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持続可能なバイオマス発電のあり方に係る調査 報告書

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持続可能なバイオマス発電のあり方に係る調査 報告書
平成 27 年度新エネルギー等導入促進基礎調査
持続可能なバイオマス発電のあり方に係る調査
報告書
平成 28 年 2 月
目次
第1章 はじめに ........................................................................................................................................... 1
I. 調査の背景と目的 ................................................................................................................................ 1
1. 調査の背景 ................................................................................................................................... 1
2. 課題、調査の目的・達成目標の設定 ....................................................................................... 2
II. 実施事項・体制 .................................................................................................................................. 3
1. 調査の実施体制 ........................................................................................................................... 3
2. 調査実施事項・フロー ............................................................................................................... 3
第2章 木質バイオマスの需給バランス確保についての現状と課題 ................................................... 4
I. 我が国のバイオマス発電の運開・計画状況 .................................................................................... 4
1. 固定価格買取制度における認定状況 ....................................................................................... 4
2. 木質バイオマス発電所の稼働状況 ........................................................................................... 8
II. 木質バイオマスの需給バランス....................................................................................................... 9
1. 国内産木質バイオマスの需給バランス分析 ........................................................................... 9
2. バイオマス発電の増加に伴う現状の影響 ............................................................................. 22
3. 国内林業セクターの需給バランス確保への取組 ................................................................. 27
4. 輸入バイオマスの可能性評価 ................................................................................................. 37
第3章 長期自立電源となるための課題分析 ......................................................................................... 58
I. バイオマス発電のコスト構造 .......................................................................................................... 58
1. 本調査におけるコスト構造分析のアプローチ ..................................................................... 58
2. 推計結果 ..................................................................................................................................... 68
3. まとめと考察 ............................................................................................................................. 71
II. バイオマス発電のコスト低減の方向性 ......................................................................................... 73
1. 燃料供給コスト低減の方向性 ................................................................................................. 73
2. 発電コスト削減の可能性と課題 ............................................................................................. 83
3. 発電コスト削減のシミュレーション ..................................................................................... 88
III. 持続可能なバイオマス発電に必要な社会・環境への配慮 ....................................................... 90
1. 社会・環境への配慮の重要性 ................................................................................................. 90
2. 地域社会に配慮したバイオマス発電の事例 ......................................................................... 90
3. 環境に配慮したバイオマス利用に向けた取組 ..................................................................... 94
第4章 持続可能なバイオマス発電の実現のための課題と施策の方向性 ......................................... 98
I. 持続可能なバイオマス発電のあり方 .............................................................................................. 98
1. あり方の整理 ............................................................................................................................. 98
2. 「あり方」の実現に向けた施策の方向性 ............................................................................. 99
II. 今後の施策の方向性....................................................................................................................... 100
-i-
1. 短期的な施策 ........................................................................................................................... 100
2. 長期的な施策 ........................................................................................................................... 102
3. 分野共通の基盤的な施策 ....................................................................................................... 112
第5章 まとめ ........................................................................................................................................... 115
参考資料 ..................................................................................................................................................... 116
I. 用語集 ................................................................................................................................................ 116
- ii -
第1章 はじめに
I. 調査の背景と目的
1.調査の背景
(1)バイオマス等、再生可能エネルギーの特性と我が国における位置付け
再生可能エネルギーは温室効果ガスを排出せず、国内で生産できることから、資源の乏
しい我が国のエネルギー自給率向上に寄与するエネルギー源である。ただし、現時点では
発電コストの高止まりの問題がある。そのため、2015 年 7 月に発表された長期エネルギー
需給見通しにおいても、
「各電源の個性に応じた最大限の導入拡大」を、
「国民負担の抑制」
と両立させながら図っていくという方向性が確認されている。加えて、FIT 終了後を見据
えて、長期的には FIT に依存せずとも自立しうる低コストな発電事業を実現していくこと
が重要である。
また、再生可能エネルギーは、地域活性化に貢献できることも重要視されるようになり
つつあり、総合資源エネルギー調査会新エネルギー小委員会では、「長期安定で低コスト
な自立電源であること」に加えて、
「地域に根ざした再生可能エネルギー導入を図ること」
も重視されている。このようなことから、バイオマス発電については、様々な種類のバイ
オマス燃料がある中で、我が国の森林資源を活用したバイオマス(以下、「地域型バイオ
マス」)が、特に重要であるとされているところである。
(2)計画の乱立、膨大な燃料需要の発生
長期エネルギー需給見通しにおいては、林野庁が森林・林業基本計画に示した目標値 600
万 m3/年に合わせて、未利用材を利用するバイオマス発電の導入見通しを 24 万 kW として
いる。他方、足下の計画の乱立により需給が逼迫し、燃料価格の高騰やマテリアル利用へ
の影響を与え、皆伐を加速させるなど森林生態系の持続性にも負の影響を与える恐れがあ
ることから、バイオマス発電所の持続性に疑念が持たれている側面もある1。また、現状
の国内森林からの未利用材の供給量を考えれば、輸入バイオマスの利用も視野に入れた検
討が必要となるが、輸入バイオマスについても生産・流通実態を考慮し、持続的に利用し
ていく必要がある。
ただし、バイオマス発電をめぐる情報が必ずしも一元的に整理されていないことが大き
な問題であり、適切なデータに基づいて議論を行なっていく必要がある。また、このよう
なバイオマス燃料生産の持続性に配慮しながらも、諸外国のコスト等をベンチ−マークと
し、FIT 制度の本来の趣旨である経験曲線に沿ったコストの削減、特に発電コストの過半
を占める燃料費の削減が、国民負担の軽減の観点からも、バイオマス発電の持続性を考え
1 例えば、NPO 法人バイオマス産業社会ネットワークは、FIT 開始後に認定された約 100 件 170 万 kW の木質バ
イオマス発電事業では、一般木材も含めて年間約 3,000 万 m3 の木材が必要になると試算し、過大すぎるとの懸
念を表明している(バイオマス白書 2015)。他方、日本では森林管理上、皆伐が必要な状況もあり、バランス
のとれた議論が必要である。
-1-
る上で重要である。そのためには、林業セクターの創意工夫を活かした、燃料用チップだ
けではなく、木材全体のサプライチェーンの最適化や高付加価値化が必要となる。加えて、
森林管理や林業振興には、都道府県や市町村が重要な役割を果たしていることから、発電
事業者、林業セクター、自治体等の関係者の連携が求められているところである。
2.課題、調査の目的・達成目標の設定
(1)課題の設定
上記のような現状を踏まえ、我が国のバイオマス発電の現状における課題を 3 点にまと
めることができる。
一つ目の課題は、バイオマス発電に関する情報や知識が必ずしも一元的に整理されてい
ないことがある。特に、木質バイオマスの需給バランスについては、森林・林業の統計情
報や行政制度の複雑さとも関連して、必ずしもよく整理されていない。この点は極めて大
きな問題であり、適切なデータに基いて議論を行なっていく体制を早急に整える必要があ
る。
二つ目の課題は、すでに認定された発電所を安定的に稼働させるとともに、将来的な自
立電源へと脱皮させていくことである。そのためには、輸入バイオマスの供給見込みなど
を踏まえて、先行する地域での取組などを参考に、適切な需給バランスを実現するための
短期的な課題を整理する必要がある。
三つ目の課題は、発電コストの削減の方策を検討することである。発電コストの中では、
初期投資コスト等も重要であるが、長期的には特に燃料コストの削減が重要である。この
点については、林業セクターの創意工夫を活かし、木材全体のサプライチェーンの最適化
や高付加価値化といった全体的な戦略の中で、林業と発電の相乗効果が発揮できるような
方策が必要である。これらを踏まえて、地元自治体等との連携の下、長期自立電源になり
うるような持続可能なバイオマス発電のあり方を総合的に検討する必要がある。
(2)調査の目的・達成目標の設定
以上を踏まえて、本調査の目的(ゴール)及び達成目標を、以下のように設定した。
1)ゴール
今後のエネルギーシステムのあり方を踏まえて、
「持続可能なバイオマス発電のあるべ
き姿」を示すため、関連する情報を総合的に整理し、論点をとりまとめる。
2)達成目標
・ 我が国のバイオマス発電の現状と課題及び、長期自立電源化に向けた課題が総合的に
整理される
・ 研究会の開催を通じて、多様な分野の専門家の意見が収集される
-2-
・ 以上より、持続可能なバイオマス発電のあり方と、それに至る道筋が明らかになる
II. 実施事項・体制
1.調査の実施体制
調査の実施にあたっては、文献調査・データ分析・ヒアリング等に加え、6 名の有識者か
ら構成される研究会を開催し、検討を行う。
図表 1-1 研究会委員名簿(50 音順)
氏名
所属・役職
久保山 裕史
国立研究開発法人森林総合研究所林業経営・政策研究領域林業システム研究
室 室長
酒井 秀夫(座長) 東京大学大学院農学生命科学研究科 教授
竹ヶ原 啓介
株式会社日本政策投資銀行 環境・CSR部 部長
中田 俊彦
東北大学大学院工学研究科技術社会システム専攻 教授
山下 英俊
一橋大学大学院経済学研究科 准教授
山本 博巳
一般財団法人電力中央研究所社会経済研究所 上席研究員
2.調査実施事項・フロー
調査の大きな柱は、木質バイオマスの需給バランス確保についての現状と課題と、長期自
立電源となるための課題分析の 2 つである。これら 2 つのテーマの検討を踏まえて、持続可
能なバイオマス発電のあり方を整理するとともに、「あり方」の実現に必要な施策について
総合的に検討を行う。
これらのテーマについて、合計 3 回の研究会を開催し、多様な分野の専門家の意見集約に
努めた。
図表 1-2
調査実施フロー
第1回研究会
(11月5日)
第2回研究会
(11月27日)
 既存の統計データを中心に、我が国のバイオマス発
電の需給バランスの見通しと課題を整理する。
 バイオマス発電やチップ供給のコスト構造に焦点を当
て、長期自立電源化に向けた課題を整理する。
 主な検討事項:
 主な検討事項:

国内産バイオマスの需給バランス


国内林業セクターの需給バランス確保への取組

バイオマス発電事業におけるコスト構造分析
燃料供給側におけるコスト低減方策

輸入バイオマスの可能性評価

発電所側のコスト低減方策

短期的な対応策/等

地域に根ざしたバイオマス発電事業の事例/等
第3回研究会
(1月29 日)
 これまでの検討を踏まえて、持続可能なバイオマス発電のあり方を整理
 「あり方」の実現に必要な施策について、総合的に議論
最終とりまとめ
-3-
第2章 木質バイオマスの需給バランス確保についての現状と課題
I. 我が国のバイオマス発電の運開・計画状況
1.固定価格買取制度における認定状況
1.1
認定件数・認定容量
日本では、2012 年 7 月 1 日に施行された再生可能エネルギー特別措置法に基づき、再生可
能エネルギーに関する固定価格買取制度(以下、FIT という)が開始された。バイオマスに
ついては、「メタン発酵ガス」
、
「未利用木質」、「一般木質・農作物残さ」、「一般廃棄物・木
質以外」の 5 つの区分が設定され、原料の種類別に買取価格が定められている。また、2015
年 4 月から設備容量 2,000kW 未満の未利用木質について買取価格が引き上げられている。
同制度の 2015 年 5 月末までの認定状況を見ると、新規認定されたバイオマス発電所の件
数は 291 件、認定容量(バイオマス利用分)は 232 万 kW となっている。区分別に見ると、
認定件数では「メタン発酵ガス」が多いが、認定容量では高い買取価格が設定された「未利
用木質」と「一般木質・農作物残さ」が多くなっている2。
新規認定分以外に、電気事業者による新エネルギー等の利用に関する特別措置法(以下
「RPS 法」という。
)対象設備等からの移行認定分が存在する。移行認定分の件数は 236 件、
設備容量(バイオマス利用分)は 113 万 kW となっている。
図表 2-1
FIT におけるバイオマス発電稼働・認定状況(新規認定分3、2015 年 5 月末時点)
未利用木質
メタン発酵ガ
一般木質・
一般廃棄物・
建設廃材
ス
2,000kW 未
2,000kW 以上 農作物残さ (買取価格 木質以外
満
(買取価格:
(買取価格: (買取価格:
(買取価格
(買取価格:
13 円)
32 円)
39 円)
24 円)
17 円)
40 円)
合計
稼働件数(件)
51
3
14
8
1
32
109
稼働容量(kW)
11,494
2,345
104,516
68,436
3,550
102,588
292,929
認定件数(件)
111
6
46
57
3
68
291
認定容量(kW)
35,179
3,865
366,750
1,613,961
11,060
297,462
2,328,277
(出所)経済産業省「固定価格買取制度 情報公表用ウェブサイト」
2 日本の固定買取制度においては、同一発電所における複数区分のバイオマス種類の使用やバイオマスとバイオ
マス以外の燃料(石炭等)との混焼が認められているため、認定・稼働件数は主要燃料をもとに区分の分類が
されている。また、認定・稼働容量は、設備容量のうち認定時のバイオマス比率を乗じて得たバイオマス利用
分の推計値となっている。
3「新規認定分」とは、本制度開始後に新たに認定を受けた設備をいう。
-4-
図表 2-2
FIT におけるバイオマス発電稼働・認定状況(移行認定分4、2015 年 5 月末時点)
未利用木質
メタン発酵ガ
一般木質・
一般廃棄物・
建設廃材
ス
2,000kW 未満 2,000kW 以上 農作物残さ (買取価格 木質以外
(買取価格: (買取価格: (買取価格: (買取価格:
(買取価格
13 円)
39 円)
24 円)
17 円)
40 円)
32 円)
合計
稼働件数(件)※注 3
29
4
3
10
29
161
236
稼働容量(kW)※注 4
11,201
3,038
6,015
73,800
331,916
707,653
1,133,623
(出所)経済産業省「固定価格買取制度 情報公表用ウェブサイト」
1.2
新規認定件数の推移
新規認定件数の推移を見ると、
「メタン発酵ガス」、「一般木質・農作物残さ」、「一般廃棄
物・木質以外」の区分では継続的に増加傾向にある。一方、
「未利用木質」は 2014 年 3 月に
申請が集中しており、その後は微増傾向となっている。
バイオマス発電については、買取価格の引き下げ措置は実施されていないが、3 月に申請
が集中する傾向が見られる。
図表 2-3
累積認定件数の推移(新規認定分)
(件)
350
一般廃棄物・
木質以外
300
250
建設廃材
200
一般木質・
農作物残さ
150
未利用木質
100
メタン発酵ガ
ス
50
5月
4月
3月
2月
1月
12月
11月
10月
9月
8月
7月
6月
5月
4月
3月
2月
1月
12月
11月
10月
9月
8月
7月
6月
5月
4月
3月
2月
1月
12月
11月
10月
9月
8月
7月
0
2012
2013
2014
2015
(出所)経済産業省「固定価格買取制度 情報公表用ウェブサイト」
4「新規認定分」とは、本制度開始後に新たに認定を受けた設備をいう。移行認定分は認定時にすでに稼働を開始
していることから、稼働件数・容量のみが示されている。
-5-
図表 2-4
月別の認定件数の推移(新規認定分)
(件)
50
46
44
一般廃棄物・
木質以外
40
建設廃材
30
20
12
10
0
43
6
18
15
12
7
56
3
5
6
221
未利用木質
11
3
2
66
3
76
7
3
4
メタン発酵ガ
ス
5月
4月
3月
2月
1月
12月
11月
10月
9月
8月
7月
6月
5月
4月
3月
2月
1月
12月
11月
10月
9月
8月
7月
6月
5月
4月
3月
2月
1月
12月
11月
10月
9月
8月
7月
-10
0110
18
16
一般木質・
農作物残さ
2012
2013
2014
2015
(出所)経済産業省「固定価格買取制度 情報公表用ウェブサイト」
1.1
認定発電所の規模
認定発電所のうち、木質系原料を使用する発電所5を規模別に整理すると図表 2-5 の通り
になる。新規認定分については、1 万 kW 未満の発電所と 1 万 kW 以上の発電所で半数ずつ
程度に分かれている。未利用材に比べて一般木質の区分では比較的大規模な発電所が多く
なっている。
移行認定分については、1 万 kW 以上の大規模発電所が主流であるが、2,000 kW 未満の小
規模発電所も存在している。
5 建設廃材のみを使用する発電所を除く。
-6-
図表 2-5
認定されたバイオマス発電所の規模別件数(上:新規認定分、下:移行認定分)
20
1
4
15
5
その他
3
10
一般木質
2
6
0
1
1
3
13
2
1
3
11
5
3
2
4
2
5
9
8
3
2
2
1
6
未利用材
1
20
15
その他
10
5
0
一般木質
1
2
2
2
1
2
2
4
1
1
3
1
1
2
1
4
1
3
2
2
未利用材
(注 1)2015 年 7 月末までの認定データのうち「未利用木質」
、 「一般木質・農作物残さ」を使用予定の事業
のみを計上。
「その他」は、
「建設廃材」または「一般廃棄物・木質以外」の区分で認定されたものの
うち、 「未利用木質」または「一般木質・農作物残さ」に該当する燃料を混焼する発電所が該当。
(注2)設備容量を計上しているため、混焼事業のバイオマス燃料割合は考慮されていない。
(出所)資源エネルギー庁提供資料から三菱 UFJ リサーチ&コンサルティング作成
1.2
認定発電所の原料
認定発電所の木質系原料の利用予定量6を整理すると図表 2-6 の通りとなる。認定発電所
の木質系原料のうち、国内産バイオマスの割合は合わせて 45%となっており、残りの 55%は
輸入バイオマス(チップ、ペレット、PKS)が利用される見込みとなっている。
図表 2-6
認定されたバイオマス発電所の原料利用予定量
PKS, 334 万t,
24%
未利用材, 393
万t, 29%
合計:1,365万t
輸入材(チッ
プ、ペレット),
417 万t, 31%
一般木質(国
内), 221 万t,
16%
(注)設備認定の申請書に基づく乾燥前重量(水分を含んだ重量)を合計しているため、各事業が使用する
原料の含水率の違いは考慮されていない。
(出所)資源エネルギー庁提供資料から三菱 UFJ リサーチ&コンサルティング作成
6 建設廃材を除く。
-7-
2.木質バイオマス発電所の稼働状況
FIT 認定バイオマス発電所の稼働容量の推移を図表 2-7 に示す。徐々に新規認定分が稼
働を開始しているものの、稼働している発電所の大部分は移行認定分により占められている。
2015 年 5 月末時点では、移行認定分が 79%、新規認定分が 21%となっている。
稼働容量のバイオマス原料の内訳を図表 2-8 に示す。移行認定分では「一般廃棄物・木
質以外」や「建設廃材」が多く、新規認定分では「未利用木質」、「一般木質・農作物残さ」
が多くなっている。
図表 2-7
FIT 認定バイオマス発電所の稼働容量の推移
(kW)
1,600,000
新規認定分
1,400,000
1,200,000
1,000,000
800,000
600,000
移行認定分
400,000
200,000
0
4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月11月12月 1月 2月 3月 4月 5月
2014
2015
(注)容量は認定時のバイオマス比率を乗じて得た推計値。
(出所)経済産業省「固定価格買取制度 情報公表用ウェブサイト」
図表 2-8
稼働容量のバイオマス原料の内訳(2015 年 5 月末時点)
メタン発酵ガス
1%
一般木質・
未利用木質
農作物残さ
7%
5%
新規認定分
21%
一般廃棄物・
木質以外
50%
建設廃材
0%
一般廃棄物・
木質以外
7%
一般木質・
農作物残さ
5%
メタン発酵ガス
1%
未利用木質
1%
移行認定分
79%
建設廃材
23%
(注)容量は認定時のバイオマス比率を乗じて得た推計値。
(出所)経済産業省「固定価格買取制度 情報公表用ウェブサイト」
-8-
II. 木質バイオマスの需給バランス
1.国内産木質バイオマスの需給バランス分析
1.1
分析方法
1.1.1 分析対象
木質バイオマスには、未利用材、一般木質、建設廃材等が存在するが、本調査では国内
材の中で新規認定容量の多い未利用材に特に着目し、都道府県または地域別に需給バラン
スの分析を行う。一般木質バイオマス(国内)については、統計情報が不足していること
から、日本全体での需給バランスの概況のみを確認する。
図表 2-9
需給バランス分析のフレーム
未利用材
Step1:
需給バランス
の把握
 需要量に対して供給量が十分かどうかの把握
 需要量に対して供給量が十分かどうかの把握
 調査手法は以下のとおり
 調査手法は以下のとおり

林野庁の計画値との比較

都道府県の計画値との比較

林地残材・切捨間伐材ポテンシャルとの比較
森林成長量との比較

Step2:
実態と影響の
把握
一般木質バイオマス(国内)

 燃料供給の制約条件や実際の燃料供給事例などか
らどのような材が供給される可能性があるかを検討
日本全体の製材残材発生量との比較
 統計・事例等が整理されていないことから、本調査で
は日本全体での検討にとどめる(今後の課題)
(出所)三菱 UFJ リサーチ&コンサルティング作成
1.1.2 需給バランスに関する考え方
供給量と需要量の比較対象の位置付けを図表 2-10 に整理する。これまでの木材市場で
は、製材用材、合板用材、チップ・パルプ用材の需要に対して、主伐材や間伐材を供給し
てきた。一方、これらを伐採する際に発生する林地残材(立木を丸太にする際に出る枝葉
や梢端部)7や切捨間伐材が発生していた。したがって、今後増加する発電所向けの新た
な需要に対して、これまで未利用材として放置されていた材を利用する(利用率を向上す
る)ことが考えられる。また、伐採量を増加させることでバイオマス発電所向けの需要を
賄っていくことも考えられる。
一方、利用率向上や伐採量増加が需要増に比べて進まない場合、木材価格次第では既存
用途に使用される木材が発電所向け需要に流れることが懸念される。
7 「林地残材」には切捨間伐材を含める場合があるが、本調査ではこれを区別する。
-9-
図表 2-10
需給バランス確保の考え方
供給側
需要側
【 FIT後】
【 FIT 前】
パルプ
製材
その他
年間需要
合板
その他
チップ・
製材
- 10 -
合板
切捨間伐
+残材
(出所)三菱 UFJ リサーチ&コンサルティング作成
パルプ
利用
【既存用途】
今後の増減が見
込まれるが単純
化のため、本調査
では大きな変動は
ないとして議論を
進める。
チップ・
間伐
利用材
林地
間伐
利用材
残材
不足の場合は既存
用途から転換?
今後の
【燃料用途】
増分により
需給バランス確保
発電所向け需要
未利用材
丸太
主伐
年間伐採量
①利用率 ②伐採量
向上分
増加分
利用率
向上
【FIT後】
未利用材
【FIT前】
伐採量増加
1.1.3 前提条件
需給バランスについては、図表 2-11 に示す前提条件のもとに分析する。各項目の留意
点を踏まえて、推計結果を解釈する必要がある。
図表 2-11 需給バランスを比較する際の前提条件
本調査での前提条件
留意点
需要
燃料需要
 認定データの申請書類のうち、各発電
所の未利用材消費予定量を都道府県
単位で積み上げ。
 都道府県を跨ぐ移出入については需
要側で整理(他県から未利用材を移入
する発電所は、他県の需要量として扱
う)
 2015 年 7 月 29 日時点における認定
データの範囲内である。今後、認定量
は増加する可能性がある。
 未利用材を推計対象としているため、
一般木質バイオマスの区分の中で、森
林由来のバイオマスは考慮していな
い。
供給
林野庁計画値

