...

水溶性プルランフィルムを用いたブタ体内発育胚の ガラス化

by user

on
Category: Documents
1

views

Report

Comments

Transcript

水溶性プルランフィルムを用いたブタ体内発育胚の ガラス化
神畜技セ研報 No.3 2010
水溶性プルランフィルムを用いたブタ体内発育胚の
ガラス化保存後の生存性
禎,秋山 清,仲澤慶紀 1,小嶋信雄 1,西田浩司,横溝翔子 2,
高木優二 2,阿部宏之 3,鈴木千恵 4,吉岡耕治 4
( 1 神奈川県畜産課, 2 信州大学農学部, 3 山形大院理工学研究科, 4 動物衛生研究所)
坂上信忠,山本
Viability of Porcine Embryos after Vitrification Using Water-soluble Pullulan Films
Nobutada SAKAGAMI, Tadashi YAMAMOTO, Kiyoshi AKIYAMA,
Yoshinori NAKAZAWA, Nobuo KOJIMA, Kouji NISHIDA, Shoko YOKOMIZO, Yuji TAKAGI,
Hiroyuki ABE, Chie SUZUKI and Koji YOSHIOKA
水溶性プルランフィルム上でガラス化保存したブタ胚の生存性を、凍結
保護物質の組成の違う二種類のガラス化保存法と比較検討した。生体から
回収した胚盤胞を、0.25ml プラスチックストローを用いたストロー(ST)
区、最小容量(MVC)区、プルランフィルム(PFV)区の 3 つの方法でガ
ラス化保存し、液体窒素中で一定期間保存後、段階的に希釈して凍結保護
物質を除去した。対照として非ガラス化区を設定した。ガラス化保存後の
胚の生存率は、ST 区で 48.3%(43/89)、MVC 区で 70.7%(58/82)、PFV 区
で 79.0%(64/81)であり、ST 区は非ガラス化区の 94.4%(51/54)と比較し
て有意に低下した。また、胚の品質を客観的に評価するため呼吸量を測定
したところ、加温後の呼吸量は、ST 区で 0.82(F=×10 14 mol/s -1)とガラス
化保存前(F=1.29)と比較して有意に低下したが、MVC 区(ガラス化保存
前 F=1.15、加温後 F=1.22)、PFV 区(ガラス化保存前 F=0.99、加温後 F=1.02)
では有意な低下は認められなかった。さらに、呼吸量測定後の胚を生存細
胞と死滅細胞に染め分けたところ、総細胞数に対する生存細胞の割合は、
ST 区 91.9%、MVC 区 99.5%、PFV 区 97.0%であった。
キーワード:豚胚・ガラス化・プルランフィルム・呼吸量
ブタ胚の超低温保存は、優良な遺伝資源の確保
と有効利用及び疾病の防除に有効な技術である。
しかしブタ胚は低温に対する感受性がきわめて高
い 1)ことから、緩慢凍結法で保存した胚の移植で
は人工授精と同等の受胎率、産子数を得ることが
困難である。ところが、ここ数年、ガラス化保存
した胚の移植によって子ブタを生産することが可
能となってきた。特に超急速ガラス化保存法であ
る最小容量(MVC)法 2,3)、open pulled straw(OPS)
法 4)、microdroplet 法 5)、metal mesh vitrification
(MMV)法 6)では、高い胚生存性や子ブタの生産
が報告されている。ガラス化保存法は、緩慢凍結
法と比べて高濃度の凍結保護物質(CPA)を使用
することから、加温時に CPA を段階的に希釈する
-1-
必要があり、液体窒素から取り出したストローを
直接移植器にセットして移植することは難しい。
近年、ブタにおいても非外科的移植が報告され
7-11)
、我々もストローを直接取り付けることができ
る子宮内注入器を使用した非外科的移植に取り組
んでいる 12)。今後、生存性の高い超急速ガラス化
保存胚を直接受胚豚に移植することが可能となれ
ば、ブタ胚移植の生産現場での利用が進むと考え
られる。
我々は、超急速ガラス化保存した胚を移植時に
ストロー内で加温し、直ちにレシピエントへ非外
科的に移植することを目標として、ウシ胚盤胞を
