路のときにガソリンス
タンドは開いていたのだ,燃料補給もやろうと思
えばできたというようなことですが,そこから補
給を受けるシステム,あるいは情報がなかったと
いうことで,問題がいくつかありました。
グラフ14 主な建物の地震に対応した工事又は計画し
ている構造種別はどれですか
か,を含めての耐震計画になっております。
「建物の地震に対応した工事または計画してい
る構造というものがあるか」を聞いております。
耐震補強がかなり行われている訳ですけれども,
それに免震構造,特に立て替えの病院については
免震構造の導入がかなり考えられていることがみ
グラフ16 貴院は応援を依頼できる団体や個人がいま
すか
られます。
「計画はない」は小規模なのでとか,今のところ
は考えていないなどです。ただ耐震診断は必ず行
うべきであるとの意見も書かれてあり,非常に大
切な問題との認識はされています。
グラフ17 どのような職種の人が応援に参加してくれ
そうですか
それから先ほどの応援についてですが,
「応援を
依頼できる団体,個人がいるか」ということで「登
グラフ15 備蓄品をもっているか
録している」と「登録はしていないがいる」が併
「備蓄品を持っているか」を,医薬品についてみ
せて約半分程度です。さらには「どのような職種
ますと,
3日ぐらいまでは3分の1,4日から1週間
の人が応援に参加してくれそうですか」というこ
分ぐらいが3分の1,それ以上というのは合わせ
とで回答を,医師,薬剤師,看護師,その他の医
て23%ぐらいで,3日ぐらいは最低ないと難しい
療者あるいは事務職員,医療機関以外の人に分け
というようなことですが,余裕があるのは合わせ
てみますと,
このぐらいの割合になっております。
て全体の3分の2近くになっています。阪神淡路
特に医師,看護師等直接災害医療に携わるような
のときには直下型ということで,補給路の確保が
人の割合もある程度確保されているという感じで
道路事情等で非常に難しかったです。今度はいわ
す。
ゆる東海地震といわれますが,さらに広域の地震
それから「応援者が参加したときの手続きの問
となりますのでこの補給路の確保が難しくなるだ
題」
,さらには「院内で医療に従事してもらう計画
ろうと考えられます。できれば3日以上確保はし
かどうか」
。
「医療に従事してもらう」というふう
ておきたいものです。
に決めていらっしゃる病院が40%。
「医療には従事
日本病院会雑誌
2003年6月
109
図れない,一時はかなり関心が高まるのですけれ
ども,そのあとなかなか「やる」と言っても立ち
上がってくれないというようなことがあります。
それから担当課に責任者というか専門家がいない
というような問題もあります。
院内組織については,大きな問題は指揮命令系
統の明確化がなかなかできない。先ほど座長の小
室先生からもありましたように,警戒警報が出る
グラフ18 応援者が参加したときの手続きなどは予め
決めていますか
とそれなりに準備ができる。出れば夜間でも,日
勤体制に近い人が集まる。けれども警戒警報が出
ない,さらに警戒警報が出てから本当に発災する
までどのぐらいの間隔があるのか,そこまで読め
るのかどうかは非常に難しい。例えば院長が会議
で出張している場合,そういうときにも形式的で
なく実際に指示できる命令代行者が決められてい
る,あるいは夜間だったらどうするのかというよ
うな問題を決めておかないと混乱します。混乱し
てもそれなりにだれかが指揮するようになるので
グラフ19 院内で医療に従事してもらう計画ですか
すけれども,その間の時間が非常にもったいない
のです。
してもらわない」という病院が34%となっていま
それから建築・設備などではどこまで整備すれ
す。医療の問題は,いわゆる系列の病院である程
ばよいのか。これもまた,どれだけ大きな地震に
度交流があるようなところだとよろしいのです
なるのか分からない。今までにないような地震
が,そうでないとなかなか駆けつけてくれたボラ
だったら,整備の目標を見誤るということで非常
ンティアの医師にいろいろな医療に従事してもら
に迷ってしまうということがあります。今までの
うというのは難しいという点があります。
経験から言って,マグニチュード8強で震度は6
それではあと自由書きで,どのような課題を各
あるいは6強ぐらい,
そのようなことを予想して,
病院が持っていたかを若干ご説明したいと思いま
少なくとも建物が丸々使えなくても,機能として
す。
「地震対策を整備するに当たって,貴病院で現
保持できる。そのための設備系統の整備はきちん
在課題となっている点は何ですか」というような
としておかなければいけないと思います。
ことでお聞きいたしました。
回答を地域との関係,
最後に経費については,今の建築,設備,機器
職員,院内組織,建築・施設,設備・機器,経費
等に対して対策をすればするほどお金がかかって
にグルーピングをしてみました。
しまう。これらがお答えいただいた病院の課題と
地域との関係で,特に自治体との連携が確認さ
して,悩みとして今回挙げられたものです。地震
れていないとか,あるいは住民との関係,関連企
については調査報告を3回やっておりますけれど
業あるいは交通マヒ等が心配だという点がありま
も,全体としてご参考にしていただきながら,ぜ
して,
先ほどの午前中のお話にありましたように,
ひ防災について準備をしていただければと思いま
訓練をするときに病院以外の人の参加というもの
す。
をできるだけ行うことで連携を強めていくことが
大事ではないかと思います。
また職員については,職員の防災意識の向上が
110
日本病院会雑誌
2003年6月
救急医療防災セミナー・講演
東海集中豪雨災害を経験して
柴田内科クリニック院長
藤田保健衛生大学医学部客員教授
柴
田 恒
洋
平成14年10月・名古屋市
(キーワード:東海豪雨)
平成12年9月11日から12日にかけて名古屋市を
中心に東海地方は多いところで500ミリメートル
を超える記録的な豪雨に見舞われた。名古屋市北
区の楠西学区は平成3年にも台風18号の影響で床
上浸水の被害を受けた。しかし名古屋市の水防計
画でもこの地が注意区域には指定されていなかっ
た。そして平成12年9月の豪雨でまたしても全世
帯の90%が何らかの浸水の被害を受け,かつ全世
帯2400戸のうち1200戸近くが床上浸水の被害受け
てしまった。
(図1)
写真1 レントゲン操作室
操作台の基板が水没し,土砂などが入り
込み作動不能の状態となる
いコミュニティーセンターに殺到した。一時は収
容定員60人の6倍近い350人にも膨れ上がった。
そ
して,
そこに入りきれない避難住民は隣の JA 支店
の階段下を利用しなくてはいけない状態であっ
図1 北区の浸水被害(北区役所の集計)
た。また,ある地区ではポンプ場が唯一避難所と
医療機関としては当院(内科)と外科の外科の
はなっていたが,同町内全体が1.5m以上も浸水
2つの診療所が被災し,当院は60㎝,外科の医院
し,そこまで行きつけない被災者がありバス会社
は1mを越す床上浸水となった。
レントゲン装置,
の職員寮に避難せざるを得なかった。平成3年の
エコー,理学療法機器などのほとんどの医療機器
水害の教訓はほとんど生かされず,そのときの記
が被害を受けた。
(写真1)
録も全く情報が公開されていなかった。
この学区の災害避難所となっていた小学校に至
る道路は9月11日深夜にはすでに大人の腰の高さ
1. 災害直後の患者の動向
まで冠水してしまった。このため住民はそこに避
当院も床上浸水の状態で医療器具,医療器械は
難することはできず,60人ほどしか収容ができな
全損状態でほとんど診療ができる状態ではなかっ
日本病院会雑誌
2003年6月
111
た。個人的には9月12日朝「本日は,水害のため
ない状態であった。何とか時間外用の救急薬を少
臨時休診」と張り紙をだして後片付けをすること
しずつ分けて出した。電話も不通で薬の卸或いは
を考えていた。しかし,水が道路に1mもある時
近隣の医療機関にも連絡がまったく取れない状況
間(平成12年9月12日午前6時)よりけがをした
であった。水害に遭って先ず感じたのは被災地域
と言って来院する地元の患者があった(写真1,
の患者は被災地域の医療機関を受診しようとする
2)
。
水につからなかった器材を何とか探し出して
のだとびっくりしながらの診察となった。しかし
応急処置を行った。
午前8時を回ると続々高血圧,
医療機関として十分な診療は不能の状態になって
喘息,糖尿病などの慢性疾患患者が,
「薬が水に浸
いた。近くの調剤薬局と連絡を何とかとって薬を
かってしまった」
,急性疾患の患者は「熱がある」
確保。
「会計は後日」と患者に説明し応急の診療が
「お腹が痛い」といって来院。そこで私は裸足に
3日ほど続いた。
なり後片付けをしながら,待合室に小さな机を置
いての診察を余儀なくされた。当院は豪雨の10日
前より院外処方に移行したばかりで薬がほとんど
2. 地域の被害調査と行政への要望
今回の教訓を残そうと被災地図の作成,被害額
の調査(図2,3)
,行政への要望書の作成など自
治会と住民の協力で行われた。
写真2 当院の水没しだ駐車場
水位は道路より1.2mはあると思われる
図2 一般家庭の被害
楠西学区の床上浸水被災世帯119世帯に被害額の
アンケートを行った。
家屋,家財,自動車の被害総額は一世帯平均総額
899万円にのぼった。
図3 事業所の被害
事業所が多い玄馬町では一世帯平均2,333万円の
被害額となった。
写真3 職員出入り口
床上60㎝まで浸水
日本病院会雑誌
2003年6月
112
当院を訪れる患者より被災の状況を聞きなが
地域住民への影響
ら,保健婦,主婦らと共に被災戸数の約10%に被
集中豪雨の地域住民への影響は,いろいろな年
害調査表を渡して回った。同時にどの程度の水深
齢層に及んだ。2年も経つ現在でも雨音による不
が被災時にあったかを調査しこの地区の被災マッ
安で不眠を訴える人が少なからずいる。原因不明
プを作成した(図4)
。これが後にマスコミの話題
の湿疹,喘息の増加その他各種の年齢層でいろい
になったり国土交通省のハザードマップ作成に利
ろな影響が見られた(表1)
。
用され,名古屋市の消防からもこのマップの提供
表1 被災後の地域社会
被災地図(楠西地区)
子供たちへの影響
豪雨被害が子供たちに与えた影響の有無をみる
ため,児童の体の不具合を訴えて保健室をどのよ
うに利用しているかということを災害前後で比較
をしてみた。その結果,低学年では明らかに被災
