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プロピレン増産に向け中国で相次ぐプロパン脱水素計画
JPEC レポート JJP PE EC C レ レポ ポー ートト 第 29 回 2013年度 平成 26 年 2 月 25 日 プロピレン増産に向け中国で相次ぐプロパン脱水素計画 昨年 6 月 30 日、ENEOS グローブが長期用 船している大型LPG タンカーのSUNNY JOY が、プロパンを満載して、天津渤化石化有限公 司 の プ ロ パ ン 脱 水 素 ( PDH: Propane Dehydrogenation)プラントがある天津港に到 着し、荷役を行った。そして 9 月 16 日、天津 1.プロピレンの需給動向 ············ 1 2.プロピレン生産設備 ··············· 2 2.1. 在来法プロピレン ··········· 3 2.2. MTO/MTP プラント········ 5 2.3. PDH プラント ················ 7 渤化石化は PDH プラントの操業を開始した。 中国初の PDH プラントであり、安定した操業にはもう少し時間を要するものとみられ るが、中国では今年中に浙江衛星石化股份有限公司および寧波海越新材料有限公司、煙 台万華聚氨酯公司が PDH プラントの操業を開始する予定になっており、その後も続々 と PDH プラントが建設される。今後、中国では、PDH プラントや石炭由来オレフィン (CTO:Coal to Olefins)プラントによるプロピレン生産が急増する見込みだ。中国の PDH プラント建設動向を紹介する。 1. プロピレンの需給動向 プロピレンは、ポリプロピレン(PP)のほか、フェノール、アセトン、アクリル酸/ アクリル酸エステル、アクリルニトリル、オクタノール、プロピレンオキサイド、プロ ピレングリコール、イソプロピルアルコールなど多くの石油化学製品の原料となり、エ チレンと並ぶ重要な基礎化学品である。 中国のプロピレン生産は、急速な経済成長に伴って拡大基調が続き、1991 年には 100 万トン程度であったが、1995 年に 200 万トン、2002 年に 500 万トン、2007 年に 1,000 万トン、2009 年に 1,100 万トン、2010 年に 1,300 万トン、2011 年に 1,600 万トンを突 破した。2011 年以降はエチレンの生産を上回っている(図 1 参照) 。これは、大型エチ レンプラントの本格稼働に加えて製油所のガス分離設備が稼働したためで、今後、CTO や PDH プラントも竣工することから、生産量はさらに拡大するものとみられる。 こうした生産拡大にもかかわらず、輸入は 2007 年頃から急増しており、2006 年まで 50 万トン以下であったが、2007 年に 73 万トンとなり、2008 年は 92 万トン、2009 年 は 155 万トン、2010 年は 152 万トン、2011 年は 176 万トン、2012 年は 215 万トンと なっている(図 1 参照) 。ちなみに主な輸入ソースは、周辺の石油化学大国で、2012 年 は韓国から 111 万トン、日本から 45 万トン、台湾から 40 万トンを輸入した。輸出は少 量である。 1 JPEC レポート 図 1 中国のプロピレン需給推移 2. プロピレン生産設備 プロピレンは、ナフサなどの熱分解設備(ナフサクラッカー、エチレンプラント)か らエチレンとともに併産される。さらに、製油所の流動接触分解(FCC:Fluid Catalytic Cracking)からも得られる。 これらを従来型のプロピレン生産とすれば、CTO や PDH が新たなプロピレン生産と なる。CTO は、中国で豊富に産する石炭から合成ガスを経てメタノールを生産し、その メタノールからエチレンやプロピレンを生産する MTO(Methanol to Olefins)プロセ スや、プロピレンを中心に生産する MTP(Methanol to Propylene)プロセスを使用す る。PDH はプロパンを脱水素反応させることによりプロピレンを生産する。 2 JPEC レポート 2.1. 在来法プロピレン 表 1 および表 2 に中国の主な在来型設備のプロピレン生産能力(概算)を示す。 表 1 中国のエチレンプラント/FCC からのプロピレン生産能力(1) 3 JPEC レポート 表 2 中国のエチレンプラント/FCC オフガスからのプロピレン生産能力(2) 4 JPEC レポート 2.2. MTO/MTP プラント 前述したよう中国では 2007 年頃からプロピレンの輸入が増加しており、中国政府は 輸入依存度を抑制する方針を打ち出している。第 12 次 5 カ年計画期(2011-2015 年) の石油化学産業の発展計画を示したオレフィン工業 12・5 発展計画(中国工業信息化部) によれば、2015 年にはプロピレンの生産能力を 2,400 万トン/年に引き上げ、2,160 万 トンを生産するとしている。さらに、2015 年以降にエチレン、プロピレンなどオレフィ ン自給率の 100%化を目指し、大型エチレンプラントの新増設と旧式・小型プラントの 淘汰、 精製部門でのプロピレンの増産とともに、 原料の多様化を基本原則に据えており、 CTO 事業を推進して MTO や MTP プラントを建設し、同時に PDH プラントの建設も 推進する。 