「森林・林業基本計画(2011)」におけ
る燃料用等のパルプ・チップ用材の利
用目標 600 万 m3(2020 年)を都道府
県の素材生産量の比率を用いて都道
府県単位に按分
 素材生産量の増加率が都道府県ごと
に異なることが反映できていない。
 林野庁目標値は今後改定される見通
し。
 計画値の中には一般木質バイオマス
の区分の森林由来バイオマスも含ま
れる。
都道府県計画
値
 都道府県へのアンケートにより、森林
由来の燃料材に関する計画値を把握
(都道府県から回答が得られない場合
には、公表されている資料により一部
補足)
 計画値の中には一般木質バイオマス
の区分の森林由来バイオマスも含ま
れる可能性がある。
 都道府県が把握している範囲での計
画値である可能性がある。
林地残材・切
捨間伐材ポテ
ンシャル
 NEDO「バイオマス賦存量・有効利用
可能量の推計」の手法を参考に最新
データにて再推計
 国有林・民有林それぞれについて全国
一律の間伐材利用率を仮定しており、
地域差は厳密に考慮されていない。
森林成長量
 森林生態系多様性基礎調査(旧森林
資源モニタリング調査)に素材生産量
の立木換算値、切捨間伐材量を加算
して算出
 都道府県レベルでの成長量を算出し
ているため、局所的に皆伐が広がる可
能性については考慮できていない。
(出所)三菱 UFJ リサーチ&コンサルティング作成
1.2
分析結果
1.2.1 未利用材
(1)需要見通し
FIT 認定データの運転開始予定日と燃料使用量をもとに整理した未利用材の需要見通し
を図表 2-12 に示す。未利用材の需要量は、2015∼2018 年頃の集中的な発電所稼働に伴
い約 393 万生トン/年(約 560 万 m3/年)まで拡大する見通しとなっている。
- 11 -
図表 2-12
未利用材の需要見通し
(トン/年)
4,500,000
4,000,000
3,500,000
3,000,000
2,500,000
2,000,000
1,500,000
1,000,000
500,000
0
7月 1月 7月 1月 7月 1月 7月 1月 7月 1月 7月 1月 7月 1月 7月
2012 2013
2014
2015
2016
2017
2018
2019
(注)申請書に基づく乾燥前重量(水分を含んだ重量)を合計しているため、各事業の
含水率の違いは考慮されていない。生チップの一般的な含水率は湿量基準 40∼
60%程度とされている。
(出所)資源エネルギー庁提供データから三菱 UFJ リサーチ&コンサルティング作成
図表 2-13
都道府県別未利用材需要(全ての発電所の稼働時)
0
北海道
青森県
岩手県
宮城県
秋田県
山形県
福島県
茨城県
栃木県
群馬県
埼玉県
千葉県
東京都
神奈川県
新潟県
富山県
石川県
福井県
山梨県
長野県
岐阜県
静岡県
愛知県
三重県
滋賀県
京都府
大阪府
兵庫県
奈良県
和歌山県
鳥取県
島根県
岡山県
広島県
山口県
徳島県
香川県
愛媛県
高知県
福岡県
佐賀県
長崎県
熊本県
大分県
宮崎県
鹿児島県
沖縄県
100,000
200,000
300,000
150,500
206,160
450
0
0
0
400,000
500,000
600,000
700,000
610,300
38,000
64,300
72,000
113,900
32,800
85,175
52,000
38,800
50,000
14,000
61,600
119,000
162,130
82,700
92,000
55,696
88,000
1,000
10,000
8,500
115,000
36,000
5,000
71,500
118,380
129,000
32,000
33,550
50,000
0
65,000
7,500
48,000
30,000
0
99,340
198,000
199,240
269,035
213,640
(出所)資源エネルギー庁提供データから三菱 UFJ リサーチ&コンサルティング作成
- 12 -
(2)今後の需給見通し
1)林野庁計画値と未利用材需要量の比較
2011 年 7 月に策定した「森林・林業基本計画」では、2020 年における燃料用等のパル
プ・チップ用材の利用目標を 600 万 m3 に設定している8。含水率 50%を想定し、この値
を 0.7t/m3 で換算すると 420 万トンとなる。
この値を 2013 年における都道府県別の素材生産量で按分し、前述の未利用材需要の合
計値と比較すると図表 2-14 の通りとなる。日本全体では供給量 420 万トンに対して未
利用材需要 390 万トンとなっている。地方別に見ると、北海道、東北地方、関東地方、
九州地方では未利用材需要が林野庁目標の按分値を上回る。一方、中部地方、関西地方、
中国地方、四国地方では未利用材需要が林野庁目標の按分値を下回っており、全国平均
以上の増産が求められることになる。
図表 2-14
林野庁計画値と未利用材需要の比較
トン(湿量基準50%)
800,000
将来供給量(林野庁目標)
700,000
未利用材需要
600,000
500,000
400,000
300,000
200,000
100,000
沖縄
鹿児島
宮崎
大分
熊本
長崎
佐賀
福岡
高知
愛媛
香川
徳島
山口
広島
岡山
島根
鳥取
和歌山
奈良
兵庫
大阪
京都
滋賀
三重
愛知
静岡
岐阜
長野
山梨
福井
石川
富山
新潟
神奈川
東京
千葉
埼玉
群馬
栃木
茨城
福島
山形
秋田
宮城
岩手
青森
北海道
0
【北海道】
供給:78万トン
需要:61万トン
供/需:128%
【東北地方】
供給:101万トン
需要:64万トン
供/需:156%
【関東地方】
供給:26万トン
需要:17万トン
供/需:155%
【中部地方】
供給:44万トン
需要:76万トン
供/需:57%
【関西地方】
供給:17万トン
需要:18万トン
供/需:96%
【中国地方】
供給:33万トン
需要:38万トン
供/需:85%
【四国地方】
供給:27万トン
需要:31万トン
供/需:86%
【九州地方】
供給:95万トン
需要:87万トン
供/需:109%
(出所)資源エネルギー庁提供資料、林野庁「森林・林業基本計画(2011)」から三菱 UFJ
リサーチ&コンサルティング作成
2)都道府県計画値と未利用材需要量の比較
都道府県の多くは、将来の木材生産計画を策定している。本調査では都道府県の公開
されている計画値を整理するとともに、必要に応じて問合せを実施し、都道府県の森林
由来の燃料用材9の計画値を整理した。これを未利用材需要量と比較すると、図表 2-15
の通りとなる。計画策定地域合計で供給量 239 万トンに対して未利用材需要 270 万トン
8 木質バイオマス発電等エネルギー源としての利用に加え、パーティクルボード等木質系材料としての利用も含
む。
9 製材残材や建設廃材を除く。
- 13 -
となる。また、半数程度の都道府県では供給量が需要量を下回っており、地域別に不足
が発生する可能性が確認される。
都道府県計画値と林野庁計画値を比較するとの按分値を上回る計画値を設定している
都道府県は、計画を策定している 23 県中 8 県にとどまる(茨城県、群馬県、新潟県、静
岡県、三重県、兵庫県、山口県、高知県)。燃料用材に関する計画値を設定していない都
道府県も存在することから、都道府県の計画策定状況はバイオマス需要の急激な伸びに
追い付いていないことが示唆される。
図表 2-15
都道府県計画値と未利用材需要の比較
トン(湿量基準50%)
800,000
将来供給量(都道府県計画値)
700,000
未利用材需要
600,000
500,000
400,000
300,000
200,000
100,000
鹿児島
宮崎
熊本
高知
山口
広島
島根
兵庫
京都
三重
静岡
岐阜
山梨
新潟
千葉
埼玉
群馬
茨城
山形
秋田
岩手
青森
北海道
0
(注 1)岩手県、宮崎県の計画値には製材工場残材を含む。
(注 2)本調査において、計画を策定していない又は公表していないと回答のあった都道府県のうち、青森県、
埼玉県、千葉県、新潟県、静岡県、京都府、島根県、鹿児島県については平成 21 年 9 月 12 日バイオ
マス活用推進基本法に基づくバイオマス利活用推進計画を策定していることから、この値を示してい
る。
(注 3)本調査において、計画を策定していない又は公表していないと回答のあった都道府県のうち、山形県、
茨城県、三重県、高知県については木質バイオマス利用推進協議会「平成 26 年度木質バイオマス利
用支援体制構築事業成果報告書」の調査で回答している値を示している。
(出所)資源エネルギー庁提供資料、林野庁「森林・林業基本計画(2011)」から三菱 UFJ
リサーチ&コンサルティング作成
- 14 -
図表 2-16
林野庁計画値と都道府県計画値の比較
トン(湿量基準50%)
800,000
将来供給量(林野庁目標)
700,000
将来供給量(都道府県計画値)
600,000
500,000
400,000
300,000
200,000
100,000
鹿児島
宮崎
熊本
高知
山口
広島
島根
兵庫
京都
三重
静岡
岐阜
山梨
新潟
千葉
埼玉
群馬
茨城
山形
秋田
岩手
青森
北海道
0
(注 1)岩手県、宮崎県の計画値には製材工場残材を含む。
(注 2)本調査において、計画を策定していない又は公表していないと回答のあった都道府県のうち、青森県、
埼玉県、千葉県、新潟県、静岡県、京都府、島根県、鹿児島県については平成 21 年 9 月 12 日バイオ
マス活用推進基本法に基づくバイオマス利活用推進計画を策定していることから、この値を示してい
る。
(注 3)本調査において、計画を策定していない又は公表していないと回答のあった都道府県のうち、山形県、
茨城県、三重県、高知県については木質バイオマス利用推進協議会「平成 26 年度木質バイオマス利
用支援体制構築事業成果報告書」の調査で回答している値を示している。
(出所)資源エネルギー庁提供資料、都道府県計画等から三菱 UFJ リサーチ&コンサル
ティング作成
- 15 -
図表 2-17 都道府県計画値の設定方法
都道府県
文書
作成年
設定方法
北海道
北海道森林づくり基本計画 2013 推計方法の説明はなし。
2020 年における間伐材発生量 290,300t に 34.6%の利用率を乗じて
青森県バイオマス活用推
青森
2011
100,450t と設定。
進計画
群馬
平成 26 年次木材基本調査 2014 非公表のため、不明
2020 年度の林地残材の推定発生量 2.9 万 t に対して目標利用率を 30%を
千葉県バイオマス利活用
千葉
2011
推進計画
乗じて、0.9 万 t を林地残材の目標利用量として設定。
2016 年度の林地残材の推定発生量 9.3 万 t に対して目標利用率を 47%を
新潟県バイオマス利活用
新潟
2014
推進計画
乗じて、4.4 万 t を林地残材の目標利用量として設定。
2021 年における 64,777t の発生見込み量に利活用率 9%を乗じて 5,900t
埼玉県農山村バイオマス
埼玉
2012
利活用推進計画
と算出。
1. 地域森林計画における主伐・間伐の計画量をもとに、素材生産量の目
標値を設定。
2.素材生産量の目標値について、国の「森林・林業基本計画」における木
山梨県地域森林計画/森林
材の用途別の利用量目標をもとに樹種別・品質別の木材供給量の内訳を
山梨
林業基本計画
算出し、直材を製材用材、小曲材等を合板用材、低質材をチップ用材に配
分。
3.今後の製紙等の既存利用の需要の見通しを踏まえ、製材等の既存の利
用に影響を及ぼさない範囲でエネルギー利用が可能な数量を算出。
2020 年の林地残材予想発生量 340,000t に対して 49%の利活用率を乗じ
静岡県バイオマス活用推
静岡
2012
進計画
て 166,600t と設定。
第二期岐阜県森林づくり基
岐阜
2012 推計方法の説明はなし。
本計画
三重
未回答
2016 年に林地残材発生量 14,000t に対して 35%の利用率を乗じて 5,000t
京都府バイオマス活用推
京都
2012
と算出
進計画
兵庫
未回答
県内バイオマス発電所の稼動時期と需要量から算出
2020 年の林地残材予想発生量 177,000t に利活用率 45%を乗じて
島根県バイオマス活用推
島根
79,500t と設定。
進計画
2020 広島県農林水産業
広島
チャレンジプラン第2章林
2011 記述箇所不明。
業編
やまぐち農林水産業活力
「燃料用チップ等用材」計画値は用材生産に対する林地残材発生量 70%で
山口
2015
創出行動計画
算出。
長崎
未回答
説明なし。
熊本県森林・林業・木材産
熊本
2012 林地残材の利用目標。
業基本計画
計画策定時の現況値である平成 21 年次の生産量に対して、
1.民有林と国有林が同じ伸び率で増加すると想定。
2.地ごしらえやバイオマス利用等も含めた生産性向上と、林地保全等を
宮崎
考慮し、利用率を 10 年後に主伐で5%、間伐で 10%アップさせることを
第7次宮崎県森林・林業長
期計画
2011
想定。
3.今後、高齢級を中心とした利用間伐が増加することを予想し、民有林で
利用間伐材積量を約2倍(生産量全体に占める割合は約 12%から約
20%に増加)にすることを想定。
※2015 年度中に見直し予定
2020 年に林地残材などの発生量 256,000t に利用率 54.1%を乗じて
鹿児島県バイオマス活用
鹿児島
2012
138,600t の利用量を設定。
推進計画
(注)本調査において、計画を策定していない又は公表していないと回答のあった都道府県のうち、青森県、埼
玉県、千葉県、新潟県、静岡県、京都府、島根県、鹿児島県については平成 21 年 9 月 12 日バイオマス活
用推進基本法に基づくバイオマス利活用推進計画を策定していることから、これに基づき記載している。
- 16 -
3)森林成長量と将来伐採量の比較
バイオマス発電所が増加することにより、伐採量が増加する可能性があることから、
将来の伐採量と森林成長量を比較した。森林成長量は、森林の年間平均蓄積量に現時点
の年間伐採量(素材生産量を立木換算したもの10に切捨間伐量を加えたもの)を加算した
ものとし、将来伐採量は現時点の年間伐採量に将来の未利用材需要量発生に伴う伐採量
増加分を加算したものとした11。
上記を比較すると図表 2-18 の通りとなる。バイオマス発電の増加による森林資源の
過剰な利用を懸念する声もあるが、未利用材需要が増加したとしても、日本のほとんど
の地域では、森林成長量に対する将来伐採量の割合は小さい。全国平均と比べて、福井
県、三重県、鳥取県、徳島県、愛媛県、宮崎県などは森林成長量に対する将来伐採量の
割合が高くなっているが、深刻な水準とはなっていない。
図表 2-18
森林成長量と将来伐採量の比較
トン(湿量基準50%)
あああ
10,000,000
森林成長量
将来伐採量(現在の伐採量+未利用材需要による増加分)
沖縄
宮崎
鹿児島
大分
熊本
長崎
佐賀
福岡
高知
愛媛
香川
徳島
山口
広島
岡山
島根
鳥取
奈良
和歌山
兵庫
大阪
京都
滋賀
三重
愛知
静岡
岐阜
長野
山梨
福井
石川
富山
新潟
東京
神奈川
千葉
埼玉
群馬
栃木
茨城
福島
山形
秋田
宮城
岩手
青森
北海道
9,000,000
8,000,000
7,000,000
6,000,000
5,000,000
4,000,000
3,000,000
2,000,000
1,000,000
0
北海道
2,765万トン
(出所)林野庁「森林生態系多様性基礎調査(旧森林資源モニタリング調査)」等から三
菱 UFJ リサーチ&コンサルティング作成
4)林地残材・切捨間伐材ポテンシャルと未利用材需要の比較
森林由来のバイオマス燃料は、林地残材・切捨間伐材から賄うことが期待されている
ことから、林地残材(枝条・末木等)、切捨間伐材の賦存量と未利用材需要を比較した。
林地残材と切捨間伐材を合計するとすべての都道府県で需要量を上回る。しかしながら、
後述する通り、これらすべてが利用できるわけではないことに留意が必要である。
10 立木換算係数(立木に対する素材の割合)は針葉樹 0.86、広葉樹 0.80 とした
11 (1)利用率は変化なし、(2)未利用材需要以外の既存の伐採量は変化しない、と仮定。
- 17 -
図表 2-19
林地残材・切捨間伐材ポテンシャルと未利用材需要の比較
トン(湿量基準50%)
2,000,000
未利用材需要
1,800,000
切捨間伐材
1,600,000
林地残材
1,400,000
1,200,000
1,000,000
800,000
600,000
400,000
200,000
沖縄
鹿児島
宮崎
大分
熊本
長崎
佐賀
福岡
高知
愛媛
香川
徳島
山口
広島
岡山
島根
鳥取
和歌山
奈良
兵庫
大阪
京都
滋賀
三重
愛知
静岡
岐阜
長野
山梨
福井
石川
富山
新潟
神奈川
東京
千葉
埼玉
群馬
栃木
茨城
福島
山形
秋田
宮城
岩手
青森
北海道
0
(出所)NEDO「バイオマス賦存量・有効利用可能量の推計」の手法を参考に三菱 UFJ リ
サーチ&コンサルティング作成
(3)地域別の需給見通し
ここでは、未利用材需給見通しを多様な観点から考察する。まず、現状の素材生産量比
率を用いて林野庁計画値を按分した将来供給量と未利用材需要の割合によりおおよその
需給バランスを把握する。
次に、地域によって木材生産の増加率は異なることが予想されることから、補足的な指
標として直近 5 年間素材生産量増加率を考慮する。
さらに、国有林は主伐材・間伐材ともに未利用材として認められるため、国有林の割合
が多い地域ほど未利用材が発生しやすいと考えられる。このため、伐採量の国有林比率を
指標に加える。一方、民有林については、森林経営計画対象の民有林であれば主伐材も未
利用材として認められる他、間伐に対する補助制度である森林管理・環境保全直接支払制
度は森林経営計画の認定を受けることが前提となっており、民有林からの未利用材の搬出
には同計画の認定を取得することが重要となることから、森林経営計画認定率も指標に加
えることにした。
各指標から地域別の未利用材需給見通しを整理すると、東北地方や関東地方では比較的
余裕がある一方で、中部、関西、中国、四国地方などでは、供給不足となる可能性がある。
地域によって、国有林の分布や森林経営計画認定率が異なることから、供給元は様々にな
ると予想される。
- 18 -
図表 2-20
将来の供給/需要
地域別の未利用材需給見通しに関する各指標と総合的な評価
国有林比率
森林経営計画
認定率
( 面積ベース)
( 林 野庁計画値を現在
の素材生産量で按分)
素材生産量
増加 率 (5年間)
北海道
○
128%
△
+12%
◎
35%
◎
69%
○
 生産伸び率が低いことが懸念されるが、豊富な供給力を持つ
東北
◎
156%
○
+21%
◎
34%
△
19%
◎
 十分な供給力を持つため、他地域と比較して安定
関東
◎
155%
◎
+30%
○
27%
△
13%
◎
 十分な供給力を持つため、他地域と比較して安定
△
+13%
○
25%
△
17%
△
 素材生産量を大幅に引き上げない限り不足する可能性あり
△ 11% × 9%
×
△ 17% ○ 22%
×
○ 22% × 7%
×
○ 20% ○ 30%
×
△
 素材生産量を引き上げない限り供給不足の可能性あり
△
 高い生産伸び率が続けば供給が賄える可能性がある
中部
× 57%
関西
△
96%
△
+13%
中国
△
85%
○
+24%
四国
△
86%
◎
+28%
九州
○
109%
○
+23%
(伐採量ベース)
未利用材の需給見通し
△
○
 国有林、民有林のどちらからの供給も期待できる
 国有林主体の供給となると予想される
 国有林主体の供給となると予想される
 国有林主体の供給となると予想される
 森林経営計画認定率を向上させない限り供給は困難?
 民有林、国有林のミックスとなると予想される
 高い生産伸び率が続けば供給が賄える可能性がある
 国有林主体の供給となると予想される
 高い生産伸び率が続けば供給が賄える可能性がある
 民有林、国有林のミックスとなると予想される
(出所)資源エネルギー庁提供資料、林野庁提供資料、農林水産省「木材需給報告書」、
林野庁「国有林事業統計」から三菱 UFJ リサーチ&コンサルティング作成
1.2.2 一般木質
(1)需要見通し
FIT 認定データの運転開始予定日と燃料使用量をもとに整理した一般木質(国内発生分)
の需要見通しを図表 2-21 に示す。一般木質バイオマス(国内発生分)の需要量は、RPS
法時代からの移行分に加えて、新設発電所での需要が増加することによって約 220 万生ト
ン/年(約 300 万 m3/年12)まで拡大する見通しとなっている。
一般木質バイオマス(国内発生分)の詳細な内訳は不明であるが、判明している範囲で
は製材・合板工場残材が多いと考えられる(その他に剪定枝、未利用材以外の森林由来の
木材等がある)
。製材・合板工場などが自社工場でマテリアル利用した後の残材を利用し
て発電事業を開始する例が見られる。
12 0.7t/m3 で換算
- 19 -
図表 2-21
一般木質バイオマス(国内発生分)の需要見通し
(トン/年)
2,500,000
2,000,000
1,500,000
1,000,000
500,000
0
7月 1月 7月
2012 2013
1月 7月
2014
1月 7月
2015
1月 7月
2016
1月 7月
2017
1月 7月
2018
1月 7月
2019
(注)申請書に基づく乾燥前重量(水分を含んだ重量)を合計しているため、各事業の含水率の違いは考慮
されていない。生チップの一般的な含水率は湿量基準 40∼60%程度とされている。
(出所)資源エネルギー庁提供データから三菱 UFJ リサーチ&コンサルティング作成
(2)今後の需給見通し
日本における製材工場残材発生量は、約 800 万トン(湿量基準 50%)程度と推定される
13。しかしながら、その約 95%は既に利用されているとされており14、未利用量は
40 万ト
ン程度と予想される。製材・合板工場が発電用燃料として自社利用する分には問題は少な
いと考えられるが、これまでの既存用途も存在するため、その既存用途の業界とどう折り
合いを付けるかが課題となる。
13 2014 年の製材用の樹種別素材消費量に樹種別の残廃材発生比率を乗じて算出。
14 バイオマス活用推進会議事務局「バイオマスの活用をめぐる状況」(2015 年 9 月)
- 20 -
図表 2-22
製材工場残材発生量の推計値
プレーナー屑
7%
チップ屑
1%
樹皮
23%
合計:
795万トン
(湿量基準50%)
鋸屑
31%
ベラ板
1%
背板
30%
端材
7%
(出所)農林水産省「木材需給報告書」、伊神裕司・村田光司「製材工場における木質残
廃材の発生と利用」
(2003)から三菱 UFJ リサーチ&コンサルティング作成
図表 2-23
製材工場残材の主な利用・処理方法
主な利用・処理方法
樹皮
堆肥・土壌改良材、家畜敷料、燃料、焼・棄却
背板
チップ
端材
チップ、家畜敷料、燃料、
ベラ板
焼・棄却、チップ、燃料
鋸屑
家畜敷料、キノコ培地
プレーナー屑
家畜敷料、燃料
チップ屑
家畜敷料、焼・棄却、その他
(注)背板は、丸太から角材を取った後に残る片方に丸みのある板。ベラ板は非常に薄い端材のこと。プ
レーナー屑は木材をかんながけして出る木屑。
(出所)伊神裕司・村田光司「製材工場における木質残廃材の発生と利用」(2003)
1.3
需給バランス分析の課題
今回の分析は、入手可能なデータをもとに前提を置いて計算したため、今後さらなる精度
向上が望まれる。主な課題としては、以下のような事項が挙げられる。
·
今後もバイオマス発電の計画(FIT の申請)が増加する場合、さらなる供給量が必要
となる。
·
本調査では木材の既存用途が変動しないという前提で調査しているが、今後の既存需
要の変動により、木材需要全体が変化する。
- 21 -
一般木質については、関連するデータが不足していることから、さらなる情報収集・
·
分析が必要である。
林業界における人材不足等の課題が指摘されている中で、計画通りに今後供給を拡大
·
させていくことが可能かどうかについて精査する必要がある。
2.バイオマス発電の増加に伴う現状の影響
2.1
既存用途への影響を考える前提
(1)制度上の定義について
木材はその品質によって適切な用途が異なることから、林業界では慣習的に太さ、通直
性、材質(腐れの有無)等で、木材を A 材、B 材、C 材、D 材などに区分してきた。一方、
このような区分に統一的な数値基準があるわけではないことから、FIT 制度上においては、
木材の品質によって未利用材が定義されているわけではない。
国有林・保安林または森林経営計画に認定された民有林であれば、主伐材、間伐材のい
ずれであってもその品質とは関係なく未利用材として認められる。また、森林経営計画に
認定されていない民有林については、間伐材に限定されるが、間伐材も樹齢によってその
品質は様々である。したがって、価格水準が合えば、品質の高い材も燃料材として使用さ
れる可能性がある。
図表 2-24
通称区分①
品質の基づく木材の区分
通称区分②
主な用途
A材
直材
製材
B材
小曲がり材
合板
C材
大曲がり材、短尺材
製紙(パルプ、チップ)
D材
小径木、根本、梢端部
バイオマス
枝葉
−
バイオマス
(出所)三菱 UFJ リサーチ&コンサルティング作成
(2)利用率向上について
一般的に、これまで A 材、B 材、C 材はそれぞれ製材用、合板用、製紙用と使いわけら
れてきたことから、既存用途と競合しないようにするためには、これまで使用されてこな
かった D 材や枝葉部分を燃料用として使用していくことが望ましい。
一方、現状では、木材の収集範囲が広がるほどチップ生産費用は高くなると報告されて
いる。マテリアル利用との競合を避けるためには、端材や枝葉を活用し利用率を向上させ
ることが有効であるが、生産コストが高いため、優先的に丸太が使用される可能性がある。
また、間伐材については、低質材部分が多いことから、その利用が拡大すれば、マテリ
- 22 -
アル利用との競合は回避しやすい。しかしながら、日本では路網密度が低いため、これま
でその多くが搬出できていなかった。林野庁では、搬出間伐の実施と路網整備の加速化を
進めているが、インフラ整備には時間がかかる可能性がある。また、コスト面から見ても、
素材生産費・運材費の合計は、主伐の 7,699 円/m3 に対して間伐は 10,659 円/m3 とされて
おり15、間伐の拡大には補助金が必要となる。
図表 2-25
木材の収集範囲別の木材チップ生産コスト(円/t)
総コスト
類型(対象原料範
囲)
事例数
最低
最高
平均
丸太のみ
12
6,826
17,500
10,426
丸太+端材
61
7,364
28,386
12,755
丸太+端材+枝葉
46
7,714
30,998
13,747
合計
119
6,826
30,998
12,783
(注)対象原料は C、D 材、枝葉
(出所)久保山 裕史 「供給サプライチェーンWG報告(木質バイオマスエネルギー利用
推進セミナー)
」
図表 2-26
林内路網密度の諸外国との比較
(m/ha)
120
作業道等
100
林道等
64
80
44
60
40
20
0
4
54
45
13
日本
オーストリア
(出所)林野庁「平成 23 年度 森林・林業白書」
15 林野庁「平成 21 年度 森林・林業白書」
- 23 -
ドイツ
(旧西ドイツ)
図表 2-27
集約化による搬出間伐の拡大
(出所)林野庁「平成 23 年度 森林・林業白書」
2.2
現状の影響
2.2.1 燃料供給の現状
現時点では、生産コストが安い丸太部分を発電所に納入している事例が見られる。例え
ば、素材流通協同組合へのインタビューによれば、現状では発電所には丸太部分を納入し
ており、今後のバイオマス燃料の需給逼迫を見据えて、たんころ(根元)部分を納入した
が、運搬やハンドリングの効率が悪く、採算を合わせることは厳しいとの意見も得られて
いる。また、造材方法の変化により、従来切り捨てられていた部分を発電用原木として搬
出している例も見られる一方で、主伐材の全量を発電用原木として搬出する事例も報告さ
れている16。
上記の事例を鑑みると、未利用材が幅広く定義されている現状では、短期的にはこれま
で未利用であった林地残材や間伐材だけでなく、丸太部分が一定の供給を担っていくこと
が示唆される。この場合、パルプ用材などが発電用に利用される可能性がある。また、工
場残材、建設廃材等の利用もさらに進めば、これらを利用する既存産業(製紙業界、木質
ボード産業)に影響が現れる可能性がある。ただし、調査事例数が少ないことから、今後
の実態把握が望まれる。
16 佐藤宣子「発電用バイオマス需要の発生による素材生産への影響 ∼大分県日田地域を中心に∼」(NPO 法人
バイオマス産業社会ネットワーク主催シンポジウム資料) (2015 年 7 月)