直後から頭痛,腹痛,気分の不快感を訴え保健室
を利用している(図5)
。高学年では1ヵ月したほ
図4 住民自ら作成した被災マップ
どしてから利用日数が多かった。今回の豪雨によ
る水害被害で子供にも心身共に影響があったと考
を要請された。
えられる。
3. 平成12年9月からの1年
被災後の7日間(平成12年9月12日∼19日)
この間は「ゴミ」の問題が大変であった。水に
浸かった家具は一見大丈夫そうに見えても乾燥す
るうちに接着面が離れ使い物にならなくなる。道
路は畳,家具,電気製品,蒲団,衣類,自動車な
どでゴミの山と化していた。
(写真4)
図5 水害の小学生への影響
1ヵ月後(平成12年10月)
部屋が,かび臭い。診療所の壁は乾燥すれども
湿気は取れずはがしてみると石膏ボードの裏側は
黒いカビに被われていた。とにかく乾燥をさせな
いといけない。
(写真5)
3ヵ月後(平成12年12月)
12月にそろそろ壁の修復,機械の入れ替えを始
写真4 一夜にしてゴミと化した家具
日本病院会雑誌
2003年6月
113
救急器材の管理
2)情報発信の確保(被災を受けると被災地は外
に対して何も情報を出せない,携帯電話も通信障
害)
3)医療機関の建築構造の問題(例えば床配管,
壁面から50㎝の高さに電源,電話のモジュラージ
ャックの存在し漏電による障害)
4)医療機器の問題(重要基板は床面から50㎝以
下に集中し漏電の原因)
5)被災後の子供たちや高齢者の「心のケア」
,
「喘
息,アトピー」への悪影響。
写真5 診察室の壁の内側
黒カビで一面覆われている
この中で1)
,2)
,5)に関しては行政や医師
め,なんとか診療らしきものができ始める
11ヵ月後(平成13年8月)
職員が最近窓に「蟻」が多いという。
「注射用の
ブドウ糖でも狙っているのでは??」と考えたが
棚の中に細かい土が落ちている。専門業者を呼ん
でみるとコンクリートの隙間から土を運んでいる
らしい。棚の床面を切ってみると10ヶ月前の浸水
でいまだに床が濡れておりそこに蟻の巣ができて
いる。
水害というのは一見水がなくなると何もなかっ
たかのような情景ではあるが実際家屋にはいろい
ろな変化が起きていることが1年を過ぎたいまで
も新たに発見することが多い。
以上のように水害は一旦水が引いてしまえば外
見上はさほどの被害を確認することはできない
が,実際は目視できないところ(特に電気設備,
床,壁,家具類)は廃棄しないといけない状況に
なってしまう。
会,薬剤師会の協力が必要になる。3)
,4)につ
いては構造上改善可能なものは対策が必要と考え
る。
5. 終わりに
「都市化」の影響がこの地を保水力のない街に
し,かつ上流の保水能力も落ちてしまったことな
どがこの楠西学区に9年間のうちに2度もの大き
な水害を引き起こした原因として考えられる。さ
らに地球の温暖化による異常気象は今後ますます
起こりやすくなると考えられている。
21世紀は
“環
境の世紀”とも言われ,自然と「対する」のでは
なく自然と「和する」治水事業を考えていかなけ
ればならない。水害は来るものだと心の準備をし
ながら行政・個人が防災について考えなければな
らない。行政に任せるだけではなく実際にそこに
住んでいる地域住民が先人たちの治水の歴史,水
害の歴史を踏まえこの地区が治水に対してどのよ
うな弱点を持っているのかを考え,国や地方の治
4. 水害の教訓
水事業に積極的に参加をしていかなければならな
最後に昨年の水害を経験して医療機関としての
い。
防災についてまとめてみる。
1)
医療機関としては薬の備蓄
(医薬分業の問題)
,
日本病院会雑誌
2003年6月
114
報
告
院内掲示物は患者の視点で書こう
根本とよ子1)
奥泉
香3)
名坂 笑子2)
前田久美子4)
(キーワーズ:情報,掲示)
1. はじめに
私たちの生活の中にはさまざまな掲示物が氾濫
している。それは,病院の中も同じである。病院
では,中に入ると病院の案内図があり,患者や家
族はそれを見ながら自分の行く場所を探す。
また,
病気に関すること,医療や医療費に関することな
どさまざまな情報を掲示し提供している。
これらの掲示物は,大きさや色がさまざまであ
る。また,絵や写真を使用したものもあれば文章
のみのものもある。
これらの掲示物を見るたびに,
情報伝達に効果的な役割を果たしているだろうか
と日頃より感じていた。私たちが実際にこれらの
掲示物を作成する際には,意図的に色や大きさ,
絵などを使い分けているのだろうか。そして,院
内の掲示物は,患者へ効果的に情報の伝達ができ
ているのだろうか。
院内の効果的な掲示については,永井則子氏も
「効果的な掲示・表示」1)で,興味深い提案をさ
れている。私たちは,以前より看護部(看護師長・
係長会)を中心に,院内の掲示物を系統的に見直
し改善を試みてきた。そこで,ここに1例を示し,
患者への掲示物の改善を提案してみたい。
図1
は,このような掲示物では,患者への伝達が効果
的に伝わるだろうかと疑問を感じ検討した。
2. 現状分析
この掲示物の問題点として私たちは以下の点を
今回,当院において小児科病棟と産婦人科病棟
上げた。
が統合することになった。従来,当院では,図1
のような形式の掲示物が多かった。今回,私たち
1)大森赤十字病院 看護副部長 2)藤枝市立総合病院 看護部長 3)三育学院短期大学非常勤講師
4)大森赤十字病院 看護部長
日本病院会雑誌
2003年6月
115
問題点1) 患者にとって必要な情報が患者の視
問題点3) 患者の目にとまり情報の構造が意識
点で書かれていない。
に残るような書き方がされていない。
この掲示物は,病院側からの一方的な通告の文
黒い文字一色で,同じ大きさの文字が並んでい
章で書かれている。患者側から見ると,患者が実
るため,何が重要なのかが分かりづらく印象が薄
際に行動する具体的な情報が書かれていない。例
くなっている。また,廊下に貼ってある掲示物と
えば,この掲示物を見ることで,
“統合”すると,
しては注意を引きにくい。文字だけの掲示物は,
今までの病棟はどうなるのか,患者にとってどん
最後まで読まないと内容が分からないことが多
なメリットがあるかなどは良く分からない。
また,
い。
この掲示物で不明な点や質問があった場合,どこ
に問い合わせてよいか分からないなどがあげられ
る。
3. 改善策
私たちは,以上の問題点を考慮し,前掲の掲示
問題点2) 「何卒」と謝りすぎるとかえって患者
に無用な不安を与える可能性がある。
このように謝りすぎたり,へりくだりすぎたり
物を次のように改善してみた(図2)
。どのように
改善したのか,その改善点をまとめてみる。
改善点1) 患者に必要な情報を患者の視点で構
成しなおした。
すると患者にとって不利益な印象を与える。日本
の文化には,謝ることで事が治まる傾向がある。
しかし,病院の中では,患者側からの視点で見る
統合による変更点を掲示物の右側に以下のよう
に整理した。
と,
「何卒」や「了承」は謝られていることだけが
・入院病棟は従来通りです。
印象付けられ,かえって無用な不安感をもつ可能
・病棟名は・・・新2階1病棟
性がある。
・看護婦室も(ナースステーション)も現産
図2
日本病院会雑誌
2003年6月
116
婦人科病棟の場所に統合され,1つになり
ントが見えてきた。今後,院内掲示物を書く際に
ます。
活かせるようにまとめておく。
掲示物の左側には統合による患者のメリットを
以下のように明示した。
(1) 患者の視点で情報の構造を整理する。
・患者に必要な具体的な情報を,患者の視点で
・小児科医療スタッフと産婦人科医療スタッ
フが合同で医療にあたります。
書く。
・従来の情報との異同を整理して掲示する。
(そ
・妊娠,出産,産後,育児が統合された医療
で提供できるようになります。
の中で患者にとって必要な情報の順に書く)
・新しいことを伝達する場合,患者にとっての
掲示物は,さまざまな場所に貼られるため,疑
問や不明な点が生じた場合,どこへ確認にいった
らよいか患者には分からない。そのため,どこに
問い合わせればよいのかを明示することで患者の
疑問や不安に答えられるようにした。
メリットを明確に提示する。
(2) 患者に意識化されやすい表示を工夫する。
・何の掲示であるか意識化しやすいように,図
やイラストを入れる。
・強調したい言葉は文字の大きさ,色を変える。
改善点2) 謝りすぎる文をなくした。
「何卒」
「ご了承ください」といった文章を「皆
様にはご不便をおかけすることもあると思います
が,ご理解のほどよろしくお願いします。
」と変更
した。これにより,謝る内容から理解を求める内
(3) 様式を統一し,対象者を明確にする。
・院内で統一した基準を作成する。例えば,緊
急用は枠を赤にするなどの工夫をする。
・職員用か,患者用かなど,対象が誰かを明確
にする。
以上のように改善点を整理することによって,
容に変えた。
情報を患者の視点で書き直す工夫が大切となる。
改善点3) 患者が情報の構造を意識化できる工
5. おわりに
夫をした。
院内における日常の掲示物には,最後まで読ま
この掲示物は,その科を利用する人に,確実に,
ないと意味が分からないものが多い。その中で患
しかもその期日までに知ってもらう必要がある。
者に情報を発信していく側として,前述のような
しかし,今までの掲示物は,文字のみで印象が薄
ことに注意し,簡潔でインパクトのある掲示物を
くなりがちである。そこで文字の大きさ(強調し
工夫していく必要がある。
たい文字)を4段階に変化させ,患者に意識して
また,掲示場所についても,さらに検討する必
ほしい情報を明確にした。さらに強調したい文字
要が見えてきた。今回の“統合”の掲示物は関係
をそれぞれ色分けした。
(小児科病棟,産婦人科病
部署のみに掲示した。しかし,病院の入り口や受
棟,日付,統合,など)特に日付は,赤色を使用
付など患者が必ず通過する場所や集まっている場
し強調した。
所に掲示する必要があった。
次にイラストを使用し,産婦と子供が手を繋い
今後は,これを機会に病院の掲示物を点検し,
だ絵をピンクのハートの中に入れ,産婦人科と小
患者の視点で書かれた掲示物を増やしていきた
児科の統合のイメージを強調した。色合いも,産
い。
科・小児科にあわせソフト感があり安心感がもて
る工夫をした。このようなことで時間のない患者
引用文献
や急を要する患者にも意識に残る工夫をした。
1)永井則子:効果的な掲示・表示.看護展望,Vol.
26,7:744−746,2001.
