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東京 23 区の大規模オフィスビル市場動向調査

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東京 23 区の大規模オフィスビル市場動向調査
東京 23 区の大規模オフィスビル市場動向調査
2003 年 4 月 10 日
東京 23 区の大規模オフィスビル市場動向調査
調査時点 2002 年 12 月
長引く借り控えと需要顕在化の兆し
∼エリア間競争の激化と今後求められる「エリアマネジメント」∼
森ビル株式会社(東京都港区 代表取締役社長 森稔)では、1986年から継続して、
東京 23 区の事務所延床面積 10,000 ㎡以上のオフィスビル(当調査における「大規
模オフィスビル」とはこれを指します)を対象に、各プロジェクトの計画進行(着
工・竣工)状況等の現地調査ならびに聞き取り調査を行なっております。また、あ
わせて、需要面(吸収量)の推移も調査し、これらのデータを多角的に分析するこ
とで、将来のオフィスマーケット動向の予測を行っております。最新の調査の結果、
次ページのことが明らかになりました。
※なお、前回の当レポートでは 2006 年までの供給量を対象としましたが、今回は 2007 年までの供給量を対象とします。
■「市場動向調査」調査要項
調査時点 :2002 年 12 月末
対象地域 :東京 23 区
集計対象ビル:事務所延床面積 10,000 ㎡以上(1986 年以降竣工)
※当調査における供給量とは、1986年以降に竣工した全ての大規模オフィスビルのうち、店舗、住宅、
ホテル等の事務所以外の用途を除いた、純粋な事務所部分の延床面積(グロス)を指します。
※当調査における吸収量とは、1986年以降に竣工した全ての大規模オフィスビルにおける当年の新規
稼働床面積(前年末の空室面積+新規供給面積−当年末の空室面積)を指します。なお、供給量と
の比較可能性を高めるため、元データの賃貸面積(ネット)を代表的な大規模オフィスビルの平均
有効率 65.5%で割り戻すことで延床面積(グロス)に換算しています。
【問合せ先】
森ビル株式会社
プロパティマネジメント統括本部 プロパティマネジメント企画室 大場秀人 橋本茂一郎 林原隆夫
東京都港区六本木 6 丁目 10 番 1 号 六本木ヒルズ森タワー 〒 106-6155
TEL 03-6406-6672 / URL http://www.mori.co.jp
- 13 -
東京 23 区の大規模オフィスビル市場動向調査
長引く借り控えと需要顕在化の兆し
∼エリア間競争の激化と今後求められる「エリアマネジメント」∼
■ 調査結果のポイント
[供給動向]
1. 2003 年の供給量は調査開始以来最大の 217 万㎡。
2004 年以降は年平均 80 万㎡と低水準。
「都市再生時代(2002年∼2007年)
」の年平均(110万㎡)は「バブル崩壊後(1992
年∼ 1996 年)
」の年平均(125 万㎡)より低水準。
2. 都心 3 区への供給集中が依然続く。
3. ビルの大型化の傾向が顕著。
[需要動向]
1. 2002 年の吸収量は 48 万㎡。2001 年に引き続き低水準。
2. 都心 3 区を中心に潜在需要は依然高水準。
3. 2002 年の低水準の吸収量は景気低迷等による借り控えの長期化が主たる要因。
4. 2003年上半期における新規大規模オフィスビルの大量供給を契機として、順次潜
在需要が顕在化。
[オフィスマーケットの今後の展望]
○特に港区・千代田区での集積が進む中で、エリア間競争が激化。
○エリア間競争が激化する中で、
「プラスα」の魅力を付加し競争力を高めるための「エ
リアマネジメント」への取り組みが重要。 「エリアマネジメント」
①中長期的なビジョンにもとづく「エリアディベロップメント」
②広域的な「タウンマネジメント」
- 14 -
東京 23 区の大規模オフィスビル市場動向調査
1.供給動向
○ 2003 年の供給量は調査開始以来最大の 217 万㎡。
○ 2004 年以降は年平均 80 万㎡と低水準。
○「都市再生時代(2002 年∼ 2007 年)
」の年平均(110 万㎡)は「バブル崩
壊後(1992 年∼ 1996 年)」の年平均(125 万㎡)より低水準。
はじめに、供給動向について見てみたい。東京 23 区内における大規模オフィスビルの供給量
推移(図1)から、2003 年の大規模オフィスビル供給量は 1986 年の調査開始以来最大の 217 万
㎡となり、前回大量供給時(1994 年)の 183 万㎡と比較して約 20%増となる。しかし、2004
年以降の供給量は、年平均 80 万㎡程度の低水準に落ち着く見込みである。
ここで、過去から現在、そして、今後の供給動向を比較するため、時代区分ごとの年平均供
給量について見てみたい。なお、ここでの時代区分は、1986 年から 1991 年の「バブル崩壊前」、
1992 年から 1996 年の「バブル崩壊後」、1997 年から 2001 年の「金融破綻による不況から IT
バブル崩壊まで」、そして、2002 年から 2007 年を「都市再生時代」とする。
2003 年が含まれる「都市再生時代」の年平均供給量を見てみると 110 万㎡であり、
「バブル
崩壊後」の125万㎡より低い水準となることが分かる。つまり、2003年単年での供給量は、1994
年の前回大量供給時の 183 万㎡と比較して約 20%増となるが、時代区分で比較すると、
「都市
再生時代」は、「バブル崩壊後」よりも低水準となる見込みである。
図 1:東京 23 区内の大規模オフィスビルの供給量推移
凡例
46
47
43
44
竣工済の物件
供給件数
40
41
未竣工の物件
36
未竣工の物件
(着工済のもの)
32
29
30
28
24
28
217
19
21
(万㎡)
200
12
15
19
16
14
12
9
183
供給量
125万㎡/年
150
110万㎡/年
125
84万㎡/年
108
100
100
114
119
118
104
99
74万㎡/年
91
74
80万㎡/年
96
83
56
時代区分別平均
101
104
92
74
72
76
70
'86年以降全平均
99万㎡
'04年以降平均
55
50
36
31
7
0
'86
'87
'88
'89
'90
'91
'92
'93
'94
'95
'96
'97
'98
'99
'00
'01
'02
'03
'04
'05
'06
'07
(出典)当社資料より作成
図 2:東京 23 区の全体着工量推移
次に、当調査では対象外となっている1
