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農業ビジネスを取り巻く環境と企業の参入実態

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農業ビジネスを取り巻く環境と企業の参入実態
農業
農業ビジネスを取り巻く環境と企業の参入実態
ふじ い
農林水産業ビジネス推進室 公認会計士 藤井
よしひろ
み うら ゆうすけ
義大、三浦 勇介
共に、農業ビジネスの動向を明らかにする。なお、
近年、世界レベルでの人口増加、生活水準の向上
本文中の意見に関わる部分は私見である。
等により、食や農林水産業を取り巻く環境が劇的に
変化している。民間企業もこれをビジネスチャンス
■ 日本の農業を取り巻く環境
と捉え、農林水産業ビジネス参入に向けた動きを加
速している。また、農林水産業者による異業種への
農林水産省によると、農業・食料関連産業の国内
新規参入、異業種との連携といった「 6次産業化」
生産額は2010年時点で約94兆円あるが、市場推
が拡大するなど、業種を超えたビジネスの拡大が見
移を見ると農業生産をはじめ、関連産業の市場規模
られる。
は年々縮小傾向にある。
(図1参照)
本稿では、日本農業を取り巻く環境を整理すると
図1 農業・食料関連産業の国内生産額
(兆円)
140
120
100
80
60
40
20
0
1995
農林漁業
2000
関連製造業
2005
関連投資
関連流通業
2010
飲食店
出典:農林水産省「平成22年度農業・食料関連産業の経済計算」
生産現場では農業従事者の高齢化が進んでいる。
「 2010年世界農林業センサス」によると、65歳
対する直接支払交付金支給額の削減をはじめ、本格
的改革が検討されている。
以上の農業従事者割合は、2005年時点で58%で
あったが、2010年時点では62%となっている。
また、日本は2013年7月からTPP(環太平洋経済
■ 企業の農業ビジネス参入動向
国内外を取り巻く食糧情勢、及び国の政策転換を
連携協定)交渉の場へ参加したことで、農産物の関
ビジネスチャンスととらえ、企業が農業分野に参入
税撤廃も検討され始めている。
する例が近年増加しつつある。2009年12月の農
このような厳しい環境の中、政府は成長戦略のひ
地法改正以降、参入法人数は増加を続け、2012年
とつとして、「攻めの農林水産業」を掲げ、農業・
12月時点では1,071法人が参入している。
(図2
農村全体の所得の倍増を目標とし、減反参加農家に
参照)
テクニカルセンター 会計情報 Vol. 449 / 2014. 1 © 2013. For information, contact Deloitte Touche Tohmatsu LLC 31
図2 一般法人の農業参入の動向
図3 農業ビジネス領域(当法人作成)
参入法人数の推移
(法人)
1,500
生産分野
研究
開発
1,000
500
流通分野
農業
生産
物流
卸売
加工
農業生産
流通・小売業
資材供給産業
外食業
販売
食品製造業
関連分野
環境・エネルギー
0
2010.3
2011.3
株式会社
2012.3 2012.12
特例有限会社
NPO法人等
レジャー
教育
不動産
金融
IT(農業関連)
医療・福祉 人材サービス
知財
コンサル
出典:農林水産省「一般法人の農業参入の動向」
企業の農業参入分野として大きく3つの分野があ
自社が必要とする農産物の安定的確保を目的として
る。(図3参照)
参入する場合が多い。また、製造業は、自社固有の
① 生産分野:農産物の生産をはじめ、種苗・肥料
技術を活用して参入する場合が多い。
の供給、農薬・農機具・植物工場等の生産資材提
流通分野では、市場流通とは別の流通網を構築す
る傾向がある。
供等に関する分野
② 流通分野:農産物、農産加工物の流通、加工、
たとえば、農業生産者が独自に農産物を加工・販
売する6次化や、卸との提携による市場外取引、通
販売、外食等に関する分野
③ 関連分野:農産物の生産・流通に直接関わらな
信会社が自社の通信網と野菜の会員制宅配事業との
いものの、農業に密接に関わっている商品やサー
シナジーを目的とした参入等が見られる。関連分野
ビスを提供する業種(IT、金融、教育、レジャー、
では、BtoB向け事業とBtoC向け事業とがある。
エネルギー、人材サービス等)に関する分野
BtoBでは、生産事業にて蓄積したノウハウに基