4. まとめ
今回,図1から図2へ書き直す過程で,院内掲
示物はどのような点に注意して書くべきかのポイ
日本病院会雑誌
2003年6月
117
病院経営管理者養成課程通信教育「通教月報」より
臨床研修必修化と今後の病院
日本大学医学部教授
大
道
久
医師臨床研修制度が抜本的に見直されることと
制度,いわゆるマッチングシステムである。これ
なった。2か年間の臨床研修を必修化して研修医
は,研修病院または病院群が,自らの特色ある研
の身分と処遇を明確にすることを骨子とする新た
修プログラムと,それを履修する場合の研修医と
な臨床研修制度の平成16年度からの実施を控え
しての身分・処遇を明確に示して,研修医の選択
て,今ようやく体制作りが進みつつある。今回の
に委ねて研修の場を決める仕組みである。この仕
抜本的見直しの要点は,今後の医師養成の場を,
組みは,従来は概ね出身大学の大学病院で研修を
学術研究を第一義とする大学から,地域の医療を
受け,同族的で閉鎖的な人脈を構成してきた医局
直接担う医療機関への転換を図り,専門分化を続
講座体制を大きく変える可能性がある。
ける高度医療志向の臨床研修から,患者・家族と
今回の臨床研修制度の見直しが今後の病院に及
のコミュニケーションを重視した全人的なプライ
ぼす影響は,予想以上に大きいことが認識され始
マリケアを目指すところにあるといえる。
めている。当初から,大学病院において初期研修
研修施設の指定基準は大幅に見直され,当面は
を行う研修医が減少することは見込まれていた
全国300余の2次医療圏に少なくとも1つの幅広
が,2年分で病床10床に対して一人の研修医とい
い臨床研修を提供できる体制を確保することを目
う基準が明確になると,大学病院によっては研修
指すこととなった。新たな臨床研修病院は,
「単独
医の大幅な減少が現実のものとなる。少なからぬ
型臨床研修病院」と「臨床研修病院群」に区分さ
大学病院,または医局講座は,臨床研修を含む大
れ,後者は「管理型臨床研修病院」に「協力型臨
学病院の教育・診療体制全般にわたる根本的な見
床研修病院」が加わって病院群として所定の研修
直しを迫られることになったのである。
プログラムに対応する。また,診療所や中小規模
従来,研修医は生計を立てるために近隣の病院
の病院も「研修協力施設」として地域医療の研修
の当直業務などを行い,一部は関連病院等に出向
に参画することが期待されている。
している。明確なプログラムと研修体制に基づい
受け入れることのできる研修医の数は病床数10
た新たな臨床研修の実施は,従来の研修医の就業
床に対して1人,
または年間入院患者数100人に対
の場を大きく変えることになり,それに依存して
して1人までとし,指導医も臨床経験七年程度で
きた地域の病院は甚大な影響を被ることになる。
所定の講習を受けるものとされる。将来的には,
研修医のみならず一般の医局員についても,その
プライマリケアの基本的診療能力を身に付ける初
円滑な回転と大学病院自身の診療要員の確保のた
期研修は地域の臨床研修病院で行い,大学病院で
めに,医局側が市中の病院から医局員の引き上げ
は高度専門医療の研修を行うという役割分担をす
を図ろうとする動きが表面化している。
ることを目指すとしている。
一方,地域のそれぞれの病院にとって医師の確
この研修制度の運用で,もっとも注目され,今
保は自院の診療機能の保持のために必須の課題で
後の医療運営に影響を与えると考えられるもの
あり,今後の円滑な人材確保のためにも何らかの
は,研修医と研修プログラムとの組み合わせ決定
臨床研修施設として医師養成に関わる必要があ
日本病院会雑誌
2003年6月
118
る。新制度の骨格が明らかになった昨秋以降,少
従来,大学医局講座による医師派遣体制が,わ
なからぬ地域の病院が,自らの将来展望を拓くた
が国の地域医療に大部分の医師を供給し,地域の
めにも臨床研修病院,または病院群の一員として
病院もそれに依存して医師の確保を図ってきた。
臨床研修に参画しようと準備を進めている。
新たな臨床研修制度は,地域の病院自身に医師養
卒直後の初期臨床研修の場が大学病院から地域
成の役割を付与し,研修医に研修施設とプログラ
の病院に移行することは,毎年新規に参入する医
ムを選択する機会を与えた。今後の医師の選択に
師群の進路選択と将来設計に大きな影響を及ぼ
よっては地域の病院の再編が加速されることもあ
す。地域の病院は,大学医局から医師派遣が受け
り得よう。新臨床研修制度の導入は,わが国の医
られない恐れが現実のものとなれば,新たな医師
療の構造的改革となり得るのである。
確保の方策を真剣に検討しなければならない。
日本病院会雑誌
2003年6月
119
■一番町だより
〒630-0212 奈良県生駒市辻町4-1
平成14年度 第12回定例常任理事会 議事抄録
日 時
平成15年3月29日(土)
℡0743-75-0011
2. 個 人 宇治武田病院
午後12時40分∼2時40分
場 所
(177床:一般122,その他55)
日本病院会会議室
会員名 武田隆久(開設者)
〒611-0021 京都府宇治市宇治宇文字24-1
出席者
会
℡0774-25-2500
長
副 会 長
中山耕作
紹介者 武田隆男副会長
大道 學,奈良昌治,武田隆男,
3. その他法人 聖隷横浜病院
山本修三
常任理事
(350床:一般300,療養型50)
西村昭男,林 雅人,真田勝弘,
会員名 井澤豊春(院長)
斉藤寿一,秋山 洋,池澤康郎,
〒240-8521 横浜市保土ヶ谷区岩井町215
天川孝則,福田浩三,川合弘毅,
元原利武,瀬戸山元一,福井 順
監
事
星 和夫,梶原 優
代議員会議長
会員名 塩谷泰一(院長)
加藤正弘
〒762-0031 香川県坂出市文京町1-6-43
同副議長
赤沼克也
顧
問
依田忠雄
参
与
松田 朗,高久史麿,村井勝,行
委 員 長
℡045-715-3111
4. 市町村 坂出市立病院(216床:一般216)
℡0877-46-5131
5. 医療法人 金沢脳神経外科病院
(220床:一般60,療養型160)
天良雄,牧野永城,岩﨑 榮,星
会員名 佐藤秀次(院長)
北斗,三宅浩之
〒921-8842 石川県石川郡野々市町徳用町
大井利夫
315
℡076-246-5600
定刻になって中山会長から開会の挨拶が行わ
6. 医療法人 黒川病院
れ,本日はこの後代議員会・総会を控えているの
(274床:一般5,精神269)
で報告等は簡略にしたいと了承を求めた。会議定
会員名 馬場肝作(理事長)
足数として定数24名に対し出席17名,
委任状7通,
〒959-2805 新潟県北蒲原郡黒川村大字下
計24名で本会議が成立している旨を報告し,議事
館字大開1522
録署名人に瀬戸山,福井両常任理事を選出した。
℡0254-47-2422
司会の山本副会長からは本日の会議時間2時間
紹介者 渡部透新潟県支部長
について,報告事項は原則一読として承認事項と
報告事項で1時間,協議事項に残り1時間をかけ
B.正会員の退会15件
1. 日 赤 小海赤十字病院(100床)
たいと割り振りし,議事に入った。
会員名 岡野康正(院長)
長野県南佐久郡小海町豊里80
〔承認事項〕
(3.31付で閉院)
2. その他法人 北多摩保健生協病院(23床)
1. 会員の入退会について
会員名 伊藤芳樹(院長)
A.正会員の入会6件
東京都清瀬市上清戸2-1-41
(1.31付で廃院)
1. 医療法人 東生駒病院
3. 医療法人 横田病院(68床)
(260床:一般146,療養型114)
会員名 横田力(院長)
会員名 松下宗嗣(院長)
富山市中野新町1-1-11
日本病院会雑誌
2003年6月
120
■一番町だより
4. 医療法人 新横浜病院(56床)
大阪市此花区春日出北3-1-4
会員名 土屋章(理事長)
(3.31付で閉院)
横浜市港北区仲手原2-43-48
C.国立病院・療養所の再編成による会員異動
(4.1付で診療所へ移行)
1. 国 国立病院横浜医療センター
5. 医療法人 首藤病院(86床)
(580床:一般530,精神50)
会員名 首藤三七郎(院長)
会員名 高橋俊毅(院長)
大阪市福島区野田5-18-16
〒245-8575 横浜市戸塚区原宿3-60-2
6. 個 人 聖和病院(138床)
℡045-851-2621
会員名 京明雄(院長)
(3.1付で国立横浜病院〈552床:一般500,精神52〉
大阪市都島区中野町1-7-32
と国立横浜東病院〈350床:一般300,結核50〉
7. 公益法人 川越病院(162床)
が統合)
会員名 清水達夫(理事長)
2. 国 国立療養所石川病院
京都市左京区浄土寺馬場町48
(240床:一般200,重心40)
8. 国 国立療養所稚内病院(50床)
会員名 山田志郎(院長)
会員名 佐々木信博(院長)
〒922-0405 石川県加賀市手塚町サ150
北海道稚内市こまどり2-7-1
℡0761-74-0700
(3.1付で経営移譲)
9. 国 国立療養所美幌病院(155床)
(3.1付で国立療養所石川病院〈240床:一般190,
結核50〉と国立山中病院〈350床:一般350〉が
会員名 吉野勝夫(院長)
統合)
北海道網走郡美幌町字美富9
3. 国 国立療養所熊本南病院
(3.1付で経営移譲)
(250床:一般150,結核100)
10. 国 国立佐渡療養所(150床)
会員名 光野利英(院長)
会員名 狩野健一(院長)
〒869-0593 熊本県下益城郡松橋町大字豊
新潟県佐渡郡真野町大字真野73
福2338
(3.1付で経営移譲)
11. 国 国立渋川病院(150床)
℡0964-32-0826
(3.1付で国立療養所熊本南病院
〈300床:一般150,
会員名 安齋徹男(院長)
結核150〉と国立療養所三角病院〈200床:一般
群馬県渋川市1388(3.1付で経営移譲)
100,結核100〉が統合)
12. 国 国立弟子屈病院(150床)
D.賛助会員の入会4件
会員名 及川隆司(院長)
1. B会員 新潟医療技術専門学校
(専門学校)
北海道川上郡弟子屈町湯の島2-5-7
代表者 近寅彦(校長)
(3.25付で廃院)
〒950-2076 新潟市上新栄町5-13-2
13. 国 国立療養所高山病院(156床)
