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新しい分子設計に基づく有機フォトリフラクティブ材料の
新しい分子設計に基づく有機フォトリフラクティブ材料の創製 東京農工大学生物システム応用科学教育部・荻野 賢司 1.はじめに フォトリフラクティブ(PR)効果とは、光照射により材料中に空間電界が形成され、屈折率が 変化する現象で、光異性化反応等により誘起される分子屈折率変化とは狭い意味では区別され て用いられている。 図1(a)に示すように2本のコヒーレントな光波の照射を行うと干渉縞が形成し、光強度の強 い部分では励起種の光イオン解離によりフリーなキャリアが生成する(有機材料においてはこ のプロセスは強い電場依存性を示し、一般的に Onsager 理論 1)に従う)。干渉縞の周期は2本の ビームのなす角度、波長、媒質の屈折率に依存する。生成したキャリア対の中で、より移動し やすいもの(正孔または電子)が密度勾配に起因する拡散や内部または外部電界によってドリ フトする(b)。一般的には、後者の機構(ホッピング電導)が支配的といわれている。ドリフト 移動度は通常の有機電荷輸送材料と同様な電場及び温度依存性を示す 2)。ドリフト移動度は極 性分子の添加により、減少することが知られており 3)、非線形光学活性分子等を含む PR 材料中 でのドリフト移動度は一般的に低下していると考えられている。次に輸送された電荷はトラッ プされる。トラップが空間的に均一に分布している場合でも定常状態を考えたとき、暗部にト ラップされるキャリアの数が多くなり、新たな空間電界が形成する(c)。アモルファスな有機 PR 材料の場合、ホッピングサイトのエネルギーには分布が存在し、エネルギー的に低いサイトが トラップとして働く。電荷がトラップにとどまる寿命はトラップの深さに依存する。最後に材 料が電気光学的に活性ならば、空 I1 I2 間電界の強度を反映した屈折率 分布が材料中に生じることにな I る(d)。 (a) ー ここで注意すべき点は、屈折率 光キャリアー 変調ともとの光強度変調が同位 の発生 相にならないことである。空間電 場の強度は Poisson 方程式に従い 電荷の分布から決まるが、電荷の I 輸送が純粋に拡散あるいはドリ (b) フトによって支配される場合に、 電荷輸送 90o の位相のずれが生じる。この 場合に透過光と回折光の位相が 整合し、一方の光波から他方へと π/2 エネルギーの移動がおこる。この 位相のずれは光異性化等の他の 現象では観察されず、PR 効果に ρ (c) 特有なものである。PR 効果によ トラップ & り形成された屈折率格子を利用 電荷の し、光増幅素子、現像不要なホロ 再分布 グラムメモリー、位相共役鏡等へ の応用が期待されている。 PR 効 果 に 関 し て は 、 当 初 Esc LiNbO3 を中心とする無機の電気 (d) & 空間電界形成 ∆n 光学効果を有する結晶について & 研究が進められた。90 年代に入り、 屈折率変調 有機化合物の高い非線形性、低誘 電率、多様な分子構造、加工の容 図1 フォトリフラクティブ効果発現機構 易さが注目を集め、無機材料を凌 駕する材料も報告されている 4)。 2.PR 材料の評価法 図2に PR 測定のための実験系の概略を示す。 通常、PR 材料は ITO のような透明電極によりサ ンドウィッチされ、膜厚 100µm 程度の薄膜とし て評価される。格子の書き込みは互いにコヒーレ ントな beam1及び 2 を材料中で交差させること で行う。1 と 2 の偏光は同じとする。非線形光学 活性部位は外部電場方向(E0)に配向する(膜に 対して垂直) 。2本の beam の2等分線に対して垂 直な格子ベクトルに対して電気光学定数が 0 に ならないようにサンプルはチルトしている。四光 波混合(FWM)実験では読み出し光として書き込 み光と比較して強度の弱い beam3 を beam2 に対 向して入射し、回折光 4 を観察する。回折効率は 次式で示される。 η (% ) = I 4 I × 100 4 1 2 air ΘG E0 KG PR material air 3 図2 (1) PR 測定の実験系の概略 3 書き込み光:beam1,2、E0:外部電場、KG: ここで I3 及び I4 は beam3,4 の強度である。屈折率 格子ベクトル、読み出し光(四光波混合 の変調が大きいほど、回折効率は大きくなる。屈 折率格子は、PR 効果以外の光異性化や光化学反 の場合):beam3(beam2 に対向。通常、 応によっても書き込まれる可能性がある。