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表紙~第3章 [PDF 2.9MB

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表紙~第3章 [PDF 2.9MB
自主防災組織の手引
— コミュニティと安心・安全なまちづくり —
消 防 庁
改訂版の発行にあたって
「自主防災組織の手引」平成 23 年 3 月改訂版では、第4章の事例集を一新し、さらに多
くの活動事例を掲載しました。また、本文についても社会情勢の変化を踏まえ、記述の一部
改訂を行ったところです。
本手引の改訂にあたり助言を頂いた関西学院大学教授の室﨑益輝先生に感謝するととも
に、本手引が地域の防災活動の一層の充実のみならず、地域コミュニティの維持・向上にも
寄与することを期待いたします。
平成 23 年 3 月
消防庁
は じ め に
近年、集中豪雨等の自然災害、火災や事故等により、各地に大きな被害が発生してお
り、その態様も多様化、大規模化の傾向を示しています。また、近い将来においては、
東海地震、東南海・南海地震等の大規模地震の発生が懸念されており、安心・安全に関
する地域住民の皆さんの関心が高まってきています。
平成 7 年 1 月 17 日に発生し、戦後最大の被害をもたらした阪神・淡路大震災の経験か
ら、私たちは地域における防災活動の重要性、自主防災組織の必要性について極めて貴
重な教訓を得ました。自主防災組織の組織率も平成7年の 43.1%から平成 18 年には
66.9%まで伸びています。このように自主防災活動の広がりはみられるが、全国をみる
と活動が活発な地域がある一方、停滞気味の地域もあるなど地域による差も依然みられ
ます。
自主防災組織も防災活動だけを行うのではなく、地域のコミュニティとして地域の
様々な活動と防災活動を組み合わせること、同時に消防団や地域の様々な団体と連携す
ることが活動の活性化や継続につながっていきます。つまり、普段からの地域での活動
や連携が防災活動にとって重要な要素であるということです。
この「自主防災組織の手引」は、消防庁が昭和 48 年に初めて作成したもので、これま
でに何回かの改訂が行われています。今回は、有識者等からなる「自主防災組織の手引」
改訂委員会を組織し、地域における連携と安心安全なまちづくりをキーワードに大幅に
加筆するとともに、優れた活動事例を多く掲載させていただいたところです。
これから自主防災組織を立ち上げる地域の方々、また、これまで取り組んでいた自主
防災活動をさらに充実させたい方々にとってこの「手引」がお役に立っていただけるこ
とを期待します。
平成 19 年 3 月
「自主防災組織の手引」改訂委員会
座 長
室﨑
益輝
手引の活用について
○ 手引について
この手引は、地域の安心・安全の確保という観点を踏まえ、従来の自主防災組織の
役割(意義)や活動に加え、自主防災活動を支える人材の育成、地域の様々な団体と
の連携、災害時要援護者対策などに触れるとともに、防災をはじめとする様々な地域
活動を通じたコミュニティの醸成についても記述し、こうした活動の推進が、組織や
活動の活性化、強化につながるよう、事例等を加えて紹介しています。
○ 手引の活用
既に結成されている自主防災組織やこれから自主防災組織の結成を考えている自
治会、地域住民の方、各市町村の防災担当者等が、今後自主防災組織の活動をすすめ
ていくなかで、どこからでも読める冊子となっていますが、次のようにご活用される
ことをおすすめします。
1.これから自主防災組織の結成をお考えの方へ
これから自主防災組織の結成をお考えの自治会、地域住民の方は、まず組織の結
成に向けた取組みや結成の際に必要となる規約や防災計画の作成、自主防災組織の
活動等を中心に読むことをおすすめします。
① 自主防災組織の必要性について
○ 第1章
第2節 自主防災組織の必要性(P.5)
② 自主防災組織の結成・運営
○ 第2章
○ 資料編1
第2節 自主防災組織の整備(P.13)
組織づくりと運営のポイント(P.155)
③ 自主防災組織の活動について
○ 第2章
○ 資料編2
第3節 自主防災組織の活動(P.31)
実践に向けた活動のポイント(P.166)
2.既に自主防災組織を結成されている方へ
現在の自主防災組織の活動状況にあわせて、必要な知識の習得、情報の収集にご
活用ください。
また他の地域で行っている活動を参考にしたい場合は、防災活動事例をご覧くだ
さい。
① 自主防災活動を確認したい
○ 第2章
第3節 自主防災組織の活動(P.31)
○ 資料編2
実践に向けた活動のポイント(P.166)
② 他の団体と連携して活動を活性化したい
○ 第2章
第4節 連携による活動の活性化(P.66)
○ 第3章
地域コミュニティによる安心・安全の構築に
向けた取組み(P.87)
③ 他の地域で行っている活動を知りたい
○ 第4章
よりよい防災活動へ向けた事例集(P.97)
3.市町村の防災担当の方へ
市町村で実施する自主防災組織の育成に向けた資料としてご活用ください。
○この手引はホームページからもご覧いただけます
この「自主防災組織の手引」は消防庁のホームページからも閲覧・ダウンロードがで
きます。
ホームページアドレス:http://www.fdma.go.jp/
—
目
次
—
は じ め に
手引の活用について
第1章
第1節
安心・安全な地域づくりに向けて
地域の安心・安全が求められる背景 ············· 1
1.自然災害の多発と大規模な地震災害の切迫性 ············· 1
2.地域社会とのつながり、結びつきの希薄化 ················ 3
第2節
自主防災組織の必要性 ··················· 5
1.住民が安心・安全に暮らすための取組み ················ 5
2.地域における自主防災組織の意義と役割 ················ 6
第2章
第1節
地域防災力の向上に向けて
自主防災組織の沿革と課題 ················· 9
1.自主防災組織の沿革 ························ 9
2.自主防災組織の課題と今後の展開 ················· 11
第2節
自主防災組織の整備 ···················· 13
1.組織の結成 ··························· 13
2.組織の規模 ··························· 15
3.組織の編成 ··························· 16
4.組織の運営 ··························· 18
5.財源確保及び活動費を抑える工夫 ·················· 23
6.組織を担う人材の募集・育成 ···················· 25
第3節
自主防災組織の活動 ···················· 31
1.日常における活動 ························ 31
2.地震災害時の活動 ························ 52
3.風水害時の活動 ························· 61
第4節
連携による活動の活性化 ·················· 66
1.連携の考え方 ·························· 66
2.自主防災組織間の連携 ······················ 68
3.消防団との連携 ························· 70
4.地域の様々な団体との連携····················· 72
第3章
第1節
地域コミュニティによる 安心・安全の構築に向けた取組み
地域の安心・安全の確保に向けて ·············· 87
1.地域の力を集結させた安心・安全なまち ················ 87
2.「地域安心安全ステーション」の考え方 ················ 87
第2節
具体的な連携の進め方 ··················· 89
1.自主防災組織の設立と充実が不可欠 ················ 89
2.地域における連携・ネットワーク化 ·················· 89
3.地域の活動の場(活動拠点)づくり ·················· 91
4.モデルケースとステーションの機能 ·················· 92
5.地域安心安全ステーションモデル事業の実施と成果 ··········· 93
第4章
よりよい防災活動へ向けた事例集
防災活動事例 掲載一覧 ······················ 97
第1節
連携による自主防災組織の活性化 ·············· 99
第2節
地域に根付いた防災活動 ················· 109
第3節
人材の育成や掘り起こしによるひとづくり ········· 118
第4節
地域の特性に応じた防災活動 ··············· 124
第5節
様々なアイデア活動 ··················· 131
第6節
災害時要援護者対策 ··················· 138
第7節
被災経験を活かした活動の一層の向上 ··········· 144
資料編
資料編1
組織づくりと運営のポイント
1-1 自主防災組織の運営と活動計画 ················· 155
1-2 自主防災組織連絡協議会 ···················· 164
資料編2
実践に向けた活動のポイント
2-1 知っておきたい日常的な活動のポイント ··············· 166
2-2 自分たちのまちを知る活動 ···················· 170
資料編3
防災豆知識
3-1 わが国の自然災害の特徴と対策 ················· 176
資料編4
統計データ・法令・情報
4-1 自主防災組織の状況 ······················ 178
4-2 関連法令集 ·························· 187
4-3 防災に関する情報 ······················· 191
資料編5
改訂経過
5-1 改訂経過 ··························· 197
5-2 改訂委員会設置要綱 ······················ 198
5-3 委員会名簿 ·························· 199
コ
コラ
ラム
ム目
目次
次
コ
ラ
ム
目
次
ささえあう関係づくりが地域の防災機能を高める··············· 4
住民の防災意識を把握し、参加を促し、組織の結成へつなげるために ····· 26
安心安全なまちづくりに向けた人材(ボニター)の育成(春日井市) ······ 28
次代を支える人材の育成に向けて ~ 防災教材の活用 ~ ········· 30
日常の活動は優良な活動事例を参考に ~ 防災まちづくり大賞 ~ ····· 32
住宅用火災警報器の義務化について ·················· 35
正確な情報収集、伝達の必要性 ···················· 40
防災ゲーム クロスロードについて ···················· 44
親しみやすい日常における活動の工夫 ················· 51
住民の収集する災害情報をどのように活かすか ·············· 54
地震の後の電気による火災(通電火災)に注意 ·············· 56
雪害、火山災害における活動 ····················· 64
活動についてもっと知るために ~ 自主防災組織教育指導者用教本 ~ ·· 6565
地域の活動や行事と結びついた連携の考え方 ·············· 67
自分たちのまちの防災マップを作ろう ················· 7575
先進事例にみる災害時要援護者の避難支援対策 ············ 7878
災害ボランティアのスムーズな受け入れのために ·············· 81
地域安心安全ステーションに関するホームページ ·············· 88
第1章
安心・安全な地域づくりに向けて
第1章
第1節
安心・安全な地域づくりに向けて
地域の安心・安全が求められる背景
1.自然災害の多発と大規模な地震災害の切迫性
我が国は、その位置、島国特有の急峻な地形、地質、気象等の自然条件から、地震、
台風や梅雨前線による集中豪雨、洪水、土砂災害、大雪、火山噴火等による自然災害が
発生しやすい環境にあり、人口や構造物、建物の密集といった社会的条件が重なること
によって、ときに深刻な被害をもたらすことがある。
近年では、多くの尊い命が失われた平成 7 年の阪神・淡路大震災以降、平成 16 年には
梅雨前線や観測史上最多の台風上陸等による風水害・土砂災害が発生し、平成 17 年から
18 年にかけての冬季および平成 22 年から 23 年にかけての冬季には大雪により百名単位
の犠牲者が報告されている。さらに平成 23 年 3 月には、東北地方太平洋沖で大規模な地
震が発生し、津波による甚大な被害が生じている。
特に地震災害については、世界全体に占める日本の災害発生割合は非常に高く、世界
中でマグニチュード 6.0 以上の大規模な地震が 10 回発生した場合、そのうち2回は日本
で起きているというくらい国土面積に対して地震が発生しやすく、加えて四方を海に囲
まれているため、津波被害が発生しやすい環境にある。
図1-1
マグニチュード 6.0 以上の地震回数
日本
212(20.5%)
世界
1,036
※ 2000 年から 2009 年の合計。
日本については気象庁、世界については米国地質調査所(USGS)の
震源資料をもとに内閣府において作成。
資料:内閣府「防災白書」
- 1 -
いつ起きてもおかしくないとされる東海地震及び東南海・南海地震、首都直下地震等
の大規模地震の切迫性に加えて、風水害や火山災害、雪害といった、過去の災害教訓を
踏まえると、行政による対応のみでは被災者の救助や消火活動等に限界があるため、住
民自身・相互の活動体制をいかに整えるかが今後の課題となっている。
表1-1
近年発生した主な災害とその被害について
被害の状況
年
月 日
災
害
名
平成 7. 1.17
兵庫県南部地震
(阪神・淡路大震災)
平成 12. 3.31
死者
行方不明者
負傷者
建物等の被害
6,437
43,792
住家全半壊
一部損壊
249,180
390,506
有珠山噴火
0
-
住家全半壊
一部損壊
474
376
平成 12. 7. 8
三宅島噴火
0
-
平成 16.10.23
新潟県中越地震
68
4,805
平成 17.12~
平成 18.3
平成 18 年豪雪
152
2,145
平成 19. 7.16
新潟県中越沖地震
15
2,346
平成 20. 6.14
岩手・宮城内陸地震
23
426
平成 21. 7
中国・九州北部豪雨
35
59
平成 21. 8.10
台風第 9 号
27
23
平成 22. 6~7
梅雨期における大雨
21
21
平成 22.11~
平成 23. 3
大雪
128
1,491
平成 23.1.26
霧島山(新燃岳)噴火
0
36
平成 23.3.11
東北地方太平洋沖地震
調査中
調査中
住家全半壊
一部損壊
住家全半壊
一部損壊
住家全半壊
一部損壊
16,985
105,682
46
4,667
7,040
37,301
住家全半壊
176
住家全半壊
一部損壊
住家全半壊
一部損壊
住家全半壊
一部損壊
住家全半壊
一部損壊
151
231
1,313
33
116
208
21
558
-
調査中
※ 平成 19 年新潟県中越沖地震は平成 21 年 10 月 15 日現在の数値
※ 平成 20 年岩手・宮城内陸沖地震は平成 22 年 6 月 18 日現在の数値
※ 平成 21 年中国・九州北部豪雨は平成 22 年 3 月 25 日現在の数値
※ 平成 21 年台風第 9 号は平成 22 年 3 月 15 日現在の数値
※ 平成 22 年梅雨期における大雨は平成 22 年 9 月 9 日現在の数値
※ 平成 22 年から 23 年にかけての大雪は平成 23 年 3 月 7 日現在の数値
※ 霧島山(新燃岳)噴火は平成 23 年 3 月 8 日現在の数値
資料:消防庁
関連資料 → 防災豆知識(P.176 ~)
- 2 -
2.地域社会とのつながり、結びつきの希薄化
地域社会におけるつながり、結びつきといったコミュニティ機能は、住民同士の支え
合いや危険要因の除去、注意喚起等、災害だけでなく犯罪や福祉、教育、環境等の様々
な問題を解決する際に、その役割を果たしてきた。
しかしながら、現代社会では住民の生活様式の多様化、少子高齢化社会の進展、さら
には核家族化、単身世帯の増加にみられる世帯構成の変化等、様々な要因によって、か
つての「向こう三軒両隣」という地縁、血縁によって構成されていた親密な人間関係が崩
壊し、「隣は何をする人ぞ」といった言葉に象徴されるように、地域社会とのつながり、
近隣住民との結びつきが希薄になりつつある。
一方で、頻発する自然災害や凶悪な犯罪等の多発による地域生活への不安が高まるな
か、住民の地域・近隣とのつながり、結びつきの必要性が再認識され、地域コミュニテ
ィのなかで、自発的な取組みが進められるようになってきている。
地域コミュニティの崩壊は地域の活力だけでなく、地域の安心・安全を脅かす原因と
なることから、自主防災活動をむしろコミュニティ維持・復活の重要な切り口と位置づ
ける積極的な視点が必要となる。
こうした取組みの推進は、防災をはじめとする地域の安心・安全な暮らしのために重
要なことであり、今後各地で地域住民の創意工夫による主体的な活動がますます求めら
れる。
図1-2
希薄になりつつある地域社会の現状と求められる取組み
親密な人間関係を構成:「向こう三軒両隣」
(変化の要因)
○ 少子高齢化の進展
○ 核家族化・単身世帯の増加
○ 生活様式の多様化
等
地域とのつながり・結びつきの希薄化:
「隣は何をする人ぞ」
地域社会のつながり・結びつきの必要性を再認識し、
地域での自発的な取り組みの推進
安心・安全な暮らしを守る地域社会の形成
- 3 -
ささえあう関係づくりが地域の防災機能を高める
多くの犠牲者を出した平成 7 年 1 月の阪神・淡路大震災では、普段からの近隣
や地域社会とのつながり、
結びつきがきわめて重要であることが再認識されるこ
ととなった。阪神・淡路大震災では、瓦礫の下から救出された人のうち約8割が
家族や近所の住民らなどによって救出されたという報告がある(図1)
。また、
特定の地域では自力または家族や近所の住民によって救出された割合が90%
を超えるという調査結果もある(図2)。
図1
阪神・淡路大震災における市民による救助者数と
消防、警察、自衛隊による救助者数の対比
消防、警察、自衛隊によって
救出された人
約 8,000 人
近所の住民らによって
救出された人
約 27,000 人
出典:河田恵昭:大規模地震災害による人的被害の予測,自然災害科学 Vol.16,N.1,pp.3-14,1997
図2
生き埋めや閉じ込められた際の救助
34.9%
自力で
家族に
31.9%
28.1%
友人・隣人に
2.6%
通行人に
救助隊に
1.7%
0.9%
その他
0%
5%
10%
15%
20%
25%
30%
35%
40%
出典:(社)日本火災学会:兵庫県南部地震における火災に関する調査報告書(神戸市内、標本調査)
また、発災後の活動では、震源地に近く全半壊の建物が8割と甚大な被害を受
けたにも関わらず、普段からの見守りネットワーク活動が機能し、さらには近隣
同士の助け合い、消防団の活躍により、発災当日の午後3時すぎには全員の安否
確認が終了した旧北淡町富島地区(現淡路市)の例や、地区ぐるみでのバケツリ
レーによって火災の拡大を食い止めた神戸市長田区真野地区での活動にみられ
るように、普段から支え合う関係が、大規模災害における犠牲を最小限に食い止
めるために大きな役割を果たしている。
こうした例からも、普段から支え合う関係をつくり、地域社会とのつながりを
持つことの重要性がみてとれる。
- 4 -
第2節
自主防災組織の必要性
1.住民が安心・安全に暮らすための取組み
住民が安心・安全に暮らすための取組みとしての防災対策は、いうまでもなく災害が
発生しやすい「自然条件」に加えて、人口が密集し、土地利用が高度化し、危険物が増
加する等の「社会的条件」を併せ持つ我が国において、国土並びに住民の生命、身体及
び財産を災害から守る、行政上最も重要な施策の一つである。
しかしながら、ひとたび大規模な災害が発生したときに、被害の拡大を防ぐためには、
