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第8章 フィリピンにおける政策対応と金融システムにおける課題 柏原 千英

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第8章 フィリピンにおける政策対応と金融システムにおける課題 柏原 千英
国宗浩三編『世界的景気後退と開発途上国の政策対応』調査研究報告書
アジア経済研究所
2011 年
第8章
フィリピンにおける政策対応と金融システムにおける課題
柏原 千英
要約:
フィリピンは、アジア経済危機や世界同時不況に対して積極的な金融・経済政策を採用
し、実行できたとは言えないが、その原因には、政治的混乱や赤字基調の財政状況が大き
く関与していた。
1980 年代半ばの民主化以降、IMF・世銀による構造調整融資の下で自由化政策が採用さ
れ、1990 年代末のアジア危機対策としても、金融・産業分野では外資や海外直接投資(FDI)
の導入による市場・産業振興が企図された。しかし、金融分野では、国内外のインセンテ
ィブを喚起するには近隣諸国より相対的に高い投資コストや、海外金融機関の進出・事業
拡大への実質的障壁が、直接・間接金融市場の拡大を制限してきた。他方、産業面では、
政府が経済発展を持続可能にし、国内労働機会を増加させるような産業構造を策定する経
済ビジョンを打ち出せず、
国内消費と 1990 年代中盤に投下された外資系企業主導の半導体
関連産業による ASEAN 域内輸出に依存する経済構造を形成するという結果となった。
2009 年に世界的景気後退(と災害)への対策資金調達のため債務残高が再び増加した同
国では、2010 年 7 月にベニグノ・アキノ政権が発足した。
「経済回復プラン」等、前アロ
ヨ政権期の施策に対する評価は実施されておらず、経済・産業に関する具体的政策はまだ
不明だが、現時点では、①国内外民間資本を導入したインフラ整備(PPP の活用)と、②
金融市場の強化と資本動員、が明確になっている。金融市場振興については、リーマン・
ショックの顕在化以降、顕著な増加を示すようになった海外就労者送金を金融市場へ誘引
し、国内市場の投資資金源として活用する意図があると考えられるが、法整備の未完や不
動産部門への資金集中の可能性など、整備すべき課題も多い。
キーワード:経済回復プラン(ERP)
、SEC Blueprint 2005-2010、中期国家開発計画(MTPDP)
、
海外労働者送金、市場性貯蓄商品
はじめに
1990 年代半ばになってから先進国(主に日米)多国籍企業の東南アジアにおける生産ネ
ットワーク内に位置づけられるようになり、海外直接投資(以下 FDI)が伸長を始めたフ
ィリピン国内では、アジア経済危機やサブプライム問題の影響は軽微だとされている。し
かし、程度の差こそあれ、アジア危機によって国内銀行部門の不良債権が経営を圧迫した
事実や、10 年以上を経過した現在でも企業金融の多様化や資本市場の拡大が進展していな
い点、リーマン・ショック以降の実体経済への影響が大きかった点では、近隣諸国の状況
と同様である。
経済規模や金融市場が小さく、政府財政が恒常的に赤字である同国では、外資を経済発
展のカギとして活用すべく、1986 年の民主化以降の各政権は、海外直接投資(FDI)と輸
出産業主導による経済再建・開発施策のもとで国内経済構造や金融部門・市場の活性化を
企図してきた。これまでの施策の結果は、輸出の要である半導体とその関連産業が経済特
区で形成する飛び地としての生産拠点と、業務別の棲み分けを行いつつ併存する外資・国
内金融機関の首都圏集中であり、産業の多様化や競争的環境のもとでの活発な金融活動の
実現とはならなかった。
このような状況のもと 2010 年に発足した新政権は、世界的景気後退の影響が残るなか
で、どのような方向性を打ち出すべきであろうか。本章の目的は、これまでの経済・金融
部門に関する施策を検討し、今後の課題を抽出することにある。本章の構成は以下のとお
りである。次節では、IMF・世銀の構造調整融資の下で開始された対外金融規制緩和、ア
ジア危機以降の改革がもたらした国内金融部門の構造を概観する。次に、同時期における
フィリピン国内経済の構造変化と、輸出振興型の経済開発政策の成果を検証する。また、
世界同時不況への対策として発表された「経済回復プラン」の内容と国内経済へのインパ
クトを評価する。第 3 節では、前アロヨ政権からの継続課題と、2010 年に発足したベニグ
ノ・アキノ政権(以下、ベニグノ政権1)が掲げると考えられる経済・金融政策における優
先的課題を、現時点で明らかになっている点を中心にまとめる。
第 1 節 民主化後の金融改革と 2 つの経済危機
1. 金融改革の変遷
マルコス独裁政権末期における政府系銀行 2 行と中央銀行(以下、旧中銀)の財務悪化
による金融危機や、1983 年の対外債務の返済停止宣言等により中断されていた IMF・世銀
融資は、1987 年に再開された。コンディショナリティとして為替・資本取引の自由化をは
じめ対外開放が実施された理由には、政府財政の再建と旧中銀の清算、新中銀の機能強化
150
とならび、金融部門の再構築が不可欠であったからだ(以下、表 1 参照)
。しかし、コラソ
ン政権期の「海外資本の国内金融部門への参入」とは、マルコス政権崩壊以前に国内営業
免許を取得していた外資系金融機関(海外支店・現地子会社)への業務規制緩和にとどま
り、新規の外資参入を促進するものではなかった2。また、業務規制緩和にも実質的な制限
が多かったため、金融部門への本格的な外資導入は、ラモス政権下の 1994 年に施行された
「外資系銀行参入規制緩和法」
(共和国法 7721 号、以下「外資参入法」
)に始まる。同法の
条文では、外資系金融機関の国内参入が、
「…経済成長を促進し、海外投資の誘致、国内企業・家計・個人への多様な金融サー
ビスの提供、グローバルな金融センターとの連携強化、国際市場におけるフィリピ
ンの競争力強化、および工業化の進展に必要な資金循環や投資チャネルとしてのダ
イナミックな銀行・金融システム」
(第1節、趣旨)3
をもたらすと期待され、新中銀(Bangko Sentral ng Pilipinas、以下 BSP)は同法を金融部門
における「競争政策の核」として位置付けた。施行後 10 年間の時限や、新規参入金融機関
を計 10 行とするなどの制限付きながら、外資系金融機関は、①既存銀行の株式取得(上限
60%)による子会社設立、②新設銀行の株式取得(国内資本との新規合弁、上限①に同じ)
による子会社設立、
③フル・バンキング免許取得による支店開設のいずれかを選択肢とし、
1999 年末までに 10 行が BSP の認可を受けた。また、監督対象となる金融機関の資産内容
の監督に重点を置き、清算済み債権や利害関係者(以下 DOSRI)4、特定の個人や企業、
あるいは不動産関連への融資が全融資残高に占める割合の上限を段階的に引き下げるとと
もに報告義務を強化した。さらに、業態別の資本金払込最低額の増加などを数次にわたっ
て行い、
金融部門の財務強化と競争的環境を整備する方向性を明確に示した。
対外的には、
1992 年から海外市場での外貨建て国債発行も再開し、外為取引制限の原則的な撤廃を終了
した 1995 年には、IMF8 条国に移行している。
アジア危機直後(1998 年 7 月)に発足したエストラーダ政権下では、直接的な危機対策
としての IMF・世銀融資を受けていないが、財政上の制約から、金融部門への大規模な公
的資金供給と政府(財務省・BSP)主導の業界再編という直接的手段による金融部門改革
は不可能であった。実際に行われたのは金融部門の淘汰と再編成を意図した間接的手段で
あり、具体的には、①証券取引委員会(Securities Exchange Commission、以下 SEC)と BSP