格子が 書き込み光と比較して十分に弱い強度) 、 PR 効果に由来することを証明する方法が二光波 混合法(2BC)である。前述したように PR 格子は、 回折光:beam4(beam1 に対向) 干渉パターンと位相がずれており、一方の beam から他方へ非対称なエネルギー移動が起こる。 beam1 と 2 の透過光強度を測定することでビーム結合利得を算出できる。結合比 γ= I with pump/I 。 without pump とすると結合利得係数Γは以下のように表される(I は透過光強度である) 1 Γ = [ln (γ 0 β ) − ln(β + 1 − γ 0 )] (2) L ここでβは2本の入射光の強度比、L は光路長(=d/cosθ)である。Γの値が材料の吸光係数 を越え ると(Γ−α>0)、正味の利得が得られることになる。 応答速度もまた PR 材料の評価の上で重要なファクターである。実時間ホログラム等への応用 を考えた場合、10 ms オーダーの応答速度が要求される。電気光学的な応答は非常に速いため、 PR 応答は空間電場の形成速度に依存する。バンド輸送モデルによると空間電場の時間依存性は (3)式で表される 5)。 E SC = E 0 SC [1 − exp(− t τ )] (3) E0SC は定常状態における空間電場で、τは応答の時定数である。回折効率の小さい領域で ここで は、それは空間電場の2乗に比例すると近似できるため回折光の時間変化は次式のようになる。 ここでη0 は定常状態での回折効率である。 η(t) = η 0 [1 − exp(− t τ )] 2 (4) 空間電場の形成速度は、材料の光導電性が高いほど大きくなる。最近の高い回折効率を示す材 料では、単一の時定数で応答を記述できない場合が多い。これは屈折率の変調が、配向増大効 果 6)により大きくなる現象に由来すると考えられている。配向増大効果とは形成した空間電場 により電気光学活性部位がさらに再配向し、その複屈折性により屈折率の空間的変調が生まれ るというものである。このような系においては次式のような2つの時定数を含む関数で応答を 評価することが多い。 η(t) = η 0 [1 − a exp(− t τ1 ) − (1 − a ) exp(− t τ 2 )] 2 a はそれぞれの成分の分率を表す。 (5) 3.有機 PR 材料の分類と現状 有機材料が PR 活性になるために必要な要素は以下の通りである。まず、光照射によりフリー なキャリアが発生し、拡散またはドリフトにより移動する必要がある。つまり材料は光導電性 でなければならない。また、形成した空間電場に応答した屈折率変調を生み出すため、材料は 1次の電気光学効果を示さなければならない(最近では大きな屈折率変調は、空間電場による 双極子の再配向による増大効果によるものとされている)。そのため、PR 効果は材料科学者に とって比較的なじみ深い有機光導電性と2次の非線形光学活性を同時に持った材料において発 現する。 有機化合物で最初に PR 効果が観察されたのは電子受容体でドープした電気光学結晶 7)におい てであるが、加工性や機械的強度に優れたポリマー系のアモルファス材料へと研究対象は移行 した。ポリマー系材料は、1)電気光学活性なポリマーに電荷輸送分子をドープした材料、2) 電荷輸送性のポリマーに電気光学色素をドープした材料、3)不活性ポリマーに電荷輸送分子 と電気光学色素をドープした材料、4)電荷輸送及び電気光学部位を高分子の主鎖または側鎖 に含んだ一体型材料等のカテゴリーに分類される。近年、低分子ガラス PR 材料も報告されてい る。それぞれについて例をあげて概説する。 3−1 電気光学活性なポリマーに電荷輸送分子をドープした材料 1991 年に IBM の Moerner らによって報 告された初めての PR ポリマーはこのタ OH OH CH3 イプである 8)(図3)。架橋反応により非 H2CHCH2C C O CH2CHCH2O N CH3 線形光学色素の電場配向の緩和が抑制さ CH2CHCH2 れたエポキシポリマー (bisA-NPDA) に正 OH CH3 N 孔輸送性のヒドラゾン誘導体 (DEH) を導 C O CH2CHCH2O CH3 入した電場配向複合体である。初期の材 料はこのタイプが多いが一般的に回折効 NO2 率、結合利得ともに小さい。 H5C2 N CH N N 3−2 電荷輸送性のポリマーに電気光 H5C2 学色素をドープした材料 このタイプでかつ室温程度のガラス転 移温度 (Tg)を持つ材料において高い回折 図3 bisA-NPDA:DEH の構造 効率や利得、速い応答が観察されている。 