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rps18 mRNA

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rps18 mRNA
RNA helicase A の転写活性化最小領域の解析
○荒谷聡子、大島隆幸、大石貴之、藤井亮爾、深水昭吉、中島利博(筑波大 応生)
RNA helicase A(RHA )は ATPase/helicase 活性依存的にシグナルコアクチベター CREB binding protein
(CBP)および乳癌原因遺伝子産物 BRCA1 と RNA polymerase II (pol II )複合体の仲介因子として機能し、そ
の転写活性化における重要性が注目されている。当研究室では RHA の転写活性化最小領域を332-380の
49アミノ酸に決定し、同領域に pol II 複合体と結合することを証明した。さらに本転写活性化最小領域を欠失さ
せた RHA 変異体は CREB の転写に対し dominant negative として作用することも明らかとなった。同領域の配
列は疎水性アミノ酸に富み、 線虫 からヒトまで RHA family 間 で非常によく保存され、かつ RHA に特異的であ
る。さらに同領域を介した RHA による転写活性化機構を明らかにするため、Alanine scaning mutagenesis 法を
用いて転写活性化能および pol II 複合体との結合能を検討した。その結果339番目のトリプトファンをアラニン
に置換した変異体(W339A)では野生型と比較して転写活性化能が有意に低下していることが明らかとなった。
ATP 結合能の低下した変異体 RHA は転写活性可能が減少していることをすでに報告している。W339A 変異体
は ATP 結合能、ATPase 活性の低下が認められない。これらの結果から RHA に ATPase および pol ll との結
合という2つの転写活性化機構が存在することが示された。
葉緑体分化に伴う翻訳制御機構の解析
井手上 賢、廣瀬 哲郎、杉浦 昌弘 (名古屋大・遺伝子)
葉緑体は 70S リボソームや、原核生物のものと類似した基本翻訳因子を持っている。しかし葉緑体 mRNA には
様々な特異なシス配列を介した翻訳開始機構が存在する。我々の研究室ではこれまでにタバコ緑葉から単離し
た葉緑体を用いた in vitro 翻訳系を用いてこのような葉緑体特有な機構を解析してきた。
葉緑体リボソームタンパク質 S18 をコードする rps18 mRNA の 5'UTR 上には、大腸菌 mRNA の翻訳に必須な
SD 配列は存在せず、またこれまでに同定したどの葉緑体 mRNA の翻訳シス配列も存在しない。変異 mRNA を
用いた葉緑体 in vitro 翻訳解析の結果から、rps18 mRNA の翻訳には 5'UTR 上の A と U に富んだ二つの新奇
な配列 (-120~-80, -20~-1 の領域) が必要であることが明らかにした。
我々が新たに開発したタバコの白色色素体由来の in vitro 翻訳系は、葉緑体の分化に依存した翻訳制御機構
を明らかにするために有用である。今回 rps18 mRNA を白色色素体と葉緑体由来の二つの in vitro 翻訳系中で
翻訳させたところ、その翻訳効率は白色色素体では葉緑体に比べ 5% 以下と非常に低かった。
こうした葉緑体分化に伴う rps18 mRNA の翻訳制御機構には 5'UTR 上のシス配列に何らかのタンパク質因子
が作用している可能性がある。rps18 mRNA の 5'UTR に結合するタンパク質を検出するため、UV クロスリンク
法を行ったところ、各色素体に特異的な RNA 結合性タンパク質を検出した。これらのタンパク質が rps18 mRNA
の翻訳制御因子である可能性が高いと考えている。さらに葉緑体リボソームタンパク質 mRNA の分化に依存し
た翻訳制御の生物学的意義についても考察したい。
hnRNP S1 タンパク質 C2 の分子構造と二元性機能
○井上 晃 1、西尾 康二 2、木下喜博 3、三田四郎 4
(1 阪市大・医学部・生化学、2 名古屋大・医学部・解剖、3 大阪成蹊女子短大、
4 参天製薬 KK・探索研)
高等生物の細胞核に普遍的、かつ大量に存在する新しい蛋白質ファミリーを 1983 年に発見し、S1 タンパク質
A - D と命名した。S1 タンパク質は、単離細胞核を DNase または RNase で消化し、反応液の pH を 4.9 とする
と可溶性画分に選択的に単離される蛋白質群である。反応上清には同時に多くの RNP タンパク質とわずかの
クロマチン断片が遊離するが、この条件ではこれらは沈澱画分に回収される。SDS 電気泳動で S1 タンパク質
はそれぞれダブレット(1 と 2)に分離する。
B, C, D は新しい hnRNP 結合タンパク質(hnRNP タンパク質)ファミリーを構 成し、 C1, D2 は、同時に転写因
子でもある事を明らかにして来た。また C2, D2 に特異的な抗 S1 タンパク質抗体 McAb351 などを用いて、 C2
と D2 は細胞質のビメンチン細胞骨格に会合する事を示した。これは S1 タンパク質が転写と転写後の両方の
遺伝子発現機構に作用することを示唆し、hnRNA 結合タンパク質としての細胞生物学上の新しい発見をなす。
ここでは、C2 の分子構造の解析を行った。そしてこれも転写因子でもある事が示唆された。 抗 S1 抗体
McAb351 に対する C2, D2 の共通する反応性は、C2, D2 が類似の構造を有する事を示唆する。実際、C2, D2
のペプチドマップは極めて類似し、 C2 は D2 の C 端側に約 45 アミノ酸が挿入した構造である事が予想された。
D2 のヌクレオチド配列をもとに設定したプライマーを用いて RT-PCR を行ったところ、予想した領域に 47 アミノ
酸を挿入する配列が得られ、これは C2 の配列であると結論した。C2 の配列は、解糖系の遺伝子発現を抑制
する転写因子としてデータベースに既に登録されている。そしてその配列は挿入 47 アミノ酸残基以外は完全に
D2 に一致する。このように B, C, D の6分子種のうち、 3 分子種の C1, C2, D2 は hnRNP タンパク質であると同
時に転写因子でもあることになる。ほかの 3 分子種も同じである可能性が考えられる。したがって S1 タンパク
質は hnRNP タンパク質であり、同時にあるものは転写因子として 2 元性の機能を有し、あるいは 細胞質の中
間径繊維に会合して局在化する極めて珍しいタンパク質ファミリーを構成すると言える。以上の結果の細胞生物
学的意義を考察する。
Ribosomal RNA apurinic site specific lyase, a novel enzyme found in wheat germ that specifically cleaves the
phosphodiester backbone at an apurinic site in rRNA
Tatsuya Sawasaki, Tomio Ogasawara, Ryo Morishita, Akihiko Ozawa, Kairat Madin, and Yaeta Endo
Department of Applied Chemistry, Faculty of Engineering, Ehime University, Matsuyama, 790-8577 Japan
Ribosome-inactivating proteins (RIPs) are a group of plant enzymes that inhibit polypeptide chain elongation by
depurinating a specific nucleotide in the RNA of large ribosomal subunits. RIPs are classified into two groups:
type 1, single-chain polypeptides; and type 2, two-chain proteins such as ricin which consist of a catalytic Achain and a B-chain that has lectin properties. The most commonly found RIPs are of type 1. The biological
role of RIPs is as yet unclear, however, a possible role in defense against pathogens such as fungi and viral
infections as has been proposed and demonstrated experimentally. The molecular basis of ribosome
inactivation is the hydrolysis of the N-glycosidic bond between the base and the ribose at position A4324 in
28S rRNA of rat or A2660 in 23S rRNA of E. coli. The cleavage site is embedded in a purine-rich singlestranded segment of 14 nucleotides that is near universal. _-Sarcin, a different type of ribosome-inactivating
protein produced by the mold Aspergillus giganteus, catalyzes cleavage of a single phosphodiester bond within
the same rRNA domain, between G4325 and A4326 in 28S rRNA (or G2661 and A2662 in 23S rRNA). The S/R
domain is crucial for ribosome function because.
In the course of our examination of the inactivation of wheat germ ribosomes by wheat's endogenous RIP, tritin,
we noticed that wheat embryos contain a unique enzyme that cleaves the phosphodiester backbone at the
tritin-induced apurinic site in the S/R domain. Here we report the purification and characterization of this
enzyme. Although there have been a number of reports on AP-endonucleases and AP-lyases which cleave
phosphodiester bonds at apurinic and apyrimidic sites during DNA repair, this is to our knowledge the first
report of an apurinic site specific enzyme that acts only on RNA in ribosome particles. We also discuss the
possible biological role of this enzyme in the context of RIPs.
Deletions within the P3-P9 domain of the Tetrahymena group I intron do not cause perfect loss of its
catalytic activity.
Yoshihiko Oe, Yoshiya Ikawa, Hideaki Shiraishi and Tan Inoue.
(Graduate School of Biostudies, Kyoto University)
Summary
Group I intron is a ribozyme and its catalytic core is believed to be composed of two domains, P4-P6 and P3P9 domain. However, we previously found that all of the P4-P6 domain and the P8-J8/7 region, a part of the
P3-P9 domain, were not essential for the catalytic activity of the Tetrahymena group I intron and suggested
that the catalytic core would reside in the rest of the P3-P9 domain. Within these regions, the P7 helix is a
candidate for the catalytic core because it is highly conserved and possesses the cofactor guanosine binding
site. To identify the ultimately required region(s) for the catalytic activity, we introduced deletions into the rest
of the P3-P9 domain by using circular permutation technique and examined the effects of deletions.
Unexpectedly, we found that those destroyed introns still have the catalytic activity. Moreover, introns with
deletions in the P7 helix showed the selectivity for guanosine as a cofactor. This and previously reported
results showed that deletions within the P3-P9 domain of the Tetrahymena intron do not lead to perfect loss
of the catalytic activity and suggested that the catalytic core is consisted of many parts of the intron spread
in the primary sequence. The probable mechanisms for the recognition of the cofactor guanosine by the
destroyed introns will be also discussed.