MTO プラントについては、もともと中国は、豊富な石炭資源を活用してアンモニア・ 尿素肥料の生産を行うべく 1950 年代後半から石炭ガス化技術の研究を開始し、国産技 術の開発とともに海外技術の導入を進めてきたことから、国家プロジェクトとして MTO 技術の開発を進めてきた。図 2 および表 3 に主要プラントの現状と計画を示す。 内陸の産炭地を中心にプロジェクトが計画されている(詳細は JPEC レポート平成 25 年 3 月「中国で進む石炭由来オレフィン生産事業」参照)。 図 2 中国の主要 CTO プロジェクトの立地 5 JPEC レポート 表 3 MTO/MTP プラントのプロピレン生産能力 6 JPEC レポート 2.3. PDH プラント PDH は、 世界的にその経済性が注目されている。 PDH のプロピレン収率は 74-82%、 運転状況や触媒によっては 80-90%あり、プラント建設費も低い。これは、製油所 FCC と比べてもかなり安価である。さらに、エチレンプラントで使用するナフサや軽油が原 油価格の上昇により高止まりとなった反面、シェールガス開発の進展に伴い随伴プロパ ンの大幅な増加で価格が下がることも大きい。 図 3 および表 4 に主要プラントの現状と計画を示す。中国には数多くの大型製油所 が建設されており、LPG 生産量は 2012 年で 2,262 万トンある。輸入は、広東省の需要 を賄うため、2012 年で 333.3 万トンとなっている。これまで主な輸入先は中東で、LPG に占めるプロパンの比率は 57%であった。ここ数年、米国のシェールガス開発に伴う随 伴プロパンの飛躍的な拡大と輸出に関心が集まっている。 パナマ運河拡張が完了すれば、 中国や韓国など北東アジアの価格形成に大きな影響を与え、さらに米国からの輸送日数 が短縮される。韓国でも SK Gas が蔚山で PDH プラントを建設するが、これもこうし たプロパン価格の下落を視野にいれたものとみられる。 図 3 中国の主要 PDH プロジェクトの立地 7 JPEC レポート 表 4 PDH プラントのプロピレン生産能力 8 JPEC レポート PDH プラントの有力プロセスとしては、UOP の UOP Oleflex プロセス、Lummus のCatofin プロセス、 Uhde のSter プロセスおよびSnamprogetti /Linde /BASF /Statoil 共同開発プロセスがある。現在世界で操業あるいは建設・計画中のプラントは、タイ、マ レーシア、韓国、スペイン、エジプト、サウジアラビア、UAE、米国などで UOP Oleflex プロセスがリードしており、ベルギー、メキシコ、サウジアラビア、カザフスタンなど で実績を上げた Lummus Catofin が続いている。Uhde の Ster プロセスはエジプト EPPC の PortSaid 向けがある。 中国でも 10 件以上のライセンス契約で UOP Oleflex プロセスがリードしているが、 商業プラント稼働の第 1 号は Lummus Catofin プロセスとなった。以下に主な PDH プ ラント概要を示す。 ・天津渤化石化有限公司 2013 年9 月に天津市濱海新区の臨港工業区渤海化工ゾーンで34.8 億元を投下した60 万トン/年の PDH プラントが操業を開始した。Lummus が Catofin プロセスを、 Sud-Chemie が Catofin 触媒を供給する。これに続いて、同規模の第 2 期プロジェクト も検討している。生産したプロピレンはオクタノール、エピクロロヒドリン(ECH: Epichlorohydrin) 、アクリル酸などの原料として使用する。親会社の天津渤海化学工業 集団公司は、丸紅が戦略的パートナーとして協力しており、最初のプロパンは 2013 年 6 月に ENEOS グローブがアブダビから輸送した。 ・遼寧同益石化公司 撫順高新技術開発区で、15 万トン/年の PDH プラントと 11.5 万トン/年のイソブテン プラント建設を計画している。同社は Lummus とエチレンやプロパンをプロピレンに 変換する COT 技術および Catofin 技術に関する協力協定を結んでおり、撫順以外でも 広東省茂名、遼寧省瀋陽でも同様のプロジェクトを計画している。 ・寧波海越新材料公司 浙江省平湖市で 60 万トン/年のプラント建設を計画しており、Lummus の Catofin プ ロセスを採用、Sud-Chemie が触媒を供給する。寧波海越新材料公司は、浙江海越公司、 寧波銀商投資公司、寧波万華石化投資公司の 3 社が合弁で設立した。 ・山東石大勝華化工公司 山東省墾利県開発区の墾利分公司で 20 万トン/年の PDH プラントを建設する。第二 次環境影響調査報告によれば、Lummus Catofin プロセスを導入するとしている。 9 JPEC レポート ・広東鵬尊能源開発公司 広東省湛江市東海島石油化学産業ゾーンで 30 万トン/年の PDH、1 プラントの建設を 計画している。2011 年公示の環境影響調査報告によると PDH には Lummus Catofin プロセスを導入するとしている。 ・中海石油煉化公司 Lummus の Catofin プロセスを導入して 25 万トン/年のプラントを建設する。