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Productive Aging 生き生きと老いる International Longevity Center-Japan Special Issue ILC Global Alliance ILC-Japan 名誉理事長 森岡茂夫(ILC-Japan) Sally Greengross, OBE(ILC-UK) Monica Ferreira, Ph.D.(ILC-South Africa) 国際長寿センター(International Longevity Center= ILC)は、少子高齢化に伴う諸問題を国際的・学際的 共同理事長 な視点で調査研究し、広く広報・啓発及び政策提言 を行うために誕生しました。 共同理事長 山之内製薬 (現アステラス製薬) 株式会社 元会長 英国上院議員 国連高齢化問題研究所理事 アメリカ、 日本、 フランス、 イギリス、 ドミニカ共和国、 インド、南アフリカ、アルゼンチン、オランダ、イスラエ ル、シンガポール、チェコ共和国、ブラジル、中国の世 ILC-USA 代表者:Ursula ILC-Japan 代表者:水田邦雄 ILC-France 代表者:Françoise ILC-Dominican Republic 代表者:Rosy 界14 ヵ国に設立された各センターは、「ILC Global Alliance」として共同事業を進めつつ、自国内でのそ れぞれの活動に精力的に取り組んでいます。 「ILC Global Alliance」は、老年学の世界的権威 である故ロバート・N・バトラー博士によって提唱さ 一般社団法人シルバーサービス振興会理事長 Forette, M.D. 医師 パリ市議会議員 医師 Pereyra, M.D. ● ILC-India 代表者:R.A. Mashelkar, Ph.D. 化学工学者 インド国立化学研究所特別会員 れました。日本ではその志に賛同した民間企業の思 いを受け止めた厚生省(当時)の指導の下、3年間の M. Staudinger, Ph.D. コロンビア大学公衆衛生学部教授 ILC-Argentina 代表者:Lia 医師 ILC-Netherlands い、調査・分析結果を広く情報提供・広報するなど、 Wouters 代表者:Sara Carmel, Ph.D. ベン・ガリオン大学教授 活発な活動を続けてきました。 また、日本の人口高齢化に関するさまざまな課題 代表者:Guus 企業年金基金理事長 ILC-Israel ILC-Singapore 代表者:Mary 医師 Special Issue Spring 2014 Daichman, M.D. 準備期間を経て1990年11月に設立されました。 以 来、少子高齢社会における政策提言や問題提起を行 長寿社会グローバル・インフォメーション ジャーナル Ann Tsao, Ph.D. 発 行:ILC-Japan(国際長寿センター) 〒105-8446 東京都港区虎ノ門3-8-21 虎ノ門33森ビル8F 一般財団法人長寿社会開発センター TEL FAX E-mail URL 編 集:株式会社青丹社 印 刷:大日本印刷株式会社 本誌掲載の記事・写真・図表等の無断複写(コピー) ・複製・ 転載を禁じます。 Tsao財団理事長 ① とそれに関わる制度、状況などを海外に知らせること ILC-Czech Republic 代表者:Iva Holmerova, Ph.D. プラハ老年学センター設立理事長 も、ILC-Japanの重要な任務と考えています。 ② 私たちは、すべての世代が支え合い、いきいきと生 ILC-Brazil Kalache, M.D. Ph.D. 医師 リオデジャネイロ州立大学名誉研究員 活できる豊かな高齢社会実現のためのさまざまな活 動に取り組んでいます。 代表者:Alexandre ILC-China 代表者:Du Peng, Ph.D. 人民大学老年学研究所所長 03-5470-6767 03-5470-6768 [email protected] http://www.ilcjapan.org ③ ⑥ ④ ⑦ ⑤ ⑧ Cover Photo: ① 吉野幸作氏 1912年生 ② 津久井桂子氏 1910年生 ③ 津田ヱイ氏 1904年生 ④ 吉田きし江氏 1912年生 ⑤ 進藤きみ氏 1908年生 ⑥ 守屋タメ氏 1904年生 ⑦ 福井福太郎氏 1912年生 ⑧ 竹田幸吉氏 1907年生 写真提供:小野庄一氏 contents Productive Aging 生き生きと老いる life ● 高齢者のさまざまな暮らし 心身の健康を自覚的に考える 3 子どもを地域で育てるボランティア 6 学びを通じて社会との関わりを考える 8 古くて新しい住まい方 talk ● ● 11 ILC Round Table Meeting 世界の高齢者のプロダクティブ・エイジング 問題提起・ 事例紹介 超高齢社会における 「プロダクティブ・エイジング」 3 ● 14 16 世界及び英国における 18 「プロダクティブ・エイジング」の現状と今後の方向性 opinion ● 全員参加・生涯参加を目指して 22 国際比較調査報告 24 ディスカッション 超高齢社会、 26 総力戦で真に明るい長寿社会の実現を 宣言 プロダクティブ・エイジング 東京ステートメント 29 超高齢社会を企業の視点で考える ● 30 長寿社会の中で思うこと 30 健康寿命に食の果たす役割 32 超高齢社会における金融機関の役割 35 退職者向けコミュニティに関する一私案 38 超高齢社会における自分づくりの一考察 41 長寿社会ライフスタイル研究会の活動 44 activity ● リタイア後の暮らし ● 45 trend ● 高齢者が幸福に暮らす条件とは ● 48 report ● 世界と日本のプロダクティブ・エイジング ● 53 平成24年度国際比較調査研究報告書から 【Productive Aging】 生き生きと老いる 人類の悲願であった長寿を、世界に先駆けてかなえることのできた日本。 平均寿命は男女平均では83歳、健康寿命も75歳を超えて、日本人は元気で人生90年を迎える ことが夢ではなくなっている。百寿者も既に5万人を超えているが、彼らが生まれた100年前の 日本人の平均寿命は40歳台であった。 この100年間の寿命の伸長は、まさに戦後日本の平和と繁栄の象徴であり、日本人の懸命な努 力の賜物である。 しかし今、私たちはこの世界に誇るべき大長寿時代を前にして、戸惑いと錯誤の中にいる。 日本では戦後の近代化、高度経済成長化に伴い少子化が進み、 1997年にはついに高齢者と子 どもの人口比が逆転することとなった。 この少子化の勢いには歯止めがかからず、 2055年頃には人口比率は、若・中年者5、高齢者4、 そして年少者1となることが見込まれている。 長寿化と少子化が組み合わされて、人類が今まで経験したことのない全く新しい社会が、これか らの日本に出現する。社会の急激な変化は私たちの暮らしにも、否応なしに大きな変化をもた らすだろう。 しかしどのような変化の中でも、一人一人が当事者として自分の老いと誠実に向き合い、日々の 暮らしの充実をめざすこと、良き市民として社会とつながりながら、生き生きと暮らすことが大切 なのは変わらない。 個人は、企業は、社会は、 どのように考え、いかに行動したらよいのか。 ILC創設者のロバート・バトラー博士が掲げた Productive Aging の切り口で、日本と世界の さまざまな事例や取り組みを紹介しておきたい。 2 高齢者のさまざまな暮らし 歳を重ねても健康で生き生きと、仲間とともに地域や社会で役割を果たしながら、 できれば若い人ともつながりを持って、生きがいのある人生を送る……。 全国のさまざまな事例から、そんな暮らしの一端を紹介する。 from AICHI 心身の健康を自覚的に考える 「脳とからだの健康チェック」 平均寿命は女性86歳、男性80歳と、世界でもトッ 不健康な状態にならない、なってもその期間をできるだけ プクラスの長寿先進国日本、少子化に歯止めがかからな 短くすることが、これからの高齢者の暮らしにとっては、非常 い状況では、人口に占める高齢者数は当然のことながら に重要な課題になると鈴木所長は指摘する。 上昇し続ける。 現在の65歳以上人口は25 %、 国民の4分の1だが、 ● ● 具体的な疾患でみると、一般的に女性は筋肉あるいは関 2055年には40%となり、人口の半数近くが65歳以上の 節など筋骨格系の老化の進み方が早く、これが原因で死に 高齢者で占められることになる。 至ることはないが、 不健康な状態での暮らしが長くなる。 ● だからといって、 をついた「お年寄り」が街にあふれか えるわけではない。 一方男性は血管の老化、動脈硬化を基盤とした血管病 変が早く進む。その結果例えば脳卒中を起こし一命は取り 留めても、 麻痺などが残ることで不健康な状態が長くなる。 現在の高齢者の多くは、20年前の同年齢と比べると、そ 死亡率が減っても発生率そのものが下がらなければ、根 の外見や身体機能において、確実に若返っていることはデー 本的な解決にはならないわけで、中年期における生活習慣 タ的にも証明されているし、日常生活の場でも実感されること 病予防のための取り組みの重要性は、 ますます増してくる。 である。100歳を超えても現役の医師であり世界を飛び回る ● ● ● 日野原重明氏や、 エベレストに登頂した三浦雄一郎氏を始め 高齢者に特定した場合は、男性においては血管の老化 とする 「スーパー老人」は、 これからますます増えてくるだろう。 抑制、 女性は筋骨格系の老化の抑制が重要なことは前述の しかし、鈴木隆雄国立長寿医療研究センター研究所長に とおりだが、鈴木所長によれば、より具体的には「老年性症 よれば、「歩行速度」や「握力」など体力測定の重要な指 候群」をいかにして予防できるかが、大事なポイントとなるそ 標となる数字は、75歳を過ぎて「後期高齢者」と呼ばれる うだ。 年齢になると、 やはり明らかに低下し始めるそうだ。 人口に占める高齢者数が多くなり、しかもその中の多数を 占める団塊世代がこれから後期高齢者の仲間入りをするこ とになる。心身の機能をできるだけ良い状態で長く維持する ことが、 いかに重要かは改めて言うまでもない。ミクロ的には、 個人が高齢になっても健康的で生き生きとした暮らしを続け るために、マクロでは介護や医療にかかる費用負担を削減 するために。 老年症候群とは、 「転倒」 や 「低栄養」 「口腔機能の低下」 「尿失禁」 「足の変形などのトラブル」などを指し、その特徴 は以下の3点である。 ① 明らかな疾病ではない ② 致命的な症状ではない ③ 日常生活への障害が初期は小さい これらの症状を早期に発見しその対策を講じておくこと 3 ■歩き方を正確に測定する は、特に後期高齢期に自立した生活を営むためには、欠か せない要素となってくる。 そこで国立長寿医療研究センターでは、日本人になじみ 丁寧に集められたデータの集積と、その後のさまざまな介 入から得られる知見は、 平均寿命90歳時代の高齢者の健康 長寿を支える新しい指標を考える上で、 重要な基準となる。 深い健診の仕組みを活用して、最も効率的に脳と身体の機 ● ● ● ● ● 能に着目する健診への取り組みを行ってきた。 住民は、個別に配布されたチラシや資料により参加申し込 日本では戦後の重要政策として、結核の早期発見と治療 みを行う。体育館などを利用した会場では、基本的な採血 を目的とした健診の仕組みを発達させてきた伝統があり、今 に加え、体力検査、骨量や筋肉などの体組成検査、歩行計 でもゼロ歳児から乳幼児、生徒、学生、社会人と、切れ目なく 測検査などのほかに、タブレットを使ったゲーム感覚での認 自身の健康に関してのチェックを受け続けることが、暮らしの 知機能検査も行われている。 中では習慣化している。 しかし、平均寿命が男女ともに90歳に近づこうとしている また生活機能を中心とした、 聞き取りも行われている。 ● ● ● ● ● ● 高齢者に対する集団的な健診は、当然他の年代とはその目 この健診の大きな特徴は、検査を行う専門スタッフに交 的を異にして、疾病の発見よりは介護予防に力点が置かれ じって、住民スタッフも業務の一端を担う、いわば地域巻き込 ることになる。 み型健診という点である。 ● ● ● ● 「認知症予防スタッフ」と呼ばれる方々は、座学による講 お話を伺った島田裕之自立支援システム開発室室長によ 習や実習、実地研修などを経て、その後実施される筆記試 れば、国立長寿医療研究センターが、大府市や名古屋市と 験、実地試験などをクリアして「認知症予防スタッフ」の資 協力して実施している「脳とからだの健康チェック」は、65 格証を持つ地域住民である。 歳以上の高齢者が対象でトータルで約2時間程度を要し、1 70代の方もおられ、運動機能検査、認知機能検査、生活 機能アンケートの回答確認など、3つの検査の実施に関わる 回に70名から100名が参加するという大規模なものである。 「運動機能」 「認知機能」のチェック、 「生活機能アンケー ことができる。講習や実習で学んだことを活かしながら、健 ト」と生体マーカー検査などを組み合わせたもので、 「健康で 診の場での具体的な対応を重ねスキルを磨き、謝金の支払 長生き」という介護予防を前面に打ち出して、モデル的に実 いも受けて事業の一翼を担っている。 施されている。 4 ■データをチェックする島田裕之室長 (左) 言うまでもないことだが、検査は継続して受け続けることに あるいは服薬などの指導を受けるようにできないか、というア イディアが生まれているという。 地域包括ケアシステムという考え方が、今後の高齢者の 暮らしの安心と安全を支えるものとなる。病気ではないので クリニックに行くまでもないが、不安を感じた時に気軽に訪ね て相談したり、アドバイスをうけることのできる地元の薬局の 活用には、 大きな可能性を感じることができる。 ● ● ● ● ● ● ● ● 「脳とからだの健康チェック」を今後も発展させ、高齢者 の常識にしていくためには、まだ克服しなければならない幾 ■健診会場の様子 つかの課題が残されていると島田室長は語る。 それは、 健診意義の理解と費用負担である。 よりその変化に気づき、早めの対応を心がけることができる。 検査がその効果を最大限に発揮するためには、 継続性が何 より重要になってくる。 そのためには、受け身の健診ではなく、自分の状態を知る ために積極的に取り組む、という参加者の意識改革が必要 だが、 住民スタッフの存在は地域での活動の継続にあたって は、 重要な役割を果たすことになる。 むろん採血など、専門家が関わらなければならない部分も 「脳とからだの健康チェック」は介護予防が目的であり、 「老年症候群」は発見が遅れても命にかかわることではな いので、切実感にかけるという弱点を持つ。しかし、不健康 な状態で長く生きていることは、本人とその周囲のQOLを大き く損なうものとなることは言うまでもない。 単に長生きするのではなく、健康な状態での長生きという、 長さから質への意識転換を目指さなくてはならない。 ● ● ● ● ● ● ● ● ● 多いが、将来的にこのような健診を草の根的に拡大していく また個人レベルでの疾病予防や健康維持、痛み緩和など ためには、地域で担える役割は住民が積極的に関わること のためのサプリメント市場は、高齢者の増加に伴い増えてき で人材が育成され、 コスト的な負担を減らすことも可能になる ている。しかし、自分の身体の状態を知るための健診への と、 島田室長は指摘する。 出費は、 残念ながらまだ一般的ではない。 また、介護予防における重要な要素としては、外へ出るこ 自費で人間ドックへ入ることがあっても、あくまで疾病の早 と、社会と関わることなどが挙げられている。スタッフとしての 期発見であり、介護予防のための出費には結びつかないの 健診への積極的な関わりは、本人のやりがいや達成感を生 が現実である。 み、健診事業が個人の暮らしの質の向上に貢献するだけで なく、 地域住民の結束を高めることも期待できる。 ● ● ● ● ● ● ● 前述のように、日本では疾病の早期発見と治療を目的とし た健診の仕組みが、政策として定着し発展してきたため、個 人の金銭的な負担感が非常に少なかった。 約2時間にわたる健診の結果は本人宛に郵送されるの しかし人生90年代の健康維持のためには、介護状態にな で、それを基に現在の暮らしの見直しを行ったり、地域で既 らないために継続的に健診を受けて、自分の身体の状態を に実施されている介護予防プランなどへ、積極的に結び付 客観的なデータとして把握しておく、そのための出費は健康 けてゆくことになる。 への投資である、と考えることが個人にも社会的にも必要に 現在新たなモデルとして考えられているのが、薬局との提 なってくるのではないだろうか。 携である。データを薬局の窓口で示すことで、栄養や運動、 5 from YOKOHAMA 子どもを地域で育てるボランティア 「あおば学校支援ネットワーク(ASN)」 神奈川県横浜市青葉区で活動する「あおば学校 また遠足などの校外学習へ 支援ネットワーク(ASN)」は、学校支援のボランティアと の同行なども行っている。 学校をつなぐコーディネーターのネットワークだ。 2005 ASNでは、毎年新年度が始 (平成17)年に青葉区役所が主催した「学校支援ボラン まる前に、学校別マニュアル ティア・コーディネーター養成講座」の修了者有志が発 を使ったボランティア向けの 足させた市民グループで、代表は、当初から竹本靖代さ 研修を実施。年に数回集まっ んが務める。 ての各 学 校の情 報 交 換も 行っている。 ● ASNの目的は、教育の多様化や地域との連携を目指す学 校と、生涯学習や生きがいの観点から地域での活動を求め るボランティアをつなぎ、よりよい学校教育活動を支援するこ 孫以下の年齢の初対面の ■お話をうかがった竹本靖代代表 子どもたちと接して、果たして 教員のアシスタントが務まるの と。現在17人のコーディネーターが、毎年多くのボランティア だろうかと心配になるが、「学校が欲しているのは教員では とともに活動している。コーディネーターは高齢者が多く、ボ ないんです。子どもたちが多様な人たちとの関わりの中で ランティアも半数以上が高齢者。男性はほとんどがリタイア 成長することが一番大事。 『おじいちゃんおばあちゃん世代 組で、女性の方が年齢層に幅があるが、ほぼ3割を高齢者 の人を』と要請される学校もあります」と竹本さん。3世代同 が占める。 居が激減している現代において、人生経験豊富な高齢者に 「メンバーは教育への意識が高く、 『子どもは学校と家庭と 期待される役割は大きい。ボランティアが教室に入ることに 社会、その地域で育てるんだ』と発足当初からおっしゃって 始めは難色を示す先生もいるが、続けていくうちに、ほぼ間 いました。80歳前後の別の高齢者の方は『教育に地域が 違いなく考え方が変わるという。 関わらないといけない』と。まさにASNが目指すところです」 と竹本さんは言う。 名前にもある通り、当初は学校支援という形でスタートした ASNだが、今では地域を巻き込み、「街づくりをしながらの学 校支援」と活動の場を広げている。 ● ● 授業支援は、1時間目から4時間目まで滞在し教室内を歩 き回るため、ある程度の体力が必要だ。自信がないという高 齢者には、拘束時間の短い体験活動や、時間に融通がきく 地域の活動に配置替えする。 ● ● ● 休日の体験活動では、 教室を借りて実験教室や工作教室 高齢者のボランティアが関わる主な活動は、学校の授業や を開く。割り を使ったグライダーを作って飛ばしたり、備長 校外活動への支援、 休日の体験活動、 地域の活動の3つだ。 炭を利用した電池で電球を点けたり。理科好きの高齢者が 出前授業をすることもある。高齢者が「昔とった杵柄」を最 学校の授業や校外活動への支援では、ボランティアが教 員のアシスタントを務める。授業中に、教科書の開くページ ● ● ● ● が違っている子に教えたり、 計算につまずいている子にアドバ 地域の活動は、世代間交流や子どもたちの居場所づくり イスしたり。 毎月4月には、要望のあった学校の新1年生のクラスに、1 を目的に行われる。毎年開催されているお化け屋敷では、 下は小学校3年生から上は80歳前後までが集まり、わいわい か月集中して50人前後のボランティアが入る。生活支援・ と準備をする。年齢に関係なく、 ニックネームで呼び合い、女 子ども達とすっかり仲 給食補助・学習支援などを行ううちに、 子大生の相談に高齢者が応える場面も。 良くなり、「第二の先生」のように慕ってくる子も多いという。 6 大限発揮できる時間だ。 デイキャンプではソーラークッカーやソーラーおもちゃをつ てはいけないからだ。こうして、 日々の体調管理を行うことが、 結果的に介護予防にもつながっている。全員、常に万全の 体制で活動に臨む。 ボランティアのメンバーは毎年3割程度が入れ替わる。シ ニアに限らず新しいメンバーは、大抵が現メンバーの知り合 いで「芋づる式」に参加する人が多く、またそういう人は長 続きするという。ASNに参加する人は他でもボランティア活動 に携わっている人が多く、活動を通じて友人の輪も広がって いる模様だ。 ● ● ● ● ● ● ■子どもたちに大人気の割りばし鉄砲工作 活動で大事なのは、適材を適所に送ること。そのため、 コーディネーターは日頃から先生の希望を聞き、学校側の ニーズを的確に捉えたうえで、適切な人材を配置する。担 当ボランティアとのコミュニケーションも密に図り、「Aさんは読 み聞かせが得意」 「Bさんは手先が器用」など、得意な点を 把握して、 学校とボランティアの間を取り持っている。 ● ● ● ● ● ● ● ボランティアは完全な無償活動。ただ、学校には交通費 の負担や給食をお願いし、ボランティアに経済的負担がかか らないようにしている。ボランティアの人たちのやりがいはお 金ではない。子どもたちや先生、保護者などから感謝の言 葉をかけられるのが何より嬉しいという。 ■エコ講座の発電実験装置はシニアの力作 ASNも予算はほとんどが助成金だ。 「今のところ特に必要 に迫られていないため」 (竹本さん)法人格も取得していない。 くって1日楽しむ。プログラム内容もボランティアが決める。以 身の周りの自分たちにできることだけやっていこうというスタン 高齢者は 前は1泊2日でメニューも盛りだくさんだったというが、 スだ。 「体がもたない (笑) 」 (竹本さん) ので、日帰りになり、さらに現在 の「詰め込み過ぎないプログラム量がちょうどよい」というこ とに落ち着いたという。 ● ● ● ● ● ● ● ● ASNは2008年に青少年育成事業を行っている団体を表彰 する「かながわ力大賞2008」の特別賞を受賞。また、シニ 活動の頻度は人それぞれだ。週に1回は参加するという アが中心になって行うデイキャンプや発電実験装置などを 年に数回、 または1か月集中して参加するな 人から、 月に1回、 使った学習の機会の提供が認められ、2013年に「第20回 ど、 自身のライフスタイルに合った形で無理なく続けている。 横浜環境活動賞」を受賞。アクティブシニアが活躍する場 ● ● ● ● ● として、 ますます期待される。 また、高齢者のボランティアの特徴として、人一倍健康管 理に気を遣う点があげられる。先生や子どもたちに風邪をう つしてはならないし、何より活動に穴をあけるようなことがあっ 7 from TOKYO 学びを通じて社会との関わりを考える 「立教セカンドステージ大学」 立教大学池袋キャンパス。若い学生た 齢は62歳、 男女比はほぼ同 ちに混じって、50代、60代、70代の 学生 の姿があっ じだが男性が若 干 多い。 た。彼らは、「立教セカンドステージ大学(RSSC)」の受 勤務経験者が72%と最も多 講生。 「RSSC」は、50歳以上のシニアを対象に「学び く、以下自営業者13%、主 直し」「再チャレンジ」「異世代共学」をキーワードに 在職中9%と続く。 婦13%、 2008年4月に開校した。 講師陣の充実や多彩な フィールドスタディなど、 ● 本科と専攻科の就業期限はそれぞれ1年で、前期・後期 「RSSC」の魅力は数多い に分かれ午後3時頃から夕方まで毎日講義とゼミが組まれて が、他のオープンカレッジと いる。本科・専攻科のカリキュラムは共通で、科目群とそこ 一線を画すのは、本科・専 に属する講義から自由に選択することができる。2013年度 攻科ともにゼミが必修であ は以下の3科目群の講義が行われている。 ることだ。すべての受講生がいずれかのゼミに所属し、 担当 ● エイジング社会の教養科目群 • 自分のからだと言葉を取り戻す • 生涯現役という生き方 • メディアとジャーナリズムのあいだ • 地球環境の変遷と未来 など16講義 ● コミュニティデザインとビジネス科目群 • ソーシャルビジネス • アジア・アフリカの貧困とNGO • 働き甲斐と労働の人間化 • 暮らしに役立つ経済と金融 など14講義 ● セカンドステージ設計科目群 • セカンドステージと市民生活 • 成熟社会論 ■お話をうかがった木下康仁教授 修了論文を作成する。 教員の指導のもと、 ■ 調整期間に有効なゼミ形式 リタイア後どのように生きていくのか。 高齢者が四分の一を占める社会においては、これは個人 だけでなく、社会全体の大きな課題となってくる。しかし、高 齢者と社会との関わり方については、今は大きな戸惑いの中 にあると言ってもよいだろう。 急激な人口高齢化に伴う現実の劇的な変化に対して、ま だその認識と理解に欠けているか、あるいは過剰に反応し て右往左往しているか……。定年後すぐに居場所を見つ けられる人は、 決して多くはない。 「定年後は、次のステップの前に人生を振り返り、自分と対 • 地域ケアと看取り 話する調整期間を設けるといい。少人数のグループでじっく • 現代史の中の自分史 など15講義 り学ぶ大学のゼミという環境は、その時間を過ごすのに適し ている」と「RSSC」でゼミを担当する木下康仁教授は語る。 またこのほかに立教大学全学共通のカリキュラムからも、 「RSSC」に入学してくる人は、リタイア後人生後半の居場所 希望すれば4科目程度の受講が可能であり、学問を通じて を求めて模索したものの、今ひとつ納得がいかず、どこか不 の異世代交流の貴重な場となっている。 全感を抱えている人が多いそうだ。 ゼミでは、 今後の目的を検討できる環境を提供する。もとも 6年目にあたる2013年度は本科生100人、専攻科(本科修 了後に入学可能)53人の計153名が学ぶ。本科生の平均年 8 とライフスタイルや社会的活動を創出する能力は持っている 人たちだ。答えは自分たちで見つけられる。ゼミでの学び ■ゼミ風景。発表者の話に真剣に耳を傾ける や気づきを通して、人生後半の目的がはっきりし、スムースに を心配しており、木下教授は元気な高齢者世代との交流で、 社会と関わることのできる土壌が整う。知識や情報の提供 若者たちが少しでも前向きになることを期待している。 を目的とするカルチャーセンターや、他の社会人大学との大き な違いはここにあるようだ。 ■ 高齢者の能力を生かす受け皿が必要 ゼミでのグループ学習を通して、 新たな人間関係が形成さ 「RSSC」修了生の進路は、再就職、ボランティア参加、他 れるのも大きな収穫。 「こういう場がなければ、 ここまで深い話 大学への再入学などさまざま。 「RSSC」における「調整」は をする間柄になるのは無理だった」と話す受講生も多いとい 功を奏しているようだ。 う。 「リタイアした後にそういう友だちができるのは、非常に稀 だしすごいこと」と木下教授。 学生たちの声にもあるように、在学中のクラブ活動的な集 木下教授によれば、専業主婦であれ、会社員であれ、人 生経験を積んできた高齢の人達には、人間としての成熟と 力量があるという。 まりや、卒業後の同窓会活動などを通じて、コミュニケーショ 生涯現役時代を生き抜く力を持った高齢者が、団塊世代 ンの蓄積がなされて、生き方や人生観などの深い話も自然に を中心にこれからは世の中にあふれてくる。しかし、社会の 交わされるようになるという。仕事関係でもなく、ご近所や幼 側も高齢者自身もいまだに「余生」をおくる高齢者しかイメー 馴染とも違う、新しい信頼関係を結べることは、後半の人生 ジできないでいるとしたら、 それはとても残念なこと。 に大きな彩りを加えてくれるだろう。 また、 なかなか難しいとされる世代間コミュニケーションも、前 述の全学共通のカリキュラムを通じて、 自然に行われている。 学部の学生は、 人生のファーストステージに出ていくために学 ぶが、 ここではセカンドステージへの再登場に向けて、 学びを通 じてもう一度自分の可能性や適性を再点検することができる。 「学生の反応がフレッシュ。RSSCで学ぶ人たちは、親や親 社会実験としてスタートし、実績を上げつつある「立教モ 戚の人と同年齢だが、彼らには話せないことを話せたり、逆に デル」。 「RSSC」が先 となり、自身の点検や棚卸し、リセット 面白い話が聞けたり。授業とはいえ社会的な場になってい のためのさまざまな仕掛けが、 今後もさまざまな場で増えてい る。年を重ねた人は話す内容を豊富に持っていますからね」 くことに期待したい。 と木下教授。 「RSSC」の受講生はむしろ元気のない若い世代 9 ● 受講者の声 ● 入ったきっかけ 「このままでよいの • 定年で仕事退職後5年特に何もせず、 か」と考えていたところ同世代の友人にすすめられて。 • 定年したら、勉強し直したい、再度キャンパスライフを楽し みたいという理由で。 • 子どもも巣立ち、母も亡くなり、母でも娘でも会社員でも ないニュートラルな存在になってみたかったため。夫が RSSCの先輩で楽しそうだったこともプラスに。 したく • 定年後、いままでとあまり代わり映えのないことは、 なかった。 「RSSC」入学の理由は、経済が長期低迷して いるのに円高な理由をつきとめたいことと、これからの生 きがいを探したいことの2つ。 • 学び直したいと妻が他大学に合格したのに触発される。 受験勉強以来勉強をしてこなかったので、卒論の続きの 研究をしてみたくて。 • 立教大学卒業生。いくつになっても社会に関わっていた い、 社会に貢献したいという気持ちから。また取得した資 格に、 より専門的知識をつけるため。 • 55歳で大病をし、57歳で教員を早期退職。退職後好き なことをしようと思っていた。立教に合格した娘の保護 者会に来たところ、RSSCのパンフレットを見つけて。 ● 加の担い手としてセカンドステージに踏み出すための新 しいキャンパスの創造」というコンセプトに共感する。 • 受け身の授業だけでなく、ワークショップで意見交換でき る点。 • ゼミがあるのが一番の魅力。 • 前向きな人が多く、刺激される。ここに来て新しい友だち ができた。 • 定年で一区切り、後は悠々自適という知らず知らずに染 みついていた考え方が、定年は通過点だというように変 わった。 • 修了後の社会参加のためのサポートセンターがあり、外 への働きかけのプラットフォーム的役割を担っている点。 • 他大学にも通ったが、そこは知識の切り売りで質問にも答 えてくれない。生徒の目的や意識もバラバラ。 RSSCに 来る人は濃淡はあってもみな目的は同じ。 • 立教大学が商売抜きに教育的配慮として運営している。 • 一生の恩師に会えた。 • 若い学生と一緒だし、女性も多いので、身だしなみに気を 遣うようになる。 • 学部生と一緒に授業を受けられる全学共通カリキュラム。 • 先生のほか、RSSCに通っている人たちからの別の学び ● RSSCの魅力 「シニアが社会参 • カルチャーセンターではないという点。 ■日々充実していると語る受講生 10 がある。 • 縦でも横でもない斜めの関係が持てる。 