...

反テロ戦争と国防政策のプライオリティ

by user

on
Category: Documents
9

views

Report

Comments

Transcript

反テロ戦争と国防政策のプライオリティ
JIIA-IISS和文提供共同プロジェクト Volume 11-2
反テロ戦争と国防政策のプライオリティ
技術開発と調達計画
紛争が起きて米国が関与
する能力に重点を置こうと
関わらず、こうした作戦を
する度に、新しく開発され
している。欧州の同盟諸国
遂行できるのだ。米国の軍
た兵器システムが大活躍す
もこれらの見直しに着手し
事力の増強は9月 11 日事
る。アル・カイダ及びタリ
ているが、彼らの選択肢は
件以前にすでに始まってい
バン勢力と対峙したアフガ
低水準の国防支出によって
たが、事件以来、米国の関
ン戦争も、その例外ではな
制約を受けることになるだ
心はかつての「平和の配当」
い。この戦争では、無人機
ろう。
から実存する脅威について
(UAV)と衛星誘導爆弾が、
決定的なダメージをもたら
の強烈な認識へと大きく変
資源の動員
わった。このことは、米国
す、きわめて効果的な兵器
米国は、2001 年9月 11
の軍事資産と将来の軍事能
として一躍名を上げた。ブ
日から数週間以内にアフガ
力のあり方に重大な意味合
ッシュ米政権は、アフガン
ニスタン制圧のために大規
いをもたらすだろう。
戦争を、反テロ戦争の緒戦
模兵力を投入したが、これ
ブッシュ大統領は、選挙
にすぎないと見ている。反
は米国の圧倒的なパワープ
戦での公約を踏まえて、政
テロ戦争は米国がこれまで
ロジェクション能力を改め
権 最 初 の 2002 会 計 年 度
に関与した、いなかる戦争
て誇示した。たしかにタリ
(2001 年9月−2002 年 10
とも異質の、はるかに広範
バン政権は近代的戦争に対
月)国防予算での増額(330
囲で終わりの見えない戦争
応する装備を欠いていた。
億ドル)の大半を兵員の給
なのだ。その結果、米国の
しかし、世界のどこで不測
与やメンテナンスなどの即
国防政策は追加的な予算に
の事態が起きようと、それ
応態勢の整備に振り当てた。
助けられつつ、テロ攻撃の
に対して直ちに圧倒的な破
しかし、今年2月に正式発
脅威に反撃する軍事能力だ
壊力をもって反応できる米
表した 2003 会計年度(02
けでなく、より高精度の兵
軍の能力を過小評価するこ
年9月-03 年 10 月)予算案
器使用と投射(プロジェク
とにはならない。しかも、
の増額分 380 億ドル−100
ション)能力、より包括的
米国は、冷戦終結後の 1990
億ドルの戦争準備金を含め
で信頼でき、そして実効性
年代にいわゆる「調達の休
れば 480 億ドル−は、より
のある情報活動、より柔軟
日」(procurement holiday)と
深遠な目的を明らかにして
なプラットフォームを確保
呼ばれる時期があったにも
いる。給与引き上げと健康
IISS-Strategic Comments (March 2002; Vol.8/Issue 2)
Defence priorities in the anti-terrorism campaign: Technology and procurement
JIIA-IISS和文提供共同プロジェクト Volume 11-2
保険関係の支出増に加えて、
総国防予算案に占める調達
予算は 12.4%増の 687 億ド
ルに、研究開発(R&D)予
算は 11.4%増の 539 億ドル
に増額されている。こうし
た増額は、最近まで、国防
産業が期待し得ないものだ
った。
国防予算増額の大部分は
雰囲気が継続すれば、以前
きる米国の能力を増強に優
通常戦力の整備を支援する
であれば削減の対象になり
先的考慮が払われるだろう。
ことになるだろう。例えば、
やすい国防プログラムが存
増額を擁護する政治的コン
続することになるだろう。
センサスのおかげで、今の
さらに、それ以外のプロ
ラムズフェルド国防長官
ところ、3つの戦闘機開