原料の プロパンは自社内でまかなう。 ・張家港揚子江石化公司 江蘇省張家港保税区に 120 万トン/年の PDH プラントを 2 期に分けて建設する。うち 1 期は 2014 年完成をメドに 60 万トン/年のプラントを建設し、2015 年には 120 万トン /年とする。同社は、江蘇飛翔化工公司が 40%、東華能源公司と江蘇華昌化工公司が各 30%を出資して設立した。 ・江蘇海利化工公司 51 万トン/年 の PDH プラントを建設する。UOP が設計、ライセンス、触媒、吸着 剤、機器、要員訓練および技術サービスを行う。2014 年の完成を予定している。なお、 江蘇海利化工公司は、江蘇山宝集団公司に属しており、殺虫剤、殺菌剤、除草剤などを 生産する農薬メーカーである。 ・浙江衛星石化公司 浙江聚龍石化公司および同社の全株式を持つ黄瑶瑜、何水、厲雲国の 3 氏との間で枠 組み合意に調印、浙江聚龍石油化工公司の全株式を購入し、衛星石化公司が PDH プロ ジェクトの権利を取得した。これにより、同社は上流のプロピレン生産からアクリル酸/ 同エステルまでの一貫生産体制の確立を目指す。 浙江聚龍石化公司は、Honeywell UOP と Oleflex プロセスの設計、ライセンス、触 媒、吸着剤、機器、要員訓練と技術サービス契約を結び、平湖市嘉興独山港で 2 期に分 けて 120 万トン/年の PDH プラント建設を計画、第 1 期で 45 万トン/年のプラントを建 設、続く第 2 期で 75 万トン/年のプラントを建設する。 ・浙江紹興三錦石化公司 2014 年の完成を目指して 45 万トン/年のプラントを建設する。UOP は、設計、ライ センスと触媒、吸着剤なども提供する。同社は、60 万トン/年の PP プラントを有してい る。 10 JPEC レポート ・寧波福基石化公司 2014 年 2 月に UOP と Oleflex プロセス導入契約を交わした。これにより同公司は、 2016 年完成をめざして、寧波大榭開発区パークで 60 万トン/年の PDH プラントを建設 する。同社は東華能源股份有限公司の子会社で、2 期に分けて 120 万トン/年の PDH プ ラントと誘導品プラントを建設する計画で、60 万トン/年の PDH プラントはその第 1 期プロジェクトとなる。 ・福建美得石化公司 景城国際控股集団公司傘下の中国軟包装集団公司が 2011 年に設立。福建省福清市に おいて PDH プラントを計画しており、1 期計画の 66 万トン/年プラントは 2014 年完成 をメドに建設する予定で、UOP の Oleflex プロセスを導入している。2 期計画で、さら に Oleflex プロセスの 66 万トン/年プラントを建設する。 ・煙台万華聚氨酯公司 東煙台経済技術開発区西港区臨港工業区に PDH プラントを建設する計画。75 万トン /年の PDH プラントは 2014 年内完成メドに建設する。 ・山東京博石化公司 PDHプラントを2014年完成をメドに建設する。 UOPがライセンスと触媒や吸着剤、 技術サービスなどを提供。 ・上海華誼(集団)公司 中国有数の化学産業集積地区である上海化学工業区で116 億元の大型プロジェクトを 進めるており、その中核となるのが PDH プラントである。 ・江蘇長江天然気化工公司 南通市の如皐港区長江鎮の如皐港新材料産業ゾーンに計画している PDH プロジェク トで、2 期に分け 65 万トン/年の PDH プラントを建設する予定。 ・広東谷和能源公司 中国石油広東石化分公司の LPG を原料とする PDH プラントを建設する。2015 年に 完成する予定。 ・鉄山港(臨海)工業区 広西壮族自治区北海市の鉄山港(臨海)工業区管理委員会が立地を計画。24 億元を投 下して 60 万トン/年の PDH プラントを計画している。原料のプロパンは Sinopec 北海 11 JPEC レポート 分公司が供給する。 ・海外EPC案件 カザフスタンのKazakhstan Petrochemical Industries(KPI)が、同国西部Atyrauの 石油化学コンビナートに建設するLummusのCatofinプロセスによる50万トン/年のPDH プラントおよび40万トン/年のPPプラントなどをSinopec傘下のSinopec煉化工程公司 (Sinopec Engineering)が受注、設計は中国石化工程建設公司(SEI)および中国石化寧 波工程有限公司(SNEC)が担当している。 参 考 オレフィン工業“十二五”發展規劃(工業信息化部) 中国の石油産業と石油化学工業 2013 年版(東西貿易通信社) East & West Report 各号(東西貿易通信社) 本資料は、一般財団法人 石油エネルギー技術センターの情報探査で得られた情報を、整理、分析 したものです。無断転載、複製を禁止します。本資料に関するお問い合わせは[email protected] までお願いします。 Copyright 2014 Japan Petroleum Energy Center all rights reserved 次回の JPEC レポート(2013 年度 第 30 回)は 「シェールオイル、シェールガス増産下の米国石油精製産業-その 4 ①」 を予定しています。 12