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Ⅱ 情報社会における情報モラル

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Ⅱ 情報社会における情報モラル
第2章
ットワークにより,個人の興味関心事を中心に人間
関係が生じ,その中でコミュニケーションする場面
が増加するのではないかという考えであった。この
ような人間関係では,「何に所属している人間であ
るか」ということよりも「何をする人間であるか」
ということが注目されることになるし,その関係を
規定するものは,契約的な考え方である。日本にこ
のような関係が根付くかどうかは議論が分かれるが,
「タテ社会」の中の「ヨコ社会」
いづれにしても,
情報通信ネットワークによる人間関係を考えるときに,
考慮すべき視点である。
また,もうひとつの視点として,既存の近代社会が効率化を目的としたために,
「仕事と生活」
あるいは「仕事と遊び」
,
「目的と行為」を分離してしまったが,情報社会は,その目指す姿とし
て,目的とそのための行為を合体あるいは融合させられる社会であるという捉え方もある(参考
文献6)
。そのような社会では,遊びと仕事が融合し,楽しみながら仕事をして自己充足感を味合
うことができるであろうし,コンピュータや情報通信ネットワークも単に手段としてではなく,
楽しみながら使うときに,それが本当に定着するであろう。このような視点も興味深い。
Ⅱ 情報社会における情報モラル
1 はじめに
コンピュータや情報通信ネットワークがもたらす「光と影」のうち「影」の部分についてまと
めると,
・ 人間の知的活動のうち,良い面のみならず悪い面も増幅される。
・ コンピュータを過信する。
・ 情報の「意味」が欠落する傾向がある。
・ 現実感が薄らぐ。
・ 情報通信ネットワークによるコミュニケーションに不慣れであるとともに,その特質
を理解していない。
・ 情報を加工,共有し合うことが,情報の所有者,非所有者の境を不明確にする。
・ 個人と個人の関係,個人と社会組織の関係が直接的になり,個人の安全性が脅かされる。
のようになる。このような「影」の部分に対して適切な行動をするには,どのような考え方や態
度が必要なのであろうか。この点について次に見ていこう。
2 情報モラル
このような情報社会においても,人間が長い歴史の中で培ってきた倫理やモラルが不易な価値
観として働くことは言うまでもない。既存の社会や人間関係におけるマナーやエチケット,人権
の尊重や社会的規範の尊重,法治国家における順法精神などは,どのような社会においても大切
なことである。しかし,情報社会ではこれらに加えて,上述のような「影」の部分に対して,す
でにもっている倫理観をさらに高めるとともに,情報モラル(情報社会で適正な活動を行うための基
になる考え方と態度)を養うことが必要となってくる。
例えば,コンピュータを利用する場面では,それを使うことが人間にとって意味あることかど
うかを慎重に検討したり,出てくる結果に対して現実との整合性を常に検証したり,また,情報
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第2章
の意味付けはコンピュータがするのではなく人間がするという意識を忘れないようにするなどの
態度を養うべきである。
次に,情報の受発信の場面での考え方や態度を見てみよう。まず情報には不確かなもの,不適
当なもの,あるいは犯罪に関わるものまでが混在していることを十分に理解することが大切であ
る。これらに対して,不確かな情報を鵜呑みにしない知性や批判力,不適正な情報,不正な情報,
犯罪に関わる情報を送受信しない強い倫理観をもつことが必要である。また,受信した情報の著
作者や所有者が誰なのかを明確にしたり,発信した情報が本人の意思に反して使用されたりする
ことに気を付けるなどの態度も必要である。この点に関しては,特に著作権の理解が必要になっ
てくる。
次に,コミュニケーションする場面ではどうだろうか。ここでは,情報通信ネットワーク上で
のコミュニケーションを円滑にしトラブルを回避する知恵(ネチケット netiquette, network
etiquette からの造語)が慣習として既に大切にされている。それらは法律のように遵守すること
が義務付けられてはいないが,尊重しなければならないことである。例えば,非言語的な情報が
欠落することが多いから,なおさら言語的な情報の表現に細心の配慮をしたり,返事を返すよう
な場合には,一晩頭を冷やしてから返事をしたりするような慎重さも時には必要な知恵である。
また,情報通信ネットワーク上で形成される様々なグループにはそれぞれのルールがあり,それ
を遵守することが大切であるとともに,公私の立場の区別を明確にすることも求められる。
一方,科学技術的な側面からコンピュータや情報通信ネットワークの機能や特質を十分理解し
てコミュニケーションすることも大切なことである。例えば,メーリングリストとメールマガジ
ンの形態の違いを理解することや,情報の送信に際しては相手の機器の環境を配慮して送信する
なども大切な配慮事項となる。さらに,情報通信ネットワークが個人と個人,個人と社会組織の
関係に立ちはだかる垣根を低くすることから生じるセキュリティ(保安)の問題もモラルとして
重要な課題である。これについては,個人情報の保護の問題,プライバシーの問題,システムの