グラムには、明らかに新た
は、2001 年の「4年毎の国
発・配備プログラム―F-22
なインセンティブを与えら
防計画の見直し」(QDR)に
ラプター、統合攻撃戦闘機
れた。とりわけ、テロリズ
おいて米国の軍事思考に重
(JSF)、それに艦載戦闘攻撃
ムに反撃する特化した能力
大な変更を加えた。それは、
機 F/A-18E/F(スーパー・ホ
が重視されようとしている。
二正面戦略(米軍が二つの
ーネット)―に予算を割り
例えば、 米本土防 衛
大規模な地域戦争を同時に
振ることについての批判は
(homeland defense)がそうで
勝利する戦略)から能力ベ
払拭されている。実際、ペ
あり、ブッシュ政権は本土
ー ス ・ ア プ ロ ー チ
ルシャ湾岸で継続されてい
安全保障局を設置して、こ
(capability-based
る作戦、ボスニア、コソヴ
れを政策の新しい目玉とし
(脅威の源や性質を問わず
ォ、アフガニスタンでの戦
た。米本土防衛の新規支出
あらゆる現代の脅威に対処
争など、この数年間におけ
の大半は、非軍事的性格の
できる能力を確保する戦
る作戦のペースから見て、
ものだ。例えば、国境警備
略)へ転換する方針を打ち
兵器の更新とグレードアッ
隊員や沿岸警備隊員、税関
出した。QDR によれば、能
プは緊急な課題となってい
検査官、空港治安隊員の増
力ベース・アプローチは、
る。こうした戦争は航空機
員である。また、生物テロ
「いかなる国、国家連合、あ
やその他の兵器の陳腐化を
攻撃に備えて公衆衛生シス
るいは非国家主体が、今後
予想以上に早めており、9
テムの改善措置が講じられ
数十年間において、米国や
月 11 日事件が仮に起きて
る。また、爆発物や生物兵
同盟・友好国の重要な利益
いなくとも、兵器調達の増
器を検出するための新しい
に対して脅威を与えること
額はおそらく実行されてい
機材が必要となるだろう。
になるか、米国は自信をも
ただろう。米国内の現在の
他方では、世界中のあらゆ
って知り得ないという現実
る敵に対して武力を行使で
を反映している。しかし、
能力(capability)の評価
approach)
IISS-Strategic Comments (March 2002; Vol.8/Issue 2)
Defence priorities in the anti-terrorism campaign: Technology and procurement
JIIA-IISS和文提供共同プロジェクト Volume 11-2
敵が使う可能性のある能力
スト勢力が育成され匿われ
の新時代の到来を告げてい
を予想することは可能だ。」
ている、世界のいくつかの
る。ゼネラル・アトミック
この戦略転換は、9月 11 日
場所(ソマリア、イエメン、
ス社製造のプレデターは、
事件以前に計画されたもの
フィリピンなど)で監視体
1995 年以来、バルカン半島
だが、結果的にタイムリー
制を強化したいと考えてい
とイラク上空を飛んでいる。
になったといえよう。QDR
る。米国防総省によれば、
アフガン戦争では、アル・
はさらに、米国の軍事的パ
アル・カイダは世界の 60 カ
カイダ及びタリバン部隊の
ワーを高める能力の広範囲
国に下部組織を持っている。
捜索を主目的に使われたが、
な領域を特定している。そ
監視体制の強化努力は、
二つの点で特に注目を集め
れは、①高性能リモート・
不可避的に適切な情報活動、
ている。第1に、司令官た
センシング(遠隔測定)に
監視、偵察資産をさらに重
ちは、プレデターのカメラ
よる長距離攻撃、②特殊機
視することを意味する。米
が送ってくる、地上活動の
動遠征部隊、③アンチ・ア
政府は、テロリストのキャ
生中継ビデオが非常に参考
クセス及び対地・対空機能
ンプかもしれない被写体の
になると考えている。第2
の脅威を排除するシステム、
上空を通過する瞬間だけの
に、司令官たちは、標的を
三つだ。③を除いて、すべ
衛星スナップショットにも
絞って、プレデターに搭載
て必要なことがアフガニス
はや満足していない。新た
