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奈良教育大学構内における鳥類相について

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奈良教育大学構内における鳥類相について
奈良教育大学構 内 における鳥類相 につ いて
川
西
美
和
(奈 良教育大学 自然環境教育 セ ンター)
I
は じめ に
レL E E F F
近年、地球温 暖化、熱帯 雨林 の減少、 オゾ ン層 の破壊 な ど地 球規模 での環境 問題 と、生活排水
や ゴ ミ戦争 な どと称 され る地 域 の環境問題 が 関心 を集 めて い る。 それに呼応 して環 境教育 の必要
性 が 叫 ばれて いる。環境教育 が必 ず しも、環境破壊 の解決策 と してだ け注 目 されて いる訳 で はな
いが、 その一翼 をにな う ことは確 かであろ う。 それ には、次世代 を担 う子供達 が 自然 に親 しみ、
自然 を理 解 す ることが よ り重要視 され るが、 そのためには、身近 か に 自然観察 の場 を確 保 す るこ
とが課題 とな って い る。
その 自然観察 の一 つ に野鳥 の観察 が上 げ られ る。幸 い、奈良教育大学 は市街地 に位置 し、 6日
19科 35種 の野鳥 が確認 されて い ることか ら (井 上 、 1990)、 環境教育 の場 と して適 して い る。 し
か しなが ら、構 内 にお ける鳥類 の調 査 は種 の確認 に とどま ってい る。身近 にあ る 自然 に触 れ る手
段 の一 つ と して鳥類 の観察 を取 り上 げ、大学構 内 を野鳥観察 の場 と して利用 す る場合 に、鳥類相
だ けで な く、 どの時期 にどのよ うな野鳥 が どのよ うな環境 で観察 され るかを明 らか に してお く必
要 があ る。 そ のため、奈良教育大学構 内 にお ける鳥類相 と個体数 の季節変動 を調査 し、大学構 内
を 自然観察 の場 と して改善す る方策 を検討 した。
Ⅱ 調査地 と調査方法
調査 は付属幼稚園 を除 いた奈良教育大学構 内全域 (面 積 14ha)で 実施 し (以 後、構 内 と呼 ぶ)、
1993年 12月 か ら1994年 11月 まで、原則 と して毎 月 2回 、上・ 下旬 に調査 を実施 した。 しか し、 9
月 は 1回 の み の調査 で あ ったため、調査回数 は23回 であ った。調査 は 1日 に 3回 、 8時 、 11時 、
14時 か らそれぞれ 1時 間一 定 の速度 で定 め られた約 1.4kmの 1贋 路 を歩 き、肉眼 と 8倍 双眼鏡 によ っ
て確認 し、種及 び個体数等 を確 認 し、活動場所、活動状態 を記録 した。 また、鳴 き声 によ り確認
された種 も出現種数 に加 えた。 また、 6月 か ら8月 まで は日の 出 が早 いため、最初 の調 査時間を
7時 30分 か ら 8時 30分 まで と した。 また、本来 の調査地 で はないが構 内敷地 を囲 む フェ ンスのす
ぐ外 で確認 された種 も記録 に加 えた。確認 した種 は調査時 に活動状態、環境選択 が似 か よ った種
ごとにま とめ活動 型 と し、
「常緑 の茂 み」、「 明 るい林 また は林縁」、
「 開 けた草地 」、「 水 辺」、「 人
間 の住環境」 の 5つ に分類 した。活動場所 は構 内 を図 -1の よ うに18区 域 に分 けて記録 した。 さ
らに、構 内 での繁殖 の有無 を問 わ ず ほぼ 1年 中確認 す る ことので きた種 を留鳥、渡 り鳥 以外 の一
時期 また は ご く短時間 の みに 出現 した種 を漂鳥 と定義 した。 なお、本論 にお ける種名 は日本鳥類
