Comments
Description
Transcript
中村 達也
2015 年度 芝浦工業大学大学院 修 士 設 計 題目:人と地域をつなぐ建築 - システム思考に基づく建築設計プロセスモデルの構築と実践 - 専 攻 理工学研究科(修士課程) 建設工学専攻 学籍番号 ME14055 ふりがな なかむら たつや 氏 名 中 村 達 也 指導教員 澤 田 英 行 目次 1. 序章 1-1. はじめに 1-2. 研究目的 1-3. 本論の構成 2. 研究背景 2-1. 複雑化した社会における問題解決とは 2-1-1. 統合的・能動的問題解決の重要性 2-1-2. システム思考を可能にする方法論:V-model 2-2. 建築設計プロセスモデル 2-2-1. 建築設計プロセスのブラックボックス化 2-2-2. 建築設計プロセスのモデル化の必要性 2-2-3. 設計プロセスのモデル化に関する先行研究 2-2-4. システム思考を実践する建築設計プロセスモデルの提案 2-3.BIM,B-eIM 2-3-1. 社会における BIM(Building Information Modeling) 2-3-2.B-eIM(Built-environment Information Modeling) とは 2-3-3.B-eIM の実践事例 3. 建築設計プロセスモデルの実践 「人と地域をつなぐ建築」を目指して 4. 終章 参考文献 謝辞 1. 序章 1.序章 1. 序章 1-1. はじめに 建築は単なる人工物であるにとどまらず、人と地域社会をつなぐ接点としての役割を果たすべきものであ る。そして建築設計は、単独の設計者の思考のなかだけで行われるべきものではなく、対象とする敷地境界 線を越え、自然・社会環境に潜在する問題を解決する包括的な行為であらねばならない。 複雑化した社会において建築設計に取り組もうとするわたしたちには、問題を複眼的にとらえる思考力、 全体的な解決を目指そうとする方法論、ときに自身の専門領域を超えて問題解決に取り組もうとする態度が 求められている。 1-2. 研究目的 本研究は、建築設計を問題発見・解決のプロセスであると位置付け、その高度化のためのフレームワーク として、システム思考に基づく「建築設計プロセスモデル」の提案・実践を行うものである。実践においては、 システム工学の方法論をベースに、BIM/ICT ツールをアドホックに活用することで問題解決能力の向上を図 るとともに、実践の結果をもとに、有用な建築設計方法論の提示を試みたい。 1-3. 本論の構成 本論の構成は「1. 序章」、「2. 研究背景」、「3. 建築設計の実践」、「4. 終章」の 4 章から成る。 「2. 研究背景」では、実践の背景となる理念や方法論を取り上げる。 「2-1. システム思考と問題解決」では、現代社会においてシステム思考を導入することの必要性について述べ、 実践のベースとなる方法論であるシステム工学的アプローチを紹介する。 「2-2. 建築設計プロセスモデル」では、建築設計という行為に対する客観的評価が困難であることを説明し たうえで、設計プロセスの可視化を試みた先行研究を参照し、設計プロセスの客観的把握を可能にする独自 の建築設計プロセスモデルを提案する。 「2-3.BIM,B-eIM」では、システム思考を建築設計において実践する方法論として、BIM ならびに B-eIM を 説明する。先行研究を参照しながら、以降の実践のための技術的な環境を準備する。 「3. 建築設計の実践」では、プロセスモデルを活用しながら建築設計を実践する。実践にあたっては、わた しの個人的な経験を起点として、問題発見・解決に至るまでのプロセスを記述していく。実践の対象敷地は、 埼玉県さいたま市大宮区・大宮駅東口商店街である。 「4. 終章」では、3 での実践を踏まえ、プロセスを総括するとともに、提案したプロセスモデルの有用性、 その過程での BIM/ICT ツールがいかに活用されたかを述べ、有用な建築設計方法論の提示を行う。 2 2. 研究背景 2.研究背景 2-1. 複雑化した社会における問題解決とは 解決策 (システムの企画) 要求 (要求 , 要望 , 制約) 2-1-1. 統合的・能動的問題解決の必要性 社会学者のニクラス・ルーマンは、社会は、経済システム、法システム、科学シ ステム、政治システム…などの複数の独立した「機能システム」からなり、これら えば、温暖化や海面上昇に代表される地球環境問題はたんなる自然現象ではなく、 地球上で行われる様々な活動を背景として起こる全体的な現象であり、特定の現象 や主体のみにその原因を帰結することのできない問題であるといえよう。 評価基準 の提供 目標設定 , V&V 計画 複雑化した社会において問題解決に取り組む私たちには、①問題を複眼的にとらえ る思考力(複眼的思考)、②全体的な解決を目指そうとする方法論(統合的問題解決)、 設計案の 妥当性確認 代替案の 検証 設計 高度に複雑化した社会においては、そこで生じる問題も複雑化・多様化する。例 要求分析 ・定義 評価結果の フィードバック ︻ボ 評価︵ 検 ト ムア 証・ 妥当 ッ プ アプ 性確認 ︶ ロ ーチ ︼ 点のみから社会の全体を見通すような視点を持つことは不可能である (1)。 関連 近代以降の社会は高度にシステムの分化が進んだ「機能分化社会」であり、ある一 (1) ゲオルグ・クニール,アルミン・ナ セヒ(1995)『ルーマン 社会システ ム理論』新泉社 ︼ ーチ プロ ンア 握 ダウ 的把 ップ の客観 ︻ト 情報 のシステムが相互に影響を与えあって成立していると述べた。ルーマンによれば、 機能設計 【設計】 問題発見・解決 ③ときに自身の専門領域を超えて問題解決に取り組もうとする態度(能動性)が求 められている。 fig1. 問題解決のためのシンプルなプロセスモデル V-model の5つのフェーズ 【トップダウンアプローチ】 2-1-2. システム思考を実践するための方法論:V-model 1. 要求分析・定義 問題解決の方法は「分析的思考」と「システム思考」によるものの 2 通りに区別 分解(展開)し、分析していく。このプロセスを経ることで、その要求が明確化されていく。 入力情報となる要求を何らかの視点、すなわちプロジェクトの目的やテーマなどに従い、要求を詳細に 2.目標設定、V&V 計画 (検証と妥当性確認の計画) することができるとされる。 1 で詳細化された要求項目を用いて、システムのゴールとなる目標の設定、後半の検証と妥当性確認プ ロセスで利用する評価基準を作成する。 目の前にある問題を個別の要素に分類・分析していき、その要素を変えるこ とで問題の解決を考える従来ながらの方法を「分析的思考」と呼ぶ。そして、 多様な視点から全体を理解し、要素の関係や組み合わせから問題解決を考え (2) 枝廣淳子,内藤耕(2007)『入門! システム思考』講談社現代新書 ,P.31 4.代替案の検証 ここからがボトムアップアプローチに位置づけられる。ここでは、得られた代替案に従って、下位機能 ステム思考」は、問題を構成する要素どうしの関係性を分析し、問題の全体像を把 を実現するために適切な方策であるかを検証し、選択を行う。 握することで問題解決を図る思考の方法論である。 5.設計案の妥当性確認 4 で検証・選択された下位機能の方策を組み合わせ、構造化した機能構造の設計案を、最初に提示した 本論ではシステム思考を、①複眼的思考、②統合的問題解決、③能動性を可能にする 要求項目やシステム化の目標などと比較することで、その妥当性を確認する。 問題解決アプローチであると定義する。 V-model は、関連情報の客観的把握、問題発見・解決、設計、評価のプロセスを 『システム工学 問題発見・解決の方法』では、システム思考をベースにした問題 問題に向き合う際の全体的な視点として「トップダウンアプローチ」と「ボトムアッ プアプローチ」の組み合わせを用意している。V-model は、次の 5 つのフェーズか ら構成される (3)。 要求を解決するための機能構造を求める。また、機能構造を構成する下位機能を実現する方策(アイデア) 【ボトムアップアプローチ】 「分析的思考」は、問題を構成する要素を精密に分析しようとするのに対して、 「シ V-model は、「どのような考え方で解決策を導き、評価をすればよいか」という、 3.機能設計 を複数求める。これが代替案となり、代替案を組み合わせて機能構造を具体化したのが設計案となる。 る方法を「システム思考」と呼ぶ(2) 解決プロセスをモデル化し、「V-model」として提示している(fig.1)。 【設計】 モデル化したものである。このモデルは、いわゆる PDCA(Plan-Do-Check-Action の (3) 井上 雅裕 , 陳 新開 , 長谷川 浩志 (2011)『システム工学 - 問題発見・ 解決の方法』オーム社 ,P.68 一連の流れからなる、生産管理や品質管理を円滑化する方法論の一つ)に則ったプ ロセスを記述したものであり、あらゆる問題解決に対して応用可能な思考のフレー ムワークである。 本論では V-model を、問題解決に取り組もうとする者自身がそのプロセスを記述 することで、プロセスの全体把握を容易にしたり、「気づき」・「発見」をもたらし問 題発見・解決能力を向上する、思考のフレームワークであると位置づける。 4 2.研究背景 2-2. 建築設計プロセスモデル 2-2-1. 建築設計プロセスのブラックボックス化 建築設計は、客観的な意思決定や評価が難しい作業である。ある設計提案が、機 能的な側面から見れば非常に優れた提案であっても、意匠・美学的な側面からみれ ば全く評価に値しない提案である、という事態も珍しくない。その逆の事態もまた 然りである。建築設計は、その規模・工程の複雑さ・関係者の数から言って、あり とあらゆる側面からの評価が可能であり、設計者の数だけ意思決定・評価のバリエー ションが存在するといってもよい。 このように、客観的な意思決定・評価の難しい建築設計の作業では、設計者の勘・ 工期 , コスト , 耐震 , 快適 , スケール感 , 美観 , プロポーション , 設備 , メンテナンス ・・・・・ 直観と呼ばれる能力がおおいに力を発揮する。無数に検討可能性がある設計提案を ひとつのかたちに収束させようとするとき、ありとあらゆる側面からの評価をつぶ さに行っていては、設計者のもつ技量・許容時間を大きく超えてしまう。このよう な場面でも、経験豊かな設計者は、自身の知識・経験則にもとづいた勘や直観によっ て状況を判断し、ひとつの最適な案に到達することができる。これは、建築設計に おける暗黙知の発現のひとつである。 しかしこれは、暗黙裡にはたらく能力であるがゆえに、他者からは設計者の判断・ 評価基準が見えにくいことが多い。設計者の判断は、いわゆる「直観」や「スケール感」 といった、言葉では言い表すことの難しい感覚を基準としているために、設計者の realize best ! 思考はときにブラックボックス化されてしまうことがある。その判断・評価が結果 設計者 的に最良の選択だったとしても、選択基準は言語化しにくい感覚に依拠しているた め「なぜその提案を選んだのか」を、的確に他者へ伝達することは難しい。ときに は設計者自身ですら、その判断・評価の根拠を客観的に示すことができないことも ある。 2-2-2. 建築設計プロセスのモデル化の必要性 why ? ? しかし、建築設計が、ある目的の達成・問題の解決に向けて実行されている以上、 設計者の思考は(他者からはその過程が見えにくく、理解しにくいものであるにせ よ)、その達成・解決に向けた合理的な判断・評価を下しているはずだ。 ならば、設計者が自身の意思決定のプロセスを客観的に認識し、プロセスの全体 像を把握することができれば、その判断・評価はより高度化するだろう。のみならず、 設計者の思考の軌跡や判断・評価を見える化し、他者へ伝達可能な情報へ変換する fig2. 建築設計プロセスのブラックボックス化 非設計者 設計者の思考過程は、非設計者にとっては理解で きないことが多い。 ことができれば、設計プロセスにおける意思決定、合意形成はより円滑化する。そ して第三者に対しても、その建築物のもつ意味・価値の伝達を可能にするだろう。 これらの理由から設計者の思考過程を客観的情報として可視化し、第三者への伝 達を可能にする手法としての「建築設計プロセスモデル」の必要性を主張する。 5 2.研究背景 2-2-3. 設計プロセスのモデル化に関する先行研究 建築設計プロセスのモデル化についての先行研究を参照する。 先行研究 2 以下は、芝浦工業大学澤田研究室において行われた建築設計プロセスモデルの構 荻野克眞『建築設計関係者との協働設計から生まれる建築 築・実践に関する研究である。 -Google Earth を利活用した見沼区役所周辺リニューアルプラン官学連携まちづくり研修 -』 荻野は、建築設計において、メンバーが目標を共有し達成に向かって力を合わせ 先行研究1 て活動する「協働設計」の必要性を提言し、BIM を利活用した協働設計を実践する。 糸長大佑「『チームデザインにおける合意形成の在り方について』 実践にあたっては、実施が前提となって行われたプロジェクト(見沼区役所周辺 -BIM を活用したアルゴリズム的思考による建築設計プロセスの実践と検証 -」 リニューアルプラン)での成果を下敷きにして、プロジェクト関係者(見沼区役所 糸長は、複雑化する現代社会においては、単独の設計者・単一領域の専門家によ 職員・学生)を含むコンソーシアムでの協議を重ねながら、設計プロセスを進行し る取り組みではなく、様々な専門分野が互いの垣根を超えて協調的に問題解決に取 ている。 り組む必要があると述べ、「協業化した設計行為」つまり「チームデザイン」を提唱 このプロセスは「システム思考による問題解決型設計プロセス」に沿って計画・ する。 実践され、最終的にすべての工程が、連続する V-model によって記述されている。 チームデザインでは「建築設計プロセスの見える化」が、チームの合意形成を果 これによって協働設計における BIM ツール・Google Earth の有用性が実証されてい たすための有効な方法論であると、糸長は主張する。設計者の思考の軌跡である建 る。 築設計プロセスの見える化は、ともすれば恣意的と思われがちな設計者の判断(な ぜそのような設計提案に至ったのか)について、判断の根拠となった情報を交えた 経緯の説明を可能にする。 このことから糸長は、設計者自身が説明責任を果たし合意形成を得るための有効 な手段として、独自に定義した「アルゴリズム的思考」による建築設計プロセスモ デルを構築・提示する。 fig3. アルゴリズム的思考に基づく建築設計プロセスモデル fig4. ケーススタディ 糸長が論文中で挙げた「建築設計プロセスの見える化の条件」は、次の 3 つである。 【条件 1】多岐性 : 幅広い案の比較検討が行われているか 【条件 2】記録性 : 設計の更新過程が記録されているか 【条件 3】開示性 : 判断基準となった情報が明確にされているか このプロセスモデルは、設計の進行中にこれらの条件を満たすような一定の手続 きを、あらかじめ定めるものであった。設計者が、このプロセスモデルを意識しな fig5.V-model に沿って記述された設計プロセス がら設計を進行することで、プロセスの全体把握を容易にし、新たな「気付き」、 「発 見」が助長されることを、ケーススタディによって実証している。 6 2.研究背景 2-2-4. システム思考を実践する建築設計プロセスモデルの提案 Phase.0:リサーチ ここまでの先行研究を踏まえて、システム思考を建築設計において実践するためのプ Phase.1:地域環境 Phase.2:生活・活動 Phase.3:物理的性能 Phase.4:施工性 Phase.5:価値向上 output ロセスモデル(以下、プロセスモデル)を提案する(fig.6,7)。 統合技術 input output このプロセスモデルは、V-model の考え方を、建築設計プロセスに援用したものである。 生産技術 input 横軸は時間を表し、建築設計における意思決定のフェーズを階層的に示すことができ 検 討 項 目 る。フェーズを重ねるごとに新たな検討項目が追加され、情報量が増大・意思決定が複 層化・高度化していく過程を示すことができる。 構造設備 空間機能 把握 Phase.1:地域環境 input 評価軸の提供 把握 output 法的制約 この建築設計プロセスモデルは、設計者自身がプロセスを記述しながら設計を進める Phase.0:リサーチ 評価 参照 input output 評価軸の提供 把握 output 評価軸の提供 評価 参照 Phase.2:生活・活動 Phase.3:物 評価 参照 input 把握 評価軸の提供 評価 参照 ことで、自身の思考の客観化・プロセス全体の把握を容易にし、プロセス中における判断・ 周辺環境 評価を高度化するとともに、他者への説明性を向上する思考のフレームワークであると 統合技術 位置づける。 