低い Tg の材料では、色素の運動性が増加して前述のような配向増大効果がおこるため、屈折率 の変調が大きくなると考えられている。電荷輸送性ポリマーとして正孔輸送性のポリビニルカ ルバゾール(PVK)が広く用いられている。PVK は Tg が高いが、電気光学色素や可塑剤をドープ することで室温付近まで下げることができる。図4a)の PVK ベースの複合体では回折効率がほ ぼ 100%、結合利得 200cm-1 が観察されている 4)。ここで 2,4,7-トリニトロフルオレノン(TNF)は カルバゾール単位と電荷移動錯体を形成し、電荷発生剤となる。エチルカルバゾール(ECZ)は正 孔輸送性の可塑剤である。 b)のホストポリマー(PTPDac-BA) 9,10)は側鎖にテトラフェニルジアミノビフェニル(TPD)単位 をもち Time-of-Flight 法により求めた正孔移動度は PVK と比較して 100 倍高かった。電気光学 色素である DEANST 及び増感剤の C60 をドープしたコンポジットの 2BC 測定から 8ms(at 70 V/ m)という速い応答時間が得られた。このポリマーは柔軟なアクリル酸ブチルを含む共重合 体であり、DEANST の添加で Tg が室温まで低下したため、可塑剤を添加する必要がなかった。 c)の材料系におけるホストポリマー(TPD-FA, TPA-FA)は、トリフェニルアミン誘導体とホ ルムアルデヒドを付加縮合することで簡便に合成することができる 11,12)。これらのポリマーに 電気光学色素である NPP 及び可塑剤である TCP をドープした材料について光導電性の大きさは TPD-FA>TPA-FA>PVK であり、PR 素子の応答速度も同じ順序となった。屈折率変調の大きさ を示す回折効率や利得は PVK>TPD-FA>TPA-FA の順になり光導電性との相関はなかった。屈 折率変調はトラップの数やエネルギー準位に依存すると考えられ、その制御は今後の課題であ る。d)の材料は、ホストポリマーの Tg が低く(51℃)、可塑剤を添加することなく優れた PR 特 性を示す 13)。 a) b) OCH3 CH3 CH2 CH x C O CH2CH3 N CH2 CH n N CH2 CH 1-x C O OCH2 CH3CH2 N CH2CH3 O nBu CH3 N PVK N N NO 2 O 2N NO2 TNF DMNPAA DEANST ECZ O NO2 CH3 CH3 O 2N N PTPDac-BA c) CH3 +C60 CH3 d) N N CH2 n TPD-FA N N CH3 CH2 TPA-FA 図4 NO 2 NPP Bu Si O n Bu N O TCP n CH3 P 3 O N DB-IP-DC NC O TNF NO2 O 2N PSX-CZ CN O 2N +C60 正孔輸送性ポリマーをベースとした PR 複合材料 電子輸送性ポリマーの研究は 正孔輸送性のものと比較して遅 CH2CH3 CH3CH2 CH2 CH CH2CH2CH2CH3 n N れている。PR 材料においても電 C O O O O O C O 荷輸送部位には上記のような S CH2CH2 PVK に代表される正孔輸送性の O O O 材料が用いられている。筆者らは O C S O 電子輸送性ポリマーの開発を行 NO 2 TH-nBu い、分子分散体と比較して高い電 DEANST P-THEA O 子移動度を持つことを示した 14)。 このポリマー(P-THEA)(図5)を 図5 電子輸送性 PR 材料 PR 材料のホストとして用いたと ころ、PVK 系の素子に匹敵する性能を示すことがわかった。P-THEA は DEANST と電荷移動錯 体を形成し、電荷発生剤を加えることなしで PR 効果が発現した。また、電荷移動相互作用によ り複合体中の色素の結晶化や相分離が抑制され、素子の安定性が大幅に向上した。屈折率格子 の位相のずれが、正孔輸送性の場合と比較して逆符号になり、2BC 測定におけるエネルギー移 動の方向が反転することがわかった 15)。 3−3 一体型ポリマー材料 ドープ系の材料には色素や可塑剤の結晶化や相分離といった形態上の安定性に問題がある。 この点に関して優れた材料が一体型材料である。比較的に初期にシカゴ大の Yu らによって報告 された材料系を図6に示す 16-18)。これらにおいては電荷発生単位もポリマー中に取り込まれて おり、真の意味での一体型材料であるが、回折効率は大きくない。a)のポリマーはポーリングに よる電気光学色素の配向により生じる内部電界により外部電場0において 5.9cm-1 という利得を 示す 19)。 