目録改訂第 5版 (1974)に よ った。
Ⅲ 結果及 び考察
(1)確 認種
調査期 間内 に確認 された種 は 6目 19科 30種 で ある (表 -1)。 これ ら30種 の うち、 コサ ギ 、 ア
オサギ、 ノス リ、 ケ リの 4種 は上空 を通過 した ものを記録 した。 ツバ メとイ ヮツバ メの 2種 は夏
の渡 り鳥、 ハ クセ キ レイ、 ビンズ イ、 ジ ョゥ ビタキ、 ツグ ミ、 カ シ ラダカ、 アオ ジの 6種 は冬 の
渡 り鳥 と して飛来 した。 それ以 外 の12種 は留鳥、 6種 は漂 鳥 であ る。留鳥 の うち構 内 で繁殖 が確
認 された種 は ドバ ト、 ヒヨ ドリ、 シジュウカ ラ、 スズメ、 ハ シブ トガ ラスの 5種 であ った。
本論 とほぼ同 じ調査地 の鳥類相 を調 べ た井 上 (1990)に お いて は確認 されず、本論 において 確
00
2m以 上の樹が密に生える所
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+開 けた草地
こ三ニ
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開けた草地
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図 -1
り
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構 内配 置図 お よび植生図
00
表 -1
日
コウ ノ トリ
大学構 内 とその周辺 で確認 され た鳥類 の一 覧
科
ロイ
禾
乙
学名
サ ギ
コサ ギ
Egretta garzetto.
Ardea cinerea
Buteo buteo
MicrosarcoDs cinereus
アオサ ギ
ワ シ タカ
‘
︱ .オ
″
ワ シ タカ
ノス リ
チ ドリ
チ ドリ
ケ リ
ハ ト
ハ ト
キ ジバ ト
ドバ ト
キ ッ ツキ
スズ メ
キッ ッキ
ヒバ リ
ツバ メ
セ キ レイ
ヒ ヨ ドリ
モズ
ヒ タキ (ツ グ ミ亜 科 )
(ウ グ イ ス亜 科 )
エナ ガ
シジュウカ ラ
メ ジロ
ホォ ジロ
ア トリ
ハ タオ リ ド リ
ム ク ドリ
カケ ス
コゲ ラ
ヒバ リ
ツバ メ
イ ワ ツバ メ
ハ ク セ キ レイ
セ グ ロ セ キ レイ
ビ ンズ イ
ヒヨ ドリ
モズ
ジ ョゥ ビ タキ
ツグ ミ
ウ グイ ス
エナガ
シジュウカ ラ
メ ジロ
ホ オ ジロ
カ シ ラ ダカ
アオジ
カ ワ ラ ヒワ
イカル
スズメ
ム ク ドリ
ハ シ ブ トガ ラ ス
ハ シボ ソ ガ ラ ス
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Coι 屁わαんυι
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“
Dendrocopos
lzizuki
Alauda aruensis
Hirundo rustica
Delichon urbica
MotacilLa alba
Motacilla grandis
Anthus hodgsoni
Hypsipetes amaurotis
Lanius bucephalus
Phoenicurus auroreus
Turdus naumanni
Cettia diphone
Aegi halos caudatus
Parus major
Zosterops japonica
Emberiza cioides
Emberiza rustica
Emberiza spodocephala
Carduelis sinica
Eophona personota
Passer montanus
Sturnus cineraceus
