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ビジネス航空と MRO における日本の選択肢 日本の選択肢

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ビジネス航空と MRO における日本の選択肢 日本の選択肢
ビジネス航空と MRO における日本の選択肢
10 月から C-ASTEC 内の分科会が相次いで立ち上がってきた。本稿を執筆している 10
月 20 日現在までに、ビジネス航空研究会と MRO(航空機の受託整備産業)研究会が相次
いで第1回目の委員会を開催したが、いずれも議論が盛り上がり、まずまずの滑り出しを
見せた。
この分科会は、経済産業省の地域企業立地促進等事業補助金を活用した中部地域航空宇
宙関連産業集積活性化活動事業の一環。従前の航空宇宙関連産業の育成事業を継承・発展
させる形で、2010 年度からスタートしたものだが、航空機を造る側の産業だけでなく、使
う側の産業も含め、航空機産業が発展する社会基盤を総合的に整えていく方向へと、ベク
トルを切り替えたことが特徴となっている。どれだけの成果を上げられるかは未知数だが、
“ものづくり”一辺倒だった従来路線から脱皮を図った意義は大きい(次ページの全体図
を参照)。
分科会の詳細は、いずれお伝えする機会がめぐってくるだろうが、今回はビジネス航空
と MRO について考察してみる。
★ 日本の選択肢
ビジネス航空と MRO の育成を目指す上で、日本はまず次の選択肢に直面する。
<ビジネス航空>
① 日本企業による利用を増やす
② 海外からの飛来機を増やす
<MRO>
① 日本国内で MRO の成立を目指す
② 海外の MRO 市場への食い込みを目指す
いずれも日本ではほとんど存在しない産業であるため発生する選択肢だが、どちらを選
ぶかによって、その後の議論は全く異なってくる。
まずビジネス航空だが、②は①に比べ、既にビジネスジェットを使っている海外企業を
呼び込めば良いだけなので、手っ取り早いように映る。実際に愛知県航空対策課は県営名
古屋空港開港当初から、地元企業へのビジネスジェットの利用促進よりも、海外ビジネス
ジェットの誘致に比重を置いてきた。
民間航空機産業全体図
★ MRO(航空機受託整備産業)
★ 航空機製造業
● 完成品航空機メーカー
● 航空会社系 MRO
● 各種部品メーカー
● メーカー系 MRO
● 独立系 MRO
★ ビジネス航空
● ビジネスジェット専用国際空港
● FBO(ビジネスジェット専用サービ
ス・ステーション)
● 運航事業者
● 観光旅行者
● 出張ビジネスマン
● 救急患者
● 里帰り旅客
● 政府要人
● 測量士
● 出張ビジネスマン
● 富裕層
● 報道関係者
──など
──など
● アマチュア操縦士
──など
★ 定期航空
★ 一般航空(General Aviation)
● 定期便空港
● 専用空港、FBO
● 定期航空会社
● ドクタージェット、ドクターヘリ
● 測量航空、報道ヘリなど
● 遊覧飛行、民間航空クラブ、航空
スクールなど
★ 航空機製造業
★ MRO
★ 航空機製造業
★ MRO
● 完成品
● 航空会社系
● 完成品
● 航空会社系
● 各種部品
● メーカー系
● 各種部品
● メーカー系
● 独立系
● 独立系
↑民間航空機産業の全体図。グレー部分がマーケット。青字部分は日本に存在しないか、著しく
未発達な分野。航空機製造業も MRO も、“航空機を使う産業”の周辺産業として発達する
この“一見すると手っ取り早そう”というところに、選択肢②の落とし穴がある。ビジ
ネスジェットを呼び込むには、前提として日本経済が魅力と国際的影響力を維持していな
ければならないが、今やこの部分がぐらついている。
「我が国の企業の多くが、アジアで真っ先に訪問するのは中国や韓国。日本は時間に余裕
があれば寄る程度」という言葉は、複数の国の政府ないし公的機関関係者から聞いている。
その理由もおおむね共通しており──
● 意思決定が遅すぎる
● 意思決定権と責任の所在が不明確
● 時間をかけて考えても、結局最後は「買わない・投資しない」
● 買わない・投資しない理由がよく分からない(合理性が見受けられない)
──など。
実際、県営名古屋空港への海外ビジネスジェットの飛来数は、金融危機以前と比較して
大きく落ち込んでいる(07 年度は約 150 機、対する 09 年度は 67 機)。諸外国では、金融
危機後はむしろ長距離ビジネスジェットのフライト量が増大しているのだから、原因は日
本固有のものだと考えた方が良い。
成田・羽田が最近少しずつ受け入れ環境を改善してきているので、従来は渋々名古屋か
ら入国していたビジネスジェットが、東京に直行するようになったことも一因だが、日本
経済自体への関心が失われつつある今、東京でも蓋を開けてみれば案外……という可能性
は十分にある。
↑キューバやスペインなど3カ国から県営名古屋空港に飛来したビジネスジェット。こうした
光景は、最近ではめったに見られなくなってきた
したがってビジネス航空の発展には、選択肢①を避けては通れない。ビジネスジェット
を使いこなすことは、日本経済の強化というテーマからも重要だ。
たとえば韓国では現在、約 10 機のビジネスジェットが導入されており(日本のビジネス
ジェット就航機数は公式には 55 機とされているが、他国ではビジネスジェットにカウント
されないプライベート機やマスコミ機が含まれているため、他国と同じ基準でカウントす
れば 10 機程度に絞り込まれる)、2011 年内には 20 機に倍増する見通しという。
韓国を代表する複数の有力企業が、旅客機を改装した大型ビジネスジェットを導入して
おり、各社の経営者たちは常に地上とのコンタクトを維持し、打ち合わせを重ねながら世
界中を飛び回り、ビジネスに取り組んでいる。
また、中国は 2009 年だけで、約 50 機の長距離ビジネスジェットを輸入した。
◆ 企業競争力強化ツールとしてのビジネスジェット
移動時間も会議・商談に活用し、ビジネスを生み
定期便
ビジネスジェット
困難
可能
不可能
可能
困難
可能
困難
可能
ほぼ不可
可能
不可能
可能
出していく
複数の海外都市を1日で訪問し帰国する
製品トラブル時などに、責任者を即座に顧客のも
とに直行させる
工場などでの緊急事態に、対処できる人員を即座
に送り込む
テロ発生直後の混乱下でのフライト
フライト中に緊急事態発生の報を受けたとき、す
ぐに行き先を変更できる
先進・新興諸国の中で、いまだにビジネスジェットがほとんど活用されていない国は日
本だけと言ってもいい。国内市場は先細り、近隣諸国が急速に経済発展を遂げる中、日本
企業も国際市場で、諸外国の同業他社と競争していかなければならない。ライバルたちが
上記のような利点を活用して行動する中、日本企業はどう対抗していくつもりなのか?