from KAGOSHIMA 古くて新しい住まい方 「ナガヤタワーからの提案」 鹿児島中央駅から、歩いて5分の場所にある 「ナガヤタワー」。 スペースの都合上棟割りにはできなかったけれど、縦 に重ねた長屋をイメージした5階建ての建物は、2013 年4月にオープンしたばかりの賃貸住宅である。 ワンルームから2LDKまで4つのタイプに分かれた38 戸の住まいには、今は9歳の少年から90代の高齢者ま で、 さまざまな人が暮らす。 パンフレットには「江戸時代の長屋のように、 住民のみ んなが知り合いで、できる事はじぶんでしながらも、互い ■ナガヤタワーのパンフレット にさりげなく手を貸し合って暮らしていくことを目指しま す」とある。 ナガヤタワーは、さりげない気遣いと心配りの中で、 元気なうちの早めの住み替えが提唱され、介護付きの有 料老人ホームや国が勧めるサービス付き高齢者住宅への 毎日を丁寧に暮らすことを目指す、新しい形の共同住宅 期待も高くなっている。しかし、そこではいくらかの安心を得 である。 ることはできるだろうが、生き生きした暮らしの楽しさやざわめ ● きを感じることは、 難しいかもしれない。 日本の独り暮らし高齢者の割合は現在25%程度で、50% 高齢になっても、人に頼られたり誰かの役に立ったりするこ を超える欧米に比べるとまだ少ないが、3世代同居は15%と とは十分に可能だし、 それが暮らしの張りや生きがいにもなる。 25年前の3分の1にまで減少している。少子高齢化の現実 ただ安心を得ることだけを目的として、ある年齢に達した は、家族構成とその暮らし方に、かつてないほどの大きな変 ら同じような年齢の人だけが暮らす閉ざされた場所に移り、 化をもたらすことになる。 お世話をされるだけの生活になることでほんとうによいのだ 多世代家族による日々の暮らしの中に、当然のように組み ろうか。 込まれていた「老い」はいつのまにかその居場所を失い、 数 ● ● 字の上では、21世紀の高齢者の大半は「老いの暮らし」を アメリカには、リタイアメント・コミュニティーと呼ばれる高齢 一人でおくり、 旅立ちも一人で迎えることになるのだろうか。 者だけが暮らす地域が多く存在し、その代名詞となっている 今までの日本では、そのような暮らし方は誰も経験したこと 「サンシティ」と呼ばれる大規模コミュニティがある。アリゾナ がないため、 介護や医療、 住宅など様々な分野で、 官民それ 州フェニックス郊外にあるこの地域は、「実りある豊かな老 ぞれに対応の検討が始まっている。 後」をうたい文句に、民間の開発業者が1960年代から計画 特に男性より寿命が長い女性は、一人で暮らす期間が長く なるため、経済的な問題や健康状態、あるいは頻発する自然 災害への不安などで、 心細くなるのも当然のことと言えよう。 的に開発を進め、80年代には人口が5万人近い巨大な高 齢者村になっていった。 ゴルフ場や娯楽施設、図書館や美術館、宗教関係施設、 11 ショッピングモールなどに加え、医療機関も っており、楽しく 堂園氏は、もともと産婦人 安心して暮らせる「終の棲家」が強くアピールされた。 科医を営む家の三代目。生 日本からも、不動産開発業者や医療関係者などが多く訪 まれた子どもたちが健やかに 問し、フェニックスの輝く太陽のもと、ゴルフやダンス、水泳教 育つことを目指し、様々な取り 室など様々なレクリエーションやボランティア活動に励む、多く 組みをしてきたが、1991年か の楽しそうなアメリカの高齢者の姿を、彼らのレポートで目に らは在宅ホスピスを始めた。 在宅ホスピスを始めた時に することができた。 しかし、19歳以下は一緒に住めないどころか、滞在期間 こだわったのは、 「ホスピス」と も3か月に限られているという条件に対しては、いささか違和 は「場所」ではなく「手のぬく 感を感じたし、 またこのような暮らしになじめない人もいるので はないかと思われた。 もりとおもてなしのシャワー」と いう「マインド」であるというこ 当然のことながら、 健康を損ねたり介護が必要になった時 と。その後患者の声にこたえて1996年からは有床診療所「メ にはどのような暮らしになるのか、いくら自立・自助が前提の ディカルハウス」を開設した。クリニックではなくあえてハウス 国とはいえ、ちょっとした手助けなどは、むしろ世代のばらつ としたのは、そこは病室ではなくあくまで家であるという思い きがあった方がスムースにいくのではないかと感じたもので から。 ある。 病気ではあっても病人になるなという考えから、 日常の暮ら 今サンシティの暮らしはどうなっているのだろう。 しを継続させることを追求し、特に緩和ケアの患者にとっては ● ● ● 残された日々の充実を目指してきた。 日本でも血縁による家族を頼りにした高齢者の暮らしが、 そのような取り組みを通じて、多様な人々がともに暮らし、 難しくなってきているのは事実ではある。だからといって高 お互いに支え合うことの重要さに改めて思いをいたし、2007 齢者だけで集まるのではなく、むしろ「血縁に頼らない共同 年にマザー・テレサがつくったインドのハンセン病の村「チタ・ 体」という新たな発想に基づく暮らし方を提唱し、その試み ガール (平和の村) 」を訪ねたという。 を実践し始めているのが、 ナガヤタワーである。 メディカルハウスには、ホスピスの患者さん以外の人たちも 高齢者住宅財団の高橋紘士理事長によれば、このような いたが、心を病む子どもや大人が増えてきていることが気に 新しい暮らし方の模索は、 全国でも同時多発的に始まってい なっていたので、チタ・ガールを訪ねた時には、特に強く心に るという。 響くものがあったという。 ● ● ● ● ナガヤタワーの大きな特徴は、隣接して緩和ケア付きの有 床診療所「堂園メディカルハウス」をもつこと。 ナガヤタワーの企画立案者であり、実質的な大家さんは 堂園晴彦医師である。 12 ■お話をうかがった堂園春衣事務局長 社会からも家族からも見捨てられたハンセン病の患者が、 お互いに支え合い助け合って暮らしているこの村では、自殺 も喧嘩もゼロ。 この空気をなんとか建物として実現させたい、という堂園 氏の願いが詰まったナガヤタワーである。 ■屋上からの眺め。桜島を一望できる ■1996年に開設された、 堂園メディカルハウスの外観 ● ● ● ● ● 高齢者の存在は必要不可欠であると堂園氏は述べている。 日本では戦後、強い干渉と束縛の象徴であった「イエ」と 人生経験豊かな高齢者は、発達障害の子どもに対しても 「ムラ」的なものからの解放が大きな運動になったが、 その結 「まぁ、そういうこともあるさ」と、 ごく自然にその存在を受け止 果、 冷たい無関心が社会を覆うようになった側面もある。 めることができるから、 余裕をもった対応ができる。 長い時間をかけて、権利や義務、そして責任とともに個人 18歳になって養護施設を出なければならない人も、ここで 主義が根付いてきた欧米では、個人の自立は当然としたうえ 様々な人と暮らしながら、 その生涯を終える可能性をもったナ で、お互いに支え合うコミュニティの存在も欠かせないものと ガヤを目指したい、 と運営を担う堂園医師の次女春衣さんは して、 ともに存在している。 思いを語る。 またアジアでは、高度成長期前の日本同様、貧しさゆえに ● ● ● ● ● ● お互いが助け合わざるを得ない家族や地域のつながりが、 ま 元気な学生は、館内の掃除や高齢者の手助けをすること だ強く残っている。そのため現実には、 皆が参加できるコミュ で家賃が割引になる仕組みがあるという。桜島からの灰が ニティの良さを生かしたケアやサポートの取り組みを、むしろ 絶え間なく降り注ぐ鹿児島ならではの「灰かき」は、できる人 大事にしていこうという方向性が伺える。 が総出で一緒に行う。下水道が発達していなかった昭和 日本では、 急激なしかもいささかいびつな個人主義の浸透 町内総出で行った「どぶさらい」を思い出す。 の時代、 により、干渉を嫌う個だけが肥大化した結果、 「お互いさま」 身の回りの様々な不便や不都合の解決を、すべて行政 というちょっとした心配りや手助けなどが、逆に成り立ちにくく の支援やお金で買うサービスに頼るのではなく、お互いさま なってしまった。また過剰な自立を強いられることから、社会 の気持ちで丁寧に工夫するというマインドをナガヤ暮らしで 的にも精神的にも孤立しがちになり、 その不適合の原因は簡 取り戻すことは、実は古くてとても新しい住まい方の提案で 単に個人の資質とされてしまう。 ある。 特にその影響をまともに受ける成長期の子どもにとっては、 写真提供:高齢者住宅財団 (パンフレット、 堂園春衣さん除く) 13 ILC Round Table Meeting talk 世界の高齢者の プロダクティブ・エイジング ILC-Japanは、平成24年度研究事業として「プロダクティブ・エイジングと健康増進 (厚生労働省老人保健健康増進等事業)を実施するととも に関する国際比較調査研究事業」 に、国際比較を通して日本型プロダクティブ・エイジングとは何かについても模索して きた。 本ミーティングでは、第1部においてイギリスよりバロネス・サリー・グリーングロス女 史(ILCグローバル・アライアンス共同理事長/ ILC-UK理事長)を招聘し、イギリスを中心と した先進国の動きについて概説していただいた。併せて本研究の中間報告を行った。 続く第2部では、プロダクティブ・エイジングに関わるさまざまな分野の専門家による 活発なディスカッションを展開した。 ここでは、第1部の中間報告と第2部のディスカッションの概要およびミーティングの最 後に採択された東京ステートメントを紹介する。 日時 2013年2月8日(金) 14時00分∼ 16時30分 場所 庭のホテル東京 「燦の間」 プログラム 第1部 超高齢社会におけるプロダクティブ・エイジング 鈴木隆雄(司会) 世界及び英国における「プロダクティブ・エイジング」 の現状と 今後の方向性 バロネス・サリー・グリーングロス 全員参加・生涯参加を目指して セカンドライフの就労プロジェクト 秋山弘子 国際比較調査報告 各国の「プロダクティブ・エイジング」 渡邉大輔 2 第 部 参加者によるディスカッション 超高齢社会、総力戦で真に明るい長寿社会の実現を プロダクィブ・エイジング 東京ステートメントの採択 14 ラウンドテーブルミーティング参加者 敬称略・50音順・役職は当時 バロネス・サリー・グリーングロス 中島 民恵子 秋山弘子 林 俊宏 磯部文雄 原 勝則 ILC-UK理事長、英国上院議員 東京大学高齢社会総合研究機構特任教授 医療経済研究機構主任研究員 厚生労働省老健局総務課企画官 福祉未来研究所代表、 城西国際大学福祉総合学部長 大津和夫 厚生労働省老健局長 口恵子 読売新聞記者 高齢社会をよくする女性の会理事長 高齢社会NGO連携協議会共同代表 岡本多喜子 藤田綾子 明治学院大学教授 甲子園大学心理学部長 小川 誠 厚生労働省職業安定局 高齢・障害者雇用対策部長 小田嶋 文彦 味の素 (株) 健康ケア事業本部理事 堀田 力 公益財団法人さわやか福祉財団理事長 高齢社会NGO連携協議会共同代表 水田邦雄 金井 司 三井住友信託銀行 (株) 経営企画部CSR担当部長 ILC-Japan代表 シルバーサービス振興会理事長 金平輝子 皆川靭一 元東京都副知事、 日本司法支援センター(法テラス) 元理事長 河村博江 宮島俊彦 一般財団法人長寿社会開発センター 理事長 三井住友海上火災保険 (株) 顧問 木村利人 早稲田大学名誉教授、 恵泉女学園大学 前学長 澤岡詩野 桜美林大学大学院教授 鈴木隆雄 国立長寿医療研究センター 研究所長 袖井孝子 お茶の水女子大学名誉教授 森岡茂夫 ILCグローバル・アライアンス名誉理事長、 ILC-Japan顧問 公益財団法人ダイヤ高齢社会研究財団主任研究員 杉澤秀博 元共同通信記者 北欧社会研究所 代表 山之内製薬 (現アステラス製薬) (株) 元会長 山崎史郎 内閣府 共生社会政策担当 政策統括官 渡邉大輔 成蹊大学アジア太平洋研究センター 客員研究員 talk アラン・グリーングロス オブザーバー 15 1-1 超高齢社会における「プロダクティブ・エイジング」 鈴木隆雄 国立長寿医療研究センター研究所長 1 ● 後期高齢者増加がもたらすもの 人口構造の変化において注目すべきは、今後65歳以上 宅でのケアや看取りを重視しなければならないだろう。 人口が相対的に増えるが、65 ∼ 74歳の前期高齢者はそ 5つ目は要介護高齢者の増加。これは後期高齢者が増 れほど増えず、最も大きな増加率を示し、 また実数でも増える えるので当然のことだが、 それに伴って大きな問題となるのは のは75歳以上のいわゆる後期高齢者だということである。 認知症の高齢者の増加である。現在65歳以上の高齢者の 実際、2025年あるいは2030年あたりで何が起きてくるの か。 1つは後期高齢者が急増するということ、2つ目はそれに 伴って単身の高齢者世帯あるいは夫婦のみの世帯が急増 すること。 3つ目は、大都市、特に首都圏で高齢者が増加するという こと。大都会で暮らす高齢者のライフスタイルや彼らの生活 に必要な情報やサービスは、地方と異なって大都会特有の 問題となる。 4つ目は死亡者数の急増。現在1年間で約110万人が亡 くなっているが、団塊世代が加齢に伴い死亡のピークを迎え 16 いだろうと思われる。今後はかつて日本で主流であった在 うち、 認知症は約300万人強あるいは400万人とも推計されて いる。認知症は加齢に伴って発症が増加するため、相当大 きく増えていく。 このようなことを念頭に置きつつ、 後期高齢者におけるプロ ダクティビティを今後どう構築するかが大きな課題ではないか と考えている。 2 ● 前期高齢者と後期高齢者の特徴 次に、前期高齢者と後期高齢者のごく簡単な比較をして みる。 前期高齢者は健康度が非常に高く活動的である。今か る2030年には、160万から170万人になると推計されている。 ら20年前、あるいは15年前の65歳以上の高齢者とは全く違 今我が国では80%が病院で死亡しているが、そうなると死亡 また う、新しい活力のある高齢者が大きな割合を占めており、 場所としてこれだけの数を病院で支えることはおそらく難し 社会的な貢献度、 プロダクティビティが高い集団でもある。 鈴木隆雄 Takao Suzuki 1951年生まれ。札幌医科大学卒業、東京大学大学院 博士課程修了。札幌医科大学助教授を経て1990年東 京都老人総合研究所室長、2000 ∼ 2009年副所長を 務める、2009年から現職。著書に『超高齢社会の基 礎知識』 (講談社) 、 『骨から見た日本人 古病理学が語る (講談社学術文庫) 、 『今すぐチェック! 健康の基準̶ 歴史』 (小学館) など。 病気の前ぶれは自分でわかる』 さらに、就労に関しても欧米と比較して明らかに就労意欲 認知症をどのように予防するか。これはようやく科学的な が高く、実際の就労率も高い。経済的な理由もあるが、働く 根拠が日本でも出始め、予防対策は決して不可能ではない ことが自分の生きがいであるとか、健康のために働くのだとい ことがわかってきた。 う答えも非常に多いことが特徴である。 一方、後期高齢者は個人差が大きくなる。健康度の高い もう1つは、筋肉量が減ってしまうこと。これが生活機能を 失わせる最大の原因である。 人もいるが、平均値としてはやはり心身の機能の減衰が顕 実際に、 後期高齢者の虚弱や認知機能の低下、 あるいは 在化する。また、老年症候群という、病気ではないが加齢と サルコペニアを予防するような科学的根拠づくりが、急速な ともに発症してくるさまざまな生活上の不具合、あるいはQOL 勢いで行われている。 を低下させるような症候群が明らかになってくる。これには 転倒や失禁、あるいは認知機能の低下などが含まれる。そ 我が国では今、根拠をもった介護予防、 それを通じた特に の結果として、医療機関の受診率や要介護認定者の割合 後期高齢者の自立、そして家族への支援や地域社会への が高くなる。厚生労働省が2010年に出したデータでは、介 貢献が進んでいる。 護保険サービスを受けている前期高齢者は13%である一 方、 後期高齢者は86%となっている。 3 このような背景で、地域包括ケアは後期高齢者のプロダク ティビティには欠かすことのできない社会的な仕組みだと考 えている。 ● 後期高齢者の健康対策 後期高齢者が急増する中で、健康を守り自立を促進する この2つが大き ためには、 認知機能と筋肉や骨という運動器、 な問題である。 talk 17 1-2 世界及び英国における「プロダクティブ・エイジング」の現状と今後の方向性 バロネス・サリー・グリーングロス ILCグローバル・アライアンス共同理事長、ILC-UK理事長、英国上院議員 1 ● 欧米諸国におけるプロダクティブ・エイジングの現状 65歳以上の就業者の割合は男女とも非常に低い。全員参 プロダクティブ・エイジングの実現にあたっては、住宅、医 加型社会を目指しているが、英国では、高齢者が就業すれ 療、介護、雇用、高齢化のためのデザイン、建築環境、 これら ば、若者の仕事を奪ってしまうと考えられているため、高齢者 全てを考慮に入れていかなければならない。 と若年層の双方が共に仕事に就くことができるのだということ 英国には、 ナショナル・デザイン・カウンシルというものがあり、 を理解してもらうのが難しい。 まちの設計、 環境の設計、 また、 都市の設計を高齢者に配慮 数年前まで英国では定年制(65歳)があったが、廃止され した上でどう行っていくべきかを考えている。また、企業や雇 私も た。そして「人権と平等に関する委員会」が設置され、 用主も積極的に関与し、高齢社会に対する理解を深め、貢 6年間委員を務めている。この委員会は、 「人権や平等はあ 献していく必要がある。これは正規雇用対策のみをすれば らゆる年齢の人たちに当てはめられるべきで、 人種、 性別、 性 いいというわけではない。同時に社会参画も推進していか 的指向および障害の有無にかかわらず適用されるべき」と ねばならない。教育やボランティア活動、NGOの活動も非常 している。とはいえ、実際の人々の文化、考え方が変わるに に重要な側面である。これら全てが高齢社会の中で役割を はまだ時間が必要だ。 果たしていかなければならない。 これを禁止するために各国で法制化が進んでいる。英国で 2012年の労働市場統計によると、イギリスの就業者総数 は 2,960 万人であるが、これは四半期前から4万人の増加、 1年前と比較すると50万人の増加である。増加の半数近く しかも急速に増加しているのは65歳以上、 特 は50歳以上で、 は、既に雇用における高齢者あるいは若年者に対する年齢 に高齢女性である。 一方で、プロダクティブ・エイジングを阻害する大きな要因 として、 多くの欧米諸国においては、 年齢差別がある。現在、 差別を法律で禁止している。しかし、全ての分野でこれが 尊重され、 改善されているわけではない。 2 ● イギリスおよびヨーロッパの高齢者の就労状況 現在は65歳以上のうち約100万人が就労しており、この数 は10年前の2倍、1年前と比較すると13%の増加である。こ れらの高齢就労者は全労働人口の3%に過ぎないが、最近 の雇用増加の20%を占める。 イギリスの2011年の人口動態統計によると、20年以内に4 年齢による雇用差別禁止法によって、雇用主側でも理解 人に1人が高齢者となり、2020年には3人に1人の労働者が が広まり、労働者を年齢によって解雇するといった問題はなく 50歳以上となると推計されている。しかし、高齢者の就労に なった。しかし、採用に関しては事情が異なり、高齢者は厳 ついては、 数は増えているが、 比率は依然として低い。 しい状況に立たされている。 英国の就業者と失業者、非就業者の割合を見てみると、 若い上司の下で、高齢の部下の業績があまり良くない場 talk 18 バロネス・サリー・グリーングロス Baroness Sally Greengross, OBE 1935年生まれ。英国の8つの大学より名誉博士号を授与。1993年大英 帝国勲章(OBE)受章。1997年のILC-UK設立当初から理事長、2010年よ りILCグローバル・アライアンスの共同理事長を務める。エイジ・コンサー ン(英国)会長、ロンドン・キングスカレッジのエイジコンサーン老年学研究 所共同議長、ユーロリンク事務局長を歴任。2000年より英国議会上院議 員(無所属) として活動。2006年12月には「平等と人権委員会」を設立、委 員長に就任。また、認知症、世代間関係など、高齢者に関する5つの部会 の議長も務める。 合、若い上司たちは祖父母ほども歳の離れた高齢者をどう 行っている。照明の位置や明るさを工夫したり、床材を転 指導したら良いか、 どのような訓練を行ったらよいかわからず 倒しにくいものにしたり、立ち仕事の場所に椅子を用意した 途方に暮れる。したがって新規に高齢者を雇用したがらな りしている。 さらに、 医療スタッフや理学療法士などがサポー い。しかし、高齢者も能力があり、再訓練によって新しいこと トをして運動を指導したり、あるいは製造プロセスを変更し を学ぶことができるのだということを理解してもらいたいと思っ たり、 そういった努力を通じて高齢者が働きやすい職場をつ ている。そのためには新しい文化、システムを導入しなけれ くっている。 ばならない。今後英国においては、管理者教育への投資を 強化し、高齢の従業員を効果的に管理していくことができる ようにしなければならない。 BMWでは、こうした高齢者に対するサポートを4,000人に広 げていくと言っている。 もう1つの事例は、英国のB&Qという企業で、住宅改修に 一方で、 ヨーロッパ全体をみてみると早期退職する人が多 3万9,000 必要な道具類などを売っているところだ。B&Qでは、 く、年金受給開始年齢以降も働いている人は10%程度であ 人の労働者のうち、25%が50歳以上となっている。70歳か る。ヨーロッパの金融あるいは財政の危機はこのことが1つ ら80歳代の人たちもマネジャーやディレクターとして活躍し、 の要因となっており、 より多くの高齢者の雇用を維持していか 英国の企業の中で高齢者の活 大変成功している。B&Qは、 なければならないのだが、人々の考え方を変えることはなか 用を考え、 そして成功したまさに最初の企業である。 なか難しい。 3 ● 高齢者雇用を促進している企業の例 雇用主にとって、中間管理職を新規採用することは非常 にコストがかかる。リクルートをし、訓練をして、前任者のレベ 4 ● 経済的影響とプロダクティブ・エイジング プロダクティブな社会というのは、単に高齢者が就労する ということではなく、もっと幅広く、社会の中で高齢者がどのよ うに生きるかということである。 ルまで追いついてもらうまで半年くらいは必要となる。ある銀 英国では、非常に多くの家族介護者がいる。彼らは公費 行の調査によると、若い中間管理職を新規に雇用して訓練 節減の面で大きく貢献している。英国とウェールズでは、家 するよりも、給料は高いかもしれないが高齢者を雇用し続け (約15兆5,000億円) の節減を果 族介護者によって1,190億ポンド た方が結果的にコストは安いという結果が出ている。 たしている。これは高齢者が他の高齢者、障害者、家族な ここで英国およびヨーロッパにおいて高齢者の雇用に力 を入れている企業を紹介する。1つはBMWだ。 この企業では人間工学に基づいた職場環境の改善を どに対して介護を提供していることを意味している。高齢者 の中には、虚弱になっていく人もいるが、元気で、家族や自分 より若い人の介護をしているという人も多い。したがって高 19 齢者による無償の介護の貢献ということもプロダクティブ・エ アパートであったり、平屋であったりする。ケア付き住宅には イジングと考えなければならない。 いわゆる高齢者向け住宅に見られる共用の施設(入居者用ラ また、介護部門の経済的な影響を見てみると、企業として ウンジ、 ランドリーなど) に加えて、 レストラン、 ダイニングルーム、医 の収入は年間1,509億ポンド(約19兆6,200億円)にのぼる。高 療機関やフィットネス施設、趣味の部屋やコンピュータールー 齢者は介護を受けることによっても、介護関連の企業の収益 ムまである。 を上げることで社会に貢献しているといえる。 5 家事支援や身体介護も受けることができ、通常は施設内 の職員が対応する。住宅は賃貸でも所有でも、部分的に所 ● パートナーシップ による高齢者支援 先般、 キャメロン首相は、 公・民・ボランタリー部門・NGO、 有・賃貸でも良い。 ILC-UKが行った縦断調査によると、ケア付き住宅入居者 すべてがパートナーシップによって相互に協力し合わなけれ は入居前に比べて健康状態が改善したという結果がでてい ば、今後人口動態が大きく変化する高齢社会をうまく乗り切 る。長い間健康でいることにより、病院に入院したり施設に れないと発表した。 入所する必要がなくなる。これはつまり、 公費の節減に大きく 実際に、NGOの活躍と公・民・ボランタリー部門・NGOの パートナーシップが高齢者の住まいやケアの重要な要素と なっている。 貢献するということである。 こういった住宅はまさにモデルとして普及が望まれている が、 現在のところ居住者は高齢者全体の8%ぐらいである。 さらに、 湿気の多い老朽化した家に住み、 十分に暖を取れ ■ 1. 住まいの支援 住宅供給については、NGOがとりわけ大きく貢献している。 部門がパートナーシップにより支援を行っている。 高齢者向 住宅協会という形でさまざまなNGOが活躍しており、 は、自治体 住宅改善機関(Home improvement agencies=HIAs) けもしくは障害者向けの住宅を提供している。もちろんこれ と協力して、住宅の修理・改善・維持・調整など高齢の住 は国からの助成もあるが、同時に自分たちが収益を上げると 宅所有者の支援に取り組んでいる。 いうことも行っている。最大のNGOはAnchorという住宅協会 (約60億円) が また2013年1月に、英国政府より4,600万ポンド 1,000の高齢者向けの物件を提供している。もう1つは で、 「燃料 自治体や第三セクターが行う132の事業に委託され、 Hanoverというところで、 これは1万8,000の物件を運営している。 不足(fuel poverty)」解消やエネルギー効率の向上のために 英国ではいろいろなモデル事業が実験的に行われている 建築形態はさまざまで、 が、 そのうちの1つがケア付き住宅だ。 20 ない、家の改修もできないという高齢者のために、さまざまな 活用されている。 もう1つ、便利屋サービスがある。家を改修したい、ペンキ talk を塗りたい、家具を動かしたいといったさまざまな細かなニー ズに、 ボランティア部門がサービスを提供するというものだ。 もう1つ、先ほどのAge UKでは、民間企業と協力してさまざ まなビジネスを行っている。 これを私たちはソーシャルエンター さらに、Care & Repair England、これもNGOである。住み プライズ(社会的企業)と呼んでいる。最も大きなものは保険 慣れた家にできるだけ長く住みたいという人たちに対してさま 会社だ。住宅、旅行、ペット等、あらゆる種類の保険関係の ざまな情報提供・相談・実用的な援助を行っている。高齢 事業を行っている。また、燃料供給や葬儀のプランニング、 者と住宅、 医療、 介護をつなぐ役割を果たしている。 障害者へのアラームやセンサーの提供なども行っている。そ して、これらの事業で得た収益を地域へのサービスに還元 ■ 2. 高齢者ケア 高齢者ケアについてもパートナーシップによりさまざまな支 援が行われている。 するということをしている。 6 ● プロダクティブ・エイジングの実現を目指して 1つは予防的取り組みで、これは私自身も27年間かかわっ ているAge UKというNGOが行っている。できるだけ長く健康 私たちは、プロダクティブ・エイジングの実現に向けて、高 齢者の気持ちや要望を理解し、高齢者の雇用に向けた戦略 で自立した生活を継続することを目指して、シティーセンター 的なアプローチを持たなければならない。年金問題につい などでいろいろな人を集めてエクササイズを行っている。ま ては、現状のままではもはや持続困難であるうえに、高齢化に た、英国では孤独な高齢者が多いので、 そうした方たちに対 よってその他のコストもかかってくる。高齢者の今後に関して しても社会的なケアを提供している。 は、 国も地域も戦略を持って、 連携・調和することが必要であ 2つ目は認知症対策である。英国政府は認知症を主要 る。公共部門、 ボランティア部門、 民間セクター、 あらゆる関係 テーマとして早急にアクションを起こさねばならないと考えてい 者がパートナーシップを組むことにより、サービスの財源や事 る。 1つの取り組みとして、 「認知症の擁護者(チャンピオン)」 キャ 業の価値を最大限かつ効率的に社会へ提供できるだろう。 ンペーンが展開されている。企業の雇用主や社員、 またはボ また、 高齢者が年齢で差別されることなく、 社会に必要とさ ランティア組織のメンバーに研修を受けてもらい、認知症の れ得る環境を整備していくべきである。年齢で人を判断し 「チャンピオン」あるいは認知症の「フレンズ」に認定する。 てはいけない。人は虚弱になったり病気になったりすること 認定を受けたチャンピオンやフレンズは、 地域の人々に認知症 はあるが、それは決して年をとったからということではなく、た を正しく理解させるとともに、認知症の人たちのよい友人にな だその人がたまたま病気になり虚弱になったのだと考える意 るという役割を持つ。認知症は、早期診断と早期介入がた 識の変革が必要だと思う。 いへん重要である。 21 1-3 全員参加・生涯参加を目指して セカンドライフの就労プロジェクト 秋山弘子 東京大学高齢社会総合研究機構特任教授 1 ● 長寿社会のまちづくり プロダクティブ・エイジングを目指す取り組みの実践例とし て、東京大学で取り組んでいる長寿社会のまちづくりの事例 を紹介したいと思う。 けた後、 リタイアして柏に帰ってくるという、 そういうまちである。 これから毎年4,000人の人がリタイアする。 リタイアした方々にとって、 名刺もなく、 知人もいないところで ボランティアを始めるのは敷居が高い。最も敷居が低いの は、 地域で働くことだということが聞き取り調査でわかった。 私たちは、長寿社会のまちづくり:コミュニティでの社会実 験を行い、 人生90年、100年時代の新しい生き方を追求して そこで、歩いて、あるいは自転車で行けるところにたくさん 働き場をつくろうということになった。 いる。長寿時代の新たな生き方の創造、新たなライフデザイ ンを実現するための長寿社会のまちづくりに取り組むために、 さまざまな分野の研究者がチームを編成して、自治体、民間 ■ 2. セカンドライフの新しい働き方 もう1つは、 セカンドライフの新しい働き方を創造すること。7 企業、住民と連携して進めている。そこには住宅や移動手 つの事業が実施中あるいは準備段階にある。 段のようなハードのインフラだけでなく、医療や介護、雇用制 7つのうち、3事業が農業である。休耕地を開拓した農 園事業、ミニ野菜工場、屋上農園である。次の2事業が 度、 教育制度のようなソフトのインフラも含む。 2 「食」。独り暮らしの高齢者が増え、若者も夫婦共働きて忙 「高齢者を社会・地域の支え手に」プロジェクト ● しいので、コミュニティ食堂をつくり、栄養バランスのとれた食 そのなかに、 「高齢者を社会・地域の支え手に」というプ 事を3食提供する。また、コミュニティのダイニングルームとし ロジェクトがあり、千葉県の柏市と福井市の2つのコミュニティ て、人のつながりをつくる場にする。6つ目は、保育、子育て をフィールドとして社会実験を行っている。震災以来、岩手 事業。そして最後は、生活支援事業。