会員名 二村敦朗(院長)
℡025-269-3175
2. B会員 東京医療秘書福祉専門学校
岐阜県高山市山口町1280
(専門学校)
(14.12.1付で経営移譲)
代表者 篠原陽子(校長)
14. 医療法人 竹口病院(192床)
〒113-0033 東京都文京区本郷3-23-16
会員名 竹口甲二(院長)
℡03-3814-6936
東京都昭島市玉川町4-6-32
3. B会員 横浜医療秘書歯科助手専門学校
15. 医療法人 鎌田病院(61床)
(専門学校)
会員名 鎌田信義(院長)
代表者 進藤隆博(校長)
日本病院会雑誌
2003年6月
121
■一番町だより
〒221-0822 横浜市神奈川区西神奈川
1-18-3
℡045-402-9878
2. 厚生労働省及び各団体からの依頼について
(1) 「米国 IHN の最新動向」
セミナーの後援
(依
4. A会員 (株)水口医療システム研究所
(医療関連業務受託及びコンサルティング業務,
医療関連教育事業等)
頼元:Sentara Healthcare 招聘委員長開原成
允)
(2) HCRM 研究会シンポジウム「患者中心の参
代表者 水口錠二(取締役)
加型医療をめざして2003」の後援(ヘルスケ
〒541-0048 大阪市中央区瓦町2-4-10
ア リレーションシップ マーケティング研
℡06-6233-2247
究会)
E.賛助会員の退会7件
(3)
1. D会員 萩原久子 東京都大田区南千束
1-26-4-101
2. B会員 NTT 西日本大阪中央健康管理セン
ター
第11回介護療養型医療施設全国研究会の
後援・開会式来賓挨拶(介護療養型医療施設
連絡協議会)
(4)
第2回日本医療経営学会実行委員兼プロ
グラム委員の就任(同学会長・国際医療福祉
代表者 米田武(所長)
大学長谷修一)
大阪市北区中之島6-2-27
(5) 財団理事・評議員の就任(再任)
(日本医
3. B会員 番町診療所
療機能評価機構)
代表者 山田正文(院長)
(6) 財団理事の就任(再任)
(医療研修推進財
東京都千代田区六番町7-18
団)
4. A会員 藤原印刷(株)
以上について山本副会長から説明がなされ,
(1)
代表者 藤原岩夫(代表取締役)
は米国の地域密着の複合医療サービス提供組織で
大阪府和泉市和田町234
ある IHN(Integrated Healthcare Network/非営利
5. A会員 (株)ニック
が中心)の動向についての講演,(2)(3)は例年の
代表者 松井資宋(社長)
依頼で,(4)は奈良副会長,(5)は中山会長・奈良
大阪府豊中市名神口3-7-14
副会長,(6)は中山会長への依頼であり,いずれも
6. A会員 (株)ナトキン
承認した。
代表者 岩崎進(代表取締役)
東京都千代田区神田和泉町1-11-8
7. D会員 河本昇 山形市宮町2-4-66
3. 総合健診(一日人間ドック)施設の推薦につ
いて
以上について山本副会長から説明がなされ,正
奈良副会長から,一日人間ドック施設1件(東
会員の入会が6件と退会が15件あり,この退会15
京都港区・東京慈恵会医科大学附属病院健康医学
件は役員による慰留を実施済みとなっているが,
センター)の施設指定に関する日本総合健診医学
内訳は私的・公的が9件(廃院3,診療所へ移行
会の推薦(答申)について説明があり承認。
1,その他5)
,国立の経営移譲・廃院が6件とな
っている。また,役員慰留(真田常任理事)によ
る退会撤回が1件と,国立病院・療養所の統合が
3件ある。賛助会員の入会は4件と退会7件であ
る。以上について諮られ承認された。計正会員数
は2,752病院(公的966,私的1,786,総病床数72
万5,900床)
,賛助会員数は522会員となった。
〔報告事項〕
1. 各委員会,研究研修会の開催報告について
(1) 医療安全対策委員会
(元原常任理事,
3/12)
7/17∼18開催予定の医療安全対策セミナーにつ
いて検討した。ホスピタルショウ期間中の東京・
有明で開催し,テーマは「医療安全対策実施後の
日本病院会雑誌
2003年6月
122
■一番町だより
変化」
,サブタイトルは「はたして事故は減ったの
か?」と設定した。
診療報酬の特に手術料を決めるときは外保連に
諮問されるということになっているが,昨年12月
講師の選任を行い,
厚労省医政局の宮本審議官,
発表された「手術報酬に関する外保連試案・第5
八尾総合病院の森先生,
看護協会の楠本常任理事,
版」を見ると,
「それぞれの診療行為に必要な消耗
愛知大学の弁護士の加藤先生等からそれぞれ内諾
品,
機器についても可能な限りリストアップして」
を得た。
などと書いてあるが,
「現在の診療報酬制度では医
(2) 広報委員会(真田常任理事,3/14)
療材料の中でも消耗品の多くは手術料に含まれて
2月の理事会で提起された対外広報,特に対マ
おり,材料費に圧迫されて技術料が低く抑えられ
スコミ広報の重要性について委員会としてどう取
てしまう例も認められる」
「消耗品は一応手術料金
り組むかを協議し,定例的な記者会見等を通して
とは別個に算定されるべきものとしてきたが,こ
マスコミへの情報提供が図れるような具体策を次
の内容や金額を具体的に提示していないため実際
回委員会でまとめることとした。
に使用される消耗品の費用が手術報酬に正確に反
当委員会ではかねて対外広報に対する議論を重
映されているか不明の状態である」などとして,
ねてきたが,現実的に発表内容に踏み込んで意見
術式ごとの試案に保険請求できる機器や材料は載
を披露できるスポークスマンがおらず現状では困
せているが消耗品は含まれていない。
難であるということであった。これを契機に,仲
要するに,健康保険の中の手術料はどういうも
介役を担うということに当委員会のスタンスを置
のかという理解が外保連にないのではないか。そ
いて,
具体的に検討していこうという考えである。
こは病院経営者の視点が欠けているからだろうと
(3) インターネット委員会
して,当委員会で幾つかの術式の独自調査を行っ
(大井委員長,3/21∼22)
たところ,虫垂切除術の保険請求できない消耗品
第3回視察調査として沖縄の中頭病院と,ちば
は計6,704円となり,保険点数6,420点に対して
なクリニックを訪ね,病診連携のためのインター
10.4%である。これは術衣から手袋から全部書い
ネットに対する取組みを視察した。連携アップの
てあり3人ずつでやっていることもわかる。同様
ために IT,インターネットを利用して管内ネット
にアキレス腱縫合術は11,425円で6,700点に対し
ワークを構築しようという狙いであるが,実際に
17.1%等々と挙げ,一番多いのは ACL 再建術(前
参加するところは今のところ2∼3にとどまると
十字靭帯断裂再建術)が98,234円で19,100点に対
いう状況であった。
し51.4%という数字になっている。
これが100分の
当委員会として画像配信サービスの導入が決ま
70で更に30%削られたら恐ろしい数字になる。こ
り,今年の日本病院学会,日本人間ドック学会,
ういうことについては,やはり日本病院会が調べ
日本診療録管理学会から開始したい。各学会長に
ないとできないことだと思う。
配信対象を選択してもらい,講師の了承を得られ
ここに書いたのは仕入値であるが,消耗品の仕
たものから画像にしてストリーミングで会員に配
入等の調査をしたらどうか。その対象は常任理事
信する。それを逐年ためて日病の財産として残し
の先生方の病院と,当委員会の調査協力病院の中
て行きたい。また,日病雑誌掲載論文のキーワー
に130ほどの定点観測病院があり,
そこにお願いし
ドを利用した文献検索システムやセミナー等の申
て幾つかの手術の項目を決め,その調査結果をも
込受付システムをホームページで構築することと
とに手術点数を決めるよう厚労省に提言して行き
した。
たいと思い提案したものである。
(4) 医療経済・税制小委員会
以上の報告に対し,山本副会長から外保連との
(池澤常任理事,3/24)
関係について,日病は内保連には委員が出ている
小委員会として関東地区の委員が集まり緊急開
が外保連には出ていないということで,外保連の
催した。
比企会長と相談した時期がある。外保連にはその
日本病院会雑誌
2003年6月
123
■一番町だより
ルールの中で日病が入ることはできないが,日病
が実施した新臨床研修制度の会員調査結果をもと
という団体を重要に考えているのでむしろいろい
に,より多くの会員が研修施設に参加してもらう
ろ事情を教えてもらい,指導してほしいというこ
ためにも二次医療圏ごとの管理型もしくは協力型
とであった。そういう意味で今の池澤先生の意見
病院の募集,紹介等情報提供を行う窓口を日病内
なども,今度会長が出月先生に替わると伺ってい
に設けることとした。これを日病ニュースで広報
るが,大変身近な問題なので,そのようなパイプ
し,またホームページに臨床研修のコーナーをつ
を使って意見反映して行くことを考えていいので
くり,臨床研修病院の会員一覧を載せることとし
はないかと思うと補足説明した。
た。
(5) 通信教育委員会・診療情報管理課程小委員
会(山本副会長,3/26)
指導医の養成については日病として高い理想を
掲げ,独自の養成を試みたい。このプログラムの
平成14年度冬期期末の進級及び卒業試験の合否
素案を西村先生から作成してもらい,次回の委員
判定を行った結果,今回の卒業生(認定者)は419
会で決めていきたい。マッチングについては,厚
名で認定者の総累計は6,766名となった。
この中に
労省が既に医療研修推進財団に投げかけて事業の
は旧診療録管理士2,232名が含まれており,
まだ診
一部を担う予定とされているので,日病としても
療情報管理士の資格をもってないので近々その試
協力するよう会員に働きかけていきたい。もう一
験を実施するよう検討した。また,診療情報管理
つ,会員調査で日病に標準的なコアカリキュラム
士の名称が長すぎるので何か略称がないか,英語
の作成を期待する声が大きかったが,実際上はな
名称をつけたらどうなるかということについても
かなか難しいという意見が多く当面は見合わせる
検討した。いいアイディアがあればお寄せいただ
こととした。