プルランフィルム上でガラス化保存できることを
報告した 13)。プルランはデンプンを原料とした天
は、供胚豚に hCG を投与した翌日の午後、翌々日
の午前中に行った。
供試胚は hCG 投与翌日を 0 日として 6 日目の午
前中にハロセン(4~5%)吸入麻酔下で開腹手術
を施し、子宮角内を 0.5% BSA 加 PB1 14)または
TALP-Hepes15)で灌流して回収した。回収した胚は、
倒立顕微鏡下(倍率 100 倍)で観察し、発育ステ
ージ等により形態的評価を行い、胚盤胞期の胚を
供試した。これらの胚はガラス化保存まで BSA の
代わりに FBS(Gibco, Life Technologies, Grand Island, NY, USA)を 10%添加した PZM-5 16)で保存
した。
然の中性多糖で、水に溶けるという特長があり、
胚をのせたプルランフィルムを加温時に希釈液に
浸漬することによりストロー内で CPA の希釈が
可能となり、直接ストローを移植器に取り付けて
移植できる可能性がある。
そこで、本試験では、ブタ胚の生存性につい
てプルランフィルムを用いたガラス化保存法と
既報のガラス化保存法を比較し、併せてガラス
化保存前と加温後の呼吸量の変化について検討
した。
材料及び方法
1.供胚豚及び胚回収法
供胚豚は春機発動前のランドレース種、大ヨー
クシャー種 39 頭を用いた(5.5~7.3 ヶ月齢)。胚
回収は仲澤らの方法 11)を修正して行った。すなわ
ち、供胚豚の耳根部に eCG(Peamex, Sankyo, Tokyo,
Japan)1,500 単位を筋肉内注射した後、72 時間後
に hCG(Puberogen, Sankyo)500 単位を筋肉内注
射することによって過剰排卵処置を施した。交配
2.胚のガラス化保存及び加温
次の 3 種のガラス化保存法により、供試胚をガ
ラス化保存し、20~150 日間保存した後に加温し、
24 時間後の生存性を調査した。表 1 に各ガラス化
保存に使用した平衡液、ガラス液及び加温液を、
図 1 に使用した器材を示した。
表 1. 本実験で用いたガラス化保存法及び加温法の概要
ガラス化保存法
試験区
平衡液及びガラス化保存液
時間
(分)
ST区
PB1+0.5% BSA
2
11% EG+PB1+0.5% BSA
5
45% EG+7% PVP+PB1+0.5% BSA
1
MVC区
PFV区
PZM5+10% FBS
ES液:TCM199+7.5% EG+
7.5% DMSO+20% SSS
VS液:TCM199+15% EG+
15% DMSO+20% SSS
D-PBS+20% FBS
D-PBS+20% FBS+7.5% EG+
7.5% DMSO
D-PBS+20%FBS+15%EG+15% DMSO
2
5-10
1
2
4
加温法
加温液
one-step straw dilution in
1 . 7 M G A L +PB1+0.5% BSA
6% EG+PB1+0.5% BSA
3% EG+PB1+0.5% BSA
1.4% EG+PB1+0.5% BSA
0.7% EG+PB1+0.5% BSA
PB1+0.5% BSA
TS液:TCM199+1M Suc+20% SSS
DS液:TCM199+0.5M Suc+20% SSS
WS1液:TCM199+20% SSS
WS2液:TCM199+20% SSS
D-PBS+20% FBS+0.6M Suc
D-PBS+20% FBS+0.3M Suc
D-PBS+20% FBS
時間
(分)
2
2
2
2
2
2
1
3
5
5
2
2
2
1
BSA: bovine serum albumin; EG: ethylene glycol; PVP: polyvinylpyrrolidone; GAL: galactose; SSS: synthetic serum substitute; FBS: fetal bovine
serum; PZM: porcine zygote medium; Suc: sucrose; DMSO: dimethyl-sulfoxide; D-PBS: Dulbecco phosphate buffered saline.
