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7-1 学生による彦根の新しいおみやげづくりの挑戦

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7-1 学生による彦根の新しいおみやげづくりの挑戦
7.論文
7-1 学生による彦根の新しいおみやげづくりの挑戦
滋賀大学 社会連携研究センター 教授
石井 良一
1.はじめに
平成 26 年 11 月、彦根市中心部において主に観光客向けに直売所、飲食店を運営している(株)四番町スクエア
の長崎隆義社長から彦根の新しいおみやげとなるお菓子(ひこねおみやげスイーツ)の商品開発の依頼を受けた。
その条件としては、①徹底して彦根や滋賀の食材にこだわる、②学生が主体に取り組む、③商品販売は(株)四番
町スクエアが担当、同彩菜館を含め、市内数店舗で販売、というものであった。
私が主宰する滋賀大学農業ビジネス研究会の学生に案内し、8名(当初6名)の学生が参加を希望し、それから約
1年かかって商品企画から製造に携わり、平成 27 年 11 月3日の彦根城まつりパレードに合わせて、四番町スクエア
にて発売した。本論文はその経緯をまとめたものである。
【図表1
【図表2
商品開発のプロセス】
彦根の新しいおみやげづくりの主な経緯】
年月
主なできごと
平成 26 年 11 月 26 日
キックオフ
平成 26 年 12 月 23 日
アイデア試作
平成 27 年 2 月 13 日
商品試作、外部審査会、ひころんの商品化を決定
平成 27 年 3 月
製造事業者の変更を決定
平成 27 年 4 月 30 日
製造事業者を「おおすが」に決定
平成 27 年 8 月
同時に彦根梨サイダー、ジュースの商品化を決定
平成 27 年 9 月~10 月
彦根梨シロップ製造、ひころん材料調達
平成 27 年 11 月 3 日
商品販売開始
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7.論文
2.商品開発
1)商品コンセプト
商品開発で最も重要なのは商品コンセプトである。どのような顧客を対象とし、どのようなニーズに応えるのか、商
品のイメージは何か、品質、機能の特色はないか、価格はいくらにするのかなどの目標を決めていかなければなら
ない。
学生に自分の好きなおみやげの共通事項を整理してもらうことから検討を開始した。マルセイバターサンドと生八
つ橋があげられ、共通する事項が図表3のように整理された。
【図表3
自分達が好きなおみやげの特徴】
また、彦根の既存のおみやげは図表4に示すように、クッキー等のひこにゃん関連商品、たねやのバームクーヘン、
城下町らしい伝統的な和菓子があり、今回提案する商品はそれらとの差別化を考える必要が確認された。
【図表4
彦根におけるおみやげスイーツの現状】
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7.論文
こうした検討から、今回提案する彦根おみやげスイーツのコンセプトを次のように定めた。
(顧客)
・20~30 代、女性、新しいもの好き、SNS好き、スイーツ好き
(ニーズ)
・彦根に行ったことを教えたい、かわいいものを買ったことをアピールし
たい、自分でも美味しいものを食べたい
(商品イメージ)
・かわいい、おしゃれ、彦根限定
(品質、機能の特色)
・おいしい
・カラーバリエーション
・伝統的な和菓子ではない
・常温保存
・できれば個別包装
(価格)
小 500~600 円、大 1,000~1,200 円
2)商品アイデア構築
コンセプトを具現化するために、学生にスケッチ帖と色鉛筆を渡し、各自のアイデアを作図し、説明を加えるように
指導した。各自のアイデアを言葉にしても文章にしてもイメージがわかない。何枚もスケッチを繰り返す中で、学生は
次第にアイデアを形にし始めた。そのアイデアをお菓子にするために、必要と考える材料を出してもらい、キッチンス
タジオでさっそく試作を行った。料理もほとんど作ったことのない学生もいたが、平成 26 年 12 月 23 日に丸1日かけ
てそれぞれのアイデアを何とかお菓子にした。デザインから入るデザインシンキングは商品開発には有効である。
試作した商品を試食し、お互いに意見を言い合い、関係者の意見も聞いて、学生自身で今後どうするか自己評価
してもらった結果、次の段階の検討に進む商品として3商品を選定した。
【図表5
最初に試作したお菓子についての学生自己評価】
今後の改善点
商品名
写真
検討継続、断念の別
材料、味
見た目など
四季観大福
・日持ちがせず、おみや
げのコンセプトに合わな
い
他の人への協力に回り
たい
ひこねじり
・きれいにつくりたい
・ねじりを明確化
検討継続
彦根マコロン
・味、食感をさくさく、ふ
んわりにしたい
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検討継続
7.論文
月影(右上)
・餅を小さく
HIKONE
MONAKA
・白あんの代用(例え
ば、ホワイトチョコレー
ト)
彦根ホリオコ
シ
・材料の麩が柔らかくな
る
検討断念
・コンセプト
・見た目
他の人の協力に回りた
い
・サイズを小さく
プロの意見を聞きたい
検討継続