評価軸の提供 把握 参照 評価 要求 時間軸 生産技術 1A 1B 1C 1D 検討案の作成 検 討 項 目 2A 2B 2C 2D 検討案の作成 3A 3B 3C 3D 検討案の作成 4A 4B 4C 4D 検討案の作成 5A 5B 5C 5D 検討案の作成 情報の蓄積・フィードバック 構造設備 input fig6. プロセスモデル output 空間機能 input 前の Phase で作成された案(output) が把握 output 法的制約 Phase が進むと、新たな検討項目が追加される 次の Phase に引き継がれる(input) input 把握 評価軸の提供 評価 参照 周辺環境 評価軸の提供 把握 参照 評価 要求 小さな V が連続し、全体の プロセスを形成する 複数の案が検討され蓄積されていく 1A 1B 2A 2B 1C 1D 2C 2D 検討案の作成 検討案の作成 各 Phase で作成された案は、後の過程でのレファレンスとなる fig7. プロセスモデル(部分) 7 情報の蓄積・フ 2.研究背景 2-3.BIM,B-eIM 2-3-2.B-eIM(Built-environment Information Modeling)とは 2-3-1. 社会における BIM(Building Information Modeling) 芝浦工業大学澤田研究室(2012 年∼ , 以下、澤田研究室)、ならびにその全市で ある衣袋研究室(∼ 2011 年)では、BIM の概念を拡張的に捉え直し、独自に BIM(Building Information Modeling)とは、2 次元の図面から 3 次元の空間を立 B-eIM(Built-environment Information Modeling)を提唱している。 ち上げる従来の設計手法ではなく、コンピュータ上に、実物と同形・同サイズの構 築物を仮想的に建設する設計手法である。BIM では、柱や梁など目に見える構造体 BIM が、一般には生産効率や経済合理性の側面が強調されているのに対して、 だけでなく、鉄骨や空調ダクトなど、壁や天井に隠れてしまう部分までモデル化する。 B-eIM は、設計者の発見・発想メディアとしての側面を重視した概念である。 モデルを構成するオブジェクトにはそれぞれ素材・名称・寸法などの属性が割り当 澤田研究室では B-eIM を「問題解決型プロセスモデルの実践(システム思考)、多 てられ、モデル上で、様々な情報を一元的に管理することが可能となる。 様な事象を包括的にとらえた設計(ホリスティックデザイン)、自らの動機と他の知 BIM の登場は、設計者・施工者・施主間での情報共有を容易にし、建設作業の効 率を飛躍的に向上させた。また、3 次元モデルを構築することで、建物内部/外部 における空気の流れ、建設後の周辺の日照時間の変化など、建物の周辺を含めた環 境を容易にシミュレーションすることが可能になった。(3)(4) 見の協働による創発(コラボレーション)によって、建築を自然・社会環境と一体 (3) 糸長大佑(2012)「『チームデザイ ンにおける合意形成の在り方につい て』-BIM を活用したアルゴリズム的 思考による建築設計プロセスの実践 と検証 -」 (4) 家入龍太(2014)『これだけ! BIM』秀和システム 的にとらえて考える方法」と位置づけている(6)。 本研究でも、発見・発想メディアとしての B-eIM の概念・方法論を踏襲する。 B-eIM は、システム思考による問題解決を建築設計において実践し、設計者の気付き・ 発見を促進する有用な建築設計方法論である。 澤田研究室・衣袋研究室での取り組みを通して、建築設計・都市計画における B-eIM 概念、ならびに BIM ツールを利活用することについての有用性が実証されて いる。ここでは、その取り組みを確認しておこう。 B-eIM は、澤田研究室の前身である衣袋研究室で初めて提唱された。衣袋研究室 における B-eIM の動きは,2009 年度、大学院授業である「建築設計情報特論」で その試みが始まり、修士論文( 櫻井脩「BIM4.0(Built-environment InformationModeling) の定義及び実践 - 大宮駅前商店街でのモデルケース -」,吉田 琢哉「BIM(Built-environment Information Modeling)の実践を経た上での有用性の 証明‐芝浦工業大学大宮校舎における検証‐」で、初めて B-eIM の概念が定義された。 2010 年度の修士論文(7)では、各ソフト間の連携、建築設計や都市計画における fig7. 意匠・構造・設備が統合された BIM モデルのイメージ(5) B-eIM を利用した実践と検証を行い、その有効性と問題点・課題を提示すると共に、 2011 年度の修士論文(8)では、B-eIM の考えをより具体化した設計・提案を行って きた。 澤田研究室に移行してからも B-eIM の概念・方法論は引き継がれ、2012 年度修 士論文では、「チームデザイン」の概念を導入した設計プロセスモデルの構築、ユー ザー・クライアントの要求を設計の上流段階から取り入れる設計プロセスモデルの 実践などが行われた(9)。2013 年度には「協働設計」という言葉が導入され、実施 を前提とした市民ワークショップの開催、非設計者を含む仮想的なコンソーシアム によって行われる建築設計プロセスが実践された(10)。 2014 年度修士研究では、これらの実践をもとにして、システム思考に基づいた建 fig8.BIM モデルから作成される設計ドキュメントのイメージ(5) (5)graphisoft 社ウェブサイト http://www.graphisoft.co.jp/archicad/ archicad/ 築設計プロセスモデルの構築と実践が行われる(11)など、B-eIM の可能性を探求す る研究が継続している。 (6) 澤田英行 , 佐藤康平 , 豊田郁美 , 根 本雅明(2014)「BIM・ICT を活用し たアクティブ・ラーニングの実践― e-Learning システム「Web Learning Studio」による建築設計教育の試み その 3―」第 14 回建築教育シンポジ ウム 建築教育研究論文報告集 (7)2010 年度修士論文 ・中曽万里恵「成熟都市における公共 空地の再考 -Built-environment Information Modeling の実践として -」 ・野口直樹「Built-environment Information Modeling の実践とその有 効性の検証 - 都市型パッシブ建築のモ デル生成 -」 ・梅澤佑介「BIM(Built-environment Information Modeling の実践と有効性 の検証−芝浦工業大学大宮校舎にお ける実践と検証−) 等 (8)2011 年度修士論文 ・成富康朗「建築設計プロセスにおけ る B-eIM 活用研究 -B-eIM による構 築環境の実践と有効性の検証 -」 ・畑瀬紋子「『陰からつくる建築』− B-eIM(Built-environment Information Modeling) を活用した建築設計の実践 −」 等 (9)2012 年度修士論文 ・糸長大佑『「チームデザインにおけ る合意形成の在り方について」-BIM を活用したアルゴリズム的思考によ る建築設計プロセスの実践と検証 -』 ・岩間貴昭「『風情の建築』―大宮区 役所庁舎の建て替え計画における実 践―」 等 (10)2013 年度 ・荒蒔千加良「『協働設計における建 築設計プロセスの在り方について』 −「見沼区役所周辺リニューアル地域 づくりワークショップ」を例とした B-eIM の実践−」 (11)2014 年度修士論文 ・荻野克眞『建築設計関係者との協働 設計プロセスから生まれる建築 -Google Earth を利活用した見沼区役 所周辺リニューアルプラン官学連携 まちづくり研修 -』 ・佐藤康平『「拡張する市民プールの 所作」- 地域住民の声とビッグデータ を利活用した非設計者との協働設計 プロセス -』 ・根本雅章『共生する建築 - 民藝に見 るシステム思考の読解と実践 -』 等 8 2.研究背景 2-3-3.B-eIM の実践事例 実践事例 2 ここで、衣袋研究室ならびに澤田研究室で行われた B-eIM の実践事例をとりあげ ておく。 見沼ドラゴンズ「地相を読む、地歴を編む」 (社)IAI 日本主催の建築設計競技「Build Live Japan 2015」(以下、BLJ2015)に 提出された作品である。このコンペでは、参加チームは BIM/ICT ツールを利用し、 課題公表から 96 時間制限以内に提出することが求められた。 実践事例 1 見沼ドラゴンズ(芝浦工業大学 澤田研究室チーム)は、日照、日影、風、歩行者 中曽万里恵「成熟都市における公共空地の再考 -Built-environment Information Modeling の実践として -」 2010 年、芝浦工業大学大学院修士論文として提出された論文である。 現代の都市における公共空地の計画手法に疑問を投げかけ、再考するとともに、ヒー トアイランド現象の改善を目指す都市計画のケーススタディを行っている。 ケーススタディでは、CFD 解析を用いて、東京都心に流れる「風の道」を可視化し、 建物内部・周辺に良好な環境をもたらす建物の配置・形状を提案している。 からの見え(シークエンス)等のシミュレーションを通して、崖下と建物に挟まれ た「裏」の空間に積極的な意味を見出し、「表と裏」を交錯させる観光ルートの設定 (12) 見沼ドラゴンズ ウェブサイト https://sites.google.com/site/minuma dragons/ と、建築設計提案をおこなった(12)。 複数の BIM ツールを連携したシミュレーション・環境の統合的把握は、その環境 の単なる可視化(ビジュアライゼーション)にとどまらず、その場所の自然・都市 環境のもつポテンシャルを積極的に評価し「価値化」できることを示した提案である。 従来の都市計画は取り上げられることの少なかった「風」を、積極的に評価し取 り入れる公共空地の計画を通じて、BIM ツールを用いたシミュレーションによる、 都市環境のポテンシャルの評価・計画へのフィードバックの有用性を示した研究で ある。 fig10.BIM ツール用いた情報整理・シミュレーションの様子 fig9. シミュレーションによる都市環境の評価とフィードバックの様子 fig11.BIM ツールの連携図 9 3. 建築設計の実践 「人と地域をつなぐ建築」を目指して 3.建築設計の実践:「人と地域をつなぐ建築」を目指して - Phase.0:建築設計のきっかけ 2014 年 5 月、私は大学院の演習授業である「建築・地域プロジェクト特論」のサーヴェイを行っていた。 演習の課題は、さいたま市大宮区・大宮駅東口商店街の修景・修復だった。 サーヴェイの途中、昼時を過ぎたあたりで、大宮駅東口商店街の外れにある中華料理店を訪れた。その中 華料理店は老夫婦が経営しており、客が 5 6 人も座れば満席になるような、ほんとうに小さな店だ。昼食を 食べながら私は、その当時調査していた周辺の再開発事情について、老夫婦に尋ねた。そのうちに話題は大 きく脱線し、かつての商店街の話、この店を開業した当時の話、果ては世間話まで広がったのだった。 そのおよそ 1 年後の 2015 年 6 月、たまたま大宮に用事のあった私は、再びその店を訪れた。数日前、ふ としたきっかけでその店の存在を思い出していたからだ。しかし店に着くと、軒先にかかっているはずの暖 簾が、ガラス戸の向こう側に仕舞われているのに気付いた。半開きになっている戸を開けて中を覗いてみると、 小さな店内に、1 年前と同じように、老夫婦が座っていた。聞いてみれば、2014 年の 10 月頃に主人が体調 を崩して以来、営業を止めているとのことだった。「出来るなら商売を続けたいんだけどねえ。身体が動かな いから…」と主人は言った。 私はこのとき初めて、この老夫婦の実存に触れた気がした。ある時、一人の人間がそこに居を構え事業を 起こし、そして、ある時、止むを得ぬ事情で廃業を選択せざるを得ない、という状況、そこに至るまでの経緯。 「小さな店が潰れる」というありふれた光景の中に埋め込まれた、時間の長さと情報量を想像し、茫漠とした 気持ちになった。 私はこの老夫婦に対して、この店に対して、この地域に対して、どんなことを成し得るのだろうか。 これからそのプロセスを記述していく地域デザインとしての建築設計は、この時の体験を起点として始まっ たものである。 - Phase.1:リサーチ へ向けて わたしが出会った中華料理店(以下、中華料理店 MI)が立つ場所は、大宮駅東口商店街の一角をなすペン ギン通りと呼ばれていることがわかった。 ペンギン通りは、大宮駅を起点として発展してきた駅前商店街と、自然豊かで閑静な緑地帯を形成する氷 川参道のちょうど中間に位置している。古くから経営を続けてきたと思われる商店が多く存在している一方、、 隣接する大門 2 丁目地域では、2019 年ごろの竣工を目処に再開発事業(以下、大門町再開発)が進行してお り、ペンギン通りの多くの商店は近いうちの立ち退きや廃業を余儀なくされている。一部の商店や住宅は既 に立ち退きを行っていたり、立ち退きに備えて廃業した店舗も数多い。ペンギン通りは、大きな変化に直面 しようとしている。 ここでわたしは、中華料理店 MI、そしてペンギン通りをとりまく現状を知るためのリサーチを行うことに した。大宮というまちの性格、再開発の状況などを知ることで、この地域の問題点を把握したい。 11 3.建築設計の実践:「人と地域をつなぐ建築」を目指して - Phase.0:これから実行する設計プロセスの想定 実践に先立ち、これから実行する設計プロセスを次のように想定した。 以下では、このプロセスモデルを指標としながら建築設計を実践し、その実際のプロセスを記述していきたい。 Phase 作業内容 検討項目 Phase.0 取材 店舗経営者の証言 Phase.1 リサーチ・仮説の設定 対象地概要の概要 Phase.2 コンセプト立案 ヒアリング、商いのスタイル分析 Phase.3 ゾーニング検討 自然環境、体験・活動 Phase.4 ボリューム検討 生活・交通動線、景観・周辺建物、規模 Phase.5 プランニング検討 ライフスタイル、将来予測、施工性 Phase.6 妥当性確認 シミュレーション、将来予測 12 3.建築設計の実践:「人と地域をつなぐ建築」を目指して Phase.1 リサーチ 1-1:大宮駅東口商店街について まずは商店街の概要を知るべく、大宮駅東口商店街の概要を調査することにした。 商店街 銀座通り商店街をはじめ、駅前を中心に数多くの商店街が存在する。商店街そのもの の成立は古いが、駅前の商店にはナショナルチェーンの店舗が目立つ。 f また、高島屋や大宮ラクーンなど、大手資本の商業施設も立地する ン ペ e g a. 銀座通り商店街 b. 一番街商店街 大宮小学校 大門町再開発 c. 高島屋大宮店 大宮ラクーン b (旧大宮ロフト) 大宮区役所 a オフィス街 り 通 ン ギ d C 大宮区役所をはじめ、オフィスビルが多く立ち並ぶ。 高島屋 高層マンション開発 N 大宮駅 旧 中 山 道 道 参 川 氷 中央通り以南には比較的規模の大きいビルが多く、オフィス街としての性格も持っている。 氷 川 参 道 西 通 り 線 銀 座 通 り 商 店 街 d. オフィスビルが立ち並ぶ西通り線 住宅街 大門 2 丁目再開発事業 氷川参道沿いに、住宅が立地する。氷川参道以東には、戸建て住宅が多く立地し、古 2017 年の竣工を目標にして、大規模な再開発事業が進行している。駅前に留まりがちな客足を、旧中山道以東にまで伸ばすことをが、再開発の くからの地域住民が生活する一方、参道西側には高層マンションが立ち並び、新規住 目的の一つとされる。現在は、敷地内の建物の立退きが進行中である。 民も増加している。 旧 中 山 道 e. 参道沿いの住宅街 f. 参道沿いの高層マンション g. 移転が進行し、駐車場として暫定利用されている敷地 現在(2015 時点) 旧 中 山 道 再開発後(2017 予定) 13 3.建築設計の実践:「人と地域をつなぐ建築」を目指して Phase.1 リサーチ 1-2:ペンギン通りについて 私が出会った中華料理店が立つペンギン通りについて調査した。 ペンギン通り ペンギン通りとは、中山道から氷川参道まで続く通りの名称である。 通り沿いには、小さな個人商店・戸建て住宅が立ち並んでいる。 一部の店舗は、先に述べた大門町再開発の敷地に含まれている。 氷川 ペンギン通りの用途分類 参道 ペンギン通りにたつ建物の用途分類を分析した。 参道に近づくほど住宅が増加しており、この通りが商店街と住宅街の中間的な性格 を持った地域であることが分かる。同時に、他の地域に比べて、空き地=駐車場(地 図中白)が目立つことも特徴的であると言える。 一の宮通り ギ ン ペ り 通 ン 大宮小学校 中央 通り 大門町再開発 旧中山道 氷川参道西通り線 大門町再開発 氷川 参道 大宮区役所 西通 り線 ペンギン通りは、古くから残る商店が多くある一方で、数年内の大規模再開発によって生じる大きな変化に直面する商店街である。 仮説:商店街の住民が、自分たちで経営を続けていけるような仕組み・環境づくりが必要である 14 3.建築設計の実践:「人と地域をつなぐ建築」を目指して - Phase.1:リサーチ まとめ 作業内容 P1-1. 