-2-
a: ストロー
b: クライオトップ(Cryotop®)
c: プルランフィルムを接着した
ステンレス棒
d: 鞘を閉じた状態
図1
使用した胚のガラス化保存器具
スケールバーは 10cm
(1)ストロー(ST)区
0.25ml のクリスタルストロー(IMV 社, France)
を用いて、小林ら 17)の方法を修正してガラス化保
存した。室温(20~25℃)下で、メディウム PB1
を基礎液として 11%エチレングコール(EG)及び
0.5% BSA を添加した平衡液のドロップ(80μl)
に胚を移し、5 分間平衡した。平衡後、ガラス化
保存液である 45% EG 液 [45% EG+7%ポリビニ
ールピロリドン(PVP,分子量:10,000, Sigma, USA)
+PB1+0.5% BSA] に胚を移した。
ストロー内の液層構成は図 2 のとおり 4 層とし
た。胚を含むガラス化保存液の 45% EG 及び 45%
EG 緩衝層を中心として、その両側に希釈液(1.7M
ガラクトース+PB1+0.5% BSA)を充填した。
胚を 45% EG に移してから 40 秒以内に、図 2
のとおりに各液層を充填し、ストローをシールし、
液体窒素に浮かべた発泡スチロール(厚さ 5mm)
図2
上に置き、直ちにストロー綿栓部を液体窒素に一
瞬浸けて希釈液を植氷した。ストローは 3 分間発
泡スチロール上に保持し、45% EG に脱ガラス化
現象(氷晶の形成)が起こらなかったことを確認
後、液体窒素中に投入した。
加温は、ストローを液体窒素から取り出し、空
気(25℃)中に5秒間保持し、40℃の温湯に6秒間
浸した。加温後、直ちにストローを振り、ストロ
ー内の液層を混和させ、第1段階希釈を行った。第
1段階希釈後1~2分以内に、ストローから胚を6%
EG(6% EG+PB1+0.5% BSA)、3% EG、1.4% EG、
0.7% EG、0% EGの順に移し、合計6段階希釈を行
った。なお、各段階希釈液中の静置時間は2分間と
した。
ST区のストロー内の液層構成
ストロー内の液層構成は4層とし、綿栓側から、希釈液(1.7Mガラクトース+PB1+0.5%BSA)、希釈液によるガ
ラス化液の濃度低下を防止するための緩衝層45%EG(45%EG+7%PVP +PB1+0.5%BSA)、胚を含むガラス化液の
45%EG、最後に希釈液を充填しシールで封印した。
ファルマ)を用いて既報により行った 2,3)。胚を室
温(25℃)に暖めた平衡液(ES 液)中に投入し、
胚が脱水による収縮を起こした後、体積がある程
(2)最小容量(MVC)区
市販のクライオトップ及びガラス化保存液、加
温液(Cryotop® 、VT101 及び VT102, 北里バイオ
-3-
度回復するまで 5~10 分静置した。胚の CPA 平衡
が終わった後、平衡液の持込みを最小に抑えてガ
ラス化保存液(VS 液)に胚を移した。VS 液に胚
を投入した後、胚が収縮したらクライオトップの
シート先端部に胚をのせ直接液体窒素に投入して
ガラス化保存した。VS 液に胚を移してからクラ
イオトップを液体窒素に投入するまでの時間は 1
分以内とした。
加温は、クライオトップを液体窒素から取り出
し、クライオトップシート部を 38.5℃の融解液
(TS 液)に浸漬した。胚を TS 液中に 1 分間保持
した後、38.5℃の希釈液(DS 液)に移して 3 分間
静置した。その後洗浄液(WS1 液)に移して 5 分
間静置し、再度洗浄液(WS2 液)に移して 5 分間
静置した。
図3
(3)プルランフィルム(PFV)区
幅 1mm、長さ 5mm、厚さ 20μm のプルランフィ