したヘルファイア・ミサイ
タンで証明された。③に関
に要求されているのは、
ルを発射できたことだ。ミ
しては、タリバンの防空体
「粘り強い」「じっと見詰め
サイル発射にロボットを初
制が取るに足らないものだ
る」監視体制だ。米国の情
めて利用したことは、画期
ったからだが、これはすべ
報機関は偵察衛星を増やし、
的な進歩ながら、ほとんど
ての潜在的な敵に当てはま
高高度のスパイ飛行機を増
注目を集めていない。アフ
ることではない。
やすことを希望している。
ガニスタンでの成功は、海
ノースロップ・グラマン社
軍の新型無人機を初め、現
製造の無人機グローバル・
在進行中の他の無人戦闘飛
アフガン戦争は、「軍事
ホークはアフガニスタンで
行体開発プログラムを推進
分野の革命」(RMA)の進
実戦デビューを飾ったが、
することになるだろう。
展を証明した。それは、コ
航続距離、センサーを積載
さらに、電子情報収集と
ンピューター、通信、セン
しながら長時間飛行を持続
通信の傍受にも重点が置か
サー、それにサイクル・タ
できる能力を考えると、高
れそうだ。ここでもまた、
イムを縮減するするウェポ
高度監視・偵察のプラット
無人機が一定の役割を担う
ンの使用による軍事作戦の
フォームになりそうだ。
ことが可能だろう。人的資
情報・監視・偵察
精緻化だ。今後は、インテ
アフガン戦争でのグロー
産へのリスクをほとんどな
リジェンスに特別の重点が
バル・ホーク、それに特に
くしてくれるからだ(米国
置かれるだろう。米国は、
無人機プレデターの使用は、
は、海軍偵察機が中国領に
米国の利益を脅かすテロリ
戦争におけるロボット工学
緊急着陸し、乗員 24 人が一
IISS-Strategic Comments (March 2002; Vol.8/Issue 2)
Defence priorities in the anti-terrorism campaign: Technology and procurement
JIIA-IISS和文提供共同プロジェクト Volume 11-2
時拘束された 2001 年4月
イルは、湾岸戦争で名を上
れているような洞穴など閉
の事件の再発を望んでいな
げて以来、兵器庫の中です
鎖空間の標的を攻撃するの
い)。戦場の光景に貢献する
でに重要な地位を占めてい
に特に有効だ。実験は、12
あらゆる資産はすべて優先
る。しかし、アフタニスタ
月 14 日にネヴァダで行わ
的取り扱いを受けるだろう。
ン戦争で選ばれた新型兵器
れ、2月末にアフガニスタ
例えば、統合偵察攻撃シス
は統合直接攻撃弾(JDAM)
ンで初めて使用されたと伝
テム「J-STARS」搭載の無
だった。これは、全地球測
えられている。
人偵察機、U2スパイ機、
位システム(GPS)を使っ
ミサイル監視専用電子偵察
た安価な衛星誘導装置を尾
機 RC-135 などだ。NATO 主
部に装備した攻撃精度の極
導のコソヴォ戦争では、移
めて高い自然落下の爆弾だ。
そして米本土からはるかな
動標的を攻撃する能力面で
この爆弾の使用によって、
遠隔地で攻撃を加える能力
大きな欠陥が見つかった。
コゾヴォ戦争で経験した問
を持つためには、多大の機
攻撃で破壊できたセルビア
題を解決している。コソヴ
動性が要求される。そうし
軍の戦車は数台にすぎなか
ォ戦争では、民間人に危害
た作戦には支援航空機・艦
った。アフガン戦争の初期
を加える恐れから悪天候下
船の広範囲な配備も欠かせ
の結果は、敵が洗練されて
では爆弾が投下できなかっ
ない。これらも今後数年の
いない、装備も貧弱な部隊
た。
うちに関心を集めることに
機動性
米国が敏速かつ広範囲に、
で、セルビア軍ほどカムフ
JDAM には、2000 ポンド
なるだろう。多くの航空機
ラージュに長けていないと
爆弾(GBU-31/B)と 1000
が老朽化している。ラムズ
はいえ、移動体に対する攻
ポンド爆弾(GBU-32/B)が
フェルド国防長官は、まだ
撃能力が改善していること
あるが、より精度の高い 500
行動には移していないが、
を示している。それはとも
