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持続可能性の視点から見た CSR、グリーン IT、BCP ―中堅企業の生き残りに向けた模索― KIIS Quarterly vol.4-1 持続可能性の視点から見た CSR、グリーン IT、BCP ― 中堅企業の生き残りに向けた模索 ― 財団法人 関西情報・産業活性化センター 事業推進グループ 主席研究員 山岸 隆男 近年、地球環境問題や災害時のトラブルが大きな社会問題となっている。それらへの対 応策としてグリーン IT、BCP がそれぞれ独立して大手企業を中心に取り組まれてきた。限 られた経営資源の中で効果的に取り組むためには、これらを企業の社会的責任(CSR)と有 機的に結びつけて一体的に取り組むことが期待されている。本稿では、まず CSR の3要素 (社会、環境、経済)に対してグリーン IT を環境、経済の2要素(平常時)、BCP を経済、 社会の2要素(緊急時)として捉えた。次に CSR の主要概念である「持続可能性」という 視点でグリーン IT、BCP を捉え、持続可能性に関するマネジメントの取り組み項目に基づ き、CSR、グリーン IT、BCP の相当項目(試案)を横串に導き出した。今後、この試案を 参考に中堅企業などへの IT 投資評価指標の提言の一部として検討を進めていく予定である。 これまで調査、検討してきた内容を紹介する。 Keywords:CSR、グリーン IT、BCP、BCM、持続可能性、IT 投資評価指標 1.はじめに 2.CSR、環境への配慮、グリーン IT、BCP の現状と CSR、グリーン IT、BCP の取り組みは、ともすれば 動向 一見関連性がないようにも見えるがグリーン IT や 2-1.CSR について BCP も CSR の主要なコンセプトである「持続可能性」 CSR は企業の社会的責任ともいわれ、社会の持続的 という概念に包含される。そこで「持続可能性」とい 発展や環境の持続可能性確保などに対して企業は一定 う枠組みの中で、グリーン IT、BCP を捉え、効果的に の社会的責任を負うべきと考えられている。社会面や 企業価値の向上につなげることを提唱したい(図1) 。 環境面などの社会の課題解決に寄与/貢献することを 最初に CSR、環境への配慮、グリーン IT、BCP など 通じて企業が社会から信頼され、持続的な発展をする 当テーマの基本的要素の現状と動向を、続いて持続可 ことができる。もし、企業が社会面や環境面などで社 能性のマネジメントシステムを説明し、最後に CSR に 会の信頼を大きく裏切ればインターネット網等を通じ 含まれるグリーン IT、BCP の IT 分野における IT 投資 て瞬時にマイナス情報が全世界的に伝達し、企業ブラ 評価指標の検討の方向性について言及したい。 ンドの失墜、不買行動や取引停止などが連鎖的に発生 し、売上業績の悪化や最悪の場合には倒産に追い込ま れることも現実に起きている。このようなことから CSR の取り組みは、ブランド、ひいては業績や投資評 価(SRI:Socially responsible investment)などに大きく 影響するため、事業の中核に位置付けるべき投資の一 つとして認識されつつある。 1 KIIS Quarterly vol.4-1 2009.4 持続可能性の視点から見た CSR、グリーン IT、BCP ―中堅企業の生き残りに向けた模索― 企 業 の 持 続 可 能 性 の 確 保 1.CSR (社会、環境、経済への配慮) (社会への配慮) 不祥事対応(守りのCSR) マ イ ・コンプライアンス ナ (法令遵守) ス の ・内部統制 影 平 響 常 軽 時 減 緊 急 時 対 応 マ イ ナ ス の 影 響 軽 減 (環境への配慮) 2.環境への取組み (1)京都議定書のおける日本のCO2削減目標値と実績 ・日本のCO2排出量目標値:-6%削減(対1990年比) ・約束期間(2008年~’12年)の目標達成が困難な状況 (2)省エネルギー法等の改正 ・上記目標達成に向けた環境法規制の改正 ・事業所単位の規制から事業者全体規制への変更 (3)京都メカニズム ・CDM制度(先進国が途上国の環境プロジェクトに出資し、 CO2削減量をもらう)‥海外に資金が流出 ・国内CDM制度(途上国を国内中小企業に置換えた制度) ‥中小企業の振興につながる プ 社会の課題解決への貢献 プ ラ (攻めのCSR/戦略的CSR) ラ ス ス の ・安全、安心 の 影 ・顧客満足 影 響 ・地域社会活動への参画など 響 増 増 進 進 3.BCP ・不測の緊急事態(自然災害、火災、大規模システム障害等) が発生しても企業が存続できるように備えるのが目的 ・企業存続の許容時間内に中核となる事業を復活させる ための計画(BCP)を策定する (経済への配慮) (4)グリーンIT IT自体のグリーン化 ・機器の省エネ (PC,サーバ等) ・データセンターの省エネ (ブレードサーバ、冷房の効率化等) ITを使ったグリーン化 ・ITはシステム技術、制御技術、 計測技術、個別要素技術に適用 され、省エネを実現 図1 CSR とグリーン IT、BCP の位置付け れているが、企業等のグローバル化の進展から世界共 ところで、CSR については、内外の様々な組織がガ 通となる CSR のマネジメントシステム規格が望まれ イドラインや規格を制定している。 ていた。