Coruus macrorhynchos
Coruus corone
認 された種 はアオサギ、 ノス リ、 ケ リ、 イワツバ メの 4種 である。逆 に、本論 にお いて は トビ、
サ シバ、 フク ロ ウ、 アオバ ヅク、 コシアカツバ メ、 キセキ レイ、 トラツグ ミ、 シロハ ラ、 ア トリ、
シメの10種 は確 認 で きなか った。但 し、 アオバ ヅク は調査 において は確認 で きなか った ものの、
1994年 6月 に確認 されて いる (北 川、 1994;前 田、 1994;丸 山、 1994)。 それ以 外 の 9種 の うち、
トビやサ シバ は山地 に棲息 し、人 里 にはまれ に しか 出現 しないとみ られ ること、 トラツグ ミや フ
ク ロ ウは活動時間 が薄暮 あ るいは夜 間 であ ることか ら確認 で きな い ことなどが あげ られ るが、調
査回数 の少 ない こと も一 因 であ った とも考 え られ る。
さ らに、大学構 内 か ら約 2 kmの 距離 の春 日山原始林 の鳥類相 (小 船、 1975)と 比較す ると、 そ
こで は留鳥 27種 、夏鳥 17種 、冬鳥 19種 、通過鳥 9種 の計 72種 が棲息 してお り、種数 に大 きな違 い
がみ られ た。 また、 そ こで記録 された種 の大部分 が森林 を好 む種 と考 え られ、 春 日山原始林 が森
林棲鳥類 に と って好適 な環境 であ ることを示 して い ると考 え る。 それに対 し、大学構 内 は庭 園 と
して整 備 されてい ることか ら、樹木 は若齢 であ ること、植生 に面 と して の広 が りがない こと、人
間 の往来 が多 く、水辺 がな い ことな どか ら、 種数 が少 なか った もの と考 え る。
(2)出 現期間 につ いて
確認 され た種 の うち、上空 を通 過 しただ けの コサギな ど 4種 を除 いた 出現期間 を図 -2に 示 し
一
b
つ0
た。 23回 の調査す べ てで確認 された種 は ヒヨ ドリとスズメの 2種 の みであ った。冬鳥 は10月 下旬
か ら 4月 まで、夏鳥 は 4月 か ら 8月 まで構 内 に出現 した。 出現期 間 につ いて小船 (1975)と 比 較
す ると、 セ グ ロセ キ レイ、 ウグイ ス、 ホオ ジロは春 日山 において留鳥 とされて い るが、構 内 にお
いて はセ グ ロセ キ レイは12月 下旬、 6月 下旬、 10月 下旬 か ら11月 下旬 と不規則 に飛来 し、 ウグイ
スは12月 下旬 か ら 1月 下旬、 2月 下旬、 ホオ ジ ロは 1月 下旬 のみな ど、 ご く短 期間 に飛来す ると
い う漂鳥 的 な性格 を示 した。
ると考 え られ る。
イ ヮ ツバ メ
ハ ク セ キ レイ
セ グ ロセ キ レイ
ジ ョウ ビ タキ
ツグ ミ
シジュ ウカ ラ
カシ ラ ダカ
カワ ラ ヒワ
ハ シ ブ トガ ラス
ハ シボ ソガ ラス
冬 :冬 鳥
夏 :夏 鳥
図 -2
構 内 にお ける鳥類 の 出現期間
36
漂′
鳥
、
︱ ヽ
出現期間 はそ の種 による土地 の評価 を表 す と考 え られ る。採餌場 や営巣場所、隠 れ場 などの条
件 が整 って いれ ば、滞在期間 は長 くな るはずであ る。 上 記 の種 の 出現期間 が春 日山 よ り短 い とい
う ことは、構 内 の環境条件 がそれ らの種 に と って何 らか の条件 が欠 けて いるい る ことを示 して い
(3)種 数、個体数 の変化 につ いて
表 -2に 確認 した種数及 び個体数 を、図 -3に 種数 の季節変動 を示 した。個体数 は 1日 3回 の
調査 の延 べ 出現数 であ る。表 -2か ら、構 内 における優 占種 は留鳥 であ る スズメで、 や は り留鳥
