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踵骨骨壊死を伴った多発性骨壊死症の1例

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踵骨骨壊死を伴った多発性骨壊死症の1例
用壊死イ斑
引骨壊ロ紫
索骨骨テ性
語
死
症
ド病
特
減
多 板
踵
発性
ス
少
発性血小
仙台市立病院医誌 21,71−75,2001
踵骨骨壊死を伴った多発性骨壊死症の1例
松谷重恒,安倍吉則,高橋 新
渡辺 茂,高橋徳明,柴田常博
主訴:右股関節,右膝関節,左足関節部の痙痛
はじめに
家族歴:特記事項はない。
頭や上腕骨頭に骨壊死症が見られるが,踵骨に骨
既往歴:平成8年,ITPと診断され平成8年12
月から平成9年11月まで総量1,948mgのpred−
壊死が見られたという報告は本邦,国外ともにま
nisoloneを内服した。
れである。われわれは最近,特発性血小板減少性
現病歴:平成10年5月から誘因なく左足関節
紫斑病(以下ITP)の既往があり,ステロイド剤
痛が出現し,ほかの整形外科医院で変形性足関節
ステロイド剤の内服歴のある患者で時に大腿骨
内服歴のある患者で大腿骨頭,脛骨,距骨ならび
に踵骨に発症した多発性の特発性骨壊死症を経験
した。この症例は病態が不明で治療にも難渋する
まれな例と思われたので報告する。
症
例
患者:58歳,男性
表1.血液生化学所見
末梢血
図1.単純X線撮影,両股正面像
Na
142mEq/】
385×10」/μ1
K
3.7mEq/1
Hb
1129/dl
Cl
106mEq/】
Ht
33.4%
TP
7.69/dl
P]t
19.0×IO4/μ1
AIb
4.19/dl
WBC
6.9×103/μ1
RBC
BUN
Cr
血液生化学
GOT
GPT
ALP
LDH
CHE
γ一GTP
右大腿骨頭に軽度の圧潰像を認める。
]81n9/dI
O.8m9/dl
181U/1
UA
6.6rng/dl
161U/l
BS
120mg/dl
l651U/1
2651U/1
尿検査
2381U/1
糖 0.01g/dl
511U/1
T.Bil
0.51ng/d1
ZTT
6.5KU
仙台市立病院整形外科
蛋白 71η9/dl
(a)
(b)
図2.単純X線撮影,両Lauenstein像
a.右Lauenstein像, b.左Lauenstein像
両側ともにcrescent signを認める。
Presented by Medical*Online
72
症・距骨壊死症の診断のもと約3ヶ月間入院した。
像では両側ともにcrescent signが認められた(図
その後,平成11年10月に右膝関節痛,平成12年
7月には右股関節痛を伴うようになり,大腿骨頭
1,2)。一方,左足関節部では,距骨の圧潰による
壊死症が疑われ当科を紹介された。
みられたが,踵骨では骨萎縮以外に明らかな病変
二次的な関節裂隙の狭小化と距骨体部の骨硬化が
初診時現症:右股関節,右膝関節,左足関節に
は認められなかった(図3)。
運動時痛があり破行も見られた。右Scarpa三角
MRI所見:股関節部では両側の大腿骨頭のい
には圧痛を認め,関節可動域は股関節外転が左30
ずれにもT1強調像で低信号, T2強調像でやや高
度・右20度,左足関節背屈が右10度・左0度と
信号の辺縁不整,内部不均一なband pattern像を
右股関節および左足関節で軽度の運動制限を認め
認め,右側骨頭では圧潰変形がみられた(図4)。
た。ほかの関節には可動域制限はなかった。
また左足関節部では,脛骨遠位・距骨・踵骨に
血液生化学所見:明らかな異常はみられず血小
T1強調像で低信号ないし等信号, T2強調像で低
板も正常範囲内であった(表1)。
信号から高信号の混在する辺縁不整で内部の不均
単純X線撮影所見:両股関節正面像で右大腿
骨頭に軽度の圧潰像がみられ,またLauenstein
骨シンチグラム:右大腿骨頭と両膝関節および
一 な病変が認められた(図5)。
両足関節部での高集積がみられ,とくに大腿骨頭