元気な高齢者が虚 県の大 でも同様の取り組みを始めた。 弱な方たちの手助けをしている。 このプロジェクトには2つの大きな目的がある。 事業主は基本的に、採算のとれる事業運営の経験者で ある。 ■ 1. セカンドライフの就労 1つはセカンドライフの就労。柏市は人口40万人の典型 的な東京のベッドタウンで、約80%が東京に通勤している。 基本的には夜寝るために帰ってくるという生活を何十年も続 22 この長寿社会のまちづくりは大学だけではなく、柏市役 所、UR、さらに地域の団体や企業など多様な参与者の協 働で進めている。 秋山弘子 Hiroko Akiyama 1943年生まれ。津田塾大学英文学科卒業、東京大学 教育学部教育心理学科卒業。イリノイ大学で博士号 (心理学) 取得、1985年米国国立老化研究所フェロー、 1987 ∼ 97年ミシガン大学社会科学総合研究所研究 教授。 1997年から東京大学大学院人文社会系研究科 社会心理学教授、日本学術会議副会長などを経て、 2009年より現職。共著に『 2030年超高齢未来』(東洋 経済新報社) 、 『 新老年学』 (東京大学出版会) など。 定し、就労しない人たちと比較して、就労することによってど のような効果があるかを明らかにしている。科学的なエビデ ンスをつけて施策や政策に提言したいと考えている。 4 ● 多様な就労ニーズへの対応 これまでの約2年間の取り組みから、高齢者の就労ニーズ は非常に多様であることがわかった。人生の後半戦はマラ ソンの後半戦と同じで、非常にばらつきがある。身体機能に おいても認知機能においても、 価値観やライフスタイルも極め て多様だ。 1週間に2 ∼ 3日、数時間働きたいというプチ・ワークから、 ■ 3. オフィスセブン(事業統括組織)の設立 自分の今までやってきた職業の専門性を活かして、リタイア また、このプロジェクトでは、事業主のニーズと就労者の 後は地域で新しい事業を立ち上げたいという方までニーズ ニーズをマッチングする「オフィスセブン」の機能が重要だ。 は多様である。そういうさまざまなニーズに対応できる形で ワークシェアリングをうまく導入して雇用者と就労者の双方に の就労機会をどのように提供していけるかが、私たちの今後 融通無碍に運用できる柔軟な就労方式を追求している。 の課題であると思う。 ■ 4. 就労環境改善のためのテクノロジー開発 さらに、高齢者の就労環境の改善を目指し、テクノロジー の開発を推進するために、 テストフィールドを提供している。 3 そのためには、 地域貢献雇用推進機構、 セカンドライフのナ ビゲーションセンターのようなものが地域にあるとよいと思う。 さまざまなニーズに対応する就労の場だけでなく、有償・無 償のボランティア、あるいは生涯学習の機会なども含めて、セ ● 効果測定 私どものプロジェクトでは就労前後で就労者のウェルビー イング を測定して就労の効果を評価している。身体機能、 認知機能、人とのつながりを就労前と6か月後、1年後に測 カンドライフをデザインしていくための情報と支援を提供し、 ネッ talk トワーキングの要になるような組織をつくることを目指している。 23 1-4 国際比較調査報告 各国の「プロダクティブ・エイジング」 渡邉大輔 成蹊大学アジア太平洋研究センター客員研究員 1 ● 2012年度調査について これに対してイギリスは、独自財源を確保しつつコミュニ 私は、 「プロダクティブ・エイジングと健康増進に関する国 ティの問題解決に向けた活動を行っている。また、2010年 際比較調査・研究」の一環としてインタビューによる国際比 に制定された平等法の下で年齢差別にならないよう高齢者 較調査を、本プロジェクトの委員である澤岡詩野先生、中島 の支援のみに特化するわけではなく、誰もが参加できる活動 民恵子先生とともに行っている。イギリス、オランダと日本を を政策として振興している。その中で、特に地域活動のリー 対象に聞き取り調査を行った報告をさせていただく。 ダーの育成というものを非常に重視しているという印象を 2012年度は、プロダクティブ・エイジングの推進を行ってい 持っている。 age positive champions と呼ばれるリーダーを る団体、 自治体に聞き取り調査を行った。日本、 イギリス、 オラ 配置し、高齢当事者のリーダーを育成している。その上で、 ンダの3か国で、地方自治体を含め22の団体に対して調査を 個々のボランティアのかかわり方の多様性を保障していくとい 行った。日本では横浜市と川崎市、イギリスはロンドンと北ア うような支援を行っている。 イルランド州のベルファスト、 オランダはライデンとハーグを対象 (主な調査対象組織は下図参照) 。 とした オランダで調査した地域ボランティア組織は、自治体から の委託金によって運営されているが、 自治体と地域ボランティ どの国も経済不況の影響から、高齢者支援の予算が削 ア組織との関係はイコール・パートナーシップである。つまり 減され、あるいは助成金を受けていたがその助成がなくなっ 地域組織は相対的に独立した組織体制をもって活動を築い てしまったという指摘が多くあった。そのような厳しい経済状 ている。 況の下で、だからこそ高齢者の活用のためのプロダクティブ このように、支援の形態はそれぞれ異なるものの、各国とも な活動をより推進したいという、 ある種矛盾をはらんだ状況が に積極的にプロダクティブ・エイジングを可能にする政策を 起きている。 展開している。 できるだけ効率よく、そして人々が生きがいを感じられるよ うな高齢者の活動支援をどう行うのか、 そのための支援を関 係各機関がどのように取り組むのかということが課題である。 2 3 ● ボランティア組織の活動内容と資金源の関係 イギリス、 オランダ、 日本の調査対象のうち、主な組織をマト リックスにまとめてみた。 ● 各国の特徴 日本の活動は、公的資金を資金源として活動を行っている 各国の特徴をまとめると、日本は公的財源への依存が多 団体が多いことがわかる。もちろん個別のボランティア活動は く、個人の過去のスキルを重視した多様な内容の活動を促 独自で行う人も多いが、ボランティアを推進する組織としては、 進している。 やはり公的なものとタイアップしながら行うというものが多い。 主な国際比較調査対象ボランティア組織と活動内容 【イギリス】 Camden Network:福祉・ボランティア機関(ロンドンカムデン地区) Kestrel:就労支援・ボランティア機関(アイルランドベルファスト) 【オランダ】 Uitzendbureau 65+:高齢者派遣会社(ハーグ) Village Project:高齢者互助組織(アムステルダム) Radius:福祉・ボランティア機関(ライデン) 【日本】 横浜市: 介護支援ボランティアポイント事業 市民セクター横浜:中間支援組織、地域づくり大学校等 あおば学校支援ネットワーク:学校支援ボランティア(横浜市青葉区) 達人倶楽部:企業等退職者人材活用支援事業(川崎市) 川崎商工会議所:高齢者就業マッチング 24 渡邉大輔 Daisuke Watanabe 1978年生まれ。慶應義塾大学総合政策学部卒業。慶應 義塾大学で博士号(政策・メディア)取得。日本学術振興会 特別研究員を経て、2010年より現職。2012年より、慶 應義塾大学大学院政策・メディア研究科特任講師併任。 編著に『 社会調査の応用 』(弘文堂、2012年)、共著に Human Insecurity in East Asia(United Nations University 年 、Exploring Issues of Care, Dying and the End Press、2009) of Life(Inter-Disciplinary Press、2011年)などがある。 これに対してイギリスやオランダでは、市からの委託を受け 活動のシンボルを例示的に示唆していく仕組みは、一般の て運営しているRadiusを例外として、独自のファイナンスを確 高齢者に対して「活動しましょう、 活動したら元気になります」 保して活動している団体が多いことがわかる。これは、経済 というように頭ごなしに啓蒙的な立場から活動を要請してい 不況下においても、独自の活動を長期にわたって築いてきた くのではなく、 「あの人みたいにちょっとやってみたら楽しいか 中でノウハウが蓄積されているということを意味していると考 も」と思える状況をつくるという点にあるといえる。本人や周 えられる。また、イギリスでは、個人の介護予防よりもコミュニ 「思わ 囲の人々が、てらいなく自身をリーダーと呼ぶ姿には、 ティの問題解決を重視して個人の活動を広げていくという印 ず動機づける(ナッジ nudge)」というメカニズムがうまく機能し 象を持った。一方、オランダはコミュニティの問題解決よりも、 ているように感じた。 個人の介護予防や活動面における充足性を重視するような だ。横浜市では、 介護施設でボランティア活動を行うと、 自身 活動が多かった。 4 これに対して日本では、このナッジのスタイルが異なるよう が介護保険を利用する時に換金可能なポイントが支給され ● 事業運営についての日本との相違点 る事業を進めていることを聞いた。ポイント数によって自分の 日本では、NPOの地域活動事業のスタートアップにあたっ 活動量が見えるようになっているのだ。このように、日本では て、自治体側は細かく打ち合わせながら助成していく傾向に リーダーを設定するよりも、 活動量の可視化などによる誘因的 ある。そして行政の担当者は、事業が立ち上がり運営が軌 メカニズムを導入したほうがプロダクティブ・エイジングの推 道に乗ったのち、 あとは独自でという流れである。 進にかなう可能性がある。このナッジの効率的な導入の可 これに対して、 イギリスやオランダは、 大枠の地域計画や資 金提供については自治体が行うが、具体的な活動内容、組 織運営方法などについては、 独自に判断してやってもらうとい う形となっている。 この違いは、どちらがいいかという問題ではなく、活動の目 能性が、国によってどのように違うのかという点も今後もう少 し詳しく分析していきたいと思っている。 5 ● 今後の展望 2012年度は各国で組織対象のインタビューを行ったが、 標設定によってもたらされていると考えられる。つまり、 高齢者の 今後は高齢者本人も対象とする予定である。そして、それ ボランティア活動の内容それ自体に大きな違いはないものの、 ぞれの国の組織のありかたの違いを踏まえながら、どのよう 人々がプロダクティブな活動の組織体制やその維持をどのよ に実際に活動しているのか、あるいは、人々のプロダクティブ うに想定しているか、 その認識の違いがあると感じている。 な活動をどのように社会や組織が支えていくのかといった点 talk イギリスやオランダにおける、リーダーを設定して積極的な についてより詳細に検討していきたい。 25 2 超高齢社会、 総力戦で真に明るい長寿社会の実現を はじめに 鈴木隆雄 国立長寿医療研究センター研究所長 2つめは、自然発生的に始まった活動ではあるが、仮設住 宅などに集まって小物を制作・販売することによって被災地 プロダクティブ・エイジングは非常に幅が広い概念である。 の人々の絆をつくり、生きがいをつくり出そうとする活動。98 1つは就労の問題、そして地域でのインフォーマルなボラン 歳の女性がリーダーとなってやっているところもある。 ティア活動、 さらには虚弱化を予防していくこと、つまりその人 の自助努力によって、あるいは共助によって自立を最期まで 維持できるようにもっていくこと自体も、プロダクティブ・エイジ ングの概念に含まれる。 高齢者に対する認識の変革 金平輝子 元東京都副知事、 日本司法支援センター(法テラス) 元理事長 本日はプロダクティブ・エイジングにかかわるさまざまな立 今まで自分たちが用意してきた高齢社会というのは、 ちょっ 場の専門家にお集まりいただいた。ここではいろいろな視 と間違っていたのでないかと改めて考えた。高齢者は支え 点からお話をいただき、日本型のプロダクティブ・エイジング るべき存在であり、彼らを支えるために家族、行政、国、自治 のあり方を探ってみたい。 体はどうするのかといった発想で考えてきたが、これは今の 社会の主役としての高齢者 堀田力 さわやか福祉財団理事長 東北地方で被災した町を新たにつくるにあたり、 地域包括 時代、 考え直すべきと思う。 退職して地域で暮らすようになると、地域に高齢者が実に 多く存在することを実感する。朝昼晩、どこへ行っても高齢 者ばかり。地域とは、高齢者でもっているところなのだと気づ く。したがって、若者や行政が高齢者を助けるのではなく、 ケアのあるまち、つまり最期まで高齢者が住み慣れた地域で 高齢者が高齢者を助けるようにならなければ、地域は成り立 暮らせる町にしよう、子どもからお年寄りまで、絆のある助け たない構造になっている。 合いのある町にしようという旗印のもと、9つの市や町に全国 ただし、男性はあまり外へ出てこない。優しい奥様方に家 のさわやか福祉財団の仲間と共に入り、住民、医療者や介 の中でケアを受けているのかもしれないが、奥様が先立たれ 護事業者、 地方自治体に働きかける活動を行っている。 たとき、 男性はどうされるのか心配に思っている。 プロダクティブ・エイジングの視点から2つ紹介する。 1つは、新たなまちづくりボランティア活動に相当数の高齢 者が従事し、張り切って活動していることだ。働ける若い世 代は外で稼がなければ暮らしが成り立たない。残った高齢 就労からのアプローチ 秋山弘子 東京大学高齢社会総合研究機構特任教授 者がそれぞれの経験を生かして地域でNPOなどの団体を組 高齢期については女性の問題ももちろんあるが、男性の 成し、絶えず集まり、被災者の声を集め、それをまとめて行政 問題が深刻。千葉の柏市と福井で長寿社会のまちづくりを ■左より鈴木隆雄氏、 堀田力氏、 金平輝子氏 26 につなぎ、 いろいろな面で働きかけ活躍している。 行っているが、男性がリタイア後に地域に帰ると、知人もいな 3年目を迎えている。行政が行っ めの大学として運営を始め、 いし、名刺もないし、何をしていいかわからない、行くところも ていたときには800名だった学生数は、授業料が上がってい ないという状態は都市部で非常に特徴的な現象である。 るにもかかわらず、 今では1,800名に増大している。 そこで男性がリタイアしたら、すぐに外に出ていけるような そもそも高齢者大学に入学する人は、自分の趣味や楽し 仕掛けづくりの活動を続けている。それには就労が一番の みのために来る人がほとんどで、男性が7割を占める。この きっかけとなる。これが一番敷居が低い。ボランティアという 人たちに少しでも社会に目を向けた活動をしてもらうように、 のはリタイアしたサラリーマンには敷居が高すぎる。だから いわば再教育の場としてこの高齢者大学を位置付け、関 敷居の低いところから入ってもらって、まずは1回外に出る。 わっている。 そうすると、町の中で何が問題になっているのか、自分に何 1年間で約30 ∼ 40%の学生に変化が見られる。変化が ができるのかというマインドセットになる。自分の今までの経 現れるのは大学の中で仲間をたくさんつくった人。その中か 験がこんなところで役に立つのではないかということで、有 ら社会のために何かしなくてはという価値観の共有が生ま 償・無償のボランティアをやってみようと外へ出るきっかけが れ、 修了後にボランティア活動などに結びついていっている。 広がるようになる。これは男性にとって非常に効果的な仕掛 けだと強く感じている。 教育からのアプローチ 藤田綾子 甲子園大学心理学部長 社会の役に立ち続ける バロネス・サリー・グリーングロス 英国上院議員 ILC-UK理事長、ILCグローバル・アライアンス共同理事長、 私の知人に障害があって車椅子に乗っている70代後半 の女性がいる。彼女は12名の独り暮らし高齢者に対する電 エイジズムを超えてプロダクティブ・エイジングへという形 話ボランティアを行っている。さまざまな理由から外出が困 で研究を進めてきている。 「高齢者は助けてもらう存在」とい 難になり、社会から孤立している高齢者たちに、困ったことが う意識が高齢者自身にも基本にあったために、今すぐにプロ あったときの相談窓口やその他必要な情報を提供している。 ダクティブになりなさいと言われても、なかなかそういう活動に 彼女との電話によって、高齢者たちは社会とつながることが すぐに飛びつくことができない状況にある。 でき、 生きる力を得る。彼女自身も障害を持っていても自分は ボランティアの育成については、高齢者大学の存在が効 まだ価値ある人間だと実感できるのだ。 果を上げている。大阪では高齢者大学を昭和54年から展 プロダクティブ・エイジングとは、 一人一人が価値ある存在 開しており、ずっと関わってきているが、市から出ていた助成 であるとお互いに認識し合うことだと思う。高齢者が自分は 金が橋本知事になってからすぱっと切られてしまった。あと 何もすることがない、役に立たない存在だと思うのはとても悲 は勝手にやりなさいといわれた形になったときに、高齢者が自 しいことだ。 発的に立ち上がり、高齢者大学を高齢者による高齢者のた talk ■左より秋山弘子氏、 藤田綾子氏、 バロネス・サリー・グリーングロス氏 27 課題への挑戦の時 山崎史郎 内閣府共生社会政策担当政策統括官 共助であり、この共助の仕組みがしっかりしていないと自助も 互助も社会の中で育っていかない。 一方、共助だけでは大介護時代を迎えるこれからの超高 今たまたま内閣府という全体を見る立場にあり、高齢化と 齢社会は支えきれない。やはり自助や互助も社会の中に構 少子化問題を一緒にやっている。さまざまな個人の能力を 築し、支え合うことが必要となってくる。私どもとしても真剣に 高めていくことは大事なことだが、今後は相当厳しいチャレン 自助や互助というものを社会に定着させていきたいと思って ジが日本という国にやってくるだろうと思う。特に都市部はこ いる。本日皆さまからは、さまざまな方法論やアドバイスが出 れから初めて本格的な高齢化がやってくる。医療・介護の された。こうした英知を結集していただき、行政としてはそれ リスクヘッジだけでは間に合わない。高齢期で最も課題とな をサポートしていきたい。 るのは、住まいの問題だと思う。高齢期に住まいを維持でき ないというのは、あらゆる人生設計を狂わせていくことにつな がるのではないかと思っており、生活保障の最低部分として 捉えて対応していかないと、 脆弱な地盤の上に花が咲いてい るような状態になる。本日は国交省の方はいないが、 真剣に、 超高齢社会に総力戦で立ち向かう 口恵子 高齢社会をよくする女性の会理事長 私どもがこれから直面する、 ますます急激な超少子・高齢 真面目に住まいの問題を考えないと、厳しい事態になると危 社会というのは、人類全体が遭遇する、全く新しい事態だと 惧している。 思っている。したがって、男女を問わず、潜在的能力がここ 日本は実はこれからこそ真に、プロダクティビティのある社 で十分発揮されないと乗り切れないのではないかと思う。そ 会がつくれるかどうかの瀬戸際ではないかという感じがして ういう意味で、本日皆さまが元気な高齢者の就労の問題だ いる。日本がここで新しいモデルを示すことができるかどうか けでなく、 弱った人、 超高齢期の人たちの存在そのもの、 ある ということは、急速に高齢化が進んでいるアジア全体に大き いは生き方自身もまた、 プロダクティブ・エイジングの支え手に な影響を与えていくことになるだろう。 なっていくんだという話を展開していただけて嬉しく思う。 自助・互助・共助のバランス 原勝則 厚生労働省老健局長 これから介護保険が制度改正を控えており、持続可能な この新しい超高齢社会は総力戦で立ち向かわねばならな い。これは、 平和と豊かさの証である長くなった人生を、 最期 まで尊厳をもって支え、決して阻害されず、除外されず、排除 それを支える、 命 されず、 仲間の1人として生涯を終えていく、 を支える総力戦なのである。 介護保険制度をどう構築していくかが大きな課題となってい る。自助・互助・共助の組み合わせということが言われるが、 介護が必要になった時のセーフティネットである介護保険は ■左より山崎史郎氏、 原勝則氏、 口恵子氏 28 (役職はミーティング当時) プロダクティブ・エイジング 東京ステートメント ラウンドテーブルミーティング参加者 International Longevity Center-Japan International Longevity Centre -UK 長寿革命によって世界は前例のない新しい人類の進化の過程に突入した。 この革命は急速に進行しており、その影響はきわめて大きなものである。多くの 人が健康で長生きできるようになった一方で、 教育や労働環境、 政治、 経済、 倫理そ して高齢者自身の生き方が、 時代の流れに十分に適応しているとは言い切れない。 長寿の時代に即した認識や価値観を深め、 社会経済的制度を根本的に見直し ていくべき時期である。 例えば、 職業人生で貢献するのは若いうちだけのことであり、 退職後は悠々自適 の生活を送るという発想は捨てるべきである。このような考え方は、生涯現役で活 躍する高齢者の社会貢献の価値を理解していない。 真に長寿の恩恵を享受するには、高齢者自身が自立して活力をもって自身の暮 らしを営み、 社会に貢献し続けることが必要である。 私たちは、 よりよく幸せに生きるための高齢者の責任と権利を、 明確にすべきであ ると考える。 ● 高齢者は、その力を発揮して社会経済に貢献し、自らが培った技術を次世代に継承 し、また社会の負担を最小限に抑えるために、可能な限り労働市場に残る責任があ る。その環境を作るために企業および社会も努力すべきである。 ● 高齢者は、 労働市場から引退したのちも、 社会と関わりを持ち続ける責任がある。多 くの高齢者が退職後も意欲的に生きるために、熱心にボランティア活動に取り組ん でいる。ボランティア活動は柔軟に行われ、 楽しいものであり、 高齢者の専門的な能 力や経験を活用できるものとすべきである。 ● talk 高齢者は、住み慣れた地域で暮らし続ける権利を持つべきである。一方で、地域の 中で高齢者が主体的に自助・互助・共助の仕組みをつくり上げることも重要である。 また、支援や介護が必要な高齢者でも、 自身の人生を他人に委ねるのではなく、尊厳 あるものとする意思を持ち続けることにより、社会への貢献が可能であるし、適切な ケアの仕組みの構築は経済活動にも寄与することになる。 ● 長寿が社会を豊かにし、その恩恵をすべての世代が享受できることを証明するため に、 長寿先進国は先頭に立ってその責任を果たしてゆくことになる。 29 opinion 超高齢社会を企業の視点で考える 長寿社会ライフスタイル研究会メンバーの提言と活動報告 opinion 長寿社会の中で思うこと 生井敬一郎 「長寿社会ライフスタイル研究会」座長 鹿島建設株式会社社友、 (株) 小野測器取締役、 (株) イリア顧問、ILC-Japan企画運営委員 ■ 定年後の選択 ■ 生涯現役社会を作る この研究会の目的は、長寿社会の中で高齢者が理想的な 少子高齢化は容易な事態ではない。この少子化の一番 生き方を模索して、その生き方をめざす中での問題点は何 大きな原因は時代が大きく変わったことではないだろうか。 か、 また解決策は何かということを探り出し、 生き方の指針に 農業や自営業が主体であった時代は子どもを産み育てるこ しようというものである。私が長寿社会の中で思っているこ とが投資であって、次代に仕事を任せて継がせるという時代 とを申し上げて今後の議論の材料にしていただきたい。 であったが、いまは子どもは消費財という考え方になってい もし病気や事故によってそれまでの生活の維持が難しく なれば、世界でも最先端を行く医療技術・医療システムの中 る。つまり、子どもをめぐる生活・経済のパターンが変わっ てきているということがある。 で治療し、回復を望むしかない。まずは健康を維持しようと このような変化の中で、少子化の原因についてしばしば言 する努力が重要である。そのうえで、 元気な高齢者がどのよ われているのは、将来の不安からなかなか子どもを作らな うに生きるのかということが課題である。特にビジネスマン い、作っても一人か二人だけだということである。若い人た あるいはビジネスウーマンが定年後に、あるいは定年がなく ちの将来の不安の大きな要素として、太った老人を痩せ細っ とも一定の年代後にどういう選択をしなければならないかと た自分たち若者がおぶっている、と感じていることがあるの いうことについては、 さまざまな考え方がある。 かもしれない。 健康で元気で長生きしたいという気持ちは共通であるが、 そして、待ったなしの年金・医療・介護費の増大をどのよ 私の身近な範囲で見ているといくつかのパターンがみられ うに抑えるかということがある。増税を行うという考え方も る。あるパターンは、 もう社会とほとんど関係を絶ってしまっ あるがそれだけで問題が解決するわけではない。有効な解 て遠くの山の中に住んで、きれいな空気のもとで星空を見 決方法は、慶應義塾大学の清家篤塾長も言われる通り、生涯 て野菜を作ってという形で悠々と老後を過ごすというもので 現役社会を作り出すことである。生涯現役ということは、元 ある。そして自分で働いてきた結果として年金もあるので 気で働き続けて税金も納め年金も納め、もらう年金はできる 生活に不安はない。こういうことを目指す人もいる。それ だけ後回しにして健康で元気に暮らしていくということであ はそれで本人の自由であるが、自治体等が人や税金を投入 る。これですべてが解決するわけではないがこのような考 し見守っていく必要が生じる問題点もある。それから一方 え方は必要ではないだろうか。 で仕事もまだまだしたいし会合にも出たい、趣味の世界もい ろいろやりたい、たまには飲み屋の縄暖 もくぐりたい、銀 座や新橋のバーにも行きたい、そういう生活を送りたいとい そして、生涯現役社会をつくるためには二つ大切なことが う人たちもいる。それからその中間も当然ある。そういう ある。まず心身ともに健康であるということが一つの大前提 選択肢の中で私個人はできるだけ長く社会にかかわってい になるが、さらにもう一つは意欲があるということである。多 たいという気持ちである。若いころから老後のことを考え くの人が「年金で何とかやっていくからもういい」という考え たときにそのようにありたいと思ってきた。それもあって、 でいると、 生涯現役社会の実現は不可能である。 国際長寿センターのお手伝いもしている。 30 ■ 働き続けるために必要なこと ありがたいことに、清家塾長の本にあったある統計では、 急激に少子高齢化が進む日本の現実を、さまざまな側面から把握するために、 「長寿社 会ライフスタイル研究会」を組成し、 ILC賛助会員企業メンバーを中心とした勉強会 を重ねてきた。日本の将来の姿は。企業はどのような役割を果たせるか。定年後の 個人の在り方は。多岐にわたるテーマでの議論や、取り組みの一例を紹介したい。 このような働きたいという意欲と希望は、日本においては60 日本は人間が資源なので、高齢者の活用を企業側も雇用 歳前半の7割の人がもっているそうである。アメリカやイギ される側も考える時代である。リーズナブルな給料になる リスの調査では6割で、 ドイツは4割、フランスは3割ぐらいし が働き続ける時の注意点は、高齢者が昔の企業における地 かそのような意欲はないということである。日本では生涯 位や立場を忘れて、若い現役世代のもとで平穏に貢献する 現役を目指したいという人が多いと推察をしている。 ことである。イメージでいえば長距離マラソン型の社会に それで、生涯現役のために実際に何をしたらいいのかとい うことになる。一つは企業の定年延長が絶対に必要になる。 なることがよいのではないか。 また、長寿社会では絶対に必要なことは人とのつながりで 私のころは60歳定年の時代だったが、いまは65歳になりつ ある。社会参加をすることで人とのつながりをつくり、生き つある。ここからさらに65歳よりも延長していくことがいい がいになり、 知恵を学ぶ連鎖が生まれるのである。 のかどうかという大きな議論が生まれている。経営者側に 私自身は、このように人々の迷惑にならないように過ごし 言わせると、定年70歳と言われても人件費負担が大きくな て最期には長く患うことのないように、と思っている。果た るので、それではやっていけないというのが一般的な答えで してどうなるかはわからないものの努力していきたい。 ある。しかし私から見ると定年制は70歳であったり75歳に して、世界で一番高齢者が活躍する国を作るということが必 ■ できるだけ育った土地で生活を 要ではないかと思う。これはただ単に今の制度のままで働 その場合に、やはりできるだけ育った土地で生活をしてい くというのではない。ネックはやはり年功賃金制で、年齢が きたいと考えている。これは多くの日本人の希望でなない 高くなると賃金が高くなるので経営は無理になってしまう。 かと思う。以前、 ある会社が伊豆半島に終の棲家として高齢 そのため、年功賃金制を廃止して40歳台あたりからフラット 者用の住宅を分譲したことがあった。環境もよいすばらしい にして、それ以上の昇給は経済全般の状況による場合以外 ところだったので、すぐにほとんど売れたということであっ は、 基本的にはないという考え方がいいと思う。 た。そしてそこにご夫婦やおひとりで住んでいたが、2年ぐ 具体的に言うと、仮に定年が70歳なり75歳なりになったと らいで皆さんが戻ってきた。なぜかと言えば、それは単に別 きに当事者は何をするかというと、経営者になっていく人は 荘ができただけのことで、そこには町はなかったということ 別として、具体的な業務の担当者の一人として、リーズナブ だ。だから自分の生まれ育ったところのできるだけ近くに住 ルな賃金で活用するということが基本だと思う。すでにそ んで、そこに友人たちもいる、知り合いの近所の人たちもい のようにしている企業もあると思うが、例えば百貨店では多 る、なじみの飲み屋もある、そういう自分の町で暮らしなが くの顧客が高齢者なのだから、その客に応対するのはニー ら、 有意義な生涯現役の生活を目指したい。 ズがよくわかっていて慣れている高齢者が担当したらいいと そのような生活を目指すことは、単に自分にとって快適で いうことがある。また、これもすでに行っている会社がある あるということだけではなく、若者の「なんで自分たちが負 が、平日は一般の社員が勤務して土日にウィークエンド社員 担をするのか」という不満を軽減することにもつながってい として高齢の方が働くということも考えられる。このように くはずである。 考えると、工場も操業を一時止めることなく、 コスト削減にも なる。こうして雇う側も雇われる側もメリットが生じる。 また、老人ホームに入居している人で元電気の技師であっ た人が、そのホームの電気のメンテナンスを扱って、入居の 以上、私が現在思っている生き方を述べたが、高齢社会で は人それぞれが希望する生き方があるので、それらさまざま なパターンでの長寿社会におけるライフスタイルを考え、そ の問題点と解決策を今後も話し合っていきたい。 費用を半分にしてもらっているという事例がある。つまり、 入居者が働いているわけである。 31 opinion 健康寿命に食の果たす役割 小田嶋文彦 味の素株式会社 健康ケア事業本部 理事 ■ 高齢者の食生活 私は味の素(株)で食品の研究開発に長年携わってきました あまり見当たりません。更なる研究の推進と新しい知識の 啓発普及が求められるところです。 が、現在は「良い食と栄養を通じて高齢者の健康寿命の延 この先生方の主張の骨子は色々な食品(具体的には肉、魚、 伸に貢献する」という命題の下、何をやるべきか、あるいは 卵、乳製品、大豆・大豆製品、海藻、イモ、果物、油脂、野菜の10食品群) どんなことが出来るかを模索しています。 