- 24 -
図表 2-28
A材(製材用材)、B材(合板用材)
想定される影響の波及経路
森林
D材(小径木・枝条・末木・根元)
C材(パルプ用材)
製材・合板産業
工場残材チップ
バイオマス発電等の
製紙産業
エネルギー産業
工場残材
製材・
合板
木質ボード産業
(パーティクルボード、繊維版)
木質ボード
紙製品
古紙
建設廃材 電気・熱
(RPS制度
の時代から
利用)
建設廃材
最終製品市場
(出所)三菱 UFJ リサーチ&コンサルティング作成
2.2.2 既存用途の業界動向
既存用途業界からはこの動きを是正する要望が出されている。合板業界の業界団体であ
る日本合板工業組合連合会(日合連)は、2015 年 9 月 10 日に「国産材原木の持続的、安
定的確保のための要望書」を林野庁長官に手交した。ここでは、既にバイオマス発電所の
影響が出ている地域があることやこれからの影響を危惧する声が多数寄せられる状況を
踏まえて、マテリアル利用優先のカスケード利用の徹底のための制度の確立や未利用間伐
材等の定義の明確化等の要望が出されている。
また、製紙業界においてもマテリアル利用との競合事例が報告されている。例えば、こ
れまで製紙用として納入されていた木質チップの大部分が新たに発電所に納入されるよ
うになった事例やチップ工場が C 材丸太を購入している事例が報告されている。製紙業界
は、現状ではパルプ材原料ソースの多くを輸入材で賄っているが、バイオマス発電に国産
材が流れれば、これまで以上に輸入材の利用が拡大する可能性がある。また、内陸部の製
紙工場では、原料調達が困難になる可能性がある。
また、建設廃材を多く使用している木質ボード業界は RPS 制度の開始以降から、エネル
ギー利用との競合との影響を指摘してきた。関係者へのヒアリング調査によれば、FIT 開
始後は、しばらく影響がなかったが、2014 年末頃から、近隣に発電所がある地域を中心に、
廃材チップ価格の上昇が報告されている。
- 25 -
図表 2-29
事例
事例①
マテリアル利用との競合事例
概要
G 発電所は、従来製材残材を全量製紙会社に納入していた Y 木材協同組合に製紙用木材チップ
よりも高い価格で、全量を発電用として引き取る提案をした結果、3 割が製紙会社、7 割が発
電会社に納入されることになった。
M 木材協同組合は従来、製材残材をすべて製紙会社に納入していたが、B 発電会社が製紙用木
材チップより 5 割高い価格を提示したため、週トラック 1∼2 台分の製材残材チップを発電用
に販売することになった。
T 発電会社の子会社の T チップ工場は、製紙用の価格より高い価格で発電用に C 材丸太を購入
する旨書面で宣言し、従来は製紙用であった C 材丸太を買い集めている。
事例②
事例③
(出所)上河潔「転換期に来た FIT 制度による木質バイオマス発電」(木材情報 2015 年 8
月号)
2.2.3 短期的に想定される状況
各業界の状況や一部に価格上昇傾向があることなどを踏まえると、短期的に図表 2-30
のような状況が発生していることが想定される。つまり、発電所向け需要が急増している
ため、利用率向上や伐採量増加が追いつかず、一部で既存用途からの転換が発生している
可能性がある。また、今後、発電所の稼働が増加する見通しとなっていることから、燃料
調達競争が激化していく可能性がある。
図表 2-30
短期的に想定される状況(概念図)
供給側
需要側
【FIT前】
伐採量増加は遅れ?
【FIT後】
その他
年間需要
製材
- 26 -
合板
製材
(出所)三菱 UFJ リサーチ&コンサルティング作成
パルプ
合板
その他
【 FIT 前】
チップ・
パルプ
切捨間伐
+残材
利用材
利用
③
間伐
【既存用途】
不足の発生?
チップ・
②
林地
間伐
利用材
残材
年間伐採量
【燃料用途】
既存用途から
の転換で需給
バランス確保?
今後の
①
【燃料材への供給方法】
①利用率向上
②伐採量増加
③既存用途からの転換
発電所向け需要
未利用材
未利用材
丸太
主伐
利用率
向上は
難しい?
【 FIT後】
3.国内林業セクターの需給バランス確保への取組
3.1
本調査におけるアプローチ
以上の国内産バイオマスの需給バランス分析より、1)供給ポテンシャルは十分にある
が、都道府県の増産計画など供給力の強化の対策が追いついていないこと、2)短期的に
は、不足が生じる地域が存在する可能性があることが明らかになった。これらの 2 つの課
題に対応し、1)都道府県を中心に、発電需要も考慮し、増産計画を新たに作成すること、
2)流通コーディネート組織を中心に、発電事業者と燃料供給者が情報共有を行い、需給
バランスの確保につとめるような場や仕組みを構築することの 2 つの取組が必要な方向性
として整理される。
これら 2 つの取組が各地域で有機的に連動しながら、需給バランスの仕組みが発達して
いくことが期待される。具体的には、図表 2-31 にイメージ図を示すように、協議会等を
通じて、中長期的な都道府県等の増産計画と、流通コーディネート組織が行う日常的な需
給調整を連動させながら、需給バランスを確保していく必要がある。
ただし、これらに関連する取組について、我が国においては必ずしも十分な知見が整理
されていないことから、事例を収集し、知見を集積していく必要がある段階である。そこ
で、本節においては、以下に、想定される課題に対応する参考事例を紹介する。
図表 2-31 2 段階の需給バランス確保の仕組みの全体イメージ
中長期的な増産計画
需要見通し・計画
都道府県等
森林資源計画・供給計画
協議会等
森林組合α
需要者A
団地a1
(発電所)
需要者B
団地a2
流通コーディネート組織
(製材・合板)
日常的な需給調整
団地b1
・
・
・
・
・
・
森林組合β
情報の流れ :
材の流れ :
団地b2
(出所)「実践経営を拓く 林業生産技術ゼミナール 伐出・路網からサプライチェーンま
で」酒井秀夫等を参考に、三菱 UFJ リサーチ&コンサルティング作成
- 27 -
3.2
中長期的な増産計画等に関する取組
(1)需要を見据えた長期的な増産計画(島根県)
島根県では、2 ヶ所のバイオマス発電所が稼働し、年間 12 万 t の林地残材の利用が見込ま
れている(松江バイオマス発電㈱6,250kW、合同会社しまね森林発電 12,700kW)。また、県
内には大型の合板工場や製紙工場が立地していることから、これらの需要を満たしつつ、県
内の森林の健全性を保つために必要な木材生産量の目標として 80 万 m3 に設定している。そ
のため、主伐の支援や、森林経営計画の策定強化などの様々な施策を実施している。
都道府県として、バイオマス発電所向けに燃料用チップ供給を行っていくことへコミット
している点をポイントとして捉えることができる。
図表 2-32 島根県における原木の需給量及び自給率の見通し
(出所)島根県「平成 27 年
島根県の森林・林業・木材産業」
(2)供給見通しの分析と公表(北海道)
北海道では、木質バイオマス発電の動きなどから、森林資源の供給見通しなどを明らか
にしていくことが必要なことから、国有林との連携の下、「森林資源動向調査チーム」を
設置し、資源量等を推計した。伐採実績から、現状の林地未利用材発生量を推計するとと
もに、地域森林計画等に基づき、2022 年度、2032 年度の発生量を推計している(ただし、
供給可能量は明らかにしていない)
。
都道府県として、未利用材等のポテンシャルを独自に推計している点をポイントとして
捉えることができる。
- 28 -
図表 2-33 北海道の森林資源量と未利用木材発生量
(出所)北海道「森林資源動向調査チーム」の検討結果
図表 2-34 振興局別の林地未利用材発生量分布(2012 年度実績より)
(出所)北海道「森林資源動向調査チーム」の検討結果
- 29 -
(3)実効性を考慮した総合的な増産計画(高知県)
増産計画を策定しても、実効性を伴わなければ、意味がない。
高知県では様々な工夫をこらすことで、実効性を考慮した総合的な増産計画を策定して
いる。具体的な特徴として、一つ目には、A 材から B・C 材まで、バイオマスに偏らない
総合的な需要開拓を行っている。二つ目には、林業労働力の不足が懸念される中、現場の
方々のモチベーションを確保するために、年収アップを目標設定するなどのユニークな点
が見られる。三つ目には、更にこれらの労働力を単に確保するということだけではなく、
これらを活かすための経営体の育成にも踏み込んでいる。
他には、実効性を確保するために、PDCA サイクルにより進捗管理や必要に応じた計画
の見直しなどを行っていることも参考になると思われる。
図表 2-35
高知県産業振興計画
現場のモチベーションを
上げる目標設定
単なる労働力の確保ではなく
経営体を育成
バイオマスに偏らない
総合的な需要開拓
(出所)高知県産業振興計画
(4)燃料ガイドラインの策定(福島県、三重県など)
増産計画ではないが、指針・ガイドラインを策定することで、発電事業者や燃料供給者
に原則・ルールの理解を促している都道府県がある。具体的には、福島県では、「福島県
木質バイオマス安定供給指針」を策定し、バイオマス施設を計画するときの原則的な考え
方について整理を行なっている。また、三重県では、燃料ガイドライン「三重県木質バイ
オマスの燃料利用指針」を作成することで、関係者に発電燃料のルールを周知している。
これらの取組は、未利用材以外の材の特に一般材部分の供給を可能にするための施策と
いう一面も持っており、需給バランスの確保上有効な仕組みである。
- 30 -
図表 2-36 福島県木質バイオマス安定供給指針の概要
①利用可能量を超えた施設計画を行わない。
②森林所有者への利益還元が図られるよう持続的な資源利用が可能な施設を計画する。
③木材はカスケード利用を前提とし、他用途との競合を回避する。
④未利用間伐材だけでなく、建設廃材や製材工場残材の利用を図る。
⑤木質バイオマスエネルギー利用施設を整備する際には、必ず可能性調査を実施する。
(出所)福島県ホームページ
図表 2-37 三重県木質バイオマスの燃料利用指針の概要
・木質バイオマスの種類に、林業由来、製材業由来に加え、建設工事由来、街路樹・果樹等の剪
定枝由来、ダムや湖沼、河川、海岸等の立木を位置付け
・必要な品質について、燃料製造事業者が受入れ可能であること、著しい腐朽材及び土石等の付
着した根株ではないこと、木質バイオマス以外が混入していないことを明記
・燃料製造事業者は、適正に分別して保管・管理し、管理者の氏名や名称、連絡先や保管量を明
示した掲示板を設けること
・行政が立ち入り検査ができることを明記
(出所)三重県ホームページ
(5)地域 FS 調査による新規施設の適正立地への誘導(岐阜県)
全国的に需給バランスの確保が課題となる一方、利用できていない森林資源もあり、中
小規模のバイオマス発電や熱利用により、有効に活用していくことが期待されている。そ
こで、森林資源を余すところなく利用するために、中小規模の発電事業を適切な立地へ誘
導すべく、FS 調査を通じて先行的に案件を形成していくことが想定される。
具体的には、岐阜県では、2014 年度から独自に「地産地消型木質バイオマスエネルギー
利用事業化検討」を実施。県内の 10 地域において、中小規模の熱電併給もしくは熱利用
施設を中心に、FS 調査を通じて有望な案件を導出し、同エリア内の燃料供給余力とのマッ
チングを図ることで、計画段階での需給マッチングの精度向上を図っている。
図表 2-38
調査・検討の全体イメージ
×
大型発電所との集荷圏の重なりを
意識しながら適正に配置
(出所)岐阜県地産地消型木質バイオマスエネルギー利用事業化検討資料
- 31 -
3.3
短期的な需給調整に関する取組
(1)生産見通しの公表①:国有林との連携(長野県など)
生産見通しを明らかにすることで、伐採業者の年間の生産計画や、発電事業者等の需要
者の調達計画の見通し精度向上を狙う取組が行われている。
具体的には、長野県、岐阜県、大分県では、国有林とも連携し、県内森林からの生産見
通しを公表し、需給バランスの安定化に努めている(岐阜県:3 ヶ月ごと、長野県:6 ヶ
月ごと、大分県:毎月)
。ただし、計画的に木材生産を行っている国有林に対し、民有林
からの生産見通しの精度向上が課題であり、長野県では参考数値扱いとなっている(下図
の「その他」部分が相当)
。
図表 2-39 長野県における素材生産の事業予定量(平成 26 年度)
(出所)長野県ホームページ
(2)生産見通しの公表②:伐採届運用の改善との連動(大分県)
生産見通しが立てにくい一般民有林について、伐採届を市町村と共有することで、生産
情報をいち早く公表することができる。伐採届の受理は市町村が行っているため、市町村
との連携体制の構築がポイントとなる。
具体的には、大分県では、国有林や県有林からの発注情報に加え、市町村を経由して、
伐採届の情報を迅速に収集し、木材生産量の見通しも公表している。これにより、林業セ
クターが需給を見越した伐採計画を立てることができるような仕組みを構築している。あ
わせて、伐採や更新の指導がしやすくなり、秩序だった伐採(皆伐)が行われるようなルー
ルづくりに努めている点も重要である。
- 32 -
図表 2-40 大分県における統一様式を利用した伐採届・伐採許可の流れ(抜粋)
(出所)大分県ホームページ
- 33 -
(3)流通コーディネーターによる広域的な需給調整①:林業側からの組織化
複数の出荷者をまとめることで、供給量を確保するだけではなく、安定化を実現するこ
とができる。
複数のバイオマス発電所が稼働している岩手県では、ノースジャパン素材流通協同組合
が燃料材の需給調整を実施している。このように、合板工場への国産材の安定供給体制の
構築を行ってきた林業関係の流通組織が、バイオマス事業にも乗り出した場合が多く、他
には島根県素材流通協同組合などがある。
図表 2-41 ノースジャパン素材流通協同組合による燃料材の需給調整の仕組み
(出所)ノースジャパン素材流通協同組合資料
(4)流通コーディネーターによる広域的な需給調整②:発電側からの組織化
RPS 法制度下のバイオマス発電時代から、主にリサイクルチップの供給を担ってきた流
通コーディネーターを中心に、未利用材等の森林バイオマスの調達や需給調整を担うケー
スがある。これらの流通コーディネート組織は、発電所の経営にも参画している場合があ
る。化石燃料を用いる発電事業者等は、これまで自社の責任で燃料を調達してきたことを
考えると、一義的には発電所に調達責任があり、この動きはそのような考えに沿ったもの
と言うことができる。
具体的には、飯森木材(ミツウロコ岩国発電所、中国電力新小野田発電所)、日本フォ
レスト(グリーン発電大分)
、ウッドピア木質バイオマス利用協同組合(三重エネウッド)
- 34 -
などをそのモデルとして挙げることができる。未利用材だけではなく、建設廃材や開発支
障木などを使うことができることや、複数県に調達ルートを持つことから需給調整能力が
高いと言える。
図表 2-42 日本フォレスト㈱によるグリーン発電大分へのバイオマス燃料供給スキーム
県森連・県木連・素生協等の認定団体
グリーン発電大分
燃料用チップ(水分35%)の納入
日本フォレスト(燃料製造・供給会社)
燃料用原木(曲材や枝葉の納入)
日田木質資源有効利用協議会
( 会員:森林組合、素材生産業者、原木市場、運送業者等)
(出所)
「日本フォレスト㈱が進める木質バイオマス発電」より作成
(5)協議会の開催による情報共有
都道府県の呼びかけにより、需給バランス確保のために関係者が情報を共有する場とし
て協議会が設置されている場合が多い。
高知県では、県内の林業・木材産業関係者を集めた協議会を開催し、関係者間の情報共
有に努めている。
「供給」部会と「利用」部会を設けて専門的な議論を行いつつ、
「運営委
員会」に両部会の代表が参加し、情報共有を行っている。また、県が策定した増産計画(高
知県産業振興計画)の実現のための、現場との調整的な役割も有している。
- 35 -
図表 2-43 高知県木質バイオマスエネルギー利用促進協議会のイメージ図
(出所)高知県ホームページ
岐阜県では、発電事業者と木材供給者が一堂に会する協議会を設置し、燃料調達の状況や、
バイオマス材証明運用の徹底などについての議論を行なっている他、様々な勉強会を開催す
るなどの活動をしている。他方、宮崎県では県内 5 ヶ所に協議会を設けているが、発電事業
者が入っていない協議会もある。また、地域や県全体での流通のコーディネートまでは行っ
ていない。
複数の県へのヒアリングによれば、協議会の設置・維持には、①必要なアクターの参加、
②アクターの参加を維持するための意味ある情報提供や議論、③乱立しがちな協議会の集約
化などの課題が存在している。今後、需給バランス確保のために適切な役割を果たすことの
できる協議会のあり方について整理が必要である。
・
・
・
・
図表 2-44 宮崎県における安定供給確保のための連絡会の状況
設置単位:県内の 5 流域
事務局:県、森林組合、市町村など
構成メンバー:森林組合、県森連、民間業者、市町村/など
主な議題:
 地域における供給量の増大
 供給のための施設・体制整備
 森林所有者のための利益還元のための仕組み/等
(出所)「FIT 制度における木質バイオマス供給の課題:宮崎県における『林地残材』の事
例」横田(2015)
- 36 -
4.輸入バイオマスの可能性評価
4.1
検討対象とする輸入バイオマス
輸入バイオマスとしては木質ペレット、PKS(Palm Kernel Shell)
、EFB(Empty Fruit Bunches)
、
木質チップ、サトウキビなど様々な燃料が想定できるが、本調査では、現在輸入バイオマス
として主に想定されている木質ペレット、木質チップおよび PKS について中心的に分析す
る。
4.1.1 木質ペレット
木質ペレットの持つ特徴としては、大きさ・硬さが均一で形くずれがしにくい点が挙げら
れる。小型の顆粒状のため軽く、搬送・保管・長期貯蔵などの取り扱いに適した燃料である。
水分含有量が少ないため着火は良好で、品質も安定しているため燃焼効率が良い。
木質ペレットの原材料となるのは、製材かんな屑や低質材などである。
図表 2-45 木質ペレット
(写真)三菱 UFJ リサーチ&コンサルティング
4.1.2 木質チップ
木質チップは、現在最も流通しているバイオマス燃料形態である。主に原料は低質材や製
材端材である。ただし、木質チップは生材を原料にすると、水分含有量が高いため、適切に
保管しないと、内部が高温になって劣化したり、ときには発火したりすることもある。その
ため貿易における取り扱い時には注意が必要である。
- 37 -
図表 2-46
木質チップ
(写真)三菱 UFJ リサーチ&コンサルティング
4.1.3 PKS
PKS はパーム椰子の実の種の殻の部分で、パーム油を生産する過程で発生する農作物残さ
廃棄物である。パーム油の副生成物であるため熱量が豊富なことが特徴である。
図表 2-47 PKS
(写真)三菱 UFJ リサーチ&コンサルティング
- 38 -
4.2
輸入バイオマスの生産・貿易の実態
4.2.1 木質ペレット
(1)世界の生産・消費・貿易の実態
世界の木質ペレットの生産量の推移を図表 2-48 に示す。世界のペレット生産量は増加
傾向にある。2014 年における国・地域別の木質ペレットの生産量を見ると、生産地域とし
て多いのはヨーロッパであり、全世界の半分以上を占めていることが分かる(図表 2-49)。
しかし、生産量が最も多い国は、アメリカ、カナダである。現在のところアジアでの生産
量が占めるシェアはわずかであるが、アジアでのペレット生産量は近年大幅に増加してお
り、2012 年には 30 万トン程度であった生産量が 2014 年には 140 万トンへと拡大している。
図表 2-48 世界のペレット生産量の推移
生産量(1000トン)
30,000
Oceania
Europe
Americas
Africa
Asia
20,000
10,000
0
2012
2013
2014
(出所)FAOSTAT より三菱 UFJ リサーチ&コンサルティング作成
- 39 -
図表 2-49 世界のペレット生産国(2014 年)
Asia Others
5% 1%
Americas
34%
AsiaOthers
5% 1%
Other Europe
27%
USA
26%
Canada
7%
Russia
Germany
3%
8%
Austria
4%
Portugal
Sweden
4%France Latvia 6%
5%
4%
Europe
60%
(出所)FAOSTAT より三菱 UFJ リサーチ&コンサルティング作成
図表 2-50 に国別用途別のペレットの消費量を示す。世界のペレットの消費量の内、お
よそ 4 割程度が発電等の産業利用となっており、6 割が小売を中心とした暖房利用となっ
ている。ペレットの消費実態は国や地域ごとに大きく異なっており、イギリス、韓国、デ
ンマーク、スウェーデンなどは産業利用中心、アメリカ、イタリア、ドイツなどは暖房利
用中心となっている。
- 40 -
図表 2-50 世界のペレット需要国(2014 年)
産業利用[千万トン] 熱利用[千万トン]
(電力、CHP、地域 (住居、施設での利
用)
熱利用)
イギリス
アメリカ
イタリア
韓国
デンマーク
スウェーデン
ドイツ
フランス
オーストリア
ベルギー
その他
合計
4.7
0
0
1.9
1.5
1.3
0
0
0
0.6
1
11
0.2
2.7
2.7
0.1
0.5
0.5
1.8
1
0.8
0.1
3.1
13.5
(出所)「Global Trade of Wood Pellets」Hawkins Wright より三菱 UFJ リサーチ&コンサル
ティング作成
図表 2-51 に世界のペレット貿易のフロー図を示す。ペレットの貿易は盛んであり、生
産量のおよそ 1/2 が国際的に取引されている。主な流れとしては、EU 圏内(530 万 t)
、
USA もしくはカナダから EU(520 万 t)となっている。
図表 2-51
ロ シア ► EU
83万t
EU内陸
533万t
世界のペレット貿易フロー
ロ シ ア ► ア ジア
3万t
カナダ ► アジ ア
43万t
ベラ ルーシ&ウクライナ►EU
26万t
バルカン半島 ► EU
19万t
アメ リカ ► ア ジア
6万t
中国 ► アジ ア
29万t
カナダ ► EU
126万t
ア メリカ ► EU
389万t
タイ&ベトナム ► ア ジ ア
86万 t
主要貿易フロー:
-
EU内陸( 533万t)
アメリ カ→EU( 390万t)
アジ ア 内陸(140万t)
カナダ→EU( 130万t)
ロシ ア→EU( 80万t)
カナダ→ア ジ ア (40万t)
マレーシア&インドネシア ► ア ジア
23万t
オー ストラリア&ニュージーランド ► ア ジア
3万 t
(出所)「Global Trade of Wood Pellets」Hawkins Wright より三菱 UFJ リサーチ&コンサル
ティング作成
- 41 -
(2)日本の輸入の現状
日本の木質ペレットの消費量は年々増加しており、2014 年は、国内産と海外産がそれぞ
れ約 10 万 t 程度であったが、2015 年は輸入が急増し、約 15 万 t となった。輸入先として
はカナダが 9 割以上を占めてきたが、2015 年に入り、中国産が増加している(図表 2-52)。
ただし、原材料の調達先は不明であり、その他の国の木材を中国がペレット化したものを
輸入している可能性もある。
日本の木質ペレットの輸入価格の推移を図表 2-53 に示す。全体的に、近年木質ペレッ
トの輸入価格は若干の上昇傾向であることが分かる。また、輸入価格は国ごとの差が大き
く、アメリカ産のペレットが最も高価となっている。最大の輸入先であるカナダのペレッ
トはトン当たり 2 万円から 2 万 5 千円程度で推移しており、
その他のアジア産の木質ペレッ
トに比べると高価であることが分かる。
図表 2-52 日本の木質ペレット輸入量の推移
200,000
輸入数量(トン)
150,000
その他
100,000
ベトナム
中国
カナダ
50,000
0
2012
2013
2014
2015
(注)2015 年は 11 月までのデータを使用
(出所)財務省貿易統計より三菱 UFJ リサーチ&コンサルティング作成
- 42 -
図表 2-53 日本の木質ペレット輸入価格(輸出国別)
60
輸入価格(1000円/トン)
50
カナダ
40
中国
インドネシア
30
マレーシア
20
アメリカ
ベトナム
10
0
2012
2013
2014
2015
(注)2015 年は 11 月までのデータを使用
(出所)財務省貿易統計より三菱 UFJ リサーチ&コンサルティング作成
(3)今後の見通しと想定されるリスク
1)北米の生産の現状と今後
アジアのペレット生産能力は現状では低く、かつ持続可能な原材料の確保の観点から、
北米を有力な供給源と見る商社も多い。北米におけるペレットの生産量は右肩上がりで延
びており(図表 2-54)
、2014 年は 800 万 t 超の生産で、2019 年には 1,600 万 t の生産が
見込まれている17。ただし、北米は、現状では EU 市場をメインの輸出先としており、生
産拠点も東部・南部に集中している(図表 2-55)。日本に加え、韓国でも 2014 年から輸
入量が急増したことから、北西部でも生産拠点整備の動きがあるが、2019 年でも生産量は
500 万 t 程度と予測されている。南部は小径木を原料としているが、コストの観点から、
北西部は製材屑を原料とする必要があり、LCA 的には有利であるが、製材工場の稼働状況
の影響を受ける可能性がある。
17 RISI「North American Wood Pellet Markets」より
- 43 -
図表 2-54 北米におけるペレット生産量
10
9
生産量(百万トン)
8
7
6
5
USA
4
Canada
3
2
1
0
2012
2013
2014
(出所)FAOSTAT より三菱 UFJ リサーチ&コンサルティング作成
図表 2-55 北米のペレット工場の生産力
アメリカ
東部・南部
カナダ
合計
16,183
2,863
19,046
中部
413
80
493
西部
1,035
2,870
3,905
総計
17,631
5,813
23,444
(注)数字は生産能力であり、実際の生産量とは一致しない。
(出所)
「Bioenergy International Pellet Special 2015」より三菱 UFJ リサーチ&コンサルティ
ング作成
北米から欧州へのペレット輸出価格は 200∼230$/トン程度でゆるやかに上昇しており、
日本向けの価格とほぼ同等である。日本のペレット輸入価格は、世界の相場とリンクして
いると思われるが、価格原材料価格やフレート費用の影響を受ける可能性がある。
2)韓国の動向について
RPS 制度導入により、各電力会社がペレットによる石炭混焼を開始、2014 年に韓国は
- 44 -
180 万 t ものペレットを輸入し、
世界第 4 位のペレット輸入国となっている(図表 2-56)。
ペレットの調達先は主にアジア諸国であり、ベトナムが最大の輸入先となっている。2015
年より、輸入量は減少するとともに、韓国電力公社が森林認証ペレットを要求するように
なるなど新たな動きが見られる。
図表 2-56 韓国のペレット輸入量
2,000
Others
United States
輸入量(千トン)
1,500
Thailand
Indonesia
1,000
Russian Federation
China
Malaysia
500
Canada
Viet nam
0
2012
2013
2014
2015
(出所)KOREA Customs Service Trade Statistics より三菱 UFJ リサーチ&コンサルティ
ング作成
図表 2-57 に韓国のペレットの輸入価格を示す。ベトナム、マレーシアなど東南アジア
からの輸入価格はカナダ、中国に比べて低くなっている。2015 年は、ベトナム、マレーシ
アから輸入されたペレットはトン当たり 100 ドル台前半、カナダから輸入されたペレット
は 100 ドル台後半で取引されている。
- 45 -
図表 2-57 韓国のペレット輸入価格
輸入価格(USD/トン)
300
200
100
Viet nam
Canada
Malaysia
China
0
Q1 Q2 Q3 Q4 Q1 Q2 Q3 Q4 Q1 Q2 Q3 Q4 Q1 Q2 Q3 Q4
2012
2013
2014
2015
(注)2015 年第2四半期以降の中国については、輸入量が極端に少ないため除外
(出所)KOREA Customs Service Trade Statistics より三菱 UFJ リサーチ&コンサルティン
グ作成
3)半炭化ペレットについて
半炭化ペレットは、
「ほどほどに熱をかける」ことで焙煎したペレットで、トレファク
ションとも呼ばれる。エネルギー密度が高まることで輸送に有利なことに加え、耐水性が