大宮駅東口商店街について P1-2. ペンギン通りについて 新たに検討された内容 1)商店街全体におけるペンギン通りの位置づけについて 2)ペンギン通りの現状と再開発との関係 気づき・発見 1)ペンギン通りは、古くから残る商店が多くある一方で、数年内の大規模再開発によって生じる大きな変 化に直面する商店街である 決定事項 1)仮説:商店街の住民が、自分たちで経営を続けていけるような仕組み・環境づくりが必要である - Phase.2:コンセプト立案 へ向けて Phase.1. で行ったリサーチでは、主に文献を参照しながら、大宮駅東口商店街の概要や、商店街を取り巻 く再開発の状況が明らかになった。ここからわたしは「住民が、自分たちで経営を続けていけるような仕組み・ 環境づくりが必要である必要な仕組み・環境づくりが必要である」と仮説を設定した。 ここでわたしは、より具体的に、よりリアリティをもって商店街の実情を知りたいと思った。中華料理店 MI の店主夫婦に出会ったときのような生々しい情報に触れなければ、真にこの地域のために必要な仕組み・ デザインは実現できないと思った。 文献や先行研究は、現実の商店街に対しての、いわば二次資料である。一次資料、つまり、商店街そのも のを自分の頭と身体を使って確認し、商店街住民その人の視点・意見を参照する必要性があると考える。 次は、大きく分けて二つのリサーチ(地図の分析とヒアリング)を行い、得られた情報をもとにして、商 店街のための提案のコンセプトを打ち立てたい。 15 3.建築設計の実践:「人と地域をつなぐ建築」を目指して 2-1:古地図から商店街の変遷を分析 - Phase.2:コンセプト立案 ペンギン通りには駐車場として利用されている土地が非常に多い。どのような経緯を経て、駐車場が増加し、いまの街のかたちが成立していったのだろうか。 ここでは、大宮駅東口商店街の古地図(案内図、住宅地図等)の分析を行うことで、商店街の変遷し、ハード(土地、建物、立地)が商店街の変遷とどのように関係し、影響を及ぼしているのかを明らかにしたい。 地図の分析:土地利用の変遷を辿る 戦後以降の住宅地図を観察し、大宮駅東口における土地利用がどのように変化してきたのかを明らかにする。 江戸時代の地図(「中山道分間延絵図) 中山道沿いに宿場町が整備された様子が描かれた巻物に、ペンギン通りと思われる蛇行した 道が描かれている。道には「野道」という文字が付されていることから、中山道という人工 的に作られた道に対して、自然発生的に作られた道だったことがうかがえる。 1990 年代 1970 年代 1990 年代 1980 年代 1960 年代 中山道 約 300 年後 1964 年の地図(地域住民より提供) 1980 年ごろまでは、ペンギン通り沿いに、参道まで続く商店街が存在した 51 年後 1990 年代 1970 年代 オフィスビル 1960 ∼ 70 年代:周辺のデパート(高島屋など)への来客のための駐車場が登場 1970 ∼ 80 年代:駐車場からオフィスビルへ転換 1980 ∼ 90 年代:駐車場からマンションへ転換 2000 年代∼:小さな土地がコインパーキングへ転換 1970 年代 駐車場 高層マンション 商業施設 氷川参道 道 旧中山 商店街は、おおよそ次のように土地利用が変遷してきたことが分かった り線 道西通 氷川参 結果:商店街から駐車場への変容 2015 年の地図に各用途をプロットした地図(筆者作成) ペンギン通りは、江戸時代は「野道」と呼ばれた、自然発生的に生まれた道であることがわかった。 1960 年代以降、駐車場は増加し続けている。駅から遠い、商業的なポテンシャルの低い土地は駐車場になってしまう。 16 3.建築設計の実践:「人と地域をつなぐ建築」を目指して 2-1:古地図から商店街の変遷を分析 - Phase.2:コンセプト立案 考察:商いの変遷:宿場町から商店街へ - 商店街の盛衰と駐車場の増加 大宮駅東口商店街は、次のような段階を経て、いまのかたちにいたったことがわかった。 時代区分 宿場町として栄える ◆中山道開通(1628)をきっかけに宿場町として発展。 年 1591 天正19 近世 幕末にかけて氷川講の観光客でも賑わう。 1628 寛永5 1750~ ◆住民は農民(地主)と商人からなり、特に地主は伝馬 役や本陣の経営などを通して公共交通にも従事した。 1872 英泉『木曽街道 大宮宿 富士遠景』 近代(明治~大正) 停車場の機織りのまち、商店街の形成 (旅籠+農業+伝馬) 宿駅指定 この記述 と思われる。 近現代(~終戦) 大宮市『大宮のむかしといま』より 伝馬制廃止 1885 明治18 大宮停車場 大宮町発足 停車場と機織りの時代 (鉄道+紡織+商業) 大宮工場 上野~大宮間・複線化 1933 関東大震災 昭和8 大宮市発足 1944 昭和19 現代(終戦~) 戦後商店街の形成 1947 昭和22 駅前に闇市形成→氷川参道に移設 現在まで続く商店街の形成 1948 昭和23 ◆終戦直前の川越新道の強制疎開、戦後の闇市の氷川参 道への移転、中央通りの整備などにより、現在の商店街 がほぼ形成される。 1960年台 http://www.e-oomiya.jp/oesm-syouten/ichiban_r ekisi.html 「共和会」結成 銀座通り 大宮中央通り 1960 昭和35 珉珉開店 大一デパート(大一ビル) 1966 昭和41 大宮中央デパート 百貨店の時代 1970年台 大宮西武百貨店(現・ラクーン) 1970 昭和45 百貨店+駐車場+ビル化の時代 大宮高島屋 1982 昭和57 ◆大一ビル(1961)をきっかけにして、百貨店が 1980年台 連続して出店すると同時に、駅周辺から徐々に、 1985 昭和60 1987 昭和62 商店のビル化が進行する。 駅ビル「We」、「PINO(旧OSB)」 1990年台 店(とくに中山道以東の商店街)では、大規模な 駐車場への業態転換が急増する。 2000年台 再開発とマンション建設 ◆闇市の名残であった氷川参道沿いの商店街が移 転し、平成広場が竣工する(1989)。 1991 氷川参道整備事業(平成広場)開始 再開発-マンションの時代へ 1989 平成元 ◆百貨店は車での来店を前提にしており、周辺商 雑居ビル 大宮駅ビル「OSB」 1969 昭和44 百貨店の進出・ビル開発・駐車場の増加 ︖(航空 1962 昭和37 1967 昭和42 これによ 大宮駅前商店の強制疎開 1945 昭和20 になったのち、高層マンションへと転換する。 関東郡代 「氷川講」盛んになる 参拝客で 日本鉄道・上野~熊谷間 1889 明治22 他 (備考) 中山道 1923 大正12 このとき、商業の中心が中山道から駅前に遷移したもの ◆参道沿いの街区は土地が整理され、一旦駐車場 商店街・商業施設 明治5 1895 明治28 ◆交通網の発達により、駅前を中心にして商店街が発展。 中山道+氷川参道の時代 出来事 道路・交通 1884 明治17 1894 明治27 ◆大宮停車場(1885)開設により鉄道交通の要衝となる。 エポック 開通/開業年(元号) 駅ビル「KISS(旧PINO)」 平成広場竣工 平成3 駅ビルが「LUMINE」として再オープン 1998 平成10 大宮西武→ロフトへ業態転換 2001 平成13 さいたま市発足 2003 平成15 政令指定都市(大宮区) 2005 平成17 無人駐車場とルミネの時代 2009 平成21 「エキュート」オープン 銀座通り_アーケード撤去 2013 平成25 ロフト閉店 2014 平成26 ラクーン開店 大宮市『大宮のむかしといま』 より 商店街は時代の変化に合わせて、そのかたちを徐々に変えてきた。 駅ビルの開業と無人駐車場の出現 ◆ルミネが開業し、商業の中心が駅の中へと遷移していく。 ◆商店街では依然として駐車場が増加する。1991 年「タイムズ」の埼玉営業所開店をきっかけ として、無人駐車場が増加する。 商店を経営する地域住民たちは、駐車場経営やテナント経営など、様々なかたちで 商売を続けてきた。 17 3.建築設計の実践:「人と地域をつなぐ建築」を目指して 2-2:商店へのヒアリング - Phase.2:コンセプト立案 商店街の経営者・地域住民は、どのように暮らし、商店街の変化をどのように捉えているのだろうか。その実情を知るために、ペンギン通りを中心に、古くから営業を続けている店舗に対してヒアリングを行った。 ヒアリング概要:次の内容で、8 店舗にヒアリングを行った ヒアリング結果の概要:ヒアリング内容の一部を抜粋する ◆日時:2015 年 7 月 14 日(火)、7 月 30 日(木)、8 月 4 日(火) ガレージ O 経営者 ◆対象エリア:大宮駅東口商店街の商店 「1960 年代、中央デパートが出来た直後に、油の製造・販売に加えて駐車場業を ◆対象者:商店経営者 始めた。百貨店の来客のほとんどは車で大宮にやってきていた。このころから ◆軒数:8 軒 周りに、同じように百貨店の来客に向けて駐車場を経営する商店が増えてきた」 ◆方法:店舗に直接訪問し質問ややり取りを行い、日常生活や実態を知る ◆質問事項:次の質問事項を事前に用意し、店舗を訪問した 土地を持つ経営者は、様々な業態を選択できる ・商店の創業年は?(何年間営業しているか?) ・主な客層は? 布団店 N 経営者 ・副業はあるか? 「昔に比べると、お店の数がかなり減った。チェーン店が増えたので、今やっ ・昔の商店街と比べて、変化したところはあるか?あるとしたら具体的にはどのような点か? ているお店でも、大宮に住みながら商売を続けている人はほとんどいない ・自宅はどこにあるか? だろう」 ・(自宅が大宮にある場合)どこで買い物をすることが多いか? 商売を続ける地域住民の減少 ・ご近所付き合い、商店主同士の付き合いはあるか? 弁当屋 MA 経営者 ◆訪問した店舗は次の 8 店である(下の地図を参照) 2. 弁当屋 MA が多いように思う」 土地を持たない経営者は、開発などのきっかけで商売 り 通 宮 の 一 3. ガレージ O 氷川参道 り線 道西通 氷川参 道 旧中山 通り 銀座 1. 中華料理店 MI 6 「大家(地主)の要請を受けて、店子は立ち退かなければならないケース を止めざるを得ないことがある 4. 生花店 HA 5. 八百屋 Y 6. 煎餅屋 K 八百屋 Y 経営者 7. 履物店 H 7 8. 布団店 N 4 5 2 1 8 ン通り ペンギ 3 「再開発によって近いうちの立ち退きが決まっているが、立ち退くまでは 自分の店で商売を続けたい。長く続けてきた商売を、自分の代で終わら せたくないと思う」 り 中央通 大宮駅 大宮小学校 大宮区役所 ◆ヒアリング結果 次のページから、ヒアリング内容を筆者が書き起こし、整理したものを示す 再開発に直面しながらも大宮の街で商売を続けたいと いう意志 「土地所有の有無」によって、この地で商売を続けられるかどうかが決 まってしまう。土地が商売を続けるためのリソースになっている。 18 3.建築設計の実践:「人と地域をつなぐ建築」を目指して 2-2:商店へのヒアリング - Phase.2:コンセプト立案 ヒアリング結果 中華料理店 MI:道の分岐点に立つ昔ながらの食堂 ヒアリング結果 弁当屋 ヒアリング日時 2015/7/24 午後 本業 中華料理 副業 現在は無し 回答者 おかみさん 年齢 現在の代 創業年 住居(一体/別) MA:オフィスワーカー御用達の昼食処 ヒアリング日時 本業 副業 回答者 70代 年齢 初代 現在の代 1960 創業年 一体 住居(一体/別) 特徴的な客層 主な最寄品購入場所 2015/7/24 午後 弁当販売 おかみさん 2 1965前後 一体 特徴的な客層 マルエツ 自身の商店について 色々な商売をやっていたが、今はこのお店も閉めてしまい、何もやっていない。 経営者夫婦は、店の裏にある住宅に居住している。 主な最寄品購入場所 自身の商店について 創業は昭和 40(1965)年頃(MIよりも少し後だった) 。 息子さんが・・・に住んでおり、同じように自営業をやっている。 街の印象・変化 街の印象・変化 昔に比べると、街の様子はだいぶ変わった印象がある。 昔は駅側に水商売のお店があり、そのお店の人達が住むアパートなどもすぐ近くにあった。 昔は、氷川参道まで続く商店街らしきものがあり、色々なお店があった。八百屋などは、露店も多く出ていた。氷川参道沿いには 闇市の名残だった商店が立ち並んでいたが、平成広場の再開発により、参道沿いのお店はすべて立ち退いてしまった。 西通り線以西は、ビルが出来たりして街の様子がかなり変わったが、こちら(以東)はほとんど街の様子が変わっていないと思う。 西通り線と中山道に挟まれた街区(大門町再開発エリア周辺)は長屋があった。夜のお店(水商売)が多かったという印象がある。 昔(50 年位前?)は、道路はアスファルトではなく、砂利や炭を敷き詰めたようなもの(?)だった。 昔は屋台村があった。昔はお店が多かったが、地主(大家)から要請されて立ち退くケースが多い。 地主はガレージを所有しているという印象がある。(=ガレージを所有している人は地主)。 日常生活について 買い物の場所は少ない。40 年来、隣のマルエツ(スーパー)ですべて日用の食材を購入している。隣にマルエツができて、周辺の 八百屋・魚屋はほとんど潰れた。 (店舗が面する「ペンギン通り」という名前の道路について)かつて「Dr. スランプアラレちゃん」という漫画が流行り、作中に 「ペンギン村」という架空の地名が登場していた。時期から推測するに、これが「ペンギン通り」の由来ではないか?投票で通り の名前を決定していたと思う。 19 3.建築設計の実践:「人と地域をつなぐ建築」を目指して 2-2:商店へのヒアリング - Phase.2:コンセプト立案 ヒアリング結果 ガレージ O:油の製造・販売から転身した駐車場ビジネスの先駆け ヒアリング結果 生花店 ヒアリング日時 本業 HA:3 代続く地域の花屋さん ヒアリング日時 2015/7/24 午後 本業 油販売/駐車場経営 副業 副業 回答者 年齢 現在の代 創業年 住居(一体/別) 特徴的な客層 回答者 ご主人+若旦那 年齢 50︖ 現在の代 3? 創業年 1906 住居(一体/別) 一体 特徴的な客層 中央デパート利用者︖ 80︖ 2 1928 一体 古くからの近隣住民が多い 自身の商店について 自身の商店について うちがガレージを始めたのは東京五輪の頃。地域でガレージを一番早く始めたのはうちだと思う。以来、駐車場を兼業している。 ご主人 主な最寄品購入場所 主な最寄品購入場所 2015/7/30 午後 生花店 お祖父さんの代から商売を始め、今のご主人が 3 代目である。 古くからのご近所付き合いがあり、未だに続いている関係もある。お店に来てくれるのは、古くからの付き合いのある人が多い。 街の印象・変化 街の印象・変化 街が一番大きく変化したのは、中央通りが開通・中央デパートが開業したとき=東京五輪の時だろう。中央通りが開通したことで、 商店街の形はほぼ現在のものになった。中央通りは、戦後、銀座通りから移転してきたお店からなっている。 中央デパートができたことにより、車で買い物に来る人が現れ始めた。 「わざわざ大宮に車で来る」人が現れるようになったという こと。開業当時の中央デパートは「車で来られるデパート」を標榜していた。 昔(明治以前)は氷川参道を中心に発達した。中山道周辺が発達したのは明治時代に鉄道が開通してから。かつて氷川参道にあっ すぐとなりに「東京生命」という会社があったが、それ以前(戦時中?)は国家警察があった。また同様に、現在の「東和銀行」 がある場所は、かつては憲兵の待機所?だった。 このように、警察機関が多くあり、戦時中は兵隊が沢山いたため、空襲の対象になることが多かった。空襲では、機関銃による掃 射が行われ、屋根を貫通してきたこともある。 た商店街は、駅前から移転してきた闇市の名残である。 このエリアで最近あった大きな出来事といえば、20 年ほど前(マンション建設前)に「蓮見邸」 、 「神田邸」の大邸宅がなくなった ことだろう。そもそも、西通り線以東は街にとっての「外れ」である。だから戦後に大邸宅を構える土地の余裕もあった。 旧中山道沿いのいわゆる「短冊地割」は、そのまま土地の所有範囲になっている。逆に言うと、短冊でない地割りの街区は土地の 所有がそれほど明確で無い場合が多い。だから、中山道から外れたエリアは、土地の所有が曖昧で「ここからここまでが私の土地 である」といえるような、いわゆる「地主」は昔から存在しない。 氷川参道以東の、片倉新道-岩槻新道に挟まれたエリアは、新道の整備後に短冊地割りがなされたので整然としていることがわかる。 与野新道に接続する道は「片倉新道」と呼ばれていた。片倉製糸が自社のお金で道路を整備した場所があるから。 岩槻新道(一の宮通り)、片倉新道(与野新道)、どちらもバスの経路であったためにこれだけ栄えたのだと思う。 基本的に、東口は花街だった。駅に近づくほど、置屋・見番などのお店が多かった印象がある。銭湯も多かった。 20 3.建築設計の実践:「人と地域をつなぐ建築」を目指して 2-2:商店へのヒアリング - Phase.2:コンセプト立案 ヒアリング結果 八百屋 Y:1 世紀ちかく続く、立ち退き間近の八百屋 ヒアリング日時 2015/7/30 午後 本業 八百屋 副業 周辺飲食店への配達 回答者 年齢 現在の代 創業年 住居(一体/別) ご主人 70 2?3? 1915? 別 特徴的な客層 主な最寄品購入場所 街の印象・変化 自身の商店について もともとは与野で商売をやっていたが、ある時期から大宮に移ってきた。大宮に来てからも、再開発等のため 2 度の移転をしたの で、今のお店は 4 箇所目の店舗である。かつては「八百源」という名前のお店だった。