国や都道府県、市町村の対応(公助)だけでは限界があり、早期に実効性のある対策をと
ることが難しい場合も考えられるため、自分の身を自分の努力によって守る(自助)と
ともに、普段から顔を合わせている地域や近隣の人々が集まって、互いに協力し合いな
がら、防災活動に組織的に取り組むこと(共助)が必要である。そして「自助」「共助」
「公助」が有機的につながることにより、被害の軽減を図ることができる。
特に地域で協力し合う体制や活動(共助)は、自主防災組織が担うべき活動の中核で
ある。
図1-3
自分の身を自分の
努力によって守る
自助・共助・公助
自 助
共 助
地域や近隣の人が
互いに協力し合う
地域の防災力
災害時の
被害を抑える
公 助
- 5 -
国や都道府県等の行政、
消防機関による救助・援助等
2.地域における自主防災組織の意義と役割
自主防災組織は、「自分たちの地域は自分たちで守る」という自覚、連帯感に基づき、
自主的に結成する組織であり、災害による被害を予防し、軽減するための活動を行う組
織である。災害対策の最も基本となる法律である災害対策基本法においては、
「住民の隣
保協同の精神に基づく自発的な防災組織」
(第 5 条 第 2 項)として、市町村がその充実
に努めなければならない旨規定されている。
組織の充実にあたっては、災害の種別、地域の自然的、社会的条件、住民の意識等が、
地域によって様々であることから、活動の具体的範囲及び内容を画一化することは困難
である。よって、各市町村において地域の実情に応じた組織の結成が進められることが
必要である。自主防災組織は、地域において「共助」の中核をなす組織であるため、自
治会等の地域で生活環境を共有している住民等により、地域の主体的な活動として結
成・運営されることが望ましい。
特に災害によって地域が孤立した場合には、こうした普段から生活環境を共有してい
る住民同士が相互に協力し合う「共助」が被害の軽減のために、最も重要な行動となる。
平成 16 年の新潟県中越地震における旧山古志村(現長岡市)で、発災当日に住民の全て
の安否を確認できたことは、こうした「共助」の最たる例といえる。
なお、自主防災組織が日頃から取り組むべき活動としては、防災知識の普及、地域の
災害危険の把握、防災訓練の実施、火気使用設備器具等の点検、防災用資機材の整備等
がある。また災害時においては、情報の収集・伝達、出火防止・初期消火、住民の避難
誘導、負傷者の救出・救護、給食・給水等の活動があげられる。
そのほかにも、地域の活動団体と協力しながら、例えば家屋の耐震診断や家具の転倒
防止を進めるといった防災活動や、住宅防火対策として住宅用火災警報器の普及啓発、
環境、福祉活動を行う等、その活動は多様なものとなっている。
(解説)「隣保協同の精神」と自主防災組織
隣保協同の精神とは、「となり近所の家々や人々が役割を分担しながら、力・心を
合わせて助け合う」ことをいう。
隣保・・・となり近所の家々や人々との日常的なつながり
協同・・・役割を分担しながら、力・心を合わせて事にあたること
自主防災組織は、災害に対して地域・近隣で協力しあえる組織として、隣保協同
の精神に基づく活動が求められているのである。
- 6 -
第2章
地域防災力の向上に向けて
第2章
第1節
地域防災力の向上に向けて
自主防災組織の沿革と課題
1.自主防災組織の沿革
住民による自主的な防災組織や活動は、これまで火災や風水害等への対策として大き
な役割を果たしてきたが、常備消防による消防防災体制の整備や、河川改修等のハード
面での防災対策の充実に伴い、また前述したような社会環境の変化や住民意識の変化に
よって、地域住民相互の助け合いとしての防災の機能は低下しつつあった。
しかしながら、平成 7 年 1 月に発生した阪神・淡路大震災の被害を教訓に、
「自分たち
の地域は自分たちで守る」という観点から自主防災組織の重要性が見直され、各地で自
主防災組織の育成に積極的に取り組まれるようになってきている。
また、近年は自然災害ばかりでなく凶悪な犯罪等、地域の安心・安全な暮らしを脅か
す不安は多様化してきており、地域社会にとっての重要なテーマとなっている。こうし
た背景を踏まえ、自主防災組織やコミュニティ等の住民パワーを活かし、地域の安心・
安全を確保するため、防災・防犯等に幅広く対応する地域拠点・ネットワークの創出に
取り組むことが重要となっている。
昭和 36 年の災害対策基本法制定以降、自主防災組織の位置づけは、次のように変化し
ている。
表2-1
時
期
背
災害対策基本法制定以降の自主防災組織における変遷の経緯
景
地域防災意識の芽生え
昭和
年代
(第 Ⅰ 期 )
30
自主防災組織への動き・特徴
伊勢湾台風の被害を受けて、
災害対策基本法が昭和 36 年 11
月に成立。
○ 防災基本計画において、公的な文書の中で「自主
防災組織」という言葉が初めて使われた。
○ この時期はまだ被災者救援を効率化する行政へ
の協力組織の一つとして位置づけられていた。
- 9 -
表2-1
時
期
災害対策基本法制定以降の自主防災組織における変遷の経緯(つづき)
背
景
自主防災組織への動き・特徴
自主防災組織による地域防災力の醸成
昭和
年代後半
(第 Ⅱ 期 )
40
大都市震災対策推進要綱が
中央防災会議で策定される。
○ 消防庁防災業務計画を改定し、大都市震災対策の
一つとして自主防災組織の整備について初めて
規定。
(この時期の自主防災組織の特徴)
① 地震災害対応中心
② 都市部での災害対応を想定
③ 発災初期の減災への組織的な対応
④ 組織化の主たる基盤は町内会
等
自主防災組織の結成、環境整備の促進
昭和
年代
(第 Ⅲ 期 )
50
「東海地震説」の発表
(昭和 51 年)
。
宮城県沖地震(昭和 53 年)、
長崎水害(昭和 57 年)等の大
規模災害が発生。
○ 自主防災組織の結成が進み、資機材整備費用の助
成、訓練時の事故に対する補償制度創設等の環境
整備がなされた。
(この時期の自主防災組織の特徴)
①地震のみならず風水害等災害全般を視野
②地方においても自主防災組織が必要
③活動カバ-率の地域間格差の存在 等
阪神・淡路大震災が発生。
(平成 7 年 1 月)
地域防災力の重要性の再確認
○ 災害対策基本法の改正では、初めて「自主防災組
織」の育成が行政の責務の一つとして明記された。
平成7年以降
(第 Ⅳ 期 )
○ 自主防災組織の育成強化に向けて、リーダー養成
や指針等の策定等を今後行うべきこととして具
体的に示される。
○ 資機材整備を促進するための国庫補助制度※が創
設され、全国的に自主防災組織結成が促進される。
地域の安心・安全な暮らしを
脅かす不安の多様化。
(自然災害、犯罪等)
平成 16 年 5 月の経済財政諮問
会議において「地域安心安全
アクションプラン」が示され
る。
地域の安心・安全な暮らしへの新たな取組みへ
○ 地域において安心・安全な生活を確保していくた
め、コミュニティ活動をベースとした地域の防
災・防犯体制の強化を図ることが重要となる。
○ 自主防災組織や各種団体等と連携し、安心安全パ
トロールや初期消火、応急手当等を総合的に実施
する「地域安心安全ステーション」の展開。
参考文献:「自主防災組織」その経緯と展望(黒田洋司 平成 11 年地域安全学会論文報告集)
※
この国庫補助制度は三位一体の改革により平成 18 年度より税源移譲の対象となったため、現在は行われていない。その他
の助成制度としては、財団法人自治総合センターにおける「コミュニティ助成事業(自主防災組織育成助成事業)
」等があ
る。
- 10 -
2.自主防災組織の課題と今後の展開
地域防災力の向上に向けた住民の活動は、様々なコミュニティ活動の核にもなるべき
ものである。
そして、防災をはじめとする地域の安心・安全な暮らしへの関心や意識が、日常生活の
なかで高まることによって、自主防災活動が活性化するとともに、希薄になりつつある
地域社会での連帯意識が醸成されていくことも期待される。
平成 22 年 4 月 1 日現在、全国の自主防災組織の結成状況(各年 4 月 1 日時点)は、全
国 1,750 市区町村のうち 1,621 市区町村で設置され、その数は 14 万 2,759 組織で、自主
防災組織活動カバ-率(全国世帯数に対する自主防災組織が活動範囲としている地域の
世帯数の割合)は 74.4%(前年比 0.9 ポイント増)であり、平成 7 年以降、活動カバ-
率等は年々増加傾向にある。阪神・淡路大震災で得た教訓「自分たちの地域は自分たち
で守る」という意識の定着・実践が図られているとみられる。しかしながら地域によっ
て結成状況に大きな差もみられるため、今後も活動カバー率のさらなる向上が求められ
ている。
図2-1
自主防災組織等の推移(各年 4 月 1 日現在)
自主防災組織活動カバー率
80.0%
73.5% 74.4%
71.7%
69.9%
66.9%
70.0%
64.5%
61.3% 62.5%
自主防災組織数
160,000
140,000
120,000
47.9%
100,000
50.5% 53.3%
54.3% 56.1%
59.7%
57.9%
60.0%
50.0%
43.8%
139,316
80,000
127,824
109,016
60,000
133,344
100,594
40,000
30.0%
120,299
20.0%
104,539
96,875
70,639
20,000
40.0%
112,052
92,452
81,309
142,759
115,814
87,513
10.0%
75,759
0
0.0%
7年
8年
9年
10年 11年
12年
13年 14年 15年 16年
自主防災組織数
17年
18年 19年
自主防災組織活動カバー率
20年
21年 22年
資料:消防庁
また、消防庁による「自主防災組織の活動体制等の整備に関する調査研究報告書」
(平
成 8 年 3 月)では、自主防災組織の運営、活動において、高齢化や昼間の活動要員の不
足、活動に対する住民意識の不足、リーダーの不足のほか、会議や訓練の準備活動に使
う活動拠点の不足、活動のマンネリ化等の課題が指摘されている。
- 11 -
こうした課題は、現在においても自主防災組織の悩みであり、組織の活動環境や人的・
物的資源の不足、日常や災害時の活動上の問題等、様々な条件が重なって生じていると
みられるが、組織が比較的小規模であることもその要因の一つとして挙げられる。
したがって、自主防災組織における今後の展開としては、近隣の自主防災組織が連絡
を密にし、課題の解消や大規模災害時への対応に備えるとともに、消防団をはじめとす
る様々な地域活動団体との連携を図りながら地域のすべての力を集結した取組みを進め
ることが重要である。また住民の自主防災組織への参加意識を高めるほか、活動に参加
しやすい工夫や新たな切り口による活動の活性化等が必要であると考えられる。
そのほか平成 16 年 6 月に成立した武力攻撃事態等における国民の保護のための措置に
関する法律(国民保護法)においても、自主防災組織の「地域の安心・安全を守る」活
動として、大規模災害時の初動対応のような避難住民の誘導や被災者の救援等の局面で
の協力が期待されている。
写真
国民保護パンフレット(消防庁)
関連資料 → 自主防災組織の状況(P.178 ~)
- 12 -
第2節
自主防災組織の整備
1.組織の結成
自主防災組織を結成するためには、地域住民が強制的なものではなく、自発的に参加
することはもちろんであるが、無理せず継続的に参加できることも重要である。まずは
ひとりでも多くの住民が防災への関心を持てるよう、
「地域でともに安心・安全な暮らし
を守る意識」の啓発に努め、市町村や消防機関等と協力しながら活動への関心を持って
もらうための情報の提供を行い、参加のきっかけづくりをしていく必要がある。
また、実際に自主防災組織を結成する場合には様々な手法が考えられる。主な手法と
しては、自治会等の既にある団体をベースとする場合が一般的であるが、既存の組織と
は別に、新たな組織として結成する手法もみられる。
表2-2
手
法
既にある団体を
活用する場合
新たな組織として
結成する場合
組織の結成にあたって
説
明
・自治会等の既存の団体を、そのまま自主防災組織として兼ねる。
・既存の団体の下に、別に自主防災部門をつくり、その部門を
自主防災組織とする。
・地域住民に働きかけながら、既存の組織とは別に、新たな
組織を結成する。
自主防災活動への関心を持ってもらうための
情報の提供、自主防災組織への参加のきっかけとなる取組みが必要
- 13 -
なお、自主防災組織づくりのためには、何らかの契機が必要であり、それを如実につ
かみ、どのように育てていくかが大切である。組織化の契機をうまくつかみ、それを大
切に育てあげることのできた例を見ると、次のようなものがある。
○ 東海地震、東南海・南海地震の発生が予想され、住民の防災についての関心も高まり、
組織づくりの基盤が自然にできた。
○ 過去に風水害や地震災害を被った体験をもつ地域で、その共通体験から、住民が共
同・連帯して災害に対処するようになった。
○ ニュースなどで災害の被害を見聞きして防災意識が高まった。
○ 住民の信望を集めている自治会の役員が、防災に非常に熱心で、災害への備えに工夫
を凝らし、これが自治会活動を通じて地域の住民の間に拡がった。
○ 自治会活動で被災地の視察を行ったことをきっかけに防災意識が高まった。
○ 地理的条件等から公的機関の防災活動が望めず、防災については地域住民が行わねば
ならないと自覚した。
○ コミュニティ活動が非常に盛んな地域においてコミュニティ活動の一環として防災
対策を取り入れるようになった。
○ 小学校とPTAが共同で繰り返し防災訓練を行い、それに地域全体の住民が参加する
ようになった。
○ 保育園や幼稚園における避難訓練では、母親たちの付き添いが必要な場合が多いが、
そのような集まりの中から組織化がはじまった。
- 14 -
2.組織の規模
自主防災組織の規模としては、一般的に次のように考えられている。
○ 住民が連帯感を保ち、地域の防災活動を効果的に行える程度の規模であること。
○ 地理的状況、生活環境からみて、住民の日常生活上の範囲として一体性を有する
規模であること。
自主防災組織の規模については、
「自分たちの地域は自分たちで守る」という目的に向
かって、自主防災活動を効果的に行うことができる規模が最適であり、地域住民が日常
生活上の一体性を感じることのできるような規模が望ましいと考えられる。
参考までに平成 22 年 4 月 1 日現在の自主防災組織の規模をみると、全国平均で一組織
あたりおよそ 278 世帯であり、主に町内会単位を基準とする場合が多くみられる。
図2-2 自主防災組織の規模( 結成単位 )
その他
4.0%
小学校区単位
2.0%
一組織当りの
世帯数
278 世帯
・自主防災組織が活動範囲としている
地域の世帯数
39,720,704 世帯
・自主防災組織数
142,759 団体
(平成 22 年 4 月 1 日現在)
町内会単位
94.1%
※ グラフは自主防災組織数の割合
資料:消防庁
なお、地域によっては、大規模な地域を基礎として自主防災組織を設立し、それをい
くつかの地区に分けて地区組織を編成することが考えられる。
逆に、町内会単位の組織を連合して、例えば小学校区程度の規模で連合組織を作るこ
とも考えられる。
- 15 -
3.組織の編成
自主防災組織を結成し、活動を進めていくためには、組織を取りまとめる会長をおき、
会長のもとに副会長ほか自主防災活動に参加する構成員一人ひとりの仕事の分担を決め、
組織を編成する必要がある。
編成にあたっては、まず活動班を編成し、活動班ごとにも指揮者(班長)を定める。
班編成も組織の規模や地域の実情によって異なるため、まずは地域に必要な最低限の
班編成から徐々に編成を充実させることも必要である。
表2-3
編 成 班 名
組織の基本的な班編成(例)
日 常 の 役 割
災害時の役割
総
務
班
全体調整
他機関との連絡調整
災害時要援護者の把握
全体調整
他機関との連絡調整
被害・避難状況の全体把握
情
報
班
情報の収集・伝達
広報活動
状況把握
報告活動
消
火
班
器具点検
防火広報
初期消火活動
救出・救護班
資機材調達・整備
負傷者等の救出
救護活動
避難誘導班
避難路(所)
・標識点検
住民の避難誘導活動
給食・給水班
器具の点検
水、食糧等の配分
炊き出し等の給食・給水活動
また、例えば兵庫県加古川市の加古川グリーンシティ防災会で行われている「町内チ
ャンピオンマップ」のように、災害時に協力をお願いするといったかたちで「自分はこ
んなことができる」という特技を登録してもらい、いざというときの地域の防災活動に
協力してもらいながら、役割の充実を図ることも考えられる。
関連資料 → より詳細な班編成の例(P.163)
- 16 -
そのほかにも、次のような点にポイントをおいた編成を検討する必要が考えられる。
○ 地域内でバランスよく対応できる班編成
(人口や世帯数、昼間地域にいる人員等を考慮し、災害の発生時間帯によって班
の人員に偏りのない配置等)
○ 地域内の専門家や経験者等、班員の活動に実効性をもたせる配置
(班の活動内容について専門家や経験者(例:消防職員・団員等の防災・危機管
理業務の経験者、医師、看護師、大工、エンジニア等)の登用等)
○ 地域内の事業所における自衛消防組織や従業員の位置づけ
(地域内の事業所における自衛消防組織や従業員の配置を踏まえた編成、人員
配置や応援協定等による補完体制の検討)
○ 災害時要援護者に対する取組み
(福祉活動に従事する方や団体との連携、専任の班の編成等)
上記のように、日常の活動や災害時の活動が特定の人員等に偏らないよう、活動内容
や人員構成等を適宜見直しながら、地域の実情に応じた組織編成が必要である。
また実際の活動においては、班の人数が足りず活動が困難な場合や全員で活動しなけ
ればならない場合も考えられることから、それぞれの班の活動内容を理解しておくとと
もに、災害時に起こる想定外の事態に対して臨機応変に運用や指揮命令ができる対応策
についても検討しておく必要がある。
なお、地域住民に対しても組織の編成を周知し、各班の具体的な活動内容を理解して
もらうことが、災害時のスムーズな協力体制の構築につながることとなる。
- 17 -
4.組織の運営
自主防災組織を編成し効率的に運営していくためには、組織の目的や事業内容、役員
の選任及び任務、会議の開催、防災計画の策定等について明確にした規約を定め、災害
の発生時に迅速かつ効率的に防災活動を行い、被害の拡大を防止するための防災計画を
策定しておくことが重要である。
また、防災活動が意義のある活動となるよう、組織の活動目標の設定や防災訓練、研
修会等の活動計画を立て、安定した組織の運営を行うことが重要である。
図2-3
自主防災組織の運営について
○ 活動目標を定期的に見直しながら、活動計画を実施する。
○ 実際の活動状況をもとに、防災計画を見直し、活動目標や活動計画へ反映する。
(1)規約の作成
自主防災組織の活動を円滑に行うためには、組織の位置づけや体系、役割分担等
を明確にした規約(運営ルール)を作成しておくことが重要である。
規約は、組織の目的、事業内容等を明らかにするとともに、役員の選任及び任務、
会議の開催、防災計画の策定等について定めるものであり、次のような点に留意し
て作成するとよい。
① 自主防災組織を設置する根拠は、組織に参加する住民相互の合意にあり、
相互の合意を明確化した規約を定めておく必要がある。
② 自主防災組織を設けるにあたり、自治会、町内会の一つの部門として設け
る場合は、自治会、町内会の規約を改正すれば足りるが、新たに自主防災
組織を設ける場合は、規約により必要事項を明確にする必要がある。
③ 規約は、組織の目的、事業内容等を明らかにするとともに、役員の選任及
び任務、会議の開催、防災計画の策定等について定めるものである。
関連資料 → 規約(例)(P.155 ~)
- 18 -
(2)防災計画の策定
防災計画の策定にあたっては、日頃どのような対策を進め、災害時にどう活動する
かを具体的に明記するほか、河川が氾濫しやすい、災害時要援護者が多い等、地域の
実情を踏まえたうえで、防災計画に反映することも重要である。また、当該市町村地
域防災計画とは密接な関連があることから、市町村をはじめ消防機関と十分協議して
おく必要がある。
防災計画に盛り込むべき項目としては一般的に次のようなものが考えられる。
表2-4
分野
防災計画に盛り込むべき主な項目
盛り込むべき項目
組織に
自主防災組織の編成及び
関すること 任務分担
主に
日常活動
に関する
こと
主に
災害時の
活動に
関する
こと
他団体と
協力して
行う活動
内
容
組織編成と各班の果たす役割を明確にする。
防災知識の普及・啓発
事項、方法、実施時期等を定める。