高いため、野外での貯蔵が可能などのメリットを持つ。通常のペレットであれば、石炭混
焼を行なう場合、専用のミルの追加投資が必要であるが、半炭化ペレットの場合は石炭に
直接混ぜることができる。
図表 2-58 通常のペレットと半炭化ペレット
(出所)森林総合研究所
- 46 -
現在、アメリカの ZILKHA 社がオレゴン州に半炭化ペレットの工場を建設中であり、日
本の商社も既に商用プラントの準備を進めている18。また、北米産の木質ペレット以外に
も、アジア産の多様なバイオマスを半炭化して輸入する動きがある。
図表 2-59 半炭化(ブラック)ペレットの特徴
ホワイトペレット
半炭化(ブラック)ペレット
高位発熱量(kcal/kg)
/低位発熱量(kcal/kg)
4,300/
3,900
5,070/
4,700
水分
8-10%
1-7%
サイロor倉庫
野外
低(混焼率3-5%)
高(混焼率30-100%)
貯蔵方法
すりつぶしやすさ
(出所)「Commercialization of Black Pellet」Sojitsu & Arbaflame AS を参考に、三菱 UFJ リ
サーチ&コンサルティング作成
4.2.2 木質チップ
(1)世界の生産・消費・貿易の実態
図表 2-60 に世界のチップ貿易量を示す。現在、世界で生産されているチップは、1.4
億 t 程度であり、かつては製紙用がほとんどであったが、エネルギー利用も増加傾向にあ
る。ただし、海洋貿易で流通している木質チップのほとんどは製紙用であり、エネルギー
利用は限られている。日本は世界最大のチップ輸入国であり、世界の貿易量の半分以上を
占めていたこともあったが、現在は中国が台頭している。
18 商社ヒアリングより
- 47 -
図表 2-60 世界のチップ貿易量
40,000
その他
中国
輸入量( 千トン)
30,000
日本
20,000
10,000
1992
1993
1994
1995
1996
1997
1998
1999
2000
2001
2002
2003
2004
2005
2006
2007
2008
2009
2010
2011
2012
2013
2014
0
(出所)FAOSTAT
(2)日本の輸入の現状
図表 2-61 に日本の製紙バージン原料の推移を示す。日本の製紙バージン原料の内、輸
入チップ及びパルプがおよそ 8 割を占めている。ただし、紙・板紙生産量(消費量)の減
少と、古紙利用率の増加に伴い、バージン原料の利用量自体が減少傾向にある(図表
2-62)。製紙会社はオセアニア・東南アジア等に、47.9 万 ha に及ぶ植林地を確保しており、
その新たな需要先として、バイオマス発電が選択される可能性がある。ただし現状では、
エネルギー利用に供されるチップは全体の1割程度にとどまっている。
チップの輸入量は広葉樹由来のものが多く、2015 年の輸入量は 1000 万トンを超えてい
る。広葉樹の主な輸入先として挙げられるのは、ベトナム、オーストラリア、チリである。
針葉樹の主な輸入先は、アメリカ、オーストラリア、カナダである。
- 48 -
図表 2-61 日本の製紙バージン原料の推移
(出所)
「平成 26 年版 森林・林業白書」林野庁
図表 2-62 日本の紙生産量の推移
(出所)
「平成 26 年版 森林・林業白書」林野庁
- 49 -
図表 2-63 日本におけるチップの輸入先の状況(2015 年)
その他
ブラジ 7%
ル
タイ 6%
ニュー フィジー その他
1%
ジーラン 5%
ド
8%
ベトナ
ム
28%
8%
カナダ
10%
広葉樹
1022万トン
南アフ
リカ
12%
オース
トラリア
20%
チリ
19%
針葉樹
168万トン
アメリカ
39%
オースト
ラリア
37%
(出所)財務省「通関統計」
(3)今後の見通しと想定されるリスク
輸入チップの価格は、為替の影響等で上昇傾向にあり、製紙会社の海外植林資源活用に
課題が発生している。なお、国産チップの値上げには繋がっておらず、両者は連動してい
るとは言いがたい(図表 2-64)
。
図表 2-64
チップ価格の推移
(円/トン)
22,000
輸入針葉樹チップ
20,700
20,000
20,500
18,000
16,900
輸入広葉樹チップ
16,000
国産広葉樹チップ
14,000
12,600
12,000
国産針葉樹チップ
10,000
H14
(2002)
15
(03)
16
(04)
17
(05)
18
(06)
19
(07)
20
(08)
21
(09)
22
(10)
23
(11)
24
(12)
25
(13)
26
(14)(年)
(注)輸入チップは、港湾着。国産チップは、チップ工場渡し。重量は絶乾ベース
(出所)
「平成 26 年版森林・林業白書」林野庁
- 50 -
4.2.3 PKS
(1)世界の生産・消費・貿易の実態
図表 2-65 にパーム油副産物の国際流通量を示す。インドネシアおよびマレーシアが、
パーム油の 2 大生産国であり、かつパーム油副産物の国際的な供給量の大部分を占める。
PKS(Palm Kernel shell)はパーム椰子の実の種の殻、EFB(Empty Fruit Bunch)はパーム椰
子果実の加工残渣である空果房である。PKS はパーム油生産に伴う副生産物であるため、
利用可能量はパーム油の生産量に規定される。現在の世界での PKS の供給ポテンシャル
は 1,000 万トン程度と推計される(図表 2-66)。
図表 2-65
日本
4%
ドイツ
4%
イギ リス
6%
中国
7%
ポー ラ ン
ド
9%
その他
13%
輸入国
711万トン
(2014)
パーム油副産物の国際流通量
その他
10%
ニュ ー
ジ ー ラン
ド
30%
マレーシ
ア
35%
輸出国
711万トン
(2014)
インドネ
シア
55%
オランダ
17%
韓国
10%
(注)パーム油副産物としては PKS(Palm Kernel shell)に加え、EFB(Empty Fruit Bunch)
などのその他製品についても統計に含まれている。
(出所)UN Comtrade を元に三菱 UFJ リサーチ&コンサルティング作成
- 51 -
図表 2-66
PKS の供給ポテンシャル
パーム 油生産量(万トン)
PKS産出量(万トン)
インドネシア
2,690
538
マレーシア
1,922
384
197
39
ナイジェリア
96
19
コロンビア
95
19
パプアニューギニア
50
10
ホンジュラス
43
9
コートジボワール
42
8
グアテマラ
40
8
289
58
5,461
1,092
タイ
その他
合計
(注)PKS 産出量はパーム油生産量×0.2 で算出
(出所)FAO「FAOSTAT」をもとに三菱 UFJ リサーチ&コンサルティング作成
(2)日本の輸入の現状
図表 2-67 に日本のパーム油副生産物の輸入量の推移を示す。PKS 等のパーム油副産物
の輸入量は急増しており、輸入価格も近年上昇傾向にある(図表 2-68)。将来的な国内
の燃料需要を踏まえると数百万トン規模での PKS の輸入が求められるが、どの程度現在
の価格のまま輸入を拡大出来るか先行きは不透明である。
図表 2-67 日本のパーム油副産物の輸入量の推移
(万トン)
30
その他
25
マレーシア
20
インドネシア
15
10
5
0
2010
2011
2012
2013
2014
(出所)財務省「貿易統計」をもとに三菱 UFJ リサーチ&コンサルティング作成
- 52 -
図表 2-68 日本のパーム油副産物輸入価格の推移(国別)
輸入価格(1000円/トン)
20
15
10
マレーシア
5
インドネシア
0
(出所)財務省「貿易統計」をもとに三菱 UFJ リサーチ&コンサルティング作成
(3)今後の見通しと想定されるリスク
1)パーム油の生産見通し
PKS は本来廃棄物であり、それ自体を目的として生産されているわけではないため、
パーム油の生産量に供給余力が制限される。特にマレーシアはパーム油生産の余力が乏
しいと予測され(図表 2-69)
、PKS の生産量も大きく増加する見込みは小さいとかんが
えられる。
図表 2-69
40,000
パーム油の生産量の将来予測
インドネシア
マレーシア
その他
35,000
生産量(千トン)
30,000
25,000
20,000
15,000
10,000
5,000
0
2014
2015
2016
実績
2017
2018
2019
2020
予測
(出所)三菱化学テクノリサーチ資料19をもとに三菱 UFJ リサーチ&コンサルティング作成
19 平成 22 年度経済産業省委託調査「平成 22 年度経済連携促進のための産業高度化推進事業『インドネシアにお
ける油脂化学産業に関するミッション派遣事業』」報告書
- 53 -
また、持続可能なパーム油利用促進のため、環境 NGO などが活発に活動しており、
RSPO(Roundtable on Sustainable Palm Oil 「持続可能なパーム油のための円卓会議」
)な
どの枠組みが構築されている。 RSPO にはブックアンドクレームと呼ばれる、クレジッ
トによる環境価値取引ができる仕組みがある。ブックアンドクレームの仕組みのもとで
は、生産された認証油は証券化され、利用者は必要な数量分の証券を購入する。つまり、
実際には現物の認証油ではない非認証油を購入することになるが、認証油の生産者には
相当分の金銭的な還元がなされることとなっている20。
現在、PKS を RSPO の認証の枠組みに入れることについての議論が行われているが、
副産物である PKS を認証システムに入れることへの反発がある。
RSPO のスキームでは、
生産工場に環境負荷低減の取組を求めており、PKS が工場内で燃料として利用されてい
る場合も多いと言う。さらに、PKS は、農家が庭先で小規模に生産しているものを集荷
する場合も多いため、生産地を特定することが難しく、流通のトレーサビリティーを確
保することは難しい。こういった理由から、現状は PKS を RSPO の枠組みに入れること
は難しいと予測される21。
2)PKS 調達の不安定性
PKS は調達に積極的な商社も多い中で、安定的な調達が出来ずリスクが大きいため、
一部商社では取り扱っていない22。供給源としてはインドネシア、マレーシアが大部分を
占めるため、代替できる調達先がない分リスクは大きいと言える。
最大の輸出国であるインドネシアでは、PKS の輸出に対する政策変更が行われ、調達
価格の上昇を招いている。インドネシア政府は、パーム油産業振興策として、「Crude
Palm Oil Supporting Fund」制度を 2015 年 7 月から実施している23。インドネシアでは、
この制度の下、輸出 PKS に対してファンドへの拠出という形で、トンあたり 10 US ドル
が徴収されている。また並行して PKS1トンあたり7ドルの輸出関税も実施されている。
マレーシア、インドネシアでは国内における燃料需要が大きいため、今後も輸出量を
大幅に増加させることは期待できないと予測される。
20 WWF ウェブサイトより
21 認証関連機関へのヒアリングより
22 商社へのヒアリングより
23 On-site Report no.193 より
- 54 -
4.3
輸入バイオマスの可能性評価
国内産バイオマス供給力強化のタイムラグや不安感から、輸入バイオマスを併用する動き
が今後出てくると思われる。また、稼働当初より輸入バイオマスを主な使用燃料として計画
している発電所も多く存在すると想定される。しかし、現実的に輸入バイオマスの利用はど
の程度見込めるのだろうか。輸入バイオマスの利用可能性について、ここでは整理・検討を
行う。
4.3.1 供給余力
輸入バイオマスとして想定されるのは、主に木質ペレット、木質チップ、PKS の 3 種類
である。世界的な生産量が最も多いのは木質チップであるが、木質チップは製紙用がほと
んどであり、EU 圏内などでの輸出入はあっても、燃料用での大規模な海洋貿易の実態は
ほとんどない。日本はかつて、世界のチップ輸入のおよそ半分を占めていたが、紙の消費
量の減少および為替の影響から輸入量は減少しており、現在は中国が台頭している状況で
ある。こうした現状を踏まえると、ただちに木質チップの燃料利用が急増することはない
と予想されるが、チップは資源量としては潤沢に存在することから、将来的にエネルギー
利用が模索される可能性はあると想定される。
木質ペレットの生産量は今後急増することが予測されており、輸入量が増加する可能性
は比較的大きいと言える。北米における木質ペレットの輸出は、これまで EU 市場を主な
対象としていたが、現在北西部で生産拠点整備の動きもあり、今後日本への輸出量も増加
することが見込まれる。しかし、日本で今後増大する需要に十分応えられるほどの供給余
力があるかどうかは不透明である。さらに、価格面で有利なアジア産の木質ペレットは、
森林認証の取得が困難であることなど課題もあり、安定的で持続的な供給のためには課題
が多いと考えられる。
PKS はパーム油の生産量から、
毎年 1,000 万トンが発生していると推計される。ただし、
PKS は副産物であり、現地での利用も多いことから、輸出可能量は 100 万トンから 300 万
トン程度と推計されており、大きな供給余力はないものと推測される。
図表 2-70
輸入バイオマスの生産余力
(1)木質ペレット
(2)木質チップ
(3)PKS
世界の生産量の
現状
2,800万t(2015年見込み)
4,500万t(2020年予測)
1.4億t程度
主な生産地
欧州、北米、アジア等
欧州、北米、オセアニア、
インドネシア、マレーシア
南米、アジア等
世界の貿易量の
現状
1,300万t
うち日本向け:10万t
3,500万t(主に製紙)
うち日本向け:1,100万t
100万t程度
うち日本向け:24万t
日本向け推定供
給可能量
300∼450万t(北米産)
300~1,000万t(アジア産)
2,000∼3,000万t
100∼300万t
1,000万t程度
(注)木質チップは、水分 50%に換算
(出所)商社等へのヒアリングより、三菱 UFJ リサーチ&コンサルティング作成
- 55 -
4.3.2 価格および流通コスト
現在価格面で最も有利な輸入バイオマスは PKS であるが、廃棄物を原材料としている
ため、すでに価格は上昇傾向にある。次に価格面で有利なのは、木質ペレットであるが、
屋内貯蔵場所が必要であり、貯蔵管理のためのコストがかかる。木質チップは最も価格が
高い上、短期間であれば野外貯蔵可能であるが、発酵の可能性があり、短期間で燃焼させ
る必要がある。加えて、木質チップは密度が小さいためにかさばること、水分率が最も高
いために専用船での輸送が必要となることなど、不利な条件が多い。
図表 2-71 輸入バイオマスの価格・流通コスト
(1)木質ペレット
(2)木質チップ
(3)PKS
160(アジア産)
参考価格
(CIF価格:$/t) 220(北米産)
105
120
熱単価($/GJ)
8.9(アジア)-12.2(北米)
13.1
7.5
熱量(GJ/t)
(低位発熱量)
18
8
16
水分
7%
50%
7%
海上輸送
2万t(ばら積みの場合)
コンテナ輸送もありえる
4万t(専用船)
1万t(ばら積みの場合)
貯蔵
屋内貯蔵場所
野外貯蔵可能(短期のみ)
野外貯蔵可能
*北米産相場は発電所着で2万円/t台後半
(出所)三菱 UFJ リサーチ&コンサルティング作成
(注1)CIF 価格は商社等へのヒアリングにより設定。
(注2)熱量は各種調査より設定。ただし、水分含有量に応じて変動する。
4.3.3 輸入バイオマスのリスク
輸入バイオマスの利用には特有のリスクも存在する。例えば、調達国の環境問題に関す
るリスクや為替変動リスクなどに留意が必要であり、また、副産物を原料とした燃料を輸
入する場合は、主産物の生産の影響を受けることにも考慮する必要がある。RSPO などの
ような認証スキームも存在するが、現地で燃料利用されている場合も多く、安定的な調達
は容易ではない。また、小規模農家による生産も多いため、トレーサビリティを確保する
ことが難しいといった問題がある。
これらに加えて、いずれの輸入バイオマスも、港から発電所までのロジスティクスの問
題を抱えている。また、輸入バイオマスを用いる上では、発電所の立地も重要な要素とな
り得る。内陸部の 5,000kW 級の発電所は、港湾部の大型の発電所に比べて価格負担力が低
く、追加的な輸送コストが大きい。そのため、当面もっとも有利な PKS を用いたとして
も、経営を圧迫する可能性が高い。さらに、発電所によっては、新たに燃料搬送装置や破
砕機(ミル)などが必要になる場合がある。
欧州では輸入バイオマスを中心に、バイオマスのエネルギー利用の持続可能性に対して
- 56 -
厳しい視線が注がれており、政府レベル及び業界レベルでの基準の設定などの対応が見ら
れる。わが国においても今後、輸入バイオマスに対する持続可能性基準が設けられる可能
性があるが、輸入バイオマスの利用の際には、そうした動向を踏まえた上での検討が必要
となる。
図表 2-72
輸入バイオマス調達のリスク
(1)木質ペレット
(2)木質チップ
(3)PKS
・北米(北西部)の製材工場の操
・パーム油生産に対する持続
業の状況
可能性の批判
・製紙用との競合
調達量に影響を与え ・欧州や韓国での、持続可能性
・認証パーム工場ではPKSを
・豪州タスマニアやアマゾン
基準のデファクト化(アジア産
現地で燃料利用
る要因やリスク
等での、環境問題リスク
は認証困難か)
・トレーサビリティの確保は困
・欧州ではLCA
難
・世界的な相場の影響
価格に影響を与える
・韓国や中国等との競合
要因やリスク
・為替の変動
・廃棄物だったものが有価に
・製紙用の価格に準じる
なり、価格急上昇
・製紙用チップでは中国との ・インドネシア政府の関税強化
競合
(産業育成ファンドへの拠出
10$/t+関税7$/t)
・為替の変動
・為替の変動
(出所)商社等へのヒアリングより、三菱 UFJ リサーチ&コンサルティング作成
- 57 -
第3章 長期自立電源となるための課題分析
I. バイオマス発電のコスト構造
1.本調査におけるコスト構造分析のアプローチ
1.1
コスト構造分析の全体像
バイオマス発電所の典型的なモデルプラントを想定し、発電原価の試算を行う。①資本費、
②運転維持費、③燃料費、④租税の総費用を発電電力量で割って発電単価を求める。
発電コスト[円 / kWh ]=
①資本費+②運転維持 費+③燃料費+④租税
発電電力量 [ kWh ]
発電コストの算出にあたっては、当該モデルプラントにおいて、一定の運転年数にわたっ
て毎年発生する費用を評価時点(運転開始時点)の価格に換算して合計した総費用を、当該
運転期間中に想定される総発電量を同時点の価値に換算して合計した総便益(割引電力量)
で除して求める。OECD や我が国の発電コスト検証ワーキングで採用されている「運転年数
均等化発電原価計算法」
(いわゆる Levelized Cost Of Electricity (LCOE)法)と同様の考え方で
ある。
図表 3-1
コスト構造分析の範囲
発電所運営にかかる総費用を発電電力量で割る
バイオマス燃料
(木質チップ等)
燃料供給
電力(kWh)
バイオマス発電事業者
事業者
電力小売
事業者
③燃料費
売電収入
建設
①建設費
保守役務
②修繕費
プラント
保守会社
エンジニアリング
会社
(注)図で表した費用のほかにも租税、人件費、灰処理費等の支払いが発生
(出所)三菱 UFJ リサーチ&コンサルティング作成
- 58 -
※売電収入は発電コストには無関係
(発電所の収支やIRRの算定時には
考える必要がある。
1.2
コスト構造分析の前提
1.2.1 費用項目の特徴
前述の通りバイオマス発電の費用項目は主に①資本費、②運転維持費、③燃料費から構
成される(その他に租税がある)
。それぞれの費用項目は性質が異なることから、稼働率、
事業運営期間等の条件により、コストの内訳は変化するが、一般的な試算では、燃料費が
最も大きいとされている。
それぞれの費用項目は、発電所の規模によって大きく変化するという特徴を持つ。資本
費や運転維持費は基本的な特性として規模が大きくなるほどスケールメリットにより単
価が低減する。一方、燃料費については、規模が大きくなるほど発電効率が向上すること
で必要燃料量が低減する一方、集荷範囲が拡大することから、燃料単価が増加する可能性
がある。
図表 3-2
費用項目
性質
コスト構造分析の範囲
発電原価に占
める割合
規模に対する影響
①資本費
 初期投資として発
生する固定費
中
 スケールメリットにより低減
②運転維持費
 毎年発生する固定
費
中
 スケールメリットにより低減
③燃料費
 発電量に比例して
発生する変動費
大
 規模が大きくなるほど発電効率は向上(必要燃
料量は低減)
 一方、集荷範囲は拡大することから燃料単価は
増加する可能性あり
(出所)三菱 UFJ リサーチ&コンサルティング作成
1.2.2 対象とする技術
バイオマス発電所は発電出力によって使用可能な技術が異なる。2,000kW 以上は主に蒸気
タービン方式が主流となっているが、それよりも小規模の場合、蒸気タービンの発電効率が
低いことから、ORC やガス化発電の利用が検討される。
本資料では、バイオマス専焼発電所の中で最も一般的な技術であるボイラ+蒸気タービン
方式を想定して、規模別にコスト構造がどのように変化するかを把握する。
- 59 -
図表 3-3 バイオマス発電所で使用される主な技術
蒸気タービン技術であるが、
石炭混焼などが前提
噴流床
ボイラ+蒸気タービン
コスト構造分析
の対象
循環流動床(CFB)
バブリング流動床(BFB)
発電効率向上
ストーカ炉
ORC(有機ランキンサイクル)
 小規模でも発電効率高い
 技術的には未成熟
ガス化発電
100kW
1,000kW
1万W
10万kW
100万kW
規模による特性の違いを踏まえて、コスト構造を把握することが重要。
(出所)三菱 UFJ リサーチ&コンサルティング作成
1.3
分析条件の設定
1.3.1 バイオマス発電所の諸元
コスト試算の前提とする諸元については、調達価格算定委員会の設定値に準拠しつつも、
規模による違いを定式化する。
- 60 -
図表 3-4 バイオマス発電所の諸元
コスト等検証委
員会(2011)
発電コスト検証
ワーキング
(2015)
調達価格算定
委員会
本調査
※赤色項目は主な違い
資本費
運転維持費
燃料費
租税
その他︵
パラメータ︶
建設費
30~40 万円/kW
39.8 万円/kW
41 万円/kW
推算式により推定(調達価格算
定委を基準)
接続費用
−
−
上記内数
上記内数
廃棄費用
5%(対建設費)
5%(対建設費)
5%(対建設費)
5%(対建設費)
人件費
0.7 億円
合わせて 2.7 万
円/kW/年
合わせて 2.7
万円/kW/年
6.55%(対建設費)
※調達価格算定委数値から逆算
修繕費
4.4%(対建設費)
諸費
修繕費に含む
業務分担費
人件費に含む
土地貸借料
−
燃料価格
7,500~17,000
円/t
12,000 円/t
12,000 円/t
12,000 円/t-wet(含水率 40%)ま
たは、推算式により推定
燃料諸経費
400~600 円/t
750 円/t
750 円/t
750 円/t-wet(含水率 40%)
必要な燃料量
発熱量:
15MJ/kg
熱効率:20%
下記設備利用率
のとき、60,000t
下記設備利用
率のとき、
60,000t
低位発熱量:高位発熱量
19.74GJ/t-dry から算定式で算
出(低位発熱量は含水率 40%で
10.02GJ/t-wet)
※熱量は調達価格算定委数値
60,000 トンに合わせて逆算
発電効率:推算式により推定
固定資産税
1.40%
1.40%
1.40%
1.40%
事業税
−
−
1.289%
1.289%
出力
5,000kW
5,700kW
5,700kW
1∼100,000kW まで変化
設備利用率
10,50,60,70,80
%
87%(調達価格算
定委)
50,60,70,80%
87%
87%
所内率
13%
16%
16%
推算式により推定(5,700kW で
16%を基準)
法定耐用年数
15 年
15 年
15 年
15 年
稼働年数
30,40 年
20,30,40 年
20 年買取
20 年買取
割引率
0%、1%、3%、
5%
0%、1%、3%、
5%
IRR 分として
8%を想定
3%
(出所)三菱 UFJ リサーチ&コンサルティング作成
- 61 -
1.3.2 パラメータの関係整理
コスト構造分析に使用するモデルのパラメータの関係を整理すると図表 3-5 になる。
また、発電所出力を変化させた際の影響を図表 3-6 に示す。発電出力が変わると、規模
とコストが比例するわけではなく、建設費、発電効率、燃料単価、所内率が非線形的な変
化をすることから、これらを定式化して分析を行う。
図表 3-5 パラメータの関係整理
資本費
(現在価値)
定式化して導出
資本費(円)
割引率(%)
運転維持費
(現在価値)
事業期間中の
割引総費用
(円)
燃料費
(現在価値)
年間運転維
持費(円/
年)
建設費(円)
+
廃棄費(円)
建設費(円)
建設費(円)
×
廃棄費割合(%)
(対建設費)
割引率(%)
×
運転維持費割合(%)
(対建設費)
年間燃料費
(円/年)
燃料単価(円/t-wet)
+灰処理単価(円/twet)
定格出力(kW)
定式化して導出
発電コスト
(円/kWh)
年間発電端発電量(kWh/年)
年間燃料量
(kWh/年)
÷
発電効率(%)
÷
×
割引率(%)
燃料単価は
固定した場合と
定式化した場合の
2種類を検討
年間燃料量(t-wet/年)
低位発熱量
(kWh/t-wet)
年間固定資産税(円/
年)
償却資産評価額
(円)
公式より
導出
÷
均等化発電原価
Levelized Cost of
Electricity (LCOE)
高位発熱量(MJ/t-dry)
含水率(%)
租税費
(現在価値)
年間租税
(円/年)
+
年ごとに
計算
×
減価残存率(%)
固定資産税率(%)
割引率(%)
年間事業税(円/年)
売電単価(円/kWh)
年間売電収入(円/年)
×
年間送電端発電量(kWh/
年)
×
事業税率
事業期間中の
割引電力量
(kWh)
年間送電
端発電量
(kWh/年)
年間発電端発電量
(kWh/年)
割引率(%)
所内率(%)
年間時間数(h)
(365日×24時間)
定格出力(kW)
×
×
年ごとに
現在価値換算
前年の評価額(円)
×
年間稼働時間(h)
年間稼働率(%)
(出所)三菱 UFJ リサーチ&コンサルティング作成
図表 3-6 発電所規模を変化させた際の発電コストに対する影響
資本費
(現在価値)
定式化して導出
資本費(円)
割引率(%)
運転維持費
(現在価値)
事業期間中の
割引総費用
(円)
燃料費
(現在価値)
年間運転維
持費(円/
年)
建設費(円)
+
廃棄費(円)
建設費(円)
建設費(円)
×
廃棄費割合(%)
(対建設費)
割引率(%)
×
運転維持費割合(%)
(対建設費)
年間燃料費
(円/年)
燃料単価(円/t-wet)
+灰処理単価(円/twet)
定格出力(kW)
定式化して導出
割引率(%)
年間発電端発電量(kWh/年)
年間燃料量
(kWh/年)
÷
発電効率(%)
÷
×
発電コスト
(円/kWh)
燃料単価は
固定した場合と
定式化した場合の
2種類を検討
年間燃料量(t-wet/年)
低位発熱量
(kWh/t-wet)
公式より
導出
÷
均等化発電原価
Levelized Cost of
Electricity (LCOE)
高位発熱量(MJ/t-dry)
含水率(%)
租税費
(現在価値)
年間租税
(円/年)
年間固定資産税(円/
年)
+
割引率(%)
年間事業税(円/年)
事業期間中の
割引電力量
(kWh)
年間送電
端発電量
(kWh/年)
年間発電端発電量
(kWh/年)
割引率(%)
所内率(%)
償却資産評価額
(円)
×
減価残存率(%)
年間売電収入(円/年)
売電単価(円/kWh)
×
事業税率
×
年間送電端発電量(kWh/
年)
定格出力(kW)
×
年間稼働時間(h)
(出所)三菱 UFJ リサーチ&コンサルティング作成
- 62 -
前年の評価額(円)
固定資産税率(%)
×
年ごとに
現在価値換算
年ごとに
計算
年間時間数(h)
(365日×24時間)
×
年間稼働率(%)
1.3.3 非線形変化するパラメータの定式化
(1)建設費及び運転維持費
バイオマス発電所に限らず、プラントの建設費は規模が大きくなるほど単価が低減する
ことが確認されている。バイオマス発電所についても、様々な研究によって実績値から
フィッティングした式が整理されている24。
本調査では、FIT のモデルプラントを基準プラントとして、柳田ら(2015)で示された
スケールファクター(スケールメリットの効果を表すパラメータ)0.6763 を使用する。な
お、本調査では、運転維持費は建設費に対して一定割合かかるとしたため、この割合で運