ではcold in hotの像が認められた(図6)。
以上のことから本症例の診断として多発性骨壊
死症を疑い,腰椎麻酔下に踵骨の開放生検と病巣
掻爬ならびにリン酸カルシウム骨セメントペース
ト(CPC)の充填をおこなった。
手術所見1踵骨の外側方進入により骨ノミで
1×1cm方形の骨孔をあけ,ここから病巣部を掻
爬した。その際の摘出骨髄はほとんどが黄褐色の
海綿骨で,肉眼的にも壊死骨と推定された。掻爬
図3.単純X線撮影,左足関節正面・側面像
距骨の圧潰による関節裂隙の狭小化と骨硬化が
みられる。踵骨には明らかな病変は認められな
い。
後,踵骨死腔部に9gのCPCを充填して抵抗減弱
部を補強した。
病理組織所見:骨梁は細小化し,一部の骨梁に
(a) (b)
図4.MRI,両股冠状断像
a.Tl強調像, b. T2強調像
両側の大腿骨頭にband pattern像を認め右側骨頭には圧潰変形がみられる。
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(b)
(a)
図5.MRI,左足関節矢状断像
a.Tl強調像, b. T2強調像
脛骨遠位・距骨・踵骨に辺縁不整で内部の不均一な病変を認める。
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(a)
獅
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一
一
図6.骨シンチグラム
右大腿骨頭と両膝関節および両足関節部の高集
積がみられ大腿骨頭にはcold in hotの像を認
:,”’“’
’
める。
声
N ∵l 」”・t
顧叉
は骨小窩内の骨細胞の変性,壊死,消失などが認
められた(図7)。また骨梁間には,散在性にフィ
ブリンの析出やヘモジデリン倉食組織球を伴った
線維性組織がみられ,脂肪組織や形質細胞,リン
パ球などが確認され,全体的には骨粗髪症病変と
J
(b)
図7.病理組織所見(HE染色)
a.弱拡大,b.中拡大
骨梁は細小化し,骨細胞に変性・壊死・消失な
どを認める。
阻血性変化を呈する組織像であった(図8)。
術後単純X線撮影:踵骨内に辺縁整で楕円形
の充填したCPC像が見られる(図9)。
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二 図9.術後単純X線撮影,左足関節側面像
踵骨内に充填したCPC像がみられる。
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44
ら s ㌣・ 一
部での発症が多い。西搭二らの報告によれば,長管
骨骨端部での発症が骨壊死の部位別頻度中の
87%を占めるという1)。長管骨以外では手舟状骨,
(b)
図8.病理組織所見(IIE染色)
a.弱拡大,b.中拡大
骨梁問には,散在性にフィブリンの析出やヘモ
ジデリン貧食組織球を伴った線維性組織がみら
れ,脂肪組織や形質細胞,リンパ球などが確認
され,全体的には骨粗籟症病変と阻ICIL性変化を
呈する組織像であった。
手月状骨,中手骨,中足骨,距骨など血流障害の
生じやすい部位に発生することがある。しかし踵
骨での発生例は欧米の文献に数例散見されるのみ
で2∼4),本邦での報告例はほとんどみあたらない。
本症例では画像上両大腿骨頭,両大腿骨頼部,両
脛骨遠位部,左距骨,左踵骨での骨壊死症が疑わ
れたが,診断確定のために左踵骨の開放生検,病
術後経過:術後3週から部分加重を開始し6週
巣掻爬術などをおこなって,明らかに踵骨の骨壊
で足底板を装着の上,全加重を開始した。現在,当
死症と診断し得た例である。
初の歩行時痛は軽減している。
ところで骨壊死症の病因としては,ステロイド
やアルコールに関連するもの,外傷に起因するも
考
察
の,まったく原因が不明な特発性のものなどのほ
骨壊死症のなかではステロイドやアルコールに
か,腎移植後の患者や潜水夫にもみられることが
関連する特発性大腿骨頭壊死症(10N)が有名で
ある。本症例ではITPの既往とともにステロイド
あるが,一般に多発性骨壊死症とはIONにほか