大宮に来てからは、高島屋の近く→??? →現在の場所、というふうに店舗を変えている。 る人が少なくなったということもあるだろう。 現在の店舗を設計したのは・・・という人で、東大卒の建築士。大宮周辺の都市開発などを手がける人である。 この土地は 30 年ほど前から再開発が予定されているので、近いうちに退去することになる。・・・氏は 、退去することを見越 建築そのものも、かなりお金をかけて建設した。シャッターは銀行に設置するのと同様のスペックを持ち、レンガは態々イギリス 食にたいする認識が変わったのだと思う。近隣のマンションの住民は、八百屋で買い物をして調理する、というような生活をして いない。外食の方が多いのでは。だから、わざわざ八百屋で買い物をすることが無いのだと思う。 して、あえてここに店舗を構えた。一等地なので、莫大な補償がもらえると考えているとのこと。 昔は、通りがかりの人が商品を買って行ってくれることが多かった。今は、そういう人は少なくなった。そもそも、大宮で生活す 鉄道誘致以前の街の中心は、中山道、とくに、現在の大栄橋付近の交差点だった。かつてのリクルートビルがあった辺りである。 ここには「本陣」があったから栄えていた。 から輸入した、1 個 ・・円のものである。これも、不動産価値を高め、退去時の補償を釣り上げるための工夫である。総工費は当 「ペンギン通り」、 「カモメ通り」という名称には特に意味が無い、とガレージOの経営者から聞いている。道に名前をつけるブー ムに乗り遅れ、主だった名称は他の通りで先に付けられてしまったので、適当につけたらしい。 時で ・・超と聞いている。構造もかなり工夫されており、吊り天井、アーチ構造など、当時としてはそれなりに難しい方法を試み 再開発について た。構造の基準をクリアする交渉が難航したとも聞いている。 もともとは、・・・氏のご家族の作品を展示するギャラリーだったが、そこに入居する形で八百屋をはじめた。ギャラリーは、 現在は貸しギャラリーとして、時々営業している。 現在は、飲食店に商品を卸す・配達するほうが、店頭販売よりも比重が大きい。配達に行っている時間のほうが、店頭にいる時間 るのは容易ではない。近くでいうと「・・・・」という会社を経営していた地主の人が、とくに発言力がある。 よりも長い。東口の飲食店 100 店舗、西口で 3 店舗ほどに配達を行っている。配達は注文に応じて 24 時間やっているが、主に 8 ∼17 時の間で行っている。 また、銀行が多いことも再開発を遅滞させている。この辺りは恵まれた立地なので、銀行側も容易には移動してくれないし、再開 発に対しても強い発言力がある。 再開発が実行されたら、今の八百屋の商売は止めるつもり。新しいビルが出来てもテナントとして入るつもりはない。年齢のこと もある。100 年近くやっている店を自分の意志で止めたくないという思いがあるので、再開発までは続ける。 再開発が進まないのは、再開発の方針が地主の意見にそぐわない事が多いからだ。地主はやはり発言力が強いため、これを説得す ヨーロッパには、八百屋は存在しない。中規模のマーケットでの朝市などが、生鮮食料品の入手場所になっている。路上に八百屋 があるというのは、東アジアに特有なのではないか。 ご主人は、・・・氏との縁もあり、都市開発につよい興味を持っている。研究が完成したら見せてほしい。 21 3.建築設計の実践:「人と地域をつなぐ建築」を目指して 2-2:商店へのヒアリング - Phase.2:コンセプト立案 ヒアリング結果 煎餅屋 K:おかみさんのトークがお客さんに懐かしさを感じさせる、氷川参道のシンボル的なお店 ヒアリング日時 本業 2015/7/30 午後 せんべい製造・販売 副業 回答者 おかみさん 年齢 現在の代 創業年 住居(一体/別) 特徴的な客層 主な最寄品購入場所 2 1955? 別 氷川参道の参拝客が多い 駅ナカの伊勢丹、マルエツ 自身の商店について 先代がご商売を始めた。商売自体は 100 年以上続けている。以前は住居一体の店舗だったが、今はご夫婦で片柳に住んでいる。 自分の代でお店を止めるのは嫌だと思う。自分よりも後のことは考えていないが、可能な限りこの場所で商売を継続したい。 参道の鳥居を境にして、雰囲気が全く異なる。この辺りは、普段はとても静かで落ち着いている。温度も、駅前などとは違うので はないか。正月など、参拝客が多い時の人ではすごい。 参道までの道で歩き疲れて、立ち寄ってくれる人も多い。 「なんとなく落ち着く雰囲気」のお店を求める人が多い、ということだろ うと思う。 お店は、もともとは住居だったこともあり、若い人にとっては「田舎に帰ったよう」、「懐かしい」という感覚を覚える場所になっ ている。 ネット等での通販はやっていない。対面で販売することに強いこだわりを持っている。お客さんと一対一で会話することは、デパ ートやナショナルチェーンの店舗ではできないサービスであるから。 街の印象・変化 参道沿いにはなぜか住宅が多い。理由はよくわからない。参道の鳥居を境にして、雰囲気が全く異なる。この辺りは、普段はとて も静かで落ち着いている。温度も、駅前などとは違うのではないか。正月など、参拝客が多い時の人出はすごい。 お店はかなり古い建物なので、大きな地震があったら怖いな、と思っている。先の震災の時も無事だったので問題はないと思うが。 今の大宮には、昔あったような「味」がない。生活の味、といったようなものがなくなってしまい、味気ない。 うちでは、昔ながらの商売の雰囲気、 「味」を変わらずに提供していきたい。商売をやるからには、売るものに責任を持ちたい。だ 鳥居より以南は、平成広場以前は闇市だったので町並みはすっかり変わったが、鳥居以北ではあまり変わっていないとおもう。 から対面で、話し相手になってあげることが大事だと思っている。そうでなかったら、うちの店が続けていく意味は無いと考えて 闇市は、氷川参道の環境を著しく破壊するということで移転になった。参道のケヤキはご神木であるから伐採できず、家の中に樹 いる。 木が立っていた。 埼玉で国体が行われた時、大宮のスタジアム等とともに道路が整備された。 平成広場は公園としては中途半端である。遊ぶ場所も少ない。一時期はホームレスが集まる場所になってしまい、問題になった。 水場があったのだが、お風呂代わりに使われてしまったので、現在は水を抜いている。公園がもっと増えてほしい。近くの子供も 遊ぶ場所がなく、仕方なく平成広場で遊んでいるようである。 参道沿いに高層のマンションが建設されたのは、あまり良いことだと思っていない。マンション以外にもビルが増え、圧迫感が強 くなった。マンションが出来、日陰になってしまったので、せんべいの天日干しが容易にできなくなった。こんな日が来るとは想 岩槻新道は、参道以東も飲食店が多かった。すぐ近くにある「清水園」は、むかしは割烹料理屋だった。 「食の街」といっても過言 でないくらいだったと思う。 専門店が少なくなった。もっと、かつての商店街のように専門店街になってほしい。歩いていて、楽しくなるような街に戻って欲 しい。 最近は、喫茶店などが増えてきた印象がある。マンションが出来たのと同じくらいの時期に、美容室や古着屋が多くなった。これ も、生活感がないのであまり良いことだと思っていない。 一の宮通りの店舗「宮下煎餅」は創業以来 90 年近く営業していたと思うが、つい最近閉店してしまった。 像もしなかったが。 お祭りの時は、お神輿の通過ルートになっている。そのお祭も、昔に比べればかなり味気なくなった。そもそも、お神輿の担ぎ手 日常生活について がいなくなった。いまでは、大宮以外の遠方にいる人たちを「担ぎ手」として招待していると聞く。昔は、行きも帰りもお神輿を 買い物は不便だと思う。基本的に駅ナカまで行かないと、日用品が揃わない。移動が覚束ない老人は苦労することだろう。 人力で移動することが醍醐味だったのだが、今では、帰りはトラックで帰ってしまう。味気ない。 昔は十字屋のようなお店があったので、今ほどに買い物に不便することはなかった。今は、ほとんどがパチンコ屋になってしまっ 先代から、手焼きのせんべいを売りにしている。せんべいは数日に一度、まとめて焼いている。NHK でも 4 回ほど取り上げられて いる。付近の小学生が社会見学でやってくることもある。 客層は、氷川神社への参拝客が多い。子供の時に大宮に住んでいた、久しぶりに大宮へ来た、という人が氷川神社へ来た時に、お 店に立ち寄ってくれる。「このお店はまだ残っていたのか」と驚くとともに、喜んでくれる。子供連れで来てくれる人も多い。 たが。 コンビニで野菜を置く店舗が増えたのも、買い物の場所が減ったから行われている取り組みだと思う。 区役所や図書館が移転するのは、住民としては嬉しくない。バスを増便すればいい、と行政は言うが、それでも老人は移動に苦労 する。バス増便すればいい、と言うのは若い人の独善的な考え方だと思う。 22 3.建築設計の実践:「人と地域をつなぐ建築」を目指して 2-2:商店へのヒアリング - Phase.2:コンセプト立案 ヒアリング結果 履物店 HM:名物おじさんが出迎える、一の宮通りの老舗の履物屋 ヒアリング結果 布団店 ヒアリング日時 本業 N:かつての軒並みを感じられる、戦後すぐから続いてきた布団屋 ヒアリング日時 2015/7/30 午後 本業 履物販売 副業 副業 回答者 年齢 現在の代 創業年 住居(一体/別) 回答者 先代、おかみさん 年齢 80代、50代 現在の代 3? 創業年 1955? 住居(一体/別) 別 おかみさん 70︖ 2? 1945 一体 特徴的な客層 特徴的な客層 主な最寄品購入場所 2015/7/30 午後 ふとん販売 主な最寄品購入場所 駅ナカの伊勢丹、マルエツ 自身の商店について もとは「大橋靴屋」という名前だった。 自身の商店について お店の裏は自宅になっており、ここで住んでいる。 以前は、大門 2 丁目(現在、再開発がかかっているエリア)に自宅があった。 街の印象・変化 街の印象・変化 お店をやっている人も減った。年齢のためにお店を続けるのが難しくなった人がほとんどではないか。 街の様子は、昔に比べると変わったと思う。美容室や古着屋が増えた。 昔に比べるとチェーン店が増えたこともあり、今お店をやっている人は、ほとんど大宮に住んでいないだろう。 このあたり(一宮通り)では「稲沢仏具店」と「宮下煎餅」が一番古いだろう。宮下煎餅はつい先週に閉店してしまったが。 お店をやめて、その子どもたちは勤め人(サラリーマン等)が多い。お祭りの時にお神輿を担ぐ人も少なくなった。 再開発の道路拡幅が進まないのは、キリスト教会があるから。最近、セットバックする算段がついたので、ようやく工事が始まっ た。 かつての一の宮通りはバス通りだった。 近くに「埼玉交通」という、タクシーの会社があった。 ・・・・という人が、このあたりの地主である。「・・・」というお店がある場所が、かつて「・・・・」というお店だった。 ・・・が・・・の土地を買って、ビルを建てた。 氷川参道を超えたところに「新井ヘルメット」という大きな工場がある。世界でも有名なヘルメット工場である。 日常生活について 5 6 年前から美容室が増えた印象がある。 買い物は、以前は中央デパートを利用することが多かった。デパート内にスーパーがあった。今はマルエツや、駅ナカのイセタン に買い物に行く。 日常生活について 隣の「・・・」は、中央通りが拡幅されるのをきっかけにして、ここに移転してきた。 もう一方の隣には、昔はお蕎麦屋さんがあった。作りすぎたおそばを分けてもらうなど、密なご近所付き合いがあった。 マンションが出来てから、いわゆるご近所付き合いは減ったと思う。足りない調味料を分けてもらうなどの付き合いがかつてはあ ったのだが、それもなくなった。今は、顔を見たら挨拶をする程度だ。 23 3.建築設計の実践:「人と地域をつなぐ建築」を目指して 2-3:まちづくりのコンセプト立案 - Phase.2:コンセプト立案 分析・ヒアリングを通して、商店街の変遷や地域住民の声を知ることができた。ここで、Phase.1 での仮説の検証と、問題提起を行いたい。 仮説の検証 まちづくりコンセプト:地域のリソースとなるような土地の利用方法 Phase.1 の仮説 「商店街の住民が、自分たちで経営を続けていけるような仕組み・環境づくりが必要である」 地域住民・商店の減少 ヒアリングや地図の分析から、商店を経営をする地域住民は減少し、駐車場やテナント経営に業態を それぞれの土地や建物が、「駐車場」や「テナントビル」などの単一の用途のみに 利用されるのではなく、地域住民や来街者が様々に利用できる「地域にとっての リソース」となるような公共的な土地利用の方法を目指す 変えている 土地というリソース、土地のポテンシャル 来街者 地域住民 ・土地所有の有無によって、商売の選択肢が異なる。土地を持つ住民は駐車場・テナント経営 など 土地(駐車場)所有者 を行えるが、土地を持たない住民は、選択できる業態が少ない。 ・駅から遠い場所ほど、商業的なポテンシャルが低いため、商売の継続が困難になる 駐車場利用者 開発による立ち退き 提供 商売を続ける意志があっても、開発や地主の意向によって廃業や立ち退きをせざるを得ない場合があ る 土地を所有しない住民/経営者 入居 駐輪場利用者 来客 開発や廃業による立ち退き 結論 ・現在の商店街は、商売の継続したいという意志があっても、土地所有の有無や、土地のポテ ンシャル(駅からの近さ)によって商売を止めざるを得ない状況である。土地が商売継続の 買物・観光客 周辺の経営者・地域住民 利用 ためのリソースとなっている。 ・ペンギン通りは、駅から遠いために商業的なポテンシャルが低く、商店を廃業し駐車場経営 などに転換してきたと思われる。 土地利用のイメージ 一つの土地を敷地境界でとじるのではなく、地域に開き、公共的な使われ方をする 問題提起 ペンギン通りにおける「商売を継続したい」という地域住民の意思を実現するためには次のことが必要である ・「土地所有」にかわる、商売のためのリソース ・土地を駐車場やオフィスビルに転換するやりかたではなく、その地域のポテンシャルを向上す るための建築・まちづくりの仕組み 24 3.建築設計の実践:「人と地域をつなぐ建築」を目指して - Phase.2:コンセプト立案 まとめ 作業内容 P2-1. 地図の分析 P2-2. ヒアリング P2-3. まちづくりコンセプトの立案 検討された内容 ・土地利用のあり方 気づき・発見 1)大きな土地をもつ住民ほど商いのスタイル選択肢(副業・業態転換の可能性)が幅広く、土地をもたな い住民ほど選択肢が狭い ⇒ 駅からの距離、土地の広さが、商売のためのリソースとなっている ⇒ 駅から遠く利用可能性の低い土地は、そのほとんどが駐車場へと転用され続けている 2)住民の多くは「可能な限り、今の場所で商売を続けたい」と考えているが、多くは再開発や高齢化によっ て廃業・立ち退きを余儀なくされている 3)ペンギン通りは、かつて「野道」と呼ばれた、自然発生的に出現した道である 決定事項 それぞれの土地や建物が、「駐車場」や「テナントビル」などの単一の用途のみに利用されるのではなく、地 域住民や来街者が様々に利用できる「地域にとってのリソース」となるような公共的な土地利用の方法を目 指す - Phase.3:ゾーニング へ向けて 駅からどれだけの距離にあるか、どれくらいの広さであるかによって、その土地のポテンシャルが決まる。 駅から近い土地は集客において圧倒的に有利であり、広い面積をもつ土地は大きなテナントビルや立体駐車 場へと転用することが可能だ。ポテンシャルの高い土地の所有者は、その土地をリソースとして、様々な業 態を選択しうる。 駅から遠く、まとまった土地の少ないペンギン通りは、商業的なポテンシャルが低い場所であり、利用可 能性の少ない土地が小さな駐車場へと転用されつづけてきた。 ペンギン通りの住民が、この場所商売を継続していくためには「駅から○○分」や「∼坪」にかわる、こ の土地の強み、すなわちリソースが必要である。 この Phase では、ペンギン通りの自然環境から、この土地のリソースとなりうる要素を探し出したい。発 見したリソースをもとにして、この場所の土地利用をゾーニングしたい。 25 3.建築設計の実践:「人と地域をつなぐ建築」を目指して 3-1:環境解析 - Phase.3:ゾーニング Phase.3 ではゾーニングを行う。ゾーニングに際しては、はじめに環境解析を行い、ペンギン通りの既存環境のもつポテンシャルを明らかにしたい。 日照解析:既存の環境下における終日の日照時間を解析する 風解析:既存の環境下における風の流れを解析する 使用ソフト:AECOsim Building Designer V8i(Bentley) / 使用機能:Solar Analysis> Solar Exposure Calcurator / 設定 … Time Increment:60、Grid Size:5.000、他:デフォルト 使用ソフト:Flow Designer(Advanced Knowledge) / 設定解析メッシュ数:2000000 / 定常解析を使用 / 解析条件:http://www.jjj-design.org/technical/_pdf/11saitama.pdf を参照 夏至、冬至それぞれの日照時間を解析した。 夏・冬の卓越風にもとづき解析を行った。モデルは、2019 年竣工の再開発の建物を含むものである。 駐車場がヴォイドになり、南・東からの風の通り道になっていることが分かった。 