そこで国際標準化機構(ISO)が CSR に関す 1) ・ GRI ガイドライン:CSR の情報開示のための報告 る国際標準規格(ISO26000)の策定作業に取組んでお ガイドライン(オランダ、NGO) り、2010 年9月に同規格が発行される予定である。な ・ OECD 多国籍企業ガイドライン: 多国籍企業の行 お、ISO26000 は企業だけでなく行政、教育機関などあ 動指針(仏国、経済協力開発機構) らゆる組織への適用を念頭におき、C(企業)を外し ・ SA8000:公正・人道的な労働慣行のための規格(米 た SR(社会的責任)のガイダンス規格(第三者認証を 国、NGO) 伴わない)として考えられている。本レポートでは以 ・ AA1000:社会・倫理的説明責任に関する規格(英 降、SR の意味で便宜的に CSR という言葉を用いる。 国、NGO) ISO26000 として、①環境、②人権、③労働慣行、④組 ・ ECS2000:企業倫理に関する規格(日本、麗澤大 織ガバナンス、⑤公正な事業習慣、⑥消費者課題、⑦ 学経済研究センター) コミュニティ参加・開発といった社会的責任に関する 7つの分野(中核課題)の取り組み内容が検討されて また、政府(経済産業省、環境省、総務省、内閣府 いる。また、ISO26000 では「ステイクホルダー・エン 等)や経済団体(日本経済団体連合会、経済同友会等) ゲイジメント」という考え方が取入れられている。ス などからも CSR について様々な提唱や研究報告がさ テークホールダーと積極的に意見交換して期待を的確 に把握し、協力して問題解決へ導くことを通じて信頼 関係を構築するというものである。 1 )GRI:Global Reporting Initiative 経済、環境、社会の 3分野の報告書の提示 2 KIIS Quarterly vol.4-1 2009.4 持続可能性の視点から見た CSR、グリーン IT、BCP ―中堅企業の生き残りに向けた模索― CSR には不祥事対応(コンプライアンス、内部統制) 取引先から の要請 15.3% のような社会へのマイナス影響軽減の取り組みと、組 織が社会や環境の課題解決に貢献するといったプラス 影響増進の取り組みとに大別される。前者はリスクマ 社会的責任 15.1% その他 63.0% ネジメント(守り)の取り組みであり、後者は社会の 持続発展への貢献を通じて顧客からの信頼性獲得によ る長期的に競争力維持の戦略的な(攻めの)取り組み となる。CSR の取り組みの結果は、一部大企業を中心 企業イメージ の向上 9.4% に CSR 報告書や持続可能性報告書などの名称で環境 環境保全活 動の推進 13.7% トップからの 指示 9.5% の取組み報告を含めて公表されている。 図2 ISO 認証取得の目的(JAB 2007) 2-2.環境への取組み 環境への配慮も、①温暖化ガスの排出など環境にマ ISO26000 の中核課題の一つである環境の分野では、 ①汚染の予防、②持続可能な資源の使用、③気候変動 イナスの影響を削減するという側面と②環境にプラス 緩和及び適応、④自然環境の保護及び回復といった4 の影響を与える製品・サービスを提供する側面という つの課題が考えられている。なお、環境に関するマネ 二つの側面がある。前者の取り組みだけでは早晩に削 ジメントシステムとして ISO14001 規格が 1996 年に制 減が頭打ちになるので、後者についても積極的に取り 定され、 国内では約 27000 の組織が認証を受けている。 組みことが望まれる。 ところで「持続可能性」という言葉は、ISO14001 規格 の開発の発端となった国連環境開発会議(1992 年、リ (1)京都議定書における日本の CO2 排出目標と実績 オデジャネイロ)の際に採択されたアジェンダ 21(地 1997 年に京都で開催された COP3(気候変動枠組条 球環境問題への取組み指針)の中で「持続可能な発展」 約第 3 回締約国会議)で先進国等の温室効果ガスの排 (将来の世代のニーズを損なうことなく、今日の世代 出削減目標を定めた京都議定書の約束期間(2008 年~ のニーズを満たしうる発展)という概念が提唱された 2012 年)に既に入っている。日本は-6%(対 1990 年 ことに由来している。 比上記 5 年間の平均値)の温室効果ガスの削減を国際 その後、この「持続可能性」という概念が社会分野 社会に対して約束をしている。 因みにアメリカは-7% などにも適用拡大されるようになっていった。日本適 (未批准) 、EU は-8%、ロシア±0%に目標が設定さ 合性認定協会(JAB)の調査によると、ISO を審査登録 れている。しかし、図 3 の通り現実には代表的温室効 する際に重視した第一位の目的は、下図の通り取引先 果ガスである CO2 の排出量(2007 年実績)は+8.7% からの要請がトップで 15.3%、社会的責任が 15.1%で (対 1990 年比)となっており、目標値(-6%)とは それに次いでいる(図 2) 。社会的責任(CSR)の観点 大きく乖離している。その対策として森林吸収で- から ISO14001 を認証取得している企業が多いことが 3.8%、後述の京都メカニズムで-1.6%の CO2 排出量 わかる。 削減を見込んでいるが、目標達成には更に 9.3%の削 減が必要である。そのために、業界別自主行動計画の 拡大・充実、住宅・建築物の省エネ性能の向上、トッ プランナー基準機器の拡大、物流の効率化・交通流対 策、新エネルギー対策の推進、中小企業の排出削減対 策の推進などが検討・推進されているが、現状のまま 推移すれば目標達成が危ぶまれる状況にある。 