転維持費も変化することとなる。
æ Capacity ö
CapitalCost = 23.37億円´ ç
÷
è 5700kW ø
0.6763
図表 3-7 先行調査と本調査の算定式の比較(建設費)
250
柳田ら(2015)
建設費( 億円)
200
多喜(2014)
伊藤・中田(2007)
150
本調査
100
50
0
0
20,000
40,000
60,000
80,000
100,000
発電出力(kW)
(出所)各資料から三菱 UFJ リサーチ&コンサルティング作成
24 例えば、以下のような研究論文がある。
1)柳田 高志, 吉田 貴紘, 久保山 裕史, 陣川 雅樹「再生可能エネルギー固定価格買取制度を利用した木質バイ
オマス発電事業における原料調達価格と損益分岐点の関係」、日本エネルギー学会誌 Vol. 94, No. 3,(2015)
2)多喜真之「FIT 導入に伴う国内バイオマス発電設備の開発動向と石炭火力混焼発電への影響調査」、電力中
央研究所報告 M13009 (2014)
3)伊藤吉紀、中田俊彦「規模の効果と需給均衡を考慮した木質系バイオマスエネルギーシステムの試設計」、
日本エネルギー学会誌 Vol. 86, No. 9 (2007)
- 63 -
図表 3-8 先行調査と本調査の算定式の比較(建設単価)
建設単価 ( 円/kW)
1,000,000
900,000
柳田ら(2015)
800,000
多喜(2014)
700,000
伊藤・中田(2007)
600,000
本調査
500,000
400,000
300,000
200,000
100,000
0
1,000
10,000
100,000
発電出力(kW)
(出所)各資料から三菱 UFJ リサーチ&コンサルティング作成
(2)発電効率
発電効率についても建設費と同様に、様々な研究によって規模との関係が整理されてい
る。本調査では、近年の小・中規模の発電効率向上を加味して、調達価格算定委員会で示
されたグリーン発電会津の発電効率(5,700kW、26%)に整合するように係数を調整した
式を使用する。
Efficiency = 10.39 ´ log10 (Capacity ) - 13.04
図表 3-9 先行調査と本調査の算定式の比較(発電効率)
50%
発電効率(%)
40%
柳田ら(2015)
多喜(2014)
伊藤・中田(2007)
本調査
30%
20%
10%
0%
1,000
10,000
発電出力(kW)
(出所)各資料から三菱 UFJ リサーチ&コンサルティング作成
- 64 -
100,000
(3)燃料単価
一般的にバイオマス発電所では、購入する燃料単価(円/t)を固定してバイオマスの調
達を行っている。一方、規模が大きくなるとバイオマスの収集範囲が拡大することから、
輸送費の増加まで考慮すると規模が拡大するにつれて燃料単価は上昇する。本調査では、
燃料単価を固定した場合と輸送費増加を考慮した場合の 2 種類の場合で試算を行った。
1)燃料単価を固定する場合
燃料単価は調達価格算定委員会の想定値 12,000 円/t-wet に固定した
2)輸送費増加を考慮する場合
燃料単価を輸送費とそれ以外(集材費とチップ加工費)に分けられる。発電所の規模
が拡大すると、広範囲からの収集が必要となるため、輸送費が増加する。
先行研究では、バイオマスの輸送費を精緻に計算する方法として、GIS を用いる方法
や資源分布をメッシュ化してメッシュ間の輸送距離を算出する方法25等が提案されてい
るが、本調査では、同心円状の範囲から燃料を集める簡易的なモデルを想定し、以下の
式によって輸送費を計算した。発電所位置(円の中心)から半径 r の位置にある微小距
離 dr を考え、ドーナツ状の面積(2πr×dr)における輸送費を計算し、これを r(0→a)
で積分して輸送費の合計値を算出した。これをバイオマス発生量で割って、1 トンあたり
の平均輸送費を求めた。
ò
P=
a
0
k × b × r × y × 2prdr
y×a p
2
=
2
kba
3
Q = y × a 2p
a=
Q
y ×p
P:輸送費 [円/t-wet]
k:輸送単価 [円/t-wet・km]⇒150 円/t-dry・km=90 円/t-wet・km
b:道直比(直線距離と道路距離との比)
y:バイオマス発生密度 [t-wet/km2・年]⇒60,000t-wet を 50km で収集可能=7.64t-wet/km2
a:最大収集範囲
Q:発電所のバイオマス必要量[t-wet/年]
25 例えば以下のような研究論文がある。
1)八木賢治郎、中田俊彦「資源分布と技術特性を考慮した森林バイオマス小規模ガス化システムの経済性評価」、日本エネ
ルギー学会誌 Vol. 86, No. 2(2007)
2)山本博巳、福田桂、井上貴至、山地憲治「中四国の木質バイオマス残さの収集・発電利用のシステム分析」、エネルギー・
資源 Vol. 28, No. 4 (2007)
- 65 -
図表 3-10 同心円状の範囲から収集するモデル
年間バイオマス発生密度(y)
[t-wet/km2 ・年]
最大収集範囲(a)
[km]
輸送単価(k)
[円/t-wet・km]
発電所
バイオマスは発電所周辺でバイオマスが一様に発生すると仮定。
各地点からの収集距離を考えて平均輸送費を算出。
(出所)三菱 UFJ リサーチ&コンサルティング作成
なお、
調達価格等算定委員会の想定値を参考に 50km の範囲で 60,000 トン
(含水率 40%)
が発生すると仮定して計算した(バイオマス発生密度は 7.64t-wet/km2)。輸送単価は 150
円/t-dry・km(90 円/t-wet・km)に設定し、輸送費以外の集材費とチップ化コストは合わ
せて 8,400 円/t-wet に設定した(5,700kW プラントでは合計して燃料単価は調達価格等算
定委と同等の 12,000 円/t-wet となる)。
上記の想定から、算出した規模別のバイオマス収集範囲を図表 3-11、収集範囲から収
集する際の燃料単価を図表 3-12 に示す。輸送費増加を考慮する場合には、発電所規模
が大きくなるほど収集範囲が拡大し、それに基づき燃料単価が上昇する。本調査のパラ
メータ設定では発電所規模が 1 万 kW を超えると、調達価格算定委員会で想定していた
水準を超える燃料単価になることが示唆された。したがって、この規模では、輸入材の
検討も行われる可能性がある。
- 66 -
図表 3-11 規模別のバイオマス収集範囲の設定値
収集範囲(最大収集距離)(km)
180
160
140
120
100
80
60
40
20
0
0
20,000
40,000
60,000
80,000
100,000
発電出力(kW)
(出所)三菱 UFJ リサーチ&コンサルティング作成
図表 3-12 バイオマス発電所の調達する燃料単価の設定値
25,000
燃料単価(円/t-wet)
20,000
15,000
10,000
5,000
0
0
20,000
40,000
60,000
80,000
100,000
発電所規模(kW)
(出所)三菱 UFJ リサーチ&コンサルティング作成
(4)所内率
一部の先行研究では所内率に関する定式化が行われている。しかしながら、比較的規模
の小さいプラント(20,000kW 以下)を対象にフィッティングしていることから、10 万 kW
程度まで延長すると、過小になる傾向がみられる。
そこで、本調査では、調達価格算定委条件(5,700kW、16%)と大規模なバイオマス発
- 67 -
電所における例(60MW、12%)をもとに、先行研究26と同様に指数関数で補間すること
とした。
(
Auxiliary Power Ratio = 0.1649 exp - 5.298 ´ 10 -6 ´ Capacity
図表 3-13
)
先行調査と本調査の算定式の比較(所内率)
所内率( %)
18.0%
16.0%
柳田ら(2015)
14.0%
本調査
12.0%
10.0%
8.0%
6.0%
4.0%
2.0%
0.0%
0
20,000
40,000
60,000
80,000
100,000
発電出力(kW)
(出所)各資料から三菱 UFJ リサーチ&コンサルティング作成
2.推計結果
2.1
規模別の発電コスト
燃料単価を固定した場合(輸送費増加を考慮しない場合)には、資本費、運転維持費、燃
料費ともに発電所の大型化とともに低下していくため、規模が大きくなればなるほど発電コ
ストは低減する。
一方、輸送費増加に伴う燃料単価の上昇を考慮する場合、規模が小さい場合には燃料費が
低下するが、16,600kW を超えると発電効率向上分を燃料単価上昇分が上回り、燃料費が増
加するという結果が得られた27。したがって、大規模発電所で、国産材だけを使用する場合
には、スケールメリット効果は低減する。この場合、国産材を使用せずに輸入材に切り替え
ることも想定される。
典型的な規模の発電コストの内訳を図表 3-16 に示す。輸送費を考慮する場合・しない場
合ともに規模が大きくなるほど燃料費の割合は大きくなるが、輸送費を考慮した場合、その
傾向が強くなることがわかる。
26 柳田 高志, 吉田 貴紘, 久保山 裕史, 陣川 雅樹「再生可能エネルギー固定価格買取制度を利用した木質バイオ
マス発電事業における原料調達価格と損益分岐点の関係」、日本エネルギー学会誌 Vol. 94, No. 3,(2015)
27 極小値はパラメータ設定によって変わることに注意が必要である。
- 68 -
図表 3-14 規模別発電コスト(燃料単価を固定した場合)
(円/kWh)
50
45
40
35
30
25
20
15
10
5
0
租税
燃料費
運転維持費
資本費
発電出力(kW)
(出所)三菱 UFJ リサーチ&コンサルティング作成
図表 3-15 規模別発電コスト(輸送費増加を考慮する場合)
(円/kWh)
50
45
40
35
30
25
20
15
10
5
0
租税
燃料費
運転維持費
資本費
発電出力(kW)
(出所)三菱 UFJ リサーチ&コンサルティング作成
図表 3-16
規模別発電コストの内訳
- 69 -
規模別発電コスト(燃料単価を固定した場合)
41.7円/kWh
租税
30.3円/kWh
16.7円/kWh
1,500kW
100%
2.3%
2.7%
65.8%
資本費
1,500kW
5,700kW 20,000kW 100,000kW
燃料費
69.1%
72.9%
77.8%
運転維持費
資本費
40%
0%
運転維持費
資本費
租税
内訳
20%
燃料費
3.2%
80%
60%
租税
30.3円/kWh
26.6円/kWh25.6円/kWh
運転維持費
5,700kW 20,000kW 100,000kW
2.5%
38.5円/kWh
燃料費
23.3円/kWh
発電コスト
規模別発電コスト(輸送費増加を考慮する場合)
15.6%
13.8%
11.8%
16.4%
14.6%
12.5%
1,500kW
9.2%
9.7%
5,700kW 20,000kW 100,000kW
(出所)三菱 UFJ リサーチ&コンサルティング作成
2.2
発電コストに関する分析
2.2.1 規模拡大の影響
コスト構造分析で用いたモデルでは、発電所の規模が拡大すると、様々なパラメータが
変化する。それぞれの要素の影響を把握するために、各要素を 1 つだけ変化させて、それ
ぞれの要素の影響を確認した。
規模拡大時の影響として、輸送費による燃料単価の上昇、発電効率の向上が大きく効い
てくることが確認された。一方、建設単価と運転維持費は、規模が小さい領域では大きな
影響を持つが、一定規模以上になると、全体のコストに与える影響は小さいことが確認さ
れた。所内率はいずれの規模でも他のパラメータに比べて影響は小さい。
図表 3-17 規模別発電コストの内訳
- 70 -
(円/kWh)
+20
建設単価のみ変化
+15
運転維持費のみ変化
発電効率のみ変化
+10
輸送による燃料単価のみ変化
+5
所内率のみ
+0
-5
-10
0
20,000
40,000
60,000
80,000
100,000
発電出力(kW)
(出所)三菱 UFJ リサーチ&コンサルティング作成
2.2.2 感度分析
5,700kW に規模を固定し、主要パラメータについて感度分析を実施すると図表 3-18 の
通りとなる。
各パラメータを同じ割合だけ変化させると、燃料費に関係するパラメータ(発電効率、
燃料単価、発熱量)が特に影響が大きいことがわかる。
図表 3-18 主要パラメータに関する感度分析
15%変化
←発電コストが下がる方向
10%変化
資本費を変化させた場合
348,500円/kW
369,000円/kW
発電コスト
30.3
29.6円/kWh
29.9円/kWh
※本モデルでは運転維持費は建設費に連動するが感度分析においては運転維持費は固定した
5%変化
標準設定値
5%変化
発電コストが上がる方向→
10%変化
15%変化
389,500円/kW
30.1円/kWh
410,000円/kW
30.3円/kWh
430,500円/kW
30.6円/kWh
451,000円/kW
30.8円/kWh
471,500円/kW
31.0円/kWh
運転維持費割合(対建設費)を変化させた場合
発電コスト
30.3
5.6%
29.7円/kWh
5.9%
29.9円/kWh
6.2%
30.1円/kWh
6.5%
30.3円/kWh
6.9%
30.5円/kWh
7.2%
30.8円/kWh
7.5%
31.0円/kWh
発電効率を変化させた場合
発電コスト
30.3
29.9%
27.6円/kWh
28.6%
28.4円/kWh
27.3%
29.3円/kWh
26.0%
30.3円/kWh
24.7%
31.4円/kWh
23.4%
32.7円/kWh
22.1%
34.0円/kWh
燃料単価を変化させた場合
発電コスト
30.3
10,200円/t-wet
27.4円/kWh
10,800円/t-wet
28.4円/kWh
11,400円/t-wet
29.3円/kWh
12,000円/t-wet
30.3円/kWh
12,600円/t-wet
31.3円/kWh
13,200円/t-wet
32.3円/kWh
13,800円/t-wet
33.3円/kWh
高位発熱量を変化させた場合
発電コスト
30.3
22.70GJ/t-dry
27.2円/kWh
21.71GJ/t-dry
28.1円/kWh
20.73GJ/t-dry
29.2円/kWh
19.74GJ/t-dry
30.3円/kWh
18.75GJ/t-dry
31.6円/kWh
17.77GJ/t-dry
33.1円/kWh
16.78GJ/t-dry
34.8円/kWh
稼働率を変化させた場合
発電コスト
30.3
100%
29.2円/kWh
96%
29.5円/kWh
91%
29.9円/kWh
87%
30.3円/kWh
83%
30.8円/kWh
78%
31.3円/kWh
74%
31.9円/kWh
(出所)三菱 UFJ リサーチ&コンサルティング作成
3.まとめと考察
バイオマス発電所の特性として、規模が大きくなるほど発電コストが低下するが、収集範
- 71 -
囲拡大を考慮すると、バイオマス発電所のスケールメリットは限定される。これは、バイオ
マス燃料を一定価格で調達できる条件下では、発電所の規模が大きくなるほど発電コストは
低下する一方、収集範囲が広がることから、一定規模以上の規模では、国産材を集めても割
高となるためである。
上記の特徴を反映して、現実の認定発電所においても 10,000kW 以上を超えると輸入材が
多く使用される可能性がある。また、規模別の発電所数の分布から、おおよそ図表 3-19 に
示す 3 つに規模に分類することができる。
今後の課題として、バイオマス発電所コストの現状を精査していくことが挙げられる。今
回の試算では、調達価格算定委員会の条件を基準にしているが、今後稼働する発電所が増え
れば、現状に即したコストデータが明らかになっていくと考えられる。
図表 3-19 コスト構造分析のまとめ
小規模発電
( 2,000kW未満)
中規模発電
(2,000∼10,000kW)
大規模発電
( 10,000kW以上)
資本費
劣
優
運転維持費
劣
優
発電効率
劣
優
国産燃料
収集範囲
優
劣
採用される
技術
 蒸気タービン以外の技術も検討余地あり
選択される
原料
 国産材メイン
 蒸気タービン(ストーカ炉、流動床、等)
 流動床がメイン
 10万kWを超えると、石炭混焼も視野に
 国産材メイン
(出所)三菱 UFJ リサーチ&コンサルティング作成
- 72 -
 輸送条件などから原料収集が困難になるた
め、輸入材メイン(一部、国産材も併用)
2つの効果が
相殺し、大規模
における燃料
費削減効果は
限定的
II. バイオマス発電のコスト低減の方向性
1.燃料供給コスト低減の方向性
1.1
日本のチップ供給コストの現状
(1)燃料供給コストの全体像
燃料供給プロセスは、複数の工程から構成され、各工程でコストが発生する。図表 3-20
に、チップ工場でチップ化した場合のコストの内訳を示す。この中では、間伐材等の原料を
トラック(林道もしくは山土場)まで搬出するのに多大なコストを要していることがわかる
(図表 3-21 における伐倒、集材、造材までに相当)。
図表 3-20
チップ工場でのチップ化のコスト(円/t)
(注)丸太+端材をフォワーダで搬出し、運材トラックでチップ工場まで運搬し、チップ化後、発電
所まで運搬した場合の平均値。
(出所)
「平成 25 年度木質バイオマス利用支援体制構築事業 報告書」木質バイオマスエネ
ルギー利用推進協議会(2014 年 3 月)
図表 3-21 木質チップ燃料の供給の基本的なプロセス
森
造材
集材
抜倒
林
残材発生
(原料搬出)
発
輸送
破砕
輸送
電
(原料運搬)
(チップ加工)
(チップ運搬)
所
- 73 -
(出所)三菱 UFJ リサーチ&コンサルティング作成(機械のイラストは林野庁ホームページ)
(2)コストの現状
日本では、燃料チップの価格統計が存在しないが、いくつかの調査・研究グループによ
り、各地域での燃料供給・取引実態の調査が行われている。
そのうちの一つとして、日本木質バイオマスエネルギー協会(旧木質バイオマスエネル
ギー利用推進協議会)の調査がある。同協会が 2013 年度に実施した調査によれば、燃料
供給コストは、10,426 円/t(丸太のみの場合)∼13,747 円/t(丸太+端材+枝葉の場合)
となっており、同調査での買取平均価格が 9,400 円/t であったことを考えれば、燃料供給
者は赤字であったと言うことができる。
他方、バイオマス利用が進む欧州では、フィンランド:3,800 円/t∼、ドイツ:6,300 円
/t∼程度となっており、我が国のチップ供給コストは海外に比べて高水準にあることから、
欧州の経験や技術に学びながら、日本にあったシステムを構築し、コストを削減していく
必要がある。これにより、森林所有者への還元(原木代)とチップ供給事業者の利益を確
保しつつ、持続可能な発電所の運転を実現し、発電事業と林業の相乗効果の発揮を目指す
ことが求められている。
図表 3-22
日本における燃料供給コスト
燃料供給コスト(円/t)
丸太のみ
丸太+端材
丸太+端材+枝葉
10,426
12,755
13,747
(出所)
「平成 25 年度木質バイオマス利用支援体制構築事業 報告書」木質バイオマスエネ
ルギー利用推進協議会(2014 年 3 月)
(3)高コスト構造の背景
このような高コスト構造の背景には、大きくは 2 つの要因があると考えられる。第 1 は、
機械性能が低いという点であり、第 2 は欧米で一般的な現地でのチップ化が進んでいない
ということである。以下に、具体的に解説する。
1)機械性能が低い
図表 3-23 は、バイオマス燃料の製造に重要なチッパーについて、欧州製のものと日本
製のものを比較したものであるが、このように、同じチッパーでもその性能差は圧倒的な
ものがある。チッパー以外にも、フォワーダやトラックについても大きな性能差がある。
したがって、コスト低減にまず重要なことは、機械性能の向上である。ただし、高い処
理能力に合わせて稼働率を高めなければ、高額な初期投資額を回収することが困難になる
ため、事業量の確保が重要であることに留意が必要である。
- 74 -
図表 3-23 国産と欧州製チッパーの比較
欧州製チッパー
国内製チッパー
道路走行可能
刃物で切削
パワーが強い(360HP~)
高効率(100t/日以上)
グラップル有り
トレーラー搬送が必要
ハンマーでつぶす
パワーが弱い(120HP)
低効率(20t/日以上)
グラップルなし
(出所)久保山裕史「低質材の供給拡大の可能性について」
(BIN 第 143 回勉強会、2014/12/16)
を一部改変(写真は三菱 UFJ リサーチ&コンサルティング撮影)
2)現地チップ化の普及が進んでいない
森林から発生する低質材を、どこでチップ化するかは複数のパターンが存在する。欧米
でも様々なパターンがあり、チップ工場でのチップ化システムも併存している状況である
が、一般的には現地チップ化が最もコストが安いということが明らかになりつつある(図
表3-24 の①の場合)28。
日本においても、端材や枝葉を含む場合は、山土場でチップ化し、減容化した方が、チッ
プ工場に運ぶより、コストが安いという結果が報告されている(図表 3-26)。しかし、
現状では、チップ工場におけるチップ化が一般的である(図表3-25)。山土場等での現地
チップ化の事例は限定的であり、このことが結果として、日本全体でのチップ供給コスト
の高どまりに影響を与えている可能性がある。
また、第 2 章で行った需給バランス分析より、今後は利用率の向上(枝葉・枝条の利用)
が重要であることが明らかになっている。その実現化のためには、現地チップ化により、
減容化してトラック輸送することが不可欠であり、機械性能の向上と、現地チップ化の中
でも更に効率的な林道直接集材(全木集材)の普及が必要である。
28 現地チップ化は、チップ工場でのチップ化に比べて、水分の管理が難しいことに注意が必要である。
- 75 -
図表 3-24 米国における標準的なチップコスト($/t)
①残材利用
(末木・枝条、林道端チップ化)
②バイオマス材伐採
(小径木伐採、林道端チップ化)
③チップ工場
(固定式大型チッパー)
④チップ土場
(移動式小型チッパー)
集材
0
輸送①
0
破砕
11
輸送②
29
計
40
40
0
11
29
80
40
34
37
29
140
40
34
11
29
114
(出所)酒井秀夫「林業のビジネス化を考える」
(2013)機械化林業 No.720 より作成
図表 3-25 チップ工場の様子(北海道下川町)
(写真)三菱 UFJ リサーチ&コンサルティング
図表 3-26 日本におけるチップ化場所による燃料供給コストの違い
山土場
丸太のみ
丸太+端材+枝葉
合計
チップ工場
12,667(3)
11,952(12)
13,163
9,713(9)
14,315(34)
12,981
(注)カッコ内は、事例数。
(出所)木質バイオマスエネルギー利用推進協議会「平成 25 年度木質バイオマス利用支援体
制構築事業
報告書」
(2014 年 3 月)
(4)コスト低減のアプローチ
以上のことから、本調査においては、二段階のアプローチを採用して、コスト低減の可
能性を検討する。まず、第 1 に、機械性能の向上によるコスト低減の可能性を検討する。
その上で第 2 に、欧米等で進んでいる現地チップ化の実現とそれによるコスト低減の可能
性を検討する。
- 76 -
なお、現地チップ化については、さらに、作業道集材を行う場合と、林道直接集材を行
う場合の 2 つのパターンが存在する(図表 3-27)。欧米で一般的なのは、林道直接集材
型であり、高規格な路網を適切な密度で配置することで、林道端において、破砕(チップ
化)を行うことで、集材工程を一段階に短縮することができる点でメリットがある。しか
し、日本ではこれに必要な高規格な路網が十分に整備されておらず、今後のインフラ整備
にある程度の時間を要することから、地形的に可能な場所を中心に、将来的にこのシステ
ムへ移行することを想定する(図表 3-28)。
図表 3-27 作業道集材型と林道直接集材型のチップ供給システムのイメージ
<作業道集材型>
高規格な路網が不足
<林道直接集材型>
(全幹集材)
(全木集材)
<集材①>
ウィンチ、スウィングヤーダ
適切な密度で
高規格な路網が整備
<造材>
<集材>
タワーヤーダ、ウィンチ等
作業道
<集材②>
フォワーダ
<造材>
<破砕>
チッパー
<輸送>
トラック
<破砕>
チッパー
高規格な路網
(林道、林業専用道)
残材発生
<輸送>
トラック
(出所)三菱 UFJ リサーチ&コンサルティング作成(機械のイラストは林野庁ホームペー
ジより)
図表 3-28 チップ化の場所の違いの模式図
分類
作業道
残材発生
丸太のみ利用
<造材>
チップ工場チップ化
①スウィングヤーダ等
での集材
(全木)
森
現地チップ化①
丸太︵
小径木︶
+残材利用
(作業道集材)
(全幹集材)
現地チップ化②
(林道直接集材)
(全木集材)
林
林道端
(山土場)
チップ工場
<積替>
<チップ化>
②フォワーダ等で
の集材(丸太)
③トラック輸送
(丸太)
④トラック
輸送
(チップ)
発
残材発生
①スウィングヤーダ等
での集材
(全木)
<造材>
①タワヤーダ等での集材
(全木)
<チップ化>
②フォワーダ゙等
での集材
(残材)
③トラック輸送(チップ)
電
所
<造材> 残材発生
<チップ化>
②トラック輸送(チップ)
(注)表内の数字は、集材・運搬関係でのハンドリング回数(木に触る回数)を表す。
- 77 -
(出所)三菱 UFJ リサーチ&コンサルティング作成
(5)コスト低減効果の試算方法
コスト低減の効果は、森林総合研究所が開発した「木質バイオマスの経済的な供給ポテ
ンシャル推計システム」に付属する、インターネット上で稼働する供給コスト試算ソフト
を用いて計算を行った29。同システムは、日本の現状型の供給システムについて、欧州で
用いられている機械を導入することを想定するなどして、改良型のコスト(同システムで
は「欧州型供給コスト」と呼ばれている)を試算することができる。そこで、本調査にお
いても、機械性能の向上の効果を試算する際には、「欧州型供給コスト」のコスト数字を
採用した。また、同システムで試算することができる、「林地残材が集材路で発生してい
る」場合は、本調査で言うところの現地チップ化(作業道集材)に相当し、さらに、林道
直接集材型の場合は集材工程が省略されることから、同システムにおける「搬出(集材)
コスト」を除外したコスト数字を採用した。
なお、これらのコスト低減効果を試算する際には、チップ供給ビジネスの高付加価値化
による人員の確保が前提となることから、
搬出と破砕工程の日当を 20,000 円/日から 30,000
円/日に増加させている。
1.2
具体的な方策
(1)機械性能の向上
1)バイオマス運搬用フォワーダの開発
作業道集材を行う場合は、作業道をフォワーダと呼ばれる木材搬出用の機械を用いて、
木材を、チッパーが待機する林道や土場まで運ぶ必要がある。日本では、軟弱な土壌な
どの影響で、北欧などに比べてフォワーダ開発は遅れていたが、近年、①積載量、②走
破性(速度)
、③グラップル操作、に優れた機械も開発されている。また、バイオマス燃
料を利用する場合、かさばる枝葉等の林地残材を用いることを想定した、特別な架台を
持ったフォワーダも開発されている(図表3-29)。
このようなバイオマス運搬用フォワーダを用いた場合のコスト低減の試算効果として
は、現状の集材(原料搬出)コスト 4,154 円/t-50%が、3,195 円/t-50%まで下がると試算さ
れた。
■バイオマス運搬用フォワーダの導入によるコスト低減効果の試算例
集材(原料搬出)コスト:4,154 円/t-50%→3,195 円/t-50%
29 http://f109biomass.ffpri-109.affrc.go.jp/biomassWebsystem/
- 78 -
図表 3-29
林地残材搬出用のフォワーダ
(写真)岐阜県森林研究所
岐阜県森林研究所
2)高性能チッパーの導入
近年、日本でも、欧州から輸入したものを中心に、高性能のチッパーの導入が始まっ
ている(図表 3-30)
)
。ただし、現状ではチップ工場でしか使われておらず、現地チップ
化には用いられていないのが実態であるが、今後、このような高性能チッパーの機動力
を活かして、移動させて山土場で使えれば、残材利用が進み、利用率の向上が期待され
る。
このような高性能チッパーを用いた場合のコスト低減の試算効果としては、現状の
性能チッパーを用いた場合のコスト低減の試算効果としては、現状の
チップ化コスト 4,103 円/t
/t-50%が、2,599 円/t-50%まで下がると試算された。
まで下がると試算された。
図表 3
3-30
日本に導入された高性能チッパー
左:紫波農林公社(岩手県)に導入されたチッパートラクター