また再開発で建設される建物が、強いビル風を発生させることも分かった。 ◆ 夏至(2015/6/21) 建物の上面に日照が集中(赤くなっ ている箇所)し、最大日照時間は 16 ◆ 夏の風 時間である。 解析条件 建物の足元や南側の建物の陰になる ・季節:夏(6 月起居時) 部分では日照時間が短い。とくに、ビ ・風速計高さ [m]:6.5 ・風速 [m/s]:1.9 ・温度 [℃]:22.3 ルの影がおちる駐車場では、6 時間程 ・風向:南・東 度となっている。 日照時間が長い駐車場 駐車場がビルの陰になり、比較的日照時間が短 い、涼しい場所になっている。 風向:東 氷川参道に接する道・駐車場から、西側の 風向:南 駐車場が風の通り道になっている 街区に向かって風が流れ込んでいる ◆ 冬至(2015/12/22) 最大の日照時間はおよそ 9 時間で、 ◆ 冬の風 ビルの陰になる部分では、ほとんど日 解析条件 照が確保されないことが分かった。 ・季節:冬(11 月起居時) いくつかの駐車場では、比較的日照 ・風速計高さ [m]:6.5 ・風速 [m/s]:1.8 ・温度 [℃]:12.1 時間が長く、ビルの陰の中にぽっかり ・風向:北北西 と日向が存在することがわかった。 冬だが、比較的日照時間の長い駐車場 駐車場に、夏の日陰/冬の日向が存在している 比較的日照時間の短い駐車場 再開発の建物によってビル風を生じている 駐車場に、夏の風の通り道が存在している 駐車場となっている場所に、豊かな自然環境が存在することを発見 26 3.建築設計の実践:「人と地域をつなぐ建築」を目指して 3-2:環境解析にもとづくエリア分け - Phase.3:ゾーニング 夏 ペンギン通りで観察された特徴的な人の活動をプロットし、既存の環境をエリア分けする。 日照時間の長短、風、人のふるまいなどを分析することで、場所のポテンシャルをより多角的に分析していく。 A エリア分け:ペンギン通りは、大きく次の 5 つのエリアに分けることができた B C D E A B D E 冬 日照時間︓短い 日照時間︓短い 風︓東風が吹き抜ける 風︓ほとんど吹かない 日照時間︓やや短い 日照時間︓やや長い 風︓南風が吹き抜ける 風︓北風が吹き抜ける 日照時間︓やや短い 日照時間︓長い 風︓南風が吹き抜ける 風︓北風が吹き抜ける 日照時間︓長い 日照時間︓短い 風︓東風が吹き込む 風︓北風が吹き抜ける 日照時間︓長い 日照時間︓参道側は長い 風︓東風が吹き抜ける 風︓弱い北風が吹き抜ける 環境特性 活動 夏涼しく、冬は寒い 地域の食の拠点 夏は涼しく、冬はやや暖かい コインパーキング 夏はやや涼しく、冬は暖かい 専用駐車場 夏は暑く、冬は寒い コインパーキング 夏は暑く、冬は暖かい(特に参道側) 地域住民の専用駐車場 ◆エリア A:夏は涼しく、冬は寒い、食の拠点 ◆エリア D:夏暑く、冬は寒い、東風が吹き込むコインパーキング スーパー、弁当屋や定食屋が立ち並ぶエリア。一日を通して人通り オフィスビルの利用客がよく利用する駐車場。冬はほとんど日陰に が激しく、とくに昼食時には多くの人が立ち並んでいる。 なるが、夏は全く日影ができない。 ◆エリア B:夏涼しく、冬はやや暖かい、風の通るコインパーキング ◆エリア E:夏は暑く、冬は寒い、東風が吹き込む専用駐車場 スーパーの搬出入やオフィスビルへの来客が利用する駐車場。ビル 参道に面する、地域住民専用の駐車場。5 つのエリア中ではもっとも の影が落ちにくく、年間を通じて日照が確保されている。 日照時間が長い。 C ◆エリア C:夏はやや涼しく、冬は暖かい、風の通る専用駐車場 近隣の銀行の専用駐車場。年間を通じて一定の日照時間が確保され ている。 エリア分け S=1:2,000(A3) N 商店・商業施設 公共施設 オフィスビル マンション 戸建て住宅 既存の環境は、5 つにエリア分け出来る 27 3.建築設計の実践:「人と地域をつなぐ建築」を目指して 3-3:ゾーニング方針の決定 - Phase.3:ゾーニング ここまでで、ペンギンどおりに存在する自然環境のポテンシャル、周辺で展開されている人々の活動が明らかになった。 これらの情報をもとに、Phase.2 で決定したまちづくりのコンセプトを実現するためのゾーニングの方針を提示したい。 ゾーニング方針 駐車場の自然環境を、ペンギン通りのリソースとして活用する 駅から遠く面積も小さい、商業的なポテンシャルの低いペンギン通り沿いの土地の多くは駐車場に 夏の風 転換されてしまっている。しかし、その駐車場にこそ、豊かな自然環境が存在している。 氷川 この自然環境こそ「駅から徒歩〇分」、「∼坪」といった価値に代わる、ペンギン通り固有のリソー 参道 スである。 冬の日向 E ゾーニングコンセプト 駐車場に存在する豊かな自然環境をつなぎ、連続させ、 D 大門町再開発から氷川参道に至る「自然の道」道として 冬の日向 夏の日陰 一体的にデザインする それぞれの駐車場を、右図で示す「小さな矢印」のようにつなぎ、連続させることで、大門町再開 冬の日向 夏の日陰 C 発から氷川参道に至るまでの道のりを、心地よい環境が連続する「自然の道」としてデザインする。 B この場所に心地よい、人が誘われる「自然の道」が生まれることによって、ペンギン通りにかつてあっ 夏の風 た、人の活動と賑わいを取り戻すことができると考える。 A 夏の日陰 大門町再開発 夏の日陰(エリア D:8 月ごろ) 冬の日向(エリア E:12 月ごろ) ゾーニングコンセプトのイメージ図 28 3.建築設計の実践 - Phase.3:ゾーニング まとめ 作業内容 P3-1. 環境解析 P3-2. 環境解析に基づくエリア分け P3-3. ゾーニング方針の決定 新たに検討された内容 1)日照時間 2)風通しのある場所/ない場所 3)周辺の建物の用途 4)A E における人のふるまい 気づき・発見 1)環境解析の結果、商業的なポテンシャルが低いとされる駐車場にこそ、豊かな自然環境が潜在している 2)環境・活動の特性ごとに、ペンギン通りは大きく5つのエリア(A E)に分けることが出来る 決定事項 1)駐車場に存在する自然環境を、地域のリソースとして活用する 2)駐車場に存在する豊かな自然環境をつなぎ、連続させ、大門町再開発から氷川参道に至る「自然の道」 として一体的にデザインする - Phase.4:ボリューム へ向けて Phase.3 では、ペンギン通りの駐車場となっている場所にこそ、豊かな自然環境が潜在していることを発見 した。この自然環境こそが、ペンギン通りにおけるリソースである。このリソースを活用することで、ペン ギン通りに、かつてあった人の活動と賑わいを取り戻すことが出来ると考える。 この Phase では、リソースとしての自然環境を活用するための、より具体的な検討としてボリュームスタディ に入っていきたい。ここでわたしは人の「ふるまい」に着目する。この場所を訪れた人たちは、どのように してこの場所に関わり、豊かな自然環境を享受するのか。人と自然環境の係わり合いリアルにイメージする なかで、検討を具体化してきたい。 29 3.建築設計の実践:「人と地域をつなぐ建築」を目指して 4-1:ふるまいをプロットする - Phase.4:ボリューム ペンギン通りの自然環境のポテンシャルを最大に活かすために、自然環境と人の活動=ふるまいの関係性を考えながらボリュームスタディを進めていく。 ふるまいのプロット ふるまい(周辺で行われている人々の活動)が、この場所の自然環境とどのようにかかわっていくべきかを考え、地図上にプロットした。 樹木やボリュームの配置を平面的に考え、既存の環境に加えて新たな環境をつくり、人が駐車場の自然環境に触れるシーンをイメージする。今後はこのプロットをもとに次のスタディを進めていく スーパーに買い物に来た人たちが立ち話をしたり、 情報交換する、夏は涼しく冬は暖かい心地いい公園のような場所 氷川参道からの人の流れ 一 昼下がりに集まれるテラスのような涼しい場所 り 通 宮 の 一宮通りから外れてきた参拝客や、スタジアムからやってきた サッカーファンがちょっと休憩できる涼しい場所 流れ からの人の 一の宮通り オフィスの人たちがちょっと休憩できる木陰の空間 スーパー 冬の日向 夏の日陰 オフィス オフィス 冬の日向 がれ な 人の の から 店街 商 駅前 夏の日陰 夏の日陰 流れ くる人の らやって 住宅街か 参道を散歩している人が 誘い込まれるような、 木漏れ日の心地良い公園 冬の日向 夏の日陰 カフェ 予備校 再開発の商業施設 中央 昼食を求めてやってきた、オフィスワーカーや区役所の人たちが 並ぶ場所。通りがかりの人がちょっと休憩したりもできる場所 周辺で働く人たちが休憩したり井戸端会議をする、ひっそりとした広場のような場所 人 からの ィス街 オフ 通り、 の流れ カフェの客がテラスで食事 を楽しめる木漏れ日の心地 よい参道の広場 となりのお店が露店を出したりできる、夏でも涼しい広場 放課後の専門学校生や予備校の生徒が、授業の合間に息抜きできる、日当たりのいい広場 30 3.建築設計の実践:「人と地域をつなぐ建築」を目指して 4-2:ゾーニングの立体化 - Phase.4:ボリューム ふるまいのプロットをもとにして、ゾーニングを立体化していく。 3D モデリング、スケッチを往復しながらゾーニングを立体化し、場所の自然環境を最大限に活かす設計手法を 3 案スタディした。 ◆ P4-A:立体的なデッキによって、参道まで続く道をつくる 道沿いに建つ建物を 2 階レベルのデッキがつなぎ、参道まで至る道を形成する 配置イメージ:デッキが道沿いに延びてそれぞれの場所をつなぐ 31 3.建築設計の実践:「人と地域をつなぐ建築」を目指して 4-2:ゾーニングの立体化 - Phase.4:ボリューム ◆ P4-B:斜面と高低差によって、連続的なランドスケープをつくる 配置イメージ:丘のような斜面が駐車場に伸び、通り全体を一体化的にランドスケープ化する 丘のような斜面・その上に立つ店舗が、人を駐車場にある自然環境へと誘う 斜面による連続的なシークエンス 32 3.建築設計の実践:「人と地域をつなぐ建築」を目指して 4-2:ゾーニングの立体化 - Phase.4:ボリューム ◆ P4-C:ボリュームの立体的に組み合わせ、連続的に配置する 配置イメージ:ボリュームがそれぞれ隣り合う場所とつながりあい、通りを一体化する イメージスケッチ:ボリュームがずれながら重なり合い、周辺の環境を取り込む ボリュームのズレがピロティやテラスを生み出し、環境をつくる装置になる 33 3.建築設計の実践:「人と地域をつなぐ建築」を目指して 4-3:ボリュームスタディの手法を決定 - Phase.4:ボリューム 3 案を比較検討し、ゾーニングのコンセプトにもっと適しているものを選ぶ ◆ P4-A:立体的なデッキによって、参道まで続く道をつくる ・参道沿いの道すべてにデッキを張り巡らせる必然性が薄い ・バリアフリーの観点からも、上階に人を上がらせなければいけない計画は難しい ・デッキが、雨の日にはコリドーになるという点は良い。いろいろな場面を想像できる ・デッキが日陰をつくりだすなどの効果があれば良いが、冬にはかえって日陰をつくってしまいそう ◆ P4-B:斜面と高低差によって、連続的なランドスケープをつくる ・芝生の丘のような場所があるのは心地よさそう ・丘をつくるのも、P4-A と同様、バリアフリーの観点からは望ましくないのでは ・敷地に対して、丘というものがあまりにもマッシブすぎるのではないか ・丘が自然環境とどのようにかかわるのかが不明瞭である ◆ P4-C:ボリュームの立体的に組み合わせ、連続的に配置する ・ボリュームの組み合わせにバリエーションを持たせれば、敷地に対応して様々な環境を作り出すことが出来 そうである ・道路の舗装、テクスチャなども併せて考えやすい方法である ・どのようにボリュームを組み合わせるのか、もっと法則性を明確にしたほうがいい P4-C をボリュームスタディの手法として選択する ボリュームを組み合わせるという単純なルールで、ピロティやデッキなどが生まれ、様々な環境を作り出すことができると考える。 ペンギン通りの、それぞの場所の自然環境に応じて組み合わせを変え、多様な環境を生み出す装置となることを期待する。 34 3.建築設計の実践:「人と地域をつなぐ建築」を目指して 4-3:ボリュームスタディの手法を決定 - Phase.4:ボリューム ボリュームを立体的に組み合わせて空間を構成することで、外部環境を取り込みながら、ペンギン通りを一体的な環境として構成できると考える。 以降は、この方法を用いてさらにボリュームスタディを高度化していく。 E を流す からの風 D 中央通り り 通 ン ギ ン ペ C エリア C のボリューム:中央通りとペンギン通りをつなぐ B A P4-C で作成したボリュームの全体像 ペンギン通り ピロティがつくる 大門町再開発 夏の日陰に人が誘 われる エリア A のボリューム:ピロティで日陰を作り、人をいざなう エリア B のボリューム:樹木とピロティの日陰が連続し人をいざなう 35 3.建築設計の実践:「人と地域をつなぐ建築」を目指して 4-3:ボリュームスタディの手法を決定 - Phase.4:ボリューム ギ ン ペ り 通 ン エリア D のボリューム:参道へ続くシークエンスを演出する り ン通 ギ ペン 氷川参道 エリア E のボリューム:参道の緑を取り込む 36 3.建築設計の実践:「人と地域をつなぐ建築」を目指して - Phase.4:ボリューム まとめ 作業内容 P4-1. ふるまいをプロットする P4-2. ゾーニングの立体化 P4-3. ボリュームスタディの手法を決定 検討された内容 1)駐車場の自然環境と人のふるまいとの関係 2)ボリュームを置いたときにできる自然環境の変化 3)参道までのシークエンス・体験 4)ランドスケープ(樹木・道路・建物の関係) 気づき・発見 1)ボリュームを組み合わせたときに出来るピロティで、様々な環境を作ることが出来る 2)建築物だけではなく、樹木や道路のテクスチャの変化も、視線や活動を誘導する要素になり得る 決定事項 1)ボリュームを立体的に組み合わせ連続的に配置することで、参道までの道のりをデザインする 2)樹木、道路の舗装を考慮しながら、一体的なランドスケープとして建築をデザインする - Phase.5:ボリューム 2 へ向けて Phase.4 では、それぞれの場所に具体的な人の活動(ふるまい)をプロットしたことによって、空間・環境 のもつべき質をクリアーにイメージすることが出来た。 ボリュームの立体的な組み合わせによって、参道まで続く空間を構成することを決定した。ボリューム一 つ一つがつくりだす環境はとても小さいが、立体的な陰影・環境が連なることで、ペンギン通りにある一定 の質を形成することが出来ると考える。 次の Phase では、ここで見いだした形式をより発展・具体化させるために、この形式の妥当性を確認しながら、 もう一度ボリュームスタディを繰り返したい。 37 3.建築設計の実践:「人と地域をつなぐ建築」を目指して 5-1:ボリュームモデルの解析 - Phase.5:ボリューム 2 Phase.4 で作成したボリュームモデル P4-C における日照解析し、モデルが置かれたときに、その場所にどのような環境を作り出すかを検証する 日照解析:モデル P4-C における日照時間を解析する(解析条件は 3-1 と同様) 夏至 冬至 意図した通り、夏はピロティに涼しい空間が生まれている 参道側の環境に注目 樹木モデルを配置し解析 建物の北側に配置した樹木モデルの上部に日照が 集中していることを発見 フィードバック:北側にある日照を取り込むデザインを考える 冬至 12 時の日影 夏至 12 時の日影 日照を取り入れる屋根形状を発見 冬至 12 時の日照を確認したところ、建物の北側上面に日照が 確保されていることが分かった。 一定の勾配を持った屋根によって、冬至の日照を取り込み、夏至の日照を遮ることができることを発見した 38 3.建築設計の実践:「人と地域をつなぐ建築」を目指して 5-2:プロトタイプの決定 - Phase.5:ボリューム 2 解析結果とそのフィードバックを踏まえ、環境に最適化したボリュームの形式を決定する。 ボリュームプロトタイプ:冬の日差しを取り込み、夏の日差しを遮るボリュームの形式 夏の 日差 し を遮 る を 差し 風を の か 参道 ら ピロティの連続 参道 か らの 緑 を連 続 させ る 流す 日 冬の 隣接 する 敷地 ・建 物と の連 続 N 冬でも日当たりの良い場所 :建築を敷地境界で閉じず、 多くの人が利用できる 公共的なスペースを確保する れる 入 取り 勾配が約 30°の屋根によって、ボリュームの屋上に、夏の日差しを遮り日陰を作り、冬の日差しを取り入れ日向をつくることができるとわかった ボリュームの組み合わせ+約 30°勾配の屋根によって、ペンギン通りの自然環境を最大限に取り入れる建築をつくる 39 3.建築設計の実践:「人と地域をつなぐ建築」を目指して 5-3:ユーザーの想定を具体化 - Phase.5:ボリューム 2 ボリュームをさらに具体化するにあたって、この場所を訪れるユーザーを具体的に想定し、それぞれの場所で行われるふるまいをより明快にイメージする必要があると考えた。 