災害危険の把握
事項、方法等を定める。
防災訓練
訓練の種別、訓練実施計画、訓練の時期及び
回数等を定める。
防災資機材等の備蓄及び管理
調達計画、保管場所、管理の方法等について
定める。
情報の収集・伝達
情報の収集・伝達及びその方法等について
定める。(情報班)
出火防止、初期消火
出火防止対策、初期消火対策等について定める。
(消火班)
救出・救護
救出・救護活動、医療機関への連絡等を定める。
(救出・救護班)
避難
避難誘導の指示、方法及び避難路、避難場所、
避難所の管理・運営等を定める。(避難誘導
班)
給食・給水
食糧や飲料水の確保、配給、炊き出し等に
ついて定める。(給食・給水班)
災害時要援護者対策
平常時、災害時の取組みについて定める。
他組織との連携
他の自主的な防災活動を行う組織との連携に
ついて定める。
- 19 -
なお防災計画策定にあたっては、次のような点に留意して策定するとよい。
○ あらかじめ、地域の地形、地域内の危険物の所在、建物の耐震化の状況等
を考慮し、地域としての集合場所、避難場所等を決定する。
○ 避難誘導の責任者を決めておき、その指示に従って全員が組織としてまと
まって避難するようにする。
○ 自主防災組織の責任者は、避難予定地、避難路の状況を確認し、安全な経
路を選定する。
○ 住民が他の組織の住民と混同しないようにするため、避難誘導班員は自分
の地域の目印となるものを携帯する。
○ 避難誘導班員は、住民が不必要な荷物を持たないよう注意する。
○ 組織内における傷病者、高齢者、身体障がい者等の災害時要援護者の所在
を確認し、担架搬送等により、全員が安全に避難できるようにする。近年、
地域の外国人も増加しており、日本語を解さない外国人への避難情報伝達
のあり方も検討する。
○ 市区町村長の避難指示または勧告が遅延したり、あるいは、伝達が困難な
場合も予想されるので、組織として、自主的に判断して避難する場合につ
いても検討する。
○ 避難場所に至る経路については、風向、晴雨等の気象条件、災害の規模態
様等を勘案のうえ、あらかじめ、第二、第三のルートを想定して計画を立
てておくようにする。
関連資料 → 防災計画(例)(P.158 ~)
- 20 -
(3)組織の活動目標の設定と活動計画の策定
住民の防災意識を高め、地域の防災力の向上を図るための自主防災組織の活動は、
継続して取り組むことによってはじめて効果を表すものである。したがって中・長期的
な活動目標を設定し、目標達成に向けた年間の活動計画を立てることが重要である。
またこうした活動目標を掲げ、計画に沿った組織活動を進めることによって、構成員
のモチベーションが高まり、地域防災力を向上させることが期待できる。
香川県丸亀市の川西地区自主防災会では、「防災目標/防災対策実施計画、年間計
画の作成(PLAN)」
、
「緊張感を持たせた訓練の実施、防災意識の啓発を組み込んだ
幅広いイベントの推進(DO)」
、「訓練・イベント終了後の成果発表と状況確認、問題
点のチェック(CHECK)」、
「ハード面の充実、防災訓練の改善など、防災活動改善
のための行動(ACTION)
」というPDCAサイクルにより、一つ一つ機能を高め
ながら組織的に整理し、実践的な行動へと結び付けていることに大きな特徴が見られ
る。
図2-4 活動目標の設定・活動計画策定の流れ(PDCAサイクル)
活動目標・計画の
設定・策定
PLAN
ACTION
地域における
防災活動の実施
今後の活動に
向けた改善
DO
目標の進捗
や活動の状況
の確認
CHECK
① 活動目標の設定
活動目標の設定にあたっては、予め防災に関する知識や地域の危険状況について
学習する機会を設け、防災の知識等を深めながら、実際の活動を通じて徐々に活動
レベルを上げ、これに応じて目標を修正していくことが重要である。
また目標設定にあたっては、次のような点に留意すると、より地域の実情に沿っ
た設定が可能となる。
- 21 -
○ 消防団等から、防災についての専門的な知識や技術等についてアドバイス
を受けておく。
○ 防災マップやハザードマップ等を活用し、地域の災害危険を把握しておく。
○ 組織の活動状況を考慮し、中・長期的に実現可能な具体的目標を設定する。
② 活動計画の策定
地域の防災活動の現場においては、住民の関心が急に高まる、あるいは活動レベ
ルが一気に向上することはなかなか期待できないため、継続的に防災活動に取り組
むことが特に重要である。また一旦活動レベルを上げても、継続して活動が行われ
なければ、活動の停滞や住民の関心も薄れてしまうことも考えられるため、活動を
しっかりと継続していくための活動計画を策定し、活動目標の達成へ取り組むこと
が重要である。
活動計画の策定にあたっては、中・長期的な視点に立った活動目標を実現するた
め、前年の活動状況や年間を通じてどのような防災活動を行う必要があるか検討し、
実際に行う活動内容を取りまとめ、年間の活動計画を策定していくとよい。
なお活動計画策定にあたっては、活動目標の設定とあわせて、次のような点に留
意して策定するとよい。
○ 編成班ごとに検討会を行う等、できるだけ多くのメンバーから意見を出し
てもらうようにする。
(編成班ごとの検討により、活動の漏れをチェックすることが出来る。
)
○ 検討会で出てきた意見を、テーマごとに整理し、優先度をつけていく。
(その際、緊急性・重要性といった基準を設けて検討を行うと、討議や合
意が進みやすい。)
○ 整理された意見を、活動の状況から、時間的制約、予算、活動主体等の要
素を加味して、活動計画を作成する。
○ 徐々に活動目標を修正しながら活動レベルの向上に努め、地域防災活動に
ついて継続的に取り組む姿勢をもった計画策定を心がける。
○ 年間活動計画に特徴をもたせるために、年度ごとの重点項目(目玉事業)
を決めるのもよい。
- 22 -
5.財源確保及び活動費を抑える工夫
自主防災組織を運営していくためには、日常的な活動や資機材及び備蓄品の調達等、
組織が活動するための財源を確保し、また限られた財源のなかで効果的な活動ができる
よう工夫する必要がある。
(1)自主防災組織の財源についての考え方
自主防災組織は、もとより住民の自発的な活動による組織であるため、自主財源に
よる活動が理想であるが、現状では市町村等が補助等を行っている例も多い。
消防庁調べによると、自主防災組織が結成され、活動を継続していくために、市町
村等による補助や資機材の現物支給が行われている地域がある一方で、補助等を受け
ずに自主財源を確保し、運営・活動を行っている地域もみられる。
こうしたことから、今後、自主防災組織としては自主財源の確保を基本とし、必要
に応じて市町村等による補助等を活用しながら組織の運営や活動を行うことが重要で
ある。
図2-5
図2-6
市町村による経費補助制度の有無
経費補助制度のある市町村
(全 1,750 市町村)
設立時補助
238
運営(活動)費補助
1,750
市町村
555
資機材購入費補助
545
199
倉庫等建設費補助
その他
経費補助
制度なし
900 市町村
経費補助
制度あり
850 市町村
90
0
100
200
300
400
図2-7 市町村による資機材の現物支給
制度の有無
現物支給
制度なし
1,396 市町村
現物支給
制度あり
354 市町村
1,750
市町村
資料:消防庁
- 23 -
500
600
700
(2)活動費を抑える工夫として
自主防災組織は、日常的な活動のほかに資機材や備蓄品等についても費用を要する
が、可能な限り活動費を抑えるためにも、身近なもので代替可能な資機材の活用を検
討するほか、防災教材や資機材等によっては近隣の自主防災組織との共有や民間の事
業所との資機材借用の協定を結ぶ等、組織間や地域との協力によって活動費を抑える
工夫についても検討しておく必要がある。
費用面で以下のような工夫を行っている自主防災組織もある。
○ 自主防災活動の重要性を地区の住民に十分に説明し理解してもらった上で、地
区の住民から定額を領収(防災費として独自に領収、町内会費の一部を自主防
災会費とする、など)
○ 廃品、リサイクル品や資源ゴミなどを回収し、資金調達をするほか、防災資機
材としても活用
○ 地元の商店会や企業に対し、自主防災活動の趣旨を説明・賛同してもらった上
で会費や寄付金を領収
○ 災害時に住民が資機材を持ち寄り(平時から持ち寄り可能な資機材のリストを
作成)
○ 自主防災組織連絡協議会としてまとまって活動(訓練、視察、広報誌作成、資
機材の共有など)することで、個別の自主防災組織としての支出を軽減
愛知県名古屋市の日吉学区防災安心まちづくり委員会では、R2(あるある)パック
(レスキュー&リサイクル)という取組みを展開している。地域住民が各家庭から持ち
寄った不用品を地域住民に非常持出し防災用品として再配布したり、各町内会単位で
保管することで、万が一のための備えの費用を減らせるだけでなく、地域のゴミの減
少にもつながる。
また、香川県丸亀市の川西地区自主防災会では、経費節減策として「リサイクル品
の活用」や「廃材の活用」等の取組みにより資機材の整備費の半減を達成した。具体
的には家庭ごみとして出された、まだきれいな毛布を回収・保管するほか、選挙運動
で使用したベニヤ板を回収し、避難場所で床に敷き、防寒対策に役立てるなど、経費
を削減しながら万一の事態に備えている。
- 24 -
6.組織を担う人材の募集・育成
地域防災力の維持・向上のためには、地域防災を担う人材の募集・育成が不可欠であ
る。
また、自主防災組織の活動を担う人材とりわけリーダーは、自らが防災に関する基本
的な知識や技術を身につけるとともに、平常時には地域の安全点検、防災知識の普及、
防災資機材の整備、危険が予想される箇所や災害時要援護者の把握、防災訓練の指導等
を行い、日頃から住民の防災意識を高めることに努める必要がある。また、災害発生時
には自主防災組織を適切に指導し、率先して行動することが求められることから、その
育成は非常に重要であるといえる。
(1)人を集める
自主防災組織に参加してもらうためには、何よりもまず活動内容を知ってもらうこ
とが必要である。そのためには広報紙等を活用し、自主防災組織への関心を少しでも
持ってもらうことが重要である。
ただし、広報紙等だけでは、地域住民との顔のみえる関係づくりやコミュニケーシ
ョンが不足してしまうため、学習会や講演会・研修会を開催し、住民参加の第一歩とな
る場(機会)づくりも重要である。最初から防災に特化して呼びかけてもなかなか興
味を持ってもらえないことがあるため、地域の祭り、イベント、子ども会活動、環境
活動等の地域活動の中で、防災についても働きかけるというアプローチも有効である。
また、ケーブルテレビ、インターネットのホームページ、ブログ等による情報発信
や地域SNS(地域ソーシャルネットワークサービス)を活用することも有効である
と考えられる。
○ 自主防災組織の活動内容を紹介する機会づくり
(例:市町村が発行する広報紙の活用、かわら版の発行)
○ 住民参加の場づくり
(例:生涯学習の一環としての学習会や講演会・研修会の開催、地域のイベ
ントを通した働きかけ)
○ ※1ICTを活用した新たな仲間づくり
(例:ホームページ、ブログ、※2 地域SNS(地域ソーシャルネットワーク
サービス)の活用)
※1
ICT:情報通信技術(Information & Communications Technology) の略。日本では同様の言葉として IT(Information
Technology:情報技術)の方が普及していたが、国際的には ICT がよく用いられ、情報通信におけるコミュニケ
ーションの重要性をより一層明確化するために、近年日本でも定着しつつある。
※2
地域 SNS(地域ソーシャルネットワークサービス)
:参加者が互いに友人を紹介しあって、新たな友人関係を広げることを
目的に開設されたコミュニティ型のWebサイトの総称。主な機能としては、日記や掲示板、メール配信等の機
能を使って、インターネット上でコミュニケーションや情報共有を安心して行うことができる。
- 25 -
三重県津市の南が丘地区自主防災協議会では、地域の夏祭りの会場となる小学校で、
教室を借りて防災に関する情報を展示し、小学生などを対象に非常食の試食や防災紙
芝居、避難所運営用品の体験使用を実施するなど地域の行事と防災をセットで楽しみ
ながら、多くの住民の参加を促した。これらの活動の様子は動画で三重県のホームペ
ージに掲載されたことで広く知られるようになった。
また、三重県松阪市では、平成 19 年 12 月に松阪市役所が中心となって地域SNS
「松阪ベルネット」を開設した。市内のある自主防災会では、「松阪ベルネット」を利
用して写真等を添付して活動内容をわかりやすく情報発信している。また、防災だけ
でなく地域の様々なイベントに関する情報も掲載されており、地域のコミュニケーシ
ョンの輪を広げている。
住民の防災意識を把握し、参加を促し、組織の結成へつなげるために
平成 22 年版の防災白書によると、災害発生時、余力があれば避難生活におけ
る協力、初期消火活動、体の不自由な方等の避難誘導、救出・救護活動など、で
きることをしたいと考えている人が多いことが分かる。
図
各個人として災害発生時に行いたい活動(複数回答)
避難生活における協力(救援物質の運搬、
避難所の清掃、高齢者の話し相手等) 5
56.7%
初期消火活動 4
54.6%
体の不自由な方等の避難誘導 3
50.7%
周囲の住民の救出・救護活動 2
50.2%
36.3%
周囲の被災家屋等の片付け(ガレキの片付け、 1
家具等の片付け、清掃、泥出し等)
0%
20%
40%
60%
80%
出典:内閣府「防災白書」(平成 22 年版)
地域におけるこうした関心を自主防災活動への参加に結びつけられるよう、
「地域でともに安心・安全な暮らしを守る意識」の啓発を進めるとともに、無理
なく継続して参加、活動できる内容への工夫が必要となる。
- 26 -
(2)人を育てる
住民一人ひとりが災害に対して正しい行動がとれるよう、知識や訓練についての経
験を積むことは、地域の防災力を高めるためにも重要であるため、市町村や地域にお
いて、こうした防災活動を担う人材の育成が必要となる。その際、住民が「楽しみな
がら」防災意識の高揚を図り、主体的に防災活動へ取り組めるよう、地域のイベント
等に防災の観点を盛り込む等、人材育成の場(環境)づくりの工夫も必要である。
なお「市町村における地域防災活動の充実に向けた取組みに関する調べ」(平成 18
年)では、人材育成の場である防災研修の現状として、次のように報告されている。
○ 何らかの防災研修を実施している市町村の割合は、全体の 72%。
○ 研修の主流は防災訓練と自主防災組織リーダー研修である。
(3)リーダーの育成
自主防災活動は、住民の自主的な活動であり、その活性化には、リーダーの資質と
熱意に負うところが大きいため、自主防災組織のリーダーには、地域の多くの意見を
まとめる見識、能力があり、かつ防災に積極的な関心のある人が望ましい。
また、自主防災活動を活発化するためにも、市町村及び消防機関等において地域
防災の要となるべきリーダーの育成に努める必要がある。
自主防災活動にとって望ましいリーダーとして、以下のような要件が考えられる。
○ 防災に関心が高い(災害対策の経験があればなお良い)
○ 行動力がある
○ 地域において人望が厚い
○ 自己中心的でなく、地域住民全体のために考えられる
○ 多数意見を取りまとめ、また、少数意見を尊重できる
平常時の自主防災組織の活性化を図るうえで、このようなリーダーの重要性は言う
までもないが、災害発生直後の混乱した状況において、消火・救助等を進めていくう
えでは、リーダーに以下のような要件も求められることとなる。
○ 非常時の現場の状況をとりしきる力がある
○ 他人に声をかけ、活動に参加させる力がある
○ 消火、救助、避難誘導、安否確認などに関する知識や知恵がある
- 27 -
このように災害発生直後は、周囲の住民を消火、救出、避難誘導などの活動に導く
ことのできるリーダーが求められ、こうしたリーダーは地域に何人いてもよいと考え
られる。
例えばお祭りなどのイベントの機会を利用し、地域の世話好きな人をみつけて交流
を図りながら、潜在的にリーダーたり得る人物を日頃の活動の中から発掘し、協力し
あう関係づくりも重要である。
安心安全なまちづくりに向けた人材(ボニター)の育成(春日井市)
安全で安心して暮らせるまちを目指して、愛知県春日井市では、市内各種団体
の参加を得て、
「春日井市安全なまちづくり協議会」を設置した。
協議会では、災害時における市民活動のリーダーとしての役割を担う「ひとづ
くり」を行うため、地域の安全について自ら考え活動する「ボランティア」と、
安全に関する提言を行う「モニター」の機能を持つ、
「安全安心まちづくりボニ
ター」(ボランティアとモニターの造語)を育成する「春日井安全アカデミー」
を平成7年度より開講している。
○ 安全・安心まちづくりボニターとは
「春日井安全アカデミー」の基礎教養課程及び専門課程を卒業し、さらにボ
ニター養成講座を修了した方が協議会会長(市長)より委嘱され、地域の安全
リーダー的役割を担うことができる市民として活躍している。
平成 11 年 3 月に第 1 期生として 35 名に委嘱して以来、平成 22 年 3 月末現在
で 12 期生までの 321 名に委嘱している。
○ ボニターの主な活動
総合防災訓練、防災拠点訓練、地域が実施する防災訓練への参加
地域住民へのDIG(災害図上訓練)の実施
住宅侵入盗(空き巣)防止のための簡易防犯診断の実施
- 28 -
(4)組織の継続的な活動へ向けた人材育成(次代を担う人材の育成)
実際に自主防災組織を形成する地域の状況は、地域コミュニティが未成熟な新興住
宅地や集合住宅、かつてのコミュニティが希薄になりつつある地域等、様々である。
こうしたなかで、住民一人ひとりが防災対応の担い手であることを再認識し、住民に
とって一番身近な自主防災組織が、積極的に住民への防災研修等を行い、自主防災活
動が将来も継続的に取り組まれるよう、幅広い世代に対して人材の育成を図る必要が
ある。
特に少子高齢化社会においては、次代を担う人材の育成が急務であり、子どもたち
に小さな頃から防災意識を持ってもらうことが非常に重要である。このため、消防機
関、学校関係者等に働きかけるとともに、自治会、消防団、婦人(女性)防火クラブ、
民生委員・児童委員とも連携しながら、教育や防災訓練を通じて、早くから「自分の
暮らす地域を守っていく」という意識を醸成し、次代を担う人材の育成に努めること
も重要となる。
中学生、高校生については、将来の地域防災の担い手として現時点においてもある
程度の体力を有していることから、防災活動に積極的に参加し、地域防災力の向上に
寄与する主体として活躍していくことが期待される。また、将来の地域防災の担い手
を育てる基盤的活動としては、幼年・少年消防クラブ活動があり、その活性化も進め
ていく必要がある。
また、人々の脳裏に刻まれた災害の記憶は、災害に対する認識、対応の差となって
現れるものであることから、自主防災組織等において、こうした災害の記憶・記録を
保持し、次代に語り継いでいくこと(災害伝承)も必要である。地域特性を踏まえた
災害への備えになるだけでなく、学校教育として地域の地勢的な特徴や歴史を深く知
ることのできる有効な取組みといえる。
地域をよく知っている大人やお年寄りが子どもたちに教えたり、一緒に防災マップ
作りや災害図上訓練(DIG)などを行うことで、世代を超えたつながりの醸成も期
待できる。
関連項目 → 人材育成の事例(P.118 ~)
- 29 -
次代を支える人材の育成に向けて
~ 防災教材の活用 ~
自主防災組織におけるメンバーの高齢化等といった課題解消のためにも、
自主
防災組織や関係機関とも協力しながら、次代を支える人材を育成、指導すること
が重要であり、
そのためには子どもたちに興味を持ってもらえるような方法をと
ることが有効である。
消防庁では小中学生などに対して消防・防災に関する知識、応急救護や初期消
火、災害図上訓練など防災に関する実技を伝えるための指導者用防災教材「チャ
レンジ!防災48」を作成している。この教材は消防庁のホームページ「防災・
危機管理e-カレッジ」より閲覧・ダウンロードが可能である。
また、消防庁では「防災・危機管理 e-カレッジ」の中に、子ども達が災害の
恐ろしさや防災について学べる「こどもぼうさい e-ランド」を e-ラーニングの
機会としてホームページ上に併設している。
こうした誰もが利用できる教材を活用した防災教育も有効である。
(防災・危機管理 e-カレッジ
写真
■ 「チャレンジ!防災 48」
http://www.e-college.fdma.go.jp/)
消防庁ホームページ
■ こどもぼうさい e-ランド
関連項目 → 学校との連携(P.73 ~)