の ヒヨ ドリ、 ム ク ドリがそれ に次 いだ。種数 は12月 下旬 と 2月 下旬 に最多 で 18種 であ った。 そ の
後、夏 に向 かい減少 し、 8月 下旬 には 3種 にまで減少 した。 9月 以降 に種数 は再 び増加 した。 さ
らに、図 -3か らは 7月 か ら8月 中旬以外 の時期 には10種 程度 で安定 して い ることがわか る。 そ
れ は、 8月 下旬 か ら10月 上 旬 まで はす べ て留鳥 の み の構成 とな ってい るためであ るが、 それ は夏
鳥 が南 へ渡 り、冬鳥 が渡来 して来 るのが 10月 下旬 なので、渡 り鳥 が いない時期 であ るため と考 え
られ る。冬 に種数、個体数 が増 え る理 由 と して、冬 の渡 り鳥 と漂鳥 の種数 が多 いため と考 え る。
図 -4に 構 内 における滞在型 ごとの種数 の比率 を示 した。 留 鳥 は46.2%を 占 め、 夏 鳥 は7.7%に
す ぎな いのに対 し、冬鳥 は23.1%で あ った (図 -4)。 これ か らも夏 に種数 が 減 少 す る ことが 示
唆 され る。
これ らの結果 を、本論 と同様 に市街地 の中 にあ り面積 が20haと 規模 が似 て いる、国立 科学博物
館付属 自然教育園 (以 後、教育園 と呼 ぶ)の 鳥類相 (千 羽、 1968)と 比較 した。教育園 で は 1月
数
1
1
2
2
月
図 -3
種別 の季節変動
大学構 内
□ 稀鳥
N漂 鳥
口 旅烏
口 冬鳥
自然教育園
日 夏烏
■ 留鳥
50
0
図
-4
滞 在 タ イプ 別 比 率 の 自然 教 育 園 と大 学 構 内 の比 較
100(%)
∞〇∞∞
茄
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権畑
38
轟 せ 暉 ・轟 脚 O照 虚、
製黙 拘舶 選 ︶国 買 Q ︶ 測超髯 朴 K NI憮
か ら3月 下旬 まで は20数 種 で推移 し、 4月 にな って急 増 し、 同月下旬 に最大 の34種 を記録 した。
そ の後、夏 に向 か い減少 し、 7月 下旬 に最小 の10種 とな った。秋 に向 か って種数 は増加 した。 鶴
田 ら (1966)は 教育園 の鳥類 の種数 が夏 に減 少 す る理 由 を、渡 り鳥 が多 く、留鳥 が少 ない こと、
飛来 した夏鳥 が教育 園内 で はほとん ど見 られな い ことなどによる もの と して い る。
また、教育 園 の 自然環境 の豊 か さを考慮 す ると、構 内 の種数 の季節変化 を 同 じ理 由 か ら説 明す
ることはで きな い。 この違 いの理 由 と して、構 内 が鳥類 の営巣地 と して適 して いない ことが考 え
られ る。営巣 した種 の少 ない ことがそれを示 して い る。営巣 地選択 の条件 と して営巣 す る場所、
育雛 のための餌 の確保 が上 げ られ る。構 内 は周辺住宅地 よ りは樹木 は多 い ものの、 自然林 と比 べ
ると十分 とは言 えない。
(4)活 動型 による分布 の違 い
活動型 ごとの分布 を図 -5の a、
b、
c、
d、
eに 示 した。 各 区域 の黒点 の数 は種数 を表 し、 大
きさは個体 数 を表 して い る。
a)主 に常緑広葉樹 の茂 みで活動 していた種
主 に常緑樹 の茂 みで活動 す るのが観察 された種 はウグイ ス、 メ ジロ、 アオ ジの 3種 であ る。 こ
れ ら 3種 はアラカ シ、 ウバ メガ シ、 クスノキ、 モ チ ノキ、 サザ ンカ、 ヒラ ドツツジ、 スギ、 ヒノ
キ、 マ ツな どの茂 みで活動 して いるの を確認 した。 ウグイスは先 に述 べ た とお り漂鳥 で、頻繁 に