RNA ヘリケース A (RHA) による遺伝情報発現機構の解析
○大島隆幸、荒谷聡子、大石貴之、藤井亮爾、藤田英俊、中野真宏、深水昭吉、中島利博(筑波大学・応用生
物化学系)
RNA helicase A/nuclear DNA helicase II (RHA/NDH II) は、転写コアクチベーターである CREB binding protein
(CBP) の機能発現、すなわち RNA ポリメラーゼ II を介した転写反応に必須な因子である。また最近、RHA が
CBP のみならず乳ガン原因遺伝子産物の転写因子 BRCA1 の機能発現に重要であることが示された.RHA に
よる転写活性化機構の詳細な解析のため,RHA と相互作用する新たな宿主因子を Yeast Two-Hybrid 法を用
いて同定した。その結果、 RNA の選択的スプライシング,mRNA の核外輸送に関与することが示唆されている
heterogeneous nuclear ribonucleoprotein A1 (hnRNP A1) ,また新規 SR タンパク質などの RNA 結合タンパク質
が得られた。
RHA は hnRNP A1 の M9 領域を含む C 末端と相互作用した。また免疫沈降法により in vivo での相互作用を
明らかにするとともに、それらの細胞内局在も一致した。これらの結果は、RHA が転写のみならず,RNA のプロ
セッシング、さらに mRNA の核外輸送を含めた一連の連鎖反応の共通因子として機能する可能性を示唆してい
る。
転写反応による非天然型塩基の RNA への位置特異的導入
◯1 大槻高史、2石川正英、2三井雅雄、2野島高彦、2平尾一郎、1、2、3横山茂之(1理研・ゲノム、2科技団・
ERATO・横山プロジェクト、3東大・院理)
新たな核酸塩基対(x-y)を創製することによって6塩基からなる遺伝情報システムが構築されれば、DNA や
RNA に新たな機能を付与することができる。また、このシステムによる遺伝情報量の増加は、新たに生じた遺伝
暗号に非天然型アミノ酸を割り振ることを可能とし、転写-翻訳系による非天然型アミノ酸を含む新規タンパク質
の合成に応用できる。
非天然型塩基対の数少ない報告例として、isoG-isoC などが挙げられる。しかし、isoC の化学的な不安定性や
isoG の互変異性体と T との誤った塩基対の形成、さらにこれらの非天然型塩基を基質としない酵素もあり、未
だ実用化には至っていない。
我々は、立体障害を利用して塩基対形成の選択性を高めた 2-アミノ-6-(N,N-ジメチルアミノ)プリン(x)と 2-ピ
リドン(y)を新たにデザインし、x を含む鋳型 DNA と基質となる dyTP あるいは ryTP をそれぞれ化学合成し、鋳
型中の x に対する y の DNA あるいは RNA への取り込みを調べた。ここでは、T7 RNA ポリメラーゼによる、
RNA 中への y の取り込みについて報告する。
まず、塩基の種類を限定した基質の存在下で x を含む鋳型 DNA を用いて転写反応を行い、ゲル電気泳動によ
ってその転写物を分析した。その結果、y は鋳型中の x に相補して、RNA 中に取り込まれることが分かった。た
だし、ryTP の非存在下では、鋳型中の x に対して僅かながら U が、また、rUTP の非存在下では、鋳型中の A
に対して y が取り込まれてしまうことが分かった。そこで、すべての基質の存在下で転写反応を行い、RNA 中に
取り込まれた塩基の組成分析を行った。その結果、鋳型中の A に対して y の間違った取り込みは全く認められ
ず、鋳型中の x に対する U の取り込みは僅か(~4%程度)であることがわかった。この x に対する U の取り込
みは、ryTP と rUTP の量比を1:1から 2:1 にすることによって2%程度まで下げられた。
これらの結果、鋳型中の非天然型塩基 x に依存して、それと相補的な非天然型塩基 y は in vitro 転写系におい
て RNA 中に選択的に導入されることがわかった。また、y の5位にメチル基を導入した基質も同様に高い選択
性で RNA 中に取り込まれることが分かり、これは y の5位に任意の修飾を施すことによって新たな官能基を
RNA 中の特定位置に導入可能であることを示唆している。
オルガネラにみられる感染/転移性イントロンの挙動--種内脱感染モデル
○大濱 武、渡辺 一生、江原 恵、平岩 呂子
(生命誌研究館/阪大・理/神戸大・内海域)
オルガネラの中には Group I や Group II イントロンをもつものがある。これらの中でも、そのイントロン中に
active な ORF を持つものは種を越えて感染転移することが出来ると思われている。我々のグループは藻類ミト
コンドリアの中で最も保存性の高い遺伝子である、coxI 遺伝子を広範囲にスクリーニングする過程で以下の事
を明らかにした。
1)藻類ミトコンドリアにおいても Group I や Group II を持つ種があること。しかしその分布には極めて強い偏りが
あった。即ち、黄色藻の coxI 遺伝子中には Group II イントロンのみがみられ、緑藻(接合/車軸藻を除く)の coxI
遺伝子には Group I が多く、Group II は極めてまれであり、陸上植物の起源とされる接合/車軸藻の coxI 遺伝
子には、多くの Group I 及び Group II を持つ(コケに似た分布)。2)珪藻ミトコンドリアで見いだされたイントロン
は、褐藻 coxI 遺伝子の対応部位にある Group II イントロンてにきわめて類似した塩基配列を持つことから、ごく
最近転移したと思われる。3)同種であれば、世界中どこの海に生息していても同じイントロンを持つことから、イ
ントロンの種内感染力はきわめて強いと思われること。
また、これまでに菌類、陸上植物、細菌で見いだされている Grouip II イントロンのデータを総合的にみると、その
ORF 内にある3つのドメインの壊れ方には一定の順序があることから、どのようにして、感染/種内に蔓延したイ
ントロンが種内から脱感染するのかをモデル化したので発表する。
細胞毒性を持つ RNA 制限酵素、コリシン E5 のユニークな構造と機能
○小川 哲弘 1)、井上 咲良 1)、渡辺 公綱 2)、魚住 武司 3)、正木 春彦 1)
(1)東大院・農生科、2)東大院・新領域創成科、3)明治大・農生)
コリシンは、大腸菌プラスミドが生産し他の大腸菌を殺す蛋白性毒素である。このうちコリシン E3 は、16SrRNA の 3'末端 49 残基断片を切断してリボソームを失活させる特殊な RNase であり、コリシン E4~E6 も同様
の機構でタンパク合成を止めることが示唆されてきた。我々は、E4 と E6 に関してそうであることを確認したが、
E5 のみ C 末端活性ドメイン(E5-CRD)の構造が異なっているので作用機構の異なることが期待された。
大腸菌生細胞に対するコリシン E5 の in vivo 作用と、精製した E5-CRD(115 アミノ酸)の in vitro 作用を詳細
に検討した結果、以下のことが判明した。(1) E5-CRD はアンチコドン 1 文字目(34 位)にキューイン(Q)を持つ
Tyr, His, Asn, Asp に対する tRNA 分子を特異的に切断する。(2) この tRNA 切断が感受性菌の致死性の直接
原因である。(3)切断部位は Q の 3'側で 2',3'-環状リン酸を残す。(4) 基質認識に Q は必須でなく、未修飾の G
でも同様に切断する。(5) アンチコドンステムループを模した合成 RNA も同じ特異性で切断する。(6) 基本的に
は GU を認識してこの間を切断する RNA 制限酵素である。(7) His の関与しない新規の触媒機構を持つ。(8) 生
産菌を致死から防ぐ immunity 蛋白(108 アミノ酸)は E5-CRD に対する特異的インヒビターである。
以上のようにコリシン E5 は tRNA を標的とする初めてのトキシンであり、一方その活性ドメイン E5-CRD は、た
くさんのユニークな性質を持つ本格的な RNA 制限酵素であることが明らかになった。その構造と、生化学的機
能についての詳細を発表する予定である。
Tetrahymena ribozyme による E.coli の形質転換の解析
金原 和江、渥美 正太、井川 善也、白石 英秋、井上 丹
(京大・生命科学)
self splicing 機能を持つ Group_intron の in vivo での活性を検定する手法として lacZ 遺伝子の α 相補性を利
用したシステムが開発されている。具体的には lacZ の α-fragment を分断するように Group_intron を組み込ん
だプラスミドを E.coli に導入することで E.coli 内での self splicing 活性の有無を Blue-White colony assay により
判別できる。Tetrahymena 由来の Group_intron を組み込んだ場合 Blue colony を形成することから、
Tetrahymena intron は E.coli 内でも十分な splicing 活性を持つことが分かっている。
ところが今回、我々は intron を組み込んだ α-fragment の発現を誘導しながら、この Blue colony を形成した
E.coli を一晩培養し、再び plate に蒔いて Blue-White colony assay をすると、 Blue colony に混じってかなりの
数の White colony が生じることを見出した。この White colony を形成した E.coli を継代的に培養しても White
colony を形成し続けることから、不可逆的な変化であることが明らかとなった。この変化の原因が intron を組み
込んだ α-fragment を持つプラスミドに由来するのか、E.coli のゲノムに由来するのかを解析するため以下の実
験を行った。 White colony から回収したプラスミドを新たに E.coli に導入すると Blue colony を形成することから
プラスミドには異常がないことがわかった。また White colony を形成するようになった E.coli に対して通常の α-
fragment を導入すると、 Blue colony を形成した。これより E.coli にコードされる ω-fragment 及び lacY 等には
異常がないことが分かった。これらの結果から、この変化は α-fragment に組み込まれた intron の splicing に
関与する E.coli 側の因子(例えば splicing 反応を補助する因子)に異常がおきていることが強く示唆された。異
常を起こしている遺伝子を検索するため、E.coli ゲノムライブラリーを作製し complementation assay を行った結
果、目的断片を得た。現在、この断片について解析中である。
ARE 結合タンパク質 AUH および RNA との複合体の高次構造解析
○栗本 一基 1,武藤 裕 1,濡木 理 1,2,横山 茂之 1,2
(1 東大・院理・生化,2 理研・細胞情報伝達)
AU rich element(ARE)は、mRNA の急速な分解を促進する 3'側非翻訳領域のシグナル配列であり、多くの場
合 AUUU のくり返し配列からなる.c-Fos,c-Myc 等の転写因子や,インターロイキン,GM-CSF 等のサイトカイ
ンの mRNA は ARE を持っており,定常状態では細胞質中で急速な分解を受けるが,細胞の活性化にともなって
安定化されるといった発現制御を受けている.また,近年 ARE に特異的に結合するタンパク質(ARE 結合タンパ
ク質)が数多く報告されており,ARE による mRNA の分解シグナルを制御していると考えられている.
AUH は、既知の RNA 結合モチーフを持たない ARE 結合タンパク質であり,また,脂肪酸の代謝に関わる酵素、
enoyl-CoA hydratase でもある多機能タンパク質である.我々は AUH が,6 ヌクレオシドの RNA 配列 AUUUAG
と相互作用することを NMR 解析の結果確認している.また AUH,AUH と AUUUAG の複合体,AUH とインター
ロイキン 3 の mRNA 由来の ARE(IL-3 ARE)との複合体の結晶化に、予備的ではあるが成功した.AUH と IL-3
ARE の共結晶に関しては,実験室系で約 7Åの分解能を与える回折像を得て、結晶系が rhombohedral
(a=b=c=88Å,α=β=γ=75゜) であることが明らかになった.今後、AUH について上記の 3 種類の結晶構造を解
明することによって,AUH による ARE 認識機構を原子構造レベルで解明することができると考えている.
tRNA 連結型リボザイムの細胞質内局在化:成熟した tRNA しか細胞質へ輸送されないという報告は正しい
か?