人材育成の事例(P.118 ~)
- 30 -
第3節
自主防災組織の活動
1.日常における活動
自主防災組織における日常の活動としては、災害時に効果的な活動ができるよう、訓
練、備蓄等の必要な災害への備えを行うこと、そして、地域住民が防災に関する正しい
知識を共有し、各家庭で災害に備え、自主防災組織の活動への積極的な参加を促すこと
が重要である。
なお、活動の実施にあたっては、
「日常の活動がいざというときに役立つ」という実効
性にもとづき、防災をはじめとする地域の安心・安全な暮らしを守るための活動を、自
分たちの日常生活の中にどのように組み込めるのかを念頭に置きながら活動を計画し、
継続的に取り組むことが望まれる。
また、防災まちづくり大賞等の優れた取組みを参考にして、自らの活動に積極的に取
り入れることも、活動をより活性化させる手がかりの一つである。
図2-8
日常における主な活動項目
○ 防災知識の広報・啓発(地域防災・家庭内の安全対策)
○ 地域の災害危険の把握(防災マップ・ハザードマップ等)
○ 防災訓練(個別訓練・総合訓練の実施)
○ 各々の家庭において、火を出さないこと、家や塀等の倒壊を防ぎ安全性を
確保すること等、各個人及び各家庭での防災対策が基本であること。
○ 自主防災組織の役割分担、活動内容等についての理解。
○ 一時的ではなく、継続して実施する。
さらに、自主防災組織の育成のためには、市町村や消防機関等による実態に即した地
道な指導、助言の積み重ねが必要である。この場合、特に消防本部やそれぞれの地域の
消防団が指導、助言の中心的役割を果たすことが望ましい。
- 31 -
日常の活動は優良な活動事例を参考に
~ 防災まちづくり大賞 ~
地域防災力の向上を図るためには、
まちづくりや住民生活等のあらゆる面にお
いて防災に関する視点を盛り込むことが重要である。
「防災まちづくり大賞」は、自主防災組織や地域のコミュニティ、事業所、地方
公共団体などが行っている防災に関する様々な取組み(創意工夫を凝らした取組
み、継続的な取組み、地域独自の取組み等)の中で、特に優れた活動を表彰する
ものである。
こうした活動事例を参考にしながら、
日常の活動に取り入れてみるのも効果的
である。
なお「防災まちづくり大賞」は、(財)消防科学総合センターのホームページか
らアクセスすることができ、次のような部門での活動を表彰、紹介している。
((財)消防科学総合センター:http://www.isad.or.jp/cgi-bin/hp/index.cgi)
【一般部門】
防災関係の施設整備、地域における自主防災活動、教育訓練及び講座・研修
などソフト、ハード面を中心とする「防災まちづくり」に関する取組み。
【防災情報部門】
情報 技術やIT 技術を駆使 した災
害・防災情報の収集・伝達体制の整備
などの「防災情報」に関する取組み。
【住宅防火部門】
行政及び関係機関等と連携を図り、
地域における住宅防火対策を推進する
取組み。
■ 防災まちづくり大賞のシンボルマーク
- 32 -
■ 第 14 回防災まちづくり大賞
(1)防災知識の広報・啓発
① 地域ぐるみでの防災意識の醸成
自主防災組織の活動において、地域住民が防災に関する知識を習得できるように
するためには、あらゆる機会をとらえて普及・啓発に取組み、地域ぐるみで防災意
識を醸成する必要がある。そのためには、主に次のような方法がある。
○ あらゆる会合の機会をとらえ、できるだけ話し合う機会を増やす。
○ 地域の行事やイベントの中で、防災を意識づける機会づくり。
○ 市町村や消防機関等の講演会や研修への参加。
○ 市町村が定めている地域防災計画等の内容を十分理解するため、市町村や
消防機関等から説明を受け、協議する機会を設ける。
○ 災害の発生した現地を視察して、被害状況やよりよい対応方策を考える。
○ 地域における過去の災害事例、災害体験をまとめた広報紙の作成。
○ 防災知識に関するチラシやパンフレットの作成や配布。
② 家庭内の安全対策
防災知識の普及・啓発とともに、各家庭においても災害に対する備えをしておく
ことは、各自の生命、身体、財産を守るばかりでなく、地域の被害を軽減するため
に必要不可欠である。
また家庭における防災対策は、防災意識や危機意識の風化に伴い、具体的な行動
に結びつかない状況もみられるため、自主防災組織の活動として継続的に取り組む
べきである。
次頁の図にみられるように、阪神・淡路大震災では亡くなった方(神戸市内)の
8割以上は家屋の倒壊によるもので、ケガをした方の半数近くは家具の転倒による
ものであった。
また発災直後は、道路の損壊や交通渋滞により、食糧や飲料水等の救援物資が十
分に行き渡らない避難所があったことからも、各家庭における普段からの備えは非
常に重要といえる。
- 33 -
図2-9
阪神・淡路大震災における犠牲者(神戸市内)の死因
建物倒壊等に
よるもの
83.3%
その他
3.9%
焼死等に
よるもの
12.8%
資料:「神戸市内における検死統計」(兵庫県監察医 平成 7 年)
図2-10 阪神・淡路大震災におけるけがの原因
不明
3%
家屋の倒壊
3%
その他
18%
家具などの
転倒や落下
46%
散乱などした
ガラス
29%
資料:日本建築学会「阪神淡路大震災住宅内部被害調査報告書」
なお、家庭内の具体的な安全対策としては次のようなものがある。
○ 耐震診断等の建物の安全策
○ 家具等の転倒・落下防止
○ 防災用品、食糧・飲料水等、物資の事前準備
○ 住宅用火災警報器の設置促進、初期消火等、住宅防火対策
特に耐震診断については、経済的な負担や耐震補強に関する情報を知らない等に
より実施されてない例もあることから、積極的な広報をするとともに、地域の専門
家等との連携についても検討するとよい。
関連項目 → 家庭内の安全対策を進める事例(P.136 ~)
- 34 -
住宅用火災警報器の義務化について
住宅火災による死者数は平成 15 年以降、連続で 1,000 人を超える水準で推移
している。
平成 21 年中の死者 1,023 人を年齢別に見ると約 6 割は 65 歳以上の高
齢者で、また要因別に見ると約 6 割が逃げ遅れによる犠牲者となっている。
平成 16 年の消防法改正により、すべての住宅に住宅用火災警報器の設置が義
務付けられ、新築の住宅については平成 18 年 6 月から、既存の住宅については
市町村条例で定めた日から設置が必要となり、遅くとも平成 23 年 6 月には全国
で設置が必要となる。
平成 19~21 年に発生した住宅火災の、
発生件数あたりの死者数、焼損床面積、
損害額を見ると、住宅用火災警報器が設置されている場合は、設置されていない
場合に比べ被害状況が概ね半減している。住宅火災による被害から、自身や家族
の大切な命を守るためにも、各家庭にできるだけ早く住宅用火災警報器を取り付
けるよう普及啓発を行い、住宅防火を進めていくことが必要である。
図
住宅用火災警報器の設置効果(平成 19~21 年)
(人/火災 100 件)
8
7
(㎡/火災 1 件)
60
0.63 倍
3,000
50
6
0.46 倍
40
5
(千円/火災 1 件)
3,500
0.54 倍
2,500
2,000
4
30
7.5
1,500
48.3
3
4.7
2
20
1,000
22.0
10
1
設置なし
設置あり
(住宅火災 100 件当たりの死者数)
1,754
500
0
0
0
3,222
設置なし
設置あり
(焼損床面積)
設置なし
設置あり
(損害額)
住宅用火災警報器は、逃げ遅れを防ぐために寝室に設置する必要があり、避難
経路となる階段にも設置する必要がある。また市町村によっては、台所や居間等
への設置を義務付けている場合があり、各市町村へ確認したうえで、消防団、婦
人(女性)防火クラブ、自主防災組織その他地域に根ざした活動を展開する団体
等と連携して、
地域住民へ正しい設置を呼びかけることが望まれるところである。
○消防庁
住宅防火関係ホームページ(住宅用火災警報器の情報など)
http://www.fdma.go.jp/html/life/
- 35 -
(2)地域の災害危険の把握
地域の災害危険箇所を把握し、防災に関する認識を高めることも大切である。
そのため、主に次のような視点から、地域の危険箇所について把握するとよい。
○ 地域内の危険物集積地域、延焼拡大危険地域、土砂災害危険区域、ブロッ
ク塀の安全度等の実態把握を行う。
○ 地域の実態に即した消防活動、災害時要援護者に配慮した避難誘導等の対
応策について十分理解しておく。
○ 地域内の消火栓や防火貯水槽等の消防水利の所在を確認するとともに、消
火用の水利として古井戸、小川等の活用も検討しておく。
○ 地域の災害履歴や、災害に関する伝承等を知ることにより、予防・応急活
動に効果的に活用していく。
○ 市町村等が作成した「ハザードマップ」を活用し、災害に応じた危険箇所
を把握しておく。
こうして把握した危険箇所は、想定される被害や防災拠点等とあわせて、「防災マッ
プ」や「防災カルテ」としてまとめておくと、実際の災害時に大いに役立つほか、地
域住民とともに作成することによって、地域の防災意識の向上にも効果が期待される。
そのため、地域住民の参加を促すために、
「親子ふれあい防災ウォーキング」
、「タウ
ンウォッチング」「ぼうさい探検隊」といった地域内を実際に歩いてみるイベントとし
て行うほか、こうした行動の結果を防災マップづくりにつなげてみるのもよい。
関連項目 → ぼうさい探検隊(P.75)
関連資料 → 自分たちのまちを知る活動(P.170)
- 36 -
(3)防災訓練
自主防災活動の核となる防災訓練は、自主防災組織の防災計画に基づき実施される。
訓練にあたっては、次のような点に留意する必要がある。
○ 正しい知識、技術を習得するために、消防機関等の指導を受ける。
○ 訓練終了後に、訓練内容を見直して必要な改善を行う。
○ 地域内の事業所等の自衛消防組織、さらには近隣の自主防災組織とも共
同して防災訓練を行う。
○ 特定の災害だけでなく、地域の実状に即した訓練内容とする。
○ 災害時要援護者にも配慮した効果的な訓練内容とする。
○ 市町村や消防機関等が主催する総合防災訓練には積極的に参加する。
○ 短時間でも訓練を行えるよう、実施方法等を工夫する。
○ 固定観念にとらわれず、応用動作ができるようにする。
○ 訓練にあたっては、事故防止に努める。
○ 訓練の実施を市町村などに届け出ることとなっている場合は、忘れずに
届け出る。
防災訓練としては、個別訓練、総合訓練、体験イベント型訓練及び図上訓練が代表
的な訓練として実施されている。
図2-11 主な防災訓練項目
個 別 訓 練
情報収集・伝達訓練
消火訓練
救出・救護訓練
避難訓練
給食・給水訓練
その他の訓練
総 合 訓 練
個別訓練によって習得した知識・技術を
総合して行う訓練
体験イベント型訓練
防災と直接には関係しないイベント等
に防災要素を組み込んで行う訓練
図 上 訓 練
災害に対するイメージトレーニング。
- 37 -
こうした訓練はどれも重要であり、これらすべての訓練が有機的に機能してこそ発
災時に人の命を救い、災害を拡大させないことにつながるものである。
① 個別訓練
個別訓練には、情報収集・伝達訓練、消火訓練、救出・救護訓練、避難訓練、給
食・給水訓練等があり、各班において知識・技術の習得に向けて、繰り返し行う必
要がある。
(ア)情報収集・伝達訓練
災害情報の収集・伝達方法としては、ラジオやテレビなどの報道機関による情
報やインターネットを通じた情報も有効であるが、地域で情報収集・伝達を行う
際には、自主防災組織の果たす役割が極めて重要である。
災害情報の収集・伝達では、
自主防災組織を災害情報の中継点として位置づけ、
これを通じて市町村や消防関係機関等からの情報を地域住民に伝え、
また逆に地
域の被害状況、住民の避難状況などを自主防災組織で収集し、市町村や消防関係
機関等に報告をするための訓練を行う。
また、地域の被害想定等をもとに訓練を行うとより実践的な訓練となる。
○ 情報収集訓練
地域内の被災状況、災害危険箇所の巡視結果及び避難の状況等の情報を正確
かつ迅速に収集する。また、収集した情報を市町村や消防機関等と共有する。
情報収集訓練(例)
① 情報班に収集すべき情報の指示を出す。
(収集すべき情報の例)
・現場の住所、目標、現場の状況
・負傷者の有無と程度、今後予測される状況
・現在の措置、通報者
・避難所における避難者数、避難状況
② 地域ごとに情報を収集。
(※ 必ずメモをとる)
情報を収集した人の名前、日付、時間を明記する。
③ 収集した情報について報告を受け、地域ごとに取りまとめる。
(※ 報告の際も口頭のみの伝達は避ける)
④ 取りまとめた情報を報告。
- 38 -
○ 情報伝達訓練
地域住民から収集した情報を整理し、自主防災組織本部へ報告する。また地
域住民にも整理した情報を伝達する。その際、各世帯への情報伝達を効率よく
行うため、あらかじめ情報伝達経路を定めておくことも重要である。
なお、情報の収集・伝達手段として無線を活用する場合は、混信を起こさな
いよう指揮者(班長)の通信統制に従う無線機の運用訓練が欠かせない。
情報伝達訓練(例)
① 模擬情報を与える。
② 地域の伝達経路をもとに、次々に情報を伝達。
③ 最終的に伝達された模擬情報が、どの程度正確に伝達されたかを
確認。
なお、災害発生時には地域の被害状況を迅速かつ正確に収集・伝達する必要
があるため、自主防災組織としては、地域の中で情報を収集・伝達しやすい単
位、例えば 10~20 世帯で分割する等、地域の中で起きている状況を自分達で
しっかり確認できるような情報収集・伝達体制を予め検討しておくと、災害時
により効率よく活動することができる。
また、被害状況だけでなく、どういった人が地域で困っているか等、人に関
する情報についても収集するようにしておくと、災害ボランティアや社会福祉
協議会と連携する際に有効な情報となりうる。
関連項目 → 災害ボランティア、社会福祉協議会との連携(P.79 ~)
- 39 -
正確な情報収集、伝達の必要性
自主防災組織は、災害時における地域の消火・救助活動にとどまらず、市町村
や消防機関等から提供される地域の災害情報や災害発生時の行政の対応に関す
る情報について、正確な情報収集を行い、各戸にきめ細かく伝える役割を有する。
しかしながら災害時には、自分が置かれている状況を理解できず、目の前に危
険が迫ってくるまで、その危険を認めようとしない心理が働き、
「たいしたこと
はない」と思いこむ場合がある。こうした災害時の人間の心理状態を災害心理学
では、「正常化の偏見」というが、こうした心理は、避難行動を含め、被害の軽
減の大きな障害となる恐れがあるため、自主防災組織においては、災害が及ぼす
危険な状況をいかに正確な情報として住民に伝えるかが重要となる。
なお情報収集・伝達訓練では以下の点に注意が必要である。
1. 事実を確認し、時機に適した報告を行う。
2. 市町村や消防機関等との情報を共有する。
3. 伝達は簡単な言葉で行い、難しい言葉を避ける。
4. 口頭だけでなくメモ程度の文書を渡しておく。
5. 情報を正確に伝達するために、受信者に内容を復唱させる。
6. 流言には数字がからむことが多いため、数字の伝達には特に注意する。
7.「異常なし」も重要な情報である。
8. 定期的な報告を行う。
(イ)消火訓練
オイルパンや「まと」等を使用して、消火器、三角バケツ、可搬式小型動力ポ
ンプ等により消火する等、消火用資機材の使用方法及び消火技術を習熟する。
阪神・淡路大震災では火災によっても大きな被害が生じたことからわかるよう
に、出火防止や初期消火は被害の拡大防止のために非常に重要である。なお自主
防災組織としては、消火訓練とともに、火災予防運動等あらゆる機会をとらえ、
防火意識の向上に努め、日頃から地域ぐるみで出火防止に心がける必要がある。
(ウ)救出・救護訓練
はしご、ロープ、エンジンカッター等の救出用資機材の使用方法や負傷者等の
応急手当の方法、救護所への連絡、搬送の方法等について習熟する。
- 40 -
また、AED(自動体外式除細動器)をはじめとする救急救命用資機材の使用
方法、負傷者の応急手当の方法といった救護の要領について、日頃から市町村や
消防機関、日赤等が実施する普通救命講習を受講する等により習熟しておく。
(解説)AED(自動体外式除細動器)について
AED(自動体外式除細動器)とは、心臓の突然の停止(心室細動)の際に電気
ショックを与え(電気的除細動)、心臓の働きを戻すことを試みる医療機器である。
救急の現場で一般の人でも簡単に安心して除細動を行えるよう設計されており、
傷病者の心臓のリズムを自動的に調べて、除細動が必要かどうかを自動的に決定す
るととともに、救命の手順を音声にて指示するため、除細動を含めた救命行為が簡
単にできる仕組みになっている。
AEDには様々なタイプの機種があるが、基本的な機能は共通しており、自宅、
学校、職場、たくさんの人が集まる公共の施設等に配備され、AEDを使うことで、
緊急時の救命に役立てられることが期待されている。
写真
AED(自動体外式除細動器)
(エ)避難訓練
突然の災害時にも落ち着いて避難行動をとることができるようにするには、普
段から避難経路・避難所を確認しておくことが重要である。
避難訓練の際には、参加者は避難経路や避難所の安全について確認するととも
に、避難時の非常用持出品や安全な服装について留意する必要がある。
また、自主防災組織としては、避難誘導班を中心として組織ぐるみで避難の要
領を把握し、定められた避難所まで迅速かつ安全に避難できるようにする。その
際、地区内の避難状況の把握方法の確認や、災害時要援護者の避難支援が想定ど
おり機能しているかチェックを行うことも重要である。
なお、避難等で自宅を離れる際、電気のブレーカーを切り、ガスの元栓を閉め
ておくことを訓練時にも再確認する必要がある。
関連項目 → ライフライン復旧時の通電火災を防ぐ(P.56)
- 41 -
(オ)給食・給水訓練
炊飯装置、
ろ水装置の使用等限られた資機材を有効に活用して食糧や飲料水を
確保する方法、技術を習熟する。
なお、食糧を各人に効率よく配給する方法等についても留意する。
これに対処するためには、各家庭において数日間(最低3日間)生活できる程
度の食糧等の備蓄を行うとともに、
自主防災組織としてこれらの事態に備えて必
要な準備をしておかなければならない。
給食・給水については、次のような点に十分配意する必要がある。
① 各家庭では、長期保存が可能でできるかぎり嗜好に幅広く対応した食糧
及び飲料水を備蓄するとともに、保存可能期限の満了時ごとに交換して
おく。また、ポリタンク等の生活用水は定期的に入れ替えておく。
② 各家庭では、必要な食糧を非常用持出品として備えておき、いつでも持
ち出せるようにしておく。
③ 自主防災組織として共同備蓄倉庫等を設け、食糧、ろ水器、鍋、炊飯装
置、燃料、各種容器等を備蓄しておくことも有効な取組みである。
④ 自主防災組織として地域内にある井戸、水槽、池、プール等を調べ、災
害時に飲料水、生活用水として使用できるよう、所有者等と協議してお
くとともに、必要に応じ市町村が設置した飲料水兼用貯水槽の利用につ
いても習熟しておく。
⑤ 自主防災組織として食糧品等の救援物資の配給計画やその周知方法を
策定しておき、整然と配布できるようにしておく。
(カ)その他の訓練
○ 避難所運営訓練、避難所体験訓練
災害時に開設される避難所の運営には、地域のことをよく知る自主防災
組織が関わることが想定されることから、避難所の運営や避難者に対する
生活支援の方法について訓練を行う。また、避難所での生活を訓練で体験
することを通じて、避難の際の所持品や平常時からの準備について考え、
地域住民の防災意識を高めることができる。
なお、上記訓練のほか、可搬式小型動力ポンプ、消火器、ろ水器、無線通信機
等、個々の防災資機材の使用方法及び点検、整備等を習熟するために行う部分訓
練がある。
- 42 -
② 総合訓練
実際の災害時には、初期消火、救出・救護、情報伝達、避難誘導、給食・給水な
どを一連の流れの中で実施することになる。
そこで、個別訓練によって習得した知識・技術を総合して、組織の各班相互の連
携をとり、それぞれ適切、効果的に有機的な防災活動ができるようにするために、
総合訓練を行う。
実際に大規模災害が発生したと仮定し、時間の流れに沿って被害状況を付与する
「発災型訓練」などの方法もある。
③ 体験イベント型訓練
防災と直接には関係しないイベント等において、災害時に役立つ基礎知識の普及
や災害疑似体験といったプログラムを取り入れることによって、防災を意識せずに
災害対応能力を高めることができる。キャンプの各行事に防災の要素を取り入れた
「防災キャンプ」や、学校や地域の運動会で防災の要素を取り入れた競技を行うな
どの方法も有効である。
④ 図上訓練