を毎日万遍なく食べるのが良いということですが、その意味 この命題を掲げたのは、食と栄養が高齢者の健康寿命の するところの核心は、タンパク質栄養状態を常に良好な状態 延伸に大いに貢献する筈だと考えたからです。日本の高齢 に保とうということです。少し脇道にそれますが、日本が世 者研究のメッカである東京都健康長寿医療センターや愛知 界の最長寿国になったのは決して伝統的な和食が優れてい の国立長寿医療研究センターの先生方は、長年の疫学研究 たためではなく、第二次世界大戦後に欧米の食材が導入さ の結果から栄養を重視されており、栄養状態の良い人は疾病 れ、和食が適度に欧米化されたためである、という事もこの や死亡のリスクが低くなるという結果も発表しています。 先生方は仰っています。上記10食品群の中の肉、卵、乳製 このような栄養の重要性が社会全体で正しく認識され、且 品は旧来の和食では殆ど使われていませんでしたが、その つ十分に実践されていれば、 今更我々が命題として掲げる意 消費量の増加と戦後の平均寿命の延びは見事にリンクして 味もありませんが、現実はそうでもないようです。 「栄養が大 います。これらタンパク性食材が増えた分、 米の消費量を減 事だと思うか」と聞けば「思わない」と答える人は先ずいま らしてカロリーの過剰摂取を回避し、欧米的な生活習慣病が せんが、では「どのような食生活上の配慮をしているか」と 深刻化せずに済んだ、 という構造になっています。 聞くとアヤフヤにしか答えられなかったり、間違った認識をし ていたりするケースが意外と多く存在し、全体的にはまだま だ正しい知識を正しく実践できていると言える状況ではな 話を戻します。老化とは何か、ということについては様々 いと感じています。その端的な例が粗食信仰や野菜を偏重 な言い方がありますが、かなり本質を突いた表現として「加 して動物性食品を忌避する考え方です。 齢とともに体の中のタンパク質が減っていく現象」という言 そうなる理由の一つは、健常高齢者の栄養を研究する研 32 ■ 老化はタンパク質の減少 い方があります。 究者がまだ一部の先生方に限られ、その知識も関連学会に 何故タンパク質が減るのでしょうか。先ず理解しておくべ おいてすら十分に認識されていない、という事情が挙げられ きことは、「動的平衡」という概念です。今の自分と一か月 ます。栄養学の分野では、 かつて食生活が貧しかった時代に 前の自分は一見同じに見えますが、体を作っている成分のレ 栄養失調を回避するためにどのような栄養素をどの程度摂 ベルで見ると実はかなり入れ替わっています。古い成分は 取したらよいかを盛んに研究しましたが、食が充足されて飽 どんどん分解されて尿や糞便の形で体外に排出され、その 食の時代を迎えた後はその必要性がなくなり、病態栄養に 一方、分解されたものと同じ成分が、日々食べている食物を 研究がシフトしていきました。腎臓病食、糖尿病食等がその 原料として新たに合成されていきます。この分解と合成の 代表です。高齢者の健康を維持向上するための栄養研究は バランスが合っている場合は、見た目は何も変わっていない まだ厚みがなく、国内では上記の先生方の疫学研究以外は ように見えますが、実は中身は常に入れ替わっているので す。これが「動的平衡」です。例えば筋肉では3か月程度 で中身が全く別ものになっています。 アミノ酸とはアミノ基とカルボキシル基を持つ成分の総 称で、自然界には500種類くらい存在します。このアミノ酸 体は様々な種類の成分から成り立っていますが、どの成分 が幾つも鎖状に結合したものがタンパク質ですが、タンパク が作られる過程にも、「酵素」という触媒作用を持つ一群の 質の材料になるアミノ酸は500種類の中の20種類だけで タンパク質が必ず関わります。従って一番大事な成分はタ す。これは全ての生物で共通です。更にこの20種類のアミ ンパク質である、ということになります。タンパク質は体内 ノ酸は、自分の体では作れずに食物として外界から獲得する に約10万種類あると言われており、また体を構成する各種 必要のある「必須アミノ酸」と、他のアミノ酸等から自分の 成分のうちの約20%(水分を除くと50%)を占めています。 体内で作ることが出来る「非必須アミノ酸」に分かれます。 役割から見ても、 量からみてもとても重要な成分です。 20種類中の9種類が前者、11種類が後者です。 老化が進むとこのタンパク質の合成能力が徐々に落ちて 研究は、 先ず20種類のアミノ酸全部(要するにタンパク質その いきます。分解の方は若い時と変わりませんので、放ってお もの)を人に飲ませた場合と、9種類の必須アミノ酸だけ(量 くと体の中のタンパク質量が徐々に減っていくことになりま 的にもアミノ酸全部の凡そ半分)を飲ませた場合の筋タンパク合 す。重要な役割を果たしている成分が減っていくのですか 成速度を比べました。その結果、両者に差はありませんでし ら、体全体の性能は必然的に落ちていきます。筋肉が減っ たので、 体でのタンパク質合成で重要なのは必須アミノ酸で て運動能力が落ちたり、免疫力が下がり病気になり易くなっ ある、 ということになります。 たり、血液の保水力が弱まり脱水症状になり易くなったり、ホ 一方、アミノ酸はこのようにタンパク質の材料になるだけ ルモンが減って体に変調を来したり、これらは全てタンパク でなく、 それ自体が様々な生理作用を持っています。例えば 質が減ったために起こる現象です。 アルギニンには血管を広げて血液の流れを良くする作用が では我々はこの自然の摂理になすすべなく従うしかない ありますし、 グリシンには睡眠の質を改善する作用、 グルタミ か、というと必ずしもそうではありません。老化に抗するこ ンには肝臓を守りアルコール代謝を高める、要するに二日酔 とは現在わかっている手段を上手く使うだけでもある程度 い防止の作用があります。 可能ですし、今後それはもっと進歩する筈です。そのヒント このような中、必須アミノ酸の一つであるロイシンには、 が先に紹介した東京都健康長寿医療センターや愛知の国立 タンパク質合成のスイッチを入れ、合成を活発化させる働き 長寿医療研究センターの先生方の疫学研究の成果ですし、 があります。高齢者と若い人を比べると、 高齢者の方がこの 味の素の研究者が携わった次に紹介する研究も利用価値が スイッチの感度が鈍くなっています。先に述べた「老化が進 高いと思っています。 むとタンパク質の合成能力が徐々に落ちる」という現象に は、このスイッチの感度低下が深く関わっていると思われま ■ 必須アミノ酸の摂取 さて、この弊社の研究者が携わった研究のご紹介ですが、 す。そこで、9種類の必須アミノ酸の混合物の中のロイシ ンの割合を増やしてやると、タンパク質合成の速度が速まり 説明は先ずアミノ酸という成分とタンパク質との関係から入 ました(凡そ2倍に増加)。要するに鈍くなったら刺激を強めて りたいと思います。 やれば良いという訳で、年をとって耳の感度が落ちている人 33 には大きな声で話せば話が伝わる、というのと似たようなこ とです。 尿病や血管系疾病のリスクを高めると言われています。 ② 意識して身体を動かす 以上の話を纏めますと、ロイシンを増やした必須アミノ酸 ● の混合物は、普通のタンパク質の1/4量で、同等のタンパク 質合成能力を発揮するという理屈になります。丁度それを ウォーキング:通勤の往復に駅と家の間を20分程度毎日 歩く。土日は1 ∼ 2時間。 ● 証明するデータが最近出てきたところです。 若干の筋力トレーニング:腕立て伏せ、腹筋運動、背筋運 動等をできる範囲で行うことも有効ですが、それでもシン アミノ酸とタンパク質の一般的な説明も含めたために話 ドイ方には「ラジオ体操」を毎日正しく行うことをお勧め が冗長になりましたが、タンパク性の食材を意識して食べる します。思いのほか効果的です*。 ようにしたり、このようなアミノ酸の知見を上手に使えば、体 ③ 歯を治療し、歯垢除去を定期的に行う の中でタンパク質を作る力の衰えをカバーでき、 活力が維持 ● 歯医者さんで虫歯を全部治し、その後は定期的に歯垢除 され、最終的に健康寿命の延伸に貢献できるのではないか 去をやって貰っている。虫歯や歯周病を治さないとその と期待をしている訳です。 穴から病原菌や毒素が血管に入り込み、生活習慣病の引 以上、タンパク質やアミノ酸の重要性を強調してきました き金となることが明らかになってきているそうです。 が、勿論これだけに注意を払っていれば十分だという訳では ④ 社会的活動 ありません。仕事上、色々と勉強しましたが、その中から自 ● 己流健康法を編み出しましたので、最後に参考までご紹介し まだ現役社会人なので取りたてて何もしていませんが、 退 任したら考えます。 ます。一応科学的根拠はあるつもりですし、これを始めてか らは以前に比べ体も快調で、 気力も充実しています。 最後にまた食生活に戻りますが、食生活が栄養の摂取以 外にも、元気で生きる上でとても重要な役割を果たしている ■ 自己流健康法 事例をご紹介します。 食卓を囲むことにより人間関係が良くなる。買い物・調理・ ① 食と栄養に気を付ける ● ● ● タンパク性食品(肉、魚、卵、乳製品、大豆製品など)やアミノ酸 片づけという食事の一連の動作には、実はかなり高度な知 サプリメント (アミノバイタル等) を意識して摂る。 的作業と運動が伴っており、頭と体の有効なトレーニングに 食物繊維を摂って腸内環境を整える(繊維質の多い野菜やシ なる。つい顔が綻ぶ美味しさの喜びで良い精神状態を保つ。 。腸内環境を整えると善玉菌が増えて免疫力が向 リアル) 一日3度の食事で規則正しい生活リズムを作る。家族を食 上すると言われています。 べさせなければならないという使命感が生きる励みになる。 抗酸化成分を摂って体が このように多くの役割がありますので、ぜひ食生活を大切 びないようにする(緑黄色野菜、 お茶、各種サプリメント 〈CoQ10、アスタキサンチン、βカロチン、ブ にしたいものです。 。 ルーベリー等のどれか〉) ● 白飯でなく雑穀米や玄米のご飯、精白パンでなく精製度 の低い小麦粉を使ったパンを食べる。精製した穀物は糖 34 参考: 『実はスゴイ! 大人のラジオ体操』 (中村格子著・講談社) * opinion 超高齢社会における金融機関の役割 三井住友信託の取り組みを中心に 金井司 三井住友信託銀行株式会社 経営企画部 CSR担当部長 ■ 高齢社会に対応した信託銀行の金融商品・サービス ■ 長寿社会ライフスタイル研究会へ参加して 日本の個人の金融資産の約65%は60代以上の高齢者世 さて、当社が長寿社会ライフスタイル研究会に参加したの 帯によって保有されており、40代以下の世帯の保有比率は は、このように信託銀行のビジネスと高齢者には深い関係が 20%未満に過ぎない。このような金融資産の偏在は少子 あったからだが、毎回白熱した議論に大いに啓発された。 高齢化により今後更に強まることが考えられるため、必然的 2013年2月のラウンドテーブルミーティングにおける、日本を に金融機関の個人ビジネスの主戦場は高齢者ということに 代表する有識者の丁々発止のやり取りも大いに刺激になっ なる。筆者が勤務する信託銀行においても、貸付信託とい た。生井座長やILC-Japan事務局には、 お礼を申し上げたい。 う長期・高利回りの主力商品が退職金等の受け皿となって 他方、高齢社会の問題を知れば知るほど、ビジネス界の認 いた時代からシニア層は中心の顧客であった。その後金融 識は遅れているのではないかという思いが強くなった。そ が自由化され貸付信託の優位性は薄らいだが、信託銀行は もそも超高齢化は、企業にとってチャンスなのだろうかリス 高齢者を意識した様々な商品・サービスを開発してきた。 クなのだろうか。メディアにおいても国が抱えている問題と 遺言書の作成や保管、執行までのサービスを包括的に提供 してこのテーマは盛んに議論されるが、企業への影響となる する遺言信託もその一例で、こういった業務を通じシニア顧 とマイナス面より福祉ビジネスなど機会の拡大の面に焦点 客とは堅固な関係を構築してきたのである。 が当てられることが多いように思う。しかし、本研究会でい 一方、金融資産の高齢者への偏在は世代間の不公平感を ろいろな話を聞き、高齢化の急速な進展は企業にとってビジ 助長させる。高齢者の金融資産は預貯金などに固定される ネス基盤を揺るがす近未来のリスクだと思うようになった。 傾向にあり、消費や成長分野への投資に資金が回らない要 例えば、地方と東京圏では少子高齢化のスピードが全く違う 因になっている。当社は、自宅を担保に老後のゆとり資金を ことを知り、少なからずショックを受けた。これ程のスピード 融資する「リバースモーゲージ」の取り扱いを2005年に銀 格差があると、全国一律に同じサービスを展開するのが難し 行界ではいち早く開始したが、この商品は資産を流動化し消 い時代がやってくるかもしれない。振り込め詐欺の急増に 費につなげる経済的な意義がある。 2011年には顧客が毎 ついては手口が巧妙になったこともあろうが、認知症がその 年一回信託元本を取り崩し、当社が提示するリストから非営 背景にあるのであれば既に金融機関は当事者である。 利団体を一つ選んで寄付する社会貢献寄付信託を開始し こういったことを、現役のビジネスマンは他人事のように た。高齢者の金融資産が社会貢献に回ることになり、 文字通 思っている。高齢化問題が取り沙汰されて久しいが、 当事者 り社会的な意義がある。また2013年4月に祖父母から孫、 意識に乏しいのである。高齢社会問題に関するリテラシー 親から子といった直系家族に教育資金を贈る場合、1人に の向上は、 ビジネス界において急務だと痛感した。 つき最大1500万円まで贈与税が非課税となるよう税制が 改正されたが、これを受けて当社(信託銀行)が取り扱いを開 始した教育資金贈与信託は、高齢者の資金を直接若年層に 流す仕組みである。 ■ リテラシー向上に向けた取り組み シニア層が中心的な顧客である当社にとって、 高齢者に関 する問題をよく理解しておくことはとりわけ重要である。特 35 に接客面でその必要性は高く、こうした問題意識から2004 テラシー向上策の意義は小さくないと考えている。 年に大手金融機関では初めてサービス介助士を支店に配置 ところで、高齢社会において金融機関には、問題解決型の した。また、 認知症に関しては、 全国の支店で 「認知症サポー ビジネスを志向する企業やプロジェクトを、投資や融資で支 ター養成講座」を開催し、 社員のリテラシーを高めている。 援することも求められるだろう。近年、ビジネス界でよく話 更に、老年学に関する知識を網羅的・体系的に身につける 題に上がるようになった言葉にCSV(Creating Shared Value) ことを目的として、NPO法人「生活環境づくり21」が主催 がある。日本語に訳せば「共通価値の創造」ということで、 する「生・活(いき・いき)知識検定試験」 (監修;日本応用老年学 著名なハーバード大学のマイケル・E・ポーター教授が提唱 会 柴田博理事長)の受験講座を支店社員向けの教育プログラ した「社会のニーズや問題に取り組むことで社会的価値を ムとして導入した。検定試験の受験は任意であるが、 仮に合 創造し同時に自らの経済的価値を創造する」経営戦略であ 格者が金融の資格制度の一つであるFP(ファイナンシャル・プ る。高齢社会の問題を知ることは社会的価値の在り処を知 ランナー)などの保持者であれば、 ウエルビーイング・コン ることでもある。国が膨大な借金を抱える中、金融機関が シェルジュ に認定される。 真に必要な(民間)資金をタイムリーに供給する意味は大き 一方、高齢社会問題のリテラシーは言うまでもなく金融業 界全体に求められるものである。大変難しい課題であるが、 く、そのためには「社会的価値の目利き力」を養うことは大 変重要だと考える。 筆者は「持続的な社会の形成に向けた金融行動原則(21世 」を通じたリテラシー向上が可能ではないか 紀金融行動原則) と考えている。 21世紀金融行動原則とは、2011年10月に 投資や融資とは別に信託銀行独自の商品ラインナップの 環境や社会に配慮した金融の取り組みを促進するために制 中にもCSV的な商品・サービスがある。後見制度支援信託 定された金融機関による自主的なイニシアティブである(事 はその一例である。認知症などによって判断力を欠く状況 。現在189の金融機関が署名しており、運営委 務局は環境省) にある成年者を保護するために後見人を指定する「成年後 員会の決定に基づき5つのワーキンググループが設定され 見制度」については、残念ながら後見人が財産を横領する ている。当社は2013年5月に第一生命と共同でその一つで 事件が頻発している。これを防ぐために、 被後見人の財産の ある「持続可能な地域支援ワーキンググループ」を立ち上 うち日常的な支払を賄う金銭を預貯金等として後見人が管 げ、高齢社会問題を最初のテーマに取り上げた。具体的に 理し、通常使用しない金銭を信託銀行等に信託するのが本 はILC-Japan事務局を通じ少子高齢化問題、住宅の問題、 商品の仕組みである。 介護・認知症の問題などについて政策面に精通した方々に また特定贈与信託もCSV型の例として挙げられる。この 講義をお願いし、講演記録を全署名機関に送付して問題意 商品は重度の障がいがある方のために、信託銀行が家族な 識の共有化を図っている。189の署名機関には全都道府県 どから金銭の信託を受け、定期的に金銭を交付するというも の地域金融機関が含まれているが、高齢社会の問題が地域 ので、6000万円までが贈与税非課税となっている。 社会の問題とほぼ同義であることを勘案すると、こうしたリ 36 ■ 信託銀行にとってのCSV 信託銀行は個人顧客に対し、これら財産管理型の商品や リバースモーゲージのようなローン商品、老後の住まい(不 ■吉祥寺シルバーカレッジのプログラム に関わるアドバイスなどを交え、高齢者の抱える課題に 動産) 第1回 総合的な解決策を提供することができる。このような観点 老後の生活基盤を維持するために ● タンパク質が足りないよ から当社は、ILC-Japanと連携して有識者や専門家を講師 柴田博 人間総合科学大学院教授 (日本応用老年学会理事長) に招き、 顧客に身近な問題をテーマにした「シルバー・カレッ 「私だけは大丈夫!」が一番危険 ● ジ」セミナーを2013年5月から東京吉祥寺で4回にわたって 振り込め詐欺への備え 武蔵野警察署生活安全課 実施した。商品がラインナップされているだけでは十分で ● はない。問題解決には、まず顧客との問題意識の共有化が 保全を重視した資産運用について 増やす運用から守りの運用へ 当社 必要だからだ。参加者の反応も良好で、今後も全国各地で 展開していく方針である。 栄養失調になっていませんか? 第2回 老後の住まいの選択肢 ● 住み続けるという選択肢 終の棲家のビフォア/アフター 住友林業ホームテック株式会社 ■ さいごに ● 2013年2月に開催されたラウンドテーブル・ミーティング 近隣の高齢者住宅リストをもとに において、ILC-UKのサリー・グリーングロス理事長が「プ 株式会社福祉開発研究所 ロダクティブ・エイジングの成功は、プロダクティブな社会に ● 三井住友トラスト不動産株式会社 第3回 いくにはお金の流れをそれに適合したものに変える必要が 認知症と成年後見制度 ● 服部安子 社会福祉法人浴風会ケアスクール校長 ほど、持続可能な社会がプロダクティブな社会でなければな ● らない国はなく、お金の流れを変える役割を持つ金融機関 備えあれば憂いなし 成年後見制度の上手な使い方 香川美里 の責任は重大である。 一般社団法人成年後見センターペアサポート理事・弁護士 当社も金融業界の一員として、長寿社会ライフスタイル ● 認知症に対応した信託の活用方法 信託の仕組みで安心のサポート 研究会への参加を通じて得た知見やネットワークを活用し、 いる。 認知症を正しく理解し安心の備えを 介護の最前線からのアドバイス ある」と書かれている。未曾有の高齢社会に突入した日本 プロダクティブな社会の実現に貢献していきたいと考えて 住み慣れた地域に住み続けるために 住み替えのバリエーション おいてのみ可能だ」と発言されていて、大変印象に残った。 21世紀金融行動原則には「社会を持続可能なものに変えて 高齢者住宅に住み替えるという選択肢 当社 第4回 人生の最終段階を考える ● 納得できる旅立ちのために アンケートに見る理想の最期 志藤洋子 ILC-Japan事務局長 ● 相続・遺言について考える お孫様への「想い」を形にする「教育資金贈与」という方法 当社 37 opinion 退職者向けコミュニティに関する一私案 山口正統 三井住友海上火災保険株式会社 傷害長期保険部企画管理チーム課長 ■ はじめに ました。この間、60歳以降の継続雇用や再雇用、定年延長 商品・サービスの開発にあたり、男女別や年齢層別、ある などの対応が進み、さほど大きな影響がなかったと言われて いは地域別に括って、消費者ニーズを把握し、分析すること います。図1のとおり、60歳から64歳までの就業率が上昇 が一般的に行われています。しかし、高齢者に関しては、そ していることからもそれが分かります。 のような括りで分析することが難しいと言われています。な 一方、65歳以上の高齢者の就業率に大きな変化は見ら ぜなら、高齢者のニーズは、長年にわたる生活や趣味、仕事、 れません。男女ともにやや低下傾向(男性:平成12年33.1%→ 家族・友人との交流などの積み重ねによって形成されるも です。 平成22年27.8%、女性:平成12年14.3%→平成22年13.1%) のであり、一人ひとり個別の人生があるのと同じく、ニーズ 昨年は団塊世代のトップが65歳を迎えることとなりました。 も十把一絡げにできないからです。これが爆発的にヒットす これからは、この世代を頂点とした人口ピラミッド(図2参照) る高齢者向けの商品・サービスがなかなか出てこない理由 の山が高齢者の側へとシフトしていきます。すなわち、高齢 のひとつです。 者の人口ウェイトが大きくなり、 同時に未就業者のウェイトも この弊害を克服するために、企業で長年働いてきたサラ リーマン退職者をターゲットとして一つの団体や組織(コミュ 増えるという構図が見えてきます。 高齢者の就業実態や意識に関する調査がいくつも行われ を設け、そのコミュニティに属して仕事、 ボランティア、 ニティ) ています。一例として、内閣府の「第7回高齢者の生活と意 社会貢献ばかりでなく、仲間づくりや健康づくりなどを行っ 識に関する国際比較調査」の結果から、就労や経済状況な てもらうことで、プロダクティブ・エイジングを実現するモデ どに関する部分を取り出してみると、以下のようなことが見 ルを思考しました。 えてきます。 ■ 退職年齢と高齢者就労の実態 100 団塊世代の60歳到達とともに、定年退職者が一斉に増え 歳以上 るとされた「2007年問題」が騒がれてから6年あまりが経ち 老年人口 90 80 70 100 (%) 60 90 50 平成12 年 80 22 年 生産年齢人口 40 30 70 20 60 年少人口 55 56 57 58 59 60 61 62 63 図1. 55 ∼ 64歳男性の各歳別就業率 労働力調査 (基本集計) 平成22年平均 (速報) /総務省統計局 38 64(歳) 120 100 80 60 40 20 10 0歳 0(万人) 0 20 40 図2. わが国の人口ピラミッド 人口推計 (平成24年10月1日現在) /総務省統計局 60 80 100 120 ● 日本では、 経済的に「困っていない」人と 「あまり困っていない」 が加わります。 「そこそこの生活レ きな病気、介護、エンディング) 人を合わせると82.8%となり、スウェーデン(88.9%)に次いで ベルで、衰えを感じながらも健康を維持し、自分の趣味や人 多い。 ● 日本、韓国、アメリカでは、現在収入の伴う仕事をしている高齢 者のうち就労継続を希望する割合が8割を超えている。 ● 本報告書のテーマであるプロダクティブ・エイジングとい う概念で見ると、これだけでは済みません。年金受給者で (43.8%) 」、「働くのは体によいから、老化を防ぐから(25.8%)」 あっても、社会との関わりを強く持ち、より生産的な活動を 「仕事そのものが面白いから、自分の活力になるから(20.7%)」 行っていくことが望まれます。年金をもらって消費するだけ 白いから、 自分の活力になるから」が一番の理由になっている。 という概念を取り払い、 より積極的な社会活動や経済活動へ の貢献が求められています。 現在仕事をしていない高齢者が仕事をしたい理由は、日本は 「収入が欲しいから」 が過半数。また、「老化を防ぐ」と「友人 や仲間を得る」が5か国の中で最も高く、「仕事そのものが面 白い」は最も低い。 ● る」、 そのような姿が理想と言えます。 日本では、就労を継続する理由として、「収入がほしいから となっている。ドイツ、スウェーデンでは「仕事そのものが面 ● との関わりを楽しみながら、ピンピンコロリと最期を迎え 日本では、 「望ましい退職年齢」を「70歳ぐらい」以上とする人 が増加し36.0%(平成12 年30.2%、平成17 年33.5%)を占めてお り、 特に男性では45.9%と半数近くを占めている。 そこから見えてくる日本の高齢者が望む就業の姿は、以 そのようななか、わが国での高齢者就業の姿をどのように 捉えていけばいいのでしょうか。また、高齢者自身が80歳、 90歳までの長い人生のなかで、働くことの意義や価値をど のように見出していけばいいのでしょうか。 例えば、65歳で企業を退職し、年金受給者となり、贅沢は していないが標準的な生活ができているという前提で、その 高齢者が「働く」ということを考えてみます。 下のようにまとめられるのではないでしょうか。 「経済的にそ 働き盛りのときのようにバリバリ働くことを求めている高 こまで困窮していないので、さほど多くの収入は得ずに仕事 齢者は少ないでしょう。健康に害のない程度に自分のペー を続け、できるだけ長い期間働き続けたい」、そして「仕事を スで、できれば毎日でなく、週3日のようなペースで働く。仕 通じて仲間を作りたい、 健康作りをしたい」 事内容についても、嫌なこと、きついことではなく、自分の経 高齢者雇用安定法の改正によって、退職年齢のベースが 験が活かせることや社会的意義があること、自分が楽しめる 60歳から65歳へと変わりました。企業においては、この時 ようなものを求めます。もちろん、働きに応じて、賃金を得 代の変化に合わせて仕事の枠組みの転換が進められていま たいという欲求はありますが、それ以上に楽しく仕事がした す。高年齢層の経験や能力を活かすための仕事の選別・創 い、健康のため、友人や仲間づくりのためという意向が強く 造、高年齢層の働き甲斐や成果につながる賃金体系、若・中 表れます。 年齢層と高年齢層の業務内容・処遇のバランス、このような このような高齢者のニーズを満たす仕組みがつくれない 課題が与えられています。 でしょうか。 ■ プロダクティブ・エイジングに向けて ■ 退職者向けコミュニティに関する一私案 ある企業の年金受給者団体における意識調査によれば、 会社勤めをしていた人は退職し、仕事を離れると、おおむ 年金受給者のニーズは、健康、経済(お金)、生きがいの3つに ね居住する地域のコミュニティに参画することになります。 大別されます。最近では、これらに将来の不安への準備(大 そこでは、今まで自分が行ってきた仕事や職務、地位などは 39 関係なく、地域の住民に溶け込んでいく努力が求められま のなかから希望者のみが加入できる団体(コミュニティ)を作り す。それができない人は、自宅にこもり自分と家族だけの生 ます。参画した企業は自社の退職者にその団体加入を斡旋 活を過ごす、あるいは、旧来からの友人との付き合いに勤し し、退職者はその団体のなかで仕事・ボランティア選びや割 むことになります。 引等の特典のある商品・サービスの提供を受けることがで 地域のコミュニティに集まるのは種々多彩な人たちです。 きます。 地域ではコミュニケーション力に長けた女性が優位を占めま 参画する企業にもメリットを与えます。自社の商品・サー す。一方、終身雇用のもと、多くの時間を一つの会社のなか ビスをこの団体で提供できるようにします。 AARPのように で過ごしてきた男性陣はどうなるのでしょうか。会社と家庭 無料と有料の両方の会員を設けて、様々な特典は有料会員 の往復を中心として何十年も生活してきた人たちが、会社と のみしか受けられないようにして、会員の受け皿を広くする いう枠組みから放たれ、いざ地域に溶け込めと言われても、 ことも会員拡大方法の一つです。 そう簡単にはできません。そのような人たちにも、勤務して キーとなるのは仕事、ボランティアなどの機会の提供で いた会社が間に入り、退職に合わせて、会社が推薦するコ す。会員の出身企業が明確であり、 その技能・経歴等がデー ミュニティへの参加を導いてくれるような仕組みがあれば、 タベースとして確保できるので、他から依頼された仕事との 新しいコミュニティへと抵抗なく進むことができます。すな マッチングが可能です。また、自社の仕事のうち退職者でも わち、自分が慣れている型に収まることができ、地域のコ 対応可能な仕事を、会員に対してシェアすることもできま ミュニティにも無理に溶け込む必要がありません。さらに、 す。このような拠点を各地に作ることによって、参画企業や そのコミュニティで新しい仕事(ボランティア、社会貢献なども含 会員の利便性が高まるとともに、 企業数・会員数の増加が見 が見つかれば、 生きがい、 仲間、 お金、 さらには健康維持ま む) 込めます。また、会員向けにパソコンやカウンセリングなど でも手にすることができます。 の技術を習得するプログラムを提供することによって、会員 が適応できる仕事の幅を広げ、マッチングの確率を上げるこ 米国には退職者を会員とするAARP(全米退職者協会)とい ともできます。加齢とともに様々な面で衰えが出てきます。 う団体があります。この団体には約3700万人の退職者が それを見込んで、仕事の内容をより軽微にしたり、 ボランティ 加入しており、そのうち約2200万人は有料会員です。年会 アなどを用意しておくことができます。 費は10ドル台。会報、 ニュースレターなどによる情報提供の 会員には様々な企業から特典つきの商品・サービスが提 ほか、旅行や保険の割引などの特典が充実しています。こ 供されるので、それらを使った会員間の情報共有をインター れらの割引だけで会費分を回収できると言われています。 ネットの世界や、皆で集って顔を合わせる場でも行うことが 収益の半分は、このような会員向け商品・サービスを提供す できます。地域という限定されたコミュニティではなく、自 る企業からのロイヤリティや手数料収入です。これだけでビ 分の趣味や趣向にあったコミュニティや仲間も得ることがで ジネスモデルは成り立ちそうですが、加えて、 「ボランティア きます。 のプラットホーム」となる拠点を各地に抱え、パソコン講習 会の実施やボランティア活動の機会を提供しています。 次の時代では、 一人ひとりが長年勤務してきた会社を経路 として、 またそこが基点となり、 このような退職者活動を支援 する、地域偏在のないモデルを作ることを、考えてもいいの これを参考にしながら、 ひとつのモデルを考えます。 多くの企業が出資者となって参画し、それら企業の退職者 40 ではないでしょうか。 opinion 超高齢社会における自分づくりの一考察 金子哲郎 あいおいニッセイ同和損害保険株式会社 商品企画部サービス開発室 担当次長 ■ 高齢化の節目を感じる時 「ものが見えにくくなった」 「何となく根気がなくなった」な ど肉体的や精神的などで少しずつ年齢を自覚することや、 職率は60 ∼ 64歳層の約半数で、求職・就職ともパートタイ ムが多く、年齢全体との比較でも、サービス業や福祉関連を 除き約半数だった。