◯桑原知子、佐野将之、藁科雅岐、多比良和誠
(筑波大・応生、工技院・融合研)
我々はリボザイムを細胞内で発現させるために、 tRNA プロモーターを用いた RNA ポリメラーゼ III(pol III 系)の
発現系を利用している。我々の用いている発現システムでは、プロモーターである tRNA 領域がリボザイムの5’
側に付加した形で転写される。この発現系を用いる利点は、まずその発現が非常に高く安定な点と、構築方法
に留意すると転写産物の tRNA 連結型リボザイムを非常に優勢に細胞質に局在させることができる点にある。
発現されたリボザイムが細胞質に局在できると、比較的結合タンパクが少ない成熟 mRNA と局在を共にし標的
にできるため、細胞内でリボザイムを効率良く機能させる上で有効であると考えられる。
最近 tRNA の核-細胞質間輸送機構が明らかになってきており、Xpo-t と呼ばれる_様受容体が RanGTP 存在
下で tRNA に直接結合し、核外輸送を行うことが分かってきた。我々が設計した tRNA 連結型リボザイムは通常、
野生型 tRNAVal の3’側の7残基を削り、代わりに人工のリンカー(約7~25残基)を介してリボザイム配列(約
30~80残基)を挿入した形で発現されている。そして、細胞内で高活性を発揮しているリボザイムはどれも非
常に効率良く核外輸送されているのである。これまでに明らかになっている Xpo-t を介した野生型 tRNA の核外
輸送には、正確な5’および3’配列そして TψC ループを持つ成熟 tRNA 構造が必要とされている。報告されて
いる Xenopus oocytes で行われた実験結果によると、 tRNA の3’端に CCA 配列がないものでは約10分の1、
余分な配列を3’端に16残基付加したものでは約100分の1に Xpo-t との親和性が低下し、核-細胞質間の輸
送効率が激減する。提唱されているこれらのメカニズムには、我々の tRNA 連結型リボザイムは符合しないよう
に見える。現在、 tRNA 連結型リボザイムの核外輸送機構への Xpo-t の関わりについて解析中である。
スプライシングにおける SR タンパク質リン酸化の役割
小泉 順、小野木 博、萩原 正敏
(東京医科歯科大・難治研・形質発現)
SR タンパク質は、通常のスプライシングにおいて、また、選択的スプライシングにおいても不可欠なスプライシン
グ因子である。このタンパク質は、セリン、アルギニンに富む RS ドメインと RNA 結合ドメインを持ち、これらの構
造がタンパク質と RNA、及び、タンパク質同志の相互作用に関わっており、pre-mRNA のスプライス部位でのス
プライソソーム形成において重要な役割を果たしている。SR タンパク質のひとつである SF2 は、ペプチドマッピ
ングによる解析から、RS ドメイン内の複数の部位でリン酸化されていることが確認されている。
SR タンパク質のリン酸化酵素である Clk (cdc2-like kinase) はリン酸化チロシン抗体による発現スクリーニン
グによりクローニングされた。この酵素は自己リン酸化能を有し、チロシン残基だけでなくセリン/スレオニン残
基もリン酸化する。Clk はその構造内に RS ドメインを持ち、核内において RS ドメインを介して他の SR タンパク
質と複合体を形成していると考えられる。
最近、 RS ドメイン内のリン酸化に依存して、 SF2 がスプライソソームを形成している U1-RNP に結合すること
が示されたが、 SF2 のリン酸化がスプライシングにおいてどんな機能を担っているかという事はほとんどわかっ
ていない。我々は、スプライシングにおけるリン酸化による制御機構を探ることを目的として研究を行っている。
我々の実験から in vitro splicing 反応中で Clk の活性を抑えると、反応初期の SF2 のリン酸化が抑制され、そ
れとともにスプライシングも抑えられていることが分かった。 Clk は自分自身の選択的スプライシングを調節して
いることが知られており、COS-1 細胞内に野生型の Clk を導入すると不活性型、リン酸化活性のない不活型の
Clk を導入すると活性型の Clk が発現することが報告されている。我々は、野生型の Clk を導入したうえで Clk
の活性を抑制すると、活性型の Clk が発現することを明らかにした。
以上の結果から、Clk による SF2 のリン酸化がスプライシングにおいてなんらかの役割を担っていることが示
唆された。現在 Clk による細胞の表現型への影響など調べているところである。
分裂酵母の減数分裂制御に必須な meiRNA の機能領域の特定
○佐藤政充、渡辺嘉典、山本正幸 (東大・院理・生化)
分裂酵母 Schizosaccharomyces pombe の減数分裂の進行には mei2 遺伝子産物 (Mei2) が重要な機能を担
うことが知られている。Mei2 は 3 個の RNP 型 RNA 認識モチーフ(RRM)をもつ RNA 結合タンパク質である。Mei2
は、別個の RNA 分子と相互作用することにより、減数分裂前 DNA 合成と減数第一分裂という、2 つの異なる機
構を制御することが示唆されている。特に後者の機能には、Mei2 が細胞質から核へと移行することが重要であ
ると示されている。mei2 温度感受性変異株の減数分裂不能を多コピーで抑圧する遺伝子の 1 つとして単離され
た sme2 遺伝子は、in vivo で Mei2 と特異的に結合する meiRNA をコードしているが、最近、meiRNA は Mei2 の
核内移行のコファクターとして機能することが分かった。今回、meiRNA の構造と機能の相関を探る目的で、配
列を部分的に欠失させた様々な分子を作り、meiRNA の機能領域の特定を行った。得られた結果を報告する。
固相化 DNA プローブ法を用いた RNA 精製法の改良
鈴木健夫 1 鈴木 勉 1 渡辺公綱 2 (1 東大院 工、2 東大院 新領域)
近年、分子生物学において RNA のもつ多彩な機能に注目が集まりつつあるが、一般的に細胞内に存在する機
能性 RNA は存在量が少なくまた不安定であるために、単離することが難しく、遺伝学的な手法などを駆使した
解析法などが一般的になりつつある。ところが RNA は転写後に修飾されることにより、本来の機能を発揮できる
と考えられるため、実際に細胞から目的の RNA を単離し、in vitro での機能解析や修飾塩基も含めた一次構造
の決定は、これからの RNA 研究には欠くことのできない手段であると思われる。細胞から抽出した RNA 混合物
から塩基配列特異的に目的とする RNA を単離する技術として、固相化 DNA プローブ法が優れているが、従来
の方法では操作の煩雑さなどにより、熟練した経験が必要な技術であるという点が問題であった。今回我々が
改良した点は、DNA プローブを固定化したカラムにペリスタルティックポンプを組み合わせることで、連続的に
RNA 混合物を循環させることを可能にしたことである。これにより、目的とする RNA を効果的に固定化プローブ
カラム上に保持させることができる上、RNA に対する DNA プローブの効率が低い場合にも対応できることが期
待される。またバッチ法と異なり固定化プローブカラムに供給できる RNA 混合物の液量も事実上無制限である。
洗浄と溶出も同様に連続的に液を供給することで、操作時間が短縮され操作も簡便になった。今回この手法に
より、牛肝臓から存在量の少ないミトコンドリア tRNA を一回の操作で、最大で 1.2mg 単離することに成功した。
単離された tRNA の純度は非常に高く、ハイブリダイゼーションアッセイにより、この tRNA が一度の操作でほぼ
完全に回収された(98%)ことも確認した。この手法を用いれば複数のカラムを直列に連結することで、異なる
RNA を同時に単離精製することも可能になると考えられ、現在条件を検討中である。
ゼブラフィッシュ bruno-like 遺伝子の解析
鈴木 仁、前川真吾、安田國雄、井上邦夫
(奈良先端大・バイオ)
多くの生物の初期発生過程では、卵に蓄積された多くのタンパク質や mRNA による制御が重要であると考えら
れている。これらの母性因子のいくつかは、卵で局在化している。例えば、ショウジョウバエの受精卵では、oskar
や nanos mRNA が後極側に局在化し、極細胞の形成や腹側化に重要な役割を果たしている。また、アフリカツメ
ガエルにおいては、初期胚の植物極に生殖質が存在し、生殖細胞形成に寄与する。最近、ゼブラフィッシュ胚の
植物極除去実験によって、胚の腹側化が起こることが明らかとなった。我々は、ゼブラフィッシュの植物極に局
在化する遺伝子に注目し、解析を行っている。
我々の同定したゼブラフィッシュ bruno-like(brul)遺伝子は、ショウジョウバエの bruno に高い相同性を有し、ゼ
ブラフィッシュ卵の植物極への局在化を示した。ショウジョウバエの bruno は、極細胞質の形成に必須な oskar
mRNA の 3’UTR の BRE 配列に結合し、翻訳の不活性化に関与する RRM(RNA recognition motif)型の RNA
結合タンパク質をコードしている。In situ ハイブリダイゼーション法により、brul mRNA は、卵形成過程で将来の
植物極に局在化することを示された。そして、受精後、brul mRNA は、動物極側に形成される胚体に向かって卵
黄の間隙を通って移動し、ほとんどは、1 細胞期から 2 細胞期に細胞内に取り込まれることが示唆された。また、
転写による新規の brul mRNA の発現は胚体の全域に検出された。さらに、発生が進行すると眼の水晶体繊維
細胞で強い発現が検出された。次に、brul 遺伝子の機能を解析するために、翻訳産物の RNA 結合能について
解析した。結合配列について SELEX 法により、ウリジンとプリン塩基の繰り返し配列、URE(Uridine Purinerepeat element)を検出した。このような URE 配列は、ゼブラフィッシュのいくつかの mRNA に存在する。本研究
室で前川らの解析している zDazl mRNA の 3’UTR にも URE 配列がある。ゼブラフィッシュ zDazl は、ヒト無精子
症の原因遺伝子の相同遺伝子であり、zDazl mRNA は、brul mRNA 同様に受精卵の植物局側に局在する。この
zDazl URE に対して、Brul タンパク質は、強く結合した。現在、Brul の果たす役割について、特に、生殖細胞形成
に注目して解析を進めている。
枯草菌 DEAD ボックス型 RNA ヘリカーゼ相同遺伝子の検索と機能解析
◯鈴間聡、吉野桂子、中村幸治、山根國男(筑波大・生物科学)
DEAD ボックス型 RNA ヘリカーゼは RNA 分子の構造変化を引き起こす因子で、RNA スプライシング, リボソー
ムアッセンブリー, 翻訳開始などの RNA が関与する機構において重要な働きをしている。その機能については、
主に酵母などの真核生物で解析が進められているが、原核生物においては報告例が少なく、機能も未知なもの
が多い。
枯草菌はグラム陽性細菌の代表であり、その染色体 DNA の全塩基配列は 1997 年に決定され、公表されて
いるが、RNA ヘリカーゼ活性を持つ因子は報告されていない。本研究では、生体内における RNA 分子の多様
な動的機能及び機構を対象とした網羅的解析の一端として、枯草菌において DEAD ボックス型 RNA ヘリカーゼ
相同遺伝子を検索し、機能解析を試みた。
最初に報告された DEAD ボックス型 RNA ヘリカーゼであるマウスの eIF-4A(eukaryotic initiation factor-4A)
のアミノ酸配列を用いて、枯草菌全 ORF に対するホモロジー検索を行った結果、DEAD ボックスコンセンサスを
持つ5つの ORF(yxiN, ydbR, yfmL, yqfR, yprA)が見いだされた。これらの DEAD ボックス配列は、yxiN, ydbR,
yqfR が D-E-A-D、yfmL が D-E-T-D、yprA が D-E-L-H であった。また、これらの ORF の機能はいずれも未知
であった。そこで各遺伝子の欠損変異株を作成し、それらの成育を測定したところ、yxiN, yqfR, yprA 欠損変異株
はいずれも野生株と同等の成育を示したが、ydbR, yfmL 欠損変異株では対数増殖期中期において、野生株と
比較してそれぞれ約3時間, 約1時間の成育の遅れがみられた。また、ydbR 欠損変異株では、全 RNA 中の
scRNA(small cytoplasmic RNA;SRP RNA の相同因子)の前駆体の蓄積がみられたことから、ydbR が scRNA
の代謝に関与している可能性が示唆された。
古細菌の tRNA Leu の認識機構
○1 相馬亜希子、2 内山清人、2 坂本輝路、2 前田美帆、1,2 姫野俵太
(1 岩手大・連合農学、2 弘前大・農学生命)
tRNA はバリアブルアームの長さにより2つのクラスに分類され、長いバリアブルアームをもつ class II tRNA の
数は、真正細菌で2つ、真核生物及び古細菌で3つというように、生物系統間で変化している。このような class
II tRNA の構造変化に伴ってそのアミノアシル tRNA 合成酵素による tRNA の認識機構が、大腸菌と酵母の間