の監督権限を明記・強化する法律の制定、②7 年間の時限的措置ながら、ユニバーサル・
商業銀行および貯蓄金融機関に限り、外資による国内金融機関の買収(100%所有)を認め
る、③BIS 基準など国際的な健全性指標の適用と国際会計基準(以下 IAS)の段階的な導
入、である。①および②については、2000 年に証券規制法(共和国法 8799 号)や新一般
銀行法(同 8791 号)が施行され、銀行・証券部門における監督機関の外形を整備するとと
もに5、1994 年に施行された「外資参入法」に定められた各外資系銀行の保有支店数制限
(6 店舗)を一時的に撤廃した結果、貯蓄銀行および中・小規模商業銀行を主な対象とし
151
て 8 行が適用期間中に買収された。しかし、③の適用によって各基準を単独で満たせない
国内金融機関に統合を促し、オーバー・バンキング状況の改善を図ろうとした当時の BSP
総裁による口頭指導のみでは、海外資本をも利用した国内大手金融機関の大幅な再編を実
現させるまでには至らなかった。他方、主要行の傾向とは対照的に、地方銀行と貯蓄銀行
レベルでは、アジア危機以前から BSP 認可行数の減少が続いた。これら金融機関に対して
BSP 金融政策理事会(Monetary Board)が発行する閉鎖命令に従い、預金保険機構(Philippine
Deposit Insurance Corporation、以下 PDIC)の資産管理を経て清算された案件が 9 割以上を
占める。マルコス政権末期における金融危機の教訓として、ラモス政権期から BSP が段階
的に採用してきた資本増強や貸出先制限、PDIC への預託金増額、IAS 適用などのさまざま
な経営健全化を促す規制や手段によって、これら要求に対処できなくなった中小規模の金
融機関が、漸進的に市場から退出したと考えられる6。
一方、近隣諸国では概ね 3 年で一段落した不良債権処理に約 10 年を要したことは、ア
ジア危機への対応におけるフィリピンの特徴である。法整備に約 4 年を要したため、2002
年に成立した特別目的会社(SPV)法(共和国法 9182 号)によって初めて、不良債権の売
却、財務諸表からの切り離しと買取り SPV による債権の証券化が可能になった。早急な不
良債権処理を促進する目的のもと、SPV の設立・登記から債権・担保取得と取引諸税の減
免措置申請まで約 1 年の期限が設定されていたが7、
2006 年に法改正が行われ
(同 9343 号)
、
新たな SPV 設置に 1 年半、取引諸税の減免措置は 2−5 年間延長された。改正 SPV 法の施
行によって 6 社が新設され(2002 年法施行時との合計で 37 社)
、この間、2004 年には資産
担保証券(ABS)など買取り資産の証券化を可能にする証券化法も制定されたが、現時点では
買取り債権の証券化および販売事例には至っていない。
同法による資産サイド改善の結果、2007 年末には各種金融機関の不良債権比率は 10%
以下まで低減した。大手ユニバーサル・商業銀行が同時にリスク低減・回避を重要視する
保守的な運用姿勢を強めた結果、配当からの減収が見られることを除くと、サブプライム
問題による国内金融機関への直接的影響が非常に小さいことは、アジア危機との相違点で
ある。2008 年末時点での金融機関からの報告では、国内金融機関資産に占める仕組み商品
への投資は約 1%、サブプライム関連投資は同 0.1%未満だとされ8、BSP も、2007 年には
業態別に緩和していたデリバティブ・仕組み商品の売買に関するライセンス取得制の再導
入(2009 年)と、同取引に関する銀行・ノンバンクに対する監督マニュアルの強化以外に
は、金融部門への対策を実施していない。しかし、実体経済への影響は大きく、2009 年 3
月に政府が発表した「経済回復プラン」
(後述)には、中央政府・国営企業等によるインフ
ラ・住宅投資を不動産融資規制および DOSRI 融資規制から除外するなど、同プランを側
面支援するための資金誘導を主な施策とする金融関連政策も盛り込まれた。
2. 直接・間接金融市場の傾向
152
途上国で経済発展に伴い製造業の比重が高まると、銀行資産における同産業への貸出比
率が上昇するとともに、対 GDP 比率も増加する傾向が一般的に観察できる。しかしフィ
リピンでは、国内信用市場にこのような状況は実現していない。国内信用残高は 1985 年以
降一貫して増加してはいるが、同対 GDP 比は継続的に減少傾向にあり、2008 年末時点で
は 50%弱にまで低下している。また、1990 年代後半以降、銀行部門の資産構成と資金配分
にはアジア危機を契機として変化が見られるようになり、
その傾向はさらに強まっている。
総与信残高は 1999 年から 2007 年の間に約 70%増加しているが、産業部門向け与信残高レ
ベルはほとんど変化しておらず、とくに製造業への融資は 2003 年頃から漸減、過去数年の
傾向では明らかに減少している(図 1)
。また、同図より、新たに顕著となった 2 つの傾向
を指摘できる。第 1 に、2005−2006 年頃からインターバンク融資、国債保有あるいは BSP
と民間金融機関間の特別預金勘定(special deposit account)等の合計から成る「金融仲介」
9
の増加、そして第 2 に、消費者信用・オートローン・住宅融資などから成る「非自営業家
計」融資残高の増加である。2000 年頃からユニバーサル・商業銀行の財務省証券保有率が
急増し、
現在これら行数40 弱の金融機関により、
発行残高の30−40%が保有されている10。
融資残高は銀行部門全資産のうち 40%強を占め、融資以外の資産では、国債や社債・証券
保有が 80−90%を占める金融資産が全資産の 20%強、現金や銀行間勘定等が約 15%、証
券投資は約 2%である11。リスク低減・回避を重要視する保守的な運用姿勢を強める一方で、
国内金融機関の資金仲介対象は、耐久消費財を含む家計の消費活動や、OFW 送金を原資の
一部とする車両や不動産購入・投資が占める割合が高まっていると考えられる。
債券市場は発行・流通市場ともに国債(財務省証券:Treasury bill (T-bill)、T-bond)取引
が大部を占める。1970 年代からほぼ恒常的な財政赤字を抱え、1980 年代前半には新規対外
借入が不可能な時期を経験しているフィリピンでは、国債発行は政府の重要な資金調達手
段であり、発行市場では残高の 95%を国債が占める。流通市場は低調で、アジア開発銀行
が四半期毎に発行する「アジア債券モニター」
(Asian Bond Monitor)では売買回転率を 1.3
−1.4 程度と発表しているが、近隣諸国と比較しても非常に低調な数値は、一部を除き、債
券購入者の強い保有志向を表している。
一方、株式市場も 1996−1997 年を除き、取引規模は概して大きくない(図 2)
。2006−
2007 年の一時的な市況回復は、電力産業の民営化に関連した大型 IPO 案件が大きく寄与し
ており(計 9 件の実績総額は約 270 億ペソ、うち約 100 億ペソの発行が 2 件)
、PSE 年報お
よび市況報告書(Fact Book)によると、IPO 発行実績は年平均 2−4 件である。市場規模が
小さい要因は、国内資本の大手企業、とくにビジネス・グループ(財閥)に属する未上場
企業が多数あること、PSE 総合株価指数(PSEi)12に組み込まれている銘柄のなかにも、
公開割合が数%−10%台の企業があること、また、フィリピン市場が海外資金の運用対象
となるには恒常的な財政赤字や政治不安がソブリン格付の低迷を招き、市況の活発化に対
153
するマイナス要因となっていたからである。SEC は資本金額を区分として望ましい株式公
開割合を設定し、
企業に上場や株式公開を促してきたが、
芳しい効果は上げられていない。