出現す る種 で はないが、 Blの ヒラ ドツツジ、 C2と E4の ア ラカ シを好 んで いるよ うで、 これ
らの区 で よ く見 られた。 アオ ジは B5の マ ツ、 E2の サザ ンカ、 スギの密生地、 E3の 旧道場裏
のスギな どで観察 された。 メ ジ ロは E4の 音楽棟東 のア ラカ シ、 C2教 育資料館裏 のア ラカ シな
どで 6羽 以上 で活 動 して い るのが観察 された。 また、 シジュウカ ラ、 エ ナガ、 コゲ ラな どと混群
を形成 して いる ことが あ った。
b)明 るい林 または林縁 で活動 して いた種
明 るい林 また は林縁 にあ る場所 で活動 す るのが観察 された種 はキ ジバ ト、 コゲ ラ、 ヒヨ ドリ、
モズ、 ジ ョウ ビタキ、 ェ ナガ、 シジュ ウカ ラ、 ホオ ジロ、 イカル、 ハ シボ ソガラスの10種 である。
図 -1に 示 した 2m以 上 の樹木 が ま とま って いる区域 で よ く見 られた。 ヒヨ ドリはこの区域 の ど
こで も見 ることがで きたが、特 に 4月 の調 査 で はD3で よ く見 られた。 ヒヨ ドリは10数 本植 え ら
れた ソメイ ヨシノを餌場 と して いた。 モズ、 ジ ョウ ビタキは構 内 に縄張 りを形成 して いる様子 で、
常 に止 ま って いる場所 が決 ま ってい た。縄張 りと思 われ る区域 は モズ♂が B3∼ 5、 Cl、 C2、
ジ ョウ ビタキ♂が Cl、 Dl、 ジ ョウ ビタキ ♀が El、 E2、 E4だ った。 エ ナガ、 シジュ ウカ
ラ、 コゲ ラは主 に ソメイ ヨシノ、 ナ ンキ ンハ ゼ、 ケヤキ、 エ ノキな どの落葉広葉樹 を好 み、構 内
のそれ ら樹 々の間 を混群 を形成 して移動 す るのが頻繁 に観察 された。
C)開 けた草地 で活動 していた種
開 けた草地 で活動 して いた種 は ヒバ リ、 ビンゾ イ、 ッ グ ミ、 カ シ ラダカ、 カ ワラ ヒワ、 ム ク ド
リの 6種 であ る。 開 けた草地 または 2m以 上 の樹木 が生 えて いるが下草 が短 く、空間 の あ る場所
で よ く見 られた。 ヒバ リはAlの フェ ンスの外 にあ る農場 で さえず りなが ら飛 んで いた もの を記
録 した。 ビンズ イは Elに あ る大学 プ ール脇 と E3の グラ ン ドに面 した草地 で見 られた。特 に、
E3の グラ ン ド側草地 は人 があ ま り通行 しな い ため、地上 で採餌 して いるのが頻繁 に目撃 された。
また、構 内 で野良猫 に補食 されて いた こと もあ った。 ッグ ミはAl、 2、 Bl∼ 3、 Cl、 2以
外 の区画 で見 る ことがで きた。 ツグ ミは普段 は群 れを作 ることはないが、 2月 14日 には約 40羽 の
群 れが飛来 し、 Elに 生 えて い るモ チ ノキの大木 の赤 い実 を一 日留 ま り、食 べ尽 く した。 二 日前
の降雪 で地上 で は採餌 で きな いため に、 モチ ノキに集 中 して きた もの と考 え られ る。 カワラ ヒワ
は El∼ 4で 多 く見 られた。 しか し、人 や車 の往来 があ るためか、地上 に降 りて いる姿 はあま り
39
● 0∼ 0.5
冬 (12月 ∼ 2月
春 (3月 ∼ 5月
)
● 0.6∼ 1.9
)
●
●
20‐ 10.o
10.1∼
23.5
● "“ 姓
夏 (6月 ∼8月
秋 (9月 ∼ H月
)
図 -5-a
)
主 に常緑 の茂みで活動 していた種 の分布
40
︰
0∼
春 (3月 ∼ 5月
)
●●
冬 (12月 ∼2月
)
0.5
0.6∼ 1.9
2.0∼ 10.0
10.1∼
● 23.6以 上
●
"・
●●
0●
●
一
ヽ
●
D .