図上訓練は、災害へのイメージトレーニングとして、災害に対する地域や自らの
意識に何が足りないか(例えば、被災した時の知識や消火活動等の防災行動力等)
への「気付き」となり、今後どんな訓練を行えば良いのかという「行動」につなが
る重要な訓練である。
図上訓練については、防災マップ等をもとに議論を行うブレイン・ストーミング型
の災害図上訓練等、その方法は様々である。
また、地震、風水害等、災害の種類によって地域のニーズは異なるため、クロス
ロードなどの防災ゲームを活用し、過去の災害から学び、シミュレーション訓練し
ておくことも重要である。
- 43 -
防災ゲーム クロスロードについて
「クロスロード」とは、
「岐路」
、「分かれ道」のこと。災害対応の場面では、
ジレンマを伴う重大な決断の連続である。
災害対応カードゲーム「クロスロード」は、自主防災組織など地域の集まりで
気軽に楽しめるシミュレーションゲームであり、
「市民編」、「災害ボランティア
編」など、新しいテ-マのカ-ドが次々と制作されている。ゲームの参加者は災
害時に直面する様々な問題に対して、どっちの道に進むのか選び、回答はグルー
プ全員が「イエス」か「ノー」の札で答え、なぜそう思うのか、という話し合い
を通じて答えを見いだしていく。
写真
「クロスロード」のカードと活動の様子
■ カードに書いてある問題は、阪神・淡路大震災
のときに実際に直面した事例をベースとして作成
されている。
■ 平成 18 年度地域安心安全ステーション
出前講座・広島会場では、クロスロードに
よるワークショップを実施した。
関連資料 → 図上訓練(P.175)
- 44 -
(4)家庭の安全点検
地震が発生すると、家屋の倒壊や家具の転倒による被災が想定される。また、地震
の発生に伴う火災の発生により、被害が拡大することが懸念される。そこで、その原
因となりうるもの等について、普段から十分点検して対策を講じておくことが大切で
ある。
① 火気使用設備器具等の点検
火を使う設備器具に故障や欠陥があったり、周囲が整理整頓されていなけ
れば、出火や延焼の危険が高い。
② 危険物品等の点検
家の中にも石油、食用油、各種スプレー缶等の可燃性の危険物品が多数あ
り、これらは地震動により発火または引火して、火災の原因となったり、
火災を拡大させたりすることがある。
③ 木造建物の点検
建物の倒壊は、倒壊による被害ばかりでなく、火災発生の重大原因ともな
り、被害を大きくする。
④ 家具等の転倒・落下防止の点検
固定されていない家具の転倒・落下は、死亡やケガの直接的な要因とし
て大きな割合を占めている。
こうした点検整備は自主的に各家庭において行うべきであるが、自主防災組織と
しては「点検の日」を設定し、各家庭で一斉に点検するよう指導、推奨すること等
も必要である。火災による被害から命を守るため、住宅用火災警報器の設置につい
ての指導も重要である。
また、建物等の点検を行う際は、建築関係の専門家の指導を受けられるよう、市
町村に対して協力を求めることが必要となる。
- 45 -
(5)防災資機材等の整備
自主防災組織が情報収集・伝達、初期消火、救出・救護、避難誘導、給食・給水等
の役割を果たすためには、それぞれの役割に必要な資機材等を備えておかなければな
らない。その場合、地域の実情や組織の構成等からみて、どのような資機材を備える
べきか、市町村、消防機関等の指導を受けて十分検討することが必要であり、市町村
としては、既存の資機材等を活用するとともに、実情に応じて助成を検討することも
必要となる。
なお、資機材の保管、管理にあたっては、用途、目的に合わせて、防災拠点での管
理や地域ごとの分散管理を行い、地域の実情に応じて最も機動的かつ迅速に利用でき
るようにしておく必要がある。特に救護用や給食・給水用資機材については、自主防
災組織が単独であるいは共同して備蓄する拠点として防災倉庫を設けることも必要と
なる。
防災資機材としては、次のようなものが考えられる。
表2-5
目
的
目的別の主な防災資機材(例)
防
災
資
機
材
① 情報収集・伝達用
携帯用無線機、受令機、電池メガホン、携帯用ラジオ、腕章、
住宅地図、模造紙、メモ帳、油性マジック(安否・被害状況等、情
報収集・提供の際に用いる筆記用具として) 等
② 初期消火用
可搬式動力ポンプ、可搬式散水装置、簡易防火水槽、ホース、
スタンドパイプ、格納器具一式、街頭用消火器、防火衣、鳶口、
ヘルメット、水バケツ、防火井戸等
③ 水防用
救命ボート、救命胴衣、防水シート、シャベル、ツルハシ、スコッ
プ、ロープ、かけや、くい、土のう袋、ゴム手袋 等
④ 救出用
バール、はしご、のこぎり、スコップ、なた、ジャッキ、ペンチ、ハン
マー、ロープ、チェーンソー、エンジンカッター、チェーンブロック、
油圧式救助器具、可搬式ウィンチ、防煙・防塵マスク 等
⑤ 救護用
担架、救急箱、テント、毛布、シート、簡易ベッド 等
⑥ 避難所・避難用
リヤカー、発電機、警報器具、携帯用投光器、標識板、標旗、強
力ライト、簡易トイレ、寝袋、組立式シャワー 等
⑦ 給食・給水用
炊飯装置、鍋、こんろ、ガスボンベ、給水タンク、緊急用ろ水装
置、飲料用水槽 等
⑧ 訓練・防災教育用
模擬消火訓練装置、放送機器、119 番訓練用装置、組み立て式
水槽、煙霧機、視聴覚機器(ビデオ・映写機等)、火災実験装
置、訓練用消火器、心肺蘇生用訓練人形、住宅用訓練火災警
報器 等
⑨ その他
簡易資機材倉庫、ビニールシート、携帯電話機用充電器、除雪機 等
- 46 -
自分の地域に何があるのかを確認し、不足しているもの、新たに必要とされるものがあ
れば計画的に整備し、いざというときに使用できるよう、日頃から、点検と取扱い方法の
習熟に努める必要がある。
また、自主防災組織としては、自ら防災資機材の整備を進めるだけでなく、次のよ
うな点にも留意する必要がある。
① 各家庭に、消火器(地震時に転倒しても使用可能な粉末消火器、強化液消
火器等)、汲置の水バケツ、消火用水または乾燥砂等を備えるよう指導、
推奨する。
② 応急手当用医薬品については、できれば地域内の病院、薬局等に対して、
災害時には医薬品の提供が得られるよう協議しておく。
③ 救急救命用資機材として、AED(自動体外式除細動器)の設置箇所等を
把握しておく。
④ 救助用の大型工作資機材については、地域内の土木、建設会社等に対して、
災害時に機材の貸与が得られるよう協議しておく。
⑤ 訓練用の資機材等、近隣の自主防災組織や団体、事業所等と必要に応じて
資機材を共有し、効率のよい維持管理への工夫も必要である。
- 47 -
(6)災害時要援護者対策
災害時に大きな影響を受けるのは、いわゆる災害時要援護者である。
地域社会において災害時要援護者の安全を確保することは、すべての人にとって地
域全体の安全を向上させることにもつながることから、災害時要援護者の状況を知る
社会福祉協議会、民生委員・児童委員、介護従事者、福祉ボランティア等の福祉関係
団体等とも連携しながら普段から交流する等、総合的に取り組む必要がある。
(解説)災害時要援護者について
災害時要援護者とは、主に要介護認定者、傷病者、障がいのある人及び体力的
な衰えのある高齢者等をいう。また地理や災害に関する知識が乏しく、日本語が
話せない外国人等また、妊産婦や子どものほか、観光地等では旅行者等も広い意
味で災害時要援護者にあたる場合もある。
災害時要援護者への支援は、主に情報及び行動への支援が挙げられるが、それ
ぞれの状態によって支援すべき内容がことなるため、注意が必要である。
平常時の取組みとしては、次のようなものが挙げられる。
① 地区内の災害時要援護者の把握
災害時要援護者の把握にあたっては、様々な方法が考えられるが、内閣府が平成
17 年 3 月に取りまとめた「災害時要援護者の避難支援ガイドライン」
(平成 18 年 3
月改訂)では、「手上げ方式」「同意方式」「情報共有方式」の 3 方式の組合せが提
案されている。
こうした方式を単独または複合的に用いる場合においても、災害時要援護者対策
にあたる団体が情報を共有し、個人情報の取扱いについて十分注意しながら、災害
時要援護者台帳等によって継続的に管理、運用していくことが必要である。
② 災害時要援護者への支援方法の整理
災害時に「誰が、誰を、どのように避難支援するか」
、つまり避難支援者、避難場
所、避難のタイミング、避難所までのルート・交通手段などを整理する。災害時要
援護者への情報伝達手段についても整理しておく必要がある。
また、こうした支援方法が実際に機能するかどうか、定期的な訓練を通じて点検
し、必要があれば更新・改良することが重要である。
また、災害時要援護者に関する情報は、実際に災害が起きた場合に、実効性が確
保できるよう、個別に対応手段を取りまとめるほか、各団体の持つ身近な情報を含
め、地域で重層的に対応できる体制を整えておくことが望ましい。
- 48 -
表2-6
災害時要援護者の主な把握の手法
把握する手法(方式)
内
容
把握の際の注意点等
手 上 げ 方 式
制度創設について周知した
上で、自ら要援護者名簿等
への登録を希望した者につ
いて避難支援プランを策定
する方式。
要援護者本人の自発的な意
思を尊重しており、必要な
支援内容もきめ細かく把握
できる反面、登録を希望し
ない者の把握が困難であ
り、要援護者となり得る者
の全体像が把握できないお
それがある。
同
防災関係部局、福祉関係部
局、自主防災組織、福祉関
係者等が住民一人ひとりと
接する機会を捉えて要援護
者本人に直接働きかけ、必
要な情報を把握し、策定し
ていく方式。
要援護者一人ひとりと直接
接することから、必要な支
援内容等をきめ細かく把握
できる反面、対象者が多い
ため、効率よく迅速な情報
収集が困難。
市町村において、平時から
福祉関係部局等が保有する
要援護者情報等を防災関係
部局等も共有する方式。
原則禁止である本人以外か
らの個人情報の収集及び個
人情報の目的外利用・提供
に関して、個人情報保護条
例の例外規定として整理す
る必要がある。
意
方
式
情 報 共 有 方 式
出典:災害時要援護者の避難支援ガイドライン
③ 災害時の外国人支援など
災害発生時には、地域で暮らす外国人や旅行中の外国人が一般市民と同じ状況で
被災することが考えられる。
財団法人仙台国際交流協会では、外国人に対してFM放送、チラシ、DVD等で
防災情報を発信したり、外国人が多く暮らす地域で、町内会主催の訓練に外国人住
民を募って参加するなどの活動を行っている。また、大規模災害発生時には仙台市
災害多言語支援センターを設置し、情報提供等の支援をする。
自主防災組織においても、地域に居住する外国人を考慮に入れた活動を行う必要
がある。同様に妊産婦や幼児・乳児、土地勘のない旅行者など、災害時に支援が必
要となるかもしれない人々についても幅広く考慮しながら活動することが求められ
る。
- 49 -
(7)他団体と連携した訓練活動の実施
連携による防災訓練とは、自主防災組織と消防団、災害ボランティア、事業所等が
合同で実施する防災訓練のことである。
こうした訓練は、地域防災の視点から、それぞれの団体の得意分野や地域で担って
いる役割を結びつけて訓練を実施する点に特徴があり、災害時に実効性のある対応を
目指すものである。
なお他団体と連携した訓練活動としては、次のような内容が考えられる。
① 近隣の自主防災組織との合同訓練
近隣の自主防災組織と合同で訓練を実施することで、参加人数が増えることによ
る防災訓練の活性化のほか、災害時の応援協力体制の強化が期待できる。
特に、避難所の設置・運営は自主防災組織の枠を超えた地域で行われる場合が考
えられることから、こうした訓練を合同で行うことで、災害時の効果的な防災活動
につながることが期待できる。
② 消防団との各種訓練
初期消火、救出・救助等の訓練の際に、専門的知識を有する消防団員の指導を受
けながら訓練を実施することで、防火・防災知識や技術の向上が期待できる。
また避難訓練においては、避難所への集合時に、家庭での対応などを消防団がチ
ェックする等の訓練も考えられる。
③ 社会福祉協議会等の福祉団体等との避難訓練
災害時要援護者の避難支援体制を確認するうえで、社会福祉協議会等の福祉団体
等との合同による訓練実施が考えられる。また訓練実施にあたっては、災害時要援
護者の介助者や家族の協力も必要となる。
また、社会福祉協議会や災害ボランティアコーディネーターとの連携により、自
主防災組織による被災地のボランティアニーズの把握や、安心してボランティア活
動を受け入れるための自主防災組織の立ち会いなどを含めたボランティア受入調整
訓練を実施することも有効である。
④ 企業(事業所)との合同防災訓練
企業(事業所)と合同で行う防災訓練は、災害時の応援協力体制を確認するうえ
で重要である。
なお訓練実施にあたっては、資機材の借用方法、物資の提供の可否等を、企業の
防災担当者と事前に協議しておくことが必要となる。
- 50 -
⑤ 学校等との避難所運営訓練
災害時に避難所となる学校での避難所の設営・運営訓練は、市町村、学校、自主
防災組織等の役割分担を確認するうえで重要である。
訓練では、避難所の開設、施設管理や被災者の配置、情報伝達、生活必需品の配
給などが考えられる。
親しみやすい日常における活動の工夫
自主防災活動は、いつ起こるかわからない災害に対して、住民が主体的に取り
組むべき活動である。また防災知識の啓発や訓練等は、災害に備えて継続して取
り組むべき活動であるため、活動を長続きさせ、より多くの人たちが参加できる
よう工夫していく必要があるが、
こうした防災活動のマンネリ化等も課題となっ
ている。
では「活動を長続きさせるために何を行うか?」
そのためには、ただ「防災」を冠した訓練や活動を行うだけでなく、日常の活
動のなかで、防災にも役立つノウハウを楽しく身に付ける手段を工夫した、親し
みやすい活動を目指す工夫も必要である。
例えば、地域で救急救命講習を実施するにあたっては、
「防災対策」を掲げる
よりも「うちのおじいちゃん、おばあちゃんに万一のことがあったら」というア
プローチで参加を促したほうが動機として身近である。同様に「防災のための炊
き出し訓練」と呼びかけるよりも、PTAで焼きそばや豚汁づくりを遊び感覚で
行うほうが、
実践的な訓練に相当する事業に楽しみながら参加することができる。
地域で盛り上がる祭りや運動会などの行事に防災の要素を取り入れることも有
効である。
住民がより参加しやすいテーマで地域の活動と防災活動を結びつけることが、
自主防災組織の活動を長続きさせ、より活性化させるためのポイントといえる。
■ 子ども達も一緒に楽しく炊き出し訓練。
(愛知県 豊橋市)
- 51 -
2.地震災害時の活動
災害時の活動は、災害発生からの時間の推移により変化するため、時期に応じた的確
な活動が求められる。
以下は、地震災害時における初動対応の時期に期待される活動を表したものであるが、
自主防災組織は初動対応以降も復旧・復興に向けて、他団体と連携しながら、継続的な
活動が求められる。また災害時の活動においては、自身及び家族の安全確保を前提とし
て行われるものとする。
図2-12 時系列による地震災害時の活動
発生前
○
○
○
○
防災知識の普及
防災訓練の実施
資機材等の整備
災害危険箇所、災害時要援護者の把握等
発生直後
災害発生
~ 災害発生直後 ~
数時間後
地域で救援活動に当たる人も
含めて、大部分の人が被災者で
あり、生命の危機・生活環境等
の破壊に対し、自助と地域住民
の共助が中心となる。
~ 災害発生から数日間 ~
数日後
行政や公的機関による緊急対応や
地域住民と自主防災組織として
は、初動対応となる消火、避難、
救出・救護、給食・給水等を実施
する時期となる。また、外部から
様々な支援活動、人材、支援物資
が入ってくる時期でもある。
(地域性や災害の規模によって
外部からの支援時期は異なる。
)
○ 自身と家族の安全確保
○ 近隣での助け合い
(出火防止、初期消火、救助等)
○ 津波からの迅速な避難誘導
○
○
○
○
○
○
安否や被害についての情報収集
初期消火活動
救出活動
負傷者の手当・搬送
住民の避難誘導活動
災害時要援護者の避難支援
○
○
○
○
○
○
○
○
○
避難所運営
自治体および関係機関の情報伝達
他団体等への協力要請
物資配分、物資需要の把握
炊き出し等の給食・給水活動
防疫対策、し尿処理
避難中の自警(防犯)活動
災害時要支援者への配慮
ボランティア活動のニーズの把握
- 52 -
(1)情報の収集及び伝達
地震により被害が発生したときに、的確な応急対応をとるためには、災害情報の正
確かつ迅速な収集及び伝達が必要不可欠である。特に、デマ等によりパニックが発生
し、社会の秩序維持に大きな影響が生ずる事態は、回避しなければならない。
したがって、市町村や消防機関等と住民との間で災害情報が正確かつ迅速に伝えら
れるようなシステムを確立することに努めなければならない。
災害情報は地域の実情により、また災害の種別により、様々な内容となるが、伝達
すべき情報を事前に地域ごとに決めておき、これについて市町村や消防機関等と住民
が共通の認識をもっていなければならない。
伝達すべき災害情報について例示すれば、次のようなものが考えられる。
被害の状況(火災・がけ崩れ等の状況並びに建物、道路及び橋等の被害状
況)
、津波予報及び警報、電気・ガス・水道、電話等の復旧見通し、避難の勧
告または指示、救援活動の状況、給食・給水、生活必需品の配給、衛生上の
注意等。
地震防災対策強化地域で警戒宣言が発せられた場合
大規模地震関連情報、地震予知情報、警戒宣言、注意報及び警報(津波)、
被害を軽減するために必要な情報(交通規制、避難の勧告または指示等)
、生
活情報(交通機関の運行、道路交通、電気・ガス・水道の供給、食糧等の需
給等の状況)等。
災害情報の伝達ルートとしては、ラジオ、テレビによるものが最も有効であるが、
地域の情報を網羅的に収集し、地域の住民にきめ細かく情報を伝達するルートとして
自主防災組織の果たす役割は極めて大きい。
自主防災組織を災害情報の中継点として位置づけ、これを通じて、市町村や消防機
関等から伝達すべき情報を流し、また、逆に地域の被害状況、住民の避難状況等を自
主防災組織で収集し、市町村や消防機関等に報告することができるように地域の実情
にあった仕組みを確立しておくことが必要である。
このため、自主防災組織は、防災計画により、情報班をおき、伝達係、収集係の責
任者を明確にする必要がある。
なお、最近はパソコンや携帯電話などによる情報のやり取りが盛んになっているが、
災害時には電気、電話やインターネット回線が不通になる可能性も考慮する必要があ
る。
- 53 -
住民の収集する災害情報をどのように活かすか
災害時の情報をいかに早く収集し、かつ迅速に伝達(提供)することができる
かは、被害を抑えるための重要な取組みである。愛知県豊橋市では、大学等と連
携し、どのようにすれば早く情報を収集することができるかについて、住民が収
集した被害等の情報を市町村へ伝達、情報共有を図る検証実験を行った。
実験では下図のようなシステムで、
避難する住民が地域を見回りながら得た被
害情報等を小学校区単位で集約し、
さらに避難所と市の災害対策本部間で情報通
信技術を活用した情報の共有が行われた。
その結果、
日常的な町会単位での被害情報収集活動によって短時間で情報が集
約できることがわかった。また情報を市と共有することによって、地域から発信
された情報に関して、市が対応策を返す(フィードバックする)ことができ、地
域の応急対応が有効に機能することが検証された。
図 情報通信技術(ICT)を活用した情報収集・伝達・共有システム
校区
市被災・避難勧告情報
(長距離無線 LAN)
校区被災・避難者情報
(長距離無線 LAN)
校区
校区
市・災害対策本部
避難所
自治会
自治会
ICT
住民
住民
住民
住民
資料:消防庁・工学院大学(住民参加による災害情報収集技術及び伝達に関する研究、振興調整
費「危機管理対応情報技術による減災対策」平成 18 年度報告書、2007 年 3 月)
このように、災害時の被害情報等は、地域の状況をよく知る住民が収集するこ
とで効率よく情報収集することができる。その際、予め危険箇所を把握しておく
と被害情報等がより集めやすくなることから、
事前に防災マップ等で確認してお
くことも重要である。
またこうしたシステムの活用によって、市町村へ情報がフィードバックされる
ことも大切であり、このような情報を活用する取組みが、今後広く利用されるこ
とが望ましい。
- 54 -
(2)出火防止、初期消火
地震発生直後の対応として、自主防災組織は出火防止、初期消火活動にあたる必要
がある。
① 出火防止
地震発生時の火災は、被害を何倍にも大きくすることは、過去の災害の例からも
明らかである。
地震発生の際に火災を出すことがなければ、火に追われて避難する必要もなく、
負傷者を落ちついて救護することが可能となる。