3 KIIS Quarterly vol.4-1 2009.4 持続可能性の視点から見た CSR、グリーン IT、BCP ―中堅企業の生き残りに向けた模索― 京都議定書目標値の達成のためのCO2削減量 CO2排出量 (億t) 13億7100万t 13 8.70% 9.3%の削減が必要 12億6100万t 12億5400万t 12 森林吸収源対策で3.8% 京都メカニズムで1.6% -6% 11億8600万t (削減目標値) 11 基準年 (1990年) 2007年 (速報値) 2008年~2012年 (約束期限) 図3 京都議定書目標値の達成のために CO2 削減量(環境省 2007) (2)省エネルギー法等の法改正 規制対象企業のカバー率が飛躍的に向上するようにな 本格的な CO2 の排出量の削減(省エネルギー等)が る。業務用では 5 割のカバー率となることが想定され 各企業などに期待され、京都議定書の目標計画の見直 ている。また、企業全体としてのエネルギー使用の一 しにより、温室効果ガスの排出抑制を目的とした温対 元管理のマネジメントが必要となり、2009 年度から個 法( 「地球温暖化対策推進法」 )とエネルギー使用の合 別事業所毎のエネルギー使用量データ管理から全社/ 理化を目標とした省エネルギー法 ( 「エネルギーの使用 全グループのデータベース管理へと転換することが義 の合理化に関する法律」 )が改正された(2009 年4月 務付けられた。そしてそのデータベースに基づく継続 から施行) 。温室効果ガスは6つのガス(CO2、メタン、 的な環境パフォーマンスの改善につながる環境マネジ 一酸化窒素、ハイドロフルオロカーボン、パーフルカ メントシステムとして、ISO14001、エコアクション 21 ーボン、六フッ化硫黄)が定められており、温室効果 などがある。国内の主な環境マネジメントシステムの ガスの大部分(基準年で 90.7%)はエネルギー由来の 認証取得数を表1に示す。 CO2 であることから CO2 以外の排出が規定量以下であ れば、省エネルギー法に対応しておれば温対法にも対 表 1 国内の主な環境マネジメントシステムの認証登録件数 応できていることになる。今回の法改正では、エネル (国際標準化機構 2007 他) ギー使用量が増加基調にある業務部門のエネルギー管 EMS の名称 認証登録件数(時点) 規格の性格 主な対象 理の強化などが主体となっている。 ISO14001 27955 (2007.12 末) 国際規格 大企業 従来、省エネルギー法が適用される対象は工場など エコアクション 21 3072 (2008.12 末) 国内規格 中小企業 の産業部門では全体の約9割をカバーしていたが、業 KES 2506 (2009. 1 末) 国内規格 中小企業 務部門(事務所、ビル、流通小売店、飲食店、ホテル、 エコステージ 630 (2009. 1 末) 国内規格 中小企業 病院等)ではカバー率が1割にすぎなかった。法改正 により、 エネルギー管理の対象が従来の事業所単位 (工 第1種エネルギー管理工場(原油換算 3000kl 以上の 場や事務所等で規制対象の排出量のあるのみ)から事 工場・事業場)には省エネルギーに関する中長期計画 業者単位(全体:事業所の適用外なし)に変更され、 書と報告書の定期提出が、第2種エネルギー管理工場 コンビニなど1店舗当たりのエネルギー使用量は少な (原油換算 1500kl 以上の工場・事業場)には報告書の いが店舗数が多いフランチャイズチェーン企業体など 定期提出が義務付けられている。 (財)省エネルギーセ 4 KIIS Quarterly vol.4-1 2009.4 持続可能性の視点から見た CSR、グリーン IT、BCP ―中堅企業の生き残りに向けた模索― ンターが第1種及び第2種エネルギー管理工場などに エネルギーマネジメントシステム(定期的に実績デー 対して実施した 「平成 18 年度省エネルギー対策実態調 タを把握し PDCA を回して改善する仕組み)を導入し 査」における省エネルギーのための行動・管理を図4 ている割合は 15%未満にすぎない。 に示す。産業部門、業務用ビル部門共に IT を活用した 図4 省エネのための行動・管理( (財)省エネルギーセンター2006) (3)京都メカニズム れた排出権クレジットの取引 京都議定書には、温室効果ガス削減の補完的措置と その中で中心的役割を果たすと考えられている して当該国が定められた排出量を達成できない場合の CDM 制度は、先進国が途上国に技術や資金を提供して 手立てとして「京都メカニズム」という排出枠の取引 共同で温暖化ガス削減プロジェクトを実施し、排出削 が設けられている。 減量(排出枠)を先進国が取得するものである。しか 地球規模で見ればどこで CO2 排出量を削減しても効 し妥当性を評価する国連機関の審査が厳密で、所期の 果は同じであるから、自国で削減するよりも低い投資 排出枠が得られる保証がないことや相手国から不当に 額で同じ CO2 の削減量を外国から獲得するというのが 排出枠の価格を引き上げられるリスクもある。また 「京都メカニズム」の狙いで、取引により他国の CO2 CDM 制度は国内の資金(1兆円以上と想定されてい 削減量(排出枠)を移転、自国の排出削減量に組み入 る) と技術が海外に流出するというデメリットもある。 れることができる制度である。 そこで、これまで省エネルギーがあまり進展していな 「 京 都 メ カ ニ ズ ム 」 に は 共 同 実 施 ( JI: Joint かった中小企業を取り込んだ国内 CDM 制度が考えら Implementation) 、クリーン開発メカニズム(CDM: Clean れた。