主要な売買プレーヤーが 2006 年まで外資系証券会社やユニバーサル銀行であった資本
市場は海外投資家の影響を強く受け、
サブプライム問題が顕在化した直後の 2007 年から既
に変化が表れている
(図 3)
。
社債市場はアジア危機後も低迷しているため、
発行市場の 95%
を占める国債の売買が中心であった海外ポートフォリオ投資は、同年末時点で大きく様変
わりした。
景気回復や 2004 年頃から本格化した前述の電力産業民営化への外資参加などを
背景に増加傾向にあった投資資金の流入額は減少に転じ、債券投資額が大幅に減少した。
特に顕著なのが同年末時点おける米国資本の債券・株式投資の引き揚げであり、株式では
約 45 億ドル、債券は 21 億ドルの流出超となった。ただし、PSEi は 2009 年第 4 四半期か
ら回復傾向を示しており、国内プレーヤーが外資系機関による資金引き揚げに代わる売買
を行っていると考えられる。
3. 国内金融システムにおける 競争環境
1990 年代からの金融部門への諸施策によってもたらされた構造変化とは、現地資本と外
資系との間に、限定的な競争環境と優先的収益分野による役割分担である。開発途上国が
国内金融機関よりも資金力や経営ノウハウに優れた外資系金融機関に市場参入を認める目
的は、前掲の 1994 年「外資参入法」趣旨説明にもあるように、国内企業や国民に提供され
る金融サービスの高度化・多様化や、国内資金循環あるいは国際市場へのアクセスの円滑
化によって、経済発展を促進することにある。しかし、国内の直接・間接金融市場の状況
と外資参入を定めた法制の内容では、競争的環境は限定的にしか実現し得ず、外資導入の
本来目的は十分に達成されなかった(もしくは限定的であった)と考えられる13。監督機
関が外資導入策によって期待した金融改革への効果がなかった要因は、以下の 3 つの観点
から整理できよう。
第 1 に、
「外資参入法」の規定では、
「競争的環境」が実現するにはインセンティブが不
足していたと考えられる。同法は第 13 節において「銀行部門全資産における外資シェア上
限を 30%」に設定し、外資系 1 行の保有支店上限を 6 店舗としており14、上限店舗数以上
の支店網を展開する場合には、
「改正一般銀行法」で参入可能な 7 年の間に新たに既存金融
機関(商業・貯蓄銀行)を買収するか、新子会社を設立しなければならない。一方、信用
市場規模はマニラ首都圏以外で急速に拡大する見込が非常に薄い。外資系金融機関が参入
したユニバーサル・商業銀行の地域(3−7 州を 1 つの行政区分としてまとめたもの)別信
用残高(表 2)では、マニラ首都圏が全残高の 80−90%を占め、セブ経済特区を抱える 2
位の中部ビサヤ地域の同残高は、首都圏残高の数%規模である。産業構造は経済特区によ
る飛び地経済を形成しているが、金融(信用)市場は一極集中の状況にあり、全国あるい
154
は複数の営業地域・分野を視野に入れた事業展開は、
「外資参入法」以後の参入外資には収
益性の高い選択肢とはならなかった。首都圏を中心とした地域限定であれ、子会社設立に
より証券業務から企業金融、保険やリテールまでを展開しているのは、いずれも 1994 年以
前にフィリピン進出を果たしている欧米系投資銀行や金融グループである15。
第 2 に、実際の競合分野である国内大手企業の資金調達選好と企業構造がある。財閥が
政府や監督機関によって解体や統合された経験を持たないフィリピンでは、企業の外部資
金調達の選好順位として、①内部留保、②融資、③持株会社やグループ内ファイナンス会
社等からの転貸や私募債発行、④直接市場での調達、の傾向が強く、また、金利等の市況
や通貨・金融危機などの際には、銀行以外の資金調達としてグループ内のノンバンク機関
が補完的役割を果たしているとも言われる16。証券市場への上場企業数(2009 年末時点 248
社)や株式公開割合も小さく、財閥系企業の情報開示はなかなか進んでいないが、公開持
株会社の市場調達目論見書の資金使途はほぼ「事業資金および関連企業への転貸資金」で
あり、グループ内融資が一般的に行われている。したがって、このようなグループ内融資
の円滑さを損なう可能性があれば、経営権の縮小を伴う系列金融機関への外資の経営参加
には消極的になろう。実際、
「改正一般銀行法」施行後に外資系金融機関の子会社となった
金融機関は、BSP 承認後の株式買い増しを含めてほぼ 100%外資所有となっており、国内
資本と海外資本は提携よりも分立を選択していることがわかる17。
第 3 に、高収益取引先としてのフィリピン政府部門がある。1992 年における海外市場で
の調達再開から近年まで、先進国通貨建て国債発行はフィリピン政府の重要な資金調達手
段の一つであり、LIBOR や米国財務省証券との金利スプレッドを勘案しつつ、新興市場諸
国のなかでも積極的に行ってきた。フィリピン市場への参入が早く、証券業務に比較優位
を持つ投資銀行にとっては、企業金融やリテール事業を国内金融機関と競合しつつ展開す
るよりも、国債引受けや BSP 向けシンジケート・ローンの幹事行、先進国市場での国債発
行のアレンジャー業務、あるいは財務効率化に関する省庁とのアドバイザ入り―契約など
の方が、収益性が高い。中央政府部門は財務状況や予算が逐次公開され、企業金融ではネ
ックとなる財務・取引先情報の収集や業況把握にかかる取引コストが低い選択肢であると
もいえる。
このように、外資系金融機関は参入時期や取得した業態ライセンスにしたがい、①首都
圏を中心とする、投資銀行業務からリテールまでの複数分野への参入、②FDI 企業金融と
その関連取引中心、③投資銀行業務および証券市場参加者、あるいは海外投資家との取引
重視、などの業務展開のパターンを選択し、他方、国内資本は、①全国(主要都市)を網
羅し、銀行・証券双方の事業を展開する財閥系ユニバーサル行、②基本的な取引先や地域
が限定的なその他の業態金融機関(中小および非財閥系銀行、地銀、その他信用組合やノ
ンバンク等)に役割分担が存在していると考えられる。
第 2 節 国内経済構造と国際資本、
「経済回復プラン」
155
1. 国内経済の特徴
1985 年から現在までの第 1−第 3 次産業別 GDP 比構成を見ると、大幅な変化は見られ
ないものの、1990 年代終盤にサービス産業が全体の 5 割を超える一方で、現在までに農林
水産業が 10%ポイント強、製造業も数%ポイントほどシェアが減少している(図 4)
。国家
統計調整理事会(National Statistics Coordination Board、以下 NSCB)が発表する GDP 支出
項目別では全体の約 7 割を個人消費が占めており、国内経済は個人消費に著しく依存する
消費主導型経済であること、したがって、個人消費の伸び率如何が経済全体の成長率を左
右することがわかる。なかでも最大の支出項目は個人消費全体の 50%以上を占める食料品
や生活必需品等であり、このような消費性向が流通・小売業などのサービス業の成長を支
えていると考えられる。その他支出項目では政府支出と固定資本形成が(それぞれ 10%、
10%台後半程度)比較的大きいが18、1997 年(25%)をピークとして縮小傾向にあり、と
くに後者は、時系列で見ても域内諸国より低い水準で推移している点が特徴として挙げら
れる。
他方、フィリピン経済のもう一つの特徴として挙げられるのが、海外労働者(Overseas
Filipino Workers、以下 OFW)による送金である。1980 年代後半までは微増にとどまってい
た同送金は 1990 年代半ばから増加傾向に転じ、さらに 2004 年以降は前年比 10%超の堅調
な増加を続けており、GDP と GNP の乖離も拡大する傾向にある(図 5)19。海外就労はよ
り高所得を求める専門職や、期間契約による家内労働・建設業従事者・船舶乗組員等とし
ての就労機会を提供するとともに、GDP 比 10%以上に相当する OFW 送金は、国内近親者