② 初期消火
大規模な地震発生時の消防機関の活動は、以下のような状況により、通常の火災
に比べ制限される。
○ 建物の倒壊や地割れ、停止車両等による消防車の通行不能道路の発生
○ 火災の同時多発
○ 水道管切損による消火栓の使用不能
等
したがって、万一出火した場合には、自主防災組織が中心となって初期消火や延焼
防止を行う必要がある。
自主防災組織の中には、可搬式小型動力ポンプを持っているところも多いが、消火
班が中心となり日頃から点検等を行い、いざ火災発生時に整備不良のため使用不能と
いうことのないようにしなければならない。
地震発生時における消火班の活動基準の一例を示せば次のとおりである。
○ 地震が発生した場合、各消火班員は、自分の家庭の出火防止措置及び家族
の安全対策を講じたのち、速やかにポンプの格納庫に参集する。
○ 組織の地域内に火災が発生した場合は、最低限必要な班員が集合し次第出
動する。
○ 放水は原則として屋外で行う。
○ 火災が拡大して危険となった場合は、消火活動を中止し、避難する。
○ 消防機関が到着したら、その指示に従う。
○ 津波発生の可能性がある場合は、迅速に避難する。
地域内の事業所に自衛消防組織が存在する場合には、事業所とあらかじめ協定を
結び、消火活動等について協力を得られるようにしておくことが望ましい。
- 55 -
消火班の活動は、第1段階として街頭設置の消火器等を使用して消火にあたる。こ
れを使用しても消火不能なほど拡大した火災に対しては、第2段階として、可搬式小
型動力ポンプにより消火活動にあたることとなる。
この場合、自主防災組織が可搬式小型動力ポンプ等を利用してどの程度の火災まで
対応するのか、消防機関等とどのように協力するのかは、地域の状況により異なるの
で、協議しておく必要がある。
地震の後の電気による火災(通電火災)に注意
地震による二次災害としての火災の恐ろしさは過去の教訓からよく言われて
いることであり、使用中の火をいかに早く消すかが、火災を防ぐ重要なポイン
トとなる。
しかしながら、平成 7 年の阪神・淡路大震災では、発災後しばらく時間が経
ってから火の気のないところで火災が発生するという新たな火災現象がおきた。
原因は、地震が発生する前に使用していた電化製品が電源の入った状態のまま
転倒し、あるいは位置が変わってしまい、その状態で停電となったため、電気
が復旧すると、つけっぱなしであった電化製品に急に電気が流れ、あるいは家
具や落下物のために半断線した電気コードがショート等を起こして火災につな
がったというものである。このほかにも、阪神・淡路大震災では地震直後に漏
洩したガスに、自動的に回復した電気の火花が飛んで、火災が発生する場合も
みられた。
このような火災を「通電火災」というが、これを防止するためには、自宅に
被害を受けてやむを得ず避難する際に、必ず電気のブレーカーを下ろして電力
の供給を止めることが重要である。また、同時にガスの元栓を締めることも忘
れないよう心がける必要がある。
《 二次災害を防ぐための火災防止対策 》
○ 地震の揺れを感じたらすぐに火を消す。
○ 大きな揺れのときは、揺れが収まるのを待って火を消す。
○ 可能であれば初期消火を。
○ 避難の際には必ずブレーカーを下ろし、電力の供給を止める。
○ ガスの元栓も締める。
- 56 -
(3)救出・救護
地震が発生すると、建物倒壊や落下物等により多数の負傷者が発生し、救出・救護
が必要な事態が生ずるため、自主防災組織としては、倒壊物やガレキの下敷きになっ
た人を、資機材を使用して救出にあたるほか、負傷者には、応急手当等を行い、病院
へ搬送する等の支援が求められる。
また、地震発生時には救急車の出動要請が同時に集中し、119 番が「話中」となり、
出動した救急車も建物倒壊による通行不能や道路混雑のため、思うように活動できな
かった事例もあるため、自主防災組織の防災計画においては、負傷者に対する救出・
救護計画を定めておかなければならない。
救出・救護活動に関して、次のような点に十分配慮する必要がある。
① 救出活動
○ 大規模な救出作業が必要な場合には、資機材を有効に活用して救出活動を
行うとともに、必要と認められる場合には、速やかに消防機関等の出動を
要請する。
○ 状況に応じて、できるだけ周囲の人の協力を求めるとともに、二次災害発
生の防止に努める。
○ 倒壊物の下敷になった人の救出に際し、同時に火災が発生した場合は、火
災を制圧しつつ救出活動にあたる。
○ 災害時要援護者台帳やマップ等を活用し、効果的な救出活動を行う。
②
救護活動
地域の医療機関とあらかじめ協議し、負傷者の受け入れ等について承諾を得て
おくとともに、臨時の応急救護所を避難場所に設けることについて、市町村や消
防機関等と十分協議しておくことが望ましい。なお、重傷者が出た場合は、直ち
にこれらの医療機関または応急救護所へ搬送する。
- 57 -
(4)避難
災害時における避難行動において、自主防災組織が担うべき役割は、①避難誘導、
②避難所の開設・運営等の大きく2つに分けられる。
また被害の状況や災害が発生した時期や時間帯、火災発生時の風向き等によって、
安全な避難経路や開設される避難所が異なるため、正確な情報把握に努める必要があ
る。
① 避難誘導
避難活動の中心的役割を自主防災組織が担う場合も多く、市町村や消防機関等と
十分協議の上、組織の防災計画において密接な避難計画をつくり、関係住民に周知
徹底しておかなければならない。
また、避難場所は市町村の地域防災計画において定めることとなっているが、そ
こに至るまでの一時避難場所(または一時集合場所)については、市町村や消防機
関等と協議して、あらかじめ組織の防災計画において定めておく必要がある。
一時避難場所は以下のような条件を満たしていることが望ましい。
○ がけ崩れ、津波等による災害の危険のない場所であること。
○ 子ども、高齢者、障がい者にとっても避難が容易な場所であること。
○ 救援活動に適した広さの場所であること。
○ 住民によく知られた場所であること。
なお、避難場所には可搬式小型動力ポンプ、消火器等の消火用資機材及び担架、
救急セット等の救出・救護用資機材等を備え自主防災組織の応急防災活動の拠点と
することが好ましい。
② 避難所の開設・運営等
避難所は、災害の直前、直後において、住民の生命の安全を確保する避難施設と
して、さらに災害の規模や被害状況に応じて、一定期間生活する施設として重要な
役割を果たすものである。
したがって、災害発生後に避難所を開設する際は、市町村が指定した施設の安全
確認がされた後、一時避難場所から避難者を収容し支援を行うことが重要である。
- 58 -
なお、避難所で提供する主な生活支援には、次のようなものがあり、自主防災組
織として、各班で必要に応じた対応が求められる。
表2-6
分野・項目
避難所の機能・役割
避難所の機能
考慮すべき事項
安全・生活等
保健、医療、衛生
情報、コミュニティ
安全の確保
災害発生の直前又は直後において、安全な施設に、迅速
かつ確実に避難者を受け入れ、避難者の生命・身体の安
全を守る。
食糧・生活
物資の提供
食糧や飲料水の供給、被
服・寝具等を提供する。
必要な物資等が均等にい
きわたるよう配慮する。
生活場所の提供
家屋の損壊やライフライ
ンの途絶等により、自宅
での生活が困難になった
避難者に対し、一定期間
にわたって、生活の場を
提供する。
季節や期間に応じて、暑
さ・寒さ対策や炊事、洗
濯等のための設備のほ
か、プライバシーへの配
慮等が必要となる。
健康の確保
避難者の傷病を治療する
救護機能と健康相談等の
保健医療サービスを提供
する。
避難の長期化に伴い、心
のケア等が重要となる。
トイレ等の衛生的な
環境の提供
避難者が生活を送る上で
必要となるトイレ、風
呂・シャワー、ごみ処理、
防疫対策等、衛生的な生
活環境を維持する。
避難者の生活が続く限り
継続していく必要があ
る。
情報の提供・交換・収集
避難者に対し、災害情報
や安否情報、支援情報等
を提供するとともに、避
難者同士が安否の確認や
情報交換を行う。
避難者の安否や被災状況
要望等に関する情報を収
集し行政等外部へ発信す
る。
時間の経過とともに必要
とされる情報の内容は変
化することに留意する必
要がある。
コミュニティの
維持・形成
避難している近隣の住
民同士が、互いに励まし
合い、助け合いながら生
活することができるよう
従前のコミュニティを維
持したり、新たに避難者
同士のコミュニティを形
成する。
コミュニティの維持・形
成は、避難の長期化とと
もに重要性が高まるた
め、避難所のルールや良
好な関係を維持できるよ
う調整に努める。
- 59 -
(5)給食・給水
地震により、停電、断水、ガスの供給停止に加えて、食糧、飲料水、生活用水も不
足することも予想されることから、自主防災組織としては、避難所等での安心・安全な
生活支援として、食糧や飲料水、救援物資の配分を行うほか、炊き出しを行う必要が
ある。
炊き出しを行う際は、衛生面に十分配慮し、食中毒等の二次災害を出さないよう心が
ける。
また、住民への給水・給食にあたっては、災害時要援護者や自宅で避難生活を送っ
ていても、調理ができずに食事を求めて避難所へ来る人、帰宅困難者となった地域外
の人等がいることを認識し、柔軟で的確な対応が求められる。
また、以下の点にも留意する必要がある。
○ 自分で水や食事を取りにくることができない人、アレルギー体質の人等、
様々な事情を抱えている人への配慮。
○ 高齢者や病人、乳幼児などは、一般の防災備蓄食品が合わない場合もある
ため、できるだけそれぞれの人に合わせた食べ方を考える。
- 60 -
3.風水害時の活動
地震災害時の活動と同様に、風水害時においても時期に応じた的確な活動が求められ
るが、突然襲ってくる地震とは異なり、風水害はその発生までにある程度の時間がある
ため、被害が及ぶ危険を避けるために、早期に情報伝達や避難といった行動をとること
によって、大規模な被害を抑えることが可能である。
したがって、風水害時の活動の内容については、避難後の行動等、前項の地震災害時
の活動を基本とするほか、次のような事前行動が求められる。
図2-13 風水害時の主な活動
ラジオ・テレビなどの気象
情報に注意し、避難準備情
報や避難勧告・指示に備え
て行動する。
また、地域の災害状況(水
位、土砂災害の前兆現象)
に注意する。
※ 早期の情報伝達・事前行動が必要
※ 土砂災害の前兆現象などに注意し、異常
があれば自主避難するとともに、市町村
に通報する
○ 住民への避難の呼びかけ
○ 土嚢積み等、被害を抑える行動
○ 災害時要援護者の避難支援
※ 被害を抑えるための行動と避難所運営
早期に避難を完了し、避難
所等での安否確認等を実
施する時期である。
また状況に応じて、水防活
動、救出・救護を実施する。
○ 水防活動
○ 安否や被害についての情報収集
○ 救出活動
○ 負傷者の手当・搬送
○ 避難所運営
- 61 -
(1)情報の収集及び伝達
風水害では、被害の及ぶ切迫性が現れてから、いかにすばやく避難を開始できるか
がカギとなるため、正確な情報収集・伝達が重要となる。
なお、風水害時に伝達される災害情報については、次のようなものがある。
○ 気象庁・気象台が発表する情報
気象注意報(大雨や洪水、強風、雷、高潮等)
気象警報(大雨や洪水、暴風、高潮等)
台風情報
土砂災害警戒情報
等
そのほか河川管理者などからの情報にも注意する必要がある。
○ 避難に関する情報
避難準備情報(要援護者避難情報)
・避難勧告・指示
特に、風水害時の避難準備情報や避難勧告・指示の情報は、防災行政無線や広報車
の音が雨音でかき消されるなどして住民に伝わらない場合もある。そのため、自主防
災組織が早目にこうした情報を住民に伝える必要がある。
(2)避難及び避難所運営
風水害時の避難及び避難所運営については、特に被害の発生した地域によって、次
のような状況が想定されるため、被害情報を正確に把握し、安全な避難経路での避難、
避難所開設への行動が求められる。
なお、開設される避難所は、地域によって地震災害時とは異なる場合もあることに
注意するとともに、以下の点について留意する必要がある。
○ 浸水等により、避難所及び周辺の衛生状態が著しく悪化するおそれがある。
○ 浸水等により、地階や低層階に保管されている備蓄物資等が使用できなく
なるおそれがある。
- 62 -
(解説)避難準備情報や避難勧告・指示について
「避難準備情報」とは、災害発生の危険性が高まった時に市町村が発する避難勧
告等の一つとして、新たに加えられた情報である。この情報は、従来の「避難勧告」
より前の段階で「人的被害の発生の可能性がある」と判断された時点に発令され、
避難に時間を要する高齢者や障がい者等に避難開始を、その他の人々に避難準備を
求めるものである。
なお、避難準備情報や避難勧告・指示の内容は次のとおりである。
表2-7
発令情報
避難準備情報や避難勧告・指示の内容
発令時の状況
要援護者等、特に避難行動に時
間を要する者が避難行動を開始
避難準備情報
しなければならない段階であ
(要援護者避難情報)
り、人的被害の発生する可能性
が高まった状況
住民に求める行動
・要援護者等、特に避難行動に
時間を要する者は、計画され
た避難場所への避難行動を開
始
・上記以外の者は、家族等との
連絡、非常用持出品の用意等、
避難準備を開始
避難勧告
通常の避難行動ができる者が避
難行動を開始しなければならな 通常の避難行動ができる者は、
い段階であり、人的被害の発生 計画された避難場所等への避難
する可能性が明らかに高まった 行動を開始
状況
避難指示
・前兆現象の発生や、現在の切
迫した状況から、人的被害の ・避難勧告等の発令後で避難中
発生する危険性が非常に高い
の住民は、確実な避難行動を
と判断された状況
直ちに完了
・堤防の隣接地等、地域の特性 ・未だ避難していない対象住民
等から人的被害の発生する危
は、直ちに避難行動に移ると
険性が非常に高いと判断され
ともに、そのいとまがない場
た状況
合は生命を守る最低限の行動
・人的被害の発生した状況
※ 自然現象のため不測の事態等も想定されることから、避難行動は、計画された避難場
所等に避難することが必ずしも適切ではなく、事態の切迫した状況等に応じて、自宅
や隣接建物の2階等に避難することもある。
資料:内閣府「避難勧告等の判断・伝達マニュアル作成ガイドライン」(平成 18 年 3 月)
- 63 -
雪害、火山災害における活動
自然災害には、地震災害、風水害のほか、雪害、火山災害などがあり、自主
防災組織には災害による被害を未然に防ぐための活動が求められる。
○雪害に関して自主防災組織に期待される活動・役割
・雪害に関する知識の普及、安全な除雪作業の普及広報
・雪崩危険箇所の把握
・地区内の道路・家屋の除雪体制の把握
・地域の協力による除雪作業の実施
○火山災害に関して自主防災組織に期待される活動・役割
・火山災害に関する知識の普及(噴火警戒レベルと避難行動の対応など)
・火山ハザードマップの周知
・迅速な情報伝達、避難誘導(災害時要援護者の避難誘導を含む)
・避難所の開設・運営等
写真
■
桜島火山ハザードマップ(鹿児島市作成)
避難方法や防災関連施設などが地域住民向けにわかりやすく書かれている。
- 64 -
活動についてもっと知るために
~ 自主防災組織教育指導者用教本 ~
本節に記した自主防災組織の活動は、活動の全体像を示したものであり、地域
の実情や組織の結成状況等によって、その活動範囲や内容、役割が異なる場合も
考えられる。
自主防災組織の活動について、
より詳細な活動内容について知るためのものと
して、消防庁消防大学校では、
「自主防災組織教育指導者用教本」を作成してい
る。
教育指導者用教本では、地震災害、風水害・土砂災害に焦点をあてながら、自
主防災組織のリーダーの方々が、
住民と共に活動を進めていくための考え方やヒ
ントとなる事例や手法を掲載している。また、指導者用教本の中から住民の理解
の助けとなる事項を抜粋し、住民用教本としてまとめている。
自主防災活動について理解を深め、
地域の防災力を高める安心安全なまちづく
りを推進するために、これらの教本も参考とすべき資料である。
(自主防災組織教育指導者用教本:
http://www.fdma.go.jp/html/intro/form/daigaku/kyouhon/
index.htm)
写真
自主防災組織教育指導者用教本
- 65 -
第4節
連携による活動の活性化
1.連携の考え方
これからの自主防災組織の活動においては、自主防災組織相互の連携のほか、消防団、
学校等の地域の様々な活動団体と有機的に連携し、活動の活性化を図り、防災をはじめ
とする地域の安心・安全への取組みを進めていくことが求められている。その際、各団
体の活動の特徴を踏まえ、他団体が行う活動と自主防災組織の活動を結びつけ、相互の
得意分野で地域の防災力を補完し合う活動を心がけることが必要である。
また、連携による活動においては、互いに良きパートナーとなれるよう、普段からの
関係づくりとともに、地域における人的ネットワーク(つながり、結びつき)を広げて
いくことが重要といえる。
さらに、地域の安心・安全な暮らしへの住民意識の高揚やコミュニティの強化につな
がり、地域防災力のさらなる向上が期待できる。
なお、地域の様々な団体と連携を図ることで、これまでは実施困難であった活動に対
しても、広域的かつ多様な手法での取組みが可能と考えられる。
図2-14
様々な地域活動団体との連携とそのメリット
自主防災
組織
連 携
○
○
○
○
○
○
自主防災組織
○
消防団
○
学校
○
民生委員・児童委員
社会福祉協議会・福祉団体
災害ボランティア
婦人(女性)防火クラブ
企業(事業所)
医療機関
他 団 体 との連 携 によるメリット
○ 人材が増え、また保有資機材等も豊富になる。
○ 活動の範囲が広がり、広域的に事業を実施することができる。
○ 活動の種類やメニューが増え、活発な活動を継続して実施することが可能になる。
○ 様々な機会を通じた地域住民への PR が可能となる。
地域防災力のさらなる向上
- 66 -
等
地域の活動や行事と結びついた連携の考え方
地域の活動や行事と防災活動と結びつけることによって、
防災活動は地域にお
ける活動の幅を広げる有効な手法となる場合がある。
例えば、だんじり祭りで有名な岸和田市では、だんじり小屋という拠点や小屋
の中にある様々な資機材、
さらにはお祭りを支える人的ネットワークといった地
域資源を、いざというときに防災への転換可能なハード(拠点)やソフト(ネッ
トワーク)として有効活用し、防災への取組みを進めている地域がある。
このように、
地域の行事や活動のなかには、
地域防災に結びつくテーマや技術、
資源、ネットワーク等、いざという時のための訓練や災害時の活動に転換できる
ものが数多く備わっている。
こうしたことは、お祭り以外の活動にも、日常的な教育、福祉、環境美化、青
少年健全育成等各種の地域活動でもみられ、暮らしと結びついた防災活動は、住
民にとっても、
普段の活動の延長線上に自主防災活動があるという意識の高揚に
もつながるため、自主防災組織を長続きさせ、活動の活性化にもつながる効果的
な取組みといえる。
■ だんじり小屋(大阪府岸和田市)
■ 地区運動会(防災競技)に防災の項目を
取り入れることで、地域行事に防災活動を
結び付けている。(広島県 呉市)
- 67 -
2.自主防災組織間の連携
自主防災組織は、身近な地域の防災組織であり、地域の防災活動が効果的に行える範
囲、あるいは日常生活上の基礎的な地域といった範囲で組織が結成されていることは前
述のとおりである。
しかしながら、大規模災害の発生時には周辺地域等、広範囲で被害が発生することが
想定されるため、身近な地域での防災活動に加え、近隣の自主防災組織間と連携し、普
段から災害時に相互に協力しあえる体制を築いておく必要がある。
また、こうした連携を図るための組織として、自主防災組織連絡協議会の設置が期待
される。
(1)自主防災組織間の連携の効果
日常より、近隣の自主防災組織と相互の応援協力体制や地域の自主防災組織間にお
ける情報・人的交流や防災まちづくりの共同実施等、友好な関係を築いておくことが
必要となる。また、こうした組織間の連携が大規模災害時の効果的な防災活動につな
がると期待される。
また、こうした自主防災組織間の連携した活動は、各自主防災組織の長所や短所を
補い合い、地域間の防災活動にみられる格差の解消等の効果が期待される。
図2-15
自主防災組織間の連携
○ 近隣の自主防災組織と相互の応援協力体制
○ 自主防災組織間における情報・人的交流
○ 防災まちづくりの共同実施等
災害時
→
相互に協力した活動の展開
日常時
→
交流・会合(活動における情報交換の場)
災害時の応援協力体制
合同訓練
避難所運営の役割分担・体制
資機材等の共同保有・活用