a) Conjugated Polymer Charge transporter Charge generator N O S 0.95n S O N C6H13 0.05n N CH3 CH3O 2S NLO Chromophore b) Polyurethane H N H N O CH3 O H N O N H N O O CH3 O H N O N EtOOC N H N O O CH3 O S N O S O COOEt 0.45n 0.45n N Charge generator N 0.1n NO2 Charge transporter NLO Chromophore 多機能性 PR ポリマー 図6 b) a) CH3 CH3 CH2 C x CH2 C y C O C O CH3 CH2 C z C O OC8H17 O CH2 CH CH2 CH x C O 1-x C O OCH2 O(CH2)2 N COOnBu O COOnBu CH2CH2 CH3 N Et N +C60 NO 2 x:y:z = 0.17:0.53:0.3 DBP N +C60 CN H PENHCOM x=0.47, 0.69 CN P(TPA-DCV) c) CH3 CH3 N N CH3 O CH2 P 3 O TCP n N +C60 TDPANA-FA NO2 図7 2官能性 PR ポリマー 通常、要求される電荷発生剤(光増感剤)のドープ量は少ないため、その相分離や結晶化は 起こりにくいと考えられる。そのため、電荷輸送単位及び電気光学活性部位に含む高分子に電 荷発生剤をドープした材料系も多く報告されている。 図7に例を示す。Zhao らよって報告された PENHCOM(a)20)は、可塑剤なしで PR 効果を得よ うと設計された3元共重合体である(メタクリル酸オクチルを導入することでポリマーは可塑 化し、Tg は 47oC となる)。しかしながら、C60 を 0.2wt%ドープした場合の PR 特性はドープ系 材料と比較してあまりよくない(回折効率 0.9%、結合利得 7.5 cm-1 at 100 V/µm)。 b)の P(TPA-DCV)21)をアクリレート共重合体で、可塑剤を添加することで PR 効果が発現する。 可塑剤添加量により材料の Tg を変化させ、PR 特性との関連を調べた。ドープ系の素子の場合、 Tg と測定温度がほぼ等しいときに高い回折効率が観察されるが、一体型の素子では、Tg を測定 温度より 20℃程度低くしなくては高い回折効率が得られないことがわかった。共重合体の場合、 電気光学部位の運動が制限され、電場に対して配向しにくくなっているためと思われる。上記 a)の材料系でも Tg が高すぎることが低い回折効率の原因と考えられる。 c)の TDPANA-FA は電荷輸送性と電気光学的活性を併せ持つモノマーとホルムアルデヒドと の付加縮合により合成した。ポリマーの光導電性は、モノマーの分子分散体と比較して一桁上 昇し、4ms という応答時間が実現できた 22)。この値は現在報告されている PR 材料のうちミリワ ット級のレーザーを用いて得られた応答速度の中で最速である。 3−4 低分子ガラス一体型材料 図8に示す低分子化合物は室温で安定な分子状ガラスを形成し、優れた PR 特性を示す材料群 である。低分子化合物は構造が明確で分子量も単分散であることから高分子系材料と比較して コントラストの高い屈折率格子が形成できると考えられる。 このタイプの材料で最初に報告された a)は Lundquist らによる 2BNCM である 23)。この分子は ガラス転移点(25oC)を示し結晶化しない。0.3%の TNF をドープすることで 69cm-1(at 40 V/µm)の 結合利得を示す。理由の記述はないがポリメタクリル酸メチルを少量(10%)ドープすると、 応答が速くなる(τ=83 s at 40 V/µm でドープ系の材料と比較して大変遅い)。 b)は理研の和田らによって報告された一連のカルバゾール系オリゴマー24-26)の代表例である。 それぞれのカルバゾール環に導入した長鎖 N-アルキル基により結晶化が抑制される(Tg: 29oC) 24) 。