世帯の消費活動や貯蓄の原資としても重要である。とくにリーマン・ショック発生直後
(2007 年)からの大幅な送金額の増加は、就業先先進国における運用機会の喪失や、一時
的避難を含むフィリピン国内への資金移動が大きく寄与していると考えられる。
2. 外資導入策と産業構造の変化、現状
現在 GDP 比約 40%に相当する輸出を品目別に見ると(図 6)
、1990 年代中盤を境に大き
く変化したことがわかる。1990 年には農林産品や石油製品などの伝統的一次産品や加工食
品、アパレルなど軽工業製品が 60%を占めていた輸出品目は、10 年未満の間に「電子・電
機部品、その他電気製品、通信機器他」がピーク時には約 80%(1999−2001 年)、主要な
最終財消費地である先進国の消費が停滞している現在でも 60%以上を占める。
急激な輸出品目の構造変化は、製品の 50%以上をフィリピンから輸出する多国籍企業の
FDI 誘致を目的に制定されたオムニバス投資法(1991 年、行政令 226 号)、経済特区・輸
出加工区の設置および管轄機関として経済特区庁(以下 PEZA)の設立とを定めた PEZA
156
法(1995 年、共和国法 7916 号)の施行によって、1990 年代半ばに東南アジア地域におけ
る生産ネットワーク形成を行っていた日米半導体企業のフィリピン進出が相次いだことに
起因する20。実績ベースで見ると(図 7)、各年毎の振幅が大きく安定的ではないが、1990
年代末以降も常に入超であるのは製造業への FDI のみであることがわかる。現在では、輸
出の 60−80%、輸入では 50%以上を電子・電機機器が占める。多国籍企業進出の経緯から
業種が多様化していないこと、また、中間材・部品の生産・輸出が対外貿易の大部を占め
ることから、ASEAN 域内貿易のシェアが他加盟国と比較しても非常に高く、輸出入双方
とも 80%を超える点が特徴として挙げられる21。フィリピンは電子・電機製品一般や PC
周辺機器、データ処理製品・部品を中心とする中間材供給国として、ASEAN 域内に位置
付けられているのである。しかし、外貨獲得の担い手である同産業が国内製造業における
シェアは、10%程度であり、決して大きくはない。国内経済が食品や生活必需品に傾斜し
た消費主導型であるため、製造業は、国内消費向けの加工含む食品産業(同シェア 60%)
と、輸出への貢献度が高い電子・電機機械製品にほぼ二分されていると言えよう。後者を
担うのが経済特区で操業する先進国多国籍企業であり、
年間 10 万人単位の新規雇用を生む
セクターとして、国内経済における重要性は依然として高い。
このような現状をみると、コラソン政権以降、フィリピンにおける基本的な経済(開発)
政策が目指した、①外資導入を梃子とする製造業の拡大と産業の多様化、および関連裾野
産業の成立とその成長、
②国内企業の成長や産業の多様化・高度化による経済発展の加速、
という成長経路が実現したとはいい難い。ただし、フィリピンへの FDI 流入が停滞した主
因は政治的状況にある。1980 年代後半における ASEAN 諸国への第 1 次投資ブームの際に
はマルコス政権崩壊後の混乱期にあり、ラモス政権下での財政および金融部門再建の成果
が表れ、日系企業を中心とする FDI 流入が大きく伸長した 1990 年代中盤を経て、2000−
2001 年には追加投資が流入したが、アジア危機後から 2004 年頃までは、エストラーダ政
権発足から大統領弾劾裁判動議成立と退陣、副大統領から昇格したアロヨ政権発足(2001
−2004 年は前大統領の任期残存期間)などの政治的不安定が、投資受入国内の経済・政治
的安定を重視する外資流入の阻害要因となった結果、継続的な FDI・ポートフォリオ投資
の流入も、外資導入による産業・経済発展の加速も実現しなかった。2007 年をピークとす
る 2005 年以降の FDI の回復には、電力産業の民営化(発電施設の売却および送電事業の
長期委託契約)が本格化するにあたり、合弁企業設立や出資のための資金調達が大きく寄
与している。同国への FDI 実績額の伸縮は、大統領選挙および中間選挙など政治サイクル
と合致している点が特徴的である。
輸出産業の多様化を目指してか、貿易産業省は 2000 年頃からサービス業への外資誘致
を志向し、特に IT 関連産業、近年では事業外部委託(Business Process Outsourcing、BPO)
での FDI 誘致による雇用創出を図っている。従来の首都郊外や米軍基地跡を転用して政
府・民間が設置した経済特区に企業を誘致するパターンから、コールセンター集積ビルな
157
ど、国内(外)企業の立地を特区指定する「都市型特区」も導入されるようになった。し
かし、これらの業種も、①設備投資、追加投資や技術的向上などが製造業と較べて継続的
に伴いにくい、②需要の伸長如何が発注元先進国(現在では米国からの投資が突出してい
る)の景気に左右されるため、一時的な雇用創出以外では半導体・PC 周辺機器を代替する
ような効果が生じていない、などの点に対する懸念は指摘されている。
3.「経済回復プラン」の概要
前節までで見たような経済構造の下では、先進国の景気が貿易収支だけでなく、国内外
での就労や直接・ポートフォリオ投資に大きな影響を及ぼす。2009 年 1 月、当時のアロヨ
政権は、①持続的成長の確保と成長目標の達成、②最大限の雇用維持と創出、③被影響部
門・層(最貧困層、帰国 OFW、輸出産業従事者)の保護、④物価の低位安定の維持、⑤世
界経済回復期への準備としての競争力向上(奨学金、職業訓練など)を目的とする、総額
3300 億ペソ(約 6300 億円)の「経済回復プラン」
(Economic Resiliency Plan、以下 ERP)
を発表した(表 3)
。2008 年末までに議会で審議済みの予算措置が多く計上されていること
もあり、
「真水」部分は総額の 1/3 程度と考えられるが、例年の予算案とその結果と比較
すると、少なくとも ERP の主な施策を担当する省へは重点的に配分されていると言えるか
もしれない(表 4)
。特に一時雇用対策としてのインフラ公共支出の前倒しは意識的に実行
され、雇用対策としても一定の成果を上げている。2009 年度第 1 四半期終了時の政府支出
総額は前年度並みであったが、投資支出は同比 59%の増加となり、同年末時点の完全失業
率(7.5%)は前年度比 0.1%増にとどまっている。
他方、OFW に生活一時金を国営金融機関に融資させる法案が議会を通過したのが 2010
年 4 月に遅れ、BSP の再割引資金がほとんど中小・地銀に活用されなかったことが報道さ
れるなど、
緊急政策としてのタイミングのずれや、
実施における地域間格差が生じたこと、
また、インフラ事業基金設立計画が企業側の非協力から 2009 年中に頓挫するなど、任期終
了直前の政権の求心力の弱さが露呈する側面もあった。さらに、同年 9−10 月の台風災害
により国家災害事態宣言が発動され、その対処に追われたためか、大統領府・NEDA をは
じめとして ERP の実効性を評価・検討した関係省庁が全くないことは、フィリピンにおけ
る政策運営の問題点を明らかにしたともいえる。
第 3 節 ベニグノ政権と金融・経済改革への見通し
158
2008 年から 2009 年にかけて成立・施行された金融関連法(表 1)には、10 年以上前に
企図され、法案提出と議会会期終了、新会期開始に伴う再提出が繰り返されていたものも
あり、近年にない成果だと考えられるが、未施行や具体的な商品が現時点で存在しない場
合もある。本節では、アロヨ政権期からの「継続課題」を、金融部門と産業部門向けの二
つの観点から整理する。
金融部門については、2006 年以降に急増した OFW 送金を含む国内貯蓄を市場性貯蓄商
品などによって資本市場投資へ誘導し、開発資金を動員する明確な目的を持つものが挙げ