きたい。
(8) 医療制度・社会保険老人保健合同委員会
(6) 感染症対策委員会(武田副会長,3/25)
(西村常任理事,3/28)
当委員会の木村委員が第18回の日本環境感染学
介護報酬改定の影響度を調べたいと川合委員か
会の学会長として,感染対策のエビデンスを主体
ら提案があり3月と4月の比較調査を行うことと
に講演された。その中で行われたワークショップ
した。また,昨日閣議決定された高齢者医療制度
「エビデンスのない感染対策,ある対策」が座長
との絡みがあるので今後当合同委員会でも介護保
の大久保先生によりまとめられるとのことなの
険問題を検討することとした。
で,
日病雑誌に掲載していただくよう要請したい。
3/26の医業経営の在り方検討委員会で最終報告
CDC(米疾病対策センター)のガイドラインで今度
案が了承されたことを受け,当委員会の中の「病
手洗いのアルコール製剤の消毒が認められたとい
院の法人形態を検討する小委員会」を再開するこ
うことなので,ニュースか何かに掲載して周知し
ととした。関連して「資金調達のあり方に関する
たい。また,いろいろな感染症が発生しているの
委員会」が四病協で設置されることになった。対
で入院した際の対策も触れていきたい。
外広報というのは重要であることから,これを担
当委員会の ICS 養成のための感染管理講習会は
当する副会長を決めて国民に対してもっと幅広く
第2クールを終え5月の第3クールで1コースを
医療界の現状と日病の活動を理解してもらう必要
終了する。次の15年度の3クールは年度内に終わ
があるという提案があり,また委員会へのプレス
らせようと考えている。次回からは四病協として
関係者の出席もルールを決めるよう会長・副会長
実施する予定である。
会議に判断を仰ぐこととした。
(7) 臨床研修問題検討小委員会
混合診療について議論し,最終的には小委員会
(大井委員長,3/28)
を設置することが適当であるとした。重要案件に
1年後に迫った臨床研修の必修化に向けて日病
ついて議論がなかなかまとまらないので小委員会
として今後どう取り組んでいくか検討した。日病
を設置して審議を効率化してきた流れがあり,委
日本病院会雑誌
2003年6月
124
■一番町だより
員長には西村が就くということになった。医療分
から,いわゆる一般病院は急性期病院になってい
野の労働者派遣の規制緩和問題については継続検
き,それから療養,介護型とあって,そういうも
討とした。
のの間に何かないと地域医療が完結しない。地域
(9) 学術委員会(星監事,3/28)
一般病棟はそういう位置づけであり,厚労省も理
日病雑誌4月号を本日配布した。グラフは金沢
解され一緒にネーミングを考えていただきたいと
の社会保険病院で,巻頭言は「医療事故における
警察への届出義務」ということで小堀先生からい
ただいた。記事は医療安全セミナーの講演で「失
敗学のすすめ」という畑村先生の興味深い内容が
補足した旨の報告。
5. 第28回日本診療録管理学会の収支決算報告に
ついて
載っている。
「医師のための保険診療の手引き・第
西村常任理事から,昨年,奈良市で開かれた第
16版」を掲載した。例年旭中央病院の協力を得て
28回日本診療録管理学会の収支決算について,総
掲載しており,
希望者が多くて別刷を200円で頒布
額1,957万円となる決算報告が監査報告とともに
中である。英文誌も年度内に何とか完成した。雑
提出され了承された。
誌5月,6月号について企画編集した。
(10) 研究会・セミナー報告
6. 医療機器センター理事会の報告について
① 介護報酬改定説明会(2/28,東京,参加
3/11の理事会に中山会長が出席し,センターの
496名。
「介護報酬改定の内容について」
「今
事業として先進的な医療機器の開発,その他の援
後の施設運営について」
)
助,医療用具の承認速報,医療用具と薬事法のビ
②
事務長セミナー(3/12∼13,横浜,156
デオ販売,医療機器の品質マネジメント指導者の
名。
「医療保険制度改革」
「事例報告・一般
養成講座,ME の試験,臨床工学士の試験その他の
病床と療養病床の選択」
「経営情報開示と病
事業計画・予算案等を審議し承認された旨の報告。
院会計準則」
「特定機能病院の定額制-DPC」
他)
7. 日本病院会支部の総会報告について
瀬戸山常任理事からの高知県支部
(細木支部長)
2. 四病協諸会議の開催報告について
(3/8)の総会報告と,新潟県支部(渡部支部長)
3. これからの医業経営の在り方に関する検討会
の報告について
(3/12)からの支部設立総会報告が提出された。
高知県では今年9月,第29回の日本診療録管理学
会学術大会の開催が予定されており,新潟県では
以上については,時間の関係で報告を省略し,
報告書及び資料を一読するということで了承され
た。
設立総会に続いての病院管理セミナー(講師・梶
原日病監事)に多数の参加があった旨の報告。
8. その他
4. 医療提供体制の改革の基本的方向に関するヒ
アリング報告について
(1)
日本医療機能評価機構理事会・評議員会
(3/13)へ中山会長が出席し,評価機構の予備審
奈良副会長から報告され,厚労省・医療制度改
査を廃止したので病院団体で替わってアドバイス
革推進本部のヒアリング(3/14)に四病協代表が
などの協力をしてほしい旨の説明があった。
また,
出席して,かねて要望している地域一般病棟の概
医療安全相談センターが全国規模で開設されるが
念について全日病の猪口先生から説明がなされ,
機構として支援事業を行う等の報告。
その実現を求めた。
(2) 医療研修推進財団理事会(3/19)へ中山会
この名称については,地域医療支援病院なども
長が出席し,同財団が医師臨床研修のマッチング
あって少し混乱しているが,終わりに奈良のほう
作業に関する実施機関となるため寄付行為を変更
日本病院会雑誌
2003年6月
125
■一番町だより
する旨の報告がなされた。岩崎参与から補足説明
があり,その後財団が実施機関として確定した。
マッチングは来年スタートするが,今年の8月ま
でに各臨床研修病院はプログラムをつくり上げ,
〔協議事項〕
1. 高齢者医療制度の改革について
それを公開して,この医療研修推進財団に登録す
中山会長から,昨日閣議決定した医療制度改革
る。卒業予定の医学生も8月までに登録すること
における高齢者の医療問題について意見をききた
になっていると報告した。
いと提起され,川合常任理事は75歳というのが議
山本副会長からはマッチングの問題で確認した
論の一つのポイントで,
新制度の財源は75歳から,
いとして,臨床研修に参加するのは既存の指定病
75歳以上の保険料と各保険からの支援,そして税
院がそのままのプログラムでやる場合はいいが,
金が50%となっている。この各保険からの支援と
プログラムを変えるときは4月30日までに提示
いうものを,税金で一度にやってしまうかどうか
し,新たに参加する病院は8月30日までに出すこ
という議論が必要ではないか。というのは,国保,
とになっていると説明した。
社保,共済は純然たる保険で運営していって,高
以上に対して星参与から,医療研修推進財団は
齢者の部分は税が中心となるようなかたちになっ
マッチングの作業に関する実施機関であって窓口
たほうがスッキリする。ここの点は日医と全く一
ではない。そういう意味では,実施機関というの
致するはずで,この各保険からの支援を税で賄え
はまだ決まっていないと修正した。コンピュータ
という国民運動に持っていくべきではないかと述
でマッチングだけすればいいという仕事ではな
べた。
く,現実にはいろいろと研修医や臨床研修病院で
福井常任理事は,厚労省が出した高齢者医療の
問題が出てきたときにどう対応するかという窓口
財源別負担に関する図を見ると,2002年9月(改
がなければいけない。全国にネットワークがある
正前)の「70歳以上,公費3割」という国庫・地
ところが最終的な面倒を見ないとダメだろうとい
方負担の面積と,2007年10月(移行完了後)の「75
うことで全国的な組織をつくろうという動きがあ
歳以上,公費5割」という国庫・地方負担の面積
る。それと,この間通知が出たのは,15年度から
がほとんど変わらないものになっている。国が5
研修するのだったら3月中に出しなさいというの
割出すといっても3割負担のときと同じというこ
が出ただけで,来年の予定はまだ決まってない。
とである。いまの川合先生の話は賛成で,高齢者
既存の臨床研修病院については,新しいガイド
は社会保険でやるのは無理である。1割は窓口負
ラインに沿ったプログラムにしなければいけない
担,1割は保険料,あと8割は社会保障という意
ことになっており,全く合致するのであれば変更
味であって,75歳以上とこれだけ長生きをされて
の届出は必要ないが,
ほぼ100%の病院が変えなけ
きた,国に何らかの貢献もしているわけで,国が
ればならないと思う。精神科が入っていない,あ
全部税金で見て,若い人たちの保険から補助金を
るいは地域医療が入るということで。その新しい
出すようなことはやめてスッキリしたほうがいい
ものを厚労省に届けてプログラムとして認定して
と補足した。
もらう話と,マッチングに出す話と混ざっている
梶原監事は,厚労省から医療制度改革で新しい
が,厚労省に出すものについて言えば追って通知
案が出たが,何か従来のA案,B案を足して2で
するということで,今のところ4月30日までには
割ったような感じがあるし,日医の意向も日病が
来年のプログラムを出しなさいということになっ
出した案も全部取り込まれているような感じでス
ている。マッチングの受付はまだ始まっていない
ッキリしない。75歳以上の高齢者は7割以上が何
ので出しようがないし,厚労省の通知も現実には
かしらの医療にかかるということなので,これは
まだ出ておらず,確定していないと説明がなされ
保険でなく保障でやる,日病で提言したように高
た。
齢者医療は社会保険方式でなく社会保障医療とし
日本病院会雑誌
2003年6月
126
■一番町だより
て考えるべきである。年齢については,我々は70
である。それだけ余裕を持っていて,そういうこ
歳以上という将来の介護保険との整合を考えて出