ルム(林原商事)を図3のような保存器具に接着
し、高木らが報告した方法 18)を修正してガラス化
保存した 13)。すなわち胚を 20% FBS 添加 D-PBS
で 2 分静置した後、7.5% EG+7.5% DMSO+0.3M
Sucrose を添加した 20% FBS 添加 D-PBS で 4 分間
平衡し、その後、ガラス化保存液(EDS30:15% EG、
15% DMSO、0.6M Sucrose、20% FBS 添加 D-PBS)
に移し、1 分以内にプルランフィルム上にのせ、
液体窒素に浸漬した。
加温は、0.6M Sucrose を添加した 20% FBS 添加
D-PBS 液に直接フィルムを 2 分間浸漬することに
より行った。その後 0.3M Sucrose を添加した 20%
FBS 加 D-PBS 液に 2 分、20% FBS 加 D-PBS 液に
2 分静置した。
プルランフィルムを接着したガラス化保存器具
ステンレスの棒の先に短く切断した0.25mlのストローを取り付け、その先にプルランフィルムを接着した。0.25ml
ストローとプルランフィルムの外側に、0.5mlのストローを加工したさやを取り付け、胚を含むガラス化液をプルラ
ンフィルムにのせ、液体窒素中でガラス化保存後にスライドさせて、プルランフィルムを保護した。
3.胚の生存性
加温操作後の胚を0.1mM βメルカプトエタノ
ール及び20% FBS添加TCM199液で24時間、5%
CO2 in Airで培養し、顕微鏡下で胞胚腔の形成状
況を観察し、胞胚腔が再形成された胚を生存と判
定した。非ガラス化区としてガラス化保存しない
胚を同様に24時間培養した。
をZ軸(上下)方向に自動的に走査した。異なる
箇所で2回マイクロ電極を走査後、胚の呼吸量は球
面拡散理論式20)に基づき、開発した専用の解析ソ
フトを用いて算出した。
5.生存細胞、死滅細胞の染め分け
ガラス化保存胚の細胞の染め分けは、Saha and
Suzukiの方法 21)により行った。すなわち呼吸量を
測 定 し た 胚 を 、 38.5 ℃ に 加 温 し た 20% FBS 加
TCM199で洗浄後、以下の染色液で30分培養する
ことで生存細胞と死滅細胞を二重染色した。染色
液は10 µg/ml bisbenzimide(Hoechst 33342, Calbiochem, San Diego, CA, USA) 、10 µg/ml propidium iodide (PI; Sigma) を添加したTCM199
を用いた。染色した胚は、20% FBS 加 TCM199
で一度洗浄し、少量の20% FBS 加 TCM199とと
もにスライドグラスに乗せ、カバーガラスでカバ
ーした。染色した胚の観察は蛍光装置を接続した
倒立顕微鏡により実施した。U励起波長のフィル
ター(365 nmの励起波長、400 nmのバリアフィル
4.呼吸量の測定
一部の胚で、ガラス化保存30分前と加温30分後
の呼吸量を測定した。胚の呼吸量は走査型電気化
学顕微鏡を改良した受精卵呼吸測定装置
(HV-403:(株)機能性ペプチド研究所)により
阿 部 ら 19) の 方 法 に 準 じ て 測 定 し た 。 測 定 液
(ERAM-2)で満たした測定プレート(RAP-1)内
の円錐形ウェルの底部に胚を静置した後、白金微
小電極を胚近傍に移動した。微小電極を、酸素が
還元可能な-0.6 V vs Ag/AgClに電位を保持した
後、移動速度31.1μm/sec、走査距離160 μmの条件
に設定し、コンピューター制御により透明帯直近
-4-