つまり先進国と途上国の関係を国内の大企業と Development Mechanism)、排出量取引(ET: Emission 中小企業に置き換えたものが国内 CDM 制度である。 Trading)の3つの制度(メカニズム)がある。 中小企業にとっても省エネルギーが図られ、経済的な ① メリット(経費削減効果、クレジット売却益)ももた 同実施(JI) :先進国間で共同プロジェクトを実施 し、目標以上の排出枠を売買 らすことに加え、省エネルギー産業の活性化も期待で ② グリーン開発メカニズム(CDM) :先進国と途上国 きる。中小企業の取り組みを促すために、国内 CDM 間の共同プロジェクト における具体的な排出削減方法として下記の7項目が ③ 排出権取引(ET) :先進国間での JI や CDM で得ら 例示されている。 5 KIIS Quarterly vol.4-1 2009.4 持続可能性の視点から見た CSR、グリーン IT、BCP ―中堅企業の生き残りに向けた模索― ①ボイラーの更新 こしている。脱工業化社会である情報化社会(情報の ②ヒートポンプの導入による熱源機器の更新 生産・流通を中心とした社会)の担い手として IT がこ ③工業炉の更新 の環境問題の課題解決に貢献することが期待されてい ④空調設備の更新 る。 産業界の産業部門(工場等)ではオートメーショ ⑤間欠運転制御、インバータ制御/台数制御による ン・IT を駆使して生産性を向上させ、その結果として ポンプ・ファン類可変能力制御機器の導入 ⑥照明設備の更新 経済の拡大にもかかわらず CO2 排出量を抑制している。 ⑦コージェネレーションの導入 一方、民生部門(事務所・商業等)と家庭部門が経済 の拡大に沿ってエネルギーの使用を増大させている (図5) 。 (4)グリーン IT 石油などの化石燃料を大量に使う工業化社会(物の 生産・流通を中心とした社会) が世界的規模に拡大し、 その負の副産物である CO2 が地球温暖化問題を引き起 図5 CO2 の部門別排出量(電気・熱分配後)の推移(環境省 2006) 民生部門では、PC などの IT 機器を導入し、また情 関連した省エネルギーという課題解決が社会から求め 報ネットワークを活用して業務の効率化や高度化を進 られている。この課題解決の取り組みを「グリーン IT」 めている。しかし、効率化等に伴うエネルギー使用(CO といい、取り組みには2つの方向がある。一つは IT 機 2 排出)効果よりも情報機器の増加等によるエネルギ 器(関連機器・設備含む)自体のグリーン(省エネル ー使用量が上回っており、しかも IT 機器の導入が今後 ギー)化であり、もう一つは IT を活用したグリーン(省 益々増えていくことが予測されていることから、IT に エネルギー)化である。例えば IT はシステム技術、制 6 KIIS Quarterly vol.4-1 2009.4 持続可能性の視点から見た CSR、グリーン IT、BCP ―中堅企業の生き残りに向けた模索― 御技術、計測技術、個別要素技術などに適用し、省エ 総務省の試算(「地球温暖化問題への対応に向けた ネルギーに資することができる。図6は業務用の事務 ITC 政策に関する研究会報告書」2008 年)によると、 所のエネルギーの構成例(自社ビル)を示したもので IT 自体のグリーン化により IT 機器使用増による CO2 ある。比較的占める割合が大きい空調関係(熱源、空 排出量増加(電力使用量増加)よりも IT 活用による 気搬送)や照明・コンセントのエネルギー使用の削減 CO2 排出量の削減の方が年々大きくなると試算されて を図ることが効果的である。なお、コンセントからの いる。例えば 2012 年では、差し引き 3800 万tの CO2 エネルギー使用の大部分は IT 機器(PC 等)の使用に が削減できるとしている(図8) 。 IT 活用によるグリーン IT 化(CO2排出量削減)の よるものと考えられる。 例として、高度な制御によるエネルギーの効率化 給排水昇降機 その他 5.5% 0.8% 2.0% 換気 6.0% コンセント 16.4% 照明 20.8% (BEMS:ビル用エネルギー管理システム) 、輸送効率 の向上(ITS:高度道路交通システム) 、人の移動の削 熱源機器 26.5% 減(電子商取引、電子申請・入札、TV 会議、オンラ インショッピング等)などがある。 熱源補機 3.4% 水搬送 3.3% 図8 IT 機器使用による CO2排出量増加と IT 活用によ る CO2 排出削減(総務省 2008) 給湯 空気搬送 0.6% 14.7% 図6 自社ビルのエネルギー構成 (省エネルギーセンター2007) また、下図の通り我が国の業務部門別の CO2 排 出量の使用実績値と目標値の乖離が一番大きいの が業務その他部門である。業務部門での CO2 排出 量の大幅削減が期待されている。 なお、家庭部門の CO2 排出量削減策については、省 エネルギー製品への購入を一層促すための情報提供が 考えられている。その一つとして家電製品や自動車な どの製品のライフサイクル全体(原材料調達~廃棄・ リサイクル)を通しての CO2 の見える化である「カー ボンフットプリント制度」を経済産業省が検討してい る。また、ソーラーパネルの推進(電力会社への太陽 光発電量の倍額引取り)や家庭に対する IT の高度活用 図7 わが国の部門別 CO2 排出量(環境省 2008) として HEMS(家庭用エネルギー管理システム)など も検討されている。