厳しい現実があるのも事実である。 「身なりや仕草が野暮ったくなった」などと指摘され自分自 身の変化を感じることがあるが、それ以外にも、50歳を過 ■ 高齢社会への対応 ぎると社会的なポジションの変化が起きてくる。 「気楽な稼 高齢者雇用安定法の改正により60歳以降65歳までの雇 業」と言われたサラリーマンも昭和40年代までの話で、現 用が確保(義務化)されるようになった。これにより多くの企 代は過剰なノルマと異常なストレスに曝され65歳までの雇 業では雇用延長が加速しているが、ワークシェアリングや賃 用の確保が課題になる。雇用延長を実施した企業でも55歳 金処遇の見直しなど雇用条件の選択肢が広がり、若年層を を節目とした定年予備軍の区分けがあり、50歳を境に出 含めた人件費総額の調整や雇用期間の伸びと収入総額の 向・転籍など様々なアプローチが始まる。勤労者の多くに 調整も始まっている。そして、雇用条件として個々の能力発 はこうした人事制度の転機に遭遇し、社会的位置づけの変化 揮や健康度が厳しく評価されるなど、雇用環境は全般的に今 から年齢という節目を自覚することがあり、それぞれの高齢 まで以上に厳しくなる可能性が高くなってきた。 化はまさにそうした環境変化からも始まっていく。 これまで企業の高齢社会対応は、高齢者に集まる1500兆 以前なら定年は、 Happy Retirement という勤労の終 円を超える個人金融資産をどのように市場から吸収できるか わりだった。しかし、現代は年金受給開始年齢が引き下げ が専らの関心だった。しかし、企業内では高齢社会対応が雇 られ、生活のことを考えると60代半ばまで働かなければな 用義務という形でも表れてきた。これに対応するように、人 らない。もちろん、70代でも元気に働く人も多く50代な 材活用あるいはダイバーシティなど、多様化する社会や人々 どまだまだ序の口だが、勤労者として55歳を過ぎて感じる の生き方・考え方に沿った事業運営を標榜し、高い理想やビ のは、60歳までわずか5年、高齢者といわれる65歳までは ジョンを示す企業も増えてきたが、一方で、企業の雇用や労 10年という「時間」である。 働管理に対する姿勢がツイッターなどのSNSで露わになり、 平均寿命が伸び社会の中心で現役を貫く元気な高齢者 ブラック企業と言われる会社も出てきている。 も多いが、この節目に遭遇した時、自分はいつまで働くこと 戦後の高度成長期にあった終身雇用や年功序列などに代 ができるのか、これからの「時間」をどのくらい有意義に過 わり、 成果主義・実力主義・雇用の流動化は普通のことになっ ごせるのかなど漠然とした不安に包まれる。 た。規制改革や構造改革、経済のグローバル化が進行する 一般的には60歳以降も元気に働き65歳を過ぎても社会 中、企業は経済競争に勝つための生産性向上や効率化に追 との接点を持ち続けたいというのが理想だが、内閣府の「高 われ、企業価値もそれよって大きく変化した。その結果、賃 齢者の地域社会への参加に関する意識調査」 (2008年)では 金の二極化や自殺、メンタルヘルスやパワハラ・セクハラと 65歳を超えて働きたいと回答した人が約7割を超えるもの いう問題も生じてきた。企業価値の尺度となる株価は業績 の、職業安定業務統計(2012年度実績)では、65歳以上の就 向上のためのリストラを断行すれば上昇するのが株主資本 41 主義だが、一時的な事業再生に止まらず事業継続のために した雇用を維持し、就労期に積み上げた資産を引退後に活用 これが常態化している企業もある。経済の国際化の中では して、 最後まで安心して生活できる社会を作るとされている。 効率化が求められることは確かだが、結果として製品やサー めざす最終的な姿は、高齢者の資産を次世代が適切に継承 ビス等の品質が低下し最終的に社会に損失を与え、企業価 し社会に還流できる世代循環型の社会である。 値が低下するという悪循環も生み出している。高齢者を含 循環型社会への挑戦は、国際社会の中での日本の新たな めた顧客対応に神経をすり減らす一方で、経済社会を構成 優位性につながるかもしれない大きなテーマである。世界 する対象として同一である従業員の扱いに差が出るのは、 社 に先駆けて起きている少子高齢化で日本は多くの課題を抱 会の循環性にまで十分に力が及ばない現実を表しているの えているが、そこから学ぶことも多いはずだ。企業も生産性 かも知れない。 や効率化ばかりでなく、 今後の国内外の社会変化に対応した またここ数年は若干減少したものの、自殺者数は14年間 「人財の活用」により、新たな社会構造のありかたを模索す 連続で3万人を超え、生活保護受給者数が2013年度で215 る必要があるではないだろうか。 「健康経営」などを実践す 万人と20年前に比べると倍以上に増加している。時代の変 る企業も出てきたが、大企業が率先し年齢や性別を超えた 化の中で、超高齢社会を迎え世代間格差も問題になってい 個々人の能力活用を進めるべきではないかと考える。 る。これについては2012年9月に世代間格差解消を含めた 高齢社会対策大綱が閣議決定され、その基本的な考え方が 以下のように示されている。 (1) 「高齢者」の捉え方の意識改革 (2)老後の安心を確保するための社会保障制度の確立 (3)高齢者の意欲と能力の活用 (4)地域力の強化と安定的な地域社会の実現 (5)安全・安心な生活環境の実現 (6)若年期からの「人生90年時代」への備えと世代循環 の実現 42 ■ 自分自身を考える 「高齢化社会」という用語は、1956年(昭和31年)の国際 連合の報告書で当時の欧米先進国の水準を基に、総人口に 占める65歳以上の人口が7%以上を「高齢化した人口」と 呼んでいたことに由来する。現代にあてはまる「高齢者像」 を探す中で、インターネット百科事典「ウィキペディア」に非 常に興味深い記述が掲載されていた。注目したのは以下の ような部分である。 「一般的に、一部の高齢者は経験を積み、様々な事に熟達 しているとされる。加齢に伴う認知機能及び運動機能の衰 高齢者が多数を占める社会では、高齢者は支えられる対 えや、老衰に伴う記憶力の減退等といった理由により、第一 象ではなく自立し自己責任で社会を支える対象であると述 線を退いた者は多いが、その豊富な経験と、その経験によっ べられている。高齢者がいつまでも健康でいきいきと過ご て導き出される勘は、学習によって得られる知識や、練習に せるように、若年世代からの健康管理や生涯学習・自己啓発 よって習得する技能を超えた効率を発揮する高齢者もなか の取組が重要であるとされ、男女を問わず仕事と育児や介 には存在する。これらを若者は学ぶべき点は学び、 また後代 護・自己啓発・地域活動を含めた生活時間の選択を可能に に伝えるべき物とされる。」 そして、 「高齢者は古くより、社会的には年功序列や選挙で ると公的な支援も増え、民間企業でもシニアに手厚い商品 の高い投票率によって一定の地位を獲得しているが、現代と やサービスを提供するところが出てきている。 違い古代から近代初期に掛けては、医療技術が発展してい なシニア層を対象にした旅行や食のビジネスも目立つ。 なかったので、高齢になるほど希少な存在となり、長らくは 「古老」や「長老」と呼ばれる、 高齢者に対する特別な尊称が 存在する」とあった(ウィキペディア、ママ)。 では、元気 しかし、 やはり大切なのは、 自らいきいきと働き、 自立し、 消 費し続けることである。 そのためには先ず、健康や経済的な備えが必要だが、一方 非常に面白い表現である。経験と勘など、高齢者が次世 で、しっかりと目標を持ち、社会における自分の居所を考え 代に貢献する術があるという。しかし、 医学が進歩した現在、 ていくことも大切ではないだろうか。これからの超高齢社 65歳以上の高齢者は人口の1/4を占めるようになり、2055 会という社会構造の変化は、市場も変え、個人の意識を変え 年には人口の4割を占めるようになる。最近では、高齢者対 ていくことだろう。高齢者になっていく我々自身も変わらな 応の際に必ず「尊厳」という言葉が使われるが、「特別な尊 ければならない。悠々自適に過ごすことは悪いことではな 称」という意味ではない。現代の高齢者像は以前のそれと い。趣味やレジャー、勉強というそれぞれの目標で構わない は明らかに異なっている。 と思う。しかし、何かに目標を持ち外部と接点を持って日々 認知症有病者数が約439万人(2010年厚労省研究班調査)と を過ごすことも重要である。 推定される一方で、音楽や演劇の世界でも円熟したアーティ 少し発展して、これまで社会生活で培ってきた能力や経験 ストが目立つように、60歳を過ぎ90歳近くになっても多くの を活かして若者を支援し、 何かで役立つ存在になれれば理想 人たちが元気に社会で活躍している輝かしい社会でもある。 的である。 培ってきた豊富な経験に支えられた智恵を社会に還元し 年齢を感じる一つの節目の時期だからこそ、「これまで通 続ける彼らを見ていると、 今もなお「尊称」は存在している。 り」あるいは「今までできなかった」人生を考えてみてはど こうした社会の変化の中で改めて自分自身の50代の節目 うだろうか。高齢という年代に近づく現実を見極めつつも、 を見たとき、これからの自分づくりの「時間」の重要性がよ く理解できる。もちろん、定年後の生活を謳歌したいと楽観 「いきいきとしたこれからの自分づくり」を目標に、ささやか な「自分の成長戦略」を描きたいものである。 的に考えるのも悪くない。しかしそれ以上に、社会で役立つ また、企業や社会においてもその変化を受け止める器づ 元気な存在となるために、今一度現実を見据えて考えてみ くりが必要である。レジャー産業の中には、シニアが中心に ることが必要になっているのかもしれない。 なった場づくりで新たな商品開発を行ってきた例もあるが、 そのような環境づくりもこれからの社会には不可欠になる。 ■ 自立に向けた環境づくり 高齢化に伴う不安には、身体機能や介護などの社会保障 のこと、所得など生活費関連のこと、 さらには住宅や独居、社 特に企業には、そうした取り組みを従業員の働く環境や制度 の面から始め、本業を通じた投資や社会的支援につなげて いくことを期待したい。 会との接点の問題など数多くのことがあるが、65歳を過ぎ 43 opinion 長寿社会ライフスタイル研究会の活動 第1回 長寿社会ライフスタイル研究会 日時:2012年7月12日 1.「高齢者のタンパク質・アミノ酸栄養」 ● ● 大島曜 味の素 (株) ● 新しい栄養失調(若い女性、高齢者のタンパ ● ク質栄養状態の悪化傾向) がみられる ● ● 自分の足で歩けるためには、血清アルブ ミン、動物性タンパク質、食への積極性が 重要 食行為を中心とした健康リテラシー、高 齢者の食育を目指したい ● 三井住友信託銀行 (株) 田村直史 三井住友信託銀行 (株) ● ● ● 退職金が取引のきっかけが多い。顧客、 取引残高ともに高齢者が多い お金の使い方の特徴:アメリカ、年齢が 重なるごとに貯蓄残高減る。日本は減 らない 信託: 「安心サポート信託」 「保険金債権信 託」 「後見制度支援信託」 「特定贈与信託」 ● ローン: 「リバースモーゲージ」事業 ● サクセスフル・エイジング支援事業 3. ディスカッション ● 日本は住宅価値の下落が早い。欧米で は住宅の中古市場が安定している。高 齢社会を考える場合、住宅施策が重要。 スマートシティという動きもある 「国連持続可能な開発会議(リオ+20)」に 出席した。企業の集まりに2700人参加。 120以上のセッションが3日間 あった。 政治に期待するのではなく、企業がイニ シアチブをとってプラットフォームを作っ ている。話し合って方向をつくって社会 を引っ張っていくことは必要 ● 学校教育は50歳まで生きるための教 育。それから30年生きるための教育は ない。 企業ネットワークで30年間生き るための情報を発信することは意義が ある 保険に入ることもリスクマネジメント。 震災で逃げ遅れた人、避難後亡くなった 高齢者が多い ● 大井田篤彦 健康安心サービス(介護予防のためのサービ ● 日時:2012年9月13日 1.「高齢社会への対応」 「ベテランドライバーサポート」サービス …安全運転相談、看護師資格スタッフも いる ● 44 ● ● ● ● 第3回 長寿社会ライフスタイル研究会 ● 日時:2012年11月6日 1.「住友生命のCSR」 ● 澤春生 住友生命保険 (相) ● ● 年金式保険…銀行で販売商品売り止め のものもある 社会貢献事業…2004年国際アルツハ イマー病協会京都大会後認知症に特 化。がん支援も 2.「日本の高齢者は国際的に見て恵まれているのか」 ● 日本の健康長寿は世界一だが高齢社会 における課題に関して合意不足(高齢者 像、 看取り) がある 個人個人が長寿社会に対応していくた めのリテラシーを高める必要がある(介 築、 住まい方、 死の哲学) ● 高齢者といっても内実は価値観が違う。 団塊世代より若い人はネットワークのつ くり方も違う 高齢者向けの商品はその時の困ったこ とをカバーすることを目的としていた が、もう一度社会に戻る「リカバリー」を 目的と考えるべきだ。高齢者は社会的 資源である その中で高齢者を対象としたサービス が減少している しかし、 高齢者の就労、 ボランティア参加 意識は高い 地域ボランティア組織の役割が増大。 地域の課題解決の担い手になっている 地域ボランティア組織の歴史は長く専 門性も確立されており、行政とのイコー ル・パートナーシップが形成されている ● あいおいニッセイ同和損害保険 (株) 金子哲郎 佐藤大助 ● 味の素 (株) 小田嶋文彦 大島曜 ● アステラス製薬 (株) 竹本裕士 ● 住友生命保険 (相) 澤 春生 町井安文 ● 三井住友海上火災保険 (株) 山口正統 ● 三井住友信託銀行 (株) 金井 司 玉井一郎 田村直史 ● 三菱地所レジデンス (株) 大井田篤彦 3. ディスカッション ● イギリス、オランダともに2008年のリ セッション以来高齢者支援予算は削減さ れている 参加者: (所属は2013年4月当時) 国際長寿センター ● 非正規雇用率が上昇し、住宅購入体力 は年々減少 国際長寿センター 「高齢社会対策の基本的在り方等に関す 「社会 る検討会」 「健康日本21(第2次)」 保障と税の一体改革関連法案」 「高年齢 者雇用安定法改正案」 「高齢社会対策大 綱」について ● 医療・介護分野…保険商品は「遺族に 残す」ためから「自分のため」に変わり つつある 首 都 圏 の 人 口 は2015年、 世 帯 数 は 2025年まで増加が続くがマンション購 入適齢期(25-44歳)は2010年がピーク 2.「プロダクティブ・エイジングに関する国際比較研究 報告」 国際長寿センター 金子哲郎 あいおいニッセイ同和損害保険 (株) 三菱地所レジデンス (株) 子会社でデイサービスに参入、 公的保険 と連動し地域交流・地域貢献から学ん でいる 護予防、経済的準備、社会との関わり・関係の構 第2回 長寿社会ライフスタイル研究会 日時:2013年3月6日 1.「高齢社会への取り組み 住宅の視点から」 医療カウンセリングサービス(セカンドオピ 2.「長寿社会をめぐる政策の動向について」 ● 国は税収をはるかに超えるサービスを 提供している。これが続くわけがない。 国家ができないことは民間がやるべき 第4回 長寿社会ライフスタイル研究会 ス、 介護・法律等相談、 ドック・健診等紹介) ● ● 高齢者の事故は10年で1.3倍。交通事 故死者解剖結果で60例中9例が内因性 急死とのデータがある ● ニオン、 専門医紹介) 病気を重症化させない 2.「高齢社会への取り組み」 金井司 安全運転の取り組み、事故が増えて保 険料に跳ね返るリスクを減らす取り組み a c t i v i t y リタイア後の暮らし 活動と満足度 4か国比較 リタイア後の日常活動と家計などから、 暮らしの満足度を尋ねる調査を行った。 ILC-Japanでは、 ILCのネットワークを活用し、世界10カ国の協力を得たが、ここでは日本を含む先進4か国の 結果の一部を紹介し、 彼らの日々の暮らしに思いを馳せてみたい。 質問項目 (一部) Question ● あなたは日常的に行っている活動がありますか? その形態 FRANCE と報酬についてお聞かせください。(家事、育児、介護、趣味 的な活動を除く) ① 活動の形態(頻度と活動内容)〈複数回答〉 ② 活動に対する報酬 A. あり B. なし ③ 活動開始時期( 頃から) ④ 活動を始めた理由 〈複数回答〉 A. 収入のため B. 誰かの役に立ちたいから C. おもしろそうだったから D. 頼まれたから E. 義務だから ● UK F. その他(具体的に) あなた(の家族)が1か月の暮らしに必要な経費はどのくら いですか? A. 10 万円未満 B. 10 万円∼ 20 万円未満 C. 20 万円∼ 30 万円未満 D. 30 万円以上 E. わからない ● 1か月のやりくりの状況はどうですか? USA A. 十分やりくりができ、黒字 B. プラスマイナスゼロ C. やりくりは難しい 毎月赤字 ● あなたは現在の暮らしにどの程度満足していますか? A. 十分満足している B. ある程度満足している C. あまり満足していない D. 全く満足していない JAPAN 45 FRANCE フランス――事例 活動状況と生活満足度 ● A B C D 都市部 地方 都市部 都市部 性別 男性 男性 男性 男性 年齢 62 69 65 62 暮らし方 独り暮らし 妻と2人暮らし 妻と2人暮らし 妻と2人暮らし 職業 観光バスの運転手、 塗装工 元行政管理職、現アパート管理人 医師 医師 ① 形態 ①観光バスの運転手 ②塗装工 アパートの管理人 医師 ①医師 ②アパートの管理組合 ③科学協会の会議参加 ①週5日 10時間/日 ②週2日 5時間/日 月曜∼土曜24時間 ② 報酬 あり なし あり ①あり ②③なし ③ 時期 2004年から 60歳から 30年以上前から ②③30年前から ④ 活動している理由 収入のため 必要経費/月 10万円∼ 20万円未満 10万円∼ 20万円未満 30万円以上 30万円以上 やりくりの状況 プラスマイナスゼロ 十分やりくりができ、 黒字 プラスマイナスゼロ プラスマイナスゼロ 暮らしの満足度 ある程度満足している ある程度満足している ある程度満足している ある程度満足している 基本属性 地域 日常的に行っている活動 頻度 ②月1回 ③週1 ∼ 2回 おもしろそうだったから 自分の仕事と今後のキャリア の目標のため 家計 満足度 UK イギリス――事例 活動状況と生活満足度 ● A 基本属性 日常的に行っている活動 家計 満足度 46 B C D 地域 地方 都市部 地方 地方 性別 男性 女性 女性 男性 年齢 65 68 65 71 暮らし方 妻と2人暮らし 夫と2人暮らし 独り暮らし 妻と2人暮らし 職業 救急医療サービス勤務 元金融機関勤務 コンピューター関連会社勤務 元株式仲買人 ① 形態 国営医療機関NHSの救急 サービスの職員 ① エイズ患者のデイセンター ボランティア ② 民間非営利ホスピスボラン ティア コンピュータ関連会社の研修 主任 高齢者のデイセンターでボラ ンティア 正規の職員でフルタイム 勤務は不規則 週1回 数時間 月曜日∼木曜日の週4日 週2回、 数時間 ② 報酬 あり なし あり なし ③ 時期 2011年1月から ① 15年前から ② 4年前から 15年前から 2010年10月から ④ 活動している理由 住宅ローン返済のため 誰かの役に立ちたいから 頼まれたから 誰かの役に立ちたいから 必要経費/月 30万円以上 20万円∼ 30万円未満 10万円∼ 20万円未満 わからない やりくりの状況 十分やりくりができ、 黒字 十分やりくりができ、 黒字 十分やりくりができ、 黒字 十分やりくりができ、 黒字 暮らしの満足度 十分満足している ある程度満足している ある程度満足している 十分満足している 頻度 USA a c t i v i t y アメリカ――事例 活動状況と生活満足度 ● A B C D 基本属性 日常的に行っている活動 家計 満足度 地域 都市部 都市部 都市部 都市部 性別 男性 女性 男性 女性 年齢 81 67 80 74 暮らし方 独り暮らし 独り暮らし 妻と2人暮らし 夫と2人暮らし 職業 元会社員 元会社員 営業部長 元秘書 ① 形態 病院パートタイム勤務 本の朗読ボランティア ① 営業の仕事 ② 障害者の娘が入所している 施設での保護者の会 子どもたちへの演劇ボラン ティア 頻度 毎日 時々 ① 毎日 ② 不定期 不定期 ② 報酬 あり なし ① あり ② なし なし ③ 時期 退職後まもなく 昔から ② 数年前から 昔から行ってきたが、 定年後 頻繁に ④ 活動している理由 収入のため おもしろそうだったから おもしろそうだったから 義務だから おもしろそうだったから 必要経費/月 10万円∼ 20万円未満 10万円∼ 20万円未満 10万円∼ 20万円未満 30万円以上 やりくりの状況 十分やりくりができ、 黒字 プラスマイナスゼロ 十分やりくりができ、 黒字 十分やりくりができ、 黒字 暮らしの満足度 十分満足している ある程度満足している ある程度満足している 十分満足している JAPAN 日本――事例 活動状況と生活満足度 ● A B C D 基本属性 日常的に行っている活動 家計 満足度 地域 都市部 都市部 都市部 地方 性別 女性 男性 女性 男性 年齢 65 68 68 69 暮らし方 義母・夫・娘と4人暮らし 妻・息子と3人暮らし 長男と2人暮らし 妻と2人暮らし 職業 主婦 元出版社勤務 元保険会社勤務 元市役所・バスセンター勤務 ① 形態 ① 民生委員 ② 友愛訪問 以前勤めていた会社の仕事 マンションの理事 老人介護施設の理事 不定期 週3日勤務 不定期 (最低月1回) 不定期 ② 報酬 あり あり なし なし ③ 時期 ① 2008年から ② 2011年8月から 定年後 2010年6月から 5年前から ④ 活動している理由 誰かの役に立ちたいから おもしろそうだったから 頼まれたから 収入のため おもしろそうだったから 頼まれたから 誰かの役に立ちたいから 頼まれたから 頼まれたから 必要経費/月 30万円以上 20万円∼ 30万円未満 10万円∼ 20万円未満 30万円以上 やりくりの状況 十分やりくりができ、 黒字 プラスマイナスゼロ プラスマイナスゼロ プラスマイナスゼロ 暮らしの満足度 十分満足している ある程度満足している あまり満足していない ある程度満足している 頻度 47 trend 高齢者が幸福に暮らす条件とは Global Age Watch Index 2013 にみる新たな指標づくり 国連人口基金(UNFPA)は、世界中で進行し 開催された。 ている今までにない大きな人口転換=人口高齢化を、人 日本も含め世界各国から政府とNPOなど民間団体が集結 類の繁栄の成果であり祝福すべきものとして、「21世紀 し、そこで「高齢化に関するマドリード国際行動計画」が採 の高齢化、祝福すべき成果と直面する課題」と題する報 択されている。 告書を2012年にまとめた。 2012年はそれから10年の節目だが、この10年間で社会の 高齢化や高齢者自身に関わる法律や制度、国家計画をまと この報告書では、2050年までには60歳以上人口が、世界 人口の5分の1を占めるようになるが、高齢者に関するデータ めた国は60に至らず、世界の3分の1に過ぎないことは大きな 課題だ、 とオショティメイン事務局長は指摘している。 はまだ十分ではないこと、多くの国では高齢化に関する新た な政策や法律を導入するようになっているが、 高齢者の潜在 オショティメイン事務局長によれば、UNFPAの大きな使命 能力を発揮するためには、依然として多くの課題が残されて 持続可能な開発 の1つは急激な人口増加による貧困を防ぎ、 いること、 などが明確に示された。 を可能にすることであったという。 国連と各国の努力に加えて、1994年の国際人口開発会 UNFPAは、報 告 書 作 成に当たり協 力を得 た HelpAge Internationalとともに、2012年の秋、国際高齢者の日にあた る10月1日を選び、世界に向けた報告書の発表を東京(国連 議で採択されたリプロダクティブ・ライツと女性の人権尊重と いう立場からも、 産む、 産まないは女性が選択すべきという考 えの重要性を啓発してきた結果、過去60年間で合計特殊出 大学−港区青山)で行った。 彼らは発表の場として日本を選んだ理由として、平均寿命 の長さや高齢化率の高さという点で日本が長寿最先進国で あるというだけでなく、日本は世界の手本となる国であると説 明している。 当時朝日新聞の取材に応えて、UNFPAのババトゥンデ・オ ショティメイン事務局長は、手本となるべき日本の取り組みとし て、 以下のような事がらを挙げている。 • 敬老の日 • 60歳を過ぎても就労が可能であり、起業に対する補助金な どのサポート • 国民すべてが加入し、その恩恵を受けられる医療保険(国民皆 保険) や年金制度 • 支援が必要な人へのケアを提供する介護保険制度 • 認知症への対策を全国規模で行っており、とりわけ高齢者も その一員であるコミュニティでの認知症へのサポートを目指 していること 国連全体の取り組みとしては、「高齢化に関する世界会 議」として2002年にスペインのマドリードで国際的な会議が 48 ■国連人口基金(UNFPA) ・HelpAge Internationalによる報告書『21世紀の高齢化: (写真提供:国連人口基金) 祝福すべき成果と直面する課題』 trend 生率は世界的には、6.0から2.5と半減した。 所得保障分野が27位と予想外に低いような気もするが、 しかし彼は、高齢社会の到来は出生率の低下だけによる これは高齢の生活保護受給者の増加による貧困率上昇の ものではなく、 衛生、 栄養、 保健、 医療そして環境改善の賜物 反映と、不動産や貯蓄などをカウントしないフローだけでの収 であり、それを支える経済的な発展と平和と繁栄の成果であ 入比較では、 日本では高齢女性の所得が低いことによるもの ることを認識し、 世界はそれを祝福すべきとしている。 であろう。 とはいえ、各国が必要な対策を講じなければさまざまな問 また世界トップレベルの平均寿命と健康寿命をもちなが 題が噴出するのは目に見えており、制度の整った日本でさえ ら、健康でのランクが5位なのも不思議な気がする。これは も不断の努力が求められていると、賞賛と同時に警鐘も鳴ら 「生きがい」などを尋ねる意識調査の結果が、低かったこと した。 によるものであった。 高齢者を対象としたメディケア制度はあるものの、基本的 2013年秋、HelpAge Internationalは前年報告書で取り上 げた課題の克服に向けて、Global Age Watch Index 2013を 世界に示した。このIndexは、高齢者自身がその社会におい より高くなっているのは、高齢者雇用差別禁止法を持ってい てどれだけ幸せであるかを測定するための明確な指標づくり ある。 には民間保険制度によるアメリカの全体順位が、総合で日本 るため、雇用部分が堂々の2位となっていることによるもので の第一歩と位置づけられ、世界に向けてインターネッ トを通じ た意見募集が行われた。 彼らによれば、政策立案者にとって役立つ指数は多いが、 このように見てくると、細かな点ではさまざまな齟齬をきたし ていたり、実感とそぐわない部分があったりもするが、 このよう 高齢者とその社会の幸せを、国がどれだけ有効に支えてい 高齢者が幸福である社会をつく な取り組みが進むことにより、 るかを測定する指数はない、 としている。 るための政策や仕組みへの関心が高まり、整備への取り組 新たな試みによるこの指数では、国際的に比較可能な幾 みが進むことは、 非常に重要である。 つかのデータをまとめ、大きく4つのカテゴリーから、国ごとの 成功や進展具合と、その対応への方向性を見て取ることが できるという。 同時にデータが不足している国では、公共政策の対象か ら高齢者が排除されていることが浮き彫りになってくる。 高齢者の幸福を考える時に、日本では比較指数に取り上 げられている「働き続けられること」や、「自己決定できる自 由」などに比べると、手厚い介護など福祉分野の整備と質 の向上が、 とりわけ強く意識されてきた。 また今回の発表に際しては、データ入手が可能な91か国 しかしこの指標づくりがめざす高齢者の幸福のグローバ を指数ランキングで表したが、今後は対象国の拡大、指数の ルスタンダードは、 「ある程度の収入と健康な心身を持ち、当 モニタリングなどを着実に行い、この指数の世界的な定着を 事者として社会との関わりを持ちながら、自分で自分の人生 図っていきたいとしている。 を決めてゆくことのできる人」と定義することができよう。 誰かに依存するのではなく、 自分で決めて自身の人生を切 ■ 日本は世界10位 Global Age Watch Index 2013のサマリーに掲載されたラン り開いてゆける力を持つことが、 幸せな高齢者の大切な要素 といえる。 キングとその解説は次ページ以降で紹介している。ごく簡単 まさにILC創設者の故ロバート・バトラー博士が、その生涯 な解説しか加えられていないため、詳細を見るにはもう少し を通じて訴え続けた「Productive Aging ―長寿の価値は、そ 丁寧に分析を行う必要があるが、日本の世界ランキングは10 の長さにあるのではなく、それをどのように活用するかにあ 位である。 る」に尽きるのではないだろうか。 49 Global Age Watch Index 2013 Summary 抜粋 (翻訳・文責−ILC-Japan) ランキングと解説 文中 ( ) 内の数字は全体の順位 世界ランキングでは高齢者が幸せな 向けの無料医療、 無拠出性の皆年金など 高齢者は若い頃、ソビエトの非常に高い のは、北欧・北米・東アジアとラテンア を含んだ高齢化国家計画が既に存在し 水準の教育を、一律にしかも無償で受け メリカの一部の国であることが示されて ている国もある。 ることができていたのである。 いる。 また、歴史的に先取りした社会政策を 健康状態が良いことは中程度の所得 行ってきた国に住む人々は、高齢期に 国では、幸福の大きな要素を占めること 健康・雇用と教育・支える環境すべての なっても健康であり、また社会的にもつ になる。南米のコスタリカ(28)とエクア 指数が10位までに入っている。 ながりを持ち、生きがいを感じていると ドル(32)は、どちらもその国の高齢者の いう結果が示されている。 健康状態の良さが、国全体のランクを上 トップのスウェーデンでは、所得保障・ 全体のトップ10には北欧3か国、西欧3 か国、北米2か国、アジア太平洋が2か国 スウェーデンは2013年が皆年金100 (日本10位) 含まれており、主な西欧の 年の記念すべき年となった。 1913年に 世界全体でみると、高齢化の進んだ先 国々も20位までには顔を出している。 はまだ新興国に過ぎなかったスウェーデ 進国はだいたい高いランクに位置してい ンが、皆年金という思い切った政策に投 るが、これからの高齢化の進展具合を考 パキスタン(89)やアフガニスタン(91)な 資した結果が、100年後には確実に成 えた時に、南米と東欧では政策の進め方 ど低所得の中東国家では、 高齢者の状況 果をあげている。同様に1937年に皆年 に大きな違いがあったことが分かる。 があまり良くないことが分かる。 金制度を導入したノルウェー(2)でも、年 しかしアフリカや東アジア諸国の多く、 しかし、 例外もある。 