TNF 量を変化させたところ 0.06wt%ドープしたときに回折効率、利得、光導電性は最大と a) NC b) COOCH3 +TNF+(PMMA) CH3 N (CH2) 13CH3 (CH2) 13CH 3 N N NC CH3 NC CH2CH(CH3)2 CN H H 2BNCM N +TNF (CH2) 13CH3 c) CN Carbazole oligomer d) +C60 N O CH2CH2 C O CH2OC O O CH2 CH2 CH3 A; CN TPA-DCVA O COOCH2CH2 O C O COOR N NC NO2 NC S O 2N THCN-NVA TPA-NA A 図8 低分子一体型 PR 材料 CH2CH2 C O O CH2 N CH2 CH3 なった(正味の利得(Γ−α):76cm-1 at 30 V/µm)。 c)に示した TPA-DCVA 及び TPA-NA は電荷輸送部である TPA 部位と電気光学活性な DCVA や NA 単位を一つの分子中に含むコハク酸エステルである 27)。TPA-DCVA 素子においては回折効 率 65%、結合利得係数 188cm-1 という値が得られ、高性能ポリマードープ系素子に匹敵する性能 を有していることが明らかとなった。また、室温においては1年以上経過しても結晶化は観察 されず、経時安定性に優れた材料であることがわかった。応答速度は図4の b)や c)のようなポ リマードープ系の材料に比べて遅くなったが(τ=3∼5s)、電荷輸送部の光導電性や電気光学活 性部位の運動性を高めることで改善を行っている。 d)は電子輸送部位としてチオキサンテン単位を含むコハク酸エステルである。この化合物も また室温で安定なアモルファスガラスとなる。図5のドープ系の材料と同様に電荷発生剤(光 増感剤)を加えることなしに PR 効果を示す。電子受容的なチオキサンテン部位と電子供与的な アニリン部位間で電荷移動相互作用が存在していると考えられる 28,29)。 4.ナノ構造を制御した分子設計 上述のように優れた PR 効果を示す材料は光導電性高分子 に EO 分子を分子分散した系や二つの機能を併せ持った多機 能性オリゴマーなど低いガラス転移点(Tg)を示す材料に限ら れている。このことから EO 活性部位の電場配向のしやすさ, 運動性の高さが PR 効果の発現に大きく寄与していることを 示唆しているが,過度の運動性の向上や Tg の低下により,材 料の暗導電性が増加し,形成する空間電場が低下することが わかっている。これらの問題を解決するために、電荷輸送部 位と EO 活性部位からなるブロック共重合体を設計した。ブロ ック共重合体は図9のようなミクロ相分離構造をとることが できるため、それぞれの相の Tg を独立に設定でき,暗電流を 増加させることなく EO 活性部位の Tg を下げることが可能で ある。筆者らはこのような「機能分離型」PR 材料を創製すべ く多機能性ブロック共重合体の合成に取り組んでいる。最近 の成果を以下に示す。 電荷輸送部位 (高いガラス転移) EO部位 (低いガラス転移) 図9 多相系 PR 材料の概念 4−1 アクリレート系材料 30) シアノビフェニル単位を含むアクリル酸エステルから原 CH2CH Br CH3CH CH2CH 子移動ラジカル重合(開始剤: methyl 2-bromopropionate, n m O C O C O C 80oC)によりマクロ開始剤を合成した。その後、カルバゾ O OCH3 O ール環を有するアクリル酸エステルを重合させることでブ ( CH2)3 ( CH2)11 O N ロック共重合体を得た(図 10)。比較のために、統計的な共 重合体を通常のラジカル重合により合成した。 ブロック共重合体では、DSC 測定においてそれぞれのブ ロックに対応する2つのガラス転移及び液晶から等方相へ block Mn=13000 (n/m; 17/23) の転移が観察され、ミクロ相分離構造を示唆した。偏光顕 statistical 微鏡観察より,ブロック共重合体のキャストフィルムはシ Mn=12000 (n/m; 17/25) アノビフェニル単位の自己配向による複屈折が観察された。 CN 電子受容体である TNF をドープした共重合体の4光波混合 実験から回折効率を算出した。図 11 にに回折効率の電場依 図 10 多機能性ポリマーの構造 存性を示す。ブロック共重合体では 80 V/µm の印加電圧で 25%の回折効率が得られた。この値は,似た化学組成の統計的共重合体より優れていることが わかった。2光波結合実験では,非対称なエネルギー移動が確認され,ブロック共重合体では 45 V/µm において 100 cm-1 の結合利得係数を示した。 4−2 ポリシランを含む材料 31) ポリシランは主鎖が Si-Si からなる高分子であり、その性質の特異さから広く研究が進められ てきた。その性質は、主鎖中のσ電子の非局在化に由来し、高い光導電性、正孔移動度を示す 32) 。そのため、ポリシランは PR 材料のホストと して期待されていた。