づく農業コンサルティング、農産物の栽培状況を管
■ 参入分野別における農業ビジネスへの
取り組み
理するクラウドサービスの提供、
農業従事者の育成・
1参照)
ている。BtoCでは、遊休資産を活用した貸し農園、
参入分野によってそれぞれ異なる特徴がある。
(表
生産分野であれば、自社の強みを生かしながら生
派遣、農業融資等、新規就農者支援から農業の高度
化支援に至るまで様々な農業支援ビジネスが広がっ
園芸福祉等、農業を差別化要素とし、自社ビジネス
の利用を促している。
産分野に参入する傾向がある。
たとえば、食品製造業、流通業、サービス業は、
表1 主な農業ビジネス参入事例(当法人調査による)
分野
生産分野
流通分野
関連分野
業種
農業ビジネスに対する取組み
参入年度
自動車製造 大規模ハイテク温室でミニバラ、ポインセチアなどを生産
1999
食品製造
山東省莱陽市に進出し、農業生産を開始
2006
流通
食品ごみを堆肥にして、直営・提携農業に供給し、収穫された作物を自社で販
売
2008
商社
国内最大米卸、ならびに米国穀物卸と資本提携し、コメ流通ビジネスに参入
2008
流通
2015年までに、世界の中小農家から直接調達し、各店舗で販売する計画を発
表
2010
情報通信
会員制宅配会社を子会社化
2012
鉄道
会員制貸し農園の運営
2007
建設用機械 キャベツの栽培を開始し、生産者へのコンサルや設備提供による農業支援も実
製造
施
2010
システム
2012
GPSを活用した農業事業者向けクラウドサービス
■ 農業ビジネス参入上の課題
一方、農業ビジネスに参入しても、農業特有の課
農業ビジネス参入企業は「販路の確保」「技術・ノ
ウハウの確保」
「人材の確保」
を主な課題としている。
題に悩まされる企業は多い。当法人調査によると、 (図4参照)
32 テクニカルセンター 会計情報 Vol. 449 / 2014. 1 © 2013. For information, contact Deloitte Touche Tohmatsu LLC
図4 参入後の主な課題も「販路の確保」「技術・ノウハウの確保」「人材の確保」である
Q.農業ビジネス参入後における課題について、より当てはまるものを5つまで選択して下さい。
農業ビジネス参入後の課題(N=171)
販路の確保
農産物の生産に関する技術・ノウハウの確保
人材の確保
生産経費の最適化
投資対効果
資金調達・資金繰り
国の農業関連政策
農産物のための物流網の構築・確保
販売単価の設定
農家、自治体、農協との調整
農産物の加工に関する技術の確保
農業関連法規制
協業パートナーの選定
プロモーション計画
社内既存資源とのシナジーの有無
農業に活用できる技術・経営資源の特定
農業に関わるインフラ・ITの整備
農地の取得
原料の確保
0%
28%
27%
25%
23%
21%
19%
15%
15%
13%
13%
12%
11%
10%
9%
10%
20%
35%
30%
40%
47%
46%
42%
50%
52%
60%
出典:当法人調査
この結果から、強みや固有の技術を活用して参入
しつつ、自社固有の技術の活用・シナジーを見極め、
しても、バリューチェーン全体における供給体制が
バリューチェーン全体でとらえたビジネスモデルを
整っていなければ、事業化が難しいことが想定され
構築することが肝要である。
る。現に生産分野から撤退した企業は、販路開拓不
なお、筆者らの所属する農林水産業ビジネス推進
足や農産物ならではの生産・在庫管理の難しさ等が
室では、トーマツグループの専門家はもとより、外
撤退要因となっている。
部エキスパートとも連携して農林水産ビジネスに関
する参入から成長までの各ステージに応じた支援を
■ 終わりに
行っており、農業の生産、流通・加工、販売分野に
国内農業を取り巻く環境は厳しさを増している反
対する実績に基づく知見を活かし、会計、税務、コ
面、国が推進する農業強化策をビジネスチャンスと
ンサルティングサービスを全国で提供している。今
とらえ、農業関連ビジネスに参入した企業、又は関
回の寄稿はその活動で見えてきた農業ビジネスの動
心がある企業は増えている。しかし、現段階で農業
向の一端の紹介である。
における成功モデルを構築しているプレーヤーはご
く一部に限られている。
以 上
今後、農業で成功するためには、先行事例を収集
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