平成 27 年2月 13 日に改良を加えた3商品についての試作審査会を行った。学生にプレゼンをしてもらい、外部審
査員6名と学生で投票を行った結果、「ひころん」を優先的に商品化していくこととなった。①ネーミングがわかりやす
い、②最初の商品として作りやすく展開しやすい、③野菜をつかいやすい、④パッケージの発想も良い、⑤素材の広
がりが期待できるという点が評価された一方で、もう少し甘さと香りをつけサクサク感がほしいとの意見が出た。
【図表6
学生によるひころんコンセプトシート】
(出所)齋藤美穂氏提供
3)製造事業者の探索
学生の商品アイデアを実際に製品にしていくために、製造事業者の探索に入った。当初試作段階でアドバイスを頂
いた事業者は関心を示したが、ビジネス上の観点から発注ロットを大きくし、原材料やパッケージをシンプルにするこ
とを提案された。学生としては、素材やパッケージにこだわることが基本コンセプトであり、その考え方は受け入れら
れないとして、お断りすることとした。幸運にも彦根市で和洋菓子を製造している「菓心おおすが」の大菅社長から協
力の申し出を頂いた。
123
7.論文
4)原材料の探索
大菅社長からは魅力的な商品にするためには、①基本的にはクッキーであり、素材とのストーリー付けを強めない
といけない、②ひころんだけでは弱い、せっかく彦根には彦根梨があるのだから何かできないか、という助言を頂い
た。これを受けて、学生たちは、ひころんの原材料について可能性のありそうな彦根・湖東地域の生産者及び彦根梨
生産者への訪問を精力的に行った。いちじくや彦根梨生産者から大量に規格外品が出て使って頂くとありがたいな
どの情報を得た。
大菅社長からは彦根梨については風味の点でお菓子への加工が難しいこと、ひころんと一緒に飲めるようなサイ
ダーやジュースの加工が魅力的であることを示唆された。それを受けて、サイダー、ジュースの事業者を探索し、地
サイダーの実績が豊富な河田商店(京都市)に製造委託することとした。
数カ月かかり、彦根おみやげスイーツの商品及び原材料を図表7のように決定し、ひころんに適した加工状態で原
材料の調達を行った。
【図表7
商品名
原材料
甲良いちじく
近江キイチゴ
ひころん
豊郷かぼちゃ
朝宮抹茶
彦根梨サイダー
彦根梨
彦根梨ジュース
彦根おみやげスイーツの商品及び原材料】
特徴
・ハウス栽培、さっぱりとした風味と甘
みがのバランスがいい。日持ちが悪いの
で大量の規格外品。乾燥したものを今回
利用。
・日本の在来種であるナワシロイチゴと
海外のラズベリーを掛け合わして誕生。
明るい赤色で、酸味が強い。冷凍化。
・豊郷町のブランド開発の一環で栽培。
坊ちゃんかぼちゃ。黄味が強く、甘い。
ペースト化しており、年中利用可能。
・お茶発祥の地近江を代表する朝宮で栽
培された抹茶。井伊大老はお茶を好ん
だ。
・樹上完熟し甘さと風味に特徴がある彦
根梨の果肉を絞り砂糖等と合わせシロ
ップを作り、炭酸水で希釈。
・彦根梨を丸絞りした 100%ストレート
ジュース。
仕入れ先
(農)サンファーム法養寺(甲良
町)
乾燥:プラスファーム
(有) フローラトゥエンティワン
(東近江市)
とよさと特産物振興協議会(豊郷
町)
みやお園(彦根市)
彦根梨生産組合(彦根市)
生産:河田商店(京都市)
5)パッケージ、食品表示の作成
ひころん、彦根梨サイダー・ジュースのパッケージの作成は学生が行った。ターゲットである「20~30 代、
女性、新しいもの好き、SNS好き、スイーツ好き」に手に取ってもらえるラベルづくりを意識した。実際
のラベルの印刷は、河田商店から紹介された山一(株)
(大阪市)に委託した。ひころんについては、学生の
提案を受けて、2種類×3個の2タイプのひころんを販売することとした。彦根梨サイダー・ジュースにつ
いては、親しみやすいネーミングとして、
「彦根おもてなしサイダー」、
「彦根おもてなしジュース」とした。
食品表示については、彦根保健所の指導を受けて、食品表示法に基づき、表記を行った。価格については、
すべて 250 円(税込)とし、4種類詰め合わせセット 1,000 円(税込)も作ることとした。
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7.論文
ひころん
ひこねおもてなしサイダー、ジュース
3.販売
平成 27 年 11 月 3 日、ひこねの城まつりパレードに合わせて四番町スクエアに特設テントを設け、学生がポップを
作成し、自ら販売した。その場で試食販売も行い、アンケートによりお客様の声を確認した。図表8に示すアンケート
を見ると、概ね好評であるが、美味しさ、価格について課題があることが確認できた。
その後は(株)四番町スクエア彩菜館内で販売したが、今期は原材料の調達量に限りがあったため、すぐに販売は
終了した。
売り出し日の販売状況
地元紙への掲載(中日新聞)
125
7.論文
【図表8
アンケート結果】
①商品の評価
5.たい
へん良
い
4.良い
3.普通
2.悪い
4
20
7
1
3
15
7
4
15
7
ひころん
5
18
8
彦根おもてな
しサイダー
4
9
9
彦根おもてな
しジュース
9
11
9
ひころん
2
9
16
3
少ない・価格の割に…
2
8
14
1
少し高い
4
10
14
1
8
13
10
10
8
6
2
なし?