ユーザーの想定を具体化:ペンギン通りの周辺に存在している、この建築提案のユーザーとなりうるであろう人物像を具体化する 商店主:ペンギン通りで商店を経営 オフィスワーカー:ペンギン通りの近傍のオフィスで働く 予備校生:近くの予備校に通う受験生 地域住民(小学生の母親):近くのマンションに住む住人 引退した商店主:隠居し、古株の地域住民として悠々自適の日々を送る アルディージャファン:大宮アルディージャの応援で、大宮を訪れる 新規ビジネスマン:新たに大宮でビジネスを始めようとする起業家 ユーザーのふるまいを想定:具体化したユーザー像をもとに、各ユーザーがそれぞれの場所でどのように活動するかを具体的にイメージする 想定する環境:ユーザーが訪れる空間を想定する a:夏の日陰ができるお弁当屋さん b:スーパーに隣接するコーヒーショップ c:昼に人が集まる広場 i h g d:ちょっと奥まったところにあるピロティ空間 e e:予備校に隣接する広場 f f:オフィスに隣接する木陰の空間 e g:森の中で会議や勉強ができるスペース d h:参道の木陰の広場 c 想定されたふるまいをもとにして b 設計する空間を詳細化していく a 40 3.建築設計の実践:「人と地域をつなぐ建築」を目指して 5-3:ユーザーの想定を具体化 - Phase.5:ボリューム 2 ユーザーのふるまいを想定:具体化したユーザー像をもとに、各ユーザーがそれぞれの場所でどのように活動するかを、タイムラインでイメージする 商店主 5:00 オフィスワーカー 場所 予備校生 場所 地域住民(小学生の母親) 引退した商店主 場所 場所 アルディージャファン 起床 参道を散歩する 7:00 コーヒーを買う ご近所さんと雑談 お店で仕込みを始める dD aA 大宮駅へ到着 コーヒーを購入 出社 ご近所さんと雑談する bB 9:00 大宮駅に到着 お茶とお菓子を購入する 登校-授業 11:00 営業開始 12:00 お店の来客がピーク 森の中で自習する aA 弁当屋さんで昼食を購入 木陰で昼食をとる 13:00 15:00 お腹いっぱいでベンチで昼寝する 昼休憩 木陰で本を読みながらのんびりする cC gG お茶請け用にパン屋でお菓子を購入 森の中でお客さんとミーティング aA cC D d H h G g パン屋で昼食のパンを購入 木陰で昼食をとる 学校に戻る-授業 学校のテラスで一休み 森の図書館で本を立ち読みする 18:00 スーパーで自宅の夕食の食材を購入 g G H h 事務所に行ってビジネスマンの相談をうける eE 仕事を始める 広場の露店でパンの売り子をする H h カフェで昼食をとる iI 来客といっしょにカフェで昼食 iI 仕事をさぼって図書館で本を読む G g お茶菓子としてパンを買う H h 夕食を買いにスーパーへ行く B b 仕事を終えて飲みに行く eE 終電がなくなった友達を家に泊めてあげる fF 参道沿いを散歩する パート終了 森の中の図書館に顔を出す iI gG 大宮駅に到着 途中の木陰で休憩 NACK5スタジアムで試合を観戦 B b 事務所で商店会の会議 eE 試合が終わって帰路につく サポーター仲間と一緒に飲みにいく 19:00 仕事終了 屋台でお酒を飲む 20:00 21:00 飲み会の様子を覗く eE eE fF 放課後の子供と行き会って帰宅 スーパーで夕食の食材を購入 bB B b D d fF パートへ出かける g eE b dD 木陰で朝食をとる G H h G g eE 起床 B 朝食を買いに行く カフェで友達とお茶をする 16:00 17:00 いったん帰宅する B b D 10:00 14:00 場所 起床 6:00 8:00 新規ビジネスマン 場所 会議が終わってみんなで飲みに行く eE eE 22:00 23:00 0:00 1:00 2:00 3:00 4:00 41 3.建築設計の実践:「人と地域をつなぐ建築」を目指して - Phase.5:ボリューム 2 まとめ 作業内容 P.5-1:ボリュームモデルの解析 P.5-2:プロトタイプの決定 P.5-3:ユーザーの想定を具体化 検討された内容 1)季節毎の日照・日影の変化 2)環境(日照・日影・通風)をつくりだす装置としてのボリューム形状 3)具体的なユーザー像と時間毎のふるまいの変化 気づき・発見 1)およそ 30°の勾配の屋根で、夏は日影、冬は日向を作ることができる 2)ユーザー想定の具体化から、建築がつくりだすべき環境が明確化された 決定事項 1)夏の日影・冬の日向をつくる屋根の形状とボリュームの組み合わせで建築をデザインする 2)ボリュームの配置・形状は、環境解析の結果をもとに導きだす 3)想定したユーザーのふるまいを可能にするような環境をつくりだす - Phase.6:ボリューム 3 へ向けて Phase.5 で、ようやく建築の骨格が決定した。Phase.4 で発見した「立体的なボリュームの組み合わせ」と いう形式に加えて、Phase.5 では「およそ 30°の勾配をもつ屋根」という形式を発見することが出来た。こ れらの形式がペンギン通りのもつ自然環境のポテンシャルを最大化し、人とペンギン通りとをつなぐ装置を つくりだすだろう。 ここでいよいよ、建築の内部空間と外部空間のつながりを考えていけそうな段階に来たと考える。この Phase では、見いだした形式をより徹底していくための検討を行いたい。 42 3.建築設計の実践:「人と地域をつなぐ建築」を目指して 6-1:日影の可視化 , 6-2:ボリュームスタディ - Phase.6:ボリューム 3 ここでは、最適な日影/日照の環境を作り出すためのスタディをより精緻にするために、A E のエリアごとに日影の形状を可視化し、精度を上げたボリュームスタディを行う(※A E の区分は、Phase.3 でのエリア分けに従う)。 日影の可視化:既存の環境化において形成される日影のかたちをボリュームによって表示する。 使用ソフト:AECOsim Building Designer V8i(Bentley) / 使用機能:Solar Analysis> Shadowgenerator / 設定:デフォルト ◆ P6-A:時間帯の日影のかたち 夏至(6/21) 7:00 12:00 大門町再開発 before 冬至(12/22) 9:00 10:00 大門町再開発 夏の暑い日差しが集中している 全体が日陰になる 夏至(6/21) 12:00 16:00 冬至(12/22) 10:00 11:00 ペ 既存店舗 ン ギ ン 大門町再開発 り 通 (喫茶店) 大門町再開発 大門町再開発 冬の 日差 しを 取り 夏の暑い日差しが集中している 昼の時間帯は日当りが良い 入れ 上階マンション る 冬至(12/22) 11:00 12:00 スーパー 大門町再開発 昼の時間帯は日当りが良い 夏の日陰 冬至(12/22) 13:00 大門町再開発 通り抜けのピロティ 大門町再開発、商店街からの入り口となるお弁当屋さん 全体が日陰になる 大門町再開発からやってきた人たちが、日陰や日向気付き、参道側へと引き込まれていく 43 3.建築設計の実践:「人と地域をつなぐ建築」を目指して 6-1:日影の可視化 , 6-2:ボリュームスタディ - Phase.6:ボリューム 3 before ◆ P6-C:時間帯の日影のかたち 冬至の午前中には陽だまりができる 冬至(12/22)8:00 9:00 冬至(12/22)9:00 10:00 ペン 冬至(12/22)10:00 11:00 ギン 通り 冬至(12/22)11:00 12:00 オフィス オフィス 夏至の午後は大きく日陰ができる 夏至(6/21)9:00 12:00 夏至(6/21)12:00 16:00 冬の日 夏の日陰 中央 差しを 通り 取り入 れる 予備校 予備校の学生やや大宮小学校の児童たちが放課後に集まる広場。 冬は日向、夏は日陰になる広場に面し、子供たちの憩いの場となる。 44 3.建築設計の実践:「人と地域をつなぐ建築」を目指して 6-1:日影の可視化 , 6-2:ボリュームスタディ - Phase.6:ボリューム 3 ◆ P6-D:時間帯の日影のかたち 日向が移動しながら、一日中日光が差し込む ◆ P6-D:風の検証 北風を検証したところ、屋根伝いに 北風が逃げていることが分かった 冬至(12/22)11:00 12:00 移動する日向を享受するデッキを持つ地域住民のための住宅群 奥まった場所に日向を確保し、訪れた人たちを奥へと誘う 冬の北風が屋根に反射 冬至(12/22)11:00 13:00 一日中日向になるレベル 午後の日向 午前中からお昼の日向 日差 冬の れる り入 取 しを 冬至(12/22)13:00 14:00 ン ペ り 通 ン ギ 45 3.建築設計の実践:「人と地域をつなぐ建築」を目指して 6-1:日影の可視化 , 6-2:ボリュームスタディ - Phase.6:ボリューム 3 ◆ P6-E:時間帯の日影のかたち 冬至では、一日かけて日向が移動していることがわかった 冬至(12/22) 10:00 11:00 冬至(12/22) 11:00 12:00 冬至(12/22) 12:00 13:00 冬至(12/22) 13:00 14:00 冬至(12/22) 14:00 15:00 移動する日向を享受するデッキ り 通 ン ギ ン ペ 冬至(12/22) 9:00 10:00 通り 人 らの か 参道 参道からの人通りを引き込む広場をもつ住宅や店舗群 一日をかけて移動する日向を享受するデッキを併設し、参道まで人を引き込む 46 3.建築設計の実践:「人と地域をつなぐ建築」を目指して 6-1:日影の可視化 , 6-2:ボリュームスタディ 6-1:日影の可視化 , 6-2:ボリューム - Phase.6:ボリューム 3 - Phase.6:ボリューム 3 A E までのボリュームを統合し、それぞれのエリア同士のつながりや、計画全体の妥当性を確認する。 ボリュームの統合 P6-A P6-B P6-C P6-D P6-E P6-B のみ、ボリュームの配置に積極的な意味が見出させていない。 ペンギン通りからの人を引き込むようなスロープを配置したが、具体的な空間がイメージできず、他のエ リアとうまく統合されなかった。 P6-B の場所の持つべき意味を再考し、スタディをやり直す 検証結果 A,C,D,E においては、夏に日影をつくり、冬に日向を作ることに成功した。また、ピロティの連続によってそれぞれのボリュームをつなげ、人が街区の奥にまで誘い込まれる配置になったと考える。 しかし B においては、ボリュームの形状・配置に積極的な意味が見いだせず、計画の密度が他のエリア(A D)よりも疎になってしまった印象を受けた。 B はこの計画においては、大門町再開発とペンギン通り - 氷川参道の結節点となるべき場所であり、中央通り・一の宮通りからも人がやってくる、この地域全体における「分水嶺」とも呼ぶべき場所である。 そこで、B のボリュームを再考し、計画全体に適した案をスタディすべきと考えた。 47 ディ 3.建築設計の実践:「人と地域をつなぐ建築」を目指して 6-3:ボリュームスタディ(B のやり直し) - Phase.6:ボリューム 3 B のボリュームスタディをやり直す。 B は、大門町再開発 - 氷川参道の結節点であり、一の宮通り・中央通りからも人が訪れる、大宮駅東口地域全体の分水嶺となるべき場所である。 スタディの視点をより広範囲にひろげ、この計画全体のなかでの最適な B のあり方を再考する。 る 大宮東口全体における B の位置づけとゾーニング・ボリュームの再考 せ 遊さ 回 人を 計画の視点を広範囲にうつし、大宮駅東口全体を見据えてゾーニングをやり直す。 ミニショップ 人 を 回 遊 さ り 通 ギン せ る ミニショップ ペン ミニショップ 三角形の敷地を、大宮東口全体で見た時の拠点広場であり、様々な場所から 訪れる人を周辺に回遊させる分水嶺のような場所であると位置づける。 運営のイメージ 新たなプログラム考案:「広場」と「ミニショップ」による集客 この場所を、大宮東口全体に置ける「広場」と位置づけ、この広場の中に「ミニショッ プ」を設置する。「広場」は、イベントや露店販売のできるオープンなスペースとなり、 この場所を訪れる人たちにとっての憩い、賑わいを創出するきっかけを提供する場にな る。 「ミニショップ」とは、大宮駅東口商店街で営業する店舗の「出張営業所」、店舗改装 や建て替えを行っている店舗が一時的に営業する「仮店舗」、これから商売をはじめよう とする人たちが期間を限定して試験的に営業を行う「チャレンジショップ」となる場所 である。 Phase.6 での決定案とする 48 3.建築設計の実践:「人と地域をつなぐ建築」を目指して - Phase.6:ボリューム3 まとめ 作業内容 P6-1:日影の可視化 P6-2:ボリュームスタディ P6-3:ボリュームスタディ(B のやり直し) 検討された内容 1)時間帯ごとの日影・日向の位置と形状 2)冬に最大の日照を得るためのボリュームと屋根の配置・形状 3)より広域スケールでみたときの、この計画の意義・目的 4)広場としてのデザイン(B) 気づき・発見 1)日向・日影の位置と形状は時間によって変化しながら、それぞれの場所の環境をつくり出している 2)屋根は、風を制御する装置にもなりうる 2)B は、大宮東口地域全体にとっての「分水嶺」であり、多くの人がこの場所を訪れる動機を作り出す場所 になり得る 決定事項 1)ボリュームの形状 2)人の動き・居場所をつくり出すための外構計画(道路のテクスチャ、樹木のサイズ・配置) 3)ボリュームの内外で行われる活動(プログラム) 4)広場・ミニショップとして B をデザインする - Phase.7:プランニング へ向けて Phase.6 は、ここまででもっとも難しいスタディだったと感じられた。 B という場所は、そもそもわたしがこの場所に興味をもつきっかけとなった場所(中華料理店 MI)であった。 場所に対する思い入れが強い分、つくるべき空間の質を決めるのは難しかった。「この場所に何をつくり、ど う位置づけるべきか?」ということは、わたしが解決するべき課題の中で最重要の事項だったのかもしれない。 試行錯誤の結果、B という場所は、この計画の中でも非常に特異な質をもつ場所になったのではないだろう か。それぞれの空間のもつべき質と、質を作る方法はおおよそ決定した。あとは、どれくらい妥当な形態を 導きだせるかどうかにかかっているだろう。 49 3.建築設計の実践:「人と地域をつなぐ建築」を目指して - Phase.7:プランニング 7-1:シークエンスの確認 7-2:環境解析 Phase.6 で決定したボリュームに従ってプランニングを行った。 成果物をレンダリングソフト Lumion にてシークエンス確認、日照解析による検証を行った。 シークエンス確認 シークエンス確認 日照解析の結果からも、屋根の日照時間が長く、 大きな蓄熱と激しい照り返しをしてしまうことが分かった。 屋根の照り返しが激しい箇所の屋根仕上げを木材に変更し 夏至の時の照り返しや反射を抑える 50 3.建築設計の実践:「人と地域をつなぐ建築」を目指して 7-3:シークエンス確認 - Phase.7:プランニング 屋根のマテリアルの変更を行い、もう一度シークエンスの確認を行う。 ⑪ ② ⑦ ① 通り ン ギ ペン ⑩ ⑩ ⑤ ⑧ ⑥ ④ 道 氷川参 大門町再開発 ⑨ ③ 鳥瞰(配置を示す) 51 3.建築設計の実践:「人と地域をつなぐ建築」を目指して ① 7-3:シークエンス確認 - Phase.7:プランニング 夏は涼しい風が吹き、日陰を作り出すピロティ し 風 夏の 差 日 の 冬 ガレージ 中華居酒屋 夏季は、南・東からピロティに風が吹き抜ける 町 門 大 開 再 商 、 発 か 街 店 人 の ら れ 流 の 大門町再開発 住宅 お昼 :オ フィ ス街 から の人 の流 れ 夏の南風は屋根に沿ってピロティに風を運ぶ ペンギン通りへの入り口となる居酒屋+弁当屋 冬の日光を取り入れる屋根の形状 (Phase.6 での日影解析の結果) 冬は、午前から昼にかけて、30°の角度から日光が落 ちることが分かったため、2 枚の屋根の隙間から日光 を取り込む形状とした。 日影形状(冬至 午前 10 時−11 時) 日影形状(冬至 午前 11 時−12 時) 日照解析の結果からも、夏の屋根の下は涼しい 52 3.建築設計の実践:「人と地域をつなぐ建築」を目指して 7-3:シークエンス確認 - Phase.7:プランニング ① 大門町再開発から人をいざなう 大門町再開発から続く道を引き込み、商店街にやってき た人たちを奥の参道へと誘う。 12 月 _12:00 before 12 月 _12:00 before ペンギン通りへの入り口となる居酒屋+弁当屋 大門町再開発に隣接し、商店街からペンギン通りへの入り口となる場所に建つ居酒屋と弁当屋を新築し、 経営者の自宅を併設する。お昼時には、オフィスワーカーや予備校生が弁当を買いにやってくる。 夏の日陰と冬の日向を作り出す大きなピロティ空間が、商店街側から参道側へ人をいざなう 既存の店舗:住宅が併設されている 既存の街並みから敷地をみる 53 3.建築設計の実践:「人と地域をつなぐ建築」を目指して 7-3:シークエンス確認 - Phase.7:プランニング ② 風の通り道になっていた駐車場を広場に before 一の宮通りからの人通り スーパー 既存駐車 場 立ち寄る 買い物客が スーパーの オフィス 駐輪場 ける き抜 が吹 南風 駐輪場 オフィスの 2 3F を改 築した外部テラス ミニショップ Phase.3 の検証から、駐車場が風の通り道になっていることが分かっている(夏季・南風) ペンギン通り 広場+ミニショップ 周りの道から人を引き込み、ほかの道へと回遊させる分水嶺となる広場。 