で根本的に異なっていることがこれまでに明らかになった。このことから class II tRNA の認識機構の大きな変化
は、class II tRNA システムを構成する tRNA の数や種類に大きく影響を受けていることが推測された。class II
tRNA の認識機構の進化を解明するために、本研究では系統的に真正細菌とも真核生物とも異なる古細菌
Haloferax volcanii の class II tRNA の認識機構を明らかにした。H. volcanii は tRNALeu と tRNASer の2つの
class II tRNA をもっており、酵母と同じような認識方法をとっていることが予想される。一方、tRNALeu と
tRNASer の2次構造の違いから大腸菌のような認識方法をとっている可能性も考えられる。in vitro の転写系を
用いた実験から、特に tRNALeu の認識機構とその進化について報告する。
tRNALeu のディスクリミネーター塩基とバリアブルアームに変異を導入するとロイシン受容活性が著しく低下す
ることから、これらの部位が重要であることが示された。しかし、もうひとつの class II tRNA である tRNASer にロ
イシン受容活性をもたせるためには、ディスクリミネーター塩基とバリアブルアームを tRNALeu のものと置換す
るだけでなく、高次構造に関与する塩基の挿入が必要であった。このような認識方法をとるという点では部分的
に大腸菌と類似しているが、同じ2種類の class II tRNA をもっている酵母とは全く異なっている。
大腸菌 PriA タンパク質による D- ループ及び R- ループ構造の認識と DNA 複製の開始
田中 卓、新井 賢一、○正井 久雄
(東大医科研・分子細胞制御)
大腸菌染色体複製は通常イニシエータータンパク質 DnaA により oriC 配列から開始する。しかし、特殊な条件
下(DNA 損傷の存在下あるいは細胞内の RNaseH の活性が減少した場合)では、DnaA/oriC 非依存的に染色
体複製が進行することが知られている。これらの条件下では、DNA 複製は、それぞれ、染色体上に形成された
組み換え中間体(D-ループ)あるいは転写の副産物(R-ループ)から開始すると考えられている。我々は以前、
この大腸菌染色体複製の alternative pathways に、ヘリカーゼモチーフおよび Zn-フィンガー様モチーフを持つ
PriA タンパク質の機能がが必須であることを報告した。その後、PriA タンパク質は D-ループ構造を特異的に認
識し in vitro で他の複製タンパク質と共に DNA 複製を開始しうることが示された。今回我々は、PriA タンパク質
は R-ループ構造にも特異的に結合することを見い出した。また、変異 PriA タンパク質の解析から、D-ループお
よび R-ループ構造に依存する複製には、PriA タンパク質のヘリカーゼ機能及び Zn-フィンガー様構造が必須で
あることが明かとなった。しかしこれらの構造は PriA の D-ループおよび R-ループへの結合には関与しない。核
酸結合能をもつ N 端領域に保存されたモチーフを見い出し、現在このモチーフの D-ループ、R-ループ結合へ
の関与を検討している。D-ループからの複製は組み換え依存的な二本鎖 DNA 切断の修復および環境変化に
対応する error-prone な DNA 複製に関与する可能性、さらに R-ループに依存する複製は厳密な塩基配列特異
性が要求されないことから、進化的に primitive な複製形態の一部を反映している可能性を考えている。
ヒト悪性リンパ腫における新規 snoRNA host gene (U50HG)の解析
○田中 りつ子、佐藤 均、吉田 祥子、中村 義一、渡邉 俊樹、森 茂郎 (東大・医科研)
脊椎動物細胞の核小体に含まれる低分子核小体 snoRNA の機能不全による疾患はほとんど報告されていな
い。我々はヒト B 細胞性悪性リンパ腫の一症例の t(3;6)(q27;q15)染色体転座から 6 番染色体上に BCL6 遺伝
子の新規転座相方遺伝子 U50 snoRNA host gene (U50HG)を同定した。
多くの snoRNA は pre-rRNA の特異的塩基の修飾に関与することで rRNA の成熟に関わっている。1996 年
Kazimierz らは U22 を含む 8 種類の snoRNA をイントロンにコードする protein non-coding gene (UHG)を報告し
ている。
我々が単離した遺伝子 (U50HG) は 6 つのエクソンから構成される全長約 1,600bp の protein non-coding
gene である。一方、そのイントロンには U50 と U50 に高いホモロジーをもつ新規の snoRNA 配列 (U50’)をコー
ドしており、いずれも核小体内で発現する単一の遺伝子であることを確認した。従って、本遺伝子はエクソンより
もイントロンに機能をもつ UHG 様の遺伝子である。また、本症例を含めた悪性リンパ腫 8 例についてサザンブ
ロットを行ったところ 3 例について本遺伝子の一方の対立遺伝子が欠損及び転座していることが示唆された。こ
れら 3 症例について northern blot を行ったところいずれも U50 及び U50’の低発現が確認された。さらにマウ
スの U50 ホモログ (mU50)を用いて組織における発現を検索したところ脾臓、胸腺の造血器系組織、肺、生殖器
系組織での高発現を認めた。
以上のことから U50 が造血器系組織特異的なリボソームの生合成に関与し、 U50HG の機能不全がリボソー
ムの形成、機能不全をまねき、悪性リンパ腫発症の一端に関与する可能性が考えられた。
HIV-1 ゲノム RNA の二量体化開始部位の結晶化
○1 角田 大、1 池 功二郎、2 高橋 健一、3 小柳 義夫、4 山本 直樹、2 高久 洋、2 河合 剛太、1 竹中 章郎(1 東
工大院・生命理工、2 千葉工大・工、3 東北大・医、4 東京医科歯科大・医)
レトロウイルスのゲノム RNA の二量体化は、成熟したウイルス粒子を形成するために必要である。その反応
は、二量体化開始部位(DIS)で、まずヘアピン構造のループ・ループ複合体(kissing dimer)を形成し、より安定な
二本鎖構造(duplex dimer)へ移行することで引き起こされると考えられている。
我々は HIV-1 の DIS の部分配列に相当する 23 残基に 3 塩基対を追加した 29 残基からなる RNA を化学合
成により調製して、熱処理の操作方法を変えることで安定性の異なる二種類の二量体(loose dimer と tight
dimer)が形成されることを確認した。これまでの研究により、この二種類の二量体がそれぞれ kissing dimer と
duplex dimer であることが予想されている。本研究では二量体形成に必要なこの loose dimer の詳細な立体構
造を X 線解析によって明らかにするために、結晶化条件を検討した。
結晶化をできるだけ均一な系で行うために、熱処理後の高次構造を未変性電気泳動で調べた。その結果、
loose dimer を形成する条件として、サンプルを希釈調整し熱処理(95℃3 分、急冷)後、減圧乾燥して、結晶化濃
度に再調整する方法を用いた。このサンプルを用いて、結晶化条件検索を行ったところ、最大長 0.2mm の板状
結晶が得られた。結晶の染色および蛍光顕微鏡による観察から、RNA の結晶であることが確認できた。結晶内
での RNA の高次構造を確認するために、結晶を回収し溶解させ、未変性電気泳動を行ったところ、loose dimer
をとっていることがわかった。結晶を低温窒素ガスにより 110K に急冷して、放射光を用いて振動写真法により
回折データの収集を行った。最大分解能 16Å の反射が得られ、格子定数は a=96.6, b=139.2, c=74.0Å(C
orthorombic)または a=85.6, b=72.0, c=84.4Å, _ =110.3°(P monoclinic)であると決定した。
骨格筋から分離・同定した運動ニューロン生存活性を持つ物質は RNA であった
○程久美子 1、高宮正也 2、永野昌俊 1、鈴木秀典 1、片岡宏誌 2、宮田雄平 1
1
日医大・薬理、2 東大・農・農学生命科学
神経細胞は発生の初期に過剰に産生され、成熟する過程で、約半数が死に至る。このような細胞死は自然細
胞死と呼ばれるが、運動ニューロンの発生分化の過程でおこる自然細胞死の機構としては標的(筋)由来の生
存因子仮説が一般に受け入れられている。交感、感覚神経細胞の生存因子であることがわかっている NGF は、
神経栄養因子として最初に単離されたものである。現在では NGF を初めとするいくつかの神経栄養因子が単
離されているが、真の運動ニューロン生存因子はまだ同定されていないと考えられる。そこで、私達は、ニワトリ
骨格筋から in vitro において運動ニューロン生存活性を示す物質を、一連のカラムクロマトグラフィーにより単離
することを試み、成功した。この物質の最大 UV 吸収は 258nm で、A260/A280 は 1.92 であった。また、核磁気共鳴
スペクトルの結果から、精製した物質は RNA であることが示唆された。そこで、確立した精製法に核酸抽出のス
テップとして phenol/chloroform 抽出を導入した改良精製法を用い、精製した物質に対して酵素処理による失活
実験を行った結果、Protease および DNase には耐性であったが RNase 処理により生存活性は消失した。これ
らの結果から精製した運動ニューロン生存活性を持つ物質はタンパクではなく RNA であると結論された。
進化分子工学による人工リガーゼリボザイムの創製
○寺本 直純 1、宮本 義孝 2、伊藤 嘉浩 3、今西 幸男 2
(1 京大・工・材料化学、2 奈良先端大・物質・高分子創成、3 徳島大・工・生物工学)
進化分子工学による分子選別法は、多数の異なる配列の分子が含まれる集団から、選別・増幅(・変異)を繰
り返すことで、目的の分子を得る手法である。近年この手法の発展により、様々な機能性分子が創製されている。
特に核酸の進化分子工学においては、全くランダムな配列の分子が含まれる集団から、機能性分子を得ること
ができるようになった。我々は、(1) 非天然核酸を利用した進化分子工学、(2)進化分子工学によるリボザイムの
非生理的環境への適応、をテーマに研究を進めている。
(1)非天然核酸を利用した進化分子工学-リガーゼ機能を有するリボザイムの選別-
・ N6-(6-アミノヘキシル)アデノシンを含み、全くランダムな配列を有する RNA の集団より、リガーゼ機能を有す
る RNA を選別した。 RNA の合成、基質オリゴデオキシヌクレオチドと結合する RNA の選別、逆転写 PCR 法に
よる増幅、これら一連の操作を 7 回繰り返した。基質オリゴデオキシヌクレオチドと RNA 集団の反応において、
RNA と基質とを互いに近傍に位置させるため、添え木の役割を果たすオリゴデオキシヌクレオチド(外部鋳型)
を利用した。
選別された RNA は、ランダムな配列を有する RNA より、約 10 倍高い反応性を示した。さらに、選別された RNA
の反応活性は、外部鋳型依存性を示した。また、選別された RNA と同配列で、未修飾ヌクレオチドからなる
RNA は反応速度が低かった。
・ 次に、2'-アミノ-2'-デオキシウリジンを含み、全くランダムな配列を有する RNA の集団をもとに、同様の選別
実験を 7 回行った。選別された RNA を基質オリゴデオキシヌクレオチドと、外部鋳型存在下で反応させ、ポリア
クリルアミドゲル電気泳動法により生成物を解析した。その結果、選別後の RNA 集団は、ランダムな配列を有
する RNA より、数倍高い反応活性を示した。しかし、検出された主生成物は、電気泳動での移動度が予期して
いたものより低かった。現在、さらにこの生成物の解析を行っている。
(2)進化分子工学によるリボザイムの非生理的環境への適応
・ Bartel らにより選別されたリガーゼリボザイム(b1-207)1), 2)をもとに、進化分子工学的手法を利用し、酸性条
件下(pH 4)でも活性を保持しうるリボザイムの創製を行っている。b1-207 によるホスホジエステル結合の生成
反応は、酸性条件で低下する。そこで、この配列に 10%程度のランダムな変異を加え、得られた集団をもとに反
応活性の高い RNA を選別した。ただし、選別実験において、ビオチンの結合した基質オリゴヌクレオチドと RNA
集団との反応は、pH 4 の緩衝液中にて行った。
4 回の選別実験で得られた RNA 集団は、pH 4 において、b1-207 より約 200 倍高い反応活性を示した。また、
選別された RNA 集団に含まれる RNA 分子 30 クローンについて、配列を解析したところ、30 のうち 10 クローン
が互いに同配列であった(clone 01)。b1-207 と clone 01 の配列を比較したところ、4 箇所で配列の相異が見られ
た。
1) Bartel, D. P. and Szostak, J. W., Science 261, 1411-1418 (1993).