ター)で観察し、青色( bisbenzimide )に染まっ
た核は生存細胞、ピンク色(PI)に染まった核は
死滅細胞としてカウントした。
て検定後にScheffeの方法により多重比較を行っ
た。有意差水準は5%とした。
結
果
1.各ガラス化保存後の胚の生存率
加温後のガラス化保存胚の生存率を表 2 に示
した。ST 区の生存率は、他のガラス化保存区や
非ガラス化区と比較して有意に低かった。しか
し、MVC 区と PFV 区の間には有意な差は認めら
れなかった。また、非ガラス化区は他のガラス
化保存区と比較して有意に高い生存率であった。
6.統計処理
実験は各区で3~4回反復して行い、データの統
計処理は、コンピューター統計処理ソフトSPSS
(SPSS 11.5J .User's Guide, SPSS Inc. Tokyo)を用
いた。生存率の比較はχ2検定またはFisherの直接
確立法を使用した。細胞数はあらかじめ対数変換
を行い、その他は一般線型モデル(GLM)を用い
表 2. 各ガラス化保存法で保存されたブタ胚の加温後の生存率
試 験 区
供試胚数
ST区
89
a-c
胚 数
生存胚数 (%)
a
43 (48.3)
b
MVC区
82
58 (70.7)
PFV区
81
64 (79.0)
非ガラス化区
51
54 (94.4)
b
c
異符号間に有意差有り (P<0.05)
2.各ガラス化保存法における胚の呼吸量の変化
PFV 区の加温後の呼吸量は、MVC 区及び ST
区と差が認められなかったが、ST 区は、MVC
区と比較して有意に低かった(表 3)。また、ST
区では保存前と比較して有意に呼吸量は低下し
たが、MVC 区、PFV 区では保存前と加温後の呼
吸量に差は認められなかった。各区における保
存前の呼吸量に対する加温後の呼吸量の割合に、
差は認められなかった。
表 3. 各ガラス化保存法で保存されたブタ胚のガラス化保存前、加温後の呼吸量
呼吸量
(F×1014 /mol s-1)
供試
試 験 区
胚数
ガラス化保存前
加温後*
(a)
(b)
A
a,B
ST区
10
0.82 ± 0.09
1.29 ± 0.17
b
MVC区
15
1.15 ± 0.08
1.22 ± 0.08
PFV区
11
非ガラス化区
10
Mean ± SEM.
*加温30分後に計測
a, b 同列の異符号間に有意差有り(P<0.05)
A, B 同行の異符号間に有意差有り(P<0.05)
0.99 ± 0.08
1.32 ± 0.14
-5-
1.02 ± 0.09
-
ab
b/a (%)
77.2 ± 19.9
117.8 ± 12.8
108.2 ± 9.6
-
合が、MVC 区と比較して有意に低かった。また、
加温後の胚の呼吸量と生存細胞数との間に、正
の相関が認められた(P<0.01, r=0.496 図 4)。
3.各ガラス化保存後の細胞数
それぞれのガラス化保存法で保存した胚の加
温後の細胞数を表 4 に示した。ST 区において生
存細胞数及び総細胞数に対する生存細胞数の割
表 4. 各ガラス化保存後の胚の細胞の生存性
試験区
供試胚数
供試胚の平均細胞数
総細胞数
生存細胞数
a
ST区
10
70.0 ± 2.5
64.4 ± 3.2
b
MVC区
13
86.2 ± 4.3
85.9 ± 4.4
PFV区
9
82.3 ± 3.5
80.2 ± 4.3
非ガラス化区
10
70.3 ± 3.7
70.3 ± 3.7
ab
ab
総細胞数に対する
生存細胞数の割合(%)
91.9 ± 2.7
99.5 ± 0.3
97.0 ± 1.8
100 ± 0 b
a
b
ab
Mean ± SEM.