金は高い収入の基盤になっている。 低所得の国でも、富のレベルに関わら ず高齢化に対応する政策に投資してき また一方で歴史の皮肉が、 面白い結果 を示すこともある。 げることに役立っている。 これから2050年までに高齢人口が倍 増するラテンアメリカは、おおむね上位 30位に入っていて、対策が行われている ことが見て取れる。 た国があり、その結果が有効に機能して アルメニア(51)では50歳以上の75% いることが示されている。例えばスリラ 近くが、1 か月1万円以内で暮らしてい ライナ(66)やモンテネグロ(83)などは、 ンカ(36)は長期的に教育や保健に投資し るが、彼らの教育指数は3位と非常に高 これから思い切った政策改革を進めなけ てきたし、 ボリビア(46)のように世界最貧 い数字になっている。これは旧ソ連時代 ればならないだろう。 国の1つであるにもかかわらず、高齢者 の恩恵ということで説明がつく。現在の しかし、ロシア(78)と東欧諸国のウク 準備をするのに早すぎることはない。 指数について 以下の4領域について、OECD、WHO、World Bankデータなど 国際的に入手可能な数字により各国の指数を示している 1. 所得保障 • 年金 • 貧困率 • 一人当たりGDPなど 2. 健康状態 • 60歳時の平均余命と 健康余命 • 生きがい満足度 3. 雇用と教育 4.(自立を)支える環境 • 就労状況 • 社会的なつながり • 高齢者の学歴 • 身体的な安全 (中等・高等教育) • 公共交通機関への アクセス • 自己決定の自由 50 ■ 世界ランキング trend Source: Global Age Watch Index 2013 順位 順位 1 1 2 2 3 3 4 4 5 5 6 6 7 7 8 8 9 9 10 10 Sweden Sweden Norway Norway Germany Germany Netherlands Netherlands Canada Canada Switzerland Switzerland New Zealand New Zealand USA USA Iceland Iceland Japan Japan 総合順位 所得保障 総合順位 所得保障 順位 順位 評価 評価 8 8 3 3 9 9 4 4 26 26 28 28 43 43 36 36 15 15 27 27 89.9 89.9 89.8 89.8 89.3 89.3 88.2 88.2 88.0 88.0 87.9 87.9 84.5 84.5 83.8 83.8 83.4 83.4 83.1 83.1 健康状態 雇用と教育 評価 評価 87.0 87.0 91.4 91.4 86.1 86.1 90.9 90.9 81.1 81.1 80.6 80.6 72.7 72.7 77.9 77.9 84.7 84.7 80.7 80.7 順位 順位 健康状態 7 7 13 13 6 6 18 18 2 2 1 1 3 3 24 24 9 9 5 5 (自立を) 支える環境 (自立を) 支える環境 雇用と教育 順位 順位 評価 評価 5 5 1 1 6 6 11 11 9 9 12 12 7 7 2 2 18 18 10 10 74.8 74.8 73.5 73.5 75.2 75.2 71.3 71.3 80.3 80.3 81.3 81.3 78.7 78.7 70.1 70.1 74.2 74.2 76.9 76.9 総合順位 所得保障 順位 順位 評価 評価 5 5 22 22 6 6 1 1 9 9 4 4 13 13 16 16 7 7 19 19 74.3 74.3 85.4 85.4 73.7 73.7 66.2 66.2 69.6 69.6 66.1 66.1 71.1 71.1 76.6 76.6 58.5 58.5 66.2 66.2 健康状態 雇用と教育 評価 評価 83.3 83.3 76.2 76.2 82.8 82.8 85.6 85.6 82.3 82.3 84.0 84.0 80.2 80.2 78.2 78.2 82.5 82.5 77.2 77.2 (自立を) 支える環境 Austria 11 79.8 5 88.2 17 72.7 42 45.5 2 85.3 Tajikistan 52 49.8 50 66.2 79 31.3 28 51.1 50 62.4 Ireland Austria 12 11 79.5 79.8 245 81.9 88.2 14 17 73.1 72.7 32 42 49.4 45.5 23 84.0 85.3 Vietnam Tajikistan 53 52 49.4 49.8 64 50 47.5 66.2 36 79 59.8 31.3 75 28 24.9 51.1 32 50 69.7 62.4 United Kingdom Ireland 13 12 78.7 79.5 10 24 85.8 81.9 19 14 71.0 73.1 24 32 53.8 49.4 173 78.1 84.0 Colombia Vietnam 54 53 49.3 49.4 68 64 44.9 47.5 26 36 69.5 59.8 63 75 32.7 24.9 58 32 59.5 69.7 AustraliaKingdom United 14 13 77.2 78.7 57 10 57.2 85.8 194 78.2 71.0 244 76.3 53.8 25 17 73.5 78.1 Nicaragua Colombia 55 54 49.0 49.3 74 68 35.8 44.9 42 26 56.7 69.5 65 63 32.5 32.7 28 58 70.8 59.5 Finland Australia 15 14 77.1 77.2 14 57 84.8 57.2 214 70.8 78.2 274 51.4 76.3 18 25 77.4 73.5 Mexico Nicaragua 56 55 48.9 49.0 70 74 41.0 35.8 35 42 60.7 56.7 58 65 36.0 32.5 51 28 62.0 70.8 Luxembourg Finland 16 15 76.7 77.1 141 98.2 84.8 16 21 72.7 70.8 55 27 38.4 51.4 11 18 81.2 77.4 Cyprus Mexico 57 56 48.2 48.9 80 70 22.0 41.0 22 35 70.7 60.7 47 58 40.6 36.0 30 51 70.2 62.0 Denmark Luxembourg 17 16 75.9 76.7 211 82.3 98.2 40 16 57.5 72.7 20 55 55.7 38.4 10 11 82.2 81.2 Greece Cyprus 58 57 47.4 48.2 25 80 81.2 22.0 47 22 54.1 70.7 61 47 33.4 40.6 82 30 51.6 70.2 France Denmark 18 17 75.0 75.9 212 93.2 82.3 31 40 63.6 57.5 41 20 45.6 55.7 15 10 78.8 82.2 El Salvador Greece 59 58 46.7 47.4 72 25 38.9 81.2 34 47 62.7 54.1 72 61 28.2 33.4 46 82 64.1 51.6 Chile France 19 18 70.6 75.0 422 74.2 93.2 10 31 74.2 63.6 23 41 53.9 45.6 39 15 67.1 78.8 Belarus El Salvador 60 59 46.6 46.7 44 72 72.1 38.9 80 34 31.0 62.7 57 72 37.6 28.2 52 46 61.9 64.1 Slovenia Chile 20 19 70.5 70.6 22 42 82.0 74.2 32 10 63.2 74.2 51 23 39.3 53.9 12 39 80.7 67.1 Venezuela Belarus 61 60 46.2 46.6 63 44 49.4 72.1 28 80 67.7 31.0 64 57 32.6 37.6 74 52 54.0 61.9 Israel Slovenia 21 20 70.0 70.5 56 22 58.4 82.0 20 32 70.9 63.2 13 51 63.7 39.3 31 12 69.8 80.7 Poland Venezuela 62 61 45.9 46.2 20 63 82.6 49.4 87 28 23.9 67.7 54 64 38.8 32.6 43 74 64.8 54.0 Spain Israel 22 21 67.6 70.0 31 56 79.7 58.4 39 20 57.6 70.9 50 13 39.4 63.7 14 31 79.1 69.8 Kyrgyzstan Poland 63 62 44.3 45.9 49 20 66.8 82.6 83 87 27.5 23.9 26 54 51.7 38.8 70 43 56.3 64.8 Uruguay Spain 23 22 67.4 67.6 18 31 83.3 79.7 33 39 63.1 57.6 29 50 51.1 39.4 42 14 65.4 79.1 Serbia Kyrgyzstan 64 63 42.4 44.3 52 49 60.7 66.8 54 83 47.1 27.5 71 26 28.7 51.7 73 70 54.0 56.3 Belgium Uruguay 24 23 67.0 67.4 41 18 74.4 83.3 23 33 70.2 63.1 45 29 41.9 51.1 29 42 70.3 65.4 South Africa Serbia 65 64 41.0 42.4 46 52 69.2 60.7 74 54 33.2 47.1 60 71 34.2 28.7 75 73 53.7 54.0 Czech Republic Belgium 25 24 62.5 67.0 13 41 85.4 74.4 38 23 58.5 70.2 22 45 54.2 41.9 61 29 58.6 70.3 Ukraine South Africa 66 65 40.2 41.0 39 46 75.3 69.2 77 74 31.8 33.2 35 60 48.7 34.2 86 75 48.3 53.7 Argentina Czech Republic 26 25 61.7 62.5 11 13 85.7 85.4 37 38 59.4 58.5 34 22 48.7 54.2 59 61 59.4 58.6 South Korea Ukraine 67 66 39.9 40.2 90 39 8.7 75.3 778 74.5 31.8 19 35 56.3 48.7 35 86 68.3 48.3 Italy Argentina 27 26 61.4 61.7 116 88.0 85.7 15 37 73.0 59.4 62 34 33.1 48.7 53 59 61.9 59.4 Dominican South KoreaRep. 68 67 39.3 39.9 79 90 22.3 8.7 498 52.3 74.5 69 19 31.3 56.3 45 35 64.2 68.3 Costa Rica Italy 28 27 61.2 61.4 606 53.3 88.0 11 15 74.2 73.0 48 62 40.4 33.1 34 53 69.1 61.9 Ghana Dominican Rep. 69 68 39.2 39.3 81 79 21.3 22.3 67 49 38.3 52.3 33 69 48.8 31.3 49 45 63.1 64.2 EstoniaRica Costa 29 28 60.2 61.2 35 60 78.0 53.3 58 11 44.5 74.2 488 70.7 40.4 62 34 58.4 69.1 Turkey Ghana 70 69 38.1 39.2 30 81 79.7 21.3 66 67 38.3 84 33 14.5 48.8 60 49 58.7 63.1 Panama Estonia 30 29 59.1 60.2 55 35 59.2 78.0 25 58 69.8 44.5 468 41.8 70.7 48 62 63.4 58.4 Indonesia Turkey 71 70 37.9 38.1 83 30 16.7 79.7 65 66 38.5 38.3 59 84 35.6 14.5 20 60 76.6 58.7 Brazil Panama 31 30 58.9 59.1 12 55 85.7 59.2 41 25 56.8 69.8 68 46 31.5 41.8 40 48 66.7 63.4 Paraguay Indonesia 72 71 35.0 37.9 86 83 15.0 16.7 44 65 55.8 38.5 53 59 38.9 35.6 66 20 57.6 76.6 Ecuador Brazil 32 31 58.6 58.9 58 12 54.8 85.7 12 41 73.8 56.8 49 68 39.7 31.5 44 40 64.3 66.7 India Paraguay 73 72 35.0 54 86 59.4 15.0 85 44 24.4 55.8 73 53 27.9 38.9 72 66 56.1 57.6 Mauritius Ecuador 33 32 58.0 58.6 587 87.2 54.8 56 12 45.0 73.8 66 49 32.2 39.7 26 44 71.8 64.3 Mongolia India 74 73 34.8 35.0 38 54 75.7 59.4 89 85 20.6 24.4 56 73 38.3 27.9 85 72 51.3 56.1 Portugal Mauritius 34 33 57.8 58.0 177 83.4 87.2 29 56 67.4 45.0 76 66 24.6 32.2 37 26 67.4 71.8 Guatemala Mongolia 75 74 34.0 34.8 77 38 23.5 75.7 50 89 52.1 20.6 81 56 17.7 38.3 47 85 63.5 51.3 China Portugal 35 34 57.4 57.8 66 17 46.2 83.4 51 29 52.0 67.4 40 76 45.7 24.6 24 37 74.6 67.4 Moldova Guatemala 76 75 33.8 34.0 53 77 59.9 23.5 71 50 35.1 52.1 43 81 44.7 17.7 89 47 45.0 63.5 Sri Lanka China 36 35 57.3 57.4 67 66 44.9 46.2 45 51 55.1 52.0 37 40 47.9 45.7 27 24 71.3 74.6 Nepal Moldova 77 76 33.7 33.8 62 53 49.9 59.9 82 71 29.4 35.1 79 43 22.0 44.7 69 89 56.5 45.0 Georgia Sri Lanka 37 36 56.5 57.3 45 67 72.1 44.9 68 45 37.7 55.1 14 37 62.9 47.9 54 27 61.6 71.3 Russia Nepal 78 77 30.8 33.7 69 62 43.0 49.9 78 82 31.3 29.4 21 79 55.7 22.0 90 69 44.4 56.5 Malta Georgia 38 37 55.8 56.5 37 45 76.8 72.1 27 68 68.0 37.7 77 14 24.4 62.9 41 54 65.7 61.6 Lao PDR Russia 79 78 29.4 30.8 76 69 24.1 43.0 81 78 29.9 31.3 82 21 15.8 55.7 33 90 69.2 44.4 Albania Malta 39 38 55.5 55.8 23 37 82.0 76.8 63 27 39.6 68.0 30 77 51.0 24.4 56 41 60.6 65.7 Cambodia Lao PDR 80 79 27.3 29.4 85 76 16.4 24.1 88 81 23.2 29.9 80 82 21.2 15.8 23 33 75.0 69.2 Hungary Albania 40 39 54.7 55.5 19 23 83.2 82.0 57 63 45.0 39.6 39 30 47.0 51.0 65 56 57.8 60.6 Morocco Cambodia 81 80 26.6 27.3 71 85 39.0 16.4 76 88 31.8 23.2 83 80 14.7 21.2 84 23 51.4 75.0 Croatia Hungary 41 40 53.1 54.7 51 19 61.3 83.2 43 57 56.5 45.0 52 39 39.1 47.0 57 65 60.0 57.8 Honduras Morocco 82 81 25.8 26.6 88 71 9.6 39.0 48 76 53.9 31.8 74 83 27.8 14.7 78 84 53.2 51.4 Thailand Croatia 42 41 53.0 53.1 59 51 53.3 61.3 46 43 55.0 56.5 78 52 22.7 39.1 578 82.4 60.0 Montenegro Honduras 83 82 25.5 25.8 34 88 78.1 9.6 55 48 45.9 53.9 89 74 6.7 27.8 87 78 47.4 53.2 Peru Thailand 43 42 53.0 65 59 46.7 53.3 30 46 64.2 55.0 31 78 50.0 22.7 678 57.5 82.4 West Bank & Gaza Montenegro 84 83 24.5 25.5 78 34 22.9 78.1 72 55 34.1 45.9 86 89 10.2 6.7 55 87 60.6 47.4 Philippines Peru 44 43 52.8 53.0 73 65 37.5 46.7 70 30 36.9 64.2 17 31 58.6 50.0 21 67 76.3 57.5 Nigeria West Bank & Gaza 85 84 24.0 24.5 87 78 14.2 22.9 84 72 26.4 34.1 70 86 30.5 10.2 76 55 53.6 60.6 Latvia Philippines 45 44 52.5 52.8 33 73 79.2 37.5 62 70 40.6 36.9 15 17 62.3 58.6 77 21 53.3 76.3 Malawi Nigeria 86 85 17.8 24.0 89 87 9.5 14.2 86 84 24.1 26.4 85 70 13.9 30.5 63 76 57.8 53.6 Bolivia Latvia 46 45 52.0 52.5 48 33 67.0 79.2 60 62 41.3 40.6 25 15 52.8 62.3 64 77 57.8 53.3 Rwanda Malawi 87 86 16.6 17.8 82 89 19.0 9.5 90 86 19.3 24.1 90 85 5.3 13.9 38 63 67.2 57.8 Bulgaria Bolivia 47 46 51.7 52.0 32 48 79.4 67.0 59 60 44.2 41.3 44 25 44.0 52.8 71 64 56.2 57.8 Jordan Rwanda 88 87 11.4 16.6 61 82 52.7 19.0 61 90 40.9 19.3 91 90 1.6 5.3 36 38 68.0 67.2 Romania Bulgaria 48 47 51.4 51.7 29 32 80.6 79.4 64 59 38.6 44.2 38 44 47.1 44.0 68 71 57.1 56.2 Pakistan Jordan 89 88 8.3 11.4 84 61 16.7 52.7 69 61 37.7 40.9 67 91 32 1.6 91 36 39.8 68.0 Slovakia Romania 49 48 51.2 51.4 16 29 84.1 80.6 53 64 47.8 38.6 36 38 48.6 47.1 81 68 52.0 57.1 Tanzania Pakistan 90 89 4.6 8.3 91 84 2.1 16.7 73 69 33.7 37.7 88 67 7.3 32 79 91 52.9 39.8 Lithuania Slovakia 50 49 50.7 51.2 47 16 67.6 84.1 52 53 48.2 47.8 16 36 59.5 48.6 83 81 51.6 52.0 Afghanistan Tanzania 91 90 3.3 4.6 75 91 24.2 2.1 91 73 7.6 33.7 87 88 9.4 7.3 88 79 46.2 52.9 Armenia Lithuania 51 50 50.5 50.7 40 47 75.3 67.6 75 52 33.0 48.2 163 76.5 59.5 80 83 52.6 51.6 3.3 Index 75 91Watch Afghanistan Global Age Source: 201324.2 91 7.6 87 9.4 88 46.2 Armenia 51 50.5 40 75.3 75 33.0 3 76.5 80 52.6 51 trend 2050 Number 60+ 2,031m 2030 ■ 世界における60歳以上人口とその比率の推移 (2012年、 2030年、 2050年) Number and proportion of people aged 60-plus worldwide in 2012, 2030 and 2050 2012 Number 60+ 809m 11% Source: UNDESA Population Division, Population Ageing and Development 2012, Wall Chart, 2012; UNDESA Population Division, World Population Prospects: the 2012 Revision, 2013 Number 60+ 1,375m 16 % 22 % of total worldwide population of total worldwide population of total worldwide population (人口単位は百万人) ■ 地域別と国別による60歳以上人口比率の推移 Percentage of population aged 60-plus by region in 2012, 2030 and 2050 Europe 201220122012 203020302030 205020502050 Europe Europe the Caribbean the the Caribbean Caribbean 205020502050 201220122012 203020302030 201220122012 203020302030 205020502050 Mauritius Mauritius Mauritius 11.9 11.911.9 22.8 22.822.8 29.3 29.329.3 Italy Italy Italy Uruguay Uruguay Uruguay 38.4 38.438.4 27.0 27.027.0 34.6 34.634.6 22.1 22.122.1 27.4 27.427.4 18.5 18.518.5 Morocco Morocco Morocco 8.6 8.6 8.6 13.8 13.813.8 24.2 24.224.2 Germany Germany Germany Argentina Argentina Argentina 37.5 37.537.5 26.7 26.726.7 36.4 36.436.4 18.2 18.218.2 25.0 25.025.0 15.0 15.015.0 SouthSouth Africa South AfricaAfrica Finland 7.8 7.8 7.8 10.8 10.810.8 14.8 14.814.8 Finland Finland Chile ChileChile 31.5 31.531.5 25.8 25.825.8 31.1 31.131.1 30.3 30.330.3 23.5 23.523.5 13.8 13.813.8 GhanaGhana Ghana Sweden 6.0 6.0 6.06.8 6.8 6.8 11.9 11.911.9 Sweden Sweden BrazilBrazilBrazil 30.6 30.630.6 25.4 25.425.4 28.0 28.028.0 29.0 29.029.0 18.7 18.718.7 10.9 10.910.9 Nigeria Nigeria Nigeria 5.3 5.3 5.34.6 4.6 4.67.4 7.4 7.4 Bulgaria Bulgaria Bulgaria CostaCosta RicaCosta Rica Rica 36.3 36.336.3 29.9 29.929.9 25.0 25.025.0 19.3 19.319.3 29.8 29.829.8 10.1 10.110.1 Tanzania Tanzania Tanzania Greece Greece 4.9 4.9 4.95.2 5.2 5.26.4 6.4 6.4 Greece Panama Panama Panama 36.0 36.036.0 32.4 32.432.4 24.7 24.724.7 16.0 16.016.0 23.2 23.223.2 10.1 10.110.1 Malawi Malawi Malawi Portugal Portugal 4.9 4.9 4.94.5 4.5 4.55.1 5.1 5.1 Portugal El Salvador El Salvador El Salvador 40.4 40.440.4 32.6 32.632.6 24.4 24.424.4 13.2 13.213.2 21.2 21.221.2 9.7 9.7 9.7 Rwanda Rwanda Rwanda Croatia Croatia 4.4 4.4 4.45.6 5.6 5.68.6 8.6 8.6 Croatia Mexico Mexico Mexico 34.5 34.534.5 31.2 31.231.2 24.1 24.124.1 16.0 16.016.0 25.8 25.825.8 9.5 9.5 9.5 Belgium Belgium Belgium Ecuador Ecuador Ecuador 30.9 30.930.9 30.0 30.030.0 23.9 23.923.9 14.7 14.714.7 23.7 23.723.7 9.4 9.4 9.4 Denmark Denmark Denmark Dominican Dominican Republic Republic Dominican Republic 29.7 29.729.7 28.5 28.528.5 23.9 23.923.9 22.2 22.222.2 14.7 14.714.7 9.3 9.3 9.3 France France France Colombia Colombia Colombia 30.5 30.530.5 29.2 29.229.2 23.7 23.723.7 16.4 16.416.4 23.7 23.723.7 9.2 9.2 9.2 Austria Austria Austria Peru PeruPeru 36.5 36.536.5 23.6 23.623.6 31.5 31.531.5 14.5 14.514.5 22.7 22.722.7 9.2 9.2 9.2 AsiaAsiaAsia 52 LatinLatin America and andand Latin America America Africa Africa Africa JapanJapanJapan Slovenia Slovenia Slovenia 31.6 31.631.6 37.5 37.537.5 41.5 41.541.5 Venezuela Venezuela Venezuela 31.7 31.731.7 36.7 36.736.7 23.5 23.523.5 9.1 9.1 9.1 14.9 14.914.9 22.3 22.322.3 Georgia Georgia Georgia Switzerland Switzerland Switzerland 19.7 19.719.7 27.0 27.027.0 35.4 35.435.4 Paraguay Paraguay Paraguay 37.1 37.137.1 23.4 23.423.4 28.4 28.428.4 17.5 17.517.5 11.2 11.211.2 8.0 8.0 8.0 South KoreaKorea SouthSouth Korea Hungary Hungary Hungary 16.7 16.716.7 31.1 31.131.1 38.9 38.938.9 Bolivia Bolivia Bolivia 26.7 26.726.7 32.2 32.232.2 23.4 23.423.4 7.3 7.3 7.39.6 9.6 9.6 14.8 14.814.8 IsraelIsraelIsrael Estonia Estonia Estonia 15.5 15.515.5 18.4 18.418.4 22.5 22.522.5 Nicaragua Nicaragua Nicaragua 27.6 27.627.6 32.4 32.432.4 23.2 23.223.2 21.2 21.221.2 6.6 6.6 6.6 11.5 11.511.5 Armenia Armenia Armenia LatviaLatviaLatvia 15.1 15.115.1 22.2 22.222.2 30.2 30.230.2 Guatemala Guatemala Guatemala 26.9 26.926.9 34.2 34.234.2 23.2 23.223.2 6.5 6.5 6.57.6 7.6 7.6 11.7 11.711.7 Thailand Thailand Thailand United Kingdom Kingdom UnitedUnited Kingdom 13.7 13.713.7 27.0 27.027.0 31.8 31.831.8 Honduras Honduras Honduras 28.2 28.228.2 29.6 29.629.6 23.0 23.023.0 17.0 17.017.0 6.4 6.4 6.49.7 