また、2011 年の地上デジタル化に IT 自体のグリーン化として、IT 機器の一層の省エネ よりブラウン管テレビの内、かなりの数が液晶テレビ ルギー化をはじめ、 データセンタの電力消費量削減 (ブ などに転換すると予想されるので電力消費量(CO2 排 レードサーバ、冷房の効率化) 、クラウドコンピューテ 出量)の削減にも寄与するものと推測される。 ィング(SaaS 等)などがメーカ・ベンダーを中心に開 発が推進されている。 7 KIIS Quarterly vol.4-1 2009.4 持続可能性の視点から見た CSR、グリーン IT、BCP ―中堅企業の生き残りに向けた模索― 2-3.BCP 対する準備のない企業は工場の操業や顧客サービスの 企業活動はサプライチェーンなど色々な他の企業活 提供が不可能な状況に追い込まれる可能性があると指 動に密接に連動しており、ローカルな不測の事態(自 摘している。特にサプライチェーンを構成する企業で 然災害、火災、テロ、伝染病、大規模システム障害等) は、一企業の中断が他の企業の中断という事態に波及 の発生であっても当該企業活動が停止した場合には、 する可能性があるので、これら構築する企業に対して 広域あるいはグローバルに大きな社会的・経済的影響 BCP の策定や適用が求められているケースも見られ を及ぼすことがよくある。例えば他企業では代替の利 る。IT 依存度の高い企業において IT リスクは即経営 かない重要部品などが地震などにより供給ができなく リスクにつながるため、バックアップシステムの整備 なった場合には、企業規模が小さくても全体の操業が や耐震化対策の実施などは経営トップや CIO(情報最 比較的長期に亘りストップするようなことも起こって 高責任者)の経営責任が問われることとなる。このよ いる。したがって企業・が不測の事態に備え、製品・ うに企業の経済的価値は、当該企業の財務状況を改善 サービスの供給責任などを果たして、当該企業・組織 するだけでなく、経済社会への貢献(部品・製品の安 の事業継続を確保し、雇用の安定や納税を維持するこ 定供給、製品の安全性確保等)にも目を向けなければ とは、地域社会・経済の持続可能性の確保につながる ならない。 CSR 活動の一環と考えることができる。 企業は事業継続のための計画(BCP)を策定し、 3.CSR に含まれるグリーン IT、BCP の IT 投資評価 PDCA を回して改善するというマネジメント(BCM: 指標の方向性 Business Continuity Management)を実践することによ CSR の基本コンセプトの一つである「持続可能性」 り有事への対応を図ることができる。BCP においては、 (企業の持続可能な成長の実現)に関して、 (財)日本 事業継続の生命線となる中核事業・業務を事前に見極 規格協会が「持続可能な成長を実現する質のマネジメ め、不測の事態発生により事業が中断した場合を想定 ントシステム(JIS Q 9005/9006) 」を制定(2005.12.20) してこれらを最優先に迅速に(設定された目標復旧時 している。ここでは,無形の製品・価値も取り扱ってい 間内に)復旧させる計画を立案する。ポイントとなる るので有形(物/品)のイメージを伴う「品質」ではな のは企業存続のために最低限どの事業・業務を確保す く「質」という言葉を用いている。 るか(それ以外は断念する)を見極めることである。 JIS Q 9005 は「持続可能な成長の指針:変容する環 BCM が通常のリスクマネジメントと異なるのは、時 境に組織が適応するための質マネジメントシステムモ 間的制約(企業が存続するための対応許容時間)が大 デルの規定」であり、JIS Q 9006 は「自己評価の指針: きなファクターとなっていることである(図9) 。 質マネジメントシステムの改善・革新を支援するため の自己評価方法の指針」となっている。 最初に「JIS Q9005/9006 ガイド」 ( (財)日本規格協 会 2006.6.30)の概要を記載する。 3-1.JIS Q 9005 持続可能な成長の指針 企業が短期的な成功だけでなく長期的に持続して成 功を収めるためには、取り巻く経営環境の変化に対応 図9緊急事態の発生と BCP 策定の効果(中小企業庁 2006) し、組織の学習からくる必要な改革を迅速に行ない、 顧客を含む社会の要請に適格に応えることによって実 経済産業省「事業継続計画策定ガイドライン」 現可能となる。JIS Q 9005(持続可能な成長の指針) (2005.3)によれば、現実的に起こっている事業中断 の基本概念の内、主要な3つを紹介する。 は情報システム障害によるものが非常に多く、BCP に 8 KIIS Quarterly vol.4-1 2009.4 持続可能性の視点から見た CSR、グリーン IT、BCP ―中堅企業の生き残りに向けた模索― (3)組織能力像の明確化 (1)質マネジメントの12原則 JIS Q 9005 では、競争優位・事業成功のために必要 図 10 の 12 原則を質マネジメントシステムモデルの な組織が持つべき能力の全体像として、組織能力像の 思想基盤として提示している。 明確化し、特に重要な能力(企業価値に重要な影響を リーダーシップ 運 営 ⑦全体最適 ⑧プロセスアプローチ ⑨事実に基づくアプローチ ③ビジョナリーリーダーシップ 与える要因)を特定することを提示している。 