a,b
同列の異符号間に有意差有り (P<0.05)
図4 ガラス化保存し加温した胚の呼吸量と生存細胞との相関
加温後の胚の呼吸量と生存細胞数との間に正の相関が認められた(P<0.01, r=0.496)。
×:ST区、■:MVC区、△:PFV区
考
察
本試験において、ブタ胚がプルランフィルムを
用いてガラス化保存できることや、PFV 区におけ
る加温後の胚の生存率や呼吸量及び生存細胞数が、
クライオトップを用いたガラス化保存法と差がな
いことが明らかとなった。
-6-
ガラス化保存では、細胞内に氷晶を形成させな
いように高濃度の CPA を使用するため、ガラス化
保存作業に時間を要すると CPA の毒性のために
胚の生存性が低下することが知られている 3,22)。
そのため、胚に対してダメージを与えると考えら
れる温度帯を超急速に通過させる超急速ガラス化
保存法では、高い生存性が得られることが知られ
ている 2-6)。これらの方法では特殊な器材を用いる
ことによりガラス化保存液をきわめて少量にでき、
急速に冷却することで CPA 濃度を下げることが
できるため、加温後の胚の生存性が高まる 23)。本
試験では、超急速ガラス化保存法の 1 つである
MVC 法とプルランフィルムを用いた PFV 法を比
較し、PFV 法で MVC 法と同等の 70%以上の生存
率が確保できることを明らかにした。一方で、ST
区においては他の区と比較して生存率が有意に低
下した。これらの結果は、ガラス化保存液の量が
ST 区の 20μl と比較して MVC 区や PFV 区では
0.1μl と少量であること、液体窒素への投入方法が
ST 区の液体窒素蒸気にさらしてから液体窒素へ
投入する方法と比較して MVC 区、PFV 区では液
体窒素へ直接投入する方法であることから、ガラ
ス化保存時の温度降下が急速になったためと考え
られた。
ガラス化保存は、プログラムフリーザーを用い
ない手法である反面、特殊な器材を使用し高濃度
の CPA を使用するため、液体窒素に投入するまで
に厳密な温度、時間の管理が必要となる。このた
め、1 回に保存できる胚の数は限られているが、
牛島ら 3)は MVC 法において、8~12 個の胚を同時
に保存できることを報告している。しかし、ブタ
では、1 回の移植で 15~20 個の胚を移植に要する
ため、より多くの胚を同時に保存できる方法が望
ましいと考えられる。今回我々はプルランフィル
ムを使用して 5~8 個の胚を同時に保存すること
が可能であったことから、5~8 個の胚をプルラン
フィルム上でガラス化保存し、3~4 枚のプルラン
フィルムを同一ストロー内に希釈液とともに封入
することで、適当数の超急速ガラス化保存胚を受
胚豚に非外科的に直接移植できる可能性がある。
また、我々は PFV 法を用いてウシ胚をガラス化保
存し、正常な産子をすでに得ていることから、PFV
法は胚発生に悪影響は及ぼさないものと考えられ
る。もし、プルランフィルムを用いてストロー内
でガラス化保存したブタ胚を、生産者の庭先で簡
便に加温し、非外科的に移植することが可能とな
るならば、PFV 法はブタ胚移植に有効な手段と考
えられる。今後は、ストロー内の一段階希釈法に
ついても検討する必要がある。
しかし、本試験の PFV 区は開放系の保存方法で
あり、液体窒素が直接胚と接触するために、防疫
上の問題がある。Bielanski ら 24)は、液体窒素にふ
れる形で長期保存された胚は、病原菌等に汚染さ
れる可能性があると報告しており、本試験では、
-7-
供胚豚間のコンタミネーションを予防するために、
供胚豚毎に液体窒素容器を分けて胚を保存した。
今後はプルランフィルムをストローに封入する方
法をとることによって解決が可能であると考えら
れる。
さらに本試験では、胚の品質を無侵襲で客観的
に評価できる呼吸量 19,25,26)を測定して、3 種のガ
ラス化保存法を比較した。ガラス化保存前と加温
後の胚の呼吸量は ST 区で有意に低下したが、ガ
ラス化保存前の呼吸量に対する加温後の呼吸量の
割合は、ST 区(77.2%)と比較して MVC 区(117.8%)、
PFV 区(108.2%)では高い値を示し、生存性を反
映した結果となった。
Dobrinsky ら 27)はガラス化保存の成否は、CPA
が細胞器官や膜に与える影響に依存すると報告し
ている。本試験では、ヘキストと PI を使用するこ
とで生存細胞と死滅細胞を染め分けたところ、ST
区におけるガラス化保存胚の生存細胞数は他の区
より低い結果であり、総細胞数に対する生存細胞
の割合においても 5~7%程度、他の区と比較して
低い値であった。これは ST 区の加温後の胚の生
存率(48.3%)が、他の MVC 区(70.7%)、PFV
区(79.0%)、非ガラス化区(94.4%)と比べ著し
く低いことに反映しているのではないかと考えら
れた。さらに加温後の呼吸量及び総細胞数に対す