万㎡未満の小規模オフィスビル(以下「小
(「小規模オフィスビル」含む)
(万㎡)
600
規模オフィスビル」)も含めたオフィスビ
ル全体の着工量を見てみると(図 2 )、
1990年前後の着工量のピーク時と比較し
485
500
400
485
461
439
400
387
361
て、2000 年前後は半分程度の着工量と
なっている。すなわち、
「小規模オフィス
ビル」も含めたオフィスビル市場全体で
見ると、更に低水準の供給にとどまるこ
300
264
232
217
200
178
125
111
131
142
133
85
100
とが分かる。
0
'86
'87
'88
'89
'90
'91
'92
'93
'94
'95
'96
'97
'98
'99
'00
'01
'02
(出典)(財)建設物価調査会資料より作成
-1-
東京 23 区の大規模オフィスビル市場動向調査
1−1.使用形態別の供給傾向
①賃貸ビル
・2003 年は 120 万㎡で 1994 年と同水準。
・2004 年以降は年平均 61 万㎡で推移。
・
「都市再生時代(2002 年∼ 2007 年)」の年平均供給量(75 万㎡)は「バブル崩壊後
(1992 年∼ 1996 年)」の年平均(83 万㎡)よりも低水準。
②自社使用ビル
・2003 年は調査開始以来最大の 71 万㎡。
・2004 年以降は年平均 6 万㎡と低水準。
次に、新規供給ビルの使用形態別(賃貸ビル/自社使用ビル)の傾向を見てみる。2003 年の新
規供給量 217 万㎡のうち賃貸ビルは 120 万㎡であり、前回大量供給が行われた 1994 年の 124 万
㎡と同水準である。また、自社使用ビルの供給量は調査開始以来最大の 71万㎡にのぼる(図 3)。
ここで、前ページ同様、時代区分ごとに使用形態別の傾向を見ると、賃貸ビルでは、
「都市再
生時代」の年平均供給量が 75 万㎡であり、
「バブル崩壊後」の 83 万㎡よりも低水準となるこ
とが分かる。なお、2004 年以降の年平均供給量は 61 万㎡で、1986 年以降の全平均 64 万㎡
と同水準となる。
また、自社使用ビルでは、
「都市再生時代」の年平均供給量が 24 万㎡であり、「バブル崩壊
後」の 25 万㎡と同水準であることが分かる。2003 年の自社使用ビルの大量供給は、
「汐留・
品川駅東口・飯田町等の大規模プロジェクト(大部分が自社使用ビル)」が 2003 年に相次い
で竣工を迎えるため生じる一時的な現象であり、2004 年以降の年平均供給量は 6 万㎡と調査
開始以来最も低い水準で推移する見込みである。
図 3:大規模オフィスビルにおける賃貸ビルと自社使用ビルの供給量推移
(万㎡)
220
バブル崩壊前
217
金融破綻不況
∼
ITバブル崩壊
バブル崩壊後
都市再生時代
200
183
全体供給量
180
160
賃貸ビル
140
124
120
114
108
83
40
37
77
74
69
65
62
51
38
32
27
16
7
22
12
11
13
65
58
59
16
11
10
21
6
16
9
10
11
0
0
時代区分別
賃貸ビル平均
'86年以降賃貸ビル全平均
64万㎡/年
'04年以降
賃貸ビル平均
24
33
36
23
70
61
48
44
19
17
15
25
71
61
47
25
76
74
72
40
52
34
75
87
84
56
55
20
91
92
80
78
58
101
99
83
80
120
自社使用ビル
104
100
100
60
125
119
118
時代区分別
自社使用ビル平均
'86年以降自社使用ビル全平均
20万㎡/年
'04年以降
自社使用ビル平均
'07
'86 '87 '88 '89 '90 '91 '92 '93 '94 '95 '96 '97 '98 '99 '00 '01 '02 '03 '04 '05 '06
(注) 使用形態が未定の場合や同一物件で自社使用と賃貸が混在している場合は、賃貸ビル・自社使用ビルのいずれにも算入していない。
(出典)当社資料より作成
-2-
東京 23 区の大規模オフィスビル市場動向調査
1−2.エリア別の供給傾向
○都心 3 区への供給集中が依然続く。
次に、エリア別の供給傾向を見てみる。大規模オフィスビルの供給量推移を都心 3 区(千代
田区・中央区・港区)、都心 5 区(都心 3 区+新宿区・渋谷区)、および23区別に集計した結
果が図 4 である。
図 4:エリア別に見た大規模オフィスビル の供給量推移
(万㎡)
250
217
200
201
東京23区
183
183
150
125
108
100
100
114
104
119
117
118
64
50
56
54
50
91
92
68
72
55
71
85
74
53
58
52
81
74
77
60
66
58
52
57
41
87
81
72
69
56
55
101
99
都心5区
83
36
44
50
65
58
53
57
53
'05
'06
47
36
44
27
76
70
29
31
32
31
23
21
都心3区
17
0
'86
'87
'88
'89
'90
'91
'92
'93
'94
'95
'96
'97
'98
'99
'00
'01
'02
'03
'04
'07
(出典)当社資料より作成
この傾向を更に捉えやすくするため、時代
図 5:エリア別に見た
大規模オフィスビルの供給量割合(時代区分ごと)
区分ごとに「都心 3 区」と「その他 20 区」の
供給量割合を示したのが図 5 である。これを
見ると、
「バブル崩壊前」から「バブル崩壊後」
にかけて都心 3 区の割合が減少するが、その
0%
20%
40%
60%
80%
都心3区(千代田、中央、港区)
'86−'91年
「バブル崩壊前」
100%
それ以外の20区
43%(36万㎡/年)
57%(48万㎡/年)
後は一転して増加し、
「都市再生時代」では実
に約75%の割合を占め、供給が都心3区によ
'92−'96年
「バブル崩壊後」
34%(42万㎡/年)
66%(82万㎡/年)
り一層集中していく傾向が窺える。
ここで、当社調査では対象外となっている
「小規模オフィスビル」も含めたオフィスビ
ル全体についての傾向を見てみたい。
'97−'01年
「金融破綻不況
∼ITバブル崩壊」
53%(40万㎡/年)
'02−'07年
「都市再生時代」
47%(35.0万㎡/年)
75%(82万㎡/年)
26%(28万㎡/年)
エリア別着工量推移(図 6)を見ると、前
(出典)当社資料より作成
回オフィスビル大量着工をもたらした 1990
図 6:エリア別着工量推移(「小規模オフィスビル」含む)