13
9
6
1
彦根梨を使っているから
3
6
16
4
高い、200 円に
4
5
16
1
4
5
18
1
ひころん
パッケ
ージ
味
内容量
彦根おもてな
しサイダー
彦根おもてな
しジュース
彦根おもてな
しサイダー
彦根おもてな
しジュース
ひころん
地域ら
しさ
彦根おもてな
しサイダー
彦根おもてな
しジュース
ひころん
価格
(税込
250 円)
彦根おもてな
しサイダー
彦根おもてな
しジュース
1.たい
へん悪
い
理由
しっとりした味
カロムみたいでかわいい
「100%」を気持ち大きめに
ラベル背景の黄色で、
梨の絵が目立ちにくい
もう少し甘い方がいい・粉っぽい
カボチャの味がしなかった
甘すぎずちょうどいい
あまりおいしくない・味になじめな
い
梨の甘味があり、さわやかな味
でよかった
あまい・珍しくて面白い商品
1
3
一回で飲み切るには適量・少し
高い
シールの柄が彦根らしくない
他県の人へのおみやげにしたい
もう少し安価に、200 円に
②購入意向
どなたに向けて(複数回答可)
友人・
家族
職場
自分
知人
購入
する
購入
しない
わか
らない
ひころん
11
1
15
9
7
9
彦根おもて
なしサイダー
8
6
10
5
6
彦根おもて
なしジュース
12
3
14
9
9
126
パッケ
ージ
2
購入の決め手
地域
味
らしさ
9
12
6
4
9
5
7
12
値ごろ
感
3
1
7.論文
4.おわりに
当初話を頂いた時には難しいと感じたが、学生メンバーの努力によって販売までこぎつけたことは私にとっても望
外の喜びであった。学生メンバーも商品コンセプトの検討、試作から始め、多くの農業生産者の話を聞き、メンバーで
議論し、原料の調達や加工にまで関わり、販売まで責任をもって全うしたことは大きな経験になったことと思う。
まちには多くの商品は並んでいるが、販売までには多くの苦労や工夫があるものの、売れているのはわずかであ
る。ぜひこの取組を契機に、依頼者である(株)四番町スクエアにおいては、今後とも本商品の改良のみならず彦根、
湖東地域に拘った商品を開発販売し続けてほしい。
なお、本活動については多くの方からアドバイスを頂いた。ここに感謝の意を表する次第である。
学生メンバー(当時)
齋藤 美穂(滋賀大学経済学部4回生):リーダー
赤松 琢也(滋賀大学経済学部4回生):サブリーダー
任田 妃七(滋賀大学経済学部1回生)
小酒井 菜月(滋賀大学経済学部1回生)
岡村 加奈(滋賀大学経済学部4回生)
塚本 絢菜(滋賀大学経済学部3回生)
中田 侑(滋賀大学経済学部4回生)
宮田 卓(滋賀大学経済学部4回生)
アドバイザー
石井 良一(滋賀大学社会連携研究センター教授)
若林 忠彦(滋賀大学社会連携研究センター特任教授)
岡田 みゆき(滋賀県湖東農業農村振興事務所農産普及課)
荒木 陽子(彦根市農林水産課)
立花 尚子(滋賀大学社会連携研究センター客員研究員、シニア野菜ソムリエ)
販売
長崎 隆義((株)四番町スクエア代表取締役社長)
製造
大菅 良治(菓心おおすが代表):ひころん
河田 直樹(柑橘館河田商店代表):ひこねおもてなしサイダー、ジュース
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