る生存細胞の割合が、ST 区において MVC 区と比
較して有意に低いことも明らかとなった。また、
ガラス化保存胚の加温後の呼吸量と生存細胞数と
の間に正の相関が認められた。Trimarchi ら 28)は、
マウス胚ではミトコンドリアの成熟が代謝の増加
と関連し、呼吸量は細胞数やミトコンドリア活性
を反映していると報告している。このことからも、
ガラス化保存胚の生存細胞数を呼吸量測定によっ
て推測できると考えられた。
今回の結果では、PFV 区の加温後の胚の生存率
や呼吸量、生存細胞数は既報の MVC 区と有意な
差が認められなかったことから、プルランフィル
ムを用いたブタ胚のガラス化保存が可能であると
考えられた。近年、我々はストローを直接取り付
けて子宮内に送り込む器材を用いて、ブタ胚の非
外科的移植に取り組んでいる。今後、超急速ガラ
ス化保存後のブタ胚を、顕微鏡下で操作すること
なく加温後直ちに受胚豚に直接移植することが可
能となれば、生産現場での利用に有効であると考
えられるため、ストロー内での希釈方法の検討が
望まれる。
引用文献
1)
deep uterine embryo transfer in pigs.
Pollard JW, Leibo SP. Chilling sensitivity of
Theriogenology 2004; 61:137-146.
mammalian embryos. Theriogenology 1994;
2)
10) Cuello C, Berthelot F, Martinat-Botté F,
41:101-106.
Venturi E, Guillouet P, Vázquez JM, Roca J,
Esaki R, Ueda H, Kurome M, Hirakawa K,
Martínez
Tomii
H,
non-surgical deep intrauterine transfer of
H.
vitrified blastocysts in gilts. Anim Reprod
R,
Yoshioka
Kuwayama
M,
Cryopreservation
H,
Ushijima
Nagashima
of
porcine
embryos
EA.
Piglets
born
after
Sci 2005; 85:275-286.
derived from in vitro-matured oocytes. Biol
11) Nakazawa Y, Misawa H, Fujino Y, Tajima S,
Reprod 2004; 71:432-437.
Misumi K, Ueda J, Nakamura Y, Shibata T,
3) Ushijima H, Yoshioka H, Esaki R, Takahashi
Hirayama Y, Kikuchi K. Effect of volume of
K, Kuwayama M, Nakane T, Nagashima H.
non-surgical embryo transfer medium on
in
ability of porcine embryos to survive to term.
Improved
survival
of
vitrified
vivo-derived porcine embryos. J Reprod Dev
J. Reprod Dev 2008; 54:30-34.
2004; 50: 481-486.
4)
12) 吉岡耕治.ブタの非外科的胚移植カテーテル
Cuello C, Gil MA, Parrilla I, Tornel J,
Vázquez
JM,
Roca
J,
Berthelot
の開発.畜産技術 2007; 627:6-10.
F,
13) 坂上信忠、秋山清、横溝翔子、高木優二.水
Martinat-Botté F, Martínez EA. In vitro
溶性プルランフィルムを用いた牛体外生産胚
development following one-step dilution of
のガラス化保存.J Reprod Dev 2007; 51:j57
OPS-vitrified
(abstract).
porcine
blastocysts.
Theriogenology 2004; 62:1144-1152.
14 ) Quinn P, Barros C, Whittingham DG.
5 ) Misumi K, Suzuki M, Sato S, Saito N.
Preservation of hamster oocytes to assay
Successful production of piglets derived
the
from vitrified morulae and early blastocysts
spermatozoa.
using
66:161-168.
a
microdroplet
method.