2) Ekland, E. H. and Bartel, D. P., Nucleic Acids Res. 23, 3231-3238 (1995).
HIV-I/HTLV-I の mRNA 核外輸送の細胞性因子である hCRM1 の変異体解析
○博多 義之、 志田 壽利
(京大:ウイルス研究所:高次生体)
HIV-I/HTLV-I は RNA 結合タンパクである Rev/Rex をコードしている。これらのタンパクはスプライスングを受け
ない、または1回だけ受けたウイルス mRNA の核外輸送に必須であることが報告されている。近年、Rev の核
外輸送に働く細胞因子として hCRM1 が同定された。hCRM1 は importin__family に属し Rev の NES と直接結合
する。我々は Rev/Rex の核外輸送の他に、それらの多量体化機構にも hCRM1 が必要であることを報告してき
た。多量体化は Rev/Rex が RNA を運搬する上で必須である。そこで、hCRM1 の Rev/Rex 多量体化機構を解
明することは核外輸送機構の解明と並んで重要である。
我々は Rat の rCRM1 の性質を調べていた。RT-PCR により rCRM1 をクローニングし塩基配列を決定したところ、
rCRM1 は hCRM1 と比較して塩基レベルで約 90%、アミノ酸レベルでは 97%が同一配列であることが分かった。
また、Rev/Rex 活性に対する rCRM1 の作用を hCRM1 と比較して調べた。各々の活性は Rev/Rex が特異的に
結合する RNA 配列 (RRE/RXRE)を持つことで Rev/Rex 存在下でのみ CAT 遺伝子産物を産生するレポーター
を用いた。また Rev/Rex に対し hCRM1 を競合的に奪うことでその働きを阻害する、優勢阻害変異体である
TAgRexM64 を使用した。HeLa 細胞内で Rev/Rex は共に効率良く働くが TAgRexM64 をトランスフェクションによ
り過剰発現すると、細胞内では hCRM1 の不足により Rev/Rex の活性は低下する。この時 hCRM1 発現プラスミ
ドをコトランスフェクションすると量依存的に Rev/Rex の活性が回復することを認めた。しかし、rCRM1 発現プラ
スミドだと、Rev の活性は hCRM1 の時と遜色なく回復するにもかかわらず Rex の活性はほとんど回復が認めら
れなかった。two-hybrid assay によって調べたところ、Rev/Rex の多量体化は hCRM1 を利用しているために
TagRexM64 で阻害された。hCRM1 発現プラスミドをコトランスフェクションすると、Rev/Rex の多量体化の回復
が認められた。しかし rCRM1 では Rev の多量体化は回復するが、Rex の場合は回復が認められなかった。
rCRM1 と Rex の結合効率は hCRM1-Rex 間の約半分であった。他方 rCRM1-Rev 間結合は hCRM1-Rev 間の
1/10 以下であった。次に hCRM1 と rCRM1 の N 末半分、C 末半分間で 2 種のキメラタンパクを作成し上記と同
様な解析を行った結果、hrCRM1, rhCRM1 共に rCRM1 と同様の Rex と Rev への結合能を示した。他方、
hrCRM1 は Rex の多量体化を支持するのに対し rhCRM1 は支持しなかった。このことは Rex との結合と多量体
化を支持するための hCRM1 中のドメインは分離して存在していることを示唆している。hCRM1 と rCRM1 の N
末端領域は 11 個のアミノ酸が異なっており、それに対する各々の変異体を作成した。これを用い上記解析を行
った結果をあわせて報告する。
大腸菌 tmRNA における tRNA-like domain の役割
○塙 京子、姫野 俵太、武藤 あきら
(岩手大学大学院 連合農学研究科)
tmRNA (transfer-messenger RNA) はバクテリアに広く存在する安定な低分子 RNA で、tRNA と mRNA の二つ
の機能を持つ RNA である。tmRNA は mRNA が終止コドンを欠損するなどの原因で、翻訳が滞っているリボソー
ムに入る。ペプチジル tRNA からペプチドを受け取った tmRNA は、先にあった mRNA を追い出し、今度は自分
自身が mRNA として働く。その結果 10 個のアミノ酸(タグペプチド)をペプチドの C 末端に付加させ、その後自
分自身の終止コドンを用いて翻訳を終了させる。この変則的翻訳は二つの mRNA の切り替えを伴うところからト
ランストランスレーション(trans-translation)と呼ばれる。現在までの当研究室の in vitro の実験により、tmRNA
はアラニル tRNA 合成酵素の基質となりアラニル化されること、またアミノアシル化されていない tmRNA はリボ
ソームに入ることが出来ないことが明らかにされている。このことは tmRNA が機能するうえでまず tRNA として
機能することが必須であることを示している。今回、大腸菌 tmRNA を用いて二つの末端からなる tRNA-like
domain に変異を入れた多数の 変異体 tmRNA を作成し、その機能と構造について調べた。その結果わずか一
カ所の塩基置換で tRNA としての機能には全く影響を与えないが、mRNA としての機能を完全に失わせる部位
を決定することができた。この変異体はリボソームへの結合能力を失っていた。この結果は tRNA-like domain
のある部位が直接的、あるいは何らかの因子を介して間接的にリボソームとの相互作用に大きく関与している
可能性を示している。
葉緑体の RNA エディティング部位認識を司る RNA 結合タンパク質
○廣瀬 哲郎、杉浦 昌弘(名古屋大・遺伝子)
葉緑体には mRNA 上の特定のシチジン(C)がウリジン(U)に変換される RNA エディティングが存在する。エディテ
ィングは種間で保存されたアミノ酸コドンを獲得したり、機能的な開始コドンや終止コドンが形成することから、葉
緑体におけるエディティングの役割は RNA レベルの遺伝情報校正機構であると考えられる。また我々のこれま
での解析により組織特異的なエディティングによって特定の葉緑体 mRNA の翻訳がコントロールされていること
が明らかになっており、エディティングは遺伝子発現制御段階として捉えることもできる。一方、葉緑体のエディ
ティングの分子機構はこれまでにほとんど明らかになっていない。特に mRNA 上の数ある C 残基の中から特定
の C 残基がどのように認識されるのか? あるいは C から U への置換はどのようにおこるのか?といった基本
的な機構も全く未知のままである。我々は分子機構の解明のために有用な解析系としてタバコ葉緑体抽出液を
用いた in vitro RNA エディティングの開発に初めて成功した。この in vitro 系を用いた解析により、2つのエディ
ティング部位についてそれぞれ全く異なった配列からなるエディティングシス領域を同定した。さらに競争阻害実
験によって、それぞれのシス領域に相互作用する部位特異的なトランス因子の存在を明らかにし、UV クロスリ
ンク法によりシス配列に特異的に結合する RNA 結合タンパク質の検出に成功した。さらに免疫学的手法により
我々が以前同定した RRM 型葉緑体 RNA 結合タンパク質の一つが RNA エディティングに必要であることが示さ
れた。以上の結果から、葉緑体 mRNA の特異的なエディティング部位認識は部位特異的な RNA 結合タンパク
質と遍在する RNA 結合タンパク質の共同作用により達成されることが推測される。
RNA ランダム配列の自由エネルギー分布とその応用
○二村泰弘 1、張武明 2、荻上真理 3、山本健二 4
(東大•1 院理•生物化学、2 先端研•バイオセンサー、3 院理•生物科学、4 医•分院•細菌)
塩基配列が明らかな RNA の解析手段として、コンピュータによる二次構造予測が広く行われている。しかし二
次構造予測は、全くランダムな塩基配列をもつ RNA についても、何らかの構造が出力される。つまり、予測され
た二次構造が生物学的に意味のあるものかどうかを評価する手段はない。
既に二次構造が明らかにされているテトラヒメナのグループ I イントロンは、二次構造予測プログラム mfold (1
~3)を用いると、37 ℃での最小自由エネルギーは-113.7 kcal と計算される。これと同じ塩基組成 (A:123, C:79,
G:107, U:110) の 30 種類のランダム配列についても最小自由エネルギーを求めたところ、平均-79.1 kcal
(r.m.s.d. = 6.4 kcal) となり、グループ I イントロンはランダム配列のエネルギー分布から大きく離れていた。このこ
とは、二次構造の形成(=フォールディングの安定性)という視点で見ると、グループ I イントロンが特異な配列
であることを示している。
グループ I イントロンの場合はランダム配列と比べて、フォールディングの安定性が極端に高いことがわかった
が、これとは逆にフォールディングが不安定な事例として、ショウジョウバエの Mlc1 遺伝子のイントロン 4 が挙
げられる(4, 5)。イントロン 4 の前半 175 残基は、ランダム配列と比べて極端にフォールディングが不安定な傾向
を示す。この領域はオルタナティブ・スプライシングでスキップされるエキソン 5 に隣接していることから、正確な
スプライシングを行うための制約である可能性が指摘されている。このように、最小自由エネルギー(=二次構
造形成のしやすさ)を指標に、配列のエントロピー(ランダム度)が評価できる。
さて、ここで比較対照としているランダムな配列とは、どんな特徴をもつのだろうか?そこでわれわれは、さまざ
まなランダムな配列の最小自由エネルギーの分布を検討した。
まず、RNA 鎖長との関係を調べたところ、ACGU 含量が等しいランダムな配列では、鎖長が長くなると最小自
由エネルギーの平均は比例関係に近くなり、1残基あたりのエネルギー E (a, c, g, u) は 100 残基前後で一定値
に収束することを見いだした。
次に、塩基組成との関係を調べた。鎖長が 300 残基の RNA について、さまざまな塩基組成からなるランダム
配列の最小自由エネルギーを求め、各組成ごとに分布を調べた結果、E (a, c, g, u) は次の近似式で与えられた。
E (a, c, g, u) ≒ -αacgu -βa2u2 -γg2c2 -δg2uc -εagu2 -ζg2u2
この近似式の物理的意味と、近似式を用いた配列ランダム度評価の応用例を報告する予定である。
参考文献
1. M. Zuker (1989) On Finding All Suboptimal Foldings of an RNA Molecule. Science, 244, 48-52.
2. J. A. Jaeger, D. H. Turner and M. Zuker (1989) Improved Predictions of Secondary Structures for RNA. Proc.
Natl. Acad. Sci. USA, 86, 7706-7710.