等
- 68 -
(2)自主防災組織連絡協議会の設置
自主防災組織間の連携を高め、近隣の自主防災組織が一体となって地域防災力の向
上に取り組んでいくための第一歩として、各市町村内の地区レベルで連絡協議会を立
ち上げ、自主防災組織が相互の活動内容等を知ること等のできる場が必要となる。さ
らに、こうした地区レベルでの連絡協議会の取りまとめを行う市町村連絡協議会の設
置も重要である。
なお、平成 22 年 4 月 1 日現在、市町村レベルの自主防災組織連絡協議会は 327 団体
設置されている。このほか、地区レベルの連絡協議会が全国各地で設置されている。
さらには、都道府県内の自主防災組織や市町村単位の連絡協議会の取りまとめを行う
都道府県レベルの連絡協議会の設置も進んでおり、こうした各レベルの連絡協議会の
設置拡充が強く望まれるところである。
表2-8 自主防災組織連絡協議会の設置状況(平成 22 年 4 月 1 日現在)
自主防災組織連合体を
有する市町村数
自主防災組織数
142,759 団体
327 団体
それぞれの地域において活動している自主防災組織が、相互の活動内容を知り、連
絡をとりあえる場を設けることにより、お互いに刺激を受けるだけでなく、合同研修
を行ったり、活動の質のさらなる向上が可能である。既に自主防災組織連絡協議会を
設置した地域からは、情報交換を行い、相互の活動内容を知ることができる意義は非
常に大きいという声が多く聞かれている。
自主防災活動は、住民の意欲や創意に基づくものであることから、こうした人的ネ
ットワークは何よりも貴重なツールであり、そのネットワークを市町村、都道府県へ
と広げる仕組みをつくることが有効である。
図2-16 自主防災組織連絡協議会 概念図
○□市町村自主防災組織連絡協議会
A 地区自主防災組織連絡協議会
A 地区自主防災組織連絡協議会
B 地区自主防災組織連絡協議会
○○自主防災組織
○○自主防災組織
○○自主防災組織
C 地区自主防災組織連絡協議会
関連項目 → 自主防災組織連絡協議会の活動事例(P.99 ~)
自主防災組織連絡協議会規約(例)(P.164 ~)
- 69 -
○○自主防災組織
3.消防団との連携
大規模な災害が発生した際には、市町村や常備消防の対応だけでは限界があるため、
自主防災組織、消防団等の総力を挙げて災害に対処する必要がある。
こうしたなかで、自主防災組織としては地域の様々な団体と連携していくことが必要
であるが、なかでも消防団との連携が重要であり、自主防災組織の運営や防災知識、技
術を身につけるための良きアドバイザーとして日頃から消防団と交流を図り、ともに地
域を守る組織として協力しあうことが求められている。
また、こうした地域防災の両輪である自主防災組織と消防団が連携することによって、
地域防災力のさらなる向上につながっていくと言える。
図2-17
地域防災を支える機関と自主防災組織・消防団の連携
災害時
→
自主防災組織と消防団が相互に連携した
消防・救助活動の展開
日常時
→
消防団による様々なアドバイス
(防災に対する知識・技術の向上)
(1)消防団の特性と地域防災における役割
消防団は、地域に根ざした消防防災機関として、要員動員力及び即時対応力に優れ、
火災予防、初期消火訓練等を行っているため、消防防災に関する知識及び技術を有し、
地域の防災力として大きな役割を果たしている。
- 70 -
こうしたことからも、消防団は地域防災力の向上に不可欠であり、また地域に密着
し住民との一体性を持った組織であるため、自主防災組織が消防団と連携を図ってい
くことは特に重要である。
○ 地域密着性・・・・・消防団員は、地域の住民であることが多く、地元の
事情等に通じ地域に密着した存在
○ 要員動員力・・・・・団員数は、かつてより減少しているものの、なお、
全国で約 88.5 万人と、常備職員の約 5.5 倍の人員
を有する。
○ 即時対応力・・・・・消防団員は、日頃から教育訓練を受けており、災害
発生時には即時に対応できる能力を保有している。
(2)消防団と連携した活動
自主防災組織と消防団の連携にあたっては、自主防災組織の活動状況等やそれぞれ
の地域の実情により異なってくるものと考えられるが、主として自主防災組織が行う
防災訓練や消火訓練、自動体外式除細動器(AED)を使用した応急手当等について、
消防団員がノウハウの提供等の支援を行うアドバイザーとして、貢献していくことが
挙げられる。
実際に自主防災組織が消防団と連携して活動する際は、主に次のような指導を行う
例がみられる。
○ 防災知識の普及啓発
○ 家庭内防災対策の指導
○ 防災訓練の指導
○ 防災マップの作成指導
○ 地域の危険物や消防水利、防災倉庫、避難地等の位置の把握
等
自主防災組織としては、日常の消火訓練はもとより、災害時を想定した救助・救出等
についても、消防団からアドバイスを受けながら知識、技術を身につけ、ともに地域防
災を担う集団として、災害発生時に自主防災組織のマンパワーと消防団の専門知識・
スキルを活用し、効果的な防災活動が行えるよう連携を図ることが重要である。
そのほか、地域の消防団員や消防団OBと普段から人的交流を図ることも、組織の
活性化や災害時に必要となる人材の把握として重要であると考えられる。
関連項目 → 消防団OBの自主防災活動への参画事例(P.107 ~)
- 71 -
4.地域の様々な団体との連携
地域防災力の向上においては、中核を担う自主防災組織が住民の防災意識を高め、自
発的な参加を促す活動を行うことが重要である。加えて、地域の様々な団体と連携した
幅広い活動を展開することによって、地域社会とのつながり、結びつきを強め、現代社
会に対応しうる新たな人的ネットワークの構築を図る必要がある。
また、自主防災組織の活動課題の解消、活動の活性化においても、こうした取組みは
有効な手法となる。
なお、他団体との連携にあたっては地域によって様々な組み合わせ考えられるが、主
なものとして、次のような連携が考えられる。
図2-18
地域の様々な団体との連携
小・中学校
高等学校・大学 等
連携 = それぞれの団体が普段行っている活動(得意分野)と自主防災組織
の活動(地域防災力)とを結びつけ、相互の得意分野で地域の防災
力を補完し合うこと。
- 72 -
(1)学校との連携 ① → 避難所運営・防災教育、人材育成
学校は地域の避難所に指定されていることが多く、災害が発生すれば多数の住民が
集まることが予想される。
避難所の運営については、災害時に秩序ある運営が図られるよう、施設管理者であ
る学校と、運営を担う市町村及び自主防災組織が十分連携して行う必要があり、避難
所の運営計画に基づき、災害ボランティアの参画や協力を得て、避難所の運営訓練を
実施することが重要である。
一方で、災害等に対する知識や対処能力を子どもの頃から身に付けておくことが重
要であり、こうした知識や能力は、成人後においても、災害発生時の対応に資するも
のである。また、学校における防災教育を推進していくことによって、家庭や社会へ
の防災意識・知識の普及も期待される。
「地域の安全・安心に関する懇話会」
(平成 15 年 12 月)では、児童・生徒等を対象
とした、学校における防災教育の推進にあたっては、防災教育、人材育成の観点から、
学校・家庭・地域が連携した学校教育における防災教育への取組みが望まれるとされ
ており、実施への方策として次のように報告されている。
○ 防災の視点を持って地域をまわり、防災スキルを習得、防災活動体験を実施
子どもたちが地域の一員として、地域への愛着や自分たちのまちを災害か
ら守るという意識を醸成する。
○ 学校における自主防災組織の設置
町内会のみならず、学校においても教員が自主防災組織メンバーとして被
災時に学校や周囲の地域社会に貢献することを通じ、児童・生徒に対して
社会貢献の意義について教育する。
○ 「総合学習の時間」における防災教育の実施
総合学習の時間等を活用して、副読本により最低限必要な知識は習得でき
るようにしたり、PTAや地元企業の協力を得ながら、福祉やコミュニテ
ィ活動等の日常活動に子ども達を参加させる。
○ 授業の一環としてのハザードマップの作成
授業において、地域の地形や想定される災害について理解を深め、実際に
どの地域にどのような被害が生じ、それに対応するためにはどんな予防策、
応急策をとるべきかについて議論を深める。
- 73 -
防災学習教材として、消防庁では平成 22 年 3 月に指導者用防災教材「チャレンジ!
防災48」を作成し、インターネット上でも公開している。また、インターネットを
活用した防災学習教材である「防災・危機管理 e-カレッジ」(一般用)や「こどもぼ
うさい e-ランド」(子供用)を開設している。
これらのほかにも、子ども向け、地域住民向けの様々な防災教材が作成されている。
こうした教材を活用しながら、学校や地域が協働して防災知識・意識を高める場を設
けていくことも重要である。
(2)学校との連携 ② → 若い世代の協力(即戦力)、防災知識、技術の支援
学校との連携では、前述のような避難所運営・防災教育、人材育成のほかにも、災
害時の人的協力(マンパワー)や専門的な知識や技術を活かした連携方法も考えられ
る。
特に、高校生や大学生は体力的にも即戦力となりうる人材であり、阪神・淡路大震
災以降、こうした「若い力」を地域の防災力として活用する動きが、各地でみられる
ようになってきている。
また、地元の大学と連携することにより地域の災害危険箇所等の防災調査活動を通
じて地域の安全確保に貢献している例もみられ、こうした学校の人的・物的・知的資
源による、地域の防災力の向上が期待される。
図2-19
自主防災組織と学校との連携
災害時
→
避難所としての機能
資機材の活用
日常時
→
防災教育・人材育成の場
若い人材の活用(即戦力の人材)
防災に関する知識等による地域への貢献
関連項目 → 防災教材の活用(P.30)
学校との連携による活動事例(P.118 ~)
- 74 -
自分たちのまちの防災マップを作ろう
「防災マップづくり」は、子どもたちが楽しみながら、様々な人々とのふれあ
いを通じて、自分たちのまちについて知り、様々な知識を身につけてもらおうと
いう実践的防災教育プログラムである。
子どもたちは、自分たちのまちを実際に歩き、そこで発見した防災に関連する
施設などを地図に書き込んでいく。その際、自主防災組織や地域の方々がまち歩
きに参加して、
子どもたちに過去の災害の歴史や地域の防災体制などについてア
ドバイスすると、子どもたちの防災意識の一層の向上が期待できる。
なお、この「子どもたちによるまち歩き→マップづくり」という手法を利用し
て、災害ばかりではなく、日常的に気をつけなければならない交通安全や防犯の
視点からのマップづくりも実施されている。
社団法人日本損害保険協会では、
小学校の授業で防災マップづくりを行うため
のマニュアル『
「ぼうさい探検隊」授業実践の手引き』を発行し、小学生が作成
したマップを対象とした「小学生のぼうさい探検隊マップコンクール」を毎年実
施している。
また、消防庁が作成している指導者用防災教材
「チャレンジ!防災48」
でも、
自分たちのまちを歩いて防災マップを作るメニューを紹介している。
写真
「ぼうさい探検隊」授業実践の手引きと活動の様子
■ 「ぼうさい探検隊」は、子どもたちが楽しみながらフィール
ドワークを行い、マップに落とし込んでいく。
■ 小学校の授業で「ぼうさい探検隊」を実施するための具
体的な内容を記した手引きも発行されている。
関連項目 → 自分のまちを知る活動(P.170 ~)
- 75 -
(3)民生委員・児童委員、社会福祉協議会、福祉団体等との連携
→ 災害時要援護者対策
災害時要援護者対策は、自主防災組織と民生委員・児童委員、社会福祉協議会、福
祉団体等とが連携を図り実施することが効果的である。自主防災組織に求められる役
割としては、平常時には、災害時要援護者の速やかな避難行動のために必要な情報を
把握し、災害時にスムーズに避難支援を実施できるよう実践的な訓練を行うことなど
が挙げられる。また災害時には、避難誘導や情報伝達等の実動部隊として活動するこ
となどが挙げられる。
地域内の災害時要援護者がどこに住んでいて、災害時に避難する際にどのような支
援が必要であるか、事前に把握しておくことが重要であり、そのためには、災害時要
援護者と普段から接する機会の多い民生委員・児童委員や福祉ボランティア、自助グ
ループ※、社会福祉協議会等の福祉関係団体等の信頼関係を生かした情報把握が有効で
ある。
図2-20
自主防災組織と社会福祉協議会、福祉団体等との連携
情報の連携・共有
近隣住民
民生委員
児童委員
自主防災
組織
社会福祉
協議会
福祉
ボランティア
福祉団体等
自助グループ
連携
災害時
要援護者
介護事業者等
(高齢者・障がい者等)
生活支援
サービスの提供
( 日常時 )
○ 災害時要援護者情報の把握
○ 近隣住民への協力依頼・専門的な人材の把握
○ 地域福祉・福祉ボランティア活動
( 災害時 )
○ 災害時における避難誘導や情報伝達 等
○ 避難所等での生活支援・心身のケア
※
自助グループとは「同じような困難を抱えた人同士が、お互いに支え合い、励まし合うなかから、課題の解決や克服を図
る」ことを目的に集う活動をいう。
- 76 -
なお、把握した災害時要援護者の情報については、必要に応じて更新し、地域の災
害時要援護者を支援する団体と共有しておくことが重要である。その際、個人情報の
取り扱いには十分配慮する必要がある。
また、地域活動を通じて、災害時要援護者の近隣住民等への災害時の協力を求める
ことも重要である。同時に、看護師、介護福祉士等の保健・医療・福祉の専門職や経
験者といった専門的な知識・技能を持った住民を把握しておくことも、災害時の支援
活動を円滑に行うために必要と考えられる。
阪神・淡路大震災を経験した神戸市においては、住民、事業所、行政が連携し、日々
の福祉活動等を通じて育まれた助け合いの絆を活かして非常時に備える「防災福祉コ
ミュニティ」といった取組みが行われている。
こうした「防災」と「福祉」が連携することによって、防災意識の啓発をはじめ、
災害時要援護者の情報共有、実践的な訓練の実施といった、災害時要援護者対策につ
いても有効な対策を講じることが可能となる。
- 77 -
先進事例にみる災害時要援護者の避難支援対策
消防庁では、全国の市町村や、自主防災組織など防災活動を行う地域住民の参
考となるよう、災害時要援護者の避難対策の具体的な 88 の事例を掲載した「災
害時要援護者の避難支援対策事例集」を作成している。
この中では、災害時要援護者台帳の作成事例、災害時要援護者の避難支援体制
を整備した事例、避難支援訓練の事例、実際の災害における支援の事例などを掲
載している。こうした事例は、災害時要援護者の避難支援に関する現場での課題
を一つひとつ解決していく際の参考になると考えられる。
また、消防庁では、災害時要援護者の避難支援プランの作成の手引き「災害時
要援護者避難支援プラン作成に向けて」~ 災害時要援護者の避難支援アクショ
ンプログラム ~を作成している。この中では、次のような点を避難支援のポイ
ントとして挙げている。
表2-9
災害時要援護者避難支援プランの項目と策定のポイント
避難支援プランの項目
策定のポイント
避難支援プラン策定の体制づくり
協議会等の結成、活動計画の策定
要援護者の特定
対象者の基準
要援護者情報の把握
情報収集方法、情報共有方法、要援護
者情報の管理
情報伝達体制の整備
要援護者への情報伝達、支援者への情
報伝達、関係機関の情報伝達
避難支援者の決定
避難支援者の決定・周知、具体的な避
難支援の実施
要援護者支援に係る訓練
避難支援プランの周知、啓発訓練
(災害時要援護者の避難対策事例集:
http://www.fdma.go.jp/neuter/topics/houdou/2203/220330_15houdou/01_
houdoushiryou.pdf)
(「災害時要援護者避難支援プラン作成に向けて」~ 災害時要援護者の避難
支援アクションプログラム ~:
http://www.fdma.go.jp/neuter/topics/houdou/180412-3/180412-3puran.pdf)
関連項目 → 災害時要援護者対策(P.48 ~)
災害時要援護者対策の活動事例(P.138 ~)
- 78 -
(4)災害ボランティア、社会福祉協議会との連携
→災害ボランティア活動の受入れ・サポート
災害ボランティアの活動は、他の公的な活動では実現しにくいきめ細かな対応がで
きるところにその持ち味があり、災害発生後の被災地の状況にあった活動が期待され
ている。また受入れ側となる被災地としては、土地勘のない災害ボランティアに対し
て、的確に作業等を依頼・指示を行う必要がある。
こうした災害ボランティアが気持ちよく活動し、また被災地が気持ち良く災害ボラ
ンティアを受入れるためには、どの様にお互いの意思疎通を図るかがポイントとなる
が、その解決策の一つとして、地域の被害状況やどのような活動が求められているか
等の情報を、地域事情に詳しい自主防災組織等が災害ボランティアや社会福祉協議会
に伝えるなど、緊密に連携をとることが挙げられる。
また、大規模で長期化するような災害では、被災者の個人的なニーズが増大し、救
援活動全体の中でも質・量ともに重要な部分を占めるようになることから、地域住民
に災害ボランティアの情報を周知し、ニーズの把握や作業への立会いを通じて、何が
問題となり、どのように対応するかを自主防災組織が把握する必要がある。
図2-21
一般的な災害ボランティアと自主防災組織の関係
復旧支援
調整等の依頼
災害ボランティアの周知
作業の立会い
ニーズの確認
活動資機材の確保
ボランティアの調整
ニーズの伝達
復旧支援活動
- 79 -
なお、自主防災組織の災害対応と災害ボランティアの連携のポイントについて時系
列で整理すると、次のようにまとめることができる。
表2-10
状
自主防災組織の災害対応と災害ボランティアの連携のポイント
況
連携のポイント
災害直前
災害直後
(1)災害情報の収集
(2)地域住民の助け合いによる自主避難・避難
(3)被害状況の把握
災害復旧
(4)災害ボランティアの復旧支援活動の受け入れ
□ 災害状況を説明し、災害ボランティアの受け入れ内容を協議する
□ 災害ボランティアのリーダーに相談する
□ 複数の住民に相談、もしくは試しに作業してもらう
□ 通行可能な道路を確保する
(5)災害ボランティア活動への対応、サポート
□ 地域内の救護ニーズを取りまとめる
□ 災害ボランティア活動に立ち会う
□ できるだけ具体的に作業を依頼する
□ 無理にボランティアを受け入れる必要はない
□ 復旧状況を確認する
□ ニーズの掘り起こしが必要な場合がある
□ 関係機関のキーパーソンと協議する
(6)住民相互の助け合い
災害復興
(7)地域が中心になった復興の取組みに向けて
□ 地域主体の復興活動
□ 新たな防災活動への取組み
そのほか、災害ボランティアを受け入れる際、どのようなニーズが地域に見込まれ
るか、どのようにして地域に求められる人材(マンパワー)に関する情報を収集する
か等について日頃から検討し、地域の災害ボランティアコーディネーターや社会福祉
協議会と災害時の連携について、事前に確認、調整を図っておくことも重要であると
考えられる。
- 80 -
災害ボランティアのスムーズな受け入れのために
平成 7 年 1 月 17 日に発生した阪神・淡路大震災では、全国から延べ約 138 万
人の災害ボランティアが被災地で活動し、
「ボランティア元年」と呼ばれるよう
になった。
平成 7 年 12 月に改正された災害対策基本法では、ボランティアの活動環境の
整備が防災上の配慮事項として位置づけられた。また消防機関をはじめ、広く国
民が、災害時におけるボランティア活動や自主的な防災活動についての認識を深
めるとともに、災害への備えの充実強化を図ることを目的として、
「防災とボラ
ンティアの日」
(1月 17 日)、
「防災とボランティア週間」
(1月 15 日から 21 日)
が創設されている。
被災地における多様なニーズに対応したきめ細かな防災対策を講じる上で、
ボ
ランティア活動は非常に重要な役割を担っており、近年発生した地震災害や風水
害でも数多くのボランティアが被災地で活躍している。
一方で、過去の災害において、全国から集まる災害ボランティアが被災地の事
情等に詳しくないことや、
被災者が災害ボランティアの受け入れに慣れていない
ことから、
災害ボランティアの活動が必ずしも円滑に行われていない場合もみら
れた。
そこで消防庁では、
近年の災害において災害ボランティアと自主防災組織等の
連携が図られた事例を紹介する「災害ボランティアと自主防災組織の連携に関す
る事例集」を作成・公開している。
また内閣府では、地域でボランティア活動をスムーズに受け入れる際の知恵を