三角形の広場を、ミニショップのたつ丘が囲む。 ミニショップ:商店建て替え時の仮店舗の提供 商店街の、老朽化した店舗が建て替えや改装を行う際、工事期間中の代替営業場 所としての「仮店舗」となる。 多くの人が訪れるこの場所に、一時的な営業場所をおくことで、今まで知られて いなかったお店が知られる機会にもなる。 広場の中央が風の通り道になり、心地よい木陰空間をつくる(夏季・南風) 54 3.建築設計の実践:「人と地域をつなぐ建築」を目指して 7-3:シークエンス確認 - Phase.7:プランニング ② before 参道までのつながりを感じさせる 緑の連続が大門町再開発から参道までのつながり を感じさせる 5 月 _10 時 4 月 _9 時 広場+ミニショップ 冬でも日向ができる広場 Phase.3 での日照解析から、この既存駐車場は冬でも日当たりが良いことが分かっている。冬でも人が憩う場所になる。 before 12 月 _12 時 55 3.建築設計の実践:「人と地域をつなぐ建築」を目指して 7-3:シークエンス確認 - Phase.7:プランニング ③ 学童保育、ビジネス相談所 大宮小学校の児童、予備校の生徒が休み時間や放課後に遊ぶ場所として学童保育を設ける。 ビジネス相談所では、昔から大宮に住む住民や商店主が、新たにビジネスを始めたい人たちの支援を行う。 南風の抜ける広場 冬の日 差し 既存住宅 ボリュームの隙間を縫って風が通り抜ける(夏・南風) 既存店舗 before ビジネス相談 所 オフィス 予備校 学童保育 中央 通り 南 き 吹 が 風 る け 抜 小学 学生 校・予 や児 備校 童が から やっ てく る 冬でも日向になる広場に面して学童保育をつくる Phase.3 での日照解析から、この駐車場は冬でもほぼ一日中、日向になり、夏は周囲に比べて比較 的涼しい場所になることが分かった。冬は暖かく夏は涼しい明るい広場に面して、学童保育をつ くることで、放課後の子供たちの遊び場となる。 夏 冬 before 4 月 _12 時 56 3.建築設計の実践:「人と地域をつなぐ建築」を目指して 7-3:シークエンス確認 - Phase.7:プランニング 中華料理店 ④ オフィス オフィス 既存住宅 八百屋 中央 通り から の 人の 流れ 既存住宅 セルフキッチン 8 月 _12 時 before 回廊 ペ ン 陰 ギ 日 を 人 が む 込 き 引 り 通 ン 夏の日陰をつくりだす 南側のビルとの間にできる日陰に、中央通りからやってくる人たちが引き込まれる。 路面販売を行う八百屋 昔ながらの路面販売を行う八百屋(ヒアリングに登場:八百屋 Y) の新築店舗。 57 3.建築設計の実践:「人と地域をつなぐ建築」を目指して 7-3:シークエンス確認 - Phase.7:プランニング ⑤ ⑥ 中華料理店 回廊に面して中華料理店(ヒアリングに登場:中華料理店 MI)を新築する。 回廊に導かれて、少し奥まった場所にある中華料理店へ人が訪れる。 回廊の風をとりこむテラス席 回廊に面するテラス席を設ける。 夏に吹く風が室内に取り込まれて、心地 よい場所となる(夏・南風)。 8 月 _12 時 before 8 月 _12 時 回廊・セルフキッチン セルフキッチンでは、近隣で購入した食材を自分たちで調理できる場とし、近隣住民がにぎわう場となる。 回廊は夏の日陰をつくりだし、奥の店舗へと人をいざなう。 8 月 _12 時 58 3.建築設計の実践:「人と地域をつなぐ建築」を目指して 7-3:シークエンス確認 - Phase.7:プランニング ⑦ 移動する日向にあわせてデッキを配置 Phase.6 での日影解析から、ビルの谷間にあるこの駐車場は、冬 でも時間によって日向移動しながら、一日中日光が降り注ぐこ before とが分かった。この結果を受け、デッキを日向沿いに配置し、 冬でも日が当たる環境を作り出した。 冬の風を遮る屋根 冬至 10 時 冬至 11 時 冬の日差し 冬至 12 時 北風を減衰する屋根 冬至 13 時 冬至 14 時 Phase.6 での風解析から、屋根が北風を減衰することがわかり、デッキ上は、冬 は日向で温かい場所になることがわかった。 ン通 ギ ペン り 12 月 _12 時 59 3.建築設計の実践:「人と地域をつなぐ建築」を目指して 7-3:シークエンス確認 - Phase.7:プランニング ⑦ 冬の日差し 日当たりの良いデッキ 地域住民のための専用住宅群 オフィスビルの谷間にある駐車場を地域住民のための住宅へと転換する before before 奥へと人を引き込む ペ ン ギ ン 通 り 冬の日向ができる 12 月 _12 時 奥へと人を引き込む 日向に導かれながら参道へ続く道へ引き込まれる 駐車場に生じていた日向を利用して立体的な日向の道をつくり、参道まで人をいざなう。 12 月 _12 時 60 3.建築設計の実践:「人と地域をつなぐ建築」を目指して 7-3:シークエンス確認 - Phase.7:プランニング ⑧ 会議室 5 月 _14:00 デッキから連続して入れる会議室(2F)。周りにある木々を眺めながら、森の中にいるような気分になる場所 住宅 ペンギン通り 木陰の会議室+住宅 地域住民が運営するレンタル会議室。周辺の予備校生やオフィスワーカーが利用する。 会議室では、周りにある木々を眺めながら勉強や会議をできる場所。 12 月 _13:00 住宅の寝室(3F)は、30°の勾配の屋根から光が入る。 61 3.建築設計の実践:「人と地域をつなぐ建築」を目指して 7-3:シークエンス確認 - Phase.7:プランニング ⑨ 回廊のギャラリー 2F デッキ(冬) デッキは、冬には 1 日の間を通して日向ができる。 お昼になると周辺の予備校生やオフィスワーカーがやってきて憩う場となる。 冬至 _ 日照時間解析 冬至でも長時間の日照を確保 12 月 _12:00 検証の結果、デッキの上は冬でも日照時間が長いことが分かった。 日向に合わせたデッキ配置 (Phase.6 での日影シミュレーション) 時間ごとに日向が移動する。 シミュレーションの日向に合わせてデッキを配 置、冬でも日当たりの良い場所になった。 冬至 10-12 時 冬至 12-13 時 冬至 13-14 時 冬至 14-15 時 62 3.建築設計の実践:「人と地域をつなぐ建築」を目指して 7-3:シークエンス確認 - Phase.7:プランニング ⑨ 夏の日影をつくる(Phase.6 での日影シミュレーション) 夏至では、まったく日影ができないことが分かった。 30°勾配の屋根と樹木が、夏に心地よい日陰をつくりだす。 冬至の終日日影 6 月 12 時 回廊のギャラリー 2F デッキ(夏) 夏は、30°勾配の屋根が日光を遮り、涼しい空間になる。 涼を求めた地域住民や来街者が一息つく場所。 デッキに風が通り抜ける 風解析の結果、夏季は、南から吹いてきた風 がデッキ上を通り抜けることがわかった。 6 月 12 時 日影をつくりだすデッキと屋根 63 3.建築設計の実践:「人と地域をつなぐ建築」を目指して 7-3:シークエンス確認 - Phase.7:プランニング ⑩ 東 の ら か ( 光 日 ) 前 午 クリニック カフェ 陽だまりを作るボリューム配置(Phase.6 での日影シミュレーション(冬至の 8-10 時)) 東にある参道側からの日光を受けるようなボリューム配置 参道 から ペン ギン 通り のひ との なが れ 夏の 風 参道のクリニック、カフェ 参道側からの日光が降り注ぐ広場に面するクリニックとカフェ。参道を散歩する地域住民や参拝客がくつろぐ広場となる。 日照時間の検証の結果、冬でも長時間の日照を確保できることがわかった。 64 3.建築設計の実践:「人と地域をつなぐ建築」を目指して 7-3:シークエンス確認 - Phase.7:プランニング ⑩ before 参道から引き込まれる陽だまりの広場 参道に対して引きをつくりったことで、冬の陽だま りができ、参道から人が引き込まれる広場になった。 10 月 _10:00 カフェのテラスから参道を眺める デッキの下を通って風が通り抜ける 風解析の結果、夏季は、南から吹いてき た風が反射し、デッキの下を通り抜けて 広場に通り抜けることが分かった 参道のクリニック、カフェ 6 月 _12:00 参道からペンギン通りを眺める 65 3.建築設計の実践:「人と地域をつなぐ建築」を目指して 7-3:シークエンス確認 - Phase.7:プランニング ⑪ 拠点駐車場 住宅街 回廊のギャラリー 8 月 12 時 住宅街から駐車場を通して敷地を見る ペンギン通り 回廊のギャラリー、地域の拠点駐車場 参道まで続く木陰を通り抜けながら、作品を見ることができるギャラリー空間。 ギャラリーの北側には地域の拠点駐車場があり、住宅街とのバッファーになる。 6 月 12 時 ギャラリー空間。参道まで続く緑の中を歩く 66 3.建築設計の実践:「人と地域をつなぐ建築」を目指して 7-3:シークエンス確認 - 平面図 - Phase.7:プランニング 既存店舗(喫茶店) ィ ピロテ 居間 寝室 居間 浴室 玄関 玄関 浴室 ガレージ 既存住宅 大門町再開発 N 0 5 10 25[m] 平面図 1F S=1:200(A3) 67 3.建築設計の実践:「人と地域をつなぐ建築」を目指して 7-3:シークエンス確認 - 平面図 - Phase.7:プランニング ミニショップ デッキ ィ上部 ピロテ ス 屋上テラ ス 屋上テラ N 0 5 10 25[m] 平面図 2F S=1:200(A3) 68 3.建築設計の実践:「人と地域をつなぐ建築」を目指して 7-3:シークエンス確認 - 平面図 - Phase.7:プランニング 既存住宅 既存住宅 既存住宅 既存住宅 既存住宅 スーパー (上階マンション) 広場 オフィスビル ガレージ 立体駐車場 N 0 5 10 25[m] 平面図 1F S=1:300(A3) 69 3.建築設計の実践:「人と地域をつなぐ建築」を目指して 7-3:シークエンス確認 - 平面図 - Phase.7:プランニング ミニショップ ミニショップ ミニショップ N 0 5 10 25[m] 平面図 2F S=1:300(A3) 70 3.建築設計の実践:「人と地域をつなぐ建築」を目指して 7-3:シークエンス確認 - 平面図 - Phase.7:プランニング トイレ 浴室 ン キッチ セルフ 既存住宅 既存住宅 オフィスビル ッチン キ セルフ ン 既存住宅 キッチ セルフ ィ ピロテ 店舗 ン キッチ セルフ 玄関 予備校 厨房 客席 トイレ オフィスビル 事務所 育 学童保 オフィスビル オフィスビル N 0 5 10 25[m] 平面図 1F S=1:200(A3) 71 3.建築設計の実践:「人と地域をつなぐ建築」を目指して 7-3:シークエンス確認 - 平面図 - Phase.7:プランニング 居間 居間 居間 店舗 トイレ 居間 浴室 客席 事務所 育 学童保 テラス N 0 5 10 25[m] 平面図 2F S=1:200(A3) 72 3.建築設計の実践:「人と地域をつなぐ建築」を目指して 7-3:シークエンス確認 - 平面図 - Phase.7:プランニング 立体駐車場 オフィスビル オフィスビル 浴室 オフィスビル トイレ シャワー室 浴室 フィットネスクラブ トイレ 居間 玄関 寝室 玄関 トイレ トイレ トイレ 浴室 ン キッチ セルフ 既存住宅 既存住宅 オフィスビル ン キッチ セルフ N 0 5 10 25[m] 平面図 1F S=1:200(A3) 既存店舗 (レコード屋 73 3.建築設計の実践:「人と地域をつなぐ建築」を目指して 7-3:シークエンス確認 - 平面図 - Phase.7:プランニング トイレ 浴室 参 寝室 寝室 浴室 玄関 玄関 ー ャラリ 廊ギ 道の回 居間 居間 寝室 寝室 ョップ 浴室 デッキ 寝室 寝室 ショップ トイレ 浴室 居間 トイレ 居間 玄関 N 0 5 10 25[m] 平面図 2F S=1:200(A3) 74 既存住宅 既存住宅 3.建築設計の実践:「人と地域をつなぐ建築」を目指して 7-3:シークエンス確認 -既存住宅 平面図 - Phase.7:プランニング 診察室 トイレ 駐車場 診察室 診察室 トイレ 浴室 トイレ 厨房 玄関 回 参道の 客席 カフェ ー ラリ 廊ギャ 浴室 トイレ 玄関 浴室 トイレ 玄関 N 既存マンション 既存店舗 (喫茶店) 0 5 10 25[m] 平面図 1F S=1:200 75 3.建築設計の実践:「人と地域をつなぐ建築」を目指して 7-3:シークエンス確認 - 平面図 - Phase.7:プランニング 浴室 トイレ 寝室 寝室 テラス 居間 トイレ 浴室 室 の会議 居間 森の中 寝室 寝室 ッキ 回廊デ 居間 議室 の会 森の中 居間 浴室 トイレ 居間 室 の会議 居間 森の中 N 0 5 10 25[m] 平面図 2F S=1:200 76 3.建築設計の実践:「人と地域をつなぐ建築」を目指して 7-3:シークエンス確認 - 断面図 - Phase.7:プランニング A A オフィスビル オフィスビル A 中央通り ペンギン通り 0 5 10 A 25[m] A-A 断面図 S=1:300(A3) 77 3.建築設計の実践:「人と地域をつなぐ建築」を目指して 7-3:シークエンス確認 - 断面図 - Phase.7:プランニング B B オフィスビル オフィスビル 既存住宅 B ペンギン通り 中央通り 0 5 10 25[m] B B-B 断面図 S=1:300(A3) 78 3.建築設計の実践:「人と地域をつなぐ建築」を目指して 7-3:シークエンス確認 - 断面図 - Phase.7:プランニング C C 大宮区役所 既存住宅 C 中央通り ペンギン通り C 0 5 10 25[m] C-C 断面図 S=1:300(A3) 79 D D D D 0 5 10 25[m] D-D 断面図 S=1:300(A3) 80 3.建築設計の実践:「人と地域をつなぐ建築」を目指して 7-3:シークエンス確認 - 断面図 - Phase.7:プランニング E E 既存住宅 E 0 25 50 既存店舗 100[m] 大門町再開発 E E-E 断面図 S=1:800(A3) 81 3.建築設計の実践:「人と地域をつなぐ建築」を目指して 7-3:シークエンス確認 - 鳥瞰 - Phase.7:プランニング 5 月 _14:00 12 月 _13:00 ペンギン通りに潜在していた自然環境を活用し、大門町再開発から氷川参道に至るまでの「自然の道」をデザインすることができた 82 3.建築設計の実践:「人と地域をつなぐ建築」を目指して - Phase.7:プランニング まとめ 作業内容 P7-1:シークエンスの確認 P7-2:環境解析(日照・風) P7-3:シークエンスの確認 検討された内容 1)それぞれの建物での具体的な活動 2)日照・風を取り入れる / 遮る形状 3)屋根のマテリアル 気づき・発見 1)屋根面は日照時間が長く、強い照り返しがある 決定事項 1)プランニング 2)屋根のマテリアルを木材にする - Phase.8:計画全体の妥当性の確認 へ向けて プランニングを終え、ようやく計画全体を完成することが出来た。 ここまでの全ての Phase を通して検討され、記述されてきたプロセスを点検し、プロセスモデルとしてア ウトプットしたい。プロセスモデルとして記述された時に、この計画はどのように評価されうるのかを確認 する。 83 3.建築設計の実践:「人と地域をつなぐ建築」を目指して プロセスモデルの記述 - Phase.8:計画全体の妥当性の確認 Phase.0 建築設計のきっかけ Phase.1 リサーチ Phase.2 コンセプト立案 Phase.3 ゾーニング Phase.4 ボリューム Phase.5 ボリューム 2 Phase.6 ボリューム 3 Phase.7 プランニング Phase.8 妥当性の確認 全行程の プロセスモデル input プロセスの整理・記述 モデル ・設計図書 input それぞれの建物のプランニング 環境解析(日照・風) シークエンスの確認 マテリアル 各 で検討された内容 Phase 妥当性の確認を含め、計 8 つの Phase を経て設計を完了した。それぞれの Phase の内容と、プロセスモデルの記述は右のとおりとなった。 ボリューム形状 のモデル(P6-3) input より広域スケールでみたときの、この計画の意義・目的 広場としてのデザイン(B) ボリューム形状 のモデル(P6-2) input 時間ごとの日影・日向の位置と形状 冬に最大の日照を得るためのボリュームと屋根の配置・形状 マテリアルの変更 プランニング ボリュームの プロトタイプ シークエンスの検証 環境解析 input 季節ごとの日照・日影の変化 環境をつくりだす装置としてのボリューム形状 ボリューム スタディの手法 具体的なユーザー像と時間ごとのふるまいの変化 input 駐車場の自然環境と人のふるまいとの関係 ボリュームを置いたときの自然環境の変化 参道までのシークエンス・体験 ランドスケープ(樹木・道路・建物の関係) 日影の可視化 ゾーニング方針 input 日照時間 風通しのある場所/ない場所 ユーザー想定の具体化 ボリュームモデルの解析 まちづくり コンセプト 周辺建物の用途 プロトタイプの決定 input 土地利用のあり方 商いのスタイル ふるまいのプロット 仮説 商店街の概要 大門町再開発 広域スケールのスタディ input ボリュームスタディの 手法を決定 ゾーニング方針の決定 環境解析 環境解析に基づくエリア分け 取材 ヒアリング リサーチ 作成されたデータの蓄積 リサーチ結果 コンセプト立案 地図分析 ヒアリング結果 ゾーニングスタディ ボリュームスタディ P4-A 地図の分析結果 解析結果 ボリュームスタディ P4-B ボリュームスタディ P4-C 解析結果 ボリュームスタディ P6-2 ボリュームスタディ P6-3 建築モデル 全行程のまとめ 84 3.