紫波農林公社(岩手県)に導入されたチッパートラクター
右:鹿角森林組合(秋田県)に導入されたチッパートラック
鹿角森林組合(秋田県)に導入されたチッパートラック
(写真)森林環境リアライズ株式会社
- 79 -
■高性能チッパ−の導入によるコスト低減効果の試算例
チップ化コスト:4,103/円-50% →2,599 円/t-50%
3)トラックの高性能化
チップをバイオマス発電所に運搬するトラックの高性能化も非常に重要である。具体
的には、林地残材はチップ化により減容させることができ、荷台の容積をできるだけ大
きくすることが大切である。なお、欧州では、チップ化後、コンテナでユニット化して
ハンドリング性を高めるともに、トラックやトラクターで運搬している。また、長距離
輸送を行う場合には、更に2連結のフルトレーラータイプのトラックで輸送するなどの
工夫が行われている。日本では、このような動きはまだ本格化していないが、東北地方
で、フルトレーラーの導入への検討が進んでいるとの情報もある。
このように、トラックの高性能化を行った場合のコスト低減の試算効果としては、現
状のチップ化コスト 3,998 円/t-50%が、1,806 円/t-50%まで下がると試算された。
図表 3-31 コンテナシステムによる運搬例(デンマーク)
(写真)三菱 UFJ リサーチ&コンサルティング
■トラックの高性能化によるコスト低減効果の試算例
輸送コスト:¥3,998/t-50%→¥1,806/t-50%
(2)現地チップ化の実現
高規格の路網の整備が進めば、全木集材により、フォワーダによる集材工程を省略でき
る。また、路網上に溜まった残材を、チッパーやトラックが回収し、発電所へ供給すると
いうシナリオが見えてくることになる。
図表 3-32 は、高規格な路網における木材生産に取り組んでいる、北海道の鶴居村森林
- 80 -
組合における木材生産現場の
組合における木材生産現場の様子である30。すでに、林道端の丸太を直接トラックに積み
すでに、林道端の丸太を直接トラックに積み
込んで運搬しているが、残材や低質材についても、林道上でチップ化の後、トラックで直
接発電所まで運搬すること
することが可能なシステムとなっている。
図表 3-32
鶴居村森林組合(北海道)における木材生産の様子
(注)赤い丸で囲んだ部分にあるように、林道端に丸太や残材が集積している。
注)赤い丸で囲んだ部分にあるように、林道端に丸太や残材が集積している。
(写真)三菱 UFJ リサーチ
リサーチ&コンサルティング
1.3 日本におけるチップ供給コスト低減のシナリオ
以上をまとめると、我が国におけるチップ供給コスト低減のシナリオは図表3
上をまとめると、我が国におけるチップ供給コスト低減のシナリオは図表3
上をまとめると、我が国におけるチップ供給コスト低減のシナリオは図表3-33
のよう
に整理することができる。第一段階としては、機械性能の向上により、チップ工場でのチッ
プ化にしても、現状で 11,189 円/t 程度かかっているものを、8,998 円/t まで低減することが
できる。次に、現地チップ化により、作業道集材でも、現状で 12,745 円/t
/t 程度かかっている
ものを、8,100 円/t まで低減することができる
まで低減することができる(図表3-34)。さらには、高規格な路網等のイ
高規格な路網等のイ
ンフラ整備により、林道直接集材を普及
ンフラ整備により、林道直接集材を普及林道直接集材型への転換により、
林道直接集材型への転換により、4,905 円/t 程度ま
で低減することが理論的には可能である。
以上のシナリオを踏まえて、段階的・戦略的なコスト低減の
を踏まえて、段階的・戦略的なコスト低減の取組が必要である。
が必要である。ただし、
FIT 制度により電力の買取価格が保証されており、かつ発電所側のコストが必ずしも関係者
間で共有されているわけではない状況では、
わけではない状況では、燃料供給コスト低減のインセンティブは働きに
くいことに留意が必要である。
30 森林・林業再生プラン実践事業において、招聘されたドイツ及びオーストリアの森林官からの指導を受けた
(http://www.rinya.maff.go.jp/j/kanbatu/kanbatu/hojyojigyou/puranjisen.html
http://www.rinya.maff.go.jp/j/kanbatu/kanbatu/hojyojigyou/puranjisen.html)。
- 81 -
図表 3-33 日本におけるチップ供給コスト低減のシナリオ
将来目標コスト
分類
作業道
()内は現状
8,998円/t
残材発生
チップ工場チップ化
①スウィングヤーダ等
での集材
(全木)
(11,189円/t程度)
トラック輸送効率化
現地チップ化①
(12,745円/t)
(作業道集材)
機械性能向上
(全幹集材)
4,905円/t
現地チップ化②
(−)
(林道直接集材)
機械性能向上
+林道直接集材
<造材>
(全木集材)
林
チップ工場
<積替>
②フォワーダ等で
の集材(丸太)
森
8,100円/t
林道端
(山土場)
<チップ化>
③トラック輸送
(丸太)
④トラック
輸送
(チップ)
発
残材発生
①スウィングヤーダ等
での集材
(全木)
<造材>
<チップ化>
②フォワーダ゙等
での集材
(残材)
①タワヤーダ等での集材
(全木)
③トラック輸送(チップ)
電
所
<造材> 残材発生
<チップ化>
②トラック輸送(チップ)
(注)()内の現状コストについて、チップ工場チップ化については、木質バイオマスエネルギー
利用推進協議会「発電・熱電併給推進のための調査」より。現地チップ化①については、森林
総研モデルの「現状型(作業路発生)
」の値を用いた。
(出所)三菱 UFJ リサーチ&コンサルティング作成
図表 3-34
(JPY/t-50%)
<¥12,745/t>
チップ供給コスト低減効果の試算結果
ステップ①:
機械性能向上
<¥8,100/t>
ステップ②
インフラ整備による
林道直接集材化
<¥4,905/t>
注)輸送コストは 50km で統一。コストは、50%水分で計算している。欧州機械型へ移行
する際には、
搬出と破砕工程の日当を 20,000 円/日から 30,000 円/日に増加させている。
(出所)森林総合研究所「木質バイオマスの経済的な供給ポテンシャル推計システム」を用
いて、三菱 UFJ リサーチ&コンサルティング試算
- 82 -
2.発電コスト削減の可能性と課題
2.1
発電コスト削減の可能性
発電所におけるコスト低減策を図表 3-35 に整理する。建設費、運転維持費、燃料費につ
いて、コスト削減の可能性があるが、それぞれ課題がある。一方、熱需要が見つかれば熱電
併給によってエネルギー効率が向上し、実質的にコストを下げることができる。
図表 3-35
コスト削
減要素
建設費
の低減
発電所におけるコスト低減の可能性
コスト低減策
可能性と課題
 タービン等を韓国、台湾  日本の事業者は性能やアフターサービス(部品調達時にタイムラグがあ
等で OEM 生産された安
るなど)に不安があるとして嫌う傾向。
価なものに切り替え
 発電システムをパッケー
ジ化
 小規模であれば可能性があり。
 中・大規模ではバイオマス発電所では、燃料、アウトプット、設置場所条
件など、顧客の要求に合わせてカスタマイズするため、難しい。
 EPC をフルターンキーで  オーナー側に十分なエンジニアリング体制が必要となる。
はなく、分離発注にする  リスクも高いが、うまく行えばコストを削減できる。
運転維
持費の
低減
燃料費
の低減
その他
 自動フィード可能な設備
の導入(チップよりペレッ
トが適している)
 常時監視は不要なため、人員削減できる。小規模では人件費が高いた
め、有望。
 大規模では電気事業者法に基づく責任も大きくなるため、むやみな人員
削減は難しい。
 日常保守点検の内製化
 メーカーに保守委託すると高額になる傾向にあるため、コスト削減余地
あり。ただし、相応のノウハウが必要と考えられる。
 灰の有効利用によって
処理費低減
 定期的な成分分析を行う必要になるが、成分に問題なければ肥料もしく
は土壌改良材として利用できる。これが有価で売れれば、コスト削減にな
るうえ、新たな収益源になる。
 発電効率の向上(再熱
式などの採用)
 大規模であれば可能性あり。住友重機械工業などで採用されている。
 発電所側としては、燃料の品質管理をいかに行うか、運転負荷率が低下
する要素を排除することで実稼働ベースでの発電効率をいかに定格条
件に近づけるかが重要。
 稼働率向上
 計画外停止を避けるためには、少なくとも年 2 回程度、停めて炉内等の
点検をした方が良い。
 熱電併給
 海外で実例が多く、熱需要がうまく見つかれば、実質的に収支を改善で
きる。
 エネルギー効率が向上することで、CO2 削減効果も増加する。
(出所)ヒアリング調査から三菱 UFJ リサーチ&コンサルティング作成
2.2
熱電併給によるコスト削減の可能性
2.2.1 熱電併給の方式
熱電併給では規模、熱電比、熱需要の温度帯に合わせた原動機の技術選択が重要となる。
蒸気タービンで熱電併給を行う場合には、一般的に抽気復水タービン、背圧タービンが使
- 83 -
用される。そのほか、小規模では、蒸気タービンの発電効率が低下するため、ORC やガ
ス化発電技術が検討される。
図表 3-36 熱電併給の方式と特徴
原動機の方式
方式の概要
特徴
復水ター
ビン
 蒸気タービンの排気の全量を復水器で凝
縮させて水に戻す方式
 発電効率が高く、一般的には発電専
用
抽気復
水タービ
ン
 蒸気タービンの途中で蒸気の一部を取り
出して利用し、残りの蒸気で発電し、復水
器に通す方式
 比較的高い発電効率と蒸気利用を両
立できる
 排気よりも高温・高圧の蒸気を利用可
能
背圧ター
ビン
 タービン出口の排気圧力を大気圧力以上
(正圧)とし、復水せずに、そのままタービ
ン外の工場などで全量の蒸気を利用する
方式
 発電効率は低下するが、大量の蒸気
利用が可能。
ORC(有機ランキンサイ
クル)
 原理的には蒸気タービンと同じランキン
サイクルであるが、水蒸気の代わりに、
沸点の低いシリコンオイルのような有機
媒体を蒸発させてタービンを駆動する方
式
 タービン排熱から温水が得られる
ガス化発電
ガスター
ビン
 ガス化された燃料ガスを燃焼し発生した
ガスでタービンを回転させる方式
 小規模では、蒸気タービンに比べると
発電効率は高いがガスエンジンには
劣る
 排ガスから排熱回収(蒸気利用可)
ガスエン
ジン
 ガスを燃料として駆動するエンジン(原理
的には自動車用などと同じ)
 小規模でも発電効率高い。
 エンジン排熱から温水が得られる
蒸気タービ
ン
(出所)各種資料から三菱 UFJ リサーチ&コンサルティング作成
2.2.2 熱電併給の事例
製材・合板工場では、木材の乾燥などに熱が必要なため、 RPS 制度の時代から自社で
発生する残材を燃料に熱電併給を実施する事例が見られる。
- 84 -
図表 3-37 国内における熱電併給の事例
原料
発電出力
熱利用方法
神之池バイオエネル
ギー(中国木材鹿島工
場)
製材残材
21,000 kW
(全量復水
時)
 パイプラインで中国木材及び近隣工
場へ蒸気を販売。
 中国木材では木材乾燥に利用。
川辺バイオマス発電
木質チップ
(建設廃
材、森林系
廃材)
4,300 kW
 大豊製紙へ販売(製紙工場での利用)
セイホクバイオマスエ
ネルギープラント
木質チップ
(製材残材
や間伐材)
2,300 kW
 合板製造の乾燥工程に利用
津別単板協同組合
合板工場
残材
4,700 kW
 原木蒸煮・単板乾燥、接着用等熱源
に利用
コマツ粟津工場
木質チップ
(間伐材)
210 kW
 建機組立工場で利用
(出所)各種資料から三菱 UFJ リサーチ&コンサルティング作成
2.2.3 熱電併給のコスト試算
ここでは、背圧タービンを想定して熱電併給の場合を行った場合の発電コストを比較す
る。背圧タービンを使用する場合、排気の持つエネルギーを有効利用できるため、総合エ
ネルギー効率は高くなる。
ここでは、ボイラーサイズ及び必要燃料量を固定した上で、建設費や運転維持費が変化
しないことを前提に採算性の比較を行った。発電効率は、ボイラ蒸気条件とタービン排気
条件の熱落差に内部効率 80.0%、タービン機械効率 97.0%、発電機効率 97.3%を仮定して
算出した。また、一定負荷の熱需要が確保できたとして、稼働率は専焼の場合と同一とし
た。排熱を一定の単価で販売できるとして、以下の式から正味の発電コストを求めた。
発電コスト[円 / kWh]=
①資本費+②運転維持 費+③燃料費+④租税 - ⑤排熱価値
発電電力量[ kWh]
排熱価値=排熱利用量 ´ 熱単価
タービンから 100℃程度で排気した場合と 200℃強で排気した場合の発電コスト低減効
果を図表 3-39 に示す。いずれの場合でも、熱単価 7.2 円/kWh の条件では、実質的な発
電コストを引き下げることができる。また、排気条件にかかわらず熱単価が一定の場合、
低圧で排気するほど発電量を確保することができることがわかる。一方、排気中の全熱量
のうち潜熱の占める割合が大きいため、排気条件によって熱量は大きく変化しない。この
ため、低圧で排気して有効利用できれば正味の発電コストは低くなる。ただし、これには
低温熱需要の確保が必要なことから、利用条件が限られることに注意が必要となる。また、
化石燃料価格の変動によって、排熱価値が変化することが想定される。
- 85 -
図表 3-38 熱電併給の試算条件
専焼
(真空排気)
熱電併給
(低圧排気)
熱電併給
(中圧排気)
ボイラ蒸気条件
5.5MPa/450℃
5.5MPa/450℃
5.5MPa/450℃
タービン排気条件
7.5kPa/40.3℃
0.1MPa/99.6℃
1.0MPa/214.9℃
燃料使用量
60,000t-wet
60,000t-wet
60,000t-wet
稼働率
87%
87%
87%
発電出力
5,700kW
4,056kW
2,127kW
発電効率(対バイ
オマス熱量)
26.0%
18.5%
9.7%
熱利用率(対バイ
オマス熱量)
0%
52.5%
61.9%
総合エネルギー効
率
26.0%
71.0%
71.6%
建設費
41.0 万円/kW
41.0 万円/kW
41.0 万円/kW
運転維持費
2.7 万円/kW・年
2.7 万円/kW・年
2.7 万円/kW・年
排熱価値
−
7.2 円/kWh
7.2 円/kWh
(注)専焼の場合の条件はコスト構造分析と同条件に設定
(出所)三菱 UFJ リサーチ&コンサルティング作成
図表 3-39 熱電併給によるコスト低減効果
(円/kWh)
40
35
30.3円/kWh
30
熱電併給合計
25
租税
25.9円/kWh
燃料費
20
運転維持費
18.1円/kWh
15
10
5
0
専焼
熱電併給(中圧排気)
熱電併給(低圧排気)
(注)専焼の条件はコスト構造分析と同条件に設定
(出所)三菱 UFJ リサーチ&コンサルティング作成
- 86 -
資本費
2.2.4 熱電併給の課題
熱電併給を実施するためには、熱需要の確保が必要になる。特に、発電を行うことも重
視する場合、排熱は低温・低圧となることから、低温熱の需要確保が課題となる。
しかしながら、日本は、欧州と比較して温暖なため、北海道や東北地方、北陸地方を除
くと、民生部門の熱需要は小さい。また、欧州では地域熱供給網が発達しているため、熱
需要の確保が容易となっているが、日本ではこれらが普及していないため、熱需要が地域
に分散している。また、日本ではセントラルヒーティングが普及していないため、そもそ
も需要側に外部からの温水・蒸気を受け入れる体制ができていないことも課題である。
また、比較的小規模であれば熱需要の確保は容易になるが、小規模発電に適したガス化
発電や ORC 発電の技術は日本では普及していない。特に、ガス化発電については、バイ
オマスの種類、水分率、形状によってガス成分が変化するため、空気量や炉内温度の制御
が難しいという課題がある。良質な燃料を必要とすることから、日本では燃料供給体制が
整わずに停止している事例が多く報告されており、商用化に成功している事例は少ない。
ドイツなどのバイオマス利用で先行する国でも、ここ 4∼5 年で導入が進んでいる状況で
あり、日本における普及には時間を要すると考えられる。
図表 3-40 世帯当たりのエネルギー消費量(GJ/世帯・年)の国際比較
(出所)社会経済生産性本部「フォーラム・エネルギーを考える」(委託先:住環境計画研
究所)
- 87 -
図表 3-41 世帯当たりのエネルギー消費量(GJ/世帯・年)の地域比較
暖房
給湯
北海道
照明・家電製品・他
36
東北
15
24
関東
15
19
東海
10
近畿
9
中国
10
四国
8
九州
7
0
18
16
10
北陸
19
17
23
19
14
18
12
12
10
17
0 69
0 59
1 42
16
14
冷房
1 59
1 44
1 41
17
1 40
19
1 40
1 36
20
40
60
80
世帯当たりエネルギー消費量(GJ/世帯・年)
(出所)住環境計画研究所「家庭用エネルギー統計年報 2012 年版」
図表 3-42 欧州における熱供給システム別の住宅数の割合
セントラルヒーティング
地域熱供給
ルームヒーティング
100%
90%
80%
70%
60%
50%
40%
30%
20%
10%
Austria
Bulgaria
Cyprus
Czech Rep.
Denmark
Finland
France
Germany
Greece
Hungary
Ireland
Italy
Latvia
Lithuania
Luxembourg
Malta
Netherlands
Poland
Romania
Slovakia
Slovenia
Spain
Sweden
UK
Serbia
Croatia
0%
(出所)Entranze
3.発電コスト削減のシミュレーション
将来コストのシミュレーションとして、チップ化供給価格が低下した場合とさらに熱電併
給を行った場合について試算を行った。
5,700kW の発電所において、前述のチップ供給コスト低減のシナリオで示した通り、燃料
- 88 -
単価が 12,000 円/t-wet から 6,500 円/t-wet に低下すれば、約 9 円/kWh 程度のコスト低減とな
り、発電コストは 21 円/kWh 程度まで低減することが可能となる。
さらに熱電併給(低圧排気を想定)を行う場合31、バイオマス単価が低いため、排熱価値
だけでコストの大部分を賄うことができる。このため、正味発電コストは 5.4 円/kWh まで下
がり、全電源と比較しても競争力のある電源となることが確認された。ただし、これには熱
需要確保が必須となるため、すべてのバイオマス発電所で熱電併給が実施できるわけではな
い点に留意が必要である。
図表 3-43 将来の発電コストシミュレーション
(円/kWh)
35
30
25
租税
30.3円/kWh
燃料費
▲9.0円/kWh
運転維持費
21.3円/kWh
資本費
20
▲15.9円/kWh
15
10
5
0
5.4円/kWh
将来(専焼)
将来(熱電併給-低圧排気)
現状(専焼)
(燃料費12,000円/t-wet( 40%) ) (燃料費6,500円/t-wet( 40%) ) (燃料費6,500円/t-wet( 40%) )
(注 1)燃料費については、将来的には、全ての機械が欧州機械型に移行し、現地チップ化
を基本として、作業道集材型と林道直接集材型が 50%ずつになるとして、その平均
値をとることで、¥6,500/t-wet と試算した。
(注 2)現状(専焼)の条件はコスト構造分析と同条件に設定
(出所)三菱 UFJ リサーチ&コンサルティング作成
31 熱電併給のコスト試算と同様にボイラーサイズと燃料使用量を固定し、
発電効率は 18.5%、発電出力は 4,056kW、
熱利用率は 52.5%となることを想定。
- 89 -
III. 持続可能なバイオマス発電に必要な社会・環境への配慮
1.社会・環境への配慮の重要性
我が国におけるバイオマス発電が長期自立電源となっていくためには、経済面はもちろん、
地域社会との連携等を通じて、社会・環境的な側面について積極的に対応していくことで、
より安定的な経営基盤を獲得することが大切である。特に、地域社会の多様性に配慮し、発
電所ごとに地域課題の解決や経済活性化への貢献の工夫が、FIT 終了後も含めた長期自立電
源化に向けて必要であると考えられる。これにより、地域のバイオマスが燃料として消費さ
れることで、地域経済循環が強化されることが期待されている。ただし、現状では、このよ
うな配慮が必ずしも十分ではないため、本節では将来に繋がる事例を紹介する。
また、環境への配慮については、バイオマス発電の実績で先行する欧州において、特に輸
入バイオマスを中心に、持続可能性基準が策定され、森林生態系への配慮や、温室効果ガス
削減効果の定量化の取組が行われている。そこで、本節では、欧州等を中心とした持続可能
性基準策定の動向を中心に、我が国において考慮すべき情報を整理した。
2.地域社会に配慮したバイオマス発電の事例
(1)発電所建設に伴う地域林業の活性化:塩尻市(長野県)
バイオマス発電所の建設を契機として、地域の林業活性化に取り組み始める自治体があ
る。輸送コストの低減および、地域社会への貢献という点で、効果の高い取組である。
ここでは、そのような代表事例として塩尻市(長野県)を取り上げる。塩尻市以外では、
真庭市(岡山県)でも、2015 年 7 月より森林・林業マスタープランを策定し、今後の伐採
計画の策定などを実施する予定である。
塩尻市では、信州 F パワープロジェクトとして、大規模製材工場と、製材端材及び未利
用材を燃料とする 10,000kW 級の発電所の建設が進められている。林業活性化・燃料確保
については、塩尻市では、市内の林業活動の活性化のため、森林情報の整理や、林業参入
事業体の発掘・支援事業に取り組んでいる。また、周辺の自治体(朝日村:20km 圏内、
筑北村:50km 圏内)とも連携し、木材利用可能性調査や、松くい虫の被害木の利用可能
性調査を実施している。
なお、塩尻市では当初、発電所の排熱を利用した地域熱供給が検討されたが、立地やコ
ストの問題で断念した。現在は、製材工場のおがくずを原料に、ペレット製造を行い、ペ
レット製造過程に排熱を利用することが検討されている。こうした熱利用の取組により、
エネルギー効率を高めるとともに、地域における化石燃料消費量を削減し、二酸化炭素排
出量の削減を目指している。
- 90 -
図表 3-44
信州 F パワープロジェクトの概要
(出所)塩尻市
(2)低質材需要の創出:松阪市(三重県)
有力な製紙工場や熱利用先もない場合、発電所の建設・稼働は、地域の低質材利用先と
して大きな意味を持つ。そのような事例として、三重県松阪市の三重エネウッドの事例が
ある。三重県は南部の南牟婁郡に製紙工場が立地するのみであり、松阪市でのバイオマス
発電所の建設には、低質材の新たな需要創出としての意義を持っている。
具体的には、松阪市にある大型の木材工業団地に立地するチップ工場(ウッドピア木質
バイオマス利用協同組合)からほど近い場所に、5,800kW バイオマス発電所が建設された。
ウッドピア松阪内は、高圧電線や用水等のインフラがなく、団地内での建設は断念された
が、稼働率の低かったチップ工場設備をフル稼働させ、チップ供給を受けるスキームと
なっている。地元からボイラー・タービン主任技師を雇用したり、騒音や安全対策に 1 年
程度をかけて、丁寧に地元説明を実施した。農山漁村再生可能エネルギーファンドととも
に、地元林業事業体からの出資、地域金融機関に加えて三重県から融資を受けている。
- 91 -
図表 3-45 三重エネウッドの様子
(出所)三菱 UFJ リサーチ&コンサルティング
(3)工業団地への進出、廃材処理のコスト削減:花巻市(岩手県)
工業団地等への発電所の進出は地方自治体にとっては魅力的である場合が多い。加えて、
間伐材の利用はもちろん、周辺の河川やダムの流木、公園・街路樹の剪定枝、コストをか
けて処理をしている松くい被害木などを燃料として利用することで、更に地域メリットを
向上させることができる。そこで、発電事業者と地元自治体が Win-win の関係を構築して
いる事例として、花巻市(岩手県)を取り上げる。
花巻バイオエナジーは、花巻市内の工業団地に立地するバイオマス発電所(6,250kW 予
定)である。間伐材を中心に、流木、松くい被害木、剪定枝などを用いて、廃棄物の有効
利用を狙う。花巻市は、市へのメリットを勘案して、株式会社花巻バイオマスエナジーに
1,000 万円(3.3%)の出資も行っている。
図表 3-46 花巻バイオマスエナジーのスキーム図
花巻バイオマスエナジー
チップ化事業者
林業事業者等
契約
・間伐材
・流木
・松くい被害木/等
<発電事業体>
(発電)
<燃料供給事業体>
(チップ化)
<木材供給事業>
(木材切り出し)
契約
木材→チップ
チップ→電気
供給契約
(出所)タケエイ社プレスリリース資料を一部改変して、三菱 UFJ リサーチ&コンサルティ
ング作成
(4)地域と一体となった熱電併給プランニング:上野村(群馬県)
熱電併給の実現のためには、安定的な熱需要の確保がポイントとなり、大規模な熱需要
がある工場等への併設でない限り、難しい場合が多い。そこで、地域振興の観点から、主
- 92 -
に地域の森林資源を活用した熱電併給の事業化に積極的に関与する自治体や地域がある。
ここでは、熱供給先としてキノコ工場(上野村)を取り上げるが、現在、地域熱供給での
バイオマス熱電併給の検討を行う自治体が増えている(北海道下川町、兵庫県淡路市など)
。
上野村では、2011 年度にペレット工場を建設し、村内3ヶ所の温浴施設などに燃料供給
を実施してきた。2014 年度に総工費 3.5 億円を投じて、ペレットを使ったガス化発電設備
(ドイツ・ブルクハルト社製)を導入した。発電 180kW、熱 270kw の出力規模を持ち、
村内のキノコセンターへ熱電併給を行っている32。なお、キノコセンターは、人口 1,200
人程度の上野村において、45 人もの雇用を生み出す「大企業」であり、上野村は林業やペ
レット生産を含めたバイオマス産業で 150 名の雇用創出を目指している。
32 FIT を利用した売電ではなく、所内電源として活用している。ガス化発電ユニットだけであれば、1.7 億円程度
と言われている。
- 93 -
3.環境に配慮したバイオマス利用に向けた取組
輸入バイオマスを持続的に利用していくためには、経済性の確保だけでなく、環境・社会
の面からも持続可能な形で利用が続けられることが必要である。ここでは、欧州におけるバ
イオマスの持続可能性基準の採択状況、および、輸入バイオマスを用いる際の環境負荷につ
いて検討し、持続可能な輸入バイオマス利用を考える際には何を議論の論点とすべきか、整
理することとする。
3.1
欧州バイオマス輸入国における持続可能性基準の採用状況
現在、EU では固体バイオマスに関する統一的な持続可能性基準は策定されていないが、
イギリスやオランダなど、バイオマスの輸入国を中心に、独自の持続可能性基準が作成され
ている。
イギリスの持続可能性基準は GHG 排出量の削減と、持続可能な森林経営の担保を主目的
としている。GHG 排出量削減のために、バイオマス発電所は GHG 排出量削減基準を満たす
こととされている。また、森林経営においては、森林認証もしくは SBP(後述)の認証が必
要とされている。
一方で、オランダの持続可能性基準の主目的は持続可能な森林経営のみであり、基準も持
続可能な森林経営をより重視した内容となっている。またオランダの持続可能性基準では、
間接的土地利用変化を基準の一つとして採用している点も特徴的と言える。
間接的土地利用変化(ILUC: Indirect Land Use Changes)とは、バイオ燃料用作物の生産に
より、当該土地で従来生産されていた作物等が別の土地で生産されることに伴う土地転換を
指す。本来二酸化炭素の削減に資するはずのバイオマス燃料の利用が、間接的に土地の転換
を引き起こしているため、果たしてバイオマス燃料の推進が二酸化炭素の排出削減に実際に
寄与しているかという点はこれまで EU でも議論されてきている。実際に、間接的土地利用
変化が二酸化炭素排出量に与える影響については、定量的に評価をすることが難しいと言わ
れている。
オランダの持続可能性基準では、間接的土地利用変化を引き起こす可能性が低いバイオマ
スのみ利用可能と定められている33。間接的土地利用変化のリスクは、LIIB (Low Indirect
Impact Biofuels) Methodology と呼ばれる方法を用いて判断することとされている。LIIB
Methodology は、間接的土地利用変化を引き起こさないバイオ燃料生産であることを証明す
るためのものであり、以下のような生産が行われている場合に、そのリスクが低いとされる。