年と比較して、23 区全体の着工床面積(黒色
の折れ線)に占める都心 3 区(赤色の折れ線)
の割合が 2000 年では大幅に増加しているこ
(万㎡)
500
485
485
461
東京23区
450
439
400
とが分かる。
400
以上、大規模・小規模をあわせたオフィス
350
387
361
ビル全体で見ても、「都心3区への供給集中
300
化」の傾向が依然続いていることが読み取れ
250
る。
200
290
都心5区
232
271
264
236
233
206
150
100
232
220
225
217
204
180
153
99
174
154
166
126
130
115
118
101
102
104
178
192
185
153
153
131
152 153
都心3区
107
120
109
79
81
66
50
55
47
26
57
154
142
133
111
112
100
198
125
141
88
63
85
135
98
101
92
49
37
23
0
'80
'81
'82
'83
'84
'85
'86
'87
'88
'89
'90
'91
'92
'93
'94
'95
'96
'97
'98
'99
'00
'01
'02
(出典)(財)建設物価調査会資料より作成
-3-
東京 23 区の大規模オフィスビル市場動向調査
1− 3.規模別の供給傾向
○ビルの大型化の傾向が顕著。
次に、 ビル規模別の供給傾向を見てみ
図 7:規模別に見た
大規模オフィスビルの供給量割合(時代区分ごと)
る。大規模オフィスビルを「事務所部分の
延床面積が1万㎡以上3万㎡未満の物件」と
「事務所部分の延床面積が 3 万㎡以上の物
件(以下「超大規模オフィスビル」
)」の 2
0%
20%
40%
60%
'86−'91年
「バブル崩壊前」
80%
100%
1万㎡以上3万㎡未満の物件
3万㎡以上の物件
51%(43万㎡/年)
49%(41万㎡/年)
グループに分け、時代区分ごとに集計した
'92−'96年
「バブル崩壊後」
結果が図 7 である。
63%(66万㎡/年)
37%(38万㎡/年)
「バブル崩壊前」は、それぞれほぼ同じ
割合であったが、その後は徐々に「超大規
'97−'01年
「金融破綻不況
∼ITバブル崩壊」
75%(47万㎡/年)
25%(16万㎡/年)
模オフィスビル」の占める割合が大きくな
り、
「都市再生時代」では、
「超大規模オフィ
スビル」が実に全体の約84%を占める見通
'02−'07年
「都市再生時代」
16%
(18万㎡/年)
84%(92万㎡/年)
しである。
(出典)当社資料より作成
ここで、当調査の対象外となっている「小規模オフィスビル」も含めたオフィスビル全体の
傾向についても見てみたい。
規模別着工量推移(図 8)を見てみると、前回オフィスビル大量着工が生じた 1990 年前後は、
「小規模オフィスビル」の着工量が圧倒的に多いのに対し、近年は大規模オフィスビルの着工量
が多いという「逆転現象」が続いている。特に直近の 2002 年は「小規模オフィスビル」の着工
量が極端に減少していることが分かる。
すなわち、大規模・小規模をあわせたオフィスビル全体で見ても、
「ビルの大型化」の傾向が
顕著であり、この傾向は今後も継続していくと見込まれる。
図 8:東京 23 区の規模別着工量推移(
「小規模オフィスビル」含む)
485
485
461
439
(万㎡)
399
400
361
400
大規模+小規模
387
350
337
334
300
285
269
268
265
264
小規模
250
232
大規模
217
200
178
150
135
100
92
134
127
119
179
154
148
125
98
86
131
93
50
85
88
121
111
85
66 65
68
57
142
133
111
96 95
67
45
18
53
32
47
0
'86
'87
'88
'89
'90
'91
'92
'93
'94
'95
'96
'97
'98
'99
'00
'01
'02
(注 1)大規模オフィスビルの着工床面積は当社の調査対象となったオフィスビルのうち、1986 年以降に着工したものを着工時期毎に集計したものである。
(注 2)小規模オフィスビルの着工床面積は事務所用途の着工床面積((財)建設物価調査会)と大規模オフィスビルの着工床面積から算出している。
(注 3)着工統計は着工前に提出された建築工事届を元に集計されているため、実際の着工時期や竣工時の面積とは異なる場合がある。
(注 4)今回掲載している着工床面積のデータは、2002 年 12 月時点のものである。
(出典)当社資料、(財)建設物価調査会資料より作成
-4-
東京 23 区の大規模オフィスビル市場動向調査
2.需要動向
○ 2002 年の吸収量は 48 万㎡。2001 年に引き続き低水準。
前章では、大規模オフィスビルの供給動向を見てきたが、ここでは、昨年の当レポート同様、
「吸
収量」※という概念を用い需要動向を見ていくこととする。
① 1986 年以降竣工の大規模オフィスビル(1 万㎡以上)の吸収量
図 9 は、1986 年以降竣工の大規模オフィスビル(以下「1986 年以降」)における供給量と
吸収量の推移を示している。
2001 年に引き続き、 2002 年の吸収量(48 万㎡)は、供給量と乖離し、低水準となってい
る。
※吸収量とは、1986 年以降に竣工した全ての大規模オフィス
ビルにおける当年の新規稼働床面積
(前年末の空室面積+新
規供給面積−当年末の空室面積)を示す(数値は延床面積 ベースに換算)。
図 9:23 区における 1986 年以降竣工の
大規模オフィスビルの吸収量推移
183 182
(例) 2002 年の吸収量
(万㎡)
150
123
118
100
1) 吸収量がプラスの時
吸収量
供給量
130
2001年末
ストック
125
119
稼働面積
空室面積
吸収量(+)
99
92
91
83
88
80
74
91
2002年末
ストック
2002年新規供給量
稼働面積
空室面積
72
54
50
2) 吸収量がマイナスの時
48
44
2001年末
ストック
36
稼働面積
空室面積
吸収量(−)
0
'93
'94
'95
'96
'97
'98
'99
'00
'01
2002年末
ストック
'02
2002年新規供給量
稼働面積
空室面積
(出典)当社資料等より作成
②都心 5 区における 1985 年以前竣工の超大規模オフィスビル(3 万㎡以上)も加算した吸収量推移
より総合的に需要動向を把握するため、