価 値 組織は、自社にふさわしい質マネジメントシステム ①顧客価値創造 ②社会的価値重視 計画し持続成長可能な成長を実現するために、当該事 経営資源 ⑤人々の参画 ⑥パートナーとの協働 業領域における競争優位要因及び事業成功要因の視点 から組織能力像を明確にし、重要な能力の総体として 自我の確立 ④コアコンピタンスの認識 の組織能力像を下記の手順で特定する。 ) シ 組 ナ 織 リ 能 オ 力 実 像 現 の の 特 鍵 定 ( ( 特 事 徴 業 を 成 踏 功 ま の え シ た ナ 筋 リ 書 オ き ) 強 特 化 に す 重 べ 要 き な 能 能 力 力 を の 絞 特 込 定 む ) ) (2)3階層マネジメントモデル ( ) 組 組 織 織 の の 強 特 み 徴 と 弱 み ) 価 持 値 つ 提 べ 供 き の 能 能 力 力 の 列 挙 ( ( ー 図 10 質マネジメント 12 原則の関係(日本規格協会 2006) 顧 顧 客 客 の 価 購 値 入 の 理 明 由 確 化 ) 提 製 供 品 若 ・ し サ く ビは 提 ス 群供 のを 列計 挙画 ( ( 組織文化 ⑩組織及び個人の学習 ⑪俊敏性 ⑫自立性 図 12 組織能力像の明確化の手順 JIS Q 9005 は①製品・サービスの継続的改善、②質 マネジメントシステムの継続改善、③質マネジメント システムの革新の三階層で構成されている。それぞれ 製品サービス戦略、 3-2.JIS Q 9006 自己評価の指針 事業戦略、全体戦略といった経営戦略に応えるための (1)JIS Q9005/9006 の規定項目 主な規定項目は JIS Q 9005 と JIS Q 9006 で1.適用範 マネジメントシステムである。 特に最後の改革層が重要視されている。他2層の問 囲、2.引用規格、3.用語及び定義ならびに下表に示 題点・課題を明確にし、課題可決のために必要ならば す項目名の共通化が図られている。項目名が異なって 既存の枠組みを変化する経営環境に対応すべく変える いるのは項目4のみで、JIS Q9005 では質マネジメント ことが必要である。 モデルの基本概念、JIS Q 9006 では自己評価の枠組み となっている。 なお、企業は全ての規定事項を満足させる必要はな 持続可能な成長の実現 く、自立的に判断して取り組む規定事項を選択すれば よいとされている。 質マネジメントシステムの革新 (全体戦略) 表2 JIS Q 9006/9006の自己評価の対象項目(大項目、中項目) 大項目 5 学習及び革新 6 質マネジメント システム 質マネジメントシステムの継続的改善 (事業戦略) 製品・サービスの継続的改善 (製品・サービス戦略) 7 経営者の責任 質マネジメント12原則(基本的考え方) 図 11 3 階層マネジメントモデル(日本規格協会 2006) 5.1 5.2 6.1 6.2 6.3 6.4 6.5 6.6 7.1 7.2 7.3 7.4 7.5 中項目 学習 革新 一般 質マネジメントシステムの形態 経営戦略 事業戦略 質マネジメントシステムの計画 質マネジメントシステムの構築及び実施 経営者のコミットメント 顧客重視 利害関係者に対する責任 質方針 責任、権限及びコミュニケーション 9 KIIS Quarterly vol.4-1 2009.4 持続可能性の視点から見た CSR、グリーン IT、BCP ―中堅企業の生き残りに向けた模索― 8 経営資源の 運用管理 9 製品・サービス の実現 10 質マネジメント システムの改善 11 顧客及びその他 の利害関係者の 認識の把握 12 質マネジメント システムの革新 8.1 8.2 8.3 8.4 8.5 8.6 8.7 8.8 9.1 9.2 9.3 9.4 9.5 9.6 9.7 9.8 9.9 9.10 9.11 10.1 10.2 10.3 11.1 11.2 11.3 11.4 11.5 11.6 12.1 12.2 一般 組織の人々 パートナー インフラストラクチュアー 業務環境 財務資源 知的資源 経営資源の提供プロセスの監視及び測定 一般 マーケティング 研究開発 製品サービスの計画 設計・開発 購買 製品及びサービス提供 製品・サービスの検査及び試験 JISQ9006の5.1~12.2 の評価項目例 (評価の視点、指標) 共通の成熟度 レベル 評価項目の設定 成熟度レベルの 判定基準の設定 計画・実施状況 の自己評価 結果の状況の 自己評価 事実の記録 成熟度レベルの確定 製品・サービスの引渡し及び引渡し後の顧客サポート 製品・サービス提供 製品・サービス実現のプロセスの監査及び測定 改善 内部監査 マネジメントレビュー 一般 顧客満足 組織の人々の満足 パートナーとの共生関係 投資者・株主の信頼 社会に対する影響 戦略的マネジメントレビュー 自己評価 図 13 自己評価の実施(日本規格協会 2006) ②評価基準の設定と自己評価の実施及び経営者の戦略 的マネジメントレビュー 組織能力像で明らかにされた重要な能力について、 特に重視すべき質マネジメントシステムの要素を特定 する。自組織に適した評価項目、評価指標を組織が決 出典:「持続可能な成長を実現する質マネジメントシステムJIS Q 9005/9006ガイド」日本規格協会 める。下表(自己評価のための共通成熟度モデル)を なお、三桁の項番(小項目)の表への記載は割愛した。 参考にしながら設定された評価項目に関して、計画・ 実施状況(マネジメントプロセス)の成熟度レベルと (2)自己評価と戦略的マネジメントレビュー マネジメント運用結果の成熟度レベルにわけてそれぞ JIS Q 9006 では第三者認証ではなく、自己評価を行 れの具体的な評価基準を設定し、重要な能力毎にその うとしている。 