Theriogenology 2003; 60:253-260.
fertilizing
J
capacity
of
Reprod
Fertil
human
1982;
15) Bavister BD, Leibfried ML, Lieberman G.
6) Fujino Y, Kojima T, Nakamura Y, Kobayashi
Development of preimplantation embryos of
H, Kikuchi K, Funahashi H. Metal mesh
the golden hamster in a defined culture
vitrification(MMV)method
medium. Biol Reprod 1983; 28:235-247.
cryopreservation
of
porcine
for
embryos.
16) Yoshioka K, Suzuki C, Tanaka A, Anas IMK,
Theriogenology 2008; 70:809-817.
Iwamura S. Birth of piglets derived from
7 ) Yonemura I, Fujino Y, Irie S, Miura Y.
porcine zygotes cultured in a chemically
Transcervical transfer of porcine embryos
defined medium. Biol Reprod 2002; 66:
under practical conditions. J Reprod Dev
112-119.
1996; 42:89-94.
8)
17) Kobayashi S, Takei M, Kano M, Tomita M,
Suzuki C, Iwamura S, Yoshioka K. Birth of
Leibo SP. Piglets produced by transfer of
piglets through the non-surgical transfer of
vitrified porcine embryos after stepwise
blastocysts produced in vitro. J Reprod Dev
dilution
2004; 50:487-491.
1998; 36: 20-31.
of
cryoprotectants.
Cryobiology
9) Martinez EA, Caamaño JN, Gil MA, Rieke A,
18) Takagi Y, Shimizu M, Kato T, Danguri A,
McCauley TC, Cantley TC, Vazquez JM,
Sakamoto M. Vitrification of mouse morulae
Roca J, Vazquez JL, Didion BA, Murphy CN,
by a new method: pullulan film-straw
Prather RS, Day BN. Successful nonsurgical
-8-
vitrification. Reprod Fertil Dev 2004; 16:
dependent
183 (abstract).
consumption by individual preimplantation
1866-1874.
culture and evaluation of embryos for
production of high quality bovine embryos. J
Mamm Ova Res 2004; 21:22-30.
20) Shiku H, Shiraishi T, Ohya H, Matsue T,
Abe H, Hoshi H, Kobayashi M. Oxygen
consumption of single bovine embryos
with
scanning
electrochemical
microscopy. Analytical Chemistry 2001;
73: 3751-3758.
21 ) Saha S, Suzuki T. Vitrification of in vitro
produced bovine embryos at different ages
using
one-
and
three-step
addition
of
cryoprotective additives. Reprod Fertil Dev
1997; 9:741-746.
22) 葛西孫三郎.哺乳動物における卵子及び胚の
ガラス化保存.日本胚移植学雑誌
2001; 23 :
12–17.
23 ) Martino
A,
Songsasen
N,
Leibo
SP.
Development into blastocysts of bovine
oocytes cryopreserved by ultra-rapid cooling.
Biol Reprod 1996; 54:1059-1069.
24) Bielanski A, Bergeron H, Lau PCK, Devenish J.
Microbial contamination of embryos and semen
during long term banking in liquid nitrogen.
Cryobiology 2003; 46: 146-152.
25)Sakagami N, Akiyama K, Nakazawa Y. The
relationship between oxygen consumption
rate and pregnancy rate of bovine embryos.
2007; Reprod Fertil Dev 19:225(abstract).
26 ) Lopes AS, Madsen SE, Ramsing NB,
Løvendahl
P,
Greve
T,
Callesen
H.
Investigation of respiration of individual
bovine embryos produced in vivo and in
vitro and correlation with viability following
transfer. Hum Reprod 2007; 22: 558-566.
27 ) Dobrinsky
JR.
Cellular
approach
-independent
oxygen
mouse embryos. Biol Reprod 2000; 62:
19) Abe H, Shiku H, Aoyagi S, Hoshi H. In vitro
probed
and
to
cryopreservation of embryos. Theriogenology
1996; 45: 17-26.
28) Trimarchi JR, Liu L, Porterfield DM, Smith
PJS, Keefe DL. Oxidative phosphorylation-
-9-
Fly UP