られる。背景には、貯蓄率引き上げが長年の課題であること、証券市場の主要プレーヤー
が従来外資系金融機関であったために、一度海外ポートフォリオ投資が停滞する(あるい
は流出超になる)と、市場の拡大が見込めないことがある。具体的には、①個人向け投資・
退職金運用口座法(以下 PERA 法、同 9505 号、2008 年 11 月施行)
、②不動産投資信託法
(2009 年 REIT 法、同 9648 号、2009 年 12 月成立)であるが、いずれも財務省と内国歳入
庁が作成する税制に関する施行細則が未施行のままである22。さらに、PERA 口座販売およ
び運用面で立法を補完する、市場取引コストの削減が必要になろう。2009 年 6 月に施行さ
れた内国歳入法(同 9648 号)の改正では、取引所での株式売買取引 200 ペソ毎に 0.75 ペ
ソを賦課していた印紙税が課税対象から恒久的に除外されたが、国内市場の債券投資に対
する源泉徴収課税は、域内諸国と比較しても高率かつ売買額に課されるため、課税対象が
広い。
また、金融市場への資金供給を喚起する手段として、市場で株式・債券を発行する企業
資金調達の活発化を伴わねばならない。PERA 口座を含む運用資金がリスク分散と配当を
維持するには、民間発行体による多様性に富んだ運用商品がある市場を必要し、他の運用
選択肢が少ない状況では、PERA 法が企図する「国内貯蓄を資本市場投資へ誘導し、開発
資金を動員する」ための原資が、リスク回避を目的として国債購入・保持の形で公的部門
に吸収される可能性もある。政府財政は恒常的に人件費と管理費の合計が予算総額の約
85%を占める硬直的な構造になっており、政府部門が民間への投資をクラウド・アウトす
る結果になり得る。
したがって、①直接市場(PSE 等取引所)振興策と、②新たな産業政策の策定が課題と
なろう。①では、財閥系企業や金融機関の株式公開割合・上場数を高めるとともに、先に
挙げた市場取引コストのみでなく発行コストの削減も実現し、事業規模が市場参加への障
壁となる要因を削減していく必要がある。2009 年には中小企業振興法(共和国法 6977 号)
も改正され、前政権における国家中期開発計画(Medium-Term Philippine Development Plan、
以下 MEPDP)の産業政策の要とされた零細・中小企業振興策の明記と、貿易産業省およ
び銀行協会共同による融資など公的支援の拡大や、小規模事業向け金融会社設立に関する
規定が盛り込まれた。また、SEC には関連法の整備や市場システムの向上を主な目標とし
159
て掲げた中期行動計画(SEC Blueprint 2005-2010)があるが、数多くの未達項目があるよう
だ(表 5)
。SEC 自身による同計画の評価は現時点で公表されていないが、その分析や結果
をもとに、PSE の二部上場や 2006 年の発足以降低迷している中小企業ボード振興、さらに
ASEAN+3 債券市場イニシアチブの方針を含む、市場育成のための次期行動計画を策定す
るのも有用な手段の一つとなる。
一方、産業部門については、①資本形成や投資を促進する産業構成への移行と、②FDI
の継続的流入を維持するため、域内における比較優位を確立するような施策をまとめるこ
とが必要である。既に述べたように、輸出産業の中では依然として重要な位置を占めるも
のの、第 1 次 ASEAN 直接投資ブームの主要受入国とはなれなかった同国の FDI 誘致を取
りまく環境は明るいとは言えない。医療レセプトや顧客対応サービス等の BPO 型サービス
輸出も最終消費地は先進国であり、その継続性や雇用規模に関して、大きな資本投下を伴
う製造業と比肩あるいは代替する産業部門として成長するか否かを判断するには時期尚早
であるが、他方で電子・電機産業などの先進国企業のアジア域内生産ネットワークの再統
合や拠点見直しは進んでおり、
「フィリピンでの立地」を確保する手段が必要である。
このように積み残された課題は少なくないが、2010 年 6 月に発足したベニグノ政権の経
済・金融諸施策の重点は、未だ明らかになっていない。フィリピンでは通常、新政権発足
後 2 か月以内に大統領と立法行政開発諮問委員会(Legislative Executive Development
Advisory Committee、以下 LEDAC)が施政方針実施の要となる優先審議法案の選定を開始
し23、約 6 か月で国家経済開発庁(National Economic Development Authority、以下 NEDA)
が 6 年間の大統領任期中に実行すべき MTPDP を策定、大統領の承認を経て公表される。
現時点では、LEDAC の初会合の予定(2011 年 2 月 28 日)と、2 月 4 日に NEDA から大統
領に提出された 5 章(マクロ経済政策、発展へのインフラ整備、金融部門の強化と資本動
員、発展への平和・安全保障の強化、環境・資源の整合と保護)から成る MTPDP 2010-2016
の構成が公表されているのみである。就任時の施政方針演説でベニグノ大統領は、汚職の
追放と官民協力によるインフラ整備を喫緊の課題として挙げていたが、特に後者と経済・
金融部門への具体的な改革方針や施策を早急に打ち出すことが必要ではないだろうか。
おわりに
本章では、フィリピンにおける産業構造の多様化と金融部門の再構築を目指して実施さ
れた資本自由化の経緯と現状を見てきた。現時点での課題とは、①国内地域別の信用市場
の状態や業態規制、あるいは公的/民間部門間の市場シェア等に関する現状と望ましい市
場のあり方や資金循環との乖離の把握、②経済発展や雇用を維持するための国内産業の多
様化や、国内外資本による投資を促進するための政策、③国際資本が市場参入あるいは操
160
業進出判断を躊躇する、あるいは格付の低下を招く原因となる政治的不安定の排除、にま
とめられよう。資本自由化や FDI 誘致の実施は、このような自国の前提を考慮した上でな
ければ各政策や法・税制度が本来意図した目的の実現を自動的に約束するものではないか
らである。
前節でも述べたように、ベニグノ政権下における産業・金融部門の重点がどこにあるの
かは、発足後 6 か月以上を経た現在でも明らかになっていない。大統領府が公表したスケ
ジュールによれば、MTPDP 2010−2016 は 2 月中旬に発表され、重要法案の指定に関する
LEDAC による審議は同月末より始まる予定である。また、SEC による Blueprint 2005-2010
の評価報告書の公表と、後継となる計画の存否も待たれる。今後は、これら方針の検討と、
2009 年以降の関連データをもとに、ERP の中でもインフラ投資資金を含む金融に関する施
策の効果の分析から始め、現政権の経済・金融政策の妥当性を評価したい。
161
〔注〕
1
民主化直後の大統領となったコラソン・アキノ氏と、現職ベニグノ・アキノ氏は親子である。
本章では、以降の重複を避けるため、ファーストネームを使用する。
2
コラソン政権期における経済・金融改革の概要と評価については、柏原[2009]、美甘[2007]、
奥田[1998]、Hatchcroft[1998]も参照のこと。なお、旧中銀は、ラモス政権期に入った 1993
年制定の新中央銀行法(旧中銀法と一般銀行法(共和国法 337 号、1948 年施行)を一部改正)
によって清算され、別組織として BSP が設立された。1980 年代央における金融危機からの教
訓として、同法では中銀である BSP の政府行政機関からの独立性を初めて明記し、政策金融へ
の関与を厳格に制限している。
3
外資系銀行参入規制緩和法の正式名称は An Act Liberalizing the Entry and Scope of Operations of
Foreign Banks in the Philippines、通称 Foreign Bank Liberalization Act。本文該当部分は Section 1。