しかしながら、ポリシラン に対する EO 色素や可塑剤の溶解性が低く通常の ドープ系材料と比較して特性は劣る 33)。また、こ の問題を解決するために多機能型ポリマーの合 成もなされているが、高性能な材料は得られてい ない 34)。筆者らは、ポリシランを光重合開始剤と して用いることでビニルポリマーとのブロック 共重合体が共重合体が合成できることを利用し て 35)、EO 活性なモノマーの重合を行った(Scheme 1)。その結果、LC1 を含んだブロック共重合体に 少量の低分子液晶をドープした系において 120cm-1(at 60 V/µm)程度の結合利得を観察するこ とができた。 4−3 無電場駆動素子 図5や図8d)に示したような電子輸送性のチオキサ ンテン誘導体に着目し、その単位を含んだ分子状ガラ スや高分子を合成してきた。一連の検討の中で電子受 容性のチオキサンテン単位は EO 活性なアニリン単位 と電荷移動錯体を形成し、増感剤や電荷発生剤を添加 することなく PR 活性となることを明らかにした。ま た、これらの材料群の中でガラス転移温度が相対的に 高いものについては外部電場を印加することなく、擬 似的な PR 効果を発現することを見出した 36)。図 11 に CH3 Cl Si Cl R; CH2 CH2 CH3 Si Na toluene CH3 Si LC 1 or 2 x hν O 6 11 n COO CH2 CH y C O O R CN (LC1) O CN (LC2) Low molecular mass liquid crystal (LC3) C8H17COO CN Scheme 1 Synthesis of block copolymers O S O O O O O O O X X; O (TH-NVA) O O CN N O2N (THCN-NVA) 図 11 電子輸送性低分子 PR 材料 示した TH-NVA は融点が 140℃の結晶として得られる O O O が、融解させて急冷するとガラス転移温度(Tg)が 42℃ n S O O の安定な分子状ガラスを形成した。チオキサンテン部 O 位のカルボニル基をシアノカルボニル基に変換した P(THA) THCN-NVA(図 8d と同じ)では Tg が室温以下まで下が O る(14℃)と同時に、チオキサンテン部位のアクセプ N CH3O N ター性は増大した(還元電位測定に基づく)。このうち、 O N H 2 DMCZ Tg の高い TH-NVA のみが無電場において非対称なエ DEANST ネルギー移動が観察できた(Γ=45 cm-1 at 0 V/µm)。一 方、Tg が低い THCN-NVA は電場を印加すると PR 効 図 12 電子輸送性高分子 PR 材料 果が発現した(Γ=140 cm-1 at 93 V/µm)。以上のことか ら材料のガラス転移温度が無電場駆動に重要な役割を果たしていることがわかる。 ホストである P(THA)に DEANST をドープした高分子系材料(図 12)においては、ドープ量 が 10,20wt%の場合には Tg がそれぞれ 69℃、51℃で無電場で非対称なエネルギー移動が起こる (Γ=45, 75 cm-1)。30 wt%ドープすると Tg が 40℃に低下しエネルギー移動は観察できなくなっ た(ただし、電圧を印加すると PR 効果が観察できるようになる)。以上のことから 制限され た運動 の重要性が高分子系材料においても示された。つぎに上記のホストゲスト系に第3成 分としてドナー性の大きい DMCZ を添加した(DEANST+DMCZ: 10 wt%)ところ、DMCZ の 含量が増加するにつれ得られる結合利得係数は小さくなることがわかった。材料の Tg の変化は あまりなかった。DMCZ はその大きなドナー性のため、材料中でチオキサンテン単位と強く電 荷移動相互作用し、そのため DEANST とチオキサンテン部位との錯体形成が阻害されることが 推察される。以上のことから双極子モーメントが大きく EO 活性な部位がアクセプターである チオキサンテン部位と電荷移動相互作用していることも無電場駆動のための重要な要素である ことがわかった。 OCH3 5.おわりに 様々なタイプの有機 PR 材料について概説した。有機材料における分子設計は無機結晶と比較 して多様であり、ここ 15 年で急速に開発が進んだ。速い応答速度を示す材料は、実時間体積ホ ログラム等への応用が可能であると考えられる。 6.参考文献 1) L. 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