「1986 年以降」の吸収量だけではなく、都心 5 区
(都心 3 区+新宿区・渋谷区)における 1985 年以前に竣工した 3 万㎡以上の超大規模オフィ
スビル(以下「1985 年以前」)の吸収量も加えたものが図 10 である。図 10 を見ると、
「1986
年以降」のみの吸収量推移と同様、2001 年から 2002 年にかけて低調に推移している。また、
2002 年は 36 万㎡で「1986 年以降」の 48 万㎡と比べ、より低水準となっている。そこで、
「1986 年以降」と「1985 年以前」のそれぞれの吸収量を見ると(図 11)、
「1985 年以前」で
は、長期的に見れば、一定の均衡水準を保っていると言えるが、2002 年において「1985 年
以前」は 12 万㎡のマイナスとなっており、全体的に需要が落ち込む中、特に古いビルに影響
が出ていることが窺える。
図 10:「1985 年以前」も加算した吸収量推移
183
175
図 11:
「1985 年以前」と「1986 年以降」の吸収量推移
(万㎡)
200
182
(万㎡)
吸収量
供給量
150
150
134
126
118
100
125
119
88
92
100
99
90 91
82
74
91
83
50
36
41
3
36
54
44
50
63
88
80
72
69
4
8
48
9
2
0
▲ 14
0
86年以降竣工の
大規模オフィス
130
123
▲2
▲7
▲9
85年以前竣工の
超大規模オフィス
▲ 12
-50
'93
'94
'95
'96
'97
'98
'99
'00
'01
'02
'93
(出典)当社資料等より作成
'94
'95
'96
'97
'98
'99
'00
'01
'02
(出典)当社資料より作成
-5-
東京 23 区の大規模オフィスビル市場動向調査
2−1.潜在需要の検証
○都心 3 区を中心に潜在需要は依然高水準。
○2002年の低水準の吸収量は景気低迷等による借り控えの長期化が主たる要
因。
○2003年上半期における新規大規模オフィスビルの大量供給を契機として、
順次潜在需要が顕在化。
ここまでは、東京 23 区における大規模オフィスビルの供給動向と需要動向を見てきた。ここで
は、2001 年に引き続き低水準となった 2002 年の吸収量について、単純な需要の収縮によるもの
なのか、あるいは借り控えの長期化によるものなのか考察したい。
■各企業の拡張予定面積に見る潜在需要の可能性
住友生命総合研究所は「全国オフィス需要動向調査」の中で、各調査時点(1999 年、
2000 年、2001 年、2002 年)から 3 年先までを見越した各企業のオフィスの「純需要」面
積をアンケート形式にて推計している。
【
「純需要」=新規賃借予定面積−解約・縮小予定面積】
23 区、都心 5 区、都心 3 区の「純需要」の推移を見ると(図 12)、いずれも、近年は増
加傾向であることが分かる。特に、都心 3 区の「純需要」は、2001 年、2002 年と 23 区全
体のそれを上回っており、増床や拡張移転要望の高まり、つまり潜在需要が都心 3 区に集
中していることが分かる。
潜在需要が集中している都心 3 区の「純需要」の内訳となる新規賃借予定面積と解約・縮
小予定面積をみると(図 13)、2000 年から 2001 年にかけて新規賃借予定面積が大幅に増加
し、2002 年においても相変わらず高水準となっている。一方、解約・縮小予定面積を見る
と、2001 年から 2002 年にかけて減少しており、結果として「純需要」は、昨年を上回る水
準となったことが分かる。
この「純需要」の増加傾向より、都心 3 区を中心に潜在需要は引き続き高水準にあると考
えられる。
図 13:都心 3 区の新規賃借予定面積と
解約・縮小予定面積
図 12:オフィス需要増加面積の推移
(万㎡)
(万㎡)
240
204
220
222
200
215
400
180
166 182
160
300
東京23区
新規賃借
予定面積
152
140
127
120
197
解約・縮小
予定面積
184
200
100
164
100
80
60
348
346
都心3区
59
60
63
40
134
51
133
131
100
都心5区
20
0
0
'99
'00
'01
'02
'99
'00
'01
'02
(調査時期)各年とも 6 月末∼ 7 月中旬
(調査方法)東京商工リサーチのデータベースを基に、資本金規模上位 1 万社を対象に調査票を郵送。
(回収率) 10.2%(有効回答数 1,021 社:2002 年度)※他年度の回収率も同程度。 (出典)住友生命総合研究所「全国オフィス需要動向調査」
-6-
東京 23 区の大規模オフィスビル市場動向調査
では、潜在需要が依然高い水準にあるのに対し、なぜ需要(吸収量)は低い水準のままなのであ
ろうか。ここでは、前回と今回の大量供給時における需要の質的な違いについて見てみたい。
■需要に関する質の変化
前述の通り(ページ 3、図 5)、1992 年から 1996 年の「バブル崩壊後」における都心 3 区
以外の供給量割合は 66%と「都市再生時代」と比較して 2.5 倍の割合になっている。また、こ
の時期、年ごとには供給量と吸収量に差があるものの、数年単位で見れば供給量と吸収量は均
衡している(ページ 5、図 9)。つまり、前回の大量供給時には、都心3区以外で供給された
新規大規模オフィスビルでの吸収量が大きかったことが分かる。これは国勢調査を見ても、都
心 3 区の就業者数が、1990 年から 1995 年の間に約 14 万人減少していることから裏付けられ
る。
ここで、当時の都心 3 区内から周辺区へ移転する際の賃料格差を千代田区と渋谷区を例に
見てみたい。1994 年当時の平均賃料は、三鬼商事のデータ※によると、千代田区の既存ビル
が約 32, 000 円 / 月坪であったのに対し、渋谷区の新築ビルでは約 24, 000 円 / 月坪であり、
賃料単価の水準が約25%も異なる。すなわち、
「バブル崩壊後」による景気悪化で企業業績が
低迷し固定費圧縮を図る企業が多い中、
賃料格差によるコスト削減効果が大きな後押しとなっ
て、需要が周辺区への移転というかたちで比較的短期間で顕在化したものと思われる。
※ 調査対象ビル:基準階面積が 100 坪以上の主要貸事務所ビル
調査時期 :各年 12 月末時点
賃貸条件 :原則として基準階の新規募集条件
新築ビル :当年中竣工ビル
既存ビル :当年の前年以前竣工のビル
図 14:「解約・縮小予定地」別「新規賃借予定地」
20%
0%
40%
60%
80%
100%
都心3区
その他20区
61%
39%
東京23区