3. J. A. Jaeger, D. H. Turner and M. Zuker (1989) Predicting Optimal and Suboptimal Secondary Structure for
RNA. in "Molecular Evolution: Computer Analysis of Protein and Nucleic Acid Sequences", R. F. Doolittle ed.
Methods in Enzymology, 183, 281-306.
4. B. G. Leicht, E. M. S. Lyckegaard, C. M. Benedict, and A. G. Clark (1993) Conservation of Alternative Splicing
and Genomic Organization of the Myosin Alkali Light Chain (Mlc1) Gene among Drosophila Species. Mol. Biol.
Evol., 10, 769-790.
5. B. G. Leicht, S. V. Muse, M. Hanczyc and A. G. Clark (1995) Constraints on Intron Evolution in the Gene
Encoding the Myosin Alkali Light Chain in Drosophila. Genetics, 139, 299-308.
4 塩基コドンを用いた非天然アミノ酸のタンパク質への部位特異的導入
○芳坂 貴弘、宍戸 昌彦
(岡山大・工・生物機能)
非天然アミノ酸の部位特異的な導入は、タンパク質の構造・機能解析や人工機能タンパク質の創製を可能にす
る重要な手法である。我々は、4 塩基からなるコドン-アンチコドンペアを、非天然アミノ酸の導入のために利用
することを検討している。 まず、アルギニンのマイナーコドン CGG を拡張した CGGG をコドンとした場合につい
て検討した。発現遺伝子としてストレプトアビジンを用い、その特定のアミノ酸のコドンを CGGG へ置換し、T7
RNA Polymerase により mRNA を合成した。一方、酵母 tRNA(Phe)骨格をもちアンチコドンを CCCG に変異させ
さらに末端の CA を欠いた tRNA を T7 RNA Polymerase により合成し、これに化学合成したアミノアシル pdCpA
を T4 RNA Ligase により連結させ、アミノアシル tRNA(CCCG)を合成した。これらを大腸菌 in vitro 翻訳系へ加
え、合成されたタンパク質を T7-tag を利用した Western Blot により分析した。その結果、アミノアシル
tRNA(CCCG)の存在下でのみ、完全長のタンパク質の合成が認められ、非天然アミノ酸の部位特異的な導入が
示された。 同様な遺伝コードの拡張は、その他のアミノ酸のマイナーコドンについても可能であ<った。グリシン
のマイナーコドン GGG を拡張した GGGC は、アンチコドンに GCCC をもった合成アミノアシル tRNA により効率
良く非天然アミノ酸へ翻訳された。しかしこの場合、アンチコドン部分がグリシル tRNA 合成酵素(GlyRS)により認
識され、非天然アミノ酸のはずれた tRNA(GCCC)がグリシンをチャージしてしまった。これを避けるため、
tRNA(GCCC)中の GlyRS のアンチコドン以外の識別塩基を変更した結果、非天然アミノ酸のみを GGGC 部位へ
導入することが可能になった。このような複数の遺伝コードの拡張は、2 種類以上の非天然アミノ酸のタンパク
質への効率的な導入を可能にするものである。
Thermus thermophilus tRNA-(Gm18)-methyltransferase の基質 tRNA 認識機構
○堀 弘幸1、山崎紀彦2、松本 隆3、渡辺洋一4、上田卓也、西川一八5、熊谷 泉6、渡辺公綱 (東大・工、
新領域:現所属、1日本医大・一生化、2大塚製薬・微生物研、3農水省・生資研、4Dalhousie Univ、5岐阜大・工、
6東北大・工)
我々は高度好熱菌 Thermus thermophilus HB27 から tRNA-(Gm18)-methyltransferase を精製して、その基質
tRNA 認識機構を調べた。本酵素は基質として用いた 13 種類の天然 tRNA すべてをメチル化することが判った。
これら 13 種類の tRNA は、原核、真核、古細菌に由来する Class I/Class II tRNA を開始用、伸長用 tRNA の区
別なく含んでいたので、本酵素の認識部位はこれら 13 種類の tRNA 総てに共通する構造領域であることが示
唆された。
そこで酵母 tRNAPhe をモデルとして、T7 RNA polymerase を用いて 34 種類の変異型の 転写産物を作製し、
そのメチル化活性を検討した。その結果、本酵素のメチル化にとって必須な構造領域は、tRNA に共通の
G18G19 配列と、D-ステム構造のみであることがわかった。また、U8、G15、Py17、Pu26、G46、U54、U55、C56
などの塩基を他の塩基に置換するとメチル化効率に影響を及ぼすこともわかった。さらに驚いたことに酵素の認
識に必須な tertiary base-pair は存在せず、G18-U55、G19-C56 のみがメチル化効率に影響を及ぼした。
本酵素の認識に必須、または大きく影響する領域を tRNA の三次元立体構造上にあてはめてみると、すべて
の塩基配列は tRNA の三次元コア領域に含まれ、G18 のリボースを含む大部分の認識領域は tRNA の分子表
面には露出していないことが分かった。この事実は本酵素の tRNA 認識機構が複数のステップから成っている
ことを示している。
Y ボックス蛋白質の構造と RNA 結合活性
○松本 健、青木一真、辻本雅文
(理研・細胞生化学)
動物の卵母細胞の細胞質には多くの母性 mRNA が mRNP として蓄えられている。貯蔵 mRNP に豊富に含ま
れる蛋白質として Y ボックス蛋白質が知られる。Y ボックス蛋白質はもともと転写プロモーターに存在する Y ボッ
クスとよばれる制御配列に結合する DNA 結合蛋白質として同定されたためにこの名があるが、後になって一部
の Y ボックス蛋白質が細胞質に存在して RNA 結合蛋白質として機能することがわかってきた。 Y ボックス蛋白
質は多くの生物種で転写、翻訳等に関与する因子として同定されてきており、共通の構造としてその N 端寄りに
cold shock domain (CSD)とよばれる高度に保存された RNA 結合ドメインをもつ。アフリカツメガエル卵母細胞の
貯蔵 mRNP 構成蛋白質である FRGY2 の場合、この CSD が、塩基配列特異的 RNA 結合能を担っている。脊椎
動物の Y ボックス蛋白質の C 端寄りには塩基性および酸性クラスターの繰り返し構造が存在し、この領域も単
独で RNA 結合活性をもつ。FRGY2 はウサギ網状赤血球ライセートの無細胞翻訳系に添加するとレポーター
mRNA の翻訳を抑制するが、これには C 端寄りの領域が必要である。この活性が貯蔵 mRNP 構成蛋白質とし
ての機能に関与すると考えられるが、興味深いことに、ウサギ網状赤血球ライセートから見いだされた Y ボック
ス蛋白質 p50 は、少量では翻訳を促進することが知られている。mRNP を構成する Y ボックス蛋白質の量と活
性の制御が、細胞内での mRNA の翻訳活性に大きな影響を持つことが考えられる。
ラン藻を用いた in vitro 翻訳系の開発と psbAI 遺伝子の翻訳制御機構の解析
○陸田 径典 1、杉田 護 1 2、杉浦 昌弘 1
(1 名古屋大・遺伝子、2 名古屋大・人間情報)
原核光合成生物のラン藻は進化的に高等植物の葉緑体と同一の起源に由来することが示唆されており、光合
成研究における有用なモデル生物として利用されている。また本研究で用いたラン藻 Synechococcus sp.
PCC7942 では、非常に高効率の形質転換法が確立されており、これまでにこの方法で多くの光合成遺伝子の
発現メカニズムが解析されてきた。しかし近年、原核生物においても、転写後過程における遺伝子発現制御機
構の重要性が示唆される様になり、ラン藻でも「転写」、「転写後」、「翻訳」の各過程における現象を独立に検出
することが、遺伝子発現調節のメカニズムを明らかにする上で重要な意味を持つようになってきてた。
そこで本研究ではまず、ラン藻 Synechococcus sp. PCC7942 より調製した S30 画分を用い、in vitro 翻訳系の
開発を行なった。この系はラン藻由来のいくつかの mRNA から翻訳産物を生産することが可能であり、これが正
確な翻訳開始と終結を行うことができることを確認した。また、低濃度のクロラムフェニコールにより阻害されるこ
とから、典型的な原核生物型リボソームに依存した翻訳反応を行なうことが立証された。
さらにこの in vitro 翻訳系を用いてラン藻の光合成系遺伝子の一つ、psbAI mRNA をモデルとし、その 5'非翻訳
領域とタンパク質コード領域内に含まれるシス配列について調査した。その結果、これらの領域にはそれぞれ独
立した翻訳エンハンサーエレメントが存在し、主にこれらが翻訳の開始段階で作用することが予測された。以上
の結果は in vivo において非常に高発現を示す psbAI 遺伝子が、翻訳過程においても特有の遺伝子発現調節
機構をもつことを強く示唆するものであり、その分子メカニズムについてもシュミレートしてゆく予定である。
Euplotes octocarinatus のコドン使用
○村松 知成 1, Brunen-Nieweler 2,Klaus Heckmann 2, 口野嘉幸 1
(1 国立がんセンター研究所、2 Munster 大)
ある種の繊毛虫では翻訳過程において普遍遺伝暗号表と異なる遺伝暗号表が用いられている.たとえば,
Tetrahymena では普遍暗号表で翻訳終了コドンを意味する UAA および UAG コドンはグルタミンを規定している.
さらに,最近になって,繊毛虫類の一種 Euplotes octocarinatus では普遍暗号表における終止コドン UGA がシ
ステインを規定していることを示唆する報告が出されてきた.この真偽を検討するために,今回は新規のタンパ
ク質遺伝子として lon 遺伝子の単離を試みた.lon は原核生物に広く存在が認められている遺伝子で,大腸菌で
は ATP 依存性プロテアーゼ La をコードしていることが知られている. 最近になって酵母やヒト,植物などでも存
在が認められるようになり,ミトコンドリアで機能するといわれている.さらに驚いたことに lon は古細菌でもその
存在が確認されているなど生物種間で高度に保存されている遺伝子であることがわかってきた.lon はまたそれ
がコードするタンパク質のアミノ酸レベルで高いホモロジーを示すことから, 機能的にも高度に保存されていると
考えられ, 生物進化を論じる上で良い材料のひとつといえる.