4
金融機関の役職員(取締役会メンバーや上級管理職)、株主、関連および出資企業などを指
す。Director, Officer, Stockholder, Related Interests をまとめて DOSRI と略称している。
5
新一般銀行法(共和国法 8791 号)の正式名称は、An Act Providing for the Regulation of the
Organization and Operation of Banks, Quasi-Banks, Trust Entities and for Other Purposes。証券規制法
が成立するまで、SEC に関する規定は行政令によって規定されていた。同法は、証券部門にお
ける SEC の監督権限を明記するとともに、認可や届出に関する手数料収入の一定割合を SEC
の収益として内部留保を可能にするなど、部分的な予算上の配慮もなされている。また、1990
年代後半に 50%超に緩和された外資による証券ブローカー事業社(brokerage house/firm)所有
を、100%まで引き上げている。なお、特筆すべき改革が行われていないため本章では論じな
いが、保険部門は現在でも行政令である保険業規定(Insurance Code of the Philippines、1974 年
施行)が業態規定となっている。
6
BSP 発足と同時にその最高意思決定機関として設置された MB は、委員長である BSP 総裁を
含む全委員 7 名で構成される。うち 5 名は業界団体等(銀行協会、証券取引所、金融機関経営
者協会、投資会社協会)から任用され、さらに金融監督機関として BSP と SEC、財務省が参加
する。MB は各金融機関の届出や報告書にもとづいて特定の金融機関に対し、閉鎖命令を発行
できる。このような金融機関は PDIC の管理下に置かれ、預金者保護および資産管理を経て再
生あるいは清算手続きに入る。PDIC 年報およびウェブサイトで集計できる管理案件をトレー
スした結果、閉鎖命令発行比率は地方銀行と貯蓄銀行数で 8:2、各行の本店を除く平均保有支
店数は 2 店舗弱である。
7
通称 SPV Act of 2002。現在までに、政府系住宅ローン会社による証券発行 2 例はあるが、同
法が認めるスキームを利用した SPV による事例ではない。
8
銀行部門全体での影響は軽微だが、国内大手 2 行が資産償却用準備金を 30−60 億ペソ積み増
したとされる。
9
「金融仲介」に分類される銀行資産の種類は、BSP の定義を利用している。特別預金勘定(以
下 SDA)は BSP の公開市場操作手段の一つとして 1998 年に創設されたが、2006 年までは、ほ
ぼ利用実績がなかった。通常の銀行間取引勘定とは別建てで、マネーおよびインターバンク市
場よりも金利が高い。2007 年 4 月、BSP が SDA への預金を政府部門への最低預託金の代替手
段として認めたため、預入残高が急増したと考えられる(2008 年 2 月のピーク時には、SDA
残高は 5800 億ペソを超えた)。BSP は過剰 SDA 残高を融資事業に誘導するため、①6 か月以
下の SDA 短期金利の廃止、②その他期間金利の低減を 2008 年 4 月から実施している。銀行部
門の資産配分・運用における選好については、Yap[2008]も参照されたい。
10
2006 年末の保有割合の急増(59%)は、電力産業の民営化に伴う財務省への落札代金納入に
よって政府財政が好転し、同年中の財務省証券発行残高が前年比微減となった結果、金融機関
保有率が相対的に高まったからだと考えられる。また、歴年データから算出すると、証券部門
162
(顧客口座での保有は全保有残高の 10−20%程度)や政府系年金基金を含む保険部門の保有残
高を合わせると、平均 50−60%に達する。
11
BSP “Status Report on the Philippine Financial System”参照。
12
PSE 上場企業のうち、業種のバランスを取りつつ 30 銘柄で構成される。構成銘柄の見直し
は年 2 回行われ、平均 3 社を入れ替えている(PSE Annual Report 参照)。
13
外資系金融機関の国内参入による競争的環境や経営上の効率性の変化に関する分析につい
ては、Hapitan[2001]、Unite and Sullivan[2003]、Pasadella and Milo[2005]、奥田・竹[2006]
等も参照されたい。
14
支店開設には、基本的に BSP の事前認可(初めの 3 店舗は BSP が立地を指定、以降は各金
融機関が選択)が必要である。2008−2009 年に行った BSP でのインタビューによると、通達
や運用規定等による明文化はされていないが、営業地域でシェアの独占状態が見込まれると
BSP が判断した場合には、上限以下であっても許可されない。
15
Citibank、HSBC、Standard Chartered Bank、Bank of America の 4 行。なかでも前 3 行は消費者
金融や保険業務、貿易金融等にも進出している。
16
2009 年に SEC で行ったインタビューによる。なお、フィリピンの会社法では、債券発行は
株主総会の決議事項だが、私募債発行は取締役会の決議で実行できる。発行予定総額や償還期
限により区分はあるが、見込み発行額と引受け者(個人・企業)を SEC に届出ることにより、
1 年間の総枠発行期限が与えられる。
17
この点は、流通や食品産業に参入している外資系企業の行動とは対照的である。小売を含む
流通業は 2000 年以降、外資 100%での参入は可能であるが現在まで事例はなく、国内財閥系企
業との合弁あるいはライセンス契約による。
18
NSCB が 3 年毎に行う家計所得・支出調査(Family Incomes and Expenditures)による(NSCB
ウェブサイトの統計データ参照)。同調査を時系列で見ても一般家計の貯蓄率は常に 15%程度
であり、消費指向の強いことがわかる。また、政府支出は国政選挙(地方行政レベルも同時に
行う大統領選および中間選挙)に当たる年に増加する傾向があり、公共投資(インフラ建設・
整備)や公的年金基金給付金の臨時増額などが項目として挙げられる。
19
国家統計局(National Statistics Office)発表によるデータでは、GDP と GNP 間の乖離は年率
1%程度、四半期ベースでは 2%になる場合もある。なお、OFW 送金額は BSP の管轄下にある
が、税制優遇等のインセンティブを付与した OFW 送金専用口座システムの導入により、80−
90%がフォーマルな送金システムで捕捉されている(2009 年 BSP でのインタビューによる)。
20
各経済特区(eco-zone と総称される)が集計する FDI データは特区内に操業・進出する企業
の投資計画届出への認可であるため、実施年度・額は届出内容と一致しない場合がある。FDI
実績ベースは中央銀行への投資実行後の届出データ(BSP Yearbook では 1999 年より国・産業
別データ入手可)を参照する必要がある。
21
製造業全体での ASEAN 域内貿易シェアは輸出入とも 25−30%(ASEAN[2009]参照)で
あり、他の原加盟国と大差ないが、電子・電機製品における同シェアは 80%程度と突出して高
い(Philippine Statistical Yearbook 参照)。
22
これらの他に、25 万ペソから 50 万ペソへの預金保険上限の引上げも、金融機関への預金を
誘引する施策の一つに挙げられるだろう。なお、①は、公的年金制度非加入の個人(上限年額
10 万ペソ)や OFW(同 20 万ペソ)に対して、ほぼ全ての金融商品に投資可能な口座開設への