一方、今回の大量供給時における需要の質
を把握するため、住友生命総合研究所が
68%
都心5区
32%
2002 年に実施したアンケート結果を見てみ
ると(図 14)、解約・縮小予定地にかかわら
92%
都心3区
8%
ず都心3区で新規賃借する予定が多くなって
いるが、特に、現在都心 3 区に立地する企業
については実に 92%が都心 3 区での新規賃
借を予定している。前回の大量供給時におい
移転
(注)解約・縮小予定と 新規賃借予定とが同時にある企業が対象。
対象企業数は、東京 23 区で 25 社、都心 5 区で 21 社、都心 3 区で 16 社。
(出典)住友生命総合研究所「全国オフィス需要動向調査」より
ては、
「都心→周辺」と移転することにより
図 15:当社に対する問合せ件数の推移(指数)
コスト削減効果が得られたが、「周辺→都
心」、
「都心→都心」という移転では単純にコ
新規賃借予定地
解約・縮小予定地
(指数)
スト削減効果を得にくいため、そもそも潜在
需要の顕在化に時間がかかったと思われる。
つまり、こうした質の変化に加え景気動向も
193
200
影響し、2002 年は借り控えが長期化したと
考えられる。
■潜在需要の顕在化の兆し
ここで、港区を中心にオフィス事業展開を
している当社に対する問合せ件数の推移をみ
半期毎の
月平均水準
137
150
132
134
133
115
108
108
100
93
89
108
79
ると(図 15)、2002 年上半期より急増し、
2003 年 1 月には、1993 年の水準も上回り、
133
115
83
85
73
77
74
64
50
65
63
56
1992 年以降最大の問合せ件数を記録した。
前回、1993 年の問合せ件数の増大を経て
1994 年以降に吸収量が増加したことを踏ま
えると、直近の問合せの増加傾向より、2003
年以降、
順次需要が顕在化することが予想さ
0
'92
'93
'94
'95
'96
'97
'98
'99
'00
'01
'02
(注) ‘92 年から‘03 年の 2 月までの月平均を 100 として、指数化
(出典)当社資料より作成
れる。
以上より、2002 年も 2001 年と同様に需要(吸収量)が低水準となったのは、都心 3 区での潜在
需要は引き続き高水準にあるものの、近年の景気低迷や需要の質の変化により、借り控えが長期化
していることが主たる原因と考えられる。そして、この潜在需要が、2003 年上半期での新規大規
模オフィスビルの大量供給を契機として、2003 年以降、順次顕在化していくことが予想される。
-7-
東京 23 区の大規模オフィスビル市場動向調査
【参考】 今後の需給動向のシミュレーション
∼供給量と吸収量の相関関係にもとづく回帰分析∼
ここで参考までに、2通りのシナリオを用いて、過去の供給量と吸収量の相関性にもとづく回帰分
析より将来の吸収量と空室率のシミュレーションを行ってみたい。
【シナリオ 1(参考図 1)
】
参考図 1:単純に 2002 年までの供給量・吸収量の相関
関係から導かれる吸収量と空室率の予測
参考図1は2002年までの供給量と吸収量の相
10.8
関関係にもとづく回帰分析より 2003 年以降の
6.0
4.9
4.7
5.4
3.4
当調査対象の東京23区
大規模オフィスビルの空室率(%)
収量は 181 万㎡と大幅な需要増が見込まれるも
4.3
3.8
217
3.6
2.4
1.2
実績値
183 182
のの、空室率が9.1%まで達する。またその後も、
6.1
5.9
3.1
2.7
8.8
予測値
8.8
2002年の吸収量が 2001年から引き続き低水準
となったことが大きな要因となり、2003年の吸
8.1
8.0
7.2
9.1
9.1
9.6 東京23区全体の空室率(%)
吸収量と空室率の予測を行ったものである。
181
(万㎡)
150
空室率は約 9%で推移する。このシナリオにお
130
123 119
118
いては、前項で述べた借り控えの長期化にもと
100
づく潜在需要の顕在化を考慮していない。
吸収量
供給量
125
101
99
92
91
83
88
80
74
91
92
74 72
72
54
【シナリオ 2(参考図 2)
】
50
48
44
36
前項では、潜在需要が引き続き高水準にあり、
予測値
2003年以降それが顕在化していく兆しが見られ
0
ることについて触れた。そこで、昨年の当レポー
'93
'94
'95
'96
'97
'98
'99
'00
'02
'01
'05
'04
'03
(注)最小自乗法を用いて‘93 年から‘02 年までの供給量と吸収量の 各年実績データの相関関係から予測値を算出した。
(出典)23 区全体の空室率は、生駒CBリチャードエリス資料、その他
については当社資料等より作成
トで用いた 2001 年までの供給量と吸収量の関
係にもとづく回帰分析によって導かれる 2003
年以降の予測吸収量に加え、2002年の予測吸収
73 万㎡が 2003 年以降の 3 年間に均等に顕在化
参考図 2:2002 年に顕在化しなかった分の潜在需要が 2003 年から順次顕在化すると仮定した場合の吸
すると仮定した。その結果2003年の吸収量は供
収量と空室率の予測
量 121 万㎡のうち顕在化しなかったと思われる
10.8
給量と同水準の 227 万㎡、空室率 6.6%となり、
9.6 東京23区全体の空室率(%)
その後も供給量を大きく上回る吸収量となり空
室率は順次改善され、2005 年には 3.6%となる。
8.8
7.2
8.1
8.0
6.6
6.0
査対象の東京23区
模オフィスビルの空室率(%)
4.9
4.7
5.4
3.4
4.3
3.1
2.7
2.4
217
5.1
227
3.6
3.6
3.8
予測値
203
1.2
実績値
183 182
ここで前回大量供給が行われた1994年前後の
6.1
5.9
(万㎡)
150
吸収量を見ると、1993年には供給量と乖離し低
130
123
118
水準に、1994 年には供給量と同水準まで増大
100
し、その後 1995 年から2 年に渡り供給量を上回
吸収量
供給量
125
119
124
121
101
99
92
91
83
88
80
74
91
100
99
74
72
るという推移となった。前ページの当社問合せ
76
54
50
件数の推移からみても、2001 年、2002 年と低
48
44
36
実績値
予測値
水準が続いた吸収量が 2003 年以降に大幅に増
大していくと予測される。
0
'93
潜在需要が高い水準にあることを考えれば、
今後空室率は順次改善されていく可能性が高い