Lon プロテアーゼのアミノ酸配列レベルでの保存性を考慮して作成した縮退プライマーを用いて Euplotes
octocarinatus 大核染色体 DNA を鋳型にして PCR を行った.その結果、少なくとも 4 種類の配列の異なる lon
様遺伝子が増幅された.これらはどれもアミノ酸配列レベルで他の生物の lon と高い相同性を示した.これらの
うち 2 種類には in frame の UGA コドンが存在し,他生物 lon 産物のアミノ酸配列との比較から UGA が間違い
なくシステインとして読まれていることがわかった.とりわけ ATP 結合モチーフ周辺に存在し ATP 依存性のプロ
テアーゼ活性に必要とされるシステイン残基が UGA によってコードされていることが注目される.Euplotes で
UGA がシステインを規定していることを示す今回の発見は生物進化とセレノシステインtRNA の存在との相関性
に新たな問題点を提起するもとのして注目される.現在,Euplotes lon 様遺伝子の全領域の単離と産物の機能
解析を行っており, Euplotes における Lon 様プロテアーゼの存在意義についても解明していきたい.
RNA 制限酵素であるコリシン E5 の立体構造解析
矢嶋俊介 1、小川哲弘 2、野中孝昌 3、三井幸雄 3、○正木春彦 2、大澤貫寿 1
(1 東農大・応生科、2 東大院農生科・応生工、3 長岡技大・生物系)
コリシン E5 は大腸菌の tRNA を特異的に切断することにより殺菌活性を示すタンパク質である。その特徴として、
(1) アンチコドンの1文字目の G がキューインに置換・修飾された Asn, Asp, His, Tyr の tRNA のアンチコドン部
位を切断する。(2) 従来ヌクレアーゼの触媒残基と考えられている His が存在しない。(3) 阻害タンパク質を持つ。
このような非常にユニークな特徴を持つコリシン E5 の分子認識・活性発現機構の解明を目指して、コリシン E5
の C 末端酵素活性ドメイン(CRD: 115 残基)と阻害タンパク質(Imm: 108 残基)の複合体、および CRD と基質アナ
ログとの複合体の X 線結晶解析を行った。回折強度データの収集はマックサイエンス社の DIP-2030 を用いた。
まず、多重重原子同型置換法により CRD-Imm の立体構造を 1.9_分解能で決定した。その後、CRD と基質アナ
ログとの複合体結晶を得ることにも成功し、2.0_分解能で構造決定を行った。
CRD は既知の RNase とアミノ酸配列において相同性を全く持たないが、そのフォールディングは RNase T1 や
RNase A 同様の alpha + beta に属すものであった。しかしヘリックスやシートの特徴などから、微生物由来の T1
と脊椎動物由来の A との中間の構造であると考えられた。また、阻害タンパク質の構造は、現在までに知られ
ている2種類が平行_-シートをモチーフとするのに対し、逆平行_-シートをモチーフとしていた。さらに、基質アナ
ログとの複合体の立体構造から、CRD は切断部位を挟む前後の2塩基を特異的に認識していると考えられた。
このことは in vivo において CRD が特定のアンチコドンを切断するという結果をサポートしており、コリシン E5 が
RNA 制限酵素として働いていることが推察された。
マボヤ Halocynthia roretzi ミトコンドリア RNA の解析
○横堀伸一、村松由里、曽我部崇、大島泰郎
東京薬大・生命科学・分子生命
後生動物ミトコンドリア(mt)の中では、脊椎動物 mt の転写様式が最もよく研究されている。そこでは、まず
mtDNA 上の一方の転写方向には一つしかない転写開始点からほぼ全ゲノムをカバーする polycistronic な一次
転写産物が作られ、ついで、個々の mRNA、rRNA、tRNA に分割されることが知られている。脊椎動物以外の後
生動物 mt でも、同様なシステムで成熟した RNA の生成が起こると考えられている。また、これらの過程で、
polyadenylation による終止コドンの生成や tRNA editing などのユニークな現象が起こることが知られている。
我々は、脊椎動物と共に脊索動物に属する尾索動物マボヤ Halocynthia roretzi の mtRNA に注目した。種々の
RNA について末端の位置及び配列を決定し、その転写産物及び転写様式の特徴を明らかにすることを試みた。
マボヤ筋肉より全 RNA を分離し、そこから poly A RNA を単離した。これらを基質として、各 RNA の 5’-末端、
および 3’-末端の解析を行った。Large subunit rRNA 及び small subunit rRNA は、poly A RNA を基質として
oligo dT を primer として 3’-RACE で増幅されたことから、マボヤでも、脊椎動物同様 poly A が付加されている
と推定された。また、NADH dehydrogenase subunit 4L mRNA の 3’-末端領域の cDNA を解析すると、その poly
A が始まる位置は単一ではなく、バリエーションが見られた。
また、tRNACys は、その環状化後その cDNA を作製し、cloning 後、各 clone の塩基配列を決定した。現在までに
解析した clone 全てで、その tRNA の 5’末端側に 4 塩基、塩基対を形成しない余剰な配列が見出された。現在
までに解析されている tRNACys 以外のマボヤ mt-tRNA にはそのような配列は見出されていないので、このこと
は、tRNA の processing に関与する各要素が tRNA の種類によって異なっていることを示唆している。
現在、上記以外のマボヤ mtRNA についても解析を進めている。
ポリアミンによる OppA 蛋白質合成促進機序
○吉田 円 1、D. Meksuriyen2、柏木敬子 1、河合剛太 3、五十嵐一衛 1
(1 千葉大・薬、2 チュラロンコーン大・薬、3 千葉工業大・工)
ポリアミンによる特定蛋白質合成促進機序を明らかにするために、ポリアミン要求性大腸菌 MA261 を用い解析
した。ポリアミンにより合成促進される蛋白質の 1 つとして、栄養供給に重要な役割を果たすオリゴペプチド結合
蛋白質、OppA が同定されている。ポリアミンによる OppA 合成促進機序の解析で、1)ポリアミンによる OppA 合
成促進は翻訳レベルで起こること、2)OppA が合成されるためには SD 配列が必要であること、3)ポリアミンによ
る OppA 合成促進率は、OppA mRNA の SD 配列の構造の変化とその近傍の二次構造が関与することが明ら
かになっている。
本研究ではさらに詳細な解析をするため、in vivo においてポリアミンによる OppA 合成促進効果が異なる 4 種
類の OppA mRNA を in vitro で合成し、ポリアミンによる翻訳開始複合体形成促進効果と OppA mRNA の構造
変化の相関関係を fMet-tRNA のリボソームへの結合量と OppA mRNA の RNases に対する感受性を測定する
ことにより検討した。その結果、1)効率よく開始複合体を形成するために必要な OppA mRNA の長さは、約 100
ヌクレオチドであること、2)ポリアミンが OppA mRNA に結合することで、SD 配列と開始コドン AUG とその間の
mRNA の構造が変化するために、30S リボソーム亜粒子との反応が容易となり OppA 合成が促進されること、3)
ポリアミンの促進効果は、SD 配列近傍のバルジ構造を含む GC に富むステム構造にポリアミンが結合すること
により起こることを明らかにした。
ハンマーヘッドリボザイムに対する Cd2+のレスキュー効果の再考察
吉成幸一、多比良和誠
(工技院・融合研)
ハンマーヘッドリボザイムの基質切断部位のリン酸基に金属イオンが配位しているかどうかはここ数年議論さ
れてきている。基質の切断部位のこのリン酸の Rp 位置の酸素を硫黄置換することによりハンマーヘッドリボザ
イムの触媒活性は大きく低下する(チオ効果)。Scott らは硫黄との相互作用の強い Cd2+存在下で反応を行うと
Rp 位チオ下基質に対する触媒活性が復活し、チオ化していない基質よりも高い切断活性が得られることを示し
た(Scott E. C., NAR, 27, 479-484 (1999))。しかし実際にはチオ化していない基質でも Cd2+により触媒活性が
向上しており、触媒活性のレスキューが切断部位のチオリン酸に特別に結合している Cd2+によって行われてい
るとは考えにくい。そこで我々は我々のハンマーヘッドリボザイム(R32)と基質(R11)を用いて Cd2+存在下で見ら
れる触媒活性のレスキュー効果をを再検討した。
Ca2+が 100mM 存在下(Cd2+非存在下)で反応を行ったところ、Sp 位をチオ化した基質(R11SpS)に対する触
媒活性はチオ化していない基質(R11O)とほぼ同じ値が得られた。これに対し Rp 位をチオ化した基質(R11RpS)
に対する触媒活性は大きく低下するチオ効果が得られた。ここに Cd2+を加えていくと R11RpS の触媒活性は
Cd2+濃度に依存して上昇し 10μM 以上では R11O の切断活性(Cd2+非存在下)よりも高い値が得られた。しか
し、R11O も Cd2+を加えると切断活性が増加するため、10μM 以上での R11RpS の切断活性は R11O とほぼ同
じ値が得られるていることが分かった。R11SpS でも同様の傾向が見られた。
これらはいずれの基質を用いたときも Ca2+が Cd2+に置き換わる部位があることを示しているが、いずれの基
質でもその ΔKd は約 3mM とほぼ同じ値が得られており、同じ金属イオン結合部位での Ca2+から Cd2+への置
換を見ていると考えられる。リボザイムの金属イオン結合部位と知られる P9 をチオ化する実験(Peracchi A.,
JCB, 26822-26826 (1997))では 1mM 付近に見られる ΔKd(Mg2+から Cd2+への置換)は大きく低下しており、こ
の ΔKd が P9 に結合した金属イオンの置換を見ていることが示唆される。我々の実験から得られた Cd2+濃度
依存性はほぼ一次でこの P9 に結合すると思われる Cd2+しか観測されなかった。すなわち本実験で見られる
Cd2+によるレスキュー効果は、チオ化した基質の硫黄原子と Cd2+との相互作用が存在する証拠とはならない。
Molecular Contacts in Ribosmal decoding
Satoko YOSHIZAWA1 Dominique FOURMY1 Joseph D. PUGLISI
( Dept of Structural Biology, Stanford University, USA,
1
Present Addresses; CNRS-ICSN, Gif-sur-Yvette, France)
Translation of the genetic code requires accurate selection of tRNA at the ribosomal A site. Previous studies
suggest that 16S rRNA plays a crucial role in mRNA-dependent tRNA binding at the A site of the 30S
ribosomal subunit. A Selection scheme was used to identify the bases of 16S rRNA that are essential for
mRNA-dependent tRNA binding at the A site. Methylation of the N-1 positions of universally conserved
adenine 1492 and 1493 interfered with tRNA binding at the A site. Mutation of these A1492 and A1493 to G or
C is lethal in E.coli and these mutations also impair A-site tRNA binding. 2’ fluoro substitutions in the mRNA
codon compensated for the deleterious effects of A1492G and A1493G mutations. These studies suggest that
the ribosome recognizes the codon-anticodon complex by adenosine contacts to the mRNA backbone and
provide a molecular mechanism for discrimination of correct versus incorrect codon-anticodon pairs.