9.7 9.7 ChinaChinaChina Czech Republic Republic CzechCzech Republic 13.3 13.313.3 23.8 23.823.8 33.9 33.933.9 22.9 22.922.9 27.1 27.127.1 34.2 34.234.2 Sri Lanka Sri Lanka Sri Lanka Netherlands Netherlands Netherlands 12.9 12.912.9 19.7 19.719.7 27.4 27.427.4 31.7 31.731.7 31.9 31.931.9 22.8 22.822.8 Turkey Turkey Turkey SpainSpainSpain 9.6 9.6 9.6 17.3 17.317.3 26.0 26.026.0 31.6 31.631.6 38.3 38.338.3 22.7 22.722.7 Vietnam Vietnam Vietnam MaltaMaltaMalta 8.9 8.9 8.9 18.3 18.318.3 30.8 30.830.8 Northern Northern America America and Oceania Oceania Northern America and and Oceania 30.9 30.930.9 36.7 36.736.7 22.7 22.722.7 Indonesia Indonesia Indonesia Norway Norway Norway 8.5 8.5 8.5 14.1 14.114.1 25.5 25.525.5 Canada Canada Canada 21.7 21.721.7 26.1 26.126.1 29.0 29.029.0 31.0 31.031.0 28.5 28.528.5 20.8 20.820.8 IndiaIndiaIndia Lithuania Lithuania Lithuania 8.0 8.0 8.0 12.3 12.312.3 19.1 19.119.1 Australia Australia Australia 32.2 32.232.2 25.8 25.825.8 21.3 21.321.3 19.6 19.619.6 24.6 24.624.6 28.9 28.928.9 Cambodia Cambodia Cambodia Ukraine Ukraine Ukraine 6.6 6.6 6.6 12.8 12.812.8 19.0 19.019.0 United StatesStates UnitedUnited States 21.1 21.121.1 24.9 24.924.9 32.1 32.132.1 26.6 26.626.6 25.6 25.625.6 19.1 19.119.1 Pakistan Pakistan Pakistan Romania Romania Romania 6.5 6.5 6.58.9 8.9 8.9 15.8 15.815.8 New New Zealand Zealand New Zealand 36.0 36.036.0 26.7 26.726.7 21.0 21.021.0 18.9 18.918.9 25.9 25.925.9 28.6 28.628.6 NepalNepalNepal Serbia SerbiaSerbia 6.4 6.4 6.4 11.3 11.311.3 16.9 16.916.9 20.5 20.520.5 26.8 26.826.8 32.2 32.232.2 Kyrgyzstan Kyrgyzstan Kyrgyzstan Poland Poland Poland 6.4 6.4 6.4 10.5 10.510.5 17.3 17.317.3 35.3 35.335.3 27.6 27.627.6 20.4 20.420.4 Mongolia Mongolia Mongolia Luxembourg Luxembourg Luxembourg 6.1 6.1 6.1 11.5 11.511.5 20.5 20.520.5 19.1 19.119.1 24.5 24.524.5 29.6 29.629.6 Philippines Philippines Philippines Belarus Belarus Belarus 6.1 6.1 6.19.6 9.6 9.6 15.3 15.315.3 32.2 32.232.2 18.9 18.918.9 24.8 24.824.8 Lao PDR Lao PDR Lao PDR Russia RussiaRussia 6.1 6.1 6.18.3 8.3 8.3 18.9 18.918.9 18.6 18.618.6 23.3 23.323.3 31.2 31.231.2 Jordan Jordan Jordan Montenegro Montenegro Montenegro 5.9 5.9 5.99.2 9.2 9.2 18.2 18.218.2 24.7 24.724.7 30.8 30.830.8 18.4 18.418.4 Tajikistan Tajikistan Tajikistan Slovakia Slovakia Slovakia 5.0 5.0 5.08.1 8.1 8.1 14.0 14.014.0 34.9 34.934.9 18.3 18.318.3 25.8 25.825.8 WestWest Bank and Gaza and Gaza West Bank andBank Gaza 4.5 4.5 4.56.6 6.6 6.6 10.5 10.510.5 Iceland Iceland Iceland 17.5 17.517.5 24.4 24.424.4 28.8 28.828.8 Afghanistan Afghanistan Afghanistan 3.8 3.8 3.85.1 5.1 5.16.7 6.7 6.7 Ireland Ireland Ireland 17.1 17.117.1 23.1 23.123.1 28.7 28.728.7 Cyprus Cyprus Cyprus 16.9 16.916.9 23.4 23.423.4 32.5 32.532.5 Moldova Moldova Moldova 16.8 16.816.8 22.6 22.622.6 33.8 33.833.8 Albania Albania Albania 13.7 13.713.7 23.9 23.923.9 33.8 33.833.8 Source: UNDESA Population Division, Population Ageing and Development 2012, Wall Chart, 2012; UNDESA Population Division, World Population Prospects: the 2012 Revision, 2013 世界と日本のプロダクティブ・エイジング 平成 24 年度プロダクティブ・エイジングと健康増進に関する国際比較調査研究報告書から 活力のある長寿社会をつくっていくためには、 高齢者が積極的に社会に参加してそれぞれの社会で主人公となっていくことが最も重要です。 そのことは結果として介護予防の実を挙げることにもつながっていきます。 日本においても海外においても、高齢者の社会参加を進めることが、 report 高齢社会にかかわる諸課題を解決する力になるとの認識が高まり、 この流れをさらに促進するために、ロバート・バトラー博士が提唱した 「プロダクティブ・エイジング」の理念に改めて大きな注目が集まっています。 本調査研究では日本と海外各国の高齢者の社会参加の最新の状況を調べ、 集大成することができました。 そのエッセンスを「平成 24 年度プロダクティブ・エイジングと健康増進に関する国際比較調査 研究報告書」(平成 25 年 3 月刊行)から以下に紹介します。 場合が多いが、Butlerらはボランティア活動や家庭内の無 プロダクティブ・エイジングと健康増進:国 際比較に関する現状と課題の整理 償労働も生産性の概念の中に含めた。 有償労働だけに限定したのでは高齢者や女性が行って 杉原 陽子 東京都健康長寿医療センター主任研究員 いる社会的な貢献を看過してしまうからである。生産性の プロダクティブ・エイジングとは何か? 概念を広く捉えることによってButlerらは高齢者の能力を過 日本の現状は? 少評価するエイジズムを批判し、高齢者が増えると社会の負 国際長寿センターの生みの親である、ロバート・バトラー 担が増すという悲観的な考え方から、高齢者の能力を社会 先生は高齢者が増えると社会の負担が増すという悲観的 的にもっと活用しようという積極的な考え方へと発想の転換 な考え方から、高齢者の能力をもっと活用するという積極 を促した。 的な考え方へと発想の転換を促した。 日本は高齢者の就労率は高い一方、ボランティア参加率 は必ずしも高くはない。 「高齢者の生活と意識に関する国際比較調査2010年」から 1)就労「これまでに収入の伴う仕事をしたことがある高齢者のう ちで、現在も収入の伴う仕事をしている人の割合」は、韓国 現在、 多くの先進国が人口の高齢化に直面しており、 各国 ともその対応が重要な政策課題となっている。高齢者人口 (49.8%) 、日本(38.3%)、スウェーデン(34.9%)、アメリカ (30.2%) 、 ドイツ (21.0%) 。 の増大に対しては医療や介護にかかる社会的コストの増大 2)ボランティア活動「現在、福祉や環境を改善するなどを目的とし が懸念されているが、その一方で、高齢者の能力を社会的 たボランティアやその他の社会活動に参加しているか」という にもっと活用し、元気な高齢者は社会を支える側に回っても 設問に対して、 「これまでに全く参加したことのない人の割合」 らおうという考えも広がり始めている。このような社会貢献は は韓国が最も高く (74.2%) 、 次いで日本(51.7%)、 ドイツ (42.9%) 、 高齢者自身の心身の健康にも有益となる可能性があるた アメリカ (33.1%) 、 スウェーデン(28.3%)。 人口の高齢化が進んだ社会では、 高齢者の能力の社会 め、 的活用とそれによる健康寿命の延伸といった好循環を目指 プロダクティブな活動の中でも健康やwell-beingへの効果 すことが、高齢者人口の増大への対応策として重要視され に関する報告数が多いのは、 ボランティア活動である。ボラン つつある。 ティア活動については、死亡のリスクの減少、身体機能障害 この考えの嚆矢となったのは、Robert Butlerら(1985) に * のリスクの減少、健康度自己評価の維持・向上、抑うつ傾向 よって唱道された「プロダクティブ・エイジング」の概念である。 の抑制や生活満足度、幸福感、自尊感情等の心理的well- プロダクティビティ(生産性)というと有償労働をイメージする beingの維持・向上に貢献する可能性が報告されている。 *Butler, R. N. & Gleason, H. P. (Eds.)(1985). Productive Aging:Enhancing vitality in later life, Springer, NY 53 日本型プロダクティブ・エイジングのための 概念整理 柴田 博 人間総合科学大学保健医療学部学部長 つことになったのである。余談であるが、英語のlaborには労 働と出産の苦しみの双方の意があるが、原罪に対する罰と して意味があるのかもしれない。 このようにみてくると、旧約聖書の影響を受けた文化の中 日本型のプロダクティブ・エイジングとは何か? には、有償労働は人生の手段あるいは必要悪であり、本当 労働についての考え方は文化的な背景によって違いがあ の幸せは休息や祈りの中にあるという基本認識が内在して り、旧約聖書の影響を受けた文化の中には有償労働は人 いると思えてくるのである。これと反対に、旧約聖書の影響 生の手段あるいは必要悪であるとの認識があるが、それ を受けていないアジアやアフリカの文化には、有償労働に対 以外の文化においては仕事の中に遊びや休息があって するスティグマは存在しない。仕事の中に遊びや休息があっ も、 何の不思議もない。 ても、何の不思議もないのである。すでに述べたように、欧 筆者らの調査ではProductive activitiesの総時間の効果 米人が日本人をワークホリックと感ずるのは、物理的に仕事 が大きく、3年後のADL障害、認知障害を予防し、死亡率 時間が多いということではなく、有償労働に生きがいを見出 (表中で*が多い部分がより をも低下させる効果がみられた。 すメンタリティのためであることは銘記しておく必要がある。 マックス・ヴェーバーは、 プロテスタントの中でもとくにピュー 有意に関連する箇所) リタンの禁欲性を強調している。メイフラワー号に乗りアメリ 創世記第3章では、へびにだまされて禁断の木の実を食 カに渡ったピューリタンのエピソードは有名である。戯画化し べたアダムとエバは、神に罰を与えられることになったことを ていえば、 ヨーロッパのプロテスタントの中で宗教改革の最左 述べている。神は女(エバ)に「わたしはあなたの産みの苦 翼ともいえるピューリタンがアメリカに渡ったわけである。アメ しみを大いに増す、あなたは苦しんで子を生む。それでもな リカ社会における有償労働に対する肩入れが、欧米社会で お、あなたは夫を慕い、彼はあなたを治めるであろう」といわ は一種独得なのはこのためである。アメリカの1986年の「年 れた。 さらに神は人(アダム) に 「地はあなたのためにのろわれ、 齢による雇用差別撤廃法」の完成など、 高齢者の有償労働 あなたは一生苦しんで地から食物を取る。…中略…あなた に対する考え方は、ヨーロッパのカソリック系の国々はいうに は顔に汗してパンを食べ、ついに土に帰る」といわれた。ア およばず、 プロテスタント系の国々たとえばドイツやイングランド ダムとエバ(人類)はエデンの園(楽園)を追われ地上に降り立 などの考え方と比較してもラディカルである。アメリカのピュー 表 1999年の活動時間と3年後の健康状態との関連(J-AHEAD) ADL障害 1999年時の活動時間 認知障害 死亡 レベル レベル Exp(B) β β (N=994) (N=995) (N=1,377) リタニズムの歴史的産物なのである。 筆者らが日本の代表サンプルを3年間追跡調査した結果 有償労働時間 有償労働時間の二乗項 -.125+ .096 -.082 .072 1.073 .982 家庭内の無償労働時間 家庭内の無償労働時間の二乗項 -.127* .060 -.214*** .160** .933 1.007+ 奉仕・ボランティア時間 奉仕・ボランティア時間の二乗項 -.087 .078 -.063 .041 1.259 .987 認知障害を予防し、 死亡率をも低下さ く、3年後のADL障害、 有償・無償労働の総時間 有償・無償労働の総時間の二乗項 -.172** .102+ -.208*** .159** .889+ 1.009** せる効果がみられた。 ADL障害と認知障害は重回帰分析、死亡はCOX比例ハザード分析を行った。 分析は活動の種類ごとに行った。 99年時点の年齢、性、教育年数、ADL障害レ ベル、 認知障害レベル、 慢性疾患罹患数を調整。 β; 標準化回帰係数, Exp(B) ; ハザード比 +; p < .10, *; p < .05, **; p < .01, ***; p < .001 54 ■ Productive activitiesのWell-beingへの影響 では、ベースラインのProductive activitiesの各々のカテゴリー の活動時間よりも、有償労働時間、家庭内の無償労働時 間、奉仕・ボランティア時間を総合した総時間の効果が大き report 1.4 1.2 日本の超高齢社会における Productive Aging 特に後期高齢者の健康の視点から 鈴木 隆雄 国立長寿医療研究センター研究所長 後期高齢者の健康の視点から見た プロダクティブ・エイジング 高齢者の「通常歩行速度」が10年前よりも有意に早くなっ ていることに見られるように、高齢者の死亡リスクは低下 している。 通常歩行速度(m/sec) 1.0 0.8 0.6 0.4 0.2 0.0 64∼69歳 70∼74 歳 75∼79歳 80歳以上 Male (**p<0.01) 64∼69歳 70∼74 歳 75∼79歳 80歳以上 Female 図 通常歩行速度の差異 Walking speed ■1992年 ■2002年 一般に女性は筋骨格系の老化が速く進み、男性は血管の である。すなわち、要支援あるいは要介護の1、2といった 老化が速く進む。 軽度のサービスの受給者には圧倒的に後期高齢者の女性 最後までいかに Productive Aging を構築していくかに が多い。一方、 男性では比較的軽度のサービス利用は少な ついては、自分自身が老年症候群などの危険な老化をい く、逆にたとえ前期高齢者であっても脳卒中により最初から かに早く気付くか、そしていかに早くその対応策を適切に 要介護2、3といった重いサービスから受給を開始していく例 受け入れるかが極めて重要である。不断の自助努力が必 が少なくない。 要である。 高齢期において要介護状態となることを予防する具体的 「通常歩行速度」は、 これまでの国内外の多くの老化につ な方法とは何か?これまで述べてきたことからも容易に推定 いての縦断研究からきわめて有用な死亡の予知因子である されるように、男性は血管の老化、すなわち動脈硬化を (中年 ことが良く知られている。この通常歩行速度を見ると、男性 期以降) いかに抑制するかが重要であり、女性においては (高 (1992年の) 高 も女性も、そしてどの年齢階層でも、10年前の 齢期における)筋骨格系の老化をいかに抑制するかが重要と (2002年の) 高齢者は有意に速くなってい 齢者に比べて新しい なる。特に今後著しく増加する女性の後期高齢者に頻発 る。このことは、2002年の高齢者のほうが死亡リスクが低下 する軽度の要支援・要介護サービスを必要とする状態を可 していることを意味していると考えてよい。先述のように後期 能な限り予防し、 自立期間を延ばすことが最大の理念と実施 高齢女性は生活機能という視点からみると低下リスクの大き に向けた課題であろう。 い集団であるが、今から10年前の高齢者に比べると、健康 度は顕著に高くなったことも間違いない事実である。 高齢期(特に後期高齢期)にあっても虚弱化や障害をいか に先送りするか、最後まで自立した生活をいかにして営んで 一般に女性が筋肉や骨あるいは関節などの筋骨格系の ゆくか、 そしていかに Productive Aging を構築していくかにつ 老化が非常に速く進むのに対して、男性は血管の老化、す いては、自分自身が老年症候群などの危険な老化をいかに なわち動脈硬化を基盤とした血管病変が速く進む。いずれ 早く気付くか、そしていかに早くその対応策を適切に受け入 も生存には不利益であるが、血管の老化ではいったん出血 れるかが極めて重要なのである。それは何も難しいことをや や 塞などのイベントが発生すると致命的である。一方、筋 るわけではないが、不断の自助努力が必要であることはいう 骨格系の老化の場合、骨折や機能低下などのイベントが起 までもない。これが介護予防で一番大事なことであろう。 きても死亡には至らない。このことが女性において男性よりも 明らかに不健康寿命が長いことを意味している。 このことはまた、介護保険サービス利用状況からも明らか 55 地域レベルからみた社会参加の健康への 効果とその媒介要因 杉澤 秀博 桜美林大学大学院教授 定した地域レベルの地縁的・自己完結的・社会貢献的活 動の健康度自己評価への効果を検証した。個人レベルの 社会貢献活動が健康の向上に関係していることについて は、実証研究が多いが、地域レベルでみた場合の社会参加 筆者の調査では、社会貢献活動が活発な地域は高齢者 レベルの効果については、研究事例が少ない。本研究では の健康度が高いが、(趣味などの)自己完結的な活動は健 社会貢献的な活動が活発に行われている地域では、個人 康にマイナスの可能性がある 的に社会活動を行っているか否かに関係なく高齢者の健康 本研究では、地域レベルでみた場合、趣味的な活動がさか にとってよい効果をもたらしていることが示唆された。 んな地域では孤立感を強く抱く人が多いという結果であ 2.自己完結的な活動は健康にマイナスの効果の可能性 る。より根本には排除的な意識や規範があり、 共通の価値 興味深いのは、地縁的な活動や自己完結的活動につい 観や意識をもつ人とは深く交流をもつものの、それ以外 ては、それらが活発に行われている地域では、健康度が低 の人は排除するということで地域全体の社会関係をぎく かったという点である。従来の研究においても、本研究の結 しゃくさせており、これによって健康度が低下している可 果と同様に、地域の社会関係の否定的な側面についての 能性がある。 指摘はなされているものの、それを実証した研究は多くはな い。本研究では、個人レベルでみた場合には、いずれの活 ■ 分析対象 動とも健康度の向上に貢献するものの、地域レベルでみた 調査対象は、2010年6月1日時点でA市在住の65歳以上 場合には趣味の会などの自己完結的な活動が活発な地域 住民33,755人(外国人登録者を含む)の中から無作為に抽出し では、健康度が有意に低く、地縁的活動についてもこのよう た8,000人であった。郵送調査の結果、6,010人から調査票 な否定的な効果があることが示唆された。 が回収された。調査時期は2010年6 ∼ 7月であった。 ■ 目的と仮説 本研究では、さらに、自己完結的な活動が活発な地域で 健康度がなぜ低いのか、その媒介となる要因を検討した。 本研究では、社会参加を目的別に分類し、地域の社会参 分析の結果、個人レベルでみた孤立感が媒介要因として作 加のレベルが高齢者の健康に与える効果を分析することに 用している可能性が示唆された。既述のように、趣味的な する。 活動などを通じて社会に参加することが、自分とは異なる多 個人レベルの社会参加の健康影響に関する研究では、 社 様な人と知り合い、 またいろいろな価値観に触れる機会が得 会参加をその目的別に大きく、ボランティアなどの社会貢献的 られるという点で橋渡し型のネットワーク形成に貢献するとい な活動と趣味の会などの自己完結的な活動に区分している。 う研究がある。しかし、 本研究では、 地域レベルでみた場合、 個人レベルでの研究では、それぞれが住民の健康に有意な 趣味的な活動がさかんな地域では孤立感を強く抱く人が多 肯定的な効果があることが示されているが、地域レベルでは いという結果であり、これまでの研究を支持する結果ではな 同じように効果が観察されるのであろうか。本研究では、以 い。ただし、 趣味的な活度が活発な地域では健康度が低い 上の2種類に加えて、高齢者の身近にあり、多くの人が関わり という結果については、 その原因を孤立感を生じさせるような をもっている町内会や老人会などによる地縁活動への参加も 趣味活動にあるというのではなく、より根本には排除的な意 社会参加の指標に位置づけ、 その効果を分析する。 識や規範があり、 共通の価値観や意識をもつ人とは深く交流 をもつものの、それ以外の人は排除するということで地域全 ■ 考察 体の社会関係をぎくしゃくさせており、これによって健康度が 1.社会貢献活動が活発な地域は高齢者の健康度も良い 低下している可能性があることもみておく必要がある。 本研究では、社会参加、中でも参加の目的との関連で設 56 report 本稿で用いるデータは、総務省統計局による社会生活基 高齢者のライフコースと社会参加 本調査である。社会生活基本調査は、総務省が行ってい る国勢調査の翌年に実施される指定統計調査の一つであ 渡邉 大輔 成蹊大学アジア太平洋研究センター客員研究員 り、調査年ごとに異なるが、全国から層別2段抽出法によって 総務省統計局の「社会生活基本調査」の個票データを 抽出された約7 ∼10万世帯の10歳以上の世帯員を対象とし 分析の結果、1991年から2006年にかけて高齢者のプ た調査である。わが国でもっとも詳細かつ大規模な生活時 ロダクティブ・エイジング活動(就労、家事、育児、介護、ボラ 間調査であり、統計局に申請することで秘匿化処理済みで8 ンティア活動)は量的にほとんど変化していないことが明 割サンプリングの個票データを分析することができる。 本稿ではこの社会生活基本調査の第4 ∼ 7回(1991 ∼ らかになった。 1995年の阪神・淡路大震災をきっかけとしたボランティ 2006年)の4回の調査を用いる。 アの認知や、1998年の特定非営利法人促進法(NPO法) など、1991年から2006年までボランティア活動を推進 する事象はこの間に多く発生したが、高齢者のボランティ ■ 考察:1990年以降のプロダクティブ・エイジングの変化 本稿では、社会生活基本調査の個票データを用いて、 1991年から2006年までのプロダクティブ・エイジング活動(就 ア活動の時間が増えたわけではない。 労、家事、育児、介護、ボランティア活動) の変化を分析してきた。 600.0 552.9 その結論を端的に述べれば、2005年以降に「本格的な高 497.4 齢社会」に突入することが明白に予想できた1990年代から 512.6 461.2 400.0 399.6 2000年代中盤までにおいて、高齢者のプロダクティブ・エイ 331.8 362.8 ジング活動のトレンドは量的側面においてはほとんど変化し 259.5 285.8 200.0 ていないということである。当然ながらこの間、高齢者への 178.8 220.6 151.7 110.4 社会参加を促進するための施策は行われ、人口構成自体も 75.7 108.7 53.6 0.0 50∼54 歳 55∼59 歳 60∼64 歳 65∼69 歳 70∼74 歳 75∼79 歳 80∼84 歳 85 歳以上 1991年 大きく変化してきた。しかし変化は乏しかった。 また、 ボランティア活動に特化した分析も行っている。その 結果、 ボランティア元年と呼ばれる1995年の阪神・淡路大震 災をきっかけとしたボランティアの認知や、1998年には特定 非営利法人促進法(NPO法)など、1991年から2006年までボ 600.0 528.4 495.4 ランティア活動を推進する事象はこの間に多く発生したが、 と 480.0 443.6 400.0 くに女性高齢者の活動促進にはあまり寄与したとは言えず、 391.6 368.3 男性についても行動者率がとくに定年前後から70 ∼ 74歳こ 340.3 271.4 ろまでは漸増する傾向にあるものの、それほど増えたわけで 251.0 200.0 はない。この結果は、内閣府の『社会意識に関する世論調 193.0 253.9 204.1 140.7 131.2 82.0 査』の結果における知見とも整合的なものである。 68.6 0.0 50∼54 歳 55∼59 歳 60∼64 歳 65∼69 歳 70∼74 歳 75∼79 歳 80∼84 歳 85 歳以上 2006年 図 平均プロダクティブ・エイジング活動時間 男性 ■■女性 ■■ 57 居場所としていく相乗効果が期待され、個々人がその意義 高齢者の地域参加 日本とヨーロッパ・韓国 を意識すると共に、その循環を生み出す仕組みを構築する ことが喫緊の課題といえる。 澤岡 詩野 ダイヤ高齢社会研究財団主任研究員 第一の居場所「家庭」、第二の居場所「職場や学校」、 内閣府の「平成23年度高齢者の居場所と出番に関する 第三の居場所、 これら三つの居場所の比重は、 ライフステー 事例調査」の現地調査では高齢者が社会を動かす主役 ジによって変化していく。 としての役割を担っている(担わざるをえない)現状が見出 「居場所」という言葉の明確な定義づけは行われていな された。 いが、建築学、心理学など多様な分野で居場所のあり方に 高齢者が地域の課題を解決していくことは、高齢者自身に ついて論じられている。建築計画や公共施設計画の観点 とっては居場所と出番を創り出すのみならず、社会全体を から物理的空間に重きをおいてきた建築学分野でも、近年 住みよい居場所としていく相乗効果が期待される。 では、都市高齢者の「居心地の良い場所」を構成する大き 地域での居場所と出番創りに向けた促進策が求められて な要素として、挨拶を交わす他者、趣味を共に行う他者、幼 いる。 馴染といった多様な人間関係の存在を挙げている。心理 学分野においては、他者とのつながりを居場所の重要な構 内閣府により行われた「平成23年度 高齢者の居場所と 成要素としており、 「安らげる」や「ありのままでいられる」 「役 出番に関する事例調査」では、 高齢者によるコミュニティビジ に立っていると思える」といった感情を伴う場所、時間、人間 ネス、 地域活性化、 被災地復興、 買い物・生活支援、 介護予 関係を指して用いられることが多い。この居場所には、子ど 防・福祉、新しい住まい方、世代間交流、ボランティア活動、 もや親といった血縁に基づく「家庭」、同僚や同級生といっ 趣味など多様な居場所のあり方を例示している。著者もこ た組織的な枠に基づく「職場や学校」に続き、個々の興味・ の調査の検討委員として各地に現地調査に出向くなかで、 関心に基づく「第三の居場所」が存在する。 「第三の居場 高齢者が社会 高齢者が多数を占めつつある社会において、 所」は個々の価値観がもっとも反映される場といえ、定年退 を動かす主役としての役割を担っている(担わざるをえない)現 職や子育ての終了と共に失われる居場所と出番(=社会的役 状が見出された。それまでの経験や知識を活かして高齢 割) を補完しえる場であるとも考えられる。 者が地域の課題を解決していくことは、高齢者自身にとって は居場所と出番を創り出すのみならず、 社会全体を住みよい 第一:家庭 第一:家庭 第二: 職場 第二: 学校 乳幼児期 第一:家庭 青年期 遠出や直接的接触が困難 親族や友人の罹病・死亡 「社会的孤立」「閉じこもり」 第三:地域活動、近隣、 よく行く店、病院、 ヘルパーなど 後期高齢期: 身体機能低下 成人期 第一:家庭 図1 居場所の移り変わり:都市部の企業人 58 第三: 学生時代の 付き合い 趣味など 第三が無いと 「濡れ落ち葉」 「わしも族」 第三:学生時代や元同僚との 付き合い、OB 会、 趣味・サークル、生涯学習、 地域活動、ボランティア、 NPO、CB 企業、 前期高齢期: シルバー人材センター、 近隣、よくいくお店など 自立 ている。 第一:家庭 第一:家庭 第三: 公園など 第二: 幼稚園など 青年期 乳幼児期 第一:家庭 遠出や直接的接触が困難 親族や友人の罹病・死亡 「社会的孤立」「閉じこもり」 第一:家庭 第三:地域活動、 近隣、 よく行く店、 病院、 ヘルパーなど 後期高齢期: 身体機能低下 第一:家庭 第二: 職場 第二: 学校 第三: 習い事、 バイトなど 第三: 公園など 第二: 幼稚園など 第一:家庭 地域での居場所と出番創りに向けた促進策が求められ 第三: 習い事、 バイトなど 成人期 : 就職 第三が無いと 「空の巣症候群」 第三: 学生時代の 付き合い 趣味など 社会と没交渉 育児ノイローゼ 第一:家庭 第三:学生時代の付き合い、 趣味・サークル、 生涯学習、 地域活動、ボランティア、 NPO、CB 企業、 シルバー人材センター、 近隣、よくいくお店など 成人期∼前期高齢期: 子どもが成人 図2 居場所の移り変わり:都市部の専業主婦 第三: PTA や子ども会 などの子どもを 介したつながり、 学生時代の 付き合い、 趣味など 成人期: 子どもが未成年 report プロダクティブ・エイジングにかかわる 日本の政策課題 水田 邦雄 ILC-Japan代表 高齢者雇用が現に進んだということからすれば、日本型のプ ロダクティブ・エイジング政策として評価できる。