が、顕在化のタイミングとボリュームは景気動
向、オフィスワーカー数の増減、1人当たりの
床面積および賃料相場の動向等の影響によると
ころが大きく、現段階では楽観視は出来ないと
'94
'95
'96
'97
'98
'99
'00
'01
'02
'03
'04
'05
(注)吸収量の予測に当たっては、最小自乗法を用いて‘93 年から‘01 年まで
の供給量と吸収量の各年実績データの相関関係から第一段階の予測値を算
出し(決定係数:0.853)、‘02 年の予測と実績値の差分を‘03 年以降、3
年に渡り第一段階の予測値に加算したものを最終的な予測値とする。
‘03
年以降の空室率は、前述の吸収量予測値から空室面積を求めることで算出
している。また、東京 23 区大規模オフィスビルの空室率は、1986 年以降
に竣工した大規模オフィスビルにおける空室率である。
(出典)東京 23 区全体の空室率については、生駒CBリチャードエリス資料、そ
の他については当社資料等より作成
言えるであろう。
-8-
東京 23 区の大規模オフィスビル市場動向調査
3.オフィスマーケットの今後の展望
∼エリア間競争の激化と今後求められるエリアマネジメント∼
ここで、1986 年から 2007 年までの 23 区における大規模オフィスビルの供給の変遷を時代ご
とに分けトレンドを概観することで、今後のオフィスビルマーケットを展望したい(図 16)。
図 16:23 区の大規模オフィスビルの供給の変遷
時代
区分
都心5区及びその他18区の時代区分別供給量
トピック
マーケット動向
'87 強い貸し手市場の形成
(万㎡)
バブル崩壊前('86∼'91)
300
'88 ビルラッシュさらに加速
'86 アーク森ビル
'90 NECスーパータワー
'91 シーバンス
城山JTトラストタワー
'91 大森ベルポート(1期)
'87 大崎ニューシティ
'88 東京住友ツインビルディング
'89 IBM箱崎ビル
'91 バブル崩壊による貸し手市場の終焉
200
157
164
'90 アーバンネット大手町ビル
100
76
57
37
16
0
港区
千代田区
中央区
バブル崩壊後('92∼'96)
新宿区
渋谷区
300
その他18区
'92 シーフォートスクエア
豊洲ONビル
'94 天王洲郵船ビル
'96 中野坂上サンブライトツイン
'94 新宿パークタワー
新宿アイランドタワー
東京オペラシティタワー
新宿マインズタワー
(万㎡)
276
'93 赤坂パークビルヂング
'96 グランパーク・タワー
200
'94 大手町野村ビル
82
47
53
金融破綻による不況∼ITバブル崩壊('97∼'01)
港区
千代田区
中央区
54
新宿区
渋谷区
■交通ネットワーク整備状況
○営団半蔵門線延伸('90)
都
営
大
江
戸線開通('91) ○
○営団南北線開通('91)
マーケット動向
'92 賃料相場調整(下落)局面へ
'93 完全な借り手市場へ転換
オフィスを選べる時代へ
'94 首都圏の大規模ビル空室率ピーク
■23区外オフィス動向
○横浜ランドマークタワーオープン('93)
○NTT幕張ビル('93)
○SII幕張ビル('93)
○千葉ポートスクエア('93)
'94 セントルークタワー
114
100
■23区外オフィス動向
○横浜ビジネスパーク('90)
○幕張テクノガーデン('90)
○ワールドビジネスガーデン('91)
○日本IBM幕張テクニカルセンター('91)
'96 借り手市場の終焉
フリーレントなど姿消す
賃料下落に歯止めかかる
'94 恵比寿
ガーデンプレイスタワー
0
その他18区
■交通ネットワーク整備状況
○ゆりかもめ開通('95)
○りんかい線開通('96)
○営団南北線延伸('96)
マーケット動向
'97 大手町ファーストスクエア・イーストタワー
'00 山王パークタワー
'01 パシフィックセンチュリープレイス
(万㎡)
'97 新・近・大ビルの賃料上と
それ以外のビルの2極化減少
'98 金融破綻で不況突入、市況再び悪化
300
'97 恵比寿プライムスクエアタワー
'97 '98
新宿サザンテラス
'00 渋谷マークシティ
'01 セルリアンタワー
200
80
'00 本格的な市況回復局面
'01 優良物件の品薄感で
貸し手市場の様相
120
'01 晴海トリトンスクエア
100
'99 新築ビル減少し、市場に落ち着き感
'97 アルカタワーズ錦糸町
'98 品川インターシティ
'00 愛宕 MORIタワー
47
46
9
0
千代田区
中央区
新宿区
渋谷区
その他18区
300
295
200
159
○りんかい線延伸('01)
マーケット動向
六本木ヒルズ森タワー
汐留再開発
品川グランドコモンズ
'07 TBSⅡ期再開発
赤坂九丁目再開発
(防衛庁跡地)
'03
(万㎡)
■交通ネットワーク整備状況
○都営大江戸線延伸('97)
○営団南北線延伸('00)
→東急目黒線との相互直通運転
○都営三田線延伸('00)
→東急目黒線との相互直通運転
○都営大江戸線全線開通('00)
70
港区
都市再生('02∼'07)
'90 上昇を続けるオフィス賃料
超貸し手市場にブレーキも
'02 ITバブル崩壊・日米同時株安で
借り手市場の様相
■交通ネットワーク整備状況
'02 '03
品川シーサイドフォレスト
'02 丸の内ビルディング
'03 ガーデンエアタワー
三菱信託銀行本店ビル
神保町三井ビルディング
'06 UDXビル(秋葉原ITセンター)
東京ビルヂング建替計画
○りんかい線延伸('02)
→JR埼京線との相互直通運転
○ゆりかもめ延伸('05年度予定)
○つくばエクスプレス開通('05年度予定)
117
○営団地下鉄13号線開通('07予定)
→東急東横線との相互直通運転
100
40
33
20
0
港区
千代田区
中央区
新宿区
渋谷区
その他18区
(出典)当社資料より作成。なお、
「トピック」の「マーケット動向」は三幸エステート「オフィスレントデータ 2003」より引用。
-9-
東京 23 区の大規模オフィスビル市場動向調査
「バブル崩壊前」(1986 年∼ 1991 年)
港区とその他18区において大規模オフィスビルの供給が進んだ。港区では、
「アーク森ビル」、
その他 18 区では、
「大森ベルポート」や「大崎ニューシティ」、また、23 区外では幕張新都心の
「幕張テクノポート」等がオープンし、新たなオフィスエリアとして注目された。
「バブル崩壊後」(1992 年∼ 1996 年)
港区、新宿区、その他 18 区において、大規模オフィスビル供給が進んだ。特に、その他 18 区
では、天王洲の「シーフォートスクエア」
、豊洲の「豊洲 ON ビル」等のように、従来のオフィ