途を開くとともに、源泉徴収税(20%)の 5%を減免する税制優遇を付与するものであり、財
閥系国内大手商業銀行が 2010 年の口座取扱い開始を予定していた(2009 年 12 月 8 日付
BusinessWorld 紙)。通常、大統領署名によって法案が承認されると、関連省庁は施行細則を 3
か月以内に作成・公布しなければならない。
23
政権により法案数の大小はあるが、
過去の例では 10−20 法案が直近の議会会期で集中審議、
早期に法制化されるべきものとして列挙される。
163
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166
表 1:アキノ∼アロヨ政権期の主な金融改革
コラソン・アキノ(1986−1992 年)
金利規制
業務・業態
規制
エストラーダ
(1998−2001 年)
ラモス(1992−1998 年)
・中銀再割利率を市場準拠とし、固定利鞘方式を廃
止
・法定準備金規制緩和(24%→14%)
・店舗開設に伴う中銀債購入義務の廃止
・地方銀行法(1992 年)施行
・金融機関過疎地域への支店開設促進措置、 ・新店舗開設規制を一部農村地域で廃止、貯蓄銀新
店舗開設権に競売制導入
店舗開設への最低資本金額引下げ
・店舗外ATM 設置許可の開始
・店舗外ATM 設置許可をさらに緩和
・銀行の合併/統合促進措置(効果なし)
・新店舗開設の許可申請に関する基準設定(自己資
・協同組合法(1990 年)施行
本比率、経営健全性等)
・法定準備率を一本化
与信・資本金
規制等
・ユニバーサル・商業銀の最低払込資本金
引上げ(2 度)
・貯蓄銀行の最低払込資本金引上げ
・地銀再生プログラム(資本金増強)開始
・商業・貯蓄銀行の最低払込資本金引上げ
・不良債権認定基準の厳格化(1998 年)
・不動産融資総量規制、不動産/利害関係者融資の
対融資残高割合引下げ、報告義務強化
外為規制
・経常取引、外貨保有規制の緩和
・外為規制の原則的廃止完了
外資規制
・BOT 法(1990 年)、オムニバス投資(FDI
誘致)法(1991 年、行政令)制定
→FDI への諸税減免措置を制度化、条件付
きで製造業企業の外資70%(上限)所有可
能
・BOT 法改正、PEZA 法(1995 年)制定
・金融部門の外資参入法制定、外資系銀行の増資・
買収による国内参入許可(1994 年、10 年限定)
・証券ブローカー事業者所有率を50%超へ
その他
(点線下部は
国外との関
連)
アロヨ
(2001−2004 年、2004−2010 年)
・SDA 勘定金利引下げ(2007 年)
・証券規制法制定(2000 年、SEC
の監督権限を明記、証券取引税
率引下げ/廃止には失敗)
・新一般銀行法制定(2000 年)
・国内会計規則を段階的に IAS
準拠へ移行
・新一般銀行法による追加国内
参入・商業/貯蓄銀行買収許可
(7 年限定)
・証券ブローカー事業社の外資
100%所有可能に(2000 年)
・SPV 法(2002 年、2006 年改正)、証券化法(2004 年)施行
・デリバティブ・仕組み商品の売買に関する免許制緩和(BSP、2007
年→同再強化、2009 年)
・Pre-Need 法制定(2009 年、主監督機関:SEC→保険委員会)
・Basel II を段階的に導入(ユニバーサル・商業銀行、左記系列準銀
行免許取得金融機関には連結決算レベルでの適用)
・自己勘定の外為ポジション規制(US$50M あるいは自己資本20%
以内)
・中央政府・国営企業等によるインフラ・住宅投資を、不動産融資
規制およびDOSRI 融資規制から除外(2009 年)
・地銀経営力強化(合併促進)プログラム開始(2009 年)
・反資金洗浄法制定(2001 年、2003 年改正)→外為取引報告義務
最低額引下げ、顧客情報収集の強化
・証券保有銀行経由でPSE 上場株の国内投資家から海外投資家への
貸株を認める(担保あるいは証拠金要、2008 年)
・前政権下で破綻した政府系 2 行(PNB,
DBP)の不良債権を政府に移管、救済措置
開始
・中銀公開市場操作でT-bill 利用再開
・資本市場開発委員会(CMDC、金融監督
省庁の横断機関)発足
・新中銀法施行、現BSP 発足
・貯蓄銀行法制定
・BSP, SEC, IC が監督・検査情報共有のためのMOU 締結
・証券(Pre-Need 含む)・保険取引印紙税を一部改定(2003 年)
・確定利付証券取引所(PDEx)発足(2006 年)
・預金保険適用上限額の引上げ(P10 万@1963 年→P25 万@2004 年
→P50 万@2009 年)
・信用情報システム法成立(2008 年)
・取引所での証券取引印紙税廃止(2009 年)
・個人向投資・退職金口座法成立(2009 年成立、未施行)
・不動産投資信託法(2009 年成立、未施行)
・不動産サービス職規程委員会設立法(2009 年)
・IMF・世銀合同金融部門調査会発足
・ブレイディ・プラン対象国に
・構造調整融資再導入(1987 年)
・海外市場での国債発行再開(1992 年)
・外為規制の原則的撤廃完了による IMF8条国移
行(1995 年)
・PSE がNYSE と業務・技術提携に調印(2008 年)
(注)法制施行の状況については、2011 年1 月末時点。
(出所)奥田[1998]
、柏原[2007]
、Intal et al.[1998]
、Canlas[2000]および上下院、BusinessWorld 紙ウェブサイトより作成。
167
(注)国・地域別項目は株式・証券純投資額の合計。「その他債券投資」は、①2006 年まで全投資国の合計(国別詳細なし)、
②2007 年以降は国・地域項目に含まれない国・経済による投資純額。
(出所)BSP ウェブサイト、Annual Report より作成。
(出所)BSP ウェブサイト、Annual Report より作成。
168
表 2 ユニバーサル・商業銀行の地域別与信残高(10 億ペソ)
合計
イロコス
(I)
カガヤン
(II)
中央
ルソン
(III)
マニラ
首都圏
(IV)
南
タガログ
(IV-A)
ミマロパ
(IV-B)
ビコール
(V)
西ビサヤ
(VI)
中央
ビサヤ
(VII)
東ビサヤ
(VIII)
西ミンダ
ナオ
(IX)
北ミンダ
ナオ
(X)
南ミンダ
ナオ
(XI)
中央ミン
ダナオ
(XII)
コーディ
レラ
(XIII)
MRMM*
(XIV)
カラガ
(XV)
1996
1,203.7
10.9
7.9
24.9
991.9
27.4
--
22.7
22.4
39.8
5.0
5.8
16.9
23.9
4.1
--
--
--
1997
1,542.3
10.3
9.7
35.7
1,295.5
33.8
--
9.6
19.0
48.5
4.9
28.7
15.5
26.7
4.4
--
--
--
1998
1,520.0
8.4
7.6
33.2
1,276.4
24.4
--
7.16.0
16.1
51.0
4.1
17.0
12.2
52.2
3.3
2.4
1.6
2.9
1999
1,556.6
5.8
5.4
19.3
1,329.4
25.5
--
6.0
15.8
46.7
3.1
23.3
11.3
55.7
3.2
1.5
1.7
2.8
2000
1,751.2
5.7
5.0
14.9
1,582.6
21.9
--
5.3
22.4
40.6
3.1
4.7
13.6
23.4
2.6
1.5
1.5
2.5
2001
1,215.8
6.7
6.3
20.3
1,048.0
17.4
--
7.3
17.0
39.8
6.1
4.3
9.9
22.3
2.8
1.9
1.7
4.1
2002
1,473.2
18.8
6.1
19.1
1,287.1
21.4
--
7.9
20.1
40.1
5.0
4.5
12.2
17.0
5.7
2.9
1.3