〓L F
P
.8
ρ
│ │
夏 (6月 ∼ 8月
1
卍
│
│
秋 (9月 ∼ H月
)
図 -5-b
│
)
明 るい林 または林縁 で活動 していた種 の分布
41
23.5
●
●二 ●●
0∼
冬 (12月 ∼ 2月
春 (3月 ∼ 5月
)
0.5
o.6∼ 1.9
)
2.0‐ 10.0
10.1∼
23.5
ヒ
23.6"ス 」
夏 (6月 ∼ 8月
秋 (9月 ∼ ll月
)
図 -5-C
)
開 けた草地 で活動 して いた種 の分布
И■
● 0‐ 0.5
冬 (12月 ∼2月
春 (3月 ∼5月
)
● 0.6‐ 1.9
)
● 2.o・・lo.o
●
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23.5
)n.aut
│
●
●
●
︱
,︱
﹂
嗜
夏 (6月 ∼8月
10.1‐
〃((9月 ∼11月
)
図 -5-d
)
プ ール周辺 で活動 して いた種 の分布
43
I 上
■ ﹁
° 0∼ 0 5
● 0.6∼ 1 9
春 (3月 ∼ 5ノ 1)
● 2o∼ 10.0
●
●
●
.■____
.
●
秋 (9月 ∼ 11月
図 -5-e
)
人間 の住 む環境 に密接 して活動 して いた種 の分 布
44
10・ 1∼
23.5
)zt.aut
見 られ ず、 キ ョウチ ク トウ、 アキ ニ レ、 イ ロハ カ エ デ、 ソメイ ヨシノ、 コノテガ シ ヮ、 スギ、 ヒ
ノキの樹 上 で 目撃 す ることが多 か った。
d)プ ール周辺 で活動 して いた種
プ ールやそ の周辺 で活動 す るのが観察 された種 はハ クセ キ レイ、 セ グ ロセキ レイの 2種 である。
主 に、付属小学校 グラ ン ド東 の小 プ ール、大学生用 プ ール や周 りの裸地、 グラ ン ドをあ る く姿が
よ く目撃 された。 セ グ ロセ キ レイ は橋 の下 や建 物、木 に集 ま ってね ぐらとす る習性 がある (高 野、
調査地外 で はあ るが、 9月 下旬 に10数 羽 のセ グ ロセキ レイが大学 構 内 に隣接 す る高畑 町
の バ ス停留所脇 のプ ラタナスに 日暮 れ とと もに飛来 し、 そ こをね ぐらと しているのが観察 された。
1990)。
e)人 間 の住環境 で活動 していた種
大学 や付属小学校 の校舎 に営巣 し、人間 の 出 す ゴ ミを漁 るな ど人間 の住環境 に密接 して活動 す
るのが観察 された種 は ドバ ト、 スズメ、 ハ シブ トガ ラス、 ツバ メ、 イヮッバ メの 5種 であ る。 ス
ズメとハ シブ トガ ラス は構 内 の ほぼ全域 で 目撃 す ることがで きたが、 スズメ は付属小学校 の通風
孔 や舞踊場 の軒 などに、 ハ シブ トガ ラスは Clの ク ヌギの大木 に営巣 していた。 これ らのためか、
個体数 は営巣地 に近 いほど多 くな るとい った傾 向 が見 られた。 ツバ メは 4月 か ら 8月 にか けて出
現 し、構 内 のほぼ全域 で 目撃 されたが、構 内 での営巣 は確認 で きなか った。 おそ らく大 学 に隣接
す る住宅 街 の軒下 なで に営巣 し、構 内 には採餌 のため に飛来 した もの と考 え る。
以上 5つ の活動型 のそれぞれ の種 につ いて述 べ たが、 B4∼ B5、 Cl、 Dl∼
3、
El∼ 4
の よ うに緑 の多 い区域、す なわ ち植被率 の比較的高 い区域 は出現種数 も多 いとい う傾向 を示 した。
藤巻 (1981)に よると、都市 や農耕地 な どの人 T_的 環境 で鳥類 が棲息 で きる場所 は樹木 や草本 類
の集 中す るところに限 られ、 植被率 が高 いほど鳥類 の種数 も多 くな るとい う。本論 の調査結果 は
これ と同様 の傾 向 を示 した もの と考 え る。
Ⅳ
まとめ