成熟度を計画の適切性、実施プロセスの妥当性、結果 JIS Q 9005 に基づき組織能力像を明確にした上で、 の有効性などの観点から評価し、記録する。 自己評価プログラム(評価基準)に従って自己評価を 行い、その結果を戦略的マネジメントレビューにより 表3 JIS Q 9006 の自己評価のための共通成熟度モデル 質マネジメントシステムの改革の必要性を判断する。 (日本規格協会 2006) レベル 計画・実施 計画に不備があるか、及び又は計画 1 ①自己評価の仕組み 2 JIS Q 9006 の雛形を参考に評価項目(評価の視点、 3 評価指標) 、並びに成熟度レベルを設定し計画・実施状 況と自己評価を行い、結果を戦略的マネジメントレビ 4 ューの資料とする。 5 どおりに実施されていない。 JIS Q 9001の要求事項にかかわる 手順は、確立され、実施されている。 組織能力像が明確にされており、それ によって実施すべきと認識した事項に 対する効果的な計画が策定され、実施 されている。 組織能力像が明確にされており、実施 事項に対する効果的、かつ効率的な 計画が策定され、その重要性が認識 され、実施され、組織に浸透している。 環境の変化に対応できる革新的な計画 が策定され、計画策定過程で得られた 知が共有化され、知の創造がなされ、 質のマネジメントシステムの各要素にお いて継続的に改善及び革新が実施され ている。 結果 ・計画どおりの結果がでていない。 ・競合者で下位である。 ・ほぼ計画どおりの結果が出ている。 ・競合者と比較して中位の下である。 ・計画どおりの結果がでている。 ・競合者と比較して中位の上である。 ・計画どおりの結果を効率的に出している。 ・競合者と比較して上位である。 ・どのような経営環境にあっても計画どお りの結果を効率的に出している。 ・競合者と比較してベストプラクティスをも つトップクラスである。 10 KIIS Quarterly vol.4-1 2009.4 持続可能性の視点から見た CSR、グリーン IT、BCP ―中堅企業の生き残りに向けた模索― 評価項目 小項目 重要な 能力 評価 結果 小項目成熟度 (根拠及び改善が必 レベル 要な場合の改善策) 計画・実施 総合 成熟度 レベル 表4に JIS Q 9005/9006「11 顧客及びその他利害関 係者の認識把握」の各項目と CSR、グリーン IT、BCP 結果 の関連性の試案を示す。現在、CSR、グリーン IT、BCP 計画・実施 の縦割りの運用に加えて、横串からも捉えることによ 結果 って、統合的にマネジメントすることができる。 計画・実施 結果 図 14 自己評価結果記録表(日本規格協会 2006) 社会 慢性影響(インフルエンス) 持続可能性 経営者は自己評価結果(重要な能力に関する計画・ 環境 経済 実施と結果の成熟度評価)と取り巻く経営環境の変化 社会 を勘案し、プロセス、システムなどの必要な革新・改 CSR グリーン IT 持続可能性 環境 善の指示をする。 経済 社会 3-3.CSR,グリーン IT、BCP の IT 投資評価指標の検討 BCP 持続可能性 環境 の方向性 経済 CSR とグリーン IT と BCP の関係は、持続可能性を 急性影響(インパクト) 共通のプラットフォームとして図 15 のような関係に 図 15 ある。 CSR とグリーン IT と BCP の関係 表4 持続可能性のマネジメントと CSR、グリーン IT、BCP の関連性(日本規格協会 2006) CSR 持続可能な成長を実現するマネジメントシステム(JISQ9005/90 11.1 一般 11.2 顧客満足 製品・サービスに係る安全・個人情報保護等 11.2.1 顧客満足の監視測定 顧客からの受付情報分析、アンケート調査等 11.2.2 顧客満足の監視測定の結果の分析、及びその活用 上記の結果分析と情報開示等 11.3 組織の人々の満足 労働慣行、労安、人材育成、多様性、人権等 11.3.1 組織の人々の満足の監視測定 面談、実態調査等 11.3.2 組織の人々の満足の結果の分析、及びその活用 課題把握と働き甲斐のある職場作りへの反映 11.4 パートナーとの共生関係 バリューチェーンの共有(供給元、取引先等) 11.4.1 パートナーとの共生関係の監視測定 パートナーのCSR取組み状況調査 11.4.2 パートナーとの共生関係結果の分析、及びその活用サプライチェーンの中のCSRリスク対応等 11.5 投資者・株主の信頼 社会的責任投資(SRI)、内部統制 11.5.1 投資者・株主の信頼の監視測定 ポジティブ/ネガティブクリーニング 11.5.2 投資者・株主の信頼結果の分析、及びその活用 企業のCSR経営(健全性)の評価 11.6 社会に対する影響 社会活動への参画、ステークホールダ特定等 11.6.1 社会に対する影響の監視測定 ステークホールダエンゲイジメント評価等 11.6.2 社会に対する影響結果の分析、及びその活用 CSR第三者評価と結果のCSR報告書等 表4を参考に、 グリーン IT ならびに CSR、 BCP/BCM グリーンIT BCP/BCM ITを活用した環境への配慮等 緊急時事業継続の安心感の提供 環境効率(生活の質/環境への影響BCM、人・物・情報の代替機能評価 企業のエコブランドの向上 BCP・BCM取組み状況の説明責任 IT活用によるワークスタイル改革 緊急連絡、安否確認システム等 利便性向上や移動時間調査等 緊急時訓練の実施(役割) 働きやすさ・仕事の質の評価等 緊急時の役割の認識 電子取引、LCA環境負荷の把握等 緊急時相互扶助の連携 人・物・情報の移動効率化の把握 連携訓練の実施 トータルシステムで環境効率の向上 連携機能の実効性評価 経営効率と環境対応の両立性 緊急時対応力・コア事業の持続性 グリーンITの省エネ効果等の検証 BCP策定、BCM運用の成熟度 グリーンITの投資効果 リスクマネジメント対応力の評価 省エネによる温暖化対策への寄与 製品・サービス提供維持、雇用確保 グリーンITの省エネ効果の可視化 コア事業の継続性評価訓練 省エネ効果の評価と公表 緊急時に対する経営能力評価 IT 投資 における IT 分野の内容を抽出し、これらの IT 投資評 価指標を検討していきたい。