DNA enzyme を用いた遺伝子発現抑制とその基質特異性
○藁科雅岐 1,2、桑原知子 1,2、小比賀 聡 3、今西 武 3、多比良和誠 1,2
(1 工技院・融合研、2 筑波大・応生、3 阪大・薬)
フィラデルフィア染色体由来の BCR-ABL 遺伝子は、染色体相互転座により BCR 遺伝子の上流領域と ABL
遺伝子の下流領域が融合して生じたキメラ遺伝子で、慢性骨髄性白血病(CML)の原因遺伝子としてよく知られ
ている。このような遺伝子から生じるキメラ型 mRNA の発現抑制を機能性核酸等を用いて試みる場合、正常型
mRNA である ABL 及び BCR mRNA に何ら影響を与えることなく、異常型のキメラ型 mRNA だけを発現抑制す
ることが必要である。In vitro selection 法によって最近開発された DNA enzyme は、ハンマーヘッド型リボザイ
ムと同様に RNA 鎖を切断する機能を持つが、非常に切断部位の自由度が高く、このようなキメラ型 mRNA に対
する遺伝子発現抑制剤として非常に有効であると考えられる。
我々は、従来のリボザイムやアンチセンス等では特異的な発現抑制がほとんど不可能であった L6
BCR-ABL mRNA (b2a2 type)を標的とした系を構築し、従来のアンチセンス等とその細胞内活性および基質特
異性を比較した。その結果、DNA enzyme は従来のアンチセンス DNA と比較して高い発現抑制を示した。また、
アンチセンス DNA では基質特異性を示すことができなかったが、DNA enzyme は高い基質特異性を示すことが
できた。そこで我々は、細胞内のヌクレアーゼに対して耐性を持たせ、持続的効果が得られるように、修飾基を
DNA enzyme に導入した。しかしながら、導入した修飾基の種類によっては、DNA enzyme の基質特異性に大き
な影響を与えることが明らかとなった。今回の様にキメラ遺伝子を標的としたアッセイでは、阻害剤が正常型の
遺伝子と異常型の遺伝子とを判別できなければならないため、阻害剤の副作用が大きな影響を及ぼしてくる。
いくつかの修飾基をオリゴに導入したが、チオ化したオリゴを導入した DNA enzyme ではその特異性が全く失わ
れてしまい、高い非特異的な発現阻害を示した。一方、細胞に非特異的なダメージを与えずに高いヌクレアーゼ
耐性を持たせることのできた修飾型 DNA enzyme の作成にも成功した。この修飾型 DNA enzyme は、その高い
標的 mRNA の発現阻害効果、基質特異性を示し、遺伝子治療などにおける特異的遺伝子発現阻害剤への応
用に高い期待が持てることを示唆するものであった。
ウシミトコンドリアセリル tRNA 合成酵素は異常構造をもつ二種類のセリン tRNA をいかに認識するか
島田信量 1 横川隆志 2 竹内野乃 3 鈴木勉 1 上田卓也 1,4 渡辺公綱 1,4
(1 東大院 工、2 岐阜大 工、3…cole polytechnique 仏、4 東大院 新領域)
ウシミトコンドリア蛋白質合成系においてセリン tRNA は、AGY(Y=U,C)と UCN (N=A,U,G,C)という異なるコドン群
に対応してそれぞれ一種類存在する。これらの tRNA は通常のクローバー葉型とは異なった異常な二次構造を
持っており tRNASer (AGY)はDループが欠けており、tRNASer(UCN)はアンチコドンステムが一塩基対だけ長いと
いう特徴がある。さらに、これらは二次構造のみならず、塩基配列でも共通点は少ないにも関わらず、単一のセ
リル tRNA 合成酵素(SerRSmt)によって共にアミノアシル化されることを既に我々は明らかにした。我々は本酵
素の精製とその遺伝子のクローニングを行うことにより、本酵素の大腸菌内での大量発現を行い、可溶性画分
を Ni2+カラムを用いて精製することで、1L の培養液あたりで約 12mg の発現産物を回収した。また、ウシミトコン
ドリアの tRNASer を基質として活性測定を行い、この発現産物に活性があることも確認した。
我々はまた疎精製の SerRSmt を用いて、tRNASer (AGY)上のその認識部位がTΨC ループ内に存在すること
を既に明らかにした。tRNASer (UCN)上の認識部位については未だ不明である。もし、その認識部位が
tRNASer(AGY)と同じであれば、SerRSmt による非常に緻密な読み分けのメカニズムが明らかとなるであろうし、
また、異なっていれば、SerRSmt が内部に二カ所の tRNA 認識部位を備えていることになる。特に後者のような
機能は現在までの数多くの ARS の研究からは報告されていないものであり、ミトコンドリアの ARS が非常にユ
ニークなタンパク質_核酸の相互作用機構を備えていることを示唆するものである。具体的には、T7 RNA
polymerase を用いて様々な位置に変異を有する tRNASer (UCN)を試験管内転写反応によって合成し、これらを
基質として SerRSmt による活性測定を行い、認識に必須なアイデンティティ決定因子を同定する予定である。ま
た、ミトコンドリア病の中で、tRNASer (UCN)遺伝子の点変異がいくつか報告されているが、われわれはこれら変
異 tRNA の中でアミノアシル化活性が低下しているものがあるのではないかと考え、これらの tRNA についても
検討を加えている。
RNA 結合蛋白質 hnRNP B1 のヒト肺がんにおける発現亢進と発がんにおける意義
○末岡栄三朗 1、後藤有里 1,2、松山悟 1、末岡尚子 1、神津知子 1、藤木博太 1
(埼玉がんセ・1研、2東京医大・歯)
Heterogeneous nuclear ribonucleoprotein (hnRNP) B1 蛋白質は、A2 蛋白質のスプライスバリアントであり、A2
蛋白質と同様に mRNA のスプライシングや細胞内輸送に関与していると考えられる。hnRNP A2/B1 遺伝子の
全構造は1994年神津らによって決定されたが、hnRNP B1 および A2 蛋白質の生理的機能については不明で
ある。私共は最近、正常気管支上皮においてはほとんど発現しない hnRNP B1 蛋白質が、がん細胞特異的に
過剰発現することを見い出した。hnRNP B1 蛋白質の肺がんの発生における意義について解析するため
hnRNP B1 を特異的に認識する抗体を作成し、胎児期、正常成人肺、早期がんから進行がんに至る各病期別に
おける hnRNP B1 蛋白質の発現の変化について解析した。hnRNP B1 蛋白質は胎児期の肺においては、気管
上皮細胞および肺胞上皮細胞に発現していたが、成人正常気管支上皮および肺胞上皮では発現が認められな
かった。一方肺がん組織においては、がん細胞特異的に強い発現が認められた。特に、肺がんの前がん病変で
ある扁平上皮化生においても発現が亢進しており、hnRNP B1 蛋白質の過剰発現が肺がんの発生に関与する
ことが示唆された。現在、種々の肺がん細胞を用いて、hnRNP B1 蛋白質の細胞内局在、細胞増殖や細胞周期
に伴う hnRNP B1 蛋白質の発現の変化を解析している。
真核遺伝子リコーディング部位における翻訳終結とリコーディングの競合
Karamysheva Zemfira1、伊藤 耕一 2,3、Karamyshev Andrew2,3、
中村 義一 2、○松藤 千弥 1
(1 慈恵医大・医、2 東大・医科研、3 生研機構)
翻訳中のリボソームが、mRNA 上の配列信号に応答してフレームシフトやコドンの読み替えなどの非標準的遺
伝暗号解読を行う現象を、翻訳リコーディング(recoding)という。リコーディング部位に達したリボソームは、リコ
ーディングまたは標準的な暗号解読のいずれかを選択し、両者は競合関係にあると考えられている。翻訳終結
反応は一般に伸長反応より効率が低く、終結コドンの位置はリコーディングの好発部位である。
われわれは真核細胞翻訳終結因子 eRF1 と eRF3 をウサギよりクローニングし、過剰発現系を確立した。これ
らを用いて、真核細胞リコーディングと翻訳終結の効率の関係を、ウサギ網状赤血球溶血液翻訳系で検討した。
BMC coat-アンチザイム融合遺伝子を用いたフレームシフト検出系にウサギ eRF1 または eRF3 を添加すること
により、フレームシフト効率が容量依存的に抑制された。両者を同時に添加すると、相加的以上の効果を示した。
これらの効果は、アンチザイムのフレームシフトを促進するスペルミジンの効果とは独立に認められた。また、野
生型アンチザイムフレームシフト部位の UGA コドンを UAG に変化させても同様の抑制が見られ、UAA コドンを
持つ変異体ではより強い抑制効果を認めた。さらにフレームシフト以外にも、Sindbis ウィルスの UGA 読み替え
や、マウス白血病ウィルスの UAG 読み替えなどのリコーディングも翻訳終結因子添加による抑制を受けた。以
上の結果は、終結コドンの位置で生じる真核遺伝子リコーディングが翻訳終結過程と競合関係にあることを立
証すると共に、この系が試験管内の翻訳終結の検定法として有用であることを示す。
RNA 結合タンパク AUF1/hnRNPD アイソフォーム群の細胞内局在性による機能分離
○荒尾 行知 1,2、栗山 麗子 1、加藤 茂明 1
(1 東京大学・分生研、2 現在 自治医科大学・衛生学)
近年、多くの RNA 結合タンパクが核および細胞質における様々な遺伝子発現の過程に関与していることが明
らかにされてきている。それらの RNA 結合タンパクには定常状態では核内に見出だされ、核ー細胞質間を移行
するものが多数見出される。RRM タイプの RNA 結合タンパクの一つである AUF1/hnRNPD は細胞質における
mRNA 分解制御、あるいは核におけるスプライシング制御に関与する可能性が予想されている因子であるがそ
の細胞内の局在は不明である。これまで我々は AUF1/hnRNPD の mRNA 分解制御因子としての機能に興味を
持ち解析してきたが、その過程で AUF1/hnRNPD には細胞内局在性の異なるアイソフォーム群が存在し、局在
性の違いにより機能分離されている可能性を見出した。
クローニングした AUF1/hnRNPD アイソフォーム群を細胞に一過的に発現させ、アクチノマイシン D、あるいは
ヘテロカリオン法によって各アイソフォームの核ー細胞質間移行能を検討した。その結果、C 末部の構造の違い
により核局在型と核ー細胞質間移行型に分類されることを見出した。次に、核局在型アイソフォームの C 末部を
プローブとして酵母ツーハイブリッドスクリーニングを行ない、核マトリクス結合タンパクの一つである SAF-B が
核局在型アイソフォームに特異的に結合することを明らかにした。SAF-B は転写を負に制御することが報告さ
れているため、AUF1/hnRNPD についても転写制御能を検討した。その結果 SAF-B と相互作用するアイソフォ
ームのみに転写抑制能が見出され、その効果は SAF-B と相乗的に発現した。以上の結果から核局在型
AUF1/hnRNPD は核マトリクス結合タンパクと結合し転写制御に関与している可能性が示唆された。
今後は核ー細胞質間移行型 AUF1/hnRNPD の細胞質での mRNA 分解制御能について検討していきたいと考
えている。
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