3.3
2003
1,773.3
5.3
6.6
23.0
1,601.4
16.1
8.3
5.9
14.1
39.7
4.9
4.6
13.4
14.1
8.2
1.8
0.6
4.0
2004
1,793.2
5.1
5.4
21.1
1,636.4
14.4
7.8
5.9
13.4
39.1
3.6
4.0
14.1
11.9
6.8
1.6
0.7
2.5
2005
1,885.2
5.1
6.4
19.3
1,740.4
13.7
3.4
9.15.7
10.4
35.9
4.1
5.2
13.3
10.4
6.5
2.0
0.6
2.6
2006
1,637.2
8.6
7.0
23.9
1,437.7
22.2
2.2
9.1
17.9
44.1
4.6
10.2
13.8
26.1
5.0
1.6
1.0
2.5
(注)MRMM:ムスリム・ミンダナオ自治州。四捨五入のため、合計額と各地域の合算とは必ずしも一致しない。
(出所)BSP Annual Report[2007]より作成。
169
170
171
172
173
表 3 ERP の内容
施 策 の 内 容
雇用対策
契約打ち切り・終了による帰国者への生活保護
●社会保障・小規模自治体の
再出国に向けた職業訓練の提供
インフラ事業:1500 億ペソ
雇用労働省に新雇用先紹介のための専門部署設置
●中低所得者向け所得税減税:
公共投資の年度前半での前倒し実施→一時雇用創出(18 万人)
200 億ペソ*
国内労働者
解雇者への未払い給与補填
●法人税減税:200 億ペソ*
対象
官民で解雇回避の申し合わせによる 130 万人の雇用創出
●公的年金支給額への追加:
官民による大規模インフラ事業基金(1000 億ペソ)の設立
300 億ペソ*
OFW 対象
物価対策
〔予算措置〕
基礎品目の関税引下げ(食用小麦、セメント等@0%、2009 年初∼)
●輸出支援基金:26 億ペソ等、
米輸入(2010 年度予定分)の前倒し実施
総計 3300 億ペソ
基礎疾患常備薬の価格引き下げ指導
政策金利引き下げ(2008 年 12 月∼2009 年 7 月、計 2%、1992 年以来の低水準)
金融対策
法廷準備率引き下げ(2008 年 11 月、2%)
BSP の再割引資金増額(P20B→P40B@2008 年 11 月→P60B@2009 年 2 月)
政府系金融機関・国営企業等によるインフラ・住宅投資を DOSRI 規制から除外
財政措置
財政均衡の達成目標年度を 2010 年から 2011 年に先送り
(注)右枠内 *:ERP 発表以前に 2009 年予算法案審議時点で決定済みの措置。
(出所)NEDA ウェブサイトより作成。
表 4 ERP 前後年度の省別予算配分
配分金額(10 億ペソ)
2008
2009
増額率(%)
2010
2008-2009
2009-2010
平均増額率
1998-2008
(%)
〈経済全般・インフラ事業関連〉
公共事業道路省
102.4
120.0
126.9
17.2
5.6
10.1
農業省
25.4
39.7
39.2
55.9
▲1.3
3.6
農地改革省
13.1
16.1
20.8
23.2
29.2
11.0
8.5
12.5
12.2
47.0
▲2.4
0.2
教育省
149.3
167.9
161.4
12.5
▲3.9
6.2
保健省
20.3
27.8
28.7
32.7
3.2
6.2
4.9
10.5
15.3
114.7
45.7
10.6
1,605.
1,869.5
2,364.9
16.5
26.5
10-15*
環境天然資源省
〈社会保障関連〉
社会福祉開発省
国家予算全体
(注)* 2005−2008 年度(予算法不成立の 2006 年度除く)の増額率。
(出所)DBM および NEDA ウェブサイトより算出・作成。
174
表 5 SEC Blueprint 2005-2010 の要点と成果
目
標
① 本計画への政府・民間部
門の支持と進捗監視機関
の SEC 内設置
② 資本市場への個人貯蓄の
動員
③ 税制合理化による金融
部門へのインセンティブ
付与、個人年金口座の開設
行 動 計 画
MTPDP への明記
財務省の承認
SEC 内に進捗モニタリング部署設置
経済運営の安定と財政均衡達成*
2010 年の貯蓄 GDP 比 30% *
同上、投資 GDP 比 28% *
資本市場開発委員会(CDMC)による政策文書
作成
公的年金への自発的積増し制度化、個人年金基金
口座等に関する法律制定
PSE 取引時間の延長
上場企業の義務的株式公開率の強化
④ 証券取引所への上場と
長期資金調達の促進
⑤ 市場参加者間の公平確保
⑥ 複数監督機関にまたがる金
融機関・商品に対する監督の
合理化
⑦ SEC の監督機能強化
⑧ IAS、リスク・ベース評価の
導入と情報開示の強化
取締役会規模のモデル策定
IPO 促進のための発行・取引税減免
マージン貸し・空売り*・債券貸借取引等に
関する規定の策定
資産担保証券(ABS)関連法の制定・導入
PSE による市場監視システムの導入
新市場取引決済システムの導入
投資家/債権者保護の促進
流通市場規模の拡大
改正投資会社法、Lending Companies 規制法の制定
投資家保護機関の設置
金融関連税制改革プログラムの策定
実行年
(当初目標)
2004
2006
2006
(2008)
(2010)
DOF 報告書
2006
議会に 4 法案提出
→PERA 法制定(2009)→未施行
(2010)
(2007)
PSE によるルール作成
(指標銘柄の最低公開率 10%)
取引印紙税廃止(2009)
債券貸借規定の制定・PSE での
適用開始(2006)
REIT 法制定(2009)→未施行
システム導入・稼働
SEC による SRO ルール作成
PDEx 設立・業務開始
2006
(2006)
(2007)
(2007)
(2005-2008)
2007
(2008-2010)
2006
2005
(2007-2010)
(2008)
(2007-2008)
金融部門フォーラムの機能強化
(2006-2010)
改正証券法の制定
SEC 調査部の機能強化
SEC、最高裁、司法学士院による経済訴訟関連の
研修
SEC 規制への IAS および ISA の適用
SEC によるリスク・ベース自己資本比率の
制度化
(2008-2009)
(2007)
SEC による ASEAN ロードマップの実施
⑨ 国際基準の適用および地域
金融協力への
成 果
(部分的実施含む)
→NEDA 承認
→財務省承認
PSE ほか取引所と SEC による海外市場との
協力・提携強化
(2007-2010)
IAS の導入、公認監査役の認定
2005
SEC による規則作成
2004-2006
ASEAN 取引所間提携合意書
調印(2009)
NYSE と業務・技術提携調印(2008)
深圳・ホーチミン・韓国取引所と
情報共有合意調印(2009)
IOSCO へ署名文書提出
カリキュラムへの PSE 職員派遣
IOSCO-IFRS 多国間協定の署名
高校・大学等教育機関でのプログラム開始
主要投資商品(投資信託・株式・債券等)の格付
⑩ 投資家教育
けシステムの検討
マニラ首都圏外における投資家教育
PSE によるセミナー実施
少数投資家の権利保護規定の制定
⑪ 企業統治の強化
独立取締役、コンプライアンス部署の導入に関す
(OECD 企業統治原則II の適用) る調査
情報開示(年報記載事項)の強化
(注)行動計画欄内に* がある項目は、本計画策定以後の経済状況や市況等により、実現困難/不適と考えられるもの。
(出所)SEC、PSE および下院ウェブサイトより作成。
175
(2007)
(2006∼)
2006
2009∼
(2008)
2007∼
(2007-2008)
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