当財団の 2009 年度の IT IT 分野の CSR (重なる部分) 投資に関する調査の概念図を図 16 に示す。 グリーン IT、BCP CSR IT 分野の CSR のグリ ーン IT、BCP を IT 投 資の一部として調査 図 16 IT 投資と CSR、グリーン IT、BCP の関係 11 KIIS Quarterly vol.4-1 2009.4 持続可能性の視点から見た CSR、グリーン IT、BCP ―中堅企業の生き残りに向けた模索― Ⅳ.おわりに (JIS Q 9005/9006) 」の「持続可能性」から共通の枠 京都議定書約束期限以降(2013 年~)の国際的な気 組み方向性を探ったが、今後は、英国規格協会(BSI) 候変動に対する枠組みとして、2050 年までに世界全体 から発行されている BS8900「持続可能な発展を管理す の温室効果ガス排出量を半減以下にする必要があると るためのガイド規格」 (2006 年 6 月)や ISO26000(SR いう認識が主流となってきている。そのレベルは地球 の国際規格)の制定動向なども参考にしながらもう少 の平均気温上昇を2℃以内に抑えることにより致命的 し詳細な検討を加えていきたい。 な気候変動を回避するというものである。このような 本レポートが、中堅企業等においても今後取り組ま 低炭素社会を実現するためには、革新的な技術開発が れていくであろう CSR に含まれるグリーン IT、BCP され、人々の考え方が変わり、社会システム(企業の の IT 分野に係る IT 投資評価指標の提案に向けての一 ビジネススタイルや生活者のライフスタイルなど)を 里塚になれば幸いである。 現在とは大きく異なったものに変革していく必要があ る。それは社会、環境や社会との調和を図りながら経 参考文献 済成長や収益向上一辺倒の発想からの脱却した調和型 日本規格協会(2006 年) 「持続可能な成長を実現する 質マネジメントシステム JIS Q 9005/9006 ガイド」 脱温暖化社会の到来ともいえる。 飯塚 悦功監修 また排出権取引の国際状況を見てみると、 EU では、 排出上限(キャップ)を企業に割り当て、上限に対す DIR 経営戦略研究 2006 年夏季号 Vol9「持続可能性 る過不足を取引きするといった強制参加型の排出権取 「Sustainability サステナビリティ」とは何か」河口 引(キャップ・アンド・トレード方式)が 2005 年から 真理子 (社)経済同友会(2003 年)第 15 回企業白書「 「市場 行われている。また、アメリカと共同で共通のルール の進化」と社会的責任経営」 作りをし始めている。同方式は日本で主流の京都メカ 日本公認会計士協会(2007 年)経営研究調査会研究資 ニズムのベースライン・クレジット方式に比べて、企 料第 2 号 「CSR 情報に関する KPI の選択とその開示」 業の排出枠の納得性のある割り当てが難しい反面、削 ダイヤモンド・ハーバード・ビジネス・レビュー(2008 減目標を達成しやすいというメリットがある。 更に EU では 2020 年を目処に輸入品に対して排出権購入の義 年) 「競争優位の CSR 戦略」 務付けを検討するなど、国際的な排出権経済が生まれ マイケル・ポータ、マーク R.クライマー 日本規格協会(2008 年) 「BCM(持続継続マネジメン ようとしている。 企業は限られた経営資源を有効に活用するために、 ト)入門」小林 誠、渡辺 研司 (財)省エネルギーセンター(2008 年) 「平成 19 年度 環境を含む CSR の項目について網羅的に取り組むの 省エネルギー技術普及促進事業報告書」 ではなく、自社の事業に関連した項目でしかも長期的 総務省(2008 年) 「地球温暖化問題への対応に向けた 観点から社会的にも評価される重要性の高い項目に特 ITC 政策に関する研究報告書」 化して戦略的に取り組むことが必要である。企業が社 (財)日本適合性認定協会(2007 年) 「環境マネジメ 会の要請に応えていくためには、社会の声の一部を代 ントシステム運用状況調査報告書」 表すると考えられるステークホールダーとの積極的な 日本経済新聞出版社(2008 年) 「排出量取引入門」三 意見交換と事業への反映も企業の持続的発展に有効に 菱総合研究所編 働くものと思われる。 「グリーン IT 完全理解」ITpro 日経 BP 社(2008 年) 企業は CSR、グリーン IT、BCP について個別に取り グリーン IT 取材班 組むのではなく、持続可能性の観点から統合的に取り 組むことにより効果的に長期的な競争力を高めること ができる。 今回は、CSR、グリーン IT、BCP の評価指標を「持 続可能な成長を実現する質のマネジメントシステム 12 KIIS Quarterly vol.4-1 2009.4