ス集積地とは異なるエリアで大規模オフィスビルが供給され、新たなオフィスエリアを形成し
た。また、23 区外に目を向けると、
「バブル崩壊前」に引き続き幕張新都心において、ビルの集
積が進み、横浜では「ランドマークタワー」がオープンした。
「サテライトオフィス」という言
葉が持てはやされたのはこの時代である。バブル崩壊による経済環境悪化、企業のコスト削減圧
力の高まりから多くの企業が都心から周辺エリアへオフィスを移転し、
オフィスエリアの分散化
が顕著となった。
「金融破綻による不況から IT バブル崩壊まで」(1997 年∼ 2001 年)
全体的に供給量が低水準となるものの、都心3区ではコンスタントな供給が見られる。渋谷区
では「渋谷マークシティ」や「セルリアンタワー」等で注目を浴びたが、新宿区やその他 18 区
では供給が低水準となった。
一方、都心部での地下鉄延伸を中心とした整備が進み、交通ネットワークが拡充したのはこの
時代である。
こうして、過去の各時代をふりかえると、オフィスエリアとして注目を集めたエリアと、その
エリアにおける供給量の大小が結果的にリンクしていたことが読みとれる。
では、現在および今後の「都市再生時代」はどうであろうか。現時点での調査結果を見ると、
供給面では港区と千代田区に集中する一方、中央区、新宿区、渋谷区は低水準となることが見込
まれている。
一方、需要面から検証してみたい。前述した「純需要」を都心 3 区の区別に示したのが図 17
であるが、港区と千代田区の需要が年々増大している一方で、中央区の需要が激減していること
が分かる。
「都市再生時代」においても、過去のトレンドと同様に供給と需要が密接にリンクし
ていくことが予想され、潜在需要が顕在化した際には、供給量の多いエリアに企業集積が進んで
いくことが考えられる。
以上、今後はもともと都心としての立地優位性を持つ港区と千代田区の中でも、より良い条件
でテナントを誘致するために、より一層ビル間・エリア間競争が激化していくことが予想され
る。
図 17:各区別「純需要」面積の推移(都心 3 区)
(万㎡)
150
128
120
港区
90
千代田区
81
82
67
中央区
60
53
38
34
30
16
9
8
9
5
0
'99
'00
'01
'02
(出典)住友生命総合研究所「全国オフィス需要動向調査」
- 10 -
東京 23 区の大規模オフィスビル市場動向調査
都心、特に港区および千代田区を主要な舞台として、より一層エリア間競争が激化していくこと
を前項で述べたが、こうした環境下で競争に勝ち抜いていくための条件を最後に考察したい。
昨年の当レポートで、近年においては「近・新・大」を兼ね備えた新規物件の供給が多数を占め
ることから、
「近・新・大」に加えて、他物件との差別化を図る「プラスα」が新たなオフィスビ
ル選別基準となると述べたが、その後ニッセイ基礎研究所のレポートの中で「プラスα」に関する
分類がなされた(図 18)。
図 18:オフィス大競争時代の勝ち組ビルの条件(
「プラスα」部分)
項目
具体的内容
・ テナントの多様な賃借ニーズに対応可能な設備面の自由度の高さ(スケルトン貸し、設備機能
増設、テナント専用設備など)
付帯設備・サービス ・ インターネット接続サービス
・ オフィスサポート施設(レストラン、カフェ、託児所、クリニック、コンビニエンスストア、
会議室、ATMコーナー、郵便局等)
ビル周辺環境
・ エリア全体の魅力(オフィス周辺に、商業・宿泊・文化・娯楽・居住機能や公園緑地・オープ
ンスペースの整備など)
・ エリアとしての災害時の高い安全性
マネジメント
・
・
・
・
付加的・選択的条件
プラスα
デザイン
テナント満足度の高い、優良な管理サービス(プロパティ・マネジメント)
テナントの多様な賃借ニーズに対応可能な契約面の自由度の高さ(定期借家契約など)
タウンマネジメント(エリア情報の提供など)
震災時対応(電源バックアップ体制、避難誘導や緊急救命活動等のテナント安全確保体制)
・ ランドマーク性、好印象を与えるデザイン、陳腐化しないデザイン
信用力
・ オーナーの信頼力の高さ、ブランド力
・ 経営の安定性
その他
・ 環境保全への配慮(高いエネルギー効果、水資源の有効利用など)
(出典)ニッセイ基礎研究所「オフィスビル大競争時代の幕開け」
この中で注目されるべきは、
図中赤字で示したようなビルやプロジェクト単体での取り組みでは
不充分と思われる項目が多数あるということである。今後より一層エリア間競争が激化する中で、
少しでも多くの「プラスα」を付加し競争に勝ち抜いていくためには、ビルやプロジェクト単体だ
けではなく、エリア全体の魅力向上をはかる取り組みが求められると言えるであろう。
それでは、今後エリアとして求められる魅力とはどのようなものであろうか。従来はオフィス、
住宅、商業といった施設がそれぞれエリアとして独立して集積する傾向が多く見受けられた。これ
は戦後の高度成長の流れの中で、都心部においてはより生産性の高いオフィス、周辺部には住宅、
そして交通利便性の高いターミナル駅周辺には商業施設が集積するという、
言わば経済効率優先の
都市開発の結果と言えよう。しかし近年は図 18 のビル周辺環境の項目にも見受けられるように、
エリアの中にオフィスだけでなく商業、宿泊、文化、娯楽、居住といった様々な機能が複合的に集
積していることが重視されるようになってきている。
これはオフィスワーカーにとっての利便性向
上はもちろん、それ以外の多種多様な人々が集まり、交流することにより生まれる高度な「知的生
産性」が求められてきていることに他ならない。
つまり、エリアに求められる魅力とは従来型の単に働く場として完結する性質のものでなく、居
住、文化、教育、エンターテイメント等様々な要素がハード・ソフト両面から高度に融合し、多種
多様な人的交流や情報の共有が時間的にも空間的にも効率良くはかれる環境であると言える。
こうしたエリア自体の魅力を高め、競争力を付加していくためには、従来型のビルマネジメント
に代わり、
①地域特性や多様なニーズに即した中長期的ビジョンにもとづき諸施設や周辺環境を整
備することでエリア全体のハード面での魅力向上をもたらす「エリアディベロップメント」および
②地域全体を対象としてエリア情報サービス等のソフト面での魅力向上をもたらす広域的な
「タウ
ンマネジメント」の両輪による『エリアマネジメント』が今後求められると言えるであろう。
図 19:エリアマネジメント概念図
従
従来
来型
型ビ
ビル
ルマ
マネ
ネジ
ジメ
メン
ント
ト
エ
エリ
リア
アマ
マネ
ネジ
ジメ
メン
ント
ト
①中長期的なビジョンにもとづく 「エリアディベロップメント」