ここでも日本企業のリアクションは、前ページで挙げたものと共通する。選択肢②は、
ますます遠のいていくことになる。
★ 飛行機に触れない日本勢──技術優位はいつまで?
次に MRO について考えてみよう。
日本国内で MRO をおこなうことは、現時点ではほぼ不可能だ。2ページの全体図で示し
たように、“航空機を使う産業”の規模が小さすぎる日本では、MRO の発展に必要なマー
ケットが確保できない。
ほかにも次のようなハードルがある。
● 土地が高すぎる
● 人件費が高すぎる
● 法規制が厳しすぎる
三菱重工なども 20 年以上前(つまり日本経済の絶頂期)、MRO 事業への進出を検証した
ことがあったが、およそビジネスにならないと断念している。それどころか日本の航空会
社は自社機の重整備(5年に1度くらいの頻度で必要となる最も大規模な整備)でさえ、
中国やシンガポールの整備会社に委託せざるを得ないのが現状だ。
上記3つのハードルは先進国であれば共通の悩みだが、欧米ではしっかりと MRO が成立
しているので、やはり日本固有の問題があると考えるべきだろう。
↑JAL の整備格納庫(羽田空港)。日本の航空会社が自力でできるのは、1~2年に一度の
頻度で発生する C 整備(点検整備)まで。5年に一度の重整備は海外委託している。技術自
体は保有しているが、国内でできる環境がないため、中国企業やシンガポール企業に技術を
教え、アウトソーシングするしかない。他社機材を整備する MRO はそもそも不可能
たとえば人件費。派遣エンジニアによる飛行機の整備が認められている諸外国(先進国
を含む)に対し、日本では基本的に正社員しか認められていない。飛行機の重整備は、機
材の購入時期により、年によって仕事量が大きく変動する。JAL のような大手航空会社と
なれば、仕事量の変動幅はエンジニア換算で数百人分にも達する。
正社員でなければ飛行機の整備が認められないとなると、最も高度な技術を持ったエン
ジニア数百人を、“当たり年”のためだけに常に雇用しておかなければならず、企業はたま
ったものではない。
MRO が発達した先進国のひとつにオランダが挙げられるが、オランダの MRO 企業は派
遣エンジニアを主戦力として活用している。報酬は高額だが、仕事のあるときだけ雇えば
良いので、経営効率は高くなる。
一方で、派遣エンジニアを活用できるのは、複数の企業を渡り歩いて、いろいろな企業
のやり方を経験してきた在野のエンジニアが豊富に存在するからでもある。JAL のやり方
しか知らないエンジニア、ANA のやり方しか知らないエンジニアばかりのタテ割り社会と
は、風土からして大きな差がついている。
↑オランダの MRO 現場。同国の民間航空機産業の年間売上高は約 3,000 億円。うち約 2,000
億円が MRO で稼ぎ出されており、産業規模は年々成長している
したがって日本が現状で取り得る選択肢は、
「海外市場に食い込む」しかない。各方面か
らのヒアリングを総合する限り、日本企業は新興国に対し、部品製造などの分野でまだ多
少の技術優位を維持していると考えてよい。PMA(メーカー認定品ではないが、航空当局
から使用を認められた汎用交換部品。アメリカ企業以外には製造が認められていないが、
アメリカ企業の下請けとして製造することは外国企業にも可能)市場への参入が検討され
ている背景も、ここにある。
とはいえ、日々大量の飛行機を使い、自国の空港内で飛行機に触れる機会に恵まれる先
進・新興諸国の企業に対し、自国の外で交換部品製造の下請けに甘んじるしかない日本勢
が、いつまでも競争力を維持することは不可能に近いだろう。
海外市場での交換部品製造の下請けは、あくまで急場しのぎの策であることを認識し、
飛行機の整備そのものをビジネスとして実践できる環境を、可能な限り速やかに国内にも
確立しなければならない。
文責:石原達也(ビジネス航空ジャーナリスト)
ビジネス航空推進プロジェクト
略歴
http://business-aviation.jimdo.com/
元中部経済新聞記者。在職中にビジネス航空と出会い、その産業の重
要性を認識。NBAA(全米ビジネス航空協会)の 07 年および 08 年大
会をはじめ、欧米のビジネスジェット産業の取材を、個人の立場でも
進めてきた。日本にビジネス航空を広める情報発信活動に専念するた
め退職し、08 年 12 月より、フリーのジャーナリストとして活動を開
始。ヨーロッパの MRO クラスターの取材を機に、C-ASTEC とも協
力関係が始まる。2010 年6月、C-ASTEC 地域連携マネージャー就任
(ビジネス航空研究会担当、非常勤)
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