不正使用の問題,パスワードの問題,コンピュータウィルスの問題,システム管理の問題などが
あるが,これらは情報社会の良さを安心して享受できるために,技術面と運用面で深く理解して
おく必要がある。学校教育において,セキュリティの問題を考える視点は,教育を通して児童生
徒に情報モラルを啓発するという視点,情報の受発信の拠点である学校を管理する立場での責任
という視点,そして技術的な面での防衛策という視点の3つがある。
以上,情報倫理,情報モラル,ネチケットについて考えてきたが,まとめると次のようになる。
・ コンピュータの機能や特性を十分理解し,コンピュータを適材適所で利用する。
・ コンピュータが出力した情報を注意深く検証する。
・ 実体験と仮想体験の整合性をとる。
・ 情報の収集においては,適切な手続きにより収集し,著作権の尊重と情報の信頼性に配慮する。
・ 情報の発信においては,個人情報の保護,著作権の尊重,情報発信に伴う責任に注意する。
・ コミュニケーションにおいては,ネチケットを尊重し,相手への配慮をする。
・ 情報通信ネットワークの管理者が規定するガイドラインを遵守するとともに,セキュリティ
への配慮もする。
これらの問題に対する配慮事項の基本的な考え方は,
「情報化によって人間の知的活動は増幅さ
れるが,決してそのものが増大したと錯覚することなく,生身の人間の尺度から情報社会を見て
行動すべきである。コンピュータや情報通信ネットワークの向こうには生身の人間がいる。」とい
うことである。
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第2章
今後学校教育において,コンピュータや情報通信ネットワークの利用が日常的になってくると
予測されるが,これらが適正に活用されるように,学校と児童生徒・保護者との間で「利用に関
する誓約書」を交わしたり,学校で作成した児童生徒の作品を「教育目的の範囲内で利用するた
めの許諾」を取ったりする必要がある。
3 ネチケット,セキュリティに関するガイドライン
ネチケットは,情報通信ネットワーク上でのコミュニケーションを円滑にしトラブルを回避す
る知恵であり,それについての基本的な考え方や態度は前述した通りである。ここでは,それぞ
れの場面で直面する具体的な事例に対応するためのガイドラインについて見てみよう。ネチケッ
トについての指針となる資料としては,世界的な組織であるインターネット技術特別委員会IE
TF(the Internet Engineering Task Force)が 1995 年 10 月に「ネチケット・ガイドライン」として
発表したものが参考となる。これも法律ではないので,万人が遵守するものではない。より良い
ネットワーク上のコミュニケーションが計れるように先人達の試行錯誤によって生まれた知恵で
ある。
電子メールのような1対1のコミュニケーションにおいては,送信するメッセージは相手の立
場に立って言葉を選び,慎重に作成し,受信したメッセージは寛大さをもって読む必要がある。
また,
掲示板や電子会議,
メーリングリストのような1対多のコミュニケーションにおいては,
1対1よりはるかに多くの人を傷つけることがあるので,より慎重に作成しなければならない。
また,グループの個人や特定の人を攻撃したり,中傷するような表現は避ける。もちろん,電子
メールと同じような点に注意しなくてはならない。主な注意点は以下のとおりである。
・ 電子メールアドレスの取り扱いには十分注意する。
・ 相手がどのような環境で受信するかを考える必要がある。
・ チェーンメール,長い文章,制限を越えるようなファイルの添付などは行わない。
セキュリティの問題は,個人情報の保護の問題,プライバシーの問題,システムの不正使用の
問題,パスワードの問題,コンピュータウィルスの問題,システム管理の問題などであった。こ
れらの問題へ適切に対応するには,法律,条例,組織内の内規など広範な知識と高度な技術が必
要となる。ここでは,その一部について考えてみよう。まず,個人情報保護については,岐阜県
においては,岐阜県個人情報保護条例が平成11年4月から施行されており,個人情報の適切な
取扱いの仕方を規定しているので,それを参考にする。
また,システムの不正使用やコンピュータウィルスなどの問題については,
・情報処理振興事業協会(IPA)セキュリティセンター
http://www.ipa.go.jp/security/index.html
・コンピュータ緊急対応センター(JPCERT/CC)
http://www.jpcert.or.jp/
などが参考になる。
不正行為や犯罪に関することについては,岐阜県教育委員会が,平成12年1月に教育長名で
出された「学校における情報通信ネットワークの適切な利用について(通知)」(巻末の資料参照)と
いう通知文の中で,具体的な不適当な例を示しながら啓発の重要性を訴えている。学校教育にお
ける情報通信ネットワークの利用が推進されようとしている中で,このような情報通信ネットワ
ークを用いた人権侵害や違法行為が問題となり,児童生徒が不適切な行為や不正行為に巻き込ま
れないように啓発することが,緊急の課題となってきている。
また,情報通信ネットワークのシステムを利用するときには,そのサーバを運用している機関や
業者が規定しているガイドラインを尊重して利用しなければならない。
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