まとめたパンフレット「地域の『受援力』を高めるために」を作成している。
こうした事例やアドバイスを参考にしながら、
災害時にどのようにボランティ
アの人たちを受け入れるかを平常時から検討しておくことが、地域防災力の向上
につながる。
(災害ボランティアと自主防災組織の連携に関する事例集:
http://www.fdma.go.jp/neuter/topics/houdou/180516-1/180516-1houdou.pdf)
(地域の『受援力』を高めるために:
http://www.bousai-vol.go.jp/juenryoku/)
- 81 -
(5)婦人(女性)防火クラブとの連携 → 家庭における安心・安全活動
日中の防災活動の支援
女性を中心にした防火・防災活動の組織化は、昼間男手の少ない地域という背景と、
防火・防災に関心のある女性が集うという機会が組み合わさった場合が多いが、昼間
の災害に備えるという視点からも、防災活動へ女性が参画し、こうした意識の高い地
域の他団体との連携のもと、自主防災組織の活性化を進めることも検討するべきであ
る。
家庭の主婦等を中心に組織された自主防災組織である婦人(女性)防火クラブは、家
庭における防火の分野で、
「家庭での防火」を合言葉に火災予防の知識を習得し、地域
全体の防火意識の高揚を図るものである。
婦人防火クラブの活動は、一般的には、火災予防の知識の習得、地域住民に対する
防火啓発、初期消火の訓練等家庭防火に役立つ活動が中心だが、現在では、
「家庭防火」
だけに留まらず、地域の実情や特性を生かした防火防災活動や高齢化社会の到来に伴
う見守り、声かけといった福祉活動等、安全な地域社会を創るための活動を展開する
ところもあり、その活動形態は各地域クラブによって多様なものとなりつつある。
こうした婦人(女性)防火クラブと連携した活動では、各家庭の防火診断や住宅用
火災警報器の普及啓発、家具の転倒防止、初期消火訓練、防災意識の啓発といった、
家庭内での安心・安全活動を行うほか、災害時においては、阪神・淡路大震災の際に、
婦人(女性)防火クラブにより初期消火活動や避難所での炊き出し等が活発に行われた
ことから、地域の活動要員として、また避難所での炊き出し支援等での連携が考えら
れる。
図2-22
婦人(女性)防火クラブと自主防災組織の連携
災害時
→
日中災害時の活動要員
避難所での炊き出し支援
日常時
→
防火診断や住宅用火災警報器の普及啓発、
家具の転倒防止、初期消火訓練、防災意識
の啓発等(家庭内での安心・安全活動)
- 82 -
(6)企業(事業所)との連携 → マンパワー(人的協力)
物資、資機材による協力(応援協定)
災害時に地域の一員として企業(事業所)の応援・協力が得られれば、救助・救出
活動等をより効果的に行うことができるため、自主防災組織としても積極的に連携を
図る必要がある。
なお、災害時における自主防災組織と企業(事業所)との連携としては、主に従業
員の地域防災活動への参加や企業(事業所)の保有する物資や資機材による協力が考
えられる。
図2-23
企業(事業所)と自主防災組織の連携
災害時
→
事業所(企業)と協力した災害対応
(人的支援・資機材貸し出し等の応援協定)
○ 物資や資機材の周辺の自主防災組織への
供与・貸与
○ 救助・救出、避難活動等への従業員の協力
○ 避難所としての用地活用
○ 工具類の貸与や重機車両の活用
また、企業(事業所)によっては、事業所単位で自主防災組織を設けている場合も
あることから、自主防災組織としては事業所が実施する防災訓練に協力する等、日頃
から連携を図ることも必要である。
そのほか、災害時において企業(事業所)は、次のように業種ごとに様々な役割を果
たすことが可能となる。次のように、地域の実情や想定される支援に応じて、あらかじ
めこうした企業(事業所)と協力体制を築いておくことも検討すべきである。
○ 旅行滞在者の一時避難場所(ホテル・旅館)
○ 無線を使った情報伝達機能(バス・タクシー会社)
○ 災害ボランティアの現地案内(タクシー会社)
○ 物資の輸送(運輸業)
○ 物資の供給(小売業)
- 83 -
ただし連携については、個々の企業の考え方や取組みが異なるため、まずは地域内
に連携可能な企業(事業所)があるかを把握したうえで、働きかけることが重要であ
る。その際、企業(事業所)が協力できる防災活動の内容等について応援協定を締結
する等、双方が事前に確認しておく必要がある。また応援協定については、非常時に
おける対応を包括的に検討するために、市町村へも働きかけ、災害発生時の連携のあ
り方について自主防災組織、企業(事業所)、市町村で協議することも検討すべきであ
る。
(7)医療機関との連携 → 救護・搬送への協力
災害時には多数の傷病者の発生が予想され、自主防災組織としては、次のような救
護や搬送への協力が求められる。
○ 明らかに軽傷と判断できる負傷者の応急手当
○ 安全な場所への搬送
そのため、自主防災組織としては、応急手当の仕方や発災時に負傷者を搬送する救
護所や救護病院の場所を事前に把握し、一度に多数の負傷者を抱えパニックにならな
いよう、事前に医療機関等との災害時における協力関係をつくるための検討も必要で
ある。
そのほか、多数の負傷者が発生している災害現場においては、※トリアージ(治療の
優先度判定)が行われることもあるため、負傷者の状況を把握のうえ、応急手当や搬
送を実施する必要があると考えられる。
関連項目 → 様々な団体との連携活動事例(P.99 ~)
※
トリアージ(治療の優先度判定)とは、フランス語で選り分けるという意味であり、医師等が、傷病者をケガや病気等の
緊急度・重症度によって分類し、搬送や治療の優先順位を決めることである。重症者(赤)
、中等症者(黄)
、軽傷者(緑)
、
死亡または全く助かる見込みのない重篤な者(黒)に分類され、色で表示された識別札で判別される仕組みになっている。
- 84 -
第3章 地域コミュニティによる
安心・安全の構築に向けた取組み
第3章
第1節
地域コミュニティによる
安心・安全の構築に向けた取組み
地域の安心・安全の確保に向けて
1.地域の力を集結させた安心・安全なまち
身近な生活空間における安心・安全の確立が喫緊の課題となっている現代の地域社会
において、
「安心で安全なまちで暮らしたい」という思いは、地域住民の誰もが持ってい
る願いである。こうした地域の意識を醸成し、防災をはじめとする地域の安心・安全に
ついて幅広く活動を進めていくことが重要となる。
また、地域防災力の向上のためには、こうした安心・安全への地域のコミュニティ意識
とともに、自主防災組織による様々な活動のほか、他団体との相互の得意分野において、
地域の防災力を補完し合う連携が重要であることは、前章までに述べたとおりである。
しかしながら、大規模な災害が発生した場合、地域コミュニティが持つあらゆる力が
必要となることから、近隣の自主防災組織間の連絡を密にし、消防団、婦人(女性)防
火クラブ等の他団体と総合的な連携を図ること、すなわち地域住民の力を集結させ、小
学校区等のより広域な単位で災害の様々な状況に対応できる体制を構築することが重要
である。
2.
「地域安心安全ステーション」の考え方
地域において、近隣の自主防災組織が連携し、また防災と防犯の連携を基本としたネ
ットワークを構築することにより、地域防災力の一層の向上が期待される。
「地域安心安全ステーション」とは、地域コミュニティの住民パワーを生かし、自主
防災組織を核に地域の様々な団体が広域に連携して地域の安心・安全を構築する取組み
であり、自主防災組織相互の連携、自主防災組織と関係団体との連携(ネットワーク化)
というソフト面と、地域における防災活動拠点としてのハード面の位置づけを有した概
念である。広域的な活動範囲とネットワークを効果的に活用することで、個々の自主防
災組織の活性化、地域の各種団体との連携による幅広い人材の防災活動への取り込み、
避難所運営への参画等を行うことが考えられる。
- 87 -
図3-1
「地域安心安全ステーション」の考え方
○ステーションへの情報提供、
ノウハウ提供 等
小学校区単位で整備
消防
消防
連携
○地域パトロールの協議
○活動の支援 等
警察
警察
公民館や消防団詰所
等を活用
市町村
自主防災組織など
自主防災組織など
各種コミュニティ組織
各種コミュニティ組織
救出救護・情報連絡・避
難誘導・防犯等のため
資機材等を整備
市町村・消防・警察と
協力し、地域安心安全
パトロールを実施
「地域安心安全ステーション」
(地域の安心・安全活動の拠点)
(例)応急手当講習等を実施
(例)防災訓練
の実施
(例)安心・安全のシンボ
ルカラー「青」の回転灯
を使用したパトロール
なお、このように地域で連携した活動を行う範囲としては、地域の実情にあった単位
で行われることが必要であり、大規模災害への備えとして広域での活動が行える範囲が
有効であることからも、地域の避難所として活用される学校等を単位(小学校区等)と
した連携、活動を実施していくことが望まれる。
また、防災活動では避難所運営への参画の面でまとまりやすいという点に加え、児童
を守るための防犯活動の面で小学校やPTAと連携できるという観点から、小学校区単
位での活動は有効とみられる。
地域安心安全ステーションに関するホームページ
消防庁では、地域の安心・安全を構築するための取組み「地域安心安全ステー
ション」を全国に普及することを目的として、平成 16 年度から平成 20 年度まで
「地域安心安全ステーションモデル事業」を実施し、活動団体として計 412 団体
を指定した。また、平成 18 年度から平成 20 年度にかけて、事業実施団体のリー
ダーや有識者による講演等により地域安心安全ステーションへの理解を深める
出前講座やシンポジウムを開催した。
さらに、優れた取組みをしている団体の事例などを参考にして頂けるよう、消
防庁では地域安心安全ステーションに関するホームページを作成し、平成 19 年
4 月から公開している。主な内容としては、モデル事業実施団体の活動概要や優
良事例の紹介、シンポジウム等の消防庁の事業紹介である。
(地域安心安全ステーション:http://www.fdma.go.jp/anshin/)
-88-
第2節
具体的な連携の進め方
1.自主防災組織の設立と充実が不可欠
地域において協力して安心・安全のための活動を進めるにあたっては、何よりも地域
コミュニティが機能していることが必要であり、そのためにも地域防災活動の核となる
地域コミュニティとしての自主防災組織が必要となる。
したがって、地域に自主防災組織が設立されていない場合は、早期設立へ向けて取組
み、また既に自主防災組織が設立されている場合は、日常的な活動等を活発に行う等、
地域に活動の見える団体として組織や活動の充実に努めることが不可欠である。
2.地域における連携・ネットワーク化
地域で安心・安全のための活動を進める際に重要なことは、地域の結びつき(コミュ
ニティ)の強化であり、
「地域を守る」という目的に向かって、地域住民が一体となって
取り組む環境づくりが求められる。またこうした地域における自主防災組織や他の活動
団体が相互に連携し、ネットワークをつなげる必要がある。
地域における連携・ネットワークを構築する際は、連携する団体に対して目的・意義
を説明して参加を呼びかけるとともに、活動におけるそれぞれの役割分担等について十
分に説明・協議し、理解を得ることも重要である。
なお、地域における連携・ネットワークづくりのポイントとして、次のようなことが
挙げられる。
(1)連携の中心となる団体
連携の中心となる団体としては、自主防災組織の中核を担っている自治会(町内会)
や消防や警察、地域の防犯団体等が考えられる。また地域における消防防災の専門的
知見を有する消防団の参画も望まれる。
-89-
また、地域特性や団体が取り組んでいる事業との関係から、次のような多様な団体
の参画も考えられる。
○ 児童・生徒を守る防犯活動に力を入れて取り組んでいる団体として、小
中学校やPTA。
○ 災害時要援護者対策に力を入れて取り組んでいる団体として、社会福祉
協議会や民生委員・児童委員等。
○ 災害時を考慮した観光客対策を進める地元観光協会。
○ 地域の小中学校のみならず、被災時の即戦力として高校や大学の一部を
構成員とした幅広い活動の実施。
(2)様々な連携団体
地域の安心・安全に向けては、構成団体以外にも様々な団体と連携が必要であり、防
災及び防犯活動を実施する上でまず連携すべきなのは、消防署(団)及び警察署(交
番等含)である。消防署(団)及び警察署(交番等含)は、災害や犯罪の発生時に現
場で対応する機関であるため、災害や犯罪の現場に対しては最も詳しい専門家である
ことから、的確なアドバイス等により事業が効果的に実施できる。
そのほか、地域防災力の向上において連携を図るべき、学校や社会福祉協議会等の
福祉関連団体、災害ボランティア、婦人(女性)防火クラブ、地元事業所等と共同で
事業を実施することが必要である。
(3)防災コーディネーター
組織内での意思疎通や他の団体との連携を図ることは、安心・安全のための活動を
効果的に実施していく上で非常に重要な要因となる。このため、組織間の連携を担う
人物(以下「防災コーディネーター」という。
)の役割が必要不可欠となる。
また防災コーディネーターは、単に団体間の調整や連絡を図るだけでなく、参加す
る他団体の活動と防災意識を結びつけ、防災意識の醸成を図り、地域住民の参加を促
す役割も担っている。
地域においては、消防団員や防災を担当した市町村職員(OB含む)等専門的な知
見を有する人材も多く、また、こういった方々はこれまでにも地域における防災活動
に参画し地域住民や地域の各種団体との関わり合いが深いことから、防災コーディネ
ーターとして適任と考えられる。
-90-
(4)定期的な会合の機会づくり
地域ぐるみで安心・安全のための活動を実施していくうえで、防災コーディネータ
ーという調整役が欠かせないのは前述したとおりであるが、防災コーディネーターが
いるだけで団体間における意思の疎通が円滑になりネットワークが強化されるという
わけではない。各団体間で共通認識を持つことが必要であり、そのためには連携団体
で構成する協議会等を設置して定期的に会合を持つことが効果的である。
3.地域の活動の場(活動拠点)づくり
自主防災組織の活動上の課題の一つとして、活動拠点の不足が挙げられている。地域
で安心・安全のための活動を効果的に進めるにあたっては、活動拠点(=ステーション)
を確保することが重要である。
ステーションの具体的な選び方としては、例えば公民館や学校、その他の公的施設等、
災害時の避難場所としても指定されており、平常時のみならず、災害時にも活動の拠点
となる場所が考えられる。
また、ステーションは活動の拠点、連携の拠点となる場所であると同時に、地域のコ
ミュニティを育む場として、広く地域の住民に利用されるような場所である必要がある
ことから、設置位置は、比較的地域のどこからもアクセスしやすい場所が望ましく、公
民館や小学校等の公共施設、地域の防災センター、集会所といった誰もが気軽に利用出
来る施設をステーションとして選定することが望ましい。さらに、ステーションを地域
で 1 箇所設置するだけでなく、広域的な活動をサポートする意味から複数箇所設置する
ことが有効な場合もある。
-91-
4.モデルケースとステーションの機能
地域ぐるみで安心・安全のための活動を実施する際の連携のモデルケースを下図に示
す。複数の自主防災組織を中心に組織された団体を核に、地域の関係団体と幅広い連携
(ネットワーク)を構築することで、防災・防犯活動をより効果的に進めることができ
る。
図3-2
地域での連携のモデルケースとステーションの機能
モデルケース
警察署
ステーション
ステーション
婦人 (女性) 防火クラブ
防災コーディネータ -
地域の消防団員(OB
含)が積極的にステー
ションの運営に関わる
ことにより組織が強化
自主防
消防署・団
自主防
連合組織
自主防
自主防
防犯ボランティア
災害ボランティア
民生委員・児童委員
社会福祉協議会
学校
医療機関
日本赤十字
NPO・事業所
※ 地域防災力を向上させる観点から、自主防災組織の連合体がステーションの中核を担うことが
効果的であり、モデルケースとした。
ステーションの機能
《平常時》
○活動拠点の確保
○防犯関係者等幅広い人材の防災活動への取り込み
○自主防災組織の活性化
○各種機関と連携した避難計画の策定
○避難計画をベースにした訓練の実施
《発災時》
○避難所運営への参画
○被災状況等の情報発信
-92-
5.地域安心安全ステーションモデル事業の実施と成果
消防庁では、平成 16 年度から平成 20 年度まで地域安心安全ステーション整備のモデ
ル事業を実施し、モデル事業の実施団体として 412 団体を指定した。
表3-1 地域安心安全ステーション事業指定団体数(平成 16~20 年度)
年
度
モデル事業実施団体数
平成 16 年度
15 団体
平成 17 年度
100 団体
平成 18 年度
103 団体
平成 19 年度
103 団体
平成 20 年度
91 団体
事業の成果として、地域内での連携が密になることによる「コミュニティの強化」と
いった内容が多く報告されている。コミュニティの強化は一言で言うと、地域に住む住
民が一体となるということであり、防災や防犯等の地域の安心・安全の確保という目的
に地域ぐるみで取り組む環境が出来てきたということである。
これまでのモデル事業では、自主防災組織が抱える課題への取組みとして次のような
活動成果が報告されている。
① 会議や訓練の準備活動に使う活動拠点の確保のために
これまでの町内会単位での自主防災活動としては、公民館等を活動拠点として活用
することは難しかったが、より広域な範囲で様々な団体と連携した活動を行うことに
より「防災活動はコミュニティ活動の一環」との認識が深まり、活動拠点としての活
用が認められたといった事例や防犯との連携により小学校等の活用につながった事例
がある。
② 防災活動の要員確保のために
小中学校やPTAと連携し登下校時のパトロール等に取り組むことにより、これま
では防犯活動のみに参加していた子どもをもつ世代が、地域の安心・安全活動の一環
として防災訓練にも参加するようになり、防災活動への理解が深まった事例が多くあ
る。
具体的な取組みとしては、登下校時のパトロール隊員の募集用紙に防災会への入会
についての欄も設けることによって防災会入会者の増加につなげた事例がある。
-93-
また、新たに関心を持っていただいた方々が継続して活動に参加するように、防災
や防犯という堅苦しい行事ばかりだけでなく、レクリエーションや地域のコミュニテ
ィを深める意味での遊びの要素をうまく取り入れている団体が多くみられる。
③ 防災活動に対する住民の意識啓発のために
小学校区単位等の広域で、様々な団体と連携して活動することにより、地元新聞等
の報道機関に取り上げられ、地域住民に活動内容をPRしやすくなったという団体が
多くみられる。
また、消防だけでなく警察からの支援も受けやすくなったため、地域イベント等に
消防・警察が参加し防災・防犯について説明を聞く機会が増えたといった事例がある。
さらに、小学校区等の単位で自主防災組織相互の連携が図れたことにより、地域に
どのような防災資機材があるのか、地域の他の自主防災組織がどのような活動をして
いるのかが分かった、地域のなかで自主防災組織が結成されていない町内会の住民の
意識が変化し自主防災組織結成の気運が高まった事例もある。
④ 防災活動を行うリーダーの育成に向けて
自主防災組織がこれまで抱えてきた役員の高齢化やそれに伴う後継者やリーダーの
不足等の問題はすぐに解決できる問題ではないことから、今後の課題としている団体
が多い。
ただし、こうした問題に対しては、今後、積極的に防災に関する講習会等の受講を
促し、リーダーの育成を図っていくことにより解決していくとしている団体が多くみ
られた。
⑤ 防災活動のマンネリ化の解消に向けて
事業に工夫を凝らしている例としては、地域の学校で行われている運動会の競技種
目に防災の要素を盛り込んでもらうといった事例や地域のイベントで簡単な防災訓練
を実施したり、防災講話を盛り込む等の事例がある。
また、年に数回の防災訓練等の防災活動だけでなく、毎日の登下校時のパトロール
等の防犯活動を行うことで活動が継続しやすくなったとしている団体が多くみられた。
そのほかでは、防犯との連携による成果として、防犯パトロール等の日常活動を通
じて顔を合わせる機会が増え共通認識の形成がよりしやすくなったといった事例や周
辺地域に影響が及んだ例として、近隣の町内会で新たに自主防災組織を立ち上げる動
きがみられた事例もある。
-94-
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