②広域的な「タウンマネジメント」
魅力あるエリアの創造
○都心、特に港区・千代田区での集積が進む中で、エリア間競争が激しくなる。
○エリア間競争が激化する中で、
「プラスα」の魅力を付加し競争力を高め
るための「エリアマネジメント」への取り組みが重要。
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今後竣工予定の主な大規模オフィスビル
東京 23 区の大規模オフィスビル市場動向調査
※当社発表の供給量は、下表の延床面積とは異なる“純粋な事務所部分の延床面積”にて集計
プロジェクト名
(ビル名)
延床面積
(㎡)
事 業 主 体
所在地
(坪)
2003年
(仮)丸の内1丁目八重洲プロジェクト
日本工業倶楽部会館・三菱信託銀行本店ビル
65,800
109,700
19,905 森トラスト
千代田区丸の内
33,184 三菱地所、日本工業倶楽部
千代田区丸の内
千代田区神保町
J -CITY東京・神保町三井ビルディング
88,707
26,834 神保町一丁目南部地区再開発組合
(仮)千代田プロジェクト
62,628
18,945 西神田三丁目北部西地区再開発組合
千代田区西神田
ガーデンエアタワー
93,224
25,864 JR貨物
千代田区飯田橋
太陽生命品川ビル
57,274
17,325 太陽生命
港区港南
キャノン販売品川本社ビル
59,329
17,947 キヤノン販売
港区港南
港区港南
品川イーストワンタワー
118,595
35,875 大東建託
三菱商事・三菱自動車工業本社ビル/三菱重工ビル
227,831
68,919 三菱商事、三菱自工、三菱重工
港区港南
(仮)品川駅東口B-3地区ビル(NTTデータ)
70,283
21,261 NTTデータ
港区港南
松下電工東京本社ビル
47,308
14,311 松下電工
港区東新橋
(仮)汐留地区再開発E街区・汐留メディアタワー
63,000
19,058 共同通信社
港区東新橋
(仮)汐留地区再開発D北3街区・日本通運ビル
54,214
16,400 日本通運
港区東新橋
汐留タワー
79,800
24,140 鹿島汐留開発
港区東新橋
日本テレビタワー
131,468
39,769 日本テレビ放送網
港区東新橋
汐留シティセンター
187,745
56,793
港区東新橋
アルダニ−インベストメンツ、三井不動産
六本木ティーキューブ
62,060
18,773 日本サムソン、三井不動産
六本木ヒルズ森タワー
380,105
新宿文化クイントビル
87,911
26,593
パナソニックタワー
54,800
16,577 日本たばこ産業
114,982 六本木六丁目地区市街地再開発組合
文化学園,フジクラ,東京都水道局、東京都市開発、京王電鉄
港区六本木
港区六本木
渋谷区代々木
品川区東品川
2004年
(仮)二番町プロジェクト
(仮)明治生命館街区再開発計画
58,412
148,727
17,670 三菱地所、第一生命、太陽生命
千代田区二番町
44,990 明治生命保険
千代田区丸の内
千代田区丸の内
(仮)丸の内一丁目1街区・A棟
88,000
26,620 三菱地所、日本生命、交通公社不動産
(仮)丸の内一丁目1街区・B棟
66,183
20,020 三菱地所、日本生命、交通公社不動産
千代田区丸の内
(仮)赤坂一丁目計画
74,640
22,579 興和不動産
港区赤坂
(仮)JR東海ビル(品川)
49,931
15,104 東海旅客鉄道
港区港南
(仮)汐留住友ビル
99,900
30,220 住友生命、住友不動産
港区新橋
(仮)品川駅東口駅ビル
62,800
18,997 東日本旅客鉄道
港区港南
(仮)日本橋一丁目計画
98,443
29,779 三井不動産、東急電鉄,東急不動産
中央区日本橋
品川JT SOUTHタワー
51,200
15,488 鹿島建設、日本たばこ産業
品川区東品川
2005年
(仮)秋葉原ダイビル
49,781
15,059 ダイビル
千代田区外神田
(仮)銀座第一ホテル跡地開発計画
49,836
15,075 三井不動産
中央区銀座
(仮)室町三井新館(三井本館街区再開発計画)
130,750
39,552 三井不動産、千疋屋總本店
中央区日本橋室町
(仮)浜離宮サイドプロジェクト
192,000
58,080 森トラスト、森産業トラスト、住友不動産建物サービス
港区新橋
(仮)白金一丁目東地区再開発計画・業務棟
50,324
15,223 白金一丁目東地区再開発組合
港区白金
(仮)有明南LM区画
90,440
27,358 TOC
江東区有明
(仮)IHIビル
99,990
30,247 石川島播磨重工業
江東区豊洲
千代田区外神田
2006年
(仮)UDXビル
158,647
47,991
(仮)東京ビルヂング建替計画
150,000
45,375 三菱地所、東京三菱銀行
千代田区丸ノ内
千代田区丸の内
ユーディーエックス特定目的会社(NTT都市開発、鹿島建設)
(仮)三菱商事丸の内新本社ビル計画
61,000
18,453 三菱商事
(仮)虎4KAN計画・事務所棟
80,000
24,200 鹿島建設、旭化成、日鉄鉱業
港区虎ノ門
(仮)三田都ホテル跡地再開発計画
95,700
28,949 住友不動産
港区三田
(仮)大崎駅東口第3地区再開発計画・業務棟(1街区)
79,000
23,898 大崎駅東口第3地区再開発準備組合
品川区東五反田
(仮)太平四丁目錦糸町再開発計画・業務棟
72,956
22,069 東京建物
墨田区太平
(仮)有楽町駅前地区再開発計画・1街区
75,000
22,688 有楽町駅前地区再開発組合
千代田区有楽町
(仮)新丸ノ内ビル建替計画
65,500
19,814 三菱地所
千代田区丸の内
2007年
22,778 富士見2丁目地区再開発組合
千代田区富士見
(仮)赤坂九丁目地区再開発計画・A棟
234,000
70,785
三井不動産、全国共済農協組合、安田生命 他
港区赤坂
(仮)赤坂九丁目地区再開発計画・B棟
80,000
24,200
三井不動産、全国共済農協組合、安田生命 他
港区赤坂
(仮)赤坂九丁目地区再開発計画・E棟
40,000
12,100
三井不動産、全国共済農協組合、安田生命 他
港区赤坂
(仮)TBS赤坂Ⅱ期再開発計画・業務棟
177,000
(仮)富士見二丁目地区再開発計画・業務棟
75,300
53,543 TBS
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港区赤坂
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