ただ、その 一方で、中高年離職者の再就職が困難を極めるという状況 を考えれば、さらに65歳を超えての就業までを視野に入れる 2012年の「高齢社会対策大綱」ではプロダクティブ・ とすれば、やはり職務内容を明確にした上で、個々人の能力 エイジングの考え方が超高齢社会を乗り切るための基 を適切に評価するシステムを整備し、年齢にかかわりなくそ 本理念として位置づけられた。 の力を活かす仕組みが必要となろう。 高齢者雇用においては顕著な進展を見ているが、さらに 職務内容を明確にした上で、個々人の能力を適切に評価 するシステムを整備し、年齢にかかわりなくその力を活か す仕組みが必要となる。 ■ 高齢社会対策年表 1961(昭和36) 国民皆保険皆年金実現 1963(昭和38) 老人福祉法成立 1973(昭和48) 老人福祉法改正(老人医療費無料化)、年金法改正(給付水準 引上げ、物価スライド制) 、健保法改正(家族給付率7割に引上 げ、高額療養費、定率国庫負担導入) 、雇用対策法改正(定年引 上げ促進) 2012年の第3次高齢社会対策大綱では超高齢社会の到 来を受け、高齢者像にかかわる意識改革がより強調されて いる。 「基本的考え方」において、 「高齢者の健康や経済的 な状況は多様であるにもかかわらず、一律に『支えられる』 人であるという認識と実態との乖離をなくし、高齢者の意欲 や能力を生かす上での阻害要因を排除するために、 高齢者 1983(昭和58) 老人保健法施行(定額患者負担、老健拠出金、保健事業導入) 1984(昭和59) 健保法改正(本人9割給付、国保に退職者医療制度導入) 「長寿社会 1986(昭和61) 高齢者雇用安定法成立(60歳定年努力義務化)、 対策大綱」閣議決定 1989(平成元) 高齢者保健福祉推進十か年戦略(ゴールドプラン)実施 1990(平成02) 高齢者雇用安定法改正(65歳までの雇用継続努力義務化) 1994(平成06) 年金法改正(厚年定額部分2013年にかけ65歳に引上げ)、高齢 者雇用安定法改正(60歳定年義務化)、ハートビル法成立 (公共建築物のバリアフリー化推進) 、 新ゴールドプラン策定 (中略)このた に対する国民の意識改革を図る必要がある。 (第1次) 閣議決定 1996(平成08) 「高齢社会対策大綱」 『支えが め、 高齢者の意欲や能力を最大限活かすためにも、 1997(平成09) 介護保険法成立(実施は2000年) 必要な人』という高齢者像の固定観念を変え、意欲と能力 のある65歳以上の者には支える側に回ってもらうよう、国民 の意識改革を図るものとする。 」とし、 「高齢者の『居場所』 と 『出番』 をつくる」 ことを求めている。 ここに至って、 プロダクティ ブ・エイジングの考え方が超高齢社会を乗り切るための基 本理念として位置付けられたということができよう。 1999(平成11) 成年後見関連法成立 2000(平成12) 年金法改正(厚年比例部分2025年にかけ65歳に引上げ)、高齢 者雇用安定法改正(65歳までの雇用確保措置の努力義務化)、 健保法等改正(老人患者一部負担上限付き定率1割負担)、国 民健康づくり対策「健康日本21」開始 (第2次) 閣議決定 2001(平成13) 「高齢社会対策大綱」 2002(平成14) 健保法等改正(給付率一般7割、70歳以上9割〈現役並み所得 者8割〉、老人医療対象年齢70歳から75歳に段階的引上げ、老人医 療国庫負担増) 、 健康増進法成立(「健康日本21」に法的根拠) 2004(平成16) 年金法改正(保険料率上限設定、基礎年金国庫負担2分の1に、 給付水準にマクロ経済スライド導入、 在職老齢年金改善) 、 高齢者 日本の高齢社会対策は少子高齢化の進行とともに、雇用 雇用安定法改正(65歳までの雇用確保措置義務化―2006年 実施) と年金、健康づくりにおける個人と社会、住宅と福祉など、政 2005(平成17) 介護保険法改正(介護予防の導入、食費・居住費の自己負担 策間の連携を深めながら、プロダクティブ・エイジングの考え 2006(平成18) 医療制度改革(医療費適正化計画導入、後期高齢者医療制度創 方を体現するかたちで着実に進められてきている。最も顕 2007(平成19) 雇用対策法改正(労働者の募集・採用につき年齢差別禁止法 著な進展をみたのは、健康寿命の延伸と年金の持続可能 性の確保の必要性を背景とする高齢者雇用ということがで きる。その実現方策は、例えば米国で採られた年齢による 差別禁止政策とは異なり、外部労働市場が整備されていな いという状況を踏まえ、定年制の雇用保障機能に着目して、 その年齢の引上げを柱とする継続雇用政策が採られたが、 化) 、 高齢者虐待防止法成立 設、 特定〈メタボ〉健診導入) 定化) 2008(平成20) 後期高齢者医療制度実施 2011(平成23) 介護保険法改正(地域包括ケアシステムの推進)、高齢者住 まい法改正(サービス付き高齢者住宅導入)、NPO法改正(寄 付税制充実) 」第2次)策定、 「社会保障と税の一体改革」 2012(平成24) 「健康日本21( 三党合意、消費税法改正、社会保障制度改革推進法等 成立、高齢者雇用安定法改正(継続雇用対象者を限定できる 仕組みを廃止) 、 「高齢社会対策大綱」 (第3次) 閣議決定 59 高齢者の地域参加に関する 基盤制度・政策の動向 日本と海外 中島 民恵子 医療経済研究機構主任研究員 ● のための欧州年」と位置付けて高齢者が持つ可能性を最大 限活用することを目指している。 ● プロダクティブ・エイジングと健康増進に関する国際 それぞれの国におけるプロダクティブ・エイジングに かかわる施策についてアンケート調査を行った。その 結果、右の3点が明らかとなった。 になる可能性がある。 ● 65歳以上の就労促進政策はイギリスでは年齢差別撤廃、オ ランダでは65歳以降の就労延長、フランスでは強制退職年 齢の延長、シンガポールでは会社に残る選択肢提供策として 進められている。 ■ 退職後の所得補償に関する法制度について ■ 高齢者の雇用に関する法制度について ■イギリス • 2010年の白書「持続可能な公的年金」で、 平均余命の伸 ■イギリス • 2011年雇用平等(定年年齢廃止)規制により、定年制が 長が急激で、2007年年金法の支給開始年齢引き上げのスケジュー 2011年10月以降は完全廃止された。イギリスで定年制が違法となっ ルでは年金制度の持続可能性が失われてしまうとし、6年前倒しして たこと自体も重要だが、それに加えて、より多くの高齢者を雇用する 実施することが提案された。これらを受けて、2011年年金法では、 ことが奨励されている。ただし現在のところはあくまで奨励にすぎ 2020年10月には男女ともに66歳とすることが予定されている。ま ない。また不況が長引く中で政治的な優先事項は、増大する若者の た、政府は、2024年から2026年までに67歳に引き上げることも考 えており、 「長寿化のペースについていけるよう、年金受給開始年齢 を自動的に見直す」ことが暗示されてきた。したがって、年金受給開 始年齢が70歳またはそれ以上となる可能性がある。 失業へ確実にシフトしているのが現状である。 ■オランダ • 早期退職制度は1980年代に若年層の失業対策として導 入され、多くの労働者が65歳以前に退職の道を選んだが徐々に廃止 された。また、2006年に「65歳定年退職制と同時点での部分的引 ■オランダ • 公的基礎年金は15歳以降オランダで居住または就労す 退選択の機会」を企業に義務付ける法律が可決され、現役の年金制 る期間に応じて毎年満額の2%ずつ積み上げていくものである。給 度加入者は部分的引退を選択できるようになり、65歳以降も働くこ 付額は最低賃金と連動している。 2012年春に連立政権が崩壊した とが可能となった。その他、幅広い政策がとられて、55−64歳の雇 直後、年金受給開始年齢の引き上げ速度を上げることが決定した。 用率は2011年で56%で、EU加盟27か国平均の47%をはるかに上 これにより、2013年から1年に1−数か月ずつ引き上げられ、2023 回り、 雇用率は男女とも、 この10年間で大幅に上昇している。 年には67歳となる。それ以降は、さらに引き上げられる可能性があ る。さらに、2012年秋における新連立政権は、2018年には66歳に、 2021年には67歳とした。ただしこれは現行法には組み込まれてい ない。 ■フランス • 2010年に年金に関する大きな改革が実行された。正規 ■フランス • 1970年代半ばより企業は高齢者の退職を奨励したが、 2000年代初期、特に2003年の年金改革以降は、早期退職用の公的 資金は削られている。その結果、早期退職は減少したが、55歳以上 の雇用率はOECD諸国で最低レベルで、2008年時点で、平均退職 年齢は男性で58.5歳、女性で59.2歳である。また、2009年社会保 の法定年金支給開始年齢は60歳から毎年4か月づつ引き上げられ、 障財政法で高齢者雇用が促進され、雇用主が年齢を理由に退職させ 2018年に62歳とされる予定で、満額年金年齢も65歳から67歳に引 ることができる年齢が65歳から70歳へと引き上げられた。 き上げられる。なお、フランスでは、退職後の期間(2007年時点で約19 年) がOECD諸国で最も長く、経済面および健康面での影響は大きい と考えられている。 ■シンガポール • シンガポールでは、全国民を対象とした賦課方式に よる年金制度は存在せず、中央積立基金を中核とする個人単位の積 立方式による制度が構築されている。年金受給の標準資格は55歳 で一時払いで引き出すことが前提とされていたが、それではその後 20年しか経済的に持たないことが予測され、年金を毎月受け取る方 式をとり、高齢者が生涯安定した収入を得られるよう新たなスキーム が導入された。 60 年金受給開始年齢については、イギリス、オランダ、フランス ともに引き上げが進められている。イギリスでは今後70歳 比較調査研究の一環として国際長寿センターのイギリ ス、オランダ、フランス、シンガポールの各センターに、 EU全体で2012年を「アクティブエイジングと世代間の連帯 ■シンガポール • 退職及び再雇用に関する法案が国会で承認され、 2012年1月より定年年齢は62歳となった。この法律では、従業員が 定年年齢である62歳に達した際、事業主は65歳まで会社に残る選択 肢を従業員に提供しなければならないとされている。また、将来的 には67歳まで引き上げる旨も含まれている。 report 日本・イギリス・オランダ インタビューの概況 プロダクティブ・エイジングと健康増進に関する国際比較 調査研究においては、国内およびイギリスとオランダで高齢 • 市民セクター横浜 中間支援組織、地域づくり大学校等 「在宅福祉のまちづくりのグループが根底にある。よく中間セク 者の就労と社会参加に取り組む自治体および諸機関へのイ ターや中間支援で大学の先生や専門家がいることがあるが、 ンタビューを実施した。海外インタビューに際してはイギリ ここでは現場の人中心を貫いている」 ス、 オランダの国際長寿センターが協力している。 イギリスとオランダのすべてのインタビューの中から、低 • LLPあおばフレンズ 地域まちづくり事業 「ボランティアに出てくる人は必ずしも多くない。今までの 成長下の高齢社会で財政支出の縮小が迫られている中で労 ボランティアというイメージで誘ってもなかなか出てこない。 働力と福祉サービスを最大限に確保していくための手法が 半分ビジネス的なものであればぜひやりたいという方は結 示唆されている。 構いる」 すなわち、就労、またボランティアという形での高齢者の 能力の最大限の活用である。 日本において高齢者社会参加を目指す 組織のありかたのイメージ 日本におけるインタビューの特徴 日本において社会貢献を目指す高齢者による組織形態は 日本のインタビューの中で、 単なる自己完結的な活動では さまざまであり、インタビューの中では自治会の活性化に なく、地域の課題解決が高齢者の役割として強く期待され 今後の可能性を見出す意見からベンチャー企業の力に依 ている。 拠するべきであるとの意見まで大きく考え方に広がりが • NPO法人キーパーソン21 高齢者起業支援事業 あった。高齢者の社会参加を促すための方法・手段につ 「どんな形でもいいけれども、何かの形で社会貢献をするのは いて社会的な合意が成立していない様子がうかがえる。 当たり前みたいな世の中の雰囲気に持っていかないとちょっと • 川崎市商工会議所 高齢者就業マッチング事業 まずかろう」 「商工会議所では職業紹介の資格を持っていない。企業OB • 川崎市総合企画局 は個人事業主で、ノウハウを提供して対価をいただくビジネス 「団塊世代で地域に戻る人も含めて地域課題解決のために をするという位置付け。商工会議所は企業と個人事業主のビ がんばって欲しい。趣味も大事だが、 『生きがい』だと何でも いいことになってしまう」 • 川崎市商工会議所 高齢者就業マッチング事業 「ノウハウ、技術をお持ちの方々が退職して年金生活をされて ジネスマッチングをやる。職安法に抵触しない」 • 横浜市健康福祉局 横浜いきいきポイント制度等 「東京の自治会で、リーダー的な方が町内会の会長さんで、ビ ジネス的な感覚でやっているところがある。そういうのが理想」 しまうのではもったいないので、 それらを生かしてお手伝いいた • あおば学校支援ネットワーク 学校支援ボランティア だけないか」 「法人格は取ってない。純粋に子どもたちのためにとか、学校 • 横浜市健康福祉局 横浜いきいきポイント制度等 を良くしたいとか、そういう活動でいたい。NPO申請は話題に 「介護支援ボランティアポイント制度がある。元気な高齢者に 出るが このままでいいよね にいつも落ち着く」 更に元気になってもらって地域で活躍してもらうという仕組み • 市民セクター横浜 中間支援組織、地域づくり大学校等 が必要」 「自治会に期待していい。横浜は人材が豊富なので、どのよう • あおば学校支援ネットワーク 学校支援ボランティア 「4 月に小学校に入学した子どもたちはまごまごしている。小1 プロブレムという言葉も最近出ている。学級経営の手伝いで、 に関わってもらえるかだけかと思う」 • LLPあおばフレンズ 地域まちづくり事業 「ベンチャー企業に、まちづくりで事業をしてみませんかと提案 ボランティアが4月の1カ月間1年生のクラス全部に一人ずつ毎 し、そのベンチャー企業を事業の核として高齢者を従業員とし 日入る」 て使ってもらうというイメージを持っている」 61 イギリス、 オランダの財政状況 イギリス、オランダともに2008年のリセッション以来高齢 者を支援するための予算は大きく削減されている。 * • RSVP(Retired and Senior Volunteer Programme), (Community Service Volunteers)英国福祉・ボランティア機関 CSV *RSVPはCSV(UKのボランティアネットワーク)の高齢者部門 「政府からの資金提供、 セントラル・グラントはかつて15のチャリ ティ団体に出されていたが、7つのチャリティ団体に削減され、 我々は削減された方に入ってしまった」 • Strategic Commissioner, Camden Borough Council ロンドン市カムデン区高齢者担当 • Employment Service Policy Branch, Department for Employment & Learning 北アイルランド政府雇用・学習局 「地域組織が発展してきた経緯として、北アイルランドの人々に は、政府なしで必要な資金さえあれば自分たちで運営できると いう認識がある。ボランティアセクターはとても強い。例えばあ る地域では手頃な価格のチャイルドケアが少ないとなると、複 数の組織が出てきてそういうサービスをしようということになる。 こうしてコミュニティ組織がどんどん発展していく」 • Department of Social and Economic Policy, City Council Leiden ライデン市高齢者担当 「ライデン市(約11万人) だけで600のボランティア組織がある」 「政府は地方自治体への予算を削減している」 • Policy Advisor to Baroness Sally Greengross OBE, member of the House of Lords グリーングロス上院議員政策アドバイザー イギリスの高齢者の就労・社会参加への考え方 イギリスでは平等法(2010年)の影響がみられ、年齢差別を 「65歳以上の高齢者は自分たちが引退したらフルにサポートし 禁止する考え方の中で、 高齢者のみを対象としたサービス てくれるはずだという考えのもとにいる。国も心配しないでいい が減少している。また、就労にあたっては年齢ではなく業 からと言い続けてきたがもう態度を変えてしまった。お金が無 務にマッチする能力のみによって評価されるべきであると くなってしまった」 の合意が形成されている。 • Employment Service Policy Branch, Department for Employment & Learning 北アイルランド政府雇用・学習局 「今給付をもらっている人は、お金をもらえることに慣れてしまっ • Policy Advisor to Baroness Sally Greengross OBE, member of the House of Lords グリーングロス上院議員政策アドバイザー 「イギリスでは高齢者を雇うと企業がなんらかの優遇を受ける ている。しかし、これは持続不可能だと理解してもらうために 制度はない。平等法によって高齢者に特化した政策はない。 メッセージを発信しなればならない」 高齢者を特別視はしない、 全体が平等であるべきだという考え • Director, Stiching Radius ライデン市福祉・ボランティア機関代表 方である。高齢者は貢献できるから、価値があるから優遇し 「施設内サービスは年間1人10万ユーロ必要で合計で12億ユー ていきましょうと主張すると、シングルペアレントはどうなのだ、失 ロが拠出されていたが、33%カッ トになった。だから、効率を上 業している若者はどうなのだとなる。ニーズのヒエラルキーを げざるを得ない。施設外サービスにも削減の波が来ている」 作ることになる。われわれは高齢者に特別にではなく、人(ピー プル) を視点において政策を、 と言っている」 イギリス、 オランダの高齢者のボランティア参加の状況 • KESTREL(Knowledge, Experience, Skills, Training, Respect, Empowerment and 高齢者の就労、ボランティア参加意識は高く、その中で地 Lifelong Learning)programme, GEMS ベルファスト就労支援・ボランティア機関 域ボランティア組織の役割が高くなり、地域の課題解決の 「要するに能力や実力は、年齢で決まるものではないとの見方 担い手になっている。 • RSVP(Retired and Senior Volunteer Programme), CSV(Community Service Volunteers)英国福祉・ボランティア機関 「イギリスでは、昔はリタイアした瞬間に存在感がなくなってしま うようなことがあったが、今は人生の哲学が変わってきている。 それで、 リタイアした後も多くの活動をする」 62 をしている」 • Employment Service Policy Branch, Department for Employment & Learning 北アイルランド政府雇用・学習局 「われわれ政府としてのサービスは、平等に提供しなくてはなら ない。高齢者や若者を特別に優遇することはできない」 〈ただしイギリスでは例外的に北アイルランド政府のみ高齢者就労支援を report 一部行っている〉 を予防したり、 ウェルビーイングを促進していくというもので、 カム 「Step to Workという政府のメインストリームの就労支援の取り組 デン区でも共有されている。ビッグソサエティ*という言い方を みで仕事に復帰したのが195人で約11%。もう1つボランタリー している。認知症を予防するあるいは悪化を防ぐことは、地方 セクターによるプログラムをGEMSと6年間やっている。雇用に 自治体の仕事ではなくみんなの仕事だという意味だ」 戻った人のパーセンテージは22%」 オランダの高齢者の就労・社会参加への考え方 オランダではボランティア振興のためのWMO(社会サポー ト法=市民参加による在宅支援を促進。2007年) の影響がみられ、 * キャメロン政権の「大きな社会」政策を指す。社会関連諸サービス供給の担 い手として社会的企業やボランティア団体、NGO・NPO の活動を重視する。 • Department of Social and Economic Policy, City Council Leiden ライデン市高齢者担当 「ボランティアにかかわるポリシーはWMO社会サポート法によっ 政府が中心になって行うのではなく基本的に地域の力に て定められている。ライデン市のボランティア振興政策予算は よって在宅サービス等を展開していくという方向の合意 およそ32万ユーロ。ビジョンから始まって評価までのサイクル が形成されている。高齢者のフレキシブルな就労を可能 がある。国の政策にもとづいてすべての市が計画を作らなけ にする制度整備も行われている。 ればならない」 • Department of Social and Economic Policy, City Council Leiden ライデン市高齢者担当 イギリス、 オランダの地域ボランティア団体の組織形態 「ボランティアはこれから一層重要になってくる。というのはもう 地域ボランティア組織の歴史は長く、高い専門性も確立さ 予算がないという状況で、いままではお金を払ってすぐにプロ れている。組織は、マネジャー層、専門家層、ボランティア の所に行っていたがもうそうではない。まず自分でできないか、 リーダー層、ボランティア層という形で役割分担が行われ もしできなければボランティア組織に助けてもらえないか、 そして て機能的である。 どうしても駄目な場合はプロのところに行く。それでボランティ • RSVP(Retired and Senior Volunteer Programme), ア組織はどんどん重要になっていく。オランダは福祉国家でな CSV(Community Service Volunteers)英国福祉・ボランティア機関 んでも国が助けてくれるという依存体質があったが、 国としては 「RSVP全体としては、 イングランド、 スコットランド、 ウェールズを通 自立体質に変えていきたいと思っている。文化を変えなけれ して1万5千人の高齢者ボランティアがいて、30人のスタッフが ばならないと考えている」 いる。また450人のボランティア・オーガナイザーがいて、無給 • Uitzendbureau 65+ 高齢者派遣会社(在ハーグ) でボランティア活動を立ち上げて育成して運営している」 「80年代から、 オランダの法律では、65歳以上の人たちの労働 • Director, Stiching Radius ライデン市福祉・ボランティア機関代表 をより安くするための法整備、つまり若者の労働者に比べて年 「行政との関係は、オランダでは市町村がコントロールしている 配の労働者の方が企業にとっても有利だという法整備がされ と言われるが事実ではない。というのは、行政が日常ベースで てきた」 われわれをコントロールすることはできない」 「われわれの組織は社員70人と650人のボランティア。社員70 ボランティア振興のための推進策、法整備 人はパートタイムが含まれ、フルタイム換算では40.2人。ほとん 高齢者の互助のための、 ボランティア振興のための推進策 どの人が週20 ∼ 25時間の就労。例えばバスのボランティア や法整備が進んでいる。 の運転手は1週間に1 ∼ 2回。スタッフの内訳は15%が間接 • Strategic Commissioner, Camden Borough Council ロンドン市カムデン区高齢者担当 部門、 85%が直接部門で非常に管理部分が少ない。ボランティ アは75歳以上の比率が20%」 「大きなレベルの高齢者の戦略として、 精神的、 肉体的なウェル ビーイングというものがある。依存を減らしたり予防したり、 病気 63 report イギリス、 オランダの行政とボランティア組織との関係 行政とのイコール・パートナーシップが形成されていて、 行政は調査/戦略形成/助成の役割で、NGOは地域のニー ズに基づいた提案と事業実施の役割となっており、それぞ れの責任・義務について共通の理解が形成されている。 イギリスでは組織の自立志向が強い。 • Strategic Commissioner, Camden Borough Council ロンドン市カムデン区高齢者担当 「CSVに限らず、 イギリスにはAge UKやアルツハイマー・ソサエティ という団体があり、そういう団体は高齢者と毎日コンタクトをとっ て高齢者のことをよく知っている。それに対して私や私の同僚 のNHS関係者はそこまでのコンタクトはない。われわれはCSVの ファンディングを決めるが、コミュニティとリンクを持っているのは CSVだ。だからわれわれ政府部門とボランティアセクターが一緒 になってパートナーシップで取り組むのがベストではないか」 • Employment Service Policy Branch, Department for Employment & Learning 北アイルランド政府雇用・学習局 「われわれが地域組織に資金提供しているのではなく、必要と しているサービスをそこから購入するという形。政府としてコ ミュニティに提供したいプログラムがある場合は、そのサービス の仕様を、お金も含めて書く。それを実施するコミュニティの 組織には、結果や成果によって支払うと入札するときの契約に 盛り込まれている」 • RSVP(Retired and Senior Volunteer Programme), CSV(Community Service Volunteers)英国福祉・ボランティア機関 「我々は、いわゆるセントラルファンディングという形で本部から ファンドを出している訳ではない。プロジェクトは自立しなけれ ばならず、ボランティアが運営していかなければならない。少 額のファンディングやローカルファンダ―をプロジェクト自身が見 つける形になっていて、CSV-RSVPとしてはその見つけ方をサ ポートし、 トレーニングを提供するなどの関わり方をしている」 • Department of Social and Economic Policy, City Council Leiden ライデン市高齢者担当 「地方自治体として主にできることは(ボランティアの)関係づくりで ある。実際に活動を強化していくことは私たちはできない。そ れはボランティアの組織が自分でしなければならない。私たち は条件を作ること、 環境整備だけである」 64 ILC Global Alliance ILC-Japan 名誉理事長 森岡茂夫(ILC-Japan) Sally Greengross, OBE(ILC-UK) Monica Ferreira, Ph.D.(ILC-South Africa) 国際長寿センター(International Longevity Center= ILC)は、少子高齢化に伴う諸問題を国際的・学際的 共同理事長 な視点で調査研究し、広く広報・啓発及び政策提言 を行うために誕生しました。 共同理事長 山之内製薬 (現アステラス製薬) 株式会社 元会長 英国上院議員 国連高齢化問題研究所理事 アメリカ、 日本、 フランス、 イギリス、 ドミニカ共和国、 インド、南アフリカ、アルゼンチン、オランダ、イスラエ ル、シンガポール、チェコ共和国、ブラジル、中国の世 ILC-USA 代表者:Ursula ILC-Japan 代表者:水田邦雄 ILC-France 代表者:Françoise ILC-Dominican Republic 代表者:Rosy 界14 ヵ国に設立された各センターは、「ILC Global Alliance」として共同事業を進めつつ、自国内でのそ れぞれの活動に精力的に取り組んでいます。 「ILC Global Alliance」は、老年学の世界的権威 である故ロバート・N・バトラー博士によって提唱さ 一般社団法人シルバーサービス振興会理事長 Forette, M.D. 医師 パリ市議会議員 医師 Pereyra, M.D. ● ILC-India 代表者:R.A. Mashelkar, Ph.D. 化学工学者 インド国立化学研究所特別会員 れました。日本ではその志に賛同した民間企業の思 いを受け止めた厚生省(当時)の指導の下、3年間の M. Staudinger, Ph.D. コロンビア大学公衆衛生学部教授 ILC-Argentina 代表者:Lia 医師 ILC-Netherlands い、調査・分析結果を広く情報提供・広報するなど、 Wouters 代表者:Sara Carmel, Ph.D. ベン・ガリオン大学教授 活発な活動を続けてきました。 また、日本の人口高齢化に関するさまざまな課題 代表者:Guus 企業年金基金理事長 ILC-Israel ILC-Singapore 代表者:Mary 医師 Special Issue Spring 2014 Daichman, M.D. 準備期間を経て1990年11月に設立されました。 以 来、少子高齢社会における政策提言や問題提起を行 長寿社会グローバル・インフォメーション ジャーナル Ann Tsao, Ph.D. 発 行:ILC-Japan(国際長寿センター) 〒105-8446 東京都港区虎ノ門3-8-21 虎ノ門33森ビル8F 一般財団法人長寿社会開発センター TEL FAX E-mail URL 編 集:株式会社青丹社 印 刷:大日本印刷株式会社 本誌掲載の記事・写真・図表等の無断複写(コピー) ・複製・ 転載を禁じます。 Tsao財団理事長 ① とそれに関わる制度、状況などを海外に知らせること ILC-Czech Republic 代表者:Iva Holmerova, Ph.D. プラハ老年学センター設立理事長 も、ILC-Japanの重要な任務と考えています。 ② 私たちは、すべての世代が支え合い、いきいきと生 ILC-Brazil Kalache, M.D. Ph.D. 医師 リオデジャネイロ州立大学名誉研究員 活できる豊かな高齢社会実現のためのさまざまな活 動に取り組んでいます。 代表者:Alexandre ILC-China 代表者:Du Peng, Ph.D. 人民大学老年学研究所所長 03-5470-6767 03-5470-6768 [email protected] http://www.ilcjapan.org ③ ⑥ ④ ⑦ ⑤ ⑧ Cover Photo: ① 吉野幸作氏 1912年生 ② 津久井桂子氏 1910年生 ③ 津田ヱイ氏 1904年生 ④ 吉田きし江氏 1912年生 ⑤ 進藤きみ氏 1908年生 ⑥ 守屋タメ氏 1904年生 ⑦ 福井福太郎氏 1912年生 ⑧ 竹田幸吉氏 1907年生 写真提供:小野庄一氏 Productive Aging 生き生きと老いる International Longevity Center-Japan Special Issue