大学構 内 で観察 され る野鳥 の種、個体数、 出現 す る季節 と観察 され る場所 の微環境 につ いて考
察 した。 そ の結果、本学 を野鳥観察 の場 に利用 す るのに適 した時期 は種数 の多 い10月 か ら 3月 に
か けて で あ り、有効 な観察 区域 は B4∼
5、
Cl、
Dl∼ 3、 El∼
4で あ った。 今回 の調 査 で
は30種 を確認 す ることがで きた。 しか し、大学 か ら 2 km程 度 しか離 れていないに もかかわ らず春
日山原 始林 には72種 の野鳥 が棲息 す ること (小 船、 1975)を 考 え ると、構内 において も植生 を
夫 す る ことで、 よ り多 くの野鳥 をよぶ ことがで きると考 え る。
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そ こで、構 内 を野鳥観察 の好適 な場 と して改善 す るために、 い くつ か提案 した い。 まず、森林
を好 む種 のために針葉樹 と広葉樹 の混交林 を作 る。高木 か ら低木 まで の階層構造 と林床植生 を持
つ ことが好 ま しい。 このよ うな環 境 として、 か つ て図書館南 はア ラカ シ、 マ ツ、 ナ ンキ ンハ ゼ、
イ ロハ カ エデ、 ソメイ ヨシ ノ、 クスノキな どの大径木 で構成 され、 それ らにツル性 の ッ タ、 ヘ ク
ソカズ ラ、 ノブ ドウなどがか らみ、林床 はササや落葉 で覆 われて いた。 しか し、 正 門付近 の改装
工事 の際 にア ラカ シはわずか に上 の枝 を残 して伐採 され、 ササや下 草 も残 さず刈 り取 られ芝生 が
敷 き詰 め られて しま った。 そ こは鳥類 だけでな く、多 くの クモ類 や昆 虫類 も棲息 し、 タヌキや テ
ン も目撃 されて い た場所 だけに残念 であ る (前 田、 1994)。 また、餌 の少 な い秋 か ら冬 にか けて
果実 の実 るモ チノキや トウネズ ミモチ、 ピラカ ンサなどを植 えたい。次 に、確認種 の少 なか った
水辺 を好 む種 の ために、樹木 に囲 まれた自然 の状態 に近 い池 を作 りたい。水棲昆虫 や魚類 が棲息
す るよ うになれば、 上空 を通 過 す るだ けで あ ったサギ類 が採餌 に飛来す るよ うにな るで あろ う。
また、 カ ヮセ ミは付属小学校 の大 プ ールで 目撃 されて いることか ら (前 田 、 1993)、 実 現 す れ ば
よ り多 くの種 が観察 され るよ うなな るの は確実 であ る。
これ らの他 に、留鳥 の繁殖 を促 す ために巣箱 を架 ける ことや、餌台、砂浴 び場、水浴 び場等 を
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備 えた ミニサ ンクチ ュア リを作 ることは容易 に実行 で きる ことであ り、積極 的 に取 り組 みた い。
さ らに、奈良教育大学構 内 を環境教育 の一 環 と して の野鳥観察 の場 と して整 備す るために、強調
してお きた い ことがあ る。 それ は、現在 の状況 を改悪 しな い ことであ る。前 田 (1994)が 述 べ た
よ うに、近年 になて大学構 内 の各所 で大 きな工 事 が行 われ、 そ の ままで環境教育 の場 と して利用
されて た地 域 が ことごと く破壊 され た。環境教育 に重 要 な ことは身近 な 自然 の認識 で あ り、 これ
との共存 が今後 の人類 の生存 に不可欠 であ り、教 育大学 の本来 の役 目であ った はず で あ る。大学
構 内整備 の名 の もとに、本来 の役 目を 自 ら放棄 す るよ うな ことは避 けた い もので あ る。
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