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VN8900を用いた電動航空機の研究開発
自動車をはじめとする輸送機器のエレクトロニクス化にともない実装される制御ソフトウェアが大規模化しており、
ソフ
トウェア開発の効率化は大きな課題となっています。机上でシミュレーションした制御ソフトウェアを直ぐに検証するラ
ピットプロトタイピングは、制御ソフトウェア開発を効率よく行う手法の1つとして用いられています。本稿では、世界初
となる自動車用量産電動技術による電動航空機の研究開発にベクターの「VN8900」がラピットプロトタイピング用途
で導入された内容をご紹介します。
航空機の電動化
て、同研究会 川崎 雄一氏は次のように語ります。
「自動車業界では環境性能という言葉はもはや当たり前になって
昨今、自動車業界では電気自動車
(以下、EV)やハイブリット自動
いると言えますが、航空業界、特に小型機では環境性能を向上させ
車(以下、HEV)に代表される低炭素モビリティーの開発・研究が
る取り組みはまだ始まったばかりであると考えています。環境性能
積極的に進められていますが、航空機業界では低炭素化への取り
を向上させるには様々な手段がありますが、本研究では電動化す
組みはまだ始まったばかりです。航空機の場合、重力とエネルギー
るという手段を採りました。これは航空機の場合は電動化によって
密度の制約が自動車に比べて大きいことから動力の電動化は非現
環境性能だけでなく利便性も大幅に向上するのではないかと考え
実的と考えられてきたためです。しかしながら、電動システムの高
たからです」
性能化・低コスト化が著しく進んだこともあり、特定の利用方法や
カテゴリーに特化した場合、航空機の電動化も既存技術で十分に
成立が可能であり、それらに対する期待が高まっています。
「本研究では人が実際に乗れるサイズの航空機を電動化し、飛行
させることをゴールとしています。これによって、まずは我々自身
の手によって電動航空機を製作するスキルを身に着けると共に製
世界初の研究
作したという実績をつくります。さらに航空機を電動化した際の実
際の使い勝手や問題点を明らかにし、次の完全オリジナル機の開
X社では、自己啓発活動の一環として「次世代航空研究会(以下、
同研究会)
」という研究会が活動しています。同研究会では、航空機
発へと繋げていきたいと考えています。また、若手社員の技術習得
やモチベーションアップといった意義もあると考えています」
の電動化へのニーズの高まりや機体の小型、軽量化といった市場ト
レンドを背景に、小型の電動航空機に焦点をあて「世界初となる自
本研究では、既存の超軽量動力機をベースとし、自動車用量産
動車用量産電動技術による超軽量動力機の電動無人飛行の研究
電動部品を流用した電動システムを搭載した試作機を製作し、電
と製作
(以下、本研究)
」に取り組んでいます。本研究の目的につい
動による地上および飛行試験を実施しました。飛行試験は無人に
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VN8900によるラピットプロトタイピング
よるジャンプ飛行試験とし、性能検証として以下の比較検証を行
いました。
試作機の各ユニットはCANによって通信を行っています。各ユ
・電気動力システムスペックより推定される想定飛行性能
ニットはCANコントローラに接続されており、CANコントローラはラ
・試験により得られる飛行性能
ジコン受信機からのスロットル信号と各バッテリーの情報からモー
・既存システムの飛行性能
ターの出力を決定しています。このCANコントローラにベクターの
次世代ネットワークインターフェイス「VN8900」が採用されました。
試作機にはマックスエアー社製ドリフターXP-503型がベース機
体として選定されました。ベース機のエンジンおよび燃料系統を、
「本研究で使用する各ユニットは自動車用を流用したということ
量産されている自動車用のモーター、バッテリー、インバーターと
もあり、CANで制御する必要がありました。また、量産品のソフト
。
いった電動システムの動力系統に換装しました
(図1、図2)
ウェアを変更する訳にはいかないため、同じCANバスに複数のユ
CANコントローラ
自動車用HEVインバーター
無人操縦システム
自動車用HEVモーター
モーターマウント(改修)
バッテリー
マウント(改修)
遠隔機体制御システム
遠隔ブレーキシステム
電動バイク用Li-ion電池
バッテリー
72V
メイン
72V
CAN
CAN
信号線
コントローラ
CAN
受信機
72V
12Vバッテリ
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モータ モータ
電源線
SW
バッテリー
インバータ
バッテリー
CAN
送信機
図1:ベース機から試作機への変更箇所
バッテリー
インバータ
72V
DC/DC
コンバータ
144V 12V
図2:電動システム概要
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ニットを接続することができず、機体全体を制御するECUには4つ
VN8900はスタンドアローン動作が可能でリアルタイム実行PC
のCANポートを備えている事が求められました。また、ラジコン受
として利用することができます。ベクターの車載ネットワーク開発
信機からの信号入力やリレーの制御出力も必要なため、アナログ、
ツール「CANoe」のコンフィギュレーションファイルをVN8900に
(川崎氏)