未利用地での生産

単収の増加による増産

他の農業生産との統合による効率の向上

廃棄物や残渣からの生産
ただし、基準が適用されるのは、500 ヘクタール以上の大規模森林経営の場合かつ、森林
経営がバイオ燃料用の木材生産のために短期輪作で行われている場合に限られる。
33 Netherlands Enterprise Agency “SDE+ sustainability requirements for co-firing and large scale heat production”
- 94 -
図表 3-47 イギリスとオランダにおける独自の持続可能性基準
イギリス
オランダ
主なフォーカ
ス
GHG排出量の削減
持続可能な森林経営の担保
持続可能な森林経営の担保
概要
<GHG排出量の削減>
バイオマス発電所は下記のGHG排出量削
減基準を満たす必要がある。
・2014-20年:60%
・2020-25年:72%
・2025-30年:75%
発電所は詳細なLCAデータを提出し、第3
者認証を受ける必要がある。
<持続可能な森林経営>
・合法的かつ持続可能な森林経営が必須
・森林認証もしくはSBPの認証が必要
・森林バイオマスは認証が必要で、かつ具
体的な「林分」レベルまでトレーサビリティが
必要。
・500ha以上の森林は、FSC森林認証もしく
は同等の認証が必要(500ha未満も段階的
に認証を求める)
・バイオマス混焼を行う発電所は、小規模森
林経営体が認証を取得することを支援する
「基金」に資金を拠出する。
・間接的土地利用変化 (ILUC: Indirect
Land Use Change) についての基準
(出所)「Global trade of wood pellets」Hawkins Wright 資料より三菱 UFJ リサーチ&コンサ
ルティング作成
3.1.1 Sustainable Biomass Partnership(SBP)
Sustainable Biomass Partnership(SBP)は、経済・環境・社会の側面から持続可能な固体
バイオマス利用を実現させ、低炭素社会を構築することを目指して設計されたスキームで
ある。バイオマスを用いる電力会社を中心として民間主導で作られたスキームであり、国
ごとに異なる EU 各国の規制を横断的にカバーできるスキームとなっている。Drax など大
手の電力会社も参加している。
SBP の持続可能な森林経営の基準は、イギリス政府の Timber Procurement Policy34におけ
る基準およびオランダの基準をベースとして作られている。また、ベルギーに対応し、エ
ネルギーと炭素データの収集を行うなどの活動を行っており、ベルギーは SBP を国の基準
として採用する見込みである。
FSC(Forest Stewardship Council)などの既存の認証と競合する形ではなく、補うことを
目指して設計されている。SBP の認証を受けることで、FSC などの森林認証を取得してい
ない森林についても、
「認証同等」の持続可能性を担保できる。
34 Central Point of Expertise on Timber “UK Government Timber Procurement Policy: Framework for evaluating Category
B evidence Third edition”
- 95 -
図表 3-48
SBP で示される6つの原則
6つの原則
概要
バイオマス原料の合法性
6つの基準と8つの指標でリスク評価(文書ベースと現場)を実施
バイオマス原料の持続性
10の基準と30指標でリスク評価(文書ベースと現場)を実施
認証機関に対する要求
ISO基準等に基づいた承認プロセスを要求
CoC(供給連鎖)の認証
適合(compliant)されたバイオマス燃料と、管理(controlled)されたバイオマス
燃料の適正な管理
データの収集とコミュニケーション エネルギーと炭素バランスに関するデータベース
供給「バッチ」データ
エネルギーと炭素バランスの計
算
計算方法を提示
(出所)SBP ホームページより三菱 UFJ リサーチ&コンサルティング作成
3.2
輸入バイオマス利用の環境負荷
海外からバイオマスを輸入し利用する場合、二酸化炭素排出量の削減にならないのではな
いかという懸念がある。再生可能エネルギーの利用促進は、二酸化炭素排出量の削減という
目的と齟齬が生じないように進めなくてはならず、流通等も含めたバイオマス利用のプロセ
ス全体から輸入バイオマスの是非を検討する必要がある。また、二酸化炭素削減コストの面
から考えた場合に、現地で発電所の燃料として利用した方が、輸送費を削減できる分安く済
むなど、全体最適を踏まえた議論も必要である。
電力中央研究所は、バイオマス発電において、原料の調達から燃料製造、輸送までを含め
たライフサイクルの二酸化炭素排出量を定量評価する研究を行っている35。研究結果による
と、ペレットの輸入は海上運輸分の二酸化炭素を国内産に比べて余分に排出するが、海外産
のバイオマスは、成形や乾燥などの二酸化炭素排出への影響が大きい工程で国内産よりも排
出量を抑えられている場合もあるため、ライフサイクルで評価すると、輸入バイオマスを完
全に否定する議論は適切でないことが示されている。特に、木質ペレットの場合、成形の際
の排出量が海外産では低く抑えられているため、国内ペレットと輸入ペレットのライフサイ
クルの二酸化炭素排出量に大きな差はないという結果が得られている。バガスペレットおよ
び EFB ペレットについては、乾燥プロセスで工場の廃熱が利用できる場合や、成形加工プ
ロセスでバイオガス電力が利用できる場合には、国内産ペレットよりも総排出量を低く抑え
られる場合もあることが示されている。輸入バイオマスを用いる際は、海上輸送による二酸
化炭素排出量の増加分だけでなく、ライフサイクルで評価し、使用の是非を検討することが
必要だと考えられる。
35 電力中央研究所(2011)「国内・外産石炭火力混焼用バイオマス燃料の製造・輸送に係わる CO2 排出量の評価」
研究報告:Y10010
- 96 -
図表 3-49 国産と海外産のバイオマスのライフサイクル CO2 排出量の比較
(出所)電力中央研究所研究 35
(注)単位は kg-CO2/1 トンペレット生産
- 97 -
第4章 持続可能なバイオマス発電の実現のための課題と施策の方向性
I. 持続可能なバイオマス発電のあり方
1.あり方の整理
以上、検討してきた結果、バイオマス発電は規模や、調達する燃料のソースなどにより、
多様なパターンが存在することが明らかになった。その一方で、発電所の規模を問わず、経
済性を基本としつつ、環境や社会への配慮も必要である。つまり、
「トリプルボトムライン」
と呼ばれる、企業を財務パフォーマンスのみで評価するのではなく、環境・社会・経済の 3
つの側面から総合的に評価する考え方と共通するものである。
長期的なバイオマス発電のあり方を考えた場合、経済面では、FIT 終了後に経済的に自立
した電源となり、他電源と遜色のないコストを実現していることが求められる。また、環境
面では、森林生態系への十分な配慮がなされ、持続可能な森林経営と共存していることに加
え、温室効果ガスの削減に寄与しているという点も重要である。社会面では、バイオマス発
電所の存在により、地域社会の価値が向上していることを目指すべきである。
ただし、短期的には、すでに認定された発電所が安定的に稼働していることが前提であり、
そのためには、バイオマス燃料材の需給バランスの確保が求められる。
図表 4-1 持続可能なバイオマス発電のあり方の概念図
<長期的な目標>
 森林生態系への十分な配慮
がなされ、持続可能な森林経
営と共存している
 温室効果ガスの削減に寄与
している
 FIT終了後に経済的に自立した電
源となり、他電源と遜色のないコス
トを実現している
経済
持続可能なバイオマス発電のあり方が実現
持続可能な
バイオマス発電
環境
(長期自立電源)
社会
 バイオマス発電所の存在
により、地域社会の価値が
向上している
あるべき姿の
実現に向けた努力
<短期的な目標>
 需給バランスの確保
すでに認定された発電所が安定的に稼働している
(注)経済、環境、社会の 3 つの円が重なる領域が、持続可能なバイオマス発電(長期自
立電源)であることを示している。
(出所)三菱 UFJ リサーチ&コンサルティング作成
- 98 -
2.「あり方」の実現に向けた施策の方向性
以上のように、
「あり方」を設定した場合、現状とのギャップを適切に認識し、そのギャッ
プを解消していくために総合的な施策を展開していく必要がある。
現状については、これまで見てきたように、短期的には、急増する需要に対し、供給が不
足する恐れがあることから、需給バランスの確保に向けた施策が必要となる。長期的に考え
た場合、現状では、燃料コストが高く、エネルギー効率が必ずしも高くないため、発電コス
トが高いといった経済面の課題や、開発が先行し、環境・社会への配慮が必ずしも十分では
ないといった環境・社会面での課題が存在している。したがって、長期的には、発電コスト
の低減を誘導する施策を展開するとともに、環境・社会への配慮を促す施策が必要である。
以上を踏まえて、これ以降、今後の施策の方向性について、できる限り具体的に検討を行
う。
図表 4-2
「あり方」に照らしあわせた場合の現状と、そのギャップに基づく施策の方向性
現状
施策の方向性
 認定された発電所が安定的に稼働し
ている
 急増する需要に対し、供給
が不足する恐れがある
需給バランスの確保
 FITによる買取期間終了後に経済的に
自立した電源となり、他電源と遜色の
ないコストを実現している
 燃料コストが高く、エネル
ギー効率が必ずしも高くな
いため、発電コストが高い
発電コストの低減
 森林生態系への十分な配慮がなされ、
持続可能な森林経営と共存している
 開発が先行し、環境・社会
への配慮が必ずしも十分
ではない
あり方(理想的な将来像)
短期
経済
長期
環境
 温室効果ガスの削減に寄与している
環境・社会への配慮
社会
 バイオマス発電所の存在により、地域
社会の価値が向上している
(出所)三菱 UFJ リサーチ&コンサルティング作成
- 99 -
II. 今後の施策の方向性
1.短期的な施策
(1)必要な施策
安定的かつ持続的なエネルギー供給を行う為には、安定的な燃料調達が課題であり適切
な需給バランスの確保が必須である。そのためには発電所計画時から事業実施の確実性を
担保すべく、燃料の需給管理を行っていく必要があり、都道府県等公的機関への適切な情
報提供が必要である。なお、その前提として、これまで国、県レベルで、林業振興のため
の木材の増産計画が策定されてきたが、多くが FIT 制度開始前に策定されており、バイオ
マス需要に対応できていない。また、計画の実効性を担保する仕組みのあり方が整理され
ておらず、利用率の向上や、労働力の確保についての検討は必ずしも十分ではないと言え
る。したがって、今後は、増産計画の取りまとめやモニタリング、優良事例の収集・整理・
公表等を通じて、国レベル及び都道府県レベルの増産計画の更新を推奨していくことが、
施策として求められている。
需給調整メカニズムの高度化に関しては、木材需給バランスの安定化に資する、流通
コーディネート機能等を通じた日常的な需給調整の仕組みが、国内では未整理・未発達で
あることを課題として指摘することができる。そこで、欧州等バイオマス先進国における
実態調査や、国内優良事例の収集・整理・公表を通じて、メカニズムの高度化を誘導して
いくことが必要である。
協議会については、2015 年度から林野庁は、国産材の安定供給を図るため、林業側と需
要者側との情報共有が重要との認識の下、需給情報連絡協議会を全国7ブロックで年2回、
中央1回で開催している。また、都道府県でも、県単位の協議会が設置されている場合が
ある。ただし、時間等の制約から、バイオマス発電について、必ずしも十分な議論が行わ
れていないのが課題である。将来の増産目標・その進捗、需給の実績値、発電及びチップ
供給のコストの詳細等、参加のインセンティブとなるような情報の収集や提供方法の工夫
や、効果的な開催のために分科会方式等も検討する必要があると思われる。また、未利用
材については、
「発電利用に供する木質バイオマスの証明のためのガイドライン」の遵守
などを徹底していく必要もある。
なお、国内産バイオマスの供給量に対する不安感から、大規模発電所を中心に輸入バイ
オマスの使用を検討する発電所もある中で、輸入バイオマスをめぐっては、①エネルギー
セキュリティ及び地域活性化等への貢献に対する懸念や、為替変動等外部環境の影響を受
けるリスクも考慮する必要がある一方で、②国内産バイオマスの利用を増やしていくため
の初期段階の需要の受け皿としての役割を期待する見方もある。バイオマス全体を普及す
るに当たり、輸入バイオマスに対してどのようにアプローチすべきか引き続き検討が必要
である。
- 100 -
図表 4-3 国内産バイオマスの需給バランス確保のための取組テーマと施策メニュー
取組テーマ
増産計画の更
新
・
・
需給調整メカ
ニズムの高度
化
・
協議会の活性
化
・
・
・
現状
(実施状況、課題)
国、県レベルで、林業
振興のための木材の
増産計画が策定され
てきたが、多くが FIT
制度開始前に策定さ
れており、バイオマス
需要に対応できてい
ない
計画の実効性を担保
する仕組みのあり方
が整理されていない。
利用率の向上や、労働
力の確保についての
検討は必ずしも十分
ではない
木材需給バランスの
安定化に資する、流通
コーディネート機能
等を通じた日常的な
需給調整の仕組みが
国内では未整理・未発
達
2015 年度より、需給
情報連絡協議会が全
国7ブロックで年2
回、中央1回で開催中
(林野庁)
都道府県で、県単位の
協議会が設置されて
いる
ただし、時間等の制約
から、バイオマス発電
について、必ずしも十
分な議論が行われて
いない
想定される施策メニュー
・
・
・
・
・
・
・
実施に向けた課題・留意事項
増産計画の更新(国、都
道府県)
増産計画の取りまとめ、
モニタリング
優良事例の収集・整理・
公表
・
欧州等バイオマス先進
国における実態調査
国内優良事例の収集・整
理・公表
・
流通コーディネートの機
能を担う主体を地域ごと
にどのように育成してい
くか
優良事例の収集・整理・
公表
効果的な協議会のあり
方についての整理
・
参加のインセンティブと
なるような情報の収集や
提供方法を工夫する必要
あり(将来の増産目標・そ
の進捗、需給の実績値等)
効果的な開催のために分
科会方式等も検討する必
要あり
・
・
策定義務のない都道府県
にどのように働きかける
か
燃料材の使用実績等の
データと組み合わせて、需
給バランスをモニタリン
グする体制も合わせて必
要
(出所)三菱 UFJ リサーチ&コンサルティング作成
(2)参考情報
1)都道府県等公的機関への適切な情報提供
FIT 制度においては、認定した設備のデータに加えて、発電事業者は毎年度1回、年間
発電容量、使用燃料の種類・使用量等を報告することになっている。認定申請時や運転
開始後においても継続的な需給管理を確保するため、認定データや使用燃料等の情報を
関係省庁や森林資源を管理している都道府県に提供することが必要ではないかと考えら
れる。
- 101 -
図表 4-4 FIT 制度における運転開始までの流れ
︻案件A︼
認定審査
認定取得
接続契約
工事
<認定データ>
■設置場所
■出力規模
■使用燃料【予定】
(種類、割合、調達先)
運転開始
<年報データ>
■発電量
■使用燃料【実績】
(種類、使用量等)
︻案件B︼
認定審査
認定取得
2)情報共有のための協議会の開催について
林野庁が実施している需給情報連絡協議会は、製材・合板・製紙等のマテリアル利用
からバイオマス利用まで、全ての木材需要者が一同に会して、情報交換を行うという点
で画期的な集まりであると評価されている。バイオマスについては、「FIT 制度により、
C ∼ D 材需要が伸びているが、所有者に利益を還元させる上でも、A ∼ D 材のバラン
スのとれた需要拡大を図ってほしい」「『発電利用に供する木質バイオマスの証明のため
のガイドライン』を遵守する仕組みが必要」などの発言が記録されている。需給バラン
スの量的な確保だけではなく、ガイドラインの遵守等により、既存用途との共存ができ
るよう関係者で意見交換が行われることが望まれる。
2.長期的な施策
2.1
発電コストの低減
(1)必要な施策
理論的/技術的には燃料供給コストの低減は可能であり、林業の基盤強化(集約化、人
材育成等)を前提に、機械性能の向上や現地チップ化の推進等によりコストを下げつつも、
適切な利益を確保しつつ供給できる体制を構築することが重要である。
現状では、集約化のための人材育成(森林施業プランナー研修)が行われているが、バ
イオマス材の供給についての研修は行われていない。そのため、森林所有者へ提示する収
支モデルのバイオマス材売上の追加により、集約化を加速化させるべく、バイオマス材を
追加した収支提案ができるような研修プログラムの見直しを行っていく必要がある。ただ
し、集約化が思うように進展しないのは、林業セクターだけの責任と言うわけではなく、
境界の明確化など、林業の基盤となる国土政策の強化(森林所有者への働きかけ等)、総
合的な対策も必要である。
- 102 -
機械性能の向上については、高性能な機械についての情報提供が十分ではないことや、
機械導入に対する補助があるが、目指すべき機械性能がベンチマークされておらず、望ま
しい機械とその性能が明らかではないことなどが課題である。また、現地チップ化につい
ても、現地チップ化の必要性(利用率の向上)が必ずしも理解されていないことが第一の
課題である。したがって、求められる施策としては、高性能な機械情報や導入事例等につ
いての情報提供や、FS 調査/実証事業の実施、技術普及のための研修会の開催が想定さ
れる。ただし、燃料コスト削減のインセンティブを確保するために、燃料供給側にも適切
な利益確保のあり方を示すことや、欧州等を参考にしつつも、日本の地形条件等に合った
実事例の構築が必要であることに留意が必要である。また、現地チップ化については、施
業集約化とインフラ整備(高規格の路網)が前提として必要であるが、既存路網でも活用
可能な機械開発も求められているところである。これらにより、チップ化・供給が、付加
価値の高いビジネスとなり、既存の林業界のみならず、新たな主体の参画を得て拡大して
いくことが、既存用途との労働力の競合を避ける観点からも重要である。
発電所側の努力として、コスト削減の可能性がある熱電併給の実施の検討が有効である
が、熱電併給の実施には熱需要の確保等の課題が多い。具体的には、熱電併給を行うため
には、地域熱供給や産業向けの低温熱需要(乾燥、濃縮、発酵、空調、給湯、等)を確保
する必要があり、国内でも一部でバイオマス熱利用に関するガイドライン、導入マニュア
ル、熱需要マップが作成されているが、必ずしも熱電併給の検討のために使いやすいデー
タとしては整備されていないのが現状である。したがって、バイオマス熱電併給のポテン
シャル評価や有効性の検証を行うとともに、バイオマス熱電併給に適した熱需要の把握や、
利用しやすい熱需要マップ(できれば Web ベースのもの)の整備を施策として実施して
いくことが有効である。ただし、熱需要に関する統計情報が不足しており、特に産業部門
は、同業種であっても多様なため、類型化や推計が難しいという課題があるため、段階的
に実施していくことが重要である。
- 103 -
図表 4-5 発電コスト低減のための取組テーマと施策メニュー
取組テーマ
集約化の推
進
・
・
機械性能の
向上
・
・
現地チップ
化の推進
・
・
熱電併給の
適用可能性
の検討
・
・
現状
(実施状況、課題)
施業集約化(森林経営計
画策定)の進捗が全国的
に芳しくない一方、私有
林だけではなく、国有
林・公有林も含んだ集約
化も行われている
集約化のための人材育
成(森林施業プランナー
研修)が行われている
が、バイオマス材の供給
についての研修は行わ
れていない
高性能な機械について
の情報提供が十分では
ない。
機械導入に対する補助
があるが、目指すべき機
械性能がベンチマーク
されておらず、望ましい
機械とその性能が明ら
かではない
現地チップ化の必要性
(利用率の向上)が必ず
しも理解されていない
高規格な路網インフラ
整備に時間を要するこ
とから、既存路網でも活
用可能な機械開発も必
要
熱電併給を行うために
は、地域熱供給や産業向
けの低温熱需要(乾燥、
濃縮、発酵、空調、給湯、
等)を確保する必要があ
る
国内でも一部でバイオ
マス熱利用に関するガ
イドライン、導入マニュ
アル、熱需要マップが作
成されているが、必ずし
も熱電併給の検討のた
めに使いやすいデータ
としては整備されてい
ない
想定される施策メニュー
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
実施に向けた課題・留意事項
集約化の加速化のために、
森林所有者へ提示する収
支モデルのバイオマス材
売上の追加による改善
バイオマス材を追加した
収支提案ができるような
研修プログラムの見直し
・
境界の明確化など、林業
の基盤となる国土政策
の強化(森林所有者への
働きかけ等)、総合的な
対策も必要
高性能な機械情報や導入
事例等についての情報提
供
FS 調査/実証事業の実施
技術普及のための研修会
の開催
・
燃料コスト削減のイン
センティブを確保する
ために、燃料供給側にも
適切な利益確保のあり
方を示す必要がある
欧州等を参考にしつつ
も、日本の地形条件等に
合った実事例の構築が
必要
・
施業集約化とインフラ整
備(高規格の路網)
既存路網でも活用可能な
機械開発
FS 調査/実証事業の実施
技術普及のための研修会
の開催
バイオマス熱電併給のポ
テンシャル評価や有効性
の検証
バイオマス熱電併給に適
した熱需要の把握、利用し
やすい熱需要マップの整
備
(出所)三菱 UFJ リサーチ&コンサルティング作成
- 104 -
・
・
熱需要に関する統計情
報が不足している。特に
産業部門は、同業種で
あっても多様なため、類
型化や推計が難しい
熱需要マップは Web 上
で使用可能なツールと
して整備することが望
ましい
(2)参考情報
1)集約化の推進
燃料チップ供給コスト低減の
燃料チップ供給コスト低減の前提となる集約化(森林経営計画策定)の推進が必要で
前提となる集約化(森林経営計画策定)の推進が必要で
あるが、進捗は芳しくない。
あるが、進捗は芳しくない。林野庁の資料によれば、2014 年度末の森林経営計画の認定
率は、全民有林の 28%(
%(490 万 ha)にとどまっている。森林経営計画策定の担い手とし
)にとどまっている。森林経営計画策定の担い手とし
て、森林施業プランナーの育成が行われているが、そもそも、森林の所有境界が不明な
ところも多く、林地の地籍調査の進捗率が 44%(2013 年度末)にとどまっているなどの
問題もある。
他方、民有林と国有林・公有林との連
国有林・公有林との連携も進んでおり、国有林や公有林なども合わせ
国有林や公有林なども合わせ
て集約化し、林業専用道との高規格な路網も含む、効果的な路網整備が可能になってい
、林業専用道との高規格な路網も含む、効果的な路網整備が可能になってい
くことが期待される。
図表 4-66
民有林と国有林の連携による集約化の事例
(出所)林政審議会資料
2)機械性能の向上・現地チップ化の推進
集約化を推進し、林業専用道などの高規格な路網の整備が進めば、現地チップ化が普
及していくと考えられる。しかし、すでに森林作業道が多く整備されており、将来的に
も整理が行われていく見込みである。したがって、既存の路網でも破砕・搬出工程を一
体化して低コスト化を図ることのできる機械開発も重要である。
体化して低コスト化を図ることのできる機械開発も重要である。具体的には、チッパー
具体的には、チッパー
フォワーダと呼ばれる機械は、
フォワーダと呼ばれる機械は、残材の「積込」、
「破砕」、土場までの「搬出」をこなすた
の「搬出」をこなすた
め、インフラ整備を待たずに低コストを図れることが期待される(
(現地チップ化も実現
現地チップ化も実現)。
このような取組により、従来の林業に加えて、チップビジネスを育成していくことで、
バイオマス燃料の安定供給体制を構築していく必要がある。
- 105 -
図表 4-7 チッパーフォワーダのコンセプト
フォワーダ(搬出)
フォワーダ部分
チッパーフォワーダ
+
チッパー(破砕)
チッパー部分
(注)チッパーフォワーダの写真は、2015 年 9 月にデンマークで撮影したもの
(写真)三菱 UFJ リサーチ&コンサルティング
加えて、集積した残材の効率的な収集を支援する ICT システムの開発なども期待され
る。欧州などでは、スマートフォン等を用いて、集積した林地残材の位置情報や、概算
量や水分などの情報を、ICT を用いて、共有し、発電所の必要量に合わせて収集・運搬
するシステムが開発されている。このような情報を参考にしながら、日本においても、
木材のロジシティクスを充実させていく必要がある。
- 106 -
図表 4-8 林地残材収集の効率化のための ICT システム(フィンランド 2010 年)
(写真)三菱 UFJ リサーチ&コンサルティング
3)熱電併給の推進
英国では Web 上で自由に利用可能な熱需要マップの整備が進められている。
上で自由に利用可能な熱需要マップの整備が進められている。熱需要
マップは公共施設、業務ビル、産業、住宅向け熱需要を別々に重ね合わせることが可能
である。また、CHP プラントの所在地(以下の図の目印地)や未利用エネルギー源など
を重ね合わせることもできる。
を重ね合わせることもできる。日本でも一部の調査事業で、熱需要マップの作成が行わ
日本でも一部の調査事業で、熱需要マップの作成が行わ
れているが、これらを事業者や自治体担当者が使いやすいようにさらに改良していく必
要がある。
また、海外では中央政府が自治体に対するサポート組織を設置し、
また、海外では中央政府が自治体に対するサポート組織を設置し、CHP などを含む地
域熱供給計画を支援している事例もある。英国では、
域熱供給計画を支援している事例もある。英国では、2013 年に地域熱供給プロジェクト
を計画する自治体に対する支援組織としてエネルギー・気候変動省(
(DECC
DECC)の中に「Heat
Networks Delivery Unit」を設置している。同組織には、技術・金融・法務等の専門家が所
」を設置している。同組織には、技術・金融・法務等の専門家が所
属し、自治体による熱需要マップ作成、エネルギーマスタープラン作成、
属し、自治体による熱需要マップ作成、エネルギーマスタープラン作成、FS 調査、プロ
ジェクトの詳細開発等を支援している。
- 107 -
図表 4-9 英国の National Heat Map
(出所)DECC
DECC「National Heat Map」
2.2
社会・環境への配慮
(1)必要な施策
現状の我が国のバイオマス発電については、開発
現状の我が国のバイオマス発電については、開発が先行して来た結果、社会・環境への配
が先行して来た結果、社会・環境への配
慮については、発電事業者を含めて関係者の意識が十分ではないことに加え、基礎的な検討
が必要なことも多く、着実に検討を実施していく必要がある。
社会への配慮については、地域価値の向上に資するバイオマス発電のあり方についての議
論・理解が十分に進んでいない上、利益シェア・配分のあり方の前提となる、市民や林業事
業者、自治体の事業への関与が整理されていないという現状がある。
業者、自治体の事業への関与が整理されていないという現状がある。強制力はなく、誘導的
強制力はなく、誘導的
な施策を考える必要があることや、
ことや、前提として、発電所の経営分析、発電及び燃料供給コス
前提として、発電所の経営分析、発電及び燃料供給コス
トのベンチマーク等が必要であることに留意しつつ、
であることに留意しつつ、優良事例の収集・整理・公表
優良事例の収集・整理・公表を行いな
がら、市民や林業事業者、自治体の事業への関与の検討
市民や林業事業者、自治体の事業への関与の検討を行っていく必要がある。
を行っていく必要がある。
環境への配慮については、バイ
環境への配慮については、バイオマス発電の増加により、森林資源・生態系への負の影響
オマス発電の増加により、森林資源・生態系への負の影響
が懸念されているが、市町村の監視体制が脆弱であるという実態がある。そのため、
が懸念されているが、市町村の監視体制が脆弱であるという実態がある。そのため、都道府
県等に所属する森林総合監理士(フォレスター)等の活動を通じて、市町村の森林・林業行
政のマンパワー不足を補いながら、市町村による伐採届運用の強化などに取り組んでいく必
要がある。また、森林における原料生産から、燃料製造、貯蔵・輸送、エネルギー変換まで
の LCA 評価事例が少ない中で、事例ごとの LCA 結果のバラつきが大きいことが分かってお
り、政策の中で指標化し、目標設定していくので
し、目標設定していくのであれば本格的な調査が必要
ば本格的な調査が必要である。
- 108 -
図表 4-10 社会・環境への配慮のための取組テーマと施策メニュー
取組テーマ
社会への配慮
環境への配慮
(国産バイオ
マス)
環境への配慮
(輸入バイオ
マス)
現状
(実施状況、課題)
・ 地域価値の向上に資
するバイオマス発電
のあり方についての
議論・理解が十分に
進んでいない
・ 利益シェア・配分の
あり方の前提とな
る、市民や林業事業
者、自治体の事業へ
の関与が整理されて
いない
・ バイオマス発電の増
加により、森林資
源・生態系への負の
影響が懸念されてい
るが、市町村の監視
体制が脆弱
・ 森林における原料生
産から、燃料製造、
貯蔵・輸送、エネル
ギー変換までの LCA
評価事例が少ない
・ 輸入バイオマスの持
続性について疑義が
呈されているが、そ
のリスク評価が十分
ではない
・ 欧州等で先行する持
続可能性基準採用の
動きについて実態把
握が十分ではない
想定される施策メニュー
・
・
・
・
市民や林業事業者、自治
体の 事業への関与 の検
討(事業への出資、林業
活性 化を通じた燃 料材
供給への協力、地域価値
向上に資する取組など)
優良事例の収集・整理・
公表
市町 村による伐採 届運
用の強化
LCA 調査の実施
実施に向けた課題・留意事項
・
・
・
・
・
・
輸入 バイオマスの リス
ク評価の実施
持続 可能性基準採 用の
検討
・
・
強制力はなく、誘導的な施策
を考える必要がある。
前提として、発電所の経営分
析、発電及び燃料供給コスト
のベンチマーク等が必要
都道府県等に所属する森林
総合監理士(フォレスター)
等の活動を通じて、市町村の
森林・林業行政のマンパワー
不足を補う必要
事例ごとの LCA 結果のバラ
つきが大きいため、指標化す
るのであれば本格的な調査
が必要
輸入バイオマスは生産地、燃
料種類、調達ルート等の多様
性が高く、適切な実態把握に
労力を要する
先行する国際的な動向との
整合性にも配慮が必要
(出所)三菱 UFJ リサーチ&コンサルティング作成
(2)参考情報
1)地域価値向上に向けた取組
このような中、バイオマスエネルギー利用や、林業・木材産業等の地域経済活性化に熱心
に取り組む地域では、バイオマス発電事業による地域の価値向上の実現に向けて、熱電併給
の実施や、FIT 終了後の自立的な運転についての検討を実施している。
具体的には、下川町(北海道)では、役場を中心に検討を行い、地域の価値向上に資する
取組を計画し、①周辺市町村も含め地域の森林/林業事業体から燃料材を調達すること、②
熱電併給により地域の基幹産業である木材産業に熱を供給するとともに、地域熱供給を行い
快適性や災害時の安全性も考慮した地域のエネルギーインフラを目指すことを計画してお
り、これらを通じ、地域経済の活性化や、地域のブランド価値の向上を狙っている(図表
4-11)。また、下川町では、FIT 後の継続運転を前提として計画を進めている点も他地域に
ない前向きな取組と評価できる(図表 4-12)。
- 109 -
図表 4-11
下川町における地域
下川町における地域に根ざしたバイオマス発電事業のイメージ
に根ざしたバイオマス発電事業のイメージ
(出所)下川町「下川町森林バイオマス地域熱電併給システム構築マスタープラン」
「下川町森林バイオマス地域熱電併給システム構築マスタープラン」
(
(2015
年 3 月)
図表 4-12
下川町における FIT 終了後の単年度収支の試算
(出所)下川町「下川町森林バイオマス地域熱電併給システム構築マスタープラン」
「下川町森林バイオマス地域熱電併給システム構築マスタープラン」
(
(2015
年 3 月)
- 110 -
2)環境への配慮:市町村の森林ガバナンスの強化
日本の森林・林業行政上、最前線に位置付けられた市町村の施策レベルの向上が重要
である。例えば、岐阜県郡上市では、郡上市森林づくり推進会議を設置し、地域の森林・
林業関係者の参画を得て、ガバナンス体制を強化している。この背景には、岐阜県から
郡上市にも職員が継続的に出向するなど、県の努力もある点も見逃してはならない。こ
れらの取組の成果として、郡上市への大型製材工場の進出に合わせ、2012 年度に皆伐施
業ガイドラインを策定し、
林業会社 29 社から成る郡上市素材生産技術協議会が設立され、
ガイドラインの遵守を推進している。
図表 4-13
伐採を控える森林
伐採時の注意事項
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
郡上市皆伐ガイドラインの概要
急傾斜地・岩石地等災害の危険性のある森林
標高 1,400m 以上、積雪深 2.5m 以上の森林
水源地の森林
シカ等による食害が想定される森林
環境保全や観光資源として重要な森林
大面積の皆伐は避ける
人工林の伐採地は植林する
伐採区域等を分散させる
保護樹林帯・保存木の配置
天然更新地は母樹を残す
枝条等の適正な処理
植栽・更新を考えた施業/等
(出所)
「郡上市の山づくり∼未来につなぐ豊かで美しい山をめざして∼」
(バイオマス産
業社会ネットワーク主催シンポジウム資料、2015 年 7 月)
3)環境への配慮:LCA 調査の実施
バイオマス発電による LCA 研究の事例は少なく、多様なケースが想定されることから、
今後も事例蓄積が必要である。例えば図表 4-14 は、北海道におけるバイオマス発電の LCA
分析の事例であるが、発電効率が低く、かつ用いるボイラーの種類によっては、特に切り捨
て間伐時の林地残材を利用した場合などで、北海道電力原単位を上回る可能性があることが
示唆されている。このことは、バイオマス発電により、場合によっては温室効果ガスが増加
することを意味しており、今後も事例分析を蓄積していくことが重要である。
- 111 -
図表 4-14 北海道でのバイオマス発電の LCA 分析事例
機械・資材の搬送
チップ輸送
チップ化サイトの造成
チップ化
燃焼
林地残材収集
温室効果ガス排出
北海道電力原単位
発電効率
ボイラー種類
常圧流動床 加圧流動床 流動床以外 常圧流動床 加圧流動床 流動床以外
切捨て間伐時の林地残材利用
主伐時の林地残材利用
(出所)古俣ら「林地残材を用いた発電のライフサイクルアセスメント」
(2013)
(木材学
会誌、Vol.59, No.1, pp22-28)
3.分野共通の基盤的な施策
今回の調査を契機として、必要な統計情報を整備し、バイオマス発電の実態を客観的にモ
ニタリングすること等を行うとともに、
「あり方」の実現に資する研究開発や、ノウハウ・知
識の普及強化を行い、整合的に施策を推進していく必要がある。
ただし、現状では、持続可能なバイオマス発電の「あり方」が必ずしも認知されていない
上、「あり方」を実現するための目標設定の定量化や、更なる施策の精査の必要がある。「あ
り方」を関係者共通の目標とするための対話の場を設けることが重要である。また、木材需
給表(林野庁)の中で「燃料材」が補足されるようになったが、燃料の買取価格等、今後の
動態把握に必要なデータが十分でない状況を鑑み、統計情報の整備について、実施主体や方
法等を検討し、効率的な仕組みを検討する必要がある。
研究開発の推進・支援については、NEDO、森林総合研究所等で一部実施されているが、
ガス化発電やバイオリファイナリーなどが多く、
「収集・運搬」についての項目立てが少ない
のが現状である。実装を視野にニーズに対応した研究開発を、産官学の連携により推進して
いくことで、更なるイノベーションを目指して進めて行く必要がある。
最後に、ノウハウ・知識の普及については、日本木質バイオマス協会等により勉強会や地
域でのセミナーの開催が行われているが、最新動向の共有的な意味合いが強く、課題解決に
結びつくテーマ性を持った研修会は少ないのが現状である。また、森林総合監理士、森林施
- 112 -
業プランナー等森林・林業分野の人材育成が行われているが、バイオマス利用についての知
識・技能の獲得が十分ではない。これらのことから、本調査で整理された「あり方」及びそ
の実現のための方策の普及のためのコンテンツ(テキスト、事例集等)の作成・配布を行う
とともに、対象者に合った適切な研修会を企画・運営していく必要がある。ただし、その際
に、燃料供給側だけではなく、発電所側とも知識やノウハウを共有していく機会や場も必要
である。
図表 4-15 分野共通の基盤的な施策としての取組テーマと施策メニュー
取組テーマ
基盤的な政
策・体制の
強化
研究開発の
推進・支援
ノウハウ・
知識の普及
現状
(実施状況、課題)
・ 持続可能なバイ
オマス発電の「あ
り方」が必ずしも
認知されていな
い
・ 「あり方」を実現
するための目標
設定の定量化や、
更なる施策の精
査が必要
・ 木材需給表(林野
庁)の中で「燃料
材」が補足される
ようになったが、
今後の動態把握
に必要なデータ
が十分でない
・ NEDO、森林総合
研究所等で一部
実施されている
が、ガス化発電や
バイオリファイ
ナリーなどが多
く、
「収集・運搬」
についての項目
立てが少ない
・ 日本木質バイオ
マス協会等によ
り勉強会や地域
でのセミナーの
開催が行われて
いるが、最新動向
の共有的な意味
合いが強く、課題
解決に結びつく
想定される施策メ
実施に向けた課題・留意事
ニュー
項
・ 価 格 目 標 を 含 め た ・ 「あり方」を関係者共
通の目標とするため
「あり方」の精査・
の対話の場が必要
定量化、積み残した
・ 統計情報の整備につ
課題の追加調査等
いて、実施主体や方法
・ 基盤的な統計情報
等を検討し、効率的な
の整備
仕組みを検討する必
・ 統計情報に基づき、
要
バイオマス発電の
実態をモニタリン
グする体制の整備
・ 海外の政策、技術、 ・ 実装を視野に、産官学
市場動向の情報収
の連携をどのように
集・分析
構築し、ニーズに対応
・ 機械・システムの開
した研究開発を推進
発(燃料供給機械、
していくか
サプライチェー
ン・マネジメントの
ための ICT 技術/
等)
・ 本調査で整理され ・ 燃料供給側だけでは
た「あり方」及びそ
なく、発電所側とも知
の実現のための方
識やノウハウを共有
策の普及のための
していく機会や場が
コンテンツ(テキス
必要
ト、事例集等)の作
成・配布
・ 適切な研修会の企
画・運営(テーマ、
- 113 -
テーマ性を持っ
た研修会は少な
い
・ 森林総合監理士、
森林施業プラン
ナー等森林・林業
分野の人材育成
が行われている
が、バイオマス利
用についての知
識・技能の獲得が
十分ではない
対象者、場所等)
(出所)三菱 UFJ リサーチ&コンサルティング作成
- 114 -
第5章 まとめ
持続可能なバイオマス発電のあり方として、バイオマス発電所の規模の大小を問わず、経
済性を基本としつつ、環境や社会への配慮が必要であることが確認された。他方、「あり方」
の実現のための現状と課題として、現状分析の結果、以下の点が指摘された。