剤の内服歴があり,基礎疾患のITPやステロイド
に関連した病因が考えられた。ステロイドにより
の関節部位の骨端部に骨壊死症を合併したものを
指す。ただIONの有無にかかわらず,異なった二
関節以上の骨端部に骨壊死が生じた例を指すこと
起因する血管病変説6),骨粗髭化と骨形成能の低
もある。発症部位としては大腿骨頭,大腿骨頼部,
下から支持骨梁がlnicrofractureを起こし二次的
上腕骨頭,上腕骨頼部,脛骨穎部など長管骨骨端
に血行障害をきたすという機械説,高脂血症や脂
骨壊死が起こる機序としては血管炎や血栓形成に
Presented by Medical*Online
75
肪代謝障害から脂肪塞栓をきたした結果とする脂
る患者で踵骨骨壊死を伴った多発性骨壊死症の画
肪塞栓説,骨髄内圧元進や血液凝固機転の異常に
像や病理組織について述べた。
よる説など多数の説があるが,まだ確定的なもの
2) 本症は修復能が低下した全身性の要因と,
はない。また長期のステロイド療法は組織あるい
局所,とくに骨幹端部の血行を主とした解剖学的
は細胞レベルで骨芽細胞活性を抑制するととも
に,腸管からのカルシウム吸収を抑制して続発性
副甲状腺機能元進症を併発させ,その結果,全身
考えられた。
要因とが相まって発症した慢性の阻血性骨疾患と
文
そのことと骨壊死発症の関係についてはまだ不明
西搭 進 他:多発性骨壊死一疾患概念と病態,
1
︶
のままである。
今回のわれわれの症例では,画像から多発性骨
2
Baron M et al:Aseptic necrosis of the talus
patient with pancreatitis, subcutaneous fat
の病巣掻爬術とCPCによる補填をおこなった。
necrosis, and arthritis. Arthritis Rheum 27:
︶
その結果,肉眼的所見,病理組織所見のいずれで
3
1309−1313,1984
11uwez FU et al:Osteonecrosis(〕f the cal−
caneum in a heart transplant recipient. Thor−
とは異なり,本来,血行の良い部位であるが,こ
︶
の部位に壊死をきたした要因としては,修復能が
病理について .整形外科36:1235−1242、1985
and calcaneal insu箭ciel〕cy fractures in a
壊死症が疑われ,診断と治療の目的でまず踵骨部
も骨壊死症であることが判明した。踵骨は骨端部
献
︶
性の骨吸収をきたす5・6)などともいわれているが,
4
ac Cardiovasc Surg 45:204−205,1997
Allen BJ et al:Bilateral aseptic necrosis of
低下した全身性要因のほか,この症例に限った踵
calcanei in an adult male with Sicl(le cell
骨周囲での何らかの慢性的な血行障害が考えられ
disease treated by a surgical corir〕9 Procedure.
部位にも壊死性変化が認められるため,今回は装
︶
た。治療法として画像上,大腿骨頭やそれ以外の
5
具の着用・リハビリテーションなどで経過をみて
組織組成に及ぼす影響.別冊整形外科35:80−84,
いるが,今後,人工関節を中心とした外科的加療
︶
が必要になり得るので,ほかの部位での壊死症の
6
7
1999
杉岡洋一:ステロイド性大腿骨頭壊死.整形外科
︶
状況を考慮しながら経過を見守っていきたい。
ま と め
JRheumatol 101294−296,1983
高田信二郎 他:ステロイド内服療法中に発生
した特発性大腿骨頭壊死症が骨代謝および軟部
1>look 24:32−50,1982
安倍吉則 他;病理組織像からみた特発性大腿
骨頭壊死症の病態.別冊整形外科35:18−24,
1)ITPの既往があり,ステロイド内服歴のあ
1999
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