デジタルのI/Oも少数ながら求められます」
ダウンロードしておくことで、ユーザーPCへ接続せずにシミュレー
ション実行が可能なため、簡易ゲートウェイECUの構築やラピッドプ
「さらに自己啓発活動は就業時間外での活動となるため、開発に
かけられる時間が限られており、
ラピットプロトタイピングを活用し
ロトタイピング用途としての利用が可能です。
た開発期間の短縮が求められました。ラピットプロトタイピングを
「本研究の様な複数のCANバスを持つシステムでは、ECUに
実現するソリューションは各社提供されていますが、
どれも我々に
ゲートウェイとしての機能が必要になります。VN8900はCANoe
とっては非常に高機能かつ高価格であり、ハードウェアだけを購入
のコンフィギュレーションが利用できるため、複数のCANバスを接
するとしても、
とても手が出せるものではありません。VN8900は
続し、ゲートウェイとしても動作するECUをラピッドプロトタイピン
ラピットプロトタイピングを実現しつつ、必要十分な数のI/OとCAN
グで構築する場合でも扱いが非常に簡単でした。また、CANoeや
ポートを小型の筐体に備えており、本研究の要求を極めて高いコ
CANalyzerのインターフェイスとしても使用できるため、実機のシ
ストパフォーマンスで満たす製品でした。また、CANoeを使用した
ステムに接続した状態で制御モデルを実行しつつCANoeでCANバ
テスト環境は業務でも利用しており、扱いに慣れていたというのも
ス上の値の確認行っていました。これによりモデルの動作確認に要
(川崎氏)
VN8900を採用した大きな理由でした」
する時間を短縮する事ができました」
(川崎氏)
VN8900には、MATLAB Simulink™にて構築した制御モデルが実
高リアルタイム性能を実現したマルチバスインターフェイス
装されラピットプロトタイピングが実現されています。そして、
メイン
各ユニットが起動し、CANコントロー
スイッチをONにすることにより、
ラと通信を開始します。CANコントローラは各ユニットからの情報
と受信機からの信号を判断し、
バッテリーの接続、
インバーターへの
電源投入を行い、
インバーターにトルク指令を送信します。インバー
VN8900は、耐久性に優れたコンパクトな筐体に、基本ユニット
「VN8910A」とプラグインモジュール「VN8950(CAN、LIN、J1708
対応)
」と
「VN8970(FlexRay、CAN、LIN、J1708対応)
」のいずれ
。
かを組み入れるモジュール式の構成となっています
(図:3、4)
ターはトルク指令どおりの出力となるようにモーターを制御します。
図3:
手前:VN8910AシングルモジュールシステムとFlexRay/
CAN/LINJ1708対応のプラグインモジュールVN8970およ
びトランシーバーを搭載したpiggy
左(立てた状態)
:CAN/LIN/J1708対応のプラグインモ
ジュールVN8950
奥:接続部分とスタンドアローンモード用のキーパッドが付
いたVN8910Aシングルモジュールシステムの背面
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図4:VN8900システムの概要
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最大でCAN/LIN8チャンネルまで対応が可能で、I/Oインター
フェイスも統合しているため、ECUに対するさまざまなアクセスを
実現します。
リアルタイム性能や遅延時間に対する要求が高い、マ
ルチバスやI/Oへの同時アクセスに最適です。
さらに、
プラグ&プレイにも対応しており、USB2.0経由で容易に
■ 本件に関するお問い合わせ先
ベクター・ジャパン株式会社 営業部
(東京) TEL:03-5769-6980 FAX:03-5769-6975
(名古屋)TEL:052-238-5020 FAX:052-238-5077
E-Mail:[email protected]
設定できます。USBインターフェイスを使用する場合、USBイン
ターフェイスの遅延により、システムによってリアルタイム挙動に
影響が出る恐れがありますが、VN8900はリアルタイムデータを
USB経由で転送しないためUSBによる遅延を解消することができ、
「USB遅延のないUSBインターフェイス」として利用することがで
きます。
今後の展望
本研究では、電動航空機の実用化にむけた実験的研究として、自
動車用量産電動部品を流用し、電動航空機用の電動システムの構
築が行われました。また、超軽量動力機をベースとし、電気動力シ
ステムを搭載した試作機の制作も行われました。
次の段階としては、機体を新規設計し、本電動システムを搭載し
た完全独自の試作機の制作が予定されています。
「自動車の部品を流用して航空機を電動化しようという試みは
世界的に見てもまた始まったばかりだと考えています。量産品を流
用する事でエンジン機では考えられない程、安く早くシステムを構
築することができ、今後の開発に対する自信を深める事もできまし
た。もちろん、VN8900が果たした役割は大きく、今後の研究におい
ても重要な存在になると考えています。VN8900のポテンシャルは
高く、現状の制御モデルでは生かし切れていないと考えています。
将来的には機体の姿勢制御なども制御モデルの中に取り込み、自
動操縦などにもチャレンジしていきたいと考えています」
(川崎氏)
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