短期的には、急増する需要に対し、短期的・局所的に供給が不足する恐れがある。

長期的に考えた場合、①現状の燃料供給コストは高水準にあるが、理論的にはコス
ト低減が可能であること、②発電コスト低減のためには熱電併給が有望であるが、
実現のための課題も多いこと、③我が国では、開発が先行し、環境・社会への配慮
が必ずしも十分ではないこと。
「あり方」の実現のための施策の方向性として、短期的には需給バランスの確保が、長期
的には、発電コストの低減が経済面で必要であり、あわせて環境・社会への配慮が求められ
ると整理された。短期的な需給バランスの確保のためには、需給管理に必要な都道府県等へ
の情報提供やバイオマス需要も見込んだ増産計画を更新するとともに、協議会を活性化させ
るなどして、需給調整メカニズムを高度化していく必要がある。
燃料供給コストの低減には、林業の基盤強化(集約化、人材育成、市町村の体制強化・支
援)を前提に、機械性能の向上や現地チップ化の推進などにより、チップ化コストを下げつ
つも、適切な利益を確保しつつ供給できる体制を構築していくことが重要である。また、コ
スト削減の可能性のある熱電併給の実施を検討していくことも必要である。環境・社会への
配慮については、基礎的な検討が必要な段階のものも多く、着実に進めていく必要がある。
以上を実現するための施策の実行にあたっては、プラットフォームとなる分野共通の基盤
的な施策も重要であり、統計情報を整備するなどして、今後の進捗をモニタリングしながら、
整合性を持って施策を進めていく必要がある。
- 115 -
参考資料
I. 用語集
用語
ウィンチ
皆伐
間伐(材)
切捨間伐(材)
定義
伐採した樹木を作業道もしくは林道まで、集材(引き出す)ために用いる、主に金属製の
ロープもしくは、ロープを巻き取る機械のこと。
森林を構成する林木の一定のまとまりを一度に全部伐採する方法。
林冠が隣り合わせた樹木の葉が互いに接して葉の層が林地を覆ったようになり、うっ閉
(樹冠疎密度が 10 分の 8 以上になること)し、立木間の競争が生じ始めた森林において、
主に目的樹種の一部を伐採すること。
間伐した材木を山林にそのまま放置するなどして、いずれの用途にも利用しないこと
グラップル
林業の現場における集材も目的として製造された自走用機械。油圧ショベル等のアーム
の先端に木材をつかむために装着するもので、集材作業を行う機械のこと。
高位発熱量
燃料の燃焼によって生じた水蒸気を凝縮させる際の潜熱を含めた発熱量のこと。
カスケード利用
木材を建材等の資材として利用した後、ボードや紙等の利用を経て、最終段階では燃料
として利用すること。
森林作業道
目標とする森林づくりのための基盤であり、間伐をはじめとする森林整備、木材の集材・
搬出のため継続的に用いられる道。
森林施業プランナー
森林施業の方針、間伐に必要な経費、木材を販売した際の販売予定価格などを記した
施業提案書を作成し、森林所有者に提示して合意形成できる技術者のこと
施業集約化
複数の森林所有者の森林を取りまとめて一括して森林整備を行うこと
森林経営計画
「森林所有者」又は「森林の経営の委託を受けた者」が、自らが森林の経営を行う一体的
なまとまりのある森林を対象として、森林の施業及び保護について作成する 5 年を 1 期と
する計画。
主伐(材)
更新(伐採跡地(伐採により生じた無立木地)が、再び立木地となること)を伴う伐採であ
り、その方法は皆伐又は択伐によるもの。
素材生産量
素材とは、立木を伐採し、製材や合板等の原料として、幹等を一定の長さに切断した木
材のこと(丸太、原木ともいう)。その生産量を指す。
森林管理・環境保全直接支
払制度
個々の森林施業に対して一律に支援する制度を抜本的に見直して、面的まとまりをもっ
て計画的な森林施業を行う者に直接支援を行う制度。搬出間伐等の森林施業と、これと
一体となった森林作業道の開設、施業集約化の促進に必要となる施業提案書の作成や
森林所有者の合意形成等の活動を支援するもの。
繊維板
木材そのほかの植物繊維を主原料とし、これらをいったん繊維化してから成形した板状
製品の総称。ファイバーボード。
循環流動床(CFB)
燃焼室出口に流動媒体の捕集循環系統(サイクロン)を設置し、流動媒体を循環させな
がら燃焼させるボイラ方式。英語では Circulating fluidized bed という。
ストーカ炉
ストーカと呼ばれる階段状の燃料をのせる装置の上で燃料を移動させながら燃焼させる
ボイラ方式
集材
伐採した樹木を、輸送するトラックに積み込むため、移動させ、集めること。
造材
伐倒した樹木の枝を払い、木材の用途に応じた長さに玉切ること。造材された木材を素
材という。
枝条
伐採した樹木の幹以外の枝や葉の部分。
- 116 -
作業道集材
伐採した樹木を主に造材し、作業道をフォワーダやトラック等の機械を用いて、トラックま
で運搬すること。
スイングヤーダ
主索を用いない簡易索張方式に対応し、かつ作業中に旋回可能なブームを装備する集
材機。建設用ベースマシンに集材用ウィンチを搭載し、アームをタワーとして使用する。
専燃
火力発電所において、単一の燃料を使用すること。複数の燃料を使用することを混焼と
いう。
潜熱
物質の相変化に必要とされる熱量のこと。相変化の際に温度変化を伴わない。
森林総合管理士(フォレス
ター)
森林・林業に関する専門的かつ高度な知識及び技術並びに現場経験を有し、長期的・広
域的な視点に立って地域の森林づくりの全体像を示すとともに、市町村等への技術的支
援を的確に実施する者。
地籍調査
低位発熱量
地域森林計画
「国土調査法」(昭和 26 年法律第 180 号)に基づき、主に市町村が主体となって、一筆ご
との土地の所有者、地番、地目を調査し、境界の位置と面積を測量する調査。
燃料の燃焼によって生じた水蒸気を凝縮させる際の潜熱を含めない発熱量のこと。
都道府県知事が、全国森林計画に即して、民有林について森林計画区(全 158 計画区)
別に 5 年ごとに 10 年を一期としてたてる計画で、都道府県の森林関連施策の方向及び
地域的な特性に応じた森林整備及び保全の目標等を明らかにするとともに、市町村森
林整備計画の策定に当たっての指針となるもの。
タワーヤーダ
簡便に架線集材できる人工支柱を装備した移動可能な集材機。急傾斜地での作業に向
いている。
フォワーダ
短く造材された材を荷台に積載して集材する機械。
パーティクルボード
木材の小片を接着剤により、熱圧成形して製造する、板状の製品。
ボイラー下部から投入した空気で、流動媒体(砂)と燃料を流動化し燃焼させるボイラ方
式。日本後では気泡流動床ともいい、英語では Bubbling fluidized bed という。
総重量をトレーラ(それ自体に原動機を備えず、トラクタなどの他の自動車によって
けん引され、物品などの輸送を目的とする車両)だけで支えるように設計され、先端にけ
ん引具を備えたトレーラ。
バブリング流動床(BFB)
フルトレーラー
フルターンキー
噴流床
バイオリファイナリー
民有林
山土場
利用間伐
林地残材
林業専用道
林道直接集材(全木集材)
FSC 森林認証(制度)
CoC 認証
プラント建設に必要な、土木・建築工事まで含めた一切の資機材と役務を売り手が提供
する契約。
微粉化した燃料を空気とともに投入し、燃焼させるボイラ方式
バイオマスを原料としてバイオ燃料や化学品を生産する技術や産業のこと。
国有林は、国が森林所有者である森林及び国有林野の管理経営に関する法律の規定
による分収林であり、民有林は国有林以外の森林である。
林業作業現場に設けられた造材等作業のための一定以上のスペースのこと。
間伐した材木を、何らかの用途に使用すること。
立木を伐採した後の林地に残されている根株、枝条等。
幹線となる林道を補完し、森林作業道と組み合せて、間伐作業を始めとする森林施業の
用に供する道をいい、普通自動車(10トン積程度のトラック)や大型ホイールタイプフォ
ワーダの輸送能力に応じた規格・構造を有するものをいう。
伐採地では伐倒作業のみを行い、枝葉のついたままで集材すること。
持続可能な経営が行わていることを証明する森林認証の一つ。FSC(Forest
Stewardship Council、森林管理協議会)は、環境 NGO らが中心となり設立された仕組み
で、世界的に最も普及しているものの一つ。
森林認証を取得した森林から生産された木材・木材製品が、森林認証を取得していない
森林から生産されるものと混じらないように適切な分別管理を行っていることについて、
第三者機関が木材・木材製品を取り扱う事業者を評価・認証する仕組み(「CoC」は
「Chain of Custody」の略)。
- 117 -
二次利用未承諾リスト
持続可能なバイオマス発電のあり方に係る調査
報告書
平成27年度新エネルギー等導入促進基礎調査
三菱 UFJ リサーチ&コンサルティング株式会社
頁
図表番号
23
24
28
29
29
30
31
32
図表 2-26
図表 2-27
図表 2-32
図表 2-33
図表 2-34
図表 2-35
図表 2-38
図表 2-39
33 図表 2-40
34 図表 2-43
36 図表 2-42
46
49
49
50
79
79
87
88
88
91
図表 2-58
図表 2-61
図表 2-62
図表 2-64
図表 3-29
図表 3-30
図表 3-40
図表 3-41
図表 3-42
図表 3-44
97 図表 3-49
105 図表 4-6
108 図表 4-9
110 図表 4-11
110 図表 4-12
112 図表 4-14
タイトル
林内路網密度の諸外国との比較
集約化による搬出間伐の拡大
島根県における原木の需給量及び自給率の見通し
北海道の森林資源量と未利用木材発生量
振興局別の林地未利用材発生量分布(2012 年度実績より)
高知県産業振興計画
調査・検討の全体イメージ
長野県における素材生産の事業予定量(平成 26 年度)
大分県における統一様式を利用した伐採届・伐採許可の流
れ(抜粋)
ノースジャパン素材流通協同組合による燃料材の需給調整
の仕組み
高知県木質バイオマスエネルギー利用促進協議会のイメー
ジ図
通常のペレットと半炭化ペレット
日本の製紙バージン原料の推移
日本の紙生産量の推移
チップ価格の推移
林地残材搬出用のフォワーダ
日本に導入された高性能チッパー
世帯当たりのエネルギー消費量(GJ/世帯・年)の国際比較
世帯当たりのエネルギー消費量(GJ/世帯・年)の地域比較
欧州における熱供給システム別の住宅数の割合
信州 F パワープロジェクトの概要
国産と海外産のバイオマスのライフサイクル CO2 排出量の
比較
民有林と国有林の連携による集約化の事例
英国の National Heat Map
下川町における地域に根ざしたバイオマス発電事業のイ
メージ
下川町における FIT 終了後の単年度収支の試算
北海道でのバイオマス発電の LCA 分析事例
- 118 -
Fly UP