ポンド爆弾の使用が計画さ
海軍の新艦艇建造率を引き
かく、センサーの解像力は
れている。アフガン戦争で
上げる必要を認めている。
改善する余地がまだ大きく、
は、JDAM が長距離爆撃機
米空軍(USAF)の輸送能力
これは技術的研究の重要な
B-52 と海軍の戦闘爆撃機
も、多数の新型C-17 グロー
目標になるだろう。現実に
F/A-18 から数千発投下され
ブマスターを実戦配備して
は、核分裂物質の密輸を阻
た。米軍の空爆能力の範囲
いるものの、アフガン戦争
止するための新型センサー
がこのように広がった結果、
によって限界ぎりぎりのと
の配備がすでに始められて
研究開発と実戦配備との融
ころに来ている。USAF の
いるとも伝えられている。
通性高まってきている。そ
空対空給油機隊は大規模だ
の一例が、新型「サーモバ
が老朽化している。空軍首
リック」2000 ポンド爆弾の
脳部は、新型のボーイング
精密誘導兵器技術はさら
敏速な実験と実戦配備だ。
767 双 発 ジ ェ ッ ト 旅 客 機
に促進されそうだ。艦艇発
この爆弾は、高温と強烈な
100 機をこの任務のために
射ミサイルや空中発射ミサ
衝撃波を出すため、敵が隠
リース契約することを提案
攻撃の精緻性
IISS-Strategic Comments (March 2002; Vol.8/Issue 2)
Defence priorities in the anti-terrorism campaign: Technology and procurement
JIIA-IISS和文提供共同プロジェクト Volume 11-2
して政治的なひと騒動を引
提供するはずだ。
き起こした。この他、電子
欧州諸国は新型戦闘機と
戦闘機 EA-6B プローラーも
輸送機、それに精密誘導兵
更改の時期を迎えている。
器を購入しようとしている。
米軍近代化の最後の焦点
その目的は、主として人道
は陸軍だ。陸軍首脳部は、
的作戦任務や平和維持活動
最近の紛争で陸軍が限定的
など、いわゆるピータース
役割しか果たしていないこ
バーグ任務を遂行すること
とを意識して、軍の機動性
にあるのだが、欧州数カ国
と弾力性の向上を図ろうと
は展開可能な部隊を増強す
慌しい。しかし、アフガニ
る方向に大きく踏み出した。
スタン戦争では特殊地上部
また、一部の国は、新型偵
隊が真価を発揮し、今や資
察機器に投資しようとして
源積み増しを要求する地位
おり、これには無人機や戦
に立とうとしている。それ
場監視機が含まれている。
には、通信の改善や、ガン
英国は、新型大型空母2隻
シップ AC-130 スペクター/
とそこから発進する F-35
スプーキー(輸送機を改造
(JSF)を購入しようとして
した対地攻撃機)のような
いる。F-35 の買い入れはほ
特化した航空機の配備が含
ぼ確実だ。これらの兵器の
まれるだろう。
有効性を証明したのはアフ
ガン戦争における米国の海
そして同盟国は
上投影の成功例だけだ。し
欧州諸国における9月 11
かし、もし米国の同盟国が
日事件後初の国防ニーズに
国防予算を現時点では不相
関する評価は、英国から出
応に見える大幅増額に踏み
るだろう。英国は、目下、
切らなければ、米国の軍事
1998 年「戦略防衛見直し」
的に先行する米国に後れを
(Strategic Defence Review)」に
とるまいと悪戦苦闘を続け
新たな一章を書き加える作
ることになるだろう。現実
業に取り組んでいる。英国
の問題として、最近の米国
防省が実施している協議プ
の国防支出の増加は同盟諸
ロセスは、他の NATO 同盟
国をさらに後方に追いやる
国が近代化に対処するため
ことになりそうだ。●
に改善しなければならない
事項について新たな分析を
IISS-Strategic Comments (March 2002; Vol.8/Issue 2)
Defence priorities in the anti-terrorism campaign: Technology and procurement
Fly UP