とをしていて赤字だ赤字だと言うのは実際おかし
した。社会保険方式にすると厚労省が権限を離さ
な話である。だいたい私の知り合いに聞いてみて
ない,国保も政管健保も税を投入している限り財
も,
前は1万5,000円だったのが2万円になったと
務省のくびきから離れられない。絶えず国家予算
か,
1万円が1万5,000円になったというくらいで
と医療費がリンクされていくという形であり,こ
あり,こういう記事もよく見ておいていただきた
こは根本的にスッキリさせることが必要であると
いと追加発言した。
述べた。
中山会長は,それだけ共済組合にしても健保組
川合常任理事は,いま75歳以上が正論であるか
合にしても,会社にもよると思うが優遇されてい
のように,健康保険法の改正は確かに75歳以上と
る。そのへんはやはり一元化,一本化されていか
なっているが,健康保険法と介護保険法とは対等
なければいけない問題であり,これは今後も主張
な法律である。
介護保険は65歳と規定されている。
していきたい。高齢者医療の問題は国民が新しい
2年後の,介護保険の本則改正のときに,この高
案で納得するかどうかということもあり,今後の
齢者医療保険制度の75歳がどうなるか。問題は国
方向を見守っていきたいとまとめて議了した。
民がどれに賛成するかということであると思うと
追加発言した。
2. 混合診療について
星参与からは,75歳という問題はどこに線を引
中山会長から,先ほど西村先生の委員会報告に
くのが妥当かという問題であり,いまの話のよう
もあった混合診療について我々の意識をできるだ
に保険制度に一回国費が入って,そこから吸い上
け統一させていきたいと提起し,混合診療という
げるかたちをつくっていく以上管理型の医療制度
言葉の定義がいまひとつはっきり見えてこない。
でしかあり得ない。ここを何とか切りたいといっ
保険診療と保険外診療,また自由診療という言葉
たとき,何歳というのが財政的にも,あるいは国
がある。卒業したての医者とベテランの教授が同
民的な議論からいっても受け入れられるかという
じ点数ではおかしいという意見も昔からある。医
ことが争点だと思う。そういう意味で,日医が主
師に対して患者から指名料を取れるのか,そうい
張した75歳というのは有病率とか実際に使ってい
うことまで混合診療というのか。こういうことに
る医療費の額とか,そういうものから計算して主
ついて今までの議論をまとめてほしいと西村常任
張しているものである。皆さん方の共闘の結果で
理事に発言を求めた。
もあり,いまの段階では主張を変えないでいくべ
きだと思うと述べた。
西村常任理事は,一つは定義の問題があり,こ
れを整理する必要がある。法律の規定がある。も
福井常任理事は更に,読売新聞の3月25日付の
う一つは,実体としていろいろなことが起きてい
「制度改定,家計を守る」という欄の「医療費3
る。特定療養費という枠がどんどん拡大している
割負担,
“高額療養費”申請忘れずに」という記事
が,これはどうなのかという問題。また,かなり
を取り上げ,その中で「申請をしなくても払戻し
のお金が謝礼として払われていると書かれたこと
をしてくれる健康保険組合もあるが,自分の場合
もある。そういう諸々の不合理な点があり,それ
は手続が必要かどうかを知っておくといいでしょ
を目隠しして議論するわけにはいかないと思う。
う」と書いてある。申請しなくても払戻ししてく
委員会を立ち上げるにあたって大変なものを背負
れるとはどういうことかというと,自分の払った
ったということだが,これから委員を指名させて
のものが2万円まで返してくれる。以前は1万円
いただくので,自分で検討してみたいという方が
とかひどいのは8千円ぐらいと,ほかの政府管掌
いたらぜひ申し出ていただいて一緒にやりたいと
や国保が6万3,600円払っているときに1万円以
述べた。
内でも返してきたというのが健保組合や共済組合
日本病院会雑誌
川合常任理事は,混合診療の問題で言葉の定義
2003年6月
127
■一番町だより
とか特定療養費の話の前に,日本は社会保障,医
拡大させたいというのが厚労省の考えである。そ
療保障をどうするかという論議が必要と思う。日
うすると,高度先進医療が一般的になってきたと
本は少なくとも低負担で中福祉という方向と思う
きは速やかに保険に収容するという条件をつけて
が,その考え方では結局財源論の話になってしま
いかなければいけない。また,選定医療は国民の
う。我々医療職からしてみれば残念な話だけれど
要求の多様化に対応するものであり,当然これも
も,低負担でそこそこの社会保障を考えた場合は
高度になっていくことは間違いないと思うと述べ
医療もいずれは年金と同じようになるのかと思
た。
う。日本病院会としてはどっちなのだと,そうい
池澤常任理事は,医師の謝礼の問題で,現に大
う原点から一度考えてみる必要があると述べた。
学病院などに一部あったのは見てきたが,そんな
奈良副会長は,この混合診療の問題は私が副会
ものは医療の堕落であって普遍しないと思う。と
長になってから連綿としてやっているけれど,意
にかくフリーアクセスが一番大事である。もう一
見がいまだにまとまらないという格好になってい
つ,混合診療というのは,ドクターが検査しよう
る。私はこの際,乱暴な言い方だが,アメニティ
とすると事務方がそれは保険で通ってないからや
ーの問題と人権の問題にまとめてしまって,いわ
めてくれというときと,院長が認定してやってし
ゆる患者の生命に関する限りは絶対にここまでは
まうという場合があって,そのとき,売店で売っ
譲らないというものと,アメニティーに関しては
ているから買ってくるということが認められてい
例えば豪華な病室に入りたいとか,おいしいもの
るが,これは混合診療である。そういう問題も考
を食べたいというのはお金をとるというようにま
える必要があると思うと述べた。
とめる。この問題は我々医療関係者が足並みを揃
えておく必要があると述べた。
中山会長は,それらの問題もふくめて,我々自
身が考えていかなければならない問題がたくさん
中山会長は,もともと特定療養費は選定医療と
あると思う。今度設置される小委員会で幅広く細
高度先進医療に分けて,選定医療というのはどち
かく検討していただきたいとまとめて議了した。
らかというとアメニティーに関するもので,高度
先進医療というのは非常に高額な,心臓移植など
以上で議事終了し,山本副会長が閉会の挨拶を
行った。
が適用されている。それがだんだん拡大し,なお
日本病院会雑誌
(日本病院会事務局広報部)
2003年6月
128
■一番町だより
寿国を誇っていた医療制度も,貧富,所得の差で
平成14年度 代議員会 議事抄録
日 時
受ける医療に差が現れることが国民にとって幸せ
15年3月29日(土)
な政治と言えるだろうか。最後まで反対していか
午後3時∼4時10分
会 場
ねばならないと考える。
ダイヤモンドホテル
私どもが望む医療制度改革は正しい良質の医療
地下2階「スタールビー」
を提供するための改革であり,医療の質の向上,
安全管理の徹底,患者サービスの向上,患者の満
定刻となって加藤代議員会議長から開会の挨拶
足度の向上,説明と納得の上の選択,医療の標準
が行われ,本日は今後1年間の日本病院会の運営
化,更には自浄作用が必要である。また,地域に
について審議願いたい旨が述べられた。引き続き
おける存在理由の確立と機能分化,第三者機関に
来賓の参議院議員宮崎,武見両氏と日医星常任理
よる機能評価,診療データの集積と利用,公開,
事から挨拶がなされたあと,会議定足数として定
透明化,卒後臨床研修における医師の人格養成と
数119名に対し出席38名,委任状58通,計96名で過
全人的診療が可能である研修制度の確立等であ
半数に達して本会議が成立している旨が報告さ
る。良い医療制度を堅持するのも改革であると思
れ,議事録署名人として埼玉県の戸倉,長野県の
う。
関両代議員が選出された。
来年度から新たな臨床研修制度がスタートす
続いて,中山会長の挨拶が次のように行われた
あと,議事に入った。
る。臨床研修病院と研修医とのマッチングプログ
ラムも第三者が行うことが望ましい。各会員にお
かれてはぜひ積極的に参加して,良き医師の育成
(中山会長の挨拶要旨)
に協力いただきたい。
経済財政諮問会議,総合規制改革会議により一
迫りくる制度改革に対し,日本病院会は国民に
昨年から聖域なき構造改革が提唱され,医療分野
より良い医療を提供する責任ある立場にあるもの
も経済活性化,財政優先の視点から検討が行われ
として,諸々の課題に積極的に対応していきたい
ているが,現時点で最大の問題は医療への株式会
と考えている。会員の皆さまのご協力,ご支援を
社参入と混合診療である。
お願い致します。
生命,身体,健康を犠牲にしてまで経済活性化
を図るという考え方は全く逆であり,国民の健康
第一号議案 15年度事業計画(案)に関する件
保持なくして経済の活性化,内需の拡大はあり得
中山会長から15年度事業計画(案)について説
ない。株式会社の参入がなぜ今必要なのか。むし
明がなされ,15年度の事業計画として「1.医療
ろ社会保障制度の改革が先であり,とりわけ国民
制度殊に病院制度の調査研究に関する事項」から
皆保険制度の改善,継続が何よりも優先されるべ
始まり23項目を挙げている。
「3.病院職員の教
きで,それが国民の健康を守る最重要な課題であ
育・指導に関する事項」では,薬剤師が6年制と
ると主張している。
なるときの学生実習,また管理栄養士の実習を引
今回の特区構想は自由診療のみに株式会社の参
き受けてほしいという希望が来ている。
「6.病院
入を認めるもので,混合診療は除外されている。
の資質向上,医の倫理の昂揚,医師の研修に関す
外国人医師も当該国人の診療のみ許されることに
る事項」では臨床研修指導医の養成のため講習会
なっている。今後,特区構想は十分注意して見守
を開いてほしいという厚労省からの依頼がある。
る必要があり,
アメリカの商工会議所による圧力,
「12.学会および病院大会等の開催に関する事
民間保険との二階建てによる公的保険の縮小等が
項」では第53回日本病院学会が6/12∼13大阪で開
懸念される。日本の国民が国民皆保険制度によっ
かれ,学会長は大道學先生で,メインテーマが「道