建築設計の実践:「人と地域をつなぐ建築」を目指して 全ての Phase の整理 - Phase.8:計画全体の妥当性の確認 Phase 作業内容 Phase.0 建築設計のきっかけ Phase.1 リサーチ 取材 新たに検討された内容 気付き・発見 決定事項 中華料理店MIの現状 1-1. 文献を通じた調査 商店街の現状 1-2. 大門町再開発 大きな土地をもつ住民ほど商いのスタイル選択肢(副業・業態転換の可能性)が幅広く、土地をもたない住民ほど選択肢が Phase.2 コンセプト立案 2-1. 地図分析 土地利用のあり方 狭い 土地を、所有者単独の意図や単独の用途のみに利用するのではなく、地域の様々な人たちが利用 ⇒ 駅からの距離、土地の広さが、商売のためのリソースとなっている できるような、公共的な場所として活用するべきである。 ⇒ 駅から遠く利用可能性の低い土地は、そのほとんどが駐車場へと転用され続けている 2-2. ヒアリング 商いのスタイル 2-3. まちづくりコンセプトの立案 住民の多くは「可能な限り、今の場所で商売を続けたい」と考えているが、多くは再開発や高齢化によって廃業・立ち退き を余儀なくされている 大宮駅東口は、氷川参道、中山道、鉄道、それぞれの道の出現を境にして大きく変質してきた。 ペンギン通りは、かつて「野道」と呼ばれた、自然発生的に出現した道である Phase.3 ゾーニング 3-1. 環境解析 日照時間 環境解析の結果、商業的なポテンシャルが低いとされる駐車場にこそ、豊かな自然環境が潜在している 3-2. 環境解析にもとづくエリア分け 風通しのある場所/ない場所 環境・活動の特性ごとに、ペンギン通りは大きく5つのエリア(A~E)に分けることが出来る 3-3. ゾーニング方針の決定 周辺建物の用途 A~E、それぞれの場所を「小さな矢印」でつなぐように連続させながら、大門町再開発から氷 川参道までの道のりを一体的にデザインする 駐車場に潜在している豊かな自然環境を、ペンギン通りにとってのリソースとみなし、これを活 用する A~Eそれぞれの場所における人のふるまい Phase.4 ボリューム 4-1. ふるまいをプロットする 駐車場の自然環境と人のふるまいとの関係 ボリュームを組み合わせたときに出来るピロティで、様々な環境を作ることが出来る ボリュームを立体的に組み合わせ連続的に配置することで、参道までの道のりをデザインする 4-2. ゾーニングの立体化 ボリュームを置いたときの自然環境の変化 建築物だけではなく、樹木や道路のテクスチャの変化も、視線や活動を誘導する要素になり得る 樹木、道路の舗装を考慮しながら、一体的なランドスケープとして建築をデザインする 4-3. ボリュームスタディの手法を決定 参道までのシークエンス・体験 およそ30°の勾配の屋根で、夏は日影、冬は日向を作ることができる 夏の日影・冬の日向をつくる屋根の形状とボリュームの組み合わせで建築をデザインする ランドスケープ(樹木・道路・建物の関係) Phase.5 ボリューム2 Phase.6 ボリューム3 5-1. ボリュームモデルの解析 季節ごとの日照・日影の変化 5-2. プロトタイプの決定 環境(日照・日影・通風)をつくりだす装置としてのボリューム形状 ユーザー想定の具体化から、建築がつくりだすべき環境が明確化された ボリュームの配置・形状は、環境解析の結果をもとに導きだす 5-3. ユーザーの想定を具体化 具体的なユーザー像と時間ごとのふるまいの変化 想定したユーザーのふるまいを可能にするような環境をつくりだす 6-1. 日影の可視化 時間ごとの日影・日向の位置と形状 日向・日影の位置と形状は時間によって変化しながら、それぞれの場所の環境をつくり出している ボリュームの形状 6-2. ボリュームスタディ 冬に最大の日照を得るためのボリュームと屋根の配置・形状 屋根は、風を制御する装置にもなりうる 人の動き・居場所をつくり出すための外構計画(道路のテクスチャ、樹木のサイズ・配置) Bは、大宮東口地域全体にとっての「分水嶺」であり、多くの人がこの場所を訪れる動機を作り出す場所になり得る ボリュームの内外で行われる活動(プログラム) 6-3. ボリュームスタディ(Bのやり直し) より広域スケールでみたときの、この計画の意義・目的 広場としてのデザイン(B) Phase.7 プランニング Phase.8 妥当性の確認 7-1. それぞれの建物をプランニング それぞれの建物をプランニング 7-2. 環境解析 環境解析(日照・風) 7-3. シークエンスの検証 シークエンスの検証 7-4. マテリアルの変更 マテリアルの変更 プロセスモデルの記述 広場・ミニショップとしてBをデザインする 屋根面は日照時間が長く、強い照り返しがある プランニング 屋根のマテリアルを木材にする 85 3.建築設計の実践:「人と地域をつなぐ建築」を目指して プロセスの振り返り - Phase.8:計画全体の妥当性の確認 それぞれの Phase で意思決定が行われ、その決定事項に沿って次の Phase が実行される、というプロセスを経ている。 各 Phase で検討、検証された事項が次の Phase に反映される過程の繰り返しによって、徐々に問題解決の方法が高度化していった。 このことから、この実践のプロセスは、連続の V モデルを繰り返すプロセスモデルに則った、システム思考の実践としての建築設計であったということができる。 Phase 決定事項 Phase.0 建築設計のきっかけ Phase.1 リサーチ 仮説︓商店街の住民が、自分たちで経営を続けていけるような仕組み・環境づくりが必要である 仮説が設定され、商店街の地域住民のための提案を行うという動機が構築された まちづくりコンセプト︓それぞれの土地や建物が、「駐車場」や「テナントビル」などの単一の Phase.2 コンセプト立案 用途のみに利用されるのではなく、地域住民や来街者が様々に利用できる「地域にとってのリ ソース」となるような公共的な土地利用の方法を目指す Phase1 での仮説の検証を通し、土地利用という、より具体的な問題が設定され、 るとともに「「地域のリソース」となるよう公共的なまちづくり」という解決方法が提案された Phase.3 ゾーニング 駐車場に存在する自然環境を、地域のリソースとして活用する 駐車場に存在する豊かな自然環境をつなぎ、連続させ、大門町再開発から氷川参道に至る「自然 地域のリソースを自然環境と位置づけ「自然の道」をデザインするというゾーニングの基本方針が の道」として一体的にデザインする 決定した Phase.4 ボリューム ボリュームを立体的に組み合わせ連続的に配置することで、参道までの道のりをデザインする 「自然の道」を実現するためのボリューム検討が行われ、ボリュームの立体的な組み合わせで空間 樹木、道路の舗装を考慮しながら、一体的なランドスケープとして建築をデザインする を構成するという形式が決定した Phase.5 ボリューム2 夏の日影・冬の日向をつくる屋根の形状とボリュームの組み合わせで建築をデザインする ボリュームを組み合わせスタディする中で、環境を作り出す屋根の形状(プロトタイプ)を発見し、 ボリュームの配置・形状は、環境解析の結果をもとに導きだす そこで行われるべきユーザーのふるまいが明確になった 想定したユーザーのふるまいを可能にするような環境をつくりだす Phase.6 ボリューム3 ボリュームの形状 人の動き・居場所をつくり出すための外構計画(道路のテクスチャ、樹木のサイズ・配置) 屋根の形状とユーザーのふるまいを相関させながら、ボリュームの概形を決定した ボリュームの内外で行われる活動(プログラム) 広場・ミニショップとしてBをデザインする Phase.7 プランニング プランニング ボリュームの概形に沿ってプランニングを実施、マテリアルを含めて具体的な建築空間を設計する 屋根のマテリアルを木材にする とともに、そこにつくられる環境が、これまでの方針に即していることを確認できた Phase.8 妥当性の確認 86 4. 終章 4. 終章 4-1. 考察 4-2. 結論 実践、プロセスモデルの記述を通して分かったことをもとに、プロセスの振り返り と考察を行いたい。 当初の工程と実際の工程の差異 システム思考を実践するためのプロセスモデル 本論冒頭(2-1)でも述べたように、現代における様々な問題の多くは複雑な成り 立ちをしており、一様な方法論によって万事の解決を図ることは困難である。その ボリューム検討が 3 回繰り返されたり(P4 ∼ 6)、数回にわたって環境解析が行 ため、問題解決に取り組む者には、システム思考(①複眼的思考、②統合的問題解決、 われる(P3,P5,P7)など、設計開始時に設定した工程とは大きく異なるプロセスを ③能動性、を可能にする問題解決アプローチ)が求められている。 歩んでいることがわかる。これは、設計プロセス中で問題が徐々に具体化・詳細化 この実践は、時代の変化・再開発に直面する商店街の現状に対して、設計者であ されていくなかで、必要な検討・検証内容が自ずから変化していったためである。 るわたし自身がみずから問題を発見・設定し、様々な角度からの検討・検証を繰り プロセスを記述したことの意義 返しながら、妥当な解決方法を模索していくプロセスを経たものであり、まさにシ ステム思考の実践であったと考える。 各 Phase の「まとめ」で示しているように、Phase の終わりに「作業内容」、「新 このようなプロセスが可能になったのは、プロセスモデルによる記述を通し、わ たに検討された内容」、「気付き・発見」、「決定事項」を記述しながらプロセスを進 たし自身の思考を客観的に把握することがでたたためであると考える。 行した。 よって、本論において提案したプロセスモデルの運用は、システム思考を建築設 設計作業と同時並行でプロセスの記述を行ったことで、各 Phase での意思決定・ 計において実践するうえで有用な手法であると結論付ける。 検討・検証内容の高度化のタイミングや、その要因を客観的に把握することができた。 本計画は、広域にわたって複数の建物の設計を行ったため検討すべき事項は膨大で プロセスのデータベース化 あったが、常に問題を明確化し、その場面に応じて適切な検討を行うことができた 実践を通して運用されたプロセスモデルは、設計者であるわたし自身が行った一 と考える。計画の全体像(コンセプト・方針)と、部分(それぞれの場所・建物の設計) 連の検討・検証や意思決定内容が記述された、一種のデータベースであるといえる。 を往復しながら設計を進めることができたといえる。 このデータベースを、建設プロセスにおける後工程(実施設計、施工、FM、…)に 設計内容の高度化の経緯 至るまで引き継ぐことができれば、各工程間での情報共有や意思決定の円滑化のみ ならず、その建築が持つ意味・価値を、後の時代まで伝達するインターフェイスと この計画は、わたし自身の素朴な体験を起点にして始まった。Phase.0 の時点では、 なるかもしれない。 わたしとある商店との個人的な関係にすぎなかった問題が、Phase.1 のリサーチ、 この実践は、今のところ実現の見込みを持たない仮想のプロジェクトだが、仮に Phase.2 のコンセプト立案を経て、ペンギン通りや大宮駅東口商店街などの広範囲に 実現可能性があるとすれば、このプロセスのデータベースが、プロジェクト進行の わたる問題へと変化していった。 助けになると期待する。 また、Phase.3 でのゾーニングでは自然環境、Phase.4 ∼ 6 ではユーザーのふるま いに着目するなど、検討する事項を徐々に増大していくことによって、設計内容が 今後の、システム思考を実践するための建築設計に向けて 高度化していったと考える。 「はじめに」でも述べた通り、建築は人と地域社会をつなぐ接点としての役割を果 第三者への説明性 たすべきものであり、建築設計は、対象とする敷地境界線を越えて、自然・社会環 境に潜在する問題を解決する行為であらねばならない。建築設計者であるわたした Phase.0 ∼8に至るまで、ひとつのフォーマットに沿って設計プロセスを記述する ちにもまた、システム思考の理念と実践が求められている。 ことができた。本計画を第三者に説明する際には、設計プロセスを時系列に沿って 本研究では、システム思考を建築設計において実践するためのプロセスモデルを 説明することができる。また、それぞれの Phase での判断のタイミングや要因が明 提示し、その有用性を示すことができたと考えている。 確化されているため、論理的に一貫した説明が可能であると考える。 今後の建築設計を考えるものにとって、何よりわたし自身にとって、この研究が建 本論 2-1 で述べた問題(建築設計プロセスのブラックボックス化)を解消するた 築設計の在り方・設計者の職能を考える上での、ひとつの方向性となることを期待 めの手法として、このプロセスモデルは有用であると考える。 する。 88 参考文献 システム思考等に関して ◆井上雅裕 , 陳新開 , 長谷川浩志(2011)『システム工学 問題発見・解決の方法』オーム社 ◆枝廣淳子 , 内藤耕(2007)『入門 ! システム思考』講談社現代新書 ◆マイケル・ポランニー(2003)『暗黙知の次元』ちくま学芸文庫 ◆ゲオルグ・クニール、アルミン・ナセヒ(1995)『ルーマン 社会システム理論』新泉社 大宮駅東口商店街に関して ◆大宮市(1980)『大宮のむかしといま』 ◆さいたま市立博物館(2010)『ウォーク・イン・中山道 大宮宿』 ◆そのほか、さいたま市立博物館の展示内容が、歴史理解の助けになった 先行研究に関して ◆佐藤康平(2014 年度修士論文)『拡張する市民プールの所作』- 地域住民の声とビッグデータを利活用し た非設計者との協働設計プロセス ◆荻野克眞(2014 年度修士論文)建築設計関係者との協働設計プロセスから生まれる建築 -Google Earth を 利活用した見沼区役所周辺リニューアルプラン官学連携まちづくり研修 ◆糸長 大佑(2012 年度修士論文)『チームデザインにおける合意形成の在り方とは』- アルゴリズム的思考 及び BIM による建築設計プロセスの実践と検証 ◆澤田英行 , 佐藤康平 , 豊田郁美 , 根本雅明(2014) 「BIM・ICT を活用したアクティブ・ラーニングの実践 ―e-Learning システム「Web Learning Studio」による建築設計教育の試み その 3―」第 14 回建築教育シ ンポジウム 建築教育研究論文報告集 89 謝辞 本研究は、筆者が芝浦工業大学大学大学院理工学研究科建設工学専攻修士課程において、建築設計情報研 究・澤田英行研究室において行った研究をまとめたものです。 本研究を進めるにあたっては、指導教員の澤田英行教授からご指導を頂きました。澤田先生には学部時代 を含めて 4 年間、建築研究会の活動や授業を通して、たいへん丁寧かつ熱心なご指導を賜りました。ここに 感謝申し上げます。 菊池誠教授、増田幸宏准教授には、副査のご指導を快諾していただきました。なかなか終わりの見えない 私の研究にも、丁寧なご指導を頂きましたことに感謝致します。 衣袋洋一名誉教授には、入学当初から建築研究会において、ときに厳しくも温かいご指導を頂きました。 八束はじめ名誉教授には、学部時代に大変熱心なご指導を頂きました。 振り返ってみると、入学当初の私に建築研究会の存在を教えてくださったのは、八束先生でした。そして 建築研究会に入会したことで、衣袋先生、澤田先生と出会い、多くの貴重な経験を得ることができました。 三人の先生方と出会えたこと、建築研究会、衣袋研究室、澤田研究室、八束研究室で過ごした濃密な 6 年 間は、私の人生におけるかけがえのない財産です。 今後とも、ご指導ご鞭撻のほどをよろしくお願い致します。 6 年間を通じて、澤田研究室、衣袋研究室、建築研究会のみなさまには大変お世話になりました。建築研 究会の同期 13 名、澤田研究室の同期 6 名には、とくに厚い感謝を申し上げます。この論文が、みなさまの 今後の研究に少しでも役立てば、望外の喜びです。 修士 1 年の溝口頌悟君、高橋昇平君には、自身の研究活動や就職活動で忙しい中、本論中の図版作成にご 協力を頂きました。感謝いたします。 大宮駅東口商店街のみなさまには、ヒアリング・貴重な資料の提供等、多大なるご協力を頂きました。あ りがとうございました。 他にも、感謝を伝えたい人はたくさんいますが、この紙幅では足りません。みなさん、ありがとうござい ました。これからもよろしくお願いします。 最後に、陰ながら私のことを支えてくれている両親・弟に、心から感謝いたします。いつもありがとう。 2016 年 2 月 8 日 提出当日・研究室のいつものデスクにて 90