て公正な医療を受けられ,世界の中でも冠たる長
のため,人のため,変わりゆく時代を映して
日本病院会雑誌
2003年6月
129
■一番町だより
OSAKA 次のステージへ」
。ノーベル賞を受賞された
ミナー等の事業は従来までの一般会計から分離し
小柴先生の講演も行われる。第44回日本人間ドッ
て,収益事業として特別会計を新たに設け経理す
ク学会は8/28∼29京都で,
学会長は武田隆男先生。
るよう指導を受けており,
15年度から実施したい。
「命の力を信じて 活力の再生へ」というテーマ
款項目も一部追加,修正をした。
で開かれる。第29回日本診療録管理学会学術大会
一般会計と4つの特別会計の予算総括表を見る
は9/11∼12高知で,
「IT 医療革命時代の診療情報
と,一般会計,特別会計合計で当期収入合計が8
管理 求められる医療と情報」というテーマで行
億3,511万円,前期繰越を合わせた収入合計が15
われ,学会長は瀬戸山元一先生。国際モダンホス
億5,438万円で,当期の支出合計は11億2,725万円
ピタルショウ2003は7/16∼18東京で開かれ,委員
を予定している。
長は里村洋一先生。テーマは「21世紀の健康,医
一般会計の収入の部では,正会員の会費収入が
療,福祉」
,副題が「安心と医療を求めて」となっ
2,790会員,収納率97.1%で積算して2億9,800万
ている。
円を計上している。一般会計で扱う事業収入は雑
「13.病院機能評価の研究に関する事項」では,
誌,ニュース等の購読料と人間ドック部会費収入
今度,評価機構の予備審査が廃止され,認定され
の2科目に減少した。賛助会員会費は521会員,収
た病院などが中心となってアドバイスを行うシス
納率95.4%で積算し,繰入金収入は事業特別会計
テムがつくられると思うので協力をいただきた
の収支差額分を一般会計に戻すかたちをとってい
い。
る。以上,当期収入合計が4億2,780万円,前期繰
「17.日本病院会の組織強化に関する事項」では
越を合わせ収入合計が6億396万円となる。
今回新潟県支部が結成され計13支部となった。今
支出の部では,委員会・部会費は23委員会・部
後も新たな支部設立に協力いただきたい。
「21.病
会が延べ135回の開催を予定し,
予防医学委員会の
院団体の大同団結に関する事項」では,四病協の
定例調査をはじめ各委員会で各種調査を計画して
8人委員会で即断即決できるシステムをつくっ
おりその経費を計上した。インターネット運営費
て,病院団体の緊密度,密着度を強めている。こ
は前年度ニュース発行費の中で合算していたもの
れからも組織をさらに強化していきたい。
を,事業拡大に伴って独立科目で執行することと
次に,委員会・部会は23あり,研究会の開催計
画は8研究会で13回を予定し,セミナーの開催計
した。四病院団体協議会も総合部会以下6委員会
が活発に活動しており,その経費を計上した。
画が11回,通信教育の病院経営管理者養成課程と
公租公課は,消費税と一般会計の中で扱う収益
診療情報管理課程のスクーリング・試験が計7回
事業部分の法人事業税分を計上した。繰入金支出
ある。人間ドック認定指定医研修会の実施計画は
は,退職手当積立金特別会計へ公認会計士の指摘
2回,施設の評価も今後実施の予定。海外視察研
もあり退職金総額の20%まで可能な法定繰入限度
究会計画は未定で,役員会の開催計画が原則第4
いっぱいの3,623万円を計上した。IHF 国際交流基
土曜日となっている。
金特別会計へも500万円を増額して計上した。
予備
以上の説明があり,15年度事業計画(案)は承
認された。
費は不確定事業があるため1,000万円を増額した。
以上,当期支出合計は6億168万円,当期収支差額
第二号議案 15年度収支予算(案)に関する件
はマイナス1億7,387万円で,次期繰越は227万円
となる。
大道副会長から説明がなされ,今回の予算編成
次に,事業特別会計について,収入の部は研究
については昨年11月から12月にかけて各事業を担
研修会,セミナー等の参加費と通信教育の受講料
当する委員長が集まって検討し,事業計画案を作
ならびに雑収入を上げている。研究研修会は8研
成してそれに基づき積算した。また監事,顧問公
究会で15回の開催を予定し,診療報酬改定説明会
認会計士から,受講料等を徴収する通信教育,セ
の東京1回分も計上している。通信教育は15年度
日本病院会雑誌
2003年6月
130
■一番町だより
平成15年度収支予算総括表
(15.4.1∼16.3.31)
科
目
合
計一 般 会 計
単位:千円
事
業 基 本 財 産 退職手当積立 IHF 国際交流
特 別 会 計 特 別 会 計 金 特 別 会 計 基金特別会計
Ⅰ.収入の部
1.会費収入
298,030
298,030
0
0
0
0
2.事業収入
389,757
29,730
360,027
0
0
0
30,340
30,340
0
0
0
0
8,957
7,902
220
550
105
180
108,035
61,805
0
0
36,230
10,000
当期収入合計
835,119
427,807
360,247
550
36,335
10,180
前期(一般)繰越収支差額
719,270
176,153
153,722
190,115
59,350
139,930
1,554,389
603,960
513,969
190,665
95,685
150,110
1.事業費
643,474
221,890
412,164
0
0
9,420
2.負担金
6,685
4,500
0
0
0
2,185
3.賛助会員会費並に寄付金
4.雑収入
5.他会計より繰入金収入
収入合計
Ⅱ.支出の部
3.会議費
39,173
39,173
0
0
0
0
4.事務諸費
314,888
274,888
40,000
0
0
0
5.他会計へ繰入金支出
108,035
46,230
61,805
0
0
0
6.予備費
15,000
15,000
0
0
0
0
当期支出合計
1,127,255
601,681
513,969
0
0
11,605
当期収支差額
△292,136
△173,874
△153,722
550
36,335
△1,425
427,134
2,279
0
190,665
95,685
138,505
次期繰越収支差額
も診療情報管理士の受講者の増大が予想され増額
マイナス1億5,372万円となり,繰越はゼロであ
している。
以上,
当期収入合計は3億6,024万円で,
る。
一般会計からの繰入れと合わせ収入合計が5億
1,396万円となる。
次に,基本財産特別会計は受取利息のみの収入
で,
退職手当積立金特別会計は一般会計から3,623
支出の部は,研究研修会に診療報酬改定説明会
万円を繰入れ,IHF 国際交流基金特別会計は1,000
の経費を含み,通信教育は診療情報管理課程のカ
万円を繰入れた。支出の部は,IHF 国際交流基金
リキュラム変更に伴って教材作成費や採点料,多
のアジア地域病院関係費として第53回日本病院学
人数収容可能なスクーリング会場確保のための経
会の5カ国分の招待費用と AHF 関係会議の出席費
費を積算している。セミナーは感染管理者養成講
用を計上している。欧米等地域病院関係費として
座がスタートしたのでその分の増額計上をしてい
は IHF 理事会の出席費用と負担金を計上してい
る。統計情報関係費は項目を細分化し,公私病院
る。
連盟との共同システム導入に伴う病院運営実態分
析調査の調査,集計費を計上している。
以上のほかに,実施予定の事業として臨床研修
指導医の研修及び医療安全管理者の養成研修事業
公租公課については,通信教育受講料収入の増
等があるが,その内容や四病協と合同開催の計画
加に伴う消費税及び法人事業税の増加分3,000万
などが未確定のため本予算に計上していない。年
円を計上し,繰入金支出は15年度収支の差額分
度途中に新たに事業を実施するときは予算の修正
6,180万円を一般会計に戻す予定である。
以上によ
が必要で,理事会の認定を経て代議員会及び総会
り当期支出合計は5億1,396万円で当期収支差は
の議決を得ることになっており,このような手続
日本病院会雑誌
2003年6月
131
■一番町だより
きをとりたい。
を受けられ,世界の中でも冠たる長寿国を誇って
以上の予算案については2月の理事会で承認を
いた医療制度も,貧富,所得の差で受ける医療に
いただいたと説明し,15年度収支予算(案)は承
差が現れることが国民にとって幸せな政治と言え
認された。
るだろうか。最後まで反対していかねばならない
以上で審議を終え,赤沼代議員会副議長から閉
会の挨拶が行われて,代議員会を終了した。
と考える。
私どもが望む医療制度改革は正しい良質の医療
を提供するための改革であり,医療の質の向上,
安全管理の徹底,患者サービスの向上,患者の満
足度の向上,説明と納得の上の選択,医療の標準
化,更には自浄作用が必要である。また,地域に
平成14年度 総会 議事抄録
おける存在理由の確立と機能分化,第三者機関に
日 時
平成15年3月29日(土)
よる機能評価,診療データの集積と利用,公開,
午後3時∼4時10分
透明化,卒後臨床研修における医師の人格養成と
会 場
ダイヤモンドホテル
全人的診療が可能である研修制度の確立等であ
地下2階「スタールビー」
る。良い医療制度を堅持するのも改革であると思
う。
定刻となって中山会長から開会が宣せられ,会
迫りくる制度改革に対し,日本病院会は国民に
議定足数として定数2,764名に対し出席81名,
委任
より良い医療を提供する責任ある立場にあるもの
状1,684通,計1,765名で過半数に達して本会議が
として,諸々の課題に積極的に対応していきたい
成立している旨が報告され,議事録署名人として
と考えている。会員の皆さまのご協力,ご支援を
埼玉県の戸倉,長野県の関両氏が選出された。続
お願い致します。
いて,
中山会長の挨拶が次のように行われたあと,
議事に入った。
第一号議案 平成15年度事業計画(案)に関する件
中山会長から平成15年度事業計画(案)につい
(中山会長の挨拶要旨)
て説明がなされ,15年度の事業計画として「1.
経済財政諮問会議,総合規制改革会議により一
医療制度殊に病院制度の調査研究に関する事項」
昨年から聖域なき構造改革が提唱され,医療分野
から始まり23項目を挙げている。
「3.病院職員の
も経済活性化,財政優先の視点から検討が行われ
教育・指導に関する事項」では,薬剤師が6年制
ているが,現時点で最大の問題は医療への株式会
となるときの学生実習,また管理栄養士の実習を
社参入と混合診療である。
引き受けてほしいという希望が来ている。
「6.病
生命,身体,健康を犠牲にしてまで経済活性化
院の資質向上,医の倫理の昂揚,医師の研修に関
を図るという考え方は全く逆であり,国民の健康
する事項」では臨床研修指導医の養成のため講習
保持なくして経済の活性化,内需の拡大はあり得
会を開いてほしいという厚労省からの依頼があ
ない。株式会社の参入がなぜ今必要なのか。むし
る。
ろ社会保障制度の改革が先であり,とりわけ国民
「12.学会および病院大会等の開催に関する事
皆保険制度の改善,継続が何よりも優先されるべ
項」では第53回日本病院学会が6/12∼13大阪で開
きで,それが国民の健康を守る最重要な課題であ
かれ,学会長は大道學先生で,ノーベル賞を受賞
ると主張している。
された小柴先生の講演も行われる。第44回日本人
今回の特区構想は自由診療のみに株式会社の参
間ドック学会は8/28∼29京都で,学会長は武田隆
入を認めるもので,混合診療は除外されている。
男先生。第29回日本診療録管理学会学術大会は
日本の国民が国民皆保険制度によって公正な医療
9/11∼12高知で,学会長は瀬戸山元一先生。国際
日本病院会雑誌
2003年6月
132
■一番町だより
モダンホスピタルショウ2003は7/16∼18東京で開
戻すかたちをとっている。以上,当期収入合計が
かれ,委員長は里村洋一先生。
4億2,780万円,
前期繰越を合わせ収入合計が6億
「13.病院機能評価の研究に関する事項」では,
396万円となる。
今度,評価機構の予備審査が廃止され,認定され
支出の部では,委員会・部会費は23委員会・部
た病院などが中心となってアドバイスを行うシス
会が延べ135回の開催を予定し,
インターネット運
テムがつくられると思うので協力をいただきた
営費は前年度ニュース発行費の中で合算していた
い。
ものを,事業拡大に伴って独立科目で執行するこ
「17.日本病院会の組織強化に関する事項」では
ととした。四病院団体協議会も総合部会以下6委
今回新潟県支部が結成され計13支部となった。今
員会が活発に活動しており,
その経費を計上した。
後も新たな支部設立に協力いただきたい。
「21.病
公租公課は,消費税と一般会計の中で扱う収益
院団体の大同団結に関する事項」では,四病協の
事業部分の法人事業税分を計上した。繰入金支出
8人委員会で即断即決できるシステムをつくっ
は,退職手当積立金特別会計へ公認会計士の指摘
て,病院団体の緊密度,密着度を強めている。こ
もあり退職金総額の20%まで可能な法定繰入限度
れからも組織をさらに強化していきたい。
いっぱいの3,623万円を計上した。
予備費は不確定
次に,委員会・部会は23あり,研究会の開催計
事業があるため1,000万円を増額した。以上,当期
画は8研究会で13回を予定し,セミナーの開催計
支出合計は6億168万円,
当期収支差額はマイナス
画が11回,通信教育の病院経営管理者養成課程と
1億7,387万円で,次期繰越は227万円となる。
診療情報管理課程のスクーリング・試験が計7回
次に,事業特別会計について,収入の部は研究
ある。人間ドック認定指定医研修会の実施計画は
研修会,セミナー等の参加費と通信教育の受講料
2回,施設の評価も今後実施の予定。海外視察研
ならびに雑収入を上げている。研究研修会は8研
究会計画は未定で,役員会の開催計画が原則第4
究会で15回の開催を予定し,通信教育は15年度も
土曜日となっている。
診療情報管理士の受講者の増大が予想され増額し
以上の説明に続けて,第2号議案が諮られた。
第二号議案 平成15年度収支予算(案)に関する件
ている。以上,当期収入合計は3億6,024万円で,
一般会計からの繰入れと合わせ収入合計が5億
1,396万円となる。
大道副会長から説明がなされ,今回の予算編成
支出の部で,通信教育は診療情報管理課程のカ
については監事,顧問公認会計士から,受講料等
リキュラム変更に伴って教材作成費や採点料,ス
を徴収する通信教育,セミナー等の事業は従来ま
クーリング会場確保のための経費を積算してい
での一般会計から分離して,収益事業として特別
る。セミナーは感染管理者養成講座がスタートし
会計を新たに設け経理するよう指導を受けてお
たのでその分の増額計上をしている。統計情報関
り,15年度から実施したい。
係費は項目を細分化し,公私病院連盟との共同シ
一般会計と4つの特別会計の予算総括表を見る
と,一般会計,特別会計合計で当期収入合計が8
ステム導入に伴う病院運営実態分析調査の調査,
集計費を計上している。
億3,511万円,前期繰越を合わせた収入合計が15
公租公課については,通信教育受講料収入の増
億5,438万円で,当期の支出合計は11億2,725万円
加に伴う消費税及び法人事業税の増加分3,000万
を予定している。
円を計上し,繰入金支出は15年度収支の差額分
一般会計の収入の部では,正会員の会費収入が
6,180万円を一般会計に戻す予定である。
以上によ
2,790会員,収納率97.1%で積算している。一般会
り当期支出合計は5億1,396万円で当期収支差は
計で扱う事業収入は雑誌,ニュース等の購読料と
マイナス1億5,372万円となり,繰越はゼロであ
人間ドック部会費収入の2科目に減少した。繰入
る。
金収入は事業特別会計の収支差額分を一般会計に
日本病院会雑誌
次に,基本財産特別会計は受取利息のみの収入
2003年6月
133
■一番町だより
で,
退職手当積立金特別会計は一般会計から3,623
与差とか赤字,
黒字の比率など官民格差が激しく,
万円を繰入れ,IHF 国際交流基金特別会計は1,000
会計制度もちがう中で,日本病院会としてどう考
万円を繰入れた。支出の部は,IHF 国際交流基金
えていくのかという視点をもう少し鮮明に出して
のアジア地域病院関係費として第53回日本病院学
いかないと,国がやろうとしている皆保険制度解
会の5カ国分の招待費用と AHF 関係会議の出席費
体ということにも対処できないと思う。そういう
用を計上している。欧米等地域病院関係費として
点の,議論の場をキチッと保証するという約束を
は IHF 理事会の出席費用と負担金を計上してい
してほしいという提案であった。
る。
中山会長はこれに対し,官民格差についてはま
以上のほかに,15年度実施予定の事業として臨
ず病院会計準則を共通にして,医業経営の実態調
床研修指導医の研修及び医療安全管理者の養成研
査が比較できるように,意味のあるものにしよう
修事業等があるが,その内容や四病協と合同開催
と研究してその内容を固めつつあり,官民格差を
の計画などが未確定のため本予算に計上していな
なくしていこうと努力している。セミナー等の開
い。年度途中に新たに事業を実施するときは予算
催地区が東京近くに限られているという指摘は,
の修正が必要で,理事会の認定を経て代議員会及
長年の歴史があって,全国津々浦々で開催したこ
び総会の議決を得ることになっており,このよう
ともあるが,出席者がなかなか集まらないなどの
な手続きをとりたい。
隘路があった。今後できるだけ各地でも実施する
以上の説明に対して大分県の松本代議員から,
よう努力したい。また,会議の時間については次
この総会や代議員会が議論の時間が保証されてい
回から,討議の時間を十分とるよう検討したいと
ないのは問題があると発言がなされた。具体的に
答えた。
言うと,組織拡大が挙げられているが,研修会等
以上の説明があり了承されて,第1号議案の平
の事業が東京中心になっており,九州地区の病院
成15年度事業計画(案)
,第2号議案の平成15年度
のメリットがないのではないか。総会・代議員会
収支予算(案)に関する件とも承認された。
の時間が固定されて,次の講演も決まっていると
すると,
会長の所信表明に対する議論もできない。
株式会社の参入に対して各病院は経営戦略を検討
以上で審議を終え,山本副会長から閉会の挨拶
が行われて総会を終了した。
する必要があるということは,どういうことなの
(日本病院会事務局広報部)
か。株式会社参入というのは,私自身はもう少し
民活を活用せよという提案だと思うが,職員の給
日本病院会雑誌
2003年6月
134
日本病院会雑誌
2003年6月
63
掲
示
日本医療機
板
医薬安発第0317001号
器関係団体
平 成 1 5年 3 月 17日
協議会調査
結果
日本病院会
会長 中 山 耕 作 殿
厚生労働省医薬局安全対策課長
DEHP を含有しない輸液セット,カテーテル等の医療用具について
日頃より薬務行政の推進にご理解とご協力を賜り御礼申し上げます。さて,ポリ塩化ビニル製医療
用具に加えられる可塑剤である DEHP(フタル酸ジ−2−エチルヘキシル)に関する,平成13年度の厚
生労働省医薬安全総合研究事業における評価については,平成14年10月17日付け医薬安発第1017002
号「ポリ塩化ビニル製の医療用具から溶出する可塑剤(DEHP)について」によりお知らせしたところ
ですが,今般,日本医療機器関係団体協議会,日本医療器材工業会,欧州ビジネス協会協議会医療機
器委員会から DEHP を含有しない代替製品に係る調査結果が別添のとおり取りまとめられましたので
ご紹介致します。
当該情報について貴会傘下の会員に対し,ご周知いただきますよう特段のご配慮方よろしくお願い
日本病院会雑誌
2003年6月
64
日本病院会雑誌
2003年6月
65
日本医療器材工業会調査結果
欧州ビジネス協会協議会医療機器委員会調査結果
134
日本病院会雑誌
2003年6月
永寿総合病院平面図
(グラフの病院 P.149∼151)
日本病院会雑誌
2003年6月
135
136
日本病院会雑誌
2003年6月
概要・沿革
所
在
地
東京都台東区東上野2丁目23番16号
開
設
者
財団法人ライフ・エクステンション研究所
理事長 原田 歳久
管
者
病院長 崎原 宏
開設年月日
理
昭和31年2月11日
(平成14年2月1日に現住所に新築移転)
許可病床数
400床
昭和28年5月
社団法人ライフ・エクステンション倶楽部として許
可される
昭和31年2月
東京都台東区元浅草に研究所の付属機関として永
寿病院を開院する 160床
昭和32年1月
季刊専門誌「高齢医学」を発刊
昭和40年11月
付属病院が総合病院として許可され「永寿総合病
昭和42年2月
法人格を財団法人ライフ・エクステンション研究所
平成1年9月
当研究所機関誌「永寿総合病院紀要」を創刊以降毎
平成12年3月
新病院の建築着工
平成12年9月
財団法人日本医療機能評価機構の定める認定基準
院」となる。
と変更する
年発刊
(一般病院種別A)を達成し認定証を受領
平成12年10月
緩和ケア病棟(9床)を開設
平成14年2月
現在地(台東区東上野2−23−16)に新病院を開院
する 400床
診療科目
内科・神経内科・消化器科・循環器科・小児科・外科・整形外科・脳神経外科・呼吸器外科・皮膚科・
泌尿器科・産婦人科・眼科・耳鼻咽喉科・リハビリテーション科・放射線科・麻酔科・救急部・健診
センター
許可病床数:400床(療養型92床・PCU16床・ICU5床含)
建物概要
敷地面積:3,786.76㎡ 建築面積:2,183.84㎡ 延床面積:18,445.40㎡(地下駐車場339.67㎡含)
階数:地下1階 地上10階 ヘリポート 建造物高さ:44.6m
日本病院会雑誌
2003年6月
137
7月研究会のお知らせ
病院医療の質を考えるセミナー
日 時 平成15年7月16日(水) 13:30∼16:15
会 場 東京ファッションタウンビル「905・906号室」
東京都江東区有明3−1
電話 03−5530−5010(代)
テーマ 基調講演「経済的に運用可能な電子カルテへ」
講師 国際医療福祉大学副学長 開原 成允
「電子カルテ普及と標準化推進の枠組み」
講師 厚生労働省医政局研究開発振興課
医療技術情報推進室長 関
英一
「医薬品および医療材料マスター運用の実態と問題点」
講師 国立国際医療センター情報システム部長 秋山 昌則
「標準病名マスターの現状 ―ICD9CM と ICD10をめぐって―」
講師 岡山大学医学部附属病院医療情報部教授 太田 吉夫
シンポジウム「電子カルテ標準化の現状 ―運用の実態と将来への展望―」
薬事管理研究会
日 時 平成15年7月18日(金) 13:00∼16:30
会 場 東京ファッションタウンビル「904号室」
東京都江東区有明3−1
電話 03−5530−5010(代)
テーマ 講演「激動する医療提供体制を考える」
(株)クラヤ三星堂 CS センター
野添
満
日本大学薬学部薬事管理学研究室教授 白神
誠
(社)日本医業経営コンサルタント協会
講演「病院薬剤師と薬剤経済分析」
138
日本病院会雑誌
2003年6月
Fly UP